説明

噴霧測定方法及び噴霧測定装置

【課題】噴射装置から噴射される流体の噴射方向を精度良く測定することができる噴霧測定方法を提供する。
【解決手段】制御装置10は、実空間上で噴口32から燃料を噴射した際に面状光20上に形成される噴霧断面画像40を取得するとともに、仮想空間上において、噴口32を基点とする円錐状の噴霧モデル25を定義して当該噴霧モデル25に2次元ガウス分布等からなる濃度分布を付与し、噴霧モデル25の角度を変化させて当該角度毎に噴霧モデル25が面状光20上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像26としてそれぞれ演算し、噴霧断面画像40上で抽出した噴霧領域23内で各疑似噴霧像26とのマッチングを行い、噴霧断面画像40上のパターンと最も一致する疑似噴霧像26に対応する噴霧モデル25の中心軸Omの指向方向を燃料の噴射方向として特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジェクタから噴射された流体の噴霧状態を測定する噴霧測定方法及び噴霧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディーゼルエンジンや直噴式のガソリンエンジン等においては、筒内に噴射される燃料の噴射方向が大きな意味を持つ。このため、この種のエンジンにおいては、燃料噴射弁(インジェクタ)から噴射される燃料の噴射方向を正確に把握することが要求されている。
【0003】
インジェクタの燃料噴射方向を測定するための技術として、例えば、特許文献1には、インジェクタの噴射口(ノズル)から噴射方向に延びる噴射口軸線に対し垂直に面状光を照射するとともに、面状光に対してある一定の角度を持たせたビデオカメラを設置し、面状光上に生じた噴霧断面像をビデオカメラで撮像して当該噴霧断面像の輝度がピークとなる画素を噴霧中心として定義し、その噴霧中心と噴口との位置関係から噴霧角を算出する技術が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献1の技術では、噴霧断面像を記録した噴霧画像データから輝度ピークを算出する処理方法として以下の手順を採用している。
【0005】
すなわち、先ず、噴霧画像データの各画素において、複数枚の噴霧画像データを輝度値の加算平均を行う。次いで、ある一定輝度以下となる画素データを削除し、噴霧画像データ上に噴霧断面像のみを抽出して、その輪郭を抽出する。次いで、輪郭の中心を基準として、面状光に対するビデオカメラの角度に応じた回転処理を施すことで、面状光に対して垂直な位置から撮影した噴霧画像データを生成する。そして、噴霧画像データ内の、輪郭により定義された噴霧断面像内における輝度値が最高となる画素を選択し、これを噴霧中心として定義する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−148599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術は、計測時の各種設定等によっては噴霧中心を厳密に特定することが困難となる虞がある。具体的には、例えば、面状光のセッティング、ビデオカメラのセッティング、或いは、噴霧の液滴密度等の各種条件に起因して噴霧断面像上の噴霧中心付近の画素にサチュレーションが発生した場合等に、輝度値が最高となる画素が複数出現して噴霧中心を厳密に特定することが困難となる虞がある。また、例えば、複数の噴口から噴射された噴霧が互いに近接している場合等においては、噴霧毎に個別に抽出されるべき複数の噴霧断面像が1つの噴霧断面像として抽出される場合があり、このような場合にも噴霧中心を厳密に特定することが困難となる虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、噴射装置から噴射される流体の噴射方向を精度良く測定することができる噴霧測定方法及び噴霧測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定方法であって、前記ノズルの中心軸に垂直な面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手順と、仮想空間上において、前記噴口を基点とする円錐状の噴霧モデルを定義し、その中心軸から離間するにつれて重みが減少する濃度分布を前記噴霧モデルに付与するとともに、前記噴霧モデルの角度を変化させて当該角度毎に前記噴霧モデルが前記面状光上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像としてそれぞれ演算する疑似噴霧像演算手順と、前記噴霧断面画像上の所定領域内で前記各疑似噴霧像とのマッチングを行い、前記噴霧断面画像と最も一致する前記疑似噴霧像に対応する前記噴霧モデルの中心軸の指向方向を前記流体の噴射方向として特定する噴射方向演算手順と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定装置であって、前記ノズルの中心軸に垂直な面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手段と、仮想空間上において、前記噴口を基点とする円錐状の噴霧モデルを定義し、その中心軸から離間するにつれて重みが減少する濃度分布を前記噴霧モデルに付与するとともに、前記噴霧モデルの角度を変化させて当該角度毎に前記噴霧モデルが前記面状光上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像としてそれぞれ演算する疑似噴霧像演算手段と、前記噴霧断面画像上の所定領域内で前記各疑似噴霧像とのマッチングを行い、前記噴霧断面画像と最も一致する前記疑似噴霧像に対応する前記噴霧モデルの中心軸の指向方向を前記流体の噴射方向として特定する噴射方向演算手段と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、噴射装置から噴射される流体の噴射方向を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】噴霧測定装置の概略構成図
【図2】画像補正のための計測系を示す説明図
【図3】(a)は撮影によって取得した噴霧断面画像の一例を模式的に示す説明図であり(b)は面状光強度補正用のミスト画像の一例を示す説明図であり、(c)は撮影された格子画像の一例を模式的に示す説明図であり(d)は実空間座標系に変換した(c)の格子画像を模式的に示す説明図であり(e)は(c)と(d)との関係に基づいて歪み補正した(a)の噴霧断面画像を示す説明図であり(f)は加算平均処理後の噴霧断面画像を示す説明図
【図4】噴霧方向評価ルーチンを示すフローチャート
【図5】噴霧断面画像取得サブルーチンを示すフローチャート
【図6】面状光強度分布補正処理サブルーチンを示すフローチャート
【図7】噴霧断面画像歪み補正処理サブルーチンを示すフローチャート
【図8】噴霧角算出処理サブルーチンを示すフローチャート
【図9】疑似噴霧像の概念図
【図10】ガウス分布で近似した燃料濃度分布の一例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は噴霧測定装置の概略構成図、図2は画像補正のための計測系を示す説明図、図3(a)は撮影によって取得した噴霧断面画像の一例を模式的に示す説明図であり(b)は面状光強度補正用のミスト画像の一例を示す説明図であり、(c)は撮影された格子画像の一例を模式的に示す説明図であり(d)は実空間座標系に変換した(c)の格子画像を模式的に示す説明図であり(e)は(c)と(d)との関係に基づいて歪み補正した(a)の噴霧断面画像を示す説明図であり(f)は加算平均処理後の噴霧断面画像を示す説明図、図4は噴霧方向評価ルーチンを示すフローチャート、図5は噴霧断面画像取得サブルーチンを示すフローチャート、図6は面状光強度分布補正処理サブルーチンを示すフローチャート、図7は噴霧断面画像歪み補正処理サブルーチンを示すフローチャート、図8は噴霧角算出処理サブルーチンを示すフローチャート、図9は疑似噴霧像の概念図、図10はガウス分布で近似した燃料濃度分布の一例を示す説明図である。
【0014】
図1に示す噴霧測定装置1は、噴射装置の一例であるエンジンのインジェクタ30から噴射された燃料(流体)の噴霧を測定する。本実施形態で示すインジェクタ30は、例えば、ガソリンエンジン或いはディーセルエンジンの筒内に燃料を噴射するものであり、このインジェクタ30は、ノズル31の先端部に複数(例えば、5個)の噴口32を有する。
【0015】
噴霧測定装置1は、面状光20を発生する光源装置5と、面状光20に対して設定距離離間した位置にインジェクタ30を保持する保持機構6と、面状光20を撮像する撮像装置7と、面状光20に対してミスト21を発生するミスト発生器8と、これらを統括して制御する制御装置10とを備えて要部が構成されている。
【0016】
光源装置5は、例えば、半導体レーザ光源の前方にコリメータレンズ、絞り、円筒レンズ(何れも図示せず)等を配置して要部が構成されている。この光源装置5は、例えば、光軸Olが水平方向に指向するようセットされ、水平方向に扇状に拡開する光スクリーン状の面状光20を発生する(図1,2参照)。
【0017】
保持機構6は、例えば、インジェクタ30を保持する略円板状の保持プレート6aを有する。この保持プレート6aは、例えば、面状光20(光軸Ol)に直交する鉛直方向下向きにノズル31の中心軸Onを指向させた状態で、インジェクタ30を保持する。また、保持プレート6aには、例えば、ステッピングモータ等を内蔵する駆動ユニット6bが連設されている。そして、駆動ユニット6bによって保持プレート6aが回動動作されることにより、保持機構6は、インジェクタ30をノズル31の中心軸On周りに回動させることが可能となっている。
【0018】
なお、本実施形態においては、例えば、図2に示すように、ノズルの中心軸On方向をZ軸方向として定義する。また、Z軸に直交する方向であって且つ光源装置5の光軸Olに平行な方向をX軸として定義し、これらX軸及びZ軸に直交する方向をY軸として定義する。
【0019】
撮像装置7は、固体撮像素子(CCD)等を内蔵して要部が構成されている。この撮像装置7は、例えば、面状光20に対して上方に設定距離離間した位置に配置されている。また、撮像装置7の光軸Ocは、例えば、ノズル31の中心軸Onと光源装置5の光軸Olとの交点を基点として当該光軸Olを上方に設定角度(例えば45°)傾斜させた方向に設定されている。
【0020】
制御装置10は、図示しないCPU、RAM及びROM等を有するマイクロコンピュータを中心として構成されている。制御装置10のROMには、インジェクタ30のノズル31の各噴口32から噴射される燃料の噴射方向を測定するためのプログラムが予め設定されて格納されており、制御装置10は、このプログラムに従って燃料噴射方向の測定を行う。
【0021】
すなわち、制御装置10は、インジェクタ30から燃料を噴射させ、面状光20上での反射によって可視化された燃料を撮像装置7で撮像する。そして、制御装置10は、撮像画像(噴霧断面画像)に対し各種補正等の処理を行うことにより、インジェクタ30から面状光20に噴射される燃料の噴霧断面画像を取得する(噴霧断面画像取得手順)。
【0022】
また、制御装置10は、例えば、図9に示すように、仮想空間上において、噴口32を基点とする円錐状の擬似的な噴霧モデル25を定義し、その中心軸から離間するにつれて重みが減少する擬似的な流体(燃料)の濃度分布を噴霧モデル25に付与する。そして、制御装置10は、ノズル31の中心軸Onに対する噴霧モデル25の中心軸Omの角度(θx,θy)を変化させ、当該角度(θx,θy)毎に噴霧モデル25が面状光20上に形成し得る濃度分布(重み分布)を疑似噴霧像としてそれぞれ演算する(疑似噴霧像演算手順)。
【0023】
そして、制御装置10は、実際の噴霧断面画像上の設定領域内で各疑似噴霧像とのマッチングを行い、噴霧断面画像と最も一致する疑似噴霧像に対応する噴霧モデル25の中心軸Omの指向方向を噴口32からの燃料の噴射方向として特定する(噴霧方向演算手順)。
【0024】
このように、本実施形態において、制御装置10は、噴霧断面画像取得手段、技受噴霧像演算手段、及び、噴射方向演算手段としての各機能を実現する。
【0025】
次に、制御装置10で実行される燃料の噴霧方向評価について、図4に示す噴霧方向評価ルーチンのフローチャートに従って具体的に説明する。
このルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS101において、噴霧断面画像35a(図3(a)参照)の取得を行う。この噴霧断面画像35aの取得は、例えば、図5に示す噴霧断面画像取得サブルーチンのフローチャートに従って実行され、このサブルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS201において、インジェクタ30に対する燃料噴射指示を行う。
【0026】
そして、ステップS201からステップS202に進むと、制御装置10は、燃料噴射を指示してからの設定時間Δt(例えば、Δt=1.5msecのディレイ時間)が経過したか否かを調べる。具体的には、例えば、燃焼噴射を指示した時刻をt1とした場合において、制御装置10は、現時刻tがt1+Δtであるか否かの判断を行う。
【0027】
そして、ステップS202において、制御装置10は、現時刻tがt1+Δtに達するまではそのまま待機し、現時刻tがt1+Δtに達したと判断すると、ステップS203に進む。
【0028】
ステップS202からステップS203に進むと、制御装置10は、撮像装置7を駆動して噴霧断面画像を撮影すると共に、当該噴霧断面画像を記録する。すなわち、制御装置10は、面状光20が横切ることによって可視化された噴霧の断面像を撮像装置7を通じて撮像し、撮像した噴霧断面画像をRAM内に記録する。
【0029】
ステップS203からステップS204に進むと、制御装置10は、現在の撮像回数Nが予め設定された回数Nimageを上回ったか否かを調べ、撮像回数Nが設定回数Nimage未満であると判定した場合、ステップS201に戻る。
【0030】
一方、ステップS204において、撮像回数Nが設定回数Nimageを上回ったと判定すると、制御装置10は、ステップS205に進み、ステップS203で撮像したNimage枚の噴霧断面画像を用いた加算平均処理を行うことで噴霧断面画像35aを取得した後、サブルーチンを抜ける。
【0031】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS101からステップS102に進むと、制御装置10は、保持機構6を駆動し、インジェクタ30をノズル31の中心軸On周りに180°回転させた後、ステップS103に進み、上述のステップS101と同様の処理により、噴霧断面画像35bを取得する。
【0032】
この場合において、本実施形態の計測系は、撮像装置7が面状光20に対して所定距離離間されており、且つ、撮像光軸Ocが面状光20に対して傾斜されているため、取得した噴霧断面画像35a,35b上の各噴霧断面像は所定の歪みを有する。また、面状光20は扇状に放射されており、その強度に勾配を有するため、取得した噴霧断面画像35a,35bは、輝度に所定の勾配を有する。
【0033】
ステップS103からステップS104に進むと、制御装置10は、ステップS101及びステップS103で取得した噴霧断面画像35a,35bに対し、面状光20の強度分布に起因する輝度勾配の補正処理をそれぞれ行う。この補正処理は、例えば、図6に示す面状光強度分布補正処理サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、このサブルーチンがスタートすると、制御装置10は、ステップS301において、ミスト発生器8を駆動してミスト21を発生させ(図2参照)、続くステップS302において、光源装置を駆動して面状光20の照射を行う。ここで、本実施形態において、ミスト発生器8から供給されるミスト21は、インジェクタ30から噴射される燃料噴霧と異なり、面状光20上の被撮像領域に対し、均一且つ継続的に供給されるものである。
【0034】
そして、ステップS303に進むと、制御装置10は、撮像装置7を駆動し、面状光20上で可視化されたミスト断面をミスト画像として撮像するとともに、当該ミスト画像をRAM内に記録する。
【0035】
ステップS303からステップS304に進むと、制御装置10は、現在の撮像回数Nが予め設定された回数Nimageを上回ったか否かを調べ、撮像回数Nが設定回数Nimage未満であると判定した場合、ステップS303に戻る。
【0036】
一方、ステップS304において、撮像回数Nが設定回数Nimageを上回ったと判定すると、制御装置10は、ステップS305に進み、撮像した各ミスト画像を用いた加算平均処理を行うことで、ミスト画像36(図3(b)参照)を取得する。
【0037】
そして、ステップS305からステップS306に進むと、制御装置10は、ミスト画像36上の最高輝度値を抽出し、当該最高輝度値を各画素の輝度値で除することにより、各画素に対応する面状光強度補正係数の分布(固有度分布補正係数)を算出する。
【0038】
そして、ステップS306からステップS307に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像35a,35bに固有度分布補正係数を乗算することにより、噴霧断面画像35a,35bに対する輝度補正を行った後、サブルーチンを抜ける。
【0039】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS104からステップS105に進むと、制御装置10は、ステップS104で輝度補正した噴霧断面画像35a,35bに対して歪み補正処理をそれぞれ行う。この歪み補正処理は、例えば、図7に示す噴霧断面画像歪み補正処理サブルーチンのフローチャートに従って実行される。ここで、このサブルーチンの実行に先立ち、噴霧測定装置1には、面状光20と同一平面上の設定位置に、参照格子22がセットされる(図2参照)。そして、サブルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS401において、撮像装置7を駆動し、参照格子画像37(図3(c)参照)を撮像するとともに、当該参照格子画像37をRAM内に記録する。
【0040】
そして、ステップS402に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像35a,35bを実空間座標系に対応した噴霧断面画像に変換するための変換関数を算出する。すなわち、ステップS401で取得した参照格子画像37は、面状光20(参照格子22)に対して垂直でない位置から取得されるため、図3(c)に示すような歪みが存在するが、参照格子22の格子間隔が既知であることを利用すれば、当該歪みを補正することが可能である。そこで、制御装置10は、撮像した参照格子画像37を、所定の解像度で、実空間座標系の参照格子画像38(図3(d)参照)に変換することで、実空間座標系への変換関数を算出する。
【0041】
そして、ステップS403に進むと、制御装置10は、ステップS402で算出した変換座標を用いて、噴霧断面画像35a,35bから実空間座標系における噴霧断面画像39a,39b(図3(e)参照)をそれぞれ算出し、続くステップS404において、算出した噴霧断面画像39a,39bを画像データ化した後、サブルーチンを抜ける。これにより、ステップS101及びステップS103で取得した噴霧断面画像35a,35bの歪みを的確に除去することが可能となる。
【0042】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS105からステップS106に進むと、制御装置10は、噴霧断面画像39a,39bのうちの何れか一方(例えば、噴霧断面画像39b)を180°回転させ、これらに対する加算平均処理を行うことにより、最終的な噴霧断面画像40(図3(f)参照)を取得する。
【0043】
そして、ステップS106からステップS107に進むと、制御装置10は、ステップS106で取得した噴霧断面画像40を用いてインジェクタ30の噴霧角算出処理を行う。この噴霧角算出処理は、例えば、図8に示す噴霧角算出サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、このサブルーチンがスタートすると、制御装置10は、先ず、ステップS501において、噴霧断面画像40に対する2値化処理を行う。すなわち、制御装置10は、以後の演算負荷の軽減等を図るべく、噴霧断面画像上の各画素の輝度を調べ、例えば、輝度が設定閾値以上である画素の輝度を「1」とし、設定閾値以下である画素の輝度を「0」とする2値化処理を行う。
【0044】
そして、ステップS501からステップS502に進むと、制御装置10は、2値化された噴霧断面画像40上において、例えば、輝度が「1」となる画素が設定密度以上で分布する所定領域を噴霧領域23として抽出する。この場合、例えば、ノズル31上の5箇所に噴口32が開口するインジェクタ30を被検査対象とする本実施形態では、通常、噴霧断面画像上の5箇所に噴霧領域23が抽出される。
【0045】
そして、ステップS502からステップS503に進むと、制御装置10は、抽出した噴霧領域23の中から一の噴霧領域23を選択し、続くステップS504において、噴口32から噴射領域上の点までの角度(θx,θy)の最小値を初期値として設定する。
【0046】
そして、ステップS504からステップS505に進むと、制御装置10は、仮想空間上において、噴口32から燃料が噴射角(θx,θy)で噴射されたと仮定したときの面状光20上に形成され得る噴霧像(疑似噴霧像26)を演算する。
【0047】
すなわち、ステップS505において、制御装置10は、噴口32から延在する中心軸Omの角度が(θx,θy)となる円錐状の噴霧モデル25(図9参照)を定義し、この噴霧モデル25に対し、その中心軸Omから離間するにつれて重みが減少する濃度分布を付与する。なお、この濃度分布としては、例えば、2次元ガウス分布(図10参照)等を好適に用いることが可能である。そして、制御装置10は、噴霧モデル25が面状光20上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像26として算出する。
【0048】
そして、ステップS505からステップS506に進むと、制御装置10は、周知の畳み込み演算等により、噴霧断面画像と疑似噴霧像26との相互相関係数C(θx,θy)を算出する。より具体的には、制御装置10は、疑似噴霧像26に対応する領域の噴霧断面画像上の像(噴霧断面像)の輝度分布と、疑似噴霧像26の濃度分布(輝度分布)との相互相関係数C(θx,θy)を算出する。
【0049】
そして、ステップS507に進むと、ステップS506で今回算出した相互相関係数Cが前回までの相互相関係数の最大値Cmaxよりも大きいか否かを調べ、今回算出した相互相関係数Cが前回までの相互相関係数の最大値Cmax以下である場合、制御装置10は、そのままステップS510にジャンプする。
【0050】
一方、ステップS507において、今回算出した相互相関係数Cが前回までの最大値Cmaxよりも大きい場合、制御装置10は、ステップS508に進み、相互相関係数の最大値Cmaxを今回算出した相互相関係数Cで更新し、続くステップS509において、相互相関係数Cの最大値に対応する中心軸Omの角度(θcx,θcy)を今回の中心軸の角度(θx,θy)で更新した後、ステップS510に進む。
【0051】
そして、ステップS507或いはステップS509からステップS510に進むと、制御装置10は、中心軸Omの角度(θx,θy)の値を更新した後、ステップS511に進む。なお、この角度(θx,θy)の更新では、X軸方向の角度θx或いはY軸方向の角度θyを噴霧領域23内で順次微小角度Δθ(例えば、Δθ=0,1°)ずつ変化させることにより行われる。
【0052】
そして、ステップS510からステップS511に進むと、制御装置10は、現在選択中の噴霧領域23内において、角度(θx,θy)を微小角度Δθずつ変化させた全ての組合せについて相互相関係数Cの演算が終了したか否かを調べ、未だ全角度の組合せについて演算がなされていないと判定した場合、制御装置10は、ステップS505に戻る。
【0053】
一方、ステップS511において、現在選択中の噴霧領域23内の全角度の組合せについて相互相関係数Cの演算がなされたと判定した場合、制御装置10は、ステップS512に進み、現在の相互相関係数の最大値Cmaxに対応する角度(θcx,θcy)によって中心軸Omが指向する方向を、該当する噴口32からの噴射方向として特定するとともに、相互相関係数の最大値Cmaxをクリアする。
【0054】
そして、ステップS512からステップS513に進むと、制御装置10は、全ての噴霧領域23で噴射方向の特定が行われたか否かを調べる。
【0055】
そして、ステップS512において、全ての噴霧領域23で噴射方向の特定が行われていないと判定した場合、制御装置10は、ステップS505に戻る。
【0056】
一方、ステップS513において、全ての噴霧領域23で噴射方向の特定が行われたと判定した場合、制御装置10は、サブルーチンを抜ける。
【0057】
図4のメインルーチンにおいて、ステップS107からステップS108に進むと、制御装置10は、各噴口32の噴射方向が予め設定された公差内であるか否かを調べ、全ての噴射方向が公差内である場合にはステップS109に進み、現在の被検査対象のインジェクタ30は正常品であると判断した後、ルーチンを抜ける。一方、ステップS108において、少なくとも何れか1つの噴口32の噴射方向が公差外にある場合には、制御装置10は、ステップS110に進み、現在の被検査対象のインジェクタ30は異常品であると判断した後、ルーチンを抜ける。
【0058】
このような実施形態によれば、実空間上で噴口32から燃料を噴射した際に面状光20上に形成される噴霧断面画像40を取得するとともに、仮想空間上において、噴口32を基点とする円錐状の噴霧モデル25を定義して当該噴霧モデル25に2次元ガウス分布等からなる濃度分布を付与し、噴霧モデル25の角度を変化させて当該角度毎に噴霧モデル25が面状光20上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像26としてそれぞれ演算し、噴霧断面画像40上で抽出した噴霧領域23内で各疑似噴霧像26とのマッチングを行い、噴霧断面画像40上のパターンと最も一致する疑似噴霧像26に対応する噴霧モデル25の中心軸Omの指向方向を燃料の噴射方向として特定することにより、インジェクタ30から噴射される燃料の噴射方向を精度良く測定することができる。
【0059】
すなわち、本実施形態の燃料噴射方向の特定は、噴霧断面画像上で最高輝度となる画素を断順に検索するピーク値検出ではなく、輝度分布マッチングによるピーク値検出によって行うものであるため、ノイズや最高輝度値が複数存在する画像に対してもロバスト性があり、また、サブピクセルのピーク検出分解能を有するため高精度である。さらに、噴霧が近接している場合においても、好適なピーク検出を実現することができる。
【0060】
この場合において、例えば、上述のステップS101,S103,S104等の処理で示したように、撮像を複数回(Nimage回)に亘って行い、複数枚の画像データを加算平均処理することにより、安定した噴霧断面画像35a,35bやミスト画像36等を得ることができる。
【0061】
また、例えば、上述のステップS101,S103等の処理で示したように、インジェクタ30に対して燃料噴射を指示してからディレイ時間Δt経過後に撮像を行うので、好適な噴霧断面画像の撮像を行うことができる。
【0062】
また、例えば、上述のステップS101,S103等の処理で示したように、インジェクタ30の配置がノズル31の中心軸On周りに180°相違するときの各噴霧断面画像35a,35bをそれぞれ取得し、ステップS106において、これらを加算平均処理して最終的な噴霧断面画像を得ることにより、光源装置5からの距離に応じた面状光20の強度の減衰による影響が緩和された噴霧断面画像を取得することができる。
【0063】
さらに、例えば、ステップS104等の処理で示したように、面状光20が照射される空間に対して、例えば、水ミスト等の均一な噴霧を供給してミスト画像36を取得し、このミスト画像36上の最高輝度値で正規化した強度分布によって噴霧断面画像35a,35bの輝度補正を行うことにより、面状光20の強度分布の影響を的確に噴霧断面画像35a,35bから除去することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 …噴霧測定装置
5 … 光源装置
6 … 保持機構
6a … 保持プレート
6b … 駆動ユニット
7 … 撮像装置
8 … ミスト発生器
10 … 制御装置(噴霧断面画像取得手段、疑似噴霧像演算手段、噴射方向演算手段)
20 … 面状光
21 … ミスト
22 … 参照格子
23 … 噴霧領域
25 … 噴霧モデル
26 … 疑似噴霧像
30 … インジェクタ
31 … ノズル
32 … 噴口
35a,35b … 噴霧断面画像
36 … ミスト画像
37 … 参照格子画像
38 … 参照格子画像
39a,39b … 噴霧断面画像
40 … 噴霧断面画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定方法であって、
前記ノズルの中心軸に垂直な面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手順と、
仮想空間上において、前記噴口を基点とする円錐状の噴霧モデルを定義し、その中心軸から離間するにつれて重みが減少する濃度分布を前記噴霧モデルに付与するとともに、前記噴霧モデルの角度を変化させて当該角度毎に前記噴霧モデルが前記面状光上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像としてそれぞれ演算する疑似噴霧像演算手順と、
前記噴霧断面画像上の所定領域内で前記各疑似噴霧像とのマッチングを行い、前記噴霧断面画像と最も一致する前記疑似噴霧像に対応する前記噴霧モデルの中心軸の指向方向を前記流体の噴射方向として特定する噴射方向演算手順と、を備えたことを特徴とする噴霧測定方法。
【請求項2】
前記疑似噴霧像演算手順は、前記噴霧モデルの濃度分布を2次元ガウス分布に基づいて設定することを特徴とする請求項1記載の噴霧測定方法。
【請求項3】
前記噴射方向演算手段は、前記噴霧断面画像に対する前記各疑似噴霧像の相互関係係数を演算し、当該相互関係係数が最大となる前記疑似噴霧像に対応する前記噴霧モデルの中心軸の指向方向を前記流体の噴射方向として特定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の噴霧測定方法。
【請求項4】
前記噴霧方向演算手段で特定した前記流体の噴射方向が予め設定された範囲外にあるとき、該当する前記噴射装置を異常品として検出する異常品検出手順を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の噴霧測定方法。
【請求項5】
噴射装置のノズルに開口する噴口から噴射された流体の噴射方向を測定する噴霧測定装置であって、
前記ノズルの中心軸に垂直な面状光に対して前記噴口から流体を噴射した際に前記面状光上に形成される噴霧断面画像を取得する噴霧断面画像取得手段と、
仮想空間上において、前記噴口を基点とする円錐状の噴霧モデルを定義し、その中心軸から離間するにつれて重みが減少する濃度分布を前記噴霧モデルに付与するとともに、前記噴霧モデルの角度を変化させて当該角度毎に前記噴霧モデルが前記面状光上に形成し得る濃度分布を疑似噴霧像としてそれぞれ演算する疑似噴霧像演算手段と、
前記噴霧断面画像上の所定領域内で前記各疑似噴霧像とのマッチングを行い、前記噴霧断面画像と最も一致する前記疑似噴霧像に対応する前記噴霧モデルの中心軸の指向方向を前記流体の噴射方向として特定する噴射方向演算手段と、を備えたことを特徴とする噴霧測定装置。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−43477(P2011−43477A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193437(P2009−193437)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】