説明

器官または組織の損傷を検出する方法

本発明は、器官または組織の傷害の存在を検出、評価、および/または診断するための方法に関する。より具体的に述べると、本発明は、器官(例えば、肝臓)または組織(例えば、皮膚)の傷害を検出、評価、および/または診断するのに用いうる具体的な血清バイオマーカーを検出する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、器官または組織の傷害を検出、評価、および/または診断するための方法に関する。より具体的に述べると、本発明は、器官または組織の薬物誘導性傷害を検出、評価、および/または診断するのに用いうる具体的な血清バイオマーカーを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬の分野では、薬物有害反応(ADR)が主要な臨床的懸念であり、薬物開発における損耗の重大な原因である。
【0003】
肝毒性は、薬物損耗の特に顕著な原因である(1、2)。肝臓において、薬物が化学的に反応性の代謝物へと代謝されることは、薬物性肝障害(DILI)における重要な因子である(3、4)。しかし、薬物の生体内活性化の化学反応と毒性転帰とを連関付ける細胞内イベントについてはほとんど理解されていない。DILIをもたらす機構および経路をよりよく理解することにより、臨床管理が改善され、臨床で用いるのにより安全な薬剤のデザインについての情報が得られる。
【0004】
加えて、多くの薬物はまた、皮膚(刺激、発疹など)、肺、腎臓、および心臓など、他の器官および組織に対しても毒性でありうる。重篤な症例では、この毒性により薬物損耗がもたらされる場合もあり、さらなる臨床管理が必要とされる場合もある。また、皮膚毒性、肺毒性、腎毒性、および心毒性をもたらす機構および経路をよりよく理解すれば、有益でもあるだろう。
【0005】
薬物開発のペースを加速化させ、損耗を低減し、それ自体生物学的に有益なバイオマーカーの重要性は、製薬分野において一般に認識されつつある。アポトーシス、壊死、および炎症の選択的なバイオマーカーを容易に検出することができれば、肝臓、皮膚、肺、腎臓、または心臓の薬物誘導性傷害など、器官傷害の基礎原因を鑑別するのに極めて有益であろうし、将来的に、臨床的介入を支援するためのさらなる情報が得られ、より安全な薬物開発のための情報が得られることになる。
【発明の概要】
【0006】
例えば、肝臓の傷害と関連するアラニンアミノトランスアミナーゼ(ALT)など、器官傷害と関連するバイオマーカーがいくつか存在する。しかし、これらのバイオマーカーを検出しても、器官損傷の基礎的機構または経過についての情報は明らかとならない。
【0007】
したがって、器官または組織の薬物誘導性傷害を検出および/または評価するための、簡略かつ簡便であり、また、器官または組織の損傷を早期に検出することを可能とするのに十分な程度に高感度でもある手法を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
器官または組織の薬物誘導性傷害の一因となる基礎的な機構および経路の評価を可能とする方法を提供することがさらなる目的である。
【0009】
本発明は、アポトーシス、壊死、および炎症の具体的な血清バイオマーカーを、簡便かつ非侵襲的に検出する能力による。これらの血清バイオマーカーのすべてを併せて検出し、それらの検出を、具体的な器官または組織において生じる薬物誘導性毒性と相関させることができれば、傷害過程に関与する基礎的な機構および経路を評価することが可能となる。
【0010】
薬物により引き起こされる器官および組織の損傷は、アポトーシス過程、壊死過程、および炎症過程のうちの1つ以上を伴いうる。どの基礎的過程が生じているか、ならびに各過程の相対的寄与を評価できれば、器官または組織に進行中の傷害の性質および病期をよりよく理解することが可能となる。それはまた、標的化された臨床的介入により、傷害または損傷が生じる程度を制限する機会も可能とする。さらに、ある期間にわたりこれらのバイオマーカーをモニタリングすることにより、器官または組織の傷害の経過をモニタリングすることができる。
【0011】
また、このようにして器官または組織の損傷を検出および/または評価することができれば、潜在的な新規の治療剤の毒性についてスクリーニングするのにも極めて有用であろう。
【0012】
したがって、本発明は、ヒト対象もしくは動物対象における薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および/または薬物誘導性炎症を検出および評価する方法であって、前記対象から得られる血清試料を、
(i)アポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)壊死に特異的な血清バイオマーカー;および
(iii)炎症に特異的な血清バイオマーカー
について調べるステップを含む方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、器官もしくは組織の薬物誘導性損傷を検出、評価、および/または診断する方法であって、
(i)アポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、器官または組織に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法も提供する。
【0014】
さらなる態様では、本発明が、器官または組織と関連する、薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および薬物誘導性炎症の存在を検出ならびに/または評価する方法であって、
(i)アポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、器官または組織に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0015】
なお別の態様では、本発明が、ヒト対象もしくは動物対象への薬物の投与により引き起こされる器官または組織の損傷の発症機序をモニタリングする方法であって、
(i)アポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)壊死に特異的な血清バイオマーカー;および
(iii)炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために前記対象に由来する血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、器官または組織に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0016】
さらなる態様では、本発明が、器官または組織の薬物誘導性損傷を検出および/または評価するアッセイであって、
アポトーシスに特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と;
壊死に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と;
炎症に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と
を含むアッセイを提供する。
【0017】
さらなる態様では、本発明がまた、本明細書でさらに定義される、器官の損傷を検出、評価、および/または診断するためのキットも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、アポトーシス、壊死、および/または炎症の血清バイオマーカーの存在を検出する能力による。これは、ヒト対象または動物対象から得られる血清試料を、
(i)アポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)壊死に特異的な血清バイオマーカー;および
(iii)炎症に特異的な血清バイオマーカー
について調べることにより達成される。
【0019】
本明細書で定義される本発明の方法を実施するのに必要とされる血清試料は、当技術分野で知られる従来の技法を用いて、ヒト対象または動物対象から得る。ヒト対象または動物対象は、器官または組織の損傷を有することが疑われる対象の場合もあり、器官または組織の損傷が生じつつあるかどうかを決定するためにモニタリングを必要とする対象の場合もある。
【0020】
本発明の方法は、非侵襲的であることが適切である。「非侵襲的」とは、ヒト対象または動物対象から得られる血清試料に対して、ヒトまたは動物の体外でそれらの方法を実施することを意味する、すなわち、該方法は、ヒトまたは動物の身体に対して直接は実施されない。
【0021】
<血清バイオマーカー>
(i)ケラチン18
ケラチンとは、細胞の構造および完全性の一因となる、上皮細胞により発現される中間線維タンパク質である。Fas媒介性アポトーシスの早期には、ケラチン18(K18)内の重要なセリン残基がリン酸化する(12)。カスパーゼ媒介型K18切断もまた、アポトーシス時における細胞構造再編成の早期イベントである(13)。カスパーゼ3、7、および9は、C末端のDALD/SモチーフにおいてK18を切断することに関与し、カスパーゼ6は、リンカー領域L1〜2内のVEVD/AモチーフにおいてK18を切断することが示されている。壊死性細胞死時には、全長K18が受動的に放出され、アポトーシス時には、生成された断片化されたK18が血液中に放出されて、時間が経過するにつれて蓄積されうる(14)。K18のアポトーシス関連形態に対する抗体が作製され、in vivo状況および臨床状況において精査されている(15、16)。臨床モデルおよび動物モデルにおいて、患者における化学療法剤の薬力学的治療薬モニタリングを行うとき(17)、ならびに、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)(18)およびC型肝炎ウイルス感染(19)などの肝障害時におけるアポトーシスを定量化するのに、血清中で定量化されるカスパーゼ切断型K18および全長K18が、それぞれ、アポトーシスマーカーおよび壊死マーカーとして用いられている。
【0022】
全長K18とは、全長K18タンパク質および/またはカスパーゼ切断を受けていないK18を意味する。
【0023】
本発明の具体的な実施形態では、カスパーゼ切断型K18を、薬物誘導性アポトーシスに特異的な血清バイオマーカーとして用いる。疑念を回避する目的で述べると、カスパーゼ切断型K18とは、カスパーゼ酵素により切断されたK18タンパク質を意味する。上記で示した通り、カスパーゼ酵素は、DALD/SモチーフまたはVEVD/AモチーフにおいてK18を切断する。
【0024】
さらなる実施形態では、壊死性細胞死において不動態で放出される全長K18を、壊死の血清バイオマーカーとして用いる。疑念を回避する目的で述べると、全長K18とは、カスパーゼ酵素により(DALD/Sモチーフおよび/またはVEVD/Aモチーフにおいて)切断されていないK18タンパク質を意味する。
【0025】
ヒト、マウス、およびラットにおける全長K18タンパク質の配列を、それぞれ、配列番号1、2、および3に示す。
【0026】
全長K18およびカスパーゼ切断型K18は、当技術分野で知られる、任意の適切な技法により検出することができる。例えば、これらのバイオマーカーはいずれも、免疫ベースのアッセイ(US6,292,850、US6,716,968、およびUS6,706,488において開示されているELISAおよびイムノアッセイなど)、質量分析法(全長K18断片と、カスパーゼ切断型K18断片との質量差を検出しうる)、およびHPLC法により検出することができる。
【0027】
本発明のある実施形態では、カスパーゼ切断型K18および全長K18を、免疫ベースのアッセイ、とりわけ、ELISAを用いて検出および定量化する。ELISAは、タンパク質のバイオマーカーを検出するための、よく知られていて確立された技法である。
【0028】
代替的な実施形態では、LC−MS/MS解析を用いて、カスパーゼ切断型K18および/または全長K18をいずれも簡便に検出および定量化することができる。
【0029】
LC−MS/MSによるカスパーゼ切断型K18および全長K18についての検出および解析を容易にするには、適切なプロテアーゼ酵素を用いて血清K18を断片へと部分消化することが望ましい。
【0030】
K18タンパク質を部分消化することにより形成されるペプチド断片のうちの1つは、カスパーゼ切断モチーフのうちの1つにわたることが適切である。適切であればどのプロテアーゼ酵素でもこの目的で用いうるであろうし、当業者は、質量分析による検出に適する断片を生成させる適切な酵素、または酵素の混合物を選択することができる。
【0031】
K18を部分消化することにより生成される断片のうちの1つが、カスパーゼ切断モチーフのうちの1つにわたることは、これにより、カスパーゼ切断モチーフが切断されていない断片(すなわち、壊死において放出される全長K18)、ならびにカスパーゼ切断を受けた対応する断片(すなわち、アポトーシスと関連する断片)を、質量分析により検出および差別化することが可能となるため、重要である。
【0032】
具体的な実施形態では、形成されるペプチド断片は、カスパーゼ3、7、および9の切断部位(すなわち、DALD/Sモチーフ)にわたる。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、K18タンパク質を部分消化するのに用いられるプロテアーゼがトリプシンであり、これは、アミノ酸であるリシンまたはアルギニンのカルボキシル側においてペプチド結合を切断する。
【0034】
血清K18をトリプシンで部分消化することにより形成され、カスパーゼ3、7、および9の標的となるDALD/S切断モチーフにわたる全長K18断片を、配列番号4(ヒト)、5(マウス)、および6(ラット)に示す。これらの断片は、質量分析により検出することができる。
【0035】
カスパーゼ切断型K18断片をトリプシンで消化すると、配列番号7(ヒト)、8(マウス)、および9(ラット)に示す断片が形成される。これらの断片は、質量分析により検出することができる。
【0036】
市販されている合成K18ペプチド断片は、被験種に由来する、K18を含まない対照血清中に添加した場合に質量分析計で観察されるピーク強度を較正するための基準物質として用いることができる。これは、得られるピーク強度および曲線下面積を、合成ペプチド断片を用いて得られる較正強度と比較することにより、それぞれの血清K18断片の量を定量化することを可能とする。
【0037】
質量分析を用いることにより、これら2つのK18バイオマーカーの存在を、血清試料中において容易に決定することが可能となる。さらに、単回のアッセイにおいてデータを発生させることができる。
【0038】
(ii)HMGB−1(high mobility group box 1)
近年の証拠は、免疫系の注意を死滅細胞へと促すのにHMGB−1(high mobility group box protein 1)が果たす重要な役割について示唆している(20、21)。HMGB−1は、炎症促進活性を有し、標的細胞におけるToll様受容体(TLR)および終末糖化産物受容体(RAGE)を標的とする、核結合タンパク質である(22、23)。HMGB−1は、活性化した自然免疫細胞に由来する別個のリシン残基から過剰アセチル化形態で放出され(24)、壊死細胞から不動態の低アセチル化形態で放出されるが、アポトーシス細胞または二次的壊死細胞によっては放出されない(21)と考えられている。抗HMGB−1抗体は、インビボにおけるAPAPによる肝毒性およびエンドトキシンによる致死性を随伴させる炎症応答を阻害する(21、25)。
【0039】
本発明の具体的な実施形態では、HMGB−1の低アセチル化形態を、壊死に特異的な血清バイオマーカーとして検出する。
【0040】
さらなる実施形態では、HMGB−1の過剰アセチル化形態が、炎症に特異的な血清バイオマーカーである。
【0041】
それぞれ、壊死細胞および自然免疫細胞により放出される、HMGB−1の低アセチル化形態および過剰アセチル化形態のいずれもが、当技術分野で知られる任意の適切な技法により検出されうる。例えば、これらのバイオマーカーはいずれも、免疫ベースのアッセイ(米国第6,292,850号、米国第6,716,968号、および米国第6,706,488号において開示されているELISAおよびイムノアッセイなど)、質量分析法(HMGB−1の低アセチル化形態と、過剰アセチル化形態との質量差を検出しうる)、ならびに、これらのHMGB−1バイオマーカーの保持時間を決定しうるHPLC法により検出することができる。
【0042】
本発明のある実施形態では、HMGB−1の低アセチル化形態および/または過剰アセチル化形態を、免疫ベースのアッセイ(例えば、ELISA)により検出する。
【0043】
代替的な実施形態では、LC−MS/MS解析を用いて、HMGB−1の低アセチル化形態および/または過剰アセチル化形態を検出および定量化することができる。さらに、単回のアッセイにおいてデータを発生させることができて簡便である。
【0044】
ヒト、マウス、およびラットにおけるHMGB−1配列を、それぞれ、配列番号10、11、および12に示す。
【0045】
LC−MS/MSによる検出の場合、タンパク質をペプチド断片へと切断する酵素により血清HMGB−1を部分消化してから質量分析による検出を行うことが適切である。
【0046】
HMGB−1の過剰アセチル化形態においてアセチル化するのは、HMGB−1タンパク質配列中に存在するリシン残基である。したがって、質量分析法を用いて、アセチル化していないペプチド断片(HMGB−1の低アセチル化形態と対応する)と、アセチル化したペプチド断片(過剰アセチル化形態と対応する)との質量差を検出することができる。
【0047】
質量分析により検出されるHMGB−1ペプチド断片は、少なくとも1つのリシン残基を含むことが適切である。検出されるペプチド断片は、2つ以上のリシン残基を含むことが好ましく、3つ以上のリシン残基を含むことがなおより好ましい。
【0048】
具体的な実施形態では、HMGB−1を部分消化することにより形成されるペプチド断片が、HMGB−1タンパク質の核局在化領域に由来する1つ以上のリシン残基を含む。この領域内に存在するリシン残基は、図1Cに示されるリシン172、173、177、180、および182〜5である。
【0049】
具体的な実施形態では、酵素であるGLuCを用いて、血清HMGB−1を部分消化する。GLuCは、配列番号13、14、または15に示される断片を生成させる。配列番号13、14、または15に示される配列の非アセチル化形態と、リシン残基上にさらに5つのアセチル基を保有するアセチル化形態との差違は、質量分析により容易に検出することができる。
【0050】
HMGB−1タンパク質はまた、酸化形態でも存在することが知られている。HMGB−1の酸化形態は、HMGB−1のサイトカインドメイン内のC106による酸化スルフヒドリル基からなる(図7Aを参照されたい)。C106によるスルフヒドリル基の酸化は、酵素であるカスパーゼにより促進され、アポトーシス細胞におけるHMGB−1の炎症特性を中和するのに重要な役割を果たす(39)。したがって、HMGB−1の酸化形態が存在すれば、また、HMGB−1の炎症特性に抗する抑制応答も表示されうる。したがって、本発明のある実施形態では、本発明の方法が、血清試料を調べて、HMGB−1の酸化形態の存在を判定するステップをさらに含みうる。本明細書で説明されるHMGB−1の低アセチル化形態および/または過剰アセチル化形態を検出するのに用いられる任意の技法により、HMGB−1の酸化形態を検出することができる。
【0051】
<アッセイの方法>
本発明のある実施形態では、検出されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカーが、カスパーゼ切断型K18である。
【0052】
本発明のある実施形態では、検出される壊死に特異的な血清バイオマーカーが、全長K18および/またはHMGB−1の低アセチル化形態である。
【0053】
本発明のある実施形態では、検出される壊死に特異的な血清バイオマーカーが、全長K18である。
【0054】
本発明のある実施形態では、検出される壊死に特異的な血清バイオマーカーが、HMGB−1の低アセチル化形態である。
【0055】
本発明のある実施形態では、検出される壊死に特異的な血清バイオマーカーが、全長K18およびHMGB−1の低アセチル化形態である。
【0056】
本発明のある実施形態では、検出される炎症に特異的な血清バイオマーカーが、HMGB−1の過剰アセチル化形態である。
【0057】
本発明のさらなる実施形態では、血清試料を、HMGB−1の酸化形態の存在についてさらに調べる。
【0058】
したがって、具体的な実施形態では、本発明の方法が、
(i)カスパーゼ切断型K18;
(ii)全長K18および/またはHMGB−1の低アセチル化形態;ならびに
(iii)HMGB−1の過剰アセチル化形態
の存在を判定するために血清試料を調べるステップを含む。
【0059】
特定の実施形態では、本発明の方法が、血清試料を調べて、
(i)カスパーゼ切断型K18;
(ii)全長K18;および
(iii)HMGB−1の過剰アセチル化形態
の存在を判定するステップを含む。
【0060】
別の特定の実施形態では、本発明の方法が、
(i)カスパーゼ切断型K18;
(ii)HMGB−1の低アセチル化形態;および
(iii)HMGB−1の過剰アセチル化形態
の存在を判定するために血清試料を調べるステップを含む。
【0061】
さらなる実施形態では、本発明の方法が、
(i)カスパーゼ切断型K18;
(ii)全長K18およびHMGB−1の低アセチル化形態;ならびに
(iii)HMGB−1の過剰アセチル化形態
の存在を判定するために血清試料を調べるステップを含む。
【0062】
上述の実施形態すべてにおいて、HMGB−1の酸化形態の存在を検出するために血清試料をさらに調べることができる。
【0063】
上述の通り、本発明のK18バイオマーカーおよびHMGB−1バイオマーカーは、当技術分野で知られる任意の適切な手段により検出することができる。例えば、これらのバイオマーカーはいずれも、免疫ベースのアッセイ(米国特許第6,292,850号、米国特許第6,716,968号、および米国特許第6,706,488号において開示されているELISAおよびイムノアッセイなど)、質量分析法、およびHPLC法により検出することができる。
【0064】
本発明のある実施形態では、K18バイオマーカーおよびHMGB−1バイオマーカーを、免疫ベースのアッセイ、とりわけ、ELISA技法を用いて検出および定量化する。ELISAアッセイは、タンパク質のバイオマーカーを検出するための、よく知られていて確立された技法である。
【0065】
代替的な実施形態では、本発明のK18バイオマーカーおよびHMGB−1バイオマーカーを、質量分析、とりわけ、LC−MS/MS解析により検出することができる。
【0066】
LC−MS/MSによる検出は、それにより、上記の血清バイオマーカーのすべて(すなわち、アポトーシスマーカー(カスパーゼ切断型K18)、壊死マーカー(全長K18および低アセチル化HMGB−1)、および炎症マーカー(過剰アセチル化HMGB−1))を単一の血液試料中で検出しうる、高感度で簡便な手段を提供する。LC−MS/MSはまた、K18の2つの形態の比、ならびにHMGB−1の2つの形態の比を平行的に決定することも可能とする。これは、発生するアポトーシス、壊死、および炎症の相対量を表示する。
【0067】
本発明のある実施形態では、質量分析を用いて、カスパーゼ切断型K18(アポトーシスに特異的な血清バイオマーカーとして)、全長K18およびHMGB−1の低アセチル化形態(壊死に特異的な血清バイオマーカーとして)、ならびにHMGB−1の過剰アセチル化形態(炎症に特異的な血清バイオマーカーとして)の存在について血清試料を調べる。次いで、アポトーシス、壊死、および/または炎症の存在を、特定の器官または組織と相関させるため、これらのバイオマーカーのうちの1つ以上を、以下でさらに定義する、器官または組織に特異的な損傷の指標の存在と相関させることができる。
【0068】
本発明のある実施形態では、宿主から得られた血清試料を、2つの個別の試料へと分割し、それらのうちの一方を用いてHMGB−1を検出し、それらのうちの他方を用いてK18を検出する。次いで、HMGB−1試料を、GLuCなどのプロテアーゼ酵素で処理して、HMGB−1を部分消化して断片を形成し、次いで、それらの低アセチル化形態および過剰アセチル化形態を、上記で論じた質量分析により検出および差別化することができる。K18試料もまた、トリプシンなどのプロテアーゼで処理して、血清K18タンパク質を断片へと部分消化すると、上記で論じた質量分析により、カスパーゼ切断型形態および全長形態を検出および差別化することが可能となる。
【0069】
代替的な実施形態では、方法が、
K18タンパク質成分およびHMGB−1タンパク質成分を血清試料から分離するステップと、
質量分析により検出しうる断片を形成するようにK18タンパク質を部分消化するステップと、
質量分析により検出しうる断片を形成するようにHMGB−1タンパク質を部分消化するステップと
を含む。
【0070】
K18タンパク質およびHMGB−1タンパク質は、任意の適切なタンパク質分離法、例えば、免疫沈降、SDS−PAGEゲル電気泳動、ウェスタンブロット法、またはクロマトグラフィーを用いて他の血清成分から分離し、単離することができる。SDS−PAGEまたはウェスタンブロットを用いて、血清タンパク質を分離するのが適切である。適切な基準物質を用いて、タンパク質分離法により生成されるK18およびHMGB−1を同定することができる。
【0071】
上記で論じた通り、任意の適切な酵素を用いて、タンパク質を部分消化することができる。
【0072】
次いで、部分消化後、質量分析によりK18およびHMGB−1の断片を検出することができる。
【0073】
ある実施形態では、本発明の方法が、器官または組織の損傷に特異的な指標についてアッセイするステップをさらに含むことが適切である。以下でさらに論じる通り、多くの場合には、これが、器官または組織に特異的な損傷バイオマーカーについてアッセイするステップを含む。
【0074】
<器官または組織に特異的な損傷の指標>
本明細書では、「器官または組織に特異的な損傷の指標」への言及を、具体的な器官または組織と関連する傷害または損傷の臨床的指標を指すのに用いる。
【0075】
例えば、肝臓の場合、「器官に特異的な損傷の指標」とは、肝毒性または肝機能について受容されている別の臨床測定値と関連する別のバイオマーカーでありうる。本発明のある実施形態では、肝臓に特異的な損傷の指標は、その存在が肝臓の傷害と関連する血清バイオマーカーである。アポトーシス、壊死、および/または炎症に特異的な血清バイオマーカーのうちの1つ以上と併せて、肝臓に特異的な傷害のバイオマーカーを検出することにより、検出された任意のアポトーシス、壊死、または炎症を、肝臓内で生じつつある傷害と相関させることが可能となる。肝臓の傷害と関連する肝臓に特異的なバイオマーカーの具体例には、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、AP(アルカリホスファターゼ)、GLDH(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)、およびGGT(ガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ)が含まれる。これらのバイオマーカーの存在について解析する方法はよく知られており、任意の適切な方法を、本発明の方法に従って用いることができる。
【0076】
皮膚組織の場合、「組織に特異的な損傷の指標」は、臨床的な皮膚状態(発疹、腫脹、かゆみ)の存在でありうる。アポトーシス、壊死、および/または炎症のうちの1つ以上と併せて皮膚状態が存在すれば、検出された任意のアポトーシス、壊死、または炎症を、皮膚組織内で生じつつある傷害と相関させることが可能となる。
【0077】
肺の場合、「器官に特異的な損傷の指標」には、サーファクタントプロテインD、サーファクタントプロテインA、またはシンデカン1のうちの1つ以上が含まれうる。これらのバイオマーカーの存在について解析する方法は当技術分野で知られており、本発明の方法に従い任意の適切な方法を用いることができる。
【0078】
腎臓の場合、「器官に特異的な損傷の指標」には、KIM−1、クラステリン、オステオポンチン、β2−マイクログロブリン、レチノール結合タンパク質、β−NAG(N−アセチル−B−D−グルコサミダーゼ)、シスタチン−C、アルブミン、GSTα、リポカリン(NGAL)、またはIL−18のうちの1つ以上が含まれうる。これらのバイオマーカーの存在について解析する方法は当技術分野で知られており、本発明の方法に従い任意の適切な方法を用いることができる。
【0079】
心血管系の場合、損傷の指標は、心臓トロポニンTおよび/またはI(cTnT、cTnI)でありうる。これらのバイオマーカーの存在について解析する方法は当技術分野で知られており、本発明の方法に従い任意の適切な方法を用いることができる。
【0080】
具体的な実施形態では、本発明の方法は、検出されたアポトーシス、壊死、または炎症を、1つ以上の特定の器官または組織内で生じつつある損傷と相関させうるように、異なる器官または組織と関連する、器官または組織の損傷に特異的な複数の指標の存在についてアッセイするステップをさらに含む。
【0081】
<適用>
本発明の方法は、例えば、新規の薬物などの化学的作用物質を投与した後、ヒト対象または動物対象におけるアポトーシス、壊死、および/または炎症の発生をモニタリングするのに特に有用である。
【0082】
したがって、一態様では、本発明が、ヒト対象または動物対象への薬物の投与により引き起こされる器官または組織の損傷の病態をモニタリングする方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;および
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために前記対象に由来する血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、器官または組織に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0083】
該方法は、血清バイオマーカーのレベルを、器官または組織の薬物誘導性損傷の重症度を示す所定のレベルと相関させるステップをさらに含むことが適切である。
【0084】
該方法は、検出された血清バイオマーカーのレベルを、所定のレベルと比較するステップを含むことが適切である。該所定のレベルは、薬物の投与を開始する前に対象から得られるベースラインのレベルでありうる。
【0085】
検出されたバイオマーカーのレベルが高いほど、生じつつある器官または組織の傷害の重症度が重度であることが典型的である。
【0086】
該方法はまた、選択される期間にわたり対象から採取される血清試料を調べることにより、ある期間にわたりアポトーシス、壊死、および/または炎症の経過をモニタリングするのにも用いることができる。関与するバイオマーカーの存在を迅速に評価することができれば、研究者および/または医師に情報を迅速にフィードバックすることが可能となる。
【0087】
本発明の方法は、肝臓、皮膚、腎臓、肺、もしくは心血管の傷害/毒性、またはこれらの組合せを検出、評価、および診断するのに特に有用である。
【0088】
(i)肝損傷の評価
具体的な実施形態では、本発明が、薬物誘導性肝損傷の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される肝臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0089】
さらなる実施形態では、本発明が、薬物誘導性肝損傷を診断する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために動物またはヒトから得られる血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される肝臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0090】
さらなる実施形態では、本発明が、肝臓における薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および薬物誘導性炎症の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される肝臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0091】
肝臓に特異的な損傷の指標を検出するのに当技術分野で知られる任意の方法を用いることが適切である。例えば、肝臓に特異的な損傷の指標としてALTを検出する場合は、Cummingsら(17)において説明されている技法を用いてALTを測定することができる。
【0092】
(ii)皮膚損傷の評価
具体的な実施形態では、本発明が、薬物誘導性皮膚損傷の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される皮膚損傷の臨床的指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0093】
さらなる実施形態では、本発明が、皮膚における薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および薬物誘導性炎症の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される皮膚損傷の臨床的指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0094】
上記で定義された肝臓または肝臓損傷を検出、評価、および/または診断する方法は、アポトーシスに特異的な血清バイオマーカーとしてのカスパーゼ切断型K18、壊死に特異的な血清バイオマーカーとしての全長K18およびHMGB−1の低アセチル化形態、ならびに炎症に特異的な血清バイオマーカーとしてのHMGB−1の過剰アセチル化形態の検出を伴うことが適切である。これらのすべては、LC−MS/MSにより検出することが簡便でありうる。
【0095】
皮膚損傷の臨床的指標は、臨床的な皮膚状態(発疹、腫脹、かゆみなど)であることが適切である。
【0096】
(iii)肺損傷の評価
具体的な実施形態では、本発明が、薬物誘導性肺損傷の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される肺に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0097】
さらなる実施形態では、本発明が、薬物誘導性肺損傷を診断する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために動物またはヒトから得られる血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される肺に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0098】
さらなる実施形態では、本発明が、肺における薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および薬物誘導性炎症の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される肺に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0099】
肺に特異的な損傷の指標を検出するのに当技術分野で知られる任意の方法を用いることが適切である。
【0100】
(iv)腎損傷の評価
具体的な実施形態では、本発明が、薬物誘導性腎損傷の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される腎臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0101】
さらなる実施形態では、本発明が、薬物誘導性肺損傷を診断する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために動物またはヒトから得られる血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される腎臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0102】
さらなる実施形態では、本発明が、腎臓における薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および薬物誘導性炎症の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される腎臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0103】
腎臓に特異的な損傷の指標を検出するのに当技術分野で知られる任意の方法を用いることが適切である。
【0104】
(v)心血管損傷の評価
具体的な実施形態では、本発明が、薬物誘導性心血管損傷の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される心臓に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0105】
さらなる実施形態では、本発明が、薬物誘導性心血管損傷を診断する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために動物またはヒトから得られる血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される心血管に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0106】
さらなる実施形態では、本発明が、心血管組織における薬物誘導性アポトーシス、薬物誘導性壊死、および薬物誘導性炎症の存在を検出および/または評価する方法であって、
(i)本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカー;
(ii)本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカー;
(iii)本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカー
の存在を判定するために血清試料を調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、本明細書で定義される心血管に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法を提供する。
【0107】
肺に特異的な損傷の指標を検出するのに当技術分野で知られる任意の方法を用いることが適切である。
【0108】
本発明はまた、器官または組織の傷害を検出および/または評価する際における、本明細書で定義されるバイオマーカーの使用も提供する。
【0109】
<アッセイ/キット>
本発明はまた、器官または組織の薬物誘導性損傷を検出および/または評価するアッセイであって、
本明細書で定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と;
本明細書で定義される壊死に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と;
本明細書で定義される炎症に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と
を含むアッセイも提供する。
【0110】
該アッセイは、器官または組織に特異的な1つ以上の傷害バイオマーカーを検出して、検出された任意のアポトーシス、壊死、または炎症を、1つ以上の具体的な器官および/または組織と相関させる手段をさらに含む。
【0111】
ある実施形態では、アッセイが、HMGB−1の酸化形態を検出する手段をさらに含む。
【0112】
アポトーシス、壊死、および/または炎症に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段は、質量分析またはELISAなどの免疫アッセイから選択されることが適切である。
【0113】
ある実施形態では、器官または組織に特異的な1または複数の傷害バイオマーカーを検出する手段が、ELISAなどの免疫アッセイである。
【0114】
本発明はまた、器官または組織の薬物誘導性傷害を検出および/または評価するキットであって、
カスパーゼ切断型K18を検出する試薬と、
全長K18および/またはHMGB−1の低アセチル化形態を検出する試薬と、
HMGB−1の過剰アセチル化形態を検出する試薬と
を含むキットも提供する。
【0115】
ある実施形態では、該キットが、HMGB−1の酸化形態の存在を検出する試薬をさらに含む。
【0116】
ある実施形態では、バイオマーカーがELISAにより検出されることを可能とするのに必要な試薬が、該試薬である。このような試薬には、カスパーゼ切断型K18、全長K18および/またはHMGB−1の低アセチル化形態、ならびにHMGB−1の過剰アセチル化形態に特異的な抗体が含まれうる。
【0117】
代替的な実施形態では、キットは、質量分析によりバイオマーカーを検出するためのキットである。このようなキットは、
本明細書の前出で定義される、血清K18を部分消化するための酵素と、
本明細書の前出で定義される、血清HMGB−1を部分消化するための酵素と、
どのようにして、本明細書で定義される方法のうちの1つに従い試料を調べ、アポトーシス、壊死、および/または炎症が生じつつあるかどうかを決定するかについて詳述する指示書と
を含む。
【0118】
本発明のキットは、器官に特異的な器官損傷の指標の存在を検出するための試薬をさらに含みうる。例として述べるなら、このような試薬には、本明細書で定義される、肝臓、腎臓、肺、および/または心臓の傷害バイオマーカーのうちのいずれかを検出するのに必要とされる任意の試薬が含まれうるであろう。例えば、キットを用いて肝損傷を検出するなら、肝臓に特異的なバイオマーカーはALTでありうるであろうし、この場合、キットは、製造元の指示書に従い用いられる、ThermoTrace Infinity ALT Liquid安定試薬をさらに含みうる。
【0119】
ある実施形態では、キットが、血清タンパク質の分離を可能とする試薬をさらに含む。このような試薬には、SDS−PAGE電気泳動またはウェスタンブロット法のための試薬が含まれうる。このような試薬には、ゲル上で泳動して、K18バンドおよびHMGB−1バンドの同定を可能とする任意の基準物質、ならびに/またはゲル自体を形成するのに必要とされる任意の試薬が含まれうる。代替的に、キットは、分離カラムを含みうる。
【0120】
キットは、血清試料を保持するための基質をさらに含むことが適切である。
【0121】
試料中におけるK−18バイオマーカーおよびHMGB−1バイオマーカーの存在を評価することにより、アポトーシス、壊死、および/または炎症の検出および評価を容易とする目的で、本発明のキットを、標準的な検査装置と共に用いることができる。質量分析器は、酵素的な部分消化により形成されるK18およびHMGB−1の断片を検出するのに不可欠な付加装置部分である。
【0122】
以下の図を参照しながら、以下で、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】(A)APAP(530mg/kg;5時間)または0.9%生理食塩液を投与されたマウスの血清から免疫沈降(IP)により単離されたHMGB1およびK18の形態についての、SDS−PAGEおよびクーマシーによる解析を示す図;(B)リシン残基180、182〜185においてアセチル化したマウスHMGB1についてのMS/MS解析を示す図;(C)APAPを投与されたマウスの血清中に存在する核局在化配列において、MS/MSによりアセチル化残基が同定されたマウスHMGB1内のリシンについての概略を示す図;(D)カスパーゼ切断モチーフが切断されていない、47kDaの全長K18についてのMS/MSによる特徴づけを示す図;ならびに(E)44kDaの変異体および21kDaの変異体だけに存在する、カスパーゼ切断モチーフで切断された断片型K18についてのMS/MSによる特徴づけを示す図である。図は、1群当たり6匹ずつの動物を表わす。
【図2】(A)APAP投与(530mg/kg)3時間後のH&E染色したマウス肝臓切片を示す図(矢印は、アポトーシス形態を示す肝細胞を指示する。);(B)マウス肝臓における切断型カスパーゼ3の免疫組織学的実証を示す図(矢印は、活性カスパーゼ3陽性細胞を示す肝細胞を指示する。);(C)APAP投与(530mg/kg)5時間後のH&E染色したマウス肝臓切片を示す図(黒色矢印は、壊死肝細胞を指示する。);(D)APAP投与(530mg/kg)15時間後のH&E染色したマウス肝臓切片を示す図(黒色矢印は、有糸分裂形態を示す肝細胞を指示する。);(E)APAP投与(530mg/kg)24時間後のH&E染色したマウス肝臓切片を示す図(黒色矢印は、有糸分裂形態を示す肝細胞を指示する。以上すべての切片は、20倍に拡大されている。);ならびに(F)APAP+Z−VAD.fmk処置5時間後のH&E染色したマウス肝臓切片を示す図(10倍に拡大されている)である。CV:中央静脈。図は、1群当たり6匹ずつの動物を表わす。
【図3】(A)アガロースゲル解析により決定される、肝臓DNAラダリングについて、APAP投与(530mg/kg、0〜24時間)後の経時的評価を示す図;(B)ウェスタンブロットにより決定される、肝臓プロカスパーゼ3(p32)が活性断片(p17)へとプロセシングされることについて、APAP投与(530mg/kg、0〜24時間)後の経時的評価を示す図;(C)APAP投与(530mg/kg)マウスの血清中に存在するカスパーゼ切断型K18断片レベル(実線;ピコモル/ml)との、ALT活性(点線;U/l)の経時的な同時的相関を示す図;(D)全長K18レベル(実線;ピコモル/ml)との、ALT活性(点線;U/l)の経時的な同時的相関を示す図;ならびに(E)全HMGB1レベル(実線;ng/ml)との、ALT活性(点線;U/l)の経時的な同時的相関を示す図である。図は、1群当たり6匹ずつの動物を表わす。データは、平均±標準偏差として与える。統計学的有意性は、「材料および方法」で規定する同じ時点に由来する媒体で処置した対照との関連で割り当てた。p<0.05、**p<0.01、ならびに***p<0.005。
【図4】(A)0〜24時間後の、血清過剰アセチル化HMGB1(免疫細胞に由来する:点線)および血清低アセチル化HMGB1(壊死細胞により放出される:実線)の倍数増大を示す図;(B)APAP投与(530mg/kg)後10時間にわたる、個々のマウスにおける壊死マーカーとしての血清全長K18に対する、アポトーシスマーカーとしての血清カスパーゼ切断型K18の相関を示す図(必要に応じて相関係数を示す);ならびに(C)マウスにおけるAPAP肝毒性のバイオマーカーとしての血清K18、血清断片型K18、血清HMGB1、血清ALTの感度および(1−特異度)を示唆するROC解析を示す図である。データは、1群当たり6匹ずつのマウスの平均±標準偏差として与える。統計学的有意性は、時点の合致する媒体を投与した対照との関連で割り当てた。p<0.05、**p<0.01、ならびに***p<0.005。
【図5】(A)個々の動物の細胞喪失度(組織学スコア)との、血清全長K18レベル(ピコモル/ml)の相関を示す図;(B)個々の動物の細胞喪失度(組織学スコア)との、血清全HMGB1含量(ng/ml)の相関を示す図;(C)個々の動物のAPAP投与(530mg/kg;5時間)後における、血清全長K18レベルとの、血清ALT活性(U/l)の相関を示す図;および(D)個々の動物のAPAP投与(530mg/kg;5時間)後における、血清全HMGB1含量との、血清ALT活性(U/l)の相関を示す図である。表示の相関係数が必要とされた。
【図6】(A)APAP(530mg/kg;5時間)誘導性肝臓DNAラダリングに対してZ−VAD.fmkが及ぼす効果を示す図;(B)APAP誘導性プロカスパーゼ3プロセシングに対してZ−VAD.fmkが及ぼす効果を示す図;(C)APAP誘導性血清カスパーゼ切断型K18量(ピコモル/ml)に対してZ−VAD.fmkが及ぼす効果を示す図;(D)APAP誘導性肝臓グルタチオン(GSH)枯渇(ナノモル/mg)に対してZ−VAD.fmkが及ぼす効果を示す図;(E)APAP誘導性全血清HMGB1含量(ng/ml)に対してZ−VAD.fmkが及ぼす効果を示す図;および(F)APAP誘導性血清ALT活性(U/l)に対してZ−VAD.fmkが及ぼす効果を示す図である。これらは、同じマウス群内で同時に記録された。データは、1群当たり6匹ずつのマウスの平均±標準偏差として与える。統計学的有意性は、時点の合致する媒体を投与した対照との関連で割り当てた。p<0.05、**p<0.01、ならびに***p<0.005。
【図7】アセトアミノフェン(APAP)(530mg/kg;5時間)投与マウスの血清を用いた、システイン106におけるHMGB−1酸化状態の特徴づけを示す図である。(A)MS/MSにより特徴づけられるマウスHMGB−1のサイトカインドメインにおけるシステイン106の位置についての概略図である。(B)摂食APAP投与(530mg/kg;5時間)マウスおよび絶食APAP投与(530mg/kg;5時間)マウスの血清から、免疫沈降により単離された還元型HMGB−1および酸化型HMGB−1の非還元型SDS−PAGEによる分離およびウェスタンブロット解析を示す図である。HMGB−1はまた、Z−VAD.fmkで前処置したAPAP投与マウスからも単離した。(C)システイン106においてスルホン酸を含有する、摂食APAP処置マウスに由来するマウス酸化型HMGB−1ペプチド97〜112についてのMS/MS解析を示す図である。(D)24時間にわたりあらかじめ絶食させたAPAP処置マウスに由来する、システイン106チオールを含有するマウス還元型HMGB−1ペプチド97〜112についてのMS/MS解析を示す図である。MS/MSについての図、ならびにウェスタンブロットについての図は、1群当たり6匹ずつの動物を表わす。
【0124】
[表1]
APAPにより、雄CD−1マウス(530mg/kg)において、3〜24時間後にわたり誘導される組織学的変化、アポトーシス性バイオマーカーの誘導(カスパーゼ3の活性化およびDNAラダリング)、および血清バイオマーカーの増大についての概要を示す表である。免疫組織学(IH)については、+が、肝臓切断型カスパーゼ3の発現度を示す。GSH枯渇については、肝臓GSH枯渇が対照動物と比較して著明であることを(+)が示すか、または肝臓GSH枯渇が著明でないことを(−)が示す。(+)は、ウェスタンブロット(WB)によるDNAラダリングまたはカスパーゼ3のプロセシングについての陽性検出を示す。血清バイオマーカー解析については、対照値を上回る著明な増大が見られることを(+)が示すか、または対照値を上回る著明な増大が見られないことを(−)が示す。
【0125】
[実施例]
ここで、本発明を、以下の例示的な実施例との関連でより詳細に説明する。
【実施例1】
【0126】
<アセトアミノフェン誘導性アポトーシスおよびアセトアミノフェン誘導性壊死のバイオマーカーとしてのケラチン18およびHMGB−1(high mobility group box−1)についての生体分析>
潜在的に有益かつメカニズムに基づいたDILIバイオマーカーを探索するには、げっ歯動物系におけるモデル肝毒素であり、かつ、重大な臨床的ADRであるアセトアミノフェン(APAP)を用いることができる。シトクロムP450を媒介する反応性代謝物であるN−アセチル−p−ベンゾ−キノンイミン(NAPQI)の形成を介してAPAP肝毒性を誘発し、その後、GSH枯渇を要請する生化学的イベントについては、十分に定義されている(5)。壊死が細胞死の最終的で究極的な形態ではあるが、APAP代謝が活性化された後の細胞内イベントにより肝細胞のアポトーシスがもたらされうることを、複数の報告が示唆している(6〜8)。しかし、APAPがアポトーシスを誘導する程度については、依然として異論の余地がある(9〜11)。
【0127】
本探索の目的は、細胞死の血清バイオマーカーとしてのHMGB1およびK18を非侵襲的に解析することにより、APAP誘導性肝毒性の動物モデルにおけるアポトーシスと壊死との間の力動性を規定することであった。自然免疫細胞または壊死細胞により放出される血清HMGB1の異なる分子形態を特徴づけて定量化するのには、LC−MS/MS法を用いた。また、平行して、マウスにおけるAPAP誘導性アポトーシス後のカスパーゼによるK18の切断を確認し、血清中の断片K18および全長K18を定量化するのにもLC−MS/MSを用いた。
【0128】
<材料および方法>
<材料>
HMGB1およびK18に対する抗体(ウサギ抗ヒト抗体)は、Abcam(Cambridge、UK)から購入し、ウェスタンブロット解析用のカスパーゼ3に対する抗体(ウサギ抗カスパーゼ3抗体、8G10)ならびに免疫組織学解析用のカスパーゼ3に対する抗体(ウサギ抗切断型カスパーゼ抗体、5A1E)は、Cell Signaling(Hitchin、UK)から購入した。免疫組織学用の二次抗体は、から購入し、HMGB1 ELISAキットは、株式会社シノテスト(日本、東京)から、Infinity ALT液体試薬は、Alpha Laboratories(Eastleigh、UK)から購入した。Bio−Rad Protein Assay Dye Reagentは、Bio−Rad Laboratories Ltd(Hemel Hempstead、UK)から購入した。プロテオーム解析には、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸をLaserBiolabs(France)から、トリプシンをPromega(UK)から、ZipTipsをMillipore(UK)から購入した。すべての溶媒は、HPLCグレードであり、Fischer Scientific plc(Loughborough、UK)製であった。別段に言及しない限り、他のすべての化学物質、ペプチド基準物質、および材料は、Sigma−Aldrich(Poole、UK)から購入した。
【0129】
<動物の処理>
食物および水を自由に摂取させた、雄CD−1マウスの個体(25〜35g)6匹ずつによる群を、試験に組み入れた。ある時間経過にわたり、試験動物に、0.9%生理食塩液中のAPAP(530mg/kg)の単回腹腔内注射を行い、処理の3、5、10、15、20、または24時間後に安楽死させた。対照動物には、必要に応じて、0.9%の生理食塩液、または0.9%の生理食塩液中の溶媒対照を施した。アポトーシスについての陰性対照として、ならびにアポトーシスについての血清バイオマーカーを検証するために、1つの群のマウスには、汎カスパーゼ阻害剤であるZ−VAD.fmkを施し(DMSO(APAP投与の15分前における、0.9%の生理食塩液中0.1ml/kgのDMSO)中10mg/kgの静脈内投与)、処理の5時間後に安楽死させた。血清中のALT活性、HMGB1、およびK18を決定したほか、DNAラダリング、カスパーゼ3についてのウェスタンブロット法、GSH含量、ならびに免疫組織学を含めた組織学を、すべての動物に対して実施した。
【0130】
<肝毒性の評価>
COの吸入および頸椎脱臼により動物を安楽死させ、心臓穿刺により血液を採取した。血液試料を、一晩にわたり4℃で保存し、凝固させた。肝臓を摘出し、氷冷生理食塩液中ですすぎ、10%の中性緩衝ホルマリン中で固定するか、または瞬間凍結させた。既に報告した(28)通りに、血清アラニントランスアミナーゼ(ALT)レベルを決定した。肝毒性の組織学的評価および免疫組織学検査を行うため、ホルマリンで固定した肝切片を、日常的な方法でパラフィンろう中に包埋した。3〜5μmの切片を調製し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色するか、または免疫組織学に用いた。H&E染色切片を、任意の組織病理学的特色について検査し、アポトーシス性肝細胞および/または壊死性肝細胞を同定した。肝細胞喪失(おもに、小葉中心性喪失)の程度を、0〜5としてスコア評価した(ここで、0は、細胞喪失の証拠を示さず(未変化の肝臓)、5は、広範にわたる細胞喪失を示した)。スコア評価は、2人の共同研究者(DJA、AK)により、盲検処理の上で個別に実施した。
【0131】
<肝臓内グルタチオンレベルの決定>
既に説明した(29)通りに、肝臓内総グルタチオン(GSH+GSSG)レベルを決定した。
【0132】
<カスパーゼ3についてのウェスタンブロット法、切断型カスパーゼ3の免疫組織学的裏付け、およびDNAラダリング>
カスパーゼ3についてのウェスタンブロット法は、瞬間凍結させた肝臓から調製したマウス肝臓細胞質ゾル画分に対して、既に説明した(30)通りに実施した。製造元の指示書に従い、Sigma−Aldrich GeneEluteキットを用いて、瞬間凍結させた肝臓からDNAを単離した。1%アガロースゲル上において分離した後、臭化エチジウム染色によりDNAラダリングを可視化した。切断型カスパーゼ3を免疫組織学的に裏付けるため、既に説明したプロトコール(31)に基づき、ホルマリンで固定し、パラフィンで包埋した肝切片に対して、ペルオキシダーゼ抗ペルオキシダーゼ法を適用した。切断型カスパーゼ3陽性細胞(細胞質染色)の数を半定量評価した(−:陽性細胞なし;+:陽性細胞が散見される;++:中間数の陽性細胞が見られる;+++:多数の陽性細胞が見られる)。
【0133】
<血清HMGB1および血清K18の特徴づけおよび定量化>
血清K18および血清HMGB1の免疫沈降(IP)物(5μgの抗体およびプロテインGによる分離物)を、一晩にわたりSDS−PAGEにかけた。クーマシーブルー染色ゲルからタンパク質バンドを摘出し、50%アセトニトリル/50mM重炭酸アンモニウムと共にインキュベートすることにより脱染色した後、真空乾燥させた。40ng/μLの修飾トリプシン(K18)または修飾GluC中(HMGB1)を含有する50mM重炭酸アンモニウム中でゲル小片を再水和させ、37℃で16時間にわたりインキュベートした。2回の交換を行いながら60%アセトニトリル/1%トリフルオロ酢酸と共にインキュベートすることによりペプチドを抽出し、結果として得られる上清を再度乾燥させた。製造元の指示書に従い、C18 ZipTipsを用いて抽出物を脱塩し、5%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸中で復元した。LC−MS/MS解析のため、自動式インライン型液体クロマトグラフ(ナノエレクトロスプレー線源ヘッド、ならびに内径10μmのPicoTip(New Objective、USA)を介して統合された、LC−Packings System、5mm C18ナノプレカラム、ならびに75μm×15cmのC18 PepMapカラム(Dionex、California、USA))を介して、QSTAR Pulsar iハイブリッド型質量分析器(Applied Biosystems)へと試料を送入した。60分間で5%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(v/v)〜48%アセトニトリル/0.05%トリフルオロ酢酸(v/v)の勾配を、300nL/分の流速で適用し、IDA(information−dependent acquisition)(Analyst、Applied Biosystems)を用いる陽イオンモードで、MSスペクトルおよびMS/MSスペクトルを自動的に取得した。信頼水準を80%に設定し、生物学的修飾を許容したSwissProtデータベースの最新版と共にProtein Pilot 2(Applied Biosystems)を用いて、データベース検索を実施した。合成ペプチド基準物質を対照血清中に添加して生成させた標準曲線を構築することにより、マウス血清全長K18断片およびカスパーゼ依存型K18断片の定量化を実施し、イムノアッセイ(17)と比較した。カスパーゼ3、7、9切断部位にわたるように全長K18基準ペプチド(LLEDGEDFSLNDALDSSNSMQTVQK)をデザインする一方、カスパーゼ切断部位で切断したK18断片だけから短縮型ペプチド(LLEDGEDFSLNDALD)を誘導する(検出限界:300フェムトモル/ml;変動係数<10%)。HMGB1ならびにその過剰アセチル化誘導体は、合成基準物質が利用できないので、スペクトルのペプチドピークをカウントすることにより定量化されたものであり、その結果、相対値としてだけ提示され、製造元の指示書に従いELISAにより決定された総レベルと比較される(検出限界:0.1ng/ml;変動係数<10%)。
【0134】
<統計学的解析>
すべての結果(組織学的解析を除く)は、平均±標準偏差(SD)として表現する。比較される値は、シャピロ−ウィルク検定を用いる非正規分布について解析した。正規分布が適応である場合は、対応のないt検定を用いた。ノンパラメトリックデータについて、マン−ホイットニーのU検定を用いた。StatsDirect統計ソフトウェアを用いてすべての計算を実施し、p<0.05の場合に結果を有意であると考えた。
【0135】
<結果>
<APAP誘導性肝毒性時におけるHMGB1およびK18の循環分子形態の同定および特徴づけ>
APAP投与マウスの血清中には存在するが、対照マウスの血清中には存在しないHMGB1についてLC−MS/MSで特徴づけたところ(図1A)、低アセチル化HMGB1(壊死と共に放出される)および過剰アセチル化HMGB1(活性化免疫細胞から放出される)両方の混合物が明らかとなった。GLuCで消化したHMGB1およびMS/MS解析により、HMGB1核局在化配列内に存在する、リシン残基180〜185を含有する1132.6Daのペプチドを同定した。また、同じアミノ酸配列を含有するペプチドも存在したが、質量が210amu大きかった。1342.6Daへと質量が増大することは、アセチル基5個の付加に対応する。さらなるMS/MS解析により、単球およびマクロファージによりそれが活性で放出される際の重要な機構であるアセチル化による修飾が、リシン残基180〜185において存在することが確認された(図1B〜C)。APAP投与マウスの血清中で特徴づけられるアセチル化残基を伴う、概略的なHMGB1リシンマップを図1Cに示す。
【0136】
APAP投与マウスの血清中に存在するK18を特徴づけた結果として、壊死細胞から放出された全長K18(47kDa)、ならびに44kDaおよび21kDaにおける2つのアポトーシス関連形態が同定された(図1A)。これに対し、非処理マウスの血清中では、K18の全長形態または断片化形態の放出についての証拠が見出されなかった(図1A)。MS/MSにより全長K18を解析したところ、K18のカスパーゼ依存型アポトーシス断片(44kDaおよび21kDa)内には存在しない2756Daのペプチドがもたらされた。解析により、このペプチドは、切断されていない予測カスパーゼ3、7、および9切断モチーフを有するペプチドであると特徴づけられた(図1D)。これに対し、トリプシンにより44kDaおよび21kDaのK18断片を消化したところ、全長K18を伴わない1665Daの短縮型ペプチドがもたらされた。MS解析により、これは、DALD/SSモチーフで切断されるカスパーゼ部位が存在するためであることが明らかとなった(図1E)。
【0137】
<K18およびHMGB1は、APAP誘導性組織学変化についての高感度で有益な機構ベースのバイオマーカーを表わす>
対照動物は、組織学的変化を示さなかった、すなわち、切断型カスパーゼ3についての免疫組織学を含めた組織学による肝細胞喪失の証拠は見られず(スコア0)、壊死またはアポトーシスについての証拠も見られなかった。処理の3時間後において、小葉中心性喪失が観察され(スコア1〜2)、おもに小葉中心性のアポトーシス細胞の形態を伴う多数の細胞が見られた(図2A)。切断型カスパーゼ3の発現(図2B)により、ならびにDNAラダリングおよびカスパーゼ3プロセシングのほか、血清K18断片の増大(図3)により、アポトーシスが確認された。処理の5時間後に、動物は、多様な程度の細胞喪失を示した(スコア1〜3、平均2)。アポトーシス細胞数は減少したが、スコア1のアポトーシス細胞は一般に多数であり、壊死細胞も増大した(図2C)。in situにおいてアポトーシス細胞が同定されない場合は、DNAラダリングおよび/またはカスパーゼ3プロセシング、ならびに血清K18断片の増大もまた一般に観察されなかった。処理の10時間後までに、細胞喪失スコアは1または2となり、アポトーシス細胞は、観察されたとしてもまれとなった。DNAラダリングまたはカスパーゼ3プロセシングの証拠は見られず、依然として血清K18断片の増大が観察された。処理の15時間後にも、血清K18断片は依然として増大した。肝細胞喪失のスコアは0〜2(平均1または2)であり、帯域3(小葉中心帯域)では肝細胞置換の証拠が見られた(図2D)。処理の20時間後には、肝細胞喪失の際立った証拠が見られないかまたはごくわずかな肝細胞喪失の証拠が見られた(スコア0または1)が、帯域3内の肝細胞は、不規則に配置されているように見えた。全肝臓のスコアが0となった、処理の24時間後には、この不規則な配置も観察されなかった。処理の5時間後以降、有糸分裂形状により表わされる、肝細胞の有糸分裂が増大する証拠が見られた。処理の15、20、および24時間後には、これらの証拠が特に多数であった(図2D〜E)。全時間が経過するにつれて、血清全長K18の増大、ならびに血清ALT活性の増大が観察される(図3D)一方、処理の15時間後以降、血清HMGB1の増大は見られず(図3E)、GSH枯渇が明白であるのは処理の3〜5時間後に限られた。処理後のどの時点でも著明な炎症細胞浸潤は観察されなかったが、5〜15時間後において、一部の動物では、少数の好中球が小葉中心において見られた。結果を表1にまとめる。
【0138】
APAPの投与後、MS/MSによりHMGB1の各種の血清分子形態を解析したところ、投与の3時間後に壊死随伴形態が著明に増大し、これは5時間後にピークに達し、20時間後までに対照レベルへと復帰したことが明らかとなった。これに対し、HMGB1の免疫細胞由来形態の血清レベルがわずかながら著明に上昇したが、これが検出されたのは、投与の5時間後に限られた。このレベルのこの形態は、時間が経過するにつれて増大し、15時間後にピークに達し、24時間後までに対照レベルへと復帰した(図4)。APAP投与後において血清中に存在するカスパーゼ切断型K18レベルに対する全長K18レベルの相関により、時間が経過するにつれてアポトーシス性細胞死から壊死性細胞死への変化が生じていることが示される(図4B)。
【0139】
HMGB1およびK18(全長K18および断片化K18)を、APAPによる肝毒性についての有益で機構ベースのバイオマーカーとして評価するため、ROC(receiver operator characteristic)解析を、従来の血清肝毒性指標(ALT)と比較して行った。図4Cは、ALT(0.80)と比較した、血清断片化K18(0.84)、全長K18(0.90)、および全HMGB1(0.87)についてのROC曲線ならびに曲線下面積についての解析を示す。個々の動物の血清HMGB1レベルおよび血清K18レベルを、組織学により決定される肝細胞喪失の程度(図5A〜B)ならびにALT活性のレベルと相関させることにより、HMGB1およびK18が、これらの動物モデルにおけるDILIのバイオマーカーとしてさらに検証される。血清全長18および血清HMGB1の両方が増大することは、肝細胞喪失度が増大することと相関していた。APAP投与後におけるALT活性のレベルと相関させたとき、K18およびHMGB1のそれぞれについて得られる相関係数は、R=0.832およびR=0.746であった(図5C〜D)。
【0140】
<カスパーゼを阻害するとAPAP誘導性壊死が増大する>
K18の断片化がカスパーゼ依存性であることを確認するため、マウスに、カスパーゼ阻害剤であるZ−VAD.fmkと共にAPAPを共投与した。Z−VAD.fmkは、APAPを単独で投与したマウスと比較して、APAP投与マウスにおけるアポトーシスマーカーの検出を完全に阻害した(図6A〜C)。Z−VAD.fmkまたはDMSO溶媒対照による前処理は、APAP媒介性GSH枯渇に対して効果を及ぼさなかった(図6D)。しかし、Z−VAD.fmkおよびAPAPを投与すると、APAP単独の場合と比較して、血清ALTレベルおよび血清HMGB1レベルを結果として増大させた(図6E〜F)。APAPにより誘導される小葉中心性肝細胞喪失の組織学的スコアは一般に2〜3であり、したがって、APAPをZ−VAD.fmkと共投与すると、APAP単独の場合と比較してスコアが上昇した(p<0.05)(図2F)。切断型カスパーゼ3については、組織学および免疫組織学によるアポトーシス性肝細胞死の証拠が見られなかった(データは図示しない)。
【0141】
<考察>
この試験で、本発明者らは、DILIをもたらす機構をさらに理解するために、インビボにおいて、非侵襲的で生物学的に有益なバイオマーカーとしてのHMGB1およびK18の異なる分子形態についての質量分析評価を用いた。
【0142】
APAPは、動物モデルにおける「オフターゲット」の肝毒性をもたらす機構を探索し、潜在的に有用な肝毒性バイオマーカーを評価するための、臨床的に関与性で重要なツールを表わす。組織学的かつ生化学的な特徴づけの後、APAP肝毒性の高感度なバイオマーカーであるHMGB1およびK18の各種の機構および細胞死モデル特異的な形態を、マウス血清中において同定および特徴づけすることができるであろうという仮説について調べた。
【0143】
質量分析は、広範な前臨床試験種にわたる絶対的かつ相対的な定量化法を開発するための、バイオマーカー分析物についての明確な同定および特徴づけをもたらす。これは、薬物の安全性解析、臨床研究、および基礎研究を支援する試験となる可能性を有する。本探索において、質量分析による、マウス血清中に存在するK18の特徴づけを用いたところ、壊死により不活性状態で放出されることが知られる全長K18、ならびにアポトーシス時において放出される断片型K18のいずれもが、APAP肝毒性時において放出されることが明らかとなった。MS/MS解析により、K18の断片化形態(DALD)では、カスパーゼ切断モチーフが時間依存的な形で切断および曝露されるが、K18の全長形態(DALDSS)ではそうならないことが示された。これにより、この動物モデルでは、APAP肝毒性時において、カスパーゼ基質の切断が確かに生じることが示唆された。データは、プロカスパーゼのプロセシングおよびDNAラダリングについての測定値と符合する。さらに、MS解析は、同じ試料内における、アポトーシスに関連するK18形態ならびに壊死に関連するK18形態の増大を同時に解析することも可能とした。個々の動物の全長K18レベルおよびカスパーゼ切断型K18レベルの相関は、組織学的経過を反映し、処置の24時間後までの全時間にわたり観察される壊死性細胞死と並んで、処置後最初の数時間以内のアポトーシス性細胞死を裏付ける非侵襲的方法をもたらした。K18の定量化は、どの時点においても、壊死が、細胞死の主要形態であることを示唆した。組織学的に述べると、早期の時点ではアポトーシス細胞を同定することができ、これは、アポトーシス形態を伴う細胞内における切断型カスパーゼ3の存在を免疫組織学的に実証することにより裏付けられた。しかし、壊死細胞が組織学的に同定されることはごくまれであり、これにより、肝細胞壊死が、極めて早期の段階にして既に細胞喪失をもたらす、極めて急速な過程であることが確認される。しかし、血清HMGB1、ALT活性の増大、ならびに切断型カスパーゼ3についての免疫組織学を含めた組織学により示される通り、カスパーゼ活性を阻害することにより、肝臓の傷害の著明な増大、ならびに肝細胞アポトーシスの完全な消失が観察された。
【0144】
APAP誘導性K18切断は、カスパーゼ3、7、および9による切断から生成される大型の44kDa断片と、生成される小型の断片だけでなく、カスパーゼ6のさらなる活性に依存する小型のK18断片との両方を結果としてもたらした。44kDaの断片と21kDaの断片とを差別化しない現在のイムノアッセイからこの情報を導出することはできなかった。しかし、カスパーゼ6による切断だけに由来する27kDaの断片もまた予測することができたが、同定はできなかった(16)。このK18切断のパターンを明らかにする可能性のある説明は数多い。カスパーゼ6の関与がより低度であることを明らかにするのは、細胞死の外因的経路ではなく、内因的経路の活性化でありうる(32、33)。カスパーゼの完全な活性化からは、小型の断片が主要な形態であることが予測されるであろう。しかし、最適条件下では、カスパーゼ6部位が切断される前に、カスパーゼ3、7、および9の部位が切断されることが研究により示されている(12)。カスパーゼ活性(34)にはATPが必要とされ、APAP肝毒性では肝臓ATPが枯渇するため、肝臓ATPの減少により、カスパーゼ6媒介性K18切断、ならびに持続的なアポトーシスカスケードが阻害される可能性が存在し、これによるなら、大型のK18断片と小型のK18断片との両方の混合物が生成されることも説明可能であろう。
【0145】
MS/MS解析では、APAP投与マウス血清中の壊死細胞から放出される低アセチル化HMGB1、ならびに活性化免疫細胞に由来する過剰アセチル化HMGB1の両方が同定された。この情報は、異なる分子形態を差別化しない現在のイムノアッセイからは導出することができなかった。さらに、MS/MS解析では、免疫細胞がHMGB1を放出するのに極めて重要な配列として既に同定されている、核局在化配列内において重要なリシン残基180〜185のアセチル化も同定されている(24)。APAP肝毒性時において、壊死に由来する分子形態は、処置の3時間後から著明に増大し、10時間後にピークに達し、次いで減少し、20時間後にはもはや検出されなかった。感染の15時間後には既に、肝細胞壊死の組織学的証拠がもはや見られず、肝細胞有糸分裂の再生および誘導の証拠が見られたことは興味深い。血清におけるHMGB1の半減期が比較的短く、その増大後に減少することは、肝細胞の喪失および再生が、肝臓の傷害状態を反映するバイオマーカーとしてのHMGB1の重要な特色を強調することを反映した。免疫細胞に由来するHMGB1の形態は、5時間後以降、はるかに低レベルまでの増大ではあるが、実験終了時である24時間後まで増大した。どの時点でも、肝臓内で著明な炎症細胞の浸潤が観察されることはなく、APAP投与の5〜15時間後、一部の動物の小葉中心において少数の好中球が見られただけであった。これは、APAPにより誘導される壊死性肝細胞死が免疫細胞の活性化をもたらすことを示し、機構ベースのDILIバイオマーカーとしてのHMGB1の使用をさらに裏付ける。しかし、DILI時におけるHMGB1の正確な役割、ならびにそれが活性化免疫細胞に由来するかどうかは、いまだ解明されていない(35〜38)。
【0146】
予測される通り、血清ALT解析が肝損傷のより特異的なマーカーであるが、ROC曲線の解析は、K18およびHMGB1が、ALTより高感度な肝毒性の指標であるという経時的評価を裏付けた。安全性バイオマーカーの潜在的な有用性を援用するには、相関についての用量および時点ほか、識別についての用量および時点も規定することが重要である。K18およびHMGB1が機構ベースのAPAP肝毒性バイオマーカーであることは、組織学により決定される細胞喪失の増大との強い相関、ならびにALT活性との相関によりさらに検証された。HMGB1およびK18が示す器官特異性は、ALT活性と同レベルではないが、このデータは、HMGB1およびK18が、ALT活性と並んで用いてDILI機構についての知識を増強しうる、肝細胞喪失についての高感度で有益な指標をもたらすという仮説を裏付ける。
【0147】
まとめると、本発明者らは、マウスモデルにおけるAPAP肝毒性の発生と連関する機構ベースのバイオマーカーとして、K18およびHMGB1の分子形態を同定および解析するのに質量分析を用いた。このような機構ベースの血清バイオマーカーは、臨床系における研究、動物系における研究、およびインビトロ系における研究を架橋してヒトにおけるDILIについての理解を増強し、これにより、それを予防するための戦略をもたらすのに用いることができる。
【実施例2】
【0148】
<HMGB−1の酸化形態の検出>
上述の通り、HMGB−1のサイトカインドメイン内におけるC106のスルフヒドリル基(図7A)に対するカスパーゼ依存性酸化は、アポトーシス細胞内のHMGB−1の炎症特性の中和において重要な機構である(39)。
【0149】
本出願者らは、パラセタモール毒性(絶食動物における)に随伴する炎症反応の誘導が、これらもまたパラセタモールを施されたが毒性は観察されなかった対照動物(摂食動物)と比較して、酸化HMGB−1の欠如と関連することを見出した。
【0150】
毒性を示す、APAPを投与された絶食マウスに由来する血清についてのウェスタンブロット解析により、血清中に存在するHMGB−1の唯一の分子形態は、還元形態であることが明らかとなった(図7B)。APAPを投与されたが毒性を示さなかった摂食マウス血清中のHMGB−1の主要な形態は、免疫耐性の酸化形態であった(図7B)。還元型HMGB−1タンパク質内では、MS/MSにより、C106を含有する1947.3Daのペプチドが特徴づけられた。さらなるMS/MS解析では、酸化型HMGB−1中だけに存在し、HMGB−1の還元形態中には存在しない、1963.3、1979.3、および1995.3Daのペプチドが同定された。16amuずつの漸増は、C106に酸素が付加されて、スルホン酸含有残基、スルフェン酸含有残基、およびスルフィン酸含有残基が生成されることに対応した(図7C〜D)。C106の酸化がカスパーゼに依存することは、APAPで処置した摂食マウスにおいて汎カスパーゼ阻害剤であるZ−VAD.fmkを用いることにより確認された。この処置により、これらのマウスにおいて検出され、毒性の増大と関連する、HMGB−1の還元型分子形態だけが結果としてもたらされた(図B)。
【0151】
HMGB1の免疫刺激特性は、C106のスルフィドリル基の酸化状態に依存して変化することが判明している。この基の酸化は、細胞内における翻訳後修飾であり、免疫耐性を促進するカスパーゼ誘導性過程であることが示されている(39)。本出願者は、ウェスタンブロット法により、HMGB−1の酸化形態が、APAPを投与された摂食マウスの血液中における主要形態であり、カスパーゼの活性化に依存することを裏付けたが、これは、かつて、in vitroで観察されただけであった(39)。
【0152】
【表1】

【0153】
[文献]
【表2A】

【表2B】

【表2C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象または動物対象への薬物の投与に伴う器官または組織の損傷を検出および/または評価する方法であって、前記対象から得られる血清試料を、
(i)アポトーシスに特異的な血清バイオマーカー、
(ii)壊死に特異的な血清バイオマーカー、および
(iii)炎症に特異的な血清バイオマーカー
について調べるステップと、
前記血清バイオマーカーのうちの1つ以上の存在を、器官または組織に特異的な損傷の指標と相関させるステップと
を含む方法。
【請求項2】
アポトーシスに特異的なバイオマーカーが、カスパーゼ切断型K18である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
壊死に特異的なバイオマーカーが、全長K18および/またはHMGB−1の低アセチル化形態である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炎症に特異的なバイオマーカーが、HMGB−1のアセチル化形態である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
血清試料を、
(i)カスパーゼ切断型K18、
(ii)全長K18とHMGB−1の低アセチル化形態、および
(iii)HMGB−1のアセチル化形態
の存在について調べる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
血清試料を、HMGB−1の酸化形態の存在について調べるステップをさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
血清バイオマーカーのレベルを、器官または組織の薬物誘導性損傷の重症度を示す所定のレベルと相関させるステップをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記所定のレベルが、薬物の投与を開始する前に対象から得られるベースラインのレベルである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アポトーシス、壊死、および炎症の前記バイオマーカーが、質量分析により検出される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
血清K18を、カスパーゼ切断モチーフにわたる断片を形成させるためにプロテアーゼ酵素により部分的に消化した後、LC−MS/MSによる検出を行い、それにより、切断されていないカスパーゼ切断モチーフを伴う断片が全長血清K18に対応し、切断されたカスパーゼ切断モチーフを伴う断片がカスパーゼ切断型血清K18に対応する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
血清K18を、DALD/Sモチーフにわたる全長血清K18断片を形成させるためにトリプシンにより部分的に消化して、それにより、切断されていないDALD/Sモチーフを伴う断片が全長血清K18に対応し、切断されたDALD/Sモチーフを伴う断片がカスパーゼ切断型血清K18に対応する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
血清HMGB−1を、少なくとも1つのリシン残基を含むHMGB−1断片を形成させるためにプロテアーゼ酵素により部分的に消化した後、LC−MS/MSによる検出を行い、それにより、リシン残基がアセチル化されていない断片が低アセチル化HMGB−1に対応し、リシン残基がアセチル化されている断片が過剰アセチル化HMGB−1に対応する、請求項9、10、または11に記載の方法。
【請求項13】
血清HMGB−1を、5つのリシン残基を含む断片を形成させるためにGLuCにより部分的に消化して、それにより、リシン残基がアセチル化されていない断片が低アセチル化HMGB−1に対応し、リシン残基がアセチル化されている断片が過剰アセチル化HMGB−1に対応する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオマーカーが、ELISAなど、免疫ベースのアッセイにより検出される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
器官が、肝臓、肺、腎臓、または心血管系であり、器官に特異的な損傷の指標が、肝臓、肺、腎臓、または心血管の傷害バイオマーカーである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
肝臓の前記傷害バイオマーカーが、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、AP(アルカリホスファターゼ)、GLDH(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)、およびGGT(ガンマ−グルタミルトランスペプチダーゼ)から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組織が皮膚であり、組織に特異的な損傷の指標が臨床的な皮膚状態の存在である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
器官または組織の薬物誘導性損傷を検出および/または評価するアッセイであって、
本明細書において定義されるアポトーシスに特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と、
本明細書において定義される壊死に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と、
本明細書において定義される炎症に特異的な血清バイオマーカーを検出する手段と
を含むアッセイ。
【請求項19】
器官または組織の薬物誘導性傷害を検出および/または評価するキットであって、
カスパーゼ切断型K18を検出する試薬と、
全長K18および/またはHMGB−1の低アセチル化形態を検出する試薬と、
HMGB−1の過剰アセチル化形態を検出する試薬と
を含むキット。
【請求項20】
HMGB−1の酸化形態の存在を検出する試薬をさらに含む、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
宿主において生じるアポトーシス、壊死、および/または炎症の存在を検出および評価するためのキットであって、
前出のように本明細書において定義される、血清K18を部分消化するための酵素と、
前出のように本明細書において定義される、血清HMGB−1を部分消化するための酵素と、
どのようにして、本明細書で定義される方法のうちの1つに従い試料を調べ、アポトーシス、壊死、および/または炎症が生じつつあるかどうかを決定するかについて詳述する指示書と
を含むキット。

【図1】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−532310(P2012−532310A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516871(P2012−516871)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051107
【国際公開番号】WO2011/001191
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(511314669)ザ・ユニヴァーシティ・オヴ・リヴァプール (1)
【Fターム(参考)】