説明

噴射状態検査装置及び検査方法

【課題】ノズルの良否をより正確に判定すること。
【解決手段】ノズル10は二酸化炭素ガスが供給されると、噴射口13から二酸化炭素ガスが霧状に噴射される。赤外線レーザ光源22から出力された赤外線レーザ光IRは、二酸化炭素ガス60を通過する際にその一部が吸収され、残りがセンサ23に入射して検出される。コントローラ50は、測定装置21から取得する測定結果に基づいて噴射状態が適切であるか否かを判定し、その判定結果をデータベース54に記憶させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射状態検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、加熱された透明板に向けて噴射ノズルから冷却空気を吹き付け、透明板の温度変化の分布をカメラで計測することにより、噴射ノズルの性能の良否を判定する装置は知られている(特許文献1)。
【0003】
なお、噴射ノズルの良否を検査する装置または方法に関する技術ではないが、赤外線がガスに吸収される性質を利用してガス漏れを検知する技術も知られている(特許文献2,3,4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−99802号公報
【特許文献2】特開2007−263829号公報
【特許文献3】特開2007−255969号公報
【特許文献4】特開平6−288858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明板の温度変化を用いて噴射ノズルの性能を計測する従来技術では、噴射ノズルから噴射された冷却空気の噴射状態を直接計測することはできず、透明板に生じる温度変化に基づいて間接的に計測している。従って、噴射ノズルの噴射状態を正確に判定するのが難しい。さらに、透明板の温度変化を用いるため、検査装置が複雑となり、また、検査時間も長くなる。
【0006】
本発明は上述した従来技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、噴射部の噴射状態をより正確かつ速やかに検査できるようにした噴射状態検査装置及び検査方法を提供することにある。本発明の更なる目的は、後述する実施形態の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一つの実施形態では、噴射対象物を噴射するための噴射部による噴射状態を検査する噴射状態検査装置であって、噴射部に噴射対象物とは異なる所定の検査用ガスを供給して噴射させる、検査用ガス供給部と、噴射部から噴射された所定の検査用ガスに所定の電磁波を照射し、所定の検査用ガスを通過した所定の電磁波を検出して測定結果を出力する測定部と、測定部からの測定結果と所定の判定基準とを比較することにより、噴射部の噴射状態の良否を判定する判定部と、を備える噴射状態検査装置を開示する。
【0008】
ここで、噴射部とは、噴射ノズルまたは噴射ポンプ等の、物質を噴射口から噴射させる装置または部品を意味する。噴射対象物とは、製品としての噴射部により本来噴射されるべき物質であり、微粒子、気体または液体のいずれか一つまたは複数が含まれる。
【0009】
所定の検査用ガスとは、噴射部による噴射状態を検査するために噴射部から噴射されるガスを意味する。所定の電磁波とは、所定の検査用ガスを通過すると、その強度が変化する電磁波であり、例えば、所定の検査用ガスに吸収される性質を有する。
【0010】
本発明の一つの実施形態では、噴射対象物は液体であり、噴射部は、液体を円錐形状の霧状にして噴射させるようになっており、所定の検査用ガスは二酸化炭素ガスであり、測定部は、所定の電磁波としての赤外線を出力するための赤外線光源と、二酸化炭素ガスを通過した赤外線を受信し、受信した赤外線の強度に応じた受信信号を測定結果として出力するための赤外線センサとを備えており、判定部は、噴射部から噴射された二酸化炭素ガスの噴射状態を示す噴射パターンを受信信号に基づいて取得し、取得された噴射パターンと所定の判定基準としての基準パターンとを比較し、噴射パターンが基準パターンに所定の範囲内で一致する場合、噴射状態は合格であると判定し、噴射パターンが基準パターンに所定の範囲内で一致しない場合、噴射状態は不合格であると判定し、測定部による噴射状態の測定が終了した場合には、少なくとも測定部の周囲を換気するための換気部と、を備える。
【0011】
判定部は、測定結果と所定の判定基準に含まれる第1判定基準とを比較することにより、噴射状態が所定の異常状態であるか否かを判定するための第1判定と、測定結果と所定の判定基準に含まれる第2判定基準とを比較することにより、噴射状態が規定された範囲内にあるか否かを判定するための第2判定とを、それぞれ実行してもよい。
【0012】
測定部による噴射状態の測定が終了した場合には、噴射部及び噴射部の周囲の所定範囲の空間を覆うように形成された容器に噴射部を収容して排出してもよい。
【0013】
本発明の他の実施形態では、検査用ガス供給部は、所定の検査用ガスを、測定部の周囲温度と所定温度以上の温度差が得られるように加熱または冷却する温度変化部を備えており、さらに、噴射部から噴射される所定の検査用ガスの温度分布を計測して出力するための温度分布計測部を備えている。そして、判定部は、測定部からの測定結果と温度分布とに基づいて噴射部から噴射される所定の検査用ガスの噴射状態を検出し、その検出された噴射状態と所定の判定基準とを比較することにより、良否を判定する。
【0014】
測定部は、所定の検査用ガスの噴射方向に垂直で、かつ、平行に離間する複数の平行面のそれぞれにおいて、所定の検査用ガスに所定の電磁波を照射し、所定の検査用ガスを通過した所定の電磁波を検出することにより、各平行面毎に測定結果をそれぞれ出力する構成でもよい。
【0015】
測定部は、複数の噴射部からそれぞれ噴射される所定の検査用ガスを通過するように所定の電磁波を出力し、各噴射部から噴射された所定の検査用ガスを通過する所定の電磁波を受信して測定結果を出力し、判定部は、測定結果に基づいて、各噴射部の噴射状態の良否をそれぞれ判定する構成でもよい。
【0016】
本発明に係る噴射状態検査方法は、噴射対象物を噴射するための噴射部による噴射状態を検査する噴射状態検査方法であって、噴射部を所定の検査位置に搬送する搬送ステップと、噴射部に所定の検査用ガスを供給して噴射させる噴射ステップと、噴射部から噴射される所定の検査用ガスを通過するように所定の電磁波を出力する電磁波出力ステップと、所定の検査用ガスを通過した所定の電磁波をセンサにより受信する受信ステップと、センサからの受信信号に基づいて、噴射部から噴射された所定の検査用ガスの噴射状態を検出する検出ステップと、検出された噴射状態と所定の判定基準とを比較して、噴射状態と所定の判定基準が所定範囲内で一致する場合は合格と判定し、噴射状態と所定の判定基準が所定範囲内で一致しない場合は不合格と判定する判定ステップと、検出ステップの終了後に、噴射部を排出し、さらに、少なくとも噴射部の周辺を換気する排出及び換気ステップと、をそれぞれ実行する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、噴射状態検査装置の全体構成図である。
【図2】図2は、測定部の構成を模式的に示す図である。
【図3】図3は、ノズルの平面図である。
【図4】図4は、二酸化炭素ガスの濃度と二酸化炭素ガスを通過する赤外線の信号レベルの関係を示す図である。
【図5】図5は、噴射方向に垂直な平面における二酸化炭素ガス濃度の時間変化を示す図である。
【図6】図6は、二酸化炭素ガスに赤外線を照射する様子を示す図である。
【図7】図7は、赤外線により検出される二酸化炭素ガスの濃度分布を模式的に示す図である。
【図8】図8は、ノズル検査の全体工程を示すフローチャートである。
【図9】図9は、図8中の合否判定処理を示すフローチャートである。
【図10】図10は、合格を示す基準パターンと不合格を示す複数のパターンとを説明する図である。
【図11】図11は、合否の判定結果を管理するテーブルである。
【図12】図12は、第2実施例に係り、異常な噴射状態を検出するための第1の合否判定処理を示すフローチャートである。
【図13】図13は、噴射状態が規格内であるか否かを判定するための第2の合否判定処理を示すフローチャートである。
【図14】図14は、合否判定を説明するための図である。
【図15】図15は、濃度の測定結果の一例を模式的に示す図である。
【図16】図16は、第3実施例に係り、噴射状態検査装置の一部を抽出して示す図である。
【図17】図17は、第4実施例に係り、噴射状態検査装置の一部を抽出して示す図である。
【図18】図18は、複数のノズルを同時に検査する様子を示す図である。
【図19】図19は、第5実施例に係り、噴射状態検査装置の一部を抽出して示す図である。
【図20】図20は、第6実施例に係る噴射状態検査装置の全体構成図である。
【図21】図21は、第6実施例の変形例を示す。
【図22】図22は、第7実施例に係る噴射状態検査装置の全体構成図である。
【図23】図23は、合否判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、以下に述べるように、噴射部から噴射される検査用ガスに所定の電磁波を照射し、電磁波の減衰に基づいて検査用ガスの濃度分布を計測し、その濃度分布に基づいて噴射状態が正常であるか否かを判定する。以下に述べる各実施例では、本発明の理解及び実施に必要な範囲で本発明の構成例が開示される。各実施例は、本発明の構成の一例であって、本発明の範囲は実施例の構成に限定されない。
【実施例1】
【0019】
図1〜図11に基づいて第1実施例を説明する。図1は、噴射状態検査装置の全体構成を示す。この装置は、「噴射部」としてのノズル10が良品であるか否かを判定するための装置である。良品とは、噴射状態が所定の規格内に収まっているノズルを意味し、合格品とも呼ぶ。不良品とは、噴射状態が所定の規格内に収まらないノズルを意味し、不合格品とも呼ぶ。ノズル10の構成は図2及び図3で後述する。
【0020】
噴射状態検査装置は、例えば、測定部20と、検査用ガス供給部30と、搬送部40と、コントローラ50とを備える。
【0021】
測定部20は、例えば、測定装置21と、赤外線レーザ光を出力するレーザ光源22と、赤外線レーザ光を受信するセンサ23とを備える。測定装置21は、所定の測定タイミングが到来すると、レーザ光源22から赤外線レーザ光IRを出力させる。赤外線レーザ光IRは、「所定の電磁波」の一例である。本実施例では、例えば、0.7μm−20μmの近赤外線を使用する。しかし、本発明は近赤外線に限定されない。他の波長の光線を用いてもよい。
【0022】
センサ23は、受光した赤外線レーザ光の光量(強度)に応じた受信信号を測定装置20に出力する。ノズル10から噴射された「所定の検査用ガス」としての二酸化炭素ガス60を赤外線が通過すると、その一部が二酸化炭素分子に吸収されて、二酸化炭素を構成する各原子が振動する。センサ23は、二酸化炭素ガス60を通過することにより減衰した赤外線レーザ光を受信し、その強度に応じた受信信号を出力する。測定装置20は、センサ23からの受信信号を測定結果としてコントローラ50に送信する。
【0023】
測定部20は、駆動装置25を備えることもできる。駆動装置25は、赤外線レーザ光源22とセンサ23を噴射方向に垂直な平面上で回転させる装置である。これにより、噴射方向に垂直な平面で、噴射状態(赤外線の減衰状態)を計測できる。後述のように、レーザ光源22及びセンサ23のアレイを噴射方向に沿って複数配設することにより、ノズル10から噴射される二酸化炭素ガス60を立体的に計測することもできる。なお、駆動装置25は図1にのみ示し、他の図面では省略する。
【0024】
検査用ガス供給部30(以下、検査用ガスをガスまたは二酸化炭素ガスと呼ぶ)は、例えば、ガスボンベ31と、ガス管路32と、開閉弁33とを備える。ガスボンベ31は、二酸化炭素ガスを収容する容器である。ガス管路32は、ガスボンベ31とノズル10とを接続するようにして設けられる。ガス管路32は、例えば、継手35を介してノズル10に接続される。
【0025】
開閉弁33は、コントローラ50からの信号により作動する。開閉弁33が開弁すると、ガスボンベ31内の二酸化炭素ガスがガス管路32内に流入する。開閉弁33が閉弁すると、ガスボンベ31からガス管路32への二酸化炭素ガスの流入が停止する。
【0026】
ガスボンベ31内の二酸化炭素ガスの残量は、圧力センサ34により圧力値として検出される。圧力センサ34の信号はコントローラ50に入力される。
【0027】
なお、本実施例では、所定の検査用ガスとして二酸化炭素ガスを例に挙げる。しかし、赤外線を吸収する物質としては、一酸化炭素、メタン、フロン、アンモニウム、アンモニア、エタン、ペンタン、ヘキサン、アセトンプロパン、メタノール、エタノール、クロロホルム、ベンゼン、塩化メチレン、酢酸、酢酸エチル、トルエン、ブタン、水蒸気等が知られている。
【0028】
それらの各物質のうち、本実施例では、二酸化炭素ガスを使用する。二酸化炭素ガスは通常の空気中にも含まれており、取り扱いも容易で、かつ、比較的安全だからである。しかし、本発明は二酸化炭素ガスに限定されない。他のガスを用いてもよい。
【0029】
搬送部40は、例えば、コンベア装置、または、ロボット等のように構成される。搬送部40は、ノズル10を測定箇所まで搬送し、測定終了後にはノズル10を図外の所定場所に搬出する。搬送部40は、複数のノズル40を測定箇所まで同時に搬送することもできる。
【0030】
コントローラ50は、噴射状態検査装置の動作を制御するための制御装置である。コントローラ50は、例えば、判定部51と、搬送制御部52と、ガス供給制御部53と、ユーザインターフェース部53と、データベース部54とを備える。
【0031】
図示は省略するが、コントローラ50は、例えば、マイクロプロセッサと、メモリと、入出力インターフェースとを含む少なくとも一つのコンピュータ装置として構成することができる。複数のコンピュータ装置を用いて、コントローラ50の機能を実現させる構成としてもよい。
【0032】
メモリには、後述の各処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶される。マイクロプロセッサがメモリに記憶されたコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、二酸化炭素ガスを通過することにより減衰した赤外線に基づいて、ノズル10の良否を判定することができる。コンピュータプログラムの一部を、専用のハードウェア回路として形成することもできる。
【0033】
なお、コントローラ50は、例えば、シーケンサーと、手動スイッチ類と、表示パネルとを含む制御盤として構成することもできる。
【0034】
コントローラ50の機能を説明する。判定部51は、測定部20から取得する測定結果に基づいて、ノズル10の良否(合否)を判定する。ガス供給制御部51は、ガス供給部30の作動を制御する。搬送制御部52は、搬送部40の作動を制御する。
【0035】
ユーザインターフェース部(図中、ユーザインターフェースをUIと略記)53は、情報入力部と、情報出力部とを備える。情報入力部としては、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、タブレット、音声指示装置等を挙げることができる。情報出力装置としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、合成音声装置等を挙げることができる。
【0036】
データベース部54は、例えば、合否判定結果テーブルT10(図11で後述)のような、ノズル検査に使用する各種情報を記憶する。データベース部54は、判定部51と同一のコンピュータ内に設けられている必要はない。例えば、インターネットまたはLAN(Local Area Network)のような通信ネットワーク上にデータベース部54を設け、判定部51は、必要に応じて通信ネットワーク上のデータベース部54にアクセスする構成としてもよい。
【0037】
図2は、赤外線レーザ光源22及びセンサ23の配置と、ノズル10の構成を示す説明図である。赤外線レーザ光源22とセンサ23とは、22(1)と23(1)、22(2)と23(2)、22(3)と23(3)として示すように、噴射方向に平行に離間して複数設けることができる。
【0038】
各面の赤外線レーザ光源22及びセンサ23を、その面上で所定角度だけ回転させることにより、その面における二酸化炭素ガスの濃度分布をそれぞれ計測できる。従って、各面の測定結果を集めて解析することにより、ノズル10から噴射された二酸化炭素ガス60の濃度分布を三次元で把握することもできる。なお、以下の説明では、噴射された二酸化炭素ガス60の濃度分布を一つの平面で計測する場合を中心に説明する。
【0039】
図2及び図3を参照して、ノズル10の概略構成を説明する。ノズル10は、例えば、ワクチン等の薬剤を噴射するための噴霧器、アルコールまたは洗剤等を噴射するための噴霧器に用いられる。
【0040】
ノズル10は、容器本体に設けられる噴射ポンプの吐出口に取り付けられる。噴射ポンプが手動または電動で操作されると、噴射ポンプから吐出される噴射対象物(例えば、ワクチン、薬品、水、アルコール、洗剤等)がノズル10に供給される。
【0041】
ノズル10は、ノズル本体11と、複数の流路12と、噴射口13とを備えており、例えば、射出成形等の方法により製造される。プラスチック製のノズル本体11には、ノズル本体11の基端側(図2中の下側)からノズル本体11の先端側(図2中の上側)に向かう例えば3本の流路12(1)−12(3)が、周方向に等間隔で離間して形成されている。
【0042】
各流路12(1)−12(3)の先端側は、接続流路12A(1)−12A(3)を介して噴射口13に接続されている。図3の平面図に示すように、各流路12(1)−12(3)からの流体(噴射対象物または検査用ガス)は、各接続流路12A(1)−12A(3)を介して、円形状の噴射口13に接線方向からそれぞれ流入する。
【0043】
接続流路12A(1)−12A(3)は、流入側から流出側に向かうにつれて流路幅が次第に狭くなるように形成されている。これにより、各接続流路12A(1)−12A(3)を通過する流体の速度は、噴射口13に向かうにつれて増大する。
【0044】
各流路12(1)−12(3)から各接続流路12A(1)−12A(3)を介して噴射口13に流れ込んだ流体は、高速旋回しながら外部に放出される。この結果、流体はノズル10から霧状に噴射される。
【0045】
図4は、二酸化炭素ガスの濃度とセンサの受信信号との関係を示す。図4(a)に示すように、霧状の二酸化炭素ガス60は、その両端の濃度が高く、内側の濃度が低くなっている。
【0046】
二酸化炭素ガスは、ノズル10から旋回しながら噴射されるため、円錐形状の外側付近の濃度が比較的高く、円錐形状の内側付近の濃度が比較的低いと考えられる。従って、円錐形状の二酸化炭素ガスの霧60の濃度は、噴射方向に垂直な平面に沿って横切る一つの線で観るならば、およそ図4(a)のような形状になるであろう。
【0047】
上述のように、赤外線は二酸化炭素により吸収される。従って、噴射された二酸化炭素ガス60を通過する赤外線レーザ光IRは、その一部が吸収されて減衰する。従って、図4(b)に示すように、センサ23が検出する赤外線レーザ光の信号レベルは、二酸化炭素ガスの濃度に反比例する。つまり、二酸化炭素ガスの濃度が高い箇所を通過した赤外線レーザ光は減衰量が大きく、二酸化炭素ガスの濃度が低い箇所を通過した赤外線レーザ光は減衰量が小さい。
【0048】
図5は、二酸化炭素ガスの濃度の時間変化を示す。ノズル10の噴射口13から所定距離だけ離れた平面に沿う線上で、濃度変化を検討する。図5(a)に示すように、二酸化炭素ガスの噴出直後は低い。図5(b)に示すように、僅かな時間が経過すると、二酸化炭素ガスの濃度が上昇する。図5(c)に示すように、さらに僅かな時間が経過すると、二酸化炭素ガスの濃度はさらに増大する。図5(c)に示す状態がガス濃度のピークであり、それ以後は、図5(b)→図5(a)のように、二酸化炭素ガスの濃度が次第に低下していく。
【0049】
なお、本実施例では、後述のように、測定終了後にノズル10の周囲(測定部20付近と言い換えてもよい)を換気する。これにより、本実施例では、新たなノズル10を検査する前に二酸化炭素ガスの濃度を所定値以下に低下させて、二酸化炭素ガスの濃度の検出精度を高めている。
【0050】
図6は、測定部20の概略構成を示す。赤外線レーザ光源22は、赤外線レーザ発振器と、赤外線レーザ光を反射させる走査ミラーとを備える。従って、赤外線レーザ光源22からは、同一面上を走査するようにして赤外線レーザ光IRが出力される。なお、走査型レーザ光源に代えて、微少なレーザ発振器を直線方向に多数配列し、各レーザ発振器からそれぞれ赤外線レーザ光を出力させる構成でもよい。
【0051】
センサ23は、例えば、リニアCCDの表面に赤外線バンドパスフィルタを設けることにより構成される。赤外線バンドパスフィルタとは、所望の波長の赤外線を通過させ、他の波長の光を遮断ないし減衰させる特性を有する光学フィルタである。リニアCCDに代えて、赤外線バンドパスフィルタを有するフォトトランジスタを直線状に多数配置することにより、センサ23を構成してもよい。
【0052】
図6(a),(b)に示すように、赤外線レーザ光源22とセンサ23の組は、図1に示す駆動装置25により所定角度(例えば、180度等)の範囲で回動する。
【0053】
図7は、濃度計測結果の例を模式的に示す。図7(a)は、二酸化炭素ガスの濃度をセグメント単位で計測する様子を示す。図7(a)に示すように、噴射方向に垂直な平面を多数のセグメントSMに分割する。図7(b)に示すように、各セグメントSMにおける二酸化炭素ガスの濃度を計測して記憶する。図7(b)では、数値が高いほど二酸化炭素ガスの濃度が高いことを示す。
【0054】
図8,図9を参照して噴射状態検査装置の動作を説明する。以下に示す各フローチャートは、各処理の概要を示しており、実際のコンピュータプログラムとは相違する場合がある。いわゆる当業者であれば、図示されたステップの一部を変更したり、新たなステップを追加したり、一部のステップを削除したりすることができるであろう。以下、ステップを「S」と略記する。
【0055】
コントローラ50は、搬送部40を作動させることにより、検査対象のノズル10を所定位置(測定場所)まで搬送させる(S10)。続いて、コントローラ50は、ガス供給部30を作動させることにより、ノズル10に二酸化炭素ガスを供給し、ノズル10から噴射させる(S11)。
【0056】
コントローラ50は、ノズル10からの二酸化炭素ガスの噴射に合わせて、測定部20に指示を与え、赤外線レーザ光源22から赤外線レーザ光を出力させる。赤外線レーザ光は、霧状の二酸化炭素ガス60を通過して減衰し、センサ23に入射する。センサ23は、受光した赤外線レーザ光の強さに応じた電気信号を出力する。その電気信号(受信信号)は、測定装置21を介してコントローラ50に出力される(S12)。
【0057】
コントローラ50は、測定結果に基づいて噴射状態の合否(即ち、ノズル10の合否)を判定し(S13)、その判定結果をテーブルT10に保存する(S14)。コントローラ50は、判定結果を出力する(S15)。検査対象のノズル10を全て検査するまで、S10−S15が繰り返し実行される。
【0058】
なお、判定結果の出力形態を説明する。例えば、コントローラ50は、合格または不合格の文字を液晶ディスプレイ等に表示させたり、判定結果に対応する色のランプを点灯させたりすることができる。さらに、コントローラ50は、不合格のノズル10を不良品収容部に排出させるための排出信号を出力することができる。
【0059】
図9は、合否判定処理のフローチャートである。図9のフローチャートは、図8にS13で示す処理の詳細を示す。コントローラ50は、測定部20からの測定結果に基づいて、二酸化炭素ガスが霧状に噴射されたパターン(以下、ガス噴射パターン)PGを検出する(S20)。
【0060】
本実施例では、二酸化炭素ガスの噴射方向に垂直な一つの平面(測定平面とも呼ぶ)に、レーザ光源22とセンサ23の組を配置する。従って、コントローラ50は、その測定平面における二酸化炭素ガスの濃度の2次元パターンを検出する。なお、図2に示した通り、噴射方向に離間して複数の測定平面を設けることにより、3次元的な濃度変化パターンを検出することもできる。
【0061】
濃度変化パターンは、例えば、図7(b)に示したように、測定平面を区切る各セグメントの濃度に基づいて検出することができる。隣接するセグメント同士の濃度差が大きい場所は輪郭として検出し、隣接するセグメント同士の濃度差が小さい場合は連続領域として検出できる。これにより、等高線のようなパターンを得ることができる。
【0062】
コントローラ50は、合否判定の前に、少なくとも測定部20の周辺(例えば、測定平面付近)を換気する(S21)。換気方法は後述する。測定部20の周辺を換気することにより、滞留する二酸化炭素ガスの量が低減し、次のノズル10の検査に及ぼす影響を少なくさせることができる。できるだけ早い時期に換気を行うことにより、早期に測定環境を落ち着かせることができ、次のノズル検査に与える影響を少なくできる。
【0063】
コントローラ50は、ガス噴射パターンPGと所定の基準パターンPSとを比較し(S22)、ガス噴射パターンPGが所定の範囲内で基準パターンPSと一致するか否かを判定する(S23)。所定範囲とは、基準パターンと一致すると判定する範囲、つまり、ノズル10の噴射状態(噴射パターンPG)が合格であると判定する範囲である。所定範囲の値は、ユーザが手動で設定可能である。
【0064】
コントローラ50は、例えば、基準パターンPSとガス噴射パターンPGとの、重心位置の差異、輪郭線の差異、面積の差異、ガス濃度の平均値の差異等のいずれか一つまたは複数を算出し、それららの差異が所定範囲に収まっているか否かを判定する。
【0065】
ガス噴射パターンPGが基準パターンPSと所定範囲内で一致する場合(S23:YES)、つまり、ガス噴射パターンPGと基準パターンPSとの差異が所定範囲内に収まっている場合、コントローラ50は、測定されたノズル10の噴射状態は合格であると判定する(S24)。コントローラ50は、そのノズル10を特定するための情報に関連付けて判定結果をテーブルT10に保存する(S25)。
【0066】
これに対し、ガス噴射パターンPGと基準パターンPSが所定範囲内で一致しない場合(S23:NO)、即ち、ガス噴射パターンPGと基準パターンPSの差異が所定範囲内に収まらない場合、コントローラ50は、測定されたノズル10の噴射状態は不合格であると判定する(S26)。コントローラ50は、その判定結果を、不合格のノズル10を特定するための情報に関連付けてテーブルT10に記憶させる(S25)。
【0067】
図10は、基準パターンPSと、不合格となるガス噴射パターンPG1,PG2の例を簡略化して示す。図10は、説明の便宜上、濃度パターンを簡略化しており、実際のガス濃度のパターンとは相違する。
【0068】
図10(a)は、基準パターンPSを示す。基準パターンPSは、比較的濃度の高い外側部70Aと、比較的濃度の低い内側部70Bとを有する。基準パターンPSでは、外側部70A及び内側部70Bがそれぞれ円形状になっており、かつ、両者の中心も噴射口13にほぼ一致している。
【0069】
図10(b)は、一つの不合格パターンPG1を示す。この不合格パターンPG1は、濃度の異なる外側部70A及び内側部70Bを備えているが、全体として扁平な楕円形状になっており、その中心も噴射口13と一致していない。不合格パターンPG1は、所定の方向からずれた方向に二酸化炭素ガスが噴射されている。
【0070】
図10(c)は、他の一つの不合格パターンPG2を示す。この不合格パターンPG2は、正しい方向からずれた方向に、二酸化炭素ガスが集中的に噴射された場合を示す。このように、比較的狭い立体角で噴射される状態は「ジェット」状態と呼ばれる。
【0071】
以上、2つの不合格パターンPG1,PG2を説明したが、不合格パターンは図10(b),(c)に示す例に限らない。
【0072】
図11は、合否判定結果テーブルT10の例を示す。このテーブルT10は、例えば、管理番号欄C10と、製品名欄C11と、ロット番号欄C12と、金型番号欄C13と、その他の属性欄C14と、判定欄C15とを備える。
【0073】
管理番号欄C10には連続番号が設定される。製品名欄C11には、ノズル10の製品名、または、ノズル10が使用される製品の名称が格納される。ロット番号欄C12には、製造ロットの番号が格納される。製造ロット番号とは、同一条件で製造された製品の集合を識別するための情報である。金型番号欄C13には、ノズル10の製造に使用された金型を特定するための情報が格納される。
【0074】
その他の属性欄C14には、例えば、ノズル10の測定環境、製造状況、流通状況等に関わる種々の属性のうち、所定の一つまたは複数の属性が格納される。例えば、ノズル10の製造業者を識別するための情報、ノズル10の製造年月日を示す情報、ノズル10の原料(樹脂ペレット等)を識別するための情報、ノズル10を運搬した業者を識別するための情報、測定時の温度及び湿度等を格納することができる。
【0075】
判定欄C15には、合格または不合格のいずれかが格納される。なお、合格または不合格という判定に代えて、噴射状態をランク分けする構成でもよい。例えば、特に噴射状態の良い場合はSランク、次に噴射状態が良い場合をAランク、最も噴射状態の悪い場合をCランクとするように、噴射状態を複数のランクに分けて判定することもできる。
【0076】
このように構成される本実施例では、本来の噴射対象物に代えて二酸化炭素ガスをノズル10から噴射させ、赤外線レーザ光により二酸化炭素ガスの濃度変化を計測し、これにより、ノズル10の噴射状態の合否を判定する。従って、ノズル10の噴射状態をより正確かつ速やかに判定することができる。
【0077】
本実施例では、二酸化炭素ガスの噴射形状を赤外線レーザ光IRで測定した後、測定場所付近を換気して次の検査に備える。従って、待機中の二酸化炭素ガス濃度をほぼ一定に保ち、濃度計測の精度を維持することができる。
【実施例2】
【0078】
以下、図12−図15を参照して第2実施例を説明する。以下に述べる各実施例は、第1実施例の変形例に相当する。従って、第1実施例との相違点を中心に説明する。本実施例では、噴射状態の合否を2種類のロジックを用いて判定する。
【0079】
図12は、「第1判定」としての第1合否判定処理のフローチャートである。第1合否判定処理は、いわゆるジェットのような濃度異常を検出する。第1合否判定処理は、後述する第2合否判定処理(図13参照)と同時に実行することができる。
【0080】
コントローラ50は、ノズル10から二酸化炭素ガスの噴射が開始されたか否かを判定する(S30)。例えば、コントローラ50は、開閉弁33に開弁信号を与えた場合に、ノズル10から二酸化炭素ガスが噴射されたと判定できる。
【0081】
ノズル10から二酸化炭素ガスが噴射されると(S30:YES)、コントローラ50は、過去の(前回の)濃度測定データをリセットし、判定カウンタCdの値もリセットする(S31)。
【0082】
コントローラ50は、新たな測定データの記録を開始する(S32)。つまり、コントローラ50は、ノズル10から二酸化炭素ガスが噴射されるとほぼ同時に、初期化処理を行い、測定装置21からの測定データをメモリ上に一時的に蓄積する。
【0083】
S32の終了後に再びS30に戻る。既にノズル10から二酸化炭素ガスが噴射されているので、S30では「NO」と判定され、S33に移る。コントローラ50は、予め設定される所定時間T1が経過したか否かを判定する(S33)。所定時間T1は、S31でスタートされる。所定時間T1は、第1合否判定処理のための第1測定時間であり、比較的短い値に設定される。
【0084】
所定時間T1が経過していない場合(S33:NO)、コントローラ50は、測定データを記録中であるか否かを判定する(S34)。ここでは、測定を開始したばかりなので、S34では「YES」と判定される。
【0085】
コントローラ50は、測定装置21から受信した測定データをメモリ上の所定領域に記録し(S35)、一定濃度以上のセグメント数Npが所定のセグメント数ThNp以上であるか否かを判定する(S36)。
【0086】
図7に示したように、測定平面を複数に分割して形成される各セグメント毎に、測定濃度の値が得られる。コントローラ50は、所定の閾値以上の濃度を有するセグメントの数Npが所定のセグメント数ThNp以上であると判定した場合(S36:YES)、判定カウンタCdの値を1つインクリメントさせる(S37)。これに対し、所定の閾値以上の濃度を有するセグメントの数Npが所定のセグメント数ThNp未満の場合(S36:NO)、S37をスキップして処理を終了し、S30に戻る。
【0087】
ここで、所定の閾値は、比較的高濃度の値に設定される。比較的高濃度の値とは、正常な噴射状態の場合に計測される値よりも高い値を意味する。いわゆるジェット状態のような、小さな領域に固まって噴射されるような場合、その領域の濃度は他の領域に比べて高くなる。従って、所定の閾値を適切な値に設定することにより、高濃度の噴射領域(いわゆるジェット状態の部分)が有るか否かを判定する。
【0088】
再びS30に戻る。噴射が開始されているので(S30:NO)、S33に移り、測定時間が終了するまでの間(S33:NO)、コントローラ50は、測定データを記録し(S34,S35)、高濃度の領域が発生しているか否かを判定する(S36)。
【0089】
やがて測定時間T1が経過すると(S33:YES)、コントローラ50は、測定データの記録を終了する(S38)。コントローラ50は、判定カウントCdの値が所定の判定閾値ThCd以上であるか否かを判定する(S39)。
【0090】
判定カウントCdの値が判定閾値ThCd未満の場合(S39:NO)、高濃度の領域が一時的に発生したに過ぎず、ジェット状態が生じたわけではないと考えられる。従って、コントローラ50は、ノズル10から噴射された二酸化炭素ガスの濃度状態は正常であると判定する(S40)。
【0091】
これに対し、判定カウントCdの値が判定閾値ThCd以上の場合(S39:YES)、高濃度の領域が連続して出現しており、ジェット状態のような異常が発生していると考えることができる。そこで、コントローラ50は、ノズル10から噴射された二酸化炭素ガスの濃度状態は異常であると判定する(S41)。
【0092】
図13は、「第2判定」としての第2合否判定処理のフローチャートである。本処理では、ノズル10から噴射される二酸化炭素ガスの噴射状態が規定範囲内に収まっているか否かを判定する。上述の第1合否判定処理は、ノズル10の明らかな異常を検出するものであるのに対し、以下に述べる第2合否判定処理は、ノズル10の不良を検出する。第1合否判定処理と第2合否判定処理とはそれぞれ独立して並列に実行できる。
【0093】
コントローラ50は、ノズル10から二酸化炭素ガスが噴射されたか否かを判定する(S50)。噴射が開始されると(S50:YES)、コントローラ50は、合否の判定を開始し、各カウンタ(Cok,Cng)をリセットさせる(S51)。このようにして初期化が終了すると、再びS50に戻る。
【0094】
噴射が開始されているので(S50:NO)、コントローラ50は、所定時間T2が経過したか否かを判定する。所定時間T2は、第2合否判定処理のための第2測定時間であり、S51でスタートされる。所定時間T2は、所定時間T1と同一値に設定してもよいし、T1と異なる値に設定してもよい。
【0095】
ここでは所定時間T2が未だ経過していないので(S52:NO)、S53に移り、判定中であるか否かが判断される(S53)。S51で判定が開始されているため、コントローラ50は、判定中であると判断する(S53:YES)。
【0096】
コントローラ50は、基準範囲80(図14で後述)内にオン状態のセグメントが所定の閾値ThSEG1以上あるか否かを判定する(S54)。続いて、コントローラ50は、基準範囲80の内側にオン状態のセグメントが他の所定の閾値ThSEG2以上あるか否かを判定する(S55)。
【0097】
図14を参照する。図14は、噴射状態の合否を判定するために使用される基準範囲80を示す説明図である。二酸化炭素ガスは旋回しつつ霧化されて噴射されるため、正常な噴射状態の場合は、円錐状の霧の外側部分の濃度が比較的高く、内側部分の濃度は比較的低くなる。そこで、図14に示すように、濃度が比較的高くなるリング状の領域を基準範囲80として設定する。
【0098】
オン状態のセグメントとは、予め設定される閾値以上の濃度を有するセグメントを意味する。なお、図7では方形のセグメントを示したが、図14では説明の便宜上、円弧状のセグメント81であるかのように表示する。実際には、円弧状セグメント81には、複数の方形セグメントが含まれている。
【0099】
正常な噴射状態の場合、基準範囲80に含まれる各セグメント81のうち所定数ThSEG1以上のセグメント81がオン状態となっており、さらに、基準範囲81の内側部分にも、ある濃度以上の二酸化炭素ガスが存在しているはずである。
【0100】
そこで、コントローラ50は、基準範囲80にオン状態のセグメントが所定数ThSEG1以上存在し(S54:YES)、かつ、基準範囲80の内側にオン状態のセグメントが他の所定数ThSEG2以上存在する場合(S55:YES)、一応合格品であると判定して、合格カウンタCokの値を1つインクリメントさせる(S56)。
【0101】
基準範囲80に存在するオン状態セグメントがThSEG1未満の場合(S54:NO)、または、基準範囲80の内側に存在するオン状態セグメントがThSEG2未満の場合(S55:NO)のいずれかの場合、合格カウンタCokの値を変更せずに、S57に移る。
【0102】
図13に戻る。コントローラ50は、基準範囲80の外側に存在するオン状態セグメントの数が他の所定数ThSEG3未満であるか否かを判定する(S57)。基準範囲80の外側にも所定濃度以上の二酸化炭素ガスが噴射されている場合(S57:YES)、噴射パターンが拡がりすぎているので、コントローラ50は、不合格カウンタCngの値を1つインクリメントさせて(S58)、S50に戻る。基準範囲80の外側に有るオン状態セグメントの数がThSEG3以上の場合(S57:NO)、不合格カウンタCngの値を変更せずにS50に戻る。
【0103】
なお、基準範囲80に存在するオン状態のセグメントを検出するための基準濃度閾値と、基準範囲80の内側に存在するオン状態のセグメントを検出するための内側濃度閾値と、基準範囲80の外側に位置するオン状態のセグメントを検出するための外側濃度閾値とは、それぞれ同一値に設定してもよいし、それぞれ異なる値に設定してもよい。さらに、内側濃度閾値と外側濃度閾値を同一値に設定し、基準濃度閾値を別の値に設定する構成でもよい。
【0104】
以上のように、噴射状態が適切であるか否かの判定が所定時間T2だけ行われる。やがて所定時間T2が経過すると(S52:YES)、コントローラ50は、S54−S58で述べた判定を終了する(S59)。
【0105】
コントローラ50は、合格カウンタCokの値が合格閾値ThCok以上であって(Cok≧ThCok)、かつ、不合格カウンタCngの値が不合格市来Cng未満であるか(Cng<ThCng)を判定する(S60)。
【0106】
S60で「YES」と判定された場合、コントローラ50は、ノズル10の噴射状態が規定範囲に収まっていると判定する(S61)。つまり、コントローラ50は、そのノズル10を合格品であると判定する。S60で「NO」と判定された場合、コントローラ50は、ノズル10の噴射状態が規定範囲に収まっていないと判定する(S62)。つまり、コントローラ50は、そのノズル10が不合格品であると判定する。
【0107】
図15は、噴射された二酸化炭素ガスの濃度分布を示す。図15は、説明の便宜上用意された濃度分布であり、予測される濃度分布を示す。基準範囲80に対応するリング状の領域61は、二酸化炭素ガスの濃度が高い。リング状領域61の内側の領域62にも、所定濃度の二酸化炭素ガスが存在する。噴射口13に対応する中心の領域63と、リング状領域61の外側の領域64は、二酸化炭素ガスの濃度が低い。
【0108】
さらに、不良品のノズル10の場合、特定の狭い領域65,65に二酸化炭素ガスが集中して噴射されることがある。いわゆるジェット状態である。そのような異常濃度は、図12で述べた第1合否判定処理により検出される。
【0109】
本実施例の構成は以上の通りである。このように構成される本実施例も第1実施例と同様の効果を奏する。さらに、本実施例では、濃度異常であるか否かと(異常チェック)、規定範囲内に収まっているか否か(不良チェック)とを同時に実行する。従って、ジェット状態等の異常を示すノズル10をより一層確実に排除し、合否判定の精度を高めることができる。
【実施例3】
【0110】
図16を参照して第3実施例を説明する。本実施例では、測定の終了したノズル10を容器90に収容して測定部20から排出させる。図16は、噴射状態検査装置の一部を抜き出して示す。
【0111】
図18(a)に示すように、測定部20による測定箇所には、ノズル10及びその周囲を覆うことができる程度の容器90が移動可能に設けられている。測定が終了すると、図18(b)に示すように、容器90が図中の下側に向けて速やかに移動する。
【0112】
容器90は、ノズル10及びノズル10の周辺に滞留していた二酸化炭素ガス66を収容するようにして、測定箇所からノズル10と周囲の二酸化炭素ガスを取り除く。もっとも、容器90によって二酸化炭素ガスの全てを取り除く必要はない。測定箇所付近の二酸化炭素ガスを一定量以上除去できれば足りる。
【0113】
本実施例では、測定箇所付近の二酸化炭素ガスを容器90により除去するため、測定のS/N比の低下をある程度抑制できる。
【実施例4】
【0114】
図17,図18を参照して第4実施例を説明する。本実施例では、複数のノズル10の噴射状態を一度に測定する。
【0115】
図17は、噴射状態検査装置の一部を抜き出して示す。本実施例では、例えば、3個(3個に限らず、2個でもよいし、4個以上でもよい)のノズル10(1)−10(3)から同時に二酸化炭素ガスを噴射させて、それぞれの濃度分布を一度に測定する。
【0116】
図18は、各ノズル10(1)−10(3)の配置と測定部20の配置等を模式的に示す図である。例えば、3個のノズル10(1)−10(3)は、その中心を結ぶ線が正三角形となるように配置することができる。
【0117】
第3実施例で述べた容器90を本実施例に適用することもできる。その場合は、複数のノズル10の全体及びその周辺を覆うことができるように、容器90のサイズを決定すればよい。
【0118】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の効果を奏する。さらに、本実施例では、一度に複数のノズル10を検査できるため、1つ当たりの検査時間を短縮することができ、検査工程の効率を高めることができる。
【実施例5】
【0119】
図19を参照して第5実施例を説明する。本実施例では、赤外線カメラ23Aを用いて二酸化炭素ガスの噴射状態を検査する。
【0120】
本実施例の測定部20Aは、一つまたは複数の赤外線ランプ22Aと、少なくとも一つの赤外線カメラ23Aと、反射ミラー24とを備える。赤外線ランプ22Aは、赤外線を放射する赤外線光源である。赤外線カメラ23Aは、例えば、赤外線バンドパスフィルタを有するCCDカメラ等のように構成されている。
【0121】
反射ミラー24は、ノズル10の背面側(噴射口13の反対側)を覆うようにして設けられる。反射ミラー24は、その周囲に位置する赤外線ランプ22Aから入射される赤外線を、カメラ23Aの方向に反射させる。
【0122】
反射ミラー24により反射された赤外線は、霧状の二酸化炭素ガス60を通過してカメラ23Aに入射し、撮影される。測定装置21Aは、カメラ23Aにより撮影された画像データをコントローラ50に送信する。
【0123】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の効果を奏する。さらに、本実施例では、赤外線カメラ23Aによって二酸化炭素ガスの濃度分布を二次元画像として一度に得ることができる。従って、二次元の濃度分布をより簡単に得ることができる。
【実施例6】
【0124】
図20に基づいて第6実施例を説明する。本実施例では、換気手段としてポンプ100を用いる。
【0125】
図20は、本実施例の噴射状態検査装置を示す。測定箇所付近には、測定時に使用された二酸化炭素ガスを除去するためのポンプ100が設けられている。ポンプ100は、例えば、吐出ポンプまたは吸引ポンプのいずれかとして構成される。ポンプ100には、パイプ101が設けられる。ポンプ100が吐出ポンプの場合、パイプ101から空気が吐出され、測定箇所付近の二酸化炭素ガスが吹き飛ばされる。
【0126】
これに対し、ポンプ100が吸引ポンプとして構成される場合、パイプ101は、測定箇所付近の二酸化炭素ガスを吸引する。吸引された二酸化炭素ガスは、図外の二酸化炭素ガス回収装置等に送られる。
【0127】
ポンプ100及びパイプ101の配置は、図20に示す例に限らない。例えば、ノズル10の背面側から空気を吹き付けるように構成してもよい。または、ノズル10の噴射口13の前方にパイプ101を配置し、ノズル10から噴射される二酸化炭素ガスを吸引して回収する構成としてもよい。
【0128】
図21に示す変形例のように、噴射口13の前方に漏斗状の容器102を配置し、その漏斗状容器102の出口側とポンプ100の吸込み口とをパイプ101で接続する構成としてもよい。
【0129】
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の効果を奏する。さらに、本実施例では、吐出ポンプまたは吸引ポンプにより、測定箇所付近の二酸化炭素ガスをある程度除去できるため、測定精度の低下を抑制できる。
【実施例7】
【0130】
図22,図23を参照して第7実施例を説明する。本実施例では、ノズル10に供給する二酸化炭素ガスの温度と測定箇所付近の室温とに差を設けることにより、二酸化炭素ガスの濃度変化を測定する。
【0131】
本実施例のガス管路32の途中には、「温度変化部」としての加熱器または冷却器36が設けられる。加熱器または冷却器36は、ガス供給制御部51Aによって、その温度が制御される。
【0132】
さらに、本実施例の測定部20Bは、赤外線レーザ光源22及びセンサ23に加えて、放射温度計110を備えている。放射温度計110は、霧状の二酸化炭素ガス60の温度分布を2次元画像として検出し、測定装置21Bに出力する。
【0133】
図23は、本実施例による合否判定処理のフローチャートである。図23のフローチャートは、図9に示すフローチャートと比較して、ステップ20の代わりに新たなステップS20Aを有する。
【0134】
コントローラ50は、赤外線の吸収による濃度変化と、温度分布とに基づいて、ガス噴射パターンPGを検出する(S20A)。上述の通り、二酸化炭素ガスは赤外線を吸収する性質を有するため、二酸化炭素ガスの濃度が高い領域、つまり、二酸化炭素ガスが噴射されている領域では、センサ23で検出される光量が低下する。従って、二酸化炭素ガスの濃度を調べることにより、噴射状態の合否を判定できる。
【0135】
さらに、本実施例では、ノズル10から噴射された二酸化炭素ガスの温度分布を放射温度計110で測定する。二酸化炭素ガスの温度は測定箇所付近の温度よりも高いかまたは低いため、噴射状態の合否は温度分布としても現れる。
【0136】
本実施例では、濃度分布と温度分布の両方に基づいて二酸化炭素ガスの噴射状態を検出し、ノズル10の合否を判定することができる。
【0137】
なお、本発明は、上述した各実施例に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。例えば、上記各実施例を適宜組み合わせることができる。検査用ガスとして二酸化炭素ガスを例に挙げたが、これに限らず、他のガスを用いて検査してもよい。さらに、数種類のガスを混ぜて使用する構成でもよい。
【0138】
本発明は、例えば、ワクチン等の薬品を鼻孔に噴霧するためのノズルに好適に用いることができるが、それに限らず、他の種々の用途に使用されるノズルに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0139】
10:ノズル、13:噴射口、20:測定部、30:ガス供給部、40:搬送部、50:コントローラ、51:判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射対象物を噴射するための噴射部による噴射状態を検査する噴射状態検査装置であって、
前記噴射部に前記噴射対象物とは異なる所定の検査用ガスを供給して噴射させる、検査用ガス供給部と、
前記噴射部から噴射された前記所定の検査用ガスに所定の電磁波を照射し、前記所定の検査用ガスを通過した前記所定の電磁波を検出して測定結果を出力する測定部と、
前記測定部からの前記測定結果と所定の判定基準とを比較することにより、前記噴射部の噴射状態の良否を判定する判定部と、
を備える噴射状態検査装置。

【請求項2】
前記噴射対象物は液体であり、
前記噴射部は、前記液体を略円錐形状の霧状にして噴射させるようになっており、
前記所定の検査用ガスは二酸化炭素ガスであり、
前記測定部は、前記所定の電磁波としての赤外線を出力するための赤外線光源と、前記二酸化炭素ガスを通過した前記赤外線を受信し、受信した赤外線の強度に応じた受信信号を前記測定結果として出力するための赤外線センサとを備えており、
前記判定部は、前記噴射部から噴射された前記二酸化炭素ガスの噴射状態を示す噴射パターンを前記受信信号に基づいて取得し、取得された前記噴射パターンと所定の判定基準としての基準パターンとを比較し、前記噴射パターンが前記基準パターンに所定の範囲内で一致する場合、前記噴射状態は合格であると判定し、前記噴射パターンが前記基準パターンに所定の範囲内で一致しない場合、前記噴射状態は不合格であると判定し、
前記測定部による前記噴射状態の測定が終了した場合には、少なくとも前記測定部の周囲を換気するための換気部と、
を備える請求項1に記載の噴射状態検査装置。

【請求項3】
前記判定部は、前記測定結果と前記所定の判定基準に含まれる第1判定基準とを比較することにより、前記噴射状態が所定の異常状態であるか否かを判定するための第1判定と、前記測定結果と前記所定の判定基準に含まれる第2判定基準とを比較することにより、前記噴射状態が規定された範囲内にあるか否かを判定するための第2判定とを、それぞれ実行する、
請求項1に記載の噴射状態検査装置。

【請求項4】
前記測定部による前記噴射状態の測定が終了した場合には、前記噴射部及び前記噴射部の周囲の所定範囲の空間を覆うように形成された容器に前記噴射部を収容して排出させる、請求項1に記載の噴射状態検査装置。

【請求項5】
前記検査用ガス供給部は、前記所定の検査用ガスを、前記測定部の周囲温度と所定温度以上の温度差が得られるように加熱または冷却する温度変化部を備えており、
前記噴射部から噴射される前記所定の検査用ガスの温度分布を計測して出力するための温度分布計測部を備えており、
前記判定部は、前記測定部からの前記測定結果と前記温度分布とに基づいて前記噴射部から噴射される前記所定の検査用ガスの噴射状態を検出し、その検出された噴射状態と前記所定の判定基準とを比較することにより、良否を判定する、
請求項1に記載の噴射状態検査装置。
【請求項6】
前記測定部は、前記所定の検査用ガスの噴射方向に垂直で、かつ、平行に離間する複数の平行面のそれぞれにおいて、前記所定の検査用ガスに前記所定の電磁波を照射し、前記所定の検査用ガスを通過した前記所定の電磁波を検出することにより、前記各平行面毎に測定結果をそれぞれ出力する、
請求項1に記載の噴射状態検査装置。

【請求項7】
前記測定部は、複数の前記噴射部からそれぞれ噴射される前記所定の検査用ガスを通過するように前記所定の電磁波を出力し、前記各噴射部から噴射された前記所定の検査用ガスを通過する前記所定の電磁波を受信して一つの測定結果を出力し、
前記判定部は、前記測定結果に基づいて、前記各噴射部の噴射状態の良否をそれぞれ判定する、
請求項1に記載の噴射状態検査装置。

【請求項8】
噴射対象物を噴射するための噴射部による噴射状態を検査する噴射状態検査方法であって、
前記噴射部を所定の検査位置に搬送する搬送ステップと、
前記噴射部に所定の検査用ガスを供給して噴射させる噴射ステップと、
前記噴射部から噴射される前記所定の検査用ガスを通過するように所定の電磁波を出力する電磁波出力ステップと、
前記所定の検査用ガスを通過した前記所定の電磁波をセンサにより受信する受信ステップと、
前記センサからの受信信号に基づいて、前記噴射部から噴射された前記所定の検査用ガスの前記噴射状態を検出する検出ステップと、
検出された前記噴射状態と所定の判定基準とを比較して、前記噴射状態と前記所定の判定基準が所定範囲内で一致する場合は合格と判定し、前記噴射状態と前記所定の判定基準が所定範囲内で一致しない場合は不合格と判定する判定ステップと、
前記検出ステップの終了後に、前記噴射部を排出し、さらに、少なくとも前記噴射部の周辺を換気する排出及び換気ステップと、
をそれぞれ実行する噴射状態検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−257197(P2011−257197A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130424(P2010−130424)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(595060487)有限会社ユーワ商事 (3)
【Fターム(参考)】