説明

嚥下障害の診断及び治療方法

嚥下障害について患者を評価及び治療するための方法が提供される。一般的な実施形態において、この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者の嚥下障害に基づいて適切な嚥下障害治療製品を選択するステップと、嚥下障害治療製品についての患者への調製指示を与えるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は、医学的診断及び治療に関する。より詳細には、本開示は、嚥下障害の診断及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]嚥下障害は、嚥下困難の症状に関する医学用語である。疫学的研究により、50歳を超える高齢者の間で16%〜22%の有病率が推定されている。
【0003】
[0003]すべての年齢の多数の個体が食道嚥下障害に罹患するが、薬物療法によって一般に治療可能であり、嚥下障害のそれほど重篤ではない形態と考えられている。食道嚥下障害は、粘膜疾患、縦隔疾患、又は神経筋疾患の結果であることが多い。粘膜の(内因性の)疾患は、様々な状態に付随する炎症、線維症、又は腫瘍形成によって管腔を狭窄させる(例えば、胃食道逆流疾患に続発する消化性狭窄、食道輪及び食道膜[例えば鉄欠乏性嚥下障害又はプラマービンソン(Plummer−Vinson)症候群]、食道腫瘍、化学的損傷[例えば、腐食性物質の摂取、ピル食道炎、静脈瘤の硬化療法]、放射線損傷、感染性食道炎、及び好酸球性食道炎)。縦隔の(外因性の)疾患は、様々な状態に付随する直接の浸潤によって、又はリンパ節腫大によって食道を塞ぐ(腫瘍[例えば、肺癌、リンパ腫]、感染症[例えば、結核、ヒストプラズマ症]、及び心血管疾患[心耳拡大及び血管圧迫])。食道平滑筋及びその神経支配が、様々な状態に付随してよく発生する神経筋疾患に罹患し、蠕動又は下部食道括約筋弛緩、又は両方を妨害することがある(弛緩不全[特発性及びジャガス病に付随するものの両方]、強皮症、他の運動障害、及び外科処置の結果[すなわち、胃底皺襞形成術後及び逆流を防止する治療処置後])。管腔内異物を有する個体が急性食道嚥下障害になることもまた一般的である。
【0004】
[0004]口腔咽頭嚥下障害は、一方、非常に重篤な状態であり、薬物療法によって一般に治療することができない。口腔咽頭嚥下障害にもまた、すべての年齢の個体が罹患するが、高齢の個体により多い。世界中で、50歳より高齢の約2200万人が口腔咽頭嚥下障害に罹患している。口腔咽頭嚥下障害は、脳卒中、脳損傷、又は口腔癌若しくは咽喉癌のための手術などの急性の事象の結果であることが多い。加えて、放射線治療及び化学療法は、筋肉を弱らせ、嚥下反射の生理機能及び神経支配に関連する神経を劣化させることがある。パーキンソン病などの進行性神経筋疾患を有する個体が、徐々に嚥下開始困難になることもまた一般的である。口腔咽頭嚥下障害の代表的な原因は、神経疾患と関連するもの(脳幹腫瘍、頭部外傷、脳卒中、脳性麻痺、ギラン−バレー症候群、ハンチントン病、多発性硬化症、ポリオ、ポリオ後症候群、代謝の脳症、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン病、認知症)、感染性疾患(ジフテリア、ボツリヌス中毒、ライム病、梅毒、粘膜炎[ヘルペス、サイトメガロウイルス、カンジダなどの])、自己免疫疾患(狼瘡、強皮症、シェーグレン症候群)、代謝疾患(アミロイド症、クッシング症候群、甲状腺中毒症、ウィルソン病)、筋障害性疾患(結合組織疾患、皮膚筋炎、重症筋無力症、筋緊張性ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、多発性筋炎、類肉腫症、腫瘍随伴症候群、炎症性筋障害)、医原性疾患(薬物療法副作用[例えば、化学療法、神経遮断薬など]、術後の筋肉又は術後の神経、放射線療法、腐食[丸剤損傷、意図的な])、遅発性ジスキネジア[抗精神病薬による長期の治療後期副作用として通常発症する、顔面、舌、下顎、体幹、及び四肢の不随意の痙攣様運動によって特徴付けられる神経系の慢性障害]、及び構造的疾患(輪状咽頭圧痕像、ツェンカー憩室、頸部の膜様隆起、口腔咽頭の腫瘍、骨棘及び骨格異常、先天性のもの[口蓋裂、憩室、嚢など])を含む。
【0005】
[0005]嚥下障害は一般に診断されることは少ないが、この疾患は患者の健康及び医療費において大きな重要性を有している。より重度の嚥下障害の個体は、通常、嚥下直後に起こる口から胃への食物の通過に障害があるという感覚を覚える。地域社会に居住している個体においては、知覚される症状により患者は医師の診察を受けることができる。施設に収容されている個体においては、医療従事者が症状を観察すること、又は患者若しくはその家族の一員から嚥下機能障害を示唆する意見を聞くこと、及び専門家に判断してもらうことを患者に推奨することができる。第一線の従事者の間で嚥下機能障害の一般的な認知度が低いため、嚥下障害は診断及び治療されないままになることが多い。しかしそれでも、嚥下の専門家(例えば、言語療法士)に紹介することによって、患者を臨床的に評価することができ、嚥下障害診断を決定することできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006]第一線の従事者の間で、嚥下機能障害の一般的な認知度は低い。多くの人々(特に高齢の人)が、診断及び治療されないままの嚥下機能障害に苦しんでいる。1つの理由は、第一線の地域社会ケア従事者(例えば、一般的な従事者/老人病専門医、在宅ケアの看護師、理学療法士など)が、その状態についてのスクリーニングを通常行わないことである。こうした従事者が嚥下機能障害の重大性を認識している場合、根拠に基づくスクリーニング方法を通常は使用しない。さらに、嚥下障害の診療所ベースの評価はめったに行われない。
【0007】
[0007]嚥下障害の重症度は、(i)食物及び流動体の安全な嚥下におけるわずかな(知覚される)困難、(ii)誤嚥又はむせの有意なリスクなしには嚥下不能、及び(iii)完全に嚥下不能、と異なり得る。嚥下機能障害を有する多くの人は、症状が軽度である、又は認識されない場合、医学的ケアを受けようとしない。例えば、高齢者において一般的な状態である「不顕性誤嚥」は、睡眠中の口腔咽頭内容物の誤嚥を指す。人は、食事を自ら制限することによってそれほど重度でない嚥下機能障害を補うことができる。高血圧症又は骨関節炎などの慢性の疾患とともに、老化の過程自体によって、高齢者は、肺炎、脱水症、栄養不良(及び関連する障害)などの臨床的合併症が起こるまで診断及び治療されないままとなる可能性がある(無症状の)嚥下障害にかかりやすくなる。しかしそれでも、現在のケアの実践の結果として、「誤嚥性肺炎」の鑑別診断は必ずしも示されない。
【0008】
[0008]嚥下障害の経済的費用は、入院、再入院、ペイフォーパフォーマンス(医療の質に対する支払方式)(「P4P」)による診療報酬の払い戻しの損失、感染症、リハビリテーション、労働時間の損失、来院、医薬の使用、労力、ケアをする人の時間、児童養護費用、生活の質、高度なケアの必要性の増加と関連する。嚥下障害及び誤嚥は、生活の質、罹病率及び死亡率に強い影響を与える。12カ月死亡率は、嚥下障害及び誤嚥のある、施設でケアを受けている個体において高い(45%)。診断及び嚥下障害の早期の管理がなされないことから生じる臨床的帰結の経済的負担は大きい。
【0009】
[0009]肺炎は、嚥下障害の一般的な臨床的帰結である。この状態は、緊急入院及び救急外来受診を必要とすることが多い。誤嚥のために肺炎を発症する個体において、現在のケアの実践の結果として、「誤嚥性肺炎」の鑑別診断は必ずしも示されない。近年の米国医療利用調査に基づくと、肺炎は100万例を超える入院の原因であり、さらに392,000件は誤嚥性肺炎に起因していた。主診断として一般的な肺炎を有する個体は、平均6日の入院期間を有し、18,000ドルを超える入院治療のための費用を被る。誤嚥性肺炎は、平均8日の入院期間に基づくと、より高額な入院治療の費用がかかるであろうことが予想される。肺炎は、嚥下障害を有する人において生命にかかわり、3カ月以内に死亡する確率は約50%である(vander Steen等、2002)。加えて、肺炎などの急性侵襲はしばしば、高齢者において健康状態の悪循環を引き起こす。侵襲は、食物/飲料摂取不足及び運動不足と関連しており、栄養不良、機能低下、及び衰弱をもたらす。特定の処置(例えば、口腔の健康を促進するため、正常な嚥下を回復させるのに役立てるため、又は嚥下するのに安全な食塊を増すための)は、反復性肺炎のリスクのある人(不顕性誤嚥を含む口腔咽頭内容物の誤嚥のため)又は反復性肺炎にかかっている人にとって有益であるだろう。
【0010】
[0010]肺炎と同様に、脱水症は、嚥下障害の生命にかかわる臨床的合併症である。脱水症は、神経変性疾患を有する(したがって、嚥下機能障害を有する可能性が高い)入院者においてよく起こる併存疾患である。アルツハイマー病、パーキンソン病、及び多発性硬化症の状態は、年間およそ400,000例の米国の退院の原因であり、これらの患者の15%までもが、脱水症に罹患する。主診断として脱水症を有することにより、平均4日の入院期間、及び11,000ドルを超える入院治療のための費用を伴う。それにもかかわらず、脱水症は、嚥下障害の回避することができる臨床的合併症である。
【0011】
[0011]栄養不良及び関連する障害(例えば、[尿路]感染症、褥瘡、嚥下障害の重症度の増大[食物選択肢のさらなる制限、経管栄養法、及び/又は経皮内視鏡的胃瘻(PEG)造設の必要性並びに生活の質の低下]、脱水症、機能低下及び関連する帰結[転倒、痴呆、衰弱、運動性低下、及び自律性低下])は、嚥下機能障害が、食物及び流動体に対するむせの恐れ、遅い摂取速度、並びに食物選択の自らの制約をもたらす場合に生じる可能性がある。是正されなければ、不十分な栄養摂取は、生理的予備力が消耗するにつれて正常な嚥下を容易にするのに役立つ筋肉が弱くなるため、嚥下障害を悪化させる。栄養不良により、3倍を超える感染症リスクを伴う。感染症は、神経変性疾患を有する(したがって、食事の充実を脅かす慢性嚥下機能障害を有する可能性が高い)個体においてよく起こる。アルツハイマー病、パーキンソン病、及び多発性硬化症の状態は、年間およそ400,000例の米国の入院の原因であり、これらの患者の32%までもが尿路感染症にかかる。
【0012】
[0012]栄養不良は、患者の回復にとって重大な意味合いを持つ。栄養不良患者は入院期間が長く、再入院する可能性がより高く、入院治療のためにより高額な費用がかかる。主診断として栄養不良を有することにより、平均8日の入院期間及びおよそ22,000ドルの入院治療のための費用を伴う。さらに、栄養不良は、意図しない体重減少並びに筋肉及び筋力の顕著な減少をもたらし、最終的に運動性を損ない、身の回りのことが自分でできなくなる。機能性の低下とともに、ケアをする人の負担は一般により重くなり、無償でケアする人、次に有償でケアする人、次に施設入所を必要とする。しかしながら、栄養不良は、嚥下障害の回避することができる臨床的合併症である。
【0013】
[0013]神経変性状態(例えば、アルツハイマー病)を有する人において、意図しない体重減少(栄養不良のマーカー)が認知力低下に先行する。加えて、身体活動は、認知の健全性を安定化させる助けとなることができる。したがって、神経変性状態を有する人の栄養を確実に充足させることにより、定期的な運動療法に参加するための筋力及び持久力を保つこと、並びに意図しない体重減少、筋肉の衰弱、身体機能及び認知機能の低下、衰弱、痴呆、及びケアをする人の負担の漸進的な増加を防ぐことが重要である。
【0014】
[0014]転倒及び関連する傷害は、機能性の低下に関連して、神経変性状態を有する高齢者において特に懸念事項である。転倒は、高齢者において傷害による死亡の主な原因である。さらに、高齢者の転倒に関連する傷害は、過去1年の180万件を超える米国の救急外来受診の原因である。直接医療費は1年間の合計で、致死性の転倒関連傷害については1億7900万ドル、及び非致死性の転倒関連傷害については190億3000万ドルであった。2008年10月に米国の病院において導入された成果イニシアチブのための大規模な不払いの影響として、メディケア(高齢者向け医療保険制度)は、入院中に発生する転倒及び関連する傷害の治療費を病院に支払わなくなる。病院は、入院治療中に転倒し、股関節を骨折する高齢患者1人につき、約50,000ドルの損失に直面することになる。この新しい品質イニシアチブは、転倒が回避できる医療ミスであるという前提に基づいている。換言すると、高齢者の転倒及び関連傷害(例えば、骨折)の予防において栄養学的介入が有効であるため、転倒は、医学的栄養療法を含む根拠に基づいた実践を適用することによって無理なく、予防することができる。
【0015】
[0015]咀嚼困難及び嚥下困難はまた、褥瘡発生の認識されているリスク因子である。褥瘡は回避することができる医療ミスと考えられており、根拠に基づいた実践(褥瘡は栄養が不十分な場合に起こりやすいため、栄養学的ケアを含む)を適用することによって無理なく予防することができる。褥瘡は、医療制度にとって著しい負担である。2006年の米国の病院において、322,946例の褥瘡発生と関係がある医療ミスが存在していた。
【0016】
[0016]褥瘡を治癒させる平均費用は、約1,100ドル(病期IIに関して)〜約10,000ドル(病期III及びIVの褥瘡に関して)の範囲で病期に依存する。したがって、褥瘡発生と関係がある医療ミスの症例を治癒する推定費用は1年間で、3億2300万ドル〜32億ドルの範囲である。2008年10月に米国の病院において導入された成果イニシアチブのための大規模な不払いの影響として、メディケアは、入院中に発症する褥瘡の(年間で32億ドルもの)治療費を病院に支払わなくなる。褥瘡は、栄養摂取が適当であることを確認することによって無理なく、一部は予防することができる。さらに、特別な栄養サプリメントの使用を含む特定の処置は、褥瘡が発症してから治癒させるまでの予想される時間を減少させるのに役立つ。
【0017】
[0017]米国の長期ケア施設において、ケア基準の質は、頻繁な規制当局による調査によって守られている。調査官は、実際の又は潜在的な被害/欠陥結果の証拠を発見すると、施設を規則に従っていないとみなす。処罰の範囲は、罰金、強制閉鎖、並びに訴訟及び和解金を含む。Tag F325(栄養)調査は、顕著な予想外の体重変化、不十分な食物/水分摂取、予想される創傷治癒の障害、指示された治療食を提供しないこと、機能低下、及び水/電解質平衡異常を基準以下の[栄養]ケアを提供しているという証拠とみなす。Tag F314(褥瘡)調査は、施設は、褥瘡のない入所を認められた居住者が、不可避であるとみなされない限り褥瘡を発症しないことを保証しなければならないと義務付けている。加えて、Tag F314調査は、褥瘡を有する居住者が、治癒を促進するため、感染症を予防するため、新しい褥瘡を発症させないようにするために必要な治療及びサービスを受けることを義務付けている。
【0018】
[0018]現在のケア実践を考慮すると、嚥下障害の管理において大きな相違が存在する。根拠に基づいた方法を組み込んだ、嚥下障害患者ケアに対する基準化されたアプローチは、多数のそしてますます増加している嚥下機能障害を有する人の生活を向上させるであろう。特定の処置(例えば、口腔の健康を促進するため、正常な嚥下を回復させるのに役立たせるため、又は嚥下するのに安全な食塊を増すための)により、嚥下障害の診断及び適切な早期の管理の欠如から生じる臨床的合併症を防ぎながら、人が口から摂食すること(経管栄養を受けていること及び/又はPEG設置を必要とすることに対して)及び一般的な幸福と関連する食物の心理社会的側面を体験することができるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
[0019]本開示は、嚥下障害について患者を診断、評価及び治療するための方法及びそれから収益を生み出すための方法に関する。嚥下障害について患者を評価及び治療することによって、その後の健康問題を予防又は緩和することができる。一般的な実施形態において、この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者の嚥下障害に基づいて適切な嚥下障害治療製品を選択するステップと、嚥下障害治療製品についての患者への調製指示を与えるステップとを含む。スクリーニングするステップは、患者に、嚥下障害スクリーニング質問票の質問に回答してもらうサブステップと、患者の回答に基づいて質問票をスコアリングするサブステップとを含むことができる。
【0020】
[0020]一実施形態において、この方法は、コンピュータ処理を使用して実施される。例えば、スクリーニングするステップ、診断するステップ、分類するステップ、選択するステップ及び治療を与えるステップは、コンピュータプログラムに実装されたアルゴリズムとすることができる。
【0021】
[0021]別の実施形態において、本開示は、患者の嚥下障害を治療する方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者の嚥下障害に基づいて患者の理学療法レジメン(physical therapy regime)を提供するステップとを含む。理学療法レジメンは、例えば、摂食時及び摂食後の特定の姿勢の位置調整を実施するステップ又はリハビリテーション訓練を実施するステップを含むことができる。理学療法レジメンはまた、同化的栄養レジメン(anabolic nutritional regime)と組み合わせることもできる。
【0022】
[0022]代替の実施形態において、本開示は、ケアセンターで嚥下障害患者のための治療を提供するための方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者に製品及びサービスを提供してケアセンターでの患者のリハビリテーションを容易にするステップとを含む。
【0023】
[0023]さらに別の実施形態において、本開示は、収益を生み出すための方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、嚥下障害症状に関連するスコアに基づいて嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者に少なくとも1つの製品又はサービスを提供してケアセンターでの患者のリハビリテーションを容易にするステップと、製品又はサービスに応じて患者に料金を請求するステップとを含む。
【0024】
[0024]さらに別の実施形態において、本開示は、嚥下障害患者に治療を提供するためのキットを提供する。このキットは、(i)嚥下障害について患者をスクリーニングするスクリーニングツールと、(ii)患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害と分類する診断検査と、(iii)患者の嚥下障害に基づいた嚥下障害治療コースの提案と、(iv)嚥下障害治療を実行するための指示とを含む。
【0025】
[0025]別の実施形態において、本開示は、嚥下障害に関連する医療費を減少させる方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者の嚥下障害に基づいて患者に嚥下障害治療を提供するステップとを含む。この嚥下障害治療は、嚥下障害治療製品及び/又は理学療法を含むことができる。
【0026】
[0026]さらに別の実施形態において、本開示は、世話人の報告により特定される嚥下障害の変動、観察される変動及び自己報告による変動に関する過去の情報を含む質問票を含む診断用スクリーニングツールを提供する。この診断用スクリーニングツールはまた、嚥下障害リスクの可能性を決定するためのスクリーニングスコアシステムも含む。
【0027】
[0027]さらに別の実施形態において、本開示は、嚥下障害を診断する方法を提供する。この方法は、患者に、世話人の報告により特定される嚥下障害の変動、観察される変動及び自己報告による変動に関する過去の情報を含む質問票の質問に回答してもらうステップを含む。スコアは、患者の回答に基づく質問票について決定される。この方法は、患者が閾値スコアを超える場合、嚥下障害を特定及び分類するステップをさらに含む。
【0028】
[0028]本開示の利点は、嚥下障害患者をスクリーニングするための方法を提供することである。
[0029]本開示の別の利点は、嚥下障害患者を診断するための方法を提供することである。
[0030]本開示のさらに別の利点は、嚥下障害患者を治療するための方法を提供することである。
[0031]本開示のさらに別の利点は、嚥下障害患者を治療するための、収益を生み出す方法を提供することである。
[0032]本開示の別の利点は、嚥下障害を治療するためのキットを提供することである。
[0033]本開示のさらに別の利点は、嚥下障害治療ケアセンターを提供することである。
[0034]さらなる特徴及び利点は、本明細書に記載されており、以下の詳細な説明及び図面から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】[0035]様々な患者タイプについてのスクリーニング手順を図示する概略のフローチャートである。
【図2】[0036]本開示の一実施形態における嚥下障害スクリーニングツール質問票を示す図である。
【図3】[0037]嚥下障害を有する患者の管理を図示する概略のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[0038]本開示は、嚥下障害について患者を診断、評価及び治療するための方法に関する。本開示はまた、ケアセンターで嚥下障害患者のための治療を提供するため、及びそれから収益を生み出すための方法にも関する。加えて、本開示は、嚥下障害患者を評価及び治療するためのキットに関する。
【0031】
[0039]ヒト(又は哺乳動物)の正常な嚥下は、(i)口腔相、(ii)咽頭相、及び(iii)食道相という、相互に依存した、巧みに調和して働く3つの異なる相を有する。随意的制御下にある口腔相では、咀嚼され唾液と混合された食物は、舌の口の奥への随意運動による咽頭への移送のために食塊の形となる。咽頭相は不随意であり、食物塊/液状食塊が口峡柱を通って咽頭を通過することによって誘発される。咽頭の3つの括約筋の収縮は、食塊を上部食道括約筋に向かって進ませる。同時に、軟口蓋は鼻咽頭を閉じる。喉頭は上へ向かって動き、食物又は液体が気道へ入るのを防ぎ、これは喉頭蓋が後方へ傾くこと及び声帯ひだが閉じることによって促進される。食道相もまた不随意であり、上部食道括約筋の弛緩とともに開始し、その後、蠕動が食塊を押して胃まで送る。
【0032】
[0040]嚥下障害は、嚥下困難の症状を指す。嚥下障害の以下の一般的な原因が特定されている。
a)飲み込む能力の減少
b)舌が軟口蓋及び/又は硬口蓋に十分な圧力を加えないこと
i)医原性
(1)舌又は軟口蓋の一部の外科的除去
(a)いびき又は睡眠時無呼吸の治療
(b)腫瘍(悪性又は良性)のための切除術
ii)遺伝性
(1)舌及び/又は軟口蓋の形成不全
(2)舌及び/又は軟口蓋に対する神経支配不全又は神経支配の欠如
iii)外傷性
(1)組織損傷
(2)脱神経支配/神経支配不全
iv)神経性
(1)局所的な脱神経支配/神経支配不全
(2)CNS
(a)脳卒中後
(b)脱髄
c)異常な程度及びタイミングの気道閉鎖及び喉頭蓋、披裂軟骨、声帯ひだ、喉頭運動の動き
i)適切な時に開閉しないこと
(1)開くのが早過ぎること
(2)調和したタイミングで閉じないこと
(a)1つ又は複数の構造が遅れて閉じること
ii)完全に閉じないこと(不十分な柔軟性、萎縮)
iii)気道構造の異常な運動
【0033】
[0041]治療しないままの、又は管理の不十分な口腔咽頭嚥下障害の結果は、脱水、栄養不良を含む重症となり、免疫反応機能不全、及び機能性の低下、固形食による気道閉塞(むせ)、並びに液体及び半固形食の気道誤嚥をもたらし、誤嚥性肺炎及び/又は誤嚥性肺臓炎を促進する可能性がある。重度の口腔咽頭嚥下障害は、栄養の経管栄養法による供給を必要とする場合がある。
【0034】
[0042]軽度から中等度の口腔咽頭嚥下障害は、むせ又は誤嚥の可能性を最小限にするために食物の質感を変更することを必要とする場合がある。これは、液体にとろみをつけること及び/又は固形食をピューレにすることを含んでもよく、これらの両方が、摂食プロセス中にむせ及び誤嚥を予防する最も効果的な手段であることが示されている。とろみのある液体は、以下の3つの特性を有するように設計される。(i)嚥下動作の始めから終わりまで維持することができる、よりまとまりのある食塊、(ii)嚥下反射がとろみのある液体に備える間の増加した時間を補う、咽喉への緩慢な移送、及び(iii)より高密度にして、口内の食物塊又は液状食塊の存在の認知を増大させる。
【0035】
[0043]一般的な実施形態において、本開示は、嚥下障害について患者を評価及び治療する方法を提供する。患者は、健康な個体とすることができ、又は図1に示すような医学的状態を有してもよい。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者の嚥下障害に基づいて適切な嚥下障害治療製品を選択するステップと、嚥下障害治療製品についての患者への調製指示を与えるステップとを含む。
【0036】
[0044]別の実施形態において、本開示は、患者の嚥下障害を治療する方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者の嚥下障害に基づいて患者の理学療法レジメンを提供するステップとを含む。理学療法レジメンは、例えば、摂食時及び摂食後の特定の姿勢の位置調整を実施するステップ、又はリハビリテーション訓練を実施するステップを含むことができる。理学療法レジメンはまた、同化的栄養レジメンと組み合わせることができる。
【0037】
[0045]本開示の実施形態においてスクリーニングするステップは、患者に、嚥下障害スクリーニング質問票の質問に回答してもらうサブステップと、患者の回答に基づいて質問票をスコアリングするサブステップとを含むことができる。例えば、嚥下障害スクリーニングツール質問票に、患者医療提供者(「HCP」)(例えば、医師、看護師、看護助手、又はケアする人)、患者、家族又は他のケアする人が記入することができる。質問票の見本を、図2に示している。質問に対する回答は、患者の状態に基づく。点数は、回答に基づいて与えられ、嚥下障害リスクの可能性パーセントは累計点に基づいて決定される。質問票は、制約のない医療環境において有用な、またさらには非公式のケアする人が遂行するのに適当な、嚥下障害リスクを予測するための迅速で簡単な、根拠に基づいた方法とすることができる。
【0038】
[0046]患者は、哺乳動物、及び特にヒトを指すことができることが理解されるべきである。哺乳動物は、げっ歯類動物、水棲哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの農場動物、並びにヒトを含むことができるがこれらに限定されない。「哺乳動物」という用語が使用される場合、この用語はまた、哺乳動物が示す作用、又は示すことが意図されている作用が可能である他の動物にも適用されることが意図されている。
【0039】
[0047]本明細書において使用される場合、「完全栄養(complete nutrition)」は、投与されている動物にとって唯一の栄養供給源として十分であるために十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)及び微量栄養素を含有する栄養製品であることが好ましい。
【0040】
[0048]本明細書において使用される場合、「有効量」は、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を治療する、又は、より一般的には、症状を軽減する、疾患の進行を管理する、若しくは個体に、栄養的、生理的、又は医学的利益をもたらす量であることが好ましい。治療は、患者関連又は医師関連とすることができる。加えて、ヒトを指すために「個体」及び「患者」という用語を本明細書においてしばしば使用するが、本発明はそれに限定されない。したがって、「個体」及び「患者」という用語は、治療が有益であり得る医学的状態を有する又はそのリスクのある任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0041】
[0049]本明細書において使用される場合、「不完全栄養(incomplete nutrition)」は、投与されている動物にとって唯一の栄養供給源として十分であるために十分なレベルの主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)又は微量栄養素を含有していない栄養製品であることが好ましい。
【0042】
[0050]本明細書において使用される場合、「長期投与」は、6週間を超える連続的な投与であることが好ましい。
【0043】
[0051]「微生物」という用語は、細菌、酵母及び/又は真菌、微生物を含む細胞増殖培地又は微生物が培養された細胞増殖培地を含むことを意味する。
【0044】
[0052]本明細書において使用される場合、「プレバイオティクス」は腸内で有益な細菌の増殖を選択的に促進する、又は病原性細菌の増殖を阻害する食品であることが好ましい。プレバイオティクスは、胃及び/又は腸上部において不活性化されず、又はそれらを摂取した人の胃腸管において吸収されないが、胃腸の微生物叢及び/又はプロバイオティクスによって発酵される。プレバイオティクスは、例えば、Glenn R.Gibson及びMarcel B.Roberfroid、Dietary Modulation of the Human Colonic Microbiota:Introducing the Concept of Prebiotic、J.Nutr.1995年、125:1401〜1412によって定義されている。
【0045】
[0053]本明細書において使用される場合、プロバイオティクス微生物(本明細書において以後「プロバイオティクス」)は、適当量を投与されたときに宿主に対して健康上の利益を付与することができる、より詳細には、腸管微生物バランスを改善することによって宿主に有益に作用し、宿主の健康又は幸福に対する効果をもたらす微生物(半生菌又は弱毒化菌、及び/又は非複製菌を含む生菌、又は死菌)、代謝産物、微生物細胞製剤又は微生物細胞成分であることが好ましい(Salminen S、Ouwehand A.Benno Y.ら「Probiotics:how should they be defined」Trends Food Sci.Technol.1999年:10、107〜10)。一般に、これらの微生物は、腸管における病原性細菌の増殖及び/又は代謝を阻害する又はそれに影響を及ぼすと考えられている。プロバイオティクスはまた、宿主の免疫機能を活性化することができる。このため、プロバイオティクスを食物製品中に含めるための多くの様々な手法が存在している。
【0046】
[0054]本明細書において使用される場合、「短期投与」は、6週間未満の連続的な投与であることが好ましい。
【0047】
[0055]本明細書において使用される場合、「治療」、「治療する」及び「緩和すること」という用語は、好ましくは、病気予防のための又は予防的な治療(標的とする病的状態又は障害の発症を予防する及び/又は遅らせる)並びに、診断された病的状態又は障害を治癒させる、鈍化させる、その症状を軽減する、及び/又はその進行を停止させる治療的手段:及び疾患にかかるリスクのある、又は疾患にかかっていることが疑われる患者、並びに病気である、又は疾患又は医学的状態に罹患していると診断された患者の治療を含む、根治的、治療的又は疾患修飾性の治療の両方に対するものである。「治療」及び「治療する」という用語はまた、疾患に罹患していないが、窒素不平衡又は筋力低下などの不健康な状態を発症しやすい可能性がある個体における健康の維持及び/又は増進を指す。「治療」、「治療する」及び「緩和すること」という用語はまた、治療効果増強又はそうでなければ1つ又は複数の病気予防のための又は治療上の主要指標の向上を含むことも意図している。
【0048】
[0056]本明細書において使用される場合、「経管栄養食」は、好ましくは、経鼻胃管、経口胃管、胃管、空腸瘻チューブ(J−チューブ)、経皮内視鏡的胃瘻造設(PEG)、胃、空腸へアクセスできるようにする胸壁ポート及び別の適当なアクセスポートなどのポートを含むがそれらに限定されない、口腔投与によるもの以外の、動物の胃腸系に投与される完全又は不完全栄養製品である。
【0049】
[0057]本明細書において使用される場合、「共生細菌」は、食物の消化並びにビタミンB及びKなどの栄養素獲得を助ける微生物、及びそれらの微生物と競合することによって疾患を引き起こす病原体のコロニー形成を免疫系が予防するのを助ける微生物である。
【0050】
[0058]本明細書において使用される場合、「共生作用」は、微生物が、単独で、又は別の生物を援助して、食物の消化並びにビタミンB及びKなどの栄養素獲得に役立つ場合、及びそれらの微生物と競合することによって疾患を引き起こす病原体のコロニー形成を免疫系が予防するのを助ける場合である。
【0051】
[0059]この明細書中に含まれるすべての投与量範囲は、前記範囲中に含まれるすべての数、全体又は部分を含むことを意図している。
【0052】
[0060]質問票によって患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合(例えば最終的なスコアに基づいて)、患者の嚥下障害をさらに診断及び分類するステップは、以下の技術の1つ又は複数によって行うことができる。
a.舌から軟口蓋及び/又は硬口蓋に加えられる力を測定すること
i.個体が閾値強度の力を軟口蓋及び/又は硬口蓋にかける能力を決定すること(例えば、患者が特定の引っ張り強度の舌圧子を押し出すことができるかどうか)により、舌の筋力を試験することによって評価することができる
b.喉頭蓋が完全に閉じているかどうかを含めて気道閉鎖の程度及びタイミングを決定すること
i.機器による手順(例えば嚥下造影試験(「VFSS」)又は嚥下の内視鏡評価(「FEES」手順)によって評価して、嚥下障害の鑑別診断を可能にする嚥下の生理的機能を決定すること、及び適当な食事の変更を提案することができる
c.喉頭蓋を含む気道閉鎖のタイミングが正しいかどうかを判定すること
i.機器による手順(VFSS又はFEES)によって評価して、嚥下障害の鑑別診断を可能にする嚥下の生理的機能を決定すること、及び適当な食事の変更を提案することができる
ii.コーンフレーク試験(事例の項で論じている)
d.在宅での気管pHの24時間モニタリング
i.実際の生活において起こることを特徴付ける。人為的な環境における患者の嚥下能力の「短時間の映像」を提供するVFSSと比較して、気管pHの24時間モニタリングは、自然な環境における個体を観察する能力、及び不顕性誤嚥(睡眠中のものも含めて)を検出する能力を含む、患者の嚥下能力の「連続的な(mini−series)観察を提供する。
ii.患者に、摂取時間、摂取した製品、摂取中及び摂取後の体位、快適さのレベル、及び潜在的な事象(例えば嚥下中のむせ)の患者日誌を継続しながら、標準化した嚥下障害ケア製品を特定の時間に摂取するよう指示する。
iii.健康情報技術によって、気管pHモニタリングシステムは、HCPによって見ることができる誤嚥の発生に関するリアルタイムの結果を提供し、個体が嚥下するのに安全な食塊の容量内及び容量外の、食事の変更粘稠度を従事者が特定するのに役立つことができる。
iv.適当な食事の変更を特定するこの方法は、個別的配慮をした介入戦略を容易にし、適切な補償的介入を特定し、嚥下障害の臨床的合併症を防ぐことを助けながら人が可能な限り通常通りの摂食を再開することを可能にする。
e.異常な口腔咽頭の運動機能を検出するための、及び適切なリハビリテーション訓練及び療法(例えば、同化的栄養)を提案するための超音波検査
f.配備用調製ツール
i.スプレッドラインテスト(Spread Line Test)(「SLT」)、液体が平面上を流れる距離を測定するツール。
ii.根拠に基づく:粘度計と統計学的に相関する
iii.在宅及び施設で使用するのに安価で容易
g.口腔の健康状態評価
i.口腔衛生介入の必要性を決定するための口腔から得たスワブの微生物学的評価
【0053】
[0061]以下の特別な嚥下障害治療を使用して、診断/分類結果に基づいて特定の嚥下機能障害(複数可)を補うことができる
a.摂食時及び摂食後の特定の姿勢の位置調整
b.最も望ましい利益のために同化的栄養と組み合わせてもよいリハビリテーション訓練(例えば、咽頭収縮)
c.口腔衛生介入
d.免疫を強化する/回復させるための組成物(例えばラクトウルフベリー)
e.嚥下反射を誘発する/強化する/回復させるための組成物(複数可)(例えば、食事の(例えば、天然の)及び/又は合成の供給源由来)。
f.粘膜を強化する/回復させるための組成物(例えば、頭頸部癌を有する人にはTGF−β)
g.機能性をサポートする組成物、並びに転倒、衰弱、認知力低下、運動性及び自律性の喪失を防ぐのに役立つ組成物
h.標準化した仕様に従う食事の変更
【0054】
[0062]嚥下機能障害のある患者の管理では、患者の口腔及び咽頭の機能不全の病態生理に応じて様々な治療戦略が必要である。主な問題は、誤嚥及び/又は食塊物質の残留をもたらす口腔及び/又は咽頭の機能障害に罹患している患者である。咽頭の機能不全もまたカロリーの不十分な摂取及びそれにより栄養不良をもたらす可能性がある。水分の摂取障害は、脱水症を引き起こす可能性がある。そのような機能不全の最善の治療は、頭部の位置調整、嚥下訓練及び/又は食事の変更である。しかしながら、認知能力及び発話を損なうより広範な神経疾患のために、嚥下障害患者はしばしば、嚥下訓練に関して理解すること及び指示に従うことが困難である。多くの患者はまた、あまりに疲労していて嚥下療法に参加することができない。そうした患者には、食事の変更は必須である。
【0055】
[0063]口腔咽頭嚥下障害を有する人において安全性を強化し進歩させるために、液体の粘稠性の推奨値を患者の障害によく適合させ、またその粘調性を常に生じさせることが重要である。とろみのある液体のよく制御されたレオロジー特性は、必須である。しかしながら患者にとって、とろみのある液体の知覚は、1)推奨される食事を最大限遵守するために、許容できる味が重要である、2)感覚的知覚は、嚥下を誘発するのに役立つ可能性がある、という2つの主な理由のために、それらの物理的特性と同じくらい重要である可能性がある。
【0056】
[0064]1)最大限遵守するために受け入れられる味:
[0065]嚥下障害食用に使用される市販の増粘剤の官能特性評価に関する論文がいくつか発表されている(Pelletier等、1997年、Lotong等、2003年、Matta等、2006年)。Pelletier等(1997年)は、5つの市販の増粘剤(Thick It、Thicken Right、Thick and Easy、Thicken up及びQuikThick)の性能を評価した。調査結果により、所望の粘稠性を生じ、味に関しては常に優れている市販の増粘剤はないことが示された。とろみのある液体の味を強化するために、著者等は香料の使用を推奨した。Matta等(2006年)はまた、増粘剤を用いて、ベース飲料(牛乳、リンゴ果汁及びオレンジ果汁)の主な香味が抑制され、わずかな異臭(苦み、酸味、金属味又は渋味)が付与されることを報告した。デンプンベースの増粘剤(Thick and Easy、Thicken up)は、デンプン質の口当たり及びざらざらした質感を付与したが、一方ゴムベースの増粘剤(Thick and Clear及びSimply Thick)は、飲料にさらなる滑らかさを与えた。著者等は、官能特性の向上のために増粘剤のさらなる開発が必要であると考えられると結論付けた。さらに、嗜好性(好き嫌い)は、以下の2つの理由のために、重要な役割を果たす可能性がある。
【0057】
[0066]1)とろみのある液体に強い嫌悪を持つ患者は、結果として、適応性が低く、また飲水量が少ない場合があり、脱水症及び栄養不良などの他の障害の一因となる可能性がある。言語療法士の実践パターンについて2005年に行われた調査(Garcia等、2005年)は、大部分の従事者が、彼等の患者がとろみのある液体を嫌っていることを認めていることを示した。全体的にみて、患者の嫌悪はとろみの程度と関連しているようであった。ネクターの粘稠性は、とろみのある流動体を必要とする患者にとって、最もよく許容される変更のレベルである。市販のとろみのある流動体の嗜好性に関するいくつかの論文が発表されている(Garcia等、2005年、Pulver等、1999年、Macqueen等、2003年)が、異なっていてもよい、SLPの認識による患者の好みではなく嚥下障害患者の好みを報告しているものは1つだけである(Macqueen等、2003年)。変更された食物の質感、粘性、及び栄養素含有量は、嚥下障害患者の安全性及び栄養を向上させ得るが、患者が食事を受け入れない場合は向上させない。より味の良い増粘剤を提供することによって、本発明者等は、言語聴覚療法の推奨事項の遵守を向上させ、それにより患者の誤嚥リスクを減少させることができる。実際に、造影試験を受けた140人の患者の後ろ向きコホート試験に基づいて、Low等(2001年)は、嚥下障害管理についての推奨事項の不遵守が、高い死亡率及び誤嚥性肺炎などの有害転帰と関連していることを示した。
【0058】
[0067]2)食物の美味しい・不味いは、嚥下生理機能に影響を及ぼす可能性がある。Leow等(2007年)は、甘い溶液は、その美味しさの値が高いためにより速く嚥下されるという仮説を立てたが、また、回避又はさらには喀出する傾向を伴う美味しさのトーンが低いと言われる苦い食物もまた、嚥下時間の短縮をもたらすことができるという仮説も立てた。
【0059】
[0068]硫酸バリウム媒体を含まない又は添加した、マンゴーピューレをベースとした4つの食物試料の嚥下の容易さの評価が、最近発表された(Ekberg等、2009年)。この著者等は、対比媒体を添加していない試料において嚥下の容易さが顕著に高いことを見出した。高濃度の硫酸バリウムを含む試料は、よりとろみが強く、大量の粒子を含むことが認められ、このことはおそらく、これらの試料が嚥下し難いと認められる理由を説明するものである。食塊を嚥下するのが安全で容易であるという知覚は、物理的安全性と同じくらい重要である可能性がある。
【0060】
[0069]嚥下の知覚刺激:
[0070]嚥下を知覚刺激する態様は、嚥下障害製品の開発のためにさらに興味深いものである可能性がある。いくつかの論文は、神経原性の嚥下障害において酸味のある食塊は嚥下を改善すると主張している。嚥下機能に対する味の影響に関して立てられた仮説は、「味が重要な口腔感覚刺激であり、大脳皮質及び脳幹への嚥下前の感覚入力を増加させ、したがって嚥下閾値を低くするかもしれない。嚥下閾値を低くすることは、口腔の嚥下開始時間(すなわち、嚥下の命令から口腔通過の開始までの時間)を減少させ、神経原性の嚥下障害を有する患者において咽頭嚥下の誘発を改善する可能性がある」というものである(Logemann等、1995年)。Logemanの研究において、造影評価(VFSS)は、50%水/50%E−Z−M硫酸バリウム溶液又は50%の本物のレモン果汁/50%E−Z−M硫酸バリウム溶液のいずれかを使用して行われた。嚥下障害患者は、酸味のない食塊と比較して、酸味のある食塊に反応して口腔嚥下の開始の顕著な改善を示した。脳卒中に罹患した対象は、酸味のある食塊の結果として、口腔通過時間及び咽頭通過時間の減少、並びに口腔咽頭の嚥下効率の向上を含むいくつかの他の嚥下の改善を示した。一部の患者はまた、酸味のある食塊の結果として誤嚥の減少を示した。酸味のある食塊が口腔咽頭の嚥下指標を顕著に悪化させた事例はなかった。Logemann等(1995年)はまた、酸味のある食塊は、嚥下に役立ち得る唾液分泌を迅速に増加させる可能性があるという仮説を立てた。Pelletier等(2003年)は、Logeman等(1995年)によって行われた観察結果を裏付けた。この著者等は、2.7%クエン酸(Logeman等の研究において存在した酸レベルと同等の酸味であると推定される濃度)を、神経原性の嚥下障害患者の別の群において、VFFSの代わりにファイバースコープ(FEES)を使用して試験した。クエン酸(2.7%)は、水と比較して誤嚥及び咽頭侵入を顕著に減少させた。さらに、対象は、クエン酸刺激に反応して自発的な空嚥下の顕著な増加を示した。Pelletier等(2003年)は、嚥下機能に対するクエン酸の作用は、クエン酸が三叉神経を刺激することに起因する可能性があることを示唆した。
【0061】
[0071]嚥下に対する酸味のある食塊の作用に関する他の研究はまた、健康な対象においても行われた。筋肉内EMGを使用して、Ding等(2003年)及びPalmer等(2005年)は、水塊と比較して酸味のある食塊を使用したときの頤下筋の強い筋肉収縮を報告した。Palmer等(2005年)は、顎舌骨筋、顎二腹筋及び頤舌骨筋の前腹の活性化が、酸味のある食塊ではタイミングが近いことを観察した。酸味のある食塊は、口腔筋を活性化させ、嚥下時のより強く速い収縮をもたらす可能性がある。著者等は、「Logemann等の研究において記述されている迅速な通過時間などの造影事象の変化は、少なくとも一部分において、増加した口腔咽頭の感覚刺激によって、より速く緊密に活性化された筋活動の結果である可能性が高い」と論じた。酸味のある食塊の存在下における強い頤下筋収縮は、Leow等(2007年)によって裏付けられた。この著者等は、「この研究において使用されたクエン酸の感覚特性は、孤束核(NTC)活性化を増加させるのに十分であり、これは疑核(NA)運動活性化の増加をもたらし、その結果、より大きな筋肉収縮が生じる」と仮定した。しかしながら、Hamdy等(2003年)は、健康な集団及び脳卒中集団において酸味のある食塊の正反対の作用を見出した。嚥下を容易にする代わりに、冷たい酸味のある液状食塊は、嚥下の容量及び速度を減少させる。著者等は、1つのカップ中の内容物を、正確にタイミングを合わせながら可能な限り速く且つ楽に飲むよう対象に求めることにその本質がある、水飲みテスト(SWT)を実施した。Hamdyと他の研究との間の1つの違いは、流動体の量である:Hamdyの研究においては、他の研究における非常に少ない量(1〜3ml)ではなく50mlを与えた。患者に与えられる食塊の量は、重要な役割を果たす可能性がある。
【0062】
[0072]Sciortino等(2003年)の見解は、この分野における科学的な隔たりを推測させる:「嚥下反応を誘起するために重要な化学的感受性領域について本発明者等が知っていることの大部分は、動物調査から来たものである。ヒト対象における同様な研究は乏しい」。表面筋電図検査法(sEMG)を使用して、Ding等(2003年)は、塩味の食塊で強い頤下筋収縮を、また塩味、甘味及び酸味のある溶液で水と比較して顕著に短い頤下EMG開始時間を見出した。舌骨下EMG開始時間はまた、甘味及び酸味条件において顕著に短いことが判明した。短くなった嚥下開始時間の寄与は、頤下筋が嚥下の口腔相及び咽頭相のいずれかに関与することができるからであると考えることは難しい。しかしながら、これらの結果から、著者等は、「味覚受容体は、嚥下における一連の事象に部分的に影響を及ぼすことができるようである」と結論付けた。Ding等(2003年)はまた、頤下及び舌骨下開始時間に対する粘稠性(カッテージチーズ)と味の複合効果を調査した。この著者等は、味の影響がさらに突出していることを示した。Pelletier等(2006年)は、中程度の濃度のスクロース、高濃度の塩及び高濃度のクエン酸が、水により発生する圧力と比較して顕著に高い舌の嚥下圧を引き出し、これは嚥下に役立ち得ることを示した。苦味のある溶液では、影響は見出されなかった。Leow等(2007年)はまた、呼吸気流及びsEMG法によって、嚥下時無呼吸、口腔準備時間及び継続期間、並びに頤下筋収縮の大きさに対する味の影響を調査した。他の研究とは反対に、ゼリー状マトリクスが使用された。著者等は、ゼリー状マトリクスは、液状食塊と比較して末梢の感覚受容体刺激を引き延ばし得ると論じた。嚥下時無呼吸の相の位置に対する顕著な味の影響は見出されなかった。しかしながら、口腔準備時間、頤下sEMGの大きさ及び継続期間についての顕著な味覚効果が見出された。酸味物質及び甘味物質は、苦味物質及び塩味物質と比較して、最短の口腔食塊準備時間及びより短い頤下sEMG収縮時間の継続期間を有していた。互いに比較した場合、中間物質、塩味物質及び苦味物質について口腔準備時間の顕著な差異は存在しなかった。苦味物質は、すべての他の味物質と比較して顕著に長い頤下sEMG時間を示した。著者等は、口腔準備のこの延長は、嚥下を容易にし得ることを示唆した。
【0063】
[0073]しかしながら、Chee等の1つの論文(2005年)は、水飲みテスト(SWT)を使用して、グルコース、柑橘類、生理食塩水及びキニーネ溶液が、嚥下容量に対して影響を及ぼさないこと、並びに水と比較して嚥下速度を減少させることを報告した。しかしながら、著者等は、「味及び他の感覚刺激が、感覚受容体を活性化させることによって、NTSへの顕著な入力及び嚥下容量の制御におけるより高い中心値をもたらすようである」ことを認識した。それらの結果を説明するために、著者等は、「増大した感覚入力が異常に強度の刺激として知覚された可能性があり、そのような刺激が、対象をより注意深くタスクに気を配らせることによって、又は意識的な食塊の知覚増大によって、動きを変更した可能性がある。結果として生じる影響は、摂取される食塊の割合を減少させる保護機構の誘発である可能性がある」と論じた。しかしながら、この研究において使用されている濃度は、以前の研究において使用されている濃度以下であるが、以前の研究(5〜10ml)よりも、この研究においてやはり食塊量は非常に大きい(50ml)。Kaatzke−McDonald等(1996年)は、誘起される嚥下の待ち時間に関して、グルコース、生理食塩水及び蒸留水の間で顕著な差異を観察しなかった。塩味の溶液は、誘起された嚥下の数において蒸留水よりもわずかに効果的であったが、変化は非常に小さいものであった。味溶液は、1.2mm径の口腔内チューブを介して、刺激の機械的な影響を最小限にするために0.1ml/秒の速度でポンプによって3秒間注入した。咽頭造影装置によって嚥下待ち時間及び回数を測定した。方法の差異(摂取の代わりに注入)は、結果に影響を及ぼした可能性がある。著者等は、口峡柱部分に特にデータを適用したこと、及びより多量の冷たい液体が効果的である可能性があることを認識した。
【0064】
[0074]高濃度の塩及び高濃度のクエン酸の両方が、三叉神経によって仲介される化学的感覚を誘発することが知られている。したがって、Pelletier等(2003年)は、「化学的感覚は、嚥下生理機能において非常に重要な役割を果たす可能性がある。それが事実であれば、炭酸飽和などの三叉神経刺激物を含む嚥下障害食の推奨は、嚥下障害を有する個体にとって有益であり得る」と示唆した。Bulow M.等(2003年)の結果は、Pelletier等の仮説に一致している。この著者等は、治療のためのビデオX線撮影嚥下検査中、三叉神経刺激として知られている炭酸ガスで飽和させた流動体が、気道への侵入/誤嚥及び咽頭通過時間を減少させることを示した。咽頭の保持もまた顕著に減少した。著者等は、口内の口峡部の受容体において炭酸由来の分子の作用を刺激することによって、これらの結果を説明した:「この刺激は、脳幹の延髄にある孤束核に対するより求心性のインパルス(感覚入力)を誘起し、咽頭の嚥下をより迅速に誘発し得る」。著者等は、「炭酸ガスで飽和させた流動体は、侵入/誤嚥のある患者のために有益な治療の選択肢である」と結論付けた。
【0065】
[0075]非常に最近の研究論文(Welge−Lussen等、2009年)はまた、調和した甘味と組み合わせた、臭気物質であるバニリンのような食物を使用した口腔から鼻咽腔に抜ける嗅覚刺激が、嚥下回数及び臭気物質刺激後の最初の嚥下の待ち時間の両方に関して嚥下を容易にすることを示唆している。口底の超音波検査記録は、嚥下を詳細に記録するために使用される。この研究は、健康な対象を用いて1つのフレーバーにおいてのみ行われた。著者等は、嚥下に対する臭質、快・不快及び親しみ易さの影響を調査するためのさらなる研究が必要であることを認識した。
【0066】
[0076]熱触覚刺激療法もまた、嚥下における感覚的知覚の影響を推測させる。この療法は、咽頭嚥下遅延を治療する特定の技術として長い間使用されてきた。Logemann(1986年)によると、この療法の目的は、「患者が自発的に嚥下を試みるときに、その患者が反射をより迅速に誘発するように、口腔内の嚥下に対する感度を高めること」である。嚥下に対する味の影響に加えて、Kaatzke−McDonald等(1996年)はまた、ヒトの健康な嚥下に対する口峡柱前部の冷たい(「冷たい」対「生温い」)刺激及び接触(「口峡柱前部に対する3ストローク」対「偽の刺激」)刺激の影響も検討した。この著者等は、冷たい接触刺激が、嚥下待ち時間及び嚥下の繰り返される頻度の顕著な増加を誘起したことを見出した。この結果は、冷たい接触によって刺激されたときに嚥下を誘起する熱感受性受容体が口峡柱に存在することを示唆している。しかしながら、同時に、Ali等(1996年)は、扁桃柱の事前の冷たい触覚刺激又は局所麻酔によって、正常な咽頭嚥下反応が容易にもならず、阻害もされないことを報告した。2003年には、Sciortino等が、Kaatzke−McDonald等(1996)と一致する結果を報告した。表面筋電図検査法(EMG)を使用して、この著者等は、健康な集団において、嚥下に特有の活動までの待ち時間が、刺激なしと比較して、機械的な+冷たい+味覚の条件の後に顕著に短いことを示した。このより速い嚥下に特有の活動は、刺激後の最初の嚥下時にのみ起こった。3つのすべてのタイプの刺激を一緒に用いた処置条件のみが、刺激なし条件と比較した場合に、嚥下活動の顕著により速い平均開始をもたらした。共役刺激のみが作用を有する理由は、著者等には不明である。提案された3つの仮説は、嚥下事象に及ぼす影響における口腔咽頭の感覚受容体を信用するものであり、したがって個々の刺激は、嚥下機能の作用を有するべきである。提案された3つの仮説は、以下である:1)口峡柱前部の熱及び触覚刺激が粘膜受容体を上方制御することができ、したがってその後の咽頭嚥下を誘起するための閾値を低くする;2)口峡柱前部への刺激が、「口での認知」を増加させ、したがって、嚥下反応を容易にする、より高いレベルの覚醒を促す機構として働く;3)嚥下反応閾値は変化しないままであるが、より大きな感覚入力に反応して受容体活性の加重がより速い嚥下反応をもたらす。
【0067】
[0077]本発明者等はさらに、嚥下障害患者において嚥下を改善することに対する食物の粘性の影響が、食物の物理的特性のみに起因し(よりまとまり/弾力性があるものは誤嚥を減少させる)、及び/又は食物粘性の知覚がまた、役割を果たすのだろうかと考える。Smith等(1997年及び2006年)は、「液体の粘稠性の変更は、変化を容易にするために嚥下障害管理において使用される一般的な補償的技術である。しかしながら、どの粘性の変化の程度が口腔又は口腔咽頭において知覚可能であるかは未知である。粘性の感覚を口である程度分かっていることは、嚥下障害個体のために粘性の変更を規定するために必要とされる精度を決定する助けとなり得る」と論じた。Smith等は、様々な比率の水とコーンシロップにおいて試料の物理的粘性及び知覚される粘性を評価した。物理的粘性と口で知覚される粘性との間の関連は、べき乗則:s=k(式中、sは、物理的刺激の強度である心理学的大きさであり、kは、測定のために選択される単位によって決定される定数及びべき指数である)として記述され得る。Smith等(2006年)は、0.3298の液体粘性の口腔知覚に関するべき指数、すなわち、粘性の口腔感覚は実際の粘性率の約3分の1の割合で大きくなることを見出した。この著者等は、粘性の関係のように、低い粘性感度のために、十分に調節された粘性特性は必要ではない可能性があることを示唆した。しかしながら、増粘剤の粘性挙動特性ではないニュートン流体(様々な比率で混合された水及びコーンシロップ)において研究が実施された。これらの大部分は、ずり流動化流体である。粘性知覚が嚥下を誘発するのに役立つかどうかを調査することは興味深いであろう。NDDガイドラインにおいて、3つの異なる粘稠度(ネクター、ハチミツ、プディング)について粘性の範囲が定められている。
【0068】
[0078]したがって、以下の特別な嚥下障害治療製品を、スクリーニング及び診断結果に基づいて患者に提供することができる。
a.有益な嚥下障害用成分が既に添加されているプレメイド(pre−made)栄養製剤
b.モジュール(規定された通り/必要とされた通りに添加された有益な嚥下障害用成分)
i.標準的なベースに添加されている
ii.液体に添加されている
1.水、果汁、コーヒー、茶、ONS
iii.他の食物製品に添加されている
1.プロバイオティクスをピューレ状の食物、肉汁、ゼリー、プディングに添加する
c.弾力性のある/粘性の栄養製品
i.増粘剤
1.軟口蓋及び/又は硬口蓋に対する舌圧への曝露後に弾力性及び粘性を維持するもの
a.上部嚥下障害を有する人での使用に適切なキサンタン
2.軟口蓋及び/又は硬口蓋に対する舌圧への曝露後に弾力性及び粘性を失うもの
a.上部及び下部嚥下障害を有する人での使用に適切なデンプン
3.軟口蓋及び/又は硬口蓋に対する舌圧への曝露後に最低限レベルの弾力性及び粘性を維持する、増粘剤の特定のブレンド
a.例えば、上部嚥下障害を有する人での使用に適切なキサンタン及びデンプン
4.増粘剤の量
a.効果的なレベル(ネクター、ハチミツ、プディングなど、粘性指標)
ii.嚥下される病原性細菌を減少させる(口腔の健康状態を向上させる)、誤嚥性肺炎を減少させる組成物
1.プロバイオティクス
a.ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)K12又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)などのヒトに常在しているプロバイオティクス菌株が使用される
b.サリバリシンA及びBを生成するストレプトコッカス・サリバリウスK12は、試験において、化膿連鎖球菌(Streptococus pyogenes)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(Streptococcus anginosis)、ユーバクテリウム・サブリウム(Eubacterium saburreum)、ミクロモナス・ミクロス(Micromonas micros)、モラクセラ属(Moraxella)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、及びポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyomonas gingivalis)に対して有効であることが示されている。
c.ロイテリンを生成するラクトバチルス・ロイテリATCC55730は、試験において、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、EHEC大腸菌(Escherichia coli)、ETEC大腸菌、サルモネラ菌(Salmonella enterica)、ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)、コレラ菌(Vibrio cholerae)に対して有効であることが示されている。さらに、ラクトバチルス・ロイテリATCC55730は、L.カゼイ(L.casei)ATCC 334、L.ジョンソニー(L.johnsonii)ATCC33200、L.アシドフィルス(L.acidophilus)ATCC 4356、L.ガセリ(L.gasseri)ATCC 33323、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、ユウバクテリウム・エリゲンス(Eubacterium eligens)、ビフィドバクテリウム・ロンガム・インファンティス・インファンティス(Bifidobacterium longum var infantis)、ユウバクテリウム・ビフォルメ(Eubacterium biforme)、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・カテニュレイタム(Bifidobacterium catenulatum)、バクテロイデス・ブルガタス(Bacteroides vulgatus)、及びバクテロイデス・テタイオタオミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)に対して共生作用を有する。
d.H2O2を生成するラクトバチルス・ジョンソニーLa1は、試験において、大腸菌(ETEC、EPEC)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)、ピロリ菌(Helocobacter pylori)、クロストリジウム・ディフィシルの毒素A、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、及びリステリア菌(Listeria monocytogenes)に対して有効であることが示されている。
e.ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)299vは、病原体のコロニー形成を予防するのに役立つこと、及び人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防するのを援助することが示されている。試験によって、LP299vは、ストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ソブリヌス(Streptococcus sobrinus)、及び大腸菌に対して有効であることが示されている。
f.ラクトバチルス・ラムノサスGGもまた、病原体のコロニー形成を予防するのに役立つこと、及び人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防するのを援助することが示されている。試験によって、ラクトバチルス・ラムノサスGGは、ストレプトコッカス・ミュータンス、ストレプトコッカス・ソブリヌス、及び大腸菌に対して有効であることが示されている。
g.ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)NCC1561は、試験において、アクチノマイセス・ビスコサス(Actinomyces viscosus)、及びストレプトコッカス・ソブリヌスに対して有効であることが示されている。
h.ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)NCC2211(Pelargon菌株)は、試験において、アクチノマイセス・ビスコサス及びストレプトコッカス・ソブリヌスに対して有効であることが示されている
複製しない微生物の例は以下を含む
i.病原体の付着(Caco2及びHT29−MRX細胞に付着する)の阻害機構によって作用し、リステリア・モノサイトゲネス(Lysteria monocytogenes)、ETEC大腸菌、EPEC大腸菌、仮性結核菌、及びネズミチフス菌の付着を予防することが試験において示されている、ラクテオール(Lacteol)。さらに、ラクテオールは、黄色ブドウ球菌、リステリア・モノサイトゲネス、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、ネズミチフス菌、フレクスナー赤痢菌、大腸菌、クレブシエラ・ニューモシエ(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌、及びエンテロバクター属菌(Enterobacter spp.)に対する抗菌活性を有することが示されている。
本発明に従う所望の特性を有する他の成分は以下を含む。
j.病原体の結合を予防することが試験において示されており、ストレプトコッカス・ミュータンス及びストレプトコッカス・ソブリヌスに対して有効であることが知られているCGMP。
2.流動体、半固形物及び固形物に添加することができる
iii.下記に列挙されているもの、例えば、スクロース+バニラ、クエン酸+レモン、メントール+冷却剤、及びクエン酸+メントール+冷却剤の組み合わせを含む、嚥下反射を誘発する/強化する組成物。
1.基本味物質
a.スクロース
b.人工甘味料
c.クエン酸
d.塩
e.カフェイン
f.スクロース/クエン酸
g.塩/クエン酸
2.三叉神経刺激物質
a.バニロイド受容体1(「VR−1」)アゴニスト
i.カプサイシン、カプシノイド、カプシエイト、ジヒドロカプサイシン、ジヒドロカプシエイト、ノルジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプシエイト、ホモカプサイシン、ホモジヒドロカプサイシン、n−ノナン酸のバニリルアミド(「VNA」)、アナンダミド、レシニフェラトキシン、及びオルバニル
1.非刺激性の種類、本明細書において使用される場合、「非刺激性の」という用語は、鋭い若しくは痛烈な感覚又は熱感の誘発が最小限である、又は誘発しない、バニロイド受容体アゴニストを指す。カプシエイトは、赤トウガラシの無刺激性栽培変種である、CH−19sweetから抽出され、バニリル部分と脂肪酸鎖の間にアミド結合の代わりにエステル結合を有する、カプシノイドと呼ばれるカプサイシン類似体であることが示されている。
b.冷却剤
c.冷温の食物又は飲料
3.芳香物質
a.レモン
b.バニラ
c.メントール
4.唾液分泌剤
5.空気を含ませた組成物(すなわち炭酸飽和)
6.アンギオテンシン変換酵素(「ACE」)阻害剤
i.食事による供給源(例えば、生物活性ペプチド)
ii.合成供給源(処方薬において見られる)
【0069】
[0079]嚥下障害治療製品は、以下の通り調製することができる。
a.嚥下障害管理のための標準化された栄養製品(例えば、インスタントのとろみのある飲料、ピューレ状の食物及びミックス)の在宅でのデリバリ
b.手作業で調製した製品が標準化された製品仕様に確実に従うようにするためのツール(例えば、適切な流動体粘稠度に目盛りを付けたラインスプレッドテスト(line spread test);様々なサイズの漏斗のキット;特別に目盛りを付けた手で持てるサイズの粘度計測装置;製法及び/又は料理の本[電子データの資料又は印刷資料];ケアをする人[例えば、有償及び無償の]のためのオンラインによる指示/訓練プログラム)
革新的な増粘剤
【0070】
[0080]嚥下障害患者又はケアをする人が、嚥下するのに安全な最小の食塊粘性を容易に実現することを可能にする革新的な増粘剤。この増粘剤は、医学的に適切なもの/最良の実践ガイドラインと一致するものを提供することに不安があるケアをする人に、安心を提供するのに役立つであろう。医学的に適切であるとガイドラインにより推奨されていることは、患者/ケアをする人にとってより好都合であるだろう。さらに、嚥下障害診断後に必要とされる生活様式の変化に適応するストレスを緩和するのにも役立つ。この革新的な増粘剤は、規定されている治療(嚥下するのに安全な、推奨される食塊粘性)の遵守を向上させ、嚥下障害患者における一般的な臨床的合併症、及び医療制度におけるそれらの物理的及び経済的な関連する費用及び負担の回避を補助するはずである。この新しい増粘剤は、臨床的及び経済的結果を最善のものとし、嚥下障害患者ケアの質を向上させるのに役立つはずである。
【0071】
[0081]食事の変更は現在、誤嚥性肺炎のリスクを含む合併症を減少させるための、口腔咽頭嚥下障害患者の療法の中心である。行うことができる最も強力な、根拠に基づいた推奨事項は、食塊粘性を変更することである。臨床的実践ガイドラインは、嚥下障害を有する人のためのこの処置の日常的な実施を支持している。嚥下障害患者のための液体粘性変更の標準化された用語及び定義が確立されている。特に、米国において2002年に学際的タスクフォースによって開発された、世界の嚥下食分類(National Dysphagia Diet)は、嚥下障害の食事療法に関する基準として受け入れられている。世界の嚥下食分類の2つの主義は、ラベル付け(希薄、ネクター状、ハチミツ状、及びプディング状)及びとろみのある流動体の各カテゴリーについての粘性範囲の推奨を含んでいた。
【0072】
[0082]平均的な市販の増粘剤を用いて、ガイドラインにより推奨される液体粘性までとろみをつけた流動体の調製は、主観的な判断に委ねられている。製造業者は、嚥下障害を有する個体のためにとろみ付けされる各流動体についての投与量範囲を提案している。各流動体についての様々な投与量範囲の規定は、使用される増粘剤の量の幅広い変動を許容しており、不適切にとろみのある、したがって誤嚥の危険性がより大きい流動体をもたらすことがある。加えて、適切にとろみのある流動体の調製では、粘稠性の主観的な判断(撹拌、口での操作など)が、意図する食塊粘性まで流動体のとろみが付いたことを判定するための効果的な方法ではないため、より作業が面倒になる。客観的な測定(すなわち、粘度計の使用による)は、典型的な市販の増粘剤を用いる、適切な食塊粘性までとろみの付いた流動体の安定した調製を促進する。しかしながら、粘度計は高価であり、通常は実験室環境においてのみ利用可能である。さらに、嚥下障害を有する個体に提供する前に各流動体の粘性(組成及び温度が様々である可能性が高い)を検査することは、大きな労働力を要するであろう。原理上は、市販の増粘剤を使用して液体の粘性を増大させることにより、流速を減少させ、患者に、気道保護を開始する時間を与える、嚥下中の誤嚥を予防する又は減少させることができる。したがって、推奨される液体粘性の範囲外の流動体を提供することは、誤嚥及び誤嚥性肺炎を含む合併症のリスクが増大している嚥下障害患者にとって危険である可能性がある。
【0073】
[0083]現在、多くの市販の増粘剤は、とろみを付けようとしている流動体又は流動体温度に応じて、複雑な混合の指示を有する。とろみのある流動体を調製する際のミスの可能性は、平均的な市販の増粘剤により増加する。この革新的な増粘剤の性能特徴に基づくと、ThickenUp Clearは、嚥下障害を有する個体の嚥下安全性を強化する。
【0074】
[0084]ThickenUp Clearを用いて、試験される様々な流動体及び流動体温度に関して単一の投与量を使用することによって、ガイドラインにより推奨される最小の食塊粘性を実現する。
供給源のThickenUp Clearは、以下の使用によって、ガイドラインにより推奨される食塊粘性を実現する。
ネクター状のとろみのある流動体を実現するためには、1.2g/100mlの流動体
ハチミツ状のとろみのある流動体を実現するためには、最低でも3.6g/100mlの流動体
プディング状のとろみのある流動体を実現するためには、8.4g/100mlの流動体
最小の食塊粘性を実現する能力は、以下に関して安定している。
【0075】
[0085] 幅広い範囲の流動体
[0086] 幅広い範囲の流動体温度
適切な投与量は、同型のさじ又はプラスチック製小容器/スティック包装を用いて容易に実現することができる。患者は、規定される処置が変化する場合であっても(例えば、ハチミツからネクターへ)、継続して同じ購入製品を使用することができる。
例えば、1杯で8オンスに対して、
ネクター状のとろみのある流動体を実現するためには、さじ1杯分の/スティック包装1個分のThickenUp Clearを使用する
ハチミツ状のとろみのある流動体を実現するためには、さじ3杯分の/スティック包装3個分のThickenUp Clearを使用する
プディング状のとろみのある流動体を実現するためには、さじ7杯分の/スティック包装7個分のThickenUp Clearを使用する
他の市販の増粘剤とは異なり、広範囲の流動体及び流動体温度に対して単一の投与量を使用することによって、最小の食塊粘性を実現することができ、患者又はケアをする人が適切にとろみのある流動体を容易に調製できるようにする。
【0076】
[0087]一実施形態において、この方法は、コンピュータ処理を使用して実施される。例えば、スクリーニングするステップ、診断するステップ、分類するステップ、選択するステップ及び与えるステップの1つ又は複数は、コンピュータプログラムに実装されたアルゴリズムの一部として利用することができる。コンピュータプログラムは、HCP又は患者自身が実行することができる。任意の特定の嚥下障害治療製品は、適切な治療が選択された後に患者に提供することができる。
【0077】
[0088]代替の実施形態において、本開示は、ケアセンターで嚥下障害患者のための治療を提供するための方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者に製品及びサービスを提供してケアセンターでの患者のリハビリテーションを容易にするステップとを含む。したがって、ケアセンターは、嚥下障害を有する又は有するリスクのある患者を治療するための、包括的な供給源、施設及び嚥下障害治療製品を提供することができる。
【0078】
[0089]さらに別の実施形態において、本開示は、ケアセンターで嚥下障害患者を治療することによって、収益を生み出すための方法を提供する。この方法は、嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害を診断及び分類するステップと、患者に少なくとも1つの製品又はサービスを提供してケアセンターでの患者のリハビリテーションを容易にするステップと、製品又はサービスに応じて患者に料金を請求するステップとを含む。代替の実施形態において、治療プロセスの1つ又は複数の他のステップにおいて、又は包括的な治療計画の一部として、患者に料金を請求することができる。
【0079】
[0090]さらに別の実施形態において、本開示は、嚥下障害患者に治療を提供するためのキットを提供する。このキットは、(i)嚥下障害について患者をスクリーニングするスクリーニングツールと、(ii)患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害と分類する診断検査と、(iii)患者の嚥下障害に基づいた嚥下障害治療コースの提案と、(iv)嚥下障害治療を実行するための指示とを含む。このキットは、嚥下障害を有する又は有するリスクのある患者を治療するための、嚥下障害治療の理学療法用の、スクリーニング及び診断ツール、並びに嚥下障害治療製品/指示の包括的なセットを含有することができる。このキットは、一般的な商店、病院又は嚥下障害ケアセンターで販売することができる。
【0080】
[0091]別の実施形態において、本開示は、嚥下障害に関連する医療費を減少させる方法を提供する。早い段階の嚥下機能障害を評価及び特定することによって(例えば、嚥下障害のスクリーニング及び管理の、標準化された、根拠に基づいた方法を広く実施することによって)、嚥下機能障害の適切な早期の管理が可能となり、実施される。このことにより、罹病率及び死亡率を減少させ、不安及び疼痛を減少させ、生活の質を向上させることができる。
【0081】
[0092]代替の実施形態における方法の経済的利益は、嚥下障害の臨床的合併症(例えば肺炎、反復性肺炎、脱水症、及び栄養不良並びに関連する障害)の治療費を回避することを含む。これらの費用は、以下と関連し得る。
入院、再入院、移行期のケア(例えば、亜急性のケア)、及び医師の診療所訪問/フォローアップケア
特別なケア(救急外来受診、人工呼吸、脱水症の治療[IV液]、抗生物質の使用及び関連障害[MRSA及びC.ディフィシルなどの「スーパー細菌」による院内感染症]、全身性炎症期間中の日和見感染症[例えば、UTI][身体が微生物の攻撃から宿主を保護することができない不十分な免疫反応しか開始できないため]に関連する費用及び長期滞在、人工呼吸後の肺のリハビリテーション。
慢性の状態及び/又は悪化した状態(例えば、心臓血管疾患、糖尿病、代謝症候群、悪液質などの慢性炎症と関連する疾患)。
肺炎などの急性侵襲又は急性傷害後に生じる健康転帰不良(例えば、高齢者における健康状態の悪循環;栄養不良及びその帰結[例えば、褥瘡、感染症、回復の遅れ、より多い医療利用];より重度の嚥下障害;機能性、自律性、及び運動性の低下;ケアをする人の負担の増加、衰弱;痴呆;転倒及び関連傷害[例えば、骨折])。
【0082】
[0093]個体の嚥下する能力及び効率を改善することを含むより良い治療から得られる利益は、肺の誤嚥リスクの減少によって個体の安全性を向上させる。効率的な嚥下は、栄養摂取支援への依存を減らし、及び/又は食事摂取中の栄養摂取支援にかかる時間を減少させ、及び生活の質を向上させる。効率的な嚥下はまた、安全性のために必要とされる流動体の粘性(例えば、プディング、ハチミツ及びネクターのとろみ製品)を減少させ、また質感を変更した食物の使用を制限することもできる。これらの以前に記述されている因子のすべては、個体の生活の質を向上させることを目的としている。
【0083】
[0094]さらなる健康上の及び経済的な利益は、栄養不良の帰結に関連する疼痛、苦痛、及び費用(感染症、褥瘡、嚥下障害の重症度の増大、悪液質、及びケアをする人の負担を増加させる自律性低下)及び脱水症(電解質平衡異常などに続いて起こる死亡、転倒)を回避すること、並びに楽しみ、摂食の心理社会的側面、及び全体的な生活の質の損失を回避することを含む。さらに、健康上の及び経済的な利益は、臨床的合併症(例えば、認識されていない潜在性の嚥下機能障害による反復性肺炎)及び医療ミス(転倒、感染症、及び嚥下機能障害に続いて起こる栄養不良/脱水症の結果としての褥瘡)の費用を回避すること;患者ケアに関する文書により、確立されているケア基準に従ってケアが提供されていないことが示される場合に生じる罰金、訴訟、及び和解金を回避すること(例えば、国の基準に従って提供される食事の変更、嚥下機能障害を有する人に関する即時的な栄養及び水分補給スクリーニング、口からの摂取などを維持するための対策を立てるための、嚥下障害管理の資格を持った専門家による評価及び助言、食事の変更、姿勢の位置調整、補償的嚥下対策、熱刺激、及び口腔運動訓練を含む嚥下リハビリテーション処置;及び患者に関して言語療法士[「SLP」]により推奨される、質感を変更した食物及び液体の範囲の規定)によって認識される。
【0084】
[0095]現在のケア実践を考慮すると、嚥下障害の管理において大きな相違が存在する。本開示の実施形態に従う、根拠に基づいた方法を組み込んだ、嚥下障害患者ケアに関して基準化されたアプローチは、多数のそしてますます増加している嚥下機能障害を有する人の生活を向上させることができる。特定の処置(例えば、口腔の健康を促進すること、正常な嚥下を回復させるのに役立つこと、又は嚥下するのに安全な食塊を増すこと)は、人が口で摂食すること(経管栄養を受けている及び/又はPEG設置を必要とすることに対して)、並びに、嚥下障害の診断及び適切な早期の管理の欠如から生じる臨床的合併症を防ぎながら、一般的な幸福と関連する食物の心理社会的側面を体験することを可能にする。
【0085】
[0096]限定ではなく例示のために、以下の事例は、本開示の様々な実施形態を説明する。
【0086】
[0097]シリアルテスト−良好な嚥下を診断するために、標準化された重量の市販の小麦フレークシリアルを、対象に投与することができる(例えば、3グラムの量)。様々なタイプのシリアルフレークを使用することができる。(i)咀嚼時間、及び(ii)サイクル数という2つのパラメータに基づいて、咀嚼の動きを観察することができる。健康な対象では、平均して、小麦フレークシリアルは、26±2秒及び38±2サイクルで摂食される。嚥下直前の食物塊を回収して物理的に特徴付ける必要がある。
【0087】
[0098]嚥下直前の食物塊を回収するために、対象に、嚥下する準備ができたと感じるときに試料を吐き出してもらう。対象は、実験者に対して手でサインを作り、実験者によって回収される容器に形成された食塊の大部分を吐き出す。対象は、口をすすがず、口内に分散しているいくらかの粒子を回収しない。水の添加及び口内に分散しているすべての粒子の回収は、潜在的な嚥下可能な食塊の構造を変化させる可能性がある。
【0088】
[0099]シリアル及びシリアル塊の水分含量を測定して、唾液分泌及び食物水分摂取容量を決定する必要がある。すべての試料を、130℃で120分間オーブン中で乾燥する。シリアル塊に関しては、水分蒸発による重量減少を回避するために、吐き出し後直ちに試料の重さを量る。乾燥後、重量測定前に重量を安定化させるために、試料を1時間、温度(約25℃)及び湿度(35%)を制御したデシケーター中で冷却する。シリアル及びシリアル食塊の水分含量を、乾燥前と乾燥後のシリアル/シリアル食塊重量の間の差異によって決定する。さらに、咀嚼中のシリアルの水分吸入を、シリアルの最初の水分含量と咀嚼終了時のシリアル食塊の水分含量との間の差異によって決定する。健康な人では、シリアル食物塊の水分含量は約50%であるべきであることが判明した。
【0089】
[00100]対象の刺激された唾液流もまた、対象に2口の水を飲んでもらい、その後、対象の口内に4回折り畳まれた正方形のパラフィルム(Parafilm)(登録商標)(Pechiney Plastic Packaging、シカゴ)を置いてもらうことによって測定することができる。対象は、唾液を嚥下しながら、この正方形のパラフィルムを1分間咀嚼する。この第1のステップは、唾液流を安定にするのに役立つ。1分後、対象は、さらに1分間咀嚼するが、今回は、事前に重さを量ってある小容器中に唾液を吐き出す。唾液の容器の重さを量って、刺激された唾液流を決定する。健康な人では、唾液流は、平均が1.9ml/分であり、0.6〜3.9ml/分まで変動し得る。
【0090】
[00101]シリアル食物塊のレオロジー特性を決定するために 、微小振動測定(例えば、カップ/翼形状を備えたレオメーターを使用して)又は質感プロファイル分析(例えば、インストロン機器を使用して)を行って、物質の粘弾力性特性及び粒径分布を決定し、したがって、嚥下前の食物塊の良好なまとまり/粘着性を検査することができる。健康な人では、嚥下可能な食物塊は、14〜22KPaからなる貯蔵係数、及び1.3〜4.3KPaで変動する降伏応力特性を有することが判明した。前に論じた試験方法を使用することによって、嚥下障害における構成要素又は悪化因子として、唾液量、酵素分解、及び咀嚼効率を調べることができる。
【0091】
[00102]本明細書に記載されている現在のところ好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変更及び修正は、本発明の主題の精神及び範囲から逸脱することなく、またその意図される利点を損なうことなく、行うことができる。したがって、そのような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の嚥下障害を治療する方法であって、
a)嚥下障害症状について患者をスクリーニングするステップと、
b)嚥下障害を診断するステップと、
c)患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に適切な嚥下障害治療製品を選択するステップと、
d)嚥下障害治療製品についての患者への調製指示を与えるステップと
を含む方法。
【請求項2】
スクリーニングするステップが、患者に、嚥下障害スクリーニング質問票の質問に回答してもらうサブステップと、患者の回答に基づいて質問票をスコアリングするサブステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
診断するステップが、
患者に、世話人の報告により特定される嚥下障害の変動、観察される変動及び自己報告による変動に関する過去の情報を含む質問票の質問に回答してもらうサブステップと、
患者の回答に基づいて質問票についてスコアを決定するサブステップと、
患者が閾値スコアを超える場合、嚥下障害を特定及び分類するサブステップと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
適切な嚥下障害治療を選択するステップが、
i)軟口蓋及び/又は硬口蓋に対して患者の舌から加えられる力を測定するサブステップ、
ii)患者の気道及び喉頭蓋が完全に閉じているかどうかを判定するサブステップ、
iii)患者の気道及び喉頭蓋のタイミングが正しいかどうかを判定するサブステップ、
iv)患者に対してコーンフレーク試験を実施するサブステップ、
v)患者の気管のpHを24時間モニタリングするサブステップ、
vi)患者に対して超音波検査を実施して、異常な口腔咽頭の運動機能を検出するサブステップ、
vii)配備用調製ツールを利用するサブステップ、及び
viii)患者に対して口腔の健康状態の評価を実施するサブステップ
の少なくとも1つに基づいて患者を診断及び分類するステップに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
嚥下障害治療製品が、
i)患者の免疫を強化する又は回復させる組成物、
ii)患者の嚥下反射を誘発する、強化する又は回復させる組成物、
iii)患者の口腔粘膜を強化する又は回復させる組成物、
iv)患者の認知機能を支援する組成物、
v)患者の認知力低下を予防する組成物、
vi)飲食物塊の口腔咽頭及び食道の安全な通過を向上させる組成物、
vii)食道逆流を減少させる組成物
の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
嚥下障害治療製品が、プロバイオティクス、バニロイド受容体1アゴニスト、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、基本味物質、三叉神経刺激物質、芳香物質、唾液分泌剤、増粘剤又は空気を含ませた組成物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
スクリーニングするステップ、診断するステップ、分類するステップ、選択するステップ及び与えるステップが、コンピュータプログラムに実装されたアルゴリズムである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
患者の嚥下障害を治療することが、患者の検出されていない嚥下障害に関連する医療費を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
患者への調製指示が、嚥下障害治療の仕様に従って食事の変更に従うステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
嚥下障害治療製品が、患者の嚥下障害に基づく理学療法レジメンである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
理学療法レジメンが、
i)摂食時及び摂食後の特定の姿勢の位置調整を実施するステップ、及び
ii)リハビリテーション訓練を実施するステップ
の少なくとも1つを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
理学療法レジメンが、同化的栄養レジメンと組み合わせられる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
患者に製品及びサービスを提供してケアセンターでの患者のリハビリテーションを容易にするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
嚥下障害患者に治療を提供するためのキットであって、
嚥下障害について患者をスクリーニングするスクリーニングツールと、
患者の嚥下障害症状が閾値を超える場合に嚥下障害と分類する診断検査と、
患者の嚥下障害に基づいた嚥下障害治療コースの提案と、
嚥下障害治療を実行するための指示と
を含むキット。
【請求項15】
嚥下障害治療が、
i)患者の免疫を強化する又は回復させる組成物、
ii)患者の嚥下反射を誘発する、強化する又は回復させる組成物、
iii)患者の口腔粘膜を強化する又は回復させる組成物、
iv)患者の認知機能を支援する組成物、
v)患者の認知力低下を予防する組成物、
vi)飲食物塊の口腔咽頭及び食道の安全な通過を向上させる組成物、
vii)食道逆流を減少させる組成物
の少なくとも1つを含む、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
嚥下障害治療が、患者の嚥下障害に基づく患者の理学療法レジメンである、請求項14に記載のキット。
【請求項17】
理学療法レジメンが、
i)摂食時及び摂食後の特定の姿勢の位置調整を実施するステップ、及び
ii)リハビリテーション訓練を実施するステップ
の少なくとも1つを含む、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
理学療法レジメンが、同化的栄養レジメンと組み合わせられる、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
嚥下障害に関連する医療費を減少させる方法であって、
請求項1〜13に記載の方法からなる群から選択される方法の使用
を含む方法。
【請求項20】
前記医療費の減少が、誤嚥の発生の減少に起因する、請求項19に記載の医療費を減少させる方法。
【請求項21】
前記医療費の減少が、感染症及び/又は嚥下障害により引き起こされる健康状態の悪循環の治療に起因する、請求項19に記載の医療費を減少させる方法。
【請求項22】
前記医療費の減少が、病院、外来患者医療施設又は高度看護施設の利用の減少に起因する、請求項19に記載の医療費を減少させる方法。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−515045(P2012−515045A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546246(P2011−546246)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/066972
【国際公開番号】WO2010/082986
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】