説明

唾液代替剤

本発明の対象は卵白をもとに作られる、ヒトの生唾液に似た、化学的、流動学的ならびに生理学的な特性を示す唾液代替剤である。本発明はこの剤の利用と調製品にも関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は卵白から生成されるヒトの唾液の代替剤に関する。
【0002】
本発明はまたその利用と調製品にも関係する。
【背景技術】
【0003】
唾液欠乏症あるいは口内乾燥症は咽頭口腔圏領域に望ましくない大きな影響を広範にもたらす病理である。その原因は、免疫疾患、多様な薬剤の副作用、老化、閉経、あるいはまた、放射線療法による口腔咽頭のがん治療など複数ある。この病理は、精神的うつ作用と同時に発声の問題から食欲不振までの重大な結果を招き得る口腔乾燥をもたらす。
【0004】
口内乾燥症により生じるこれらの極めて厄介な問題は良く知られているが、現在、口腔内雰囲気の再均衡を図ることが出来る満足すべき治療法は存在しない。
【0005】
唾液欠乏症により生ずる口腔乾燥に対抗するための解決策の一つは人工唾液の投与である。
【0006】
唾液は口腔と咽頭の粘膜に水分を与え、発声、噛み込み、飲み込みを助ける生物学的な液体である。唾液には殺菌の作用や食道保護の作用もある。
【0007】
唾液は大部分が水で構成される非常に特殊で複合的でかつ複雑な培地である。この培地は、特に、高分子量粘素タンパク質、グロブリン、グルコプロテイン、酵素、ミネラル分、抗伝染防護を仲介する混合物の外分泌唾液腺を通じて合成される血漿組成ならびに物質の媒介体を同時に反映したものでもある。そのバランスが取れた多機能な組成は、様々な成分間が絶えず仲介され、微妙でかつ繊細な相互作用が考慮された、唾液に忠実でかつ安定的な再現が困難である。
【0008】
唾液作用の代替えを目的とする生成物がある一定数存在する。
【0009】
例えば、ミネラル塩、ソルビトールならびに水をベースにした生成物が知られている。
【0010】
また、主として抽出系あるいは合成系の重合物質、ポリオール、ならびにその安定性がこの雰囲気内で一定しない酵素が含まれるゲルも引用できる。
【0011】
その他の調合は、特に、そのポリエチレン酸化物ベースの合成活性成分の形態をなす。
【0012】
既に乾燥してしまい炎症を起こしている粘膜に塗布される、活性基質が構成される余地の少ない生物学的交換を促進する脂質フィルムを構成する酸化グリセロールトリエステル(Aequasyal(登録商標)から構成される生成物も存在する。
【0013】
最後に、ブタの胃から抽出された粘素が唾液の粘素作用の再現を試すためにミネラルならびにポリオールと組み合わせて利用された。
【0014】
これらの生成物はすべて、ヒトの唾液の粘膜保護作用ならびに生物学的作用の流動学的な複雑性からは極めてかけ離れている。これらは様々な組成と挙動を示すことにより、これらの概略とはいえ複雑で等価な機能性を提供することも口腔生体恒常性に関与することも困難となる。
【0015】
尚、この問題を扱った特許請求と特許も知られている。
【0016】
すなわち、米国特許請求US 2005/0226822には、卵白からとれるオボムチンが含まれるヒトの唾液代替剤が説明されている。この請求は専ら卵全体から白味成分以外を除いた卵白混合物の利用だけを考えたものである。
【0017】
国際特許請求WO 99/04804は病原体成分が投与された動物から得られる牛乳あるいは卵からの免疫分泌物の利用に関するものである。この特許文書は口内乾燥症だけでなく虫歯あるいは口内炎も含めた用途を目的としている。この組成を得るのは簡単ではなく動物自体も含むライン配置が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許請求US 2005/0226822
【特許文献2】国際特許請求WO 99/04804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように、工業的な製造と生産の手段を用いた、ヒトの唾液に似た組成と品質を伴う人工唾液に関するニーズが存在する。
【0020】
以上が、本発明が容易に得ることができる生物学的培地をベースとした複雑な唾液の組成とバランスを真似た唾液代替剤の提案を目的とする理由である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このため、本発明は唾液代替剤を卵白から得ることを目的とする。
【発明の効果】
【0022】
この代替剤はヒトの唾液に似た化学的、流動学的ならびに生理学的特性を示す。
【0023】
卵白は、都合が良いことに、ほぼ全体が唾液成分と等価なバランスで類似した天然のタンパク混合物である。この点により保護能力が類似するだけでなく粘性も類似していて様々な成分との共存が可能となる。
【0024】
本発明のもう一つの利点によると、卵白はその組成の安定性が良く知られた天然の無菌培地である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、以降で、ある特定の容器への調製を通じた説明とともに、非限定的な特定の実施形態を通じて詳細に説明される。
【0026】
本発明による唾液代替剤には少なくとも卵白が含まれる。
【0027】
卵白はヒトの生理学上の器官を源泉とする唾液と類似した成分一式から構成されることにより、特に、ヒトの唾液に近い唾液代替剤の製造に応用される。
【0028】
卵白は安定した生成物である。
【0029】
ヒトの唾液はその粘性、つまりその粘膜や歯を保護する能力を与える高分子量タンパクから構成されると同時に、このタンパクにより歯のエナメル質にミネラルの交換と固定が確保される。これらのタンパクは主に粘素とイムノグロブリンA1グリコプロテイン酸である。
【0030】
卵白タンパクは性質、分子量や構造の点で唾液の構成タンパクと類似した物であって、特に、以下のものを挙げることができる。
すなわち、
・極めて大きな分子構造のタンパク54%に相当するオバルブミン、
・バクテリア繁殖を阻止して鉄原子を固定する12〜13%のオボトランスフェリン、
・プロテアーゼのインヒビターである11%のオボムコイド、
・分子量50KDaのオボインヒビターである、およそ5%のオボグロブリンG2、G3、オボフラボプ ロテイン、
・オバルブミン、オボトランスフェリン、ならびにリゾチームと相互に反応する、分子量の非常に大きな(210〜720KDa)粘素である3.5%のオボムチン、ならびに
・極めて高分子量(760〜900KDa)の0.5%のオボマクログロブリン
である。
【0031】
卵白には唾液に特有な酵素やリゾチームも含まれる。
【0032】
卵白のミネラル供給、特にNa/K比に関しては、ヒト唾液の要件に完全に合致している。さらに、カルシウム、リン、マグネシウム、硫黄、および塩素の供給は歯科口腔空間に必要とされるミネラル量を満足している。
【0033】
本発明のある実施形態によると、湿潤化、粘膜と歯の生物学的防護、物理化学的交換、組織の炎症緩和ならび酸性PH組織の中和PHによる再均衡化といった能力を増進する物質の卵白への添加が可能である。
【0034】
特に、唾液代替剤の粘性を調節できる物質の添加が可能である。実際、ヒトの唾液は泡立つと同時に空気が口腔内に自然に取り入れられて、表面活性現象により結合される空気と水の混合相が形成される。
【0035】
このように本発明による卵白をベースとした唾液代替剤には、1.25〜1.35ポイズの健康な口の粘性に近づけるため、1〜5ポイズの間で粘性を調節できると同時に16〜22ダイン/cm-1の表面張力を発生させる、少なくとも1種の物質が含まれる。
【0036】
この物質は次の中から選択されるのが好ましい。すなわち、
セルロース系派生物系:
・ナトリウムカルボキシメチルセルロース、
・イドロキシエチルセルロース、
・イドロキシプロピルセルロース、
・イドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒプロメロース、
・カルボキシメチルセルロース、
ゴム系:
・グアル、
・キサンタン、
・アラビアゴム重合体、
非セルロース系:
・アルギン酸およびその派生物、
・カルボキシビニル重合体、
・カルボマー、
・マクロゴール、
・ポリエチレングリコール、
・ゼラチン、
・ポビドン、
・ペクチン
【0037】
ヒアルロン酸あるいはソルビトール、マニトールなどのポリオールといったその他の重合体構造も選択可能である。
【0038】
唾液代替用途剤のニーズに応えるためには、口腔内雰囲気をpH中性に、さらに理想的には病理学的に酸性の口腔である、7近くに戻すためのpHの調整も大切である。実際、好ましくは7.5〜9の代替剤の軽くアルカリ性のpHによって、リゾチームのような天然起源の一定物質の安定性を保護できると同時に、口腔内pHを生理学上のレベルに緩衝できる。
【0039】
従って、本発明による卵白をベースにした唾液代替剤は、重炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムまたはオルトリン酸塩カルシウムをベースとした緩衝作用組成によって、好ましくはpHを7.5〜9の間に調整できる少なくとも一種の物質が含まれることになる。
【0040】
これらの元素には、特に口腔内乾燥症に関係した特別な欠陥を補う目的に充てられる特殊な補完剤が必要に応じて配合可能である。すなわち、特に、
・卵白のタンパクの大半内に既に存在するシアル酸またはNアセチルニューラミン酸、
・口腔雰囲気を柔和にすると同時に保護するために、水分固定センサーと粘膜保護剤の役割を発揮させることが可能である、すべての器官組織内に広く分散される分子のヒアルロン酸、
・培地のバクテリア、ウィルスならびに真菌症媒体に対する防御能力を高めるためのラクトフェリン、
・特に、その湿潤保持場面のためのソルビトールまたはマニトールのポリオール、
・これらの乾燥症口腔内で虫歯を助長する酸の形成を簡単な接触を通じて抑制する、特に、0.5〜1mg/lの服用量のカリウムまたはカルシウムフッ化物、
・特に、歯垢を構成するグルカンやバクテリアに作用するニームからの抽出物の天然抽出物、および/または
・歯槽膿漏とバクテリア繁殖の回避にも寄与する、虫歯を減らすホタル石や口臭を減らすポリフェノールに富んだ緑茶抽出物
である。
【0041】
リゾチームも、卵白にはすでに十分含まれてはいるけれども、必要に応じてロスを補給するため添加できる。
【0042】
本発明による唾液代替剤は生理学的にヒトの唾液組成に似た組成を有する。乾燥した口腔に、その鎮静化や生体恒常性の回復に欠かせない元素の供給目的で利用することも可能である点が有利である。
【0043】
従って、本発明により再現される唾液は唾液の欠乏を補足すると同時に修復する、および/または、唾液の不足する口内により多くの残留水分を維持するために有用である。
【0044】
本発明のある態様によると、唾液代替剤は液体あるいはゲルの形で提供できる。
【0045】
次に調合の一例が参考として挙げられる。すなわち、
・粉末卵白、0.5g、
・ソルビトール、1g、
・重炭酸ナトリウム、0.5g、
・炭酸カルシウム、0.5g、
・フッ化カリウム、0.0025mg、
・Natrosol(登録商標)250 HX ポリマー、0.5g、
・水100ml、
・味の中和に必要な量の芳香剤
【0046】
唾液代替剤は乾燥症口腔に唾液を塗布するために必要な量を供給できる2〜5mlの服用量単位で調製されるのが好ましい。
【0047】
組成安定性保護と酸素や光線の遮断の目的だけでなく患者による気軽な利用や、持ち運びの利便の目的で、「スティック」容器に調製できるのが好ましい。光や酸素を透過させない特殊な防水ケースの形のこれらの調製容器は、可塑性と金属性を合わせもった柔軟な外被から製作される。これらにより代替剤の物理化学的安定性が確保される。
【0048】
有利な方法では、この調製容器により持ち運びが簡単となると同時に唾液代替剤の簡便な利用が日中いつでも可能となる。
【0049】
口内乾燥症に羅患した人たちの行動予定に関して、ヒトの唾液に似た唾液代替剤の利用が非常に有効であるだけでなく、これらの人たちの安堵が得られることが分かる。
【0050】
1単位服用量の効果はおよそ1時間継続可能である。
【0051】
従って、本発明による唾液代替剤の1単位服用量の利用により、口内乾燥症を羅患した人たちが、例えば、良好な状況で容易に会話したり、あるいは食事を摂取することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白から製造されるヒトの生唾液に類似した化学的、流動学的、ならびに生理学的特性を示す唾液代替剤。
【請求項2】
卵白ならびに1から5ポイズまでの粘性が調整可能である少なくとも一種の物質が含まれることを特徴とする請求項1に記載の唾液代替剤。
【請求項3】
粘性ならびに泡立ち能力を調整可能な物質が高分子量の重合体および/またはヒアルロン酸および/またはポリオールであることを特徴とする請求項2に記載の唾液代替剤。
【請求項4】
卵白ならびに代替剤のpHを7.5から9までに調整可能である、少なくとも一種の物質が含まれることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の唾液代替剤。
【請求項5】
7.5から9までのpHの調整ならびに緩衝効果の構成が可能である物質が重炭酸塩と炭酸塩をベースとすることを特徴とする請求項4に記載の唾液代替剤。
【請求項6】
卵白ならびにリゾチーム、シアル酸、ヒアルロン酸、ラクトフェリン、ニーム抽出物、緑茶抽出物、ポリオールおよび/またはナトリウムまたはフッ化カルシウムが含まれることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の唾液代替剤。
【請求項7】
唾液欠乏症を治療する目的の請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の唾液代替剤の利用。
【請求項8】
唾液欠乏症の口内の残留水分を高度に維持する目的の請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の唾液代替剤の利用。
【請求項9】
金属性と可塑性のある柔軟な外被から製作される、2から5mlの単位服用量の光や酸素を通さない防水ケースの形態をなすことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の唾液代替剤を含んだ容器。

【公表番号】特表2010−501640(P2010−501640A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526154(P2009−526154)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051850
【国際公開番号】WO2008/025926
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(509056630)
【Fターム(参考)】