説明

噴射分散器

主剤と硬化剤を微小なノズル穴に通して噴射分散させて混合させる噴射分散器を塗料流路中にインラインで設けた場合に、その塗料流路を迅速且つ確実に洗浄できる程度の流速で洗浄流体を流すことができるようにする。
流入口(2in)が形成された高圧側(3H)と流出口(2out)が形成された低圧側(3L)を仕切る隔壁(4)に、高圧側(3H)から低圧側(3L)へ液体を噴射させて微粒化分散させるノズル穴(5…)を形成した噴射分散器(1)であって、隔壁(4)にはノズル穴(5…)に比して開口面積の広い洗浄流体流通口(6)が形成され、当該流通口(6)を開閉するバルブ機構(V)を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主剤と硬化剤からなる2液混合型塗料など複数の液体を同時に噴射させて微粒化分散させて混合を促進させるのに適した噴射分散器に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射分散器は、主剤と硬化剤からなるポリウレタン系の水性2液混合型塗料のように混ざりにくい塗料成分同士をインラインで混合するために用いられている。
【特許文献1】特開平7−331170
【0003】
図4はこのような従来の噴射分散器51を示すもので、パイプ状のハウジング52内に、流入口53in側と流出口53out側を仕切る隔壁54が形成されている。
この隔壁54は、平板状のフランジ部55の中央開口部から流入口53in側に向けて有底筒状の管状部材56を延設して形成され、その管壁56aの周面には直径0.5mm程度の微小なノズル穴57…が対向形成されている。
【0004】
図5はこの噴射分散器51をインラインに設けた塗料供給系61を示す。
主剤供給源62A及び硬化剤供給源62Bから送給された主剤及び硬化剤を高圧シリンダ63A、63Bに貯留させた後、混合比率に応じた流量で噴射分散器51に高圧送給すると、噴射分散器51の流入口53in側で合流した主剤及び硬化剤は、流出口53outへ向ってノズル穴57…を通過する際に下流側へ噴射されて、それぞれが微粒化分散されて乳化混合される。
したがって、この混合塗料を塗装機64に供給すれば、混合し難い主剤と硬化剤を均一に混合した状態で塗装することができる。
【0005】
そして、このような塗料供給系61は、残存塗料の硬化を防止するため、主剤及び硬化剤の合流点より下流部分の塗料流路65を頻繁に洗浄する必要がある。
しかしながら、噴射分散器51の流入口53inから流出口53outに向けて洗浄液や洗浄エア等の洗浄流体を圧送しても、隔壁54に形成された微小なノズル穴57…が流路抵抗となって洗浄流体の流速が低下するので、洗浄に長時間を要し、洗浄液及び洗浄エアの使用量も増え、効率良く洗浄することができないという問題があった。
【0006】
洗浄液及び洗浄エアの供給圧力を高くして洗浄時間を短縮することを試みたが、洗浄液及び洗浄エアを供給する高圧ポンプが必要となるだけでなく、耐圧仕様のホースやコネクタを使用するなど設備が大掛かりとなる反面、それほど洗浄時間を短縮することができなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、液体を噴射分散させる微小なノズル穴が形成された噴射分散器をインラインで設けた場合でも、その流路にある程度の流速で洗浄流体を流すことができ、これによって効率良く迅速且つ確実にその流路を洗浄できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、流入口が形成された高圧側と流出口が形成された低圧側を仕切る隔壁に、高圧側から低圧側へ液体を噴射させて微粒化分散させるノズル穴を形成した噴射分散器であって、前記隔壁には前記ノズル穴に比して開口面積の広い洗浄流体流通口が形成され、当該流通口を開閉するバルブ機構を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の噴射分散器では、隔壁に形成された洗浄流体流通口をバルブ機構により開いて洗浄流体を供給すれば、高圧側から低圧側へ流れる洗浄流体は、ノズル穴に比して開口面積の広い洗浄流体流通口を通って流れるので、洗浄流体はノズル穴による抵抗を受けることがなく、洗浄に必要な流速で流すことができ、噴射分散器及びこれをインラインで設けた流路を迅速且つ確実に洗浄することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、噴射分散器及びそれをインラインで設けた流路を迅速且つ確実に洗浄できるようにするという課題を、その流路に洗浄流体を必要な流速で流すことができるようにして実現した。
【実施例1】
【0011】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
図1は本発明に係る噴射分散器の一例を示す説明図、図2は塗料供給系にインラインで組み込んだ場合を示す説明図、図3は他の実施形態を示す説明図である。
【0012】
図1に示す噴射分散器1は、ハウジングH内が、流入口2inを形成した高圧側3Hと、流出口2outを形成した低圧側3Lに隔壁4で仕切られている。
隔壁4には、高圧側3Hから低圧側3Lへ液体を噴射させて微粒化分散させるノズル穴5…が形成されると共に、ノズル穴5…に比して開口面積の広い洗浄流体流通口6が形成され、ハウジングH内には、洗浄流体流通口6を開閉するバルブ機構Vが一体に形成されている。
【0013】
隔壁4は、ハウジングHの底面7から高圧側3Hへ延設される管状部材8を有し、該管状部材8の管壁9に直径0.5mm程度の微小なノズル穴5…が対向形成されると共に、その高圧側端部が洗浄流体流通口6として開口されている。
この洗浄流体流通口6は、噴射分散器1に高圧の液体が流れるときでも、高圧側3Hと低圧側3Lで大きな圧力損失が生じないように、流入口2in及び流出口2outと同等の開口面積で形成され、これにより、洗浄流体を低圧で供給したときでも洗浄に必要な所定流速で流せるようになっている。
【0014】
バルブ機構Vは、洗浄流体流通口6から管状部材8内に挿脱されるロッドを弁体10として備え、弁体10はハウジングHに一体に形成された任意の駆動機構11で進退されるように成されている。
これにより、洗浄流体流通口6は、弁体10の先端を管状部材8から抜いた状態で開口され、管状部材8に挿入した状態で塞がれる。
また、弁体10を管状部材8に挿入して洗浄流体流通口6を塞いだときに、その隙間にOリング等のシールを設けることなく高圧側から低圧側へのリークを防止することができるように、その隙間のクリアランスが0〜50μm、より好ましくは0〜15μmに選定されている。
さらに、管状部材8の低圧側3Lには、弁体10の先端で塞がれる弁座12が形成されており、弁体10を弁座12まで挿入すると、ノズル穴5…及び洗浄流体流通口6の双方が塞がれるので、任意の流路にインラインで設けた場合、その流路を導通/遮断するオンオフバルブとして用いることもできる。
【0015】
以上が本発明の一構成例であって、次にその作用について、噴射分散器1を水性2液混合型塗料の塗料供給系21に適用した場合を例にとって説明する。
図2は、主剤及び硬化剤を混合しながら塗装機22へ供給する水性2液混合型塗料の塗料供給系21を示す。
【0016】
塗料供給系21は、主剤及び硬化剤を混合比率に応じた流量で同時に送給する計量シリンダ23A、23Bと、同時に送給された主剤及び硬化剤を備蓄して高圧で塗装機22へ送り出す圧送用シリンダ24を備え、圧送用シリンダ24から塗装機22に至る流路25に噴射分散器1が介装されている。
なお、計量シリンダ23A、23Bから圧送用シリンダ24に至る流路26A、26Bには洗浄流体供給用のバルブ装置27A、27Bが介装されている。
【0017】
主剤及び硬化剤を塗装機22へ供給するときは、まず図1(a)に示すように、噴射分散器1の弁体10を進出させて弁座12を塞ぐことにより流路25を遮断した状態で、主剤及び硬化剤を計量シリンダ23A、23Bから混合比率に応じた流量で同時に送給すると、主剤及び硬化剤は、流路26A、26Bの合流点で混合され、流路25へリークすることなく圧送用シリンダ24に貯留される。
この段階では、主剤と硬化剤が、混合比率に応じた量で混合されてはいるが、夫々の液滴が大きく均一の程度が低い。
【0018】
次いで、図1(b)に示すように、噴射分散器1の弁体10を後退させ、洗浄流体流通口6を塞いだままノズル穴5…のみを開いて、圧送用シリンダ24から塗料を50kg/cm(4.5MPa)程度の高圧で供給すると、主剤及び硬化剤は、ノズル穴5を通過する時に高圧側3Hから低圧側3Lへ噴射されて、微粒化分散され、その結果、均一に混合された状態で塗装機22に供給される。
【0019】
また、洗浄するときは、図1(c)に示すように、先端が管状部材8から完全に抜けるまで弁体10を後退させて、洗浄流体流通口6を開く。
ここで、各バルブ装置27A、27Bから洗浄流体を供給すれば、洗浄流体は圧送用シリンダ24内を洗浄した後、流路25を洗浄しながら噴射分散器1に達する。
流入口2inから噴射分散器1の高圧側3Hに流入した洗浄流体は、ノズル穴5に比して開口面積の広い洗浄流体流通口6を通って低圧側3Lへ抜けるので、洗浄流体を低圧で供給しても、流路25内を洗浄に必要な所定の流速で流れ、噴射分散器1及び流路25を短時間で洗浄することができるというメリットがある。
そして最後に、洗浄流体を供給したまま、図1(b)に示すように再び弁体10を進出させて、洗浄流体流通口6を塞ぐと共にノズル穴5を開けておけば、小径のノズル穴5が塗料で詰まっていても、その塗料をきれいに洗浄除去できる。
【実施例2】
【0020】
図3は、本発明に係る噴射分散器の他の実施形態を示す。なお、図1と共通する部分は同一符号を付して詳細説明を省略する。
本例の噴射分散器31は、高圧側3Hへ延設された管状部材8の高圧側端部が開口されて洗浄流体流通口6に形成され、洗浄流体流通口6を塞ぐバルブ機構Vは流通口6から管状部材8内に挿脱される弁体10を備えており、管状部材8に挿入される弁体10と管状部材8との隙間が、高圧側から低圧側へ主剤及び硬化剤の混合塗料を噴射させて微粒化分散させるノズル穴5となるように、その間に所定のクリアランスが形成されている。
【0021】
これによれば、弁体10の先端を管状部材8から抜いた状態で洗浄流体流通口6が開口され、管状部材8の低圧側3Lに形成された弁座12まで弁体10を挿入すると、ノズル穴5…及び洗浄流体流通口6が塞がれるので、本例も、任意の流路にインラインで設けた場合、その流路を導通/遮断するオンオフバルブとして用いることもできる。
【0022】
また、管状部材8の低圧側3Lには、弁体10の先端で塞がれる弁座12が形成されており、これにより、洗浄流体流通口6は、弁体10の先端を管状部材8から抜いた状態でが開口され、管状部材8に挿入した状態で塞がれる。
また、弁体10を弁座12まで挿入すると、ノズル穴5…及び洗浄流体流通口6の双方が塞がれるので、任意の流路にインラインで設けた場合、その流路を導通/遮断するオンオフバルブとして用いることもできる。
【0023】
そして、図2に示す塗料供給系21の噴射分散器1に替えて噴射分散器31を設ければ、前述と同様に、主剤と硬化剤を混合しながら供給することができる。
主剤及び硬化剤を塗装機22へ供給するときは、図3(a)に示すように、噴射分散器1の弁体10を進出させて弁座12を塞ぐ。
これにより、計量シリンダ23A、23Bから送給された主剤及び硬化剤が、流路25へリークすることなく圧送用シリンダ24に貯留される。
【0024】
次いで、図3(b)に示すように、噴射分散器1の弁体10を後退させ、その先端部が洗浄流体流通口6に僅かに挿入された位置に停止させれば、所定のクリアランスを有するリング状のノズル穴5…が形成されるので、圧送用シリンダ24から塗料を50kg/cm(4.5MPa)程度の高圧で供給すると、主剤及び硬化剤は、ノズル穴5を通過する時に高圧側3Hから低圧側3Lへ噴射されて、微粒化分散され、その結果、均一に混合された状態で塗装機22に供給される。
【0025】
洗浄するときは、図3(c)に示すように、先端が管状部材8から完全に抜けるまで弁体10を後退させれば、開口面積の広い洗浄流体流通口6が開く。
各バルブ装置27A、27Bから供給された洗浄流体は、圧送用シリンダ24及び流路25を洗浄しながら噴射分散器1に達し、流入口2inから噴射分散器1の高圧側3Hに流入する際に、ノズル穴5に比して開口面積の広い洗浄流体流通口6を通って低圧側3Lへ抜けるので、洗浄流体を低圧で供給しても、流路25内を洗浄に必要な所定の流速で流れ、噴射分散器1及び流路25を短時間で洗浄することができるというメリットがある。
なお、このときノズル穴5となった隙間が広がって洗浄流体流通口6が形成されるので、洗浄流体を供給することによりノズル穴5に詰まっていた塗料も同時に洗浄除去されることとなる。
【0026】
上述の説明では、いずれも水性2液混合型塗料の塗料供給系21に用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、任意の塗料、塗布材、その他の液体供給系に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
ノズル穴に比して開口面積の大きな洗浄流体流通口を開口させることができるので、洗浄時に洗浄流体を低圧で供給しても洗浄に必要な所定の流速で流すことができ、液体流路にインラインで設けた場合に、その流路及び噴射分散器内に付着している流体を短時間で確実に洗浄するという用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る噴射分散器の一例を示す説明図。
【図2】噴射分散器を組み込んだ塗料供給系を示す説明図。
【図3】本発明に係る他の噴射分散器の一例を示す説明図。
【図4】従来の噴射分散器を示す説明図。
【図5】従来装置を組み込んだ塗料供給系を示す説明図。
【符号の説明】
【0029】
1、31 噴射分散器
H ハウジング
2in 流入口
2out 流出口
3H 高圧側
3L 低圧側
4 隔壁
5 ノズル穴
6 洗浄流体流通口
V バルブ機構
7 フランジ部
9 管状部材
10 弁体
12 弁座




【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口が形成された高圧側と流出口が形成された低圧側を仕切る隔壁に、高圧側から低圧側へ液体を噴射させて微粒化分散させるノズル穴を形成した噴射分散器であって、前記隔壁には前記ノズル穴に比して開口面積の広い洗浄流体流通口が形成され、当該流通口を開閉するバルブ機構を備えたことを特徴とする噴射分散器。
【請求項2】
前記隔壁となる管状部材が高圧側へ延設され、該管状部材の管壁にノズル穴が形成されると共に、その高圧側端部が洗浄流体流通口に形成され、前記バルブ機構は流通口を開閉する弁体を備えてなる請求項1記載の噴射分散器。
【請求項3】
前記弁体が、流通口から管状部材内に挿脱されるロッドで形成されてなる請求項2記載の噴射分散器。
【請求項4】
前記弁体と管状部材とのクリアランスが0〜50μm、より好ましくは、0〜15μmである請求項3記載の噴射分散器。
【請求項5】
前記隔壁となる管状部材が高圧側へ延設されると共に、その高圧側端部が洗浄流体流通口に形成され、前記バルブ機構は流通口を開閉する弁体を備え、該弁体と管状部材との隙間がノズル穴となる請求項1記載の噴射分散器。
【請求項6】
前記管状部材の低圧側に、前記弁体先端で塞がれる弁座が形成された請求項3乃至5記載の噴射分散器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/051550
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515790(P2005−515790)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017489
【国際出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】