説明

哺乳類に適用される出産率向上促進剤、哺乳類に適用される精神安定剤、および家畜用飼料

【課題】家畜やペット等を含む哺乳類の受胎や分娩の確率を高めることが可能な、哺乳類に適用される出産率向上促進剤を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明にかかる出産率向上促進剤は、イソプレノイド化合物を含有することを特徴としている。より具体的には、このイソプレノイド化合物は、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類に適用される出産率向上促進剤、哺乳類に適用される精神安定剤、および家畜用飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜産やペットブリーダー等の動物飼育業界においては、「母親一頭あたりの出産率(分娩率)」を向上させることが、最も重要な課題の一つである。この出産率の向上を達成するためには、分娩時の事故を防ぎ、母子の成育の増進を図ることと共に、妊娠する確率を高めることが重要である。
【0003】
従来技術においては、出産率を高める繁殖用飼料として、EPA,DHA等のn−3系多価不飽和脂肪酸や、ビタミンEの配合が有効なことが知られているが、さらなる出産率の向上が望まれている。また、従来技術においては、オリゴ糖を主成分とする糖類を含有する飼料も知られている。
【0004】
さらに、ペット等の飼育に当たり、吠える、咬みつく等の攻撃的な性格を有するペットについては、拘束、電気ショック法等が使用される場合があるが、これは、動物愛護の観点から望ましくなく、よりペットに優しい飼育方法等の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−23889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであって、家畜やペット等を含む哺乳類の受胎や分娩の確率を高めることが可能な、哺乳類に適用される出産率向上促進剤を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであって、家畜やペット等を含む哺乳類の精神状態を安定化させ(リラックス効果を有し)、攻撃的な行動を抑制することが可能な、哺乳類に適用される精神安定剤を提供することを課題とする。
【0008】
さらに、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであって、家畜の受胎や分娩の確率を高めると共に、精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制可能な、家畜用飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その第一態様にかかる出産率向上促進剤は、イソプレノイド化合物を含有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の第二態様にかかる出産率向上促進剤は、上記第一態様にて、前記イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質であることを特徴としている。
【0011】
さらに、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その第三態様にかかる精神安定剤は、イソプレノイド化合物を含有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の第四態様にかかる精神安定剤は、上記第一態様にて、前記イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質であることを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明にかかる出産率向上促進剤の使用方法としては、家畜やペットに投与する場合、飼料中に0.0001%〜5%程度のイソプレノイド化合物を混合する方法が好ましい。より好ましいのは、飼料中に0.01%〜0.1%程度のイソプレノイド化合物を混合する方法である。より具体的には、例えば、ゲラニルゲラノイン酸を飼料中に0.05%〜0.06%程度混入させて、家畜やペットに投入する方法が好ましい。
【0014】
また、本発明にかかる精神安定剤の使用方法としては、家畜やペットに投与する場合、飼料中に0.0001%〜5%程度のイソプレノイド化合物を混合する方法が好ましい。より好ましいのは、飼料中に0.01%〜0.1%程度のイソプレノイド化合物を混合する方法である。より具体的には、例えば、ゲラニルゲラノイン酸を飼料中に0.05%〜0.06%程度混入させて、家畜やペットに投入する方法が好ましい。
【0015】
さらに、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その第五態様にかかる家畜用飼料は、イソプレノイド化合物と飼料本体とを混合した家畜用飼料であって、前記イソプレノイド化合物が、0.0001%〜5%混合されていることを特徴としている。より具体的には、前記イソプレノイド化合物が、0.05%〜0.06%混合された構成が好ましい。
【0016】
この家畜用飼料は、前記イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質であることが好ましい。
【0017】
また、この家畜用飼料を構成する際には、イソプレノイド化合物(例えば、ゲラニルゲラノイン酸)の安定性を高めるため、マイクロカプセルを利用したり、ビタミンE等の酸化防止剤等と併用したりすることが好ましい。
【0018】
また、上述した出産率向上促進剤や精神安定剤をヒトに適用する場合(例えば、これらを健康食品として用いる場合)には、食用油へ混合して使用したり、ソフトカプセル等を用いたりして、適切に摂取可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、家畜やペット等を含む哺乳類の受胎や分娩の確率を高めることが可能な、哺乳類に適用される出産率向上促進剤を得ることができる。また、本発明によれば、家畜やペット等を含む哺乳類の精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制することが可能な、哺乳類に適用される精神安定剤を得ることができる。さらに、本発明によれば、家畜の受胎や分娩の確率を高めると共に、精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制可能な、家畜用飼料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかる第一実施例の実験時に使用した第一比較用飼料(CE−2)および第二比較用飼料(CA−1)の主な組成成分(およびその配合量)を示した表である。
【図2】本発明の実施形態にかかる第一実施例におけるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いてマウスを飼育した場合の出産率の違いを示した表である。
【図3】本発明の実施形態にかかる第一実施例におけるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いてマウスを飼育した場合の平均離乳仔数および生産指数の違いを示した表である。
【図4】本発明の実施形態にかかるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いて飼育した場合におけるマウスの行動の違いを示した表である。
【図5】マウスの頭部概略図および脳内部分拡大図(海馬の拡大図)を示したものである。
【図6】本発明の実施形態にかかるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いて飼育した場合におけるマウスの海馬の部分拡大模式図(BDNFの局在と発現量)を示したものであり、図6(a)は第一比較用飼料(CE−2)にて飼育した場合、図6(b)は第二比較用飼料(CA−1)にて飼育した場合、図6(c)は実施例飼料(CE−2+GGA)にて飼育した場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、イソプレノイド化合物の一つであるゲラニルゲラノイン酸の生理作用を検討する過程で、ゲラニルゲラノイン酸が、動物(哺乳類)の分娩率(出産率)を高めること、また、その動物(哺乳類)の攻撃性抑制に効果的であること(哺乳類の精神を安定化させること)をはじめて見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
以下、実施例および試験例に基づき、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
<第一実施例>
この第一実施例においては、イソプレノイド化合物を出産率向上促進剤として用いる場合について説明する。より具体的には、イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸である場合について説明する。
【0024】
本実施例においては、日本エスエルシー株式会社(静岡)より購入したAKR/J系マウスを用い、食餌条件を変えて繁殖実験を行った。食餌条件を変える方法としては、三つの飼料を用意した。
【0025】
まず、第一比較用飼料として、日本クレア株式会社(東京)製のマウス飼育用飼料(ペレット状)(以下「CE−2」という。)を用意し、第二比較用飼料として、日本クレア株式会社(東京)製のマウス繁殖用飼料(ペレット状)(以下「CA−1」という。)を用意した。加えて、本実施例にかかる出産率向上促進剤を含んだ飼料(本発明の「家畜用飼料」に相当、以下「実施例飼料」という。)として、CE−2(本発明の「飼料本体」に相当)にイソプレノイド化合物の一つであるゲラニルゲラノイン酸(GGA:geranylgeranoic acid)を0.06%混合した飼料(以下「CE−2+GGA」という。)を用意した。
【0026】
実験を行うに際して、それぞれ同様の初期条件となるべく、マウスを三つのグループに分けた。具体的には、6〜8週齢のマウスの雌2匹および雄1匹を一つのプラスティックケージに入れて一つの単位グループを形成させ、この単位グループを複数準備した。そして、これらの複数の単位グループを大きく三つのグループに分けた(以下、それぞれを「Aグループ」「Bグループ」「Cグループ」ともいう。)。本実施においては、それぞれのグループが4〜5程度の単位グループにて構成されている。
【0027】
各グループには、水および三つの内の一つの飼料(それぞれ異なる飼料)を自由摂取で一週間与えて飼育した後、雌マウスを一匹毎に個別のプラスティックケージで三週間飼育した。その際、与える飼料は、はじめに与えた飼料のものをそれぞれ変更せずに継続して与えた。本実施例においては、Aグループに「第一比較用飼料(CE−2)」を与え、Bグループに「第二比較用飼料(CA−1)」を与え、Cグループに「実施例飼料(CE−2+GG)」を与えた。
【0028】
さらに約三週間後(20〜23日後)、出産が確認されたプラスティックケージにおいては、離乳期(出産後3週間)まで、飼料の種類は変更せず、同じ飼料を継続して与えた。
【0029】
ここで、図1は、本実施例にかかる第一比較用飼料(CE−2)および第二比較用飼料(CA−1)の主な組成成分(およびその配合量)を示した表である。
【0030】
この図1から明らかなように、第一比較用飼料(CE−2)と第二比較用飼料(CA−1)の組成は類似した部分が多いが、その組成成分中において、多価不飽和脂肪酸のEPA、DHAの含量が特に異なる。具体的には、第二比較用飼料(CA−1)の方が、第一比較用飼料(CE−2)との対比において、多価不飽和脂肪酸のEPA、DHAが略二倍量含まれている。
【0031】
これらの比較用飼料(CE−2、CA−1)に対して、本実施例にかかる実施例飼料(CE−2+GGA)は、マウス飼育用飼料である第一比較用飼料にGGAを混合して構成されている。具体的には、実施例飼料は、第一比較用飼料に0.05%〜0.06%のGGAを混合して構成されている。
【0032】
上述した第一実施例のように、三種類の飼料を用いてマウスを飼育した場合の出産率を比較したものが図2である。すなわち、図2は、本発明の第一実施例におけるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))による出産率の違いを示した表である。ここで、出産率は、以下の<式1>で計算される。
<式1>
出産率=出産親数/交配数×100
【0033】
この図2から明らかなように、マウス飼育用飼料である第一比較用飼料(CE−2)を用いてマウスを飼育した場合には出産率が20%であるのに対して、マウス繁殖用飼料である第二比較用飼料(CA−1)を用いてマウスを飼育した場合には出産率が50%と有意に高くなった。
【0034】
これに対し、本実施形態にかる実施例飼料(CE−2+GGA)を用いてマウスを飼育した場合には、第二比較用飼料(CA−1)よりも高い出産率を示すことが明らかとなった。具体的には、実施例飼料(CE−2+GGA)を用いた場合、62.5%という高い出産率を示す結果となった。
【0035】
図3は、本発明の第一実施例におけるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いてマウスを飼育した場合の平均離乳仔数および生産指数の違いを示した表である。ここで、平均離乳仔数および生産指数は、以下の<式2>および<式3>で計算される。
<式2>
平均離乳仔数=離乳仔数/出産親数
<式3>
生産指数=離乳仔数/交配数
【0036】
この図3から明らかなように、母親1匹あたりの離乳仔の数(平均離乳仔数)は、三つの飼料間にて(飼料の違いによって)それ程大きな差は見受けられない。但し、その中でも、実施例飼料(CE−2+GGA)を用いて飼育した場合の方が、他の二つの比較用飼料を用いて飼育した場合よりも、やや高い傾向(平均離乳仔数=6.8匹)を示すことが明らかとなった。
【0037】
上記のように、平均離乳仔数では大きな差はなかったが、交配数あたりの離乳仔数、すなわち生産指数で比較すると、顕著な差を有することが明らかとなった。具体的には、図3に示すように、第一比較用飼料(CE−2)を用いてマウスを飼育した場合の生産指数が1.2匹であるのに対して、第二比較用飼料(CA−1)を用いてマウスを飼育した場合の生産指数は2.5匹と、略二倍となった。また、実施例飼料(CE−2+GGA)を用いてマウスを飼育した場合には、さらに生産指数が向上し、4.25匹となった。
【0038】
本実施例によれば、図2および図3の結果から、イソプレノイド化合物(の一つであるGGA)が哺乳類の受胎や分娩の確率を高める出産率向上促進剤として効果的に機能し得ることが明らかとなった。また、本実施例によれば、イソプレノイド化合物(の一つであるGGA)と飼料本体(CA−1)を混合させた実施例飼料(本発明の「家畜用飼料」に相当)は、家畜の受胎や分娩の確率を効果的に高めることが明らかとなった。
【0039】
<第二実施例>
次に、本実施形態の第二実施例について説明する。この第二実施例においては、イソプレノイド化合物を精神安定剤として用いる場合について説明する。より具体的には、イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸である場合について説明する。
【0040】
この第二実施例によって行われる実験は、基本的に先に説明した第一実施例と同様である。すなわち、第一実施例にて行われた繁殖実験に基づいて、以下の結果を得ることができた。
【0041】
本実施例においては、上記実験におけるマウスの飼育期間中、飼育時に用いられるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))の違いによって、床敷きの交換時におけるマウスの行動に顕著な差異が認められた。その結果を図4に示す。
【0042】
図4は、本発明の実施形態にかかるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いて飼育した場合におけるマウスの行動(床敷きの交換時におけるマウスの行動)の違いを示した表である。
【0043】
この図4から明らかなように、第一比較用飼料(CE−2)あるいは第二比較用飼料(CA−1)を用いて飼育した場合、床敷きの交換時において、マウスは、飛び跳ねたり、人の手を攻撃したりする行動を示すことが数回あった。
【0044】
これに対し、実施例飼料(CE−2+GGA)を用いてマウスを飼育した場合、床敷きの交換時であっても、飛び跳ねたり、人の手を攻撃したりする行動を示すことが少なかった。
【0045】
すなわち、第一比較用飼料(CE−2)あるいは第二比較用飼料(CA−1)でマウスを飼育した場合には、床敷きの交換時に、飛び跳ねたり、人の手を攻撃したりする頻度が数回あるのに対し、実施例飼料(CE−2+GGA)で飼育した場合のみ、飛び跳ねることが少なく、人の手にもすぐなれて、全く攻撃反応を起こさなかった。つまり、実施例飼料(CE−2+GGA)を用いて飼育したマウスには、攻撃性の低下が認められた。
【0046】
このような結果(攻撃性の低下)を得ることができた理由について、本発明者らは、種々の検討を重ねた。その結果、マウスの脳の発達状態が、その要因であることに想到した。以下、具体的に説明する。
【0047】
先にも説明したように、本実施形態においては、分娩した後、授乳期間についても、母親の飼料として継続的に、第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、あるいは実施例飼料(CE−2+GGA)を与えた。
【0048】
そして、生後一週齢のマウスの脳を摘出し、Cryo−embedding compoundにて包埋後、凍結切片を作製し、抗BDNF(brain−derived neurotrophic factor:脳細胞由来神経栄養因子)抗体を用いた蛍光抗体法により染色し、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡にて、BNDFの局在と発現量を観察した。
【0049】
ここで、図5は、マウスの頭部概略図および脳内部分拡大図(海馬の拡大図)を示したものである。
【0050】
この図5においては、マウスMの頭部概略図(マウスMの頭部内の脳B、および脳Bを構成する海馬H)と、このマウスMの脳Bを構成する(脳領域の一つである)海馬Hの部分拡大図とが示されている。この図5に示した海馬Hにおいては、海馬の神経ネットワークが簡略化して記載されており、ハッチを付記した部分が、歯状回DGとアンモン角CA(CA1,CA3)とを示している。
【0051】
図6は、本発明の実施形態にかかるそれぞれの飼料(第一比較用飼料(CE−2)、第二比較用飼料(CA−1)、実施例飼料(CE−2+GGA))を用いて飼育した場合におけるマウスMの海馬Hの部分拡大模式図(BDNFの局在と発現量)を示したものである。ここで、図6(a)は第一比較用飼料(CE−2)にて飼育した場合、図6(b)は第二比較用飼料(CA−1)にて飼育した場合、図6(c)は実施例飼料(CE−2+GGA)にて飼育した場合を示している。すなわち、上述したBDNFの局在と発現量を観察した結果が、この図6である。
【0052】
図6に示したように、記憶の中枢と考えられている海馬Hの歯状回DGおよびアンモン角CA1,CA3の神経細胞である顆粒細胞および錐体細胞に、BNDFの局在が観察された。その結果、第一比較用飼料(CE−2)を与えた場合(図6(a)参照)と比べて、第二比較用飼料(CA−1)を与えた場合(図6(b)参照)の方が、顆粒細胞および錐体細胞におけるBDNFの発現量が若干増加していた。
【0053】
これに対し、実施例飼料(CE−2+GGA))を与えた場合(図6(c)参照)には、第一比較用飼料(CE−2)あるいは第二比較用飼料(CA−1)を与えた場合と比較して、顆粒細胞および錐体細胞におけるBDNFの発現量が大きく増加していた。これは、特に、歯状回顆粒細胞において顕著であった。
【0054】
BDNFは、神経細胞のアポトーシスを抑制する因子として知られており、脳の発達の重要な時期におけるBDNFの発現量の増加は、脳の健全な発達を保障するものとして重要である。つまり、図6に示すように、本実施例によれば、実施例飼料(CE−2+GGA)を与えることによって、BDNFの発現量を増加させることが可能となる。そうすることによって、脳の健全な発達を図り、マウスの精神状態を安定化させ、攻撃行動を抑制することができる。
【0055】
本実施例によれば、図6の結果から、イソプレノイド化合物(の一つであるGGA)が哺乳類の精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制することが可能な、精神安定剤として効果的に機能し得ることが明らかとなった。また、本実施例によれば、イソプレノイド化合物(の一つであるGGA)と飼料本体(CA−1)を混合させた実施例飼料(本発明の「家畜用飼料」に相当)は、家畜の精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制可能であることが明らかとなった。
【0056】
以上のことから、本実施形態においては、家畜やペット等を含む哺乳類の受胎や分娩の確率を高めることが可能な、哺乳類に適用される出産率向上促進剤を得ることができる。また、本実施形態によれば、家畜やペット等を含む哺乳類の精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制することが可能な、哺乳類に適用される精神安定剤を得ることができる。さらに、本実施形態によれば、家畜の受胎や分娩の確率を高めると共に、精神状態を安定化させ、攻撃的な行動を抑制可能な、家畜用飼料を得ることができる。
【0057】
<その他の実施形態>
なお、本発明は、上記実施形態(実施例)に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で必要に応じて種々の変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
上記実施形態においては、イソプレノイド化合物の一つとしてゲラニルゲラノイン酸を用いる場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。したがって、例えば、イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質であればよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、ゲラニルゲラノイン酸の製造方法等は特に説明しなかったが、本発明は何等かの製造方法に限定されない。したがって、例えば、ゲラニルゲラノイン酸の取得方法としては、何等かの化学的製法にて化合物として取得してもよいし、ハーブ等からの天然成分として取得してもよい。ハーブには色々な種類があり、例えば、ウコン、五味子、パセリ、レモングラス等のハーブを使用することが好ましく、ウコン、バジルを用いることがより好ましい。
【0060】
さらに、上記実施形態においては、家畜用飼料を構成する飼料本体として、CE−2を用いる場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。したがって、例えば、家畜用飼料を構成する飼料本体として、固形、粉末、あるいは液体から選択された少なくとも一つを用いてもよい。
【0061】
また、上記実施形態においては、家畜用飼料を構成するイソプレノイド化合物としては、ゲラニルゲラノイン酸を用いる場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。したがって、例えば、イソプレノイド化合物としては、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つを用いてもよい。
【0062】
さらに、上記実施形態においては、マウスについて使用する場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されず、必要に応じて、他の哺乳類にも適用可能である。上述した出産率向上促進剤や精神安定剤をヒトに適用する場合(例えば、これらを健康食品として用いる場合)には、食用油へ混合して使用したり、ソフトカプセル等を用いたりして、ヒトが適切に摂取可能とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
畜産やペットブリーダー等の動物飼育業界においては、「母親一頭あたりの出産率(分娩率)」を向上させることが、最も重要な課題の一つであり、この出産率の向上を達成するために、従来から種々の手段が講じられている。しかしながら、現在のところ、これといった解決案は見出されていない。
【0064】
また、ペット等の飼育においては、吠える、咬みつく等の攻撃的な性格を有するペットに関する、より優しい飼育方法等の開発が求められている。
【0065】
本発明者らは、上記従来技術の問題を解決すべく、イソプレノイド化合物(特にゲラニルゲラノイン酸)を用いて、出産率の向上を実現する出産率向上促進剤を得ると共に、ペットの攻撃性を抑制可能な精神安定剤を得ることができた。加えて、本発明者らは、イソプレノイド化合物(特にゲラニルゲラノイン酸)を用いて、上記従来技術の問題を解決可能な家畜用飼料を得ることができた。
【0066】
すなわち、本発明者らは、イソプレノイド化合物(特にゲラニルゲラノイン酸)を用いて構成される、出産率向上促進剤、精神安定剤、および家畜用飼料を提供することにより、動物飼育業界において、画期的な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
M…マウス
B…脳
H…海馬
DG…歯状回
CA(CA1,CA3)…アンモン角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレノイド化合物を含有することを特徴とする、哺乳類に適用される出産率向上促進剤。
【請求項2】
前記イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質である
請求項1に記載の哺乳類に適用される出産率向上促進剤。
【請求項3】
イソプレノイド化合物を含有することを特徴とする、哺乳類に適用される精神安定剤。
【請求項4】
前記イソプレノイド化合物が、ゲラニルゲラノイン酸、ファルネソイン酸、ゲラニルゲラニルアミン、ファルネシルアミン、ゲラニルアミン、ゲラニルゲラニオール、ゲラニルゲラニアール、ゲラニルゲラニルピロリン酸、および4,5−ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸から選択された少なくとも一つの物質である
請求項3に記載の哺乳類に適用される精神安定剤。
【請求項5】
イソプレノイド化合物と飼料本体とを混合した家畜用飼料であって、
前記イソプレノイド化合物が、0.0001%〜5%混合されている
ことを特徴とする家畜用飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−207802(P2011−207802A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76423(P2010−76423)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【Fターム(参考)】