説明

四塩化珪素の製造方法

【課題】太陽電池用シリコンの原料である四塩化珪素を安定かつ安価に提供することを目的とする。
【解決手段】四塩化珪素の製造方法のある態様は、ゼオライト、好ましくは廃ゼオライトを含有した珪素含有物質を用い、炭素含有物質の存在下で塩素化する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の無機珪素化合物を原料として用いられる四塩化珪素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四塩化珪素は、微細シリカ、合成石英、窒化珪素その他種々の有機珪素化合物の合成原料として使用されているが、近年、太陽電池用シリコンの原料として注目を集めている。
【0003】
近年、地球温暖化を防止するため、原因物質の一つとされる二酸化炭素の排出量低減が大きな課題となっている。その解決手段として太陽電池は注目を集めており、需要も著しい伸びを示している。現在主流の太陽電池はシリコンを発電層として用いた太陽電池であるため、太陽電池需要の伸びに伴って太陽電池用シリコンの需要が逼迫する事態に陥っている。
【0004】
一方で、現在の太陽電池はまだまだ高価であるため、太陽電池によって得られる電力の価格は商業電力の電気代と比較して数倍であり、原料費の低減・製造コストの低減が望まれている。
【0005】
太陽電池用シリコンを製造する手法としては、(1)シーメンス法:トリクロロシランを水素によって還元することで多結晶シリコンを製造する手法、(2)流動床法:反応炉内にシリコン微粉末を流動させておき、その中にモノシランと水素の混合ガスを導入して多結晶シリコンを製造する手法、(3)亜鉛還元法:四塩化珪素を溶融亜鉛によって還元することで多結晶シリコンを製造する手法、上記の3つの手法が挙げられる。低価格化を指向する太陽電池用シリコンの製造方法としては、(1)シーメンス法、(2)流動床法では高純度金属シリコンの生産効率が低いという基本的な問題があり、生産効率に優れている(3)亜鉛還元法を用いることが好ましいと考えられる。
【0006】
亜鉛還元法の原料として用いられる四塩化珪素の製造方法としては、以下の3つの手法が挙げられる。
【0007】
(1)金属珪素又は珪素合金と塩化水素を反応させる。
この手法では金属珪素を原料とする。金属珪素は、電気炉にて2000℃以上の条件下で珪石を還元することによって製造するため、製造時に大量の電力を必要とし、原料価格が高いという欠点がある。またこの手法では、四塩化珪素はトリクロロシラン製造工程による副生成物として得られるため、反応収率が低い。
【0008】
(2)炭化珪素と塩素を反応させる。
この手法では炭化珪素を製造する際に大量の電力を必要とするため、原料価格が高いという欠点がある。
【0009】
(3)珪石等のシリカ含有物質と炭素の混合物を塩素と反応させる。
SiO+2C+2Cl→SiCl+2CO・・・(ア)
この手法では、上述の反応式(ア)に示したように珪石等の珪素含有物質と炭素、塩素を反応させることで四塩化珪素を得る。珪石等と炭素の混合物と、塩素との反応性が低く、反応を1300℃以上という高温条件下で行う必要があるが、上記の(1)、(2)の手法と比較して原料価格が安価であり、上記(3)の反応を改善することで、太陽電池用シリコンの価格低下が期待できる。
【0010】
一方、(3)の反応において、珪素含有物質として珪酸バイオマスの炭化処理生成物を使用すると、塩素との反応性が飛躍的に向上し、400〜1100℃という従来よりも低温な条件下でも高収率で四塩化珪素を得たという報告例がある(特許文献1参照)。その理由としては、炭化処理生成物中に含まれているシリカと炭素が高分散状態であること、多孔質であり表面積が大きいことなどが挙げられている。
【0011】
しかしながら、珪酸バイオマスは比重が小さいため、工業化の際に大量の珪酸バイオマスを集荷、運搬するためには膨大なコストがかかってしまう。また、大量の珪酸バイオマスを安定的に供給することは困難であり、量産化を考えた際、珪酸バイオマスは有用な材料とは言い難い。
【0012】
また(3)の反応においては、カリウム化合物を反応物に添加することで塩化反応の反応転化率を向上させた報告例や硫黄又は硫黄化合物を反応物に添加することで反応転化率を向上させた報告例があり、カリウム分や硫黄分が塩化反応の触媒として働くことが示唆されている(特許文献2、3参照)。
【0013】
しかしながら、従来の手法ではカリウム化合物や硫黄化合物といった反応触媒は、珪素含有物質、炭素含有物質と混合する、もしくは直接反応系に送り込むことで原料に分散させていた。そのため、原料中に触媒を十分に高分散させることが困難であり、触媒能力を十分に発揮できているとは言い難い。
【0014】
一方、ゼオライトは多孔質性の材料であるために表面積が大きい。また、酸点を有しているため炭素含有物質と混合した際、酸点と炭素含有物質間の相互作用によってバイオマス由来のシリカ・炭素化合物同様、シリカと炭素を高分散にすることが期待でき、低温条件下でも高収率で四塩化珪素を得ることが期待できる。
【0015】
また、ゼオライトは反応触媒、吸着剤、イオン交換膜などの用途として工業的に多くの分野で使用されているため、安価かつ安定的な供給が期待できる。さらに、工業的に使用された廃ゼオライトの大半は回収、再利用されること無く、産業廃棄物として処理されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭58-055330号公報
【特許文献2】特公平3−055407号公報
【特許文献3】特公平4−072765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述した現状を踏まえて、太陽電池用シリコンをより安定かつ安価に供給することが望まれており、太陽電池用シリコンの製造原料である四塩化珪素をより安定かつ安価に供給することが望まれている。
【0018】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、太陽電池用シリコンの製造原料である四塩化珪素を安定かつ安価に製造する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のある態様は四塩化珪素の製造方法である。当該製造方法は、ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質の存在下で塩素化することを特徴とする。
【0020】
この態様の四塩化珪素の製造方法によれば、ゼオライトの特徴により、四塩化珪素を低温条件下でも収率良く製造することができ、製造コストを削減できる。特に、ゼオライトとして工業的に使用後の廃ゼオライトを使用することで四塩化珪素の製造原料費を低減させ、結果として太陽電池用シリコンを安定かつ安価に提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、太陽電池用シリコンの製造原料である四塩化珪素を安定かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良形態を示すが、この限りではない。
【0023】
実施の形態に係る四塩化珪素の製造方法では、ゼオライトを含有した珪素含有物質から、炭素含有物質の存在下で塩素含有物質によって塩素化する工程により四塩化珪素が製造される。
【0024】
(珪素含有物質)
本実施の形態で用いられる珪素含有物質は、少なくともゼオライトを含有していればよく、ゼオライトの他に珪素含有化合物を含有していてもよい。
【0025】
ここで「ゼオライト」とはシリカを含有する結晶性の無機多孔質材料であり、具体的にはゼオライトA、ゼオライトX、ゼオライトY、ゼオライトL、ゼオライトΩ、USYゼオライト、ZK、ZSM、シリカライト、シャバサイト、エリオナイト、オフレタイト、モルデナイト、ナイトロライト、フォージャサイト、ソーダライト、トムソナイト等が挙げられるが、この限りではない。
【0026】
ゼオライトの特徴としては、多孔質性の材料であるために表面積が大きいことや酸点を有していることが挙げられる。珪素含有物質として珪石等の表面積が小さい物質を使用する場合、表面積を大きくするための粉砕工程が必要であるが、ゼオライトは表面積が大きいために粉砕工程が不要であり、工業化した際の製造プロセスを削減することができる。また炭素含有物質と混合した際、ゼオライト中の酸点と炭素含有物質間の相互作用によってシリカに炭素を高分散することができ、低温条件下でも高収率で四塩化珪素を得ることができる。
【0027】
なお、ゼオライトは、以下のような特性を有していることが望ましいが、この限りではない。表面積(BET法)としては、1〜1000m/g、好ましくは10〜700m/g、さらに好ましくは300〜600m/gであることが適しているがこの限りではない。平均細孔径としては、2〜100Å、好ましくは10〜70Å、さらに好ましくは30〜50Åであることが適しているがこの限りではない。細孔容量としては、0.1〜2.0mL/g、好ましくは0.3〜1.5mL/g、さらに好ましくは0.5〜1.0mL/gであることが適しているがこの限りではない。酸点としては、0.01〜1.0mol/kg、好ましくは0.1〜0.8mol/kg、さらに好ましくは0.3〜0.6mol/kgであることが適しているが、この限りではない。また、ケイバン比(アルミナに対するシリカのモル比)としては、2以上、好ましくは2〜1000、さらに好ましくは10〜1000であることが適しているが、この限りではない。
【0028】
なお、珪素含有物質を構成するゼオライトはカリウムを含むことが好ましい。上述のように四塩化珪素を製造する際、カリウム存在下で反応を行うとカリウムが塩素化反応の触媒として働くため、反応転化率が向上する。しかしながら、従来の手法では別途用意したカリウム化合物を珪素含有物質、炭素含有物質と混合するのみであったため、カリウム化合物を十分に高分散させることが困難であり、カリウムの触媒能力を十分に発揮できているとは言い難い。一方、ゼオライトには分子レベルでカリウムを含有させることができるため、シリカや炭素とカリウムを高分散状態にすることができ、カリウムの含有量が少量でも反応転化率を向上させることができる。
【0029】
カリウムは当初からゼオライトの組成に含まれていてもよく、また水酸化カリウムなどの溶液によってイオン交換処理を行うことで、ゼオライト内に含有させてもよい。その含有量としては、0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜5質量%であることが適しているが、この限りではない。
【0030】
また、ゼオライトとして廃ゼオライトを使用することが好ましい。なお、「廃ゼオライト」とは、工業的に使用後のゼオライトのことを指しており、具体的には反応触媒、吸着剤、イオン交換膜などに使用後のゼオライトが挙げられるが、この限りではない。また、廃ゼオライトにはゼオライト以外の物質が含有されていてもよい。
【0031】
ゼオライトは反応触媒、吸着剤、イオン交換膜などの用途として工業的に多くの分野で使用されているため、廃ゼオライトは大量かつ安定して供給することができる。さらに、廃ゼオライトの大部分は回収、再利用されること無く、産業廃棄物として処理されている。原料として少なくとも廃ゼオライトを含有した珪素含有物質を用いた場合、原料コストを削減できるのみならず、従来必要であった廃ゼオライトの処理費用をも削減することができる。さらには、産業廃棄物を削減することができるため、環境への負荷も低減することができる。
【0032】
さらに、廃ゼオライトとして廃触媒を用いることが好ましく、とりわけ原油処理に用いた廃触媒を用いることが適しているがこの限りではない。原油処理に使用した廃触媒には、原油中の炭素含有物質が付着しているものもあり、シリカと後述する炭素含有物質がより高分散状態になる。そのため、より低温条件下で高い塩素化反応転化率を達成することができる。また、炭素含有物質の添加量を削減することもでき、さらなるコスト削減にもなる。
【0033】
さらに、原油処理に使用した廃触媒には、原油中の硫黄成分が付着しているものもあり、硫黄分の触媒作用によって反応転化率がさらに向上する。
【0034】
珪素含有化合物として具体的には、珪石、珪砂、珪素集積バイオマス、非晶質性のシリカアルミナ等が挙げられるがこの限りではない。珪素含有化合物中に含まれている珪素の量としては、15〜46質量%、好ましくは20〜45質量%、より好ましくは20〜35質量%であることが適しているが、この限りではない。
【0035】
さらに、本実施の形態で用いられる珪素含有物質は、上述したゼオライト、珪素含有化合物からなる主成分以外の副成分を含有していてもよい。副成分としては、具体的には、金、銀、白金、パラジウム、モリブデンなどのゼオライト中に担持されている貴金属や、粘土鉱物、シリカゾル、アルミナゾル等のゼオライトを成形するために使用するバインダー等が挙げられるが、この限りではない。
【0036】
(炭素含有物質)
本実施の形態で用いられる炭素含有物質は、コークスや木炭、カーボンブラックなどの固体のみならず、一酸化炭素や二酸化炭素、メタンなどの気体であってもよく、さらには四塩化珪素を製造する際に生成する一酸化炭素を再利用してもよいが、この限りではない。炭素含有物質の添加量としては、珪素含有物質中に含まれている珪素とアルミニウムを合わせたモル数に対して、炭素のモル数が2〜25倍、好ましくは2〜12倍、より好ましくは3〜6倍になるようにすることが適しているが、この限りではない。
【0037】
炭素含有物質と珪素含有物質を混ぜ合わせる手法としては、単に混合させるだけでもよく、また炭化処理を行ってもよい。炭化処理とは、珪素含有物質と炭素含有物質を混合し、不活性ガス雰囲気下において加熱することで珪素含有物質を炭化することを指し、ゼオライトを炭化処理することで、単にゼオライトと炭素含有物質を混合した時よりもさらにシリカと炭素を高分散にすることができる。なお、炭化処理に使用する不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられるがこの限りではない。また、炭化処理時の加熱温度としては、200〜1200℃、好ましくは400〜1000℃、さらに好ましくは600〜800℃が適しているが、この限りではない。
【0038】
実施の形態の一つにおいて、炭素含有物質は、工業プロセスから生じた灰を含有する。なお、工業プロセスから生じた灰とは、工場施設において燃焼や焼却処理によって生じる、炭素を含有する灰のことを指す。具体的には廃棄物焼却施設や発電所などで生じる灰が挙げられるが、この限りではない。工業プロセスから生じた灰は総じて粒子径が小さく表面積が大きいため、シリカと炭素とがより高分散状態になる。
【0039】
工業プロセスから生じた灰中に含有されている炭素の量としては、灰の全質量に対して30〜95質量%、好ましくは60〜95質量%、より好ましくは70〜90質量%であることが適しているが、この限りではない。また、工業プロセスから生じた灰中に含有されている炭素の平均粒子径としては、0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、より好ましくは5〜30μmであることが適しているが、この限りではない。さらに、工業プロセスから生じた灰の表面積(BET法)としては0.01〜100m/g、好ましくは0.1〜50m/g、より好ましくは1〜30m/gであることが適しているが、この限りではない。
【0040】
炭素含有物質としてコークスや木炭といった粒子径の大きい物質を使用する場合、粒子径を小さくするために粉砕工程が必要であったが、工業プロセスから生じた灰では粉砕工程が不要となり、製造プロセスを削減することができる。また、工業プロセスから生じた灰は大量かつ安定的に供給することができる。さらに、工業プロセスから生じた灰の大部分は回収、再利用されること無く、産業廃棄物として処理されている。このため、炭素含有物質として工業プロセスから生じた灰を用いた場合、原料コストを削減できるのみならず、従来必要であった廃ゼオライトの処理費用をも削減することができる。さらには、産業廃棄物を削減することができるため、環境への負荷も低減することができる。
【0041】
実施の形態の一つにおいて、前記炭素含有物質として工業プロセスから生じた灰、とりわけ有機物を燃焼させることで、燃焼エネルギーを電力に変換する発電設備から生じた灰(以下、発電設備から生じた灰という)を含有していることが好ましい。発電設備から生じた灰とは、主に火力発電所やガス化複合発電(Integrated Gasification Combined Cycle:以下、IGCCと省略)において生じた灰のことを指すが、この限りではない。IGCCとは、重油、石油残渣油、石油コークス、オリマルジョン、石炭等の化石燃料から生成した一酸化炭素や水素を主成分とする合成ガスを原料とし、複合発電設備により発電を行う電力生産システムであり、大量の灰が廃棄される。
【0042】
発電設備から生じた灰の特徴としては、粒子径が小さく表面積が大きいことはもちろん、原料として化石燃料を用いているため、硫黄分を含有していることが挙げられる。上述のように硫黄が塩素化反応の触媒として働くため、炭素含有物質として発電設備から生じた灰を用いると、塩化反応の転化率が向上する。発電設備から生じた灰は、硫黄を1〜30質量%、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%含有していることが適しているが、この限りではない。
【0043】
従来の手法では硫黄化合物を珪素含有物質、炭素含有物質に直接混合するもしくは硫黄化合物を直接反応系に送り込むことで原料と硫黄化合物を混合していたため、シリカや炭素と硫黄化合物を十分に高分散させることが困難であり、硫黄の触媒能力を十分に発揮できているとは言い難い。一方、発電設備から生じた灰は、分子レベルで炭素と硫黄が高分散状態にあるため、硫黄の含有量が少量でも反応転化率を向上させることができる。
【0044】
四塩化珪素の製造にあたり、塩素化反応を促進する触媒を添加してもよい。塩素化反応を促進する触媒としてはカリウム分や硫黄分が挙げられるが、この限りではない。具体的には、カリウム分としては炭酸カリウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム等を、硫黄分としては硫黄、二酸化硫黄、硫化水素、二硫化炭素等を用いることができるが、この限りではない。触媒を添加する量としては、反応混合物中の珪素分に対して、0.05〜30質量%、好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%であることが適しているが、この限りではない。なお、少なくともゼオライトを含有する珪素含有物質、炭素含有物質、必要に応じて固体もしくは液体状の触媒を混合する方法としては、湿式、乾式のいずれでもよく、様々な手法を用いることができる。また、触媒を混合することなく、直接反応器に供給してもよい。
【0045】
(塩素含有物質)
本実施の形態で用いられる塩素含有物質としては、塩素や四塩化炭素、テトラクロロエチレン、ホスゲン等の塩素炭化化合物、塩素と一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、塩化炭素水素、不活性ガス等の混合物等を用いることができるが、この限りではない。
【0046】
本実施の形態の製造方法において、珪素含有物質、炭素含有物質、必要に応じて触媒を添加した混合物と塩素含有物質との反応は、固定床、流動床などのいずれの方式を用いてもよく、反応温度としては400〜1500℃、好ましくは600〜1200℃、より好ましくは700〜900℃であることが適しているが、この限りではない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0048】
(実施例1)
珪素含有物質としてUSYゼオライト(触媒化成製、ケイバン比:150)100mg、炭素含有物質としてコークス(新日本石油製、炭素含有量:99.9質量%以上)39mgを用いた。使用したUSYゼオライトの表面積(BET法)は570m/g、平均細孔径は48Å、細孔容量は1.1mL/g、酸点は0.5mol/kgであり、コークスは市販のものをボールミルによって粉砕後、使用した。炭素含有物質は、珪素含有物質に添加、混合後し、反応混合物を得た。なお、炭素含有物質の添加量は、反応混合物中に含まれているCのモル数が以下の式(イ)を満たすようにした。
【0049】
反応混合物中に含まれているCのモル数=2A+3B・・・(イ)
A:珪素含有物質中に含まれるSiのモル数
B:珪素含有物質中に含まれるAlのモル数
反応混合物は、600〜1000℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物を得た。四塩化珪素への反応転化率は以下の式(ウ)により算出し、以下の表1および表5に示した。
【0050】
反応転化率(%)=X/Y×100・・・(ウ)
X:生成した四塩化珪素のモル数
Y:珪素含有物質中に含まれているSiのモル数
以下、実施例2〜7には実施例1と同様のUSYゼオライトを用い、実施例2〜4、7、比較例1には実施例1と同様の粉砕処理を施したコークスを用いた。なお、すべての実施例、比較例において、反応混合物中のCのモル数および反応混合物の作製手法は、実施例1と同様にした。
【0051】
【表1】

【0052】
(実施例2)
珪素含有物質としてカリウムを含有させたUSYゼオライト100mg、炭素含有物質としてコークス39mgを用いた。USYゼオライトは、水酸化カリウム10%水溶液(アルドリッチ製)によってイオン交換することでカリウムを含有させ、その含有量はUSYゼオライト中のシリカに対して3.2質量%であった。反応混合物を900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物250mgを得た。反応転化率は、以下の表5に示した。
【0053】
(実施例3)
珪素含有物質として廃USYゼオライト100mg、炭素含有物質としてコークス37mgを用いた。本実施例で使用した廃USYゼオライトは、イオン交換樹脂膜として使用されたものであった。反応混合物は、900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物228mgを得た。反応転化率は、以下の表5に示した。
【0054】
(実施例4)
珪素含有物質として廃触媒100mg、炭素含有物質としてコークス36mgを用いた。本実施例で使用した廃触媒は、原油処理に使用されたUSYゼオライトであり、廃触媒の全質量に対して原油中の炭素分が1.9質量%、硫黄分が0.3質量%付着していた。反応混合物を600〜1000℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物を得た。四塩化珪素への反応転化率は以下の表2および表5に示した。
【0055】
【表2】

【0056】
(実施例5)
珪素含有物質としてUSYゼオライト100mg、炭素含有物質として工業プロセスから生じた灰46mgを用いた。本実施例では、工業プロセスから生じた灰として廃棄物焼却施設より生じた灰を粉砕することなく用いた。使用した工業プロセスから生じた灰の炭素含有量は85.2質量%、平均粒子径は17μm、表面積(BET法)は19m/gであった。反応混合物は、600〜1000℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物を得た。四塩化珪素への反応転化率は以下の表3および表5に示した。
【0057】
【表3】

【0058】
(実施例6)
珪素含有物質としてUSYゼオライト100mg、炭素含有物質として発電設備から生じた灰を49mg用いた。本実施例では、発電設備から生じた灰としてIGCCより生じた灰を粉砕することなく用いた。使用したIGCC灰の炭素含有量は79.0質量%、硫黄含有量は5.9質量%、平均粒子径は8μm、表面積(BET法)は23m/gであった。反応混合物は、900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物258mgを得た。反応転化率は、以下の表5に示した。
【0059】
(実施例7)
珪素含有物質としてUSYゼオライト100mg、炭素含有物質としてコークス39mgを用いた。本実施例では、反応混合物に、シリカに対してカリウムの含有量が3.2質量%になるように水酸化カリウム(アルドリッチ製)を混合した。カリウムが混合した反応混合物は、900℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物240mgを得た。反応転化率は、以下の表5に示した。
【0060】
(比較例1)
珪素含有物質として珪石100mg、炭素含有物質としてコークス39mgを用いた。珪石はボールミルによって粉砕後、使用した。なお、粉砕後の珪石の表面積(BET法)は2160cm/g、シリカ含有量は95.2質量%であった。反応混合物は、600〜1000℃下で純塩素ガスに1時間接触させることで塩化反応を行い、生成物141mgを得た。四塩化珪素への反応転化率は以下の表4および表5に示した。
【0061】
【表4】

【0062】
以下に示す表5は、各実施例、比較例における、反応温度が900℃の時の反応転化率を示した表である。
【0063】
【表5】

【0064】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、様々な変更や改良が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトを含有した珪素含有物質を炭素含有物質の存在下で塩素化することを特徴とする四塩化珪素の製造方法。
【請求項2】
前記ゼオライトがカリウムを含有する請求項1に記載の四塩化珪素の製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライトとして廃ゼオライトを使用する請求項1又は2に記載の四塩化珪素の製造方法。
【請求項4】
前記廃ゼオライトとして廃触媒を使用する請求項3に記載の四塩化珪素の製造方法。
【請求項5】
前記炭素含有物質が工業プロセスから生じた灰を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の四塩化珪素の製造方法。
【請求項6】
前記工業プロセスから生じた灰が有機物を燃焼させることで、燃焼エネルギーを電力に変換する発電設備から生じた灰である請求項5に記載の四塩化珪素の製造方法。
【請求項7】
前記珪素含有物質と前記炭素含有物質とを混合し、加熱により前記珪素含有物質を炭化処理した後、塩素化を行う請求項1乃至5のいずれか1項に記載の四塩化珪素の製造方法。