説明

哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地

【課題】 血清成分を含有せず、既知成分のみからなる哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地を提供する。
【解決手段】 本発明の哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地は、成分既知培地にポリビニルピロリドン、アスコルビン酸リン酸エステル、脂質類及びコレステロールを添加したことからなる。本発明の完全合成培地は、哺乳動物線維芽細胞に対して、血清添加培地と同等以上の増殖性能を有し、しかも動物生体由来成分を含有しないので、ウイルス感染などの問題を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地に関する。より詳細には、既知成分のみからなり、哺乳動物線維芽細胞の培養に好適な培地に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含めた哺乳動物線維芽細胞の培養には、MEM(Minimum Essential Medium)やDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)などの基本培地に胎仔牛血清(FBS;Fetal Bovine Serum)や仔牛血清(CS;Calf Serum)を5〜20%添加して培養することが一般的に行われている。しかし、動物血清には多くの未知成分が含まれていること、血清ロットにより成分の濃度にばらつきがあり、その結果として、細胞増殖活性など生物活性がロットにより大きく変動することが知られている。従って、優良ロットの血清を選択するために多くの労力と時間を費やさなければならない。また、外因性のウイルスやマイコプラズマ感染、BSEの原因となる異常プリオン感染のリスクなどがあり、血清など動物由来生体材料を全て排除した完全合成培地の使用が求められている。
ヒト線維芽細胞の培養については、1960年代に入ると、ヒト線維芽細胞は、染色体数が正常二倍体を維持して長期継代培養が可能であることがわかり、細胞老化研究のモデル細胞として研究者に利用されるようになった(例えば非特許文献1)。
その後、正常ヒト線維芽細胞は小児ポリオワクチン製造やインターフェロン-βの生産に最適の細胞として産業的応用にも活用されるようになった(例えば非特許文献2)。
【非特許文献1】HayflickとMoorhead, Exp. Cell Res., 25:585-621, 1961
【非特許文献2】小林茂保、バイオ医療品および産生細胞の品質・安全性評価法;エル・アイ・シー社発行、東京、pp149-pp157、1992
【0003】
1970年代後半から動物細胞の培養に血清を使わない無血清培養が試みられるようになった。しかし、線維芽細胞などの正常細胞は、癌細胞や樹立細胞に比べて無血清培養することが難しく、現在でも長期継代培養可能な完全合成培地の開発には至っていない。これまでの報告例としては、低い血清濃度で線維芽細胞を培養可能とするために、基本培地の低分子量成分(例えば微量金属の添加、pH安定化のための緩衝剤の添加、アミノ酸濃度の至適化など)を行った例が報告されている(例えば非特許文献3)。
さらに、牛血清アルブミンの他にタンパク質性細胞成長因子(EGF、トランスフェリン、トリヨードチロニンなど)を添加することにより無血清培養も可能となった(例えば非特許文献4)。
しかし、無血清培地と言いながらも、動物血清由来のトランスフェリンや牛血清アルブミンの添加が不可欠であり、これらの成分は単一試料ではなく、血清に存在する不純物を含んだ試料となっており、完全合成培地とはほど遠いものであった。その後も線維芽細胞における無血清培養の試みはなされているが、大半は血清培養した後に飢餓培養を目的とした無血清培地で、細胞増殖を停止させ、生存を維持することが目的の培地であった。細胞増殖を促進させる因子についてもいくつか報告されているが、微量血清を添加するか、または、不純物を含む血清タンパク質等を添加する必要があり、長期継代培養可能な完全合成培地の報告はない。
【非特許文献3】Mckeehanら、In Vitro、13:399-416、1977
【非特許文献4】Yamaneら、Exp. Cell Res., 134:470-474、1981
【0004】
近年再生医療としての細胞治療が注目を集め、熱傷、母斑、潰瘍、床擦れ、欠損、さらには美容整形を目的とした皮膚移植にヒト皮膚線維芽細胞の増殖培養の重要性が指摘されている。これらの培養に完全合成培地を用いることは、安定した生物活性を維持できるとともに、患者に応用するときに一番問題となる培地成分からの未知ウイルス等の感染を回避できる。皮膚移植に用いる培養真皮の作製には、線維芽細胞を増殖させるために市販の基本培地が用いられているが、この培地のみでは良好な細胞増殖を得ることは難しい。従って、動物由来血清などを用いて培養成績の向上をはかっているのが実情である。
【0005】
また、完全無血清培地において避けられない問題点として細胞成長因子等の高分子活性因子の保存容器に対する吸着等による活性低下が挙げられる。この問題は無血清培地における急速な性能低下の一因であり、保存性、品質保証の面で大きなデメリットであった。この問題を解決するために、通常血清もしくはアルブミン等の高分子物質の添加が行われている。しかしながら、前述のように、これら生体由来成分を用いることで、未知ウイルス、マイコプラズマ等の感染が懸念される、
さらに、アスコルビン酸は生体においてはコラーゲン合成促進作用を有するとともに、強力な抗酸化作用により細胞膜、及び細胞内部に発生する活性酸素による障害を低減していると考えられる。そこで、培地にアスコルビン酸を添加することが行われているが、この物質は培地中で酸化されやすく、寿命が短時間のため、生物活性が極めて不安定であることが問題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するものであり、本発明者らは、成分既知の基本培地に線維芽細胞の増殖を促進させる成分既知因子と最適濃度を特定し、これらの因子を添加した完全合成培地を作製し、試験したところ、この完全合成培地でヒト線維芽細胞を培養すると、血清添加培地と同等の細胞増殖活性が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地は、成分既知培地に、ポリビニルピロリドン、アスコルビン酸リン酸エステル、脂質類及びコレステロールを添加したことからなる。
上記の成分既知培地としては、下記の組成からなる培地(以下、HF80−7培地という)を使用するのが好ましい。
基本培地
Modified MEM 9400 mg/l
アミノ酸類
L−アスパラギン酸 13.3 mg/l
L−グルタミン 292 mg/l
グリシン 7.5 mg/l
L−グルタミン酸 0.15 mg/l
L−プロリン 3.5 mg/l
L−セリン 10.5 mg/l
ビタミン及びホルモン類
フォリン酸 0.00005 mg/l
ビタミンB12 0.2 mg/l
ビオチン 0.02 mg/l
ヒト組換型インスリン 5.0 mg/l
ヒト組換型上皮細胞増殖因子 0.01 mg/l
デキサメサゾン 10-7M
その他の有機物
プトレシン 2HCl 0.02 mg/l
ピルビン酸ナトリウム 110 mg/l
コリンクロリド 16 mg/l
チミヂン 0.07 mg/l
ヒポキサンチン 0.24 mg/l
微量元素
CuSO 5HO 0.0000025 mg/l
FeSO 7HO 0.8 mg/l
MnSO 7HO 0.0000024 mg/l
(NHMo24O 0.0012 mg/l
NiCl 6HO 0.000012 mg/l
NHVO 0.000058 mg/l
SeO 0.00039 mg/l
緩衝液
ヘペス 3300 mg/l
水酸化ナトリウム 300 mg/l
炭酸水素ナトリウム 1400 mg/l
【発明の効果】
【0008】
本発明の完全合成培地によれば、哺乳動物線維芽細胞を血清添加培地と同様に増殖させることができる。特に、動物生体由来の成分(即ち、動物生体から採取した成分)を含有せず、全てが既知成分で構成されるので、ロット間の変動がなく、さらに外因性のウイルスやマイコプラズマ感染、BSEの原因となる異常プリオン感染のリスクなどを完全に回避することができるという効果を奏する。従って、本発明の完全合成培地は、ヒト線維芽細胞を用いた小児ポリオワクチン製造、インターフェロン生産、皮膚移植用線維芽細胞増殖などにおける培地として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記のとおり、本発明の哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地は、成分既知培地に、ポリビニルピロリドン、アスコルビン酸リン酸エステル、脂質類及びコレステロールを添加した培地である。
上記の成分既知培地としては、哺乳動物線維芽細胞の増殖に有効であり且つ既知成分(即ち、動物生体由来の成分を含有しない)からなる培地である限り特に限定されない。より好ましくは、前述の組成からなるHF80−7培地を使用するのが好ましい。当該培地は既知成分で構成されると共に哺乳動物線維芽細胞の増殖に効果的な培地である。なお、HF80−7培地において、デキサメサゾンに代えてグルココルチコイドホルモン(例えばハイドロコルチゾンなど)を使用してもよい。
【0010】
本発明の完全合成培地は種々の哺乳動物線維芽細胞の増殖に使用することができるが、好ましくはヒト線維芽細胞の増殖に適しており、前述のとおり、ヒト線維芽細胞を用いた小児ポリオワクチン製造、インターフェロン生産、皮膚移植用線維芽細胞増殖などにおける培地として極めて有用である。
【0011】
本発明の完全合成培地は、有効成分としてポリビニルピロリドン(以下、PVPという)を含有する。当該PVPは、培地中の生理活性物質の容器への吸着を防止する効果を有し、さらに細胞に対する膠質浸透圧の維持効果をも有する。従って、PVPを含有することにより、安定かつ高性能培地の調製が可能となる。
係るPVPは既に公知の物質であり、その分子量は特に限定されないが、好ましくは高分子量(例えばMW360000)のものを使用する。PVPの添加量も特に限定されないが、0.01〜1%(w/v%、以下特に明示のない限り同様)程度、好ましくは0.1〜0.5%程度、より好ましくは0.3%程度に調整される。0.01%未満では添加効果が少なく、また0.3〜0.5%で十分に効果を奏するので1%を越える添加は必要としない。
なお、PVPは既に医薬品などとして使用されており、安全性の高い物質である。
【0012】
また、本発明の完全合成培地は、アスコルビン酸リン酸エステル(以下、P−AAという)を含有する。前述のように、アスコルビン酸は生体においてはコラーゲン合成促進作用を有するとともに、強力な抗酸化作用により活性酸素による障害を低減していると考えられるが、この物質は培地中で酸化されやすく、生物活性が極めて不安定であることが問題となっている。本発明においては、リン酸エステル(塩)とすることで安定化させる。
当該P−AAはフリー又は塩の形態で使用され、塩としては通常ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが使用される。
P−AAの含有量は特に限定されないが、通常0.01〜5mM程度、好ましくは0.1〜3mM程度、より好ましくは0.5〜2mM程度に調整される。0.01mM未満では十分な効果を得られず、また2mM程度で十分に効果を奏するので5mMを越える添加は必要としない。
【0013】
さらに、本発明の完全合成培地は、脂質類及びコレステロールを含有する。脂質及びコレステロールは、細胞の増殖にとって不可欠の成分である。細胞内では必須脂肪酸以外は基本的にアセチルCo-Aから生合成されるが、血清に含まれる遊離脂肪酸、コレステロール、リン脂質などは培養細胞の増殖にとって重要であることが知られている。遊離脂肪酸などでは主にアルブミンと、またリン脂質やコレステロールはアポリポタンパク質と結合して細胞内への輸送、安定化が図られており、培養液に添加する時もこれらのタンパク質との結合型として用いられる。しかし、前述のように、これらの結合タンパク質は生体由来成分であり、ウイルス感染の危険性や生物活性のロットによるばらつきも心配される。
本発明の完全合成培地においては、成分が既知の脂質類及びコレステロールを添加する。係る脂質及びコレステロールは、哺乳動物線維芽細胞が増殖するに必要なものを供給すれば足り、脂質としてはウイルス感染の危険性を回避するために植物由来の脂肪酸類が好適に使用され、またコレステロールとしては合成又は羊毛由来の精製コレステロールが好適に使用される。
より具体的には、好適な脂質及びコレステロールとしては、2μg/mlアラキドン酸、10μg/mlリノール酸、10μg/mlリノレン酸、10μg/mlミリスチン酸、10μg/mlオレイン酸、10μg/mlパルミチン酸、10μg/mlステアリン酸、0.22mg/mlコレステロール、2.2mg/ml Tween-80、70μg/ml酢酸トコフェロールを100mg/mlのPluronic F-68で乳化した脂質混合物乳剤(シグマ社製、以下、脂質混合物という)が例示できる。
上記の脂質混合物の使用量としては、培地に対して、500倍〜10000倍希釈(v/v)程度の範囲で添加される。100倍希釈より高濃度であると細胞障害を起こすおそれがあり、10000倍希釈を超えると効果が少なくなるおそれがある。
【0014】
本発明の完全合成培地は、上記の成分に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、必要に応じて慣用の既知成分を添加してもよい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は係る例に限定されるものではない。
なお、使用したヒト成人皮膚線維芽細胞(HDF-1細胞)は下記の方法で継代培養したものを使用した。
凍結保存していたヒト成人皮膚線維芽細胞(HDF-1細胞)は、37℃ウォーターバス中で融解し、1000回転で5分間の遠心操作を行い、凍結保護剤を除いた後、血清添加した完全増殖培地(HF-C1;機能性ペプチド研究所)の入った25 cm2培養フラスコ(Nunc)中で、37℃、5%CO、95%空気の条件下で培養を行った。培養3-4日目にコンフルエント(飽和状態)となったHDF-1細胞は、トリプシン処理して1:2又は1:4分割して継代培養を行い、細胞増殖実験には、継代6-10回の細胞を用いた。
【0016】
実施例1
HDF-1細胞の細胞増殖に及ぼすPVPの効果
継代培養したHDF-1細胞は、トリプシン処理後細胞浮遊液を作り、血球計算盤で細胞数を計測して、24ウェル培養プレートに1ウェル当り5×103個/0.5mlで播種した。
培地としてHF80−7を基本培地として用い、0、0.1%、0.3%、0.5%のPVP濃度で、37℃、5%CO、95%空気の条件下にて6日間培養した。培養後トリプシン処理をして細胞を分散させ、自動コールターカウンター(Beckman-Coulter)を用いて細胞数を計測した。
その結果を図1に示す。コントロール培地では、0.79±0.05(x104 cells/well)であったのに対して0.1% PVP(1.04±0.06x104 cells/well)、0.3% PVP(1.21±0.05x104
cells/well)、0.5% PVP(1.20±0.05x104 cells/well)と濃度依存的に増殖促進効果が見られ、0.3% PVPでほぼ最大値を示した。
【0017】
実施例2
HDF-1細胞の細胞増殖に及ぼす脂質混合物の効果
継代培養したHDF-1細胞は、トリプシン処理後細胞浮遊液を作り、血球計算盤で細胞数を計測して、24ウェル培養プレートに1ウェル当り5×103個/0.5mlで播種した。
培地として、0.3%PVPを含むHF80−7培地をコントロール培地として用い、さらに前記の脂質混合物を10000倍、1000倍、100倍希釈濃度 (v/v)で添加して、37℃、5%CO、95%空気の条件下で培養した。培養は7日間行い、培養後トリプシン処理をして細胞を分散させ、自動コールターカウンター(Beckman-Coulter)を用いて細胞数を計測した。なお、陽性対照培地としてHF-C1培地(機能性ペプチド研究所)を使用した。
その結果を図2に示す。コントロールでは1.36±0.04 (X104 cells/well)であったのに対して、脂質混合物を10000倍、及び1000倍希釈で添加した場合、それぞれ2.58±0.06、2.75±0.03 (X104cells/well)となり、脂質混合物のHDF-1細胞に対する増殖促進効果が認められた。一方、高濃度の100倍希釈濃度では、0.62±0.02(X104cells/well)となり、HDF-1細胞に対する増殖阻害が認められた。陽性コントロールのHF-C1培地での細胞数は9.02±0.29x104 cells/wellであった。
【0018】
実施例3
HDF-1細胞の細胞増殖に及ぼすP−AAの効果
継代培養したHDF-1細胞は、トリプシン処理後細胞浮遊液を作り、血球計算盤で細胞数を計測して、24ウェル培養プレートに1ウェル当り5×103個/0.5mlで播種した。
培地として、0.3%PVP及び1000倍希釈濃度の脂質混合物を含むHF80−7培地をコントロール培地として用い、P-AAを0〜2.0 mMの濃度で添加して、37℃、5%CO、95%空気の条件下で培養した。培養は7日間行い、培養後トリプシン処理をして細胞を分散させ、自動コールターカウンター(Beckman-Coulter)を用いて細胞数を計測した。
その結果を図3に示す。コントロールでは5.97±0.06 (X104 cells/well)であったのに対して、P-AA添加区では濃度依存的に細胞数は増加し、添加濃度1.0〜2.0 mMではほぼ最大細胞数に達し、P-AAに強力なHDF-1細胞増殖促進効果が認められた(1mM, 12.61±0.16 X104 cells/well; 2.0mM, 13.12±0.22 X104 cells/well)。
なお、この効果は長期間の培養及び、長期保存後における培地においても確認され、また、高濃度添加においても細胞毒性を示さないことからHDF-1細胞の無血清培養に有効な物質であることが確認された。
【0019】
実施例4
本発明の完全合成培地と血清培地(DME+10% FBS、HF-C1)におけるHDF-1細胞に対する細胞増殖
継代培養したHDF-1細胞は、トリプシン処理後細胞浮遊液を作り、血球計算盤で細胞数を計測して、24ウェル培養プレートに1ウェル当り5×103個/0.5mlで播種した。
培地として、
基本培地(HF80-7)に0.3%PVP、1000倍希釈脂質混合物及び1mM P-AAを添加した本発明の完全合成培地;
通常ヒト線維芽細胞の増殖用血清添加培地として用いられるDME+10%FBS培地;及び
HF-C1培地;
における細胞増殖能を比較した。培養は、37℃、5%CO、95%空気の条件下で7日間行い、培養後トリプシン処理をして細胞を分散させ、自動コールターカウンター(Beckman-Coulter)を用いて細胞数を計測した。
その結果を図4に示す。本発明の完全合成培地(14.22±0.53x104 cells/well)、DME+10%FBS(12.53±0.62x104 cells/well)、HF-C1(13.1±0.25x104 cells/well)となり、細胞数は3者で大きな違いは認められなかったが、本発明の完全合成培地>HF-C1>DME+10%FBSの順となった。
このように本発明の完全合成培地は、血清添加培地と同等以上の増殖性能を有することが判明した。また、本発明の完全合成培地でも細胞播種直後の培養器への接着性は、血清添加培地と同様に良好であった。
【0020】
実施例5
本発明の完全合成培地及び血清添加培地(DME+ 10%FBS)で3日間培養した後の培養形態
実施例4で使用した本発明の完全合成培地と血清培地(DME+10% FBS)で3日間培養した後のHDF-1細胞の形態像を図5に示す。どちらの培地で培養した細胞も線維芽細胞に特徴的な単層で紡錘状の形態を示した。また、コンフルエント状態では接触阻害がかかり、異常な凝集塊の形成も観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】HDF-1細胞の細胞増殖に及ぼすPVPの効果を示す図である。
【図2】HDF-1細胞の細胞増殖に及ぼす脂質混合物の効果を示す図である。
【図3】HDF-1細胞の細胞増殖に及ぼすP−AAの効果を示す図である。
【図4】本発明の完全合成培地と血清培地(DME+10% FBS、HF-C1)におけるHDF-1細胞に対する細胞増殖を示す図である。
【図5】本発明の完全合成培地及び血清添加培地(DME+ 10%FBS)で3日間培養した後の培養形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分既知培地に、ポリビニルピロリドン、アスコルビン酸リン酸エステル、脂質類及びコレステロールを添加したことを特徴とする哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地。
【請求項2】
成分既知培地が下記の組成からなる培地である請求項1記載の哺乳動物線維芽細胞用完全合成培地。
基本培地
Modified MEM 9400 mg/l
アミノ酸類
L−アスパラギン酸 13.3 mg/l
L−グルタミン 292 mg/l
グリシン 7.5 mg/l
L−グルタミン酸 0.15 mg/l
L−プロリン 3.5 mg/l
L−セリン 10.5 mg/l
ビタミン及びホルモン類
フォリン酸 0.00005 mg/l
ビタミンB12 0.2 mg/l
ビオチン 0.02 mg/l
ヒト組換型インスリン 5.0 mg/l
ヒト組換型上皮細胞増殖因子 0.01 mg/l
デキサメサゾン 10-7M
その他の有機物
プトレシン 2HCl 0.02 mg/l
ピルビン酸ナトリウム 110 mg/l
コリンクロリド 16 mg/l
チミヂン 0.07 mg/l
ヒポキサンチン 0.24 mg/l
微量元素
CuSO 5HO 0.0000025 mg/l
FeSO 7HO 0.8 mg/l
MnSO 7HO 0.0000024 mg/l
(NHMo24O 0.0012 mg/l
NiCl 6HO 0.000012 mg/l
NHVO 0.000058 mg/l
SeO 0.00039 mg/l
緩衝液
ヘペス 3300 mg/l
水酸化ナトリウム 300 mg/l
炭酸水素ナトリウム 1400 mg/l

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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