説明

哺乳動物の抗原特異的抗体のレベルを操作するための組成物および方法

本発明は、哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるための組成物および方法、ならびにそれにより哺乳動物の血中自己抗原のレベルを下げるための組成物および方法を提供する。これら自己抗原特異的IgM抗体を用いて、本発明は哺乳動物の自己免疫疾患を改善するための組成物および方法を提供する。1つの局面では、本発明は、哺乳動物の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるための組成物および方法、それにより哺乳動物の血中抗原のレベルを下げるための組成物および方法を提供する。これら抗原特異的IgG抗体を用いて、本発明は、哺乳動物の疾患または状態(例えば、癌または病原菌のような外来抗原)、を改善するための組成物および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、免疫学および医学の分野に関する。一つの局面では、本発明は、哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるための、またそれに伴って哺乳動物の血中自己抗原のレベルを下げるための、組成物および方法を提供する。これら自己抗原特異的IgM抗体を用いて、本発明は、哺乳動物の自己免疫疾患を改善するための組成物および方法を提供する。一つの局面では、本発明は、哺乳動物の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げ、それに伴って哺乳動物の血中抗原のレベルを下げるための組成物および方法を提供する。これら抗原特異的IgG抗体を用いて、本発明は、哺乳動物における疾患または状態(例えば、癌または病原菌のような外来抗原)、を改善するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景
自己免疫は、免疫系構成要素と正常または異常な自己との反応を意味する。免疫系の最も重要な機能の一つは、損傷を受け続ける細胞から生じる細胞破壊片を取り除くことである。損傷を受け続ける細胞から出る細胞質内高分子量(MW)物質は、血液内に蓄積され、有害および/または自己に対する病原性の自己抗体応答を起こすことがある。CD5+細胞の生成物である自己抗原特異的IgMは、細胞質内自己抗原の除去/異化を助けて自己に対する寛容性の維持を支援することができる。自然発生IgM抗体は、組織破壊産物の除去に関係している。特異的血中IgM抗組織抗体は、細胞破壊が起こる疾患状態のヒトに観察されており、例えば心筋梗塞、ある種の肝臓疾患および火傷後の患者で抗心臓抗体が観察されている。このように、正常個体では、特定の細胞下レベルの構成要素に特異的なIgM抗体が構成する免疫応答は、制限された形で存在している。
【0003】
潜在自己抗原は、細胞死、例えば中毒損傷、低酸素等の結果としての細胞死の後に、免疫系に暴露することがある。潜在自己抗原は、組織空間、血液、尿、胃等の中に遊離することがあり、その場合それらはIgM抗体反応を誘導し、続いて除去および/または異化される。潜在自己抗原が、修飾作用物質(化学物質、毒素、感染菌等)に暴露した結果として修飾されると、これら修飾自己抗原は異物として認識されるようになり、続いて病原性IgG反応が起こる。これが標的器官に直接障害をもたらすか、または、例えば修飾/未修飾抗原と病原性IgG抗体から形作られ、腎糸球体、その他の血管、矯正組織等に沈積する免疫複合体によって間接的に障害をもたらすことがある。
【発明の開示】
【0004】
概要
本発明は、次の段階を含む、哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるための方法および組成物を提供する:(a)未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物であって、多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに(b)個体の抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与する段階。本発明は、次の段階を含む、哺乳動物の血中自己抗原のレベルを下げるための方法および組成物を提供する:(a)未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物であって、多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに(b)個体の抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の血中自己抗原のレベル下げる段階。本発明は、次の段階を含む、哺乳動物の自己免疫疾患を改善するための方法および組成物を提供する:(a)未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物であって、多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに(b)哺乳動物の血中自己抗原のレベルを下げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の自己免疫疾患を改善する段階。別の局面では、自己免疫疾患を改善することによって、方法は、自己免疫疾患を治療し、苛酷度を下げ、発症を遅らせるか、もしくは防止し、そして/または進行を遅らせることができる。一つの局面では、哺乳動物はヒトである。
【0005】
別の局面では、本発明の方法および組成物に用いる多価抗体は、三価、四価、五価またはそれ以上の価数を持つ成分を含む。一つの局面では、多価抗体はIgMを含む。別の局面では、多価抗体は、複数の抗原結合部分、すなわち、複数の、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント;(ii)F(ab')2フラグメント、ジスルフィド結合によってヒンジ領域で結合している二つのFabフラグメントからなる二価フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546);ならびに/または(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む、抗原への結合能力を保持している、複数の、フラグメント、サブシークエンス、相補性決定領域(CDR)を包含する、複数の抗原結合部位を含む。一つの局面では、多価抗体は、複数の単鎖抗体を含む。
【0006】
一つの局面では、本発明の方法および組成物に用いる多価抗体は、単離された抗体、合成的に生成された抗体、または組換え的に生成された抗体を含む。多価抗体は、キメラ抗体、例えばヒト化抗体を含むことができる。一つの局面では、多価抗体は、トランスジェニックマウスで生成されたヒト化抗体を含む。トランスジェニックマウスは、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むことができる。本発明の任意の方法または組成物に用いる多価抗体は、例えば米国特許第5,939,598号; 第5,877,397号; 第5,874,299号; 第5,814,318号に記載のような、ヒト抗体が産生できるマウスのようなヒト以外のトランスジェニック動物によって作製したヒト抗体を包含できる。
【0007】
一つの局面では、自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と投与直前に混合するか、または未修飾自己抗原を投与約1分前〜2時間前、もしくはそれ以上前に多価抗体と混合するか、あるいは自己抗原を投与約5分前〜1時間前に多価抗体と混合するか、または自己抗原を投与約10分前〜30分前に多価抗体と混合する。
【0008】
一つの局面では、自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と混合し、混合物を凍結乾燥する。凍結乾燥した混合物は、投与時に投与のための調合物に再構成できる。凍結乾燥した混合物は、約-20℃〜4℃の温度で保存できる。凍結乾燥した混合物は、滅菌蒸留水または緩衝食塩水、例えばPBS、リンゲル液等のような水性調合物で再構成できる。
【0009】
一つの局面では、本発明の方法および組成物に用いられる自己抗原は、精製された自己抗原を含む。自己抗原は、組換えまたは合成ポリペプチドを含むことができる。自己抗原は、溶解性抗原または粒子抗原を含むことができる。自己抗原は、低分子量抗原、例えば約0.1〜10 kd、または0.5〜5 kdの分子量を有する抗原を含むことができ、あるいは自己抗原は高分子量抗原、例えば約5 kd〜50 kdまたは約10〜25 kdの分子量の抗原を含むことができる。
【0010】
一つの局面では、本発明の方法および組成物に用いられる自己抗原は、自己免疫応答に関与している自己抗原を含む。自己抗原は、尿細管起腎炎抗原、糸球体起腎炎抗原、子宮内膜レプロ-EN-1.0抗原、子宮内膜IB1抗原、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、核小体ASE-1抗原、Ro/SSA、La/SSB、nRNP、Sm、トランスアルドラーゼ、ミエリン塩基性タンパク質、70kDミトコンドリア胆汁自己抗原、ヒト軟骨糖タンパク質39、ヒトSp17タンパク質、またはヒト胎盤Hp-8を含むことができる。本発明の方法および組成物に用いられる自己抗原は、自己免疫応答に関する複数の自己抗原をさらに含むことができる。
【0011】
一つの局面では、自己抗原は、自己免疫応答に関する細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含む。細胞または組織は、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織ホモジェネート、または細胞、組織もしくは器官抽出物を含むことができる。一つの局面では、細胞レベル下分画、細胞、組織または器官は、腎近位尿細管および腎近位曲尿細管、あるいはその細胞レベル下分画を含む。自己免疫応答は、腎糸球体基底膜自己抗原、または腎尿細管抗原に対する自己免疫応答を含むことができる。
【0012】
一つの局面では、自己免疫疾患は、受動的ヘイマン腎炎(passive Heyman nephritis)、ループス腎炎(lupus nephritis)、または膜性腎症(membranous nephropathy)のような自己免疫性腎臓疾患を含む。別の局面では、自己免疫疾患は、リウマチ性関節炎、重症筋無力症、子宮内膜症、自己免疫性インスリン依存型糖尿病(IDDM)、全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus/SLE)、シューグレン症候群(Sjogren's syndrome)、自己免疫性副甲状腺機能低下症、多発性硬化症(MS)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、自己免疫性溶血性貧血、接触性過敏性皮膚炎、自己免疫性水疱症(例えば、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、塊状類天疱瘡)、自己免疫性不妊、自己免疫性アジソン病、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎(autoimmune Addison's disease)、強皮病を含む。
【0013】
一つの局面では、組成物中には、自己抗原が多価抗体に比べてモルベースで約1%〜1000%の範囲で多く存在している。例えば、別の局面では、組成物中に、多価抗体に比べてモルベースで約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い自己抗原が存在する。一つの局面では、本発明の実施において、多価抗体および抗原を等モルベースで含む別の調合物を用いることができる。いくつかの局面では、維持用量の調合物だけが、多価抗体および抗原の等モル調合物を必要とする。
【0014】
別の局面では、本発明の薬学的組成物および本発明の方法に用いる組成物は、抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約1μgm〜500mgもしくはそれ以上の抗原、および適切な量の抗体(二価または多価)を含むことができる。別の局面では、本発明の薬学的組成物および本発明の方法で使用する組成物は、抗体に対し抗原を過剰モルに保つため、約0.1 mg〜10 mg、または0.1 mg〜1.0 mgの抗原、および適切な量の抗体を含むことができる。一つの局面では、本発明の薬学的組成物および本発明の方法に用いる組成物は、抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9 mgの抗原、および適切な量の抗体を含む。一つの局面では、本発明の方法または組成物に用いる抗体(二価または多価)は、公知の力価(抗原に対する)を有する。
【0015】
別の局面では、本発明の薬学的組成物および本発明の方法に用いる組成物は、任意の経路、例えば非経口、経口、鼻腔内または眼経路により投与できる。一つの局面では、組成物を1日1回、1日2回または1日3回投与する。組成物は、週約1回〜2回投与できる。組成物は、当初約3週間は週2回、次に約5か月間は週1回、その後月1回投与できる。組成物は、無菌の水性調合物を含むことができる。一つの局面では、免疫系が注射した本発明の複合体に一度反応するようになれば、以後自己抗原だけの注射で特異的免疫応答を維持(免疫応答レベルはより低いが)することができる。
【0016】
本発明は、(i)多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体、ならびに(ii)薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。別の局面では、本発明の薬学的組成物および方法に用いる多価抗体は、三価、四価、五価またはそれ以上の価数を有する成分を含む。一つの局面では、多価抗体はIgMを含む。別の局面では、多価抗体は、複数の抗原結合部分、すなわち、複数の、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント;(ii)F(ab')2フラグメント、ジスルフィド結合によってヒンジ領域で結合している2つのFabフラグメントからなる二価フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546 );ならびに/または(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む、抗原への結合能力を保持している、複数の、フラグメント、サブシークエンス、相補性決定領域(CDR)を包含する複数の抗原結合部位を含む。一つの局面では、多価抗体は、複数の単鎖抗体を含む。一つの局面では、本発明の薬学的組成物および方法に用いられる多価抗体は、単離された抗体、合成的に生成された抗体、または組換え的に生成された抗体を含む。多価抗体は、キメラ抗体、例えばヒト化抗体を含むことができる。一つの局面では、多価抗体は、トランスジェニックマウスで生成されたヒト抗体を含む。トランスジェニックマウスは、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むことができる。本発明の任意の薬学的組成物または方法に用いられる多価抗体は、例えば米国特許第5,939,598号; 第5,877,397号; 第5,874,299号; 第5,814,318号に記載のような、ヒト抗体が産生できる、マウスのようなヒト以外のトランスジェニック動物によって生成したヒト抗体を包含できる。一つの局面では、多価抗体はIgMを含む。一つの局面では、多価抗体は、単離された抗体、合成的に生成された抗体、または組換え的に生成された抗体を含む。一つの局面では、本発明の薬学的組成物に用いる多価抗体は、ヒト化抗体を含むことができる。
【0017】
本発明は、未修飾自己抗原を投与直前に多価抗体と混合することを含む工程によって作られる、薬学的組成物およびその製造方法を提供する。一つの局面では、未修飾自己抗原を多価抗体と投与の約1分前〜2時間前までに混合するか、または自己抗原を多価抗体と投与の約5分前〜1時間前に混合するか、または自己抗原を多価抗体と投与の約10分前〜に混合する。
【0018】
本発明は、自己抗原および抗原特異的多価抗体の混合物をフリーズドライまたは凍結乾燥することを含む工程により作られる、薬学的組成物およびその製造方法を提供する。混合物は新鮮な混合物でもよく、または上記のように、未修飾自己抗原、および多価抗体混合物をフリーズドライまたは凍結乾燥する前に、一定時間経過(遅延)させてもよい。凍結乾燥した混合物を投与時に投与のための調合物に再構成することができる。凍結乾燥した混合物は、約-20℃〜4℃の温度で保存できる。凍結乾燥した混合物は、水性調合物、例えば滅菌蒸留水または緩衝化食塩水等で再構成することができる。
【0019】
本発明は、精製または単離された自己抗原を含む薬学的組成物、あるいは組換えまたは合成ポリペプチドを含む自己抗原を提供する。自己抗原は、溶解性抗原もしくは粒子抗原、または、例えば約0.1〜10 kdもしくは約0.5〜5 kdの分子量(MW)を有する低分子量抗原を含むことができるか、あるいは自己抗原は、例えば約5〜50 kdもしくは約10〜25 kdのMWを有する、高分子量抗原を含むことができる。
【0020】
本発明は、自己免疫応答に関する自己抗原を含む薬学的組成物を提供する。自己抗原は、いずれかの公知自己抗原、または新規自己抗原でよく、それらは通常のスクリーニング方法を用いて判定できる。別の局面では、自己抗原は、腎糸球体基底膜自己抗原、尿細管起腎炎抗原、糸球体起腎炎抗原、子宮内膜レプロ-EN-1.0抗原、子宮内膜IB1抗原、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、核小体ASE-1抗原、Ro/SSA、La/SSB、nRNP、Sm、トランスアルドラーゼ、ミエリン塩基性タンパク質、70kDミトコンドリア胆汁自己抗原、ヒト軟骨糖タンパク質39、ヒトSp17タンパク質、ヒト胎盤Hp-8を含む。
【0021】
一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、1つまたは複数の自己免疫応答に関する、単一自己抗原または複数の異なる自己抗原をさらに含むことができる。一つの局面では、自己抗原は、自己免疫応答に関する細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含む。一つの局面では、細胞または組織は、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織のホモジェネート、または細胞、組織もしくは器官の抽出物を含む。細胞レベル下分画、細胞、組織または器官は、腎近位尿細管もしくは腎近位曲尿細管、またはそれらの細胞レベル下分画を含むことができる。自己免疫応答は、腎糸球体基底膜自己抗原または腎近位曲尿細管抗原に対する自己免疫応答を含むことができる。自己免疫応答は、受動的ヘイマン腎炎、ループス腎炎または膜性腎症のような自己免疫性腎臓疾患を含む。自己免疫応答は任意の自己免疫疾患、例えばリウマチ性関節炎、重症筋無力症、子宮内膜症、自己免疫性インスリン依存型糖尿病(IDDM)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シューグレン症候群、自己免疫性副甲状腺機能低下症、多発性硬化症(MS)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、自己免疫性溶血性貧血、接触性過敏性皮膚炎、自己免疫性水疱症(例えば、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、塊状類天疱瘡(bolus pemphigoid))、自己免疫性不妊、自己免疫性アジソン病、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、強皮病を含むことができる。
【0022】
本発明の薬学的組成物の一つの局面では、組成物中に多価抗体に比べてモルベースで約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い自己抗原が存在する。本発明の薬学的組成物は、抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約1μgm〜500 mgもしくはそれ以上の抗原、および適切な量の抗体を含むことができる。別の局面では、本発明の薬学的組成物および本発明の方法に用いられる組成物は、抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約0.1 mg〜10 mg、または0.1 mg〜1.0 mgの抗原、および適切な量の抗体を含むことができる。一つの局面では、組成物は、抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9 mgの抗原、および適切な量の抗体を含むことができる。
【0023】
一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、任意の経路、例えば非経口、経口、鼻腔内または眼経路により投与できる。一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、1日1回、1日2回または1日3回投与される。一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、週約1回〜2回投与できる。一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、当初約三週間は週2回、次に約5か月間は週1回、その後月1回投与できる。
【0024】
一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、例えば注射、注入、噴霧等のために、無菌の液体調合物、例えば滅菌食塩水、PBS、リンゲル液等に調合できる。
【0025】
本発明は、次の段階を含む、哺乳動物の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるための方法を提供する:(a)修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物であって、二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに(b)個体中の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与する段階。本発明は、以下の段階を含む、哺乳動物の血中抗原のレベルを下げるための方法を提供する:(a)修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物であって、二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに(b)個体中の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の血中抗原のレベルを下げる段階。本発明は、以下の段階を含む、哺乳動物の疾患または状態を改善するための方法を提供する:(a)修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物であって、抗原が疾患または状態に関連しており、二価抗体は自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに(b)哺乳動物の抗原特異的二価抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の疾患または状態を改善する段階。本発明は、(i)二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している、修飾抗原および抗原特異的二価抗体;ならびに(ii)薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。一つの局面では、哺乳動物はヒトである。
【0026】
別の局面では、本発明の方法および組成物に用いる二価抗体は、IgGまたはIgAを含む。別の局面では、二価抗体は、二つの抗原結合部分、すなわち、二価の、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント;(ii)F(ab')2フラグメント、ジスルフィド結合によってヒンジ領域で結合している二つのFabフラグメントからなる二価フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546);ならびに/または(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を包む、抗原への結合能力を保持している、二価の、フラグメント、サブシークエンス、相補性決定領域(CDR)を包含する、二価の抗原結合部位を含む。一つの局面では、抗体は、二価の単鎖抗体を含む。
【0027】
一つの局面では、本発明の方法および組成物に用いる二価抗体は、単離された抗体、合成的に生成された抗体、または組換え的に生成された抗体を含む。二価抗体は、キメラ抗体、例えばヒト化抗体を含むことができる。一つの局面では、二価抗体は、トランスジェニックマウスで作製したヒト抗体を含む。トランスジェニックマウスは、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むことができる。本発明の任意の方法または組成物に用いる二価抗体は、例えば米国特許第5,939,598号; 第5,877,397号; 第5,874,299号; 第5,814,318号に記載のような、ヒト抗体が産生できるマウスのようなヒト以外のトランスジェニック動物によって作製したヒト抗体を包含できる。一つの局面では、二価抗体は単離された抗体、合成抗体、または組換え的に生成された抗体を含む。
【0028】
一つの局面では、本発明の方法および組成物に用いる二価抗体は、投与直前に修飾抗原を二価抗体と混合することを含む工程により作られる。別の局面では、本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)、または本発明の組成物は、修飾抗原を抗体(例えば二価または多価抗体)と投与の約1分前〜2時間前に混合すること、または修飾抗原を二価抗体と投与の約10分前〜1時間前に混合すること、または修飾抗原を二価抗体と投与の約30分前〜1時間前に混合することを含む工程によって作られる。
【0029】
一つの局面では、本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)、または本発明の組成物は、修飾抗原および抗原特異的二価抗体をフリーズドライまたは凍結乾燥することを含む工程によって作られる。凍結乾燥混合物は、投与時に、投与のための調合物に再構成することができる。凍結乾燥した混合物は、約-20℃〜4℃の温度で保存できる。凍結乾燥した混合物は、滅菌蒸留水または緩衝食塩水、例えばPBS、リンゲル液等のような水性調合物で再構成できる。
【0030】
本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)または本発明の組成物の一つの局面では、抗原は精製されたもしくは単離された抗原を含むか、または抗原は組換えもしくは合成ポリペプチドを含むか、または抗原は溶解性抗原もしくは粒子抗原を含むか、あるいは自己抗原は、例えばMWが約0.1〜10 kdもしくは約0.5〜5 kdであるような低分子抗原、または自己抗原は、例えばMWが約5〜50 kdもしくは約10〜25 kdのような高分子量抗原を含む。
【0031】
本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)、または本発明の組成物の一つの局面では、抗原は癌特異的抗原または増生細胞もしくは組織に特異的な抗原を含む。抗原は外来抗原、例えば細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、イースト抗原または原虫抗原を含むことができる。抗原は、細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含むことができる。細胞または組織は、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織のホモジェネート、または細胞、組織もしくは器官の抽出物を含むことができる。癌は、メラノーマ、前立腺癌、甲状腺癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌、肺癌または胃癌でよい。外来抗原は、病原性または感染性の病原体由来の抗原を含むことができる。病原性または感染性の病原体由来の抗原は、細菌抗原、ウイルス抗原または原虫の抗原、例えばブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)、大腸菌(E. coli)、インフルエンザウイルス、A型、B型もしくはC型肝炎、またはマラリアを含むことができる。
【0032】
本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)、または本発明の組成物の一つの局面では、組成物中に二価抗体に比べてモルベースで約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い修飾抗原が存在する。一つの局面では、組成物は、二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約0.1 mg〜10 mgの間の抗原および適切な量の二価抗体を含み、または組成物は、二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約0.1 mg〜1.0 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含むか、または組成物、抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9 mgの抗原、および適切な量の二価抗体を含むことができる。
【0033】
一つの局面では、組成物(例えば医薬品)は非経口、経口、鼻腔内または眼経路で投与される。組成物は1日1回、1日2回または1日3回投与できる。組成物は、週約1回〜2回投与できる。組成物は、当初約3週間は週2回、次に約5か月間は週1回、その後月1回で投与できる。一つの局面では、注射した本発明の複合体によって免疫システムを修飾抗原に対し適切に一度反応させれば、その後は修飾抗原のみの注射で特異的免疫応答を維持(より低い免疫応答レベルで)することができる。一つの局面では、特異的血中IgG抗体のレベルを高く維持するためには、本発明の適当な複合体を、若干抗原過剰に持続的に注射することによって、免疫系細胞を通常より頻繁に刺激する。例えば、癌細胞を排除するか、またはその数を減らす場合、または固形癌を退行させるか、または転移癌部位を消失もしくは縮小させるか、および/または感染症を治癒するか、または自己免疫疾患もしくは状態を改善する場合は、本発明の適当な複合体の投与回数をより少なくするか、および/または本発明の適当な複合体の投与量を減らして投与できる。癌の改善の成功については、通常の手順、例えば生検、特殊な血清分析、画像法(例えばX線、貯音波、MRI)等を包含する検査試験によって判定できる。病原菌または感染症の改善が成功したかは、通常の手順、例えば兆候の存在、症状、検査所見等によって判定できる。
【0034】
一つの局面では、本発明の方法に使用する組成物(例えば医薬品)または本発明の組成物は、滅菌蒸留水または緩衝食塩水、例えばPBS、リンゲル液等の無菌の水性調合物を含む。
【0035】
一つの局面では、本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)または本発明の組成物は、アジュバントを含む。一つの局面では、組成物はアジュバントと共に投与される。アジュバントは、ミョウバンまたはフロインド(Freund)のアジュバントを含むことができる。
【0036】
一つの局面では、本発明の方法に用いる組成物(例えば医薬品)または本発明の組成物は、修飾抗原、例えば病原菌、疾患源等からの修飾抗原である。一つの局面では、本発明の方法または組成物に用いる修飾抗原は、異物として認識するのに十分な程度、「寛容」または「天然」タンパク質とは異なっているが、それでも寛容タンパク質と交叉反応する程度類似している。本発明は、特定の作用メカニズムに限定されないものの、免疫応答を誘導し、それにより無反応状態(寛容)を終了するにするために投与された(例えば注射された)抗原(例えばタンパク質)の種類に関しては、抗原は、異物として認識される程度「寛容」タンパク質と異なっていなければならない。一つの局面では、抗原は同時に、寛容タンパク質と交叉反応できる程度まで類似している。
【0037】
抗原は、ハプテンによって修飾されてよい。抗原は、様々な低分子物質によって、インビトロでハプテン化でき、アルサニル−タンパク質、スルファニル−タンパク質、アルサニル−スルファニルタンパク質等のようなハプテン−タンパク質複合体を得ることができる。一つの局面では、抗原が、若干過剰モル状態で、抗原に対し特異的な高力価の二価抗体(例えばIgG、IgA、融合単鎖AbsまたはCDR)と共に存在するような免疫複合体が作られる。
【0038】
ハプテン修飾抗原は、ハプテンタンパク質複合体を含むことができる。ハプテンタンパク質複合体は、アルサニル−タンパク質複合体、スルファニル−タンパク質複合体、またはアルサニル−スルファニルタンパク質複合体を含むことができる。
【0039】
本発明の1つまたは複数の局面の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載されている。本発明のその他の特徴、目的および利点は、説明および図面から、そして特許請求の範囲から明らかになるだろう。
【0040】
本明細書に引用されている全ての刊行物、特許、特許出願、GenBank配列およびATCC寄託は、全ての目的について、参照により本明細書に組み入れられる。
【0041】
詳細な説明
本発明は、哺乳動物の免疫系を操作するための新規方法を提供する。一つの局面では、本発明は、哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるための組成物および方法を提供する。哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体レベルの上昇は、溶解性または血中型の自己抗原を下げることを含めて、自己抗原のレベルを下げる。これら自己抗原特異的IgM抗体を用いて、発明は予防または治療することを含めて、自己免疫疾患を改善するための組成物および方法を提供する。一つの局面では、本発明の組成物および方法は、予防または治療を含めて、同種移植拒絶、例えば組織、臓器または細胞(例えば骨髄)移植拒絶を改善するのに用いることができる。
【0042】
一つの局面では、本発明は、哺乳動物の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるための組成物および方法を提供する。哺乳動物の抗原特異的IgG抗体レベルの上昇は、溶解性または血中型の抗原を下げることを含めて、自己抗原のレベルを下げる。これら抗原特異的IgG抗体を用いて、本発明は、哺乳動物の疾患または状態(例えば、癌または病原菌のような外来抗原)、を改善するための組成物および方法を提供する。本組成物および方法を用いて、疾患または状態を治療または予防できる。
【0043】
本発明は、特定の作用メカニズムに限定されないものの、本発明の方法は、一部、細胞質内抗原が遊離すると(例えば細胞損傷によって)、特異的IgM抗体の迅速な産生が起こり、細胞分界物の除去に生理学的役割を果たすという新規所見に基づいている。ヒトを含めて哺乳動物は、細胞質内粒子抗原に対し寛容でない。自己免疫システムのこの手段は、障害、感染、外傷、低酸素症の結果として、または細胞の寿命が尽きたことによる細胞死の後で、不要な破壊された細胞構成要素を除去するための最も効率的なクリアランスメカニズムを提供することから生理学的であり、それ故に個体にとって有益である。
【0044】
一般的技術
本発明は、単離された、組換えもしくは合成自己抗原、抗体または抗原を含む組成物を提供する。本発明を実施するのに用いる核酸、例えばゲノムDNA、ベクター、ウイルスまたはそれらのハイブリッドは、様々な供給源から単離され、遺伝子工学的に操作され、増幅および/または組換え体として発現/生成できる。これら核酸から作られた組換えポリペプチド(例えば自己抗原、抗体、抗原)は、個別に単離またはクローン化でき、そして所望活性について試験できる。細菌、哺乳動物、イースト、昆虫または植物細胞発現系を包含する、どのような組換え発現システムも使用できる。
【0045】
または、本発明の実施に用いる核酸およびポリペプチドは、例えば Adams (1983) J. Am. Chem. Soc. 105:661; Belousov (1997) Nucleic Acids Res. 25:3440-3444; Frenkel (1995) Free Radic. Biol. Med. 19:373-380; Blommers (1994) Biochemistry 33:7886-7896; Narang (1979) Meth. Enzymol. 68:90; Brown (1979) Meth. Enzymol. 68:109; Beaucage (1981) Tetra. Lett. 22:1859; 米国特許第4,458,066号に記載のような周知の化学合成技術によって、インビトロ合成できる。
【0046】
例えばサブクローニング、プローブ標識化(例えばクレノー(Klenow)ポリメラーゼ、ニックトランスレーション、増幅を用いたランダムプライマー標識)、配列分析、ハイブリダイゼーション等のような、核酸操作に関する技術は、科学文献および特許文献によく記載されており、例えば Sambrook, ed., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL (2ND ED.), Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Ausubel, ed. John Wiley & Sons, Inc., New York (1997); LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY: HYBRIDIZATION WITH NUCLEIC ACID PROBES, Part Iを参照。Theory and Nucleic Acid Preparation, Tijssen, ed. Elsevier, N. Y. (1993) を参照のこと。
【0047】
本発明は、本発明の実施に用いる自己抗原、抗体、抗原、およびそれらをコードしている核酸を含む融合タンパク質を提供する。本発明のポリペプチドは、安定性を高めるか、または精製が簡素化するといった所望特性を付与するN-末端認識ペプチドのような異種ペプチドまたはポリペプチドと融合できる。本発明のペプチドおよびポリペプチドはまた、例えばより免疫源性であるペプチドを産生するため、修飾抗原を作製するため、組換え合成したペプチド(例えば抗原)をより容易に単離するため、抗体および抗体発現B細胞を同定および単離等のために、それに1つまたは複数の追加ドメインが連結している融合タンパク質として合成および発現することもできる。
【0048】
検出および精製を容易にするドメインとしては、例えば金属を固定して精製できるようにするポリヒスチジン路およびヒスチジン−トリプトファンモジュールのような金属キレートペプチド、免疫グロブリンを固定して精製できるようにするプロテインAドメイン、およびFLAGS伸長/アフィニティー精製システム(Immunex Corp, Seatle WA)に利用されているドメインが挙げられる。精製ドメインとモチーフ含有ペプチドまたはポリペプチドの間に、第Xa因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen, San Diego CA)のような切断可能なリンカー配列を含め、精製を容易にする。例えば、発現ベクターは、後にチオレドキシン、およびエンテロキナーゼ切断部位が続く6個のヒスチジン残基が連結したエピトープコード化核酸配列を含むことができる(例えば Williams (1995) Biochemistry 34:1787-1797; Dobeli (1998) Protein Expr. Purif. 12:404-414を参照)。ヒスチジン残基は、検出および精製を容易にするが、一方エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパク質の残りから、エピトープを精製するための手段を提供する。
【0049】
ヒト以外のトランスジェニック動物を用いて、核酸またはポリペプチド(例えば自己抗原、抗体、抗原)を生成し、発明を実施することができる。ヒト以外のトランスジェニック動物は、例えばヤギ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ラットおよびマウスでよい。ヒト以外のトランスジェニック動物は、当技術分野において公知な任意の方法を用いて設計および作製できる;例えば、形質転換細胞および卵、ならびにトランスジェニックマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタおよびウシの作製および使用について記載している、例えば米国特許第6,211,428号 ; 第6,187,992号; 第6,156,952号; 第6,118,044号; 第6,111,166号; 第6,107,541号; 第5,959,171号; 第5,922,854号; 第5,892,070号; 第5,880,327号; 第5,891,698号; 第5,639,940号; 第5,573,933号; 第5,387,742号; 第5,087,571号を参照。
【0050】
トランスジェニック植物および植物細胞を用いて、発明を実施するための核酸またはポリペプチド(例えば自己抗原、抗体、抗原)を作ることができる。大量のポリペプチド(例えば自己抗原、抗体、抗原)を産生するために、トランスジェニック植物が用いられる。例えば、Palmgren(1997)Trends Genet. 13:348; Chong (1997) Transgenic Res. 6:289-296(Agrobacterium tumefaciens介在葉片形質転換法による、オーキシン誘導性、双方向マンノピン合成酵素(mas1'、2')プロモータを用いたトランスジェニックジャガイモ植物での母乳タンパク質ベータカゼインの産生)を参照。当業者は、公知手順を用い、トランスジェニック植物中のトランス遺伝子mRNAまたはタンパク質の増減を検出することによって、本発明の自己抗原、抗体、抗原を発現している植物をスクリーニングできる。mRNAまたはタンパク質を検出および定量化するための手段は、当技術分野において周知である。
【0051】
本発明の実施に用いるポリペプチドおよびペプチド(例えば自己抗原、抗体、抗原)は、天然供給源から単離でき、また合成または組換え技術により生成したポリペプチドでよい。ペプチドおよびタンパク質は、組換え体技術によりインビトロまたはインビボで発現できる。本発明の実施に用いるペプチドおよびポリペプチドは、当技術分野において公知である任意の方法を用いて作製および単離することができる。本発明の実施に用いるポリペプチドおよびペプチドはまた、その全てまたは一部を、当技術分野において周知である化学的方法を用いて合成することもできる。例えばCaruthers (1980) Nucleic Acids Res. Symp. Ser. 215-223; Horn (1980) Nucleic Acids Res. Symp. Ser. 225-232; Banga, A. K., Therapeutic Peptides and Proteins, Formulation, Processing and Delivery Systems (1995) Technomic Publishing Co., Lancaster, PAを参照。例えば、ペプチド合成は、様々な固相技術(例えば Roberge (1995) Science 269:202; Merrifield (1997) Methods Enzymol. 289:3-13を参照)を用いて実施でき、また、例えばABI 431Aペプチド合成装置(Perkin Elmer)を、メーカーが提供する取扱説明書に従って使用することで自動合成してもよい。
【0052】
本発明の実施に用いるペプチドおよびポリペプチドはまた、グリコシル化もできる。グリコシル化は、化学的または細胞の生合成メカニズムのいずれかによって転写後に付加でき、後者の場合には公知のグリコシル化モチーフが用いられ、このモチーフは本来の配列でよく、またはペプチドとして加えることも、または核酸コード配列中に加えることもできる。グリコシル化はO-結合またはN-結合でよい。
【0053】
本発明の実施に用いられるペプチドおよびポリペプチドとしては、全ての「模倣物」および「ペプチド模倣物」の形態が挙げられる。用語「模倣物」および「ペプチド模倣物」とは、本発明のポリペプチドと実質的に同一の構造および/または機能的特性を有する、合成化合物を指す。模倣物は、完全にアミノ酸の合成非天然類似体からできているか、または一部が天然ペプチドアミノ酸で、一部が非天然のアミノ酸類似体であるキメラ分子かのいずれでもよい。模倣物は、その置換が模倣物の構造および/または活性を本質的に変更しない限りにおいて、任意の量の天然アミノ酸による保存的置換を組み入れることもできる。本発明の実施に用いるポリペプチド模倣組成物は、非天然構造成分の任意の組合せを含有できる。別の局面では、本発明の実施に用いる模倣組成物は、次の三種類の構造群の一つ、または全てを含む:a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連結基以外の残基連結基:b)天然アミノ酸残基に代替となる非天然残基;またはc)二次構造模倣性を導入する、すなわち二次構造、例えばベータ回転、ガンマ回転、ベータシート、アルファ螺旋構造等を誘導または安定化する残基。個々のペプチド模倣残基は、ペプチド結合、その他の化学的結合、または、例えばグルタールアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、二官能マレイミド、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)またはN,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)のようなカップリング手段によって結合できる。従来のアミド結合(「ペプチド結合」)連結基に代替となることができる連結基としては、例えばケトメチレン(例えば-C(=O)-NH-については-C(=O)-CH2-)、アミノメチレン(CH2-NH)、エチレン、オレフィン(CH=CH)、エーテル(CH2-O)、チオエーテル(CH2-S)、テトラゾール(CN4-)、チアゾール、レトロアミド、チオアミド、またはエステルが挙げられる(例えばSpatola (1983) in Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides and Proteins, Vol. 7, pp 267-357, "Peptide Backbone Modifications," Marcell Dekker, NYを参照)。
【0054】
芳香族アミノ酸の模倣物は、例えばD-もしくはL-ナフィルアラニン(naphylalanine);D-もしくはL-フェニルグリシン;D-もしくはL-2チエニルアラニン;D-もしくはL-1,-2,3-もしくは4-ピレネイルアラニン(pyreneylalanine);D-またはL-3チエニルアラニン;D-またはL-(2-ピリジニル)-アラニン;D-またはL-(3-ピリジニル)-アラニン;D-またはL-(2-ピラジニル)-アラニン;D-またはL-(4-イソプロピル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルグリシン;D-(トリフルオロメチル)-フェニルアラニン;D-p-フルオロ-フェニルアラニン;D-またはL-p-ビフェニルフェニルアラニン;D-またはL-p-メトキシ−ビフェニルフェニルアラニン;D-またはL-2-インドール(アルキル)アラニン;およびD-またはL-アルキルアイニン(alkylainines)で置換することによって作製できるが、ここで、アルキルは置換または非置換メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、ブチル、ペンチル、イソプロピル、イソブチル、sec-イソチル、イソペンチル、あるいは非酸性アミノ酸でよい。非天然アミノ酸の芳香環としては、例えばチアゾリル、チオフェニル、ピラゾリル、ベンズイミダゾリル、ナフチル、フラニル、ピロリルおよびピリジル芳香族環が挙げられる。
【0055】
酸性アミノ酸の模倣物は、例えば、負電荷を維持した状態で、非カルボン酸塩アミノ酸;(ホスホノ)アラニン;硫酸化トレオニンで置換することによって生成できる。カルボキシル側基(例えばアスパルチルまたはグルタミル)は、例えば1-シクロヘキシル-3(2-モルホリニル-(4-エチル)カルボジイミドまたは1-エチル-3(4-アゾニア-4,4-ジメトールペンチル)カルボジイミドのようなカルボジイミド(R'-N-C-N-R')を用いた反応によって、選択的に修飾することもできる。アスパルチルまたはグルタミルもまた、アンモニウムイオンとの反応によってアスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換できる。塩基性アミノ酸の模倣物は、例えば(リジンおよびアルギニンに加えて)アミノ酸オルニチン、シトルリン、または(グアニジノ)酢酸、または(グアニジノ)アルキル酢酸と置換することによって生成できるが、ここで、アルキルは上記に定義のものである。ニトリル誘導体(例えば、COOHの代わりにCN-成分を含有する)でアスパラギンまたはグルタミンを置換することができる。アスパラギニルおよびグルタミニル残基は、対応するアスパルチルおよびグルタミル残基に脱アミノできる。アルギニン残基模倣物は、アルギニルを、例えばフェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、またはニンヒドリンを包含する、例えば1つまたは複数の通常試薬と、一つの局面ではアルカリ条件下で反応させることによって生成できる。チロシン残基模倣物は、チロシルを、例えば芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンと反応させることによって生成できる。N-アセチルイミジゾルおよびテトラニトロメタンを用いて、それぞれO-アセチルチロシル種および3-ニトロ誘導体を形作ることができる。システイン残基模倣物は、システインニル残基を、例えば、2-クロロ酢酸またはクロロアセトアミドのようなアルファ−ハロ酢酸塩および対応するアミンと反応させることによって生成することができ;カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を与える。システイン残基模倣物は、システイニル残基を、例えばブロモ−トリフルオロアセトン、アルファ-ブロモ-ベータ-(5-イミドゾイル)プロピオン酸;クロロアセチルリン酸塩、N-アルキルマレイミド、3-ニトロ-2-ピリジルジスルフィド;メチル2-ピリジルジスルフィド;p-クロロ安息香酸水銀;2-クロロ水銀-4ニトロフェノール;またはクロロ-7-ニトロベンゾ-オキサ-1,3-ジアゾールと反応させることによっても生成できる。リジン模倣物は、リシニルを、例えばコハク酸またはその他カルボン酸無水物と反応させることによって生成でき(またアミノ末端残基を変更できる)。リジンおよびその他のアルファ-アミノ含有残基模倣物はまた、メチルピコリンイミデートのようなイミドエステル、ピリドキサル、ホスフェート、ピリドキサル、クロロボロヒドリド、トリニトロ-ベンゼンスルホン酸、O-メチルイソ尿素、2,4,ペンタンジオンとの反応、およびグリコシレートとのトランスアミダーゼ-触媒反応によっても生成することができる。メチオニンの模倣物は、例えばメチオニンスルホキシドとの反応によって生成できる。プロリンの模倣物としては、例えばピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、3-または4-ヒドロキシプロリン、デヒドロプロリン、3-または4-メチルプロリン、あるいは3,3-ジメチルプロリンを挙げられる。ヒスチジン残基模倣物は、ヒスチジルを、例えばジエチルプロ炭酸塩またはパラ−ブロモフェンアシルブロミドと反応させることによって生成できる。その他の模倣物としては、例えばプロリンおよびリジンのヒドロキシル化;セリルもしくはトレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化;リジン、アルギニンおよびヒスチジンのアルファ-アミノ基のメチル化;N-末端アミンのアセチル化;主鎖アミド残基のメチル化もしくはN-メチルアミノ酸による置換;またはC-末端カルボキシル基のアミド化よって生成されるものを挙げることができる。
【0056】
本発明の実施に用いるポリペプチドは、翻訳後プロセッシング(例えばリン酸化、アシル化等)のような天然の工程、または化学的修飾技術、およびその結果得られる修飾ポリペプチドによって変えることができる。修飾は、ペプチドの主鎖、アミノ酸側鎖およびアミノまたはカルボキシル末端を含め、ポリペプチド内のいずれの場所でも起こることができる。修飾としては、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム成分の共有結合、ヌクレオチドもしくはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質もしくは脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有架橋結合の形成、システインの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ化、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化、タンパク質分化処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、およびアルギニル化のような転移RNA介在のタンパク質へのアミノ酸付加を挙げることができる。例えば Creighton, T.E., Proteins-Structure and Molecular Properties 2nd Ed., W. H. Freeman and Company, New York (1993); Posttranslational Covalent Modification of Proteins, B. C. Johnson, Ed., Academic Press, New York, pp. 1-12 (1983) を参照。
【0057】
固相化学的ペプチド合成法を用いて、本発明の実行に用いるポリペプチドまたはフラグメントを合成することもでき、例えば Merrifield (1963) Am. Chem. Soc. 85:2149-2154; Stewart, J. M. and Young, J.D., Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd Ed., Pierce Chemical Co., Rockford, Ill., pp.11-12を参照;研究用ペプチドのデザインおよび合成キット、例えばCambridge Research Biochemicalsが市販されている。このような市販の研究用キットは、一般的には、H.M. Geysen et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 81:3998 (1984) の教示を利用しており、その全てが単一プレートに連結している多数の「ロッド」または「ピン」の先端に合成ペプチドを提供する。
【0058】
抗体および抗原に基づいたスクリーニング法
本発明は、それぞれ癌または病原性抗原、あるいは自己抗原に特異的に結合する、二価および多価抗体を用いる方法および組成物を提供する。本発明の実施に用いる抗体は、単離された、合成、または組換え抗体でよい。
【0059】
抗体はまた、免疫沈降、染色、免疫アフィニティーカラム等にも用いることができる。所望であれば、特異抗原をコードする核酸配列は、免疫後にポリペプチドまたは核酸を単離し、増幅し、またはクローニングし、本発明のポリペプチドを発現させて作製することができる。または、これらの方法を用いて、抗体の構造、例えば抗原(例えば、自己抗原、病原性抗原、癌抗原)に対する抗体のアフィニティーを変更し、増加または低下できる。
【0060】
免疫の方法、抗体を産生および分離する方法(ポリクローナルおよびモノクローナル)は、当業者に公知であり、科学文献および特許文献に記載されており、例えばColigan, CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY, Wiley/Greene, NY (1991); Stites (eds.) BASIC AND CLINICAL IMMUNOLOGY (7th ed.) Lange Medical Publications, Los Altos, CA ("Stites"); Goding, MONOCLONAL ANTIBODIES: PRINCIPLES AND PRACTICE (2d ed.) Academic Press, New York, NY (1986); Kohler (1975) Nature 256:495; Harlow (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Publications, New Yorkを参照。抗体はまた、従来の、動物を用いたインビボの方法に加えて、例えば組換え抗体結合部位発現ファージディスプレイライブラリーを用いて、インビトロで生成することもできる。例えば Hoogenboom (1997) Trends Biotechnol 15:62-70; Katz (1997) Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. 26:27-45を参照。
【0061】
抗体は、免疫アフィニティークロマトグラフィー法に用いて、本発明の実施に使用するポリペプチドを単離または精製できるか、またはポリペプチドが生物サンプル中に存在するか否かを判定することできる。免疫アフィニティー法では、抗体は、ビーズまたはその他カラムマトリックスのような固相支持体に取り付けられる。タンパク質調製は、抗体が所望ポリペプチド(例えば抗原、その他の抗体)に特異的に結合する条件下で、抗体と接触させて行う。洗浄して非特異的に結合したタンパク質を除いた後に、特異的に結合したポリペプチドを溶出する。
【0062】
生物サンプル中のタンパク質が抗体と結合する能力は、当業者が熟知している様々な方法のいずれかを用いて判定できる。例えば、結合は、蛍光剤、酵素標識、または放射性同位元素のような検出可能な標識で抗体を標識することによって判定できる。または、サンプルへの抗体の結合は、このような検出可能標識を有する二次抗体を用いて検出できる。具体的アッセイとしては、ELISAアッセイ、サンドイッチアッセイ、ラジオイムノアッセイおよびウエウスタンブロットが挙げられる。
【0063】
モノクローナル抗体の調製には、継代細胞株培養で生成された抗体を提供する任意の技術を用いることができる。例としては、ハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein, Nature, 256:495-497, 1975)、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., Immunology Today 4:72, 1983)およびEBV-ハイブリドーマ技術(Cole, et al., 1985, in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)を挙げることができる。
【0064】
単鎖抗体の産生について記載された技術(例えば米国特許第4,946,778号を参照)は、本発明の方法および組成物に用いるための単鎖抗体の産生に適応できる。
【0065】
上記のように、トランスジェニックマウスを用いて、本発明の方法および組成物に使用するためのヒト抗体またはヒト化抗体を発現することができる。
【0066】
キット
本発明は本発明の組成物、例えば免疫複合体および/または医薬品を含むキットを提供する。キットは、本明細書に記載のような本発明の方法論および産業上の使用を教示する指示資料を含むこともできる。
【0067】
自己抗原および自己免疫疾患
本発明は、哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体のレベルを上げ、自己抗原のレベルを下げ、そして自己免疫疾患を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の組成物および方法に用いる自己抗原、ならびにそれらに対応する本発明の方法が標的とする疾患としては、例えば:ミエリン塩基性タンパク質(MBP)と多発性硬化症(MS);オリゴデンドロサイト糖タンパク質、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)と実験的自己免疫性脳炎(EAE);アセチルコリンレセプターと重症筋無力症;インスリン、1A-2抗原、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)とI型糖尿病;サイログロブリンと自己免疫性甲状腺炎;IV型コラーゲンα3-鎖とグッドバスチャー(Goodpasture)症候群;フィブラリン(fibrillarin)と強皮症。
【0068】
一つの局面では、本発明の組成物および方法は、潜在性自己抗原、および/または優性自己抗原(免疫細胞に暴露される、例えば血中の血液細胞の表面上、組織内等の自己抗原)を含む、修飾または未修飾の潜在性自己抗原を用いる。投与後の修飾自己抗原は、異物として認識され、液性(IgG)および/または細胞介在応答を含む免疫応答、例えば病的免疫応答を起こす。
【0069】
インスリン依存性糖尿病(IDDM)
本発明は、膵臓のインスリン分泌ベータ細胞に対する自己免疫応答である、自己免疫性インスリン依存性糖尿病(IDDM)を改善するための方法および組成物を提供する。例えば米国特許第6,214,985号を参照。本発明の方法および組成物は、グルタミン酸デカルボキシラーゼイソ型、インスリン、カルボキシペプチダーゼH、ICA 516および64kD膜内タンパク質、hsp65、複数の分泌顆粒タンパク質(例えばインスリン分泌顆粒抗原)、マウスインスリン分泌顆粒抗原(イモゲン38)を包含する、IDDM関連抗原を用いる。
【0070】
インスリン依存性糖尿病(IDDM)は、膵臓のインスリン分泌ベータ細胞の破壊により生ずる自己免疫性疾患である。IDDMの患者は、インスリン炎、ランゲルハンス島のリンパ細胞浸潤、島特異的Th1リンパ細胞、および島細胞の成分に対する抗体を有する。
【0071】
IDDMを改善するための本発明の方法および組成物は、IDDM動物モデルに使用し、そして試験できる。動物モデルのIDDMは、T細胞が介在し、CD8+のクラスI MHC制限T細胞、およびCD4+、クラスII MHC制限T細胞の両方の関与を必要とする。MHCクラスII DR4多形対立遺伝子と病気の感受性との間の関連性が証明されており、反応が抗原発動であることを示唆している。
【0072】
本発明の方法および組成物は、2種類のグルタミン酸デカルボキシラーゼイソ型、インスリン、カルボキシペプチドH、ICA516および64kD膜内タンパク質、hsp65、複数の分泌顆粒タンパク質(例えば、インスリン分泌顆粒抗原)、マウスインスリン分泌顆粒抗原(イモゲン38)を包含する、IDDMにおいて抗原として同定されている複数のベータ細胞タンパク質を用いる。これら抗原のいくつかは、糖尿病および糖尿病前症個体の血清に見出される。例えば米国特許第6,211,352号; 第6,025,176号; 第5,792,620号を参照。
【0073】
GABA作動性ニューロンのグルタミン酸デカルボキシラーゼであるGADと反応する自己抗体は、稀な神経疾患であるStiffMan症候群患者の血清の多くに存在している。GAD自己抗体陽性患者は、多腺性内分泌自己免疫症、例えばIDDMの頻度が高い。IDDMの病状発症前段階、またはIDDM症状が発症したばかりの患者では、島細胞MW 64,000タンパク質に対するか、またはGAD型の自己抗体が多く検出される。
【0074】
全身性エリテマトーデス(SLE)
本発明は、全身性エリテマトーデス(SLE)を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、核小体タンパク質ASE-1、フィブロネクチン、カルジオリピン、ヒストンH2A-H2B-DNA、KU-DNAタンパク質キナーゼ、ゴルジンおよび/またはコラーゲン、Ro/SSA、La/SSB、nRNP、Sm、HP-8を包含する、全身性エリテマトーデスに関連する抗原を用いる。例えば米国特許第6,177,254号; 第6,111,088号; 第5,807,993号を参照。
【0075】
核小体タンパク質ASE-1のクローン化領域に対し生成した抗体を用いた間接免疫蛍光分析は、このタンパク質がrDNA転写体の推定部位内にある核小体の小繊維中心に生じることを示している。細胞分裂の間、ASE-1は染色体の核小体形成体領域に局在しており、ここでそれはRNAポリメラーゼと密接に関係している。自己抗原性核小体タンパク質として、ASE-1は信頼できる全身性エリテマトーデス(SLE)の血清マーカーであることが見出されている。この発見が、ASE-1を、臨床でのこの疾患の発見および特徴付けに有用なものにしている。個々の患者についてSLEの存在を確認するために、血清サンプルを取り、クローン化ASE-1タンパク質についてスクリーニングし、抗ASE-1自己抗体を含む血清を同定することができる。このスクリーニングは、ELISAアッセイ、ウエスタンブロット技術を用いて、または抗原をマイクロスフェアに結合して、フローサイトメトリーにより反応性の血清を同定することによって実施できる。
【0076】
リボ核タンパク質複合体(RNP)に対する血中自己抗体の産生は、いくつかのリウマチ性自己免疫疾患の統一的な特徴である。SLEおよび密接に関連する障害で最も一般的な抗原としては:Ro/SSA、La/SSB、nRNPおよびSmが挙げられる。初めこれら抗体は、二重免疫拡散を用いて見出されたが、最近は自己抗体を定量する高感度の固相アッセイが開発されている。Ro/SSA RNA-タンパク質粒子は、これまでに評価された全てのヒト細胞の構成要素であることが見出されている。
【0077】
SLEを治療するために、本発明の方法および組成物に用いられる別の抗原はHP-8である。HP-8転写体は、脳、心臓、胎盤、肺、骨格筋、膵臓組織および腎臓で発現している。
【0078】
子宮内膜症
本発明は、子宮内膜症を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、子宮内膜症に関連する抗原、例えばRepro-EN-1.0、IB1を用いる。米国特許第6,525,187号を参照。
【0079】
子宮内膜症は、機能性子宮内膜組織の腹壁および、最も一般的には下部腸、卵巣および輸卵管を包含する各種器官の外面内への異所性着床を特徴とする、疼痛性の疾患である。P.Vigano et al. (1991)Fertility and Sterility 56:896。子宮内膜症は、自己免疫成分を有する。子宮内膜症患者では、複数の子宮内膜抗原と反応するIgGおよびIgA自己抗体が詳しく記述されている。研究は、複数の子宮内膜タンパク質に結合する血中IgG抗体が、様々な程度の子宮粘膜症の女性に見出させることを示している。患者の35%〜74%が、子宮内膜タンパク質と反応する血清を有する。例えばOdukoya (1996) Acta Obstet. Gynecol. Scand. 75:927-931; Kim (1995) Am. J. Reprod. Immunol. 34:80-87; Odukoya (1995) Hum. Reprod. 10:1214-1219を参照。
【0080】
本発明の組成物および方法には、Repro-EN-1.0、および別の形でスプライシングされた変種IB1が用いられる。子宮内膜症と診断された対象は、Repro-EN-1.0ポリペプチドおよび/またはIB1ポリペプチドに特異的に結合する抗体を有することが見出されている。これら抗体は、極めて高感度、かつ子宮内膜症に対し特異的な診断マーカーである。組換えRepro-EN-1.0タンパク質および組換え体IBIタンパク質は、免疫アッセイでの、そのような抗体の検出に有用である。
【0081】
後天性副甲状腺機能低下症(AH)
本発明は、後天性副甲状腺機能低下症(AH)を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、カルシウム知覚レセプター(CA-SR)を包含する、後天性副甲状腺機能低下症(AH)に関連する抗原を用いる。例えば米国特許第6,066,475号を参照。
【0082】
後天性副甲状腺機能低下症(AH)の患者は、70 kDaおよび80kDaの細胞質ゾル抗原、および120〜140 kDaの、カルシウム知覚レセプター(CA-SR)膜関連抗原に反応する。多くのAH患者で副甲状腺特異的自己抗体が発見されることが、この疾患の自己免疫的な特徴の証拠であるが、CA-SRの反応性エピトープがその外部ドメインに局在していることから、この疾患では、レセプターの活性化がPTH分泌の阻害を誘導する可能性を示唆している。
【0083】
多発性硬化症(MS)
本発明は、多発性硬化症(MS)を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、トランスアルドラーゼを包含する、MSに関連する抗原を用いる。例えば米国特許第6,018,021号; 第5,879,909号を参照。
【0084】
原発性胆汁性肝硬変(PBC)
本発明は、原発性胆汁性肝硬変(PBC)を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、ミトコンドリア抗原を包含する、原発性胆汁性肝硬変(PBC)に関連する抗原を用いる。例えば米国特許第5,891,436号を参照。
【0085】
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、肝内胆管の進行性の炎症性閉塞を特徴とする慢性疾患である。疾患は、元々は免疫蛍光により同定された、ミトコンドリアに対する自己抗体応答を特色とする。特異的タンパク質は、PBCの抗ミトコンドリア抗体(AMA)の標的として認められている。具体的には、70キロダルトン(kd)タンパク質に対する血清抗体は、PBC患者の95%以上に見出されているが、他の自己免疫性肝疾患患者には見出されない。
【0086】
リウマチ性関節炎(RA)
本発明は、リウマチ性関節炎を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、II型コラーゲン、オステオポンチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、ケラチン、ゴルジン、HC gp-39を包含する、リウマチ性関節炎(RA)に関連する抗原を用いる。例えば米国特許第5,869,093号; 第5,843,449号を参照。
【0087】
本発明は、炎症性関節疾患の実験モデル、例えばリウマチ性関節炎のモデルである、アジュバント関節炎(AA)に関する研究で使用するための方法および組成物を提供する。アジュバント関節炎は、Mycobacterium tuberculosis(MT)の油中懸濁液の皮内注射によって誘導される。注射後10〜15日の間に、動物は、重い、進行性の関節炎を発症する。
【0088】
その臨床および組織病理学的特徴がヒトリウマチ性関節炎に似ていることから、免疫介在関節性疾患のメカニズムを研究し、および器官特異的自己免疫疾患の治療方法を研究するためにAAはモデルとして用いられており、また、本発明の方法および組成物において、調合物、投与量等を決定するのに用いることができる。
【0089】
ヒト軟骨糖タンパク質39(HC gp-39)はRA患者での標的自己抗原であり、特異的T細胞を活性化し、それにより炎症プロセスを引き起こすまたは伝達している。HC gp-39由来のペプチドは、RA患者の自己反応性T細胞の大部分が認識するが、健康ドナーのT細胞が認識することは稀であり、このことからRAではHC gp-39が自己抗原であることが示されている。
【0090】
自己免疫性不妊症
本発明は、自己免疫性不妊症を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、哺乳動物Sp 17タンパク質を包含する、自己免疫性不妊症に関連する抗原を用いる。例えば米国特許第5,820,861号を参照。
【0091】
自己免疫性アジソン病
本発明は、自己免疫性アジソン病を改善するための方法および組成物を提供する。本発明の方法および組成物は、副腎自己抗体を包含する、自己免疫性アジソン病に関連する抗原を用いる。例えば米国特許第5,705,400号を参照。
【0092】
副腎自己抗体のエピトープは、約50,000〜約60,000の観察分子量(an observed molecular weight)を有し:副腎をホモジェナイゼーションし、ホモジェネートを分画遠心法にかけてミクロソーム分画を得、ミクロソーム分画をリン酸緩衝液に懸濁し、懸濁液をコール酸ナトリウム存在下で遠心分離して上清を形成させ、上清にポリエチレングリコールおよびさらにコール酸ナトリウムを加えて上清を混合し、このようにして混合した上清を遠心分離して沈殿物を形成させ、沈殿物をコール酸ナトリウム水溶液に再懸濁して懸濁液を形成させ、懸濁液をコール酸ナトリウム水溶液に対し透析して可溶化ミクロソーム調製物を形成させ、そしてカラムクロマトグラフィーにより可溶化ミクロソーム調製物を精製してタンパク質を含有するカラム分画を得ることにより、取得することができる。タンパク質は、ヒト副腎から得られる。
【0093】
医薬品の調合および投与
一つの局面では、本発明は、未修飾の自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む薬学的組成物を提供する。一つの局面では、本発明は、修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む薬学的組成物を提供する。一つの局面では、薬学的組成物は、薬理学的有効量のこれら抗体および抗原を含む調合物である。一つの局面では、本発明の薬学的組成物の薬理学的有効量は、自己免疫疾患を改善する(未修飾の自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物を投与する場合)、または癌抗原、細菌もしくはウイルス抗原等のような外来抗原または病原関連抗原に関連する疾患または状態を改善する(修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物を投与する場合)のに十分な量である。別の局面では、自己免疫疾患、または外来抗原および病原関連抗原に関連する疾患もしくは状態を改善することによって、本発明の方法および組成物は、自己免疫疾患、または外来抗原もしくは病原関連抗原に関連する疾患もしくは状態を治療し、重症度を下げ、その発症を遅延もしくは予防し、そして/または進行を遅らせることができる。
【0094】
本発明の医薬品は、任意の適切な調合物で任意の手段により投与できる。本発明の方法を実施するための薬剤の処方および調合を決定する通常手段は、特許および科学文献に詳しく記載されている。例えば、調合物、投与量、投与方法等に関する技術の詳細は、例えば最新版のRemington's Pharmaceutical Sciences, Maack Publishing Co, Easton PAに記載されている。
【0095】
本発明の調合物としては、例えば組成物を安定化する、または薬学的組成物の吸収を高めるか、もしくは下げるように機能する、生理学的に許容される化合物を含有できる薬学的に許容されるキャリアが挙げられる。生理学的に許容される化合物としては、例えばグルコース、ショ糖もしくはデキストランのような炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンのような酸化防止剤、キレート剤、低分子量タンパク質、同時投与される任意の薬剤のクリアランスもしくは加水分解を軽減する組成物、または賦形剤、あるいはその他の安定化剤および/または緩衝剤を挙げることができる。界面活性剤も組成物を安定化する、または薬学的組成物の吸収を高めるか、もしくは下げるために使用することができる。その他の生理学的に許容される化合物としては、湿潤剤、乳化剤、分散化剤または微生物の増殖または活動の防止に特に有用である保存剤が挙げられる。様々な保存剤、例えばアスコルビン酸が周知である。当業者は、生理学的に許容される化合物を含めて、薬学的に許容されるキャリアの選択が、例えば投与経路、および任意の同時投与される薬剤の具体的な物理化学的特性に依存することを認識するだろう。
【0096】
一つの局面では、投与のための組成物は、薬学的に許容されるキャリア、例えば水性キャリアを含む。様々なキャリア、例えば緩衝化食塩水等を用いることができる。これらの溶液は無菌であり、一般的には有害な物体を有さない。これら組成物は、通常の、周知の滅菌技術により滅菌できる。組成物は、pH調節剤および緩衝化剤、毒性調節剤等の生理学的条件に近づけるために必要な薬学的に許容される補助物質、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等を含んでよい。これら調合物内の活性作用物質の濃度は極めて広範囲であり、実際の投与形態および選択した画像化様式に従って、主に流体容積、粘度、体重等に基づいて選択されるであろう。
【0097】
本発明の薬学的調合物は、様々な単位投与形態、患者それぞれの一般的な医学的状態、投与方法等で投与できる。投与量の詳細は、科学文献および特許文献に詳しく記載されており、例えば最新のRemington's Pharmaceutical Sciencesを参照されたい。本発明の医薬品の正確な量および濃度、ならびに所与の投与量内の調合物の量または「有効投与量」は、例えば医師(本発明の組成物の薬学的有効量に関する上記考察を参照)によって、通常通り決定できる。「投与処方」は、様々な要因、例えば患者の健康の一般状態、年齢等に依存するだろう。別の投与処方を説明するガイドラインを利用して、例えば他の造影剤の使用から、熟練者は、通常の試験によって本発明の薬学的組成物の最適有効濃度を決定できる。本発明は、特定の投与量範囲に限定されず、本発明の医薬品は、別の投与量によって投与できる。
【0098】
例えば、抗原量(組成物中のmg/mlで表すことができる)は、溶解性であるか粒状であるか、超音波処理したものか、部分的に破壊されたものかに関わらず、最も可能な所望の免疫応答を獲得するために、レシピエントの大きさおよび/または重量に従って変えることができる。抗体の量は、抗原に対する抗体力価が公知であれば、Ag:Ab複合体が若干抗原過剰になるように調節できる。
【0099】
例えば、一つの局面では、組成物は下記のワクチン接種プロトコールに従って投与される:当初3週間は週2回、次に5か月間は週1回、その後月1回(投与の頻度は、兆候、症状および検査所見に依存するだろう)。特異的血中IgM自己抗体を高レベルに維持するために、本発明の、若干Ag過剰である、適切なAb:Ag複合体を持続注射することによって、免疫系の細胞を通常より多く刺激する。病原性抗体の反応を終了できた場合には、Ab:Ag複合体のモルを等しくするか、または抗体過剰にすることも含めて、本発明のAb:Ag複合体の投与頻度を少なくすることができる。しかしながら、いずれの調合物においても、特にAb過剰の場合には、抗体応答は抑制される。
【0100】
一つの局面では、投与された(例えば注射された)本発明のAb:Ag複合体によって、ひとたび免疫系が修飾抗原に対し反応すれば、修飾抗原のみ投与するだけでも特異免疫応答を維持することが可能である(免疫応答レベルは低いが)。
【0101】
本発明の方法の実施では、熟練した医師は適切投与量を決定できる。一つの局面では、溶解性であるか粒状であるか、超音波処理したものか、部分的に破壊されたものかに関わらず、薬学的組成物に中にmg/mlで表現される抗原の量は、所望の期間中、最善の、可能な免疫応答を獲得するために、レシピエントの大きさ/重量に従って変えることができる。抗体の量は、抗原に対する抗体力価が公知であれば、本発明のAg:Ab複合体が若干抗原過剰になるように調節できる。抗原の授与(例えば投与方法)、抗原投与の頻度、抗原用量、本発明のAg:Ab複合体における抗原過剰の量等が、免疫応答を決定するだろう。一般的には、本発明のAg:Ab複合体中の低用量の抗原は、Ag:Ab複合体中に存在する抗体と同一分類の抗体によるAg:Ab複合体中に存在する抗原に対する個体(抗体情報転送)の免疫応答を上昇させ、上昇を維持する。
【0102】
本発明の薬学的組成物は、当技術分野において公知な方法、例えば、動脈内、腫瘍内、静脈内(IV)、非経口、胸腔内、表面、口腔内、もしくは、皮下、気管内(例えばエアゾール)もしくは経粘膜(例えば、バッカル(bucal)、膀胱、膣、子宮、直腸、鼻粘膜)、腫瘍内(例えば経皮適用または局所注射)のような局所的投与によって、全身性(例えば静脈内)、領域性、または局所性(例えば腫瘍内もしくは周囲、または嚢胞内注射)に送達できる。例えば、動脈内注射を用いて、例えば特定器官(例えば脳、肝臓、脾臓、肺)に焦点を当てる「領域効果」を得ることができる。
【0103】
経口投与に好適な調合物としては、水、食塩水または果汁のような希釈液に有効量の化合物を溶解したような液体溶液;それぞれ、個体、顆粒または凍結乾燥細胞のような活性成分を所定量含有しているカプセル、サシェまたは錠剤;水性液体の溶液または懸濁液;および水中油乳液または油中水乳液を挙げることができる。錠剤形状は、1つまたは複数のラクトース、マンニトール、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、微結晶性セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメローセナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸およびその他の賦形剤、着色料、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、芳香剤、ならびに薬学的に適当したキャリアを含むことができる。経口送達に好適な調合物はまた、合成および天然のポリマーマイクロスフェア、または消化管中での分解から本発明の作用物質を保護するためのその他手段の中に組み入れることもできる。例えば Wallace (1993) Science 260:912-915を参照。
【0104】
本発明の薬学的組成物は、吸入により投与するエアゾール調合物にすることができる。これらエアゾール調合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等のような、加圧可能な噴射剤に加えることができる。
【0105】
シアノビリンまたはその複合体は、単独または他の抗ウイルス性化合物もしくは吸収変調剤と組み合わせて、経皮適用および吸収に好適な調合物にすることができる。経皮的エレクトロポレーションまたはイオン導入法を用いても、本発明のポリペプチドを、皮膚を通しての全身送達を促進および/または制御できる。例えば Theiss (1991) Meth. Find. Exp. Clin. Pharmacol. 13:353-359を参照。
【0106】
本発明の薬学的組成物の局所投与に好適な調製物としては、香味剤、通常ショ糖およびアカシア、またはトラガカントに活性成分を含むロゼンジ;ゼラチンおよびグリセリンのような不活性基剤、またはショ糖およびアカシアの中に活性成分を含む香錠;ならびに好適な液体キャリア中に、本発明の薬学的組成物を含む口内洗浄剤;同様にクリーム、乳液、ゲル等を挙げることができる。
【0107】
非経口投与に好適な調合物としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および調合物を対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含有できる水性または非水性の、等張の無菌注射液、ならびに沈殿防止剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤および保存剤を含むことができる水性および非水性の無菌懸濁液を挙げることができる。
【0108】
本発明の薬学的調合物は、アンプルまたはバイアルのような単位投与量または複数投与量の密封容器内に入れることができ、そして使用直前に無菌の液状賦形剤、例えば、注射の場合に水を加えるだけを必要とする、フリーズドライ(凍結乾燥)条件で保管できる。即時調合剤注射液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製できる。
【0109】
治療用組成物は、液体調合物、例えばリポソームと、または脂質/核酸複合体の中に複合体化するか、あるいはリポソーム中に封入して、特定の細胞に向かって免疫リポソームとして投与することもできる。これら脂質調合物は、局所、全身的に投与するか、またはエアゾールの形で送達できる。例えば米国特許第6,149,937号; 第6,146,659号; 第6,143,716号; 第6,133,243号; 第6,110,490号; 第6,083,530号; 第6,063,400号; 第6,013,278号; 第 5,958,378号; 第5,552,157号を参照。
【0110】
一つの局面では、本発明の薬学的組成物は、吸収促進剤と共に用いることができる。吸収促進剤は、例えば経口投与および他の経路からの送達のためのタンパク質およびペプチド薬物と組み合わせて適用されるものを用いることができる、例えば van Hoogdalem, Pharmac. Ther. 44, 407-443, 1989; Davis, J. Pharm. Pharmacol. 44 (Suppl. 1), 186-190, 1992を参照。本発明の組成物および方法に用いる促進剤としては、例えば(a)EDTA、サリチル酸塩、およびコラーゲンのN-アシル誘導体のようなキレート化剤、(b)ラウリル硫酸およびポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテルのような界面活性剤、(c)グリコール酸塩およびタウロコール酸塩のような胆汁酸塩ならびにタウロジヒドロフシジン酸塩のような誘導体、(d)オレイン酸およびカプリン酸のような脂肪酸、ならびにアシルカルニチン、モノグリセリドおよびジグリセリドのようなそれらの誘導体、(e)不飽和環式尿素のような非界面活性剤、(f)サポニン、(g)シクロデキストリン、ならびに(h)リン脂質が挙げられる。
【0111】
タンパク質およびペプチド薬(例えば本発明の抗原:抗体複合体)の経口送達を促進する別の方法、例えば消化管酵素に対する安定性を高める、および/または脂肪親和性を高めるための化学的修飾、も本発明の実施に用いられる。それに代わって、またはそれに加えて、本発明の薬学的調合物は、プロテアーゼおよび/もしくはタンパク質およびペプチドの酵素分解のその他の潜在的源を直接阻害する、その他の薬物もしくは物質と組み合わせて投与できる。シアノビリンの消化管吸収を阻止または遅延するその他代替方法は、本発明の薬学的組成物中のタンパク質もしくはペプチドが腸管内のタンパク質分解酵素と接触しないように設計された送達システムにそれを組み入れること、およびその吸収に好都合な領域に達した時に初めて未変性タンパク質もしくはペプチドが放出される方法である。一つの局面では、本発明の薬学的調合物を、ともにそれらを分解から保護し、同時に活性薬物を長期放出するようにする生体分解性マイクロカプセルまたはマイクロスフェアと共に用いる、例えばDeasy, in Microencapsulation and Related Processes, Swarbrick, ed.., Marcell Dekker, Inc.: New York, 1984, pp. 1-60, 88-89, 208-211を参照。マイクロカプセルはまた、注射後の、本発明の調合物の長期送達を実施する有効な方法にもなることができ、例えばMaulding, J. Controlled Release 6, 167-176, 1987を参照。
【0112】
実施例
実施例1:病原性自己抗体応答の下方制御
以下の実施例は、本発明の組成物および方法が哺乳動物の病原性自己抗体応答の下方制御に有効であることを実証している。本発明が初めて、病原性自己抗体が介在する疾患過程の抗原特異的下方制御について記載する。抗原特異的下方制御は、自己免疫性腎疾患のモデルである、緩徐進行性ヘイマン腎炎(SPHN)と呼ばれるラット実験的自己免疫性腎疾患で実証される。下記実施例2を参照されたい。この自己免疫疾患は、病原性自己抗体によって開始および維持され、免疫複合体糸球体腎炎を引き起こし、その結果としてタンパク尿をもたらす。
【0113】
天然起腎炎抗原および特異的IgM自己抗体を抗原過剰で含有する本発明の例示的な免疫複合体を注射することによって、SPHNラットにおける病原性自己抗体応答を下方制御した。注射した免疫複合体は、血中非病原性IgM自己抗体レベルを上昇させ、それにより次には注射した改変型の起腎炎性遊離自己抗原を(尿細管から)除去することによって、病原性自己抗体の産生および糸球体における免疫沈着物の継続的な形成が大きく減少した。早期に処置された動物は、疾患になってから後期に処置されたラットよりも良好に応答したが、タンパク尿、腎病変の低減および病原性自己抗体応答における改善を考慮すると、それらは全て良好に作用した。29週目の実験終了時に80%のラットがわずか低レベルの血中IgG自己抗体を有したが、これは病原性自己抗体の産生が停止し、それに伴い対応する疾患過程が終止したことを示した。他方、未処置のラットは実験の終了時に依然として高レベルの血中病原性自己抗体を有したが、これは疾患の進行が継続していることを示した。
【0114】
ヘイマン腎炎(HN)は、上述のように自己免疫性腎疾患に関する当技術分野で認識されているモデルである。これは、Heymannおよび共同研究者らによって最初に記載されたラットの真性自己免疫性腎疾患である。例えば、Adorini (1993) Immunol. Today 14:285-289を参照されたい。これは、最もよく研究されている実験的自己免疫性腎疾患のモデルの1つである。本疾患は、病原性自己抗体によって開始および維持される。例えば、Glassock (1968) J. Exp. Med. 127:573-588; Mendrick (1980) Kidney Int. 18:328-343を参照されたい。化学修飾後または未修飾の腎尿細管抗原を、ほとんどの場合FCAに取り入れてIPまたは足底内に注射した後に、免疫複合体糸球体腎炎およびタンパク尿を特徴とする古典的HNが発現する。
【0115】
自己および異種腎尿細管抗原もアジュバントと共に使用して腎疾患を生み出すことができる。数人の研究者が起腎炎抗原を精製およびキャラクタリゼーションし、その調製物をそれぞれgp330およびgp600と呼んだ。例えば、Kerjaschki (1982) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 79:5557-5581参照。他のさらに低MWの起腎炎抗原も同定されている。適切な剤形で注射するとき、全ての精製抗原はラットの感受性種系に疾患を誘導できた。例えば、Kerjaschki (1983) J. Exp. Med. 157:667-686を参照されたい。腎臓の形態変化をもたらす免疫病理学的現象は、組織学的研究、蛍光抗体研究および電子顕微鏡研究によって十分に詳述され、血中病原性自己抗体およびタンパク尿を特徴とする機能変化は十分に裏付けされている。
【0116】
本発明は、新規な緩徐進行性HN(SPHN)腎疾患モデルも提供する。SPHNを有する動物は、疾患の誘導の17週間後からタンパク尿を発現し始め、腎病変も初期段階では低重症度であった。この新しい実験的自己免疫腎疾患モデルを使用して、本発明の組成物および方法が特異的に血中起腎炎抗原を除去し、それによって病原性自己抗体を産生している免疫細胞をそれらの抗原が刺激するのを防止する有効性を実証した。このように、本発明の組成物および方法は、糸球体への免疫複合体の沈着防止も助ける。本研究は、2つの群の動物で本発明の組成物および方法を使用して介入作用を検討した。一方の群のラットでは実験開始前に介入を開始し、実験にわたり介入を継続し、もう一方の群では疾患確立の14週間後から介入を開始した。未処置正常ラットおよび腎疾患を有する動物をコントロールとして供した。
【0117】
動物:2ヶ月齢雄性Sprague Dawleyラットを実験に使用した。地域の繁殖コロニーから得た動物を耳識別システムで付番し、代謝コントロール群および被験群にランダムに割り付けた。イソフルラン麻酔ラットに侵襲性の実験手順を実施した。疾患誘導の29週間後である実験の終了時に、Euthanyl(MTC pharmaceuticals)のIP注射(180 mg/kg体重)によってラットを安楽死させた。
【0118】
実験計画
群I代謝コントロール:この群にラット8匹を含めた。これらの動物には注射も処置も行わなかった。しかし、他の群のラットと同時に毎週のタンパク尿調査、定期的な採血および腎試料をこれらのラットから得た。
【0119】
群II緩徐進行性ヘイマン腎炎(SPHN):前述の手法によって、ラット10匹にミョウバンおよびジステンパー複合ウイルスワクチン(Olson 30)に入れた超音波処理超遠沈(u/c)アゾ-rKF3抗原を皮下注射した(B+C+B+L29)。ラットに抗原アジュバント混合物0.2mlを3回注射した。その混合物は、0日目には抗原160μgを、16日目および33日目には抗原80μgを含有していた。26、43、65、72、79、および86日目に水性超音波処理u/cアゾ-rKF3抗原160μgの追加の6回の皮下(SC)注射を投与した。肩甲骨の間の背面を全てのSC注射に使用した。
【0120】
群III SPHNを有する前後処置されたラット:以下のように、抗原または組み合わせのIP注射0.2 mlでラット10匹を前処置した(群IIの動物で使用したのと同じプロトコルによりSPHNを誘導する27日前):-27日目にラット1匹あたり水性rKF3抗原500μg。-22、-20、および-15日目にラット1匹あたり水性rKF3抗原100μg。-12日目にラット1匹あたり超音波処理u/c rKF3抗原60μgおよびrarKF3 IgM 150μgを含有する特異的IgM抗体を有する免疫複合体(MIC)0.2 ml、ならびに-8、-5、および-1日目にラット1匹あたり超音波処理u/c rKF3抗原30μgおよびrarKF3 IgM 75μgを含有するMIC。SPHNの誘導後に、最初の4週間はラット1匹あたり超音波処理u/c rKF3抗原30μgおよびrarKF3 IgM 75μgを含有するMICの0.2 mlを用いて週2回後処置を行い、その後は実験終了まで同用量のMICを週1回投与した。
【0121】
群IV SPHNを有する後処置されたラット:群IIラットについて記載したのと同じプロトコルでラット10匹にSPHNを誘導した。疾患誘導の14週間後に、ラット1匹あたり超音波処理u/c rKF3抗原30μgおよびrarKF3 IgM 75μgを含有するMIC 0.2 mlをIP注射してラットを週に1回処置した。
【0122】
ラット腎尿細管画分3抗原(rKF3)の調製:安楽死させた成Sprague Dawleyラットから、放血し、血管を冷生理食塩水で洗浄後に、正常ラット腎臓を得た。腎試料を採集し、0.25mol/L緩衝スクロース溶液(pH7.4)で数回洗浄し、ホモジナイズして微細懸濁物を作製した。本明細書に記載する手法によって4℃でラット腎画分3を分画遠心分離によって得た。
【0123】
超音波処理超遠沈(u/c)アゾ−rKF3の調製:二段階手順を採用した。予め調製したrKF3画分のタンパク質濃度を決定し、超音波処理および超遠心分離する前に10 mg/mlに調整した。超音波処理u/c rKF3調製物と呼ばれる超遠心分離後の上清のタンパク質含量を4 mg/mlに調整した。実施例2を参照されたい。ジアゾニウム塩を有する0.1 mol/L緩衝ホウ砂溶液(pH8.2)中で超音波処理u/c rKF3調製物の化学カップリングを実施した。(未カップリングのジアゾニウム塩を除去するために)アゾ−タンパク質調製物を徹底的に透析した後で、タンパク質含量を4 mg/mlに調整した(B+L、29)。
【0124】
ラット抗rKF3 IgMの調製:腎尿細管BB部に対する低レベルの血中自然発生IgM自己抗体をブーストできる。例えば、Weir (1966) Clin. Exp. Immunol. 1:433-442を参照されたい。成体Wistarラットに4週間、rKF3抗原50μgをPBSに入れた液0.2mlを週1回IP投与することによって注射した。最終注射の4日後にラットを放血し、血清を集め、正常ラットの腎切片に関する間接蛍光抗体試験で個別の血清試料を試験した。尿細管bb関連抗原に対して力価1:70〜1:180の高いIgM抗体活性を有するラットの血清をプールし、MIC調製物に必要な量に小分けして瓶に入れ、使用まで−35℃で保存した。追加のrarKF3 IgM抗体を得るために、実験の必要に応じてラットを再刺激した。
【0125】
MICと呼ばれる超音波処理u/c rKF3×rarKF3 IgM免疫複合体の調製:以下の試薬がMICの調製に必要であった。超音波処理u/c rKF3抗原(5 mg/ml)および尿細管BB関連抗原に対する活性約1:120を有するrarKF3 IgM抗体。我々の調製物のIgM濃度は約2 mg/mlとみなされた。新鮮調製したMICを注射前に作製した。特記のない限り、各ラットにIC中の超音波処理u/c rKF3抗原30μgおよびrarKF3 IgM 75 mgを与えた。例えば、ラット10匹にIP注射するためのMICを作製するために以下の手順を採用した:超音波処理u/c rKF3抗原300μgおよびrarKF3 IgM抗体750μgを与え、容積をPBSで2 mlに調整した。混合物を注射前に30分間室温(RT)でインキュベーションし、回転させた。得られたMIC調製物はわずかに抗原過剰とみなされた。
【0126】
光学顕微鏡観察:腎皮質組織を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した。Barabas (1969) Clin. Exp. Immunol. 5:419-427に記載されているように厚さ3μmの切片をヘマトキシリン−エオジン、過ヨウ素酸シッフ(Schiff)反応およびメテナミン銀染色で染色した。
【0127】
電子顕微鏡観察:腎皮質の1 mm片を緩衝グルタルアルデヒドで固定し、Caulfieldの四酸化オスミウムで後固定し、Peonに包埋した。Barabas (1969) Clin. Exp. Immunol. 5:419-427に記載されているように適切に染色された薄切片を日立H600電子顕微鏡で検査した。
【0128】
尿タンパク質の推定:実験の開始の8週間前に代謝ケージに入れた個別のラットから24時間尿試料を採集し、代表的なベースライン値を得た。週1回の採尿を29週目の実験終了まで続けた。尿試料0.5 mlに関してSpectromic GENESIS 5(商標)分光光度計を使用して540 nmでビウレット法によって尿タンパク質含量を決定した。
【0129】
免疫蛍光研究
直接蛍光抗体試験:実験8週目および実験終了時に個別のラットから得た厚さ3μの新鮮腎切片をMicrom HM500Mクライオスタットで切断し、エーテル:アルコール(50:50)で固定した。ラットIgGについては適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ラットIgG(H+L)(Molecular Probe)を用い、ラットIgMについては適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)ヤギ抗ラットIgM((μ)鎖)(Molecular Probe)を用いて、洗浄後の腎切片を染色した。実験終了時にC5b-9についてもマウス抗ラットC5b-9 IgGモノクローナル抗体を用いて腎切片を染色し、適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488高吸収ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Molecular Probe)で対比染色した。
【0130】
間接蛍光抗体試験:正常ラット腎臓の凍結切片上のラット腎尿細管成分に対するラットIgGおよびIgM抗体活性について、0週、2週、8週、16週、22週、および29週目に得られた全てのラットからの血清を希釈したものを試験した。IgG抗体およびIgM抗体の両方の抗体価を記録し、陽性結果を与える最終希釈の逆数として表し、表にして、G/M比も計算した。免疫蛍光抗体で染色した切片をAxioscop Zeiss顕微鏡で見て、デジタル写真を撮影し、Micronコンピュータに記憶させた。
【0131】
糸球体におけるラットIgGの沈着に起因する糸球体病変のグレーディング:最も豊富な免疫グロブリンであり、腎臓における自己免疫病理を担っているラットIgGをグレーディングした。糸球体における蛍光強度および蛍光物質(数珠状の免疫複合体)の量を、下記の説明に従って0〜4+のスケールでグレーディングした。尿細管基底膜(TBM)、腎近位尿細管の刷子縁部(BB)およびボーマン嚢でのラットIgGの存在も観察し、そして記録した。
【0132】
ラットIgMの存在をメサンギウムおよび糸球体毛細血管でも観察した。蛍光強度および蛍光物質の量について数珠状のメサンギウム沈着物を0〜4+のスケールでグレーディングした。糸球体毛細血管周縁の最小量のラットIgMの数珠状沈着も観察および記録した。
【0133】
タンパク尿:腎疾患の誘導前に、週1回採集した尿試料8つに関して、全てのラットからタンパク尿のベースライン測定値を得た。尿を採集してMICで群IIIラットを前処置することがタンパク尿に影響するかどうかも調べた。SPHNを有する未処置のラットは最高レベルのタンパク尿を有したが、前後処置した群IIIラットは、実験全体にわたり多かれ少なかれ群II代謝コントロールと同レベルのタンパク尿を有した。MICで後処置した群IVラットは、いくらか増加したレベルのタンパク尿を示した。我々が実験の終了時に、1日の平均尿タンパクの結果をコントロール群Iのラットの尿タンパクアウトプットと比較すると、前後処置したSPHNラットは12%高く、後処置したラットは81%高く、未処置ラットは230%高い尿タンパクの喪失を有し、処置ラットでのタンパク尿値の有意な減少を示した。
【0134】
群IIIラットの早期処置の結果、タンパク尿のごくわずかな増加がもたらされた。
【0135】

【0136】
光学顕微鏡観察:H&E切片から、SPHNを有する群II、群III、および群IVのラットの糸球体に重大な変化がないことが明らかになったが、糸球体細胞充実度のわずかな増加が全てのSPHN動物の腎臓で観察された。タンパク尿を有する群IIのラットの腎切片をメテナミン銀染色したものは、肥厚し、しばしば空胞化した糸球体毛細血管が外周周縁および隆起したメサンギウム領域に多数の銀陽性の突起を有するのを明らかにした。
【0137】
電子顕微鏡観察:群I代謝コントロールラットは、糸球体に免疫沈着物を全く示さなかった。群IIのタンパク尿を有する動物は、典型的なHN腎病変を示した。基底膜(BM)様物質で部分的または完全に囲まれたGBMの上皮側に大小の電子密度の高い沈着物が存在した。BM様突起は、不規則にGBMを肥厚させ、沈着物に関して足突起融合が観察された。上皮細胞は、特に沈着物の反対側に斑状のオスミン酸親和性領域を示した。前後処置した群IIIラットは、軽症型のHN腎病変を示した。これらの動物ではGBMは肥厚しておらず、GBMの上皮側に位置するときの散発的な沈着物は、BM様突起を有さなかった。足突起は大部分の領域で保たれ、沈着物に関してのみ融合した。群IVラットでは、HN腎病変は群IIおよびIIIのラットの腎病変のやや中間であった。GBM様物質が沈着物を取り囲み封入する突起を有し始めた領域におけるGBMの上皮側に、沈着物の一部は限定された。これらの領域では上皮細胞は融合し、オスミン酸親和性領域が上皮細胞の細胞質に存在した。他の領域では、GBMに明らかな変化を有さずにGBMの上皮側に沈着物が存在した。
【0138】
直接蛍光抗体試験の結果:以下の表1は、直接蛍光抗体試験の結果による群II、群IIIおよび群IVのラット腎切片に関する多数の重要な観察を示す。群II、群IIIおよび群IVラットの糸球体から8週目に異なる程度の進行した病変を有する腎生検を観察した。ラットIgGについての強い蛍光染色を有する中等度の数珠状の糸球体毛細血管沈着物が、群IIおよび群IVラットの腎切片から観察された。群IIIラットでは、対応する強度の低い蛍光を有するラットIgGの最小量の沈着が糸球体毛細血管周縁で観察された。群IIおよび群IVのラットだけは、ラット腎切片のいくつかで尿細管基底膜(TBM)、BBおよびボーマン(Bowman)嚢(BC)が染まった。代謝コントロールラットの腎切片は、ラットIgGについて染まらなかった。ラット腎切片のメサンギウム領域は、ラットIgMについて代謝コントロールを含めた全群のラットで類似した蛍光強度およびグレードで染まった。処置または非処置については、メサンギウム沈着の初期段階で明らかな差異は見られなかった。
【0139】
29週目の実験終了時に、群IIラットの腎切片に関してさらに強い蛍光および増加した量を有する糸球体沈着物が存在し、グレーディングされ、群III動物では波及は依然として低かった。群IVラットでは、ラットIgGについての糸球体免疫沈着物の染色は、蛍光強度および量が増加したが、群II動物と同程度ではなかった。群IおよびIIラット腎臓のメサンギウム領域は、ラットIgMの沈着について8週目で以前とおよそ同じグレードの波及を有した。他方で、群IIIラットおよびIV動物は特に非常に低いグレードを示したが、これはメサンギウムにIgM沈着物がより少ないことを示している。実験の終了時に腎切片をC5b-9についても染色した。膜攻撃複合体を染める群IIラット腎切片は、糸球体毛細血管周縁にかすかに数珠状の沈着物を示した。群IIIラットは糸球体にC5b-9を有さなかったが、群IVのラットは非常にかすかな沈着物を有した。
【0140】
間接蛍光抗体試験の結果:HNの変型であるSPHNが病原性IgG自己抗体によって開始および維持されることは十分に立証されている。その自己抗体は、改変された起腎炎抗原の注射後に産生する。その結果としての疾患の進行は、血中の病原性IgG自己抗体の量によって決定される。血中起腎炎抗原を除去することによって、形態および機能変化に対応する改善を有する、病原性自己抗体応答の減少が期待される。
【0141】
本実験では代謝コントロールラットは処置されず、正常コントロールとして保たれた。この群で分析された血清試料によって、近位曲尿細管のBB部に対する血中自然発生IgM自己抗体が低レベルであることを明らかになった。個別のラットにおいて血中IgM自己抗体のレベルは、ある分析から次の分析でやや変動したが、顕著な程度ではなかった。
【0142】
SPHNを有する群II未処置ラットでは、血中病原性自己抗体応答の平均は、29週目の実験の終了時でさえも極めて高かった。高G/M比および低G/M比を有するラット5匹の群で分析および平均した血清試料は、どちらも自己抗体介在性免疫応答に下向き傾向を示さなかった。実験の終了時に、ラットの80%は、腎臓において標的抗原に対する依然として高い自己抗体応答を有した。群IIIの前後処置したSPHNラットにおいて、平均を計算した病原性IgG自己抗体は実験全体で低値であった。29週目の実験の終了までに、全般的に90%のラットでその自己抗体は1:10希釈未満であり、80%で0であった。他方、血中自然発生IgM自己抗体は増加し、G/M比は80%の動物で0に達した。IgM自己抗体レベルの増加は、注射された化学改変rKF3抗原の大部分を除去可能であり、このようにして、増加した病原性IgG自己抗体産生が発現するのを防止した。
【0143】
群IVラットを疾患誘導の14週間後にMICで後処置した。最初の8週間程度の間、初発の病原性IgG自己抗体応答は高く、多くの点で群IIラットで観察された応答と類似していた。処置の開始直後にそれは減少し始め、29週目の実験終了時までに平均IgG抗体価は約1:10であった。ラットの80%がかなり低いIgG自己抗体レベルを有し、50%は血中1gG自己抗体を有さなかった。任意の段階でMICで処置することは、改変した起腎炎性自己抗原を除去することによって病原性自己抗体応答の下方制御を開始し、その結果として寛解をもたらすのであろう。
【0144】
処置および未処置ラットにおける自己免疫疾患過程の全般的な進行:MICによる前後処置ラットは圧倒的に進行が最小であり、後処置ラットは、群II非処置ラットの進行に比べてそれらの疾患の進行が大きく減少していることが観察された。高IgM自己抗体応答を維持することによって、損傷性のIgG自己抗体産生は低下し、その結果として病原性自己抗体応答は減速および終止する。実験にわたって疾患の全般的な進行を観察することで、群IIラットよりも群IIIラットが16倍、群IVラットが4.5倍良い状態であることに注目できる。処置の前後に、群II動物および後処置の群IV動物においてG/M比によって測定した臨界点で病原性自己抗体応答の上方または下方制御を観察するならば(8から16週目の結果)、以下のことに気づく。群II動物では病原性自己抗体応答に90%の上方サージが存在したが、群IVラットでは病原性自己抗体産生にほぼ250%の下方応答が存在した。これは、処置に対する驚くほど迅速な応答を示している。29週目の実験終了時に群IIラットは、依然として進行性の疾患(G/M比>3)を現したが、一方で群IIIおよび群IVのラットの両方では、非常に低いG/M比(それぞれ0.0636および0.105)によって示されるように病原性自己抗体応答がほぼ中断することが観察された。
【0145】
表1は、ラットIgGおよびIgMについての直接蛍光抗体試験により8および29週目の染色での腎切片を示す。群内の平均値を示す。SPHN未処置(群II)ラットおよび被験(群IIIおよび群IV)ラットの蛍光強度および糸球体病変のグレードを示す。代謝コントロール(群I)もグレーディングする。各群は、ラット10匹を有し、例外として代謝コントロールはラット8匹を有する。
【0146】
【表1】

【0147】
略号: BB:刷子縁、BC:ボーマン嚢、MIC:免疫複合体M、SPHN:緩徐進行性ヘイマン腎炎、TBM:尿細管基底膜、Tx:処置、w/:使用、:これらの構造の1つまたは複数が染まったラット腎臓の数、+:グレード2より小さい糸球体病変であるラット腎臓の数(かっこ内)
【0148】
実施例2:緩徐進行性ヘイマン腎炎の新しいモデルの産出
本発明は、緩徐進行性ヘイマン腎炎の新しいモデルを提供する。緩徐進行性ヘイマン腎炎(HN)の本新規モデルを使用して、本明細書に記載するように本発明の組成物および方法の有効性を実証した(例えば、実施例1参照)。
【0149】
ミョウバンおよびジステンパー複合ワクチンに取り入れた化学修飾した腎抗原(rkF3)を皮下注射し;その後同抗原の水性調製物を皮下注射することによって、Sprague Dawleyラットに緩徐進行性自己免疫性腎疾患を産生した。発達中の病原性自己抗体が、糸球体に固定した起腎炎抗原と反応した後に、その自己抗体は腎疾患を誘導した。続いて、免疫病理学的現象は慢性進行性免疫複合体糸球体腎炎およびタンパク尿をもたらした。
【0150】
この緩徐発現性疾患は、ヘイマン腎炎に形態的および機能的に類似していた。直接蛍光抗体試験、組織観察および電子顕微鏡観察によって8週目および実験終了時に実験動物から採集した腎試料に観察された損傷は、ヘイマン腎炎のラット腎臓にみられる典型的な病変に類似していたが、重症度は低かった。動物は17週間後(通常は4〜8週間の代わりに)から動物はタンパク尿となり、8か月目の実験終了時までに100%のラットがタンパク尿を示した。自己免疫性腎疾患の新しい実験モデルは、フロイントの完全アジュバントおよび腎尿細管抗原の腹腔内沈着および貯留によって複雑にならず、異なる側面から疾患過程の病因を検討することを可能にし、将来的な治療オプションの研究のためのよりよいモデルである。
【0151】
受動的ヘイマン腎炎および進行性受動的ヘイマン腎炎のようなHNに類似した実験的腎疾患も記載されている。例えば、Adler (1984) Kidney Int. 26:830-837; Barabas (1974) Br. J. Exp. Pathol. 55:282-290; Barabas (1974) Br. J. Exp. Pathol. 55:47-55; Feenstra (1975) Lab. Invest. 32:235-242を参照されたい。これら後者の状態をラット腎尿細管抗原に対する異種抗体のIV注射によって感受性ラットで産生できる。腎疾患のこれら後者の形は、糸球体固定抗原と反応する異種抗体の注射に起因し、それは今度は糸球体に補体介在性の追加の傷害を誘発し、タンパク尿をもたらす。これらの状態は自己免疫疾患ではなく、ヒトの自然発生自己免疫腎疾患のための治療オプションの探求におけるこれら状態の真の妥当性は明らかではない。しかし、糸球体での免疫複合体の解離を早めることが最も望ましい成果であろう。それは、HNおよび受動的HNに糸球体損傷を起こし、それに寄与する多様な現象を減らすことができるか、または防止までもできるであろうからである。
【0152】
本発明は、開始および進行に関してヒトの膜糸球体腎炎によく類似する緩徐進行性ヘイマン腎炎(SPHN)の新しいモデルを提供する。SPHNを産出するこの新しい取り組みは、異なる時間間隔で3群のラットで最初検討され、再現性を示した。本明細書に記載する一実験では、SPHNのこの新モデルをコントロールおよびHNラットと比較する。HNラットは、疾患誘導の4週間後にタンパク尿となったが、新しい実験モデルではラットは17週目以降に徐々にタンパク尿となり始めた。同様に、新しい実験群のラットの病原性自己抗体応答(間接蛍光抗体法での抗体価によって測定した)は、その疾患の誘導期から最初の8週間で大きく減少した。
【0153】
HNは、自己免疫性腎疾患の病因ならびに発現する形態および機能的変化を研究するための優れた実験モデルであるが、一部の状況ではHNは迅速で不可逆な経過が原因で治療オプションの研究には適切でないおそれがある。本発明は、ヒトの緩徐進行性自然発生自己免疫疾患をうまく模倣するラットの実験的自己免疫性腎疾患モデルを提供する。本発明のSPHN腎疾患モデルは、免疫病理学的現象を減速または終了させるためにHNの場合よりもうまく免疫系を操作できる。
【0154】
ラット腎尿細管(画分3)抗原の調製:正常な成Sprague Dawleyラットを安楽死させ、直ちに放血し、血管を冷生理食塩水で洗い流した。腎臓を0.25 mol/L緩衝スクロース溶液(pH7.4)に採集し、Cyclone virtishear(Virtis)でホモジナイズして、比較的微細な懸濁物にした。Potter-Elverhjemホモジナイザーに入れて腎微細懸濁物をその後ホモジナイズすることによって細胞内成分を得た。Beckman Model J2.21遠心分離器を使用してHubscher (1965) Biochem. J. 97:629-642; Pinckard (1966) Clin. Exp. Immuno1. 1:33-43が記載するように富ミトコンドリア画分であるラット腎画分3(rKF3)を分画遠心分離によって得た。全ての操作を4℃で実施した。
【0155】
超音波処理超遠心rKF3画分の調製:上記の手法によって調製したrkF3を0.25 mol/L緩衝スクロース溶液に再懸濁し、使用まで-35℃で保存した。溶かしたrKF3調製物のタンパク質濃度をWeichselbaum (1946) Am. J. Clin. Path. Tech. Suppl. 10:40-49が記載するようにビウレットタンパク質推定によって決定した。rKF3調製物のタンパク質終濃度を10 mg/mlに調整してから衝撃周波60%および8マイクロチップリミットのBranson Sonifier 250を使用して4℃で5分間超音波処理した。Beckman L8-M超遠心分離器を使用して4℃で1時間超音波処理調製物を100,000Gで超遠心した。その上清を採集し、u/c rKF3調製物と呼んだ。そのタンパク質含量を4 mg/mlに調整した。
【0156】
アゾ−u/c rKF3の調製:Lannigan (1969) J. Pathol. 97:537-543が記載するように、アゾ-rKF3の調製のためにLanniganおよびBarabasが記載した方法にならった。調製物の化学カップリングを0.1 mol/L緩衝ホウ砂溶液(pH8.2)中で4℃で2時間行った。連続的に撹拌しpHを維持しながらジアゾニウム塩をその調製物に滴下した。PBS(pH7.3)を3回交換してアゾ−タンパク質調製物を透析し、未カップリングのジアゾニウム塩を除いた。調製物のタンパク質含量をポリエチレングリコール8000を使用して4 mg/mLに再調整した。
【0157】
尿タンパクの推定:代謝ケージに入れた個別のラットから、疾患の誘導前は1週間間隔で6回、その後実験にわたって1週間間隔で尿の24時間検体を採集した。Spectronic Genesis 5分光光度計を使用して540 nmでビウレット法によって尿タンパク質含量を決定した。Weichselbaum (1946)上記を参照されたい。
【0158】
光学顕微鏡観察:腎標本の代表的な試料を10%ホルマリン生理食塩水で固定し、パラフィンに包埋し、厚さ3μmの組織切片をBerabasおよびLannigan (1969)、上記が記載するようにヘマトキシリン−エオジン、過ヨウ素酸シッフ(Schiff)反応およびメタンアミン銀染色で染色した。
【0159】
電子顕微鏡観察:腎臓の代表的な試料から皮質の1 mm3片を固定し、BarabasおよびLannigan (1969)、上記のように電子顕微鏡観察用に調製した。
【0160】
免疫蛍光研究
直接蛍光抗体試験:疾患誘導の8週間後および8か月目の実験終了時に、各ラットから腎生検試料を得た。凍結切片をMicrom HM 500Mクライオスタットで厚さ2〜3μに切断し、エーテル:アルコール(50:50)で固定する20分前に0.9%生理食塩水中に入れた。固定した後に、切片を2回洗浄してからラットIgGについては適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488-ヤギ抗ラットIgG(H+L)(Molecular Probe)で、ラットIgMについては適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ラットIgM (μ鎖)(Molecular Probe)で染色した。Alexa Fluor(登録商標)で染色した切片をAxioscop Zeiss顕微鏡で見てデジタル写真をデジタルカメラ(Diagnostic Instruments inc.)を使用して撮影し、Micronコンピュータに記憶させた。実験の終了時に、マウス抗ラットC5b-9 IgGモノクローナル抗体を用いて、個別のラットから得た切片もC5b-9について染色し、適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Molecular Probe)で対比染色した。
【0161】
間接蛍光抗体試験:腎特異的自己抗体の血中レベルの推定のために個別のラットから血液を採集した。3群のラットの血液から0週、2週、7週、8週、12週、16週、22週、26週、29週および32週目に血清試料を得た。個別のラットから採集した血清を使用まで-35℃で保存した。研究のために正常なラットの新鮮腎切片を切り取った。ラットIgGおよびIgMについての腎尿細管細胞成分に対する反応性に関して血清の希釈液を試験した。IgGおよびIgM画分での反応性に関して血清の力価を記録した。
【0162】
疾患ラットの腎臓からのγ-グロブリンの溶出:例えば、Freedman (1960) Arch. Int. Med. 105:224-235; Freedman (1959) Lancet 2:45-46; Lerner (1968) J. Immunol. 100:1277-1287が記載するように、0.02 mol/Lクエン酸(pH3.2)を使用した溶出手順によって、古典的HN 疾患ラットおよびSPHN疾患ラットのホモジナイズ後の腎臓から溶出したγ-グロブリンを得た。2時間溶出させた後に、γ-グロブリンを含有する上清をpH7.2に再調整し、PBSで透析してから、carborax 8000によって腎臓2個あたり0.5ccまで容積を減少させた。それらの上清のタンパク質含量をビウレット試験によって決定し、正常なラット腎切片に対する間接蛍光抗体試験で腎臓の構造成分に対するそれらの上清の反応性を観察した。溶出したγ-グロブリンのIV注射によって、(一方の腎臓の除去後の)正常ラットにおけるそれらの生物学的反応性を試験した。注射の4日後に動物を屠殺し、ラットIgGおよびラットIgMについてそれらの腎切片を染色した。溶出したγ-グロブリンの注射前に除去した腎臓を同様に試験した。
【0163】
疾患ラットの糸球体におけるラットIgGのグレーディング:自己免疫性腎疾患の開始および維持を担う最も豊富な成分を以下のような半定量法によってグレーディングした:
(1)蛍光強度を0〜4+のスケールで記録した。糸球体に存在する蛍光物質(数珠状免疫複合体)の量が蛍光のグレーディングに影響し、その結果グレーディングを決定した。顕微鏡の設定を一定にして0〜4の蛍光を観察し、蛍光強度の差を記録した。
(2)糸球体毛細血管ループに沈着した蛍光物質(数珠状免疫複合体)の量も0〜4にグレーディングした:
− グレード0の病変は、糸球体に数珠状沈着物を全く有さなかった
− グレード1の病変は、糸球体毛細血管ループ周縁に最小の量および数の小さな免疫複合体を有した
− グレード2の病変は、糸球体毛細血管ループ周縁に多様な量および数の免疫複合体を有したが、まだ極めてまばらな分布であった
− グレード3の病変は、糸球体毛細血管周縁に多数の大小免疫複合体が近接して、しばしば多層配置になって存在した
− グレード4の病変は、糸球体毛細血管周縁の、ほとんどの場合多層パターンとなったびまん性数珠状大沈着物を有した
【0164】

【0165】
糸球体毛細血管以外のラットIgGの存在も尿細管基底膜(TBM)、尿細管細胞質、尿細管の刷子縁(BB)およびボーマン嚢で観察し記録した。
【0166】
メサンギウムではラットIgMの存在も観察および記録した。蛍光強度に関して数珠状メサンギウム沈着物を0〜4のスケールで、メサンギウムに存在する蛍光物質の量を記載するためにも0〜4のスケール(メサンギウムに沈着物なしからメサンギウムツリー内にIgMの大規模な沈着まで)でグレーディングした。通常は弱い蛍光を有する糸球体毛細血管周縁の数珠状パターンでの最小量のIgMの存在も観察および記録した。
【0167】
実験計画:実験では個別に付番したラットをランダムに3群に割り付けた。
【0168】
代謝コントロール:ラット10匹には注射せずコントロールにしておいた。この群の動物を採血して血清を得、腎臓を生検して、採尿し、被験群のラットと同じ時間間隔で分析した。
【0169】
被験群I:緩徐進行性ヘイマン腎炎(SPHN):ラット10匹にミョウバンおよびジステンパー複合ウイルスワクチンに入れたu/cアゾ-rKF3を皮下注射した(Olson et al., 2000)。ミョウバンと免疫原−ミョウバン混合物との最終容積比は1:3であった。アジュバント抗原抗合物を以下のように作製した:
【0170】
ミョウバン(Imject(登録商標)ミョウバン、Pierce)1容を、ジステンパー複合ウイルスワクチン(Duramune DA2P+PV、フォートドッジ、アイオワ州、米国)1容とアゾu/c rKF3の2容(2容にするために抗原にPBSを添加)との混合物に滴下し、注射前にRTで30分間撹拌した。
【0171】
抗原アジュバント混合物0.2 mlをラットに4回注射した。0日目にその混合物は抗原160μg、10、20、および35日目に80μgを含有した。42、49および55日目に水性アゾu/c rKF3抗原100μgの追加のSC注射3回を投与した。肩甲骨の間の背面に全てのSC注射を実施した。
【0172】
被験群II:ヘイマン腎炎(HN)腎疾患:FCAに取り入れたアゾ-rKF3抗原をラット10匹に4回腹腔内注射した。FCAと免疫原−FCA混合物との最終容積比は1:2であった。アジュバント抗原混合物を以下のように作製した:(結核菌(Mycobacterium Tuberculosis)2 mg/mLを含有する)FCA2容にアゾ-rKF3(24 mg/mL)1容を加えてから乳化させ、シリンジに付けた18Gツーウェイ針を使用して注射した。ラットに0、10、20および35日目にアゾ-rKF3抗原2 mgを含有する乳化調製物0.25 mLを腹腔内に与え、42、49および55日目にアゾ-rKF3を2 mg含有する水性調製物0.25 mLを肩甲骨の間に皮下投与した。
【0173】
22週、23週および24週目に、SC注射によってアゾu/c rKF3抗原100μgの水性調製物0.2 mlで被験群IおよびIIのラットを再刺激した。
【0174】
結果
タンパク尿:実験全体で個別のラットから得た24時間尿試料に関して週1回のタンパク尿の推定を実施した。実験開始の6週間前に個別のラットから行ったタンパク尿の測定は、よいベースラインを達成し、3群の全てのラットが無タンパク尿であることを示した。タンパク尿は、被験群IのSPHNラットでは疾患開始の13週後に発現し始め、17週目以後から緩徐進行性となった。32週目の実験の終了時までに100%のラットは、疾患の開始のおよそ7週間後のHNラットと同レベルで中等度のタンパク尿を示した。被験群IIのHNラットでは、FCAに入れたアゾ-rKF3抗原を最初に注射した早くも5週間後にタンパク尿が開始し、その後、尿中タンパク質喪失レベルの顕著な上昇を伴って激しくなった。実験終了時に100%のラットが重度のタンパク尿を示した。この時期に動物は一日に総血清タンパク質含量にほぼ等しい量を排泄した。さらに、この群では大部分のラットは、代謝機能障害を伴う極度のタンパク尿が原因で、やせて、ひ弱な外見であった。実験中に齢に関連したタンパク尿の増加が起こるかどうかをみるために確保した代謝コントロールは、図1に示すようにちょうど38週間の試験期間にわたって大きな変化を示さなかった。
【0175】
光学顕微鏡観察:H×E切片は、被験群IおよびIIのラットの糸球体の細胞充実度にわずかの増加を示したが、代謝コントロールでは1匹も示さなかった。タンパク尿の被験群IおよびIIのラットのメタンアミン銀染色した腎切片は、肥厚した糸球体毛細血管、隆起したメサンギウム領域および肥厚した糸球体毛細血管の外表面上に銀陽性の突起を示した。
【0176】
電子顕微鏡観察:実験の終了時に各群のラットからラット腎臓の3つの代表的な試料を得た。SPHNを有する群Iラットは、活動性ヘイマン腎炎ラットの腎臓から観察できる特徴的な形態の病変を示した。成長し、上皮側面上の部分的または完全にオスミン酸親和性陰影を取り囲む基底膜(BM)物質が原因で、腎糸球体の糸球体基底膜(GBM)は全周に沿って不規則に肥厚していた。オスミン酸親和性沈着物およびGBMの変化に関連して、足突起を失い、病変の表面を覆う上皮細胞の細胞質がオスミン酸親和性領域を現した。メサンギウム領域は、電子密度の高い沈着物および巣状に増加したメサンギウム細胞を示した。活動性HNを有する群IIラットは、糸球体および関連する微細構造に、本質的に類似しているがより重度の変化を示し、これは、増加したレベルの病原性自己抗体により引き起こされた損傷が原因となって病変がさらに進行したことを表す)。GBMは、大小のオスミン酸親和性沈着物を取り囲み封入する、不規則に肥厚した多層および多突起BM様物質によって最も大きく影響された。沈着物およびGBMの変化に関連して足突起は失われ、それらの上皮細胞の細胞質は多様な程度のオスミン酸親和性染色物を含有した。代謝コントロールの腎臓の超微細顕微鏡写真は、GBMおよび関連構造に微細構造の変化が存在しないことを明らかにした。
【0177】
溶出したγ-グロブリンの分析:群IおよびIIのラットの腎臓から得られた溶出したγ-グロブリンは、間接蛍光抗体試験で正常ラットの腎臓切片の近位曲尿細管のBB部を染色した。溶出したγ-グロブリンの試料を片側腎切除ラットに静脈内注射して4日後に生検したとき、糸球体毛細血管ループ周縁にラットIgGのびまん性の微細な数珠状沈着を観察した。注射前の片側腎切除ラットから得た腎切片は、糸球体にラットIgGを示さなかった。溶出したγ-グロブリンの注射前に片側腎切除ラットから得た腎切片もラットIgMについて染色した。注射前後の腎試料から、同じ蛍光パターンのメサンギウムおよび微細糸球体毛細血管ループの染色を観察した。SPHNを有する群Iラットおよび古典的HNを有する群IIラットから溶出した両γ-グロブリン試料の両方は、類似したインビボおよびインビトロ試験結果を与えた。
【0178】
直接蛍光抗体試験の結果:下記の表2は、8週目および32週目の実験の終了時に、3つの群のラットから得た腎切片に対する直接蛍光抗体試験の結果を示す。
【0179】
代謝コントロールラットは、8週目または32週目に腎切片中のIgG局在成分を有さなかった。しかし、全てのラット腎切片は最小ないし中等度の波及を伴ってメサンギウムに巣状またはびまん性に数珠状パターンでIgMの明確な沈着を有し、全てのラットで同様の蛍光強度およびグレードであった。さらに、糸球体毛細血管ループの微細な数珠状染色にも注目した。これは、これらの部位にラットIgMが沈着していることを示している。
【0180】
被験群IのSPHNラットは、糸球体、刷子縁関連部およびTBMにIgGの沈着を示した。ラットIgGの最も明確な存在が、数珠状パターンで糸球体毛細血管から観察された。8週目および32週目にこれらの部位で、まばらで小さい数珠状沈着物から大きな集密多層状態の数珠状沈着物までを観察し、グレーディングおよび記録を行った。さらに、近位曲尿細管のBB部もまばらに染まったが、より弱い蛍光を有し、8週目および実験終了時ではさらによりそうであった。TBMは、斑状に分布する数珠状パターンで染まった。このパターンの蛍光を8週目の初期に観察し、32週目により頻度低く観察した。IgMは、8週および32週目に数珠状パターンでラットの各腎切片のメサンギウムに存在し、その存在および分布は疾患状態に影響されないようであった。8および32週目に糸球体毛細血管周縁にも大部分のラット腎切片上に数珠状のかなり弱い蛍光を伴ってそれを観察した。
【0181】
被験群IIのHNラット:糸球体毛細血管からラットIgGを観察した。ラットIgGは初期の8週目に顆粒状のしばしば多層になったパターンで大量の沈着物を有し、これは実験終了時には集密状態の大きな沈着物を伴い、ずっと顕著になった。尿細管BB部は、8週目にびまん性の強い染色で染まり、実験の終了時に尿細管のBB染色は、より強くびまん性で、長期にわたり損傷が増加していることを示した。尿細管基底膜はラットIgGについて8週目に腎切片上にすっかり広がった数珠状パターンで染まり、実験終了時に同様に染まった。ボーマン嚢は、実験終了時にのみ少数のラット腎切片上に数珠状沈着物を部分的に有してIgGについて染まった。ラットIgMは、代謝コントロールおよびSPHNラットについて記載されたようにメサンギウムおよび糸球体毛細血管ループにみられた。さらに8週目のラット5匹は、IgMについて最小であるが明確なBB部の染色を示した。実験の終了時にラット7匹がIgMについて腎近位尿細管のびまん性の細胞質染色を示した。ラット1匹は、IgMについて数珠状パターンの糸球体毛細血管のびまん性染色を示した。
【0182】
全てのラット腎切片を、膜攻撃複合体C5b-9についてサンドイッチ法によって染色した。実験の終了時に群IおよびIIのラットの腎切片の糸球体毛細血管ループは、C5b-9についてびまん性の数珠状パターンで強く染まった。代謝ラットの腎切片は染まらなかった。
【0183】
間接蛍光抗体試験の結果
代謝コントロール:実験前および実験中ずっと間接蛍光抗体試験によって分析した正常ラットの血清は、低レベルの血中自然発生IgM自己抗体を明らかに示した。その自己抗体は、正常ラット腎切片の近位曲尿細管のBB部に対するものであった。近位曲尿細管の管腔周縁部での免疫蛍光のパターンは、複雑で微細な直線状の染色から構成された。ほとんどの場合ラットIgMについての典型的な尿細管染色は、任意の1つの位置で1つまたは複数の尿細管に波及して腎切片にびまん性でなくランダムに分布した。個別のラットでは血中IgM自己抗体のレベルは、ある分析から次の分析で幾分変動したが、顕著な程度には変動しなかった。血清試料は、正常ラットの腎切片成分に対してラットIgG抗体による抗体活性を有さなかった。
【0184】
被験群I SPHN:尿細管上皮細胞成分に対する中等度のIgG抗体応答が2週目以内に存在した。7週目までに非常に増加した応答を記録し、それは8週目および12週目まで持続した。16週目以降自己抗体応答が徐々に減少し、それは22週目から3回注射した水性アゾu/c rKF3抗原によってブーストされた。研究にわたって、間接蛍光抗体試験による尿細管の蛍光は、典型的な広い染色パターンでBB関連部を染色することによって実際に全ての尿細管に波及するびまん性であった。尿細管BB関連部に対するIgM抗体応答は、実験開始時から実験終了時まで正常な生理学的範囲を超えて平均4倍増加した。22週目からのアゾu/c rKF3抗原の注射後にIgM自己抗体応答も増加した。
【0185】
被験群II HNラット:この群のラットにおける抗尿細管BB IgG抗体応答は迅速で、疾患誘導の2週間後までに平均抗体価は1000を超えた。7週目までに抗体価は最高となり、ちょうど30,000を超え、その後8週、12週および16週目では抗体価は依然として高かったが、値は減少していき、32週目で比較的低いが依然として有意なレベルに達した(図14)。この群では各ラットは高い病原性自己抗体応答を有した。被験群Iのラットとちょうど同様に、間接蛍光抗体試験によって典型的なBB染色パターンを観察した。22週目での水性アゾ−rKF3抗原を用いたこれらのラットの再刺激によって、抗体応答は増加しなかった。平均して尿細管BB関連領域に対するIgM抗体応答は、7週目までに生理学的正常値を超えた約100倍であり、その後8週および12週目に依然として非常に高いままであり、その後やや減少した。実験終了時に平均のIgM抗尿細管抗体応答は、依然として生理学的正常値を超えた10倍であった。IgMについての腎近位尿細管の免疫蛍光染色は異常に大きくびまん性の顆粒状の細胞質染色パターンおよび粗い多直線状染色パターンの両方を示した。
【0186】
考察:本発明は、HNに形態的および機能的に類似する新規な自己免疫性腎疾患を作製および使用するための方法を提供する。その疾患は、最小の侵襲性手順である新規な手法によってSprague Dawleyラットに産生される。本明細書に記載する実験では、ミョウバンおよびジステンパー複合ワクチンに取り入れた低用量の化学修飾腎尿細管抗原のSC注射を動物に与え、その後水性媒質に入れた同抗原のSC注射を行った。
【0187】
この発現中の疾患は緩徐進行性であった。最小のタンパク尿が13週目に開始し、17週目以降に明白なタンパク尿が開始し、8か月目の実験終了時に100%のラットがタンパク尿を示した。直接蛍光抗体研究のために8週目に得られた初期の腎生検試料は、数珠状パターンで糸球体毛細血管周縁にラットIgGについての免疫沈着物の染色を示した。
【0188】
実験終了時に、蛍光抗体試験、組織観察および電子顕微鏡観察のために得た腎組織試料は、HNの典型的な変化を示した。直接蛍光抗体試験によって糸球体毛細血管周縁でラットIgGおよびC5b-9について染まった免疫複合体のびまん性数珠状沈着物を観察した。近位曲尿細管およびTBMのBB部も表2に示すように染まった。タンパク尿ラットの銀メタンアミン染色腎切片に関する組織観察は、外周および隆起したメサンギウム周縁に銀陽性の突起を有する肥厚した糸球体毛細血管を示した。
【0189】
電子顕微鏡観察は、不規則に肥厚したGBMの外表面に包埋した大きなオスミン酸親和性沈着物を示した。さらに沈着物に関連して足突起を失ったことも観察した。
【0190】
間接蛍光抗体試験によって、我々は血中病原性および血中非病原性自己抗体の存在を研究した。実験の開始時に、特にミョウバンに取り入れた抗原の注射を続けるときに、血中病原性自己抗体のレベルは高く、実験が進むにつれて、そのレベルは低下したことを示した。実験終了時に尿細管BB関連抗原に対する低レベルの血中自己抗体が依然として検出可能であった。これらの自己抗体(自己様抗原の「異常な提示」の結果として産生した)は、初期の現象を担っていた。結果的に、発現中の自己抗体は糸球体に結合した起腎炎抗原と反応し、免疫複合体を形成した。実験が進むときに追加の化学的に改変された抗原が入手可能とならないならば、それ以上の血中病原性自己抗体は形成できず、同時に抗原はGBMの上皮側面でこれまでに拡大および成長してきた免疫複合体(起腎炎抗原、自己抗体および補体成分で構成された)にそれ以上利用可能とならないと考えるのが妥当であろう。
【0191】
表2は、ラットIgGおよびIgMについて直接免疫蛍光法によって3つの実験群で染色した個別のラットの腎切片を示す。ラットの個別の群内の平均蛍光強度および平均グレード、ならびに8週および32週目に腎組織に局在する成分の存在または不在を示す。
【0192】
【表2】

【0193】
BB:刷子縁、TBM:尿細管基底膜、HN:ヘイマン腎炎、SPHN:緩徐進行性ヘイマン腎炎
【0194】
実施例3:化学修飾腎抗原によるヘイマン腎炎の産出
本実施例は、化学修飾腎抗原によるヘイマン腎炎(HN)の産出を記載し、アジュバントを使用せずに水性媒質中の化学修飾起腎炎抗原が感受性系統のラットで病原性自己免疫応答を開始可能であることを実証する。
【0195】
水性媒質に入れた化学修飾アゾ超遠沈(u/c)rKF3抗原の週に1回の反復IP注射によって、成熟雄性Sprague Dawleyラットにヘイマン腎炎(HN)に形態および機能的に類似している自己免疫性腎疾患を誘導した。上記実施例2を参照されたい。
【0196】
化学的に改変された抗原の最初の注射から15週後に実験を終止した。実験の経過中に採集し、正常ラットの腎切片に関して間接蛍光抗体試験によって分析した血清試料は、近位尿細管の刷子縁部に対する血中病原性自己抗体の緩やかな増加を示した。少数のラットの尿ではタンパク尿が存在し、それが有意に増加した。発達中の免疫複合体糸球体腎炎は、組織観察、直接蛍光抗体検査および電子顕微鏡検査によって70%のラットに典型的なHN腎疾患の病変を示した。
【0197】
化学未修飾の同抗原を同様に注射したコントロールラットは、特徴的な形態および機能的変化を発現しなかった。
【0198】
これらのデータは、活動性HNと呼ぶ自己免疫性腎疾患を水溶液に入れた化学的に改変された腎抗原の投与によって産出でき、アジュバントに入れた起腎炎性腎抗原の通常の提示によって産出できないことを初めて説明している。
【0199】
動物:1歳を超える成体雄性Sprague Dawleyラットを実験に使用した。個別に付番し、コントロールおよび被験群にランダムに割り付けたラットを地域の繁殖コロニーから得た。侵襲性の実験手順の全てをイソフルラン麻酔ラットで実施した。実験の終了時に、Euthanyl (MTC pharmaceuticals) のIP注射(180 mg/kg体重)によって動物を安楽死させた。
【0200】
実験計画
コントロールラット:この群にラット15匹を使用した。1週間間隔でPBS(pH7.3)0.2 mlに入れた未修飾の超音波処理rKF3調製物100μgをこれらの動物に腹腔内注射した。
【0201】
被験ラット:PBS(pH7.3)0.2 mlに入れたアゾ−超音波処理超遠沈rKF3調製物100μgをラット8匹に1週間間隔で腹腔内注射した。
【0202】
実験開始前ならびに2、4、6、12および15週目の各動物から血清を得るために血液試料を採集した。
【0203】
実験開始前に各ラットから、研究から2週目の少数のラットから、および実験終了時に全てのラットから直接蛍光抗体試験により分析するために各腎生検試料を得た。研究の終了時に、実験にわたって採集した各血清試料に関して間接蛍光抗体試験を実施した。さらに、特異的に染色した組織切片の組織学的手法によって各ラットの腎試料も検査した。電子顕微鏡観察によって、被験群の全ての腎臓を検査したが、コントロール群では少数の腎検体しか検査しなかった。実験を15週目に終止した。
【0204】
尿タンパクの推定:代謝ケージに入れた個別のラットから実験の開始前に尿の24時間検体を1週間間隔で3回採集し、その後は実験中に2回採集した。ビウレット法によりspectronic Genesis 5分光光度計を使用して540 nmで尿検体0.5 mlに関して尿タンパクの推定を実施した。1日タンパク尿を計算し、体重100 gmあたりのタンパク質喪失(mg/日)として表現した。
【0205】
ラット腎尿細管画分3(rKF3)抗原の調製:安楽死させた成Sprague Dawleyラットからの放血および4℃のPBS(pH7.2)を用いて血管を洗浄した後に、腎臓を得た。その腎臓を4℃の0.25 mol/L緩衝スクロース溶液(pH7.4)に採集し、血液成分を除くために緩衝液中で数回洗浄した。Cyclone Virtishear(Virtis)によって腎試料をホモジナイズして微細懸濁物にして、細胞質内成分をPotter-Elverjhemテフロンホモジナイザーを使用してスクロース緩衝溶液中に放出させた。Beckman Model L-2超遠心分離器を使用した分画遠心分離[17]によって、rKF3と呼ぶラット腎画分3を得た。全ての手順を4℃で行った。rKF3調製物のタンパク質濃度をビウレット法[16]によって決定し、30 mg/mlに調整してから-35℃で保存した。
【0206】
超音波処理u/c rKF3の調製:Branson sonifier 250を使用して衡撃周波60%で9マイクロチップリミットで、4℃で5分間0.25 mol/L緩衝スクロース溶液(pH7.2)に入れた10 mg/ml rKF3調製物を超音波処理した。超音波処理した調製物をBeckman L8-M超遠心分離器を使用して4℃で1時間100,000Gで超遠沈した。得られた上清をu/c rKF3調製物と呼び、そのタンパク質含量を4 mg/mlに調整してから、さらに使用するまで-35℃で保存した。
【0207】
アゾ超音波処理u/c rKF3の調製:アゾ-rKF3の調製のためにLanniganらが記載した方法を採用した(Lannigan, et al., Some experimental models of the nephritic syndrome. In: Bajusz E., Jasmin G, eds. Meth Achievement Experimental Pathology. New York: Karger, Basel, 1969)。0.1 mol/l緩衝ホウ砂溶液(pH8.2)中で超音波処理u/c rKF3調製物の化学カップリングを4℃で2時間実施した。連続的に撹拌しながら、ジアゾニウム塩をその調製物に滴下し、一方でpHを8.2に維持した。発現中の黄色アゾ−タンパク質調製物をPBS(pH7.2)を数回交換して透析し、未カップリングのジアゾニウム塩を除いた。ポリエチレングリコール8000を使用してアゾ−タンパク質化合物のタンパク質含量を4 mg/mlに再調整した。
【0208】
組織観察:腎試料の皮質部分を10%中性緩衝ホルマリンに入れて固定し、パラフィン包埋切片を切り出しヘマトキシリン−エオジン(H&E)、過ヨウ素酸シッフ(PAS)および過ヨウ素酸シッフメテナミン(PASM)染色で染色した。切片をZeiss Axioscope顕微鏡で検査した。
【0209】
電子顕微鏡観察:腎臓皮質の1 mm 3片の代表的試料を2.5%カコジル酸塩緩衝グルタルアルデヒドに2時間入れて固定し、Caulfieldの四酸化オスミウム溶液で後固定し、エポンに包埋した。酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で糸球体を含有する薄切片を染色した。日立H600電子顕微鏡を使用して超薄切片を観察した。
【0210】
免疫蛍光研究:腎皮質組織試料の凍結切片を、micron HM 500Mクライオスタットで厚さ2〜3μに切り出し、0.9%食塩水を有するcoplin染色瓶に10分間入れてからエーテル:アルコール(50:50)に入れて2分間固定し、それからもう一度洗浄した。
【0211】
直接蛍光抗体試験:適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488−抗ラットIgG(H+L)およびAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ラットIgM(μ鎖)(Molecular Probe)と共にエーテル:アルコールで固定した切片を湿気箱中で30分間インキュベーションした。標識抗体を用いたインキュベーション後に、食塩水を2回交換して切片を洗浄し、その後グリセロール/PBS(50:50)で装着した。
【0212】
サンドイッチ法:C5b-9についてもマウス抗ラットC5b-9 IgGモノクローナル抗体を用いて、実験終了時に個別のラットから得た切片を染色し、高交差吸収したAlexa Fluor(登録商標)488 ヤギ抗マウスIgG(H+L)(Molecular Probe)を4000倍に希釈したもので対比染色した。ラットC-3についてもウサギ抗ラットC-3 IgG抗体を用いて、同様にラット腎切片を染色し、Alexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ウサギIgG(H+L)(Molecular Probe)を用いて対比染色した。
【0213】
間接蛍光抗体試験:実験前、実験中および実験終了時に得た個別のラットからの血清試料の希釈物を、ラットIgG画分およびラットIgM画分における正常なラット腎切片上の腎尿細管成分に対する反応性について試験した。血清の希釈物と共にインキュベーションした後でAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ラットIgG(H+L)およびAlexa Fluor(登録商標)488ヤギ抗ラットIgM(μ鎖)(Molecular Probe)で適切なセットの切片を染色した。蛍光抗体試験には適切なコントロールを含めた。
【0214】
疾患ラットの腎臓からのγ-グロブリンの溶出:0.02mol/Lクエン酸(pH3.2)を使用する酸溶出法によって、適切に調製された糸球体調製物から溶出したγ-グロブリンを得た。例えば、Freedman (1959) Lancet 2:45-6; Freedman (1960) Arch. Int. Med 105:224-235を参照されたい。溶出過程には2時間かかった。遠心分離後に、溶出したγ-グロブリンを含有する上清をpH7.2に再調整し、PBSを3回交換して透析し、次にCarbovax 8000で腎臓2個あたり0.5 mlまで容積を減少させた。濃縮した試料のタンパク質含量をビウレット試験(例えば、Weichelbaum (1946) Am. J. Clin. Path. Tech. Suppl.10.40-49を参照されたい)によって決定した。そして、正常なラット腎切片に関する間接蛍光抗体試験で、正常なラット腎成分に対するそれらの反応性を観察した。片側腎切除したSprague DawleyラットにIV注射後に、溶出したγ-グロブリンの生物学的反応性を試験した。注射の4日後にラットを安楽死させ、その腎切片をラットIgGおよびラットIgMについて染色した。溶出したγ-グロブリンの注射前の腎切片を同様に試験した。
【0215】
糸球体に局在する自己成分のグレーディング:疾患の発現を担う最も豊富に存在する糸球体局在成分は、ラットIgGであった。蛍光強度を蛍光物質(数珠状糸球体免疫複合体)の量によって決定し、それを顕微鏡の設定を一定にして半定量法によって0〜4+のスケールにグレーディングした。糸球体中の蛍光物質の量も0〜4+のスケールでグレーディングした(実施例2参照)。グレード0の病変は糸球体沈着物を有さなかったが、グレード4+の病変は糸球体毛細血管周縁に、びまん性のしばしば多層になった数珠状大沈着物を有した。その間のグレードを設定した値に従って決定した。
【0216】
尿細管基底膜(TBM)、尿細管細胞質、刷子縁(BB)およびボーマン嚢中のラットIgGの存在にも注目し、記録した。メサンギウムでのラットIgMの存在を観察および記録した。メサンギウムでの蛍光強度および蛍光物質の量を0〜4+のスケールでグレーディングした。注射前後の動物の腎試料の糸球体に、弱い数珠状パターンを有する最小量のIgMも存在し、それを記録した。
【0217】
結果
タンパク尿:実験前に個別のラットから得た週1回のタンパク尿の結果の3つは、両群のラットの尿タンパクの正常値が低レベルであることを示した(12 mg/日/100gr体重)。実験の終了時までに被験群のラット2匹は、それぞれ140および290 mg/日/100 gr体重を伴う高タンパク尿となり、コントロール群では1匹もタンパク尿とならなかった。
【0218】
光学顕微鏡観察:被験群のラットの腎切片は、H&E切片に細胞充実度にわずかな増加を示した。PAS染色した腎切片は、被験動物およびコントロール動物の両方で高齢ラットに特徴的にみられる病的硬化性糸球体病変を示した。タンパク尿被験群ラット2匹のメタンアミン銀染色した腎切片は、隆起したメサンギウム領域および外周上に多層の銀陽性突起を有する肥厚した糸球体毛細血管を示した。非タンパク尿被験群のラット4匹は、外壁にまばらな銀陽性の突起を有して、同様であるがより軽度の糸球体の波及を示した。コントロールラットは典型的な病変を有さなかった。
【0219】
電子顕微鏡観察:活動性HNラットの腎臓で典型的に観察される重度の微細構造変化を、タンパク尿ラット2匹の糸球体に観察した。糸球体の上皮側面に向けて塊状かつ不規則に肥厚した糸球体基底膜(GBM)は部分的または完全に大小のオスミン酸親和性沈着物を取り囲んでいた。GBMの変化および足突起融合に関連して、上皮細胞の細胞質は、沈着物自体と同じ程度の強度でオスミン酸親和性領域を表した。追加の被験ラット4匹の腎臓は、より軽度型の活動性HNの病変を現した。これらのラットでは小さめのオスミン酸親和性沈着物を有する斑状の不規則に肥厚したGBMが観察された。上皮細胞の足突起はGBMにみられる沈着物に関連してのみ融合し、沈着物が存在しない多くの領域では保たれた。被験群のラット2匹はHN腎病変を有さず、コントロール群のラットは1匹も有さなかった。
【0220】
直接蛍光抗体試験の結果:表3は0週および15週目で腎組織に局在するラットIgGおよびIgM抗体の存在または不在を示す。0週および15週目のコントロールラットは糸球体または関連構造にラットIgGを示さなかった。他方で、メサンギウムにおいてほとんどの場合強い蛍光を有するラットIgMの数珠状沈着物を、全てのラットの腎切片から観察した。糸球体毛細血管周縁にもラットIgMの弱い数珠状沈着を観察した。C5b-9は、弱い数珠状免疫蛍光パターンを伴い実験終了時の腎試料のメサンギウムにごく少量存在したが、C-3は存在しなかった。
【0221】
0週目の被験群ラットは、コントロールと同じ蛍光抗体試験結果を示した。腎皮質試料について生検したラット8匹のうち5匹は、修飾腎抗原の初回注射の3週間後に、1つの腎生検試料では糸球体毛細血管周縁にラットIgGの微細なびまん性の数珠状沈着を示し、同試料は所々に尿細管の刷子縁(BB)部の染色を示した。他の腎生検試料3つは、ラットIgGについて糸球体毛細血管ループのわずかに検出可能な微細な数珠状染色を示したが、試料1つは陰性であった。
【0222】
実験終了時にラット8匹のうち6匹は、ラット5匹では糸球体毛細血管ループ周縁にラットIgGの大量の数珠状沈着で特徴づけられる、免疫複合体糸球体腎炎を発現し、ラット1匹では類似しているがより少量の沈着を有した。古典的HNにみられる、BB部およびTBMにおける数珠状パターンを伴うラットIgGの特徴的な局在は、ラット3匹の腎臓でも観察され、ラット2匹の腎臓では、ボーマン嚢のまばらなセグメントは数珠状パターンでごくわずかに染まった。実験終了時に腎切片はC5b-9およびC-3に関しても染まった。ラット3匹の腎切片は、C5b-9について多様な強度の数珠状パターンで糸球体毛細血管を染色し、その他全てのラット腎切片は、メサンギウムでごくわずかの数珠状染色を示した。ラット腎切片4つは、C-3について微細なびまん性の数珠状パターンで染まった。ラットIgMは、実験終了時に増加した量で数珠状パターンでメサンギウムに存在し、糸球体毛細血管は蛍光の弱い微細なびまん性数珠状パターンで染色した。
【0223】
間接蛍光抗体試験の結果:実験開始前のコントロールおよび被験ラットの血清は、正常ラットの腎切片に関して微細な直線状パターンの蛍光を有して、近位曲尿細管のBB部に対する血中自然発生IgM自己抗体が低レベルであることを示した。正常ラットの腎組織成分に対する血中ラットIgG抗体活性は全く観察されなかった。実験の経過中に個別のラットから血清試料を6回得た。
【0224】
天然起腎炎抗原を注射したコントロールラットは、病原性IgG自己抗体を発現しなかったが、腎尿細管抗原に対するIgM自己抗体レベルのわずかな上昇を生み出した。化学修飾起腎炎抗原を注射したラット8匹のうち6匹は、疾患が進行するにつれ腎近位曲尿細管のBB関連部に対する病原性IgG自己抗体レベルの増加を発現した。非病原性IgM自己抗体レベルもコントロールラットよりもずっと大きく増加し、IgM産生細胞系の刺激の増加を意味した。
【0225】
溶出したγ-グロブリンの分析:溶出したγ-グロブリンを被験群のラットのみから得た。そのグロブリンを、タンパク質濃度5 mg/mlで間接蛍光抗体試験で試験した。そのグロブリンは、1:40希釈までは近位曲尿細管のBB部と反応した。溶出したγ-グロブリンの試料0.5 mlを片側腎切除ラットに静脈内注射し、その4日後に生検すると、直接蛍光抗体試験で糸球体毛細血管周縁に、ラットIgGのびまん性微細数珠状沈着を観察した。注射前の腎切片は、ラットIgGについて染まらなかったが、コントロールについてすでに述べたようにラットIgMについては染まった。
【0226】
考察:本発明の方法は、水性溶液中の化学修飾起腎炎抗原の反復注射により1つの群のラットにHNを産生した。この発現中の疾患は、最も重度に達成されたラットにおける糸球体での免疫複合体の沈着およびタンパク尿を特徴とした。この自己免疫疾患は、病原性自己抗体によって開始および維持された。同じであるが化学的に改変されていない抗原を注射したコントロールラットは、自己免疫性腎疾患を発現しなかった。
【0227】
これらの実験は、病原性免疫応答が起こる前に適切な免疫細胞によって外来と認識される前に、自己抗原を十分に改変しなければならないことを実証している。この点は、ある薬物で処置され、その後ループス様症候群を発現した患者で十分に例解されている。例えば、Jiang (1994) Science 266:810-813; Rich (1996) Postgrad. Med 100: 299-298; Totoritis (1985) Postgrad. Med 78:149-161; Yung (1995) Lab Invest. 73:746-759を参照されたい。投薬を中止するとループス様症状は消失する。感受性患者では薬物誘導性ループスは、有効成分によってか、または十分に適切な細胞質内抗原を改変し免疫病理学的現象を開始可能な薬物の分解産物によって、開始したに違いない。ある個体では日光または極度の寒冷もループス様症候群を生み出すことがあり、再度これらのハザードの非曝露によって症状は消失する。
【0228】
これらの実験では、修飾腎抗原を反復注射した動物が実験中に上昇したレベルの病原性および非病原性自己抗体の両方を産生したが、自然腎抗原を注射したラットはわずかに増加したレベルの自然発生非病原性IgM自己抗体のみを産生したことを実証している。
【0229】
本実験、ならびに本発明の方法および組成物は、自己免疫がIgM自己抗体による放出された細胞質内成分の効果的な除去を援助することによって有益な目的を満たすことができることをはっきりと実証している。これらの実験は、十分に改変された自己抗原の不適切な提示が、ある状況下で有害な病原性自己抗体応答を開始し、疾患を引き起こすことも実証している。
【0230】
表3は、0週および15週目に組織に局在するラットIgGおよびラットIgMの存在/不在を示す直接免疫蛍光法によって染色された腎切片を示す。
【0231】
【表3】

BB=刷子縁、F1=蛍光、TBM=尿細管基底膜
コントロールにはラット15匹を、被験群にはラット8匹を含めた。
【0232】
実施例4:起腎炎抗原で反復刺激された緩徐進行性ヘイマン腎炎ラットにおける病原性自己抗体応答の下方制御
これらの実験は、本発明の方法および組成物の有効性を実証する。特に、これらの実験は、起腎炎抗原で反復刺激された緩徐進行性ヘイマン腎炎ラットにおける病原性自己抗体応答の下方制御を実証する。
【0233】
ミョウバンおよびジステンパー複合ウイルスワクチンに組み込んだ低用量のアゾ超遠沈(u/c)ラット腎画分3(rKF3)調製物の反復SC注射によって3つの群のラットに、緩徐進行性ヘイマン腎炎(SPHN)(上記実施例2参照)と呼ばれる自己免疫性腎疾患を誘導した。発現中の腎疾患を免疫複合体糸球体腎炎(ICGN)および緩徐進行性タンパク尿によって特徴づけした。その疾患は発現中の病原性自己抗体によって開始および維持され、それはラット腎の近位曲尿細管の糸球体および刷子縁(BB)部に位置する起腎炎抗原に対するものであった。疾患をさらに進行性にするために、起腎炎抗原の注射開始の24週間後および最終注射の14週間後に、アゾu/c rKF3の水性調製物を全てのSPHNラットに3回再注射した。群IIラットに、疾患を産生する注射を与え、他の処置を全く与えなかった。さらに「MIC」と呼ぶrKF3抗原およびラット抗rKF3 IgM抗体から抗原過剰で構成される免疫複合体(IC)で、群III動物を前処置および後処置した。群IVラットに疾患誘導の7週間後からMICを注射した。
【0234】
MICを注射した動物での血中特異的IgM自己抗体レベルは上昇し、病原性IgG自己抗体応答は減少した。MIC処置動物でのこの抗原特異的下方制御作用は、水性アゾu/c rKF3抗原を用いた再刺激後に血中IgM自己抗体のレベル上昇によって依然として維持された。実験終了時にMICで処置した群IIIおよび群IVのラットの60%は血中に病原性IgG自己抗体を有さなかったが、未処置の群IIラット全てはその自己抗体を有した。未処置SPHNラットにおける血中病原性IgG自己抗体レベルは実験全体で高く、起腎炎抗原を用いた再刺激後に大部分のラットでさらにやや高くなった。これらの動物では疾患の進行もさらに明らかであった。
【0235】
これらの実験は、病原性IgG自己抗体が誘導する実験的自己免疫腎疾患過程を、受注製作(tailor made)のMIC(本発明の例示的な組成物)を使用して、抗原特異的処置プロトコルによって疾患の慢性進行期の初期および途中の両方で下方制御できることを実証している。発現中のIgM自己抗体は、起腎炎抗原を除去または遮断することによって、IgG自己抗体産生細胞系の刺激が疾患起炎病原性自己抗体がさらに作製するのを防止できるようである。
【0236】
動物:地域の繁殖コロニーから得たランダムに割り付け付番した2ヶ月齢の雄性Sprague Dawleyラットを実験に使用した。全ての侵襲性手法をイソフルラン麻酔ラットに実施し、32週目の実験終了時にEuthanyl (MTC pharmaceuticals)(180 mg/kg体重)のIP注射によってラットを安楽死させた。
【0237】
実験計画
群I. 代謝コントロール:ラット10匹に注射も処置も行わず、タンパク尿の研究、血清を得るための採血および腎試料を得て変化を研究した。
【0238】
群II. 緩徐進行性ヘイマン腎炎(SPHN):ラット10匹に先に記載した方法によって、ミョウバンおよびジステンパーウイルスワクチンに取り入れたアゾ-u/c rKF3抗原0.2 mlの反復SC注射を与えた。上記の実施例を参照されたい。0日目に抗原含有混合物160μgを、10、20、および35日目に水性アゾu/c rKF3抗原80μg、ならびに42、49および55日目に100μgを与えた。
【0239】
群III. SPHNを有する前後処置ラット:ラット10匹を以下のようにMICで前処置した。群IIラットについて記載したプロトコルによって疾患を誘導する前の-22、-18、-14、−8および-3日目に、PBS 0.2 mlに入れた60μgのrKF3および150μgのrarKF3 IgMを含有するMICのIP注射を動物に与え、それ以降は週1回与えた。
【0240】
群IV. SPHNを有する後処置ラット:群IIラットについて記載したのと同じプロトコルによってラット10匹にSPHNを誘導した。疾患誘導の7週間後にPBS 0.2 mlに60μgのrKF3および150μgのrarKF3 IgMを含有するMICを週1回IP注射してラットを処置した。
【0241】
群II、III、およびIVのラットを、22週目に水性アゾu/c超音波処理rKF抗原100μgで5日間隔で3回再刺激した。
【0242】
アゾu/c超音波処理rKF3抗原の調製:0.2 Mスクロース(pH7.4)中でホモジナイズした正常ラット腎臓を分画遠心分離によってrKF3を調製するために使用した。rKF3調製物を超音波処理し、100,000 Gで1時間超遠沈してu/c超音波処理上清調製物[B+C+D+C]を得た。それを0.1 mol/L緩衝ホウ砂溶液(pH8.4)中でジアズイウム塩を使用して化学修飾してアゾu/c超音波処理rKF3調製物を得た。アゾ−タンパク質結合体のタンパク質含量を4 mg/mlに調整した。
【0243】
ラット抗rKF3 IgMの調製:低レベルの血中自然発生IgM自己抗体を刺激して、腎近位尿細管のBB部に対するさらに高いIgM自己抗体応答を得ることができる。PBSに入れたrKF3抗原100μgをIP投与によって成体Wistarラットに週1回、4週間にわたり注射した。抗原の最終注射の4日後に個別のラットから採血して血清を得、BB関連抗原に対するラットIgG抗体およびラットIgM抗体活性について正常ラットの腎切片に関する間接蛍光抗体試験によって抗体活性を検査した。高IgM抗体価(1:70〜1:180)を有する血清をプールし、小分けし、使用まで-35℃で保存した。追加のrarKF3 IgM抗体を必要に応じて同ラットの再刺激後に得た。
【0244】
MICと呼ばれるrKF3×rarKF3 IgM免疫複合体の調製:ラット10匹に対するMICを以下のように毎回新鮮調製した。600μg rKF3に、BB抗原に対して1:120の抗体活性を有するrarKF3 IgM(IgM 2000μg/ml血清)1500μgを与え、PBSで2 mlにした。わずかに抗原過剰であるその混合物をインキュベーションし、RTで30分間回転させてから、適切な時間で被験ラットに0.2 mlをIP注射した。
【0245】
尿タンパクの推定:代謝ケージに入れた個別のラットから24時間尿試料を採集した。週1回の尿試料8つを得て、研究の開始前にベースライン値について分析し、その後週1回の試料を採集し分析して、処置および無処置が原因の差を観察した。Spectronic Genesis 5分光光度計を使用して540 nmで尿タンパクの値をビウレット法により尿試料0.5 mlを用いて決定した(上記参照)。
【0246】
腎皮質試料に関する組織観察、電子顕微鏡観察および直接蛍光抗体試験:10%中性緩衝ホルマリンで固定した腎皮質試料をパラフィンに包埋し、厚さ3μmの切片を切り出し、ヘマトキシリン−エオジンおよびメテナミン銀染色で染色した[B+L]。適切に固定し染色した腎皮質検体の超薄切片の電子顕微鏡観察を前に記載したように日立H600電子顕微鏡で行った(B+C+B+L)。個別のラットからの適切に加工した厚さ3μmの新鮮腎皮質検体を、8週目および実験終了時に、適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488標識ヤギ抗ラットIgG(H+L)およびヤギ抗ラットIgM(μ鎖)(Molecular Probe)を用いて、ラットIgGおよびラットIgMの存在について染色した。実験終了時だけはマウス抗ラットC5b-9 IgGモノクローナル抗体を用いてC5b-9についても腎切片を染色し、適切に希釈したAlexa Fluor(登録商標)488を高吸収したヤギ抗マウスIgG[H+L](Molecular Probe)を用いて対比染色した(B+L+B+L)。表4を参照されたい。
【0247】
糸球体へのラットIgGの沈着に起因する糸球体病変の間接蛍光抗体試験およびグレーディング:正常ラットの腎尿細管成分に対する個別のラットの血清試料のラットIgGおよびIgM抗体価を決定し、陽性の結果を与える血清の最終希釈の逆数として表現した。糸球体に局在する免疫複合体の蛍光強度および蛍光物質の量を、前に記載したように0〜4+のスケールでグレーディングした(B+C+B+L)。尿細管基底膜、近位尿細管の刷子縁部およびボーマン嚢でのラットIgGの存在も記録し、同様にメサンギウムおよび糸球体毛細血管にみられるラットIgMも記録しグレーディングした。
【0248】
疾患の進行:G/M比を計算およびプロットすることによって疾患の進行を決定した。G/M比は、間接蛍光抗体試験で得られた最高のIgG自己抗体価の逆数を最高のIgM自己抗体価の逆数で割ることによって生み出される数である。疾患産出性IgG自己抗体が陰性のラットのG/M比は0である。2週、7週、8週、12週、16週、22週、26週、29週および32週目に採集した個別のラットの血清からG/M比を決定した。ラットの群内の平均G/M比を決定し、最低の値を有するラット5匹および最高の値を有するラット5匹において同比を計算し、プロットした。
【0249】
タンパク尿:個別のラットから週1回採集した尿試料8つをタンパク尿について分析し、腎疾患の誘導前に代表的なベースライン値を確立した。その後、代謝コントロールラットは実験中に連続的なベースラインタンパク尿の値を提供した。実験の終了に向かい、平均タンパク尿値は、腎機能における齢関連変化がおそらく原因となってこの群のラットでやや増加した。実験終了時に未処置ラットおよび処置ラットにおけるタンパク尿の増加を、代謝コントロール群ラットで得られたタンパク尿の値と比較した。
【0250】
SPHNを有する群II未処置動物は、疾患誘導の13週後にタンパク尿となり始め、32週目までに100%のラットが平均350 mg/日の尿タンパクを有するタンパク尿を示した。MICで前後処置されたSPHNを有する群IIラットも、疾患誘導の13週間後からタンパク尿となり始め、32週目までに50%のラットが平均尿タンパク140 mg/日を有するタンパク尿を示した。
【0251】
MICで後処置したSPHNを有するIV群ラットは、群IIおよび群IIIラットとちょうど同様に疾患誘導の13週間後にタンパク尿となり始め、32週目までにラットの80%が平均尿タンパク220 mg/日を有するタンパク尿を示した。
【0252】
実験終了時に群IIラットは、代謝コントロールよりも10倍、群IIIラットは4倍、群IVラットは6倍高い尿タンパクを示した。
【0253】
光学顕微鏡観察:代謝コントロールラットの腎切片は、H&Eおよびメテナミン銀染色切片で形態変化を示さなかった。H&E染色したSPHNを有する群IIラットの腎切片は、糸球体細胞充実度の増加を示し、メテナミン銀染色で隆起したメサンギウム領域および外周上に銀陽性の突起を伴う肥厚した糸球体毛細血管を示した。MICで前後処置したSPHNを有する群IIIラットは、群IIラットと類似しているがそれよりも目立たない腎病変を示し、100 mg/日よりも少ない尿タンパク値を有する動物は、外周上にまれに銀陽性突起を有する均等に薄い糸球体毛細血管ループを示した。MICで後処置したSPHNを有する群IVラットは、群IIおよび群IIIラットで観察された所見の間のどこかに腎病変を現した。
【0254】
電子顕微鏡観察:代謝ラット腎切片は、微細構造の異常を示さなかった。SPHNを有する群IIラット腎皮質の超薄切片は、典型的なHN腎病変を示した。BM様物質で部分的または完全に囲まれた不規則に肥厚したGBMの上皮側面に小さいものから大きなものまでオスミン酸親和性沈着物が存在した。足突起はその沈着物に関連して融合し、上皮細胞の細胞質は、特に沈着物近くにオスミン酸親和性領域を示した。MICで前後処置したSPHNを有する群IIIラットは、軽度型のHNを示した。主に小さなオスミン酸親和性沈着物がGBMの上皮側に存在した。GBMの突起が多くの領域で明らかであったが、突起の結果としてのGBMの肥厚は、群IIラットの腎切片に関して観察された沈着物の多層トラッピングをもたらさなかった。足突起は沈着物に関して融合し、上皮細胞の細胞質は沈着物の反対側にオスミン酸親和性領域を示した。MICで後処置したSPHNを有する群IVラットは、一連の典型的なHN腎病変を示した。高タンパク尿ラットは、追加の典型的な変化を有してGBM上にさらに多数の沈着物を示すが、低タンパク尿ラットは、群IIIラットとちょうど同じようにGBM上に少数の沈着物しか有さなかった。
【0255】
直接蛍光抗体試験の結果:疾患誘導の8週間後に群IIラットの腎切片に、糸球体毛細血管ループ周縁に強い蛍光を有するラットIgGの染色のびまん性の数珠状沈着を観察した。ラット7匹の腎切片に関して、さらにこれらの構造:BB、TBMおよびBCの1つまたは全てにおけるラットIgGの存在を記録した。群IIIおよび群IVにおける前後処置ラットは、より低いグレードの糸球体病変を有し、少数の切片しかBB、TBMおよびBCが染まらなかった。代謝ラットの腎切片は、ラットIgGについて染まらなかった。ラット腎切片のメサンギウム領域は、代謝コントロールを含めた全群のラットで同様の蛍光強度およびグレードでラットIgMについて染まった。
【0256】
32週目の実験終了時に、ラットIgGについて染色したICの糸球体沈着物は、群II SPHNラットでは最も進行していた。最も軽度の糸球体病変が、MICで処置した群IIIおよび群IVラットで依然として観察された。これらの動物ではより低グレードの糸球体病変がみられ、少数のラット腎切片しかBB、TBM、またはBCが染まらなかった。群Iおよび群IIラットの腎臓ではラットIgMのメサンギウムでの沈着は8週目と同じであったが、処置された群IIIおよびIVラットではかなり減少した。属する群に関係なく、大部分のラットの糸球体で糸球体毛細血管周縁に弱い数珠状のラットIgMの沈着を観察した。実験終了時にC5b-9の存在についても腎切片の染色を行った。未処置群IIラットの糸球体毛細血管はC5b-9について数珠状パターンで強く染まったが、群IIIおよび群IVラットの大部分の糸球体は弱い蛍光の数珠状パターンで染まった。
【0257】
間接蛍光抗体試験の結果:SPHNの進行は血中の病原性自己抗体の存在によって維持される。したがって血中病原性および非病原性自己抗体の経時的評価は、未処置および処置ラットが疾患の進行においてどの位相(下向きまたは上向き傾向)であるか、我々によいアイデアを与えることができる。
【0258】
実験の間に群I.代謝コントロールラットは、血中に近位曲尿細管の腎尿細管BB部に対する低レベルの自然発生IgM自己抗体を有した。
【0259】
群IIのSPHN未処置ラットでは、平均血中IgG自己抗体レベルは実験全体で高く、実験終了時でさえも高かった。IgM自己抗体レベルは、IgG自己抗体レベルよりも低かったが、正常値を幾分超えていた。低G/M比を有するラット5匹は、より低いIgG自己抗体およびより高いIgM自己抗体応答を有した。これは、少なくとも一部のラットでは、疾患過程を終止させる目的で自然発生下方制御傾向が起こることを示している。しかし、高G/M比を有するラット5匹は継続的に高い病原性自己抗体応答を有し、寛解を示さなかった。
【0260】
22週目に5日間隔で3回水性アゾrKF3抗原を注射すると、直ちに70%を超えるラットで病原性自己抗体応答が増加し、この応答増加は、32週目の実験終了時に約60%のラットで依然として明らかであった。
【0261】
MICで前後処置した群IIIのSPHNラットでは2週、7週および8週目までの初発病原性自己抗体応答は高かったが、実際には群II動物の約3分の1であり、その後12週目までに7分の1、16週目までに8分の1となった。その後22週目に水性アゾrKF3抗原の反復注射後でさえも各ラットの血清中の病原性自己抗体のレベルは低く、これはMICを注射した低および高G/M比のラットの両方が優れた応答をしたことを示している。実験終了時には7か月目に90%のラットが、8か月目には70%のラットが、取るに足らない低レベルの血中IgG自己抗体を有した。7か月までにラット5匹、8か月までにラット6匹が血中に病原性自己抗体を全く有さなかった。これらの結果は、レベルの増加した特異的IgM自己抗体が改変した自己抗原を血中から効果的に取り出せることを示している。この作用は、22週間後の結果で水性アゾrKF3抗原の反復注射が病原性自己抗体を短期間しか不十分にしか増加させず、その後ラット6匹で自己抗体が0にまで減少したことによってよく実証された。
【0262】
MICで後処置した群IV SPHNラットでは、7および8週目の初発病原性自己抗体応答は極めて高く、以後その応答は血中のIgM自己抗体の存在の増加に対応して極めて劇的に減少し始めた。平均して病原性IgG自己抗体レベルは、実験終了時に低い値であった。32週目に90%のラットが取るに足りない低レベルのIgG自己抗体を有し、60%のラットが血清中にIgG自己抗体を有さなかった。22週目の水性アゾ-rKF3抗原を用いた群IVラットの反復再刺激は、IgG抗体応答を一時的だけ増加させ、実験の終了までにラット6匹は血中に病原性自己抗体を全く有さなかった。これらの結果は、修飾自己抗原によって駆動された病原性自己抗体応答が、発現中の自己免疫疾患の経過中に免疫調節によって効果的に制御されうることを示している。
【0263】
処置および未処置ラットにおける自己免疫疾患過程の全般的な進行:自己免疫疾患過程の全般的な進行を図Xに図解する。G/M比の結果を合わせて、群II未処置ラットならびにMICで処置した群IIIおよび群IVラットについてプロットする。群IIIのMICで前後処置したラットは、明らかに自己免疫疾患過程の最小の進行を有し、7週目から処置した動物は未処置群IIラットの疾患の進行に比べて疾患の進行の大きな減少を有した。実験全体の間の疾患の全般的な進行に注目すると、群IIよりも、群IIIラットは11倍改善し、群IVラットは2.5倍改善した。最初の8週間でのMICによる病原性自己抗体応答の下方制御は、群III動物でその後疾患になってからほどは効果的でなかった。しかし、12週目までのMIC処置に対する下方制御応答は群IIIおよび群IVの動物の両方で最も効果的であった。22週目の水性アゾrKF3抗原を用いた再刺激に、群IIラットは有意で継続的な病原性自己抗体の産生を伴って応答したが、群IIIおよび群IVラットは応答せず、これは、MICによる顕著な下方制御作用を示している。群IIラットでは32週目の実験の終了時に平均G/M比は8であったが、これは進行性の自己免疫疾患が継続していることを示している。一方群IIIおよび群IVラットでは平均G/M比はそれぞれ0.12および0.375であったが、これは、病原性自己抗体応答が下方制御されていることを示す。
【0264】
考察:これらの実験は、本発明の方法および組成物を自己免疫疾患の改善に使用できることを実証している。本発明の組成物は、わずかに抗原過剰のICを含む。上記の実験では、本発明の例示的な組成物は起腎炎抗原およびそれに対する同種IgM抗体を含む。これらのIC(MICと呼ばれる)を注射すると、CD5+B細胞系を特異的に刺激することによって血中IgM自己抗体のレベルが増加した。IgM自己抗体のレベルの増加は、腎近位曲尿細管から放出された化学的に改変および非改変された血中起腎炎性自己抗原を除去することができ、それによって自己免疫疾患の慢性進行に大きく寄与できる2つの主要な現象が継続するのを防止した。一番目として本発明の方法および組成物は、改変された自己抗原の除去を助け、それによって病原性IgG自己抗体産生を防止し、二番目として本発明の方法および組成物は、近位曲尿細管から放出される未改変の起腎炎性自己抗原の除去を助け、糸球体中のこの自己抗原がIgG自己抗体の非占有部位にさらに固定および沈着するのを防止した。
【0265】
これらの実験は、本発明の方法および組成物が病原性自己抗体応答の抗原特異的下方制御に有効であることを実証している。本発明の方法および組成物は、本発明の組成物を投与することによって(例えばMICの注射により)抗体情報を輸送することを採用してヒトの多数の自己免疫疾患を処置する新規なワクチン接種法を含む。本発明の処置方式は、血中の自然発生IgM自己抗体レベルを特異的にブーストでき、副作用を引き起こさずに急性期または慢性期の自己免疫疾患の間でさえも病原性自己抗体応答を終止可能であろう。
【0266】
表4は、ラットIgGおよびラットIgMについて直接蛍光抗体試験によって染色した8週および32週目での腎生検を示す。群内平均値を示す。SPHN未処置(群II)ラットおよび様々な処置(群IIIおよび群IV)ラットの糸球体病変の蛍光強度およびグレードを示す。代謝コントロール(群I)もグレーディングする。各群はラット10匹を有する。
【0267】
【表4】

【0268】
略号。BB:刷子縁、BC:ボーマン嚢、MIC:免疫複合体M、SPHN:緩徐進行性ヘイマン腎炎、TBM:尿細管基底膜、Tx:処置、w:使用、:これらの構造の1つまたは複数を染色するラット腎臓のメンバー、+:グレード2の糸球体病変を下回るラット腎臓のメンバー(かっこ内)。
【0269】
本発明の多数の態様を記載した。それでも、本発明の精神および範囲から逸脱することなしに多様な変更を行えることは言うまでもない。したがって、他の態様は特許請求の範囲の範囲内に属す。
【図面の簡単な説明】
【0270】
【図1】実施例1に詳細に記載されている、実験およびコントロール動物のタンパク尿を図示する。各種図面の中の同じ参照シンボルは、同じ要素を指す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の自己抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物であって、多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに
(b)個体の抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与する段階。
【請求項2】
哺乳動物の血中自己抗原のレベルを下げるための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物であって、多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;
(b)個体の抗原特異的IgM抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物中の血中自己抗原のレベルを下げる段階。
【請求項3】
哺乳動物の自己免疫疾患を改善するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物であって、多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに
(b)哺乳動物の血中自己抗原のレベルを下げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の自己免疫疾患を改善する段階。
【請求項4】
哺乳動物がヒトである、請求項1〜3記載の方法。
【請求項5】
多価抗体がIgMを含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項6】
多価抗体が、単離された抗体、合成的に生成された抗体または組換え的に生成された抗体を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項7】
多価抗体がヒト化抗体を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項8】
多価抗体がトランスジェニックマウスで生成されたヒト抗体を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項9】
トランスジェニックマウスがヒト免疫グロブリン遺伝子座を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と投与直前に混合する、請求項1〜3記載の方法。
【請求項11】
自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と投与の約1分前〜2時間前に混合する、請求項1〜3記載の方法。
【請求項12】
自己抗原を多価抗体と投与の約5分前〜1時間前に混合する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
自己抗原を多価抗体と投与の約10分前〜30分前に混合する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と混合し、混合物を凍結乾燥する、請求項1〜3記載の方法。
【請求項15】
凍結乾燥した混合物を投与時に投与のための調合物に再構成する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
凍結乾燥した混合物を約-20℃〜4℃の温度で保存する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
凍結乾燥した混合物を水性調合物に再構成する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
水性調合物が滅菌蒸留水または緩衝食塩水を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
自己抗原が精製された自己抗原を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項20】
自己抗原が組換えまたは合成ポリペプチドを含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項21】
自己抗原が溶解性抗原を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項22】
自己抗原が粒子抗原を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項23】
自己抗原が低分子量抗原を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項24】
抗原の分子量が約0.1〜10 kdまたは約0.5〜5 kdである、請求項18記載の方法。
【請求項25】
自己抗原が高分子量抗原を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項26】
抗原の分子量が約5〜50 kdまたは約10〜25 kdである、請求項20記載の方法。
【請求項27】
自己抗原が自己免疫応答に関する自己抗原を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項28】
自己抗原が、尿細管起腎炎抗原、糸球体起腎炎抗原、子宮内膜レプロEN-1.0抗原、子宮内膜IB1抗原、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、核小体ASE-1抗原、Ro/SSA、La/SSB、nRNP、Sm、トランスアルドラーゼ、ミエリン塩基性タンパク質、70kDミトコンドリア胆汁自己抗原、ヒト軟骨糖タンパク質39、ヒトSp17タンパク質、ヒト胎盤Hp-8を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
自己免疫応答に関する複数の自己抗原をさらに含む、請求項27記載の方法。
【請求項30】
自己抗原が、自己免疫応答に関する、細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含む、請求項27記載の方法。
【請求項31】
細胞または組織が、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織ホモジネート、または細胞、組織もしくは器官抽出物を含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
細胞レベル下分画、細胞、組織または器官が、腎近位尿細管もしくは腎近位曲尿細管またはそれらの細胞レベル下分画を含む、請求項30記載の方法。
【請求項33】
自己免疫応答が、腎糸球体基底膜自己抗原または腎近位曲尿細管抗原に対する自己免疫応答を含む、請求項27記載の方法。
【請求項34】
自己免疫疾患が自己免疫性腎臓疾患を含む、請求項3記載の方法。
【請求項35】
自己免疫性腎臓疾患が受動的ヘイマン腎炎(passive Heymann nephritis)、ループス腎炎(lupus nephritis)または膜性腎症(membranous nephrophathy)を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
自己免疫疾患が、リウマチ性関節炎、重症筋無力症、子宮内膜症、自己免疫性インスリン依存型糖尿病(IDDM)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus /SLE)、シューグレン(Sjogren's syndrome)症候群、自己免疫性副甲状腺機能低下症、多発性硬化症(MS)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、自己免疫性溶血性貧血、接触性過敏性皮膚炎、自己免疫性水疱症、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、塊状類天疱瘡(bolus pemphigoid)、自己免疫性不妊、自己免疫性アジソン病(autoimmune Addison's disease)、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、強皮病を含む、請求項3記載の方法。
【請求項37】
組成物中に多価抗体に比べてモルベースで約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い自己抗原が存在する、請求項1〜3記載の方法。
【請求項38】
組成物を、非経口、経口、鼻腔内または眼経路により投与する、請求項3記載の方法。
【請求項39】
組成物を、1日1回、1日2回または1日3回投与する、請求項3記載の方法。
【請求項40】
組成物を、週約1回〜2回投与する、請求項3記載の方法。
【請求項41】
組成物を、当初約3週間は週2回、次に約5ヶ月間は週1回、その後月1回投与する、請求項3記載の方法。
【請求項42】
組成物が無菌の水性調合物を含む、請求項3記載の方法。
【請求項43】
(i)多価抗体が自己抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして自己抗原が多価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している未修飾自己抗原および抗原特異的多価抗体、ならびに(ii)薬学的に許容される賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項44】
多価抗体がIgMを含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項45】
多価抗体が、単離された抗体、合成的に生成された抗体または組換え的に生成された抗体を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項46】
多価抗体がヒト化抗体を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項47】
多価抗体がトランスジェニックマウスで生成されたヒト抗体を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項48】
トランスジェニックマウスがヒト免疫グロブリン遺伝子座を含む、請求項47記載の薬学的組成物。
【請求項49】
自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と投与直前に混合する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項50】
自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾自己抗原を多価抗体と投与の約1分前〜2時間前に混合する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項51】
自己抗原を多価抗体と投与の約5分前〜1時間前に混合する、請求項50記載の薬学的組成物。
【請求項52】
自己抗原を多価抗体と投与の約10分前〜に混合する、請求項51記載の薬学的組成物。
【請求項53】
自己抗原および抗原特異的多価抗体を含む組成物の作製において、未修飾の自己抗原を多価抗体と混合し、混合物を凍結乾燥する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項54】
凍結乾燥した混合物を投与時に投与のための調合物に再構成する、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項55】
凍結乾燥した混合物を約-20℃〜4℃の温度で保存する、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項56】
凍結乾燥した混合物を水性調合物に再構成する、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項57】
水性調合物が滅菌蒸留水または緩衝食塩水を含む、請求項56記載の薬学的組成物。
【請求項58】
自己抗原が精製された自己抗原を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項59】
自己抗原が、組換えまたは合成ポリペプチドを含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項60】
自己抗原が溶解性抗原を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項61】
自己抗原が粒子抗原を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項62】
自己抗原が低分子量抗原を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項63】
抗原の分子量が約0.1〜10 kdまたは約0.5〜5 kdである、請求項62記載の薬学的組成物。
【請求項64】
自己抗原が高分子量抗原を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項65】
抗原の分子量が約5〜50 kdまたは約10〜25 kdである、請求項64記載の薬学的組成物。
【請求項66】
自己抗原が自己免疫応答に関する自己抗原を含む、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項67】
自己抗原が、腎糸球体基底膜自己抗原、尿細管起腎炎抗原、糸球体起腎炎抗原、子宮内膜レプロEN-1.0抗原、子宮内膜IB1抗原、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、核小体ASE-1抗原、Ro/SSA、La/SSB、nRNP、Sm、トランスアルドラーゼ、ミエリン塩基性タンパク質、70kDミトコンドリア胆汁自己抗原、ヒト軟骨糖タンパク質39、ヒトSp17タンパク質、ヒト胎盤Hp-8を含む、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項68】
自己免疫応答に関する複数の自己抗原をさらに含む、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項69】
自己抗原が、自己免疫応答に関する細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含む、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項70】
細胞または組織が、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織ホモジネート、または細胞、組織もしくは器官抽出物を含む、請求項69記載の薬学的組成物。
【請求項71】
細胞レベル下分画、細胞、組織または器官が、腎近位尿細管もしくは腎近位曲尿細管またはそれらの細胞レベル下分画を含む、請求項70記載の薬学的組成物。
【請求項72】
自己免疫応答が、腎糸球体基底膜自己抗原または腎近位曲尿細管抗原に対する自己免疫応答を含む、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項73】
自己免疫応答が自己免疫性腎臓疾患を含む、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項74】
自己免疫性腎臓疾患が、受動的ヘイマン腎炎、ループス腎炎または膜性腎症を含む、請求項73記載の薬学的組成物。
【請求項75】
自己免疫応答が、リウマチ性関節炎、重症筋無力症、子宮内膜症、自己免疫性インスリン依存型糖尿病(IDDM)、全身性エリテマトーデス(SLE)、シューグレン症候群、自己免疫性副甲状腺機能低下症、多発性硬化症(MS)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、自己免疫性溶血性貧血、接触性過敏性皮膚炎、自己免疫性水疱症、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、塊状類天疱瘡、自己免疫性不妊、自己免疫性アジソン病、重症筋無力症、自己免疫性甲状腺炎、強皮病を含む自己免疫疾患を含む、請求項66記載の薬学的組成物。
【請求項76】
組成物中に多価抗体に比べてモルベースで約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い自己抗原が存在する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項77】
組成物を、非経口、経口、鼻腔内または眼経路により投与するように調合する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項78】
組成物を、1日1回、1日2回または1日3回投与する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項79】
組成物を、週約1回〜2回投与する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項80】
組成物を、当初約3週間は週2回、次に約5ヶ月間は週1回、その後月1回投与する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項81】
組成物を無菌の液体調合物として調合する、請求項43記載の薬学的組成物。
【請求項82】
哺乳動物の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物であって、二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに
(b)個体中の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与する段階。
【請求項83】
哺乳動物の血中抗原のレベルを下げるための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物であって、二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;
(b)個体中の抗原特異的IgG抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の血中抗原のレベルを下げる段階。
【請求項84】
哺乳動物の疾患または状態を改善するための方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物であって、抗原が疾患または状態に関連しており、二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している組成物を提供する段階;ならびに
(b)哺乳動物の抗原特異的二価抗体のレベルを上げるのに十分な量の組成物を哺乳動物に投与し、それにより哺乳動物の疾患または状態を改善する段階。
【請求項85】
哺乳動物がヒトである、請求項82〜84記載の方法。
【請求項86】
二価抗体がIgGを含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項87】
二価抗体が、単離された抗体、合成抗体または組換え的に生成された抗体を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項88】
二価抗体がヒト化抗体を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項89】
二価抗体がトランスジェニックマウスで生成されたヒト抗体を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項90】
トランスジェニックマウスがヒト免疫グロブリン遺伝子座を含む、請求項89記載の方法。
【請求項91】
修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物の作製において、修飾抗原を二価抗体と投与直前に混合する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項92】
修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物の作製において、修飾抗原を二価抗体と投与の約1分前から2時間前に混合する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項93】
抗原を二価抗体と投与の約10分前〜1時間前に混合する、請求項92記載の方法。
【請求項94】
修飾抗原を二価抗体と投与の約30分前〜1時間前に混合する、請求項93記載の方法。
【請求項95】
修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物の作製において、修飾抗原を二価抗体と混合し、混合物を凍結乾燥する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項96】
凍結乾燥した混合物を投与時に投与のための調合物に再構成する、請求項95記載の方法。
【請求項97】
凍結乾燥した混合物を約-20℃〜4℃の温度で保存する、請求項95記載の方法。
【請求項98】
凍結乾燥した混合物を水性調合物に再構成する、請求項95記載の方法。
【請求項99】
水性調合物が滅菌蒸留水または緩衝食塩水を含む、請求項98記載の方法。
【請求項100】
抗原が精製された抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項101】
抗原が組換えまたは合成ポリペプチドを含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項102】
抗原が溶解性抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項103】
抗原が粒子抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項104】
自己抗原が低分子量抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項105】
抗原の分子量が約0.1〜10 kdまたは約0.5〜5 kdである、請求項104記載の方法。
【請求項106】
自己抗原が高分子量抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項107】
抗原の分子量が約5〜50 kdまたは約10〜25 kdである、請求項82〜84記載の方法。
【請求項108】
抗原が、癌特異的抗原または増生細胞もしくは組織に特異的な抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項109】
抗原が外来抗原を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項110】
外来抗原が、細菌性抗原、ウィルス抗原、真菌抗原、イースト抗原または原虫抗原を含む、請求項109記載の方法。
【請求項111】
抗原が、細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項112】
細胞または組織が、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織ホモジネート、または細胞、組織もしくは器官抽出物を含む、請求項111記載の方法。
【請求項113】
癌が、メラノーマ、前立腺癌、甲状腺癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌、肺癌または胃癌である、請求項108記載の方法。
【請求項114】
外来抗原が病原菌または感染性の病原体由来の抗原を含む、請求項109記載の方法。
【請求項115】
病原菌または感染性の病原体由来の抗原が、細菌性抗原、ウィルス抗原または原虫からの抗原を含む、請求項114記載の方法。
【請求項116】
病原菌または感染性の病原体が、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)、大腸菌(E. coli)、インフルエンザウィルス(flu virus)、A型、B型もしくはC型肝炎、またはマラリアを含む、請求項115記載の方法。
【請求項117】
組成物中に二価抗体に比べてモルベースで約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い修飾抗原が存在する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項118】
二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、組成物が約0.1 mg〜10 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項119】
二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、組成物が約0.1 mg〜1.0 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含む、請求項118記載の方法。
【請求項120】
二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、組成物が約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含む、請求項119記載の方法。
【請求項121】
組成物を、非経口、経口、鼻腔内または眼経路により投与する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項122】
組成物を、1日1回、1日2回または1日3回投与する、請求項84記載の方法。
【請求項123】
組成物を週約1回〜2回投与する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項124】
組成物を、当初約3週間は週2回、次に約5ヶ月間は週1回、その後月1回投与する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項125】
組成物が無菌の水性調合物を含む、請求項82〜84記載の方法。
【請求項126】
組成物をアジュバンドと共に投与する、請求項82〜84記載の方法。
【請求項127】
アジュバンドがミョウバンまたはフロインド(Freund's)アジュバンドを含む、請求項126記載の方法。
【請求項128】
抗原がハプテンにより修飾されている、請求項82〜84記載の方法。
【請求項129】
ハプテン修飾された抗原がハプテン−タンパク複合体を含む、請求項128記載の方法。
【請求項130】
ハプテン−タンパク複合体が、アルサニル−タンパク複合体、スルファニル−タンパク複合体またはアルサニル−スルファニルタンパク複合体を含む、請求項128記載の方法。
【請求項131】
(i)二価抗体が抗原に特異的であり、かつ哺乳動物生来のものであるか、または哺乳動物に対し非免疫原性であり、そして修飾抗原が二価抗体に対し組成物中に過剰モルで存在している修飾抗原および抗原特異的二価抗体、ならびに(ii)薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項132】
二価抗体がIgGを含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項133】
二価抗体が、単離された抗体、合成抗体または組換え的に生成された抗体を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項134】
二価抗体がヒト化抗体を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項135】
二価抗体がトランスジェニックマウスで生成されたヒト抗体を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項136】
トランスジェニックマウスがヒト免疫グロブリン遺伝子座を含む、請求項135記載の薬学的組成物。
【請求項137】
修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物の作製において、修飾抗原を二価抗体と投与直前に混合する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項138】
修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物の作製において、修飾抗原を二価抗体と投与の約1分前〜2時間前に混合する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項139】
修飾抗原を二価抗体と投与の約10分前〜1時間前に混合する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項140】
修飾抗原を二価抗体と投与の約30分前〜1時間前に混合する、請求項139記載の薬学的組成物。
【請求項141】
修飾抗原および抗原特異的二価抗体を含む組成物の作製において、修飾抗原を二価抗体と混合し、混合物を凍結乾燥する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項142】
凍結乾燥した混合物を投与時に投与のための調合物に再構成する、請求項141記載の薬学的組成物。
【請求項143】
凍結乾燥した混合物を約-20℃〜4℃の温度で保存する、請求項141記載の薬学的組成物。
【請求項144】
凍結乾燥した混合物を水性調合物に再構成する、請求項141記載の薬学的組成物。
【請求項145】
水性調合物が滅菌蒸留水または緩衝食塩水を含む、請求項144記載の薬学的組成物。
【請求項146】
抗原が精製された抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項147】
抗原が組換えまたは合成ポリペプチドを含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項148】
抗原が溶解性抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項149】
抗原が粒子抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項150】
自己抗原が低分子量抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項151】
抗原の分子量が約0.1〜10 kdまたは約0.5〜5 kdである、請求項150記載の薬学的組成物。
【請求項152】
自己抗原が高分子量抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項153】
抗原の分子量が約5〜50 kdまたは約10〜25 kdである、請求項152記載の薬学的組成物。
【請求項154】
抗原が癌特異的抗原または増生細胞もしくは組織に特異的な抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項155】
抗原が外来抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項156】
外来抗原が、細菌性抗原、ウィルス抗原、真菌抗原、イースト抗原または原虫抗原を含む、請求項155記載の薬学的組成物。
【請求項157】
抗原が、細胞レベル下分画、細胞、組織または器官を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項158】
細胞または組織が、細胞レベル下分画、細胞もしくは組織ホモジネート、または細胞、組織もしくは器官抽出物を含む、請求項157記載の薬学的組成物。
【請求項159】
癌が、メラノーマ、前立腺癌、甲状腺癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌、肺癌または胃癌である、請求項154記載の薬学的組成物。
【請求項160】
外来抗原が病原菌または感染性の病原体由来の抗原を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項161】
病原菌または感染性の病原体由来の抗原が、細菌性抗原、ウィルス抗原または原虫からの抗原を含む、請求項160記載の薬学的組成物。
【請求項162】
病原菌または感染性の病原体が、ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌、インフルエンザウィルス、A型、B型もしくはC型肝炎、またはマラリアを含む、請求項160記載の薬学的組成物。
【請求項163】
組成物中に二価抗体に比べてモルベースで約10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%または200%多い修飾抗原が存在する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項164】
二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、組成物が約0.1 mg〜10 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含む、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項165】
二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、組成物が約0.1 mg〜1.0 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含む、請求項164記載の薬学的組成物。
【請求項166】
二価抗体に対し抗原を過剰モルに保つために、組成物が約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9 mgの抗原および適切な量の二価抗体を含む、請求項165記載の薬学的組成物。
【請求項167】
組成物を、非経口、経口、鼻腔内または眼経路により投与されるように調合する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項168】
組成物を無菌の液体調合物として調合する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項169】
組成物をアジュバンドと共に投与する、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項170】
アジュバンドがミョウバンまたはフロインドアジュバンドを含む、請求項169記載の薬学的組成物。
【請求項171】
抗原がハプテンにより修飾されている、請求項131記載の薬学的組成物。
【請求項172】
ハプテン修飾された抗原がハプテン−タンパク複合体を含む、請求項171記載の薬学的組成物。
【請求項173】
ハプテン−タンパク複合体が、アルサニル−タンパク複合体、スルファニル−タンパク複合体またはアルサニル−スルファニルタンパク複合体を含む、請求項172記載の薬学的組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−502305(P2007−502305A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523495(P2006−523495)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際出願番号】PCT/CA2004/001494
【国際公開番号】WO2005/016379
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506053098)ザ ガバナーズ オブ ザ ユニバーシティー オブ カルガリー (1)
【Fターム(参考)】