説明

哺乳動物の体温調節持続状態を操作する方法および装置

【課題】哺乳動物の体温調節持続状態を操作する方法および装置を提供する。
【解決手段】陰圧条件下で、環境と、哺乳動物の胸部/腹部核心および頭部の両方との間で熱エネルギーが伝達される。本方法および装置を用いて哺乳動物の胸部/腹部温度を高くするかまたは低くすることができ、その場合、熱エネルギーは哺乳動物の胸部/腹部核心に導入されるかまたは胸部/腹部核心から除去され、それぞれ頭部から除去されるかまたは頭部に導入される。本装置は、少なくとも以下の構成要素、すなわち、陰圧条件下で胸部/腹部核心に対して熱エネルギーを伝達する手段100、および頭部に対して熱エネルギーを伝達する手段を含む。本方法および装置は、様々な用途に用いることができ、核心の1つまたは複数の領域の温度および/または温度勾配を正常な状態から逸脱させる場合に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の表示
本出願は、35U.S.C.§119(e)に従い、その開示が引用によって本明細書に組み入れられる2000年6月9日に出願された米国仮特許出願第60/210,659号の出願日に対する優先権を主張する。
【0002】
序文
発明の分野
本発明は、哺乳動物の体温調節持続状態の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒトの体温は通常、本明細書で体温調節系と呼ばれる自律調節系によって厳密に調節される。この調節系の最も重要なエフェクターは、深い核心からの熱が環境に散逸する特定の皮膚領域への血流である。通常、体温および/または環境温度が高いと、ある血管が拡張することによってこれらの表面への血流量が多くなり、環境温度および/または体温が低下すると、血管収縮によってこれらの表面への血流量が少なくなり、環境への熱損失は最小限に抑えられる。
【0004】
しかし、哺乳動物の体に異なる温度の領域を形成し、すなわち、少なくとも2つの異なる温度区画で構成された温度勾配を体内に形成するように、皮膚表面全体にわたる熱の伝導を操作できることが望ましい状況がある。このような温度区画化は、以下に詳しく説明する治療法を含むいくつかの用途で有用である。しかし、哺乳動物の体の温度区画化は、体温調節系の代償作用によってこのような区画化の試みが阻害されるので困難である。
【0005】
このため、体温調節系による随伴対抗反応を生じさせずに胸部/腹部核心にエネルギーを送り込むか、また胸部/腹部核心から熱エネルギーを放出することができるように体温調節系を操作する方法の開発が重要である。
【0006】
関連文献
米国特許第5683438号(特許文献1)。国際公開公報第98/40039号(特許文献2)も参照されたい。以下の文献も関連がある。Soreideら「寒冷ストレスを受けた個人の正常体温を効果的に復元する非侵襲的手段:予備報告書(A non-invasive means to effectively restore normothermia in cold stressed individuals: a preliminary report)」J Emerg. Med.(1999年7月〜8月)17(4):725〜30(非特許文献1)およびGrahnら「手の血管を機械的に拡張させることによって軽低体温からの回復を加速することができる(Recovery from mild hypothermia can be accelerated by mechanically distending blood vessels in the hand)」J. Appl Physiol.(1998)85(5):1643〜8(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5683438号
【特許文献2】国際公開公報第98/40039号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Soreideら「寒冷ストレスを受けた個人の正常体温を効果的に復元する非侵襲的手段:予備報告書(A non-invasive means to effectively restore normothermia in cold stressed individuals: a preliminary report)」J Emerg. Med.(1999年7月〜8月)17(4):725〜30
【非特許文献2】Grahnら「手の血管を機械的に拡張させることによって軽低体温からの回復を加速することができる(Recovery from mild hypothermia can be accelerated by mechanically distending blood vessels in the hand)」J. Appl Physiol.(1998)85(5):1643〜8
【発明の概要】
【0009】
発明の概要
哺乳動物の体温調節持続状態を操作する方法および装置を提供する。本方法では、環境と、哺乳動物の核心の胸部/腹部領域すなわち区画および頭部領域すなわち区画の両方との間で熱エネルギーが伝達される。一般に、核心の胸部/腹部領域と環境との間の熱エネルギー伝達は、陰圧条件下で行われる。本方法および装置を用いて哺乳動物の胸部/腹部温度を高くすることができ、その場合、熱エネルギーは哺乳動物核心のこの領域すなわち区画に導入され、哺乳動物の頭部から除去される。本方法および装置を用いて哺乳動物の胸部/腹部温度を低くすることもでき、その場合、熱エネルギーは、哺乳動物核心のこの領域から除去され、哺乳動物の頭部に導入される。本装置は、少なくとも以下の構成要素、すなわち、(a)陰圧条件下で哺乳動物の核心の胸部/腹部領域に対して熱エネルギーを伝達する第1の熱エネルギー伝達要素、および(b)哺乳動物の核心の頭部領域に対しえて熱エネルギーを伝達する第2の熱エネルギー伝達要素を含む。本方法および装置は、様々な用途に用いることができ、哺乳動物において熱勾配、たとえば、胸部/腹部核心が頭部よりも暖温または低温になる熱勾配を形成する際に用いるのに特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本方法を実施するために用いることのできる装置の図である。
【図2】本方法を実施するために用いることのできる装置の図である。
【図3】本方法を実施するために用いることのできる装置の図である。
【図4】本方法を実施するために用いることのできる装置の図である。
【図5】本方法を実施するために用いることのできる装置の図である。
【図6】本方法を実施するために用いることのできる装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
特定の態様の説明
哺乳動物の体温調節持続状態を操作する方法および装置を提供する。本方法では、環境と、哺乳動物の核心の胸部/腹部領域および頭部領域の両方との間で熱エネルギーが伝達される。一般に、核心の胸部/腹部領域と環境との間の熱エネルギー伝達は、陰圧条件下で行われる。本方法および装置を用いて哺乳動物の胸部/腹部温度を高くすることができ、その場合、熱エネルギーは哺乳動物の核心の胸部/腹部領域に導入され、哺乳動物の頭部から除去される。本方法および装置を用いて哺乳動物の胸部/腹部温度を低くすることもでき、その場合、熱エネルギーは、哺乳動物の胸部/腹部領域から除去され、哺乳動物の頭部に導入される。本装置は、少なくとも以下の構成要素、すなわち、(a)陰圧条件下で哺乳動物の胸部/腹部領域に対して熱エネルギーを伝達する第1の熱エネルギー伝達要素、および(b)哺乳動物の頭部に対して熱エネルギーを伝達する第2の熱エネルギー伝達要素を含む。本方法および装置は、様々な用途に用いることができ、通常本発明を実施せずに実現できる方法で哺乳動物の核心の胸部/腹部領域の温度を哺乳動物の核心の頭部領域の温度に対して変化させることができるように哺乳動物の体温調節持続状態を変更または修正する際に用いるのに特に適している。本発明についてさらに説明する際、本方法および装置について詳しく論じ、次に、本方法および装置を使用できる代表的な用途を検討する。
【0012】
本発明についてさらに説明する前に、本発明は上述の本発明の特定の態様に限らないことを理解されたい。特定の態様は変形することができ、それにもかかわらず変形態様は添付の特許請求の範囲の範囲内である。使用される用語は特定の態様について説明するための語であり、制限するための語ではないことに理解されたい。その代わり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって確立される。
【0013】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」、および「the」は、特に断らないかぎり複数の引用を含む。特に断らないかぎり、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解している意味と同じ意味を有する。
【0014】
方法
上記で概略的に説明したように、本方法は、通常哺乳動物の体温調節系との相互作用を通じて、哺乳動物の体温調節状態(state)または体温調節持続状態(status)を操作する方法に関する。体温調節状態または持続状態とは、哺乳動物の様々な身体部分および領域における温度の分布を意味する。体温調節系とは、哺乳動物の温度維持または調節、特の核心体温の維持および調節を司る自律調節系およびその構成要素を意味する。このため、本方法に関与する体温調節系は、様々な環境条件下で哺乳動物の核心体温を調節し、たとえば、哺乳動物の核心から環境に伝達される熱の量を増大させることによる温暖環境条件ないし高温環境条件下での核心体温の上昇の防止に責任を負う系である。関与する体温調節系は、哺乳動物の核心から環境に伝達される熱の量を低減させることによって寒冷環境条件下での核心体温の低下を防止する系でもある。
【0015】
操作とは、変更または調節を意味し、変更または調節の性質としては一般に、哺乳動物の体温調節、したがって体温調節状態または持続状態を、通常の方法ではない方法、または調節状況で見られる方法で変更するものである。言い換えれば、操作とは、哺乳動物の体温調節状態または持続状態を正常な状態または持続状態から逸脱させることを意味する。体温調節系は、核心の特定の部位の温度が正常範囲よりも高くまたは低くなり、かつ/または核心のそれぞれの異なる部位間の温度勾配が正常範囲を超えた場合に正常な状態から逸脱したとみなされる。深部核心体温の正常体温範囲は、一般に約35℃〜39℃、通常36℃〜38℃であり、核心の温度は37℃であることが多い。核心の任意の2つの部位間、たとえば、脳と心臓や脳と腹部などの間の正常な勾配の大きさは、一般に約2℃以下、通常約1℃以下、多くの場合0℃である。
【0016】
本方法を実施する際、熱エネルギーは、(a)哺乳動物の核心の胸部/腹部領域と哺乳動物の外部との間、および(b)哺乳動物の核心の頭部領域と哺乳動物の外部との間で非侵襲的に伝達される。上述の、熱エネルギーの伝達は、完全な同時を含め、実質的に同時に行われる。したがって、伝達が完全に同時ではなく実質的に同時に行われるある態様では、熱エネルギーの伝達は、核心の上記のそれぞれの異なる領域間で交互に行われ、交互に行われるとき、任意の所与の熱エネルギー伝達事象間の期間は、好ましくは短い持続時間であり、短い持続時間とは、約15分未満、通常約5分未満、多くの場合約1分未満の持続時間を意味する。他の態様では、上述の熱エネルギー伝達は、完全な同時を含め、実質的に同時に行われ、したがって、熱エネルギーは、哺乳動物の頭部と外部環境との間で伝達されるのと(完全に同時ではない場合には)実質的に同時に、哺乳動物の胸部/腹部核心と外部環境との間で伝達される。
【0017】
核心とは、哺乳動物の表面ではなく、哺乳動物の体内領域すなわち部分を意味する。関心対象の特定の核心領域は、頭部の核心領域、たとえば深部脳領域と、哺乳動物の胴の核心領域、たとえば哺乳動物の胸部/腹部領域である。
【0018】
本方法では、頭部に対するエネルギー伝達事象は一般に、胸部/腹部領域に対して行われる伝達事象とは逆の事象である。このため、ある態様では、熱エネルギーが胸部/腹部領域に導入され、頭部から除去される。他の態様では、熱エネルギーが胸部/腹部領域から除去され、頭部に導入される。これらの異なる態様については、以下に詳しく説明する。熱エネルギーが頭部と外部環境との間で伝達されるとき、この熱エネルギーは二次的に動脈血と熱を交換し、それによって頭部の核心領域と熱を交換する頭部の静脈に伝達されるか、またはこの静脈から伝達される。動脈血とは、血液を哺乳動物の心臓から頭部に運ぶ大動脈に存在する血液を意味する。
【0019】
上述の熱エネルギー伝達事象は、自動化されたデータ収集要素および/またはデータ処理要素の助けを得て行うことも、この助けなしで行うこともできる。このため、ある態様では、1つまたは複数のセンサを用いて、哺乳動物の核心および頭部領域の温度が検出される。任意の好都合な温度検知要素を使用することができ、適切な温度検知要素には、熱電対、サーモシスタ、マイクロ波温度センサなどが含まれる。温度検知要素の位置および性質は、哺乳動物の核心の温度を検出すべきか、それとも頭部の温度を検出すべきかに必然的に依存する。胸部/腹部核心体温を検出する場合、関心対象のセンサ位置には、食道、直腸、およびマイクロ波検出の場合の、表面下の温度を測定するための体の表面上の任意の部位が含まれる。頭部の温度の場合、関心対象のセンサ位置には、聴覚管、口腔、およびマイクロ波検出の場合の、表面下の温度を測定するための頭部の表面上の任意の部位が含まれる。これらのセンサ装置から収集されたデータは、オペレータ用のデータをユーザにとってわかりやすく/読取り可能なフォーマットで少なくとも表示する処理要素によって処理することができる。このデータは、検出されたデータまたはその変動に応答して熱エネルギー伝達事象を発生させるまたは禁止する処理要素によって処理される。
【0020】
本方法は、様々な哺乳動物に使用するのに適している。関心対象の哺乳動物には、競走用の動物、たとえば馬や犬など、作業用の動物、たとえば、馬や牛など、およびヒトが含まれるが、これらに限らない。たいていの態様では、本方法が実施される哺乳動物はヒトである。
【0021】
本方法の2つの特定の態様は、(a)患者の胸部/腹部核心体温を高くする方法、および(b)患者の胸部/腹部核心体温を低くする方法である。次に、これらの態様のそれぞれについて別々に詳しく論じる。しかし、後述の特定の態様は、本発明の様々な態様を表すものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。
【0022】
哺乳動物の胸部/腹部核心体温を高くする方法
本発明のこの態様における方法は、哺乳動物の胸部/腹部核心体温を高くする方法である。高くするとは、哺乳動物の胸部/腹部核心体温を少なくともある程度上昇させることを意味し、上昇量は、一般に少なくとも約0.5℃、通常少なくとも約2.0℃、多くの場合少なくとも約4.0℃である。このため、本方法を用いて哺乳動物の核心体温を約37℃〜44℃、通常約38℃〜42℃の範囲の温度に高めることができる。
【0023】
哺乳動物の胸部/腹部核心体温を高くする本方法を実施する際には、熱エネルギーが哺乳動物の頭部、たとえば静脈血から除去されるのと(完全に同時ではない場合には)実質的に同時に熱エネルギーが哺乳動物の核心に入力される。熱エネルギーまたは熱を哺乳動物の胸部/腹部核心に入力または導入する際には、哺乳動物の表面が、所望量の熱を導入するのに十分な期間にわたって陰圧条件下で暖温媒体に接触させられる。暖温媒体に接触させられる表面は一般に、哺乳動物の胸部/腹部核心と環境との間の熱交換要素として働く熱交換面である。本方法による関心対象の熱交換面には、哺乳動物の様々な領域、特に四肢、たとえば腕、脚、掌、足の裏などに存在する表面が含まれる。
【0024】
陰圧条件とは、この方法が実施される特定の条件下で大気圧、たとえば、平均海面で1ATMよりも低い圧力を意味する。圧力が陰圧条件下で大気圧から低下する量は、一般に少なくとも約20mmHg、通常少なくとも約30mmHg、多くの場合少なくとも約35mmHgであり、低下量は85mmHg以上程度の多い量になることもあるが、典型的には約60mmHgを超えず、通常約50mmHgを超えない。本方法を平均海面またはほぼ平均海面で実施する際、陰圧条件下での圧力は、一般に約740mmHg〜675mmHg、通常約730mmHg〜700mmHg、多くの場合約725mmHg〜710mmHgの範囲である。
【0025】
上述のように、哺乳動物の表面は、陰圧条件下で暖温媒体に接触させられる。暖温媒体とは、必要量または所望量の胸部/腹部核心熱エネルギーを入力または導入するのに十分な温度、すなわち、所望量の胸部/腹部核心体温上昇をもたらすのに十分な温度を有する媒体を意味する。媒体、すなわち、温度調節式固体材料、たとえば加温ブランケット、液体、気体の性質は、本方法を実施するのに用いられる特定の装置に応じて異なる。暖温媒体の温度は様々であってよい。暖温媒体の温度は、一般に約42℃〜52℃、通常約44℃〜50℃、多くの場合約46℃〜48℃の範囲である。
【0026】
接触は、胸部/腹部核心に所望量の核心エネルギーを入力または導入するのに十分な期間にわたって維持される。このため、接触は、一般に少なくとも約1分、通常少なくとも約2分、多くの場合少なくとも約3分間にわたって維持され、接触は最長で10時間以上維持されることもあるが、一般に、維持される時間は1日以下であり、通常1時間以下である。
【0027】
本方法を実施する際、接触中の陰圧条件は静的/一定でも、可変でもよい。したがって、ある態様では、陰圧は、表面と低温媒体が接触する間一定の値に維持される。他の態様では、陰圧値が接触中に変動、たとえば振動させられる。陰圧を変動または振動させる場合、所与の期間中の圧力変化量を変動させてよく、この変化量は、約-85mmHg〜40mmHg、通常約-40mmHg〜0mmHgの範囲であってよく、振動の周期は約0.25秒〜10分、通常約1秒〜10秒の範囲である。
【0028】
本方法を実施する際、陰圧条件は任意の好都合なプロトコルを用いて確立してよい。多くの態様では、陰圧条件は、哺乳動物の、密封されたエンクロージャ内の低温媒体に接触させられる目標面を含む部分を密閉し、次いで、密封されたエンクロージャ内の圧力を低下させ、それによって必要な陰圧条件を確立することによって実現される。密封されたエンクロージャ内に密閉される部分は、哺乳動物の、目標熱交換面を含む部分であり、したがって、本発明の多くの態様では外肢である。このため、密封される部分は、本発明の多くの態様では、腕または脚、あるいは少なくともその一部、たとえば手や足である。エンクロージャの性質は、密閉すべき外肢の性質に応じて様々であり、代表的なエンクロージャには、手袋、靴/長靴、または袖が含まれる。これらについては、本発明を実施するのに用いることのできる代表的な装置の説明と共に詳しく説明する。
【0029】
本方法を実施する際に行われる胸部/腹部核心熱エネルギー導入における導入量は、様々であってよいが、上述のように、哺乳動物の胸部/腹部核心温度を高くするのに十分な量である。多くの態様では、熱導入量は、一般に少なくとも約0.5Kcal/分、通常少なくとも約1.0Kcal/分、多くの場合少なくとも約10Kcal/分であり、導入量は1.5Kcal/分程度の多い量になることもあるが、一般に約50Kcal/分を超えず、通常約30Kcal/分を超えない。頭部導入量は、様々であってよいが、本方法の開始時であるかそれとも本方法の途中であるかに応じて異なり、たとえば、本方法の開始時の導入量は、条件を維持するだけでよい本方法の途中よりも多い。熱を胸部/腹部核心に導入する期間は、様々であってよいが、典型的には約1分〜24時間、通常約2分〜1時間、多くの場合約2分〜50分の範囲である。
【0030】
本発明のこれらの態様では、熱エネルギーがまた頭部から除去される。多くの態様では、熱エネルギーは頭部の動脈血、たとえば頚動脈血から除去される。熱エネルギーは、非侵襲的なプロトコルが好ましい任意の好都合なプロトコルを用いて動脈血から除去することができる。熱エネルギーを除去するのに非侵襲的なプロトコルが用いられる態様では、哺乳動物の、典型的には頭部に関連する1つまたは複数の表面、すなわちは頭部上の1つまたは複数の表面が冷却媒体に接触される。冷却媒体に接触させることのできる関心対象の位置には首、顔、耳などが含まれる。代表的な冷却媒体には、冷却固体、たとえばブランケット、冷却水、冷気などが含まれる。冷却媒体の温度は、熱エネルギーを抽出するのに十分な温度であるが、多くの場合、接触領域において実質的な血管収縮を引き起こすほど高くない温度である。この温度は、典型的には約0℃〜35℃、通常約10℃〜30℃、多くの場合約15℃〜25℃の範囲である。接触持続時間は、頭部核心領域から所望量の熱エネルギーを抽出するのに十分な長さであり、典型的には約1分〜10時間、通常2分〜5時間、多くの場合約5分〜5時間の範囲である。これらの態様では、頭部の温度は低下してもしなくてもよい。本明細書全体にわたって、「頭部」という用語は、頭部自体だけでなく頚部も指す。
【0031】
この態様の本方法は、頭部の温度変化を実質的に引き起こさずに哺乳動物の核心体温を実質的に上昇させるのに用いることができる。本方法を用いて核心で実現できる温度上昇量は、典型的には約1℃〜10℃、通常約2℃〜7℃の範囲であり、38℃〜45℃、通常約39℃〜43℃の範囲が可能になる。頭部の温度は実質的に変化しないので、頭部の温度変化が存在する場合、その変化量は2℃を超えず、通常約1.5℃を超えず、多くの場合約1℃を超えない。
【0032】
哺乳動物の胸部/腹部核心体温を低くする方法
本発明のこの態様では、本発明は、哺乳動物の胸部/腹部核心体温を低くする方法を提供する。上述のように、胸部/腹部核心とは、哺乳動物の表面または哺乳動物の頭部の核心部分ではなく、哺乳動物の胴の体内領域すなわち体内部分を意味する。哺乳動物の胸部/腹部核心から熱エネルギーまたは熱を抽出する際には、哺乳動物の頭部に熱を導入しつつ、所望量の熱を抽出するのに十分な期間にわたって陰圧条件下で哺乳動物の表面を低温媒体に接触させる。低温媒体に接触させられる表面は一般に、哺乳動物の胸部/腹部核心と環境との間の熱交換要素として働く熱交換面である。本方法による関心対象の熱交換面には、哺乳動物の様々な領域、特にその外肢(四肢)領域、たとえば腕、脚、掌、足の裏などに存在する表面が含まれる。
【0033】
上述のように、陰圧条件とは、この方法が実施される特定の条件下で大気圧、たとえば、平均海面で1ATMよりも低い圧力を意味する。圧力が陰圧条件下で大気圧から低下する量は、一般に少なくとも約20mmHg、通常少なくとも約30mmHg、多くの場合少なくとも約35mmHgであり、低下量は85mmHg以上程度の多い量になることもあるが、典型的には約60mmHgを超えず、通常約50mmHgを超えない。本方法を平均海面またはほぼ平均海面で実施すると、陰圧条件下での圧力は、一般に約740mmHg〜675mmHg、通常約730mmHg〜700mmHg、多くの場合約725mmHg〜710mmHgの範囲である。
【0034】
上述のように、哺乳動物の表面は、陰圧条件下で低温媒体に接触させられる。低温媒体とは、必要量または所望量の胸部/腹部核心熱エネルギーを抽出または除去するのに十分な温度を有する媒体を意味する。媒体、すなわち、温度調節式固体材料、たとえば冷却ブランケット、液体、気体の性質は、本方法を実施するのに用いられる特定の装置に応じて異なる。低温媒体の温度は様々であってよいが、哺乳動物の表面、たとえば熱交換面で局所血管収縮を引き起こすほど低くない。低温媒体の温度は、一般に約0℃〜35℃、通常約10℃〜30℃、多くの場合約15℃〜25℃の範囲である。
【0035】
接触は、所望量の胸部/腹部核心核心エネルギーを抽出または除去するのに十分な期間にわたって維持される。このため、接触は、一般に少なくとも約1分、通常少なくとも約2分、多くの場合少なくとも約3分間にわたって維持され、接触は最長で10時間以上維持されることもあるが、一般に、維持される時間は1日以下であり、通常1時間以下である。
【0036】
本方法を実施する際、接触中の陰圧条件は静的/一定でも、可変でもよい。したがって、ある態様では、陰圧は、表面と低温媒体が接触する間一定の値に維持される。他の態様では、陰圧値が接触中に変動、たとえば振動させられる。陰圧を変動または振動させる場合、所与の期間中の圧力変化量を変動させてよく、この変化量は、約-85mmHg〜40mmHg、通常約-40mmHg〜0mmHgの範囲であってよく、振動の周期は約0.25秒〜10分、通常約1秒〜10秒の範囲である。
【0037】
本方法を実施する際、陰圧条件は任意の好都合なプロトコルを用いて提供してよい。多くの態様では、陰圧条件は、哺乳動物の、密封されたエンクロージャ内の低温媒体に接触させられる目標面を含む部分を密閉し、次いで、密封されたエンクロージャ内の圧力を低下させ、それによって必要な陰圧条件を提供することによって実現される。密封されたエンクロージャ内に密閉される部分は、哺乳動物の、目標熱交換面を含む部分であり、したがって、本発明の多くの態様では外肢である。このため、密封される部分は、本発明の多くの態様では、腕または脚、あるいは少なくともその一部、たとえば手や足である。エンクロージャの性質は、密閉すべき外肢の性質に応じて様々であり、代表的なエンクロージャには、手袋、靴/長靴、または袖が含まれる。これらについては、本発明を実施するのに用いることのできる代表的な装置の説明と共に詳しく説明する。
【0038】
本方法を実施する際に行われる胸部/腹部核心熱エネルギー抽出における抽出量は、様々であってよいが、所望の結果、たとえば核心体温の低下をもたらすのに十分な量である。多くの態様では、熱抽出量は、一般に少なくとも約0.5Kcal/分、通常少なくとも約1.0Kcal/分、多くの場合少なくとも約1.5Kcal/分であり、抽出量は50Kcal/分程度の多い量になることもあるが、一般に約30Kcal/分を超えず、通常約20Kcal/分を超えない。上述のように、実際のエネルギー抽出量は、プロセスの開始時であるかそれともプロセスの途中であるかに応じた上記の範囲内の任意の量である。熱を核心から抽出する期間は、様々であってよいが、典型的には約1分〜24時間、通常約2分〜1時間、多くの場合約2分〜50分の範囲である。
【0039】
本発明のこれらの態様では、熱エネルギーがまた、たとえば頚動脈血を介して頭部に導入される。熱エネルギーは、非侵襲的なプロトコルが好ましい任意の好都合なプロトコルを用いて頭部に導入することができる。熱エネルギーを導入するのに非侵襲的なプロトコルが用いられる態様では、哺乳動物の、典型的には動脈血、したがって頭部の核心領域と熱を交換することのできる位置にある表面が、暖温媒体に接触される。関心対象の位置には首、顔、耳などが含まれる。代表的な暖温媒体には、温熱固体、温水、暖気などが含まれる。暖温媒体の温度は、所望量の熱エネルギーを伝達するのに十分な温度である。この温度は、典型的には約35℃〜52℃、通常約37℃〜50℃、多くの場合約40℃〜48℃の範囲である。接触持続時間は、所望量の熱エネルギーを伝達するのに十分な長さであり、典型的には約1分〜24時間、通常2分〜10時間、多くの場合約5分〜2時間の範囲である。
【0040】
本方法を実施した際の胸部/腹部核心体温の低下量は、様々であってよく、所望の結果をもたらすのに十分な量である。多くの態様では、低下量は、一般に少なくとも約0.5℃、通常少なくとも約1.0℃、多くの場合少なくとも約1.5℃であり、この量は4℃以上程度の多い量になることもあるが、一般に約4.0℃を超えず、通常約2.0℃を超えない。核心体温が低下する期間は、様々であってよいが、典型的には約1分〜24時間、通常約2分〜10時間、多くの場合約5分〜2時間の範囲である。胸部/腹部核心体温が低下するにもかかわらず、頭部の温度の変化はあるにしてもごくわずかである。頭部の温度が変化する場合、変化量は約2℃未満、通常約1℃未満である。
【0041】
装置
上述の方法は、任意の好都合な装置を用いて実施してよい。一般に、
上述のように、頭部および胸部/腹部核心に対して所望の熱エネルギー伝達を行うことのできる任意の装置を使用してよい。このため、本装置は、哺乳動物の胸部/腹部核心と環境との間で熱エネルギーを伝達する熱エネルギー伝達要素、および哺乳動物の頭部と環境との間でエネルギーを伝達する熱エネルギー伝達要素を少なくとも含む。
【0042】
胸部/腹部核心に対して熱エネルギーを伝達させる熱エネルギー伝達要素は典型的には、上述の加熱要素または冷却要素と、胸部/腹部核心目標熱交換面に陰圧環境を設ける陰圧要素とを含む。多くの態様では、陰圧環境を設けるこの手段は、陰圧条件を生成することのできる密閉された環境に哺乳動物の外肢を密封する密封要素を含む。代表的な密閉手段または密封手段には、密封されたエンクロージャ内に上述の陰圧環境を生成することのできる陰圧誘発要素、たとえば真空と作動関係にある袖、長靴/靴、手袋などが含まれる。陰圧誘発要素は、モータ駆動吸引や、密封された環境で陰圧を発生させるのに十分な方法により哺乳動物の移動により移動する弁およびポンプのシステムなどを含む、いくつかの異なる方法で作動させることができる。
【0043】
上述のように、本装置は、熱交換面を暖温/低温媒体に接触させる要素も含む。熱交換面を加温媒体または冷却媒体に接触させる代表的な手段には、加温ブランケットまたは冷却ブランケット、温水浸漬要素または冷水浸漬要素、暖気要素または冷気要素などが含まれる。多くの態様では、装置は、暖温媒体または低温媒体を生成する要素をさらに含み、この要素は、暖温媒体または低温媒体の性質に応じて様々であってよい。たとえば、暖温媒体が、ブランケット内の抵抗加熱要素が作動することによって温度が調節される加温ブランケットである場合、暖温媒体を生成するこの要素は、加温ブランケットに電流を供給する手段である。あるいは、装置は、加熱媒体として働く暖温流体を生成する流体加熱要素に作動可能に連結された流体を含んでよい。低温媒体が用いられる他の態様では、装置は、低温流体を生成する流体冷凍要素に作動可能に連結された流体を含んでよい。
【0044】
さらに、本装置は、哺乳動物の頭部と環境との間でエネルギーを伝達する熱エネルギー伝達要素を含む。多くの態様では、この要素は特に、哺乳動物の頭部動脈血と環境との間でエネルギーを伝達するように構成されている。この目的を果たす任意の好都合な要素を使用することができ、この要素は、上述の冷却要素または加熱要素である。この要素は任意の好都合な形式であってよく、たとえば、特に、頭部の少なくとも一部または一領域に対して熱エネルギーを伝達するように構成された襟、フード、その他の装置であってよい。
【0045】
ある態様では、装置は、開示が引用によって本明細書に組み入れられた米国特許第5683438号および同時係属中の米国特許出願第09/839,590号に記載された装置を本発明に適応させた装置である。
【0046】
図1から図6は、本発明を実施するのに用いることのできる装置の他の態様の様々な図である。AVACore Technologies, Inc.(カリフォルニア州、パロアルト)の製品である図1から図6に示すシステムの特徴は、本明細書に記載された方法を実施するのに好ましい。本明細書に記載されたシステムは、ヒトの患者に熱エネルギーを加えるか、またはヒトの患者から熱エネルギーを除去するための陰圧チャンバを含んでいる。このチャンバとその外部環境との間の改良されたインタフェースが設けられている。
【0047】
Aquarius, Inc.(アリゾナ州、スコッツデール)は、上述の方法で使用できるか、または上述の方法で使用できるように様々な修正を施すことのできるシステムを生産している。しかし、このシステムは、ユーザとの「ハード」シール・インタフェースを利用している。本明細書で説明するシステムは「ソフト」シールを利用することができる。「ハード」シールは、それが形成する境界を超えた空気の漏れを完全に無くすように構成されることを特徴とする。理論的には、「ハード」シールでは、本方法で使用される陰圧チャンバを1回真空排気することができる。しかし、実際には、「ハード」シールは止血帯効果をもたらすことがある。さらに、完全なシールを維持することができない場合、完全なシールの維持を必要とするシステムでは問題が起こる。
【0048】
本明細書で説明する「ソフト」シールは、ユーザ/シール・インタフェースで近似シールすなわち不完全なシールを形成することを特徴とする。このようなシールは、そのインタフェースにおいてユーザの動きによりうまく追従する。実際、このようなシールでは、ユーザの動きに応じて、ユーザ/シール・インタフェースにおいていくらかの空気が漏れ、すなわち通過することができる。ソフト・シールと共に使用できるように構成された陰圧システムでは、ソフト・シール、調整器、または他のフィードバック機構/ルーチンによって、真空ポンプ、真空発生装置、吸出し扇風機、または真空引きすることのできるあらゆる他のそのような機構が、チャンバ内の圧力を安定させる必要に応じて応答し排気して、チャンバ内の圧力を所望のレベルに戻す。真空圧を「ソフト」シールに関連してリアルタイムでまたは所定の間隔で能動的に制御すると、真空圧を維持するために単なる真空引きに依存する「ハード」シール・システムに勝る顕著な利点が得られる。
【0049】
Aquariusシステムに対する他の欠点は、その障壁機能よりもシール形態と関連が深い。Aquariusシールへの出入りは困難である。本システムは、機能が「ハード」であるかそれとも「ソフト」であるかにかかわらず、両面シール形態を実現する。この意味は、以下の図および説明文を考慮すれば明らかになろう。
【0050】
図1および図2は、陰圧熱交換モジュール(100)の前後斜視図を示している。図3はこのモジュールの分解図である。これらの図に示されていないシステム要素には体温調節ユニットまたは灌流ユニットが含まれる。このようなユニットは、高温の水、低温の水、その両方などの熱交換媒体の流れを供給するように適合させることができる。さらに、任意にモジュール(100)と共に使用される真空源および調整器は図示されていない。当業者には明らかなように任意の種類の真空源または調整器/制御機構をモジュール(100)と共に使用してよい。これらの構成要素は協働して、使用時のモジュール(100)内の圧力をH2O約20インチ〜25インチに相当する値に維持すると共に、約19℃〜22℃の核心冷却用温度または約40℃〜45℃の核心加熱用温度を維持するように働く。
【0051】
図示のように、モジュール(100)は、陰圧チャンバ(104)を形成するハウジング(102)と、熱交換要素(106)と、シール・フレーム要素(110)によって支持されている軟性の両面シール(108)とを含んでいる。
【0052】
ハウジング(102)は、カバー(112)およびベース(114)で構成することができる。陰圧チャンバ(104)は好ましくは、熱交換要素(106)とカバー(112)との間に設けられる。図示の態様は、ヒトのユーザの手に合うようになっている。チャンバ(104)は好ましくは、ヒトの、任意のサイズの手に合うように構成されている。しかし、より空間効率的なパッケージを形成するために、より好ましくは、ヒトの手の様々なサイズの95%に合うようなサイズにしてよい。あるいは、子供のようなより特定のグループ向けのサイズにしてよい。足の裏面も熱交換面として有効に使用できるので、ハウジングをヒトの足に合うように構成することも考えられる。
【0053】
ハウジング(102)は、図示のようなエンド・キャップ(116)を含む複数の部材で構成しても、単体構造として構成してもよい。キャップ(116)は、ポート(118)を含むように図示されている。第1のポートは真空源との連結に利用することができ、一方、第2のポートは真空計に利用することができる。もちろん、他のポート配置も可能である。
【0054】
好ましくは、ハウジング(102)はプラスチックで作られる。最も好ましくは、モジュール(100)の少なくとも一部の材料および構造が、真空形成技術または真空成形技術によって得られうるハウジング(102)等である。
【0055】
互いに離散したカバー(112)部およびベース(114)部を使用する場合、それらをボルト穴(120)を通して互いに機械的に固定することができる。このような例では、ガスケットまたはコーキングを用いてハウジング(102)の周辺を密封することができる。
【0056】
分離可能なカバー(112)およびベース(114)または熱交換要素(106)を設けると、有利なことに、使用後にモジュール(100)を清掃する際にこれらの要素に手を届かせることができる。しかし、モジュールの上部と下部を、たとえば超音波溶接、化学結合などによって融合することが考えられる。さらに、上記で指摘したように、ハウジング(102)を単一の部材として設けることが考えられる。
【0057】
ハウジング(102)は、その構成、サイズ、または全体的な外観にかかわらず、チャンバ(104)の一部を形成する。ユーザに熱負荷を供給するかまたはユーザからの熱負荷を受け入れる熱交換面(122)も、チャンバ(104)の一部を形成する。ユーザは、熱交換面(122)に直接接触することができる。あるいは、ユーザは手袋または靴下を着用するか、あるいは他の予防措置を講じてよい。熱交換面(122)は、中間箔層、金属化マイラー、その他の材料などによって熱交換部材(106)から分離された部材によって形成することができる。
【0058】
熱交換要素(106)は好ましくは、アルミニウムまたは他の高熱伝導性材料で作られる。熱交換要素(106)は、ペルチエ素子、乾燥剤冷却装置、あるいは吸熱化学反応または発熱化学反応と連絡して温度差をもたらすことができる。しかし、より好ましくは、熱交換部材(106)は、入口および出口(124)と連絡して熱交換面(122)の後方の灌流液体の流れに対処する。冷水または湯を用いてこの要素の接触面を所望の温度に維持することができる。最適には、灌流流体は要素(106)とベース(114)との間のキャビティ(126)内の一連のスイッチバックを通って流れる。
【0059】
ハウジング(102)および熱交換部材(106)の背部をプレート(128)によって形成することができる。図示のように、この部分には、熱交換キャビティ(126)の入口および出口(124)ならびにチャンバ(104)の開口部(130)を設けることができる。シール(108)を構成する好ましい方法をプレート(128)に関連して開示する。
【0060】
シール(108)の好ましい形状局面を詳しく示す図が図4、図5、および図6に示されている。図4はシール(108)の端面図である。好ましくは、シール(108)の少なくとも一部は卵形である。楕円形が好ましいこともある。円形を使用してもよい。それにもかかわらず、シール(108)の少なくともウエスト開口部(136)には、長軸(132)および短軸(134)を有する形状が好ましい。卵形は、ユーザの手首または前腕の形状に概ね対応する。チャンバ開口部(130)およびシール開口部(138)のところにも、長軸(132)および短軸(134)を有する形状が好ましい。これは、モジュール(100)の手入口および出口用のすきまを設ける助けになる。さらに、シール・ウェッビング(140)の構成も簡略化される。
【0061】
シール(108)に卵形を用いるか否かにかかわらず、シール(108)は概ね砂時計形である。シール(108)は、開口部(130)、(136)、および(138)が円形である場合に砂時計の形状に最も近くなる。卵形を適用すると、線A-Aに沿った断面の図5や線B-Bに沿った断面の図6のような、シール(108)の様々な投影図に砂時計の形状が示される。
【0062】
もちろん、図示の形状を「砂時計」以外の形状として特徴付けてよい。たとえば、シール(108)の形状を双曲線または放物線とみなしてよい。さらに、シール(108)を形成する際に簡単な丸い断面または半円形断面を利用することができる。さらに、特に開口部(130)および(138)とウエスト(136)との間に直線状区間を使用してよい。
【0063】
いずれの場合も、外側の開口部が内側の開口部よりも大きなサイズを有する両面シールをモジュール(100)で使用すべきである。この形状によって、外肢の出入り用の斜面または遷移区間が形成される。これらの形状は、手または足をモジュール(100)に挿入すると共にモジュール(100)から取り出すために通過させるのに十分な幅にシール・インタフェースすなわちウエスト(136)を伸ばすうえで助けになる。
【0064】
このようなシールを設ける際には材料の選択が重要である。材料が伸縮可能でなければならないことは明確である。さらに、空気流に対する実質的な障壁を形成しなければならない。これらの各基準を満たすうえで、Malden Mills(マサチューセッツ州モールデン)から販売されているウレタンで裏打ちされたリクラ(lycra)が有効であることが証明されている。しかし、他の材料を使用することが考えられる。ウエェッビング(140)用に選択される材料は好ましくは、モジュール(100)からの出入りを面倒にするようにユーザと噛み合うことのない仕上げを有する。引用した材料のウレタン・スキンはサテン仕上げを有する。これによって、ユーザの皮膚および毛髪との摩擦が低減する。
【0065】
シール・ウェッビング材料は、十分な伸縮が可能であるだけでなく、真空を形成したときにキャビティ(104)内に過度に引き込まれるのを避けるのに十分な強度も有さなければならない。使用時には、シール(108)の開放構成により、チャンバ(104)内の部分真空にさらされたキャビティ側ウェッビング材料が大気圧によって内側に押し込まれる。シールのチャンバ側に観測されるこの自己膨張現象は、ユーザがシールを開放するうえで助けになる。しかし、過度に多くの材料が内側に屈曲した場合、ユーザの手または足が装置内にずれ、ユーザが不快感または驚きを感じる。したがって、材料を適切に選択することにより、シール(108)の、チャンバ(104)の反対側は、出入り用の遷移区間を形成するだけでなく、シール位置を安定させる形状を形成する。
【0066】
シール(108)は好ましくは、ウェッビング材料(140)の2つの断片を縫い合わせることによって作られた袖によって形成される。これらの断片は、図3の分解図では破線で示されている。袖を2つ以上の断片で構成することによって、複雑な形状を容易に作製することができる。袖ウェッビング(140)を所定の位置に固定してシール(108)を形成する場合、ウェッビング(140)は、様々な図に示されているように、リング(142)上の各端部で折り畳まれる。次いで、キャビティ側のリングおよびウェッビングがプレート(128)の開口部(130)に挟められる。反対側のシール・ウェッビング(140)は外側のリング(142)とリテーナ部材(144)との間に挟められる。スタンドオフ(146)または同等な構造によってプレート(128)とリング・リテーナ(144)が離隔され、シール(108)の全長が形成されている。もちろん、シール(108)の、ヒトの手に合わせるための他のパラメータと共に、スタンドオフまたはシールの長さを変えてよい。
【0067】
なお、場合によってはシールの全長を長くすることが望ましいことに留意されたい。全長を長くすると、シール形状の設計上の融通性が増す。このことは、ウエスト(134)の長さを長くし、ユーザと接触するシール面を大きくすることによって最もうまく利用することができる。これにより、有利なことに、望ましくないくびれ効果を低減させることができる。さらに、有利なことに、シール・ウェッビング(140)に用いられる材料の性質として様々な性質を選択できることを理解されたい。上記で指摘したリクラ・ベースの材料は等方性であるので、ウェッビングには異方性材料または効果が好ましい場合がある。すなわち、袖の半径方向の膨張を大きくすることが望ましく、一方、長手方向のコンプライアンスが望ましくない場合がある。コンプライアンスを半径方向成分に対して袖の軸に沿って低減させることにより、真空を形成したときに袖がチャンバ(104)内に引き込まれる程度が低くなる傾向がある。伸縮性の非常に高い材料の場合、これにより、前述の両面シールによる1組の利点のすべてを犠牲にすることなしに、より小さなシール開口部で同じユーザ群に合わせることが可能になる(依然としてウェッビング(140)を半径方向に伸ばし、所望のシールを形成するのに十分な程度に戻すことができるからである)。
【0068】
このような異方性効果はいくつかの方法で実現することができる。たとえば、ウェッビングに関連する長手方向補強部材を設けることによって実現することができる。このような補強部材は、編組技術、袖表面への補強材の結合/取付け、または当業者に明らかな他の手段によって組み込むことができる。
【0069】
シール構成の詳細にかかわらず、また、シール構成を利用して「ハード」ユーザ・インタフェースを形成するかそれとも「ソフト」ユーザ・インタフェースを形成するかにかかわらず、本明細書で開示する両面シールにより、上記で指摘した方法を実施する優れた態様が実現される。快適に使用でき、かつ効果が実証されているので、各図に示す「ソフト」両面シールが好ましいが、場合によっては、「ハード」シール手法またはより複雑な「ソフト」シール手法が望ましい。
【0070】
両面シールを「ハード」手法で利用するには、補助的な押込み手段を設けてシール・ウエスト(134)の周りに圧力をかけることができる。ストラップ、ベルト、またはシンチのうちの少なくとも1つなどの機械的手段を用いてよい。あるいはシールの周囲の膨張不能なカフ部またはブラダー部を用いてよい。補助的な圧力をかけ、自動化手段または手動手段によってこの圧力を調節する機構のためにシステムの複雑さは増すが、ある潜在的な利点がもたらされる。すなわち、一定のあるいは定期的な真空補充に依存する代わりにチャンバ(104)用の単一真空排気手順が可能になる。また、シール(108)の設計上の融通性が増す。特に、設計上の決定で利用すべき他の変数を設けることにより、補助的な押込み容量を用いてシールを使用時の必要に応じて形作ることができるので、ウェッビング材料の選択や開口部のサイズをそれほど重視しなくて済むようになる。さらに、シール・フレーム(110)を構成するハード要素のような、所与の構成のハード要素の場合に、より広い範囲のユーザにシール(108)を合わせることが可能になる。
【0071】
補助的な押込み部材またはシール整形手段を用いて、上述の「ソフト」シールよりも複雑な「ソフト」シールを作製することもできる。「ハード」シール手法と同様に、この場合も、設計上の可能性、およびユーザにシールを合わせることに関する可能性がもたらされる。この場合も、押込みパラメータまたはシール整形パラメータを手動で調節しても、自動的に調節してもよい。ただし、複雑な「ソフト」シールにおいて、ウエスト(134)にかかる圧力の調節は、ユーザが不快感を感じないように、またはシールをユーザに円滑に合わせられるように行われる。両面構成を利用する、複雑な「ソフト」シール手法と「ハード」シール手法との違いは、シールとユーザとのインタフェースへの圧力のかけ方だけであるので、たとえば可変圧力調節を行うことによって、同じ装置をどちらの方法でも機能するように構成することができる。
【0072】
ある態様では、装置の様々な構成要素のうちの1つまたは複数は、典型的には、哺乳動物の検出された頭部および/または胸部/腹部核心体温に応じ、ある態様では体の区画の温度の変化に応じて上記の様々な構成要素の作動を制御する制御手段によって作動可能であり、すなわちオン・オフを切り換えられる。制御手段は一般に、頭部・胸部/腹部核心体温検知手段から出力データを取り込み、このデータを処理して、陰圧手段/加熱または冷却手段を作動させるべきか否かを判定し、次いで、それに従って装置のこれらの構成要素を作動させることのできる処理手段である。
【0073】
有用性
本方法は、哺乳動物の体温調節持続状態を操作することが望ましい任意の用途で用いることができる。本方法は、上述のように、哺乳動物の様々な核心区画、たとえば、胸部/腹部核心領域の温度、および/または1つまたは複数の温度勾配を正常な状態から逸脱させるのに特に適している。本発明を使用することのできる2つの代表的な態様は、患者の胸部/腹部核心体温を高くする方法と、患者の胸部/腹部核心体温を低くする方法である。疾患状態、たとえば、癌を含む細胞増殖性の病気の治療を含め、選択的な高体温を誘発させることが望ましい多数の状況がある。選択的な高体温とは、胸部/腹部核心の高体温、たとえば、胸部/腹部核心体温が頭部の温度よりも著しく高く、たとえば、少なくとも約2℃、通常約5℃高い状況を意味する。哺乳動物の核心体温を高くする本方法は、細胞増殖性の病気、たとえば癌などで用いることができ、その場合、本方法は、1つまたは複数の他の治療法、たとえば、化学療法、放射線などと共に用いることができる。さらに、核心体温を選択的に低下させることが望ましい他の状況もある。このため、本方法は、核心熱抽出が望ましい様々な異なる用途で用いるのに適している。胸部/腹部核心体温を低くする本方法を使用できる代表的な用途には、たとえば、肺嚢胞性線維症、多発性硬化症などの多重慢性疾患状態の治療が含まれる。治療とは、治療中の状態に関連する1つまたは複数の症状を少なくとも軽減すること、たとえば、不快感を軽減することや、症状を改善するかまたは無くすことを意味する。
【0074】
本発明が哺乳動物の体温調節系を操作する好都合な手段を提供することは上記の結果および議論から明白である。具体的には、本発明は、哺乳動物の核心に低体温または高体温を誘発する非侵襲的で好都合な方法を提供する。本方法および装置は核心に対する頭部の差分温度調節を可能にするため、患者の体温調節系の作用が少なくとも部分的に回避されるので、核心体温のより効果的な変更をより容易に実現することができる。上記の利点と、本発明を使用できる多数の異なる種類の用途とを考慮すると、本発明は従来技術に対する顕著な寄与を表す。
【0075】
本明細書で引用したすべての公開特許出願および特許出願は、個々の各公開出願または特許出願を引用によって組み入れることを特定的かつ個別に示す場合と同様に引用によって本明細書に組み入れられている。あらゆる公開特許出願の引用は、出願日よりも前の、その開示についての引用であり、本発明が、従来の発明のためにそのような公開特許出願に先行する資格を有さないことを認める引用と解釈すべきではない。
【0076】
前述の発明については、理解を明確するために図および例によってある程度詳しく説明したが、当業者には、本発明の開示を考慮することにより、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱せずに本発明にある変更および修正を加えうることが明らかになると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の体温調節系を操作する方法であって、
(a)該哺乳動物の頭部、および
(b)該哺乳動物の胸部/腹部核心に対して熱エネルギーを伝達する段階を含み、
それによって該哺乳動物の体温調節持続状態を操作する方法。
【請求項2】
胸部/腹部核心に対する熱エネルギー伝達が陰圧下で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
頭部に対する熱エネルギー伝達が、胸部/腹部核心に対する熱エネルギー伝達の逆である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
方法が、胸部/腹部核心に熱エネルギーを導入する段階と、頭部から熱エネルギーを除去する段階とを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
方法が、胸部/腹部核心から熱エネルギーを除去する段階と、頭部に熱エネルギーを導入する段階とを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物の胸部/腹部核心体温を高くする方法であって、
該哺乳動物の胸部/腹部核心に熱エネルギーを導入するのに十分な期間にわたって陰圧条件下で該哺乳動物の一部の表面を暖温媒体に接触させる段階と、
該哺乳動物の頭部から熱エネルギーを除去する段階とを含み、
それによって該哺乳動物の胸部/腹部核心体温を高くする方法。
【請求項8】
方法が、密封されたエンクロージャ内に哺乳動物の部分を密閉して該哺乳動物の密閉部分を形成する段階をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物の部分が四肢またはその一部である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
四肢が、腕および脚からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
密封されたエンクロージャが、約-20mmHg〜-80mmHgの範囲の圧力を有する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
暖温媒体が、約40℃〜48℃の範囲の温度を有する、請求項7記載の方法。
【請求項13】
期間が約3分〜600分の範囲である、請求項7記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物がヒトである、請求項7記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物の胸部/腹部核心体温を低くする方法であって、
該哺乳動物の胸部/腹部核心から熱エネルギーを除去するのに十分な期間にわたって陰圧条件下で該哺乳動物の一部の表面を低温媒体に接触させる段階と、
該哺乳動物の頭部に熱エネルギーを導入する段階とを含み、
それによって該哺乳動物の胸部/腹部核心体温を低くする方法。
【請求項16】
方法が、密封されたエンクロージャ内に哺乳動物の部分を密閉して該哺乳動物の密閉部分を形成する段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物の部分が四肢またはその一部である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
四肢が、腕および脚からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
密封されたエンクロージャが、約-20mmHg〜-80mmHgの範囲の圧力を有する、請求項16記載の方法。
【請求項20】
低温媒体が、約15℃〜25℃の範囲の温度を有する、請求項15記載の方法。
【請求項21】
期間が約5分〜600分の範囲である、請求項15記載の方法。
【請求項22】
哺乳動物がヒトである、請求項15記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物の体温調節持続状態を操作する装置であって、
(a)該哺乳動物の一部を密閉する密封可能なエンクロージャと、
(b)該密封可能なエンクロージャ内に陰圧条件を提供する手段と、
(c)該哺乳動物の部分が該密封可能なエンクロージャ内に存在するときに該哺乳動物の該部分に対してエネルギーを伝達する手段と、
(d)哺乳動物の頭部に対してエネルギーを伝達する手段とを含む装置。
【請求項24】
哺乳動物の部分が四肢またはその一部である、請求項23記載の装置。
【請求項25】
四肢が、腕および脚からなる群より選択される、請求項24記載の装置。
【請求項26】
哺乳動物の部分が密封可能なエンクロージャ内に存在するときに該哺乳動物の該部分に対してエネルギーを伝達する手段が、該哺乳動物の胸部/腹部核心に熱エネルギーを導入する手段である、請求項23記載の装置。
【請求項27】
哺乳動物の頭部に対してエネルギーを伝達する手段が、哺乳動物の該頭部から熱エネルギーを除去する手段である、請求項26記載の装置。
【請求項28】
哺乳動物の部分が密封可能なエンクロージャ内に存在するときに該哺乳動物の該部分に対してエネルギーを伝達する手段が、該哺乳動物の胸部/腹部核心から熱エネルギーを除去する手段である、請求項23記載の装置。
【請求項29】
哺乳動物の頭部に対してエネルギーを伝達する手段が、哺乳動物の該頭部に熱エネルギーを導入する手段である、請求項28記載の装置。
【請求項30】
密封可能なエンクロージャ内で陰圧を提供する手段によって、約-20mmHg〜-80mmHgの範囲の陰圧を提供することができる、請求項23記載の装置。
【請求項31】
哺乳動物がヒトである、請求項23記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−87967(P2011−87967A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−294(P2011−294)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【分割の表示】特願2002−501324(P2002−501324)の分割
【原出願日】平成13年6月7日(2001.6.7)
【出願人】(503115205)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リランド スタンフォード ジュニア ユニヴァーシティ (69)
【Fターム(参考)】