説明

四節リンク機構型無段変速機

【課題】四節リンク機構型無段変速機において、レイアウト自由度を低下させることなく且つ入力軸を大径にすることなく入力軸の径を維持したまま、入力軸の撓みを抑制する。
【解決手段】四節リンク機構型無段変速機1は、入力軸2と、出力軸3と、6つのてこクランク機構20を備える。てこクランク機構20は、偏心機構4と、コネクティングロッド15と、揺動リンク18とで構成される。偏心機構4は、入力軸2に偏心して固定されるカムディスク5と、カムディスク5に偏心して回転自在に外嵌される回転ディスク6とを備える。隣接する偏心機構4のカムディスク5同士はボルトで連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸に設けられた偏心機構で偏心量を調節することにより変速自在な四節リンク機構型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に設けられたエンジン等の駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、入力軸と平行に配置された出力軸と、入力軸に設けられた複数の偏心機構と、出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、一方の端部に偏心機構に回転自在に外嵌される入力軸側環状部を有し、他方の端部が揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドとを備える四節リンク機構型無段変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、各偏心機構は、入力軸に偏心して設けられたカムディスクと、このカムディスクに偏心して回転自在に設けられた回転ディスクからなる。また、揺動リンクと出力軸との間には、一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、揺動リンクが出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに、出力軸に揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに、出力軸に対して揺動リンクを空転させる。
【0004】
入力軸には、ピニオンシャフトが挿入されるとともに、カムディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、この切欠孔からピニオンシャフトが露出している。回転ディスクには入力軸及びカムディスクを受け入れる受入孔が設けられている。この受入孔を形成する回転ディスクの内周面には内歯が形成されている。
【0005】
内歯は、入力軸の切欠孔から露出するピニオンシャフトと噛合する。入力軸とピニオンシャフトとを同一速度で回転させると、偏心機構の偏心量が維持される。入力軸とピニオンシャフトの回転速度を異ならせると、偏心機構の偏心量が変更されて、変速比が変化する。
【0006】
入力軸を回転させることにより偏心機構を回転させると、コネクティングロッドの入力軸側環状部が回転運動して、コネクティングロッドの他方の端部と連結される揺動リンクの揺動端部が揺動する。即ち、偏心機構、コネクティングロッド、及び揺動リンクで、てこクランク機構が構成される。揺動リンクは、一方向クラッチを介して出力軸に設けられているため、一方側に回転するときのみ出力軸に回転駆動力(トルク)を伝達する。
【0007】
各偏心機構のカムディスクの偏心方向は、夫々位相を異ならせて入力軸周りを一周するように設定されている。従って、各偏心機構に外嵌されたコネクティングロッドによって、揺動リンクが順にトルクを出力軸に伝達するため、出力軸をスムーズに回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の四節リンク機構型無段変速機では、カムディスクと入力軸とからなるカムシャフトを1つの部材で一体に成形して高い剛性を得ているが、カムシャフトを1つの部材で構成しようとすると、カムシャフトは、その構造が複雑であるため、削り出し加工で成形する必要がある。しかしながら、削り出し加工は精密な加工精度が得られる一方で、量産性が低いという問題がある。
【0010】
そこで、本願発明者は、各カムディスクと入力軸とを別々に成形し、各カムディスクを入力軸に固定することにより、カムディスクを鋳造法で成形でき、量産性を向上させた四節リンク機構型無段変速機を発明した。
【0011】
ところで、四節リンク機構型無段変速機の入力軸は、偏心機構を介してコネクティングロッドから大きな荷重が加わるため撓み易い。そして、四節リンク機構型無段変速機は、偏心機構の偏心量を調節して変速比を変化させるものであるため、入力軸が撓むと変速比の調節精度が低下する。これを解決すべく、入力軸の径を大きくして入力軸の剛性を高めることも考えられるが、車両の限られたスペースに変速機を収めるためには限度がある。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑み、量産性を低下させることなく且つ入力軸の径を維持したまま、入力軸の撓みを抑制できる四節リンク機構型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、該入力軸と平行に配置された出力軸と、前記入力軸に偏心して設けられたカムディスク、及び該カムディスクに対して偏心して回転自在に設けられた回転ディスクを有する複数の偏心機構と、前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される入力軸側環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、前記入力軸には、前記カムディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、前記回転ディスクには、前記入力軸及び前記カムディスクを受け入れる受入孔が設けられ、該受入孔を形成する前記回転ディスクの内周面に内歯が形成され、該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する四節リンク機構型無段変速機であって、隣接する前記偏心機構のカムディスク同士が連結されることを特徴とする。
【0014】
入力軸で各カムディスクを固定する場合、入力軸が撓むと各カムディスクの間の間隔が広がる。本発明の四節リンク機構型無段変速機によれば、隣接する偏心機構のカムディスク同士が連結されているため、各カムディスクの間の間隔が広がることを阻止できる。従って、入力軸が撓み難くなり、従来のようにカムディスクと入力軸とを一部材として形成して量産性を低下させることなく且つ入力軸の径を大きくすることなく維持したまま、入力軸の撓みを抑制できる。
【0015】
[2]本発明においては、隣接するカムディスク同士の位相が最も近くなるように、カムディスクを入力軸上に配置させることもできる。このように構成すれば、隣接するカムディスク同士の重なる領域が増加し、ボルト等で隣接するカムディスク同士を連結し易くなる。
【0016】
また、隣接する偏心機構のカムディスク同士をボルトで固定する場合に、ボルトを挿通させるための孔を全てのカムディスクにおいて同一位置に穿設することができる。従って、入力軸におけるカムディスクの配置箇所に応じてカムディスクのボルト用の孔の位置を変更させる必要がなく、四節リンク機構型無段変速機の製造を簡易化することができる。
【0017】
[3]本発明においては、各偏心機構が同一位相のカムディスクを複数備え、偏心機構の複数のカムディスクが連結部材で連結されている場合には、この連結部材を用いて、隣接する偏心機構のカムディスク同士を連結することが好ましい。これによれば、隣接する偏心機構のカムディスク同士を連結するための新たな部材を別途設ける必要がなく、部品点数を減らしてコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の四節リンク機構型無段変速機の実施形態を示す断面図。
【図2】本実施形態の入力軸、ピニオンシャフト、及び偏心機構を分解して示す斜視図。
【図3】本実施形態の入力軸及びカムディスクを模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態の偏心機構、コネクティングロッド、揺動リンクを軸方向から示す説明図。
【図5】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化を説明する説明図。
【図6】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化と、揺動リンクの揺動運動の範囲との関係を示す説明図であり、(a)は偏心量が最大、(b)は偏心量が中、(c)は偏心量が小であるときの揺動リンクの揺動範囲を夫々示している。
【図7】本実施形態の偏心機構の偏心量の変化に対する、揺動リンクの角速度の変化を示すグラフ。
【図8】本実施形態の無段変速機において、夫々60度ずつ位相を異ならせた6つのてこクランク機構により出力軸が回転される状態を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の四節リンク機構型無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂インフィニティ・バリアブル・トランスミッション(IVT)の一種である。
【0020】
図1から図4を参照して、本実施形態の無段変速機1は、図示省略した内燃機関であるエンジンや電動機等の車両用駆動源からの回転動力を受けることで入力中心軸線P1(図4参照)を中心に回転する中空の入力軸2と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの偏心機構4とを備える。
【0021】
各偏心機構4は、入力軸2とは別体のカムディスク5と、回転ディスク6とで構成される。カムディスク5は、円盤状であり、入力中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように入力軸2に2個1組でスプライン結合により夫々固定されている。各偏心機構4の1組のカムディスク5は、夫々位相を60度ずつ順に異ならせて、6組のカムディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置されている。
【0022】
入力軸2には、各カムディスク5を固定するためのスプライン歯2c(図2参照)がカムディスク5に対応させて複数設けられている。各スプライン歯2cは、全て同一の位相で形成され、且つその歯数は偏心機構4の数の倍数(即ち、6の倍数)に設定されている。これにより、入力軸2のスプライン歯2cと結合するカムディスク5のスプライン歯を含め、各カムディスク5の形状を全て同一に成形することができ、また、入力軸2への各カムディスク5の固定と位置決めが容易となる。
【0023】
各1組のカムディスク5は、図2及び図3に示すように、隣接するもの同士の2組のカムディスク5をロングボルト5aで固定している。即ち、軸方向両端に位置する2組のカムディスク5を除く他の各1組のカムディスク5は、2つのロングボルト5aで夫々固定されることとなる。軸方向両端に位置する2組のカムディスクは、夫々、1つのロングボルト5a及び1つのショートボルト5bで固定されている。このように構成することにより、隣接する偏心機構4のカムディスク5同士を連結するためのボルトを別個に設ける必要がなく、部品点数を減少させてコストダウンを図ることができる。本実施形態においては、入力軸2と6組のカムディスク5とでカムシャフトが構成される。
【0024】
また、各1組のカムディスク5には、カムディスク5を受け入れる受入孔6aを備える円盤状の回転ディスク6がカムディスク5に対して偏心した状態で偏心機構用ベアリング4aを介して回転自在に外嵌されている。回転ディスク6は、カムディスク5の中心点をP2、回転ディスク6の中心点をP3として、入力中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、カムディスク5に対して偏心している。
【0025】
回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられている。入力軸2には、1組のカムディスク5の間に位置させて、カムディスク5の偏心方向に対向する個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成されている。
【0026】
入力軸2は、入力軸用ベアリング2bを介して変速機ケース1aに軸支される。入力軸用ベアリング2bは、変速機ケース1aに設けられた孔に圧入されている。入力軸2は、入力軸用ベアリング2bに圧入されている。尚、入力軸用ベアリング2b又は入力軸2は、変速機ケース1a又は入力軸用ベアリング2bに対して微小の隙間を存するように嵌合させてもよいが、圧入すればガタを防止でき、無段変速機1の変速比の調節精度が向上される。
【0027】
中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、回転ディスク6の内歯6bと対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置されている。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。
【0028】
ピニオンシャフト7には、差動機構8が接続されている。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
【0029】
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成るアクチュエータ14の回転軸14aが連結されている。アクチュエータ14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
【0030】
アクチュエータ14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNr1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・Nr1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)Nr1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
【0031】
カムディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、回転ディスク6はカムディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心点P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
【0032】
図4に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、回転ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、即ち偏心量R1を「0」とすることもできる。
【0033】
回転ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の入力軸側環状部15aを備え、他方の端部に入力軸側環状部15aの径よりも小径の出力軸側環状部15bを備えるコネクティングロッド15の入力軸側環状部15aが、コネクティングロッド用のローラベアリング16を介して回転自在に外嵌されている。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられている。
【0034】
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の出力軸側環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられている。揺動端部18aには、出力軸側環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられている。一対の突片18bには、出力軸側環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設されている。貫通孔18c及び出力軸側環状部15bには、連結ピン19が挿入されている。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
【0035】
図5は、偏心機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と回転ディスク6との位置関係を示す。図5(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、カムディスク5の中心点P2と、回転ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と回転ディスク6とが位置する。このときの変速比iは最小となる。
【0036】
図5(b)は偏心量R1を図5(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図5(c)は偏心量R1を図5(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図5(b)では図5(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図5(c)では図5(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図5(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、回転ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。
【0037】
図4に示すように、本実施形態の偏心機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18はてこクランク機構20を構成する。本実施形態の無段変速機1は合計6個のてこクランク機構20を備えている。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が、60度ずつ位相を変えながら偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり入力軸2側に引いたりを交互に繰り返す。
【0038】
コネクティングロッド15の出力軸側環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に揺動リンク18が回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各偏心機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各偏心機構4で順に回転させられる。
【0039】
図6(a)は偏心量R1が図5(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図6(b)は偏心量R1が図5(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図6(c)は偏心量R1が図5(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、偏心機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示している。図6から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。尚、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。また、本実施形態では、揺動リンク18の揺動端部18aの揺動範囲θ2のうち、入力軸2に最も近い位置を内死点、入力軸2から最も離れる位置を外死点とする。
【0040】
図7は、無段変速機1の偏心機構4の回転角度θ1を横軸、揺動リンク11の角速度ωを縦軸として、偏心機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ωの変化の関係を示す。図7から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク11の角速度ωが大きくなることが分かる。
【0041】
図8は、60度ずつ位相を異ならせた6つの偏心機構4を入力軸2とピニオンシャフト7とが同一速度の状態で回転させたときの、偏心機構4の回転角度θ1に対する各揺動リンク18の角速度ωを示している。図8から、6つのてこクランク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
【0042】
本実施形態の四節リンク機構型無段変速機によれば、入力軸2に各偏心機構4のカムディスク5が固定されるため、各カムディスク5の芯合わせを入力軸2で行うことができる。また、各カムディスク5は入力軸2で連結されるため、各カムディスク5の位相角度を変更する場合には、カムディスク5を成形する金型を変更する必要がなく、隣接する1組のカムディスク5同士のボルト5a,5b用の孔の穿設位置を変更するだけで済む。このため、位相角度の変更も比較的容易にできる。従って、カムディスク5と入力軸2とを精度良く製造することができ、四節リンク機構型無段変速機1のレイアウト自由度を高めることができる。
【0043】
ところで、一般的に四節リンク機構型無段変速機の入力軸は、偏心機構を介してコネクティングロッドから大きな荷重が加わるため撓み易い。そして、四節リンク機構型無段変速機は、偏心機構の偏心量を調節して変速比を変化させるものであるため、入力軸が撓むと変速比の調節精度が低下する。
【0044】
本実施形態の四節リンク機構型無段変速機1によれば、位相を異ならせて隣接するカムディスク5同士が連結されている。入力軸2が撓むときには、各1組のカムディスク5の間が開こうとするが、本実施形態の隣接する1組のカムディスク5同士は互いに連結されているため、各1組のカムディスク5の間が開くことが阻止される。従って、入力軸2が撓み難くなり、入力軸2を大径とすることなく径を維持したまま、入力軸2の撓みを抑制できる。
【0045】
また、各1組のカムディスク5は、隣接する1組のカムディスク5同士の位相の差が少なくなるように入力軸2上に配置されている。このため、隣接する1組のカムディスク5同士の重なる領域が増加し、隣接する1組のカムディスク5同士を連結するためのロングボルト5aを挿入する孔を穿設し易くなる。更に、隣接する1組のカムディスク5同士の位相差が一定となるため、カムディスク5の形状及びボルト5a,5b用の孔の穿設位置も同一に構成することができ、カムディスク5が製造容易となる。
【0046】
尚、本実施形態においては、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17を用いているが、本発明の一方向回転阻止機構は、これに限らず、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達可能な揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向を切換自在に構成される二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)で構成してもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、自動車等の車両に用いられる変速機として説明したが、本発明の四節リンク機構型無段変速機は、これに限らず、例えば、船舶等に用いられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…四節リンク機構型無段変速機、2…入力軸、2a…切欠孔、2b…入力軸用ベアリング、2c…スプライン歯、3…出力軸、4…偏心機構、4a…偏心機構用ベアリング、5…カムディスク、5a…ロングボルト、5b…ショートボルト、6…回転ディスク、6a…受入孔、6b…内歯、7…ピニオンシャフト、7a…外歯、15…コネクティングロッド、15a…入力軸側環状部、17…一方向クラッチ(一方向回転阻止機構)、18…揺動リンク、18a…揺動端部、20…てこクランク機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力が伝達される中空の入力軸と、
該入力軸と平行に配置された出力軸と、
前記入力軸に偏心して設けられたカムディスク、及び該カムディスクに対して偏心して回転自在に設けられた回転ディスクを有する複数の偏心機構と、
前記出力軸に揺動自在に軸支される複数の揺動リンクと、
該揺動リンクと前記出力軸との間に設けられ、前記出力軸に対して一方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に該揺動リンクを固定し、他方側に相対回転しようとするときに前記出力軸に対して該揺動リンクを空転させる一方向回転阻止機構と、
一方の端部に前記偏心機構に回転自在に外嵌される入力軸側環状部を有し、他方の端部が前記揺動リンクの揺動端部に連結されるコネクティングロッドと、
前記入力軸内に挿入されたピニオンシャフトとを備え、
前記入力軸には、前記カムディスクの偏心方向に対向する個所に切欠孔が形成され、該切欠孔から前記ピニオンシャフトが露出し、
前記回転ディスクには、前記入力軸及び前記カムディスクを受け入れる受入孔が設けられ、
該受入孔を形成する前記回転ディスクの内周面に内歯が形成され、
該内歯は、前記入力軸の切欠孔から露出する前記ピニオンシャフトと噛合し、
前記入力軸と前記ピニオンシャフトとを同一速度で回転させることにより、前記偏心機構の偏心量が維持され、前記入力軸と前記ピニオンシャフトの回転速度を異ならせることにより前記偏心機構の偏心量を変更させて、変速比を制御する四節リンク機構型無段変速機であって、
隣接する前記偏心機構のカムディスク同士が連結されることを特徴とする四節リンク機構型無段変速機。
【請求項2】
請求項1記載の四節リンク機構型無段変速機であって、
隣接する前記偏心機構のカムディスク同士の位相は最も近くなるように前記カムディスクが入力軸上に配置されることを特徴とする四節リンク機構型無段変速機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の四節リンク機構型無段変速機であって、
前記各偏心機構は、同一位相のカムディスクを複数備え、
前記偏心機構の複数のカムディスクは、連結部材で連結され、
該連結部材により、隣接する前記偏心機構のカムディスク同士が連結されることを特徴とする四節リンク機構型無段変速機。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36536(P2013−36536A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172891(P2011−172891)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】