説明

唾液採取器具

【課題】唾液を簡単かつ迅速に、しかも低コストに採取できるようにする。
【解決手段】被検者から唾液を吸入する唾液採取部2、唾液をストック(貯蔵)する唾液チャンバ3、この唾液チャンバ3の前記唾液採取部2との接合部に設けられて唾液の逆流を防止する逆止弁4、唾液チャンバ3にストックされた唾液をろ過するろ過フィルタ6、ろ過された純粋唾液をストックするろ過液チャンバ5などからなり、唾液チャンバ3およびろ過液チャンバ5の内積を、ピストン棒7の押し,引き(または外力)を利用して変動可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、唾液を用いた生化学検査および健康診断検査の分野における唾液採取器具に関する。
【背景技術】
【0002】
唾液には、エイズなどの感染症、ストレス状態、細胞老廃度、潜血、消化力、女性ホルモンなどを反映する多くのマーカー成分が含まれており、これらは人間の疫病や健康状態に大きくかかわっている。これらの成分の絶対量やその変化度合いを検出することにより、健康状態の診断が可能となる。
生化学検査および健康診断検査の分野においては、検査対象試料として、血液、唾液、尿など、多数の選択肢があるが、その中でも、唾液は、採取時の肉体的、精神的苦痛が最も少なく、しかも、血液中の動態とある程度の相関を有している。
【0003】
以上のような背景から、唾液を検査対象としたマーケットは今後の広がりが非常に期待できる分野である。
ところで、唾液の検査においては、一般に唾液中の気泡や異物を除去して、純粋な唾液(純粋唾液ともいう)の状態とする前処理が必要である。この唾液の採取および前処理としては、例えば特許文献1〜3に示すものがあり、概略以下のような各種の方法に分類される。
【0004】
(1)まず、第1の方法としては、繊維質による採取方式がある。この方式は、
a)被検者に繊維質を噛んでもらい、繊維質に唾液を染み込ませ、
b)の繊維質から唾液を回収して回収溶液に移し、
c)遠心分離器などの計量器具にて、純粋唾液を抽出する。
という手順で実施される。上記手順のうち、b)以降の作業は全て、専門的な技術者により、専用器具および装置にて実施される。
(2)第2の方法としては、回収容器へ直接、唾液を吐き出す方式がある。この方式は、
a)被検者に、回収容器へ直接、唾液を吐き出してもらい、
b)容器内の唾液に対しては、上記(1)c)と同様にして処理する。
という手順で実施される。専門的な技術者、専用器具および装置の必然性も同様である。
【0005】
(3)第3の方法としては、唾液採取キットを用いる方法がある。この方式は、
a)キット内の簡易的な採取器具を用いて、被検者に、自分の唾液を採取してもらい、
b)これを所定の検査機関に輸送してもらい、
c)検査機関にて、上記(1)c)と同様にして処理する。
という手順で実施される。専門的な技術者、専用器具および装置の必然性も同様である。
【0006】
(4)第4の方法としては、唾液検査キットを用いる方法がある。この方式は、
a)キット内の簡易的な採取器具を用いて、被検者に、自分の唾液を採取してもらい、
b)被験者が、純粋唾液の抽出を行なう。
という手順で実施される。その後に、キット内の簡易的な検査器具を用いて、被験者が簡易検査まで行なうものである。
【0007】
(5)なお、実用化には至っていないが、研究レベルでは次のような方法が検討されつつある。
研究例1:唾液採取の段階から、気泡や異物の混入を抑制するアプローチとして、図3のようなスティック状唾液採取器具が検討されている。これは、唾液を吸引したり、被検者に吐き出させるのではなく、スティックを舐める動作だけにすることで、気泡や異物混入を低減しようとするものである。ただ、舐める動作だけだと採取量の確保が困難なため、その対策として、スティック先端部17に多数の貫通穴18を開け、唾液をトラップして溜める構造をとっている。しかし、トラップされた唾液がすぐに蒸発してしまうという難点がある。
【0008】
研究例2:上記研究例1の改良策として、図4のようなソケット付きスティック状唾液採取器具が検討されている。希釈の工程は、唾液の検査において、純粋唾液抽出の後に実施される工程の中でも、きわめて一般的な工程である。この研究例では、唾液採取から希釈までの工程を、同一の器具内で完了させるようにしている。つまり、ソケット19からスティック先端部17をスライドさせつつ引き出して舐め、スティック上の貫通穴18に唾液をトラップした後に、ソケット内に引き戻し、貫通穴の唾液を、ソケット内に予め内蔵して薄膜20で密封されている希釈液21の中に注入させる構造となっている。貫通穴内の唾液を流出させる手段としては、ソケット越しに外部から力を加える方式が検討されている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−009728号公報
【特許文献2】特開2002−181812号公報
【特許文献3】特開2003−014733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の従来の技術における、第1〜第3の唾液採取方法においては、いずれも、専門的な技術者を必要とするため、コスト高となることが課題となっている。また、第3の方法においては、輸送期間が介在するため、希釈唾液を検査しても、唾液の活性低下、劣化、変性などにより、採取された状態での生化学指標とは異なる値が出ることが懸念されるとともに、検査結果を被検者が得るには1〜2週間という長時間を要していた。更に、採取の際の行為が、人目のある場面で行なうには、被検者に抵抗感を与えることも、制約となっていた。
【0011】
第4の唾液採取方法は、比較的低コストであるが、被検者が実施すべき作業が煩雑であるため、被検者の負担が大きいことが課題となっている。また、被験者の作業習熟度が、検査精度に影響を及ぼす可能性を避けられない。
また、第5の唾液採取方法は、研究例1は上述の通り蒸発の問題を内在しており、研究例2については、貫通穴内の唾液を流出させる際に、ソケット越しに外部から力を加える装置の開発が必要であるが、具体化に至っていないのが現状である。
【0012】
この発明は、以上の問題に鑑みなされたもので、簡便・迅速・低コストな唾液採取器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、唾液の吸入口を有する唾液採取部と、採取された唾液をストックする第1のチャンバと、この第1のチャンバの前記唾液採取部との接合部に設けられて唾液の逆流を防止する逆止弁と、前記第1のチャンバにストックされた唾液をろ過するろ過フィルタと、ろ過された純粋唾液をストックする第2のチャンバとを備え、前記第1のチャンバおよび第2のチャンバの内積が外力よって変動可能に構成されてなることを特徴とする。
この請求項1の発明においては、前記ろ過フィルタは、第2のチャンバの隔壁で囲まれる面の少なくとも一部を覆うように配置することができる(請求項2の発明)。
【0014】
これら請求項1,2の発明によれば、下記のような利点が得られる。
唾液の採取・計量・希釈を、ひとつの器具の内部で完結させることができる。そのため、採取から純粋唾液の抽出に至るまでの全工程が連続的かつ簡易に実施可能となり、所要時間が短縮できる。また、遠心分離器などの他の装置を必要としないため、採取場所が限定されることがない。さらに、一連の工程が同一器具内で完了するため、工程途中における、外部からの異物混入を防止することができる。そのため、使用環境のクリーン度への配慮も不要となる。しかも、使用する器具が単数で済むため、ディスポーザブルの場合でも、廃棄物量を抑制しやすく、環境への負荷の軽減が期待できる。採取時の動作は、器具の先端の一部を口に含むだけで済むため、キャンディを舐めたり、口で測るタイプの体温計を使用する行為に近く、被検者の抵抗感を緩和できる。また、不透明な材料選定または塗装などにより、唾液が人目に触れずに済むような外観にすることも容易なので、被検者は人目を気にせずに使用できる。
【0015】
上記請求項1または2の発明においては、前記唾液採取部を針部に、前記逆止弁および第1のチャンバを円筒部に、前記ろ過フィルタおよび第2のチャンバをピストン棒にそれぞれ形成し、注射器を模した構造とすることができる(請求項3の発明)。
この請求項3の発明によれば、極めて単純な手の操作だけで全ての工程が完了するため、作業者の習熟度に関係無く純粋唾液の抽出が可能となる。
【0016】
また、上記請求項1〜3のいずれかの発明においては、前記第2のチャンバのろ過フィルタとは反対側の隔壁の少なくとも一部を開放し、第2のチャンバ内からの唾液の取り出しを容易にすることができる(請求項4の発明)。この請求項4の発明によれば、次の検査工程への移行が容易となる。
上記請求項1〜3のいずれかの発明においては、前記第2のチャンバの外部への開放部を可動自在のカバーにて覆い、第2のチャンバ内への唾液の流入を阻害しない程度の押圧力を与えるとともに、唾液が外部へ流出しないように保持することができる(請求項5の発明)。この請求項5の発明によれば、次の工程へ移行するまでの間に、外部からの異物混入を防止することができる。また、純粋唾液を内蔵したままの運搬が可能となるため、検査に特殊な装置を要する場合でも、採取場所を限定することなく対応可能である。
【0017】
請求項5の発明においては、前記カバーと第2のチャンバ本体との間を弾性体を介して結合し、密着性を確保することができる(請求項6の発明)。この請求項6の発明によれば、請求項5の発明の利点に加えてより密着性を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、簡便・迅速・低コストな唾液採取が可能となる。さらに、被検者の抵抗感、および外部からの異物混入への配慮が不要であるため、場所を限定せずに済むため、非常に広い選択肢を得られる。そのため、マーケット拡大が実現しやすいことが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1Aはこの発明の実施の形態を示す構成図で、唾液採取器具の構成を示す。
ここでは、注射器を模した構造を想定しており、ピストン棒7の内部に空隙部が形成された二重の筒型の構成となっている。
注射器内部に面するピストン棒7の先端にろ過フィルタ6を設け、ピストン棒7内部の空隙部をろ過チャンバ5とし、また、円筒部の注射器内部を唾液チャンバ3として使用し、注射器内部と注射器針部との間に逆止弁4を設け、注射器針部を唾液採取部2とし、さらには注射器針部の穴を吸入孔1とするものである。なお、ろ過フィルタ6は、ろ過液チャンバの隔壁で囲まれる面の全面または一部を覆うように配置するものとする。
【0020】
図1Bは図1Aからピストン棒7を引っ張った状態を示す。
図1Aにおいてピストン棒7を引っ張ると、逆止弁4が開いて唾液14が唾液チャンバ3の中に流入し、図1Bに示すように唾液が注射器内部に採取される。
続いて図1Cのように、吸入孔1を下側に向けてピストン棒7を押し込むと、逆止弁4が閉まって唾液チャンバ3の中の唾液が、ろ過フィルタ6により透過されてろ過液チャンバ5の中に流入し、これにより、気泡や異物などの無い純粋な唾液15が過液チャンバ5の中に抽出される。こうして、採取時に唾液内に混入していた気泡および異物16だけが、唾液チャンバ3内に残留する仕組みとなっている。
【0021】
また、注射器本体には縁8を、またピストン棒7には縁9を設けることにより、被験者が片手で容易にピストン棒の引き・押しの操作を行なうことができ、この操作によって唾液チャンバ3およびろ過液チャンバ5の内積が変動することになる。ろ過液チャンバ5は外部に対して上方に開放された構造となっているため、ピストン棒の押し込み後は、これを試験管チューブとして使用することができる。これにより、他の試験管チューブに移し替えることなく、速やかに次の検査工程に移行することができる。
【0022】
図1Aでは、唾液チャンバ3のろ過フィルタ6とは反対側を開放状態としたが、図2Aのようにすることができる。
これは、カバー10にカバー支柱11と、カバー10の反対側の先端にカバー支柱11の縁12を形成し、この縁12とピストン棒の縁9の間をスプリングなどの弾性体13によりで結合したものである。
従って、図2Aにおいてピストン棒7を引っ張ると、逆止弁4が開いて唾液14が唾液チャンバ3の中に流入し、図2Bに示すように唾液が注射器内部に採取される。このとき、カバー10がろ過フィルタ6を圧迫しないように、スプリング13の長さを設計するものとする。
【0023】
図2Bの状態に示すようにピストン棒7を引っ張った後に、図2Cのようにピストン棒7を押し込むと、ろ過液チャンバ5の中に純粋唾液15が流入してカバー10を圧迫するため、カバー10がその圧迫力によりスライドする。そのカバースライド時の抵抗は、唾液がカバー10を圧迫する力を阻害しない範囲となるように設計する。図2Cの状態では、スプリング13は伸びきった状態であるが、そのスプリング力により、カバー10とろ過液チャンバ5との密閉性を向上させている。このような構成により、ろ過液チャンバ内の唾液は、外部に流出することなく保持することができ、外部からの遺物混入を防止することができる。なお、以上では、注射器型のものについて説明したが、これに限らないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】この発明の実施の形態を示す構成図
【図1B】図1Aでピストン棒を引いた状態を示す動作説明図
【図1C】図1Bの状態からピストン棒を押し込んだ状態を示す動作説明図
【図2A】この発明の別の実施の形態を示す構成図
【図2B】図2Aでピストン棒を引いた状態を示す動作説明図
【図2C】図2Bの状態からピストン棒を押し込んだ状態を示す動作説明図
【図3】研究例1を説明する説明図
【図4】研究例2を説明する説明図
【符号の説明】
【0025】
1…吸入孔、2…唾液採取部、3…唾液チャンバ、4…逆止弁、5…ろ過液チャンバ、6…ろ過フィルタ、7…ピストン棒、8…注射器本体の縁、9…ピストン棒の縁、10…カバー、11…カバー支柱、12…カバー支柱の縁、13…スプリング、14…唾液、15…純粋唾液、16…気泡・異物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液の吸入口を有する唾液採取部と、採取された唾液をストックする第1のチャンバと、この第1のチャンバの前記唾液採取部との接合部に設けられて唾液の逆流を防止する逆止弁と、前記第1のチャンバにストックされた唾液をろ過するろ過フィルタと、ろ過された純粋唾液をストックする第2のチャンバとを備え、前記第1のチャンバおよび第2のチャンバの内積が外力よって変動可能に構成されてなることを特徴とする唾液採取器具。
【請求項2】
前記ろ過フィルタは、第2のチャンバの隔壁で囲まれる面の少なくとも一部を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の唾液採取器具。
【請求項3】
前記唾液採取部を針部に、前記逆止弁および第1のチャンバを円筒部に、前記ろ過フィルタおよび第2のチャンバをピストン棒にそれぞれ形成し、注射器を模した構造とすることを特徴とする請求項1または2に記載の唾液採取器具。
【請求項4】
前記第2のチャンバのろ過フィルタとは反対側の隔壁の少なくとも一部を開放し、第2のチャンバ内からの唾液の取り出しを容易にしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の唾液採取器具。
【請求項5】
前記第2のチャンバの外部への開放部を可動自在のカバーにて覆い、第2のチャンバ内への唾液の流入を阻害しない程度の押圧力を与えるとともに、唾液が外部へ流出しないように保持することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の唾液採取器具。
【請求項6】
前記カバーと第2のチャンバ本体との間を弾性体を介して結合し、密着性を確保することを特徴とする請求項5に記載の唾液採取器具。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−248267(P2007−248267A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72204(P2006−72204)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度、地域新生コンソーシアム研究  開発事業「MEMS技術を利用した高速・高機能な健康度検査システムの開発」委託  研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】