説明

嚥下を支援するための組成物および方法

患者が固形医薬製剤等の物体を嚥下するのを支援する方法であって、潤滑性食用ゲル組成物を含んでなる被覆をその物体の少なくとも一部分に施すことを含んでなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下が困難な患者の治療に関する。特に、本発明は、嚥下が容易な組成物に関し、例えば錠剤またはカプセル剤等の飲み込みにくい固形物を投与するのに用いることができる。
【0002】
本発明はさらに、患者の食道につかえるまたは患者の食道壁に粘着することを防ぐ固形物の経口医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
嚥下が困難になると固形物または液状物が口から胃へ容易に通ることが妨げられる。嚥下障害は、身体障害からくる嚥下困難を含む一般的な用語である。嚥下障害には、鈍的な喉の傷害、手術による損傷、発作、多発性硬化症、アスペルガー症候群、食道癌、喉頭癌、シャーガス病、セリアック病、嚢胞性線維症、ハンチントン病、ニーマン・ピック病、筋萎縮性側索硬化症等の神経学的疾患、アルツハイマー病およびパーキンソン病、肥満症、ライリー・デイ症候群、高コレステロール、コーンアレルギーおよびコーン感受性、強皮症および糖尿病等が挙げられるがこれに限定されない多くの障害にともなって起こる。嚥下困難は高齢者により多くみられ、必ずしも他の何らかの障害によるまたはそれに伴うわけではない。身体的原因の嚥下障害は主に2つのタイプ:口腔咽頭の嚥下障害(一般に食道上部、咽頭および口腔の異常により生じる)および食道の嚥下障害(一般に食道部、食道括約筋または噴門あるいは胃から生じる)に分類される。
【0004】
嚥下困難には特定できる身体的原因がない場合もあり、そのような嚥下障害を機能的嚥下障害ということもある。さらに、嚥下障害には心理学的または心因性の場合もあり、そのような嚥下困難は恐食症ということもある。
【0005】
もの(例えば食品または医薬)を飲み込むことに対する不安は、例えば、子供において嚥下困難を引き起すこともある。
【0006】
本明細書において用いられる「嚥下障害」なる語は、一般に、何らかの原因による嚥下困難を意味する。これには、固形物および/または液状物(例えば水)の飲み込みが困難なことが挙げられるがこれに限定されない。
【0007】
嚥下障害の人は、慣用の錠剤やカプセル剤を飲み込むことが困難で、投与の前にしばしば投与形態が崩れたり、なんらかのかたちで損なわれて、それらの生物学的プロファイルの潜在的変化に繋がりることが十分報告されている。これまでの試みでは、液状物、あるいは単純にヨーグルトや商業用のゼリーなどの食品の使用に焦点が当てられていた。
【0008】
しかしながら、食品は、医薬品と相互作用し、投与の効果に影響を及ぼす可能性がある。また、投与には扱いにくく(同時に投与される食品は典型的には主に液状である)、組成、同時投与される量、およびその医薬品を投与の前に取り込ませる手段において標準化されておらず、その医薬が投与または取り込まれる様式において投与毎にかなりのばらつきがある。
【0009】
嚥下障害でない患者でさえ、固形の経口医薬製剤が食道に留まったり、食道の壁に張り付いたりして、炎症や潰瘍を引き起こすことがある(Chisaka, H. et al, Dysphagia, 21(4), pages 275-279 (2006); Kikendall, J. W. et al, Digestive Diseases and Sciences, 28(2), pages - (1983))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特定の組成物を、固形の可食物(例えば、経口医薬製剤)の表面を滑らかにするために用いることができ、嚥下障害を有する患者または有しない患者のいずれにとっても、製剤の胃への嚥下を支援するという知見に基づくものである。本発明の組成物のさらなる利点は以下に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、嚥下困難な患者が、ある物体を飲み込むことを可能にする方法であって、潤滑性の食用ゲルを含んでなる被覆をその物体の少なくとも一部分の表面に施すことを含んでなる方法を提供する。患者はヒトおよび動物から選択することができる。物体は可食物であってよい。そのほか、物体は、飲み込むことができない物体であって、その潤滑性の食用ゲルがなければその患者が飲み込むことができないものが挙げられるがこれに限定されない。一実施形態では、本発明は、嚥下困難な人が他の飲み込めない物を飲み込むことができるようにする方法であって、潤滑性の食用ゲルを含んでなる被覆をその少なくとも一部の表面に施すことを含んでなる方法を提供する。
【0012】
一実施形態では、本発明の第1または第2の態様の方法は、本質的に、例えば、物体または固形の医薬製剤に、潤滑性の食用ゲルを含んでなる少なくとも部分的な表面被覆を施すことからなるものである。
【0013】
本発明の方法は、治療方法であっても治療方法でなくてもよい。
【0014】
別の実施形態では、表面の被覆は本質的に例えば潤滑性の食用ゲルからなる。ゲルは表面積のすべてまたは一部を構成し、および/またはその被覆の厚みの全部または一部にわたって存在する。
【0015】
本発明の任意の実施形態において、患者はヒトおよび動物から選択される。ヒトの患者は任意の年齢の人であってよく、男性でも女性でもよい。ある実施形態では、ヒトの患者は子供または乳児であってよい。ある実施形態では、ヒトの患者は高齢者であってよい。ヒトの患者の年齢は0歳から16歳、場合により0歳から10歳、場合により0歳から4歳であってよい。ヒトの患者は50歳以上、場合により60歳以上、場合により70歳以上、場合により80歳以上であってよい。
【0016】
ある実施形態では、患者は動物であってよい。動物は、例えば、ペット(イヌ、ネコまたはアレチネズミやハムスターなどの小さい哺乳動物が挙げられるがこれに限定されない)であってよい。
【0017】
物体は、典型的には、例えば固形の医薬(「投与形態」)、固形の食品、固形のスナックまたは菓子、固形の補助食品等の任意の摂取可能な固形物である。固形の医薬としては、例えば、錠剤やカプセル剤が挙げられる。そのような摂取可能な材料の一部分も「物体」という表現に包含される。
【0018】
本発明の第2の実施形態によれば、患者の食道に固形の経口薬がつかえるのを防ぐ方法または患者の食道の壁に固形の経口薬が張り付くのを防ぐ方法であって、固形の経口医薬製剤の表面に潤滑性の食用ゲルを施すことを含んでなる方法を提供する。
【0019】
本発明の第三の態様によれば、固形の摂取可能な物品(例えば固形の医薬、固形の食品、固形のスナックまたは菓子、または固形の補助食品)であって、潤滑性の食用ゲルを含んでなる表面を含み、ゲルが存在するその物品の表面積が、嚥下が困難な患者(例えばヒトまたは動物)がその品目を飲み込むことができるのに十分である、物品を提供する。
【0020】
この態様の一実施形態において、表面は本質的に、例えば、潤滑性の食用ゲルからなる。ゲルは、表面の全部または一部を構成し、および/または全表面積の全部または一部上に、および/またはその物品の全部または一部にわたって存在し得る。
【0021】
本明細書において用いられる「潤滑性」なる語は、口または喉の体液と接触することにより潤ったときに、潤滑性の表面を生じ、ゲルおよびゲルが施された物体を飲み込むが可能な食用ゲルが挙げられるがこれに限定されない。本発明の組成物は、液体(例えば水)とともに、または液体なして投与することができる。唾液が患者の口のなかに存在していてもしていなくてもよい。本発明に用いられるゲルが、患者(例えばヒトまたは動物)の口へ服用したときに、体温(約37℃)で、数秒以内(例えば約5秒までに)に、口または喉の体液を取込み、場合により少なくとも部分的に溶解または懸濁して、潤滑液の表面コーティングを生じるのが最も好ましい。
【0022】
従って、潤滑性の食用ゲルが乾燥状態で滑りやすいことは必須でないがそうであってもよい。
【0023】
本発明において用いられるゲルとしては、例えば、天然のゲル化多糖類(例えば、寒天、アルギン酸、ゴム例えばジェランガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム、キサンタンガム)、合成ゴム、ゲル化タンパク質(例えば、ゼラチン、例えばゼラチンA、ペクチン)およびそれらの混合物などの親水コロイドが挙げられる。
【0024】
以下により詳細に記載するように、合成セルロース誘導体等の潤滑剤をゲルに存在させて、使用する口および喉におけるゲルの潤滑効果を改善することは好ましい。
【0025】
所望であれば、ゲルに矯味を付けて嚥下のプロセスを支援することができる。
【0026】
嚥下される固形物のためのゲルの被覆は、好ましくは適当な形状の型で、その物体に加熱した液体のプレゲルをその物体上にその場で配置することにより施すことができる。別の実施形態では、ゲルを予め成形し、その成形した(固化した)ゲルを物体と物理的に会合させて少なくとも部分的な被覆をその上に施すことができる。形状は、物体の周囲を包むようなシート状であってもよく、またはポケットまたはボウルなどの容器であってもよいが、その物体が嚥下プロセスのための被覆と一体になっていることが保証される(例えば、プッシュ−フィッティングによって)。形状は、好ましくは、企図する用途、即ち患者(例えば、人もしくは人の分類、または動物もしくは動物の分類)と、嚥下する物体または物体の分類にあわせて選択され、決定される。
【0027】
適切に選択され寸法の決められたゲル形態は新規で本発明のさらなる態様を構成する。
【0028】
したがって、第4の態様では、本発明は、嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物であって、組成物が投与形態を受け入れるために成形される(例えば凹みを有する)組成物を提供する。
【0029】
本発明の第1〜3の態様に関連する上記の実施形態は、第4の態様にも同様に適用される。
【0030】
潤滑性の食用ゲルを含んでなる表面を含む、嚥下される固形の摂取可能な物品は、そのような物品のための慣用的な手段で形成することができ、ゲル剤をその物品の全部または一部に対するコーティングまたは充填剤として用い、その物品の表面に本発明のゲルが提示される。
【0031】
本発明は、何らかの理由で嚥下が困難な人に有用である。
【0032】
食用ゲルは好ましくは、予め形成された固形物(例えば錠剤またはカプセル)の嚥下が可能な十分な剛性を室温で有し、食用ゲルを含んでなるそれ用に予め形成された容器とフィット(例えば、プッシュフィット)させて物理的に会合させる。
【0033】
本発明において使用する特定の組成物は新規であり、本発明の更なる態様を構成する。
【0034】
本発明の第5の態様では、その表面の少なくとも一部が親水コロイドを含んでなる潤滑性の食用ゲルを含んでなる、固形の医薬形態、例えば、錠剤またはカプセル剤を提供する。
【0035】
本発明の、第1、第2、第3および第4の態様に関連して上に記載した実施形態は、第5の態様に同様に適用される。
【0036】
第6の態様では、本発明は、
ゲル化剤
水、および
潤滑剤
を含んでなる、食用ゲル組成物を提供する。
【0037】
第7の態様では、本発明は、嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物の製造方法であって、
食用ゲルを形成するための液体のプレゲル組成物を提供すること;次いで
(i)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化した食用ゲル組成物に投与形態を受け入れるための凹部を形成するか、または
(ii)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化したゲルに凹部を、例えばゲルをカットして、形成すること
を含んでなる、方法を提供する。
【0038】
第8の態様では、本発明は、嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物の製造方法であって、
ゲル化剤、
水、および
潤滑剤
を含んでなる液体のプレゲル組成物を提供すること;および
該プレゲル組成物を型で固化させること
を含んでなる、方法を提供する。
【0039】
第9の態様では、本発明は、嚥下が困難な患者に投与形態を投与する方法であって、
それに関連した剤型を有する本発明の第4および第6のいずれかに記載の組成物を提供すること
該組成物を患者に経口投与すること
を含んでなる方法を提供する。
【0040】
第10の態様では、本発明は、嚥下が困難な、および場合により他の障害を有する患者を治療する方法であって、
該組成物と共に投与形態を有する本発明の組成物を経口投与することを含んでなり、該投与形態が嚥下困難および/または他の障害の治療のためのものである方法を提供する。該他の障害は、その患者が嚥下困難と同時に有する任意の障害であってよい。障害は、嚥下困難と臨床的に関連する障害であってもよい。
【0041】
第11の態様では、本発明は、嚥下障害および/または他の障害を有する患者の治療ための医薬の製造における本発明の組成物の使用を提供する。
【0042】
第12の態様では、本発明は、場合により本発明に従って使用するための説明書とともに、本発明の食用組成物を含むパッケージを提供する。
【0043】
本発明は、上記の第1から第11の態様を提供する。
【0044】
「嚥下困難」とは、口腔咽頭の嚥下障害、食道の嚥下障害等の嚥下障害、特定可能な身体原因のない嚥下困難、および拒食症等の心因性の嚥下困難が挙げられるがこれに限定されない。
【0045】
「ゲル」としては、液体(例えば、水)とゲル化剤とから形成される、自立的で、可塑性の物質が含まれるがこれに限定されない。ゲルは、物理化学において知られており、液体中の固体または気体のコロイド状の分散体が含まれる。ゲルは、ゼリー状の物質であるとされることもある。ゲルは好ましくは、錠剤またはカプセル剤等の投与形態と整合するかまたは周囲に存在する。ゲルは好ましくは、上昇した温度(例えば、約25℃〜約90℃)で溶融可能か、または水に溶解または懸濁可能であり、冷却すると室温で、前記の自立的で可塑性の物質になる。使用者はゲルを悪影響なしに摂取できる。
【0046】
本発明の患者または使用者はヒトまたは動物である。
【0047】
本発明の組成物は、従来の、嚥下困難な患者への投与形態の投与方法と比べて顕著な利点を有する。特に、ゲルは自立的で可塑性の物質である。好ましくは、手に取って取り扱うことができる。ゲルは好ましくは水混和性であり、ゲルのこの水混和性により、口腔に入れたときにある程度の潤滑性が好ましく得られ、嚥下困難な患者がゲル組成物を容易に飲み込むことが可能である。好ましい態様では、潤滑剤はゲル中に存在する。潤滑剤としては、潤滑剤を含有しない類似の組成物(即ち、潤滑剤なしで同一のゲル化剤で形成した、潤滑剤を含まない同一の総濃度のゲル化剤を含む)と比較して、それによって人工の嚥下試験装置を組成物がより容易に通過し、従って嚥下困難な患者が容易に飲み込むことができるものが挙げられるがこれに限定されない。本発明者は、さらにin vivo試験において、少なくとも本発明のいくつかの態様について、錠剤をゲルの凹部に入れた場合でも、周囲のゲルの存在によって、胃酸に匹敵する強度の酸における錠剤の崩壊および/または溶解が有意に遅くならないことを見出した。このことは、ゲルが薬物の吸収を有意(仮にあったとしても)に妨げないことを示す。
【0048】
さらに、組成物に凹部を設けた場合に、容易に変形させて、錠剤またはカプセル剤等の投与形態を挿入することができる。凹部は好ましくはスリットまたは凹みであり、投与形態を凹部へ挿入すると、それを適切な位置で支え、患者の口に入れることが可能である。ゲル組成物は、投与形態を、カプセル内に完全に入れるか、または、例えば完全にカプセル内に入れずに凹部に保持することもできる。場合により、使用するまで保たれる挿入部またはスリットディバイダを設け、挿入部/ディバイダを取り外すと、投与形態等の摂取可能な物体の挿入のためにスリットが維持され開口する。スリットディバイダは、プラスチックまたは金属等の適当な材料からなる。スリットディバイダは、パッケージの蓋の一部を形成し得る。
【0049】
ゲル化剤および潤滑剤は同一でも異なる材料でもよい。好ましい態様では、ゲル化剤および潤滑剤は異なる材料であり、そのような組成物の例は以下に記載される。
【0050】
ゲル化剤は好ましくは親水性コロイドのゲル化剤である。ゲル化剤は多糖類のゲル化剤を含んでなっていてもよい。ゲル化剤はタンパク質含有ゲル化剤(例えば、ゼラチンまたはペクチン)であってよい。好ましくは、ゲル化剤は、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸、キトサン、寒天、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム、キサンタンガムおよびそれらの混合物から選択される。最も好ましくは、ゲル化剤はゼラチンを含んでなる。ゼラチンは、比較的低濃度で高い強度と剛性を有するので、特に適していることが分かった。ゼラチンは、ゼラチンタイプA、ゼラチンタイプB、およびその混合物を含む任意のタイプのゼラチンから選択することができるがこれに限定されない。ゲル化剤はゼラチンタイプAを含んでなることができるが、好ましくはブタの表皮由来のものであり、このようなゼラチンは商業的に入手可能である(例えばSigma Aldrich(登録商標))。ゼラチンタイプBはウシ由来であり、VWR(BHS)から商業的に入手可能である。タイプAとタイプBの混合物はSigma Aldrichから入手可能である。好ましくは、ゼラチンはPh Eur 等級および/またはBSE/TSE 検査済のものである。ゲル化剤は好ましくは水溶性のゲル化剤である。ゲル化剤は好ましくは、1〜3%(体重)の濃度で、35℃以上、好ましくは50℃、最も好ましくは70℃の水に溶解する(即ち水溶液になる)。好ましくは、ゲル化剤の水溶液は、35℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下の温度に冷却すると、自立的で可塑性のゲルを形成する。好ましくは、1〜3%(体重)のゲル化剤を含有する水溶液は、35℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下の温度に冷却すると、自立的で可塑性のゲルを形成する。
【0051】
ゲル化剤、例えばゼラチン、は組成物中、約6重量%またはそれ以下、好ましくは5重量%またはそれ以下、最も好ましくは3重量%またはそれ以下の量で存在し得る。ゲル化剤は好ましくは、組成物中、約1.5重量%〜2.5重量%、より好ましくは1.8〜2.2重量%、最も好ましくは約2重量%の量で存在し得る。
【0052】
組成物は、第1のゲル化剤と第1のゲル化剤と異なる第2のゲル化剤を含有することができる。第1のゲル化剤は、上記のものであってよい。潤滑剤と同一であってよい第2のゲル化剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであってよい。
【0053】
上記のように、好ましくは、ゲルは、使用にあたって、口および喉においてゲルの潤滑効果を改善するための潤滑剤を含む混合物である。潤滑剤は、好ましくは、それ自身水とゲルを形成することができる。潤滑剤(例えば、HPMC)は、組成物中、3重量%またはそれ以下、より好ましくは2重量%またはそれ以下、最も好ましくは1重量%またはそれ以下の量で存在し得る。好ましくは、潤滑剤は(例えば、HPMC)は、組成物中、0.1重量%またはそれ以上、好ましくは0.2重量%またはそれ以上の量で存在する。好ましくは、潤滑剤は(例えば、HPMC)は、組成物中、約0.2〜0.6重量%、より好ましくは約0.3〜約0.5重量%、より好ましくは約0.35〜約0.45重量%、最も好ましくは約4重量%の量で存在する。
【0054】
好ましくは、潤滑剤は、(例えば本質的に、)使用にあたって口または喉の体液と接触するとゲルの潤滑特性に影響を及ぼす能力を有する合成セルロース誘導体からなる。そのようなセルロース誘導体には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)およびその混合物等の保水作用を有する親水性セルロース誘導体が含まれる。HPMCは、ゲル化剤として食品工業において知られている。他のゲル化剤から形成したゲルにおいて、潤滑剤としての作用において意外にも有効であることが分かった。このゲル化剤は、好ましくは、組成物中、0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜1.5重量%、最も好ましくは約0.3〜0.7重量%の量で存在する。
【0055】
好ましくは、組成物は、ゼラチンおよびHPMCを含んでなる(より好ましくは本質的にからなる、例えばからなる)。このような組成物は、取り扱いに適した十分な構造上の統合性を有しているので、組合せは特に有効であり、嚥下が困難な摂取可能な物体の嚥下をうまく支援することができることが分かった。ゼラチンとHPMCの相対的な比率を変更することにより更なる改善も見出された。両方の成分を含有する組成物が、単独の成分での予測を超える剛性を示すことが見出された。この2つの成分の間にレオロジー的な相乗効果があると考えられる。さらに、ある状況ではより高い剛性をもたらすと同時に、HPMCは意外にも有効な潤滑剤として作用する。
【0056】
好ましくは、摂取可能なゲル組成物は、ゼラチンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を約1:1〜約10:1の重量比で含有する。より好ましくは、摂取可能なゲル組成物は、ゼラチンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を約6:1〜約3:1の重量比、好ましくは約5:1〜約3:1の重量比、好ましくは約5.5:1〜約3.5:1の重量比で含有する。ある実施形態では、摂取可能なゲル組成物は好ましくはゼラチンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を約4:1の重量比で含有する。ある実施形態では、摂取可能なゲル組成物は好ましくはゼラチンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を約6:1〜約4:1の重量比、好ましくは約5.5:1〜約4.5:1の重量比、最も好ましくは約5:1の重量比で含有する。
【0057】
摂食可能なゲル組成物は、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)および水から本質的なる、またはからなる。これら3つの成分「から本質的になる」組成物は、5重量%またはそれ以下の他の成分、好ましくは2重量%またはそれ以下の他の成分、最も好ましくは1重量%またはそれ以下の他の成分を含むが、これに限定されない。ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)および水からなる組成物においては他の成分は検出できない。
【0058】
好ましい実施形態では、ゲルは医薬またはそのコーティングと接触するものの、それらと反応しない、および/または口に入れたときに粘着性を減少させて嚥下を容易にする。ゲルは好ましくは、例えば塩化ナトリウム等の無機塩は含有しない。
【0059】
摂取可能なゲル組成物はさらに1以上の添加剤、例えば1以上の矯味剤および/または1以上の保存剤を含有し得る。このような矯味剤や保存剤は、ヒトまたは動物等の患者への経口投与に適した任意の物から選択することができる。1以上の保存剤は好ましくは、微生物の増殖(例えば、細菌および/または真菌の増殖)を抑えるまたは阻止する。
【0060】
好ましくは、組成物またはボーラスは、摂取時に、崩壊したり、粒子が食道内へ脱落したりしないような十分な構造上の統合性を有する。こうすることで、肺への粒子の誤嚥の危険性を最小限にし、ゲルは、そこに含まれている投与形態から脱落するかもしれない任意の粒子を含むことに供する。
【0061】
気管および咽頭を介する粒子の肺への誤嚥を回避することは、本発明の重要な利点である。嚥下障害に関するいくつかの研究によって、ボーラスの効果は嚥下プロセスの生理学と整合することが分かった。液体のボーラスは、嚥下機能に障害がある場合でも、口腔を介して容易に吸収されるが、早産児の咽頭漏出に起因する喉頭部気管誤嚥の高い危険性をもたらす。殺菌されていない医薬または食品の肺への誤嚥は、上部および下部気道感染(例えば肺炎)の両方の変化を増大する。
【0062】
さらに、患者または介護人は、医薬の投与を促すために錠剤を砕いたりまたはカプセルを開けたりすることがある。これは、徐放性薬物の内容物がすべて一度に放出し最適な薬物レベルよりも高いレベルを生じるので危険である。さらに、被覆錠剤には胃のpHによって不活化される薬物や胃で刺激性の薬物を含んでいるものもあり、悪影響を生じる可能性がある。このような証拠があるにもかかわらず、嚥下障害の場合において、医薬の投与の際の看護師または介護人による錠剤の破砕は今もなお一般的に行われている(Mistry et al., 1995, Belknap et al., 1997, Tissot et al., 1999, Wright, 2002, Kirkevold and Engedal, 2005)。
【0063】
本発明のゲルを用いることによって、投与する固形投与形態が破砕することなく、固形投与形態の腸溶または徐放コーティングに損傷を与えるまたは破壊することなく、高価で固形製剤の腸溶または徐放コーティングのない液体製剤を採用することなく、投与することが可能である。ばらけた粒子をゲルにより封じ込め、投与形態の破砕を回避することにより、粒子を誤嚥する可能性も本発明によって有意に減少する。
【0064】
ボーラスの粘度を高めると、嚥下能力にいくらかの変化がもたらされ、反射作用により時間が与えられるので、嚥下の誘発を促進する(Logemann, 1983)。マノメトリーおよびビデオ透視検査を用いた試験は、口腔咽頭筋の活動がボーラス粘度の増加とともに活発になることを示した(Cooke et al., 1989, Lazarus et al., 1993)。増大したボーラス粘度の存在下で、舌根部咽頭壁収縮は増大し、ぜん動波の持続時間が長くなり、食道のぜん動波はゆっくりとなり、上部食道部の開口が長くなる(Kuhlemeier et al., 2001)。液体のボーラスは、有害な嚥下反射が存在していても、口腔から容易に送り込まれる;しかし、食塊調節の欠落に起因して早産児の咽頭の漏出に起因する咽頭部気道誤嚥の危険性がより高くなる。ボーラスの粘稠度が増大すれば、舌によるコントロールはより容易になる(Miller and Watkin, 1996)。
【0065】
従って、嚥下障害の患者にとって安全な嚥下のため増大した粘度が重要であること、および肺へ流入する低粘度のボーラスを回避する必要があることは明かである(Deward and Joyce, 2006)。さらに、高すぎるボーラス粘度は嚥下にエネルギーをより必要とし、回避すべきである(Miller and Watkin, 1996)。
【0066】
本発明において使用するためのゲルは、好ましくは、喉での通過時間を慣用の投与形態と比較して遅くし、気道を閉鎖するための時間をより与え、粒子の望ましくない誤嚥に対する保護をもたらすように、比較的高い粘度を有するように選択される。同時に、口または喉の体液との接触の際のゲルの膨潤によって、嚥下機能が中程度から重度に冒された患者によって嚥下されるボーラスに対して十分に、ゲルの潤滑性を高め粘着性を減少させ、内部の喉の表面での付着が減少する。
【0067】
好ましくは、凹部は、例えば液体のプレゲル混合物からゲル組成物を形成する際に、適当な突起部を有する型を用いることにより形成され得、ゲルを型から外したときに凹部がその組成物の表面に存在するようなスリットまたは開口である。あるいは、凹部はプレゲルを型にて固化させた後、組成物をカットして凹部(例えばスリットまたは開口)を付けることにより形成してもよい。当業者はカットして凹部を付けるための、切削刃などの任意の適当な装置を用いることができる。凹部は手動でも機械的手段(例えば自動化された装置)によっても付けることができる。
【0068】
投与形態は、製薬的に許容し得る添加剤および活性成分を含んでなる、任意の固体または半固体の医薬投与形態を含んでなる。投与形態は当業者に知られた任意の形態(例えば、粉末、錠剤、丸剤またはカプセル剤)であってよい。投与形態は単位投与形態であってよい。「単位投与形態」としては、それぞれの単位に、適当な製薬的な添加物とともに、所望の治療効果をもたらすように計算された予め決められた量の活性物質を含有する、ヒトの患者および他の哺乳動物のための均一の用量として適した物理的に分割された単位(例えば、錠剤、カプセル剤、アンプル)が挙げられるがこれに限定されない。ある実施形態では、投与形態は薬学的に活性な成分を含んでなる、から本質的になる、またはからなる。投与形態が薬学的に活性な成分から本質的になる場合、これは薬学的に活性な成分と好ましくは5重量%、より好ましくは2重量%の他の成分を含んでなる投与形態である。投与形態は、食用の組成物が消費される前に、投与の直前、例えば30分前またはそれよりも直前、好ましくは15分前またはそれよりも直前、より好ましくは5分前またはそれよりも直前、に食用の組成物と一緒にすることができる。
【0069】
ある実施形態では、本発明は、本発明の組成物および薬学的に活性な成分を含んでなる、から本質的になる、またはからなる投与形態を提供する。薬学的に活性な成分は本発明の組成物により被覆することができる。薬学的に活性な成分は本発明の組成物全体に分散することができる。ある実施形態では、薬学的に活性な成分、場合によりその純粋な形態、は患者への組成物の経口投与の直前に、その組成物へ挿入することができる。
【0070】
本食用組成物は、好ましくは、以下に記載する方法の1またはそれ以上によって製造される。
【0071】
ゲル組成物は嚥下を可能にする任意の適当なサイズと形状であってよい。ゲル組成物は、投与単位と呼ぶこともできる。好ましくは、投与単位は最小直径が約0.5cmである。好ましくは、投与単位は最小直径が約1.5cmある。凹部は、組成物の表面を横切って測定したときに長さ約0.3〜1cmの切り込みまたは開口であってよい。凹部または開口は深さ約0.2から0.7cmであってよい。幅は0cmでも(即ち、壁が接した切れ目で投与形態を挿入するには開く動作が必要になる)、それ以上約0.3cmまででもよい。投与単位は半球状に近い、即ちフラットな基部と球状の部分を有する形状であってよい。凹部は好ましくはフラットな基部に形成する。投与単位は細長い形状でもよい。この形は円柱状の形状であって、凹部は場合によりその円柱のフラットな端か、曲面の側面上に存在していてよい。投与単位は、円柱状の部分と、先が細くなった一端または両端を有していてよい(例えば、弾丸型)。円柱の直径は円柱の長さより長くても短くてもよい(軸方向に測定して)。投与単位の最大の直径は、1.5cmまたはそれ以下であってよい。円柱状の場合には、円柱の直径は0.5〜1cm、好ましくは約0.75cmであってよい。凹部は、錠剤またはカプセルの曲面に合った形の開口であってよい。円柱の長さは1.5cmまたはそれ以下であってよい。長さは好ましくは0.5cmまたはそれ以上であってよい。
【0072】
本発明は、嚥下困難な患者へ経口投与するための食用ゲル組成物を製造する方法であって、
ゲルを形成するための液体のプレゲル組成物を提供すること;および
(i)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化した食用ゲル組成物に投与形態を受け入れるための凹部を形成するか、または
(ii)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化したゲルに凹部を、例えばゲルをカットして、形成すること
を含んでなる、方法を提供する。
【0073】
本発明は、嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物の製造方法であって、
ゲル化剤、
水、および
潤滑剤
を含んでなる液体のプレゲル組成物を提供すること;および
該プレゲル組成物を型で固化させること
を含んでなる、方法を提供する。場合により、凹部は
(i)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化した食用ゲル組成物に投与形態を受け入れるための凹部を形成するか、または
(ii)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化したゲルに凹部を、例えばゲルをカットして、形成すること
により、形成することができる。
【0074】
ゲル化剤は本明細書に記載するものでよい。潤滑剤は、本明細書に記載するものでよい。本方法は、ゲル化剤の水性の液体のプレゲル混合物を形成しこれを潤滑剤と混合することを含んでなる。潤滑剤が水とゲルを形成する場合は、ゲル化剤と潤滑剤の両方を含む水性のプレゲル混合物を形成した後、固化させる。本方法は、ゲル化剤の水性の液体のプレゲル混合物と潤滑剤の水性の液体のプレゲル混合物を形成し、2つのプレゲル混合物を混合した後、それらを固化させることを含んでなる。
【0075】
本発明はさらに、投与形態を嚥下困難な患者に投与する方法であって、
それと共に投与形態を有する本発明の組成物を提供すること
該組成物を患者に経口投与すること
を含んでなる方法を提供する。
【0076】
本発明はさらに、嚥下困難および場合により関連する障害を有する患者を治療する方法であって、該組成物に関連する投与形態を有する本発明の組成物を経口投与することを含んでなり、該投与形態が嚥下困難および/または関連障害の治療のためのものである方法を提供する。
【0077】
組成物は投与形態を伴っていてよい。「伴う」には、接触させて、投与形態の飲み込みが、組成物なしで投与形態を飲み込む場合と比較して改善される場合を含むがこれに限定されない。投与形態は、本発明の組成物で部分的にまたは完全にコーティングされていてよい。投与形態は本発明の組成物の凹部に存在し得る。投与形態を完全にまたは部分的に封入する(例えば凹部において)ことができる。好ましくは、本発明の組成物で、投与形態の少なくとも一部を覆うことができる。好ましくは、投与形態を覆うゲル組成物の厚さは約0.2mm〜5mm、好ましくは1mm〜3mmの範囲である。
【0078】
本発明は、嚥下困難のおよび/または嚥下困難に関連する障害であってもなくてもよい他の障害を有する患者の治療において使用するためのものである。本発明はさらに、嚥下困難のおよび/または嚥下困難に関連する障害であってもなくてもよい他の障害を有する患者の治療のための医薬の製造における本発明の組成物の使用を提供する。好ましくは、投与形態は組成物に付随し、投与形態は嚥下困難および/または他の障害の治療のためのものである。それは、関連障害、即ち嚥下困難に関連するおよび引き起こす障害である。
【0079】
関連障害は、鈍的な喉の傷害、手術による損傷、発作、多発性硬化症、アスペルガー症候群、食道癌、喉頭癌、シャーガス病、セリアック病、嚢胞性線維症、ハンチントン病、ニーマン・ピック病、筋萎縮性側索硬化症等の神経学的疾患、アルツハイマー病およびパーキンソン病、肥満症、ライリー・デイ症候群、高コレステロール、コーンアレルギーおよびコーン感受性、強皮症および糖尿病から選択することができる。
【0080】
本発明はさらに、本発明の食用組成物を含んでなるパッケージを提供する。好ましくは、食用組成物の少なくとも一部が露出し、凹部が食用組成物の露出部分に存在する。パッケージは、本発明のゲル組成物を含有するベースと取り外し可能なカバーを含んでなる。ゲルにおける凹部はカバーを取り外すことで露出させることができる。
【0081】
パッケージは
(i)投与形態の挿入のための凹部を有する、本発明のゲル組成物を含む1またはそれ以上の凹みを有するベース;
(ii)取り外したときに凹部が露出して凹部への投与形態の挿入を可能する、取り外し可能なカバー
を含んでなる。
【0082】
パッケージのベースは、好ましくは、場合により投与形態を凹部に挿入した後で、ベースからのゲル組成物の押し出しを可能にするような変形可能なものであってよい。ベースは好ましくはプラスチックを含んでなる。適当なプラスチックは当分野において知られている。取り外し可能なカバーは、好ましくは金属箔を含んでなる。適当な金属箔は当分野において知られている。パッケージは当分野で知られている「ブリスターパック」であってよい。本発明の組成物は、パッケージにおいてプレゲルから形成することができ;パッケージは形成プロセスにおいて型として作用し得る。
【0083】
本発明はさらに組成物の嚥下しやすさを試験するための装置であって、
距離を測定するために一定のスピードで下に移動するプローブを含んでなる、組成物のせん断されにくさを測定するための分析器、および
上部に入口を設けた実質的に鉛直の中空管を含んでなり、
組成物を上部の入り口から管へ入れ、決められた距離に関して一定に組成物を管の中を押し出すように、管の中を垂直に下へ移動させ、その距離にわたってせん断されにくさを分析器により測定するようにプローブと管が配置されている。プローブは、好ましくは管と同じ断面の形状(例えば、柱状)で、直径が管の内径よりもやや小さい(例えば、0.1〜2mm小さい)。
【0084】
管は、好ましくは、直径10〜30mm、好ましくは直径約15〜25mmの円筒状の管であってよい。プローブが移動する距離は好ましくは10〜30mm、好ましくは約20mmである。スピードは好ましくは10〜30mm/s、好ましくは15〜25mm/s、好ましくは約20mm/sである。管は、好ましくは上部が外側に向かって広がっており、好ましくは円錐状である。管は好ましくはプラスチック、好ましくはポリ(メチルメタクリレート)、別名Perspexまたはアクリル、を含んでなる。任意の適当なプラスチックを用いることができる。分析器は、任意の1またはそれ以上の実施例に記載したテクスチャ分析器の特徴を有する。管の長さは好ましくは30〜60mmの長さ、好ましくは40〜60mmの長さである。管の長さは予め決められた距離よりも長くする。管は好ましくは、組成物が管を通過する間の管からの気流を許容する1またはそれ以上の開口部を含む。開口は好ましくは管の基部または側壁にあり、好ましくは基部から2cm以内のところにある。
【0085】
本発明は、さらに組成物の嚥下しやすさを試験する方法であって
本発明の装置を提供すること、
組成物を管の上部入り口から入れ、組成物を、プローブで一定の速度で決められた距離を管内を下に移動させ、その距離に対するせん断されにくさを測定すること
を含んでなる方法を提供する。
【0086】
組成物は好ましくは、プローブからの圧力がなければ上部の入口で止まっているが、プローブで下向きに力を与えたときに動くことができる形状と直径のものである。組成物は好ましくは円柱状の形である。好ましくは円柱状の形態の、組成物は、最大直径が好ましくは管の内径よりも大きい、好ましくは0.2〜20mm大きい、好ましくは管の内径より0.5〜15mm大きい、好ましくは管の内径より約10mm大きい。組成物は、好ましくは高さ5〜15mm、好ましくは約10〜14mm、より好ましくは約12mmの円柱状である。
【0087】
ある実施形態では、本発明の任意の態様における「投薬形態」は、任意の固体の摂取可能な物体であると言うことができる。そのような固体の、摂取可能な物体としては、固形の医薬品、固形の食品、固形のスナックまたは菓子、固形の補助食品等が挙げられるがこれに限定されない。固形の医薬品としては例えば錠剤やカプセル剤が挙げられる。
【0088】
本発明は非限定的な実施例および添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】人工嚥下試験で用いたPerspexデバイスを示す(台上、上に直径20mmの円柱状プローブ)。
【0090】
【図2】人工嚥下試験で用いたテクスチャ分析器を示す。装置には図1の嚥下モデルデバイスが取り付けられている。5Kgロードセル(左側)およびPC(右側)に接続。
【0091】
【図3】湿潤および乾燥状態(n=7)のもとで人工in vitro嚥下試験を用いた、「湿潤」および「乾燥」それぞれについての本発明の組成物および比較組成物を管内を移動させる(押し出す)のに必要な力を示す。左側のバーは混合ゼラチン2%w/w+HPMC0.5%w/wで、右側のバーは、純粋なゼラチン2.5%w/w。
【0092】
【図4】水と60分間接触させたときの、本発明の組成物および比較組成物の重量増加の百分率を示す。21℃の水への浸漬時間を増大させ、混合ゼラチン2%w/w+HPMC0.5%w/w(■)およびゼラチン2.5%w/w(●)の重量に対する効果を示す。
【0093】
【図5】投与形態(黒点)を含む本発明の組成物またはボーラス(○)を飲み込み、口から喉の上部へと入っていくところのヒトの喉の断面図である。高いゲルの粘度により錠剤の移動が遅くなり、気道が閉じるまでの時間がより長くなり保護し、組成物の湿潤特性により、内部の喉表面への付着が減少する。
【0094】
【図6】図5に示した組成物が通過しているところのヒトの喉の断面図である。小さな錠剤または他の投与形態あるいは投与形態がせん断された粒子を誤嚥する危険性は、本発明のゲルを用いることにより減少している。
【0095】
【図7】実施例4に記載の臨床試験で、水有りまたは水なしの条件下で「飲み込みが安楽であった」に対する回答を示す。
【0096】
【図8】実施例4に記載の臨床試験で、異なるボーラスサイズに関して「飲み込みが安楽であった」に対する回答を示す。
【0097】
【図9】実施例4に記載の臨床試験で、硬質ゲルと軟質ゲルに関して「飲み込みが安楽であった」に対する回答を示す。
【0098】
【図10】実施例4に記載の臨床試験で、水有りまたは水なしの条件下で「飲み込みが容易」に対する回答を示す。
【0099】
【図11】実施例4に記載の臨床試験で、異なるボーラスサイズに関して「飲み込みが容易」に対する回答を示す。
【0100】
【図12】実施例4に記載の臨床試験で、硬質ゲルと軟質ゲルに関して「飲み込みが容易」に対する回答を示す。
【0101】
【図13】実施例4に記載の臨床試験で、水有りまたは水なしの条件下で「ゲルが引っかかる感じがする」に対する回答を示す。
【0102】
【図14】実施例4に記載の臨床試験で、異なるボーラスサイズに関して「ゲルが引っかかる感じがする」に対する回答を示す。
【0103】
【図15】実施例4に記載の臨床試験で、硬質ゲルと軟質ゲルに関して「ゲルが引っかかる感じがする」に対する回答を示す。
【0104】
【図16】ゲルを5mm圧縮するのに要した力(g)を測定した、ゼラチンとHPMCの圧縮試験の結果を示す(実験はゲルを1時間放置して平衡温度にして室温で行った)。
【発明を実施するための形態】
【0105】
材料
【表1】

【0106】
実施例1−ゲル材料
ゲル調製法:ある濃度に調製するのに必要な水の合計量を同体積の2つに分ける。一方を純粋なHPMCの調製に、もう一方を純粋なゼラチンの調製に用いた。HPMC(そのまま使用)を最初に2/3量の水(80〜85℃)に分散し、30分間攪拌して室温に冷却した後、必要量になるまで水を加えた。ゼラチンゲルは、70℃で溶液を攪拌することによって調製した。次いで、得られた2つの溶液をゲル化する前に混合し、室温にてゲルを形成させた後、10℃で24時間保存した。

例:ゼラチン2%w/wとHPMC0.5%w/wから100mLのゲルを調製
ゼラチン 2g
HPMC 0.5g
室温にて蒸留水97.5mLを用いた。

記載した調製方法に従った。実施例1のサンプルを円柱状の型で成形し、直径30〜31mmで高さ11〜12mmのサンプルを形成した。
【0107】
実施例2−別のゲル材料
HPMCをプレゲル混合物に添加しないことを除いては、実施例1に従いゲルを調製した。ゲルは2.5%w/wのゼラチンを含有した。実施例1と同じ温度と条件下で97.5mLの水にて2.5gのゼラチンから形成させた。
実施例2のサンプルを円柱状の型で成形し、直径30〜31mmで高さ11〜12mmのサンプルを形成した。
【0108】
実施例3−人工嚥下試験
円筒(モデル)の詳細 モデルは、プラスチックデバイスからなり(図1参照)、これをTexture 分析装置 (model TA-XTplus)に取り付ける。このモデル自体は2つのパーツからなる:円錐形の上部および内径20mm、高さ50mm、底の周囲に4つの穴(それぞれ直径約1mm)を設けた円筒形の下部。このモデルの全体はプラスチック製で空である。サンプルを保持し、直径20mmの円柱状のプローブ(装置の製造者Stable Micro Systemsより提供されている標準的なperspexプローブ)を入れることができるよう設計されている。試験中、Texture 分析装置の台の上で、このモデルを固定した支持体に設置され、その直ぐ上でプローブをこの装置の5Kgロードセルにより保持し、サンプルをモデル内に押し込むことができる。
【0109】
試験方法 サンプルをPerspexデバイスの主要構造の上部に置き、プローブの移動によってサンプルをせん断に付し、装置によりコントロールし、モデルの円筒部分内へ押し込む。プローブの頭部はモデルの円筒部にぴったりと合っており、このような配置で、物質に与えられたせん断量を装置のソフトウェアにより正確に記録することができる。プローブは規定の且つ一定のスピードで設定された深さまで移動するようプログラムされており(試験パラメーターは以下に記載)、サンプルは、Texture分析装置によってもたらされるコントロールされた力の作用の結果としてせん断を受ける。Texture分析装置のロードセルに接続された円柱状のプローブは、次にサンプル表面の付近に配置されるが、接触はさせない。試験を開始するとき、選択したスピードでプローブの移動を開始し、規定した深さまで下降させる。プローブがサンプルと接触した後、サンプルはコントロールされたせん断を受ける。
【0110】
測定: ゲルのせん断に対する抵抗性に関する値を規定量の変形に関して測定する。このような構成でサンプルに加えられたせん断の量はTexture分析装置により正確にコントロールされ記録される。せん断を受けたサンプルの抵抗性の値は、規定のプローブのスピードで所定の変形が得られるまでに要した最大の力(g)で表される。
【表2】

【0111】
試験装置の詳細 Texture分析装置(TA.XTPlus 図2参照)およびソフトウェア(Texture Expert Exponent Software)はいずれもStable Micro Systems, Ltd in Godalming, Surrey, UKにより設計されたものである。
【表3】

(上記の装置の仕様は、ウェブサイトhttp://www.texturetechnologies.com/にて公開されたものである(2007年10月10日))。
【0112】
結果 喉の環境をシミュレートした湿潤条件下で実施例1の組成物を押し出すのに要した平均(sd)の力は、252.23±31.5グラムであった。乾燥条件での320.69±63.8グラムと比較した(p<0.05、独立サンプルt−test)。湿潤および乾燥それぞれの条件で、添加剤なしで製剤に必要な平均(sd)の力はそれぞれ639.9グラム(311.8)&468.23グラム(101.9)であった(p=0.154、独立サンプルt−test)(図3参照)。さらに、膨潤データ(図4参照、図4では「純粋なゼラチンゲル2%w/w」を「純粋なゼラチンゲル2.5%w/w」に置き換えるべきである)は、ゲルが水と接触して膨潤し、時間の経過とともに重量が直線的に増大する(1時間に>14%)ことが明かとなり、このことは、試験の間にゲル内に媒質が同時に浸透し、その浸透スピードは経時的に増大することを示唆している。
【0113】
結論 この革新的なin vitroモデルは操作がシンプルで、再現性と精度が良好である。このモデルは、ゼラチンとHPMCを含有する組成物が、ゼラチンを単独で含有する組成物よりもより容易に嚥下されることを実証している。さらに、膨潤試験は水を吸収する製剤の能力を明確に示している。
【0114】
実施例4−ゲル粘稠およびボーラスサイズの効果の評価
本発明のゲル内で錠剤またはカプセル剤を投与する潜在的利点(図5および6に示す)は以下のとおりである:
・錠剤の重量が増加することにより移行時間(即ち嚥下時間)が短くなった。
・ボーラスサイズが限界まで大きくなり、小さい錠剤がより扱いやすくなった
・ボーラスの通過が速くなり過ぎないような適切な粘度にすることで、安全な気道閉鎖がもたらされた。
・唾液と接触したときに錠剤またはカプセル剤の滑りが良くなったことで、嚥下を促すために必要な水が減った。
・薬物と口腔粘膜との間にバリアができることにより、局所的な刺激を抑えられ、薬物の味がマスクされた。
【0115】
嚥下が困難な人に適した製剤を得るために、製剤の開発にあたって主に関連する2つの製剤の特性、つまりゲルの硬さとサイズ、について検討した。まず、最終の製剤の適当なテクスチャは、より飲みやすくするために、少なくとも適度に軟らかいゲルであると考えられるが、同時に嚥下の際、喉に残留物が留まらないようなテクスチャを有するものである。事実、嚥下障害の患者では特に、小さい粒子(または小さいゲル片)の誤嚥の危険性は非常に高い。
【0116】
さらに、理想的なゲルのサイズは、口に入れたときに、咀嚼しようとする生来の傾向を回避するため、ヒトの喉の部分と同程度の直径を有するものであると考えた。同時に、ゲルが、錠剤またはカプセルをその中に保持することができるよう、寸法を選択する必要があった。そのような製剤に適合する最も適切なゲルのサイズに関して、嚥下障害についての文献は主な情報源を示した。最も多いのは、これらの研究では、固体のボーラスではなく、むしろ液体またはヨーグルト等の粘稠なボーラスについてのデータが報告された(Miquelin et al., 2001)。しかしながら、若年者および高齢者の患者について、15mLの液体および直径20mmの固体のボーラスの両方を嚥下する間の、咽頭部での嚥下をマノメトリー蛍光透視法を用いてボーラス運動学について試験した、Bardan et al. (2004)による研究等、他の例が存在する。さらに、Chen (2008)の見地では、標準的な咽頭の横断面の直径はおよそ0.02mであり、これを口いっぱいの水の乱流に関するレイノルズ数の計算に用いたことが報告されている。咽頭のボーラスの流れを計算するために、同じ喉の寸法を生物磁気学的方法を用いた試験において試験した(Miquelin et al., 2001)。従って、さらなる製剤のキャラクタリゼーションのために、この値に近い寸法を有するゲルは適当であると考え、採用した。
【0117】
このゲルの臨床的応用への前提条件として、嚥下されたゲルのサイズおよびテクスチャに関して、効果、安全性および性能を調べるために、健康な成人における嚥下中のin vivoでのその性能をはっきりとさせることが重要であると考えられた。即ち、健康なボランティアの臨床試験を、Norfolk & Norwich University Hospital (NNUH, Norwich)にて、Fiberoptic Endoscopic Examination of Swallowing (FEES(登録商標)) (詳細は以下参照)診断法を用いて行った。
【0118】
口の中のレセプターがボーラスの種々の特徴に応答し、嚥下を開始する前に触覚フィードバックがボーラスの正しいサイズと位置を決定する(Fillion and Kilcast, 2001)。従って、嚥下能力および/または知覚が低下した患者による製剤の容認性を高めるために、臨床試験の間に、新規な製剤の口の感覚フィードバックも未検証の質問表を用いることによって調べた。それぞれの患者について質問を行い、判別および記述法を用いることによってそのような製剤の知覚を評価した。一般的に言えば、記述法は、特定のボーラスの特徴の存在を識別または決定することを目的とするものであり、判別試験は、単に試験した製品が異なるかどうかを示す試験である(Piggott et al., 1998)。
【0119】
目的
この臨床試験の目的は以下のとおりであった:
・ゲルのin vivoの性能を可視化すること
・このようなゲルの最適な特性を明確にすること
・ゲルの強度とサイズの変化がゲルの破砕の可能性をどのように増大するのか、ゲルと錠剤の分離が嚥下のレートに影響するのかを調べること
・嚥下の患者の知覚を調べること。
【0120】
方法
試験のプロトコルは研究チームと協議の上、研究責任者(CI)により開発した。このプロトコルは、倫理管理委員会に首尾よく提出された。
【0121】
対象選定基準
試験を開始する前に、監視人の参加によって試験にバイアスがかかるリスクを回避するため、臨床試験における監視人の参加について研究チームで議論した。第1に、臨床試験を行う前に、研究チームは最終の製剤に関する好ましい特性について知らされていないことが重要である。従って、監視人が何が望ましいかについて先入観を持たないので、バイアスがかかる危険性はないと考えられた。さらに、秘密を最大限保証するために、2つの試験を独立に設定し、各々の参加者がその他の回答者から影響を受ける機会をなくすようにした。FEES(登録商標)に関して、Dodds (1989)によって報告されているように、咽頭および食道の箇所の嚥下はいずれも完全に不随意で、嚥下中枢プログラムは遠心性のシグナルを介して咽頭および気道の蠕動収縮を調節する。従って、この証拠に基づき、試験中は、自発的な行為によって嚥下プロセスを主観的に統合または制御する可能性はないことが明確になった。
【0122】
材料
臨床試験において試験した製品は、蒸留水中で2つの成分:動物の皮膚、腱および軟骨から得られるゼラチン(特に、この製剤に使用されるタイプはブタの皮膚から得られる);および緑色植物の主な構成成分である、セルロースから得られるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)から製造される。ゼラチンもHPMCのいずれも、GRAS製品であり、このことは食品医薬品局(FDA)、USA、がこれらを企図する用途の条件下で「一般に安全と認められる」と指定したことを意味するものである(Cheeseman and Wallwork, 2002)。これらは、製薬業ならびに食品工業において広く用いられており、そのことはそれらの特性の最善の知識を保証するものである;但し、それらの組合せは革新的であり、従って混合物としてのそれらの特性はこの論文で調べられた。所定の濃度で共に混合した場合に軟らかいゲルを形成し体温で速やかに溶解するそれらの能力とともに、液体と接触した際の速い崩壊速度と高い膨潤性のためにこれらの2つのポリマーがそれぞれ選択された。
【0123】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)
HPMC等のセルロースのエーテルは、セルロースから誘導される水溶性ポリマーであり、自然界に最も豊富に存在する高分子である。これらは、増粘剤、結合剤、皮膜形成剤として、食用ならびに医薬の分野で数多く利用されている(National Organic Standards Board Technical Advisory Panel Review, 2002)。食用および医薬の添加剤として、これらは食品に矯味を付けるものではないが、食感を改善する。
【0124】
ゼラチン(タイプA)
ゼラチンは、コラーゲンの熱変性により得られる本質的に純粋なタンパク質の食品成分である(Gilsenan and Ross-Murphy, 2001)。ゼラチンゲルにおいて、三次元ネットワークを形成する十分な連結ポイントが形成されていれば剛性が得られ、時間が経つにつれて分子がさらに規則的な構造を形成する。水と熱可逆的なゲルを形成し、形成したゲルは体温(<35℃)より低い温度の融点を示し、これによりゼラチンにユニークな官能特性とフレーバー放出が与えられる。ゼラチンを特徴付けているこのユニークな特性「口中融解現象」、熱可逆性および冷却によりゲルになる能力が上記の広範な機能性を可能にしている。最後に、そのような製剤に関し、主に3つの特性においてゼラチンを選択した:無臭、無味、および体温での融点(Wiley and Sons, 2000)。
【0125】
品質
さらに、ヒトが関与する臨床試験のため、材料の生体適合性と高い品質によって、参加者の健康状態と安全性を保証する措置を講じた。従って、製造業者からの分析証明書および製品情報書を精査し、CIと研究チームによって適合しているか確認した。
【0126】
ゼラチンは、無味無臭でブタの皮膚由来のタイプAを用いた。このタイプのゼラチンの単一バッチ(CAS number: 90007-70-8)を試験に用い、Sigma (UK)より入手した035K0195をそのまま使用した。この製品は、50,000〜100,000の平均分子量を有する明黄色の粉末である。分析証明書(COA)および原産地証明書から仕様は以下の通りであった:性状:灰白色;溶解性−薄い黄色;タンパク質(ビウレットによる)−82%;ゲル強度(ブルームジェロメータ)−292;推奨再検定−2010年5月;QCリリース日−2,005年5月。
【0127】
この試験に用いたヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、Methocel タイプK4M Premium EPであり、メトキシル22%、ヒドロキシプロピル基7.0〜12%を含んでいる。このタイプのHPMCの単一バッチ(タイプUSP 2208)を試験に用い、Colorcon(Dow Chemical Companyの商標)より入手したSC28012N12をそのまま使用した。分析証明書(COA)および原産地証明書から仕様は以下の通りであった:性状−白色〜灰白色、線維性または粒状の粉体;pH(1%溶液)5.5〜8.0;出所−USPおよびPhEurの要件に適合;保存期間−開封前5年を推奨。
【0128】
混合物の調製法に用いた参考文献:
"The Dow Chemical Company": "Technical Handbook-METHOCEL Cellulose Ethers". Printed in USA, Published September 2002. Form No. 192-01062-0902

Gilsenan, Paula M. and Ross-Murphy, S. B. (2001) "Shear creep of gelatin gels from mammalian and piscine collagens", International Journal of Biological Macromolecules, 29(1), 53-61
【0129】
溶媒
臨床試験の2日間に各バッチの調製のため1バッチの飲料水を用いた。
【0130】
サンプル調製法
本調製法は、科学文献に従い、管理された温度にて2つの溶液を別々に調製し、ゲル化の前にそれらを正確な比率で混合することにより行った。この試験のために、研究責任者(CI)により開発された単純な標準的調製法;最適な衛生条件および低温での短期の保存(最大24時間)により高い品質を確保した。
【0131】
アスコルビン酸BP(ビタミンC)50mg(Norbrook (Norbrook Laboratories Limited, Newry, Co. Down, Northern Ireland;直径約8mm、厚さ3mm)をFEES(登録商標)試験を開始する直前にゲルに封入した。
【0132】
2回のFEES(登録商標)のそれぞれの24時間前にバッチの調製を行い、管理された温度で一晩保存した。NNUHでの診察の日にサンプルを、ポータブル冷蔵庫に入れてNNUHに運び、FEES試験(登録商標)を行うまで管理された温度で保存した。平たい金属製のスパチュラを用いて錠剤をゲルに挿入してゲルを先端からカットし、中心に入れ込んだ。錠剤はこのスリットの内側に押し込んだ。
【0133】
標準的操作手順(SOP)
標準的操作手順(SOP)は、倫理委員会と地区のNHS統治委員会の両方から承認されたものであり、GLPを確保するためにバッチ調製の間はCIに厳格に従った。すべての滅菌済容器はNNUHの滅菌サービス部(SSD)から提供され、サンプル調製の間は手袋(ECマーク)を用いた。使用したスパチュラおよびマグネチックスターラーはすべてシールされたラベル付のものであり、使用は1回のみとした。調製中は、実験室内に居たCIと他の人間は手袋と上着を着用した(AM)。
【0134】
最大限正確な調製物の内容量を保証するため、CIは重量と容量を測定した後、サンプル調製の間居た別の薬剤師(AM)がチェックした。精度をバッチシートに記録した。
【0135】
サンプルの順序
サンプル嚥下の以下の3つの特性を変えることにより、要因計画を用いて8種類の組合せを作成した:
・ゲルの強度(ゼラチン2〜3%をそれぞれ0.5〜0.3%w/wのHPMCと混合)
・嚥下の際の水の存在(20mL)または不在
・それぞれ小さいまたは大きいゲルサイズ(直径20mmまたは25mm×厚さ11mm)。
【0136】
患者は最初の席でランダムな順序で与えられた8つのサンプル一組を飲み、次の席で別の8つのサンプルを飲むこととした、即ち、各患者につき16のサンプルを飲み込んだ。任意の寸法の16個のサンプルにはすべて、50mgのビタミンCタブレットを入れた。組合せの順列は試験の開始に先立ちランダムにした。各患者は、各組合せを2回経験したことになる。
【0137】
ランダム化
3種類のファクターにより8つの異なる組合せが可能な要因計画を用いて、各ボランティアについて各組合せを1回反復する、即ち、各患者につき16回嚥下する。ゲルが錠剤を保持し飲み込んだときに崩れない十分な強度かどうか;どのサイズのゲルが健常者にとって安楽と感じるか;またゲルを水と一緒に飲むほうが容易であるのかあるいは唾液だけで十分であるのかを決定するために設計した。
【0138】
FEES(登録商標)試験中の水の摂取
健常者および嚥下障害の患者で行った他の研究で報告された証拠(Adnerhill et al., 1989; Robbins et al., 1987; Logemann, 1986)に基づき、臨床試験において参加者が摂取する水の量は20mLとした。サンプルの半分について、この量をグラスに入れて参加者に与えた。
【0139】
FEES(登録商標)の手順
臨床試験で実施したFEES(登録商標)の手順は標準的なFEES(登録商標)プロトコルに従い、嚥下の間に喉を通過するサンプルの移動を可視化した。シニアセラピストが直径3〜4mmのテレスコープを鼻孔から喉の奥へ安全に挿入する一方、参加者は水の入ったグラスを手に持ち座りながら、CIがスプーンに1つずつ載せて与えたサンプルを飲み込むようにした。画像をビデオテープに記録すると同時にセラピスト、参加者およびCIにリアルタイムで見えるようにスクリーンに映した。この手順全体は、NNUHのシニアスピーチおよび言語セラピストによって実施された。サンプルナンバー、タイプ、およびサイズの詳細を以下の表4に示す。
【表4】

【0140】
FEES(登録商標)により、各嚥下の間以下を記録した。
・喉に入り通過したときにゲルが無傷であるかどうか
・喉に入り通過したとき錠剤がゲルの中にあるかどうか
・カメラに写っている時間、即ち嚥下するまでの時間
【0141】
質問表の作成および実施
臨床試験で用いた質問表は、改善すると思われる、製剤の飲み心地、粘性、飲み込みやすさを評価するため研究チームにより作成された。質問表はそれぞれ5つの質問からなり、各サンプルを飲み込んだ後に患者に質問した(表5参照)。5つの質問のうち3つは、スケールを用いて、「非常に同意できる」「同意できる」「どちらともいえない」「同意できない」「全く同意できない」の5段階のリッカート尺度(Smith, 2002)のうち、参加者の意見を示してもらった。この種の回答は体験のランク付けするため選択してもらい、あとの2つの質問(Q4およびQ5)は「はい」または「いいえ」で回答してもらった。
【表5】

【0142】
結果
投与した32のサンプルのうち、嚥下の間に、7つで製剤が崩れ、8つで錠剤がゲルから離れた。表6に分離および破壊に対する種々の条件に対する効果の要旨を示す。あきらかな関連性は認められなかったが、硬いゲルほど崩れる傾向があり、同様に大きいおよび硬いゲルほど嚥下の際に錠剤が分離しやすい傾向があるように思われる。バイナリーロジスティック回帰分析では変数(水の有無、サイズまたは硬さ)によってゲルが崩れるまたは分離するかどうかの予測はできないことが分かった。
【表6】

【0143】
図7〜15は、種々の条件下での、飲み込みやすさ、安楽さ、および粘着性についての意見をまとめたものである。水の存在は飲み込みやすさや安楽さに関連するようには思われないが、小さいゲルほど好ましい傾向がみられる。サイズと粘着性との関連性は認められないが、これも軟らかいゲルほど粘着性が残る感じがあった。
【0144】
回答者のポイントは、小さいサイズではリッカート尺度の平均より2ポイント高く、硬いゲルではリッカート尺度の平均の半分のポイントであり、小数減少法による回帰分析では、サイズと硬さのみが安楽さに有意に関連する因子である(それぞれp<0.001およびP=0.097)と認められた。サイズ(図8、11)、水の有無(図7、10)および硬さ(図9、12)はいずれも飲み込みやすさに有意に関連していると認められた、p=0.006(3つすべてについて)。ゲルのサイズが小さくなる、硬さが減少する、水中で与えることで、いずれも独立して、飲み込みやすさに関してリッカート尺度で0.8ポイント高くなった。水の存在(図13)および硬さ(図15)は、ゲルの認識される粘着性に有意に関連することが認められた(それぞれp=0.068および0.068)。硬いゲルから軟らかいゲルにおよび水なしから水有りに変更すると、それぞれのケースで回答が2/3ポイント改善した。
【0145】
考察
小さいゲルおよび軟らかいゲルは、飲み込みがより容易で安楽である。水の存在は飲み込み易さや安楽さには関連しないが、認識される粘着性に関連していた。このことは、水を同時に与えなければ、口腔乾燥症(即ち唾液不足)でない患者に用いるべきでないということを保証する証拠となりうる。
【0146】
試験を、健康なボランティアで行い、理想なゲルの特徴について決定するように設計した。この証拠は錠剤の投与を支援するゲルの使用をサポートするものであり、これまでに開発されているゲルがこの役割について可能性を有することを実証している。
【0147】
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【0148】
FEESによる嚥下障害の評価
嚥下障害の存在を同定し、症状の原因を調べ、および不顕性誤嚥の危険性を決定するために、嚥下障害を有する患者を治療するセラピストによって、嚥下のいくつかの実験室的診断的評価を用いることができる。嚥下困難を有する患者は、患者の障害の程度に応じて、液体、固体または半固体の材料を用いて患者の口の運動機能をテストする、スピーチおよび言語セラピスト(SLT)により慣用的に行われている臨床評価を受ける。最初に水等の低粘度の液体を用いて誤嚥の理由をよりはっきりとさせ、患者がより容易に排出できるようにする。病室での臨床試験の重要な制約は、誤嚥の存在と重篤度が簡単には分からないということである(Ott and Pikna, 1993)。臨床評価は、包括的な摂食方式を決定するのに必要であるが、侵入または誤嚥現象を予測することが、または観察するさえ,
できないことが多く、嚥下の咽頭および食道状態を評価するのに用いることができない(DeMatteo et al., 2005)。
【0149】
Fiberoptic Endoscopic Examination of Swallowing(FEES)(登録商標)は、食物および液体の誤嚥、並びに経口摂取のなんらかの異常を評価する診断ツールである(Langmore, 2001)。標準的なFEES(登録商標)の間、内視鏡技師である言語聴覚士(Speech-Language Pathologist (SLP))と、アシストし患者に食事を与える別の人間が必要である。試験を受ける人は、普段食事を取るのに典型的な真っ直ぐな姿勢で座り、内視鏡を鼻から中咽頭内へ喉頭蓋の後方の場所へと通し、咽頭部の構造がはっきりと写るようにした(Langmore, 2001)。患者は種々のボーラスを嚥下し、装置はその通過をビデオ録画する。
【0150】
この方法は、嚥下の問題が、不十分なボーラス推進および排出、舌の有効でない推進力、喉頭挙上、または舌骨挙上等に関連するものかどうかを示すことが可能である。別の場合では、この問題がボーラスの推進および気道保護のタイミングまたはこの2つの事象が適時に開始されることと関連するかどうかを理解することができる(Langmore, 2001)。
【0151】
実施例5−種々のゲル材を用いた包括的試験
材料および方法
ブタの皮膚由来のゼラチンをSigma, Steinham, Germanyから入手し、HPMCとしてMethocel K4MをColorcon (Dow Chemical Company), Dartford, Kentから入手した。製剤の添加剤の溶解にはAnalar(登録商標)水を用いた。ビタミン錠剤BP(50mg)を地元の薬局から入手した。
【0152】
Stable Micro Systems TA.XT PlusTexture 分析器を用いてテクスチャ分析を行った。
【0153】
調製方法では2種類の溶液を別々に調製した。所要の濃度のゼラチンを2時間かけて水に加えて分散液を形成した後、穏やかに攪拌(標準的な実験室ベースのヒータースターラーでだいたい5の印)しながら70℃に10分間加熱して溶解させた。必要な濃度のHPMCを予め80℃に加熱した水に添加し、30分間かけて中程度のスピード(標準的な実験室ベースのヒータースターラーでだいたい5の印)で混合し、冷却した。次いで、冷却水を加えて溶解させた。両方の溶液を冷却させたら、それらを10分間混合した。次いで1時間以内にゲルが形成した。ゲルは使用するまで冷蔵する。
【0154】
実験および結果
2、3および5%含有するゼラチンゲル(HPMCなし)を調製し評価した。これらはいずれも、HPMCなしでテクスチャがフィルム状で弾性があり、本目的には適当であるように考えられないので適当でないとした。ゼラチン2%の圧縮試験の平均は約150g/5mmであるのに対し、HPMCありでは51g/5mm(0.4%)であった。ゼラチン3%の結果は約210g/5mm、HPMCありで110g/5mm(0.3%)、5%ゼラチンでは480g/5mm、HPMCありでは221g/5mm(0.5%)であった。これらの知見の結果、ゼラチン単独でさらに使用することはしなかった。
【0155】
患者にとっての安楽さと必要な錠剤(アスコルビン酸およびビタミンCを用いた)(ゲルの寸法:直径15mm、厚さ7mm、錠剤の寸法:直径8mm、厚さ3mm)の挿入のしやすさの観点から理想的なゲルを調べるため、ゼラチンとHPMCの多くの種々の組み合わせに対して様々な方法を用いた。これらには、「柔らかさ」と分断性をモニターする圧縮モードでのゲルのテクスチャ分析が含まれる。図16は、種々の濃度のHPMCに添加した種々の濃度のゼラチンの例を示す。実験では、0.1〜1%のHPMC濃度を試したが0.4%の濃度で最もよい結果が得られた。さらに、用いたゼラチン濃度はゲルの柔らかさと分断性に影響した。1%〜10%の濃度範囲のゼラチンを試し、高い濃度のゼラチンになると割れる傾向が改善されるが柔らかさは減少する。図16に示されるように、高い濃度のゼラチンを含有するゲルに対して高い圧縮力を必要とした。50〜120g/5mmの間の圧縮力で、柔らかさと錠剤の挿入しやすさの点で最も良好な結果が得られることが見出された。この値よりも低いと、ゲルが軟らかくなりすぎて、これより大きいとゲルの可塑性がなくなり、触覚評価から飲み込み難いと予想される。
【0156】
観察分析を用いてゲルの扱い易さおよび感触、錠剤の挿入しやすさおよびシネレシスの存在(いくつかのゲルの組み合わせについて問題がみられた)をモニターした。表7にこれらの観察の結果を示す。この段階で高い濃度のゼラチンは非常に困難なので廃棄し、1%〜5%のゼラチン濃度で結果を示す。HPMC濃度は0.1%〜2.5%の範囲とした。錠剤の挿入および硬質ゲルでの保持はより容易であったが、これらのゲルは硬すぎて安楽に飲み込むことは困難である。0.4%HPMCに加えた2%ゼラチンを含有するゲルは、感触が非常にしなやかで比較的錠剤を挿入および保持しやすかった。
【表7】

【0157】
結論
結果は、柔らかさ、分断性および錠剤の挿入しやすさの点で、2%ゼラチンに0.4%HPMCを添加したものが理想的であることを示している。ゼラチンまたはHPMCのより低いまたは高い濃度では、分断性が増大し錠剤の挿入が困難または不可能になる点で軟らかすぎ、飲み込み易さの点で硬すぎるゲルが生じた。
【0158】
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【0159】
特に示さない限り、(重量)はw/w%を意味する。
【0160】
上記のとおり本発明は限定されることなく広範に記載される。当業者に明かな変更および修飾は、添付の請求の範囲においておよびそれによって定義したような本発明の範囲内に包含されると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚥下困難な患者による可食性の物体の嚥下を可能にする方法であって、潤滑性の食用ゲルを含んでなる被覆を該物体の少なくとも一部分の表面に施すことを含んでなる方法。
【請求項2】
潤滑性の食用ゲル組成物を含んでなる表面を含む固形の摂取可能な材料の物体であって、ゲルが存在する表面積が、患者がその物体を嚥下することを可能にするのに十分である、物体。
【請求項3】
嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物であって、該組成物が投与形態の受け入れのための形状と寸法である、組成物。
【請求項4】
組成物に凹部を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
その表面の少なくとも一部分が、親水コロイドを含んでなる潤滑性の食用ゲルを含んでなる、固形医薬。
【請求項6】
ゲル化剤
水、および
潤滑剤
を含んでなる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項7】
ゲル化剤
水、および
潤滑剤
を含んでなる、嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物であって、場合により、投与形態の受け入れのための凹部を含んでなる組成物。
【請求項8】
ゲル組成物が、親水コロイドゲル化剤を含んでなるゲル化剤を含んでなる、請求項1〜7のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項9】
ゲル組成物が、ゼラチン、アルギン酸、キトサン、寒天、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、グルコマンナン、ローカストビーンガム、キサンタンガムから選択されるゲル化剤を含んでなる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項10】
ゲル組成物が、ゼラチンを含んでなるゲル化剤を含んでなる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項11】
ゲル化剤がヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含んでなる潤滑剤を含んでなる、請求項1〜10のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項12】
ゲル組成物がゼラチンとヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含んでなる、請求項1〜11のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項13】
ゲル組成物が、ゼラチンとヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を10:1〜1:1のw/w比で含んでなる、請求項1〜12のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項14】
ゲル組成物が、ゼラチンとヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を6:1〜3:1のw/w比で含んでなる、請求項1〜13のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項15】
ゲル組成物が、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)および水から本質的になる、請求項1〜14のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項16】
ゲル組成物が、凹部を有し、該凹部がスリットまたは開口である、請求項1〜15のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項17】
前記組成物が投与形態を伴っている、請求項1〜16のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項18】
ゲル組成物が、錠剤または丸剤である投与形態の一部である、または該投与形態を伴っている、請求項1〜17のいずれかに記載の方法、物体、組成物または医薬。
【請求項19】
嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物の製造方法であって、
食用ゲルを形成するための液体のプレゲル組成物を提供すること;次いで
(i)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化した食用ゲル組成物に投与形態を受け入れるための凹部を形成するか、または
(ii)該プレゲル組成物を型で固化させ、固化したゲルに凹部を、例えばゲルをカットして、形成すること
を含んでなる、方法。
【請求項20】
嚥下が困難な患者に経口投与するための食用ゲル組成物の製造方法であって、
ゲル化剤、
水、および
潤滑剤
を含んでなる液体のプレゲル組成物を提供すること;および
該プレゲル組成物を型で固化させること
を含んでなる、方法。
【請求項21】
潤滑剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースを含んでなる請求項20の食用ゲル組成物の製造方法。
【請求項22】
嚥下が困難な患者に投与形態を投与する方法であって、
投与形態を伴い請求項3、4および6〜18のいずれかに記載の組成物を提供すること;および
該組成物を患者に経口投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項23】
嚥下が困難で場合により別の障害を有する患者を処置する方法であって、
投与形態を伴い請求項3、4および6〜18のいずれかに記載の組成物を経口投与することを含んでなり、該投与形態が嚥下困難および/または該別の障害の治療のためのものである方法。
【請求項24】
前記別の障害が、鈍的な喉の傷害、手術による損傷、発作、多発性硬化症、アスペルガー症候群、食道癌、喉頭癌、シャーガス病、セリアック病、嚢胞性線維症、ハンチントン病、ニーマン・ピック病、筋萎縮性側索硬化症等の神経学的疾患、アルツハイマー病およびパーキンソン病、肥満症、ライリー・デイ症候群、高コレステロール、コーンアレルギーおよびコーン感受性、強皮症および糖尿病から選択される嚥下困難を伴う障害である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
嚥下困難および/または別の障害の患者を治療するための医薬の製造のための、請求項3、4および6〜18のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項26】
嚥下困難および/または別の障害の治療のための組成物が投与形態を伴う、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記別の障害が、鈍的な喉の傷害、手術による損傷、発作、多発性硬化症、アスペルガー症候群、食道癌、喉頭癌、シャーガス病、セリアック病、嚢胞性線維症、ハンチントン病、ニーマン・ピック病、筋萎縮性側索硬化症等の神経学的疾患、アルツハイマー病およびパーキンソン病、肥満症、ライリー・デイ症候群、高コレステロール、コーンアレルギーおよびコーン感受性、強皮症および糖尿病から選択される嚥下困難を伴う障害である、請求項25または26記載の使用。
【請求項28】
請求項3、4および6〜18のいずれかに記載の組成物を含むパッケージ。
【請求項29】
食用組成物の少なくとも一部が露出し、凹部が食用組成物の露出部分に存在する、請求項28記載のパッケージ。
【請求項30】
(i)投与形態の挿入のための凹部を有する、請求項3、4および6〜18のいずれかに記載のゲル組成物を含む1またはそれ以上の凹みを有するベース;
(ii)取り外したときに凹部が露出して凹部への投与形態の挿入を可能する、取り外し可能なカバー
を含んでなる、請求項28または29記載のパッケージ。
【請求項31】
前記ベースが、場合により投与形態を凹部に挿入した後で、ベースからのゲル組成物の押し出しが可能である変形可能な、請求項30記載のパッケージ。
【請求項32】
前記ベースがプラスチックを含んでなる請求項31に記載のパッケージ。
【請求項33】
前記取り外し可能なカバーが金属箔を含んでなる、請求項30、31または32記載のパッケージ。
【請求項34】
組成物の嚥下しやすさを試験するための装置であって、
距離を測定するために一定のスピードで下に移動するプローブを含んでなる、組成物のせん断されにくさを測定するための分析器、および
上部に入口を設けた実質的に鉛直の中空管を含んでなり、
組成物を上部の入り口から管へ入れ、組成物を管の中を押し出すように管の中を垂直に下へ移動させ、その距離にわたってせん断されにくさを分析器により測定するようにプローブと管が配置されている、装置。
【請求項35】
組成物の嚥下しやすさを試験する方法であって
請求項34記載の装置を提供すること、
組成物を管の上部入り口から入れること、
組成物を、プローブで一定の速度で決められた距離を管内を下に移動させ、その距離にわたってせん断されにくさを測定すること
を含んでなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2011−511055(P2011−511055A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545564(P2010−545564)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050123
【国際公開番号】WO2009/098520
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(510215444)ユニバーシティ・オブ・イースト・アングリア (1)
【氏名又は名称原語表記】University of East Anglia
【Fターム(参考)】