説明

四節リンク型無段変速機

【課題】四節リンク型無段変速機において、コネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分に従来よりも適切に潤滑油を供給する。
【解決手段】四節リンク型無段変速機1は、入力軸2と、出力軸3と、偏心機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とを備える。揺動リンク18の揺動端部18aは出力軸3の上方に配置される。コネクティングロッド15の他方の端部の上面に、当該上面に付着した潤滑油の少なくとも一部をコネクティングロッド15と揺動端部18aとの連結部分へ導く案内溝21が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四節リンクの代表的な構造である「てこ・クランク機構」を用いた無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、入力軸と平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた複数の偏心機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク型の無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各偏心機構は、入力軸に偏心して設けられた固定ディスクと、この固定ディスクに偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
入力軸には、ピニオンシャフトが挿入されるとともに、固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、この切欠孔からピニオンシャフトが露出している。揺動ディスクには入力軸及び固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する揺動ディスクの内周面には内歯が形成されている。
【0005】
内歯は、入力軸の切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、偏心機構の偏心量が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、偏心機構の偏心量が変更されて、変速比が変化する。
【0006】
入力軸を回転させることにより偏心機構を回転させると、コネクティングロッドの大径環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。揺動リンクは、一方向クラッチを介して出力軸に設けられているため、一方側に回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0007】
各偏心機構の固定ディスクの偏心方向は、夫々位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。従って、各偏心機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
変速機の潤滑構造としては、入力軸や出力軸等に油路及び油路と外周面とを連通させる油孔を形成し、油孔から潤滑油が吐出されることにより、ギアの噛合部等を潤滑する潤滑構造が知られている。
【0010】
しかしながら、本願発明者らは、上述した四節リンク型の無段変速機では、コネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分の単位面積当たりの負荷が最も大きくなり、耐熱性、耐久性、耐摩耗性の観点から、この連結部分の適切な潤滑及び冷却が必要となること、及び従来一般に用いられていた潤滑方法では、この連結部分を適切に潤滑できない虞があることを知見した。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、コネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分に従来よりも適切に潤滑油を供給できる四節リンク型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、該入力軸と平行に配置された出力軸と、前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、前記揺動ディスクには前記入力軸及び前記固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられ、該受入孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する四節リンク型無段変速機であって、前記揺動リンクの揺動端部は前記出力軸の上方に配置され、前記他方の端部の上面に、該上面に付着した潤滑油の少なくとも一部を前記コネクティングロッドと前記揺動端部との連結部分へ導く案内溝が設けられることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、案内溝によって、コネクティングロッドの他方の端部の上面に付着した潤滑油の少なくとも一部が、コネクティングロッドと揺動端部との連結部分へと導かれるため、コネクティングロッドと揺動端部との連結部分が従来よりも適切に潤滑及び冷却される。
【0014】
[2]本発明においては、揺動リンクの揺動範囲のうち、最も入力軸に接近する位置を内死点、最も入力軸から離れる位置を外死点として、案内溝は、揺動リンクの揺動端部が外死点に位置したときに、水平又は外死点側に向かって下方に傾くように形成された傾斜面を底面として備えることが好ましい。
【0015】
案内溝の底面を傾斜面とすれば、コネクティングロッドの他方の端部の上面に付着した潤滑油の少なくとも一部は、この傾斜面を伝ってコネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分に供給される。また、案内溝の底面を水平としても、揺動リンクの揺動端部が外死点に位置しているときは、その後、揺動端部が内死点側に向かって移動する。そして、案内溝の水平な底面上に付着した潤滑油は、慣性力により現状の位置に留まろうとするため、この潤滑油が、コネクティングロッドに対して他方の端部側に相対的に移動し、結果として、コネクティングロッドと揺動端部との連結部分に供給されることとなる。
【0016】
従って、本発明の四節リンク型無段変速機によれば、従来のものと比較して、コネクティングロッドと揺動端部との連結部分に潤滑油を適切に供給することができる。
【0017】
[3,4]本発明においては、前記傾斜面を第1斜面とすると、案内溝の底面に、第1斜面に加えて、外死点側に向かって第1斜面よりも大きく下方に傾くように形成された第2斜面を設けることが好ましい。
【0018】
揺動リンクの揺動端部が外死点側に向かって移動しているときには、案内溝内の潤滑油が慣性力によりコネクティングロッドに対して内死点側に相対的に移動する。案内溝の底面に、第1斜面よりも外死点側に向かって大きく下方に傾く第2斜面を形成すれば、コネクティングロッドと揺動端部との連結部分、又は、第1斜面上の潤滑油がコネクティングロッドに対して内死点側に相対的に移動することを、第2斜面で阻止することができる。
【0019】
[5]本発明においては、コネクティングロッドの他方の端部に、小径環状部を設け、揺動リンクの揺動端部に、小径環状部を軸方向で挟むように突出した一対の突片を設け、一対の突片に、小径環状部の内径に対応する貫通孔を穿設し、貫通孔及び小径環状部に連結ピンを挿入して、コネクティングロッドと揺動リンクとを連結することができる。
【0020】
このとき、一対の突片の上端に、小径環状部と突片との間における連結ピンの露出面積を広げるように切り欠かれた切欠部を形成すれば、上方から滴下した潤滑油が切欠部を介して連結ピンに供給される。これにより、本発明の四節リンク型無段変速機によれば、潤滑油を、コネクティングロッドと揺動端部との連結部分に、より適切に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の潤滑油供給構造を適用した無段変速機の実施形態を示す断面図。
【図2】本実施形態の偏心機構、コネクティングロッド、揺動リンクを軸方向から示す説明図。
【図3】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化を説明する説明図。
【図4】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化と、揺動リンクの揺動運動の揺動角θ2の関係を示す説明図であり、(a)は偏心量が最大、(b)は偏心量が中、(c)は偏心量が小であるときの揺動リンクの揺動運動の揺動角を夫々示している。
【図5】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化に対する、揺動リンクの角速度ω2の変化を示すグラフ。
【図6】本実施形態の無段変速機において、夫々60度ずつ位相を異ならせた6つの四節リンク機構により出力軸が回転される状態を示すグラフ。
【図7】本実施形態のコネクティングロッドの他方の端部を示す斜視図。
【図8】(a)は本実施形態のコネクティングロッドと揺動リンクとの連結部分を示す斜視図、(b)は本実施形態の揺動リンクの揺動端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の潤滑油供給構造を適用した無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂インフィニティ・バリアブル・トランスミッション(Infinity Variable Transmission(IVT))の一種である。
【0023】
図1及び図2を参照して、本実施形態の無段変速機1は、図示省略した内燃機関であるエンジンや電動機等の車両用駆動源からの回転動力を受けることで入力中心軸線P1を中心に回転する中空の入力軸2と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの偏心機構4とを備える。
【0024】
各偏心機構4は、固定ディスク5と、揺動ディスク6とで構成される。固定ディスク5は、円盤状であり、入力中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組で夫々設けられている。各1組の固定ディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組の固定ディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。また、各1組の固定ディスク5には、固定ディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の揺動ディスク6が偏心させて回転自在に外嵌されている。
【0025】
揺動ディスク6は、固定ディスク5の中心点をP2、揺動ディスク6の中心点をP3として、入力中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、固定ディスク5に対して偏心している。
【0026】
揺動ディスク6の受入孔6aには、1組の固定ディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。入力軸2には、1組の固定ディスク5の間に位置させて、固定ディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。
【0027】
中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、揺動ディスク6と対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、揺動ディスク6の内歯6bと噛合する。
【0028】
ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
【0029】
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成る駆動源14の回転軸14aが連結されている。駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
【0030】
駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNr1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・Nr1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)Nr1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0031】
固定ディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、揺動ディスク6は固定ディスク5の中心点P2を中心に固定ディスク5の周縁を回転する。
【0032】
図2に示すように、揺動ディスク6は、固定ディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、揺動ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0033】
揺動ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ローラベアリング16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0034】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0035】
図3は、偏心機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と揺動ディスク6との位置関係を示す。図3(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、固定ディスク5の中心点P2と、揺動ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と揺動ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
【0036】
図3(b)は偏心量R1を図3(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図3(c)は偏心量R1を図3(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図3(b)では図3(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図3(c)では図3(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図3(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、揺動ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。
【0037】
図2に示すように、本実施形態の偏心機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18は四節リンク機構20を構成する。本実施形態の無段変速機1は合計6個の四節リンク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
【0038】
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各偏心機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各偏心機構4で順に回転させられる。
【0039】
図4(a)は偏心量R1が図3(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図4(b)は偏心量R1が図3(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図4(c)は偏心量R1が図3(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、偏心機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。図4から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。尚、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。また、本実施形態では、揺動リンク18の揺動端部18aの揺動範囲θ2のうち、入力軸2に最も近い位置を内死点、入力軸2から最も離れる位置を外死点とする。
【0040】
図5は、無段変速機1の偏心機構4の回転角度θを横軸、揺動リンク11の角速度ω2を縦軸として、偏心機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ω2の変化の関係を示す。図5から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク11の角速度ω2が大きくなることが分かる。
【0041】
図6は、60度ずつ位相を異ならせた6つの偏心機構4を回転させたとき(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させたとき)の偏心機構4の回転角度θに対する、各揺動リンク18の角速度ω2を示している。図6から、6つの四節リンク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
【0042】
図7に示すように、各コネクティングロッド15の他方の端部の上面には、その側縁に沿うようにして一対の案内溝21,21が設けられている。各案内溝21は、第1斜面21aと第2斜面21bの2種類の斜面を組み合わせて構成された底面を有する。各案内溝21の底面は、コネクティングロッド15の一方の端部から他方の端部に向かって、第2斜面21b、第1斜面21a、第2斜面21b、第1斜面21a、第2斜面21bの順に設けられている。
【0043】
第1斜面21aは、揺動リンク18の揺動端部18aが外死点に位置するときに、水平または外死点側に向かって下方に傾くように形成されている。第2斜面21bは、揺動リンク18の揺動端部18aが外死点に位置するときに、外死点側に向かって第1斜面21aよりも大きく下方に傾くように形成されている。
【0044】
変速機ケース内を飛散する潤滑油の一部、又は、変速機ケースの上面から滴下した潤滑油の一部が、コネクティングロッド15の上面に付着すると、付着した潤滑油は、コネクティングロッド15の作動に伴い、その上面を移動する。そして、案内溝21内に入り込んだ潤滑油は、コネクティングロッド15が入力軸2側に引張られるときに、慣性力によって絶対軸上に留まろうとするため、結果的に、コネクティングロッド15に対して他方の端部側に移動することとなる。第1斜面21aは、外死点において、水平、又は下方に傾斜しているため、第1斜面21a上の潤滑油を連結ピン19に適切に導くことができる。
【0045】
逆に、コネクティングロッド15が出力軸3側に押圧されるときには、第1斜面21a上の潤滑油は、コネクティングロッド15に対して入力軸2側に移動しようとするが、第2斜面21bが第1斜面21aよりも急な傾斜角度に設定されているため、これを抑制することができる。
【0046】
従って、本実施形態の案内溝21によれば、最も大径環状部15a側に位置する第2斜面21b上に付着した潤滑油が、隣接する第1斜面21aに導かれて、外死点から内死点側に移動するときに、当該第1斜面21a上の潤滑油が小径環状部15b側の第2斜面21bを通過して小径環状部15b側の第1斜面21aに導かれ、内死点から外死点側に移動するときには、第2斜面21bにより第1斜面21a上の潤滑油が大径環状部21a側に移動するのを阻止され、再度外死点から内死点側に移動するときに、最も小径環状部15b側に位置する第2斜面21bを通過して連結ピン19の外周面に導かれる。
【0047】
連結ピン19の外周面に導かれた潤滑油には、再び内死点から外死点側に移動するときに案内溝21内に戻ろうとする力が働くが、最も小径環状部15b側に位置する第2斜面21bによって、案内溝21内に戻ることが阻止される。
【0048】
図8(a)及び(b)に示すように、揺動リンク18の突片18bの上端には、小径環状部15bと突片18bとの間における連結ピン19の露出面積を広げるように切り欠かれた切欠部18dが設けられている。この切欠部18dを介して、変速機ケース内を飛散する潤滑油をより多く連結ピン19に付着させることができ、連結ピン19と小径環状部15bとの間により多くの潤滑油を供給することができる。また、切欠部18dの上縁は、面取りされて傾斜しており、この面取りによって揺動端部18aの上端に付着した潤滑油を切欠部18d内に導くことができる。
【0049】
尚、本実施形態の案内溝21は、コネクティングロッド15の側縁に沿うように設けているが、本発明の案内溝は、これに限らず、コネクティングロッド15の上面中央に形成してもよい。この場合、案内溝の出力軸側の端部に小径環状部の内周面と連通する連通口を形成すればよい。
【0050】
また、本実施形態の案内溝21は、2つの第1斜面21aと3つの第2斜面21bとを備えているが、本発明の案内溝はこれに限らない。例えば、1つの第1斜面のみで案内溝の底面を構成してもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…無段変速機、2…入力軸、2a…切欠孔、3…出力軸、4…偏心機構、5…固定ディスク、6…揺動ディスク、6a…受入孔、6b…内歯、7…ピニオンシャフト、7a…外歯、8…差動機構(遊星歯車機構)、9…サンギア、10…第1リングギア、11…第2リングギア、12…段付きピニオン、12a…大径部、12b…小径部、13…キャリア、14…駆動源(電動機)、14a…回転軸、15…コネクティングロッド、15a…大径環状部、15b…小径環状部、16…ローラベアリング、17…一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)、18…揺動リンク、18a…揺動端部、18b…突片、18c…貫通孔、18d…切欠部、19…連結ピン、20…四節リンク機構、21…案内溝、21a…第1斜面、21b…第2斜面、P1…入力中心軸線、P2…固定ディスクの中心点、P3…揺動ディスクの中心点、Ra…P1とP2の距離、Rb…P2とP3の距離、R1…偏心量(P1とP3の距離)、θ2…揺動範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、
該入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記入力軸に偏心して設けられた固定ディスク、及び該固定ディスクに対して偏心して回転自在に設けられた揺動ディスクを有する複数の偏心機構と、
前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、
該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、
一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される大径環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、
前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、
前記入力軸には、前記固定ディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、
前記揺動ディスクには前記入力軸及び前記固定ディスクを受け入れる受入孔が設けられ、
該受入孔を形成する前記揺動ディスクの内周面に内歯が形成され、
該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、
前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する四節リンク型無段変速機であって、
前記揺動リンクの揺動端部は、前記出力軸の上方に配置され、
前記他方の端部の上面に、該上面に付着した潤滑油の少なくとも一部を前記コネクティングロッドと前記揺動端部との連結部分へ導く案内溝が設けられることを特徴とする四節リンク型無段変速機。
【請求項2】
請求項1記載の四節リンク型無段変速機において、
前記揺動リンクの揺動範囲のうち、最も前記入力軸に接近する位置を内死点、最も前記入力軸から離れる位置を外死点として、
前記案内溝は、前記揺動リンクの揺動端部が前記外死点に位置するとき、水平に又は前記外死点側に向かって下方に傾くように形成された傾斜面を底面として備えることを特徴とする四節リンク型無段変速機。
【請求項3】
請求項2記載の四節リンク型無段変速機において、
前記傾斜面を第1斜面とすると、
前記底面は、該第1斜面に加えて、前記外死点側に向かって該第1斜面よりも大きく下方に傾くように形成された第2斜面を備えることを特徴とする四節リンク型無段変速機。
【請求項4】
請求項1記載の四節リンク型無段変速機において、
前記案内溝は、その底面として第1斜面と第2斜面とを備え、
前記揺動リンクの揺動範囲のうち、最も前記入力軸に接近する位置を内死点、最も前記入力軸から離れる位置を外死点とすると、
前記第2斜面は、前記揺動端部が前記外死点に位置するときに、前記外死点側に向かって下方に傾くように、且つ、前記外死点側に向かって前記第1斜面よりも大きく下方に傾くように形成されることを特徴とする四節リンク型無段変速機。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項記載の四節リンク型無段変速機において、
前記コネクティングロッドの他方の端部には、小径環状部が設けられ、
前記揺動リンクの揺動端部には、小径環状部を軸方向で挟むように突出した一対の突片が設けられ、
該一対の突片には、前記小径環状部の内径に対応する貫通孔が穿設され、
該貫通孔及び前記小径環状部に連結ピンを挿入することにより、前記コネクティングロッドと前記揺動リンクとが連結され、
前記一対の突片の上端には、前記小径環状部と前記突片との間における前記連結ピンの露出面積を広げるように切り欠かれた切欠部が形成されることを特徴とする四節リンク型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251613(P2012−251613A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125374(P2011−125374)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】