説明

哺乳動物の咀嚼動作を擬態する装置

本発明は、移動可能な下顎および固定された上顎を擬態する2つの部材(21、22)を備える、哺乳動物の咀嚼動作を擬態する装置に関する。上記2つの部材は共通軸心(A-A')上に整列された2つの平行なディスク(21、22)により形成され、他方のディスク(22、21)に臨む各ディスクの表面には、該表面から突出する少なくともひとつの隆起部分(31、33)が配備される。上記装置は、上記各ディスクの少なくとも一方(21)を、上記共通軸心(A-A')の回りにおいて回転的に、且つ、他方のディスク(22)に関して上記軸心に平行に並進的(12、13、14)に駆動する手段(16、17、18、19)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の咀嚼(そしゃく)動作を擬態する装置に関する。“哺乳動物”は、人間の如き高等な哺乳動物、家畜動物、愛玩動物、または、肉畜動物を指すべく使用される。
【背景技術】
【0002】
この種の装置によれば、咀嚼動作を擬態すること、すなわち、哺乳動物の口腔内において見られる機械的および化学的な現象を再現することが可能とされる。これらの現象によれば、歯の動作、唾液、および、舌の運動により食品または他の対象物から食物塊が生成される。この食物塊は引き続き、飲み下され、第1の胃嚢内へと導向される。
【0003】
この種の現象の擬態によれば、食物塊の物理的、化学的、流動学的および/または感覚刺激的な特性の更に良好な理解が許容される。これにより、食品および/または医薬の摂取を促進し、且つ/又は、それらの感覚刺激的品質の進展を促進する形態で、それらを開発することが可能となる。また、これによれば、口腔内で使用される歯の復元材料の如き材料を開発することも可能とされる。
【0004】
特許文献1は、内部において2枚の混合用ブレードが逆方向に回転するという密閉された恒温チャンバを備えた二部材式のデバイスを開示している。上記ブレードの一方は、他方よりも迅速に回転する。これらのブレードは、それらの縁部上にプラスチック材料部材を備え、該部材によれば、各ブレード間に間隙を生成しないこと、および、食物塊を形成する粒状物を、各ブレードを劣化させずに破砕することが可能とされる。この形式のデバイスは特に、食品を粉砕すべく、且つ、この破砕の間に放出される揮発物質を明らかとすべく使用される。このデバイスは、破砕する運動、剪断する運動、および、粉砕された材料を変位させる舌の運動であるという複雑な咀嚼運動の再現を許容しない。
【0005】
特許文献2は、弾性材料、特にチューインガムを試験する機械を開示している。この機械は、試験されるべきサンプルが載置される基部を備えている。またサンプルの上方にはピストンが位置決めされる。このピストンは、垂直に且つ回転的に運動可能である。サンプルは、回転する上記ピストンにより破砕される。この機械によれば、食品の咀嚼に伴う現象、および、食物塊の各特性を擬態することができない。
【0006】
非特許文献1により開示された機械も知られている。この機械は、各歯列弓および舌の運動を再現する。この目的のために、それは、円錐状端部を有する第1シリンダであって、並進的かつ回転的に運動可能である第2シリンダ内で並進的に運動可能であるという第1シリンダを備えている。この内側シリンダは舌の運動を再現し、且つ、上記外側シリンダは下顎すなわち大顎のそれを再現する。上記外側シリンダの端部には、下歯列弓を再現する人工歯が配備される。動作の間において上記外側シリンダの上記歯は、上記機械の上側部分に配設されて上歯列弓を再現する人工歯と接触する。上記上歯列弓は、上記下歯列弓に対して静止的である。この形式の機械は、歯の解剖学的な再現と、舌および各顎部の機能の擬態とを実現する。この複雑で嵩高い機械によれば、上記下顎の外側シリンダおよび内側シリンダは、3台の異なるモータにより回転的に且つ並進的に駆動される必要がある。更に、口腔を形成する各要素の解剖学的再現は、複数のパラメータによる動作の複雑さの故に、上記現象の数学的モデル化を特に困難とする作用がある。そして更に、口腔の各要素を解剖学的に再現すると、食物塊の全体を回収することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開公報第2001/0045475号
【特許文献2】国際公開公報WO89/05970号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】シー・サールズ等(C. Salles et al.)による定期刊行物“食品加工”、第82号(Journal of food engineering 82)、(2007)、第189〜198頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は特に、咀嚼動作を擬態する装置であって、単純な構造を有すると共に、各顎部および舌の運動の単純なモデル化を許容する様式で動作するという装置を提案することにより、これらの欠点を克服することを企図する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
故に本発明は、
移動可能な下顎および固定された上顎を擬態する2つの部材を備える、哺乳動物の咀嚼動作を擬態する装置において、
上記2つの部材は共通軸心上に整列された2つの平行なディスクにより形成され、他方のディスクに臨む各ディスクの表面には、該表面から突出する少なくともひとつの隆起部分が配備され、且つ、
上記装置は、上記各ディスクの少なくとも一方を、上記共通軸心の回りにおいて回転的に、且つ、他方のディスクに関して上記軸心に平行に並進的に駆動する手段を備えることを特徴とする装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
上記各ディスクの相互に関する相対運動によれば、歯の間における食品の破砕および剪断を擬態する隆起部分同士を接触させることが可能となる。適切な形状を有する各隆起部分の存在によれば、各ディスク間で粉砕されるべき塊状体の中心合わせおよび変位が許容される。この様にして、単一種類の部材、すなわち、隆起部分を備えた上記2つのディスクにより、咀嚼の間における歯および舌の作用を擬態することが可能となる。結果として、この形式の装置は、製造および保守が容易であると共に、スペースを殆ど取らない。これにより、下顎の力および速度および変位の如き咀嚼パラメータをモデル化することが容易とされる。
【0012】
好適であるが必須ではない本発明の特徴に依れば、上記装置は以下の特徴のひとつ以上を取入れ得る:
−上記隆起部分は、斜端面形成壁部を備えた截頭三角柱の形態である。
−各ディスクは、直径方向に配設された2つの隆起部分を備える。
−各ディスクの上記隆起部分は、それらの頂点部を相互に対向させて配設されると共に、それらの間に平面的中央空間を提供する如き様式で離間される。
−各顎部を擬態する上記部材は、円形断面を有する円筒形状の咀嚼チャンバ内へと挿入される。
−上記チャンバの一端は、取外し可能な端部プレートにより閉じられる。
−上記プレートを受容する上記端部とは反対側である端部は、縦溝付きシャフトの貫通通過を許容し得る。
−上記縦溝付きシャフトは上記チャンバの長手軸心上に中心合わせされる。
−上記シャフトは、歯付きプーリにより回転的に且つジャッキにより並進的に駆動される。
−上記縦溝付きシャフトと上記ジャッキとの間には力センサが介設される。
−上記端部プレートとディスクとの間には復帰部材が介設され、この部材は該ディスクに対し、他方のディスクに向けられた弾性力を及ぼす。
【0013】
添付図面を参照して例示的にのみ提供される本発明に係る装置の実施例に関する以下の記述を読破すれば、本発明は更に良好に理解されると共に、その更なる利点が明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る咀嚼を擬態する装置の斜視図である。
【図2】図1におけるII-II線に沿う拡大縮尺での長手断面図である。
【図3】図1および図2の装置において上顎および下顎を擬態する2つのディスクを相互から離間した位置で示す拡大縮尺での斜視図である。
【図4】図3の2つのディスクを矢印IVの方向における側方から見た接近位置にて、異なる縮尺で、且つ、上記装置の動作サイクルの間における異なる位置で示す概略図である。
【図5】図3の2つのディスクを矢印IVの方向における側方から見た接近位置にて、異なる縮尺で、且つ、上記装置の動作サイクルの間における異なる位置で示す概略図である。
【図6】図3の2つのディスクを矢印IVの方向における側方から見た接近位置にて、異なる縮尺で、且つ、上記装置の動作サイクルの間における異なる位置で示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示された装置1は、この場合には“H”状に配設された3本の型材で形成された基部2上に取付けられる。装置1は、平行六面体形状のブロック3であって、堅固であると共に物理的かつ化学的に不活性で熱的に安定な材料で形成されたブロック3を備える。この例において、このブロックは、たとえば等級316Lのステンレス鋼などのステンレス鋼で形成される。このブロック3は中空であり、咀嚼チャンバ4を境界決定している。チャンバ4の一端は、取外し可能な端部プレート5により境界決定される。この取外し可能なプレートは、それら自体が公知である一群のフック6および張設器7により所定位置に保持されるカバー5を形成する。
【0016】
変更例においては、このプレート5を所定位置に保持する他のデバイスが使用され得る。たとえば上記プレートは、枢着されると共に、ボルトにより、または、蝶型のナットを備えた螺条付きロッドにより、所定位置に保持され得る。
【0017】
上側部分においてこのチャンバ4は開孔8を備え、該開孔は、プラグ9により閉じられ得ると共に、ブロック3の頂部上へと開口する。この開孔8によれば、粉砕されるべき特に食品である対象物がチャンバ4内へと導入され得る。プラグ90により閉じられた別の開孔80によれば、食品の化学的分解と、円滑化された食物塊、すなわち低い摩擦係数を有する食物塊の形成とを許容することで、口咽頭括約筋に対する食物塊の通過を更に容易とする対象物がチャンバ4内へと導入され得る。この種の対象物は、たとえば、人工唾液として知られる対象物であって唾液を擬態するという対象物とされ得る。それは、たとえばポンプ形式のシステムを用いて漸進的に導入され得るか、または、動作サイクルの開始時に全て一度に導入され得る。
【0018】
チャンバ4の上側部分は、このチャンバ内に収容された空気を排除するための部材も備え得る。必要であれば、唾液を擬態する対象物の導入と同時に他の対象物またはセンサを導入すべく上記チャンバにアクセスするために、他の開孔を配備することが可能である。チャンバ4の全体的な形状は、約7cmの内径および14〜15cmの長さを有する円形シリンダのそれであり、該咀嚼チャンバは約15cm3の体積を有することが可能とされる。この体積は概略的に、空気充填された人間の口腔の平均体積に対応し、すなわち、対象者が自身の口を閉じたときの口腔の平均体積に対応する。
【0019】
プレート5により提供される端部とは逆側となるチャンバ4の端部10には貫通孔11が配備されることで、縦溝付きシャフト12の貫通通過が可能とされる。縦溝付きシャフト12は、チャンバ4の主要長手軸心A-A'に沿い整列される。この縦溝付きシャフト12は端部120により、電気モータ14により起動されるジャッキ13に対して接続される。ジャッキ13は、両頭矢印F1に沿い、シャフト12の往復的な平行移動を引き起こす。縦溝付きシャフト12の端部120とジャッキ13との間には、力センサ15が介設される。不図示の実施形態において、上記縦溝付きシャフトはトルク・センサも備えている。
【0020】
縦溝付きシャフト12は、該シャフトを回転的に駆動するデバイス16を貫通通過し、該デバイスは第2電気モータ17により駆動される。モータ17のトルクは調節可能であることが好適である。デバイス16は、たとえば、ボール・ベアリング18による案内のための手段と、歯付きプーリ19により形成された回転的な駆動のための手段とを備えている。
【0021】
この様にして縦溝付きシャフト12は、チャンバ4の一端から他端に向けて軸心A-A'に沿い並進的に変位され得る一方、軸心A-A'の回りにおいて両頭矢印F2に沿いプーリ19により回転的に駆動される。
【0022】
咀嚼チャンバ4内へと開口する縦溝付きシャフト12の端部121には、ポリテトラフルオロエチレン製基部20が配備される。変更例においてこの基部は、外周縁がポリテトラフルオロエチレンで被覆された金属で作成される。この基部20の寸法は、チャンバ4の断面積の全体を占有する如きである。基部20の外周縁は、シャフト12の並進的および/または回転的な運動の間において、該基部20とチャンバ4の壁部との間のシールを提供する。
【0023】
この基部は、下顎を擬態する部材を形成する第1ディスク21を支持する。基部20は、シャフト12に対して固定されると共に、軸心A-A'上に中心合わせされる。この様にして基部20およびディスク21は、チャンバ4に対する移動可能な基底部を形成する。
【0024】
上顎を再現する第2ディスク22は、第1ディスク21と同一である。それは、ポリテトラフルオロエチレンで作成された基部23により支持される。変更例において基部23は、外周縁がポリテトラフルオロエチレンで被覆された金属で作成される。基部20および23は同様の寸法である。基部23の後面、すなわち、チャンバ4とディスク22とは逆側である該基部の面には、この場合には平坦で渦巻き状の圧縮スプリングである少なくともひとつの弾性的復帰部材25を受容する凹所24が配備される。変更例においては、空気圧的な復帰部材が使用され得る。スプリング25は取外し可能であり、これにより、必要に応じて、たとえば復帰力を変更することが可能とされる。
【0025】
基部23とディスク22との上記アセンブリは、スプリング25の作用によりチャンバ4の端部プレート5と接触して保持される。スプリング25が弛緩されまたは最大限の圧縮下にあるという該スプリングの各端部位置間の距離は、基部23による、故に、該基部により支持されたディスク22による位置の復帰のための可能的行程に対応する。この復帰行程は、スプリング25を変えることにより変更される。ブロック3に配備された長手スロット27は、基部23に螺着されたネジ26の移動および保持を許容する。これにより、サポート23及びディスク22が回転的に固定される。スロット27は、軸心A-A'に平行な方向において基部23およびディスク22が並進的にのみ変位されることを許容する。
【0026】
不図示の実施例において、スロット27におけるネジ26の行程は、たとえば一群の停止部により調節される。ディスク22の調節可能な行程によれば、チャンバ4の最大有効体積の調節が可能とされる。
【0027】
下顎および上顎を夫々再現する2つのディスク21および22は、軸心A-A'上に中心合わせされる。ディスク21および22は、相互に対して平行であり、且つ、長手軸心A-A'に対して直交する。
【0028】
プレート5に対して接続されたディスク22は、ブロック3に対して回転的には固定されるが、両頭矢印F1に平行な方向においてチャンバ4内で並進的に運動可能である。その行程は、スプリング25の最大復帰行程に対応する。
【0029】
ディスク21および22の対向表面は夫々、28および29として表される。表面28および29は、それらの面積の大部分に亙り平面的である。それらは各々、少なくともひとつの隆起部分を備えている。この場合に表面28および29は夫々、直径方向に配置された2つの隆起部分30および31、および、隆起部分32および33を備えている。隆起部分30〜33は、同一的である。故に、ディスク21および22は互換的である。
【0030】
不図示の実施例において、表面28および29上の隆起部分の個数は、各ディスクに対して2個より多くされ得る。たとえば、各ディスクに対して4個または6個の隆起部分が配備され得る。
【0031】
上記各ディスクは同一的であることから、その記述は図3において視認され得るディスク22に関して与えられる。
【0032】
隆起部分32および33は、截頭三角柱の全体形状である。これらの隆起部分の頂点部34および35は、約30°の角度にて閉じられる。それらは、各隆起部分が突出するディスク22の表面29の幾何学的中心Cの近傍に配設される。各隆起部分32もしくは33の小寸基部36もしくは37は、ディスク22の端面に対して正接している。これらの隆起部分は、約6mmの高さを有している。
【0033】
不図示の実施例において、上記各隆起部分は異なる形状である。たとえばそれらは、截頭円錐の形状、および/または、歯の残根の形状とされ得る。この様にして、それらは歯の復元物を支持し得る。
【0034】
隆起部分32および33は、2つのディスク21および22の隆起部分が相互に接触するときに隆起部分同士の間における接触領域を形成する横側面を有している。これらの側面は、二重斜端面を呈する。図3において視認され得る隆起部分32の側面は、表面29の平面的部分に対して40〜50°、好適には約45°の角度を形成する第1斜端面38と、表面29に対して境界接合された第2斜端面39であって、丸み付けされると共に、該表面に対して25〜35°、好適には約30°の角度を形成するという第2斜端面39とを有する。
【0035】
隆起部分32の(不図示の)他側面もまた、同一角度における二重斜端面を備えている。隆起部分32に対置された隆起部分33もまた、隆起部分32の各二重斜端面と同一角度における二重斜端面を呈する横側面40、41および42、43を有する。図3においては、二重斜端面40、41のみが示される。
【0036】
等価的であるこれらの斜端面38〜43は、能動的咀嚼表面として知られる表面、すなわち、剪断および破砕の形式の二重の機械的応力を生成し得る表面を形成する。この二重応力は、哺乳動物の歯により食品に対して及ぼされる応力を再現する。
【0037】
上記装置の動作サイクルにおいて、休止位置は、ディスク21および22が相互から最大距離に在り且つ上記アセンブリが静止的であるという位置である。この位置によれば、最大利用可能体積に近い、すなわち、口腔の最大体積に近いチャンバ4の有効体積を実現することが可能とされる。これらの対象物、すなわち、試験されるべき要素および/または対象物が開孔8を介して導入され、且つ、開孔80を介して人工唾液が導入された後、縦溝付きシャフト12は図2において右方へと押し進められる。ジャッキ13により実施されるこの運動は、下顎を再現するディスク21を、上方顎部を再現するディスク22に向けて移動させる効果を有する。基部23およびスプリング25を介してプレート5に対して接続されているディスク22は、静止的である。この運動は、歯により破砕される食品の凝集を引き起こす運動を擬態する。
【0038】
故に、咀嚼されるべき対象物は、ディスク21および22間に局限される。この位置において、これらの対象物は、何らの機械的損傷も受けていない。この位置は概略的に、何らの咀嚼動作なしでの口腔充填位置に対応する。
【0039】
下顎を再現するディスク21を回転的に設定すると、食物塊の形成に繋がる機械的作用を介した咀嚼の実際的な擬態が開始され得る。この目的のために、スプリング25による逆方向におけるディスク22の復帰と関連付けられたディスク21の並進的かつ回転的な運動によれば、能動的咀嚼表面同士の間において、すなわち、図4、図5および図6において概略的に示される如く、隆起部分30〜33の異なる斜端面同士の間において、連続的な接触がもたらされる。
【0040】
図4に示された第1位置において、各ディスクの隆起部分は相互に対して90°に配向される。この場合、ディスク21または22の各隆起部分の上側表面は、他方のディスク22または21の2つの隆起部分間に配置された中央平面部分Pに接触する。この第1位置において隆起部分30〜33は、対向するディスクの平坦面Pに当接させて食品を破砕する。
【0041】
図5に示された第2位置において、各ディスクの隆起部分は相互に接触する。ディスク21をいずれかの方向に回転させると、上記隆起部分の特定の斜端面を相互に接触させることが可能となる。この場合、接触する2つの隆起部分の斜端面付き側面同士の間、および、各隆起部分の頂点部の一部同士の間には、接触が在る。各ディスクの平面的部分に対する上記斜端面の角度に留意すると、この接触には、相互に当接する隆起部分同士の摺動が付随し、ディスク21はディスク22をスプリング25の力に抗して押し進める。故に、ディスク22の運動は、ディスク21の並進的な運動と同一方向に配向される。
【0042】
プレート5に向かうディスク22のこの変位は、復帰スプリング25を圧縮し、該ディスク22をプレート5に向けて僅かに変位させるという効果を有する。この運動は、プレート5に向かうディスク22の変位とは逆向きのスプリング25の作用により対抗される。ディスク21はジャッキ13によりディスク22と接触して保持され、その前進は、力センサ15により提供されるデータの関数として制御され得る。
【0043】
故に、2つのディスク21、22間の接触は、所定の圧力に維持される。この接触の間、接触する各能動的咀嚼表面の相対変位が在る。換言すると、各ディスクの隆起部分の側面同士であって、剪断力および圧縮力が制御されながら相互に当接して摺動するという側面同士の間において、食品の剪断が実施される。
【0044】
図6に示された第3位置は、過渡的な位置である。相互に当接する各隆起部分の斜端面形成壁部同士の摺動的な運動は、ディスク21、22が夫々の隆起部分の平面的な上面を介してのみ接触するまで継続する。この位置において、隆起部分間における各ディスクの夫々の平坦面は、相互から比較的に離間する。この過渡的な位置は、食品に対して何らの破砕もしくは剪断効果も生成しない。代わりに、上面同士を介して接触する各隆起部分は、それらの間に開放キャビティOを画成する。このキャビティOは、隆起部分30〜33およびディスク21および22に対して略々中心位置に在る。故にディスク21および22は堅固に接触し、スプリング25は最大量にて圧縮されている。
【0045】
このキャビティOは、食品の粉砕済み塊状体を略々完全に中心合わせし、且つ、それを各ディスク間で凝集させることを可能とする領域を形成する。ディスク21の回転が継続するにつれ、上記装置はこの第3の過渡的な位置から図5に示された上記第2位置へと移行し、其処で隆起部分30〜33は、図5において接触している壁部とは反対側の壁部を介して接触する。
【0046】
上記回転運動は、図4に示された第1位置に等しい位置が実現されるまで継続する。
【0047】
故に、ディスク21の回転の完全な1サイクルの間において隆起部分30〜33は、食物塊の破砕、剪断および凝集を夫々再現する3つの位置を連続的に通過する。
【0048】
この一連の位置によれば、自然な咀嚼、すなわち、食品に対する殆ど同時的であるという第1の破砕作用および第2の剪断作用であって、食物断片を凝集する舌の運動により追随されるという各作用を再現することが可能とされる。
【0049】
上記力センサの存在によれば、軌道デバイス、閉ループデバイス、または、機械学習デバイスの如き種々のデバイスを介して、縦溝付きシャフト12によりディスク21に対して及ぼされる運動および力を制御することが可能とされる。この制御を介し、破砕力および剪断力は正確にかつ定常的に制御される。故に、本発明に係る上記擬態装置によれば、ディスク21および22により及ぼされる圧力を、粉砕されるべき食品および既に粉砕された塊状体の性質の関数として持続的に調節し乍ら、食品が受ける応力に関するデータを収集すること、対象物を加えること、および、咀嚼をモデル化することが可能である。
【0050】
好適には、上記アセンブリ、すなわち、装置1、または、少なくともチャンバ4およびブロック3の温度は、たとえば、抵抗ワイヤにより、または、熱伝達流体が循環する二重壁ブロック3により制御される。
【0051】
また端部プレート5には、試験が一旦実施されたならば食物塊の収集を促進する排出口を配備することも可能である。上記チャンバの端部が完全に開かれ得るという事実もまた、その洗浄および/または殺菌、ならびに、食物塊の収集を促進する。
【0052】
示された如き水平姿勢の代わりに、この装置を垂直姿勢での使用に対処させることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能な下顎および固定された上顎を擬態する2つの部材(21、22)を備える、哺乳動物の咀嚼動作を擬態する装置において、
前記2つの部材は共通軸心(A-A')上に整列された2つの平行なディスク(21、22)により形成され、他方のディスク(22、21)に臨む各ディスクの表面(28、29)には、該表面から突出する少なくともひとつの隆起部分(30〜33)が配備され、且つ、
前記装置は、前記各ディスクの少なくとも一方(21)を、前記共通軸心(A-A')の回りにおいて回転的に、且つ、他方のディスク(22)に関して前記軸心に平行に並進的(12、13、14)に駆動する手段(16、17、18、19)を備えることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記隆起部分(30〜33)は、斜端面形成壁部(38〜43)を備えた截頭三角柱の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記各ディスク(21、22)は、直径方向に配設された2つの隆起部分(30〜33)を備えることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項4】
前記各ディスク(21、22)の前記隆起部分(30〜33)は、それらの頂点部(34、35)を相互に対向させて配設されると共に、それらの間に平面的中央空間(P)を提供する如き様式で離間されることを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
各顎部を擬態する前記部材(21、22)は、円形断面を有する円筒形状の咀嚼チャンバ(4)内へと挿入されることを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記チャンバ(4)の一端は、取外し可能な端部プレート(5)により閉じられることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記プレート(5)を受容する前記端部とは反対側である端部(10)は、縦溝付きシャフト(12)の貫通通過を許容し得る、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記縦溝付きシャフト(12)は前記チャンバ(4)の長手軸心(A-A')上に中心合わせされることを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記シャフト(12)は、歯付きプーリ(19)により回転的に且つジャッキ(13)により並進的に駆動されることを特徴とする、請求項7または請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記縦溝付きシャフト(12)と前記ジャッキ(13)との間には力センサ(15)が介設されることを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記端部プレート(5)とディスク(22)との間には復帰部材(25)が介設され、該復帰部材は該ディスクに対し、他方のディスク(21)に向けられた弾性力を及ぼすことを特徴とする、請求項6から請求項10のいずれか一つの請求項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−539504(P2010−539504A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525384(P2010−525384)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001267
【国際公開番号】WO2009/066040
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(510075332)ユニベルシテ ドーブルニュ クレルモン 1 (1)