説明

四塩化ケイ素の熱水素化を用いたトリクロロシランの製造方法

本発明は、四塩化ケイ素含有出発材料ガス及び水素含有出発材料ガスを700℃〜1500℃の温度で反応させ、トリクロロシラン含有生成物混合物を生ずる方法において、前記生成物混合物が熱交換器を用いて冷却され、その際前記生成物混合物が熱交換器中でのこの反応ガスの滞留時間τ[ms]の間温度TAbkuehlungに冷却され、その際(方程式1)[式中、A=4000、6≦B≦50、及び100℃≦TAbkuehlung≦900℃]が当てはまり、かつ熱交換器を介して排出される前記生成物ガスのエネルギーが、出発材料ガスの加熱のために利用されることを特徴とする、トリクロロシラン含有生成物混合物を生ずる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化ケイ素の熱水素化を用いたトリクロロシランの製造方法に関する。
【0002】
多結晶シリコンの製造の際には、トリクロロシラン(Sitri)と水素との反応により、大量のテトラクロロシラン(Tetra)が生じる。このテトラクロロシランは、水素を用いたテトラクロロシランのシラン変換(Silankonvertierung)、触媒又は熱による脱水素ハロゲン化反応により、再度Sitri及び塩化水素へと反応させることができる。この技術においては、このために2つの方法変形が公知である:
低温方法においては部分的な水素化がケイ素及び触媒(例えば金属塩化物)の存在下で400℃〜700℃の範囲の温度で行われる。例えば、US 2595620 A, US 2657114 A (Union Carbide and Carbon Corporation / Wagner 1952)又はUS 294398 (Compagnie de Produits Chimiques et electrometallurgiques / Pauls 1956)を参照のこと。
【0003】
触媒、例えば銅の存在はSitri及びここから製造されるケイ素の純度を損なう可能性があるので、第二の方法、いわゆる高温方法が開発された。この方法では、出発材料であるテトラクロロシラン及び水素をより高められた温度で触媒無しに反応させる。テトラクロロシラン変換は吸熱プロセスであり、その際生成物の形成は平衡制限されている。主として顕著にSitriが産生されるためには、反応器中には極めて高温(>900℃)が適用されなくてはならない。従って、US-A 3933985 (Motorola INC / Rodgers 1976)はテトラクロロシランと水素とのトリクロロシランへの900℃〜1200℃の範囲の温度での、モル比H2:SiCl4 1:1〜3:1を用いた反応が記載される。収率12〜13%が記載される。
【0004】
特許公報US-A 4217334 (Degussa / Weigert 1980)には、温度範囲900℃〜1200℃での水素を用いたテトラクロロシランの水素化による、テトラクロロシランのトリクロロシランへの最適化された変換方法について報告されている。高いモル比H2:SiCl4 (50:1まで)及び高温生成物ガスの300℃未満の液体急冷(Fluessigkeitsquenche)により、顕著により高まったトリクロロシラン収率が達成される(約35%まで、H2:テトラ 5:1で)。この方法の欠点は反応ガス中の顕著に高まった水素割合並びに液体を用いて適用される急冷であり、これは両者共にこの方法のエネルギー消費、及び従ってコストを強力に上昇させる。
【0005】
JP 60081010 (Denki Kagaku Kogyo K.K./ 1985)は同様に、生成物ガス中のトリクロロシラン含有量の向上のための急冷方法(より低いH2:テトラ比で)を記載する。反応器中のこの温度は1200℃〜1400℃であり、反応器中での滞留期間は1〜30秒間である;この反応混合物は1秒間600℃よりも低くなるまで迅速に冷却される(SiCl4−液体急冷、モル比 H2:テトラ=2、Sitri収率1250℃で:27%)。しかしながらこの急冷方法でも欠点があり、つまりこの反応ガスのエネルギーは大部分が失われ、これはこの方法の経済性に極めて不利な作用をもたらす。
【0006】
本発明の課題は、四塩化ケイ素を含有する出発ガスの熱による水素化を用いたトリクロロシランの製造方法であって、高いトリクロロシラン収率と公知技術と比較して高まった経済性とを可能にする方法を提供することである。
【0007】
前記課題は、四塩化ケイ素含有出発材料ガス及び水素含有出発材料ガスを700℃〜1500℃の温度で反応させ、トリクロロシラン含有生成物混合物を生ずる方法において、前記生成物混合物が熱交換器を用いて冷却され、その際前記生成物混合物が熱交換器中でのこの反応ガスの滞留時間τ[ms]の間温度TAbkuehlungに冷却され、その際
【数1】

[式中、A=4000、6≦B≦50、及び100℃≦TAbkuehlung≦900℃]が当てはまり、かつ熱交換器を介して排出される前記生成物ガスのエネルギーが、出発材料ガスの加熱のために利用されることを特徴とする、トリクロロシラン含有生成物混合物を生ずる方法により解決される。
【0008】
本発明による方法を用いて、トリクロロシランのための製造コストは、より良好なエネルギー統合、空時収率の向上及びトリクロロシラン変換の変換程度の改善により減少される。反応条件下で不活性な材料からなり、かつこの構造が生成物ガスの極めて短い滞留時間を可能にする熱交換器の使用により、逆反応は十分に妨げられ、かつ出発材料ガスの加熱によりエネルギー収支は顕著に改善される。
【0009】
有利には、四塩化ケイ素は水素を用いて、900℃〜1100℃の温度で反応させられる。
【0010】
有利には7≦B≦30が当てはまる。冷却された生成物混合物の温度のためには次の温度が有利に当てはまる:200℃≦TAbkuehlung≦800℃。特に有利には280℃≦TAbkuehlung≦700℃が当てはまる。
【0011】
特に有利には反応器中での反応混合物の滞留時間は0.5sよりも少ない。
【0012】
意外にも本発明の枠内で、温度≧1000℃でこの相応する平衡制限されたSitri濃度の調節が、既に0.5秒の間に完全に行われることが確認された。意外にも更に、特に700℃までの、これまでに採用されてきた速度よりも顕著により迅速な冷却速度が、調節された平衡(例えば1100℃:Sitri含有量約21質量%)を得るために有利であることが見出された。700℃への冷却工程は従って、有利には50msよりも少ないうちに行われることが望ましい。
【0013】
生成物ガスの冷却又は出発材料ガスの同時の加熱のために本発明による方法に適した熱交換器は、有利には、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石英ガラス、グラファイト、SiC被覆されたグラファイト及びこれらの材料の組み合わせの群から選択される材料から成る。特に有利には、熱交換器は炭化ケイ素からなる。
【0014】
熱交換器は有利には、平板熱交換器又は管束型熱交換器であり、その際通路又は細管を有する平板が積重ね中に配置されている(図1a〜1f)。平板の配置はこの際有利には、細管又は通路の一部分中に生成物ガスのみが、そしてまた別の部分中に出発材料ガスのみが流動するように構成されている。ガス流の混合は回避されなくてはならない。この相違するガス流は、向流で又は並流でも導通されることができる。熱交換器の構造はこの際、生成物ガスの冷却により自由になったエネルギーが同時に出発材料ガスの加熱に用いられるように選択される。細管は、管束型熱交換器の形で配置されていてもよい。この場合には、一方のガス流は、管(細管)を通じて流通し、その一方で他方のガス流は前記管の周囲を流通する。
【0015】
どのような種類の熱交換器が選択されるかには関係無く、少なくとも1つ、有利には複数の次の構造特徴を満たす熱交換器が特に有利である:
通路又は細管の水力直径(Dh)は、4×断面積/周囲長として定義されるが、5mmより小さく、有利には3mmより小さい。交換面積対容積の割合は>400m-1である。この伝熱係数は300Watt/m2Kよりも大きい。
【0016】
熱交換器3は反応区域直後に配置されていることもでき(図2)、これはしかしながら、加熱した導通部(有利には反応温度に維持される)を介して反応器2と連結していてもよい。反応混合物(生成物ガス)が50msのうちに700℃未満に冷却された後に、反応ガスを通常の冷却器中に更に導通してよい。
【0017】
図1a〜1fは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の2つの実施態様の設計を例示的に示した。
【0018】
図2は、本発明による方法の実施のための装置の構造を図式により示した(1 シランポンプ、2 反応器、3 熱交換器)。
【0019】
図3は、熱交換器中の実施例5による温度分布を示した。
【0020】
次に、本発明を実施例並びに比較例をもとに具体的に説明する。
【0021】
実験を石英ガラス反応器中で実施した。この反応器は、相違する区域に区分けされていて、この区域が相違する温度に加熱されることができるように構成されている。最後の加熱区域の直後に、熱交換器が接続している。個々の区域中でのガス滞留時間は、相応する置換物質(Verdraengern)の挿入により広い範囲で変動することができる。反応器、また同様に熱交換器を去るガス混合物は、試料取りだし部位を介して、オンラインでまた同様にオフラインでもその組成に関して分析されることができる(ガスクロマトグラフィ)。
【0022】
例1
石英ガラス反応器中に、テトラクロロシラン170g/h及び水素45Nl/h(Nl:標準リットル)からなる混合物を供給した。反応区域中で、1100℃の温度及び10.5kPaの正圧が支配した。反応区域中での反応ガスの滞留期間は0.30sであった。この反応区域を去る生成物混合物(テトラ/Sitri/H2/HCl混合物)を25ms(τ)のうちに700℃に冷却した。この滞留時間は方程式1により定義された本発明による範囲にあった(TBsp1 700℃、BBsp1 算出して7.2)。本発明により最大限許容可能な、熱交換器中での滞留時間はこの条件(700℃、B=6)下ではτ=60msである。(熱交換器のDh=2mm)。この生成物混合物は縮合後に次の組成を示した[質量%]:
テトラクロロシラン 79.50%
トリクロロシラン 20.05%
ジクロロシラン 0.45%。
この例は、25msのうちに700℃に冷却される場合にSitri収率は高いままであることを示す。
【0023】
例2(比較例1)
例1と同様に、テトラクロロシラン103g/h及び水素23Nl/hからなる混合物を反応器中に供給した。この反応区域中では温度1100℃及び正圧3.0kPaが支配した。反応区域中での滞留期間は0.40sであった。引き続く冷却工程において生成物混合物を186msのうちに700℃に冷却した(TBsp2 700℃、BBsp2 算出して4.3、従って方程式1により許容可能な範囲外にある)。(熱交換器のDh=15mm)。この生成物混合物は縮合後に次の組成を示した[質量%]:
テトラクロロシラン 85.2%
トリクロロシラン 14.75%
ジクロロシラン 0.1%。
この例は、本発明によらない冷却ではSitri収率が減少していることを示す。
【0024】
例3
例1と同様に、テトラクロロシラン81.7g/h及び水素22.8Nl/hを反応器中に供給した。反応区域中でのこの温度は1100℃、この正圧は3.0kPaであった。このガスの反応区域中での滞留期間は0.90sであった。この生成物混合物を30msのうちに600℃に冷却した。本発明による最大限許容可能な、熱交換器中での滞留時間はこの条件(600℃、B=6)下でτ=109msであった。(熱交換器のDh=2mm)。この生成物混合物は縮合後に次の組成を示した[質量%]:
テトラクロロシラン 79.3%
トリクロロシラン 20.6%
ジクロロシラン 0.10%。
この例は、より長い反応時間は更なる利点をもたらさないことを示す。
【0025】
例4
例1と同様にテトラクロロシラン737g/h及び水素185Nl/hを反応器中に供給した。反応区域中の温度は1100℃であり、正圧は28.5kPaであった。このガスの反応区域中での滞留期間は0.30sであった。この生成物混合物を60msのうちに700℃に冷却した(TBsp4 700℃、BBsp4 算出して6、従って本発明により許容可能な限度値に相当する)。(熱交換器のDh=5mm)。この生成物混合物は縮合後に次の組成を示した[質量%]:
テトラクロロシラン 81.8%
トリクロロシラン 19.1%
ジクロロシラン 0.10%。
【0026】
例5:熱交換器の設計:
水力直径約1mm及び交換面積/容積比5300m-1を有する向流−熱交換器の伝熱を例1〜4と同様の組成を有するガス流に対して算出した。ガス速度=15m/s及び圧力500kPaに関しては、K値=550、ΔT=90℃及びエネルギー回収=93%が15msのうちに生じた。(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1a】図1aは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の実施態様の設計を例示的に示した図である。
【図1b】図1bは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の実施態様の設計を例示的に示した図である。
【図1c】図1cは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の実施態様の設計を例示的に示した図である。
【図1d】図1dは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の実施態様の設計を例示的に示した図である。
【図1e】図1eは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の実施態様の設計を例示的に示した図である。
【図1f】図1fは、本発明による方法に適した熱交換器内部構造体の実施態様の設計を例示的に示した図である。
【図2】図2は、本発明による方法の実施のための装置の構造を図式により示した図である。
【図3】図3は、熱交換器中の実施例5による温度分布を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1 シランポンプ、 2 反応器、 3 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四塩化ケイ素含有出発材料ガス及び水素含有出発材料ガスを700℃〜1500℃の温度で反応させ、トリクロロシラン含有生成物混合物を生ずる方法において、前記生成物混合物が熱交換器を用いて冷却され、その際前記生成物混合物が熱交換器中でのこの反応ガスの滞留時間τ[ms]の間に温度TAbkuehlungに冷却され、その際
【数1】

[式中、A=4000、6≦B≦50、及び100℃≦TAbkuehlung≦900℃]が当てはまり、かつ熱交換器を介して排出される前記生成物ガスのエネルギーが、出発材料ガスの加熱のために利用されることを特徴とする、トリクロロシラン含有生成物混合物を生ずる方法。
【請求項2】
7≦B≦30及び200℃≦TAbkuehlung≦800℃、有利には280℃≦TAbkuehlung≦700℃が当てはまることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応器中での反応ガスの滞留時間が0.5sよりも少ないことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
50msよりも少ないうちに700℃に冷却されることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
熱交換器が伝熱係数>300Watt/m2Kを有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
熱交換器が、交換面積対容積の割合>400m-1を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
熱交換器が、水力直径<5mmを有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
炭化ケイ素、窒化ケイ素、石英ガラス、グラファイト、SiC被覆されたグラファイト及びこれら材料の組み合わせの群から選択された材料から製造されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
熱交換器が炭化ケイ素から製造されていることを特徴とする、請求項8記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−528433(P2008−528433A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553509(P2007−553509)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000692
【国際公開番号】WO2006/081980
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】