説明

噴霧器およびプラズマ分析装置

【課題】高粘性の流体を使用する場合でも、微量の試料をプラズマ中に導入すること。
【解決手段】一端部に噴霧口(12b)が形成された筒状の外筒(12)と、外筒(12)の内部に同軸に配置され且つ前記外筒(12)との間で噴霧用のガスが流れるガス流路(R1)が形成される筒状の中筒(13)と、中筒(13)の内部に同軸に配置され且つ前記中筒(13)との間に隙間をあけて配置された筒状の内筒(14)であって、前記内筒(14)の前記噴霧口(12b)側の端(14a)の外径(D1)が、前記端よりも内側の前記内筒(14)の外径(D2)に比べて、小径に形成された前記内筒(14)と、内筒(14)の内部に形成されて、前記噴霧口(12b)から噴霧される液体試料が流れる試料流路(R3)と、を備えた噴霧器(3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を霧状にして噴き出す噴霧器、いわゆるネブライザーおよび、噴霧器を使用したプラズマ分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)のようなプラズマを原子化源またはイオン化源に用いた発光分析装置または質量分析装置は、材料分析、環境分析、少量分析等の幅広い分野における汎用性の高い高感度元素分析装置として知られている。
従来の誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP-OES:ICP - Optical Emission Spectrometer、または、ICP-AES:ICP - Atomic Emission Spectrometer)や誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS:ICP - Mass Spectrometer)では、プラズマを安定に保つために、液体状の試料を気化室で噴霧器、いわゆるネブライザーで霧状(エアロゾル)にし、霧状の試料をプラズマ源に供給してプラズマ化し、プラズマからの発光やイオン化された試料に基づいて分析を行っている。
【0003】
このようなネブライザーに関して、下記の特許文献1〜3記載の技術が従来公知である。
特許文献1としての米国特許第6634572号明細書には、液体状の試料が収容された液体流路と、液体流路に並行して配置されたガス流路と、を有する並行2軸型のネブライザーにおいて、流体流路側からガス流路側に爪状の突起が延びており、ガス流路から噴き出すガスが爪状の突起部分に付着した液体を霧状にして、噴霧する技術が記載されている。
特許文献2としての特開2003−43013号公報には、試料送液管とネブライザーガス配管とが直交するように配置されて、試料送液管の端部の液体状の試料をネブライザーガスで吹いて霧状に噴霧するクロスフロー型のネブライザーが記載されている。
【0004】
特許文献3としての特開2009−210435号公報には、同軸2重管構造の中心にキャピラリー管(毛細管)を内挿した三重管構造の同軸型ネブライザーが記載されており、キャピラリー管の内部を液体状の試料が送液され、2重管の間や2重管とキャピラリー管の間を流れる噴霧ガスや補助ガスで試料を霧状にして噴霧する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6634572号明細書
【特許文献2】特開2003− 43013号公報
【特許文献3】特開2009−210435号公報
【特許文献4】特開2002− 5886号公報
【特許文献5】特開2004−325191号公報
【特許文献6】特開2006−242957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
特許文献1〜3に記載されているようなネブライザーでは、噴霧される試料や、固体状の試料を搬送するためのキャリア流体として、ゲル等の高粘性の流体を使用しようとすると、ネブライザーの試料の吐出口や噴霧口の部分に高粘性の液体が付着して、液溜まりが発生しやすい。そして、液溜まりや液溜まりが乾燥して析出物が付着すると、ネブライザーが目詰まりして、噴霧できなくなるため、高粘性の流体を使用する場合には、ネブライザーが使用できず、従来はネブライザーが使用されてこなかった。
仮に、目詰まりしにくくするために、高粘性流体の吐出口を広くすることも考えられるが、吐出口が大きくなると、噴き出される流体の粒子が大きくなって霧状にならなかったり、プラズマに供給される流体が多量になって、プラズマが維持できなくなる問題が発生する。
【0007】
したがって、従来、高粘性の流体を使用する場合には、キャピラリー電気泳動法(例えば、特許文献4や特許文献5参照)やゲル濾過クロマトグラフィー(例えば、特許文献6参照)などの方法で従来分析が行われている。これらの方法は、試料の吸光や蛍光を利用して、分析を行う技術であり、試料自体の吸光や蛍光が直接観測できる場合には問題がないが、試料自体の吸光や蛍光がなかったり小さい場合、あるいは、試料自体が微量しか存在しない場合には、流体に吸光物質や蛍光物質を加えて測定が行われている。よって、これらの技術では、吸光物質等を測定することで間接的に試料を測定することとなるが、吸光物質等と試料との相関が保証されないことがあり、高粘性流体を使用するプラズマ分析では可能な微量な試料の定量的な測定ができない、あるいは、測定結果が信用できない問題があった。
特に、DNA等の核酸やたんぱく質を対象とした分析では、ゲル剤などの高粘性キャリア流体を使用した分析方法が多用されており、これらをプラズマ分析方法を用いて元素分析することが望まれているが、現状ではそれを達成できる手法が存在しない。
【0008】
前述の事情に鑑み、本発明は、高粘性の流体を使用する場合でも、微量の試料をプラズマ中に導入することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の噴霧器は、
一端部に噴霧口が形成された筒状の外筒と、
前記外筒の内部に同軸に配置され且つ前記外筒との間で噴霧用のガスが流れるガス流路が形成される筒状の中筒と、
前記中筒の内部に同軸に配置され且つ前記中筒との間に隙間をあけて配置された筒状の内筒であって、前記内筒の前記噴霧口側の端の外径が、前記端よりも内側の前記内筒の外径に比べて、小径に形成された前記内筒と、
前記内筒の内部に形成されて、前記噴霧口から噴霧される液体試料が流れる試料流路と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の噴霧器において、
前記中筒の先端と前記外筒との間のガス出口に近づくに連れて、断面積が小さくなるように形成された前記ガス流路と、
前記試料流路の一端に形成され、且つ、前記ガス出口と前記噴霧口との間に配置された試料出口と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の噴霧器において、
高粘性の流体が流れる前記試料流路、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明のプラズマ分析装置は、
請求項1ないし3のいずれかに記載の噴霧器と、
成分が分離されて前記噴霧器から噴霧された霧状の試料が供給されて、前記試料をプラズマ化するプラズマ源と、
プラズマ化された試料の分析を行う分析計と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のプラズマ分析装置において、
質量分析計により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載のプラズマ分析装置において、
プラズマ化された前記試料からの発光に基づいて、分析を行う発光分析装置により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、噴霧口側の端が小径に形成されており、液溜まりが発生しにくくなっているため、高粘性の流体を使用する場合でも、微量の試料をプラズマ中に導入することができる。
請求項2に記載の発明によれば、ガス出口から噴き出すガスの圧力が高くなり、安定して高効率の噴霧が可能になる。
請求項3に記載の発明によれば、高粘性の流体が噴霧される際に液溜まりや目詰まりが発生することが低減できる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、高粘性の流体を使用する場合でも、微量の試料をプラズマ中に導入することができるため、プラズマ源に過剰な流体が供給されることが低減され、プラズマを維持することができ、プラズマ分析を行うことができる。
請求項5に記載の発明によれば、高粘性の流体を使用する場合でも、プラズマ化された試料の質量分析を行うことができる。
請求項6に記載の発明によれば、高粘性の流体を使用する場合でも、プラズマ化された試料の分光分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は実施例1の分析装置の説明図である。
【図2】図2は実施例1のネブライザーの全体説明図である。
【図3】図3は実施例1のネブライザーの先端部分の拡大説明図である。
【図4】図4は実施例1のネブライザーの断面図である。
【図5】図5は実施例1の作用説明図であり、図5Aは実施例1のネブライザーにおいて高粘性流体を使用した場合における先端部分の説明図、図5Bは従来のネブライザーにおいて高粘性流体を使用した場合における先端部分の説明図である。
【図6】図6は実施例2のネブライザーの説明図であり、実施例1の図3に対応する図である。
【図7】図7は実施例3のネブライザーの説明図であり、実施例1の図1に対応する図である。
【図8】図8は、実験例の実験結果のグラフであり、横軸にキャピラリー電気泳動の泳動時間(migration time)をとり、縦軸にリンの信号強度を取ったものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0019】
図1は実施例1の分析装置の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の分析装置1は、試料が収容される試料容器2を有する。実施例1の試料容器2には、液体試料が収容されている。なお、本願明細書および特許請求の範囲において、液体試料とは、液体状の試料、または、液体中に固体状の試料が分散、懸濁または溶けた状態等の液体も含む意味で使用している。前記試料容器2には、噴霧器であるネブライザー3が接続されている。なお、ネブライザー3については、後で詳述する。前記ネブライザー3の先端部は、気化室4内に支持されている。気化室4には、ネブライザー3から噴霧された霧状の試料が搬送されるプラズマ搬送路4aと、廃液が排出される排出路4bとが形成されている。
【0020】
前記プラズマ搬送路4aには、プラズマ源の一例としてのプラズマトーチ6が接続されている。プラズマトーチ6は3重管構造に構成されており、プラズマ搬送路4aに接続されて霧状の試料が通過する試料ガス流路6aと、試料ガス流路6aの外周に設けられたアルゴン(Ar)等の補助ガスが流れる補助ガス流路6bと、補助ガス流路6bの外周に設けられたアルゴン(Ar)等のプラズマガスが流れるプラズマガス流路6cと、を有する。プラズマトーチ6の先端部6dには、誘導プラズマ発生用のコイル6eが設置されており、アルゴンガスをプラズマ化する電界を発生させる高周波の電力が供給可能に構成されている。
【0021】
前記プラズマトーチ6の先端側には、分析計の一例としての質量分析計7が設置されている。質量分析計7は、円錐状のサンプリングコーン7aおよびスキマーコーン7bを通じて、プラズマでイオン化された試料が引き込まれ、イオンレンズ7cで収束されて、4重極子マスフィルターからなる質量分析部7dに送り込まれる。質量分析部7dで選別されたイオンは、イオン検出器7eで検出される。実施例1の質量分析計7には、サンプリングコーン7aとスキマーコーン7bとの間を排気する排気装置の一例としてのロータリポンプ7fや、イオンレンズ7cや質量分析部7dを排気する排気装置の一例としてのターボ分子ポンプ7gが設置されている。
なお、実施例1の質量分析計7は、Q−MS(Quadrupole mass spectrometer:4重極質量分析計)が使用されているが、Q−MSに限定されず、従来公知の任意の質量分析計を使用可能である。
【0022】
また、プラズマトーチ6の先端部の側方には、分析計の一例として、発光分析装置8が設置されている。実施例1の発光分析装置8は、発光された光を集光する集光系8aと、集光系8aで集光された光を絞る入口スリット8bと、入口スリット8bを通過した光を反射する凹面鏡8cと、凹面鏡8cで反射された光を分光する回折格子8dと、回折格子8dで分光された光を反射する凹面鏡8eと、凹面鏡8eで反射された光を絞る出口スリット8fと、出口スリット8fを通過した光を検出する検出器8gとを有する。
なお、実施例1の発光分析装置8は、例示した構成に限定されず、従来公知の任意の発光分析装置を採用可能である。
【0023】
(ネブライザーの説明)
図2は実施例1のネブライザーの全体説明図である。
図3は実施例1のネブライザーの先端部分の拡大説明図である。
図4は実施例1のネブライザーの断面図である。
図2において、実施例1のネブライザー3は、筒状のネブライザー本体11を有する。ネブライザー本体11は、中空円筒状の外筒12を有する。外筒12の先端部12aは先端部に近づくに連れて細く形成され、先端部12aの先端には噴霧口12bが形成されている。また外筒12の基端側には、噴霧用のガスが導入される噴霧ガス導入部12cが形成されている。
【0024】
図2〜図4において、外筒12の内部には、中空円筒状の中筒13が外筒12と同軸に配置されており、実施例1の中筒13は、外筒12の基端部に一体的に形成されている。したがって、中筒13と外筒12との間には、噴霧用のガスが流れるガス流路R1が形成される。図2、図3において、中筒13の先端部13aは、外筒の噴霧口12bの近傍まで延びており、実施例1では先端部13aの先端は、噴霧口12bよりも内側、すなわち、左側に配置されている。また、実施例1の中筒13の基端部13bは、外筒12の基端よりも左方に延びており、流体を導入可能な流体導入部13cが形成されている。
【0025】
図2〜図4において、中筒13の内部には、中空円筒状の内筒の一例としてのキャピラリー管14が、中筒13と同軸に配置されている。キャピラリー管14と中筒13との間には、流体流路R2が形成され、中空円筒のキャピラリー管14の内部には試料流路R3が形成されている。実施例1のキャピラリー管14は、右端が噴霧口12b近傍に配置されている。図3において、実施例1のキャピラリー管14の右端には、外径が段差状に小さい小径部の一例としての先端部14aが形成されている。実施例1の先端部14aの外径D1は、中央部14bの外径D2に比べて、小径に形成されている。したがって、先端部14aでは、外径D1と内径D0との差の1/2である肉厚t1(=(D1−D0)/2)が、中央部14bの肉厚t2(=(D2−D0)/2)に比べて薄くなっている。
前記キャピラリー管14の左端部は、中筒13を貫通して左方に延びており、内筒固定部材の一例としての固定ユニオン16に支持されている。
【0026】
固定ユニオン16は、円筒状のユニオン本体17を有する。ユニオン本体17は、軸方向の両端側から軸方向に延びる一対の凹部17a,17bが形成されており、凹部17a,17bの間には仕切壁17cが形成されている。各凹部17a,17bの内周面には、ネジ溝が形成されており、仕切壁17cには、各凹部17a,17bを接続する貫通口17dが形成されている。右側の凹部17aには、ネブライザー本体11の左端、すなわち、中筒13の基端部13bが収容されている。中筒13の左端部は、凹部17aの内周面のネジ溝に噛み合う第1の固定ネジ18を貫通して支持されており、中筒13の左端には、仕切壁17cとの間を封止する封止部材の一例としての第1キャップ19が装着されている。
【0027】
また、左側の凹部17bには、内周面のネジ溝に噛み合う第2の固定ネジ21が装着されており、第2の固定ネジ21には、弾性材料であって低摩擦材料の一例としてのポリテトラフルオロエチレン製のスリーブ22を介してキャピラリー管14が貫通した状態で支持されている。スリーブ22の内端には、封止部材の一例としての第2キャップ23が装着されている。なお、実施例1の固定ユニオン16では、ユニオン本体17や固定ネジ18,21、キャップ19,23は樹脂材料により構成されている。また、スリーブ22は設けることが望ましいが、省略することも可能である。
【0028】
したがって、実施例1のキャピラリー管14は、第2の固定ネジ21を締めることで、固定ユニオン16を介してネブライザー本体11に固定されると共に、第2の固定ネジ21を緩めることで、ネブライザー本体11、すなわち、外筒12や中筒13に対して取り外される。したがって、実施例1のキャピラリー管14は、外筒12等に対して着脱可能な状態で支持されている。
中空円筒状のキャピラリー管14は、試料容器2に接続されており、キャピラリー管14内部の試料流路R3を試料が流動可能となっている。
【0029】
図3、図4において、実施例1のネブライザー3では、中筒13の先端と外筒12との間のリング状の隙間である噴霧用のガスが流れるガス出口24に対して、キャピラリー管14の先端の液体試料の出口である試料出口25は、噴霧口12bとガス出口24との間に配置されるように設定されている。したがって、実施例1では、市販の2重管の同軸型のネブライザーのように内筒を挟んでガス出口と試料出口とが隣接せず、ガス出口24と試料出口25とが分離された状態で配置されると共に、ガスが流れる方向に対して試料出口25がガス出口24の下流側に配置されている。
なお、試料出口25の位置は、キャピラリー管14の軸方向に対して、ガス出口24と同じ位置、すなわち、面一となる位置から噴霧口12bと塩が析出しない程度の間隔をあけた位置に配置することが可能であり、使用する液体試料の成分やガスの流量等に応じて変更可能である。特に、実施例1では、キャピラリー管14の位置が固定ユニオン16で調整が可能であり、試料出口25の位置を精度良く調整が可能である。
【0030】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のネブライザー3では、噴霧ガスの一例としてのアルゴン(Ar)を噴霧ガス導入部12cから導入されると、キャピラリー管14の先端から液体状の試料が霧状になって、噴霧口12bから気化室4に噴出し、プラズマトーチ6でプラズマ化され、質量分析計7や発光分析装置8で計測、分析がされる。
実施例1のネブライザー3では、外筒12、中筒13、内筒(キャピラリー管)14の3重管構造となっており、2重管構造の構成に比べて、内筒14と外筒12との間の隙間を確保しやすい。特に、実施例1では、ガス出口24と試料出口25とが分離された位置に配置されており、液体試料として高塩濃度の溶媒や溶離液を使用しても、試料出口25から噴霧された霧に含まれる塩がガス出口24に析出しにくくなっている。特に、実施例1では、試料出口25がガス出口24よりも、ガスが流れる方向に対して上流側に配置されており、ガス出口24が析出した塩で目詰まりすることが抑制されている。
【0031】
図5は実施例1の作用説明図であり、図5Aは実施例1のネブライザーにおいて高粘性流体を使用した場合における先端部分の説明図、図5Bは従来のネブライザーにおいて高粘性流体を使用した場合における先端部分の説明図である。
また、実施例1のネブライザー3において、固体状の試料を搬送するためのキャリア流体として、ゲル等の高粘性の流体を使用したり、高粘性の試料を使用する場合、試料出口25から噴出される高粘性の流体が、試料出口25の近傍のキャピラリー管14前端面に付着することがある。このとき、図5Bに示すように、従来のネブライザー01では、試料出口02の部分に高粘性流体に対する対策がされておらず、肉厚が厚いため、液溜まり03が発生、成長しやすくなる。そして、液溜まり03が発生すると、液溜まり03がガス出口04を塞いでしまい、ネブライザー01が目詰まりして、噴霧効率が低下または噴霧不可能になっていた。
なお、このような液溜まり03は、生体関連試料の分析(核酸分析等)を行う際に使用されるアガロースゲルやポリアクリルアミドゲルやSDSのような粘度2 [mPa・s]〜100[ mPa・s]程度の流体である高粘性の液体を使用した場合に、特に発生しやすくなっている。すなわち、25℃の水の粘度0.89[mPa・s]の2倍以上の粘度を有する高粘性の流体を使用した場合に特に発生しやすくなる。
【0032】
これに対して、実施例1のネブライザー3では、図5Aに示すように、先端部14aの肉厚t1が薄くなっており、液溜まり27が発生しにくく、発生しても微量となる。よって、ネブライザー3の目詰まりの発生が低減されており、噴霧効率の低下が抑制されている。特に、実施例1のネブライザー3は、前述のように、3重管構造により、キャピラリー管14と、中筒13や外筒12との間隔が確保しやすく、微量の液溜まり27が発生しても目詰まりの発生がさらに低減されている。したがって、高粘性の流体を使用した場合に困難であったプラズマ分析が可能となり、試料自体を直接測定、分析することが可能となり、微量な試料の定量的な測定もできる。
なお、ネブライザー3全体を薄肉にすると強度が低下すると共に、高精度の加工が必要となり、コストが上昇するが、実施例1のように先端部14aの加工だけであれば、比較的低コストで容易に可能であり、強度低下の恐れも少なくなっている。
【0033】
また、実施例1では、外筒12の先端部12aが先端に近づくに連れて細くなっており、ガス流路R1の断面積はガス出口24に近づくに連れて狭くなっている。したがって、ガス出口24から噴き出すガスの圧力が高くなり、噴霧口12bから噴霧される液滴の径が小さくなりやすく、安定して高効率の噴霧が可能になっている。
したがって、実施例1のネブライザー3では、高電圧を印加して帯電試料を噴霧するエレクトロスプレーイオン技術のように、高電圧の印加が必要なく、特別な配管技術も必要なく、既設のICP−OES/MS装置1に容易に適用可能である。さらに、実施例1のネブライザー3は、内筒14と外筒12とが同軸に配置された同軸型のネブライザーであり、特許文献1記載の2軸並行型のネブライザーや特許文献2記載の試料の流路とガスの流路が90°の角度で直交するクロスフロー型等の従来公知のネブライザーに比べて、取扱も容易であると共に、霧状の液滴が細かくなりやすくて噴霧効率も高く、安定した噴霧が可能となっている。
【0034】
また、実施例1のネブライザー3では、キャピラリー管14が着脱可能に構成されており、着脱不能の構成に比べて、キャピラリー管14の外筒12や噴霧口12bに対する位置の調整(微調整)が可能になっている。したがって、製造時の誤差等で噴霧効率にばらつきが発生することを抑制することが可能になっている。
さらに、中心管14やネブライザー本体11の交換も容易となり、破損や汚染等で消耗した中心管(キャピラリー管)14を容易に交換したり、洗浄を容易に行うことができる。また、試料の特性に応じて適したネブライザーを準備する場合に比べて、実施例1では、試料に応じた中心管14を複数用意して、試料に応じて交換するだけで対応が可能となり、1つのネブライザー本体11で多様な試料に対応することが可能になっている。
【0035】
また、実施例1のネブライザー3では、流体流路R2が設けられており、噴霧口12bに対して、ガス流路R1からの噴霧ガスと、試料流路R3からの試料以外に第3の流体を流すことが可能となっている。したがって、高粘性流体を使用する場合には、流体流路R2からガス流路R1と同一または異なる噴霧用のガスを流して、試料流路R3からのガスの噴霧効率をさらに向上させることも期待できる。
また、粘性の比較的低い流体であれば、例えば、2つの液体試料の分析を行う場合に、第1の液体試料を試料流路R3から導入して、第2の液体試料を流体流路R2から導入して、噴霧口12bの近傍で2つの液体試料が混合された状態で噴霧することも可能である。
ここで、分析によっては、試料を溶かす溶媒中のNa等の塩濃度を変化させながら試料流路R3を流して、分析を行うことがある。このような分析では、質量分析計7や発光分析計8で計測される測定値に、塩濃度の変化が影響を及ぼしてドリフト(変動)することがある。これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例としてのドリフト補正液を導入して、測定値のドリフトの影響を抑制することも可能になっている。
【0036】
あるいは、非常に高い塩濃度の溶媒を使用する場合、溶媒中の塩が噴霧口12b近傍に析出して、噴霧口12bが目詰まりする可能性もあるが、第3の流体として、塩を溶かす溶媒を流して、析出した塩による悪影響を抑制することも可能である。
あるいは、分析対象の試料がヒ素(As)やセレン(Se)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)の場合には、例えば、第3の流体の一例としての反応性流体の一例としての水素(H)を導入することで、噴霧口12bにおいて化学反応させ、液中のヒ素(As)等を、気体の水素化合物(AsH、SeH、PbH、SbH等)として噴霧し、分析を行うことも可能である。
【実施例2】
【0037】
図6は実施例2のネブライザーの説明図であり、実施例1の図3に対応する図である。
なお、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には下一桁に同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
図6において、実施例2のネブライザー3では、キャピラリー管14の先端部14a′は、段差状に形成された実施例1の先端部14aと異なり、試料出口25に近づくに連れて連続的に径が小径になるように形成されている。
【0038】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2のネブライザー3でも、キャピラリー管14の先端部14a′の肉厚が、中央部14bに比べて薄く、先端部14a′における液溜まり27の発生が低減されている。
【実施例3】
【0039】
図7は実施例3のネブライザーの説明図であり、実施例1の図1に対応する図である。
なお、この実施例3の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には下一桁に同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例3は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
図7において、実施例3の分析装置1″では、実施例1の構成に対して、気化室4が省略されており、プラズマトーチ6の試料ガス流路6aに替えて、ネブライザー3″が支持されている。すなわち、実施例3のネブライザー3″は、各筒12〜14によって支持され、噴霧された試料が、直接プラズマ領域に供給される。
【0040】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の分析装置1″では、高粘性の流体を使用した場合でも目詰まりがしにくく、高効率で噴霧が可能なネブライザー3″が使用されているため、噴霧される液滴が細かくなっており、直接プラズマ領域に供給される高粘性流体の量が過剰になることが低減される。したがって、直接ネブライザー3″により噴霧された液滴がプラズマの維持が容易となり、プラズマ分析が可能となる。
【0041】
(実験例)
本発明のネブライザーの効果を確認するために、実験を行った。実験は、実施例1のネブライザー3を使用すると共に、試料溶液2に替えて、物質分離装置としての市販のキャピラリー電気泳動装置(Beckman Coulter社製、P/ACE MDQ)を接続した。キャピラリー電気泳動装置では、キャリア流体としてアクリルアミドゲルを使用し、電気泳動用のキャピラリーに15kV程度の高電圧を印加することで試料を電荷に応じて電極側に移動させるものである。実験では、25[bp](base pair:塩基対)〜2600[bp]の鎖長の異なる2本鎖DNAを含む試料(インビトロジェン社製、25[bp]DNAラダー)を分析対象とした。なお、分析した試料は、意図的に125[bp]、500[bp]および2600[bp]の濃度を高く設定した。
電気泳動を終了した試料について、キャリア流体と共に連続的にネブライザー3からプラズマ方向に向けて噴霧し、リン(P)の質量分析を行った。実験結果を図8に示す。
【0042】
図8は、実験例の実験結果のグラフであり、横軸にキャピラリー電気泳動の泳動時間(migration time)をとり、縦軸にリンの信号強度を取ったものである。
図8において、実験結果から、鎖長の異なるDNAはキャリア流体中で分離され、図8に示すように、短い鎖長のものから溶出されている。そして、実験結果から、分析した試料は、125[bp]、500[bp]、2600[bp]において、高い強度が測定されており、実施例1の構成において、高粘性の流体であるアクリルアミドゲルを使用した場合でも、ネブライザー3から噴霧が効率よく行われて、プラズマ分析が行われたことが確認された。
【0043】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H011)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した具体的な数値や材料については、例示した値や材料に限定されず、設計や仕様、用途等に応じて、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、質量分析計7と発光分析装置8の両方を備えた分析装置1を例示したが、この構成に限定されず、いずれか一方のみとしたり、例示した分析計以外の分析計を設置することも可能である。
(H03)前記実施例において、キャピラリー管14は着脱可能に構成することが望ましいが、着脱不能あるいは製造可能であれば一体形成の構成とすることも可能である。
【0044】
(H04)前記実施例において、液体試料を成分毎に分離して分析を行う場合には、ネブライザー3,3″と試料容器2との間に、クロマトグラフィー等で使用されるカラム(分離カラム)を接続して成分毎に分離した状態で噴霧を行うことも可能である。
【0045】
(H05)前記実施例において、プラスに帯電する六価クロムや三価クロムやヒ素(As)、セレン(Se)等を含む試料の分析を行う場合に、これらに対応して、キャピラリー管14内に、陰イオン交換器の化学修飾を行って、クロム(Cr)等の吸着を行って、試料の成分の分離を行うことも可能である。前記変更例(H03)と組み合わせることも可能である。同様に、試料がマイナスに帯電する成分を含む場合には、陽イオン交換器の化学修飾を行うことも可能である。特に、実施例1、2のキャピラリー管14は、着脱可能に構成されており、陰イオン交換器が化学修飾されたキャピラリー管と、陽イオン交換器が化学修飾されたキャピラリー管とを準備しておいて、分析対象の試料に応じてキャピラリー管だけを交換することで、ネブライザー本体11は共用することも可能である。
【0046】
(H06)前記実施例において、3重管の構成を例示したが、これに限定されず、内筒14と中筒13との間に、第2の中筒を配置して4重管の構成とする等、4重管以上の構成とすることも可能である。4重管以上にした場合には、追加される4つ目以降の流路に流体を流すことが可能となり、例えば、噴霧用のガスと液体試料に加えて、2種類以上の流体を流すことが可能なる。したがって、3種類以上の液体試料を流して混合して噴霧したり、塩を溶かす溶媒、ドリフト補正液を流したりすることも可能である。他にも、水素等の反応性流体を流して液体試料と化学反応させたり、2つ以上の反応性の流体を流して、噴霧時に化学反応をさせる等も可能である。
【0047】
(H07)前記実施例において、多糖ゲル等の高粘性試料の分析を行うことも可能である。このような分析では、分析に用いる元素標準液をゲル溶液に混ぜる場合、溶液安定性が保てない場合がある。これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例として水溶液の元素標準液を導入して、同時噴霧することで分析することも可能になっている。
(H08)前記実施例において、有機溶剤試料の分析を行うことも可能である。
有機溶剤は水溶液と表面張力等が異なるため、ネブライザー噴霧で生成する液滴の径の分布が大きく異なり、分析計で得られる感度が大きく異なる。このような分析では、これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例としての感度差補正液を導入して、感度差の影響を抑制することも可能になっている。
同様に、分析に用いる元素標準液を有機溶剤に混ぜる場合、溶液安定性が保てない場合がある。このような分析では、これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例として水溶液の元素標準液を導入して、同時噴霧することで分析することも可能になっている。
【0048】
(H09)前記実施例において、多糖あるいは界面活性剤等の高分子を含む溶離液(移動相液)を分析に用いる場合があり、このような場合でも、多糖あるいは界面活性剤等による目詰まりは抑制される。また、溶離液(移動相液)中の多糖あるいは界面活性剤等の濃度を変化させて分析する場合があり、このような場合、濃度変化が影響を及ぼしてドリフト(変動)することがある。これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例としてのドリフト補正液を導入して、測定値のドリフトの影響を抑制することも可能になっている。
(H010)前記実施例において、液体状の試料を送液する場合にポンプを配置することも可能である。また、溶離液を送液ポンプで送液し、途中にインジェクタを設けて溶離液に試料を注入する構成とすることも可能である。
(H011)前記実施例において、高粘性流体を使用する場合に、高粘性流体のキャピラリー管14内での目詰まりを防止するために、キャピラリー管14の内周面に、離形成の良い加工、例えば、フッ素樹脂のコーティング等の加工をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1,1″…プラズマ分析装置、
3,3″…噴霧器、
6…プラズマ源、
7…質量分析計、
7,8…分析計、
8…発光分析装置、
12…外筒、
12b…噴霧口、
13…中筒、
14…内筒、
24…ガス出口、
25…試料出口、
D1,D2…外径、
R1…ガス流路、
R3…試料流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部に噴霧口が形成された筒状の外筒と、
前記外筒の内部に同軸に配置され且つ前記外筒との間で噴霧用のガスが流れるガス流路が形成される筒状の中筒と、
前記中筒の内部に同軸に配置され且つ前記中筒との間に隙間をあけて配置された筒状の内筒であって、前記内筒の前記噴霧口側の端の外径が、前記端よりも内側の前記内筒の外径に比べて、小径に形成された前記内筒と、
前記内筒の内部に形成されて、前記噴霧口から噴霧される液体試料が流れる試料流路と、
を備えたことを特徴とする噴霧器。
【請求項2】
前記中筒の先端と前記外筒との間のガス出口に近づくに連れて、断面積が小さくなるように形成された前記ガス流路と、
前記試料流路の一端に形成され、且つ、前記ガス出口と前記噴霧口との間に配置された試料出口と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の噴霧器。
【請求項3】
高粘性の流体が流れる前記試料流路、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の噴霧器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の噴霧器と、
成分が分離されて前記噴霧器から噴霧された霧状の試料が供給されて、前記試料をプラズマ化するプラズマ源と、
プラズマ化された試料の分析を行う分析計と、
を備えたことを特徴とするプラズマ分析装置。
【請求項5】
質量分析計により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載のプラズマ分析装置。
【請求項6】
プラズマ化された前記試料からの発光に基づいて、分析を行う発光分析装置により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする請求項4または5に記載のプラズマ分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196697(P2011−196697A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60534(P2010−60534)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省委託研究「中小・ベンチャー企業の検査・計測機器等の調達に向けた実証研究事業/産業技術研究開発事業/高効率試料導入インターフェースの開発及び高度化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【Fターム(参考)】