嚥下運動測定システム
【課題】小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置を提供すること。
【解決手段】医薬品または飲食品の嚥下時における咽頭部の運動を測定するものであって、被験者の頸部を覆うように装着される装着部5と、この装着部に設けられて装着部が装着されたときに被験者の甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部のいずれかの表面に接触する静電容量センサ4とを備えた嚥下運動測定装置2は、静電容量センサからの信号を入力し、増幅して出力する信号増幅器7が設けられ、信号増幅器には、静電容量センサから出力される信号を処理するローパスフィルタ6が設けられている。
【解決手段】医薬品または飲食品の嚥下時における咽頭部の運動を測定するものであって、被験者の頸部を覆うように装着される装着部5と、この装着部に設けられて装着部が装着されたときに被験者の甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部のいずれかの表面に接触する静電容量センサ4とを備えた嚥下運動測定装置2は、静電容量センサからの信号を入力し、増幅して出力する信号増幅器7が設けられ、信号増幅器には、静電容量センサから出力される信号を処理するローパスフィルタ6が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下運動測定装置、及びその装置を用いた嚥下運動測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢社会が急速に進展していることと、セルフメディケーションへの関心が高まっていることに伴い、医薬品を服用する機会が一層増加している。また、錠剤やカプセル状等の健康食品も市場に多く流通しており、これらを服用する機会も増加している。このような背景の中、医薬品等には服用しやすさ(飲みやすさ、取り扱いやすさ)が求められており、利用者の服用しやすさを考慮した大きさ、形状の設計が行われている。飲みやすさを配慮した設計に関する研究として、これまで錠剤やカプセルを対象にX線撮影により大きさや形状が嚥下時間に及ぼす影響を検討した研究が見られるが、被験者の負担が大きく簡易な方法とは言い難い。このような事態に鑑みて、飲みやすさを生体測定するための技術開発が行われている(特許文献1〜特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−109950号公報
【特許文献2】特開2005−307890号公報
【特許文献3】特開2009−160459号公報
【特許文献4】特開2007−260273号公報
【特許文献5】特開2009−039516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、磁気センサを用いて甲状軟骨の移動量を検出するため、大型の機械となってしまうことに加え、移動が容易な装置を製造し難い。特許文献2の技術は、咽喉部の表面筋電図、加速度センサ、及び咽喉蓋から発生する嚥下音のデータを取得して解析するシステムであるため、装置の自重が重く操作性が悪い。特許文献3の技術は、縦方向に複数の圧力センサを配列し、甲状軟骨の上下運動を測定する方式であるため、被測定者に圧力センサを設置するのに手間が掛かる。特許文献4の技術は、甲状軟骨とその周辺を対象に、画像解析により位置を検出する方式であるため、複数のカメラと、その空間上の正確な校正が必要となる。特許文献5の技術は、表面筋電位の波形を周波数解析し、周波数帯域毎に分析して嚥下感覚と比較する方式であるため、電極を貼り付ける位置によって、データにバラツキが出やすくなる。
このように、いずれの技術においても一長一短があり、更なる装置開発が望まれていた。
本願発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置、及びその測定装置を用いた嚥下運動測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための第1の発明に係る嚥下運動測定装置は、医薬品または飲食品の嚥下時における咽頭部の運動を測定するものであって、被験者の頸部を覆うように装着される装着部と、この装着部に設けられて前記装着部が装着されたときに被験者の甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部のいずれかの表面に接触する静電容量センサとを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、被験者の咽頭部の動きを静電容量センサによって感知し、嚥下運動を測定できる。この装置は、従来のものに比べると、簡略化が可能なことに加え、官能評価との相関性も高い。
上記嚥下運動測定装置には、前記静電容量センサからの信号を入力し、増幅して出力する信号増幅器が設けられることが好ましい。
この構成によれば、静電容量センサからの信号が増幅して出力される。この増幅された信号に基づき、嚥下運動を評価できる。
【0006】
上記信号増幅器には、前記静電容量センサから出力される信号を処理するローパスフィルタが設けられていることが好ましい。
この構成によれば、当該嚥下運動測定装置を用いた嚥下運動測定システムを構成する際に、計算手段に入力される信号には予め不要な信号が削除されているので、計算量を少なくできる。
また、装着部は、被験者の前面側に開放する左右一対の自由端部を備えており、前記静電容量センサは前記自由端部に設けられて、当該静電容量センサは胸骨甲状筋周辺部の表面に接触することが好ましい。なお、このとき静電容量センサは、左右一対に設けることができる。
甲状軟骨に接触する構造とすると、嚥下運動の際に上下動が激しいために、静電容量センサを正確に装着することが難しい場合がある。一方、胸骨甲状筋周辺部に左右一対の静電容量センサを設けると、甲状軟骨の運動にはかかわらず、かつ嚥下運動を良好に解析できるので好ましい形態となる。
【0007】
第2の発明に係る嚥下運動測定システムは、上記嚥下運動測定装置と、前記静電容量センサから出力される信号を入力し、当該信号によって表される波形データを全波整流化し、積分して算出する計算手段と、前記計算手段によって得られた積分値による測定データと予め保持された基準データとを比較することによって嚥下のしやすさを評価する評価手段とを備えたことを特徴とする。
なお、計算手段に入力される波形データとしては、適当な周波数を設定したローパスフィルタを通したものでも良いし、そのようなフィルタを通さずに計算手段に入力された後に、計算時にローパスフィルタをかけても良い。
上記システムにおいて、前記静電容量センサから出力される信号は、所定の周波数に設定されたローパスフィルタを通して増幅処理された後に入力され、その入力信号がA/D変換装置に取り込まれて波形データとされることが好ましい。
嚥下運動時に発生する運動の振動数は、それほど高くないので、適当な所定の周波数のローパスフィルタを設定しておけば、嚥下運動を明瞭に解析できる。そのような所定の周波数として、例えば100Hz、60Hz、10Hzなどを用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、静電容量センサを用いて嚥下運動を測定するので、小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置、及びその測定装置を用いた嚥下運動測定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】嚥下運動測定システムの概要を示す図である。
【図2】嚥下運動を測定するための手順を示すフローチャートである。
【図3】甲状軟骨にて測定する1ch型の測定装置を示す写真図である。(A)は装着前の外観を示す斜視図、(B)は装着時の様子を示すものである。
【図4】胸骨甲状筋周辺部にて測定する2ch型の測定装置を示す写真図である。(A)は装着前の外観を示す斜視図、(B)は装着時の様子を示すものである。
【図5】筋電図測定結果と官能検査の関係を示すグラフである。装着部として、▲はS(small)を、■はM(medium)を、●はL(large)を用いて測定したデータである(マーク(▲、■、●)と装着部のサイズ(S、M、L)との関係は、図6及び図7について同じ)。
【図6】三次元動作解析による振動測定結果と官能検査の関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態における静電容量センサを用いた測定装置の測定結果と官能検査の関係を示すグラフである。
【図8】装着部の詳細な形状を示す平面図である。
【図9】本発明の測定装置を用いて、水50mlを飲用したときの振動センサからの測定結果を示すグラフである。
【図10】振動センサからの出力電圧をA/D変換し、フィルタ処理を行った結果を示すグラフである。
【図11】装着部にサイズ調整機構を付加した測定装置の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶ。
<嚥下運動測定システム>
図1には、嚥下運動測定システム1(以下、単に「システム1」という)の模式図を示した。このシステム1には、嚥下運動測定装置2(以下、単に「測定装置2」という)と、この測定装置2から出力される信号が入力されて、所定の処理が行われるコンピュータ3(本発明における計算手段、評価手段に該当する)とが設けられている。測定装置2には、被験者の咽頭部表面に接触する静電容量センサ4(以下、単に「センサ4」という。)を備えた装着部5と、前記センサ4からの出力信号を処理するローパスフィルタ6と、信号増幅器(アンプ)7と、A/D変換装置8とが設けられている。装着部5は、被験者の頸部の外周を覆うようにして装着される。
【0011】
なお、図1には、胸骨甲状筋周辺部において測定を行う2ch型の装着部5とセンサ4とを示したが、本発明によれば、甲状軟骨において測定を行う1ch型のもの(例えば、図3を参照)を用いることもできる。この場合には、センサは1chのみの設定で済むので、より簡易な装置・システムとできる。また、甲状軟骨における嚥下運動を直接的に記録できるので、より正しい測定が可能となる。
図1には、センサ4は装着部5の左右一対に設けられているが、いずれか一方のみに設けても良い。
図1に示すように、センサ4を胸骨甲状筋周辺部に接触して装着する場合には、装着部5は被験者の前面側に開放する左右一対の自由端部9を備え、この自由端部9にセンサ4を設ける構成とする(なお、より詳細には、センサ4は支持体10に固定されており、この支持体10が固定ネジ11によって、装着部5に固定されている)。このようにすると、嚥下運動時の甲状軟骨の上下運動には影響を受け難いので、安定した測定を行える。また、2chのセンサ4を設けると、左右からの信号が相違した場合でも、平均値を取るなどの方法により、より正確な測定を行える。
センサ4からの信号は、ローパスフィルタ6を通すことで、嚥下運動の解析に不必要なノイズを取り除いた上で、アンプ7によって増幅される。その後、A/D変換装置8によって、デジタル信号に変換されて、コンピュータ3に入力される。なお、A/D変換装置8は、コンピュータ3側に設けることもできる。
コンピュータ3は、測定装置2のセンサ4からの信号を入力されると、所定の処理手順に従って嚥下のしやすさを評価する(後に詳述する)。
【0012】
<嚥下運動測定用アルゴリズム>
図2には、嚥下運動を測定するための手順の一例を示した。
先ず、ステップS10では、測定装置2の初期設定を行う。嚥下運動を評価するには、被験者を座位とした状態で、頸部を取り巻くようにして装着部5を装着することで、所定の皮膚表面部にセンサ4を接触させる。
次に、ステップS20で、コントロールとなる基準データを採取する。コントロール用の飲食物としては、例えば「水」を用いることができる。所定量の水(例えば、20ml、50mlなど)を嚥下したときのデータをセンサ4から入力される信号として、コンピュータ3に取り込み、基準用の波形データとして記録する。被験者の嚥下運動をセンサ4で検出する。
【0013】
次に、ステップS30で、評価すべき飲食品・医薬品などのサンプルのデータを取得する。センサ4で検出された嚥下時の咽頭部の動きを示すデータを波形データとして、コンピュータ3に取り込む。波形データを記録した後には、必要な回数だけ別の波形データを取得する。
次に、ステップS40で、各波形データ(基準用波形データ及び、各サンプルの波形データ)を全波整流化し、積分値を求める。
次に、ステップS50で、基準データ(基準波形データから得られた積分値)と、測定データ(各サンプルの波形データからえら得た積分値)とを比較して、嚥下のしやすさを評価する。
次に、具体的な実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。但し、本願発明の技術的範囲は、これらの実施例によって制限されない。
【0014】
<実施例1> 静電容量型センサを組み込んだ測定装置の製作と評価(1)
1.センサ形状の検討
静電容量型センサの形状を検討した。振動測定部位、咽喉部の動作拘束性、皮膚への貼付方法から、直径20mmの円形とした。
2.測定装置の設計
錠剤を嚥下する時の喉頭部周辺の運動を三次元動作解析システム(QuickMAG IV、(株)応用測定研究所製)を用いて測定した。錠剤を嚥下する際の動作では、舌骨筋周辺部、甲状軟骨、胸骨甲状筋周辺部の変位が大きいことが確認された。これらの部位を対象に円形の静電容量センサを用いて、運動を測定することとした。舌骨筋周辺部へはセンサの貼付が困難であるため、甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部の振動を測定することとした。甲状軟骨(1ch型)または胸骨甲状筋周辺部(2ch型)にセンサを接触させる装置をそれぞれ製作した。「設計のための人体寸法データ集」(人間生活工学研究センター)より、最大頸囲の5%ile値(288.0mm)、95%ile値(383.0mm)を用いて設計した。
また、三軸加速度センサにより、咽喉部周辺部の運動を測定した。錠剤を嚥下する際の振動は、低帯域の信号であることがわかったため、ローパスフィルタを用いることとして、振動測定システムのA/D変換装置に組み込むこととした。
【0015】
3.測定装置の製作
(1)1ch型(甲状軟骨):図3には、1ch型の測定装置の概要を示した。試着を行った結果、軟骨上に装着するため、装着性が求められた。センサは平板であるため、ゲルまたは半球状の樹脂により、装着性を高めた。嚥下動作を測定した結果、甲状軟骨の振動は測定できているようであったが、精度を高めるためには、周径の調節によりセンサを密着させる必要がある。
(2)2ch型(胸骨甲状筋周辺):図4には、2ch型の測定装置の概要を示した。センサ部を樹脂製の半球上に加工し、接触面積および装着性の向上を図った。嚥下動作を測定した結果、上記いずれの型の測定装置を用いても、嚥下運動の評価を行えることが分かった。但し、嚥下時の振動は測定できており、咽喉部の動作拘束性も低く、装着性も良好であったので、以下の試験では、2ch型を用いることとした。
4.錠剤を服用したときの生体信号の測定と官能検査との関係
錠剤を20mlの水で嚥下したときの咽喉部の生体信号の測定を行った。被験者は、嚥下機能に障害のない健常な成人男性とした。試料は、乳糖(67.2%)、コーンスターチ(28.8%)、結合剤(3.5%)、滑沢剤(0.5%)を成分とする直径等が異なる3種類(TA:6mm,TB:8mm,TC:10mm)の錠剤とした。それぞれ1錠(TA1,TB1,TC1)から5錠(TA5,TB5, TC5)までの5種類を試料とした。その詳細を表1に示した。
【0016】
【表1】
【0017】
嚥下時の姿勢は椅座位にて正面向きの姿勢とし、各試料1〜5錠を1回ずつ20mlの飲用水で自由に嚥下させた。嚥下終了後、被験者には、飲みやすさの官能評価を行わせた。官能評価の基準としては、「非常に飲みやすい、やや飲みやすい、どちらでもない、やや飲みにくい、非常に飲みにくい」の5段階評価とした。
図5には、筋電図の測定データと官能検査の関係を示した。成人男性6名を対象に、左右の胸骨甲状筋を被験筋として、測定した。積分筋電位と官能検査の相関関係はR2=0.784で、危険率5%で有意であった。筋電図を用いると、直接に筋の動きを測定するので測定精度は高い一方、センサの取り付けに難点があり、センサがやや重いことから、測定を行う際に困難があることが分かった。
図6には、三次元動作解析による振動測定データと官能検査の関係を示した。喉頭部周辺の運動を対象に三次元動作解析システムを用いて測定した。カラーマーカーの貼付位置は,甲状軟骨の下部(1ch)、左右の胸骨甲状筋上(2ch,3ch)及び下顎部(4ch)とした。左右の胸骨甲状筋上の振動曝露値と官能検査の相関関係はR2=0.648で、危険率5%で有意であった。振動解析を用いると、非接触での測定であるため被験者への負担が少ない一方、測定時のデータの校正に難点が大きいことが分かった。
【0018】
図7には、静電容量センサにより測定したデータと官能検査の関係を示した。静電容量センサの外形は厚さ0.3mm、直径20mmであり、センサの中間層にある30μmのポリプロピレン層に電荷が保たれ、表層とシートの下層の間で生じる電位差を振動として検出するものである。静電容量センサからの信号は、アンプ(OSM-φ20、ヒューテック(株)製)を経てアナログ・データ記録システム(Powerlab、ADInstruments社製)に記録した。被験者が飲用水を口に入れるときを服用開始とし、嚥下終了までの8秒間をサンプリング間隔100Hzで測定した。得られた信号から、振幅、積分値、振動時間などの指標を検討した。その結果、全波整流化し、一定時間積分した積分振動値が官能検査結果との相関が最も高く(R2=0.682、危険率5%で有意)、本装置の評価指標とすることとした。静電容量センサを用いると、センサの装着が簡単なことに加え、従来より、錠剤の飲みやすさの評価指標として有効であることを示されている上記の2方法と比較しても、相関関係は同等であり、本手法も有効であるとの結果を得た。
5.測定装置のモニタリング
2ch型の測定装置について、装着性、センサ位置等について、モニタリングを行った。その結果、周径の調整が煩雑であること、頸囲が小さい女性では、センサと皮膚間の接触圧力が小さく、測定精度が落ちる場合があることが明らかになった。
このように、薄型の静電容量センサを用いて、頸部に簡易に装着できる装置を製作できた。
【0019】
<実施例2> 静電容量型センサを組み込んだ測定装置の製作と評価(2)
1.センサの種類と形状の検討
図3に示す1ch型の装置では、軟骨上に正確に配置することが難しいことがあり、また、被験者に圧迫感を生じることがあった。振動測定センサの貼付位置である胸骨甲状筋周辺部も変位が大きいため、振動センサと同位置に圧力センサを配置することとして、図4に示す2ch型の装着装置を用いてセンサの種類を検討した。振動センサと同位置に貼付することから、振動のノイズとならないように薄型、軽量といった機能が必要である。そこで、ボタン型荷重センサとフィルム型圧力センサを検討した結果、ボタン型センサは厚みと自重があるため、フィルム型圧力センサを用いることとした。フィルム型圧力センサは通常、圧力測定に用いるが、校正を行い、荷重に変換することにより、接触荷重が得られる。
振動センサ:静電容量型、直径20mmの円形
荷重センサ:感圧導電式フィルム、直径10mmの円形。圧力値を荷重に変換して用いた。
【0020】
2.三次元形状測定による装置の形状設計
人間工学的な設計として、図4の胸骨甲状筋型は、「設計のための人体寸法データ集」(人間生活工学研究センター)より、最大頸囲の5%ile値(288.0mm)、95%ile値(383.0mm)を用いて設計した。しかし、頸囲の小さい女性では、測定精度が落ちることなどが明らかになっており、サイズの調整のほか、装置の周囲サイズに種類を持たせ、small、medium、largeとして設計することが有効であると考えられた。そこで、空間座標測定装置(ベクトロン、小阪研究所製)により、人体頸部の周長を三次元測定した。サンプリングは約1cm間隔とした。頸囲が大きい被験者と小さい被験者のものを測定し、三次元データを得た。2号機の設計には、頸囲と頸囲を構成する楕円形の長径と短径の値を用いた。装置設計図の概要を図8に示した。
【0021】
3.測定装置の製作
胸骨甲状筋型(2ch型)の改良を行うこととして、従来の静電容量センサ上に薄型のフィルムセンサを配置した測定装置を製作した。装着性を考慮して、周囲サイズに種類を持たせ、S(small)、M(medium)、L(large)の3種類の装置を製作した。周囲長さ、リングの曲率は、図8に示した通りとした。頸部装着時の周囲サイズの調整は、後部のネジによりフィッティングを行う構成とした。周囲サイズの調整機構にネジを用いたが、これに加えて、ネジにカバーを付けたり、ネジ以外の構成(例えば、板バネなど)を用いることもできる。
【0022】
4.装置の有効性の検証
(1)装置による生体信号の測定
平均よりも大柄の健常人男性について、Lサイズの装置を装着して、水を飲用したときの咽喉部の生体信号の測定を行い、装置から得られるデータを検証した。生体信号として、胸骨甲状周辺部に振動センサ(左右に各1ch)、圧力センサ(左右に各1ch)を装着させ、100Hzのサンプリングで6秒間測定した。これらの信号出力を検証するために、生体信号のサンプリングと同期して画像の測定を行った。
その結果、実施例1と同様に、振動センサは画像データによる嚥下運動の結果と上手く連動していることが分かった。
図9には、水50mlを飲用したときの振動センサからの出力結果の一例を示した。この被験者は50mlの水を飲用する場合、2回に分けて嚥下するが、図からその2回の嚥下のピーク(帯状に塗りつぶした部分)が測定されていることが分かった。
【0023】
(2)錠剤を服用したときの生体信号の測定
Lサイズの装置を用いて、胸骨甲状周辺部に振動センサ(左右に各1ch)、圧力センサ(左右に各1ch)を装着させ、水を飲用したときおよび錠剤を20mlの水で嚥下したときの咽喉部の生体信号の測定を行った。サンプリングは500Hzとして、6秒間測定した。被験者は、嚥下機能に障害のない健常な成人男性とした。試料は、水20ml、30ml、50mlおよび直径が異なる3種類の錠剤TA(6mm)、TB(8mm)、TC(10mm)をそれぞれ1錠から5錠(TCは4錠)とした(詳細は、表1に記載したものと同じである)。
図10には、測定結果の一例を示した。図は、振動センサからの出力電圧をAD変換し、フィルタ処理等を行った結果である。これまでの咽喉部周辺部の運動を測定した結果から、錠剤を嚥下する際の振動は、低帯域の信号であることがわかったため、10Hzのローパスフィルタを用いて処理を行った。
【0024】
5.専門家を対象とした測定装置のモニタリング
(1)モニタリング方法
図11には、装着部5において、頸部の後面側を押圧するサイズ調整機構12を設けた測定装置を示した。サイズ調整機構12は、ネジ部を備えており、このネジ部を左右に回すことにより、頸部の後面に当接することでサイズを調整できる。この測定装置について、看護師等の医療関係者10名を対象にモニタリング調査を行った。モニタリングに先立ち、錠剤等の飲みやすさ評価法の概要について説明を行い、さらに実験の内容を説明し、同意書により同意を得た。モニタリングは、ユーザーの立場および医療関係者という中間ユーザーの立場から機器の装着感、使用感について、記述形式で評価していただいた。機器を験者が装着し、装着後、お茶等を飲用して評価した。回答者は、10名で、それぞれの項目に関して、28件ずつの意見をいただいた。その結果は、次の通りであった。
(2)モニタリングのまとめ
フィットしたかどうかの感触がわかりにくいので、微調整できる機構が必要である。後部のサイズ調整部分にやや重量があるため、ネジ部分の材質を軽量化のためにプラスチック素材(例えば、ABS)に変更することが好ましい。S、M、Lなど規定のサイズで調整無しで使える機構が望ましい。サイズ調整が煩雑などの意見が得られた。
【0025】
<実施例1〜実施例2のまとめ>
錠剤を嚥下するときの服用しやすさを評価するシステムを製作した。ポイントとしては、咽喉部の接触荷重を加えた多チャンネル化、測定精度の向上、ユーザーインターフェースを検討した。
胸骨甲状筋周辺部に貼付した振動センサと同位置に荷重測定用のセンサを貼付することとした。薄型、軽量といった機能から、フィルム型圧力センサを採用し、圧力値を校正して、荷重に変換することにより、接触荷重が得られる装置が製作でき、新たに多チャンネル化した嚥下機能評価システムを提案した。
装着性を向上させるため、三次元形状測定を行い、測定装置の形状設計を行った。測定装置を用いて生体信号を測定した結果、接触荷重の測定精度に問題があることが分かったため、サイズ調整が可能な装置を製作して、測定精度の向上を図った。
ユーザーインターフェースのモニタリングを行い、本実施例の問題点を抽出した。操作性をより簡便にすること、操作が行われていることへのフィードバックが必要であることが分かった。
表2には、実施例1、実施例2の測定装置の特徴をまとめた。
【0026】
【表2】
【0027】
サイズ及び個数が異なる錠剤を用いて、喉頭部周辺の運動解析から飲みやすさの新たな評価指標を抽出する試みを行った結果、次のようなことが分かった。
(1)服用する錠剤の個数が多くなると、咽頭部周辺の加速度及び振動が大きくなる傾向があることがわかった。
(2)飲みやすさと咽頭部の加速度積分値の間に負の相関が見られ、咽頭部周辺の運動から飲みやすさが推定できる可能性が示唆された。
(3)飲みやすさと咽頭部の振動積分値の間に負の相関が見られ、咽頭部周辺の運動から飲みやすさが推定できる可能性が示唆された。
このように本実施形態によれば、静電容量センサを用いて嚥下運動を測定するので、小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置などを提供できた。
【符号の説明】
【0028】
1…嚥下運動測定システム
2…嚥下運動測定装置(測定装置)
3…コンピュータ(計算手段、評価手段)
4…静電容量センサ(センサ)
5…装着部
6…ローパスフィルタ
7…信号増幅器(アンプ)
8…A/D変換装置
9…自由端部
12…サイズ調整機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下運動測定装置、及びその装置を用いた嚥下運動測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢社会が急速に進展していることと、セルフメディケーションへの関心が高まっていることに伴い、医薬品を服用する機会が一層増加している。また、錠剤やカプセル状等の健康食品も市場に多く流通しており、これらを服用する機会も増加している。このような背景の中、医薬品等には服用しやすさ(飲みやすさ、取り扱いやすさ)が求められており、利用者の服用しやすさを考慮した大きさ、形状の設計が行われている。飲みやすさを配慮した設計に関する研究として、これまで錠剤やカプセルを対象にX線撮影により大きさや形状が嚥下時間に及ぼす影響を検討した研究が見られるが、被験者の負担が大きく簡易な方法とは言い難い。このような事態に鑑みて、飲みやすさを生体測定するための技術開発が行われている(特許文献1〜特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−109950号公報
【特許文献2】特開2005−307890号公報
【特許文献3】特開2009−160459号公報
【特許文献4】特開2007−260273号公報
【特許文献5】特開2009−039516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、磁気センサを用いて甲状軟骨の移動量を検出するため、大型の機械となってしまうことに加え、移動が容易な装置を製造し難い。特許文献2の技術は、咽喉部の表面筋電図、加速度センサ、及び咽喉蓋から発生する嚥下音のデータを取得して解析するシステムであるため、装置の自重が重く操作性が悪い。特許文献3の技術は、縦方向に複数の圧力センサを配列し、甲状軟骨の上下運動を測定する方式であるため、被測定者に圧力センサを設置するのに手間が掛かる。特許文献4の技術は、甲状軟骨とその周辺を対象に、画像解析により位置を検出する方式であるため、複数のカメラと、その空間上の正確な校正が必要となる。特許文献5の技術は、表面筋電位の波形を周波数解析し、周波数帯域毎に分析して嚥下感覚と比較する方式であるため、電極を貼り付ける位置によって、データにバラツキが出やすくなる。
このように、いずれの技術においても一長一短があり、更なる装置開発が望まれていた。
本願発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置、及びその測定装置を用いた嚥下運動測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための第1の発明に係る嚥下運動測定装置は、医薬品または飲食品の嚥下時における咽頭部の運動を測定するものであって、被験者の頸部を覆うように装着される装着部と、この装着部に設けられて前記装着部が装着されたときに被験者の甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部のいずれかの表面に接触する静電容量センサとを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、被験者の咽頭部の動きを静電容量センサによって感知し、嚥下運動を測定できる。この装置は、従来のものに比べると、簡略化が可能なことに加え、官能評価との相関性も高い。
上記嚥下運動測定装置には、前記静電容量センサからの信号を入力し、増幅して出力する信号増幅器が設けられることが好ましい。
この構成によれば、静電容量センサからの信号が増幅して出力される。この増幅された信号に基づき、嚥下運動を評価できる。
【0006】
上記信号増幅器には、前記静電容量センサから出力される信号を処理するローパスフィルタが設けられていることが好ましい。
この構成によれば、当該嚥下運動測定装置を用いた嚥下運動測定システムを構成する際に、計算手段に入力される信号には予め不要な信号が削除されているので、計算量を少なくできる。
また、装着部は、被験者の前面側に開放する左右一対の自由端部を備えており、前記静電容量センサは前記自由端部に設けられて、当該静電容量センサは胸骨甲状筋周辺部の表面に接触することが好ましい。なお、このとき静電容量センサは、左右一対に設けることができる。
甲状軟骨に接触する構造とすると、嚥下運動の際に上下動が激しいために、静電容量センサを正確に装着することが難しい場合がある。一方、胸骨甲状筋周辺部に左右一対の静電容量センサを設けると、甲状軟骨の運動にはかかわらず、かつ嚥下運動を良好に解析できるので好ましい形態となる。
【0007】
第2の発明に係る嚥下運動測定システムは、上記嚥下運動測定装置と、前記静電容量センサから出力される信号を入力し、当該信号によって表される波形データを全波整流化し、積分して算出する計算手段と、前記計算手段によって得られた積分値による測定データと予め保持された基準データとを比較することによって嚥下のしやすさを評価する評価手段とを備えたことを特徴とする。
なお、計算手段に入力される波形データとしては、適当な周波数を設定したローパスフィルタを通したものでも良いし、そのようなフィルタを通さずに計算手段に入力された後に、計算時にローパスフィルタをかけても良い。
上記システムにおいて、前記静電容量センサから出力される信号は、所定の周波数に設定されたローパスフィルタを通して増幅処理された後に入力され、その入力信号がA/D変換装置に取り込まれて波形データとされることが好ましい。
嚥下運動時に発生する運動の振動数は、それほど高くないので、適当な所定の周波数のローパスフィルタを設定しておけば、嚥下運動を明瞭に解析できる。そのような所定の周波数として、例えば100Hz、60Hz、10Hzなどを用いることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、静電容量センサを用いて嚥下運動を測定するので、小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置、及びその測定装置を用いた嚥下運動測定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】嚥下運動測定システムの概要を示す図である。
【図2】嚥下運動を測定するための手順を示すフローチャートである。
【図3】甲状軟骨にて測定する1ch型の測定装置を示す写真図である。(A)は装着前の外観を示す斜視図、(B)は装着時の様子を示すものである。
【図4】胸骨甲状筋周辺部にて測定する2ch型の測定装置を示す写真図である。(A)は装着前の外観を示す斜視図、(B)は装着時の様子を示すものである。
【図5】筋電図測定結果と官能検査の関係を示すグラフである。装着部として、▲はS(small)を、■はM(medium)を、●はL(large)を用いて測定したデータである(マーク(▲、■、●)と装着部のサイズ(S、M、L)との関係は、図6及び図7について同じ)。
【図6】三次元動作解析による振動測定結果と官能検査の関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態における静電容量センサを用いた測定装置の測定結果と官能検査の関係を示すグラフである。
【図8】装着部の詳細な形状を示す平面図である。
【図9】本発明の測定装置を用いて、水50mlを飲用したときの振動センサからの測定結果を示すグラフである。
【図10】振動センサからの出力電圧をA/D変換し、フィルタ処理を行った結果を示すグラフである。
【図11】装着部にサイズ調整機構を付加した測定装置の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶ。
<嚥下運動測定システム>
図1には、嚥下運動測定システム1(以下、単に「システム1」という)の模式図を示した。このシステム1には、嚥下運動測定装置2(以下、単に「測定装置2」という)と、この測定装置2から出力される信号が入力されて、所定の処理が行われるコンピュータ3(本発明における計算手段、評価手段に該当する)とが設けられている。測定装置2には、被験者の咽頭部表面に接触する静電容量センサ4(以下、単に「センサ4」という。)を備えた装着部5と、前記センサ4からの出力信号を処理するローパスフィルタ6と、信号増幅器(アンプ)7と、A/D変換装置8とが設けられている。装着部5は、被験者の頸部の外周を覆うようにして装着される。
【0011】
なお、図1には、胸骨甲状筋周辺部において測定を行う2ch型の装着部5とセンサ4とを示したが、本発明によれば、甲状軟骨において測定を行う1ch型のもの(例えば、図3を参照)を用いることもできる。この場合には、センサは1chのみの設定で済むので、より簡易な装置・システムとできる。また、甲状軟骨における嚥下運動を直接的に記録できるので、より正しい測定が可能となる。
図1には、センサ4は装着部5の左右一対に設けられているが、いずれか一方のみに設けても良い。
図1に示すように、センサ4を胸骨甲状筋周辺部に接触して装着する場合には、装着部5は被験者の前面側に開放する左右一対の自由端部9を備え、この自由端部9にセンサ4を設ける構成とする(なお、より詳細には、センサ4は支持体10に固定されており、この支持体10が固定ネジ11によって、装着部5に固定されている)。このようにすると、嚥下運動時の甲状軟骨の上下運動には影響を受け難いので、安定した測定を行える。また、2chのセンサ4を設けると、左右からの信号が相違した場合でも、平均値を取るなどの方法により、より正確な測定を行える。
センサ4からの信号は、ローパスフィルタ6を通すことで、嚥下運動の解析に不必要なノイズを取り除いた上で、アンプ7によって増幅される。その後、A/D変換装置8によって、デジタル信号に変換されて、コンピュータ3に入力される。なお、A/D変換装置8は、コンピュータ3側に設けることもできる。
コンピュータ3は、測定装置2のセンサ4からの信号を入力されると、所定の処理手順に従って嚥下のしやすさを評価する(後に詳述する)。
【0012】
<嚥下運動測定用アルゴリズム>
図2には、嚥下運動を測定するための手順の一例を示した。
先ず、ステップS10では、測定装置2の初期設定を行う。嚥下運動を評価するには、被験者を座位とした状態で、頸部を取り巻くようにして装着部5を装着することで、所定の皮膚表面部にセンサ4を接触させる。
次に、ステップS20で、コントロールとなる基準データを採取する。コントロール用の飲食物としては、例えば「水」を用いることができる。所定量の水(例えば、20ml、50mlなど)を嚥下したときのデータをセンサ4から入力される信号として、コンピュータ3に取り込み、基準用の波形データとして記録する。被験者の嚥下運動をセンサ4で検出する。
【0013】
次に、ステップS30で、評価すべき飲食品・医薬品などのサンプルのデータを取得する。センサ4で検出された嚥下時の咽頭部の動きを示すデータを波形データとして、コンピュータ3に取り込む。波形データを記録した後には、必要な回数だけ別の波形データを取得する。
次に、ステップS40で、各波形データ(基準用波形データ及び、各サンプルの波形データ)を全波整流化し、積分値を求める。
次に、ステップS50で、基準データ(基準波形データから得られた積分値)と、測定データ(各サンプルの波形データからえら得た積分値)とを比較して、嚥下のしやすさを評価する。
次に、具体的な実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。但し、本願発明の技術的範囲は、これらの実施例によって制限されない。
【0014】
<実施例1> 静電容量型センサを組み込んだ測定装置の製作と評価(1)
1.センサ形状の検討
静電容量型センサの形状を検討した。振動測定部位、咽喉部の動作拘束性、皮膚への貼付方法から、直径20mmの円形とした。
2.測定装置の設計
錠剤を嚥下する時の喉頭部周辺の運動を三次元動作解析システム(QuickMAG IV、(株)応用測定研究所製)を用いて測定した。錠剤を嚥下する際の動作では、舌骨筋周辺部、甲状軟骨、胸骨甲状筋周辺部の変位が大きいことが確認された。これらの部位を対象に円形の静電容量センサを用いて、運動を測定することとした。舌骨筋周辺部へはセンサの貼付が困難であるため、甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部の振動を測定することとした。甲状軟骨(1ch型)または胸骨甲状筋周辺部(2ch型)にセンサを接触させる装置をそれぞれ製作した。「設計のための人体寸法データ集」(人間生活工学研究センター)より、最大頸囲の5%ile値(288.0mm)、95%ile値(383.0mm)を用いて設計した。
また、三軸加速度センサにより、咽喉部周辺部の運動を測定した。錠剤を嚥下する際の振動は、低帯域の信号であることがわかったため、ローパスフィルタを用いることとして、振動測定システムのA/D変換装置に組み込むこととした。
【0015】
3.測定装置の製作
(1)1ch型(甲状軟骨):図3には、1ch型の測定装置の概要を示した。試着を行った結果、軟骨上に装着するため、装着性が求められた。センサは平板であるため、ゲルまたは半球状の樹脂により、装着性を高めた。嚥下動作を測定した結果、甲状軟骨の振動は測定できているようであったが、精度を高めるためには、周径の調節によりセンサを密着させる必要がある。
(2)2ch型(胸骨甲状筋周辺):図4には、2ch型の測定装置の概要を示した。センサ部を樹脂製の半球上に加工し、接触面積および装着性の向上を図った。嚥下動作を測定した結果、上記いずれの型の測定装置を用いても、嚥下運動の評価を行えることが分かった。但し、嚥下時の振動は測定できており、咽喉部の動作拘束性も低く、装着性も良好であったので、以下の試験では、2ch型を用いることとした。
4.錠剤を服用したときの生体信号の測定と官能検査との関係
錠剤を20mlの水で嚥下したときの咽喉部の生体信号の測定を行った。被験者は、嚥下機能に障害のない健常な成人男性とした。試料は、乳糖(67.2%)、コーンスターチ(28.8%)、結合剤(3.5%)、滑沢剤(0.5%)を成分とする直径等が異なる3種類(TA:6mm,TB:8mm,TC:10mm)の錠剤とした。それぞれ1錠(TA1,TB1,TC1)から5錠(TA5,TB5, TC5)までの5種類を試料とした。その詳細を表1に示した。
【0016】
【表1】
【0017】
嚥下時の姿勢は椅座位にて正面向きの姿勢とし、各試料1〜5錠を1回ずつ20mlの飲用水で自由に嚥下させた。嚥下終了後、被験者には、飲みやすさの官能評価を行わせた。官能評価の基準としては、「非常に飲みやすい、やや飲みやすい、どちらでもない、やや飲みにくい、非常に飲みにくい」の5段階評価とした。
図5には、筋電図の測定データと官能検査の関係を示した。成人男性6名を対象に、左右の胸骨甲状筋を被験筋として、測定した。積分筋電位と官能検査の相関関係はR2=0.784で、危険率5%で有意であった。筋電図を用いると、直接に筋の動きを測定するので測定精度は高い一方、センサの取り付けに難点があり、センサがやや重いことから、測定を行う際に困難があることが分かった。
図6には、三次元動作解析による振動測定データと官能検査の関係を示した。喉頭部周辺の運動を対象に三次元動作解析システムを用いて測定した。カラーマーカーの貼付位置は,甲状軟骨の下部(1ch)、左右の胸骨甲状筋上(2ch,3ch)及び下顎部(4ch)とした。左右の胸骨甲状筋上の振動曝露値と官能検査の相関関係はR2=0.648で、危険率5%で有意であった。振動解析を用いると、非接触での測定であるため被験者への負担が少ない一方、測定時のデータの校正に難点が大きいことが分かった。
【0018】
図7には、静電容量センサにより測定したデータと官能検査の関係を示した。静電容量センサの外形は厚さ0.3mm、直径20mmであり、センサの中間層にある30μmのポリプロピレン層に電荷が保たれ、表層とシートの下層の間で生じる電位差を振動として検出するものである。静電容量センサからの信号は、アンプ(OSM-φ20、ヒューテック(株)製)を経てアナログ・データ記録システム(Powerlab、ADInstruments社製)に記録した。被験者が飲用水を口に入れるときを服用開始とし、嚥下終了までの8秒間をサンプリング間隔100Hzで測定した。得られた信号から、振幅、積分値、振動時間などの指標を検討した。その結果、全波整流化し、一定時間積分した積分振動値が官能検査結果との相関が最も高く(R2=0.682、危険率5%で有意)、本装置の評価指標とすることとした。静電容量センサを用いると、センサの装着が簡単なことに加え、従来より、錠剤の飲みやすさの評価指標として有効であることを示されている上記の2方法と比較しても、相関関係は同等であり、本手法も有効であるとの結果を得た。
5.測定装置のモニタリング
2ch型の測定装置について、装着性、センサ位置等について、モニタリングを行った。その結果、周径の調整が煩雑であること、頸囲が小さい女性では、センサと皮膚間の接触圧力が小さく、測定精度が落ちる場合があることが明らかになった。
このように、薄型の静電容量センサを用いて、頸部に簡易に装着できる装置を製作できた。
【0019】
<実施例2> 静電容量型センサを組み込んだ測定装置の製作と評価(2)
1.センサの種類と形状の検討
図3に示す1ch型の装置では、軟骨上に正確に配置することが難しいことがあり、また、被験者に圧迫感を生じることがあった。振動測定センサの貼付位置である胸骨甲状筋周辺部も変位が大きいため、振動センサと同位置に圧力センサを配置することとして、図4に示す2ch型の装着装置を用いてセンサの種類を検討した。振動センサと同位置に貼付することから、振動のノイズとならないように薄型、軽量といった機能が必要である。そこで、ボタン型荷重センサとフィルム型圧力センサを検討した結果、ボタン型センサは厚みと自重があるため、フィルム型圧力センサを用いることとした。フィルム型圧力センサは通常、圧力測定に用いるが、校正を行い、荷重に変換することにより、接触荷重が得られる。
振動センサ:静電容量型、直径20mmの円形
荷重センサ:感圧導電式フィルム、直径10mmの円形。圧力値を荷重に変換して用いた。
【0020】
2.三次元形状測定による装置の形状設計
人間工学的な設計として、図4の胸骨甲状筋型は、「設計のための人体寸法データ集」(人間生活工学研究センター)より、最大頸囲の5%ile値(288.0mm)、95%ile値(383.0mm)を用いて設計した。しかし、頸囲の小さい女性では、測定精度が落ちることなどが明らかになっており、サイズの調整のほか、装置の周囲サイズに種類を持たせ、small、medium、largeとして設計することが有効であると考えられた。そこで、空間座標測定装置(ベクトロン、小阪研究所製)により、人体頸部の周長を三次元測定した。サンプリングは約1cm間隔とした。頸囲が大きい被験者と小さい被験者のものを測定し、三次元データを得た。2号機の設計には、頸囲と頸囲を構成する楕円形の長径と短径の値を用いた。装置設計図の概要を図8に示した。
【0021】
3.測定装置の製作
胸骨甲状筋型(2ch型)の改良を行うこととして、従来の静電容量センサ上に薄型のフィルムセンサを配置した測定装置を製作した。装着性を考慮して、周囲サイズに種類を持たせ、S(small)、M(medium)、L(large)の3種類の装置を製作した。周囲長さ、リングの曲率は、図8に示した通りとした。頸部装着時の周囲サイズの調整は、後部のネジによりフィッティングを行う構成とした。周囲サイズの調整機構にネジを用いたが、これに加えて、ネジにカバーを付けたり、ネジ以外の構成(例えば、板バネなど)を用いることもできる。
【0022】
4.装置の有効性の検証
(1)装置による生体信号の測定
平均よりも大柄の健常人男性について、Lサイズの装置を装着して、水を飲用したときの咽喉部の生体信号の測定を行い、装置から得られるデータを検証した。生体信号として、胸骨甲状周辺部に振動センサ(左右に各1ch)、圧力センサ(左右に各1ch)を装着させ、100Hzのサンプリングで6秒間測定した。これらの信号出力を検証するために、生体信号のサンプリングと同期して画像の測定を行った。
その結果、実施例1と同様に、振動センサは画像データによる嚥下運動の結果と上手く連動していることが分かった。
図9には、水50mlを飲用したときの振動センサからの出力結果の一例を示した。この被験者は50mlの水を飲用する場合、2回に分けて嚥下するが、図からその2回の嚥下のピーク(帯状に塗りつぶした部分)が測定されていることが分かった。
【0023】
(2)錠剤を服用したときの生体信号の測定
Lサイズの装置を用いて、胸骨甲状周辺部に振動センサ(左右に各1ch)、圧力センサ(左右に各1ch)を装着させ、水を飲用したときおよび錠剤を20mlの水で嚥下したときの咽喉部の生体信号の測定を行った。サンプリングは500Hzとして、6秒間測定した。被験者は、嚥下機能に障害のない健常な成人男性とした。試料は、水20ml、30ml、50mlおよび直径が異なる3種類の錠剤TA(6mm)、TB(8mm)、TC(10mm)をそれぞれ1錠から5錠(TCは4錠)とした(詳細は、表1に記載したものと同じである)。
図10には、測定結果の一例を示した。図は、振動センサからの出力電圧をAD変換し、フィルタ処理等を行った結果である。これまでの咽喉部周辺部の運動を測定した結果から、錠剤を嚥下する際の振動は、低帯域の信号であることがわかったため、10Hzのローパスフィルタを用いて処理を行った。
【0024】
5.専門家を対象とした測定装置のモニタリング
(1)モニタリング方法
図11には、装着部5において、頸部の後面側を押圧するサイズ調整機構12を設けた測定装置を示した。サイズ調整機構12は、ネジ部を備えており、このネジ部を左右に回すことにより、頸部の後面に当接することでサイズを調整できる。この測定装置について、看護師等の医療関係者10名を対象にモニタリング調査を行った。モニタリングに先立ち、錠剤等の飲みやすさ評価法の概要について説明を行い、さらに実験の内容を説明し、同意書により同意を得た。モニタリングは、ユーザーの立場および医療関係者という中間ユーザーの立場から機器の装着感、使用感について、記述形式で評価していただいた。機器を験者が装着し、装着後、お茶等を飲用して評価した。回答者は、10名で、それぞれの項目に関して、28件ずつの意見をいただいた。その結果は、次の通りであった。
(2)モニタリングのまとめ
フィットしたかどうかの感触がわかりにくいので、微調整できる機構が必要である。後部のサイズ調整部分にやや重量があるため、ネジ部分の材質を軽量化のためにプラスチック素材(例えば、ABS)に変更することが好ましい。S、M、Lなど規定のサイズで調整無しで使える機構が望ましい。サイズ調整が煩雑などの意見が得られた。
【0025】
<実施例1〜実施例2のまとめ>
錠剤を嚥下するときの服用しやすさを評価するシステムを製作した。ポイントとしては、咽喉部の接触荷重を加えた多チャンネル化、測定精度の向上、ユーザーインターフェースを検討した。
胸骨甲状筋周辺部に貼付した振動センサと同位置に荷重測定用のセンサを貼付することとした。薄型、軽量といった機能から、フィルム型圧力センサを採用し、圧力値を校正して、荷重に変換することにより、接触荷重が得られる装置が製作でき、新たに多チャンネル化した嚥下機能評価システムを提案した。
装着性を向上させるため、三次元形状測定を行い、測定装置の形状設計を行った。測定装置を用いて生体信号を測定した結果、接触荷重の測定精度に問題があることが分かったため、サイズ調整が可能な装置を製作して、測定精度の向上を図った。
ユーザーインターフェースのモニタリングを行い、本実施例の問題点を抽出した。操作性をより簡便にすること、操作が行われていることへのフィードバックが必要であることが分かった。
表2には、実施例1、実施例2の測定装置の特徴をまとめた。
【0026】
【表2】
【0027】
サイズ及び個数が異なる錠剤を用いて、喉頭部周辺の運動解析から飲みやすさの新たな評価指標を抽出する試みを行った結果、次のようなことが分かった。
(1)服用する錠剤の個数が多くなると、咽頭部周辺の加速度及び振動が大きくなる傾向があることがわかった。
(2)飲みやすさと咽頭部の加速度積分値の間に負の相関が見られ、咽頭部周辺の運動から飲みやすさが推定できる可能性が示唆された。
(3)飲みやすさと咽頭部の振動積分値の間に負の相関が見られ、咽頭部周辺の運動から飲みやすさが推定できる可能性が示唆された。
このように本実施形態によれば、静電容量センサを用いて嚥下運動を測定するので、小型軽量化が行いやすく、かつ取り扱いに優れた嚥下運動測定装置などを提供できた。
【符号の説明】
【0028】
1…嚥下運動測定システム
2…嚥下運動測定装置(測定装置)
3…コンピュータ(計算手段、評価手段)
4…静電容量センサ(センサ)
5…装着部
6…ローパスフィルタ
7…信号増幅器(アンプ)
8…A/D変換装置
9…自由端部
12…サイズ調整機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品または飲食品の嚥下時における咽頭部の運動を測定するものであって、被験者の頸部を覆うように装着される装着部と、この装着部に設けられて前記装着部が装着されたときに被験者の甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部のいずれかの表面に接触する静電容量センサとを備えたことを特徴とする嚥下運動測定装置。
【請求項2】
前記静電容量センサからの信号を入力し、増幅して出力する信号増幅器が設けられることを特徴とする請求項1に記載の嚥下運動測定装置。
【請求項3】
前記信号増幅器には、前記静電容量センサから出力される信号を処理するローパスフィルタが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の嚥下運動測定装置。
【請求項4】
前記装着部は、被験者の前面側に開放する左右一対の自由端部を備えており、前記静電容量センサは前記自由端部に設けられており、当該静電容量センサは胸骨甲状筋周辺部の表面に接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の嚥下運動測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の嚥下運動測定装置と、前記静電容量センサから出力される信号を入力し、当該信号によって表される波形データを全波整流化し、積分して算出する計算手段と、前記計算手段によって得られた積分値による測定データと予め保持された基準データとを比較することによって嚥下のしやすさを評価する評価手段とを備えたことを特徴とする嚥下運動測定システム。
【請求項6】
前記静電容量センサから出力される信号は、所定の周波数に設定されたローパスフィルタを通して増幅処理された後に入力され、その入力信号がA/D変換装置に取り込まれて波形データとされることを特徴とする請求項5に記載の嚥下運動測定システム。
【請求項1】
医薬品または飲食品の嚥下時における咽頭部の運動を測定するものであって、被験者の頸部を覆うように装着される装着部と、この装着部に設けられて前記装着部が装着されたときに被験者の甲状軟骨または胸骨甲状筋周辺部のいずれかの表面に接触する静電容量センサとを備えたことを特徴とする嚥下運動測定装置。
【請求項2】
前記静電容量センサからの信号を入力し、増幅して出力する信号増幅器が設けられることを特徴とする請求項1に記載の嚥下運動測定装置。
【請求項3】
前記信号増幅器には、前記静電容量センサから出力される信号を処理するローパスフィルタが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の嚥下運動測定装置。
【請求項4】
前記装着部は、被験者の前面側に開放する左右一対の自由端部を備えており、前記静電容量センサは前記自由端部に設けられており、当該静電容量センサは胸骨甲状筋周辺部の表面に接触することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の嚥下運動測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の嚥下運動測定装置と、前記静電容量センサから出力される信号を入力し、当該信号によって表される波形データを全波整流化し、積分して算出する計算手段と、前記計算手段によって得られた積分値による測定データと予め保持された基準データとを比較することによって嚥下のしやすさを評価する評価手段とを備えたことを特徴とする嚥下運動測定システム。
【請求項6】
前記静電容量センサから出力される信号は、所定の周波数に設定されたローパスフィルタを通して増幅処理された後に入力され、その入力信号がA/D変換装置に取り込まれて波形データとされることを特徴とする請求項5に記載の嚥下運動測定システム。
【図1】
【図2】
【図8】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図8】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−200300(P2012−200300A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65177(P2011−65177)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
[ Back to top ]