説明

哺乳動物個体における前肢帯筋異常症を診断するためのマーカーおよびそれを用いた検出方法

【課題】本発明は、哺乳動物個体における前肢帯筋異常症およびそのキャリアを診断するためのマーカーおよびそれを用いた哺乳動物個体における前肢帯筋異常症およびそのキャリアの検出方法を提供すること。
【解決手段】GFRA1機能欠失型変異を含む、GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチド、変異型GFRA1タンパク質、変異型GFRA1タンパク質をコードするmRNAを、個体が前肢帯筋異常症であること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーとして使用する。また、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dから成る群より選択される1つ以上を含む、単離されたポリヌクレオチドは、ウシ個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーとして使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物個体における前肢帯筋形成異常を診断するためのマーカーおよびそれを用いた哺乳動物個体における前肢帯筋形成異常の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前肢帯筋異常症(forelimb-girdle muscular anomaly)は、家畜では三枚肩ともよばれ、前肢帯筋の低形成による振戦と起立困難を主な症状とする遺伝子疾患であることが知られている。ウシでは、前肢帯筋異常症発症個体は多くの場合廃用とせざるを得ないため、本疾患の発症は生産者に多大な経済的損失を与える。この遺伝子疾患は、劣性突然変異によるものであることが知られているが、その原因遺伝子は不明でキャリア個体を同定することができないため、疾患の発生を予防することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Masoudi et al., Animal Science Journal 78(6), 672-675, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、哺乳動物個体における前肢帯筋形成異常を診断するためのマーカーおよびそれを用いた哺乳動物個体における前肢帯筋形成異常の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、GFRA1遺伝子のcDNA(GenBankアクセッション番号:NM_001105411.1)の1060番目の塩基に対応する、ウシゲノム上の塩基が、健常個体ではCであるが、前肢帯筋異常症に罹患したウシ個体、および、前肢帯筋異常症のキャリアであるウシ個体は、この塩基がTに変異したナンセンス変異を有し、GFRA1遺伝子の機能を欠失させていることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
本明細書において、哺乳動物は、ヒトでもヒト以外でもよく、マウス、ラット、ウサギ、サル等の実験動物、イヌ、ネコ等のペット、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ等の家畜であってもよい。
【0007】
本明細書において「ウシ」はBos属の動物を指し、例えば、Bos taurus種の家畜牛、Bos javanicus種のバンテン(野生牛)、Bos indicus種のコブウシなどが含まれる。
【0008】
本明細書において、塩基の位置に関する記載は特記しない限り、DNA2重鎖のうち、センス鎖の塩基によって示す。また、塩基の位置は、例えば、GDNF (glial cell line-derived neurotrophic factor) family receptor alpha 1(GFRA1)遺伝子のcDNA(NM_001105411.1、配列番号1)の1060番目というように、基準となる塩基配列中で、当該塩基配列の5’側から3’側方向に数えることで特定されているが、実際のウシ個体の塩基配列中では、その塩基は、基準となる塩基配列中で特定した塩基に対応する位置にあればよく、その塩基が含まれるゲノムDNA上に塩基の欠失や挿入がある場合には、必ずしも塩基の位置を表わす数字まで一致する必要はない。
【0009】
本発明に係るマーカーは、哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーであって、GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチドからなり、前記ポリヌクレオチドは、前記遺伝子の機能欠失型変異を含むことを特徴とする。ここで、哺乳動物個体はウシ個体であることが好ましい。また、機能欠失型変異が、配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基における変異であることがより好ましい。
【0010】
本発明に係るマーカーは、哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーであって、機能を欠失したGFRA1タンパク質をコードするmRNA、あるいは、機能を欠失したGFRA1タンパク質であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るキットは、哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのキットであって、GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチドにおいて、前記遺伝子の機能欠失型変異を有する塩基を増幅するためのプライマーペアを含むことを特徴とする。ここで、哺乳動物個体はウシ個体であることが好ましい。また、機能欠失型変異が、配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基における変異であることがより好ましい。
【0012】
本発明に係るキットは、さらに制限酵素を含み、この制限酵素は、前記プライマーペアによって増幅された塩基が前記遺伝子の機能欠失型変異を有するか否かに依存して、前記プライマーペアによって増幅された塩基を含むポリペプチドの切断様式が異なることがさらに好ましい。前記制限酵素は、MwoIであることがさらに好ましい。
【0013】
本発明に係る診断方法は、ヒト以外の哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するための診断方法であって、前記哺乳動物個体から単離されたゲノムDNAまたはmRNAにおいて、GFRA1遺伝子が野生型であるか機能欠失型変異を有するかを調べる工程を含む。ここで、この診断方法は、前記ゲノムDNAに野生型GFRA1遺伝子が存在しない場合、または、前記mRNAに野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在しない場合、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、前記ゲノムDNAに野生型GFRA1遺伝子と機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子が存在する場合、または、前記mRNAに野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAと機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在する場合、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断することが好ましい。
【0014】
本発明に係る診断方法は、GFRA1遺伝子座の両方のアリルで機能欠失型変異を有している場合に、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、GFRA1遺伝子の一方のアリルで機能欠失型変異を有している場合に、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断する工程とを含むことがより好ましい。哺乳動物個体がウシ個体であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明に係る診断方法は、前記機能欠失型変異が配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAにおける1060番目の塩基のナンセンス変異であることがさらに好ましい。また、ナンセンス変異がCからTへの変異であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明に係る診断方法は、ヒト以外の哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していることを診断するための診断方法であって、前記哺乳動物個体における、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現量、あるいは、野生型GFRA1タンパク質の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする。ここで、前記発現量が検出できない場合に、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症に罹患していると診断することが好ましい。
【0017】
本発明に係る同定方法は、前肢帯筋異常症のキャリアであるヒト以外の哺乳動物個体の同定方法であって、前肢帯筋異常症を発症していないヒト以外の哺乳動物個体から単離されたゲノムDNAまたはmRNAにおいて、GFRA1遺伝子の機能欠失型変異を有するか否かを調べる工程と、前記ゲノムDNAに野生型GFRA1遺伝子と機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子が存在するヒト以外の哺乳動物個体、または、前記mRNAに野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAと機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在するヒト以外の哺乳動物個体を同定する工程とを含むことを特徴とする。なお、哺乳動物個体がウシ個体であることが好ましい。また、機能欠失型変異が、配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基における、CからTへのナンセンス変異であることがより好ましい。
【0018】
本発明に係る前肢帯筋異常症に罹患した哺乳動物個体において、GFRA1遺伝子が、前記前肢帯筋異常症の原因であるかどうかを決定する方法は、前肢帯筋異常症に罹患した哺乳動物個体、または、前肢帯筋異常症のキャリアである哺乳動物個体において、GFRA1遺伝子の塩基配列の一部または全部を決定する工程と、決定された前記塩基配列と、野生型GFRA1遺伝子の塩基配列とを比較する工程と、決定された前記塩基配列に機能欠失型変異が存在するか否かを決定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るマーカーは、ウシ個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーであって、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群から選択される1以上の塩基または塩基配列を有する単離されたポリヌクレオチドであることを特徴とする。
【0020】
本発明に係るキットは、ウシ個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのキットであって、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群から選択される1以上を増幅するための1以上のプライマーペアを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る診断方法は、ウシ個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するための診断方法であって、前記ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群より選択される1つ以上のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含む。
【0022】
本発明に係る診断方法は、さらに、ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2630のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、前記MOK2630のジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、前記MOK2630のジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、前記MOK2630のジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断することが好ましい。
【0023】
本発明に係る診断方法は、さらに、ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2637のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、前記MOK2637のジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、前記MOK2637のジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、前記MOK2637のジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断することが好ましい。
【0024】
本発明に係る診断方法は、さらに、ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、SNP Bのジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、前記SNP Bのジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、前記SNP Bのジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、前記SNP Bのジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断することが好ましい。
【0025】
本発明に係る診断方法は、さらに、ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、SNP Dのジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、前記SNP Dのジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、前記SNP Dのジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、前記SNP Dのジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断することが好ましい。
【0026】
本発明に係る同定方法は、前肢帯筋異常症のキャリアであるウシ個体の同定方法であって、前肢帯筋異常症を発症していないウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群から選択される1以上のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程と、調べたジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合であるウシ個体を同定する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、哺乳動物個体における前肢帯筋異常症を診断するためのマーカーおよびそれを用いた哺乳動物個体における前肢帯筋異常症の診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態である、MOK2630の健常型(1〜7番)および疾患型(8番)の泳動図である。
【図2】本発明の一実施形態である、MOK2637の健常型(1、2、4番)および疾患型(3番)の泳動図である。
【図3】本発明の一実施形態である、GFRA1遺伝子のエクソン4におけるナンセンス変異を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態において、健常黒毛和種(レーン1、Normal)、前肢帯筋異常症キャリア黒毛和種(レーン2、Carrier)、前肢帯筋異常症罹患黒毛和種(レーン3、Affected)のゲノムDNAを鋳型にしたPCR産物をMwoIで消化して得られたDNA断片のパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0030】
実施の形態および実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0031】
なお、本発明の目的、特徴、利点、およびそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態および具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0032】
==GFRA1遺伝子、GFRA1タンパク質に関連するマーカー==
前肢帯筋異常症は、GFRA1遺伝子の機能を欠失させる劣性の変異(機能欠失型変異)に起因する疾患である。すなわち、ゲノムDNA上に野生型GFRA1遺伝子が存在しない場合、その個体(本明細書では、罹患個体とも呼ぶ)は前肢帯筋異常症に罹患している。なお、その場合には、個体の有する全てのGFRA1遺伝子が、機能欠失型変異を有する変異型GFRA1遺伝子である場合も含まれる。また、その個体が、少なくとも一つの野生型GFRA1遺伝子を有すれば、その個体の表現型は正常であり、前肢帯筋異常症を発症しない。ただし、その個体が野生型GFRA1遺伝子を有する場合であっても、少なくとも一つの機能欠失型変異を有する変異型GFRA1遺伝子を有すれば、その個体(本明細書では、キャリア個体とも呼ぶ)は前肢帯筋異常症のキャリアとなり、機能欠失型変異を有する変異型GFRA1遺伝子を有さなければ、その個体(本明細書では、健常個体とも呼ぶ)は、前肢帯筋異常症を発症せず、キャリアにもならない。なお、この健常個体は、そのGFRA1遺伝子の全てのコピーが野生型GFRA1遺伝子である個体であって、表現型が正常であっても、キャリア個体や前肢帯筋異常症を発症していない罹患個体は含まない。
【0033】
従って、例えば、その個体が、ゲノム上のGFRA1遺伝子座に1つずつ、2コピーのGFRA1遺伝子のアリルを有する場合、すなわち、通常のGFRA1遺伝子以外に、余分な遺伝子コピーを有しない場合、2つのアリルが機能欠失型変異を有すれば、前肢帯筋異常症の罹患個体となり、一方のアリルだけが機能欠失型変異を有すれば、前肢帯筋異常症のキャリアとなり、両方のアリルが野生型なら、健常個体となる。
【0034】
ここで、本明細書において「前肢帯筋異常症」は、ウシにおいて「前肢帯筋異常症」または「三枚肩」として知られる疾患、および、ウシ以外の哺乳動物においてウシの「前肢帯筋異常症」に対応する疾患、あるいは前肢帯筋または上肢帯筋の形成不良を呈する疾患を指し、その哺乳動物において「前肢帯筋異常症」という疾患名で知られていない疾患であってもよい。
【0035】
ここで、哺乳動物個体が「前肢帯筋異常症を発症している」とは、個体が前肢帯筋異常症に罹患していることに起因して、前肢帯筋または上肢帯筋の形成不良が認められることを指す。特に、四肢哺乳動物では、前肢帯筋の形成不良による肩甲部の突出、耳介の下垂等の形態的特徴に加え、起立困難や振戦等の運動機能低下等の健常個体では見られない異常も呈することがある。ただし、これらの身体的異常、運動機能の異常は、その程度により限定されないものとする。そして、個体が「前肢帯筋異常症に罹患している」とは、その個体が前肢帯筋異常症を発症していても、発症していなくてもよく、遺伝的に、ゲノム上に野生型GFRA1遺伝子が存在しない場合をいう。
【0036】
また、前肢帯筋異常症は、GFRA1遺伝子から転写されたmRNAとも関係があり、前肢帯筋異常症の罹患個体では、GFRA1遺伝子から転写されたmRNA中に、野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在しない。前肢帯筋異常症のキャリア個体では、野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAと機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在する。そして、健常個体では、野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAのみが存在し、機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子から転写されたmRNAは存在しない。
【0037】
このように、GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチドであって、GFRA1遺伝子の機能を欠失させる変異を含むポリヌクレオチドは、個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーとして使用できる。ここで、ポリヌクレオチドは、DNAであってもmRNAなどのRNAであってもよい。
【0038】
なお、本明細書において、野生型GFRA1遺伝子とは、機能欠失型変異を有さないGFRA1遺伝子、および機能欠失型変異を有さないGFRA1遺伝子において、塩基の置換、挿入、欠失などが生じている遺伝子であって、個体内でその発現が失われたときに前肢帯筋異常症を引き起こす遺伝子を指す。ここで、野生型GFRA1遺伝子の由来する動物は、哺乳動物の中から、診断対象によって適宜選択すればよい。例えば、ウシの場合、野生型GFRA1遺伝子は、配列番号2のGFRA1遺伝子(Gene ID:534801)、並びに、配列番号2のGFRA1遺伝子において、塩基の置換、挿入、欠失などが生じている遺伝子であって、個体内でその発現が失われたときに前肢帯筋異常症を引き起こす遺伝子を指す。
【0039】
ここで、変異を有するGFRA1遺伝子のみを有する個体が前肢帯筋異常症を発症する場合に、その変異を機能欠失型変異であるという。そして、そのGFRA1遺伝子を、機能欠失型変異を有する変異型GFRA1遺伝子という。一方、GFRA1遺伝子に変異が生じても、その変異を有するGFRA1遺伝子のみを有する個体が前肢帯筋異常症を発症しない場合には、その変異は機能欠失型変異に含めないものとする。
【0040】
GFRA1遺伝子における機能欠失型変異は、その変異に起因して前肢帯筋異常症を発症するものであれば、遺伝子上の位置、塩基の種類によって限定されず、例えば、点突然変異、欠失突然変異、挿入突然変異等のいずれであってもよい。また、その機能欠失型変異に起因して、前肢帯筋異常症を発症するならば、変異型GFRA1タンパク質を発現していても、あるいは、発現していなくてもよい。
【0041】
例えば、GFRA1遺伝子における機能欠失型変異がナンセンス変異であって、翻訳により生成されるタンパク質が短鎖化される場合、野生型GFRA1遺伝子の機能を欠失させる変異であれば、変異が生じた塩基の遺伝子上の位置は限定されない。その機能欠失型変異は、例えば、ウシであれば、GFRA1遺伝子のcDNA(NM_001105411.1、配列番号1)の1060番目の塩基に対応する塩基におけるCからTへのナンセンス変異や、それより5’側の塩基におけるナンセンス変異であってもよい。ウシ以外の哺乳動物の場合、その動物のGFRA1遺伝子のcDNAにおいて、前述のウシGFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基に対応する塩基のナンセンス変異、または、それより5’側の塩基におけるナンセンス変異であってもよい。
【0042】
前肢帯筋異常症に罹患した個体、あるいは、前肢帯筋異常症のキャリアである個体において、機能欠失型変異を有する変異型GFRA1遺伝子が転写されて変異型GFRA1mRNAが生成され、変異型GFRA1タンパク質が発現する場合には、このような機能を失った変異型GFRA1タンパク質、および、機能を失った変異型GFRA1タンパク質をコードするmRNA等も、個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーとして使用できる。
【0043】
また、前肢帯筋異常症に罹患した個体では、野生型GFRA1タンパク質の発現量が、健常個体と比較して、前肢帯筋異常症罹患を発症させる程度に低下しているか、無くなっている。従って、野生型GFRA1タンパク質、および、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNA等の発現量も、個体が前肢帯筋異常症に罹患していることを診断するためのマーカーとして使用できる。
【0044】
なお、野生型GFRA1タンパク質とは、野生型GFRA1遺伝子によってコードされるタンパク質、並びに、野生型GFRA1遺伝子によってコードされるタンパク質において、アミノ酸の置換、挿入、欠失などが生じているタンパク質であって、個体内でその発現が失われたときに前肢帯筋異常症を引き起こすタンパク質を指す。ここで、野生型GFRA1タンパク質の由来する動物は、哺乳動物の中から、診断対象によって適宜選択すればよい。ウシの場合、野生型GFRA1タンパク質は、配列番号3のGFRA1タンパク質(GenBankアクセッション番号:NP_001098881.1)、およびそのホモログ、並びに、配列番号3のGFRA1タンパク質またはそのホモログにおいて、アミノ酸の置換、挿入、欠失などが生じているタンパク質であって、ウシ個体内でその発現が失われた時に前肢帯筋異常症を引き起こすタンパク質を指す。
【0045】
==GFRA1遺伝子、GFRA1タンパク質に関連するマーカーを用いた診断方法==
これらのマーカーを用いて、以下のように、哺乳動物個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断することができる。
【0046】
哺乳動物個体が、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることは、まず哺乳動物個体からゲノムDNAを単離し、その単離されたゲノムDNAに対し、GFRA1遺伝子が機能欠失型変異を有するか否かを調べることで診断できる。すなわち、(1)機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子の存在に関わらず、野生型GFRA1遺伝子を有しない場合、その個体は前肢帯筋異常症に罹患していると診断でき、(2)機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子と野生型GFRA1遺伝子を有する場合、その個体は前肢帯筋異常症のキャリアであると診断でき、(3)野生型GFRA1遺伝子を有し、機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子を有しない場合、健常個体と診断できる。ここで、GFRA1遺伝子が機能欠失型変異を有するか否かを調べる方法は特に限定されず、例えば、GFRA1遺伝子の塩基配列を決定してもよく、あるいは、既知である特定の塩基置換を検出する場合には、RFLPを利用してもよい。
【0047】
特に、機能欠失型変異が、GFRA1遺伝子のcDNA(配列番号1)の1060番目の塩基におけるCからTへの変異である場合、PCRを用いて、当該塩基を含むゲノムDNA断片を増幅し、得られたDNA断片に対してMwoIを反応させ、PCR産物が切断されるかどうか調べてもよい。この場合、当該塩基がCからTに変異している場合にはPCR産物がMwoIで切断されないが、変異していない場合にはMwoIで切断されるため、当該塩基が野生型か変異型かを容易に決定することができる。例えば、酵素で切断後のPCR産物を、電気泳動で分離し、MwoIで切断されたPCR産物のみが検出される場合、その個体は、前肢帯筋異常症のキャリアでなく罹患もしていない健常個体であり、MwoIで切断されないPCR産物とMwoIで切断されたPCR産物とが検出される場合、前肢帯筋異常症のキャリア個体であり、MwoIで切断されないPCR産物のみが検出される場合、前肢帯筋異常症に罹患している罹患個体である、と診断できる。
【0048】
あるいは、哺乳動物個体が前肢帯筋異常症に罹患していることは、その個体の組織において、野生型GFRA1タンパク質、または、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現を調べることによって診断してもよい。組織は、例えば、血液、精液、筋肉、神経、骨、腎臓、肝臓、胸腺、皮膚、受精卵が挙げられるが、健常個体において野生型GFRA1タンパク質、または、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAが発現している組織である範囲で制限されない。その結果、野生型GFRA1タンパク質、または、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現が検出されない場合には、その個体は、前肢帯筋異常症に罹患していると診断することができる。
【0049】
また、哺乳動物個体が、前肢帯筋異常症のキャリアであることは、その個体の前肢帯筋組織において、野生型GFRA1タンパク質と変異型GFRA1タンパク質、または、野生型GFRA1タンパク質と変異型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現を調べることによって診断してもよい。その結果、野生型GFRA1タンパク質と変異型GFRA1タンパク質、または、変異型GFRA1タンパク質をコードするmRNAと野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAが両方とも検出された場合には、その個体は、前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断することができる。
【0050】
なお、野生型GFRA1タンパク質、または、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現が検出され、変異型GFRA1タンパク質、または、変異型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現が検出されない場合には、その個体は、前肢帯筋異常症のキャリア個体、または、健常個体であると診断することができる。
【0051】
ここで、タンパク質、またはそのタンパク質をコードするmRNAの発現の検出方法は、野生型または変異型GFRA1タンパク質、あるいは、野生型または変異型GFRA1タンパク質をコードするmRNAを特異的に検出できる方法であればよく、タンパク質やmRNAの全長を検出する方法であっても、一部を検出する方法であってもよい。検出方法は、当業者に周知の方法を適宜用いればよく、mRNAであればノザンブロット法や逆転写PCR法、タンパク質であれば特異的抗体を用いたウエスタンブロット法やELISA法などが例示できる。
【0052】
このようにして、哺乳動物個体を診断することにより、外見的には正常であっても、将来前肢帯筋異常症を発症するであろう罹患個体を特定できる。また、前肢帯筋異常症のキャリアの個体も、表現型として疾患の症状が認められないが、以上の診断方法によって、キャリア個体を同定し、キャリア個体を交配集団から隔離あるいは除去したり、キャリア個体同士を交配させないようにしたりすることによって、前肢帯筋異常症の罹患個体が発生することを未然に防ぐことが可能である。
【0053】
==遺伝子治療==
前肢帯筋異常症に罹患した哺乳動物個体は、野生型GFRA1遺伝子を有しておらず、従って、野生型GFRA1遺伝子を遺伝子導入したトランスジェニック個体を作出することによって、治療可能である。
【0054】
また、GFRA1遺伝子の一方のアリルに機能欠失型変異を有している、前肢帯筋異常症のキャリアである哺乳動物個体の場合、この機能欠失型変異を有するアリルにおいて、GFRA1遺伝子の機能欠失型変異を修復し、野生型GFRA1遺伝子にすればよい。これまで哺乳動物を用いて、胚幹細胞が樹立され(Biochem. Biophys. Res. Commun. vol.309, p.104-113, 2003)、ノックアウト個体も作出されている(Nat. Ganet. vol.36, p.671-672, 2004)。このような発生工学的な遺伝子組換え技術を用い、哺乳動物個体において、特定の塩基を目的の塩基に置換することが可能であり、機能欠失型変異を修復することができる。
【0055】
==前肢帯筋異常症の原因となる変異を特定する方法==
前肢帯筋異常症に罹患した哺乳動物個体、または、前肢帯筋異常症のキャリアである個体において、GFRA1遺伝子の塩基配列の一部、または、全部を決定し、得られた塩基配列を、野生型GFRA1遺伝子の塩基配列と比較し、GFRA1遺伝子に機能欠失型変異が存在するか否かを決定することにより、前肢帯筋異常症の原因がGFRA1遺伝子にあるかどうか、また、前肢帯筋異常症の原因がGFRA1遺伝子にある場合、どのような変異が原因になっているのかを調べることができる。
【0056】
例えば、前肢帯筋異常症に罹患した個体、または、前肢帯筋異常症のキャリアの個体において、GFRA1遺伝子に変異が存在し、その変異が機能欠失型変異である場合には、その前肢帯筋異常症はGFRA1遺伝子の変異に起因するものであると判定することができる。
【0057】
この方法によって決定された機能欠失型変異を含む、GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチドは、哺乳動物個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーとして使用できる。
【0058】
==GFRA1遺伝子周辺のマーカー==
実施例2に示すように、GFRA1遺伝子の機能欠失変異をホモ接合で有する哺乳動物個体は前肢帯筋異常症を発症し、ヘテロ接合で有する哺乳動物個体は前肢帯筋異常症のキャリアである。ウシ第26番染色体上のマイクロサテライトマーカーであるMOK2630、ウシ第26番染色体上のマイクロサテライトマーカーであるMOK2637、SNP B、および、SNP D(表1)のジェノタイプは、ウシ個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることと強い相関があり、それによって、ウシGFRA1遺伝子の機能欠失型変異とも強い相関を有する。従って、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dから成る群より選択される1つ以上を含む、1本以上の単離されたポリヌクレオチドは、ウシ個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーとして使用することができる。
【表1】

【0059】
なお、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dは連鎖不平衡の状態にあって、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dのジェノタイプは互いに強い相関があるため、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dのうちいずれか1個のジェノタイプのうち、いずれか1個を決定すれば、他のジェノタイプが推定できる。例えば、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dのうちいずれか1個のジェノタイプが健常型であれば、他3個のジェノタイプも健常型であり、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dのうちいずれか1個のジェノタイプが疾患型であれば、他3個のジェノタイプも疾患型であると推定される。
【0060】
ここで、MOK2630はウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)のウシ26番染色体の36222000番目から始まる繰り返し配列を有するDNAであり、MOK2637はウシゲノムウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)のウシ26番染色体の36977078番目から始まる繰り返し配列を有するDNAであり、SNP Bはウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)のウシ26番染色体の33733727番目の塩基であり、SNP Dはウシゲノムアッセンブリ(Btau4.0)のウシ26番染色体の37013762番目の塩基である(表1)。
【0061】
SNP BにはTとGの2種類のSNPが存在し、Tが健常型、Gが疾患型である。SNP DにはAとGの2種類のSNPが存在し、Aが健常型、Gが疾患型である(表1)。
【0062】
MOK2630のアリルは、その塩基配列に含まれるGTの繰り返し回数により特定される。また、MOK2637のアリルは、その塩基配列に含まれるATの繰り返し回数により特定される。MOK2630、およびMOK2637の疾患型アリルを同定するためには、各1個体以上の健常個体と罹患個体において、MOK2630とMOK2637のアリルを調べ、MOK2630とMOK2637のそれぞれで、健常個体にはほとんど検出されず、罹患個体に有意に高頻度で検出されるアリルを決定すればよい。また、MOK2630、およびMOK2637の健常型アリルを同定するためには、MOK2630とMOK2637のそれぞれで、罹患個体にはほとんど検出されず、健常個体に有意に高頻度で検出されるアリルを決定すればよい
【0063】
例えば、表1に示すプライマーペアを用いて黒毛和種のウシ複数個体においてMOK2630とMOK2637のアリルを調べ、健常個体と罹患個体において比較すると、MOK2630には、GTの繰り返し回数が異なる8種類のアリルが存在した。繰り返し回数の少ない方から1番〜7番は健常型、繰り返し回数の最も多い8番が疾患型である(図1、上から、1番〜8番)。また、MOK2637には、ACの繰り返し回数が異なる4種類のアリルが存在した。繰り返し回数の少ない方から数えて1番、2番、および4番が健常型、3番が疾患型である(図2、上から1番〜4番)。
【0064】
なお、マーカーとして使用するポリヌクレオチドを構成する塩基数は特に限定されない。また、マーカーとして使用するポリヌクレオチドは、MOK2630、MOK2637、SNP Bにおける塩基、および、SNP Dにおける塩基のうち、1個以上を有していればよく、複数を有している場合、どの組み合わせであっても構わない。
【0065】
==GFRA1遺伝子周辺のマーカーを用いた診断方法==
MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dを用いて、ウシ個体が前肢帯筋異常症に罹患している、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためには、その個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2630、マイMOK2637、SNP B、および、SNP Dのうち少なくとも1個以上のジェノタイプを決定する。
【0066】
MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dのジェノタイプは、例えば、それらの塩基配列を直接決定することによって、あるいはPCRやRFLPを利用することによって決定してもよく、特に決定方法は限定されず、当業者に周知の方法を用いて決定すればよい。塩基配列をPCRにより決定する場合には、例えば表1に示すプライマーペアを用いてもよい。塩基配列を直接決定する場合には、マーカーを構成するポリヌクレオチドにおける全ての塩基を決定してもよいが、マーカーを構成するポリヌクレオチドに含まれる、MOK2630の塩基配列、MOK2637の塩基配列、SNP Bにおける塩基、および、SNP Dにおける塩基から成る群より選択される1個以上を決定することができれば十分である。
【0067】
なお、MOK2630、およびMOK2637は、健常型アリルおよび疾患型アリルの場合にはそれぞれGTとACの一定の繰り返し回数を有するから、診断対象のウシ個体におけるMOK2630、またはMOK2637のジェノタイプを決定するためには、その塩基配列を調べたり、あるいは、電気泳動等で塩基長を調べ、そのアリルが、それぞれ疾患型であるか、健常型であるかを検出する。または、診断対象のウシ個体におけるMOK2630、またはMOK2637のジェノタイプを決定するために、診断対象の個体から得られたMOK2630、またはMOK2637の塩基長を、MOK2630とMOK2637の既知の疾患型アリル、または健常型アリルの塩基長と比較し、診断対象の個体におけるMOK2630、またはMOK2637のジェノタイプが健常型であるか、疾患型であるかを調べてもよい。
【0068】
なお、ゲノムDNAを単離する組織の種類や量は、マイクロサテライトの塩基配列やSNPの塩基を決定するために必要なDNA量が得られる範囲で特に制限されない。
【0069】
上述したように、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dは連鎖不平衡の状態にあるので、少なくともいずれか1個のジェノタイプを決定すれば、その哺乳動物個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることが診断できるが、いずれか2個以上、より好ましくは3個以上、最も好ましくは4個のジェノタイプを決定すれば、より正確に診断を行うことができる。
【0070】
なお、MOK2630、MOK2637、SNP B、および、SNP Dのうち、2個あるいは3個におけるジェノタイプを決定して診断を行う場合には、その組み合わせは特に限定されない。例えば、その組み合わせは、MOK2630およびMOK2637;MOK2630およびSNP B;MOK2630およびSNP D;MOK2630、MOK2637およびSNP B;MOK2630、MOK2637およびSNP D;MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP D;MOK2630、SNP B、およびSNP D;MOK2637およびSNP B;MOK2637およびSNP D;MOK2637、SNP B、およびSNP D;SNP B、およびSNP Dが例示できる。
【0071】
具体的には、前肢帯筋異常症に罹患しているウシ個体では、MOK2630、MOK2637、SNP B、SNP Dのジェノタイプは、それぞれ疾患型アリルと疾患型SNPから成るハプロタイプのホモ接合であり、前肢帯筋異常症のキャリア個体では、それぞれ疾患型アリルと疾患型SNPから成るハプロタイプと、それぞれ健常型アリルと健常型SNPから成るハプロタイプとのヘテロ接合である。健常個体では、それぞれ健常型アリルと健常型SNPから成るハプロタイプのホモ接合である。実施例3に示すように、健常個体では、疾患型アリルと疾患型SNPから成るハプロタイプを有するウシ個体は全く存在しない。
【0072】
従って、ウシ個体から単離したゲノムDNAにおいて、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dのいずれか1個以上のジェノタイプを調べ、それぞれ疾患型のホモ接合であれば、その個体は前肢帯筋異常症に罹患しており、それぞれ健常型と疾患型のヘテロ接合であれば、その個体は前肢帯筋異常症のキャリアであり、それぞれ健常型のホモ接合であれば、その個体は健常個体であると診断できる。なお、複数のマーカーのジェノタイプを調べた場合に、異なる結果が得られた場合、GFRA1遺伝子と連鎖率の高いマーカーの結果を優先して判断してもよいが、さらに調べるマーカー数を増やして判断してもよい。
【0073】
このようにして、ウシ個体を診断することにより、外見的には正常であっても、将来前肢帯筋異常症を発症するであろう罹患個体を特定できる。また、前肢帯筋異常症のキャリアの個体も、表現型として疾患の症状が認められないが、以上の診断方法によって、キャリア個体を同定し、キャリア個体を交配集団から隔離あるいは除去したり、キャリア個体同士を交配させないようにしたりすることによって、前肢帯筋異常症の罹患個体が発生することを未然に防ぐことが可能である。
【実施例】
【0074】
[実施例1] 本実施例では、ウシGFRA1遺伝子における機能欠失型変異の有無を、RFLP法により検出し、前肢帯筋異常症に罹患していること、および、そのキャリアであることを診断できることを示す。
【0075】
前肢帯筋異常症発症黒毛和種26個体、健常黒毛和種37個体、前肢帯筋異常症キャリア黒毛和種6個体(罹患ウシおよび健常ウシの父親ウシ1個体、母親ウシ3個体、父親ウシの父1個体、父親ウシの祖父ウシ1個体)の精液、血液、または筋肉組織から、フェノール/クロロフォルム法によってDNAを単離した。なお、キャリア個体は、その産子が発症個体であることにより判別した。その個体を下記のプライマーペアを用いたPCR法により、GFRA1遺伝子のエクソン4を含む345bpの領域を増幅した。
GFRA1−F2:ATGCTCCTCACGGTACCTCTGTCCTAAA(配列番号12)
GFRA1−R3:GTTCCCTTCCAGAGCTCAAGC(配列番号13)
【0076】
このPCR産物を、制限酵素MwoIで消化した後、アガロースゲル電気泳動により、DNA断片を分離した。
【0077】
なお、図3に示すように、GFRA1遺伝子のエクソン4においては、罹患個体では両方のアリルで、キャリア個体では一方のアリルで変異が生じている。この変異はGFRA1遺伝子のコード領域の1060番目の塩基におけるCからTへのナンセンス変異であって、GFRA1遺伝子の機能を失わせる変異である。PCRにより増幅された増幅断片において、この変異を有する場合はMwoIで切断されないが、この変異を有さない場合はMwoIで切断される。
【0078】
図4に示すように、健常個体(レーン1)では、199bpおよび146bpのバンドが検出され、キャリア個体(レーン2)では、345bp、199bpおよび146bpのバンドが検出され、罹患個体(レーン3)では、345bpのバンドが検出された。
【0079】
このように、GFRA1遺伝子のコード領域の1060番目の塩基におけるCからTへの変異を調べることで、その個体が前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断できる。
【0080】
[実施例2] 本実施例では、GFRA1遺伝子における機能欠失型変異の有無により、前肢帯筋異常症に罹患していること、および、そのキャリアであることを診断できることを示す。
【0081】
前肢帯筋異常症発症黒毛和種26個体、健常黒毛和種37個体、前肢帯筋異常症キャリア黒毛和種6個体(罹患ウシおよび健常ウシの父親ウシ1個体、母親ウシ3個体、父親ウシの父1個体、父親ウシの祖父ウシ1個体)の精液、血液、または筋肉組織から、フェノール/クロロフォルム法によってDNAを単離した。単離したDNAについて、実施例1のプライマーペア(配列番号12、13)を用いたPCR法により、ウシGFRA1遺伝子のエクソン4を含む345bpの領域を増幅した。なお、キャリア個体は、その産子が発症個体であることにより判別した。
【0082】
前肢帯筋異常症発症個体全26個体において、ウシGFRA1遺伝子のcDNA(配列番号1)の1060番目の塩基がTのホモ接合であり、キャリア個体全6個体において、ウシGFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基がCとTのヘテロ接合であり、健常個体全37個体において、ウシGFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基がCのホモ接合であった。
【0083】
また、上記の黒毛和種家系とは別の集団内の健常個体125個体について、同様にGFRA1遺伝子cDNAの1060番目の塩基を調べたところ、全ての個体でCのホモ接合であった。
【0084】
このように、ウシGFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基のCからTへの変異を調べることで、そのウシが前肢帯筋異常症に罹患していること、前肢帯筋異常症のキャリアであることを100%の確率で診断することができる。
【0085】
また、GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の変異は、GFRA1遺伝子の機能欠失型変異であることから、この結果は、GFRA1遺伝子が機能欠失型変異を有するか否かによって、ウシが前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断できることを示し、ウシ以外の哺乳動物においても、前肢または上肢の帯筋の形成不良を呈する疾患の罹患、保因を診断できることを示している。
【0086】
[実施例3] 本実施例では、MOK2630、MOK2637、SNP B、SNP Dのジェノタイプの検出により、前肢帯筋異常症に罹患していること、および、そのキャリアであることを診断できることを示す。
【0087】
前肢帯筋異常症発症黒毛和種26個体の精液、血液、または筋肉組織から、フェノール/クロロフォルム法によってDNAを単離した。このDNAについて、表1に記載の各検出用プライマーペアを用いてPCRを行い、MOK2630、MOK2637、SNP B、SNP Dが含まれるDNA断片を増幅した。SNP B、SNP Dのジェノタイプの検出には、さらに、MseI(SNP B)、BamAI(SNP D)の制限酵素による切断を行った。
【0088】
MOK2630、MOK2637、およびSNP Dのジェノタイプは、26個体において、全て疾患型、すなわち8番、3番、G(表1)のホモ接合であった。SNP Bのジェノタイプは、25個体で疾患型、すなわちG(表1)のホモ接合であったが、1個体のみ疾患型(G)と健常型(T)のヘテロ接合であった(表2)。
【表2】

【0089】
なお、健常黒毛和種について、同様にMOK2630(61個体)、MOK2637(119個体)、SNP B(118個体)、SNP D(117個体)のジェノタイプを調べたところ、MOK2630、SNP B、SNP Dが疾患型のホモ接合の個体は存在しなかった。なお、MOK2637が疾患型のホモ接合の個体は1個体のみであった。また、疾患型と健常型のヘテロ接合については、MOK2630が11個体、MOK2637が18個体、SNP Bが8個体、SNP Dが28個体であった。健常型のホモ接合については、MOK2630が50個体、MOK2637が100個体、SNP Bが110個体、SNP Dが89個体であった(表3)。
【表3】

【0090】
このように、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dを調べることで、そのウシ個体が前肢帯筋異常症に罹患しているかどうかを高い確率で診断できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーであって、
GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチドからなり、
前記ポリヌクレオチドは、前記遺伝子の機能欠失型変異を含むことを特徴とするマーカー。
【請求項2】
前記哺乳動物個体がウシ個体であることを特徴とする、請求項1に記載のマーカー。
【請求項3】
請求項2に記載のマーカーであって、
前記機能欠失型変異が、配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基における変異であることを特徴とするマーカー。
【請求項4】
哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーであって、
機能を欠失したGFRA1タンパク質をコードするmRNA、あるいは、機能を欠失したGFRA1タンパク質であることを特徴とするマーカー。
【請求項5】
哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのキットであって、
GFRA1遺伝子の一部または全部を有する単離されたポリヌクレオチドにおいて、前記遺伝子の機能欠失型変異を有する塩基を増幅するためのプライマーペアを含むことを特徴とするキット。
【請求項6】
前記哺乳動物個体がウシ個体であることを特徴とする、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
請求項6のキットであって、
前記機能欠失型変異が、配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基における変異であることを特徴とするキット。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載のキットであって、
さらに制限酵素を含み、
前記制限酵素は、前記プライマーペアによって増幅された塩基が前記遺伝子の機能欠失型変異を有するか否かに依存して、前記プライマーペアによって増幅された塩基を含むポリペプチドの切断様式が異なること特徴とするキット。
【請求項9】
請求項7のキットであって、
さらに制限酵素を含むことを特徴とし、
前記制限酵素がMwoIであることを特徴とするキット。
【請求項10】
ヒト以外の哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するための診断方法であって、
前記哺乳動物個体から単離されたゲノムDNAまたはmRNAにおいて、GFRA1遺伝子が野生型であるか機能欠失型変異を有するかを調べる工程を含む診断方法。
【請求項11】
請求項10に記載の診断方法であって、
前記ゲノムDNAに野生型GFRA1遺伝子が存在しない場合、または、前記mRNAに野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在しない場合、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、
前記ゲノムDNAに野生型GFRA1遺伝子と機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子が存在する場合、または、前記mRNAに野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAと機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在する場合、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断する診断方法。
【請求項12】
請求項11に記載の診断方法であって、
GFRA1遺伝子座の両方のアリルで機能欠失型変異を有している場合に、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、
GFRA1遺伝子の一方のアリルで機能欠失型変異を有している場合に、
前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断する工程とを含む診断方法。
【請求項13】
前記哺乳動物個体がウシ個体であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項14】
請求項13に記載の診断方法であって、
前記機能欠失型変異が配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAにおける1060番目の塩基のナンセンス変異であることを特徴とする診断方法。
【請求項15】
請求項14に記載の診断方法であって、
前記ナンセンス変異が、CからTへの変異であることを特徴とする診断方法。
【請求項16】
ヒト以外の哺乳動物個体において、前肢帯筋異常症に罹患していることを診断するための診断方法であって、
前記哺乳動物個体における、野生型GFRA1タンパク質をコードするmRNAの発現量、あるいは、野生型GFRA1タンパク質の発現量を測定する工程を含むことを特徴とする診断方法。
【請求項17】
請求項16の診断方法であって、
前記発現量が検出できない場合に、前記哺乳動物個体が前肢帯筋異常症に罹患していると診断することを特徴とする診断方法。
【請求項18】
前肢帯筋異常症のキャリアであるヒト以外の哺乳動物個体の同定方法であって、
前肢帯筋異常症を発症していないヒト以外の哺乳動物個体から単離されたゲノムDNAまたはmRNAにおいて、GFRA1遺伝子の機能欠失型変異を有するか否かを調べる工程と、前記ゲノムDNAに野生型GFRA1遺伝子と機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子が存在するヒト以外の哺乳動物個体、または、前記mRNAに野生型GFRA1遺伝子から転写されたmRNAと機能欠失型変異を有するGFRA1遺伝子から転写されたmRNAが存在するヒト以外の哺乳動物個体を同定する工程とを含むことを特徴とする同定方法。
【請求項19】
前記哺乳動物個体がウシ個体であることを特徴とする、請求項18に記載の同定方法。
【請求項20】
請求項19に記載の同定方法であって、
前記機能欠失型変異が、配列番号1を有する前記GFRA1遺伝子のcDNAの1060番目の塩基における、CからTへのナンセンス変異であることを特徴とする同定方法。
【請求項21】
前肢帯筋異常症に罹患した哺乳動物個体において、GFRA1遺伝子が、前記前肢帯筋異常症の原因であるかどうかを決定する方法であって、
前肢帯筋異常症に罹患した哺乳動物個体、または、前肢帯筋異常症のキャリアである哺乳動物個体において、GFRA1遺伝子の塩基配列の一部または全部を決定する工程と、
決定された前記塩基配列と、野生型GFRA1遺伝子の塩基配列とを比較する工程と、
決定された前記塩基配列に機能欠失型変異が存在するか否かを決定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
ウシ個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのマーカーであって、
MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群から選択される1以上の塩基または塩基配列を有する単離されたポリヌクレオチドであることを特徴とする、マーカー。
【請求項23】
ウシ個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するためのキットであって、
MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群から選択される1以上を増幅するための1以上のプライマーペアを含むことを特徴とするキット。
【請求項24】
ウシ個体において、前肢帯筋異常症に罹患していること、または、前肢帯筋異常症のキャリアであることを診断するための診断方法であって、
前記ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群より選択される1つ以上のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含む診断方法。
【請求項25】
請求項24に記載の診断方法であって、
ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2630のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、
前記MOK2630のジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、
前記MOK2630のジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、
前記MOK2630のジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断する診断方法。
【請求項26】
請求項24に記載の診断方法であって、
ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、MOK2637のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、
前記MOK2637のジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、
前記MOK2637のジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、
前記MOK2637のジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断する診断方法。
【請求項27】
請求項24に記載の診断方法であって、
ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、SNP Bのジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、
前記SNP Bのジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、
前記SNP Bのジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、
前記SNP Bのジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断する診断方法。
【請求項28】
請求項24に記載の診断方法であって、
ウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、SNP Dのジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程を含み、
前記SNP Dのジェノタイプが疾患型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症の罹患個体であると診断し、
前記SNP Dのジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合である場合に、前記ウシ個体が前肢帯筋異常症のキャリア個体であると診断し、
前記SNP Dのジェノタイプが健常型のホモ接合である場合に、前記ウシ個体が健常個体であると診断する診断方法。
【請求項29】
前肢帯筋異常症のキャリアであるウシ個体の同定方法であって、
前肢帯筋異常症を発症していないウシ個体から単離されたゲノムDNAにおいて、
MOK2630、MOK2637、SNP B、およびSNP Dから成る群から選択される1以上のジェノタイプが健常型であるか疾患型であるかを調べる工程と、調べたジェノタイプが健常型と疾患型のヘテロ接合であるウシ個体を同定する工程を含むことを特徴とする同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−106553(P2013−106553A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253314(P2011−253314)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【特許番号】特許第5127004号(P5127004)
【特許公報発行日】平成25年1月23日(2013.1.23)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】