説明

四塩化チタン精製用配合油

【課題】粗製四塩化チタンを蒸留精製する際に用いる四塩化チタン精製用配合油として、人の健康に対する影響が小さい多環芳香族化合物(PCA)の含有量が少ない鉱油を用い、バナジウムなどの不純物除去に優れたものを提供する。
【解決手段】DMSO抽出分が3質量%未満、%CAが10〜25、クロマトによる芳香族分が50質量%以上である鉱油系基油に、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィドの少なくとも1種類からなる硫黄系添加剤を硫黄分として2〜8質量%含有する四塩化チタン精製用配合油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチルなどのチタン鉱石を塩素化して得られた粗製四塩化チタンを精製する際に配合する四塩化チタン精製用配合油に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタニウムや顔料などに用いられる酸化チタニウムの原料となる四塩化チタンは、ルチル鉱石、イルメナイト鉱石などのチタン鉱石を、コークスなどの炭素質物質の存在下に塩素化して得られた粗製四塩化チタンを蒸留精製することにより製造されている。しかし、バナジウムや珪素などの塩化物は、沸点が四塩化チタンと同程度であるため、蒸留によっては除去が困難である。このため、石油系オイル、例えば鉱油、ワックス、水素化ナフテン系オイル、潤滑油、重質残渣油など、あるいは脂肪酸、脂肪族アルコール、石鹸、トール油、動物油脂、植物油、ろう、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機物質を添加して四塩化チタンを蒸留することでバナジウムなどを除去する方法が知られている(特許文献1〜2)。
【0003】
ところで、どのような有機物質を配合すれば不純物除去に有効であるかは、良く知られておらず、しかも、鉱油には多環芳香族化合物(PCA)が多く含まれる油が多々あり、近年、健康への影響が心配され、このような油の使用を規制する動きがある。したがって、鉱油を用いる場合は多環芳香族化合物(PCA)が少ない、具体的にはジメチルスルホキシド(DMSO)抽出分の低い鉱油の使用が推奨されている。しかし、このような鉱油のみを用いた場合、不純物が十分に除去されないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−515264号公報
【特許文献2】特公昭46−7363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粗製四塩化チタンを蒸留精製する際に用いる四塩化チタン精製用配合油として、人の健康に対する影響が小さい多環芳香族化合物(PCA)の含有量が少ない鉱油を用い、バナジウムなどの不純物除去に優れたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、多環芳香族化合物(PCA)の少ない鉱油に何らかの添加物を配合することにより、さらに不純物濃度を低下させることが可能であるはずとの着想に基づき、様々な添加剤との組み合わせについて調査、研究した結果、特定の鉱油系基油に、特定の硫黄系添加剤を所定量添加することで、不純物濃度を低下させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりの四塩化チタン精製用配合油である。
(1)DMSO抽出分が3質量%未満、%CAが10〜25、クロマトによる芳香族分が50質量%以上である鉱油系基油に、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィドの少なくとも1種類からなる硫黄系添加剤を硫黄分として2〜8質量%含有する四塩化チタン精製用配合油。
(2)100℃における動粘度が18〜40mm/s、引火点が200℃以上、163℃で3時間後の蒸発量が0.5質量%以下である上記(1)に記載の四塩化チタン精製用配合油。
(3)鉱油系基油が、100℃における動粘度25〜50mm/s、%CN10〜25、%CP50〜80、硫黄分4%以下である上記(1)に記載の四塩化チタン精製用配合油。
(4)硫黄系添加剤の硫黄含有量が15〜45質量%である上記(1)に記載の四塩化チタン精製用配合油。
【発明の効果】
【0008】
本発明の四塩化チタン精製用配合油は、多環芳香族化合物による人への健康被害の心配が少なく、しかも粗製四塩化チタンからバナジウムなどの不純物濃度を大幅に低下できるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔鉱油系基油〕
本発明に用いる鉱油系基油としては、人の健康への影響が少ないDMSO抽出分が3質量%未満のものである。このDMSO抽出分は、イギリス石油協会がIP346として規定する方法で測定されるもので、特には2.5質量%未満とすることが好ましい。
また、この鉱油系基油は、バナジウムなどの不純物を効率よく除去するために、%CAは10〜25のもので、特には、15〜20が好ましく、さらに、より不純物を効率的に除去するため、%CNが10〜25、特には、15〜20のものが、%CPが50〜80、特には、60〜70のものが、好ましい。この%CA、%CN、%CPは、ASTM D3238に規定されるn-d-M環分析の方法で測定されるものである。
さらに、この鉱油系基油は、不純物を効率よく除去するために、クロマトによる芳香族分が50質量%以上である。このクロマトによる芳香族分は、ASTM D2007に規定される方法で測定されるもので、特には55質量%以上、80質量%以下が好ましい。
【0010】
なお、鉱油系基油は、ハンドリングが容易であり、かつ、この基油が精製された四塩化チタンへの混合をできるだけ少なくするために、100℃における動粘度として25〜50mm/sのものが好ましく、バナジウムなどの不純物を効率的に除去し、かつDMSO抽出分の3質量%未満とするために、硫黄分が4%以下、特には1〜3%がのものが好ましく、安全上の観点から引火点が300℃以上のものが好ましく、精製後の四塩化チタンに混入する量をできるだけ少なくするために蒸発量が0.1質量%未満であることが好ましい。前記動粘度はJIS K2283に規定する方法で100℃で測定されるもの、硫黄分はJIS K 2541−5に規定する方法で測定されるもの、引火点はJIS K2265−4に規定する方法で測定されるもの、蒸発量はJIS K 2207に規定する方法で3時間で測定されるものである。
【0011】
本発明の鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留して、さらには減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、水素化脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の潤滑油精製手段を適宜組み合わせて処理して得られた精製潤滑油留分が好適に用いられる。なお、この場合、各種の原料と各種の精製手段の組み合わせから得られた性状の異なる精製潤滑油留分を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。このように石油の比較的高沸点な留分より作られる鉱油系の潤滑油基油は一般的に安価なこともあり、様々な潤滑油やグリースなどに広く用いられているので、本発明においては、これらのうち上記要件を具備するものを適宜選択して用いることができる。
【0012】
〔硫黄系添加剤〕
硫黄系添加剤としては、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィドを単独で、又は複数種、混合して用いてもよい。硫黄系添加剤の添加量は、硫黄分として2〜8質量%であり、特には、2.5〜6質量%が好ましい。添加量が、硫黄分として2質量%未満であると、粗製四塩化チタン中の不純物を十分に除去できず、また、8質量%を超えると、精製後の四塩化チタン中に硫黄系添加剤由来の軽質分が増加するという問題が生じる。この硫黄系添加剤は硫黄含有量が5〜45質量%のものが好ましく、特には15〜25質量%がより好ましい。硫黄含有量が5質量%よりも低いと、バナジウムなどの不純物の除去が十分でなく、さらに多量の添加が必要性となり、好ましくない。また、45質量%よりも高いと精製中に硫黄が析出する可能性が高く、好ましくない。
【0013】
硫化油脂は、油脂の不飽和結合を硫黄で架橋してなる化合物であり、例えば、硫黄と、菜種油、ひまし油、大豆油等の植物油や、牛脂、豚脂、鯨油等の動物油とを反応させて得られ、潤滑油用の硫黄系極圧剤として市販されているものを利用することができる。また、硫化オレフィンは、オレフィン類の不飽和結合を硫黄で架橋してなる化合物であり、ポリサルファイドは、オレフィン類以外の炭化水素原料をを硫化して得られるもので、さらに、硫化エステルは、動植物油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸エステルを硫化することにより得られるもので、硫化油脂と硫化エステルは、化学構造そのものは明確でない。ポリサルファイドの具体的なものとしては、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジ‐tert‐ブチルポリサルファイド、ジ‐tertーベンジルポリサルファイドなどが挙げられる。これらはいずれも潤滑油用の硫黄系極圧剤として市販されているものを利用することができる。
これら硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイドあるいは硫化エステルは、それぞれに一種単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
〔四塩化チタン精製用配合油〕
本発明の四塩化チタン精製用配合油は、100℃における動粘度が18〜40mm/sが好ましく、より好ましくは20〜30mm/sであり、この範囲ではハンドリングが容易であり、かつ、配合油が精製後の四塩化チタンにほとんど混合しない。また、同様に、精製後の四塩化チタンへの混合を抑制するために、蒸発量が0.5質量%以下、特には0.3質量%以下とすることが好ましい。なお、この100℃における動粘度及び蒸発量は、上記鉱油系基油で示した方法と同じ方法で測定するものである。
【0015】
本発明の四塩化チタン精製用配合油は、粗製四塩化チタン液に添加して蒸留精製する方法でも、あるいは蒸留工程の途中のガス状態の粗製四塩化チタンと接触させる方法でも用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例および比較例に基づいてより本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0017】
〔四塩化チタン精製用配合油の調製〕
表1に示す基油1、2を用いて、表2に示す配合により供試油を調整した。
基油1は、減圧蒸留残渣油の脱瀝油を溶剤抽出して得られたDMSO抽出分が3質量%未満のエキストラクトに、減圧蒸留留分を溶剤精製して得られたラフィネートを水素化精製及び脱ロウ処理することにより得られた鉱油系基油を混合することにより製造した。
基油2は、減圧蒸留残渣油の脱瀝油を溶剤精製して得られたラフィネートを水素化精製及び脱ロウ処理することにより製造した。
硫黄系添加剤として、硫黄分として20質量%の硫黄を含有する硫化オレフィンを用いた。
【0018】
〔四塩化チタン精製用配合油の評価〕
表2に供試油の評価結果を示す。評価は、バナジウムの含有量が320ppmである粗製四塩化チタン300mlに、供試油1.0g添加し、撹拌子で撹拌しながら、140℃まで加熱し、時間あたり140mlの留出速度で単蒸留する方法で行った。留出液は初留(50ml)と第2留分(150ml)に分け、第2留分のバナジウム量(ICP金属分析)と炭化水素含有量(ガスクロマトグラフィー)の測定を行った。バナジウム量、炭化水素量ともに1ppm未満であった場合を合格とし、どちらか一方でも1pm以上検出された場合を不合格とした。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
供試油1、2では、不純物濃度を十分に下げることができたが、同じ基油を用いた場合であっても硫黄系添加剤の配合量が少ない場合や、多すぎる場合には不純物濃度を十分に下げることはできない。また、%CAや芳香族分が少ない基油の場合には、同様に硫黄系添加剤を配合しても十分な特性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の四塩化チタン精製用配合油は、金属チタンなどの原料となる四塩化チタンの精製に用いることにより、高純度の四塩化チタンの製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DMSO抽出分が3質量%未満、%CAが10〜25、クロマトによる芳香族分が50質量%以上である鉱油系基油と、硫化油脂、硫化オレフィン、硫化エステル、ポリスルフィドの少なくとも1種類からなる硫黄系添加剤を硫黄分として2〜8質量%を含有する四塩化チタン精製用配合油。
【請求項2】
100℃における動粘度が18〜40mm/s、引火点が200℃以上、163℃で3時間後の蒸発量が0.5質量%以下である請求項1に記載の四塩化チタン精製用配合油。
【請求項3】
鉱油系基油が、100℃における動粘度25〜50mm/s、%CN10〜25、%CP50〜80、硫黄分4%以下である請求項1に記載の四塩化チタン精製用配合油。
【請求項4】
硫黄系添加剤の硫黄含有量が15〜45質量%である請求項1に記載の四塩化チタン精製用配合油。

【公開番号】特開2010−254486(P2010−254486A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103081(P2009−103081)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)