説明

噴霧器および分析装置

【課題】噴霧効率を維持しつつ、塩の析出を低減すること。
【解決手段】一端部に噴霧口(12b)が形成された筒状の外筒(12)と、前記外筒(12)の内部に同軸に配置され且つ前記外筒(12)との間で噴霧用のガスが流れるガス流路(R1)が形成される筒状の中筒(13)と、中筒(13)の内部に同軸に配置され且つ中筒(13)との間に隙間をあけて配置された筒状の内筒(14)と、内筒(14)の内部に形成されて噴霧口(12b)に搬送されて噴霧される液体試料が流れる試料流路(R3)と、中筒(13)の先端と外筒(12)との間のガス出口(24)に近づくに連れて、断面積が小さくなるように形成されたガス流路(R1)と、試料流路(R3)の一端に形成され且つガス出口(24)と噴霧口(12b)との間に配置された試料出口(25)と、を備えたことを特徴とする噴霧器(3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を霧状にして噴き出す噴霧器、いわゆるネブライザーおよび、噴霧器を使用した分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)のようなプラズマを原子化源またはイオン化源に用いた発光分析装置または質量分析装置は、材料分析、環境分析、少量分析等の幅広い分野における汎用性の高い高感度元素分析装置として知られている。
従来の誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP-OES:ICP - Optical Emission Spectrometer、または、ICP-AES:ICP - Atomic Emission Spectrometer)や誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS:ICP - Mass Spectrometer)では、プラズマを安定に保つために、液体状の試料を気化室で噴霧器、いわゆるネブライザーで霧状(エアロゾル)にし、霧状の試料をプラズマ源に供給してプラズマ化し、プラズマからの発光やイオン化された試料に基づいて分析を行っている。
【0003】
液体状の試料として、高い塩濃度の試料を使用する場合には、ネブライザーの噴霧ガス口に、噴霧直後に乾燥した塩が析出して、目詰まりする恐れがある。高塩濃度の試料に対応したネブライザーに関して、下記の技術が従来知られている。
非特許文献1には、液体状の試料が収容された液体流路と、液体流路に並行して配置されたガス流路と、を有する並行2軸型のネブライザーにおいて、流体流路側からガス流路側に爪状の突起が延びており、ガス流路から噴き出すガスが爪状の突起部分に付着した液体を霧状にして、噴霧する技術が記載されている。非特許文献1記載の技術では、噴霧ガスの出口から、試料液の出口の間に距離があることから、噴霧のポイントが試料液の出口より離れており、塩の析出によって噴霧ガスの出口が塞がらないように構成されている。
【0004】
非特許文献2には、中空円筒状の外筒と、中空円筒状の内筒とが同軸状に配置された同軸型のネブライザーにおいて、噴霧口の先端形状において内筒を極限まで薄くして、外筒と内筒との間隔を広くして、塩が析出しにくくする技術が記載されている。
この他にも、同軸型のネブライザーにおいて、噴霧口を塩が析出しやすいガラスではなく、塩が析出しにくい樹脂で構成する改良を施すことで、塩が析出しにくくすることも考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】著者名:バージェナーリサーチ(Burgener Reserch Inc)、表題:改良並行路法(Enhanced Parallel Path Method)、「online」、発行者:バージェナーリサーチ(Burgener Reserch Inc)、[平成21年8月20日検索]、インターネット<URL:http://burgenerresearch.com/Enhanced.html>
【非特許文献2】著者名:グラスエクスパンション(Glass Expansion)、表題:シースプレーネブライザー(SEASPRAY NEBULIZER)、「online」、発行者:グラスエクスパンション(Glass Expansion)、[平成21年8月20日検索]、インターネット<URL:http://ru.geicp.com/site/images/flyers/SeaSprayFlyer.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
前記非特許文献1に記載された2軸並行型のネブライザーでは、同軸型のネブライザーに比べて、噴霧された霧状の液滴の中に、径が大きなものが混ざりやすく、噴霧効率が悪い問題がある。
非特許文献2に記載された同軸型のネブライザーや樹脂で構成したネブライザーのいずれの場合でも、非特許文献1に記載のネブライザーに比べて、塩が析出しやすく、使用可能な塩濃度に制限を受ける問題がある。特に、噴霧ガスの出口を狭めて高効率の噴霧を実現しようとすると、塩濃度に制限が加わる問題がある。
【0007】
前述の事情に鑑み、本発明は、噴霧効率を維持しつつ、塩の析出を低減することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の噴霧器は、
一端部に噴霧口が形成された筒状の外筒と、
前記外筒の内部に同軸に配置され且つ前記外筒との間で噴霧用のガスが流れるガス流路が形成される筒状の中筒と、
前記中筒の内部に同軸に配置され且つ前記中筒との間に隙間をあけて配置された筒状の内筒と、
前記内筒の内部に形成されて前記噴霧口に搬送されて噴霧される液体試料が流れる試料流路と、
前記中筒の先端と前記外筒との間のガス出口に近づくに連れて、断面積が小さくなるように形成された前記ガス流路と、
前記試料流路の一端に形成され、且つ、前記ガス出口と前記噴霧口との間に配置された試料出口と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の噴霧器において、
前記外筒に対して着脱可能に支持された前記内筒、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の噴霧器において、
前記外筒との間で前記ガス流路が形成される第1の中筒と、前記第1の中筒と前記内筒との間に配置され且つ前記第1の中筒と隙間をあけて配置された第2の中筒と、を有する前記中筒、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の噴霧器において、
前記中筒と前記内筒との間に形成されて、前記液体試料中の塩濃度の変動を打ち消すドリフト補正液が流される流体流路、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の噴霧器において、
前記中筒と前記内筒との間に形成されて、前記液体試料中の試料と化学反応をする反応性流体が流される流体流路、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
前記技術的課題を解決するために、請求項6記載の発明の分析装置は、
請求項1ないし5のいずれかに記載の噴霧器と、
成分が分離されて前記噴霧器から噴霧された霧状の試料が供給されて、前記試料をプラズマ化するプラズマ源と、
プラズマ化された試料の分析を行う分析計と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の分析装置において、
質量分析計により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の分析装置において、
プラズマ化された前記試料からの発光に基づいて、分析を行う発光分析装置により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、ガス出口に近づくに連れて、断面積が小さくなるガス流路からのガスにより噴霧効率を維持しつつ、ガス出口と分離された試料出口からの液体試料に含まれる塩がガス出口に析出することを低減することができる。
請求項2に記載の発明によれば、内筒の位置を微調整したり、試料に応じた内筒に交換することができ、内筒を交換するだけで多様な試料に対応することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、4重管構造によりガス出口と試料出口とをさらに確実に分離でき、塩の析出をさらに低減できる。
請求項4に記載の発明によれば、ドリフト補正液により測定値の変動(ドリフト)を低減することができる。
請求項5に記載の発明によれば、反応性流体と試料とを噴霧口の近傍で化学反応させることができ、化学反応した後の成分を噴霧できる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、噴霧効率を維持しつつ、塩の析出が低減された噴霧器から噴霧された試料を分析でき、プラズマが安定すると共に、精度良く分離された試料を測定することができる。
請求項7に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、精度の高い質量分析ができる。
請求項8に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、精度の高い発光分析ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1の分析装置の説明図である。
【図2】図2は実施例1のネブライザーの全体説明図である。
【図3】図3は実施例1のネブライザーの先端部分の拡大説明図である。
【図4】図4は実施例1のネブライザーの断面図である。
【図5】図5は実施例2のネブライザーの説明図であり、実施例1の図2に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0021】
図1は実施例1の分析装置の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の分析装置1は、試料が収容される試料容器2を有する。実施例1の試料容器2には、液体試料が収容されている。なお、本願明細書および特許請求の範囲において、液体試料とは、液体状の試料、または、液体中に固体状の試料が分散、懸濁または溶けた状態等の液体も含む意味で使用している。前記試料容器2には、噴霧器であるネブライザー3が接続されている。なお、ネブライザー3については、後で詳述する。前記ネブライザー3の先端部は、気化室4に支持されている。気化室4には、ネブライザー3から噴霧された霧状の試料が搬送されるプラズマ搬送路4aと、廃液が排出される排出路4bとが形成されている。
【0022】
前記プラズマ搬送路4aには、プラズマ源の一例としてのプラズマトーチ6が接続されている。プラズマトーチ6は3重管構造に構成されており、プラズマ搬送路4aに接続されて霧状の試料が通過する試料ガス流路6aと、試料ガス流路6aの外周に設けられたアルゴン(Ar)等の補助ガスが流れる補助ガス流路6bと、補助ガス流路6bの外周に設けられたアルゴン(Ar)等のプラズマガスが流れるプラズマガス流路6cと、を有する。プラズマトーチ6の先端部6dには、誘導プラズマ発生用のコイル6eが設置されており、アルゴンガスをプラズマ化する電界を発生させる高周波の電力が供給可能に構成されている。
【0023】
前記プラズマトーチ6の先端側には、分析計の一例としての質量分析計7が設置されている。質量分析計7は、円錐状のサンプリングコーン7aおよびスキマーコーン7bを通じて、プラズマでイオン化された試料が引き込まれ、イオンレンズ7cで収束されて、4重極子マスフィルターからなる質量分析部7dに送り込まれる。質量分析部7dで選別されたイオンは、イオン検出器7eで検出される。実施例1の質量分析計7には、サンプリングコーン7aとスキマーコーン7bとの間を排気する排気装置の一例としてのロータリポンプ7fや、イオンレンズ7cや質量分析部7dを排気する排気装置の一例としてのターボ分子ポンプ7gが設置されている。
なお、実施例1の質量分析計7は、Q−MS(Quadrupole mass spectrometer:4重極質量分析計)が使用されているが、Q−MSに限定されず、従来公知の任意の質量分析計を使用可能である。
【0024】
また、プラズマトーチ6の先端部の側方には、分析計の一例として、発光分析装置8が設置されている。実施例1の発光分析装置8は、発光を集光する集光系8aと、集光系8aで集光された光を絞る入口スリット8bと、入口スリット8bを通過した光を反射する凹面鏡8cと、凹面鏡8cで反射された光を分光する回折格子8dと、回折格子8dで分光された光を反射する凹面鏡8eと、凹面鏡8eで反射された光を絞る出口スリット8fと、出口スリット8fを通過した光を検出する検出器8gとを有する。
なお、実施例1の発光分析装置8は、例示した構成に限定されず、従来公知の任意の発光分析装置を採用可能である。
【0025】
(ネブライザーの説明)
図2は実施例1のネブライザーの全体説明図である。
図3は実施例1のネブライザーの先端部分の拡大説明図である。
図4は実施例1のネブライザーの断面図である。
【0026】
図2において、実施例1のネブライザー3は、筒状のネブライザー本体11を有する。ネブライザー本体11は、中空円筒状の外筒12を有する。外筒12の先端部12aは先端に近づくに連れて細く形成され、先端部12aの先端には噴霧口12bが形成されている。また外筒12の基端側には、噴霧用のガスが導入される噴霧ガス導入部12cが形成されている。
図2〜図4において、外筒12の内部には、中空円筒状の中筒13が外筒12と同軸に配置されており、実施例1の中筒13は、外筒12の基端部に一体的に形成されている。したがって、中筒13と外筒12との間には、噴霧用のガスが流れるガス流路R1が形成される。図2、図3において、中筒13の先端部13aは、外筒の噴霧口12bの近傍まで延びており、実施例1では先端部13aの先端は、噴霧口12bよりも内側、すなわち、左側に配置されている。また、実施例1の中筒13の基端部13bは、外筒12の基端よりも左方に延びており、流体を導入可能な流体導入部13cが形成されている。
【0027】
図2〜図4において、中筒13の内部には、中空円筒状の内筒の一例としてのキャピラリー管14が、中筒13と同軸に配置されている。キャピラリー管14と中筒13との間には、流体流路R2が形成され、中空円筒のキャピラリー管14の内部には試料流路R3が形成されている。実施例1のキャピラリー管14は、右端が噴霧口12b近傍に配置されると共に、左端部が中筒13を貫通して左方に延びており、内筒固定部材の一例としての固定ユニオン16に支持されている。
【0028】
固定ユニオン16は、円筒状のユニオン本体17を有する。ユニオン本体17は、軸方向の両端側から軸方向に延びる一対の凹部17a,17bが形成されており、凹部17a,17bの間には仕切壁17cが形成されている。各凹部17a,17bの内周面には、ネジ溝が形成されており、仕切壁17cには、各凹部17a,17bを接続する貫通口17dが形成されている。右側の凹部17aには、ネブライザー本体11の左端、すなわち、中筒13の基端部13bが収容されている。中筒13の左端部は、凹部17aの内周面のネジ溝に噛み合う第1の固定ネジ18を貫通して支持されており、中筒13の左端には、仕切壁17cとの間を封止する封止部材の一例としての第1キャップ19が装着されている。
【0029】
また、左側の凹部17bには、内周面のネジ溝に噛み合う第2の固定ネジ21が装着されており、第2の固定ネジ21には、弾性材料であって低摩擦材料の一例としてのポリテトラフルオロエチレン製のスリーブ22を介してキャピラリー管14が貫通した状態で支持されている。スリーブ22の内端には、封止部材の一例としての第2キャップ23が装着されている。なお、実施例1の固定ユニオン16では、ユニオン本体17や固定ネジ18,21、キャップ19,23は樹脂材料により構成されている。また、スリーブ22は設けることが望ましいが、省略することも可能である。
【0030】
したがって、実施例1のキャピラリー管14は、第2の固定ネジ21を締めることで、固定ユニオン16を介してネブライザー本体11に固定されると共に、第2の固定ネジ21を緩めることで、ネブライザー本体11、すなわち、外筒12や中筒13に対して取り外される。したがって、実施例1のキャピラリー管14は、外筒12等に対して着脱可能な状態で支持されている。
中空円筒状のキャピラリー管14は、試料容器2に接続されており、キャピラリー管14内部の試料流路R3を試料が流動可能となっている。
【0031】
図3、図4において、実施例1のネブライザー3では、中筒13の先端と外筒12との間のリング状の隙間である噴霧用のガスが流れるガス出口24に対して、キャピラリー管14の先端の液体試料の出口である試料出口25は、噴霧口12bとガス出口24との間に配置されるように設定されている。したがって、実施例1では、非特許文献2に記載された同軸型のネブライザーのように内筒を挟んでガス出口と試料出口とが隣接せず、ガス出口24と試料出口25とが分離された状態で配置されると共に、ガスが流れる方向に対して試料出口25がガス出口24の下流側に配置されている。
なお、試料出口25の位置は、キャピラリー管14の軸方向に対して、ガス出口24と同じ位置、すなわち、面一となる位置から噴霧口12bと塩が析出しない程度の間隔をあけた位置に配置することが可能であり、使用する液体試料の成分やガスの流量等に応じて変更可能である。特に、実施例1では、キャピラリー管14の位置が固定ユニオン16で調整が可能であり、試料出口25の位置を精度良く調整が可能である。
【0032】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のネブライザー3では、噴霧ガスの一例としてのアルゴン(Ar)を噴霧ガス導入部12cから導入されると、キャピラリー管14の先端から液体状の試料が霧状になって、噴霧口12bから気化室4に噴出し、プラズマトーチ6でプラズマ化され、質量分析計7や発光分析装置8で計測、分析がされる。
実施例1のネブライザー3では、外筒12、中筒13、キャピラリー管14の3重管構造となっており、2重管構造の構成に比べて、キャピラリー管14と外筒12との間の隙間を確保しやすい。特に、実施例1では、ガス出口24と試料出口25とが分離された位置に配置されており、液体試料として高塩濃度の溶媒や溶離液を使用しても、試料出口25から噴霧された霧に含まれる塩がガス出口24に析出しにくくなっている。特に、実施例1では、試料出口25がガス出口24よりも、ガスが流れる方向に対して上流側に配置されており、ガス出口24が析出した塩で目詰まりすることが抑制されている。
【0033】
特に、実施例1では、外筒12の先端部12aが先端に近づくに連れて細くなっており、ガス流路R1の断面積はガス出口24に近づくに連れて狭くなっている。したがって、ガス出口24から噴き出すガスの圧力が高くなり、噴霧口12bから噴霧される液滴の径が小さくなりやすく、安定して高効率の噴霧が可能になっている。
したがって、実施例1のネブライザー3では、高電圧を印加して帯電試料を噴霧するエレクトロスプレーイオン技術のように、高電圧の印加が必要なく、特別な配管技術も必要なく、既設のICP−OES/MS装置1に容易に適用可能である。さらに、実施例1のネブライザー3は、キャピラリー管14と外筒12とが同軸に配置された同軸型のネブライザーであり、非特許文献1記載の2軸並行型のネブライザーや試料の流路とガスの流路が90°の角度で直交するクロスフロー型等の従来公知のネブライザーに比べて、取扱も容易であると共に、霧状の液滴が細かくなりやすくて噴霧効率も高く、安定した噴霧が可能となっている。
【0034】
また、実施例1のネブライザー3では、キャピラリー管14が着脱可能に構成されており、着脱不能の構成に比べて、キャピラリー管14の外筒12や噴霧口12bに対する位置の調整(微調整)が可能になっている。したがって、製造時の誤差等で噴霧効率にばらつきが発生することを抑制することが可能になっている。
さらに、中心管14やネブライザー本体11の交換も容易となり、破損や汚染等で消耗した中心管14を容易に交換したり、洗浄を容易に行うことができる。また、試料の特性に応じて適したネブライザーを準備する場合に比べて、実施例1では、試料に応じた中心管14を複数用意して、試料に応じて交換するだけで対応が可能となり、1つのネブライザー本体11で多様な試料に対応することが可能になっている。
【0035】
また、実施例1のネブライザー3では、流体流路R2が設けられており、噴霧口12bに対して、ガス流路R1からの噴霧ガスと、試料流路R3からの試料以外に第3の流体を流すことが可能となっている。したがって、例えば、2つの液体試料の分析を行う場合に、第1の液体試料を試料流路R3から導入して、第2の液体試料を流体流路R2から導入して、噴霧口12bの近傍で2つの液体試料が混合された状態で噴霧することも可能である。
ここで、分析によっては、試料を溶かす溶媒中のNa等の塩濃度を変化させながら試料流路R3を流して、分析を行うことがある。このような分析では、質量分析計7や発光分析計8で計測される測定値に、塩濃度の変化が影響を及ぼしてドリフト(変動)することがある。これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例としてのドリフト補正液を導入して、測定値のドリフトの影響を抑制することも可能になっている。
【0036】
あるいは、非常に高い塩濃度の溶媒を使用する場合、溶媒中の塩が噴霧口12b近傍に析出して、噴霧口12bが目詰まりする可能性もあるが、第3の流体として、塩を溶かす溶媒を流して、析出した塩による悪影響を抑制することも可能である。
あるいは、分析対象の試料がヒ素(As)やセレン(Se)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)の場合には、例えば、第3の流体の一例としての反応性流体の一例としての水素(H)を導入することで、噴霧口12bにおいて化学反応させ、液中のヒ素(As)等を、気体の水素化合物(AsH、SeH、PbH、SbH等)として噴霧し、分析を行うことも可能である。
【実施例2】
【0037】
図5は実施例2のネブライザーの説明図であり、実施例1の図2に対応する図である。
なお、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同様の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
【0038】
図5において、実施例2のネブライザー3′では、内筒31は、実施例1の中筒13と同様に構成された第1の中筒13′と、第1の中筒13′とキャピラリー管14との間に同軸に配置された第2の中筒32とを有する。また、実施例2では、実施例1の固定ユニオン16に替えて、第1の内筒31に対して第2の内筒32を固定するための第1ユニオン16′と、第2の内筒32に対してキャピラリー管14を固定する第2ユニオン16″とが配置されている。なお、各ユニオン16′,16″は、実施例1の固定ユニオン16と同様に構成されている。
【0039】
実施例2の第2の中筒32は、第1ユニオン16′の貫通口を貫通して右端が第1の中筒13′の右端に対応する位置まで延びており、左端部32aには流体が導入可能な第2の流体導入部32bが形成されている。第2の中筒32は、流体導入部32bの左右両側において、スリーブ22と同様に構成されたスリーブ33を介して、各ユニオン16′,16″に着脱可能に支持される。
したがって、実施例2では、外筒12と第1の中筒13′との間にガス流路R1が形成され、第1の中筒13′と第2の中筒32との間に第1の流体流路R2が形成される。そして、第2の内筒32とキャピラリー管14との間に第2の流体流路R4が形成され、キャピラリー管14の内部に試料流路R3が形成される。すなわち、実施例2のネブライザー3′は、4重管構造に構成されている。
【0040】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2のネブライザー3′では、4重管構造となっており、試料流路R3の試料出口25と、ガス流路R1のガス出口24との間隔がさらに確保しやすくなっており、ガス出口24における塩の析出が低減される。
また、実施例2では、ガス流路R1と試料流路R3に加えて、第1の流体流路R2と第2の流体流路R4が設けられており、噴霧用のガスと液体試料に加えて、2種類の流体を流すことができる。したがって、第1の流体流路R2と第2の流体流路R4にも異なる液体試料を流すことで、3種類の液体試料が混合された状態で噴霧口12bから噴霧することも可能である。
【0041】
また、第1の液体流路R2に塩を溶かす溶媒やドリフト補正液を流しながら、第2の流体流路R4に反応性流体の一例としての水素を流して、試料流路R3からの液体試料と化学反応をさせるといった組み合わせも可能になる。
さらに、例えば、第1の液体流路R2に反応性流体の一例としての水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)の水溶液を流し、第2の流体流路R4に反応性流体の一例としてのヨウ化カリウム(KI)の水溶液を流すことで、ヨウ化カリウムによる液体試料の還元と水素化ホウ素ナトリウムから発生する水素(H2)との反応により液中のヒ素(As)等の水素化物を発生させることも可能である。
【0042】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H010)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した具体的な数値や材料については、例示した値や材料に限定されず、設計や仕様、用途等に応じて、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、質量分析計7と発光分析装置8の両方を備えた分析装置1を例示したが、この構成に限定されず、いずれか一方のみとしたり、例示した分析計以外の分析計を設置することも可能である。
(H03)前記実施例において、キャピラリー管14は着脱可能に構成することが望ましいが、着脱不能あるいは製造可能であれば一体形成の構成とすることも可能である。
【0043】
(H04)前記実施例において、液体試料を成分毎に分離して分析を行う場合には、ネブライザー3,3′と試料容器2との間に、クロマトグラフィー等で使用されるカラム(分離カラム)を接続して成分毎に分離した状態で噴霧を行うことも可能である。また、カラムを使用せず、キャピラリー管14の内部に有機モノリスを形成したり、特開2003−151486号公報や特開2005−134168号公報等に記載されたシリカゲル等の充填剤やサイズの異なるポアーが混在する棒状の多孔質体を収容することで、キャピラリー管14内で成分の分離を行って、成分毎に噴霧を行うことも可能である。有機モノリスは、例えば、溶液1[mL]当たり、メタクリル酸グリシジル150[μL]、ジメタクリル酸エチレングリコール50[μL]、1−プロパノール467[μL]、1,4−ブタンジオール266[μL]、水67[μL]、2,2′−アゾビス(イソブチロニトリル)2[mg]を含む溶液をキャピラリー管14内に注入して封止し、60℃で24時間加熱して熱重合した後、メタノールで細孔形成剤を除去することで多孔質の構造体である有機モノリスを形成可能である。有機モノリスや充填剤等の分離媒体をキャピラリー管14に設けた場合、成分が分離されるキャピラリー管14から直接噴霧が可能であり、分離カラムで成分を分離後に、配管を通過する間に、分離した成分が分散する構成に比べて、分散を低減することが可能、すなわち、デッドボリュームをゼロにすることが可能である。なお、分離媒体は、キャピラリー管14の先端まで形成されていることが望ましいが、先端部の手前までに形成したり、キャピラリー管14全体に形成せずに部分的に形成したり等することも可能である。
【0044】
(H05)前記実施例において、プラスに帯電する六価クロムや三価クロムやヒ素(As)、セレン(Se)等を含む試料の分析を行う場合に、これらに対応して、キャピラリー管14内に、陰イオン交換器の化学修飾を行って、クロム(Cr)等の吸着を行って、試料の成分の分離を行うことも可能である。前記変更例(H03)と組み合わせることも可能である。同様に、試料がマイナスに帯電する成分を含む場合には、陽イオン交換器の化学修飾を行うことも可能である。特に、実施例1、2のキャピラリー管14は、着脱可能に構成されており、陰イオン交換器が化学修飾されたキャピラリー管と、陽イオン交換器が化学修飾されたキャピラリー管とを準備しておいて、分析対象の試料に応じてキャピラリー管だけを交換することで、ネブライザー本体11は共用することも可能である。
(H06)前記実施例において、3重管の構成や4重管の構成を例示したが、この構成に限定されず、5重管以上の構成とすることも可能である。
【0045】
(H07)前記実施例において、多糖ゲル等の高粘性試料の分析を行うことも可能である。このような分析では、分析に用いる元素標準液をゲル溶液に混ぜる場合、溶液安定性が保てない場合がある。これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例として水溶液の元素標準液を導入して、同時噴霧することで分析することも可能になっている。
(H08)前記実施例において、有機溶剤試料の分析を行うことも可能である。
有機溶剤は水溶液と表面張力等が異なるため、ネブライザー噴霧で生成する液滴の径の分布が大きく異なり、分析計で得られる感度が大きく異なる。このような分析では、これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例としての感度差補正液を導入して、感度差の影響を抑制することも可能になっている。
同様に、分析に用いる元素標準液を有機溶剤に混ぜる場合、溶液安定性が保てない場合がある。このような分析では、これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例として水溶液の元素標準液を導入して、同時噴霧することで分析することも可能になっている。
【0046】
(H09)前記実施例において、多糖あるいは界面活性剤等の高分子を含む溶離液(移動相液)を分析に用いる場合がある。このような場合でも、多糖あるいは界面活性剤等による目詰まりは抑制される。また、溶離液(移動相液)中の多糖あるいは界面活性剤等の濃度を変化させて分析する場合があり、このような場合、濃度変化が影響を及ぼしてドリフト(変動)することがある。これに対応するために、流体流路R2から第3の流体の一例としてのドリフト補正液を導入して、測定値のドリフトの影響を抑制することも可能になっている。
(H010)前記実施例において、液体状の試料を送液する場合にポンプを配置することも可能である。また、溶離液を送液ポンプで送液し、途中にインジェクタを設けて溶離液に試料を注入する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…分析装置、
3,3′…噴霧器、
6…プラズマ源、
7…質量分析計、
7,8…分析計、
8…発光分析装置、
12…外筒、
12b…噴霧口、
13,31…中筒、
13′…第1の中筒、
14…内筒、
24…ガス出口、
25…試料出口、
32…第2の中筒、
R1…ガス流路、
R2,R4…流体流路、
R3…試料流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部に噴霧口が形成された筒状の外筒と、
前記外筒の内部に同軸に配置され且つ前記外筒との間で噴霧用のガスが流れるガス流路が形成される筒状の中筒と、
前記中筒の内部に同軸に配置され且つ前記中筒との間に隙間をあけて配置された筒状の内筒と、
前記内筒の内部に形成されて前記噴霧口に搬送されて噴霧される液体試料が流れる試料流路と、
前記中筒の先端と前記外筒との間のガス出口に近づくに連れて、断面積が小さくなるように形成された前記ガス流路と、
前記試料流路の一端に形成され、且つ、前記ガス出口と前記噴霧口との間に配置された試料出口と、
を備えたことを特徴とする噴霧器。
【請求項2】
前記外筒に対して着脱可能に支持された前記内筒、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の噴霧器。
【請求項3】
前記外筒との間で前記ガス流路が形成される第1の中筒と、前記第1の中筒と前記内筒との間に配置され且つ前記第1の中筒と隙間をあけて配置された第2の中筒と、を有する前記中筒、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の噴霧器。
【請求項4】
前記中筒と前記内筒との間に形成されて、前記液体試料中の塩濃度の変動を打ち消すドリフト補正液が流される流体流路、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の噴霧器。
【請求項5】
前記中筒と前記内筒との間に形成されて、前記液体試料中の試料と化学反応をする反応性流体が流される流体流路、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の噴霧器。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の噴霧器と、
成分が分離されて前記噴霧器から噴霧された霧状の試料が供給されて、前記試料をプラズマ化するプラズマ源と、
プラズマ化された試料の分析を行う分析計と、
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項7】
質量分析計により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする請求項6記載の分析装置。
【請求項8】
プラズマ化された前記試料からの発光に基づいて、分析を行う発光分析装置により構成された前記分析計、
を備えたことを特徴とする請求項6または7に記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−59031(P2011−59031A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211318(P2009−211318)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、委託研究「中小・ベンチャー企業の検査・計測機器等の調達に向けた実証研究事業/産業技術研究開発事業/高効率試料導入インターフェースの開発及び高度化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【Fターム(参考)】