説明

嚥下食の製造方法及び嚥下食

【課題】経口摂取する際は口中で溶けるほど軟らかい食感を有しながら、製造、搬送、提供の過程においては高い保形性を有し、さらに半透明な素材も実現可能な嚥下食の製造方法及び嚥下食を提供する。
【解決手段】グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を加える工程と、前記グルコマンナンまたはこんにゃく粉、前記化学的処理による加工澱粉及びアルファー化澱粉に水を吸収させる工程と、凝固剤を加える工程と、蒸気によって蒸煮処理する工程と、順次実行することにより嚥下食を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下食の製造方法及び嚥下食に係り、特に冷凍や解凍、加熱によっても保形性を有する嚥下食の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会の到来に伴い、咀嚼・嚥下機能が低下した者が増加する傾向にある。これに伴ってきわめて軟らかい嚥下容易な食品に対する需要が急増している。一般に、食物の形態を変えて食べやすく、また飲み込みやすく工夫したような、軟らかい嚥下容易なものを嚥下食という。従来、嚥下食としては、食材に水を加えてミキサーにかけたペースト状のもの(ミキサー食)や、食材を細かく刻んだもの(刻み食)が知られている。これらの食品は、病院食や介護食として提供されている。
【0003】
このような嚥下食は、嚥下可能であることの機能ばかりを重視するため見た目に配慮するものではなかった。一般に食欲は、まず、料理の見た目によって左右される。したがって、ミキサー食や刻み食は、その見た目から、咀嚼・嚥下機能が低下した者の食欲を増進させることは難しかった。そこで、普通食と変わらない見た目を有する嚥下食を提供することが求められている。
【0004】
ところで、魚介類を生のまま切り身にして食べる刺身は、日本特有の料理であり、舌触りが軟らかくとろけるような感覚を楽しめるため、多くの日本人の嗜好に合い、特に素材本来の旨みを好む高齢者の嗜好に合う料理である。しかし、例えばマグロのような筋が発達している魚介類においては、筋の主成分であるコラーゲンが口の中に残り、嚥下障害を引き起こす場合がある。また、刺身に供される魚は種々の細菌で汚染されていることがある。このような事情から、病院や介護現場においては食中毒感染を予防するため、刺身を、咀嚼・嚥下機能が低下し、免疫力や抵抗力の低下している可能性のある者に提供することが控えられる状況にある。したがって、刺身そのものに代わる食品として、見た目が刺身そっくりの嚥下食の提供が求められていた。
【0005】
そこで、魚肉原料を擂潰ないし混練した後、添加剤を加え、蒸気によって蒸煮処理することによって、嚥下容易で、かつ、形態を刺身様に自由に成形できる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−269947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、製品に魚肉原料を含有しているため蒸煮処理すると不透明になってしまい、半透明感のある製品を製造することができなかった。すなわち、見た目の半透明感が特徴である刺身、例えばマグロやイカ、鯛の透明感を再現したような製品を製造するまでには至っていなかった。
【0008】
一方、一般的に半透明感のある食品を得るためには、ゼラチンや寒天を用いるが、これらは熱に弱く、いったん冷凍した後に再加熱すると溶解してしまう性質がある。この点、嚥下食は通常冷凍保存しておき、食べる直前に解凍して用いるので、ゼラチンや寒天を用いることは難しい。
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、嚥下容易で、特に経口摂取する際は口中で溶けるほど軟らかい食感を有しながら、製造、搬送、提供の過程においては高い保形性を有し、さらに半透明な素材の実現が可能な嚥下食の製造方法及び嚥下食を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の嚥下食の製造方法は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を加える工程と、前記グルコマンナンまたはこんにゃく粉、前記化学的処理による加工澱粉及びアルファー化澱粉に水を吸収させる工程と、凝固剤を加える工程と、蒸気によって蒸煮処理する工程と、順次実行することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5の発明は、請求項1の発明により製造される嚥下食に係り、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を含有してなることを特徴とする。
【0012】
請求項4および請求項7の発明は、請求項1〜3の方法、または、請求項5、6の嚥下食において、化学的処理による加工澱粉が、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉のいずれか1つから選ばれることを特徴とする。
【0013】
以上のような本発明では、基材にグルコマンナンまたはこんにゃく粉を使用することによって、透明又は半透明の嚥下食を製造することができる。また、化学的処理による加工澱粉を使用することによって、長期間冷凍保存が可能である。例えば、冷凍してから長期間経過し解凍した食品が、冷凍前のものと見た目が変わることがない。また、冷凍していた食品を食べる直前に加熱・殺菌処理ができるので、免疫力や抵抗力の低下している者に対しても安心して提供することができる。また、アルファー化澱粉を使用することによって、製造、搬送、提供の過程において高い保形性を有する。さらに、グルコマンナンまたはこんにゃく粉とともに、化学的処理による加工澱粉、アルファー化澱粉を使用することによって、嚥下容易で、特に経口摂取する際は口中で溶けるほど軟らかい食感を有する嚥下食を製造することができる。
【0014】
請求項2の発明は、少なくとも凝固剤を加える工程の前に、アミノ酸、油脂のいずれかまたは両方を加える工程を実行することを特徴とする。これにより、普通食の味や香りを再現することができる。例えば、マグロ油脂、種々のアミノ酸を加えることによって、マグロ特有の味・香りを再現した嚥下食を製造することができる。
【0015】
請求項3の発明は、色素を加える工程を含むことを特徴とする。請求項1又は請求項2の発明では、透明又は半透明の嚥下食が得られる。よって、色素を加えることによって、着色しつつも透明感のある嚥下食を得ることができ、普通食の見た目をより忠実に再現することができる。例えば、赤い色素であれば、赤く透き通る食品を再現することができる。このような赤く透き通る食品は、成形によって、マグロの刺身を模した食品になる。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5の嚥下食において、アミノ酸、油脂、色素を少なくとも1つ含有することを特徴とする。これにより、普通食の味や香り、見た目を再現した嚥下食を得ることができる。例えば、マグロ油脂、赤い色素、種々のアミノ酸を加えることによって、マグロ様刺身食品を得ることができる。食べる人の視覚、嗅覚、味覚を刺激し、まさに本物のマグロの刺身を食べているような感覚を味わうことができ、食欲の増進にもつながる。
【発明の効果】
【0017】
以上の本発明によれば、嚥下容易な食品に係り、特に経口摂取する際は口中で溶けるほど軟らかい食感を有しながら、製造、搬送、提供の過程においては高い保形性を有し、さらに半透明な素材も実現可能な嚥下食の製造方法及び嚥下食を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態という。)について説明する。
【0019】
1.構成
本実施形態における嚥下食は4つの工程を順次実行することによって製造される。それぞれの工程で得られたものを中間体1、2、3とする。第1工程は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、化学的処理による加工澱粉とアルファー化澱粉を加える工程である。第2工程は、中間体1に水を吸収させる工程である。第3工程は、中間体2に凝固剤を加える工程である。第4工程は、中間体3を蒸煮処理する工程である。
【0020】
第1工程は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を加える工程である。第1工程で使用するグルコマンナンは、こんにゃくの主成分であって、コンニャクマンナンとも言われる。こんにゃく粉は、こんにゃく芋から製粉されたものであるが、その製造方法は特に限定されず、市販品を使用できる。
【0021】
化学的処理による加工澱粉は、馬鈴薯、タピオカ、トウモロコシ、小麦、米、緑豆等に由来する種々の澱粉を原料とし、これらの原料に化学的処理を行ったものである。食品に添加できるものであればよく、具体的には、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉が使用できる(厚生労働省による加工澱粉の食品添加物指定)。耐冷凍性の点で、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉が好ましく、安定性の点で、さらにヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が好ましい。
【0022】
アルファー化澱粉は、馬鈴薯、タピオカ、トウモロコシ、小麦、米、緑豆等に由来する種々の澱粉を原料とし、これらの原料を糊化したものである。糊化は、例えば、澱粉を水に入れて加熱することによって行うことができ、常法により行うことができる。
【0023】
化学的処理による加工澱粉は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量加える。化学的処理による加工澱粉が、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して5倍量より少ないと、得られる食品は、強い弾力を持っており咀嚼しづらい上、噛むと口内でバラバラとなり食塊を形成しない。嚥下機能が低下した者にとって不適な食品となる。また、化学的処理による加工澱粉が、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して20倍量より多いと成形が困難となる。
【0024】
アルファー化澱粉は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量加える。アルファー化澱粉が、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して5倍量より少ないと、得られる食品は、充分な軟らかさを持った製品を得ることができない。アルファー化澱粉が、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して20倍量より多いと、軟らかくなりすぎて加熱後の取扱が困難である。
【0025】
第2工程は、中間体1に水を吸収させる工程である。中間体1に吸収させる水は、例えば、精製水、蒸留水、脱イオン水が挙げられるが、食品に使用されるものであれば特に限定されない。
【0026】
第3工程は、中間体2に凝固剤を加える工程である。中間体2に加える凝固剤は、通常アルカリが使用される。例えば、水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムが挙げられ、好ましくは水酸化カルシウムである。凝固剤は固形物として添加してもよいが、通常は水溶液として添加することが好ましい。さらに好ましくは、飽和水溶液であるとよい。凝固剤は、中間体2に対して、3〜10%添加するのがよい。
【0027】
第4工程は、中間体3を蒸煮処理する工程である。中間体3を蒸気によって蒸煮処理する方法は、例えば、水を添加して、80℃〜100℃の蒸気で蒸煮する方法により行う。
【0028】
本実施形態において、第1工程から第4工程まで順次実行することによって、嚥下容易で、特に経口摂取する際は口中で溶けるほど軟らかい食感を有しながら、製造、搬送、提供の過程においては高い保形性を有し、さらに半透明な素材の実現が可能な嚥下食を得ることができるが、さらに以下に示す第5工程、第6工程を導入することによって、味、香り、見た目を普通食に模した嚥下食を得ることができる。
【0029】
第5工程は、少なくとも、凝固剤を加える工程(第3工程)の前に、アミノ酸、油脂を少なくとも1つ加える工程である。第5工程におけるアミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等が挙げられる。油脂としては、例えば大豆油、綿実油、サフラワー油、米油、コーン油、ナタネ油、パーム油、シソ油、エゴマ油、ヤシ油、魚油、ボラージ油、ラード、牛脂等の動植物性油脂が挙げられる。魚油としては、マグロ、イワシ、カツオ等から抽出された油が挙げられる。マグロ油は、例えば、ビンチョウマグロやキハダマグロ、メバチマグロを原料として使用することができる。また、油脂には、通常食品で使用する乳化油脂も含まれる。これらのアミノ酸、油脂は、単独でも、複数用いてもよい。
【0030】
第6工程は、色素を加える工程である。第6工程を実行するタイミングは特に限定されない。嚥下食全体に均一に色づけする場合には、第3工程前に実行するのがよい。嚥下食表面にのみ色づけする場合には、第4工程後に実行するのがよい。嚥下食全体に均一に色づけし、かつ表面にも色づけする場合には、第3工程前かつ第4工程後で実行するのがよい。第4工程後に色素を加える方法は、例えば、スプレーで噴霧する方法や、はけで塗りつける方法等が挙げられる。表面に色素を付加する方法であれば、いずれの方法も採用することができる。食用色素は、常用のものが使用できる。
【0031】
以上のような製造方法により、本実施形態における以下のような嚥下食が得られる。本実施形態における嚥下食は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を含有する。さらに、アミノ酸、油脂、色素を少なくとも1つ含有してもよい。
【0032】
グルコマンナン、こんにゃく粉、化学的処理による加工澱粉、アルファー化澱粉は上記のものを使用できる。また、アミノ酸、油脂、色素も上記のものを使用できる。
【0033】
2.作用効果
以上のような本実施形態の構成に基づいて、嚥下食の製造方法及び嚥下食の作用効果について説明する。
【0034】
グルコマンナンまたはこんにゃく粉は、水を含んだ状態で無色透明であることから、他の原料と混合して透明又は半透明の嚥下食を製造することができる。また、無味無臭であるので、他の原料によって、味・香りを付加することで、全体として味や香りのコントロールが自在である。普通食の味・香りを再現した嚥下食を製造するにあたって、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に加える添加剤によって、多様な食品を得ることができる。
【0035】
一般に、グルコマンナンまたはこんにゃく粉からこんにゃくができることが知られているが、こんにゃくは冷凍耐性がなく、冷凍すると離水をおこしスポンジ状となってしまう。これに対して、本実施形態に係る嚥下食は、第1工程において、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学処理による加工澱粉を加えるため、長期間冷凍保存が可能になる点で非常にすぐれている。化学処理による加工澱粉がグルコマンナン又はこんにゃく粉と混ざり合い、冷却による水の体積変化による成形品の変形を抑制していると考えられる。冷却、加熱による体積変化が非常に少ないので、冷凍してから長期間経過し解凍した食品と冷凍前のもので見た目が変わることがない。また、冷凍していた食品を食べる直前に加熱・殺菌処理ができるので、免疫力や抵抗力の低下している者に対しても安心して提供することができる。
【0036】
さらに、グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量のアルファー化澱粉を加えることによって、嚥下可能な軟らかさを得ることができる。アルファー化澱粉は吸水能が高いので、第2工程において水を吸収させると、アルファー化澱粉が膨張し、中間体2が非常にまとまりやすくなる。すなわち、保形性にすぐれる。
【0037】
第3工程において、凝固剤を加えることによって、さらに保形成の高い中間体3を得ることができる。アルカリである凝固剤によって、グルコマンナンに含まれるアセチル基が脱離し、脱アセチル化したグルコマンナン分子同士が水素結合することによって、三次元的な網目構造を形成して、ゲル化すると考えられる。
【0038】
第4工程において、蒸煮処理することによって、中間体3に水をさらに吸収させることができ、嚥下可能な軟らかい食品を得ることができる。また、中間体3に加熱処理を施すことができ、殺菌効果が得られる。
【0039】
第5工程として、アミノ酸、油脂を加えることによって、味、香りを普通食に模した嚥下食を得ることができる。第5工程は、凝固剤を加える工程(第3工程)前に実行することによって、得られる嚥下食に味、香りを均一に行き渡せることができる。例えば、マグロ油を加えることによって、味・香りにてマグロの刺身を再現することができる。原料となるマグロの種類、マグロ油の量を適宜調整することによって、多様な好みに適したマグロ刺身様食品を製造することができる。
【0040】
第6工程として、色素を加えることによって、着色しつつも透明感のある嚥下食を得ることができ、普通食の見た目をより忠実に再現することができる。例えば、赤い色素であれば、赤く透き通る食品を再現することができる。このような赤く透き通る食品は、成形によって、マグロの刺身を模した食品になる。さらに、成形品は、表面の透過度をコントロールすることによって、マグロの刺身特有の赤とピンクのグラデーションを再現することができる。新鮮なマグロの刺身は、宝石のように透き通る身をしており、本発明は、その新鮮さまでも表現することができる点で、マグロの刺身様食品としての精度は非常に高い。一般に、脂の多く乗ったものを大トロ、それよりも脂の少ないものが中トロとされているが、適宜、色素の種類、量、色づけ方法を調整し、トロ特有の赤身の中に刻まれた脂を表現することによって、大トロ、中トロどちらも再現することができる。
【0041】
以上のような工程を経て製造される本実施形態に係る嚥下食は、グルコマンナンまたはこんにゃく粉、および、化学的処理による化学的処理による加工澱粉、アルファー化澱粉を含むことから、製造、搬送、提供の過程においては高い保形性を有し、半透明な食品であるという特徴がある。さらに、アミノ酸、油脂、色素を少なくとも1つ含有することによって、味、香り、見た目の点で、普通食と変わらないものである。特に、見た目においては、着色しつつも半透明な食品を得ることができ、従来よりも、色再現できる幅が格段に広がった。また、全体として塩分濃度の低いため、嚥下障害者でかつ塩分摂取量が制限されている者にも提供することができる。
【実施例】
【0042】
本実施形態の嚥下食の実施例として、マグロの刺身を模したマグロ刺身様食品を製造した。以下、その工程を示す。
【0043】
実施例として示す嚥下食は、まず、グルコマンナン2gに対し、20gのヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉と、20gのアルファー化澱粉、100gの水を混ぜ合わせ、60分間放置して、吸水させる。その後、攪拌して粘りが出たことを確認したら、マグロ油、アミノ酸、赤い色素を加え、均一になるまで攪拌する。水酸化カルシウム水溶液を加えたら、刺身の柵状の型に流しいれた。蒸し器に入れて蒸気によって、蒸煮処理してマグロ刺身様食品を得た。
【0044】
得られたマグロ刺身様食品は、全体として赤い中にも透明感があり、表面が艶やかで、本物の新鮮なマグロの刺身と同様の見た目を有していた。この食品を嚥下障害者に試食してもらったところ、難なく嚥下することができた。さらに、被験者からは昔食べたマグロの刺身の懐かしい味を感じることができるとの感想を得た。なお、本実施例の提供に先立ち、同じ被験者に特許第4508691号の製造方法によりマグロ刺身様食品を製造し、同時に提供した。そうしたところ、当該被験者は、この方法により製造されたマグロ刺身様食品には、手をつけようとしなかった。理由は、見た目に透明感がなく、一見してマグロでないことが判別できるので、食欲が沸かないとのことであった。このことから、本実施例の透明感または透明な素材に色付けすることで実現する、見た目の精巧な再現性が、嚥下食として食欲を与えるためにいかに重要であるかがわかる。
【0045】
(他の実施形態)
本発明は、上記の本実施形態に示す構成に限定されるものではなく、例えば、次に示す態様も包含するものである。
【0046】
本発明は、刺身様食品として提供するほか、海鮮丼や握り鮨のネタを模した食品としても利用することができる。本発明の製造方法では、マグロの他に、鯛、イカ、甘エビ、ホタテ等の半透明な食材を製造することができる。また、特許第4508691号の製造方法により、穴子や玉子、鮭、ウニを製造することができる。したがって、本発明に対して、特許第4508691号を利用し、さらに、シャリに、酢、砂糖で味付けした粥を利用することによって、嚥下可能な豪華海鮮丼やお寿司盛り合わせセットにしてもよい。これにより、嚥下障害者とそうでない者が集まる場所、レストランや回転寿司店等においても、嚥下障害者は、普通食と見た目の変わらない握り鮨を食べることができ、共に食事を楽しむことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を加える工程と、
前記グルコマンナンまたはこんにゃく粉、前記化学的処理による加工澱粉及びアルファー化澱粉に水を吸収させる工程と、
凝固剤を加える工程と、
蒸気によって蒸煮処理する工程と、順次実行することを特徴とする嚥下食の製造方法。
【請求項2】
少なくとも凝固剤を加える工程の前に、アミノ酸、油脂のいずれか1つ以上加える工程を実行することを特徴とする請求項1に記載の嚥下食の製造方法。
【請求項3】
色素を加える工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の嚥下食の製造方法。
【請求項4】
前記化学的処理による加工澱粉が、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉のいずれか1つから選択されることを特徴とする請求項1〜3に記載の嚥下食の製造方法。
【請求項5】
グルコマンナンまたはこんにゃく粉に対して、5〜20倍量の化学的処理による加工澱粉と5〜20倍量のアルファー化澱粉を含有してなることを特徴とする、嚥下食。
【請求項6】
アミノ酸、油脂、色素を少なくとも1つ含有することを特徴とする、請求項5に記載の嚥下食。
【請求項7】
前記化学的処理による加工澱粉が、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉のいずれか1つから選択されることを特徴とする請求項5または6に記載の嚥下食。