喀痰の均質化処理方法及び微生物の検出方法
【課題】膿性痰の均質化処理が可能であり、喀痰を穏和な条件下で簡便且つ迅速に均質化処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができる喀痰の均質化処理剤、均質化処理用器具、均質化処理方法、及び微生物の検出方法を提供する。
【解決手段】被検喀痰を含む試料をステンレス鋼、鉄及びアルミナからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子の存在下で攪拌せしめる工程を含み、前記試料が均質化処理剤を含み、前記均質化処理剤がシステインプロテアーゼを含有するようにした。
【解決手段】被検喀痰を含む試料をステンレス鋼、鉄及びアルミナからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子の存在下で攪拌せしめる工程を含み、前記試料が均質化処理剤を含み、前記均質化処理剤がシステインプロテアーゼを含有するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、喀痰等のように粘性の高い液体試料を定量的にサンプリングするためのサンプリング器具及びその補助治具、喀痰を穏和な条件下で迅速に処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができる喀痰の均質化処理剤、均質化処理用器具、均質化処理方法及び該方法を用いた微生物の検出方法、並びに喀痰中に存在する微生物を簡便、迅速且つ効率的に回収するための微生物の分離器、微生物の回収方法及び該方法を用いた微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養試験(菌の同定)等の対象となる液体試料を採取してサンプリングする場合、サンプリング器具として、スポイトやピペット或いはシリンジを用いるのが一般的である。しかし、これら器具は、粘性の低い液体試料である場合にはある程度の定量性をもってサンプリングを行うことができるのであるが、喀痰等の粘性の高い液体試料(以下、粘性試料という)の場合は、サンプリングの定量性が著しく損なわれるという問題があった。
【0003】
即ち、一般的なスポイトやピペットでは、空気圧によって粘性試料を吸引又は吐出するため、特に吐出の際に粘性試料がスポイトやピペットの内壁にこびり付いて残ってしまい、吸引した粘性試料の全量を吐出できないことが多い。
【0004】
また、図10に示した如く、一般的なシリンジ110は、内部中空の長尺直胴部を有する筒状体112の先端側に小径のノズル114を突設してノズル114の先端に円形の吸引吐出口116を開穿し、また、基端側を開口部117とし、その外周縁に鍔部118を形成すると共に、筒状体112の内壁に密着しつつ筒状体112の長手方向に摺動自在に内嵌されたガスケット120を設け、ガスケット120を摺動操作するために、先端をガスケット120に係着し且つ基端を操作用頭部134とした長尺棒状のプランジャ130とを備える(図10参照、その他特許文献1及び2等参照)。
【0005】
このようなシリンジ110の場合は、ガスケット120によって粘性試料が筒状体112の内壁に残ることはないものの、ノズル114が突設されているために、ノズル114の内部に粘性試料が残ってしまい、やはり吸引した粘性試料の全量を吐出できない場合がある。加えて、従来のシリンジ110の場合は比較的多くの吸引力及び吐出力を要し、作業者の負担が大きい。その他、従来のシリンジ110では、吸引時及び吐出時に粘性試料が粘ついて切れが悪く、必要量を採取するのが困難だったり、粘ついた粘性試料が糸を引いて他所に付着したりして環境衛生面での問題もあった。
【0006】
他方、喀痰中に含まれる特定成分、特に、呼吸器感染症の患者の喀痰中に存在する病原菌等を検出、測定する場合には、患者の喀痰を採取し、これを培養して病原菌を検出することが行われている。しかし、患者の喀痰は一般に粘性が高く、そのままでは培地に均等に検体を塗抹することが困難であり、検査結果を誤る場合がある。また、遺伝子検査においても、そのままの状態では正確な菌数を判断することは困難である。そこで喀痰を前処理して、喀痰中に含まれる成分を均一にして、特定の成分の検出、測定を行いやすくする必要がある。
【0007】
その方策として、数々の前処理法が考案されている。抗酸菌、結核菌の検出における前処理方法としては、例えば、非特許文献1は、還元性物質であるN−アセチル−L−システイン(NALC)を用いたNALC−NaOH法を推奨しており、該方法は広く使用されている(例えば、特許文献3等参照)。しかしながら、NALC−NaOH法は、ヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)などの一般細菌を検出する場合においては、処理条件が厳しく、細菌へのダメージが大きいといった問題があった。前処理条件の穏和な方法として、酵素であるセミアルカリプロテアーゼを用いる方法があるが、膿性痰のような粘性強度の高いものにおいては、十分な均質化処理ができない場合があった。そこで、セミアルカリプロテアーゼとNALC−NaOH法を併用する方法も知られているが(例えば、特許文献4等参照。)、操作が面倒であり、時間も要する。また、喀痰の前処理の所要時間により生菌数が減少し、病原菌を正確に判断することが困難な場合があるといった問題があった。
【0008】
また、上記した前処理液を用いる懸濁方法としては、ボルテックスミキサーを用いる方法が主流である。そのため、膿性痰のような粘性強度の高いものにおいては、十分な均質化処理ができない場合があった。
そこで、特許文献5に示すように、球状固体材料を収納した喀痰処理用器具による喀痰の均質化が提案されており、該文献は球状固体材料としてガラス又は水晶を記載している。しかしながら、膿性痰に対しては、該器具を用いても均質化に長時間を要し、また十分な均質化処理ができない場合があった。
【0009】
さらに、前記した前処理液を用いて前処理された試料中には、微生物、ヒト由来細胞、埃塵等様々なものが混在しており、遺伝子や蛋白質等の検査に用いる場合においては、擬陽性判定をしてしまう場合が多数ある。そこで、検体から微生物を回収する方法として、例えば、特許文献6は、検体を前処理した後、吸着担体を用いて微生物のみを吸着させて微生物を回収する方法を開示している。しかしながら、この方法は、吸着と剥がす作業の二つを要しているため、操作上の面倒さと、収率の問題がある。また、検体を濾過し、フィルター上に微生物を捕捉する方法が知られているが(特許文献7)、収率及びヒト細胞、血球、塵埃等との分離に関して改善が必要であると考えられる。
【0010】
一方、特許文献8は、検体を前処理した後、少なくとも2種類の濾過膜からなる濾過部材で濾過し、免疫クロマトグラフィー用の試料を得る方法を記載しているが、この方法は免疫クロマトグラフィーを行う際に試料のクロマト用膜担体上の目詰まりをなくすことを目的とするものであり、微生物の回収を目的とするものではなく、微生物の回収については何ら記載されていない。さらに濾過膜としてはガラス繊維濾紙とガラスフィルターが記載されているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平5−3318号公報
【特許文献2】特公平1−21989号公報
【特許文献3】特開2004−344108号公報
【特許文献4】特開2002−65249号公報
【特許文献5】特開平1−291160号公報
【特許文献6】特開2001−112497号公報
【特許文献7】特開2004−180551号公報
【特許文献8】特開2005−24325号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】新結核菌検査指針2000、財団法人結核予防会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、第1に、喀痰等の粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめ、比較的少ない吸引力及び吐出力で作業者の負担を軽減し、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くし、環境衛生面での問題も少ない粘性試料のサンプリング器具及びその補助治具を提供することを目的とする。また、本発明は、第2に、膿性痰の均質化処理が可能であり、喀痰を穏和な条件下で簡便且つ迅速に均質化処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができる喀痰の均質化処理剤、均質化処理用器具、均質化処理方法、及び微生物の検出方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、第3に、喀痰中に存在する微生物を簡便、迅速且つ効率的に回収するための微生物の分離器、微生物の回収方法及び該方法を用いた微生物の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、第1に、喀痰等の粘性試料のサンプリングにおいて、シリンジの先端の形状を変えることにより、定量性や操作性を改善でき、粘性試料を容易且つ安全に採取できることを見出し、第2に、喀痰の前処理方法において、蛋白質分解酵素の一つであるシステインプロテアーゼ、特にブロメライン(Bromelain)を用いることにより効率的に前処理できることを見出し、第3に、喀痰の前処理方法において、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子を用いて攪拌することで、膿性痰のような粘性の高い試料においても簡便かつ迅速に前処理できることを見出し、第4に、喀痰からの微生物の検出において、3種のフィルターを有する分離器を用いることで、微生物と細胞、血球や埃塵等を効率的に分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、上記課題を解決するために、本発明の粘性試料のサンプリング器具は、先端を閉塞し且つ基端を開口し、該基端の外周縁に鍔部を形成した内部中空の長尺の直胴部を有する筒状体(10)と、該筒状体の内壁に密着しつつ該筒状体の長手方向に摺動自在に内嵌されたガスケット(20)と、先端を該ガスケットに係着する係着凸部とし且つ基端を操作用頭部とし、該操作用頭部を操作して該ガスケットを摺動操作可能にした長尺棒状のプランジャ(30)と、を備える粘性試料のサンプリング器具であって、前記筒状体の先端は、該筒状体の直胴部と略同径のプレート状ノズル(14)によって閉塞され、該プレート状ノズルに所定形状のスリット(16)を開穿して吸引吐出口を形成してなることを特徴とする。
【0016】
前記スリットは、前記プレート状ノズル(14)の中央部近傍に位置することが好ましく、また、前記スリットは、少なくとも1つの角部(15)を有する形状をなしていることが望ましい。
前記スリットの形状は、十字(X字)形、Y字形又はW字形のいずれかであることが好適である。前記スリットの幅は、0.5mm〜2.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0017】
前記粘性試料としては、検査・分析・試験の対象となる粘性の高い液体試料であれば特に限定されないが、喀痰である場合に本発明器具は特に好適である。
【0018】
また、本発明のサンプリング器具用補助治具は、前記サンプリング器具用の補助治具(40,60)であって、前記サンプリング器具における操作用頭部を操作自在としたことを特徴とする。
【0019】
前記サンプリング器具用補助治具(40)は、先端に前記サンプリング器具における筒状体の鍔部に対して係合自在とされた係合片を有し且つ基端を開口部とし、直胴部に案内溝を形成した長尺筒状の外嵌筒部材(42)と、該外嵌筒部材の内部に摺動自在に軸通されると共に、先端に前記サンプリング器具におけるプランジャの操作用頭部に対して係合自在とされた係合部を有し且つ前記案内溝に沿って操作レバーを設け、基端を押圧用頭部とした内嵌軸部材(50)と、を備えることが好適である。
【0020】
前記サンプリング器具用補助治具(60)は、前記サンプリング器具用の補助治具(60)であって、先端内周に前記サンプリング器具における筒状体の鍔部に対し嵌合自在とされた嵌合凸部を設け且つ基端を開口部とした長尺筒状の外嵌筒部材(62)と、該外嵌筒部材の内部に摺動自在に軸通されると共に、先端内周に前記サンプリング器具におけるプランジャの操作用頭部に対して嵌合自在とされた嵌合凸部を設け且つ外嵌筒部材に対する付勢手段及び係止手段を設けた中嵌筒部材(70)と、該中嵌筒部材の内部に摺動自在に軸通されると共に、先端を前記サンプリング器具におけるプランジャの操作用頭部に当接する当接端部とし、基端が押圧用頭部とされた内嵌軸部材(80)と、を備えることが好適である。
【0021】
本発明の喀痰の均質化処理剤は、システインプロテアーゼを含有することを特徴とする。前記システインプロテアーゼとしては、植物性システインプロテアーゼが好ましく、ブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましく、ブロメラインが特に好ましい。本発明の均質化処理剤は、塩化ナトリウム及びトリス緩衝液を更に含有することが好ましい。本発明の均質化処理剤は、微生物の検出方法における前処理に好適に用いられる。
【0022】
本発明の喀痰の均質化処理用器具は、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子を収容することを特徴とする。前記金属及びその酸化物がステンレス鋼、鉄又はアルミナであることが好ましい。前記粒子が直径1mm以上10mm以下の球状粒子であることが好ましく、直径4mm以上10mm以下の球状粒子であることがより好ましい。
【0023】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第1の態様は、喀痰を前記本発明の均質化処理剤で処理することを特徴とする。本発明の均質化処理方法は、微生物の検出における前処理として特に好ましい。
【0024】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第2の態様は、被検喀痰を含む試料を金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子の存在下で攪拌することを特徴とする。
【0025】
前記金属及びその酸化物がステンレス鋼、鉄又はアルミナであることが好ましい。なお、本願明細書において、ステンレス鋼を単にステンレスとも称する。
前記粒子が直径1mm以上10mm以下の球状粒子であることが好ましく、直径4mm以上10mm以下の球状粒子であることがより好ましい。
【0026】
前記試料が喀痰前処理剤を含むことが好ましい。
前記喀痰前処理剤が、蛋白質分解酵素を含有することが好適である。前記蛋白質分解酵素が、セミアルカリプロテアーゼ及びシステインプロテアーゼからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。さらに、前記システインプロテアーゼが、ブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。また、前記喀痰前処理剤が前記本発明の均質化処理剤であることが好適である。
【0027】
本発明の均質化処理方法は、微生物の検出方法における前処理として特に好適である。
【0028】
本発明の喀痰からの微生物の回収方法は、均質化処理した喀痰から微生物を回収する方法であって、該均質化処理した喀痰を被検微生物が通過可能であり且つ有機材料からなる少なくとも3種のフィルターを有する分離器を用いて濾過することにより、前記被検微生物を含有する濾液を得ることを特徴とする。
【0029】
前記分離器は、前記均質化処理した喀痰が通過する順に、第1フィルター、第2フィルター及び第3フィルターが設けられ、下流方向に従い、順次に前記フィルターの孔径が小となることが好ましい。前記第3フィルターの孔径が0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上7μm以下であることがより好ましい。前記第2フィルターの孔径が5μm以上であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることがより好ましい。前記第1フィルターの孔径が5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、80μm以上120μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
前記有機材料が、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、セルロース及びポリエチレンからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
前記被検微生物としては、ウイルス、リケッチャ、細菌又は真菌等の微生物が好ましい。
本発明の微生物の回収方法において、喀痰の均質化処理方法は特に限定されないが、本発明の均質化処理方法が好適に用いられる。
【0031】
本発明の微生物の分離器は、被検微生物が通過可能であり且つ有機材料からなる少なくとも3種のフィルターを有する前述の分離器であって、本発明の微生物の回収方法で用いられる。
【0032】
本発明の微生物の検出方法の第1の態様は、被検喀痰を前記本発明の喀痰の均質化処理方法で処理した後、前記被検喀痰中に存在する微生物を検出することを特徴とする。
【0033】
本発明の微生物の検出方法の第2の態様は、前記本発明の微生物の回収方法により得られた濾液から被検微生物を検出することを特徴とする。
【0034】
本発明の微生物の検出方法において、前記微生物としては、ウイルス、リケッチャ、細菌又は真菌等の微生物が好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、喀痰等の粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめ、比較的少ない吸引力及び吐出力で作業者の負担を軽減し、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くし、環境衛生面での問題も少ない粘性試料のサンプリング器具及びその補助治具を提供することができるという大きな効果を奏する。
【0036】
また、本発明によれば、従来の喀痰の前処理方法よりも、簡便且つ迅速に均質化処理でき、且つより安定に微生物を検出することができる。さらに、本発明により、従来の方法よりも、喀痰中に存在する微生物を簡便、迅速且つ効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の粘性試料のサンプリング器具を示す斜視図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】本発明のサンプリング器具におけるプレート状ノズルのスリット(吸引吐出口)の形状の種々の例を示す平面図である。
【図4】図3(a)の拡大説明図である。
【図5】本発明の吸引力及び吐出力を測定する際に用いた装置の概念説明図であり、(a)は吸引力の場合、(b)は吐出力の場合である。
【図6】本発明のサンプリング器具用補助治具の一例を示す側面説明図である。
【図7】図6(a)の要部拡大斜視図である。
【図8】本発明のサンプリング器具用補助治具の他例を示す側面説明図である。
【図9】図8(a)の要部拡大図である。
【図10】従来のシリンジを示す斜視説明図である。
【図11】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第1の例を示す概略説明図である。
【図12】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第2の例を示す概略説明図である。
【図13】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第3の例を示す概略説明図である。
【図14】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第4の例を示す概略説明図である。
【図15】本発明の微生物の回収方法の一例を示す概略説明図である。
【図16】本発明の微生物の回収方法の他の例を示す概略説明図である。
【図17】本発明の微生物の分離器の一例を示す断面概略説明図である。
【図18】図17の本発明の分離器を含む微生物の回収キットの一例を示す概略説明図である。
【図19】実施例16及び17の結果を示すグラフである。
【図20】実施例18のフィルトレーション前の均質化液の顕微鏡写真であり、(a)は倍率100、(b)は倍率1000の結果をそれぞれ示す。
【図21】実施例18のフィルトレーション後の均質化液の顕微鏡写真であり、(a)は倍率100、(b)は倍率1000の結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されたもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0039】
図1は、本発明の粘性試料のサンプリング器具を示す斜視図である。図2は、図1の分解斜視図である。図3は、本発明におけるプレート状ノズルのスリット(吸引吐出口)の形状の種々の例を示す平面図である。図4は、図3(a)の拡大説明図である。図5は、本発明の吸引力及び吐出力を測定する際に用いた装置の概念説明図であり、(a)は吸引力の場合、(b)は吐出力の場合である。
【0040】
図6は、本発明のサンプリング器具用補助治具の一例を示す側面説明図である。図7は、図6(a)の要部拡大斜視図である。図8は、本発明のサンプリング器具用補助治具の他例を示す側面説明図である。図9は、図8(a)の要部拡大図である。図中、符号2は粘性試料のサンプリング器具、符号40はサンプリング器具用補助治具の一例、符号60はサンプリング器具用補助治具の他例である。
【0041】
本発明の粘性試料のサンプリング器具2は、いわゆる従来のシリンジ110と基本的構造が類似の形態をなすものであり、筒状体10とガスケット20とプランジャ30とを備える(図1及び図2)。なお、粘性試料としては、検査・分析・試験の対象となる粘性の高い液体試料であれば特に限定されないが、特に喀痰である場合に本発明器具は有用であり、以下の説明では粘性試料として喀痰を用いた場合を主として説明する。
【0042】
筒状体10は、内部中空の長尺の直胴部12を有し、先端は閉塞部13とされ、基端は開口部17とされ、筒状体10の基端の外周縁には鍔部18が形成されている(図1及び図2)。鍔部18の形状は、円形や楕円形や方形のいずれでもよく、特に限定されない。図示例では楕円形の両端を切り落とした截頭楕円形をなしているが(図1及び図2)、要は、後述する補助治具40,60との係合構造乃至嵌合構造の関係で適切なものであればよい。
【0043】
筒状体10の先端の閉塞部13は、プレート状ノズル14によって閉塞されている(図1及び図2)。即ち、従来のシリンジ110では小径のノズル114が突設されていたのであるが(図11参照)、これに代替してプレート状ノズル14を設けたものである。プレート状ノズル14は、筒状体の直胴部12と略同径であり、直胴部12と一体成形してもよいし、別体に成形したものを外嵌又は内嵌等して取り付けてもよい。このようなプレート状ノズル14によれば、ガスケット20の下端面が略全面に当接するので、吐出の際に粘性試料が残留することがなく、従来のシリンジ110のように突設されたノズル114の内部に粘性試料が残ってしまうという問題が解消される。
【0044】
プレート状ノズル14には所定形状のスリット16を開穿して吸引吐出口を形成する。スリット16の所定形状としては、種々様々の形状を用いることができ、例えば、図3に示した如くの種々の形状を採用することができるが、好ましいスリット形状の条件としては、プレート状ノズル14の中央部近傍に位置することや、少なくとも1つの角部15を有する形状をなしていること等が吸引力及び吐出力を軽減する観点、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れの観点等から挙げられる(図3、図4参照)。最も好ましいスリット形状としては、十字(X字)形、Y字形又はW字形のいずれかである。
【0045】
吸引力及び吐出力を軽減する観点、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れの観点、製造の容易性の観点等から、スリットの幅d1としては、0.5mm〜2.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5mmである(図4)。外縁からの距離d2としては、0.5mm〜2mmであることが好ましく、より好ましくは1mm〜1.8mmである(図4)。
【0046】
筒状体10の材質は、内部の視認性から透明乃至半透明の材料であれば特に限定されず、例えば、ガラス材料でもよいが、製造コストや加工容易性等から透明性を有する合成樹脂材料、例えば、塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系、ポリスチレン等のスチレン系、その他の合成樹脂材料から構成される。
【0047】
ガスケット20は、筒状体10の内壁に密着しつつ筒状体10の長手方向に摺動自在に内嵌されている。ガスケット20については、従来のシリンジと同様のものを採用でき、その形態や材質について特に限定はないが、形態としては、筒状体10の内壁に対する密着性があり、また、その下端面がプレート状ノズル14に対して当接することが必要である。図示例では、コア部24の前後両端外周縁にシール突条22が形成され、下端面はプレート状ノズル14の形状に合わせて平坦とされている(図1及び図2)。ガスケット20の材質としては密着性(シール性)を確保する関係上、弾性を有する材料であることが望ましく、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種のゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種の合成樹脂材料等のエラストマー材料を用いて構成すればよい。
【0048】
プランジャ(押し子)30は、ガスケット20を摺動操作するための長尺棒状の部材であり、先端をガスケット20に係着する係着凸部32とされ、基端を操作用頭部34とされている。プランジャ30の係着凸部32を図示しないガスケット20内部の係着凹部に係着して、操作用頭部34を操作することにより、ガスケット20を筒状体10内で摺動操作可能にしたものである。プランジャ30の材質も特に限定されないが、オレフィン系、スチレン系等の合成樹脂材料を射出成形して製作すればよい。
【0049】
次に、本発明の粘性試料のサンプリング器具2に取り付けて用いられる補助治具の一例(図6及び図7参照)及び他例(図8及び図9参照)について説明する。本発明の補助治具40,60は、前記本発明のサンプリング器具2の操作を容易にすると共に、喀痰等の粘性試料を扱う関係上、サンプリング器具2に直接に手で触れて操作することは衛生面から好ましくないため、サンプリング器具2の操作を間接的に行い得るように補助的に用いられるものである。
【0050】
本発明のサンプリング器具用補助治具40は、長尺筒状の外嵌筒部材42と、その内部に摺動自在に軸通された内嵌軸部材50とから構成されている(図6及び図7)。
【0051】
外嵌筒部材42は、先端に前記サンプリング器具2における筒状体10の鍔部18に対して係合自在とされた係合片44を有している(図6及び図7)。係合片44には、前記筒状体10の鍔部18に対して係合する切欠部45が形成されている(図7)。外嵌筒部材42の基端は開口部43とされ、胴体部にはテーパー部46が形成され、案内溝48が長手方向に穿設されている(図6)。
【0052】
内嵌軸部材50は、上記外嵌筒部材42の内部に摺動自在に軸通されており、その先端には前記サンプリング器具2におけるプランジャ30の操作用頭部34に対して係合自在とされた係合部52を有する。係合部52にはプランジャ30の操作用頭部34と嵌合する凹欠部53が形成されている。また、前記外嵌筒部材42の案内溝48に沿うように操作レバー58を設け、基端には押圧用頭部56が設けられている。
【0053】
このようなサンプリング器具用補助治具40によれば、まず、前記サンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34を内嵌軸部材50の係合部52に係合し〔図6(a)(b)〕、次いで、前記サンプリング器具2の鍔部18と外嵌筒部材42の係合片44とを互いに噛み合わせるようにして係合することによってサンプリング器具用補助治具40にサンプリング器具2を取り付けることができ〔図6(c)〕、粘性試料の吸引時には、サンプリング器具用補助治具40の操作レバー58を基端側に引くことによって、サンプリング器具2による粘性試料の吸引を行うことができ、また、粘性試料の吐出時には、サンプリング器具用補助治具40の押圧用頭部56を先端方向に押圧することによって、サンプリング器具2による粘性試料の吐出を行うことができる〔図6(d)〕。従って、作業者は直接にサンプリング器具2に触れることなく、粘性試料の吸引及び吐出を行うことができる。
【0054】
他方、本発明のサンプリング器具用補助治具60は、長尺筒状の外嵌筒部材62と、その内部に摺動自在に軸通された中嵌筒部材70と、更にその内部に摺動自在に軸通された内嵌軸部材80とから構成されている(図8及び図9)。
【0055】
外嵌筒部材62は、先端内周面に前記サンプリング器具2における筒状体10の鍔部18に対し嵌合自在とされた嵌合凸部64が設けられ、また、鍔部18を嵌合凸部64に嵌合した際に鍔部18の上端を係止するための係止凸部67が設けられ、更に、基端を開口部63とされ、胴体部にはテーパー部66が形成され、ボタン孔68が穿設されている(図8及び図9)。なお、サンプリング器具2における鍔部18の形状が図示例のように截頭楕円形である場合や(図1及び図2参照)、楕円形や長方形等である場合のように前後左右の一方が長尺で外嵌筒部材62の内径に収まらない場合には、外嵌筒部材62の先端に切欠凹部65を設けて、鍔部18の短尺方向で嵌合凸部64と嵌合するようにすればよい。
【0056】
中嵌筒部材70は、上記外嵌筒部材62の内部に摺動自在に軸通されており、先端の内周面には、前記サンプリング器具2におけるプランジャ30の操作用頭部34に対して嵌合自在とされた嵌合凸部72が設けられている(図8及び図9)。また、中嵌筒部材70には外嵌筒部材62に対する付勢手段69及び係止手段74が設けられている。付勢手段69はスプリング(バネ)であり、中嵌筒部材70の先端部と外嵌筒部材62の係止凸部67との間に介在するように設けられる。係止手段74は中嵌筒部材70の外嵌筒部材62に対する係止と解放を切り替えるためのボタンであり、スプリング76の付勢力を利用して、中嵌筒部材70を外嵌筒部材62に対して係止自在とするものである。
【0057】
内嵌軸部材80は、上記中嵌筒部材70の内部に摺動自在に軸通されており、その先端は前記サンプリング器具2におけるプランジャ30の操作用頭部34に当接する当接端部82とされ、その基端には押圧用頭部84が設けられている。
【0058】
このようなサンプリング器具用補助治具60によれば、まず、前記サンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34を中嵌筒部材70の嵌合凸部72に嵌合し〔図8(a)(b)〕、また、前記サンプリング器具2の鍔部18を外嵌筒部材62の嵌合凸部64に嵌合することによって〔図8(a)(b)〕、サンプリング器具用補助治具60にサンプリング器具2を取り付けることができ〔図8(b)〕、粘性試料の吸引時には係止手段74を解放して、付勢手段69を伸張せしめて〔(図8(c)〕、サンプリング器具2による粘性試料の吸引を行い、また、粘性試料の吐出時には、サンプリング器具用補助治具60の押圧用頭部84を先端方向に押圧することによって、サンプリング器具2による粘性試料の吐出を行うことができ〔図8(c)(d)〕、更に、吐出後は押圧用頭部84を更に押入することによって、サンプリング器具用補助治具60からサンプリング器具2を脱離せしめることができる〔図8(d)〕。従って、作業者はサンプリング器具2に直接に触れることなく、粘性試料の吸引及び吐出を行うことができることに加えて、サンプリング器具2の脱離も行うことができる〔図8(d)〕。
【0059】
次に本発明の喀痰の均質化処理剤について説明する。
本発明の喀痰の均質化処理剤は、システインプロテアーゼを有効成分として含有することを特徴とし、喀痰を穏和な条件下でより速く処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができ、特に膿性痰の均質化処理に効果的である。
【0060】
本発明に用いられるシステインプロテアーゼとしては、特に限定されないが植物由来のシステインプロテアーゼが好ましく、ブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましく、ブロメラインが特に好ましい。これらシステインプロテアーゼは市販のものでもよく、公知の方法で得たものを用いてもよい。
前記ブロメラインとしては、Bromeliaceaeに属する植物由来のシステインプロテアーゼが用いられるが、パイナップル(Ananas comosus M.)由来のものがより好ましい。
【0061】
本発明の均質化処理剤としては、システインプロテアーゼを有効成分として含有する組成物であれば、特に限定はないが、通常、システインプロテアーゼを緩衝液等の溶解液に溶解した水溶液の形で使用される。システインプロテアーゼの濃度は、特に限定されないが、0.01〜1w/v%が好ましく、0.1〜0.3w/v%がより好ましい。
【0062】
システインプロテアーゼを溶解する溶解液としては、特に限定されないが、pH6.0〜10付近の緩衝液が好ましい。緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられるが、pH7〜9付近のトリス緩衝液がより好ましい。前記緩衝液が塩化ナトリウムやEDTA等を含んでいることが好ましい。特に前記溶解液として、塩化ナトリウムを含むトリス緩衝液を用いることが好ましく、このトリス緩衝液中の塩化ナトリウム濃度が0.6%を超え1.2%未満、トリス濃度が10mM以上50mM未満であり、pHが7.0以上8.0未満であることがより好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有していても良い。
【0063】
本発明において、喀痰とは、気管・気管支から分泌されたムチン(ムコプロテインとムコポリサッカライド)と外界から吸引された細菌や塵埃の混合物であり、ヒト細胞や血球を含む場合もある。喀痰の性状については、Miller & Jonesの分類によると、M1、M2、P1、P2、P3の五段階に分けられる。特にP2(膿性痰で膿性部分が1/3〜2/3含まれる)及びP3(膿性痰で膿性部分が2/3以上含まれる)の膿性痰になると膿性部分が多く含まれ、その分喀痰の前処理は時間を要し、特に、P3は簡便な均質化処理が困難であった。本発明はこの膿性痰の迅速かつ簡便な均質化処理をも可能とするものである。
【0064】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第1の態様は、喀痰を前記本発明の均質化処理剤で処理することを特徴とする。
本発明において、前記均質化処理剤を用いた喀痰の処理方法は特に限定されないが、該均質化処理剤と被検喀痰を混合した後、室温〜37℃、好ましくは室温で適宜ボルテックスをかけることで反応させることにより、喀痰をすみやかに溶解させることができる。
【0065】
本発明において、前記均質化処理剤による均質化処理後、微生物を培養した後、又は培養せずに、被検喀痰中に存在する微生物を検出することができる。微生物の検出方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。微生物の検出においては、微生物を直接検出してもよく、生体関連物質を検出することにより微生物を検出してもよい。
【0066】
本発明において、微生物としては、特に限定されないが、例えば、ヘルペスウイルス(HSV、CMV、ZVZ、EBV、HHVなど)、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV)、肝炎ウイルス(HBV、HCV、HDV、HGV)、その他カゼ症候群、消化器疾患、中枢神経系疾患、呼吸器系疾患、出血熱等の様々な疾患の病因ウイルス等のウイルス、リケッチャ、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌群、緑膿菌、レジオネラ属、モラクセラ属、インフルエンザ細菌、クレブシエラ属、クラミジア、マイコプラズマ等の細菌、真菌等が挙げられる。
【0067】
本発明において、生体関連物質とは、核酸(DNA、RNA)、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。生細胞からのDNA又はRNAの調製は、公知の方法、例えばDNAの抽出については、Blinらの方法(Blin et al., Nucleic Acids Res. 3: 2303 (1976))等により、また、RNAの抽出については、Favaloroらの方法(Favaloro et al.,Methods Enzymol.65: 718 (1980))等により行うことができる。また、rRNAにおいては、水酸化ナトリウム水溶液などで細胞を溶解した後、塩酸などで中和すればよい。また、それらの検出方法としては、PCR(Polymerase chain reaction)、ハイブリダイゼーション、パルサー法(PALSAR法、例えば、特許第3267576号及び特許第3310662号等参照。)、DNAチップ、プロテインチップ、抗原抗体反応等を用いて行うことができる。
【0068】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第2の態様は、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子(本発明において、この粒子を金属粒子と称する。)を用いることを特徴とし、被検喀痰を該粒子の存在下で攪拌することにより、喀痰を穏和な条件下で簡便かつ迅速に処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができ、特に膿性痰の均質化処理に効果的である。
【0069】
本発明において、前記金属粒子は金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を材料として含むものであり、金属及びその酸化物の1種又は2種以上を主成分とする粒子が好ましい。前記金属粒子中に金属及びその酸化物以外の材料が含まれていてもよい。また、粒子の表面を金属やその酸化物の薄膜で被覆したものも本発明の粒子に含まれる。前記薄膜で被覆された粒子を用いる場合、被覆される粒子の材質は特に限定されず、金属及び非金属のいずれでもよい。
本発明において前記金属は特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅、亜鉛、ニッケル、鉛、スズ、クロム、ジルコニウム、モリブデン、金、銀、白金、及びこれらを基金属とする合金等が挙げられるが、特に鉄及びステンレス綱が好ましい。前記金属の酸化物は特に限定されず、例えば、前述の金属の酸化物が挙げられるが、特にアルミナが好ましい。
【0070】
前記金属粒子の形状は特に限定されないが、球状粒子が好ましい。前記粒子の直径は1mm以上が好ましく、より好ましくは4.0mm以上である。これら粒子の直径の上限は特に限定されないが、10mm以下が好適である。本発明において、前記粒子は同種の粒子1個又は2個以上を用いても良く、2種以上の粒子、例えば、粒径や材質が異なる粒子を組み合わせて合計2個以上の粒子を用いても良い。
【0071】
金属粒子を用いた喀痰の均質化処理方法としては、具体的には、緩衝液等の溶解液に混合した被検喀痰を前記粒子で攪拌することにより均質化することが好ましいが、被検喀痰、喀痰前処理剤及び前記粒子を混合し、室温〜37℃、好ましくは室温で適宜ボルテックスをかけることで反応させることにより、喀痰をすみやかに溶解させることがより好ましい。
溶解液としては、特に限定されないが、本発明の均質化処理剤の説明において述べた溶解液が同様に好適に用いられる。
【0072】
前記喀痰前処理剤としては、セミアルカリプロテアーゼ(例えば、スプタザイム(極東製薬工業(株)製)等)、NALC−NaOH試薬、還元剤、及び界面活性剤等の公知の喀痰前処理剤(例えば、特開平2−273197号、WO02/010744号、及び特許文献4等に記載の前処理剤)やシステインプロテアーゼを有効成分として含む本発明の喀痰の均質化処理剤を使用することができるが、セミアルカリプロテアーゼやシステインプロテアーゼ等の蛋白質分解酵素を含む喀痰均質化処理剤が好ましく、特に前述した本発明の均質化処理剤を用いることがより好ましい。これら蛋白質分解酵素は1種、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0073】
本発明において、前記金属粒子を用いた均質化処理方法により喀痰を均質化処理し、微生物を培養した後、又は培養せずに、被検喀痰中に存在する微生物を検出することができる。微生物の検出方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。微生物の検出においては、微生物を直接検出してもよく、生体関連物質を検出することにより微生物を検出してもよい。
【0074】
本発明の喀痰の均質化処理用器具は、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子、すなわち前述した金属粒子を収容する蓋付き容器である。
図11〜図14は本発明の喀痰の均質化処理用器具の第1〜第4の例を示す概略説明図である。図11〜図14において、210a〜210dは容器の蓋、212a〜212dは容器、214は金属粒子である。
【0075】
本発明の喀痰の均質化処理用器具において、前記容器の形状は特に限定されないが、図11に示したような丸底の円筒容器212aや図12に示したような平底の円筒容器212bが好ましい。また、図13に示した如く、容器内部が丸底であり、容器外部の底部216が平底又は空洞部分があり自立可能な形状である自立型の円筒容器212cを用いてもよい。さらに、図14に示した如く、円筒状の管の底部に底蓋218を取り付けた容器212dを用いることもできる。
前記容器の材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等のプラスチック材料であることが好ましい。
前記蓋は前記容器を密閉し得るものであれば特に限定されない。蓋の取り付け方法は特に限定はないが、例えば、キャップ式、埋め込み式、内ねじ式、外ねじ式等が挙げられる。
【0076】
前記粒子としては、前述した金属粒子が同様に用いられるが、材質がステンレス鋼、鉄又はアルミナである球状粒子が好ましい。粒子の直径は1mm以上が好ましく、より好ましくは4.0mm以上である。これら粒子の直径の上限は特に限定されないが、10mm以下が好適である。
容器内に収容される粒子の数は特に限定されず、容器及び粒子の大きさに応じて適宜定めればよい。
本発明の喀痰の均質化処理用器具を用いて前述した本発明の喀痰の均質化処理方法を行うことにより、迅速且つ簡便に喀痰を均質化することができる。
【0077】
次に、本発明の微生物の回収方法について説明する。
本発明の微生物の回収方法は、均質化処理した喀痰を、被検微生物が通過可能であり且つ有機材料からなる少なくとも3種のフィルターを有する本発明の微生物の分離器を用いて濾過し、得られた濾液から被検微生物を回収するものである。
【0078】
本発明の微生物の回収方法においては、均質化処理された喀痰が用いられる。喀痰の均質化処理方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができるが、前述した本発明の均質化処理方法が好ましい。
喀痰の均質化処理方法としては、例えば、均質化処理剤等の前処理剤を含む溶解液で被検喀痰を処理することにより喀痰を均質化し溶解させることが好ましい。前記前処理剤及び溶解液としては、本発明の均質化処理方法の第2の態様において述べた喀痰前処理剤及び溶解液が同様に好適に用いられる。
【0079】
前記均質化処理剤を用いた喀痰の均質化処理方法は特に限定されないが、該均質化処理剤を含む溶解液と被検喀痰を混合した後、室温〜37℃、好ましくは室温で適宜ボルテックスをかけることで反応させることにより、喀痰をすみやかに溶解させることができる。
また、溶解液に混合した被検喀痰を粒子を用いて攪拌することにより均質化させることが好ましい。前記粒子としては特に限定されないが、直径1mm以上、より好ましくは4mm以上の球状粒子が好適である。粒子の材質も特に限定されないが、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子が好ましい。金属及びその酸化物としては、ステンレス鋼、鉄又はアルミナが特に好適である。
これら均質化処理反応は、微生物の分離器中で行うことも可能である。
【0080】
前記均質化処理後の喀痰の均質化液を本発明の微生物の分離器を用いて濾過する。
図15は本発明の微生物の分離器を用いた微生物の回収方法の一例を示す概略説明図である。図15において、310aは本発明の微生物の分離器であり、濾過部材314と、該濾過部材314を保持するフィルターホルダー316aとを有する。前記濾過部材314は均質化処理した喀痰が通過する順に少なくとも第1フィルター311、第2フィルター312及び第3フィルター313の3種のフィルターを有する。
【0081】
前記第1〜第3フィルターは、有機材料からなる多孔性材料であり、被検微生物が通過し得るものである。各フィルターの材質は同じであってもよく異なっていてもよい。なお、図15では、各フィルターが積層されている3層構造の例を示したが、フィルターの配置は特に限定されず、一定の間隙を設けて配置してもよく、積層してもよい。
【0082】
前記有機材料としては特に限定されないが有機高分子繊維が好ましく、例えば、セルロース,セルロース繊維,ニトロセルロース及び酢酸セルロース等のセルロース誘導体,ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)及びシクロポリオレフィン等のポリオレフィン,ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−11、ナイロン−12、コポリアミド等のポリアミド,ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のアラミド,ポリエチレンテレフタレート(PETP)等のポリエステル,ポリアクリロニトリル及びアクリレート等のアクリルポリマー,ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリビニルアルコール等のビニルポリマー,ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリエステルエーテル,ポリウレタン,エポキシド,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロエチレン/プロピレン・コポリマー(FEP)、ポリエチレン/テトラフルオロエチレン・コポリマー(ETFE)及びポリエチレン/クロロトリフルオロエチレン・コポリマー(ECTFE)等のフッ素樹脂,ポリカーボネート,ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリエーテルスルホン等が挙げられる。特にポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、セルロース及びポリアミドが好ましい。これら有機材料は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0083】
前記第1〜第3フィルターの孔径は、被検微生物を通過可能であれば特に限定されず、被検微生物の大きさや被検喀痰の状態に応じて適宜選択可能である。
前記第3フィルターは、喀痰中の細胞や血球を通さず被検微生物を通過できる孔径を有するフィルターが好ましい。具体的には、第3フィルターの孔径は0.1μm以上10μm以下が好ましく、2〜7μmがより好ましく、約5μmがさらに好ましい。前記第2フィルターは、前記第3フィルターよりも大きい孔径を有することが好ましい。具体的には、第2フィルターの孔径は5μm以上が好ましく、10〜30μmがより好ましく、約20μmがさらに好ましい。前記第1フィルターは、前記第2フィルターよりも大きい孔径を有することが好ましい。具体的には、第1フィルターの孔径は5μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、80〜120μmがさらに好ましい。
前記第1〜第3フィルターの膜厚は特に限定されないが、1〜200μmのものが好ましい。
【0084】
前記フィルターホルダー316aは、例えば、図15に示した如く、濾過部材314を収容する本体317aと、蓋体318aから構成される。前記フィルターホルダー316aの形状は特に限定されないが、例えば、図15に示した如く、円筒形で底部にフィルターを装着可能な容器が用いられる。フィルターの装着方法及び蓋体の取り付け方法は特に限定されないが、例えば、フィルターホルダー本体に一体に形成する方法や、キャップ式、埋め込み式、内ねじ式、外ねじ式等の設置方法が挙げられる。
前記フィルターホルダー316aの材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック材料であることが好ましい。
【0085】
図15(a)に示した如く、前記均質化処理後の喀痰の均質化液324は、被検微生物320と、ヒト由来細胞、血球及び埃塵等の夾雑物322とが混在している場合が多いが、この均質化液324を本発明の分離器310aで濾過処理することにより、細胞、血球及び埃塵等の夾雑物322を濾過部材314により除去し、被検微生物320を含む濾液330を得ることができる[図15(b)]。図15においては、遠心分離処理により濾過操作を行い、被検微生物320を含む沈殿物334と上清332に分離した濾液332を得たが、本発明において濾過処理方法は特に限定されない。例えば、窒素ガスやシリンジ等を用いて加圧又は減圧条件で濾過処理を行うことが好ましい。
【0086】
本発明においては、前述の方法により喀痰を均質化処理した後、得られた均質化液を本発明の分離器に注入し、均質化液を分離部材に通過させ、濾液を回収してもよく、また、本発明の分離器に被検喀痰、溶解液及び前処理液等を投入し、該分離器中で喀痰の均質化処理を行った後、該均質化液を分離部材に通過させ、濾液を回収してもよい。
【0087】
図15において、315aは濾液330を回収する回収容器である。本発明において、回収容器315aは、濾液を回収可能なものであれば特に限定されず、図15及び図16に示した如く分離器に設置されていてもよく、図17及び図18に示した如く分離器とは別体となっていてもよい。前記回収容器315aの形状も特に限定されないが、例えば、円筒状で内底部が丸底、V底、平底等の容器が用いられる。前記前記回収容器315aの材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック材料であることが好ましい。
【0088】
図16は、本発明の微生物の分離器を用いた微生物の回収方法の他の例を示す概略説明図である。図16において、310bは本発明の微生物の分離器であり、加圧濾過を用いる例である。図16に示した如く、分離部材314を保持するフィルターホルダー316b内に前記均質化液324を入れ、上方から窒素ガス等を用いて圧力を加えることにより、回収容器315b中に被検微生物320を含む濾液330を回収することができる。加圧方法は特に限定されないが、例えば、フィルターホルダー316bの蓋体318bに加圧手段(図示せず)を接続する方法や蓋体318bに通気孔(図示せず)を設け、通気孔から圧力を加える方法等が用いられる。
【0089】
図17は、本発明の分離器の一例を示す断面概略説明図であり、図18は図17に示した本発明の分離器を含む微生物の回収キットの一例をそれぞれ示す。図17において、310cは本発明の分離器であり、フィルターホルダー316c内に前記第1〜第3フィルター311〜313を有する分離部材314が収納されている。図18に示した如く、フィルターホルダー316cにシリンジ340を接続し、該シリンジ340内に前記均質化液を入れ、該シリンジ340を用いて加圧濾過し、得られた濾液を回収容器315c内に回収することにより、被検微生物を含有する濾液を得ることができる。
【0090】
本発明において、前記得られた微生物含有濾液を、微生物を培養した後、又は培養せずに、微生物を検出することにより、被検喀痰中に存在する微生物を検出することができる。微生物の検出方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。微生物の検出においては、微生物を直接検出してもよく、生体関連物質を検出することにより微生物を検出してもよい。
【実施例】
【0091】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0092】
(実施例1)
喀痰に類似した性状の粘性試料として、ブタ胃由来ムチン(和光純薬製)8gを0.9%塩化ナトリウム溶液10mLに十分溶解し、80%ムチン溶液を用いた。本発明のサンプリング器具2として、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いて吸引力及び吐出力を夫々調べた。各スリットの幅はいずれも1mmとし、容量は1mLとした。実験装置として、図5に示した装置を用いた。図5は本発明の吸引力及び吐出力を測定する際に用いた装置の概念説明図であり、図5(a)は吸引力の場合、図5(b)は吐出力の場合である。図5(a)(b)において、符号Pは粘性試料、符号90は重りホルダ、符号92は重り、符号94は試料容器である。図5(a)では、試料容器94を上方に配置して粘性試料Pを入れ、試料容器94の下端に本発明のサンプリング器具2のプレート状ノズル14を接続し、本発明のサンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34に重りホルダ90を吊り下げて接続し、徐々に重り92を増やすことによって吸引力の測定を行った。図5(b)では、試料容器94を下方に配置し、試料容器94の上端に粘性試料Pを吸引した後の本発明のサンプリング器具2のプレート状ノズル14を接続し、本発明のサンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34に重りホルダ90を載せて接続し、徐々に重り92を増やすことによって吐出力の測定を行った。重り92としては鉄製粒子(直径:6.4mm)を用い、吸引力及び吐出力はF=mg(N)の公式を用いた。その結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた以外は、実施例1と同様の態様で実験を行った。結果を表1に併せて示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた比較例1では、吸引力及び吐出力のいずれにおいても高い数値を示したのに対し、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2では、吸引力及び吐出力のいずれにおいても低い数値を示した。特に、スリットの形状が十字(X字)形、Y字形、W字形である図3(a)〜(c)やZ字形である図3(j)については格別に良い結果が得られた。従って、本発明のサンプリング器具2によれば、喀痰等の粘性試料を比較的少ない力で吸引及び吐出することができ、作業者の負担を軽減できることが確認された。
【0096】
(実施例2)
粘性試料として膿性痰(P2、Miller & Jonesの分類)を用い、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2によって、吸引後と吐出後における粘性の長さ(粘性試料が糸を引く長さ)を夫々調べた。各スリットの幅はいずれも1mmとし、容量は1mLとした。吸引後における粘性の長さとは、粘性試料を入れた容器から本発明のサンプリング器具2を用いて所定量の粘性試料を吸引した後に、本発明のサンプリング器具2の先端を一度容器底に擦りつけてから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。また、吐出後における粘性の長さとは、本発明のサンプリング器具2を用いて所定量吸引した粘性試料を一度容器底に全て吐出してから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。その結果を表2に示す。
【0097】
(比較例2)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた以外は、実施例2と同様の態様で実験を行った。結果を表2に併せて示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた比較例2では、吸引後及び吐出後における粘性の長さが長いのに対し、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2では、吸引後及び吐出後のいずれにおいても同等以上に短い数値を示した。特に、スリットの形状が十字(X字)形、Y字形、W字形である図3(a)〜(c)については格別に良い結果が得られた。その他、I字形である図3(d)やZ字形である図3(j)もこれに次いで良い結果が得られた。吸引時及び吐出時の粘性試料の切れの良い(粘性長さの短い)スリットの形状の傾向として、スリット16がプレート状ノズル14の中央部近傍に位置していることや、少なくとも1つの角部15を有する形状をなしていることが分かった。本発明のサンプリング器具2によれば、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くすることができ、環境衛生上好ましいことが確認された。
【0100】
(実施例3)
粘性試料として膿性痰(P2、Miller & Jonesの分類)を用い、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2によって、夫々500μLずつ採取(吸引して別の容器に吐出)して、その重量を計ることを夫々2回繰り返すことによって定量性を調べた。その結果を表3に示す。
【0101】
(比較例3)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)の筒状体先端を単に切断し、直胴部と同径の吸引吐出口を開口したものを用いた以外は、実施例3と同様の態様で実験を行った。結果を表3に併せて示す。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)の筒状体先端を切断して直胴部と同径の吸引吐出口を開口したものを用いた比較例3においては、吸引後に粘性試料の一部が引っ張られて定量性が損なわれるのに対し、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2ではいずれも1回目も2回目も安定して高い定量性を示した。従って、定量性において、サンプリング器具の吸引吐出口の形状が重要であり、本発明のサンプリング器具2によれば、著しく粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめることができることが確認された。
【0104】
(実施例4)
粘性試料として膿性痰(P2、Miller & Jonesの分類)を用い、図3(a)に示したスリット(吸引吐出口)16aの形状(十字形乃至X字形)を有するプレート状ノズル14aを用いた本発明のサンプリング器具2によって、スリットの幅d1を0.5mm、1mm、1.5mm、2mmとした場合における吸引後及び吐出後の粘性の長さを夫々調べた。吸引後における粘性の長さとは、粘性試料を入れた容器から本発明のサンプリング器具2を用いて所定量の粘性試料を吸引した後に、本発明のサンプリング器具2の先端を一度容器底に擦りつけてから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。また、吐出後における粘性の長さとは、本発明のサンプリング器具2を用いて所定量吸引した粘性試料を一度容器底に全て吐出してから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。その結果を表4に示す。
【0105】
(比較例4)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた以外は、実施例4と同様の態様で実験を行った。結果を表4に併せて示す。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた比較例4と比較して、本発明のサンプリング器具2におけるスリットの幅d1を0.5mm〜2.0mmとした場合にはいずれも吸引後及び吐出後の粘性の長さが短く、特にスリットの幅d1を0.5mm〜1.5mmとした場合に良い結果が得られた。従って、本発明のサンプリング器具2によれば、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くすることができ、環境衛生上好ましいことが確認された。なお、図3(b)〜(j)に示したスリット(吸引吐出口)16b〜16jの形状を有するプレート状ノズル14b〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2においても略同様の結果であった。
【0108】
(実施例5)
粘性試料の種類としてグリセリン(キシダ化学社製)、エチレングリコール(キシダ化学社製)、Triton X-100(キシダ化学社製)又はTween20(シグマ社製)を用い、図3(a)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16aの形状(十字形乃至X字形)を有するプレート状ノズル14aを用いた本発明のサンプリング器具2によって、500μl採取(吸引して別の容器に吐出)して、その重量を計ることを夫々2回繰り返すことによって、粘性試料の種類の違いによる定量性を調べた。その結果を表5に示す。なお、各試薬の比重(グリセリン:1.26、エチレングリコール:1.1088、Triton X-100:1.07、Tween20:1.105)から算出した理論値を併せて示した。
【0109】
【表5】
【0110】
表5に示した如く、本発明のサンプリング器具2によれば、様々な種類の粘性試料に対して高い定量性を示すことが確認された。また、図3(b)〜(j)に示したスリット(吸引吐出口)16b〜16jの形状を有するプレート状ノズル14b〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2においても略同様の結果であった。
【0111】
以上述べた如く、本発明によれば、喀痰等の粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめ、比較的少ない吸引力及び吐出力で作業者の負担を軽減し、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くし、環境衛生面での問題も少ない粘性試料のサンプリング器具2及びその補助治具40,60を提供することができる。
【0112】
(実施例6)
0.25%(2000U/mL)ブロメラインF(Bromelain F,天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)]に溶解し前処理液とした。この前処理液を、膿性痰(P2及びP3、Miller & Jonesの分類)に対して20倍量加えて、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁し、溶解時間を測定した。尚、本実施例及び後述する実施例において、喀痰の溶解時間は、喀痰がほぼ完全に溶液化の状態になるまでに要した反応時間とした。その結果を表6に示す。
【0113】
(比較例5)
スプタザイム(極東製薬工業(株)製、セミアルカリプロテアーゼ)を、キットに付随するリン酸バッファー溶解液に溶解し前処理液とした。前処理液を変更した以外は実施例6と同様に実験を行った。結果を表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
表6に示した如く、セミアルカリプロテアーゼを用いた比較例5では、P2の膿性痰の溶液化に120分を要し、更にP3の膿性痰は180分反応させても溶液化されなかったのに対し、ブロメラインを用いた実施例6ではP2の膿性痰は70分、P3の膿性痰は90分という速さで溶液化されていた。従って、ブロメラインを用いることにより、均質化処理を迅速に行うことができ、更に、従来では均質化が難しかった膿性部分の多い膿性痰をも迅速に均質化できることが判った。
【0116】
(実験例1)
0.25%(2000U/mL)ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[0.9%塩化ナトリウム溶液、25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.1mM EDTA]に加え、懸濁液とした。この懸濁液にインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae、H. influenzae)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae、S. pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、P. aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、S. aureus)、レジオネラ菌(Legionella pneumophila、L. pneumophila)、又は肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae、K. pneumoniae)を103CFU/mLとなるように加え、室温(26℃)において0時間と二時間後で生菌数を比較した。また、対照として、ブロメラインFを添加せず、溶解液を懸濁液として使用した以外は同様の条件で生菌数を測定した。
【0117】
生菌数の測定方法は、前記各細菌懸濁液を、チョコレート寒天培地EX(日水製薬(株)製)各プレートに100μLずつ3枚播き、37℃で18時間培養した後、コロニー数を測定し、3枚のプレートの平均値を生菌数とした。結果を表7に示す。
【0118】
(比較例6)
懸濁液として、スプタザイム(極東製薬工業(株)製、セミアルカリプロテアーゼ)を用い、細菌としてインフルエンザ菌のみを添加した以外は、実験例1と同様に実験を行った。結果を表8に示す。
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
表7に示した如く、ブロメラインを用いることで、インフルエンザ菌、肺炎レンサ球菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌及び肺炎桿菌のいずれの細菌においても、酵素の影響を受けないことが判った。
また、セミアルカリプロテアーゼを用いた比較例6では、室温で2時間反応させることで、生菌数の減少がみられたのに対し、ブロメラインを用いた実験例1では室温で2時間反応させても、ほとんど生菌数の減少は認められなかった。従って、ブロメラインを用いることにより、細菌に影響を与えることなく安定に細菌を検出できることがわかった。
【0122】
(実施例7〜10)
ブロメラインF(天野エンザイム社製、1000U/mL)及びパパイン(天野エンザイム社製、1000U/mL)を、溶解液[10mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、及び表9又は表10に示す材質及び直径の粒子を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁し、溶解時間を測定した。溶解時間の結果を表9及び表10に示す。
【0123】
なお、鉄およびステンレス粒子の数は、直径1.6mm:40粒、直径2.4mm:20粒、直径3.2mm:10粒、直径4.0mm:7粒、直径4.8mm:4粒、直径5.6mm:3粒とし、アルミナ粒子の数は、直径1.0mm:40粒、直径2.0mm:20粒、直径3.0mm:10粒、直径4.0mm:7粒、直径5.0mm:4粒とし、ガラス粒子の数は、直径1.5−2.5mm:20粒、直径4.0−4.7mm:7粒、直径4.8−5.6mm:4粒とした。
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
表9及び表10に示した如く、鉄、ステンレス又はアルミナ粒子を用いることにより、喀痰溶解時間を大幅に短縮することができた。また、材質がステンレス、鉄又はアルミナの粒子で、かつ大きさを直径4.0mm以上にすることで、喀痰溶解時間をさらに大幅に短縮できることが明らかとなった。
【0127】
(実験例2)
インフルエンザ菌(H. influenzae)又は黄色ブドウ球菌(S. aureus)を、懸濁液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム]にそれぞれ懸濁し、細菌調製液とした。2mlエッペンドルフチューブに、細菌調製液1mL、及びステンレス製の粒子(直径4mm)7粒を加え、ボルテックスを用いて回転数2500rpmで振蕩させ、30秒毎に生菌数を測定し、各攪拌時間による細菌への影響を調べた。その結果を表11に示す。
【0128】
【表11】
【0129】
表11に示した如く、3分間ボルテックスをかけても粒子による細菌への影響がないことが明らかとなった。
【0130】
(実験例3)
インフルエンザ菌(H. influenzae)又は黄色ブドウ球菌(S. aureus)を、懸濁液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム]にそれぞれ懸濁し、細菌調製液とした。2mlエッペンドルフチューブに、細菌調製液1mL、及び各直径のステンレス製粒子を加え、ボルテックスを用いて回転数2500rpmで3分間振蕩させた後、生菌数を測定し、細菌への影響を調べた。また、対照として、粒子を加えなかった以外は同様の条件で実験を行った。それらの結果を表12に示す。
尚、ステンレス製粒子の数は、粒子の重量を統一し、直径1.6mm:40粒、直径2.4mm:20粒、直径3.2mm:10粒、直径4.0mm:7粒、直径4.8mm:4粒、直径5.6mm:3粒とした。
【0131】
【表12】
【0132】
表12に示した如く、ステンレス製粒子を用いた均質化処理は細菌への影響が極めて少なく、特に、粒子の大きさが4.0mm以上では、3分間ボルテックスをかけても粒子による細菌への影響がないことが明らかとなった。
【0133】
(実施例11)
0.25%のブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P2の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、直径4mmのステンレス製粒子を7粒加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックスで懸濁し、溶解時間を測定した。溶解時間の結果を表13に示す。
【0134】
(実施例12)
スプタザイム(極東製薬工業(株)製、セミアルカリプロテアーゼ)を、キットに付随するリン酸バッファー溶解液に溶解し前処理液とした。前処理液を変更した以外は実施例11と同様の条件で実験を行った。結果を表13に示す。
【0135】
(実施例13)
前処理液として、実施例11と同様の前処理液を用いた。10mLのスピッツ管に、喀痰(性状P2の膿性痰)及び喀痰の20倍量の前処理液を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックスで懸濁し、溶解時間を測定した。溶解時間の結果を表13に示す。
【0136】
(比較例7)
前処理液として、実施例12と同様の前処理液を用いた。前処理液を変更した以外は実施例13と同様の条件で実験を行った。結果を表13に示す。
【0137】
【表13】
【0138】
表13に示した如く、喀痰溶解性において、酵素のみでは長時間を要する場合においても、ステンレス粒子を用いることにより、喀痰溶解時間を大幅に短縮することができた。
【0139】
(実験例4及び比較例8)
黄色ブドウ球菌(S. aureus)を103CFU/mLとなるように生理食塩水で調製し菌液とした。シリンジフィルターホルダーに表1に示す孔径及び材質のフィルターをそれぞれ入れて用意した。これをシリンジに接続し、菌液を通過させた後、回収した菌液(濾液)をプレートに播き、生菌数を測定した。なお、生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。また、対照として、フィルターを通過させていない菌液についても、同様に生菌数を測定した。その結果を表14に示す。
【0140】
【表14】
【0141】
表14中、ポリカーボネートはワットマン社製のサイクロポアメンブレン(親水性ポリカーボネートメンブレン、膜厚7−20μm)、ガラス繊維はワットマン社製のGMF150(膜厚0.75mm)である。
【0142】
以上の結果、ガラス繊維を用いた比較例8ではフィルトレーションによる菌の回収率が大幅に減少しているのに対し、ポリカーボネートを用いた実験例4では菌の回収率がフィルトレーションしていない対象と同等であった。このことより、ポリカーボネートを用いることで、効率よく菌を回収できることが明らかとなった。
【0143】
(実験例5〜7)
肺炎レンサ球菌(S. pneumoniae)、緑膿菌(P. aeruginosa)又は肺炎桿菌(K. pneumoniae)を103CFU/mLとなるようにそれぞれ生理食塩水で調製した。シリンジフィルターホルダーに表15に示す孔径及び材質のフィルターをそれぞれ入れて用意した。これをシリンジに接続し、菌液を通過させた後、回収した菌液をプレートに播き、生菌数を測定した。生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。また、対照として、フィルターを通過させていない菌液についても、同様に生菌数を測定した。その結果を表15に示す。
【0144】
【表15】
【0145】
表15中、PTFEはADVANTEC社製のポリフロン(ダイキン工業(株)の登録商標)フィルター(膜厚0.36mm)、セルロース繊維はADVANTEC社製の定性濾紙(膜厚0.26mm)、ポリカーボネートはワットマン社製のサイクロポアメンブレン(親水性ポリカーボネートメンブレン、膜厚7−20μm)である。
【0146】
以上の結果、フィルターの材質をPTFE、セルロース繊維及びポリカーボネート等の有機材料にすることで、種々の細菌に対して効率よく菌を回収できることが明らかとなった。
【0147】
(実験例8及び9)
緑膿菌(P. aeruginosa)又は肺炎レンサ球菌(S. pneumoniae)を103CFU/mLとなるようにそれぞれ生理食塩水で調製した。シリンジフィルターホルダーに表16に示す孔径及び材質のフィルターをそれぞれ入れて用意した。これをシリンジに接続し、菌液を通過させた後、回収した菌液をプレートに播き、生菌数を測定した。生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。また、対照として、フィルターを通過させていない菌液についても、同様に生菌数を測定した。その結果を表16に示す。
【0148】
【表16】
【0149】
表16中、ナイロンは(株)サンプラテック製のナイロンメッシュシート、ポリエチレンは(株)サンプラテック製のPEメッシュシートである。
【0150】
以上の結果、フィルターの材質をナイロン又はポリエチレンにすることで、緑膿菌及び肺炎レンサ球菌を効率よく回収できることが明らかとなった。
【0151】
(実験例10〜12)
<第3及び第2フィルターによる菌と細胞の混合溶液からの菌の分離>
実験例10では、緑膿菌(P. aeruginosa)を103CFU/mLとなるように生理食塩水で調製し、更に、PC−14細胞を106/mLとなるように菌液と混合した。
シリンジフィルターホルダーに実験例7で用いた孔径5μm、材質ポリカーボネートの第3フィルターを入れ、その上に孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルター[(株)サンプラテック製、ナイロンメッシュシート]を入れた。これをシリンジに接続し、細胞と菌液の混合溶液を通過させた後、回収した菌液をプレートに播き、生菌数を測定した。生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。結果を表17に示す。
【0152】
また、対照として、表17に示した如く、前記菌液と細胞の混合溶液(実験例11)又は菌液(実験例12)を用いて前記第2フィルターを入れずに第3フィルターのみに通過させた場合の濾液、並びにフィルターを通過させていない菌液(対照)についても同様に生菌数を測定した。結果を表17に示す。
【0153】
【表17】
【0154】
以上の結果、第3フィルターのみを用いた場合は細胞による詰まりが生じ、フィルターへの通過はできず、孔径5μmのフィルター上に孔径20μmのフィルターを組み合わせることで、細胞存在下においても緑膿菌を効率よく回収できることが明らかとなった。
【0155】
(実験例13〜17)
<第2及び第1フィルターによる粘性溶液の通過性>
ブタ胃由来のムチン(和光純薬工業(株)製)を生理食塩水に溶解し、80%粘性溶液とした。これに生理食塩水に溶解した0.1%ジチオトレイトール(DTT)溶液を等量加え、室温で1時間反応させ、ムチンの均質化粘性溶液とした。シリンジフィルターホルダーに実験例10で用いた孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルターを入れ、その上に孔径42、59、77又は108μm、材質ナイロンの第1フィルター[(株)サンプラテック社製、ナイロンメッシュシート]をそれぞれ入れた(実験例13〜16)。これをシリンジに接続し、ムチンの均質化粘性溶液を通過させて、フィルターの通過性を調べた。また、対照として、シリンジフィルターホルダーに前記第2フィルターのみを入れたものを用いて同様にフィルターの通過性を調べた(実験例17)。結果を表18に示す。
【0156】
【表18】
【0157】
表18において、フィルターの通過性の評価基準は下記の通りである。
◎:シリンジ操作がよりスムーズである。
○:シリンジ操作がスムーズである。
△:シリンジ操作が硬い。
×:シリンジ操作がかなり硬い。
【0158】
表18に示した如く、シリンジフィルターホルダーに孔径20μmのフィルターのみを入れたもの(実験例17)では、シリンジ操作が硬く、ムチンの均質化粘性溶液をフィルターに通過させることに手間取り、また、孔径20μmのフィルターと、孔径42、59又は77μmのフィルターとの組み合わせ(実験例13−15)では、比較的スムーズにムチンの均質化粘性溶液をフィルターに通過させることができた。特に孔径20μmのフィルターと孔径108μmのフィルターとの組み合わせ(実験例16)はよりスムーズにムチンの均質化粘性溶液をフィルターに通過させることができた。このことから、第1フィルターのサイズは20μmを超えることが好ましく、より好ましくは約100μmであることがわかった。
【0159】
(実施例14、15及び実験例18)
<第1、第2及び第3フィルターによる喀痰均質化溶液の通過性>
ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に終濃度2000U/mL(0.25%)となるよう溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、直径4mmのステンレス製粒子7粒を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁した。20分反応させた溶液を喀痰均質化液とした。
【0160】
シリンジフィルターホルダーに実験例7で用いた孔径5μm、材質ポリカーボネートの第3フィルターを入れ、その上に実験例10で用いた孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルターを入れ、さらにその上に孔径42又は108μm、材質ナイロンの第1フィルター[(株)サンプラテック社製、ナイロンメッシュシート]をそれぞれ入れた(実施例14又は15)。これをシリンジに接続し、前記喀痰の均質化液を通過させて、フィルターの通過性を調べた。また、対照として、シリンジフィルターホルダーに前記第3フィルター及び第2フィルターのみを入れたものを用いて同様にフィルターの通過性を調べた(実験例18)。結果を表19に示す。なお、表19のフィルターの通過性の評価基準は表18と同様である。
【0161】
【表19】
【0162】
表19に示した如く、シリンジフィルターホルダーに孔径5及び20μmの2種のフィルターのみを入れたもの(実験例18)では、シリンジ操作が硬く、喀痰の均質化液をフィルターに通過させることに手間取り、また、孔径5及び20μmのフィルターと、孔径42又は108μmのフィルターとの組み合わせでは(実施例14又は15)、比較的スムーズに喀痰の均質化液をフィルターに通過させることができた。
【0163】
(実施例16)
1.菌液の調製
トリプチックソイアガーで18時間培養した黄色ブドウ球菌(S. aureus)を生理食塩水に懸濁させたものを培養菌原液とした。これを生理食塩水で所定の菌数に希釈し、実施例に用いる希釈菌液とした。菌数については、培養菌原液の希釈系列を作成して、トリプチックソイアガーで培養して得られた生菌数から所定の菌数を算出した。なお、希釈菌液のかわりに生理食塩水を用いて同様に反応させたものを対照とした。
【0164】
2.喀痰均質化液の調製
ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に終濃度2000U/mL(0.25%)となるよう溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、直径4mmのステンレス製粒子7粒を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁した。20分反応させた溶液を喀痰均質化液とした。
【0165】
3.菌液の添加
前述の方法に従って培養した黄色ブドウ球菌を10×108CFU/mLになるように溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製、2000U/mL)]で希釈した後、更に黄色ブドウ球菌が10×107CFU/mLになるように前述の喀痰均質化液で希釈した。
また、前述の方法に従って培養した黄色ブドウ球菌を10×107CFU/mLになるように溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製、2000U/mL)]で希釈し、これを陽性コントロール液とした。
また、前述の喀痰均質化液のみのものを陰性コントロール液とした。
【0166】
4.微生物の回収
第3フィルター(孔径5μm、ポリカーボネート、ワットマン社製)、第2フィルター(孔径20μm、ナイロン、(株)サンプラテック製)、及び第1フィルター(孔径108μm、ナイロン、(株)サンプラテック製)を下から順にシリンジフィルターホルダーに入れ、シリンジと接続し、微生物の分離器として用いた。
前記調製した各溶液を一部とり、微生物の分離器に通過させ、フィルター通過液とした。
【0167】
5.微生物の検出
前記得られたフィルター通過液をそれぞれ、室温下で3000g20分遠心し、上清除去後、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製、2000U/mL)]で希釈し、黄色ブドウ球菌を10×106CFU/mLになるように調製した。アルカリ−SDS法(新生化学実験講座2 核酸I分離精製(東京化学同人)、Nucleic Acids Res.Vol.7,p1513(1979))に従って溶菌させ、これを溶菌液とした。
【0168】
前記得られた溶菌液に対して下記の方法により黄色ブドウ球菌の核酸検出を行なった。
〈マイクロプレートの調製〉
黄色ブドウ球菌のrRNAに相補的な配列を有するキャプチャープローブ(下記塩基配列を有する核酸プローブ)を各々ストリップウェルタイプの96ウェルマイクロプレート上に固定し、実験に用いた。
キャプチャープローブの塩基配列(配列番号1)
5'- CGTCTTTCACTTTTGAACCAT GCGGTTCAAAATATTATCCGG -3'-Amino link
【0169】
〈各溶液の調製方法〉
(1)第1ハイブリダイゼーション反応溶液の調製
第1ハイブリダイゼーション溶液[4XSSC、0.2%SDS、1%Blocking reagent(Roche製)、20%ホルムアミド、Salmon sperm DNA(10μg/mL)]にアシストプローブを0.025pmol/μLになるように溶解し、第1ハイブリダイゼーション反応溶液を調製した。なお、前記アシストプローブは、黄色ブドウ球菌のrRNAに相補的な配列及び後述するHCP−1と同じ塩基配列を有する核酸プローブであり、下記塩基配列を有する。
アシストプローブの塩基配列(配列番号2)
5'- CATGTCTCGTGTCTTGCATC CTGCTACAGTGAACACCATC GTTCTCGACATAGACCAGTC ATCTATAAGTGACAGCAAGAC -3'
【0170】
(2)第2ハイブリダイゼーション反応溶液の調製
第2ハイブリダイゼーション溶液[4XSSC、0.2%SDS、1%Blocking reagent(Roche製)]にHCP−1及び5'末端がDIGラベルされたHCP−2を1pmol/μLになるように溶解し、第2ハイブリダイゼーション反応溶液を調製した。なお、前記HCP−1及びHCP−2は、パルサー法で用いられる一対の核酸プローブであり、該プローブの複数対を反応させると、プローブが自己集合し、プローブのポリマーが形成される(特許第3310662号等参照。)。前記HCP−1及びHCP−2の塩基配列は下記の通りである。
HCP−1の塩基配列(配列番号3)
5'- CATGTCTCGTGTCTTGCATC CTGCTACAGTGAACACCATC GTTCTCGACATAGACCAGTC -3'
HCP−2の塩基配列(配列番号4)
DIG-5'- GATGCAAGACACGAGACATG GATGGTGTTCACTGTAGCAG GACTGGTCTATGTCGAGAAC -3'
【0171】
〈反応及び検出方法〉
前記マイクロプレートに前記得られた溶菌液を50μL、前記第1ハイブリダイゼーション反応溶液を50μLずつ分注し、プレートシーラーでしっかりとシールし、1時間反応させた(第1ハイブリダイゼーション)。なお、該反応はWO2005/106031号記載のハイブリダイゼーション方法を用いて、マイクロプレートの上部20℃、下部45℃に設定した温度条件下で行った。
反応後、洗浄液[50mM Tris, 0.3M NaCl, 0.01% Triton X-100, pH 7.6]で洗浄した。
【0172】
洗浄後、洗浄液をよくきったマイクロプレートへ第2ハイブリダイゼーション反応溶液を100μLずつ分注し、プレートシーラーでしっかりとシールした。マイクロプレートの上部20℃、下部60℃に設定した条件下で1時間反応させた(第2ハイブリダイゼーション、パルサー反応)。
【0173】
マイクロプレートウェルを洗浄後、50mM Tris(pH 7.6)に溶解したPOD標識抗ジゴキシゲニン(60mU/mL)を50μL加え、37℃のインキュベーターで反応させた。洗浄液で洗浄後、0.2M酢酸緩衝液(pH 5.0)、0.06% TMBと0.04% H2O2を含む発色液を50μL加え、暗所で15分間放置し、655nmの吸光度を測定した。結果を図19に示す。なお菌数は4.6×105CFU/wellであった。
【0174】
(実施例17)
前記微生物の分離器を用いた微生物の回収工程を行わなかった点以外は実施例16と同様に実験を行った。結果を図19に示す。
【0175】
図19に示したように、本発明の均質化処理方法を用いた実施例16及び17のいずれにおいても微生物が検出できたが、本発明の微生物の分離器を用いて微生物の回収を行った実施例16は喀痰からより効率的に微生物が検出されており、フィルターに通過させることにより、喀痰中の反応阻害物質が除去され、反応が十分に進行することがわかった。
【0176】
(実施例18)
0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に溶解し前処理液とした。25mLコンテナ容器に、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、及びステンレス粒子(直径4.8mm:20粒)を加え、室温(25℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁後、溶解時間を30分とし、得られた溶液を喀痰の均質化液とした。
【0177】
シリンジフィルターホルダーに実験例7で用いた孔径5μm、材質ポリカーボネートの第3フィルターを入れ、その上に実験例10で用いた孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルターを入れ、さらにその上に実施例15で用いた孔径108μm、材質ナイロンの第1フィルターをそれぞれ入れた。これをシリンジに接続し、前記喀痰の均質化液の一部を通過させて、フィルトレーション後の均質化液とした。
【0178】
次に、フィルトレーション前の均質化液、フィルトレーション後の均質化液それぞれについて、フェイバーGセットS(日水製薬(株)製)を用いてグラム染色を行い、顕微鏡で観察した。フィルトレーション前の均質化液の顕微鏡写真を図20に示す。フィルトレーション後の均質化液の顕微鏡写真を図21に示す。図20及び図21において、(a)は倍率100、(b)は倍率1000の結果である。
【0179】
図20に示したように、本発明の均質化処理方法により喀痰が短時間で均質化されていることがわかった。なお、図20中、白血球を矢印で示した。さらに、図21に示したように、フィルトレーション後の均質化液では、血球細胞及び喀痰の粘性成分が除かれていることがわかった。
【符号の説明】
【0180】
2:本発明のサンプリング器具、10:筒状体、12:直胴部、13:閉塞部、14,14a〜14j:プレート状ノズル、15:角部、16,16a〜16j:スリット、17:開口部、18:鍔部、20:ガスケット、22:シール突条、24:コア部、30:プランジャ、32:係着凸部、34:操作用頭部、40:本発明のサンプリング器具用補助治具(一例)、42:外嵌筒部材、43:開口部、44:係合片、45:切欠部、46:テーパー部、48:案内溝、50:内嵌軸部材、52:係合部、53:凹欠部、56:押圧用頭部、58:操作レバー、60:本発明のサンプリング器具用補助治具(他例)、62:外嵌筒部材、63:開口部、64:嵌合凸部、65:切欠凹部、66:テーパー部、67:係止凸部、68:ボタン孔、69:付勢手段(スプリング)、70:中嵌筒部材、72:嵌合凸部、74:係止手段(ボタン)、76:スプリング、80:内嵌軸部材、82:当接端部、84:押圧用頭部、90:重りホルダ、92:重り、94:試料容器、110:シリンジ、112:筒状体、114:ノズル、116:吸引吐出口、117:開口部、118:鍔部、120:ガスケット、130:プランジャ、134:操作用頭部、P:粘性試料、210a〜210d:容器の蓋、212a〜212d:容器、214:金属粒子、216:容器の底部、218:底蓋、310a,310b,310c:本発明の微生物の分離器、311:第1フィルター、312:第2フィルター、313:第3フィルター、314:分離部材、315a,315b,315c:回収容器、316a,316b,316c:フィルターホルダー、317a:フィルターホルダーの本体、318a,318b:蓋体、320:被検微生物、322:夾雑物、324:均質化液、330:濾液、332:上清、334:沈殿物、340:シリンジ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、喀痰等のように粘性の高い液体試料を定量的にサンプリングするためのサンプリング器具及びその補助治具、喀痰を穏和な条件下で迅速に処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができる喀痰の均質化処理剤、均質化処理用器具、均質化処理方法及び該方法を用いた微生物の検出方法、並びに喀痰中に存在する微生物を簡便、迅速且つ効率的に回収するための微生物の分離器、微生物の回収方法及び該方法を用いた微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養試験(菌の同定)等の対象となる液体試料を採取してサンプリングする場合、サンプリング器具として、スポイトやピペット或いはシリンジを用いるのが一般的である。しかし、これら器具は、粘性の低い液体試料である場合にはある程度の定量性をもってサンプリングを行うことができるのであるが、喀痰等の粘性の高い液体試料(以下、粘性試料という)の場合は、サンプリングの定量性が著しく損なわれるという問題があった。
【0003】
即ち、一般的なスポイトやピペットでは、空気圧によって粘性試料を吸引又は吐出するため、特に吐出の際に粘性試料がスポイトやピペットの内壁にこびり付いて残ってしまい、吸引した粘性試料の全量を吐出できないことが多い。
【0004】
また、図10に示した如く、一般的なシリンジ110は、内部中空の長尺直胴部を有する筒状体112の先端側に小径のノズル114を突設してノズル114の先端に円形の吸引吐出口116を開穿し、また、基端側を開口部117とし、その外周縁に鍔部118を形成すると共に、筒状体112の内壁に密着しつつ筒状体112の長手方向に摺動自在に内嵌されたガスケット120を設け、ガスケット120を摺動操作するために、先端をガスケット120に係着し且つ基端を操作用頭部134とした長尺棒状のプランジャ130とを備える(図10参照、その他特許文献1及び2等参照)。
【0005】
このようなシリンジ110の場合は、ガスケット120によって粘性試料が筒状体112の内壁に残ることはないものの、ノズル114が突設されているために、ノズル114の内部に粘性試料が残ってしまい、やはり吸引した粘性試料の全量を吐出できない場合がある。加えて、従来のシリンジ110の場合は比較的多くの吸引力及び吐出力を要し、作業者の負担が大きい。その他、従来のシリンジ110では、吸引時及び吐出時に粘性試料が粘ついて切れが悪く、必要量を採取するのが困難だったり、粘ついた粘性試料が糸を引いて他所に付着したりして環境衛生面での問題もあった。
【0006】
他方、喀痰中に含まれる特定成分、特に、呼吸器感染症の患者の喀痰中に存在する病原菌等を検出、測定する場合には、患者の喀痰を採取し、これを培養して病原菌を検出することが行われている。しかし、患者の喀痰は一般に粘性が高く、そのままでは培地に均等に検体を塗抹することが困難であり、検査結果を誤る場合がある。また、遺伝子検査においても、そのままの状態では正確な菌数を判断することは困難である。そこで喀痰を前処理して、喀痰中に含まれる成分を均一にして、特定の成分の検出、測定を行いやすくする必要がある。
【0007】
その方策として、数々の前処理法が考案されている。抗酸菌、結核菌の検出における前処理方法としては、例えば、非特許文献1は、還元性物質であるN−アセチル−L−システイン(NALC)を用いたNALC−NaOH法を推奨しており、該方法は広く使用されている(例えば、特許文献3等参照)。しかしながら、NALC−NaOH法は、ヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)などの一般細菌を検出する場合においては、処理条件が厳しく、細菌へのダメージが大きいといった問題があった。前処理条件の穏和な方法として、酵素であるセミアルカリプロテアーゼを用いる方法があるが、膿性痰のような粘性強度の高いものにおいては、十分な均質化処理ができない場合があった。そこで、セミアルカリプロテアーゼとNALC−NaOH法を併用する方法も知られているが(例えば、特許文献4等参照。)、操作が面倒であり、時間も要する。また、喀痰の前処理の所要時間により生菌数が減少し、病原菌を正確に判断することが困難な場合があるといった問題があった。
【0008】
また、上記した前処理液を用いる懸濁方法としては、ボルテックスミキサーを用いる方法が主流である。そのため、膿性痰のような粘性強度の高いものにおいては、十分な均質化処理ができない場合があった。
そこで、特許文献5に示すように、球状固体材料を収納した喀痰処理用器具による喀痰の均質化が提案されており、該文献は球状固体材料としてガラス又は水晶を記載している。しかしながら、膿性痰に対しては、該器具を用いても均質化に長時間を要し、また十分な均質化処理ができない場合があった。
【0009】
さらに、前記した前処理液を用いて前処理された試料中には、微生物、ヒト由来細胞、埃塵等様々なものが混在しており、遺伝子や蛋白質等の検査に用いる場合においては、擬陽性判定をしてしまう場合が多数ある。そこで、検体から微生物を回収する方法として、例えば、特許文献6は、検体を前処理した後、吸着担体を用いて微生物のみを吸着させて微生物を回収する方法を開示している。しかしながら、この方法は、吸着と剥がす作業の二つを要しているため、操作上の面倒さと、収率の問題がある。また、検体を濾過し、フィルター上に微生物を捕捉する方法が知られているが(特許文献7)、収率及びヒト細胞、血球、塵埃等との分離に関して改善が必要であると考えられる。
【0010】
一方、特許文献8は、検体を前処理した後、少なくとも2種類の濾過膜からなる濾過部材で濾過し、免疫クロマトグラフィー用の試料を得る方法を記載しているが、この方法は免疫クロマトグラフィーを行う際に試料のクロマト用膜担体上の目詰まりをなくすことを目的とするものであり、微生物の回収を目的とするものではなく、微生物の回収については何ら記載されていない。さらに濾過膜としてはガラス繊維濾紙とガラスフィルターが記載されているのみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平5−3318号公報
【特許文献2】特公平1−21989号公報
【特許文献3】特開2004−344108号公報
【特許文献4】特開2002−65249号公報
【特許文献5】特開平1−291160号公報
【特許文献6】特開2001−112497号公報
【特許文献7】特開2004−180551号公報
【特許文献8】特開2005−24325号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】新結核菌検査指針2000、財団法人結核予防会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、第1に、喀痰等の粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめ、比較的少ない吸引力及び吐出力で作業者の負担を軽減し、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くし、環境衛生面での問題も少ない粘性試料のサンプリング器具及びその補助治具を提供することを目的とする。また、本発明は、第2に、膿性痰の均質化処理が可能であり、喀痰を穏和な条件下で簡便且つ迅速に均質化処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができる喀痰の均質化処理剤、均質化処理用器具、均質化処理方法、及び微生物の検出方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、第3に、喀痰中に存在する微生物を簡便、迅速且つ効率的に回収するための微生物の分離器、微生物の回収方法及び該方法を用いた微生物の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、第1に、喀痰等の粘性試料のサンプリングにおいて、シリンジの先端の形状を変えることにより、定量性や操作性を改善でき、粘性試料を容易且つ安全に採取できることを見出し、第2に、喀痰の前処理方法において、蛋白質分解酵素の一つであるシステインプロテアーゼ、特にブロメライン(Bromelain)を用いることにより効率的に前処理できることを見出し、第3に、喀痰の前処理方法において、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子を用いて攪拌することで、膿性痰のような粘性の高い試料においても簡便かつ迅速に前処理できることを見出し、第4に、喀痰からの微生物の検出において、3種のフィルターを有する分離器を用いることで、微生物と細胞、血球や埃塵等を効率的に分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、上記課題を解決するために、本発明の粘性試料のサンプリング器具は、先端を閉塞し且つ基端を開口し、該基端の外周縁に鍔部を形成した内部中空の長尺の直胴部を有する筒状体(10)と、該筒状体の内壁に密着しつつ該筒状体の長手方向に摺動自在に内嵌されたガスケット(20)と、先端を該ガスケットに係着する係着凸部とし且つ基端を操作用頭部とし、該操作用頭部を操作して該ガスケットを摺動操作可能にした長尺棒状のプランジャ(30)と、を備える粘性試料のサンプリング器具であって、前記筒状体の先端は、該筒状体の直胴部と略同径のプレート状ノズル(14)によって閉塞され、該プレート状ノズルに所定形状のスリット(16)を開穿して吸引吐出口を形成してなることを特徴とする。
【0016】
前記スリットは、前記プレート状ノズル(14)の中央部近傍に位置することが好ましく、また、前記スリットは、少なくとも1つの角部(15)を有する形状をなしていることが望ましい。
前記スリットの形状は、十字(X字)形、Y字形又はW字形のいずれかであることが好適である。前記スリットの幅は、0.5mm〜2.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0017】
前記粘性試料としては、検査・分析・試験の対象となる粘性の高い液体試料であれば特に限定されないが、喀痰である場合に本発明器具は特に好適である。
【0018】
また、本発明のサンプリング器具用補助治具は、前記サンプリング器具用の補助治具(40,60)であって、前記サンプリング器具における操作用頭部を操作自在としたことを特徴とする。
【0019】
前記サンプリング器具用補助治具(40)は、先端に前記サンプリング器具における筒状体の鍔部に対して係合自在とされた係合片を有し且つ基端を開口部とし、直胴部に案内溝を形成した長尺筒状の外嵌筒部材(42)と、該外嵌筒部材の内部に摺動自在に軸通されると共に、先端に前記サンプリング器具におけるプランジャの操作用頭部に対して係合自在とされた係合部を有し且つ前記案内溝に沿って操作レバーを設け、基端を押圧用頭部とした内嵌軸部材(50)と、を備えることが好適である。
【0020】
前記サンプリング器具用補助治具(60)は、前記サンプリング器具用の補助治具(60)であって、先端内周に前記サンプリング器具における筒状体の鍔部に対し嵌合自在とされた嵌合凸部を設け且つ基端を開口部とした長尺筒状の外嵌筒部材(62)と、該外嵌筒部材の内部に摺動自在に軸通されると共に、先端内周に前記サンプリング器具におけるプランジャの操作用頭部に対して嵌合自在とされた嵌合凸部を設け且つ外嵌筒部材に対する付勢手段及び係止手段を設けた中嵌筒部材(70)と、該中嵌筒部材の内部に摺動自在に軸通されると共に、先端を前記サンプリング器具におけるプランジャの操作用頭部に当接する当接端部とし、基端が押圧用頭部とされた内嵌軸部材(80)と、を備えることが好適である。
【0021】
本発明の喀痰の均質化処理剤は、システインプロテアーゼを含有することを特徴とする。前記システインプロテアーゼとしては、植物性システインプロテアーゼが好ましく、ブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましく、ブロメラインが特に好ましい。本発明の均質化処理剤は、塩化ナトリウム及びトリス緩衝液を更に含有することが好ましい。本発明の均質化処理剤は、微生物の検出方法における前処理に好適に用いられる。
【0022】
本発明の喀痰の均質化処理用器具は、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子を収容することを特徴とする。前記金属及びその酸化物がステンレス鋼、鉄又はアルミナであることが好ましい。前記粒子が直径1mm以上10mm以下の球状粒子であることが好ましく、直径4mm以上10mm以下の球状粒子であることがより好ましい。
【0023】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第1の態様は、喀痰を前記本発明の均質化処理剤で処理することを特徴とする。本発明の均質化処理方法は、微生物の検出における前処理として特に好ましい。
【0024】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第2の態様は、被検喀痰を含む試料を金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子の存在下で攪拌することを特徴とする。
【0025】
前記金属及びその酸化物がステンレス鋼、鉄又はアルミナであることが好ましい。なお、本願明細書において、ステンレス鋼を単にステンレスとも称する。
前記粒子が直径1mm以上10mm以下の球状粒子であることが好ましく、直径4mm以上10mm以下の球状粒子であることがより好ましい。
【0026】
前記試料が喀痰前処理剤を含むことが好ましい。
前記喀痰前処理剤が、蛋白質分解酵素を含有することが好適である。前記蛋白質分解酵素が、セミアルカリプロテアーゼ及びシステインプロテアーゼからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。さらに、前記システインプロテアーゼが、ブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。また、前記喀痰前処理剤が前記本発明の均質化処理剤であることが好適である。
【0027】
本発明の均質化処理方法は、微生物の検出方法における前処理として特に好適である。
【0028】
本発明の喀痰からの微生物の回収方法は、均質化処理した喀痰から微生物を回収する方法であって、該均質化処理した喀痰を被検微生物が通過可能であり且つ有機材料からなる少なくとも3種のフィルターを有する分離器を用いて濾過することにより、前記被検微生物を含有する濾液を得ることを特徴とする。
【0029】
前記分離器は、前記均質化処理した喀痰が通過する順に、第1フィルター、第2フィルター及び第3フィルターが設けられ、下流方向に従い、順次に前記フィルターの孔径が小となることが好ましい。前記第3フィルターの孔径が0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上7μm以下であることがより好ましい。前記第2フィルターの孔径が5μm以上であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることがより好ましい。前記第1フィルターの孔径が5μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、80μm以上120μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
前記有機材料が、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、セルロース及びポリエチレンからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好適である。
前記被検微生物としては、ウイルス、リケッチャ、細菌又は真菌等の微生物が好ましい。
本発明の微生物の回収方法において、喀痰の均質化処理方法は特に限定されないが、本発明の均質化処理方法が好適に用いられる。
【0031】
本発明の微生物の分離器は、被検微生物が通過可能であり且つ有機材料からなる少なくとも3種のフィルターを有する前述の分離器であって、本発明の微生物の回収方法で用いられる。
【0032】
本発明の微生物の検出方法の第1の態様は、被検喀痰を前記本発明の喀痰の均質化処理方法で処理した後、前記被検喀痰中に存在する微生物を検出することを特徴とする。
【0033】
本発明の微生物の検出方法の第2の態様は、前記本発明の微生物の回収方法により得られた濾液から被検微生物を検出することを特徴とする。
【0034】
本発明の微生物の検出方法において、前記微生物としては、ウイルス、リケッチャ、細菌又は真菌等の微生物が好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、喀痰等の粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめ、比較的少ない吸引力及び吐出力で作業者の負担を軽減し、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くし、環境衛生面での問題も少ない粘性試料のサンプリング器具及びその補助治具を提供することができるという大きな効果を奏する。
【0036】
また、本発明によれば、従来の喀痰の前処理方法よりも、簡便且つ迅速に均質化処理でき、且つより安定に微生物を検出することができる。さらに、本発明により、従来の方法よりも、喀痰中に存在する微生物を簡便、迅速且つ効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の粘性試料のサンプリング器具を示す斜視図である。
【図2】図1の分解斜視図である。
【図3】本発明のサンプリング器具におけるプレート状ノズルのスリット(吸引吐出口)の形状の種々の例を示す平面図である。
【図4】図3(a)の拡大説明図である。
【図5】本発明の吸引力及び吐出力を測定する際に用いた装置の概念説明図であり、(a)は吸引力の場合、(b)は吐出力の場合である。
【図6】本発明のサンプリング器具用補助治具の一例を示す側面説明図である。
【図7】図6(a)の要部拡大斜視図である。
【図8】本発明のサンプリング器具用補助治具の他例を示す側面説明図である。
【図9】図8(a)の要部拡大図である。
【図10】従来のシリンジを示す斜視説明図である。
【図11】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第1の例を示す概略説明図である。
【図12】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第2の例を示す概略説明図である。
【図13】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第3の例を示す概略説明図である。
【図14】本発明の喀痰の均質化処理用器具の第4の例を示す概略説明図である。
【図15】本発明の微生物の回収方法の一例を示す概略説明図である。
【図16】本発明の微生物の回収方法の他の例を示す概略説明図である。
【図17】本発明の微生物の分離器の一例を示す断面概略説明図である。
【図18】図17の本発明の分離器を含む微生物の回収キットの一例を示す概略説明図である。
【図19】実施例16及び17の結果を示すグラフである。
【図20】実施例18のフィルトレーション前の均質化液の顕微鏡写真であり、(a)は倍率100、(b)は倍率1000の結果をそれぞれ示す。
【図21】実施例18のフィルトレーション後の均質化液の顕微鏡写真であり、(a)は倍率100、(b)は倍率1000の結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されたもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0039】
図1は、本発明の粘性試料のサンプリング器具を示す斜視図である。図2は、図1の分解斜視図である。図3は、本発明におけるプレート状ノズルのスリット(吸引吐出口)の形状の種々の例を示す平面図である。図4は、図3(a)の拡大説明図である。図5は、本発明の吸引力及び吐出力を測定する際に用いた装置の概念説明図であり、(a)は吸引力の場合、(b)は吐出力の場合である。
【0040】
図6は、本発明のサンプリング器具用補助治具の一例を示す側面説明図である。図7は、図6(a)の要部拡大斜視図である。図8は、本発明のサンプリング器具用補助治具の他例を示す側面説明図である。図9は、図8(a)の要部拡大図である。図中、符号2は粘性試料のサンプリング器具、符号40はサンプリング器具用補助治具の一例、符号60はサンプリング器具用補助治具の他例である。
【0041】
本発明の粘性試料のサンプリング器具2は、いわゆる従来のシリンジ110と基本的構造が類似の形態をなすものであり、筒状体10とガスケット20とプランジャ30とを備える(図1及び図2)。なお、粘性試料としては、検査・分析・試験の対象となる粘性の高い液体試料であれば特に限定されないが、特に喀痰である場合に本発明器具は有用であり、以下の説明では粘性試料として喀痰を用いた場合を主として説明する。
【0042】
筒状体10は、内部中空の長尺の直胴部12を有し、先端は閉塞部13とされ、基端は開口部17とされ、筒状体10の基端の外周縁には鍔部18が形成されている(図1及び図2)。鍔部18の形状は、円形や楕円形や方形のいずれでもよく、特に限定されない。図示例では楕円形の両端を切り落とした截頭楕円形をなしているが(図1及び図2)、要は、後述する補助治具40,60との係合構造乃至嵌合構造の関係で適切なものであればよい。
【0043】
筒状体10の先端の閉塞部13は、プレート状ノズル14によって閉塞されている(図1及び図2)。即ち、従来のシリンジ110では小径のノズル114が突設されていたのであるが(図11参照)、これに代替してプレート状ノズル14を設けたものである。プレート状ノズル14は、筒状体の直胴部12と略同径であり、直胴部12と一体成形してもよいし、別体に成形したものを外嵌又は内嵌等して取り付けてもよい。このようなプレート状ノズル14によれば、ガスケット20の下端面が略全面に当接するので、吐出の際に粘性試料が残留することがなく、従来のシリンジ110のように突設されたノズル114の内部に粘性試料が残ってしまうという問題が解消される。
【0044】
プレート状ノズル14には所定形状のスリット16を開穿して吸引吐出口を形成する。スリット16の所定形状としては、種々様々の形状を用いることができ、例えば、図3に示した如くの種々の形状を採用することができるが、好ましいスリット形状の条件としては、プレート状ノズル14の中央部近傍に位置することや、少なくとも1つの角部15を有する形状をなしていること等が吸引力及び吐出力を軽減する観点、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れの観点等から挙げられる(図3、図4参照)。最も好ましいスリット形状としては、十字(X字)形、Y字形又はW字形のいずれかである。
【0045】
吸引力及び吐出力を軽減する観点、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れの観点、製造の容易性の観点等から、スリットの幅d1としては、0.5mm〜2.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5mmである(図4)。外縁からの距離d2としては、0.5mm〜2mmであることが好ましく、より好ましくは1mm〜1.8mmである(図4)。
【0046】
筒状体10の材質は、内部の視認性から透明乃至半透明の材料であれば特に限定されず、例えば、ガラス材料でもよいが、製造コストや加工容易性等から透明性を有する合成樹脂材料、例えば、塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系、ポリスチレン等のスチレン系、その他の合成樹脂材料から構成される。
【0047】
ガスケット20は、筒状体10の内壁に密着しつつ筒状体10の長手方向に摺動自在に内嵌されている。ガスケット20については、従来のシリンジと同様のものを採用でき、その形態や材質について特に限定はないが、形態としては、筒状体10の内壁に対する密着性があり、また、その下端面がプレート状ノズル14に対して当接することが必要である。図示例では、コア部24の前後両端外周縁にシール突条22が形成され、下端面はプレート状ノズル14の形状に合わせて平坦とされている(図1及び図2)。ガスケット20の材質としては密着性(シール性)を確保する関係上、弾性を有する材料であることが望ましく、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種のゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種の合成樹脂材料等のエラストマー材料を用いて構成すればよい。
【0048】
プランジャ(押し子)30は、ガスケット20を摺動操作するための長尺棒状の部材であり、先端をガスケット20に係着する係着凸部32とされ、基端を操作用頭部34とされている。プランジャ30の係着凸部32を図示しないガスケット20内部の係着凹部に係着して、操作用頭部34を操作することにより、ガスケット20を筒状体10内で摺動操作可能にしたものである。プランジャ30の材質も特に限定されないが、オレフィン系、スチレン系等の合成樹脂材料を射出成形して製作すればよい。
【0049】
次に、本発明の粘性試料のサンプリング器具2に取り付けて用いられる補助治具の一例(図6及び図7参照)及び他例(図8及び図9参照)について説明する。本発明の補助治具40,60は、前記本発明のサンプリング器具2の操作を容易にすると共に、喀痰等の粘性試料を扱う関係上、サンプリング器具2に直接に手で触れて操作することは衛生面から好ましくないため、サンプリング器具2の操作を間接的に行い得るように補助的に用いられるものである。
【0050】
本発明のサンプリング器具用補助治具40は、長尺筒状の外嵌筒部材42と、その内部に摺動自在に軸通された内嵌軸部材50とから構成されている(図6及び図7)。
【0051】
外嵌筒部材42は、先端に前記サンプリング器具2における筒状体10の鍔部18に対して係合自在とされた係合片44を有している(図6及び図7)。係合片44には、前記筒状体10の鍔部18に対して係合する切欠部45が形成されている(図7)。外嵌筒部材42の基端は開口部43とされ、胴体部にはテーパー部46が形成され、案内溝48が長手方向に穿設されている(図6)。
【0052】
内嵌軸部材50は、上記外嵌筒部材42の内部に摺動自在に軸通されており、その先端には前記サンプリング器具2におけるプランジャ30の操作用頭部34に対して係合自在とされた係合部52を有する。係合部52にはプランジャ30の操作用頭部34と嵌合する凹欠部53が形成されている。また、前記外嵌筒部材42の案内溝48に沿うように操作レバー58を設け、基端には押圧用頭部56が設けられている。
【0053】
このようなサンプリング器具用補助治具40によれば、まず、前記サンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34を内嵌軸部材50の係合部52に係合し〔図6(a)(b)〕、次いで、前記サンプリング器具2の鍔部18と外嵌筒部材42の係合片44とを互いに噛み合わせるようにして係合することによってサンプリング器具用補助治具40にサンプリング器具2を取り付けることができ〔図6(c)〕、粘性試料の吸引時には、サンプリング器具用補助治具40の操作レバー58を基端側に引くことによって、サンプリング器具2による粘性試料の吸引を行うことができ、また、粘性試料の吐出時には、サンプリング器具用補助治具40の押圧用頭部56を先端方向に押圧することによって、サンプリング器具2による粘性試料の吐出を行うことができる〔図6(d)〕。従って、作業者は直接にサンプリング器具2に触れることなく、粘性試料の吸引及び吐出を行うことができる。
【0054】
他方、本発明のサンプリング器具用補助治具60は、長尺筒状の外嵌筒部材62と、その内部に摺動自在に軸通された中嵌筒部材70と、更にその内部に摺動自在に軸通された内嵌軸部材80とから構成されている(図8及び図9)。
【0055】
外嵌筒部材62は、先端内周面に前記サンプリング器具2における筒状体10の鍔部18に対し嵌合自在とされた嵌合凸部64が設けられ、また、鍔部18を嵌合凸部64に嵌合した際に鍔部18の上端を係止するための係止凸部67が設けられ、更に、基端を開口部63とされ、胴体部にはテーパー部66が形成され、ボタン孔68が穿設されている(図8及び図9)。なお、サンプリング器具2における鍔部18の形状が図示例のように截頭楕円形である場合や(図1及び図2参照)、楕円形や長方形等である場合のように前後左右の一方が長尺で外嵌筒部材62の内径に収まらない場合には、外嵌筒部材62の先端に切欠凹部65を設けて、鍔部18の短尺方向で嵌合凸部64と嵌合するようにすればよい。
【0056】
中嵌筒部材70は、上記外嵌筒部材62の内部に摺動自在に軸通されており、先端の内周面には、前記サンプリング器具2におけるプランジャ30の操作用頭部34に対して嵌合自在とされた嵌合凸部72が設けられている(図8及び図9)。また、中嵌筒部材70には外嵌筒部材62に対する付勢手段69及び係止手段74が設けられている。付勢手段69はスプリング(バネ)であり、中嵌筒部材70の先端部と外嵌筒部材62の係止凸部67との間に介在するように設けられる。係止手段74は中嵌筒部材70の外嵌筒部材62に対する係止と解放を切り替えるためのボタンであり、スプリング76の付勢力を利用して、中嵌筒部材70を外嵌筒部材62に対して係止自在とするものである。
【0057】
内嵌軸部材80は、上記中嵌筒部材70の内部に摺動自在に軸通されており、その先端は前記サンプリング器具2におけるプランジャ30の操作用頭部34に当接する当接端部82とされ、その基端には押圧用頭部84が設けられている。
【0058】
このようなサンプリング器具用補助治具60によれば、まず、前記サンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34を中嵌筒部材70の嵌合凸部72に嵌合し〔図8(a)(b)〕、また、前記サンプリング器具2の鍔部18を外嵌筒部材62の嵌合凸部64に嵌合することによって〔図8(a)(b)〕、サンプリング器具用補助治具60にサンプリング器具2を取り付けることができ〔図8(b)〕、粘性試料の吸引時には係止手段74を解放して、付勢手段69を伸張せしめて〔(図8(c)〕、サンプリング器具2による粘性試料の吸引を行い、また、粘性試料の吐出時には、サンプリング器具用補助治具60の押圧用頭部84を先端方向に押圧することによって、サンプリング器具2による粘性試料の吐出を行うことができ〔図8(c)(d)〕、更に、吐出後は押圧用頭部84を更に押入することによって、サンプリング器具用補助治具60からサンプリング器具2を脱離せしめることができる〔図8(d)〕。従って、作業者はサンプリング器具2に直接に触れることなく、粘性試料の吸引及び吐出を行うことができることに加えて、サンプリング器具2の脱離も行うことができる〔図8(d)〕。
【0059】
次に本発明の喀痰の均質化処理剤について説明する。
本発明の喀痰の均質化処理剤は、システインプロテアーゼを有効成分として含有することを特徴とし、喀痰を穏和な条件下でより速く処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができ、特に膿性痰の均質化処理に効果的である。
【0060】
本発明に用いられるシステインプロテアーゼとしては、特に限定されないが植物由来のシステインプロテアーゼが好ましく、ブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましく、ブロメラインが特に好ましい。これらシステインプロテアーゼは市販のものでもよく、公知の方法で得たものを用いてもよい。
前記ブロメラインとしては、Bromeliaceaeに属する植物由来のシステインプロテアーゼが用いられるが、パイナップル(Ananas comosus M.)由来のものがより好ましい。
【0061】
本発明の均質化処理剤としては、システインプロテアーゼを有効成分として含有する組成物であれば、特に限定はないが、通常、システインプロテアーゼを緩衝液等の溶解液に溶解した水溶液の形で使用される。システインプロテアーゼの濃度は、特に限定されないが、0.01〜1w/v%が好ましく、0.1〜0.3w/v%がより好ましい。
【0062】
システインプロテアーゼを溶解する溶解液としては、特に限定されないが、pH6.0〜10付近の緩衝液が好ましい。緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられるが、pH7〜9付近のトリス緩衝液がより好ましい。前記緩衝液が塩化ナトリウムやEDTA等を含んでいることが好ましい。特に前記溶解液として、塩化ナトリウムを含むトリス緩衝液を用いることが好ましく、このトリス緩衝液中の塩化ナトリウム濃度が0.6%を超え1.2%未満、トリス濃度が10mM以上50mM未満であり、pHが7.0以上8.0未満であることがより好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有していても良い。
【0063】
本発明において、喀痰とは、気管・気管支から分泌されたムチン(ムコプロテインとムコポリサッカライド)と外界から吸引された細菌や塵埃の混合物であり、ヒト細胞や血球を含む場合もある。喀痰の性状については、Miller & Jonesの分類によると、M1、M2、P1、P2、P3の五段階に分けられる。特にP2(膿性痰で膿性部分が1/3〜2/3含まれる)及びP3(膿性痰で膿性部分が2/3以上含まれる)の膿性痰になると膿性部分が多く含まれ、その分喀痰の前処理は時間を要し、特に、P3は簡便な均質化処理が困難であった。本発明はこの膿性痰の迅速かつ簡便な均質化処理をも可能とするものである。
【0064】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第1の態様は、喀痰を前記本発明の均質化処理剤で処理することを特徴とする。
本発明において、前記均質化処理剤を用いた喀痰の処理方法は特に限定されないが、該均質化処理剤と被検喀痰を混合した後、室温〜37℃、好ましくは室温で適宜ボルテックスをかけることで反応させることにより、喀痰をすみやかに溶解させることができる。
【0065】
本発明において、前記均質化処理剤による均質化処理後、微生物を培養した後、又は培養せずに、被検喀痰中に存在する微生物を検出することができる。微生物の検出方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。微生物の検出においては、微生物を直接検出してもよく、生体関連物質を検出することにより微生物を検出してもよい。
【0066】
本発明において、微生物としては、特に限定されないが、例えば、ヘルペスウイルス(HSV、CMV、ZVZ、EBV、HHVなど)、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV)、肝炎ウイルス(HBV、HCV、HDV、HGV)、その他カゼ症候群、消化器疾患、中枢神経系疾患、呼吸器系疾患、出血熱等の様々な疾患の病因ウイルス等のウイルス、リケッチャ、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌群、緑膿菌、レジオネラ属、モラクセラ属、インフルエンザ細菌、クレブシエラ属、クラミジア、マイコプラズマ等の細菌、真菌等が挙げられる。
【0067】
本発明において、生体関連物質とは、核酸(DNA、RNA)、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。生細胞からのDNA又はRNAの調製は、公知の方法、例えばDNAの抽出については、Blinらの方法(Blin et al., Nucleic Acids Res. 3: 2303 (1976))等により、また、RNAの抽出については、Favaloroらの方法(Favaloro et al.,Methods Enzymol.65: 718 (1980))等により行うことができる。また、rRNAにおいては、水酸化ナトリウム水溶液などで細胞を溶解した後、塩酸などで中和すればよい。また、それらの検出方法としては、PCR(Polymerase chain reaction)、ハイブリダイゼーション、パルサー法(PALSAR法、例えば、特許第3267576号及び特許第3310662号等参照。)、DNAチップ、プロテインチップ、抗原抗体反応等を用いて行うことができる。
【0068】
本発明の喀痰の均質化処理方法の第2の態様は、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子(本発明において、この粒子を金属粒子と称する。)を用いることを特徴とし、被検喀痰を該粒子の存在下で攪拌することにより、喀痰を穏和な条件下で簡便かつ迅速に処理し、より安定に喀痰中に存在する微生物を検出することができ、特に膿性痰の均質化処理に効果的である。
【0069】
本発明において、前記金属粒子は金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を材料として含むものであり、金属及びその酸化物の1種又は2種以上を主成分とする粒子が好ましい。前記金属粒子中に金属及びその酸化物以外の材料が含まれていてもよい。また、粒子の表面を金属やその酸化物の薄膜で被覆したものも本発明の粒子に含まれる。前記薄膜で被覆された粒子を用いる場合、被覆される粒子の材質は特に限定されず、金属及び非金属のいずれでもよい。
本発明において前記金属は特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅、亜鉛、ニッケル、鉛、スズ、クロム、ジルコニウム、モリブデン、金、銀、白金、及びこれらを基金属とする合金等が挙げられるが、特に鉄及びステンレス綱が好ましい。前記金属の酸化物は特に限定されず、例えば、前述の金属の酸化物が挙げられるが、特にアルミナが好ましい。
【0070】
前記金属粒子の形状は特に限定されないが、球状粒子が好ましい。前記粒子の直径は1mm以上が好ましく、より好ましくは4.0mm以上である。これら粒子の直径の上限は特に限定されないが、10mm以下が好適である。本発明において、前記粒子は同種の粒子1個又は2個以上を用いても良く、2種以上の粒子、例えば、粒径や材質が異なる粒子を組み合わせて合計2個以上の粒子を用いても良い。
【0071】
金属粒子を用いた喀痰の均質化処理方法としては、具体的には、緩衝液等の溶解液に混合した被検喀痰を前記粒子で攪拌することにより均質化することが好ましいが、被検喀痰、喀痰前処理剤及び前記粒子を混合し、室温〜37℃、好ましくは室温で適宜ボルテックスをかけることで反応させることにより、喀痰をすみやかに溶解させることがより好ましい。
溶解液としては、特に限定されないが、本発明の均質化処理剤の説明において述べた溶解液が同様に好適に用いられる。
【0072】
前記喀痰前処理剤としては、セミアルカリプロテアーゼ(例えば、スプタザイム(極東製薬工業(株)製)等)、NALC−NaOH試薬、還元剤、及び界面活性剤等の公知の喀痰前処理剤(例えば、特開平2−273197号、WO02/010744号、及び特許文献4等に記載の前処理剤)やシステインプロテアーゼを有効成分として含む本発明の喀痰の均質化処理剤を使用することができるが、セミアルカリプロテアーゼやシステインプロテアーゼ等の蛋白質分解酵素を含む喀痰均質化処理剤が好ましく、特に前述した本発明の均質化処理剤を用いることがより好ましい。これら蛋白質分解酵素は1種、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0073】
本発明において、前記金属粒子を用いた均質化処理方法により喀痰を均質化処理し、微生物を培養した後、又は培養せずに、被検喀痰中に存在する微生物を検出することができる。微生物の検出方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。微生物の検出においては、微生物を直接検出してもよく、生体関連物質を検出することにより微生物を検出してもよい。
【0074】
本発明の喀痰の均質化処理用器具は、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子、すなわち前述した金属粒子を収容する蓋付き容器である。
図11〜図14は本発明の喀痰の均質化処理用器具の第1〜第4の例を示す概略説明図である。図11〜図14において、210a〜210dは容器の蓋、212a〜212dは容器、214は金属粒子である。
【0075】
本発明の喀痰の均質化処理用器具において、前記容器の形状は特に限定されないが、図11に示したような丸底の円筒容器212aや図12に示したような平底の円筒容器212bが好ましい。また、図13に示した如く、容器内部が丸底であり、容器外部の底部216が平底又は空洞部分があり自立可能な形状である自立型の円筒容器212cを用いてもよい。さらに、図14に示した如く、円筒状の管の底部に底蓋218を取り付けた容器212dを用いることもできる。
前記容器の材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等のプラスチック材料であることが好ましい。
前記蓋は前記容器を密閉し得るものであれば特に限定されない。蓋の取り付け方法は特に限定はないが、例えば、キャップ式、埋め込み式、内ねじ式、外ねじ式等が挙げられる。
【0076】
前記粒子としては、前述した金属粒子が同様に用いられるが、材質がステンレス鋼、鉄又はアルミナである球状粒子が好ましい。粒子の直径は1mm以上が好ましく、より好ましくは4.0mm以上である。これら粒子の直径の上限は特に限定されないが、10mm以下が好適である。
容器内に収容される粒子の数は特に限定されず、容器及び粒子の大きさに応じて適宜定めればよい。
本発明の喀痰の均質化処理用器具を用いて前述した本発明の喀痰の均質化処理方法を行うことにより、迅速且つ簡便に喀痰を均質化することができる。
【0077】
次に、本発明の微生物の回収方法について説明する。
本発明の微生物の回収方法は、均質化処理した喀痰を、被検微生物が通過可能であり且つ有機材料からなる少なくとも3種のフィルターを有する本発明の微生物の分離器を用いて濾過し、得られた濾液から被検微生物を回収するものである。
【0078】
本発明の微生物の回収方法においては、均質化処理された喀痰が用いられる。喀痰の均質化処理方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができるが、前述した本発明の均質化処理方法が好ましい。
喀痰の均質化処理方法としては、例えば、均質化処理剤等の前処理剤を含む溶解液で被検喀痰を処理することにより喀痰を均質化し溶解させることが好ましい。前記前処理剤及び溶解液としては、本発明の均質化処理方法の第2の態様において述べた喀痰前処理剤及び溶解液が同様に好適に用いられる。
【0079】
前記均質化処理剤を用いた喀痰の均質化処理方法は特に限定されないが、該均質化処理剤を含む溶解液と被検喀痰を混合した後、室温〜37℃、好ましくは室温で適宜ボルテックスをかけることで反応させることにより、喀痰をすみやかに溶解させることができる。
また、溶解液に混合した被検喀痰を粒子を用いて攪拌することにより均質化させることが好ましい。前記粒子としては特に限定されないが、直径1mm以上、より好ましくは4mm以上の球状粒子が好適である。粒子の材質も特に限定されないが、金属及びその酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子が好ましい。金属及びその酸化物としては、ステンレス鋼、鉄又はアルミナが特に好適である。
これら均質化処理反応は、微生物の分離器中で行うことも可能である。
【0080】
前記均質化処理後の喀痰の均質化液を本発明の微生物の分離器を用いて濾過する。
図15は本発明の微生物の分離器を用いた微生物の回収方法の一例を示す概略説明図である。図15において、310aは本発明の微生物の分離器であり、濾過部材314と、該濾過部材314を保持するフィルターホルダー316aとを有する。前記濾過部材314は均質化処理した喀痰が通過する順に少なくとも第1フィルター311、第2フィルター312及び第3フィルター313の3種のフィルターを有する。
【0081】
前記第1〜第3フィルターは、有機材料からなる多孔性材料であり、被検微生物が通過し得るものである。各フィルターの材質は同じであってもよく異なっていてもよい。なお、図15では、各フィルターが積層されている3層構造の例を示したが、フィルターの配置は特に限定されず、一定の間隙を設けて配置してもよく、積層してもよい。
【0082】
前記有機材料としては特に限定されないが有機高分子繊維が好ましく、例えば、セルロース,セルロース繊維,ニトロセルロース及び酢酸セルロース等のセルロース誘導体,ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)及びシクロポリオレフィン等のポリオレフィン,ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−11、ナイロン−12、コポリアミド等のポリアミド,ポリパラフェニレンテレフタルアミド等のアラミド,ポリエチレンテレフタレート(PETP)等のポリエステル,ポリアクリロニトリル及びアクリレート等のアクリルポリマー,ポリ塩化ビニル(PVC)及びポリビニルアルコール等のビニルポリマー,ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリエステルエーテル,ポリウレタン,エポキシド,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロエチレン/プロピレン・コポリマー(FEP)、ポリエチレン/テトラフルオロエチレン・コポリマー(ETFE)及びポリエチレン/クロロトリフルオロエチレン・コポリマー(ECTFE)等のフッ素樹脂,ポリカーボネート,ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリエーテルスルホン等が挙げられる。特にポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、セルロース及びポリアミドが好ましい。これら有機材料は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0083】
前記第1〜第3フィルターの孔径は、被検微生物を通過可能であれば特に限定されず、被検微生物の大きさや被検喀痰の状態に応じて適宜選択可能である。
前記第3フィルターは、喀痰中の細胞や血球を通さず被検微生物を通過できる孔径を有するフィルターが好ましい。具体的には、第3フィルターの孔径は0.1μm以上10μm以下が好ましく、2〜7μmがより好ましく、約5μmがさらに好ましい。前記第2フィルターは、前記第3フィルターよりも大きい孔径を有することが好ましい。具体的には、第2フィルターの孔径は5μm以上が好ましく、10〜30μmがより好ましく、約20μmがさらに好ましい。前記第1フィルターは、前記第2フィルターよりも大きい孔径を有することが好ましい。具体的には、第1フィルターの孔径は5μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、80〜120μmがさらに好ましい。
前記第1〜第3フィルターの膜厚は特に限定されないが、1〜200μmのものが好ましい。
【0084】
前記フィルターホルダー316aは、例えば、図15に示した如く、濾過部材314を収容する本体317aと、蓋体318aから構成される。前記フィルターホルダー316aの形状は特に限定されないが、例えば、図15に示した如く、円筒形で底部にフィルターを装着可能な容器が用いられる。フィルターの装着方法及び蓋体の取り付け方法は特に限定されないが、例えば、フィルターホルダー本体に一体に形成する方法や、キャップ式、埋め込み式、内ねじ式、外ねじ式等の設置方法が挙げられる。
前記フィルターホルダー316aの材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック材料であることが好ましい。
【0085】
図15(a)に示した如く、前記均質化処理後の喀痰の均質化液324は、被検微生物320と、ヒト由来細胞、血球及び埃塵等の夾雑物322とが混在している場合が多いが、この均質化液324を本発明の分離器310aで濾過処理することにより、細胞、血球及び埃塵等の夾雑物322を濾過部材314により除去し、被検微生物320を含む濾液330を得ることができる[図15(b)]。図15においては、遠心分離処理により濾過操作を行い、被検微生物320を含む沈殿物334と上清332に分離した濾液332を得たが、本発明において濾過処理方法は特に限定されない。例えば、窒素ガスやシリンジ等を用いて加圧又は減圧条件で濾過処理を行うことが好ましい。
【0086】
本発明においては、前述の方法により喀痰を均質化処理した後、得られた均質化液を本発明の分離器に注入し、均質化液を分離部材に通過させ、濾液を回収してもよく、また、本発明の分離器に被検喀痰、溶解液及び前処理液等を投入し、該分離器中で喀痰の均質化処理を行った後、該均質化液を分離部材に通過させ、濾液を回収してもよい。
【0087】
図15において、315aは濾液330を回収する回収容器である。本発明において、回収容器315aは、濾液を回収可能なものであれば特に限定されず、図15及び図16に示した如く分離器に設置されていてもよく、図17及び図18に示した如く分離器とは別体となっていてもよい。前記回収容器315aの形状も特に限定されないが、例えば、円筒状で内底部が丸底、V底、平底等の容器が用いられる。前記前記回収容器315aの材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、フッ素樹脂等のプラスチック材料であることが好ましい。
【0088】
図16は、本発明の微生物の分離器を用いた微生物の回収方法の他の例を示す概略説明図である。図16において、310bは本発明の微生物の分離器であり、加圧濾過を用いる例である。図16に示した如く、分離部材314を保持するフィルターホルダー316b内に前記均質化液324を入れ、上方から窒素ガス等を用いて圧力を加えることにより、回収容器315b中に被検微生物320を含む濾液330を回収することができる。加圧方法は特に限定されないが、例えば、フィルターホルダー316bの蓋体318bに加圧手段(図示せず)を接続する方法や蓋体318bに通気孔(図示せず)を設け、通気孔から圧力を加える方法等が用いられる。
【0089】
図17は、本発明の分離器の一例を示す断面概略説明図であり、図18は図17に示した本発明の分離器を含む微生物の回収キットの一例をそれぞれ示す。図17において、310cは本発明の分離器であり、フィルターホルダー316c内に前記第1〜第3フィルター311〜313を有する分離部材314が収納されている。図18に示した如く、フィルターホルダー316cにシリンジ340を接続し、該シリンジ340内に前記均質化液を入れ、該シリンジ340を用いて加圧濾過し、得られた濾液を回収容器315c内に回収することにより、被検微生物を含有する濾液を得ることができる。
【0090】
本発明において、前記得られた微生物含有濾液を、微生物を培養した後、又は培養せずに、微生物を検出することにより、被検喀痰中に存在する微生物を検出することができる。微生物の検出方法は特に限定されず、公知の方法を広く使用することができる。微生物の検出においては、微生物を直接検出してもよく、生体関連物質を検出することにより微生物を検出してもよい。
【実施例】
【0091】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0092】
(実施例1)
喀痰に類似した性状の粘性試料として、ブタ胃由来ムチン(和光純薬製)8gを0.9%塩化ナトリウム溶液10mLに十分溶解し、80%ムチン溶液を用いた。本発明のサンプリング器具2として、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いて吸引力及び吐出力を夫々調べた。各スリットの幅はいずれも1mmとし、容量は1mLとした。実験装置として、図5に示した装置を用いた。図5は本発明の吸引力及び吐出力を測定する際に用いた装置の概念説明図であり、図5(a)は吸引力の場合、図5(b)は吐出力の場合である。図5(a)(b)において、符号Pは粘性試料、符号90は重りホルダ、符号92は重り、符号94は試料容器である。図5(a)では、試料容器94を上方に配置して粘性試料Pを入れ、試料容器94の下端に本発明のサンプリング器具2のプレート状ノズル14を接続し、本発明のサンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34に重りホルダ90を吊り下げて接続し、徐々に重り92を増やすことによって吸引力の測定を行った。図5(b)では、試料容器94を下方に配置し、試料容器94の上端に粘性試料Pを吸引した後の本発明のサンプリング器具2のプレート状ノズル14を接続し、本発明のサンプリング器具2のプランジャ30の操作用頭部34に重りホルダ90を載せて接続し、徐々に重り92を増やすことによって吐出力の測定を行った。重り92としては鉄製粒子(直径:6.4mm)を用い、吸引力及び吐出力はF=mg(N)の公式を用いた。その結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた以外は、実施例1と同様の態様で実験を行った。結果を表1に併せて示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた比較例1では、吸引力及び吐出力のいずれにおいても高い数値を示したのに対し、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2では、吸引力及び吐出力のいずれにおいても低い数値を示した。特に、スリットの形状が十字(X字)形、Y字形、W字形である図3(a)〜(c)やZ字形である図3(j)については格別に良い結果が得られた。従って、本発明のサンプリング器具2によれば、喀痰等の粘性試料を比較的少ない力で吸引及び吐出することができ、作業者の負担を軽減できることが確認された。
【0096】
(実施例2)
粘性試料として膿性痰(P2、Miller & Jonesの分類)を用い、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2によって、吸引後と吐出後における粘性の長さ(粘性試料が糸を引く長さ)を夫々調べた。各スリットの幅はいずれも1mmとし、容量は1mLとした。吸引後における粘性の長さとは、粘性試料を入れた容器から本発明のサンプリング器具2を用いて所定量の粘性試料を吸引した後に、本発明のサンプリング器具2の先端を一度容器底に擦りつけてから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。また、吐出後における粘性の長さとは、本発明のサンプリング器具2を用いて所定量吸引した粘性試料を一度容器底に全て吐出してから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。その結果を表2に示す。
【0097】
(比較例2)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた以外は、実施例2と同様の態様で実験を行った。結果を表2に併せて示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた比較例2では、吸引後及び吐出後における粘性の長さが長いのに対し、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2では、吸引後及び吐出後のいずれにおいても同等以上に短い数値を示した。特に、スリットの形状が十字(X字)形、Y字形、W字形である図3(a)〜(c)については格別に良い結果が得られた。その他、I字形である図3(d)やZ字形である図3(j)もこれに次いで良い結果が得られた。吸引時及び吐出時の粘性試料の切れの良い(粘性長さの短い)スリットの形状の傾向として、スリット16がプレート状ノズル14の中央部近傍に位置していることや、少なくとも1つの角部15を有する形状をなしていることが分かった。本発明のサンプリング器具2によれば、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くすることができ、環境衛生上好ましいことが確認された。
【0100】
(実施例3)
粘性試料として膿性痰(P2、Miller & Jonesの分類)を用い、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2によって、夫々500μLずつ採取(吸引して別の容器に吐出)して、その重量を計ることを夫々2回繰り返すことによって定量性を調べた。その結果を表3に示す。
【0101】
(比較例3)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)の筒状体先端を単に切断し、直胴部と同径の吸引吐出口を開口したものを用いた以外は、実施例3と同様の態様で実験を行った。結果を表3に併せて示す。
【0102】
【表3】
【0103】
表3に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)の筒状体先端を切断して直胴部と同径の吸引吐出口を開口したものを用いた比較例3においては、吸引後に粘性試料の一部が引っ張られて定量性が損なわれるのに対し、図3(a)〜(j)に示した如くの種々のスリット16a〜16jの形状を有するプレート状ノズル14a〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2ではいずれも1回目も2回目も安定して高い定量性を示した。従って、定量性において、サンプリング器具の吸引吐出口の形状が重要であり、本発明のサンプリング器具2によれば、著しく粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめることができることが確認された。
【0104】
(実施例4)
粘性試料として膿性痰(P2、Miller & Jonesの分類)を用い、図3(a)に示したスリット(吸引吐出口)16aの形状(十字形乃至X字形)を有するプレート状ノズル14aを用いた本発明のサンプリング器具2によって、スリットの幅d1を0.5mm、1mm、1.5mm、2mmとした場合における吸引後及び吐出後の粘性の長さを夫々調べた。吸引後における粘性の長さとは、粘性試料を入れた容器から本発明のサンプリング器具2を用いて所定量の粘性試料を吸引した後に、本発明のサンプリング器具2の先端を一度容器底に擦りつけてから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。また、吐出後における粘性の長さとは、本発明のサンプリング器具2を用いて所定量吸引した粘性試料を一度容器底に全て吐出してから引き上げ、粘性試料が千切れるまでの距離とした。その結果を表4に示す。
【0105】
(比較例4)
サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた以外は、実施例4と同様の態様で実験を行った。結果を表4に併せて示す。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示した如く、サンプリング器具として一般に市販されているツベルクリン用のテルモ社製のシリンジ(容量1mL)を用いた比較例4と比較して、本発明のサンプリング器具2におけるスリットの幅d1を0.5mm〜2.0mmとした場合にはいずれも吸引後及び吐出後の粘性の長さが短く、特にスリットの幅d1を0.5mm〜1.5mmとした場合に良い結果が得られた。従って、本発明のサンプリング器具2によれば、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くすることができ、環境衛生上好ましいことが確認された。なお、図3(b)〜(j)に示したスリット(吸引吐出口)16b〜16jの形状を有するプレート状ノズル14b〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2においても略同様の結果であった。
【0108】
(実施例5)
粘性試料の種類としてグリセリン(キシダ化学社製)、エチレングリコール(キシダ化学社製)、Triton X-100(キシダ化学社製)又はTween20(シグマ社製)を用い、図3(a)に示した如くの種々のスリット(吸引吐出口)16aの形状(十字形乃至X字形)を有するプレート状ノズル14aを用いた本発明のサンプリング器具2によって、500μl採取(吸引して別の容器に吐出)して、その重量を計ることを夫々2回繰り返すことによって、粘性試料の種類の違いによる定量性を調べた。その結果を表5に示す。なお、各試薬の比重(グリセリン:1.26、エチレングリコール:1.1088、Triton X-100:1.07、Tween20:1.105)から算出した理論値を併せて示した。
【0109】
【表5】
【0110】
表5に示した如く、本発明のサンプリング器具2によれば、様々な種類の粘性試料に対して高い定量性を示すことが確認された。また、図3(b)〜(j)に示したスリット(吸引吐出口)16b〜16jの形状を有するプレート状ノズル14b〜14jを用いた本発明のサンプリング器具2においても略同様の結果であった。
【0111】
以上述べた如く、本発明によれば、喀痰等の粘性試料をサンプリングする際の定量性を向上せしめ、比較的少ない吸引力及び吐出力で作業者の負担を軽減し、吸引時及び吐出時の粘性試料の切れを良くし、環境衛生面での問題も少ない粘性試料のサンプリング器具2及びその補助治具40,60を提供することができる。
【0112】
(実施例6)
0.25%(2000U/mL)ブロメラインF(Bromelain F,天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)]に溶解し前処理液とした。この前処理液を、膿性痰(P2及びP3、Miller & Jonesの分類)に対して20倍量加えて、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁し、溶解時間を測定した。尚、本実施例及び後述する実施例において、喀痰の溶解時間は、喀痰がほぼ完全に溶液化の状態になるまでに要した反応時間とした。その結果を表6に示す。
【0113】
(比較例5)
スプタザイム(極東製薬工業(株)製、セミアルカリプロテアーゼ)を、キットに付随するリン酸バッファー溶解液に溶解し前処理液とした。前処理液を変更した以外は実施例6と同様に実験を行った。結果を表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
表6に示した如く、セミアルカリプロテアーゼを用いた比較例5では、P2の膿性痰の溶液化に120分を要し、更にP3の膿性痰は180分反応させても溶液化されなかったのに対し、ブロメラインを用いた実施例6ではP2の膿性痰は70分、P3の膿性痰は90分という速さで溶液化されていた。従って、ブロメラインを用いることにより、均質化処理を迅速に行うことができ、更に、従来では均質化が難しかった膿性部分の多い膿性痰をも迅速に均質化できることが判った。
【0116】
(実験例1)
0.25%(2000U/mL)ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[0.9%塩化ナトリウム溶液、25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.1mM EDTA]に加え、懸濁液とした。この懸濁液にインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae、H. influenzae)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae、S. pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa、P. aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus、S. aureus)、レジオネラ菌(Legionella pneumophila、L. pneumophila)、又は肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae、K. pneumoniae)を103CFU/mLとなるように加え、室温(26℃)において0時間と二時間後で生菌数を比較した。また、対照として、ブロメラインFを添加せず、溶解液を懸濁液として使用した以外は同様の条件で生菌数を測定した。
【0117】
生菌数の測定方法は、前記各細菌懸濁液を、チョコレート寒天培地EX(日水製薬(株)製)各プレートに100μLずつ3枚播き、37℃で18時間培養した後、コロニー数を測定し、3枚のプレートの平均値を生菌数とした。結果を表7に示す。
【0118】
(比較例6)
懸濁液として、スプタザイム(極東製薬工業(株)製、セミアルカリプロテアーゼ)を用い、細菌としてインフルエンザ菌のみを添加した以外は、実験例1と同様に実験を行った。結果を表8に示す。
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
表7に示した如く、ブロメラインを用いることで、インフルエンザ菌、肺炎レンサ球菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌及び肺炎桿菌のいずれの細菌においても、酵素の影響を受けないことが判った。
また、セミアルカリプロテアーゼを用いた比較例6では、室温で2時間反応させることで、生菌数の減少がみられたのに対し、ブロメラインを用いた実験例1では室温で2時間反応させても、ほとんど生菌数の減少は認められなかった。従って、ブロメラインを用いることにより、細菌に影響を与えることなく安定に細菌を検出できることがわかった。
【0122】
(実施例7〜10)
ブロメラインF(天野エンザイム社製、1000U/mL)及びパパイン(天野エンザイム社製、1000U/mL)を、溶解液[10mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、及び表9又は表10に示す材質及び直径の粒子を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁し、溶解時間を測定した。溶解時間の結果を表9及び表10に示す。
【0123】
なお、鉄およびステンレス粒子の数は、直径1.6mm:40粒、直径2.4mm:20粒、直径3.2mm:10粒、直径4.0mm:7粒、直径4.8mm:4粒、直径5.6mm:3粒とし、アルミナ粒子の数は、直径1.0mm:40粒、直径2.0mm:20粒、直径3.0mm:10粒、直径4.0mm:7粒、直径5.0mm:4粒とし、ガラス粒子の数は、直径1.5−2.5mm:20粒、直径4.0−4.7mm:7粒、直径4.8−5.6mm:4粒とした。
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
表9及び表10に示した如く、鉄、ステンレス又はアルミナ粒子を用いることにより、喀痰溶解時間を大幅に短縮することができた。また、材質がステンレス、鉄又はアルミナの粒子で、かつ大きさを直径4.0mm以上にすることで、喀痰溶解時間をさらに大幅に短縮できることが明らかとなった。
【0127】
(実験例2)
インフルエンザ菌(H. influenzae)又は黄色ブドウ球菌(S. aureus)を、懸濁液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム]にそれぞれ懸濁し、細菌調製液とした。2mlエッペンドルフチューブに、細菌調製液1mL、及びステンレス製の粒子(直径4mm)7粒を加え、ボルテックスを用いて回転数2500rpmで振蕩させ、30秒毎に生菌数を測定し、各攪拌時間による細菌への影響を調べた。その結果を表11に示す。
【0128】
【表11】
【0129】
表11に示した如く、3分間ボルテックスをかけても粒子による細菌への影響がないことが明らかとなった。
【0130】
(実験例3)
インフルエンザ菌(H. influenzae)又は黄色ブドウ球菌(S. aureus)を、懸濁液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム]にそれぞれ懸濁し、細菌調製液とした。2mlエッペンドルフチューブに、細菌調製液1mL、及び各直径のステンレス製粒子を加え、ボルテックスを用いて回転数2500rpmで3分間振蕩させた後、生菌数を測定し、細菌への影響を調べた。また、対照として、粒子を加えなかった以外は同様の条件で実験を行った。それらの結果を表12に示す。
尚、ステンレス製粒子の数は、粒子の重量を統一し、直径1.6mm:40粒、直径2.4mm:20粒、直径3.2mm:10粒、直径4.0mm:7粒、直径4.8mm:4粒、直径5.6mm:3粒とした。
【0131】
【表12】
【0132】
表12に示した如く、ステンレス製粒子を用いた均質化処理は細菌への影響が極めて少なく、特に、粒子の大きさが4.0mm以上では、3分間ボルテックスをかけても粒子による細菌への影響がないことが明らかとなった。
【0133】
(実施例11)
0.25%のブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P2の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、直径4mmのステンレス製粒子を7粒加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックスで懸濁し、溶解時間を測定した。溶解時間の結果を表13に示す。
【0134】
(実施例12)
スプタザイム(極東製薬工業(株)製、セミアルカリプロテアーゼ)を、キットに付随するリン酸バッファー溶解液に溶解し前処理液とした。前処理液を変更した以外は実施例11と同様の条件で実験を行った。結果を表13に示す。
【0135】
(実施例13)
前処理液として、実施例11と同様の前処理液を用いた。10mLのスピッツ管に、喀痰(性状P2の膿性痰)及び喀痰の20倍量の前処理液を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックスで懸濁し、溶解時間を測定した。溶解時間の結果を表13に示す。
【0136】
(比較例7)
前処理液として、実施例12と同様の前処理液を用いた。前処理液を変更した以外は実施例13と同様の条件で実験を行った。結果を表13に示す。
【0137】
【表13】
【0138】
表13に示した如く、喀痰溶解性において、酵素のみでは長時間を要する場合においても、ステンレス粒子を用いることにより、喀痰溶解時間を大幅に短縮することができた。
【0139】
(実験例4及び比較例8)
黄色ブドウ球菌(S. aureus)を103CFU/mLとなるように生理食塩水で調製し菌液とした。シリンジフィルターホルダーに表1に示す孔径及び材質のフィルターをそれぞれ入れて用意した。これをシリンジに接続し、菌液を通過させた後、回収した菌液(濾液)をプレートに播き、生菌数を測定した。なお、生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。また、対照として、フィルターを通過させていない菌液についても、同様に生菌数を測定した。その結果を表14に示す。
【0140】
【表14】
【0141】
表14中、ポリカーボネートはワットマン社製のサイクロポアメンブレン(親水性ポリカーボネートメンブレン、膜厚7−20μm)、ガラス繊維はワットマン社製のGMF150(膜厚0.75mm)である。
【0142】
以上の結果、ガラス繊維を用いた比較例8ではフィルトレーションによる菌の回収率が大幅に減少しているのに対し、ポリカーボネートを用いた実験例4では菌の回収率がフィルトレーションしていない対象と同等であった。このことより、ポリカーボネートを用いることで、効率よく菌を回収できることが明らかとなった。
【0143】
(実験例5〜7)
肺炎レンサ球菌(S. pneumoniae)、緑膿菌(P. aeruginosa)又は肺炎桿菌(K. pneumoniae)を103CFU/mLとなるようにそれぞれ生理食塩水で調製した。シリンジフィルターホルダーに表15に示す孔径及び材質のフィルターをそれぞれ入れて用意した。これをシリンジに接続し、菌液を通過させた後、回収した菌液をプレートに播き、生菌数を測定した。生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。また、対照として、フィルターを通過させていない菌液についても、同様に生菌数を測定した。その結果を表15に示す。
【0144】
【表15】
【0145】
表15中、PTFEはADVANTEC社製のポリフロン(ダイキン工業(株)の登録商標)フィルター(膜厚0.36mm)、セルロース繊維はADVANTEC社製の定性濾紙(膜厚0.26mm)、ポリカーボネートはワットマン社製のサイクロポアメンブレン(親水性ポリカーボネートメンブレン、膜厚7−20μm)である。
【0146】
以上の結果、フィルターの材質をPTFE、セルロース繊維及びポリカーボネート等の有機材料にすることで、種々の細菌に対して効率よく菌を回収できることが明らかとなった。
【0147】
(実験例8及び9)
緑膿菌(P. aeruginosa)又は肺炎レンサ球菌(S. pneumoniae)を103CFU/mLとなるようにそれぞれ生理食塩水で調製した。シリンジフィルターホルダーに表16に示す孔径及び材質のフィルターをそれぞれ入れて用意した。これをシリンジに接続し、菌液を通過させた後、回収した菌液をプレートに播き、生菌数を測定した。生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。また、対照として、フィルターを通過させていない菌液についても、同様に生菌数を測定した。その結果を表16に示す。
【0148】
【表16】
【0149】
表16中、ナイロンは(株)サンプラテック製のナイロンメッシュシート、ポリエチレンは(株)サンプラテック製のPEメッシュシートである。
【0150】
以上の結果、フィルターの材質をナイロン又はポリエチレンにすることで、緑膿菌及び肺炎レンサ球菌を効率よく回収できることが明らかとなった。
【0151】
(実験例10〜12)
<第3及び第2フィルターによる菌と細胞の混合溶液からの菌の分離>
実験例10では、緑膿菌(P. aeruginosa)を103CFU/mLとなるように生理食塩水で調製し、更に、PC−14細胞を106/mLとなるように菌液と混合した。
シリンジフィルターホルダーに実験例7で用いた孔径5μm、材質ポリカーボネートの第3フィルターを入れ、その上に孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルター[(株)サンプラテック製、ナイロンメッシュシート]を入れた。これをシリンジに接続し、細胞と菌液の混合溶液を通過させた後、回収した菌液をプレートに播き、生菌数を測定した。生菌数の測定方法は、実験例1と同様に行った。結果を表17に示す。
【0152】
また、対照として、表17に示した如く、前記菌液と細胞の混合溶液(実験例11)又は菌液(実験例12)を用いて前記第2フィルターを入れずに第3フィルターのみに通過させた場合の濾液、並びにフィルターを通過させていない菌液(対照)についても同様に生菌数を測定した。結果を表17に示す。
【0153】
【表17】
【0154】
以上の結果、第3フィルターのみを用いた場合は細胞による詰まりが生じ、フィルターへの通過はできず、孔径5μmのフィルター上に孔径20μmのフィルターを組み合わせることで、細胞存在下においても緑膿菌を効率よく回収できることが明らかとなった。
【0155】
(実験例13〜17)
<第2及び第1フィルターによる粘性溶液の通過性>
ブタ胃由来のムチン(和光純薬工業(株)製)を生理食塩水に溶解し、80%粘性溶液とした。これに生理食塩水に溶解した0.1%ジチオトレイトール(DTT)溶液を等量加え、室温で1時間反応させ、ムチンの均質化粘性溶液とした。シリンジフィルターホルダーに実験例10で用いた孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルターを入れ、その上に孔径42、59、77又は108μm、材質ナイロンの第1フィルター[(株)サンプラテック社製、ナイロンメッシュシート]をそれぞれ入れた(実験例13〜16)。これをシリンジに接続し、ムチンの均質化粘性溶液を通過させて、フィルターの通過性を調べた。また、対照として、シリンジフィルターホルダーに前記第2フィルターのみを入れたものを用いて同様にフィルターの通過性を調べた(実験例17)。結果を表18に示す。
【0156】
【表18】
【0157】
表18において、フィルターの通過性の評価基準は下記の通りである。
◎:シリンジ操作がよりスムーズである。
○:シリンジ操作がスムーズである。
△:シリンジ操作が硬い。
×:シリンジ操作がかなり硬い。
【0158】
表18に示した如く、シリンジフィルターホルダーに孔径20μmのフィルターのみを入れたもの(実験例17)では、シリンジ操作が硬く、ムチンの均質化粘性溶液をフィルターに通過させることに手間取り、また、孔径20μmのフィルターと、孔径42、59又は77μmのフィルターとの組み合わせ(実験例13−15)では、比較的スムーズにムチンの均質化粘性溶液をフィルターに通過させることができた。特に孔径20μmのフィルターと孔径108μmのフィルターとの組み合わせ(実験例16)はよりスムーズにムチンの均質化粘性溶液をフィルターに通過させることができた。このことから、第1フィルターのサイズは20μmを超えることが好ましく、より好ましくは約100μmであることがわかった。
【0159】
(実施例14、15及び実験例18)
<第1、第2及び第3フィルターによる喀痰均質化溶液の通過性>
ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に終濃度2000U/mL(0.25%)となるよう溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、直径4mmのステンレス製粒子7粒を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁した。20分反応させた溶液を喀痰均質化液とした。
【0160】
シリンジフィルターホルダーに実験例7で用いた孔径5μm、材質ポリカーボネートの第3フィルターを入れ、その上に実験例10で用いた孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルターを入れ、さらにその上に孔径42又は108μm、材質ナイロンの第1フィルター[(株)サンプラテック社製、ナイロンメッシュシート]をそれぞれ入れた(実施例14又は15)。これをシリンジに接続し、前記喀痰の均質化液を通過させて、フィルターの通過性を調べた。また、対照として、シリンジフィルターホルダーに前記第3フィルター及び第2フィルターのみを入れたものを用いて同様にフィルターの通過性を調べた(実験例18)。結果を表19に示す。なお、表19のフィルターの通過性の評価基準は表18と同様である。
【0161】
【表19】
【0162】
表19に示した如く、シリンジフィルターホルダーに孔径5及び20μmの2種のフィルターのみを入れたもの(実験例18)では、シリンジ操作が硬く、喀痰の均質化液をフィルターに通過させることに手間取り、また、孔径5及び20μmのフィルターと、孔径42又は108μmのフィルターとの組み合わせでは(実施例14又は15)、比較的スムーズに喀痰の均質化液をフィルターに通過させることができた。
【0163】
(実施例16)
1.菌液の調製
トリプチックソイアガーで18時間培養した黄色ブドウ球菌(S. aureus)を生理食塩水に懸濁させたものを培養菌原液とした。これを生理食塩水で所定の菌数に希釈し、実施例に用いる希釈菌液とした。菌数については、培養菌原液の希釈系列を作成して、トリプチックソイアガーで培養して得られた生菌数から所定の菌数を算出した。なお、希釈菌液のかわりに生理食塩水を用いて同様に反応させたものを対照とした。
【0164】
2.喀痰均質化液の調製
ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に終濃度2000U/mL(0.25%)となるよう溶解し前処理液とした。2mLエッペンドルフチューブに、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、直径4mmのステンレス製粒子7粒を加え、室温(26℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁した。20分反応させた溶液を喀痰均質化液とした。
【0165】
3.菌液の添加
前述の方法に従って培養した黄色ブドウ球菌を10×108CFU/mLになるように溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製、2000U/mL)]で希釈した後、更に黄色ブドウ球菌が10×107CFU/mLになるように前述の喀痰均質化液で希釈した。
また、前述の方法に従って培養した黄色ブドウ球菌を10×107CFU/mLになるように溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製、2000U/mL)]で希釈し、これを陽性コントロール液とした。
また、前述の喀痰均質化液のみのものを陰性コントロール液とした。
【0166】
4.微生物の回収
第3フィルター(孔径5μm、ポリカーボネート、ワットマン社製)、第2フィルター(孔径20μm、ナイロン、(株)サンプラテック製)、及び第1フィルター(孔径108μm、ナイロン、(株)サンプラテック製)を下から順にシリンジフィルターホルダーに入れ、シリンジと接続し、微生物の分離器として用いた。
前記調製した各溶液を一部とり、微生物の分離器に通過させ、フィルター通過液とした。
【0167】
5.微生物の検出
前記得られたフィルター通過液をそれぞれ、室温下で3000g20分遠心し、上清除去後、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製、2000U/mL)]で希釈し、黄色ブドウ球菌を10×106CFU/mLになるように調製した。アルカリ−SDS法(新生化学実験講座2 核酸I分離精製(東京化学同人)、Nucleic Acids Res.Vol.7,p1513(1979))に従って溶菌させ、これを溶菌液とした。
【0168】
前記得られた溶菌液に対して下記の方法により黄色ブドウ球菌の核酸検出を行なった。
〈マイクロプレートの調製〉
黄色ブドウ球菌のrRNAに相補的な配列を有するキャプチャープローブ(下記塩基配列を有する核酸プローブ)を各々ストリップウェルタイプの96ウェルマイクロプレート上に固定し、実験に用いた。
キャプチャープローブの塩基配列(配列番号1)
5'- CGTCTTTCACTTTTGAACCAT GCGGTTCAAAATATTATCCGG -3'-Amino link
【0169】
〈各溶液の調製方法〉
(1)第1ハイブリダイゼーション反応溶液の調製
第1ハイブリダイゼーション溶液[4XSSC、0.2%SDS、1%Blocking reagent(Roche製)、20%ホルムアミド、Salmon sperm DNA(10μg/mL)]にアシストプローブを0.025pmol/μLになるように溶解し、第1ハイブリダイゼーション反応溶液を調製した。なお、前記アシストプローブは、黄色ブドウ球菌のrRNAに相補的な配列及び後述するHCP−1と同じ塩基配列を有する核酸プローブであり、下記塩基配列を有する。
アシストプローブの塩基配列(配列番号2)
5'- CATGTCTCGTGTCTTGCATC CTGCTACAGTGAACACCATC GTTCTCGACATAGACCAGTC ATCTATAAGTGACAGCAAGAC -3'
【0170】
(2)第2ハイブリダイゼーション反応溶液の調製
第2ハイブリダイゼーション溶液[4XSSC、0.2%SDS、1%Blocking reagent(Roche製)]にHCP−1及び5'末端がDIGラベルされたHCP−2を1pmol/μLになるように溶解し、第2ハイブリダイゼーション反応溶液を調製した。なお、前記HCP−1及びHCP−2は、パルサー法で用いられる一対の核酸プローブであり、該プローブの複数対を反応させると、プローブが自己集合し、プローブのポリマーが形成される(特許第3310662号等参照。)。前記HCP−1及びHCP−2の塩基配列は下記の通りである。
HCP−1の塩基配列(配列番号3)
5'- CATGTCTCGTGTCTTGCATC CTGCTACAGTGAACACCATC GTTCTCGACATAGACCAGTC -3'
HCP−2の塩基配列(配列番号4)
DIG-5'- GATGCAAGACACGAGACATG GATGGTGTTCACTGTAGCAG GACTGGTCTATGTCGAGAAC -3'
【0171】
〈反応及び検出方法〉
前記マイクロプレートに前記得られた溶菌液を50μL、前記第1ハイブリダイゼーション反応溶液を50μLずつ分注し、プレートシーラーでしっかりとシールし、1時間反応させた(第1ハイブリダイゼーション)。なお、該反応はWO2005/106031号記載のハイブリダイゼーション方法を用いて、マイクロプレートの上部20℃、下部45℃に設定した温度条件下で行った。
反応後、洗浄液[50mM Tris, 0.3M NaCl, 0.01% Triton X-100, pH 7.6]で洗浄した。
【0172】
洗浄後、洗浄液をよくきったマイクロプレートへ第2ハイブリダイゼーション反応溶液を100μLずつ分注し、プレートシーラーでしっかりとシールした。マイクロプレートの上部20℃、下部60℃に設定した条件下で1時間反応させた(第2ハイブリダイゼーション、パルサー反応)。
【0173】
マイクロプレートウェルを洗浄後、50mM Tris(pH 7.6)に溶解したPOD標識抗ジゴキシゲニン(60mU/mL)を50μL加え、37℃のインキュベーターで反応させた。洗浄液で洗浄後、0.2M酢酸緩衝液(pH 5.0)、0.06% TMBと0.04% H2O2を含む発色液を50μL加え、暗所で15分間放置し、655nmの吸光度を測定した。結果を図19に示す。なお菌数は4.6×105CFU/wellであった。
【0174】
(実施例17)
前記微生物の分離器を用いた微生物の回収工程を行わなかった点以外は実施例16と同様に実験を行った。結果を図19に示す。
【0175】
図19に示したように、本発明の均質化処理方法を用いた実施例16及び17のいずれにおいても微生物が検出できたが、本発明の微生物の分離器を用いて微生物の回収を行った実施例16は喀痰からより効率的に微生物が検出されており、フィルターに通過させることにより、喀痰中の反応阻害物質が除去され、反応が十分に進行することがわかった。
【0176】
(実施例18)
0.25%ブロメラインF(天野エンザイム社製)を、溶解液[25mMトリス緩衝液(pH7.0)、0.9%塩化ナトリウム、0.1mM エチレンジアミン四酢酸ナトリウム]に溶解し前処理液とした。25mLコンテナ容器に、喀痰(性状P3の膿性痰)、喀痰の10倍量の前処理液、及びステンレス粒子(直径4.8mm:20粒)を加え、室温(25℃)で反応させた。その際、10分おきにボルテックス(TM-252 TEST TUBE MIXER、旭テクノグラス社製)で懸濁後、溶解時間を30分とし、得られた溶液を喀痰の均質化液とした。
【0177】
シリンジフィルターホルダーに実験例7で用いた孔径5μm、材質ポリカーボネートの第3フィルターを入れ、その上に実験例10で用いた孔径20μm、材質ナイロンの第2フィルターを入れ、さらにその上に実施例15で用いた孔径108μm、材質ナイロンの第1フィルターをそれぞれ入れた。これをシリンジに接続し、前記喀痰の均質化液の一部を通過させて、フィルトレーション後の均質化液とした。
【0178】
次に、フィルトレーション前の均質化液、フィルトレーション後の均質化液それぞれについて、フェイバーGセットS(日水製薬(株)製)を用いてグラム染色を行い、顕微鏡で観察した。フィルトレーション前の均質化液の顕微鏡写真を図20に示す。フィルトレーション後の均質化液の顕微鏡写真を図21に示す。図20及び図21において、(a)は倍率100、(b)は倍率1000の結果である。
【0179】
図20に示したように、本発明の均質化処理方法により喀痰が短時間で均質化されていることがわかった。なお、図20中、白血球を矢印で示した。さらに、図21に示したように、フィルトレーション後の均質化液では、血球細胞及び喀痰の粘性成分が除かれていることがわかった。
【符号の説明】
【0180】
2:本発明のサンプリング器具、10:筒状体、12:直胴部、13:閉塞部、14,14a〜14j:プレート状ノズル、15:角部、16,16a〜16j:スリット、17:開口部、18:鍔部、20:ガスケット、22:シール突条、24:コア部、30:プランジャ、32:係着凸部、34:操作用頭部、40:本発明のサンプリング器具用補助治具(一例)、42:外嵌筒部材、43:開口部、44:係合片、45:切欠部、46:テーパー部、48:案内溝、50:内嵌軸部材、52:係合部、53:凹欠部、56:押圧用頭部、58:操作レバー、60:本発明のサンプリング器具用補助治具(他例)、62:外嵌筒部材、63:開口部、64:嵌合凸部、65:切欠凹部、66:テーパー部、67:係止凸部、68:ボタン孔、69:付勢手段(スプリング)、70:中嵌筒部材、72:嵌合凸部、74:係止手段(ボタン)、76:スプリング、80:内嵌軸部材、82:当接端部、84:押圧用頭部、90:重りホルダ、92:重り、94:試料容器、110:シリンジ、112:筒状体、114:ノズル、116:吸引吐出口、117:開口部、118:鍔部、120:ガスケット、130:プランジャ、134:操作用頭部、P:粘性試料、210a〜210d:容器の蓋、212a〜212d:容器、214:金属粒子、216:容器の底部、218:底蓋、310a,310b,310c:本発明の微生物の分離器、311:第1フィルター、312:第2フィルター、313:第3フィルター、314:分離部材、315a,315b,315c:回収容器、316a,316b,316c:フィルターホルダー、317a:フィルターホルダーの本体、318a,318b:蓋体、320:被検微生物、322:夾雑物、324:均質化液、330:濾液、332:上清、334:沈殿物、340:シリンジ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検喀痰を含む試料をステンレス鋼、鉄及びアルミナからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子の存在下で攪拌せしめる工程を含み、前記試料が均質化処理剤を含み、前記均質化処理剤がシステインプロテアーゼを含有することを特徴とする喀痰の均質化処理方法。
【請求項2】
前記粒子が直径1mm〜10mmの球状粒子であることを特徴とする請求項1記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項3】
微生物の検出における前処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項4】
前記システインプロテアーゼがブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項5】
前記均質化処理剤が、塩化ナトリウム及びトリス緩衝液を更に含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項6】
喀痰の均質化処理方法であって、喀痰と、均質化処理剤と、並びにステンレス鋼、鉄及びアルミナからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子とを混合し、混合液を作製し、前記得られた混合液をボルテックスをかけながら室温で反応させる工程を含み、前記均質化処理剤がシステインプロテアーゼ及び緩衝液を含有することを特徴とする喀痰の均質化処理方法。
【請求項7】
前記粒子が直径1mm〜10mmの球状粒子であることを特徴とする請求項6記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項8】
微生物の検出における前処理であることを特徴とする請求項6又は7記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項9】
前記システインプロテアーゼがブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項10】
前記緩衝液が、トリス緩衝液であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項11】
前記緩衝液が、塩化ナトリウムを含むトリス緩衝液であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項12】
被検喀痰を請求項1〜11のいずれか1項記載の均質化処理方法で処理した後、前記被検喀痰中に存在する微生物を検出することを特徴とする微生物の検出方法。
【請求項13】
前記微生物が、ウイルス、リケッチャ、細菌又は真菌であることを特徴とする請求項12記載の微生物の検出方法。
【請求項1】
被検喀痰を含む試料をステンレス鋼、鉄及びアルミナからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子の存在下で攪拌せしめる工程を含み、前記試料が均質化処理剤を含み、前記均質化処理剤がシステインプロテアーゼを含有することを特徴とする喀痰の均質化処理方法。
【請求項2】
前記粒子が直径1mm〜10mmの球状粒子であることを特徴とする請求項1記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項3】
微生物の検出における前処理であることを特徴とする請求項1又は2記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項4】
前記システインプロテアーゼがブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項5】
前記均質化処理剤が、塩化ナトリウム及びトリス緩衝液を更に含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項6】
喀痰の均質化処理方法であって、喀痰と、均質化処理剤と、並びにステンレス鋼、鉄及びアルミナからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する粒子とを混合し、混合液を作製し、前記得られた混合液をボルテックスをかけながら室温で反応させる工程を含み、前記均質化処理剤がシステインプロテアーゼ及び緩衝液を含有することを特徴とする喀痰の均質化処理方法。
【請求項7】
前記粒子が直径1mm〜10mmの球状粒子であることを特徴とする請求項6記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項8】
微生物の検出における前処理であることを特徴とする請求項6又は7記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項9】
前記システインプロテアーゼがブロメライン、パパイン、キモパパイン及びフィシンからなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項10】
前記緩衝液が、トリス緩衝液であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項11】
前記緩衝液が、塩化ナトリウムを含むトリス緩衝液であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載の喀痰の均質化処理方法。
【請求項12】
被検喀痰を請求項1〜11のいずれか1項記載の均質化処理方法で処理した後、前記被検喀痰中に存在する微生物を検出することを特徴とする微生物の検出方法。
【請求項13】
前記微生物が、ウイルス、リケッチャ、細菌又は真菌であることを特徴とする請求項12記載の微生物の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−160156(P2010−160156A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20283(P2010−20283)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【分割の表示】特願2007−512955(P2007−512955)の分割
【原出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【分割の表示】特願2007−512955(P2007−512955)の分割
【原出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】
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