説明

噴霧腐食試験装置

【課題】試験槽内で生成させた腐食液のミストが前記試験槽外に漏洩するのを防止し、省エネルギーで、再現性と作業性の優れた試験ができる、水による密閉シール構造を具備した噴霧腐食試験装置を提供すること。
【解決手段】ウォーターシール方式を用いた噴霧腐食試験装置において、前記試験槽の上蓋の下方周縁部と前記前記試験槽の溝部の底部とのどちらか一方又は両方に多孔質吸水性物質を取り付け、前記溝部の底部を前記試験槽内部に向かって下方傾斜させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、めっき、陽極酸化皮膜など表面処理された各種工業材料の耐食性について調べる試験装置に関する。より詳細には、試験槽内で生成させた腐食液のミストが前記試験槽外に漏洩するのを防止する水による密閉シール構造を具備した試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性を調べる噴霧腐食試験装置は、所定の腐食液、例えば、中性5%塩水、5%塩水に塩化第2銅、氷酢酸を添加したpH3のキャス液、硫酸や硝酸を含有する人工酸性雨液などをミストにして試験槽内に充満させ、前記試験槽内に載置された試験片面に微細な腐食液の液粒を形成させて前記試験片の腐食を促進させている。
【0003】
このミストは噴霧ノズルにより噴霧塔を介して供給され、前記試験槽内の隅々に降りかかる。供給は連続して行なわれるため前記試験槽内は腐食液のミストが充満した状態となる。したがって、通常試験槽底部の排気口から腐食液のミストの一部が徐々に排気されていくが、前記試験槽の上蓋と、前記試験槽との密閉が充分でないと腐食液のミストがシール部を通して前記試験槽外に漏洩し、装置周辺にある物質を劣化させてしまう恐れがある。
【0004】
試験槽の上蓋と前記試験槽との密閉方法としては、嵌合部にパッキンを用いたドライタイプ方法や、試験槽の上蓋と前記試験槽が嵌合する嵌合溝部に水を溜めるウォーターシール方式を用いた方法などが採用されてきた。
【0005】
このウォーターシール方式は、箱型の前記試験槽の上方周縁部上端にU字状溝部を形成し、前記溝部に水を貯溜させた上で、前記上蓋が嵌入することによって、前記試験槽外に腐食液のミストが流出するのを防止するものであり、前記溝部の余分な水を排水する機構や、前記溝部に多孔質吸水性物質からなる材質のものを敷き詰めて、これに注水し、前記上蓋を嵌入することで腐食液のミストの漏洩を防ぐ構造を有したものもある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】実公昭55−44203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ドライタイプのパッキンを使用した密閉方式ではパッキンの材質や嵌合状態、塩分も原因した長時間の使用によるパッキンの劣化や変形で試験槽の上蓋と前記試験槽が完全にシールされずに腐食液のミストが漏洩してしまうことがあった。
【0007】
また、従来のウォーターシール方式では、試験槽内の設定温度が外気の温度よりも高いときには、外気により溝部に入った水が冷やされ、その冷やされた水により前記試験槽内の熱が奪われてしまい、ウォーターシール部に隣接した前記試験槽の内壁が冷却され、前記試験槽内を設定温度に維持するために無駄な電力を消費していた。また、試験槽内の温度分布も安定しないことがあった。
【0008】
また、上蓋を持ち上げた時にその過程で前記上蓋周縁部に付着した水滴が試験片面に落下し、前記試験片が本来の噴霧による腐食ではなく、異常な腐食を起こしてしまうことがあった。また、水の表面張力により、前記上蓋を持ち上げる時に水から前記上蓋周縁部が出るために大きな力が必要となり作業性が悪かった。また、急に前記上蓋が閉まった場合には水が前記試験槽の周囲に飛び散ることや、前記試験槽内部に飛び散って前記試験片にかかってしまうことがあった。
【0009】
また、溝部に多孔質吸水性物質を敷き詰めたウォーターシール方式のものでも前記溝部に水が滞留するような状況にあるときには同様の問題が起こっていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
噴霧装置が載置された試験槽と前記試験槽の上部を覆う上蓋とからなり、前記試験槽の上方周縁部に設けた溝部に水を供給し、前記溝部の水分を介在させて前記試験槽と前記上蓋との嵌合部から前記試験槽内で生成させた腐食液のミストが漏洩するのを防止する噴霧腐食試験装置において、前記上蓋の下方周縁部と前記溝部の底部とのどちらか一方又は両方に多孔質吸水性物質を取り付け、前記溝部の底部を前記試験槽内部に向かって下方傾斜させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の噴霧腐食試験装置は、試験槽の上蓋と溝部とのどちらか一方又は両方に多孔質吸水性物質を取り付けることで、前記溝部と前記上蓋との嵌合部の水深が浅くても水分を含んだ前記多孔質吸水性物質により密閉状態を保つことができる。また、水分は前記多孔質吸水性物質に保持されるため、前記上蓋を持ち上げたときに水滴が落下することはない。
【0012】
また、前記多孔質吸水性物質を取り付け、ウォーターシール方式を行うことで、前記溝部と前記上蓋の嵌合状態によって隙間が生じてしまうことはなく、前記多孔質吸水性物質が変形してしまった場合にも、前記溝部の底部の水中に前記多孔質吸水性物質の下部が没していることと前記多孔質吸水性物質内に水分が潜在していることによって腐食液のミストが漏洩することはない。
【0013】
また、嵌合部に前記多孔質吸水性物質を用いることにより、前記溝部の水の移動がほとんどなくなり、そのことにより熱の移動もなくなるため熱リークが抑えられ、前記溝部の水によって前記試験槽内の熱が奪われることがなく、従来のウォーターシール方式に比べて省エネルギーにつながる。
【0014】
また、前記溝部の水深を浅くしていることと、前記上蓋と前記溝部の間に存在している前記多孔質吸水性物質が前記上蓋を開閉する時の衝撃を吸収することで、前記溝部の水が周囲や前記試験槽内部に飛び散ることがなく、前記溝部の底部の水中には前記多孔質吸水性物質の下部のみが没しているため、前記上蓋を持ち上げる時の水の表面張力は起こらないので、前記上蓋の開閉に不要な力がいらず作業性が良くなる。
【0015】
また、前記溝部が前記試験槽内部に向かって傾斜していることで、傾斜上部の前記多孔質吸水性物質は水中に浸漬している部分が少なく、傾斜下部に向かうにつれて前記多孔質吸水性物質が水中に浸漬している部分が多くなり、前記溝部の水深が浅くても、微妙な水量の変動があった場合に、前記多孔質吸水性物質に水が供給されないという問題は起こらず、腐食液のミストが漏洩することはない。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の噴霧腐食試験装置1の全体構成図である。本発明の噴霧腐食試験装置1は試験槽2、制御盤3、及び腐食液供給タンク4を主要素として構成されている。試験槽2には内部を蓋う上蓋5が配置され、試験槽2の内部には腐食液を噴霧粒子に変える噴霧塔6と試験片7が載置されている。
【0018】
上蓋5は試験槽2を閉じるため、その下方周縁部8が、箱状の試験槽2の上方四周縁部9の溝部10に嵌入し、噴霧されたミストが設置環境に漏洩しないようになっている。なお、上蓋5の形状は試験槽内に載置された試験片7全面に形成された微細な腐食液の液粒を上蓋5の内壁天井部からの液滴で壊すことがないように、傾斜角を約40度とした断面三角形状が好適である。
【0019】
図2は本発明の実施例1を示した図である。溝部10には多孔質吸水性物質11が上部断面を水平にした状態で敷き詰められており、そこに水12が供給されている。多孔質吸水性物質11は保水力のある材質で、ここでは含水率約5%から10%のものを使用する。溝部10に供給された水12の水面は多孔質吸水性物質11の上部断面よりも下方に位置しており、上蓋5の下方周縁部8が多孔質吸水性物質11に沈み込むように嵌入することによって、上蓋5と溝部10は、多孔質吸水性物質11が保持している水分によって試験槽2内部と外部を完全にシールするため、試験槽2内の腐食液のミストが試験槽2外へ漏洩することがない構造である。また、溝部10に用いられている水分は多孔質吸水性物質11に保持されるので、上蓋5の開閉時に上蓋5周縁部に付着した水が落下することはない。
【0020】
また、溝部10の底部は試験槽2内部に向かって下方傾斜しているため、溝部10傾斜上方と下方で多孔質吸水性物質11が水中に沈んでいる面積が異なり、微妙な水量の変動があった場合にも、多孔質吸水性物質11は傾斜下方に位置する部分から保水されるため、含水率が低下することはない。また、図には示していないが溝部10の一部に排水機構が設けてあり、溝部10の水が一定量を超えた場合には排水される構造である。
【実施例2】
【0021】
次に図3ないし図4に、本発明の異なる実施例を説明する。これらの異なる実施例の説明に当たって、前記実施例1と同一構成部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0022】
図3に示す本発明の実施例2において、前記本発明の実施例1と異なる点は、
上蓋5の下方周縁部8全体に多孔質吸水性物質13が隙間なく取り付けられ、溝部10に上蓋5を嵌入したときに、溝部10の水面は直接上蓋5に接触せずに多孔質吸水性物質13の断面よりも下方に位置するように、溝部10に水12を供給することである。
【0023】
また、溝部10に多孔質吸水性物質13が押し付けられるように嵌入すると、溝部10傾斜上方と下方で多孔質吸水性物質13が水中に沈んでいる面積が異なり、微妙な水量の変動があった場合にも、多孔質吸水性物質13は傾斜下方に位置する部分から保水されるため、含水率が低下することはない。
【実施例3】
【0024】
図4に示す本発明の実施例3において、前記本発明の実施例1と異なる点は、
溝部10に多孔質吸水性物質14が上部断面を水平にした状態で敷き詰められてあり、上蓋5の下方周縁部8全体にも多孔質吸水性物質15が隙間なく取り付けられ、溝部10に上蓋5を嵌入したときに、溝部10の水面は直接上蓋5に接触せずに上蓋5に取り付けられた多孔質吸水性物質15の上方断面よりも下方で、溝部10に敷き詰められてある多孔質吸水性物質14の上方断面よりも上部に位置するように、溝部10に水12を供給することである。
【0025】
図5は従来のウォーターシール方式を示した図である。
【0026】
外気温度25℃で試験槽内の温度を35℃に設定して試験を行ったところ、従来のウォーターシール方式の噴霧腐食試験装置では、消費電力が0.39kwであったのに対して、実施例1のウォーターシール方式の噴霧腐食試験装置では、消費電力は0.343kwであった。したがって、本発明の噴霧腐食試験装置を用いれば0.047kwも省エネルギーで試験することができる。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の噴霧腐食試験装置の概要を示した図である。
【図2】本発明の実施例1を示した図である。
【図3】本発明の実施例2を示した図である。
【図4】本発明の実施例3を示した図である。
【図5】従来のウォーターシール部を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1 噴霧腐食試験装置
2 試験槽
3 制御盤
4 腐食液供給タンク
5 上蓋
6 噴霧塔
7 試験片
8 下方周縁部
9 上方四周縁部
10 溝部
11 多孔質吸水性物質
12 水
13 多孔質吸水性物質
14 多孔質吸水性物質
15 多孔質吸水性物質
16 U字状溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧装置が載置された試験槽と前記試験槽の上部を覆う上蓋とからなり、前記試験槽の上方周縁部に設けた溝部に水を供給し、前記溝部の水分を介在させて前記試験槽と前記上蓋との嵌合部から前記試験槽内で生成させた腐食液のミストが漏洩するのを防止する噴霧腐食試験装置において、
前記上蓋の下方周縁部と前記溝部の底部とのどちらか一方又は両方に多孔質吸水性物質を取り付け、
前記溝部の底部を前記試験槽内部に向かって下方傾斜させることを特徴とする噴霧腐食試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−150812(P2009−150812A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329944(P2007−329944)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【特許番号】特許第4162253号(P4162253)
【特許公報発行日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000107583)スガ試験機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】