説明

噴霧制御を備えた手持式スプレーガン

【課題】被塗装物の塗装面の広さに応じて、スプレーパターンとそれに適合した噴出量で噴霧できるようにし、その切り替えを瞬時にできる手持ち式のスプレーガンを提供し、塗装効率の向上を図る。
【解決手段】スプレーガンを把持する手によって作動を制御する検出センサーを設け、そのセンサーによる検知信号によって、予め設定された条件に基づいて塗料及び吹付けエアを供給する制御装置によってスプレーガンに供給して噴霧する。検知センサーは複数をスプレーガンに設け、それぞれ異なる噴霧条件で噴霧エアもしくは/及び塗料の供給を行うように予め噴霧モデルとして設定し、前記センサーの切り替え操作によって噴霧条件を切り替える。噴霧モデルは噴霧エアとパターン調整エアを個別に制御できる構成により、パターン調整エアの減少に応じた塗料噴出量を供給する信号が記憶され出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手動式の塗装用スプレーガンで、特に作業者が被塗装物に塗装する際、その塗装部位によって噴霧条件を変更したい場合に、瞬時に切り替えが可能で無駄のない効率的な塗装を可能とし、生産性向上と塗装効率の向上を目指す塗装現場で利用される装置に関する。

【背景技術】
【0002】
塗装用スプレーガンは、作業者が手で操作し被塗装物に対して吹き付けを行うハンドスプレーガンと、自動塗装機や塗装ロボットのように機械駆動される装置に搭載され操作者の指令信号等によって作動される自動スプレーガンに大別される。ハンドスプレーガンは多くの場合、引金もしくはボタンを備え、吹き付け開始に当たって指で作動させ、停止時は指を離すことによって操作される。
【0003】
自動塗装機に組み込まれ使用される自動スプレーガンは、もともと塗装の自動化が目的で、その操作は機械により性格安定した作動が可能であり、他の自動制御技術を加味して塗装条件に応じたさまざまな噴霧制御が可能である。またスプレーガン自体、専用化された装置を使用することも大きな問題でなく、必要によっては複数のスプレーガンを併設することもしばしば見受けられる。
【0004】
これに対しハンドスプレーガンによる塗装作業は、被塗装物の塗装面に対して作業者が行うもので、通常スプレーガンを何度か往復移動させながら、かつ被塗装物の手前で吹き付けを開始し、被塗装物を通過した位置で停止する作業を繰り返す。すなわち自動塗装と異なり、すばやく何回かの塗り重ねを行い均一な塗装を行う方法が一般的に採られている。
したがって多い時は1分間に数十回の繰り返し操作が行われ、作業者の手指の負担はきわめて大きい。このため作業内容によっては、腱鞘炎にならないような対策が採られることもよくある。
【0005】
一方塗装の作業中に被塗装物の形状によって、塗装の条件が大きく異なることがある。代表的な例は被塗装面が広い面の場合には噴霧領域が広いパターンによって一度に広い面積を塗装し、塗装幅が狭い箇所では狭いパターンの噴霧によって無駄のない塗装をすることが良いと知られている。しかしながら塗装作業中にスプレーガンの噴霧パターンを調整し、改めて噴霧を行う作業に移るとなると調整の手間もあり、実際の作業ではほとんど行われず、無駄な大きいパターンで小さな幅の面を塗装し、塗料の無駄やそのために派生する環境の悪化等が潜在する結果になっている。
【0006】
もちろん広い面積でありながら狭いパターン幅で塗装すれば調整する必要はなくなるが、何回もの往復動を繰り返すことになり、塗面の均一性を得ることが困難になることの他、前述のスプレーガンの操作においても往復する噴霧操作の回数が増加することになるため、作業者の手指にかかる負担が増加する結果になり、好ましくない。
【0007】
このため手持ち式スプレーガンのパターン調整が操作中においても、容易かつ簡単に切り替えることができるスプレーガンとして、これまでもいくつかの技術が提案されてきている。たとえば特開平2−102755号公報には引金の引き具合によってパターンと噴出量を予め連動して調整した構成にすることによって引金操作で前記パターンの切り替えができるようにしている。
【0008】
しかしこれらの取り扱いは作業者の引金操作に経験と熟練を要し、それ以前に引金操作そのものが前提となっていることから、作業者の手指の疲労、負担が伴うもので前述の問題に変わりはない。
【0009】
また、噴霧パターンとこれに伴う塗料噴出量の制御は、自動塗装の分野ではいくつか提案され精度の高い塗装条件管理が行われているが、手動の場合は作業者が塗装の状況を確認しながらスプレーガンの操作をするために必ずしも管理された一定の条件設定が最適とは限らない。したがって作業者が操作する上で詳細な設定までは必要なく、大きく段階的に被塗装物の塗装巾に合わせられる噴霧パターンが得られれば塗装効率の上で大きな効果が得られることになる。

【特許文献1】特開平2−102755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はスプレーガンの噴霧作業において、被塗装物の塗装面に応じて適正なパターンで塗装を行ううえで、最も重要なパターン調整とこれに伴う塗料噴出量を適正に調整し、かつその操作を作業者の経験や技能にとらわれず、簡単な操作で可能な装置を提供することが目的である。
【0011】
また適正な塗装条件の切り替えが瞬時にできるようにすることで、作業の中断による生産効率の低下をなくすとともに、確実な切り替えによる塗装面への効率的な噴霧を行うことができるスプレーガンとし、簡単な操作に加え、従来の引金操作における繰り返し作動に手指の負担が伴うことがない装置とすることで、使用安全性の高い塗装用スプレーガンを塗装業界に提供するものである。

【課題を解決するための手段】
【0012】
スプレーガンを把持する手指によって操作される検知センサーを設け、握る手指の移動によってこのセンサーの検知をコントロールし、スプレー操作を可能とするスプレーガンにおいて、前記の検知センサーを複数設け、予め設定された噴霧エア、パターン調整エア及び塗料噴出量の供給制御手段によって、操作されるスプレーガンのそれぞれの検知センサーの信号に応じた噴霧エア等をスプレーガンに供給し、それぞれの検知センサーの信号に応じて設定された噴霧条件でのスプレーを可能とする。
【0013】
塗料噴出量は、噴霧エアとパターン調整エアにより形成されるパターンの大きさに応じて適正に設定されて噴霧されるモデルとして設定し、その噴霧モデルが検知センサーに応じて複数設定され、前記検知センサーからの信号によって選択されるように構成する。噴霧エアとパターン調整エアは、個別に制御され、それぞれのエアは前記検知センサーの選択によって、予め設定された供給量が選択されてスプレーガンに供給される。
【0014】
また複数の検知センサーのうち、一方はスプレーのON-OFF制御の信号とし、他方の検知センサーは前記噴霧パターンの大きさを選択して切り替える制御の信号としてコントロール装置に送られる構成とする。
【0015】
前記検知センサーは光ファイバーセンサーによる無接点の機械的作動をともなわないスイッチ素子とする。
【発明の効果】
【0016】
上記手段によれば、スプレーガンを把持した時に指の移動によって、スプレーガンのハンドルに設けた検知センサーの検知部に指を置くと、これを検知しその信号が制御装置に送られ、あらかじめ設定した噴霧供給装置によりスプレーガンに噴霧エア等が送り込まれて塗装を開始することができる。したがってこの検知センサーを複数配置し、それぞれの検知センサーによる噴霧条件をかえることによって異なる噴霧条件での塗装が即座に変更でき、塗装中に被塗装物の塗装面が著しく狭くなる場合や、隅部の塗装などにも適正な噴霧条件での塗装が可能となる。
【0017】
したがって作業者の負担軽減、生産性向上だけでなく、無駄な塗料の噴霧によって塗料の損失や塗装環境の不必要な汚染を防止するなどの環境問題に対しても改善が図れる効果がある。
【0018】
検知センサーの信号は制御装置によって必要な供給装置の制御弁を作動させて、必要とされる作動を行わせることができ、複数の噴霧条件のうち、それぞれの噴霧エア、パターン調整エアを予め設定し、これを検知センサーの切替えで選択するように構成し、それによる噴霧パターンの切替えに応じて適正な塗料噴出量になるように制御された噴霧モデルとして設定され、作業者の経験や調整の煩わしさが不要となる。
【0019】
また複数の検知センサーを合理的に配置し、人差し指の位置にこれまでの引金と同様の機能を持たせ、更に親指によって噴霧条件の切替えを容易に可能とする等、親指もしくは人差し指による操作を複合させることによって従来の引金では困難であった複雑な操作や、二重の操作による確実な作動を可能にし、被塗装物に対し適正な塗装条件をすばやく選択して経済的な塗装を可能とする。
【0020】
光ファイバーセンサーによる検知信号は電気的な開閉を伴わず、塗装用スプレーガンに組み込むことによって、安全に制御信号として出力するため塗装環境においても安心して使用が可能である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の実施の概要を示す塗装用スプレーガンと制御装置の関連図を示している。手持ち式のハンドスプレーガン1は一般に先端に設けた霧化装置2とハンドル3を有する本体4で構成されている。本実施例ではハンドル3部に光ファイバーを使用した検知部5が設けられ、その信号を処理する光アンプ6にケーブル7で接続されている。図の例では2箇所に光ファイバーセンサー51、52が設けられて、それぞれの検知信号が光アンプ6に入力された信号は制御装置8で処理され演算結果に基づき設定された制御信号が各制御弁に送り込まれる。
【0022】
スプレーガン1の作動構成は、ピストンもしくはダイアフラム等のエア作動体20によって、塗料弁10を開閉するほか、霧化装置2の噴霧エアとパターン調整エアをそれぞれ別の制御弁より供給し、噴霧するための構成を含んでいる。すなわち多くの従来技術で紹介されているようにパターン調整エアは、そのエア吐出量を多くすることで噴霧パターンの大きさを大きく広げる働きがあり、これを噴霧エアと個別に制御することで噴霧パターンを調整している。
【0023】
図の例ではスプレーガンの噴霧エア通路11Aに接続される通路には制御弁として、流通量を大と小に設定された切替弁12Aが設けられ、制御装置8からの信号によりいずれかに切り替え、同じく制御装置8からの信号により作動する電磁弁13Aを通してスプレーガン1に供給する構成になっている。同様にパターン調整エア通路11Bにも切替弁12Bと電磁弁13Bが備えられている。但し噴霧における条件によっては必ずしも全てを揃える必要はなく、例えば噴霧エアを一定のまま、パターン調整エアのみを所定の流量に切替えることでも良い。これらは必要とする機能によって選択され、予め制御装置に設定記憶される。
【0024】
前記塗料弁10にも予め設定された条件で塗料が供給装置16より送られ、前記塗料弁10の開口によって噴霧が開始される。噴出量を制御する場合は一般に流量制御装置15が用いられ、制御装置からの信号により所定の圧力でエアが送り込まれ、その圧力によって弁開度が調整されて塗料の噴出量が調整される。
【0025】
図の実施例では電気的出力信号を受けて所定の作動エア圧力を供給する電空バルブ14から制御エアが送り込まれた流量制御装置15によって、塗料供給装置16より供給される塗料の量が設定され、制御装置8からの信号により電磁弁13が作動するとスプレーガン1の作動体20が塗料弁10を開口し、スプレーガンから設定された塗料噴出量で噴霧される構成になっている。
【0026】
ハンドル3に設けた検知センサー51、52は、無接点のスイッチ素子として光ファイバーセンサーが用いられ、それぞれ異なった信号を制御装置8に出力するように構成して、その信号に基づいて塗料弁10及びそれぞれの噴霧エアを送る条件が予め設定される。
【0027】
第一の実施例では、一方の検知センサー51が指で遮断されるとその信号が光アンプで増幅され検知信号として制御装置8に入力される。入力信号はあらかじめ設定された条件により、スプレーガン1の作動エアを供給する信号として制御弁を開く信号が出力され、作動エアがスプレーガン1に送り込まれる。
【0028】
この場合スプレーガン1は、供給された作動エアがそのまま噴霧エアとして定められた条件で噴出し、同時にスプレーガン1の作動ピストンが移動させられて塗料弁10を開き、供給装置から送り込まれ、塗料弁で停止していた塗料が噴出することによってスプレーが行われる構成となっている。このようなスプレーガンの構造は広く使用されている一般的なスプレーガンの構成で制御信号を停止にすれば噴霧も停止されるもので、詳細は省略する。
【0029】
他方の検知センサー52は、スプレーガンの作動のうち、噴霧エアの噴出のみを行う設定とすることによって塗料を噴霧せず、エアのみを噴射して被塗装物に塗装前のエア除塵を行うなどの作業に使用することができる。すなわち前記制御装置8からの出力信号によるそれぞれの供給制御は噴霧エアの一方若しくは両方を供給し、塗料弁作動エアの電磁弁13からの供給を停止するように予め設定すればよい。このような場合、検知センサーの位置はその機能に使いやすい位置に設定され、図の例に限定する必要はない。
【0030】
第二の実施例の場合、センサー51、52が異なる位置に設けられ、噴霧パターンの切り替えが瞬時に行える構成となっている。すなわちセンサー51が働いたときにはパターン調整空気と塗料が多く噴出する条件設定をしておき、センサー52が働いたときにはパターン調整空気と塗料噴出量を少なくした条件で噴出させるように設定することで、大きいパターンで広い面積を塗装したい場合には、センサー51を作動させ、狭い範囲の塗装をする場合にはセンサー52が働くように指の位置を変更すればよい。
【0031】
図に示すように制御装置からの信号は切替え弁12Aで噴霧エアの噴出量の大小を切替え、切替え弁12Bでパターン調整エアの噴出量の大小を切替え、更に塗料の噴出量を制御する電空バルブ14からの制御圧力を変更すると共に塗料弁10の開口を行う作動エアの供給を制御しており、操作する検知センサーによって異なる条件の噴霧を制御できることになる。
【0032】
さらに第三の実施例では、センサー51によって第一の実施例同様スプレーガンの噴霧をON−OFF制御して通常の塗装作業を行う構成とし、必要に応じてセンサー52を作動させた場合には、通常の噴霧状態と異なる噴霧条件、たとえば前記パターン幅の狭い少噴出量の噴霧になるように予め設定された制御信号が出力するように制御装置8に記憶させておき、一時的に少パターンでの噴霧を行うようにすることができる。
【0033】
もちろん前記エアーのみの噴出を必要とする場合は検知センサーを3つにすればよく、必要とする機能に合わせて設定することが可能である。また検知センサーの操作順や組合せ操作によって異なる制御を行わせるように制御装置で設定することも可能で、手動では複雑で操作できない噴霧作業を設定することも可能である。
【0034】
いずれにせよ、第二、第三の実施例に拠れば被塗装物に合わせて変更することで無駄がなく効率の良い塗装が極めて楽な操作で、しかも瞬時に切り替えることが可能になる。
【0035】
センサーそのものは手指の移動で容易に検知できるものであれば本発明の目的を達成することができるが、必ずしもこれに限定することはなく、磁気の近接による抵抗の変化を検知し、その信号によって作動を制御できる素子を利用するなど、光ファイバーセンサー以外の無接点のスイッチ素子を用いることも可能である。

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の塗装用スプレーガンと制御装置の関連を説明する構成概要図である。
【符号の説明】
【0037】
1 スプレーガン
2 霧化装置
3 ハンドル
4 本体
5 検知部
8 制御装置
10 塗料弁
11A 噴霧エア通路
11B パターン調整エア通路
12A、12B 切替弁
13A、12B 電磁弁
14 電空バルブ
15 流量制御装置
51、52 光ファイバーセンサー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーガンを把持する手指によって作動が制御される検知センサーを設け、握る手指の移動によってこのセンサーの検知をコントロールし、スプレー操作を可能とするスプレーガンにおいて、前記の検知センサーが複数設けられ、予め設定された噴霧エア、パターン調整エア及び塗料噴出量の供給制御手段より、前記それぞれの検知センサーの信号に応じたそれぞれの供給量をスプレーガンに供給し、前記それぞれの検知センサーの信号に応じた条件で噴霧する噴霧制御を備えた手持式スプレーガン。
【請求項2】
予め設定された噴霧エア、パターン調整エア及び塗料噴出量が、噴霧エアとパターン調整エアにより形成されるパターンの大きさに比例して塗料噴出量が設定された噴霧モデルとして設定されており、その噴霧モデルが複数設定されて、前記検知センサーからの信号によって選択される請求項1の手持式スプレーガン。
【請求項3】
前記噴霧エアとパターン調整エアは、個別に制御され、それぞれのエアは前記検知センサーの選択によって、予め設定された供給量によりスプレーガンに供給される請求項2の手持式スプレーガン。
【請求項4】
複数の検知センサーのうち一方はスプレーのON-OFF制御の信号とし、他方の検知センサーは前記噴霧パターンの大きさを選択して切り替える制御の信号としてコントロール装置に送られる構成とする請求項1の手持式スプレーガン。


























【図1】
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【公開番号】特開2008−55266(P2008−55266A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232621(P2006−232621)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】