説明

四角形状中空金属製部材の拡散接合・加熱アプセット接合用高周波加熱装置

【課題】断面が中空の四角形の金属製部材を拡散接合・加熱アプセット接合するために誘導加熱する際に、金属製部材の四角形の全周囲に渡って均一に誘導加熱することができる高周波加熱装置を提供することである。
【解決手段】高周波電流が供給される加熱導体6を方形の枠形状に構成し、枠形状の加熱導体6の角部分に溝部33a又は挟持部を設ける。溝部33a又は挟持部は方形枠の内側に開口しており、その幅又は間隔は調整手段22,30で調整可能である。溝部33a又は挟持部に導通可能な介在部材18a〜18cを配置し、溝33a又は挟持部の幅又は間隔を変更することによって溝33a又は挟持部内における介在部材18a〜18cの位置を変更可能にする。枠形状の加熱導体6の各角部を、金属製部材11の角部11a,11b,11dに対向配置し、介在部材18a〜18cの位置を調整し、金属製部材11の角部11a,11b,11dの誘導加熱量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面が四角形状の中空の金属製部材を拡散接合、加熱アプセット接合するために誘導加熱する際に使用される高周波加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、被加熱物の周囲を誘導加熱する場合には、特許文献1に開示されているような熱処理装置が使用される。特許文献1には、歯車の周囲を誘導加熱する熱処理装置が開示されている。ところで、誘導加熱する対象物である被加熱物の外形が、歯車のように円形の場合には、加熱導体は歯車と同心状の環状構造に構成すればよいが、外形(断面)が四角形状を呈する被加熱物を誘導加熱する場合には、この被加熱物の外形に沿って加熱導体を構成する必要がある。
【0003】
断面が四角形状の中空の金属製部材(以後、被加熱物と呼ぶ)を誘導加熱して拡散接合・加熱アプセット接合する場合には、図13に示すような高周波加熱装置の加熱導体が使用される。図13は、断面が四角形状の被加熱物の周囲に配置した加熱導体の正面図である。図13に示される加熱導体50には、リード54,55を介して高周波電源(図示せず)が接続されている。よって、加熱導体50には高周波電源から高周波電流を供給することができる。
【0004】
被加熱物51の外形は四角い形状を呈しており、被加熱物51は平坦部52と角部53を有している。また、加熱導体50は四角い枠形状に構成されており、直線部58と角部59を有している。そしてこれら加熱導体50の直線部58及び角部59を、被加熱物51の平坦部52及び角部53に各々誘導加熱可能な距離Lを隔てて対向配置し、加熱導体50に通電して被加熱物51を誘導加熱する。
【0005】
被加熱物全体を、温度差が生じないように均一加熱する加熱導体として、特許文献8やその改良として特許文献2などが知られている。しかし、これらは、分割構造となっていないため、加熱導体着脱時、長手方向に加熱導体を移動させることができない長尺物や長手方向形状が異なる金属製部材の加熱に適応させることはできない。
【0006】
一方、分割型加熱導体例として、特許文献3や、丸断面金属管の拡散接合に用いた特許文献4や特許文献5などが挙げられるが、これらは対象が丸断面であり、断面が四角形状の中空金属製部材を対象とした例ではない。
【0007】
特許文献6には、加熱アプセットを伴う条材の拡散接合方法について述べられ、条材の加熱は高周波加熱装置で実施していることが記載されている。
【0008】
特許文献7には、被加熱物を拡散接合、加熱アプセット接合する実例として、本発明者等の1人が、アクスルケースへの適用を示している。特許文献6では、アクスルケースの角断面にて2つの部品を接合する事例が述べられている。片側の部品はフランジを有しており、拡散接合を採用した場合、実際の製造を考えると、分割構造の加熱導体が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−118925号公報
【特許文献2】特開2008−293905号公報
【特許文献3】特開平7−249484号公報
【特許文献4】特開平6−168779号公報
【特許文献5】特開平10−69967号公報
【特許文献6】特開平6−210465号公報
【特許文献7】特開2010−188924号公報
【特許文献8】実用新案登録第3018060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献5に開示されているような丸断面中空の金属管を拡散接合する事例では、加熱導体または被加熱材に回転機構を設けて周方向に回転させ、被加熱材を周方向に均一加熱することもできることが述べられている。しかし、図13に示す被加熱物51のように外形が四角形状であり、加熱導体50の直線部58及び角部59を、被加熱物51の平坦部52及び角部53に距離Lを隔てて対向させ、仮に、加熱導体50と被加熱物51とを相対回転させると、被加熱物51の角部53が加熱導体50の直線部58に衝突する。よって、誘導加熱時に、被加熱物51と加熱導体50とを相対回転させることはできない。
【0011】
また、図13に示すように加熱導体50を環状構造にすると、リード54,55の間に継ぎ目50aが生じる。その結果、被加熱物51における加熱導体50の継ぎ目50aが対向する部位51aの誘導加熱ができず、加熱導体50の継ぎ目50aに対向する部位51aの温度上昇は、被加熱物51における隣接する部位51bから熱伝達することによる他はない。すなわち、被加熱物51の全周囲のうち、誘導加熱できない部位(対向する部位51a)が存在するので、被加熱物51の全周囲を一様に温度上昇させるのは容易ではない。
【0012】
さらに、被加熱物51の横断面の外形は四角形を呈しており、加熱導体50が被加熱物51の周囲に沿って距離Lだけ離間して配置されていても、平坦部52と角部53とでは温度上昇に差異が生じる。よって、加熱導体50に高周波誘導電流を通じて被加熱物51を誘導加熱しても、加熱導体50の継ぎ目50aに対向する部位51aの温度上昇がしにくいばかりではなく、平坦部52と角部53とでも温度差が生じてしまう。一方、平坦部52と角部53とで温度差を生じないようにするための技術として、特許文献8やその改良として特許文献2がある。しかし、これらは分割を前提とした加熱導体ではない。
【0013】
仮に角部53がオーバヒートした場合にはその製品(加熱処理後の被加熱物51)は破棄せざるを得ない。そのため製作者は、被加熱物51の全周囲に渡って温度が均一化するように細心の注意を払って被加熱物51を誘導加熱しなければならない。
【0014】
しかし、製作者による細心の注意が要求されるこのような加熱作業は、製作者に多大な負担を強いるばかりか、製品の良否にばらつきを生じさせ易い。さらに、角部53の形状(R形状)が異なる別の被加熱物を誘導加熱する場合には、製作者の勘に頼ったさじ加減によって加熱度合いを調整しなければ、被加熱物の周囲を均一に昇温させることができず、このような加熱作業は熟練しなければ非常に困難な作業である。すなわち、図13に示すような加熱導体50では、角部の形状が異なる複数種類の被加熱物に対応したり、同一の被加熱物であっても微妙な寸法公差の違いに対応するのは困難である。
【0015】
そこで本発明は、断面が中空の四角形の金属製部材(被加熱物)を誘導加熱する際に、金属製部材の四角形の全周囲に渡って均一に誘導加熱することができる分割型の加熱導体を有する高周波加熱装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための請求項1の発明は、断面が中空の四角形の金属製部材を拡散接合・加熱アプセット接合するために、四角形の金属製部材を囲むように四角形状に形成された加熱導体を用いて誘導加熱する高周波加熱装置において、前記四角形状の加熱導体を、複数の分割片で形成し、その加熱導体の角部に、前記金属製部材の角部に励起する誘導電流の大きさを調整する角部誘導加熱調整手段を設けたことを特徴とする高周波加熱装置である。
【0017】
請求項2の発明は、前記加熱導体は、高周波電源に接続される一対のリードにそれぞれ接続され、前記金属製部材の角部からその金属製部材の辺に沿って延びる第1分割片及び第2分割片と、第1分割片と第2分割片の端部に連結され、前記金属製部材の2辺に沿ってL字状に形成され第3分割片とで形成され、第1分割片と第2分割片の端部と第3分割片の端部が締結手段で連結され、角部誘導加熱調整手段は、第1分割片と第2分割片の端部と第3分割片の端部との間に、その端部に沿って位置調整自在に設けられると共に端部同士を導通する介在部材で構成される請求項1記載の高周波加熱装置である。
【0018】
請求項3の発明は、 第1分割片及び第2分割片は、リードから屈曲されて金属製部材の辺に沿って延びる直線形状の本体部分と、その本体部分から屈曲した端部とからなり、L字状の第3分割片は、屈曲部を中心に金属製部材の2辺に沿ってそれぞれ延びる直線部と、該直線部から屈曲された端部とからなり、第1分割片及び第2分割片の端部と第3分割片の端部は、平行に形成され、その端部間に介在部材が移動可能に設けられ、その端部同士が、前記締結手段で連結されて前記介在部材が固定される請求項1記載の高周波加熱装置である。
【0019】
請求項4の発明は、第3分割片の屈曲部は、内周側が開放した溝部を有するコ字状に形成され、その溝部に導通可能な介在部材が溝部の深さ方向に沿って位置調整自在に設けられて角部誘導加熱調整手段が構成される請求項3記載の高周波加熱装置である。
【0020】
請求項5の発明は、断面が中空の四角形の金属製部材を拡散接合・加熱アプセット接合するために誘導加熱する際に使用される高周波加熱装置であって、前記高周波加熱装置は、高周波電流を供給する高周波電源と、前記高周波電源から供給される高周波電流を通じさせる加熱導体とを有しており、前記加熱導体は、前記金属製部材の周囲に配置されて金属製部材を誘導加熱可能であり、加熱導体の両端には各々リード部材が接続されており、前記各リード部材は、高周波電源側から加熱導体に高周波電流を導くものであり、加熱導体は、複数の分割片と、各分割片の締結と分解とを可能にする締結手段とを有しており、加熱導体は、各分割片の締結部と、加熱導体のリード部材が接続される部位とが四隅に配置される方形の環状構造を呈しており、導通可能な介在部材が、各分割片の締結部において分割片同士の間に配置されており、前記各介在部材は、加熱導体の環状方形の内部に対して進退する方向の任意の位置において分割片で挟持可能であることを特徴とする高周波加熱装置である。
【0021】
請求項6の発明は、加熱導体の分割片のうちの少なくとも1つは、環状方形の1つの角を構成する屈曲部を有しており、当該屈曲部は、開口側が方形の内側を向く略コの字形を呈する溝部を有しており、当該溝部には、溝部の深さ方向に沿って移動自在で、かつ導通可能な介在部材が配置され、前記屈曲部には、溝部に配置された介在部材を固定する調整手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置である。
【0022】
本発明は、加熱導体は、複数の分割片と、各分割片の締結と分解とを可能にする締結手段とを有しているので、金属製部材に対して、脱着が容易である。すなわち、金属製部材を誘導加熱した後、締結された分割片同士を分解することによって加熱導体を金属製部材から容易に取り外すことができる。加熱導体を複数の分割片に分解できるように構成すると、金属製部材が長尺状である場合に非常に利便性が高い。
【0023】
加熱導体は、各分割片の締結部と、加熱導体のリード部材が接続される部位とが四隅に配置される方形の環状構造を呈しており、加熱導体は、導通可能な介在部材が、各分割片の締結部において分割片同士の間に配置されているので、加熱導体の一方の分割片と他方の分割片とが介在部材を介して導通可能である。
【0024】
そして各介在部材は、加熱導体の環状方形の内部に対して進退する方向の任意の位置において分割片で挟持可能であるので、金属製部材に対して介在部材を近接させたり、離間させることができる。
【0025】
また、高周波電流が介在部材を介して一方の分割片から他方の分割片へ流れる。その際、高周波電流は、介在部材を介して分割片の間を流れるので、介在部材の位置に応じて金属製部材の介在部材に対向する部位に励起される誘導電流の量を調整することができる。そして、この介在部材に対向する部位を金属製部材の角部とすることにより、角部の誘導加熱量を調整することができるようになる。その結果、角部が過熱状態となることを回避でき、金属製部材の全周囲に渡って均一に誘導加熱することができるようになる。
【0026】
さらに、加熱導体のリード部材が接続された部位を、金属製部材の一つの角部に対向させることにより、当該角部が過熱状態となることを回避できる。すなわち、加熱導体のリード部材が接続された部位同士の間に隙間が生じ、この隙間には高周波電流が流れない。よって、この隙間を金属製部材の角部に対向させると、当該角部には誘導電流が励起されず、当該角部が過熱状態になるのを防止できる。さらに、別の角部の加熱量は、介在部材の位置を調整することによって加減することができる。よって、すべての角部を同程度に昇温させることができる。
【0027】
その結果、金属製部材の四角形の全周囲の温度上昇の一様化を図ることができるようになる。ここで金属製部材とは、誘導加熱により拡散接合・加熱アプセット接合が可能な鉄(鋼や鋳鉄)を素材として構成される部材である。
【0028】
また本発明は、加熱導体の分割片のうちの少なくとも1つは、環状方形の1つの角を構成する屈曲部を有しており、当該屈曲部に、環状方形の内側を向く略コの字形を呈する溝部を設け、溝部の幅を調整する調整手段を設けたので、溝部の幅を拡げた際に、介在部材を加熱導体の環状方形の内部に対して進退する方向に移動させることができる。
【0029】
その結果、屈曲部が対向配置される金属製部材の角部の誘導加熱量を調整することができ、当該角部が過熱状態になることを防止することができる。また、当該角部の加熱量を、金属製部材のその他の角部の加熱量と同程度に調整することができる。その結果、金属製部材の四角形の全周囲を一様に昇温させることができるようになる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の高周波加熱装置は、断面が中空の四角形の金属製部材を誘導加熱する際に、過熱状態になり易い角部分の温度上昇を抑制し、金属製部材の四角形の全周囲に渡って一様に誘導加熱することができる。よって、金属製部材の四角形の全周囲を良好に誘導加熱することができる。
【0031】
加熱導体を製作し、角部の介材部材位置を調整することで、角部の温度を調整することが可能となり、角部温度調整のための加熱導体の作り直しの必要がなくなった。
【0032】
さらに、被加熱物の角部形状がロットによって変化した場合や、被加熱物の材質が変化した場合にも、対応が可能となった。
【0033】
その結果、開発期間や開発コストを大幅削減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を実施した高周波加熱装置の加熱導体の斜視図である。
【図2】図1の加熱導体の分解斜視図である。
【図3】本発明を実施した加熱導体の簡略化した正面図である。
【図4】(a)は、図3のA部の拡大図であり、(b)は、(a)において介在部材を被加熱物側に接近させた状態を示す拡大図である。
【図5】(a)は、図3において加熱導体を分解した状態を示す正面図であり、(b)は、(a)に示すクランプ部材の側面図で、クランプ解除状態を示しており、(c)は、クランプしている状態のクランプ部材の側面図であり、(d)は、スペーサを介してクランプしている状態を示すクランプ部材の側面図である。
【図6】図5(a)において、さらに屈曲部のクランプ部材を取り外した状態を示す正面図である。
【図7】図3において、屈曲部のクランプ部材を取り外した状態を示す正面図である。
【図8】(a)は、加熱導体の分割片同士の締結部位を下方から見た分解斜視図であり、(b)は、(a)の締結部位を上方から見た分解斜視図であり、(c)は、(a)の締結部位の組立途上の斜視図であり、(d)は、(a)の締結部位の組立斜視図であり、(e)は、(d)において、締結部位に介在部材を配置した状態を示す斜視図であり、(f)は、(e)の締結部位の介在部材を矢印方向に移動させた状態を示す斜視図であり、(g)は、分割片の屈曲部の斜視図である。
【図9】被加熱物の周囲に、図1に示す加熱導体を配置した状態を示す斜視図である。
【図10】本発明の高周波加熱装置の概略構成図である。
【図11】本発明の高周波加熱装置および従来の高周波加熱装置で加熱・制御したときの金属製部材の平坦部および角部の温度の経時変化を示し(a)は本発明、(b)は従来例を示す図である。
【図12】本発明の高周波加熱装置を拡散接合・加熱アプセット接合への適用した例を示す図である。
【図13】従来の加熱導体を、断面が四角形状の被加熱物の周囲に配置した状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明を実施した高周波加熱装置の構成を説明する。図10に示すように、高周波加熱装置10は、高周波電源1と加熱導体6とがリード5a,5bで接続された構成を有している。
【0036】
高周波電源1は、交流電源2,高周波発信器3,トランス4を有している。交流電源2は、周波数50〜60ヘルツの商用電源である。高周波発信器3は、交流電源2の周波数をより高い周波数に変換し、さらにトランス4は交流電源2の電圧を高圧に変換する。そして、高周波化及び高圧化された電力が、リード5a,5bを介して加熱導体6に供給される。すなわち、加熱導体6には高周波電流が流れる。
【0037】
次に、本発明の特徴的な構成を有する加熱導体6について、図1〜図10を参照しながら説明する。図10、図5(a)、図6、図7に示すように加熱導体6は、リード5aに接続される第1分割片6aと、リード5bに接続される第2分割片6bと、第1分割片6a及び第2分割片6bに接続される第3分割片6cとを備えている。
【0038】
加熱導体6の第1分割片6aは、銅又は銅合金等からなる良導体で形成された線状部材である。また、第1分割片6aの内部には中空部13a(図8(a)等に示す。)が設けられている。中空部13aには図示しない冷却液供給源から冷却液を供給することができ、第1分割片6aを冷却することができる。第1分割片6aは、直線形状の本体部分の両端が屈曲している。図10に示す例では、第1分割片6aの両端部は、本体部分に対して135度の角度で折れ曲がっている。そして一方の端部がリード5aに接続されており、他方の端部17aには接続部材7(図3)が接続されている。
【0039】
図8(a)〜図8(c)に示すように、第1分割片6aの端部17aの対向面17bと端面17cには、接続部材7がろう付けによって固着される。接続部材7は、本体(直方体形状の部位)の一側に平板状の突出部20を備えた形状を呈している。また、図8(a)及び図8(b)に示すように、接続部材7には、本体から突出部20に渡って連続する設置面14cが設けられている。また突出部20の設置面14cとは反対側には設置面14aが設けられている。さらに接続部材7には、設置面14aと連続し且つ直交する設置面14bが設けられている。設置面14bは、接続部材7の本体の側面に設けられている。
【0040】
接続部材7の直方体の本体部分に形成された設置面14cには、孔7aが開口している。孔7a内には、開口側が大径で、奥側が小径となる段7cが形成されている。段7cには、Oリング9が装填される。また、接続部材7の設置面14bには、孔7bが開口している。孔7aと孔7bは同径であり、接続部材7の本体の内部で連通している。すなわち、接続部材7の内部には、孔7a,7bを連通させる通路が形成されている。
【0041】
この接続部材7の設置面14aには、第1分割片6aの端部17aの対向面17b(挟持部)が当接してろう付けされ、設置面14bには第1分割片6aの端面17cが当接してろう付けされる。その結果、接続部材7は加熱導体6の第1分割片6aと一体固着され、さらに第1分割片6aの中空部13aと開口7b,7aが液密を保った状態で連通する。
【0042】
次に第2分割片6bは、第1分割片6aと同じ素材及び構成を有しており、内部に中空部13bを備えている。図10に示すように第2分割片6bは、第1分割片6aと左右対称となるように配置されて、一端がリード5bに接続されており、他方の端部28には接続部材7(図3)が接続されている。第2分割片6bのその他の構成は第1分割片6aの構成と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0043】
次に第3分割片6cについて説明する。
【0044】
第3分割片6cも第1分割片6aと同様に銅又は銅合金等の良導体からなる中空の線状部材で構成されている。すなわち、第3分割片6cは、内部に中空部13cを有している。第3分割片6cは、直線部31,32と屈曲部33とを有している。図10に示すように直線部31,32は、屈曲部33を介して接続されており、直線部31と直線部32は直交する位置関係にある。また図10に示すように、直線部31の自由端である端部16aは、直線部31に対して135度の角度で屈曲し、同様に直線部32の自由端である端部29は、直線部32に対して135度の角度で屈曲している。この端部17a,28には、図8に示すように接続部材8が接続されている。
【0045】
図8(a)〜図8(c)に示すように第3分割片6cの端部16aの対向面16bと端面16cには、接続部材8がろう付けされる。接続部材8は上述の接続部材7と同様の構成を備えている。すなわち、接続部材8は、直方体形状の本体、突出部19、設置面15a〜15c、孔8a,8bを備えている。そして、接続部材8は、接続部材7とは天地逆向きの姿勢で接続部材7と対向配置される。具体的には、図8(b)に示すように接続部材8の設置面15cが、接続部材7の設置面14cと対向するように接続部材8が配置される。接続部材8は、設置面15cに開口する孔8a内に段が設けられていない点のみが接続部材7と相違しており、その他の構成は接続部材7と同じである。孔8aは、Oリング9の内径と同径か又は小径である。
【0046】
そして、図8(c)に示すように接続部材8の設置面15bに端部16aの端面16cが当接してろう付けされ、接続部材8の設置面15aに端部16aの対向面16b(挟持部)が当接してろう付けされる。その結果、第3分割片6cの中空部13cと接続部材8の孔8b,8aが液密を保った状態で連通する。第3分割片6cの直線部32の自由端である端部29にも、接続部材8と同じ構成の接続部材8がろう付けされている。
【0047】
図8(g)に示すように第3分割片6cの屈曲部33は、略コの字形状を呈している。
【0048】
屈曲部33は、一つの線状部材を適宜屈曲させて略コの字形に構成してもよいが、複数の部材を継ぎ足すと略コの字形に構成し易い。そして屈曲部33には略コの字形の部分で溝33aが形成されている。図10に示すように溝33aは、方形枠形状を呈する加熱導体6の内側に開口している。溝33aの幅は、介在部材18c(後述)を配置できる大きさである。具体的には、屈曲部33は方形枠の外側に突出し、直線部31と直線部32の延長上に溝33aの開口が配置されている。また、溝33aの幅は、リード5aと5bの間の隙間6dよりは大きい。
【0049】
さらに屈曲部33は、図5(a)に示すようにクランプ部材30でクランプされる。図5(b)に示すようにクランプ部材30は、分割片6aと分割片6cとを締結するクランプ部材22や、分割片6bと分割片6cとを締結するクランプ部材22と同じ構成を有している。
【0050】
すなわち、図5(b)、図5(c)に示すようにクランプ部材30は、略コの字形状を呈する本体23を有している。本体23は、一対の平行部24,25と、平行部24,25を接続する接続部26とで構成されている。平行部24には、ねじ27を螺合させるねじ孔24aが設けてある。また、平行部25には、ねじ27の先端部27aと対向する固定面25aが設けてある。すなわち、ねじ27のねじ込み量を加減することにより、ねじ27の先端部27aから固定面25aまでの距離が変化する。図5(b)は、ねじ27のねじ込み量が少なくねじ27の先端部27aから固定面25aまでの距離が長い状態を示しており、図5(c)は、ねじ27のねじ込み量が多くねじ27の先端部27aから固定面25aまでの距離が短い状態を示している。すなわち図5(c)は、クランプ部材21が接続部材7,8を固定した状態を示している。
【0051】
さらに図5(d)に示すように、ねじ27の先端部27aと接続部材8の間にスペーサ34を配置してもよい。スペーサ34は、ねじ27のねじ込み量を減らすと共に、受圧面積を増やす作用も兼ね備えている。すなわち、必要に応じて複数のスペーサ34を同時に使用することもできる。図1、図2に示す例では、第3分割片6cの屈曲部33に5つのスペーサを用いている。
【0052】
図6に示すように屈曲部33がクランプ部材30でクランプされていないと、屈曲部33の溝33aが広がり、介在部材18cは溝33a内において自由に位置を変更できる。
【0053】
また、図5に示すように屈曲部33がクランプ部材30でクランプされると、屈曲部33の溝33aが狭まり、介在部材18cは溝33a内で固定される。
【0054】
すなわち、第3分割片6cの屈曲部33の溝33aの幅寸法は、クランプ部材30でクランプされていないときには介在部材18cの寸法D2よりも大きく広がっており、クランプ部材30でクランプされているときには、溝33a内で介在部材18は挟持される。
【0055】
そして、この状態(図5に示す状態)で第3分割片6cの直線部31と直線部32は直交状態となる。クランプ部材30を緩めると、角部誘導加熱調整手段としての介在部材18cは、溝33a内を移動することができる。
【0056】
各分割片6a,6b,6c同士を接続するには、まず、第3分割片6cの屈曲部33に介在部材18cを配置してクランプ部材30でクランプし、第3分割片6cを図5(a)に示す状態にする。そして、図5(b)に示すように第1分割片6aの端部17aと第3分割片6cの端部16a間で介在部材18aを挟み、クランプ部材22でクランプする。同様に第2分割片6bの端部28と第3分割部材の端部29間で介在部材18bを挟み、クランプ部材22でクランプする。その後、図3、図4に示したように、第1分割部材6aの端部17aに接続した接続部材7と第3分割片6cの端部16aに接続した接続部材8とをクランプ部材21でクランプする。同様に第2分割部材6bの端部28に接続した接続部材7と第3分割片6cの端部29に接続した接続部材8とをクランプ部材21でクランプする。このとき、Oリング9によって両接続部材7,8の間の液密が確保される。
【0057】
すなわち図2〜図4に示すように、両接続部材8,7は、2分割された保護部材40,41で覆われ、その保護部材40,41にC字形のクランプ部材21が嵌め合わされ、クランプ部材21の内部に接続部材7,8を収容し、ねじ27のねじ込み量を増加させると、保護部材40,41を介して接続部材7,8は、ねじ27にて挟持される。このクランプ部材21によるクランプによって、接続部材7,8の間に配置したOリング9が押圧され、接続部材7の孔7aと接続部材8の孔8aの間の液密が確保される。
【0058】
その結果、第1分割片6aから第3分割片6c、第3分割片6cから第2分割片6bに通じる冷却液の通路が形成される。
【0059】
その後、クランプ部材22で、第1分割片6aの端部17aと、第3分割片6cの端部16aとをクランプする。その際、端部17aと端部16aの間に、図8(d)に示す介部材18aを配置する。そして図3に示すようにクランプ部材22でクランプすることにより、端部17aの対向面17b(第1分割片6a)と端部16aの対向面16b(第3分割片6c)とで介在部材18aを挟持する。その結果、介在部材18aが端部17aと端部16aの間で固定され、端部17aと端部16aとが介在部材18aを介して導通可能になる。すなわち、対向面17bと対向面16bとで、角部誘導加熱調整手段としての介在部材18aを挟持する挟持部が構成される。
【0060】
このクランプ部材22による締結によって、介在部材18aを介した接続部材7,8間の通電性が確保される。本実施の形態では、クランプ部材21とクランプ部材22とを使用しているが、一つのクランプ部材で締結することで、両接続部材7,8間の液密性と通電性とを確保することもできる。
【0061】
同様に、第2分割片6bの端部28と、第3分割片6cの端部29とを締結すると、図3に示すように加熱導体6が構成される。第2分割片6bと第3分割片6cの接続形態は、第1分割片6aと第3分割片6cの接続形態と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0062】
ここで介在部材18bは、介在部材18a,18cと同じ構成を有している。すなわち介在部材18a(18b,18c)は、銅又は銅合金等の良導体で形成されており、被挟持部12bとフランジ部12aとを有している。被挟持部12bは、第1分割片6aの端部17aと第3分割片6cの端部16aの間で挟持される直方体形状の部位である。フランジ部12aは、被挟持部12bの一端に固着されている。フランジ部12aは、第1分割片6aの端部17aと、第3分割片6cの端部16aに当接させる部位である。すなわち、フランジ部12aを端部17a,16aに当接させると、対向面17bと対向面16bの間に被挟持部12bを確実に配置することができる。また、フランジ部12aを端部17a,16aに当接させると端部17a,16aに沿って介在部材18をスライド移動させ易い。さらに、介在部材18にフランジ部12aを設けると、フランジ部12aを把持することにより介在部材18を移動させ易くなる。
【0063】
介在部材18aの寸法D2が、第1分割片6aの端部17aと第3分割片6cの端部16aの間の間隔D1よりも小さくなるように、接続部材7の突出部20及び接続部材8の突出部19の厚み寸法が設定されている。そのため、クランプ部材22でクランプする前の状態(ねじ27のねじ込み量が少ない状態)であれば、介在部材18は第1分割片6aの端部17aと第3分割片6cの端部16aの間の任意の位置(加熱導体6の環状方形の内部に対して進退する方向の任意の位置)に配置することができる。すなわち、図8(e)や図8(f)に示すように角部誘導加熱調整手段としての介在部材18を移動させることができる。
【0064】
そして、介在部材18aの位置が確定すると、第1分割片6aと第3分割片6cとが介在部材18aを挟持した状態でクランプ部材22によりクランプする。その結果、介在部材18aは、第1分割片6a及び第3分割片6cに対して強固に固定されて移動不能となり、さらに第1分割片6aと第3分割片6cとの間で介在部材18aを介した安定した通電が可能になる。
【0065】
上述の構成によって、加熱導体6は十分に機能するが、さらに図1、図2に示すような補強部材35で補強し、方形枠形状を保持するのが好ましい。補強部材35は、支持片36,37と接続片38とで構成されている。支持片36,37は板状である。
【0066】
支持片36の一端は、第3分割片6cの直線部31の途中の部位にろう付けされている。すなわち支持片36の一端は、支持片36が第3分割片6cの端部16aと平行になるように直線部31に固定されている。また、支持片36の他端には、孔36aが設けてある。同様に支持片37の一端は、支持片37が第1分割片6aの端部17aと平行になるように第1分割片6aの途中の部位にろう付けされている。支持片37の他端にも、支持片36の孔36aと同様の孔37aが設けてある。
【0067】
また、接続片38は板状であり、一方の端部には孔(図示せず)が設けてあり、他方の端部には溝38aが設けてある。図2に示す例では、接続片38が上下方向を向くように配置され、下側の端部に設けられた図示しない孔と支持片37の孔37aとが位置合わせされ、支持片37と接続片38とがボルト・ナット39で固定される。
【0068】
同様に接続片38の上側の端部に設けられた溝38aに、支持片36の孔36aが位置合わせされ、ボルト・ナット42で支持片36と接続片38とが固定される。その後、クランプ部材21及び22によって第1分割片6aと第3分割片6cとを強固に固定する。
【0069】
その結果、加熱導体6に外力が作用すると、クランプ部材21,22に係る負荷が軽減され、外力は補強部材35で支持される。第2分割片6bと第3分割片6cも補強部材35と同様の補強部材で補強する。
【0070】
また、接続部材7,8を、保護部材41,40を介してクランプ部材21でクランプすることで、接続部材7,8を保護することができる。
【0071】
次に、加熱導体6の作用について説明する。
【0072】
図2に示すように分解された加熱導体6を、図1に示すように組立て、図9に示すように環状方形の加熱導体6の内部に被加熱物11(四角形状中空金属製部材)を配置する。被加熱物11は、図示しない支持機構によって支持される。被加熱物11は、断面が四角形の中空の部材であり、4つの角部11a〜11dを有している。また、被加熱物11は、誘導加熱により拡散接合・加熱アプセット接合が可能な鉄(鋼や鋳鉄)で形成されている。図9では、被加熱物11の角部11dが下方に位置しており、角部11dが加熱導体6のリード5a,5bと接続される部位に近接配置されている。
【0073】
また、角部11aが第1分割片6aと第3分割片6cの接続部位に近接配置され、同様に角部11cが第2分割片6bと第3分割片6cの接続部位に近接配置される。そして、角部11bが第3分割片6cの屈曲部33に近接配置される。その際、介在部材18a(第1分割片6aと第3分割片6cの間に配置)と、介在部材18b(第2分割片6bと第3分割片6cの間に配置)と、介在部材18c(第3分割片6cの屈曲部33の溝内に配置)の位置を設定し、各々クランプ部材で移動不能に固定する。
【0074】
高周波加熱装置10では、環状方形枠形状の加熱導体を複数の分割片を締結して構成し、加熱導体における分割片同士の締結部位と、リード5a,5bと接続される部位が被加熱物11の角部に近接配置される点が、図13に示す従来の加熱導体50と大きく相違している。
【0075】
すなわち、被加熱物の各角部が良好に誘導加熱されるように、各介在部材から近接する被加熱物の各角部までの距離を調整する。例えば、予め実験によって、角部のR形状に応じて好ましい距離を求めておく。そして、介在部材から角部までの距離と、角部のR形状の対応関係をマップ化しておく。その結果作業者は、被加熱物の角部のR形状を確認し、マップを参照することにより、介在部材の位置を容易に設定することができる。介在部材の位置が確定すると、クランプ部材で介在部材の位置が変動しないように固定する。
【0076】
被加熱物11が比較的長い場合には、加熱導体6の各分割片を分解し、第1分割片6aと第2分割片6bの上に被加熱物11を配置し、さらに被加熱物11の上方から第3分割片6cを接近させ、第3分割片6cを第1分割片6a及び第2分割片6bと接続する。このようにすることにより、加熱導体6を被加熱物11の加熱対象部位に迅速に対向配置することができるようになる。また、被加熱物11の加熱対象部位が、加熱対象部位の両側よりも小さい場合(すなわち括れている場合)においても、加熱導体6を複数の分割片に分解し、組立てることによって円滑に加熱対象部位に加熱導体6を対向配置することができる。
【0077】
また、被加熱物11が比較的短い場合には、加熱導体6を予め図3に示すように組み立てておく。すなわち、クランプ部材21は締結状態を維持して液密が保たれた冷却水通路を形成しておく。そして、介在部材18aの位置を固定するクランプ部材22のみを緩め、介在部材18aの位置が確定すると、同クランプ部材22を締結する。これにより、加熱導体6を被加熱物11に設置する作業を簡略化できる。その後、被加熱物11の端部を加熱導体6の内部に挿入すると、容易に加熱対象部位に加熱導体6を対向させることができる。
【0078】
図3に示すように加熱導体6の直線部分から被加熱物11までの距離が一様に距離Lとなるように、断面が四角形の被加熱物11の周囲に加熱導体6を配置する。また、介在部材18aから被加熱物11の角部11aまでの距離を、角部11aのR形状に応じて例えば図4(a)に示すように距離L1としたり、図4(b)に示すように距離L2とする。
【0079】
すなわち、角部11aの誘導加熱量を減少させる場合には、介在部材18aを角部11aから例えば距離L1(図4(a))だけ離間させ、角部11aの誘導加熱量を増加させる場合には、介在部材18aを角部11aに例えば距離L2(図4(b))まで接近させる。
【0080】
加熱導体6に供給される高周波電流43が一定であっても、介在部材18aから角部11aまでの距離がL1(図4(a))の場合に角部11aに生じる誘導電流44aは、介在部材18aから角部11aまでの距離がL2(図4(b))の場合に角部11aに生じる誘導電流44bよりも小さい。よって、角部11aの昇温は、励起される誘導電流の大きさによって調整することができる。そして、被加熱物11の全周囲が一様に昇温し、角部11aがオーバヒートしないように介在部材18aから角部11aまでの距離を設定する。その他の角部11b,11cについても介在部材18c,18bの位置を同様に設定する。
【0081】
以上説明したように、加熱導体6では、介在部材18a〜18cの位置を変更することによって、断面が四角形の被加熱物11における比較的昇温し易い各角部11a〜11cの誘導加熱量を調整することができる。また、加熱導体6のリード5a,5bが接続された部位を被加熱物11の一つの角部11dに対向させることにより、当該角部11dの昇温を抑制することができる。すなわち、リード5a,5bが接続された部位の間には隙間6dが形成される。隙間6dには高周波電流が流れないので、その分だけ角部11dに励起される誘導電流は少なく、加熱量は少ない。よって、角部11dの温度上昇は抑制され過熱状態となるのが防止される。
【0082】
被加熱物11のその他の角部11a〜11cには、各々介在部材18a〜18cを配置できるように構成し、高周波電流が介在部材18a〜18cを経由して流れるようにすると、介在部材18a〜18cの位置を変更(被加熱物11の角部11a〜11cからの距離を変更)することにより、被加熱物11の角部11a〜11cに励起する誘導電流の大きさを調整することができる。すなわち、加熱導体におけるリード5a,5bが接続された部位が対向する角部11dと同等に、その他の角部11a〜11cが昇温するように介在部材18a〜18cの位置を調整する。
【0083】
本発明の高周波加熱装置10(図10)は、断面が四角形の中空の被加熱物11の平坦部と角部11a〜11dを同程度に昇温するように誘導加熱することができる。
【0084】
また、高周波加熱装置10は、被加熱物11を温度上昇させる様々な目的で使用することができる。
【0085】
図11(a)は、本発明の加熱導体で加熱した場合の平坦部および角部の温度を測定した温度の経時変化のグラフを示し、図11(b)は、図13に示した従来の加熱導体で加熱した場合の平坦部および角部の温度を測定した経時変化のグラフを示した事例である。
【0086】
温度制御は平坦部が設定温度に到達したところから、誘導電流のON−OFF制御を開始し、平坦部温度を熱電対で測定しながら温度制御を行った。
【0087】
図11(b)に示すように従来の加熱導体で加熱した場合、平坦部は制御温度1050℃とすることができるが、角部の温度は制御温度1050℃に対して50℃近く上昇しオーバーシュートしてしまい、拡散接合に不具合を生じてしまう。
【0088】
これに対して、本発明の加熱導体で加熱したものは、図11(a)に示すように、(1)平坦部および角部の温度差が少なく制御温度1080℃にすることができ、(2)角部は、平坦部よりも加熱時の温度上昇が遅いが、オーバーシュートすることはない、(3) 角部の温度は、温度制御開始後、極端に下がることがないことがわかる。同時に、加熱導体を製作し、角部の介材部材18位置を調整することで、角部の温度を調整することが可能となり、加熱導体の作り直しの必要がなくなった。その結果、開発期間や開発コストを大幅削減することが可能となった。さらに、被加熱物の角部形状がロットによって変化した場合や、被加熱物の材質が変化した場合にも、対応が可能となった。その結果、開発期間や開発コストを大幅削減することが可能となった。
【0089】
次に、本発明の高周波加熱装置10(図10)を使って、断面が四角形の同材質の中空素材同士をアモルファス金属を介して拡散接合、加熱アプセット接合した事例を図12で説明する。加圧アプセットを伴う拡散接合方法は、既に特許文献6で述べられている。素材形状が異なる以外はこの方法にしたがって説明する。
【0090】
断面が四角形の中空素材11−1と11−2との間にアモルファス金属11−3を挟み、加圧装置45,46間にセットする。接合面の外周に本発明の高周波加熱装置の加熱導体6を、4面の平坦部のクリアランスLが同一、かつ中空素材11−1,11−2の端面同士が、加熱導体6の中央にくるように設置する(図12(a))。
【0091】
そして、中空素材11−1と11−2に、加圧装置45,46で軸力を加え、アモルファス金属11−3を保持した状態で、本発明の高周波加熱装置で、アモルファス金属の成分が中空部材に拡散するのに必要な温度(設定温度)まで加熱する(図12(b))。
【0092】
設定温度到達後一定時間保持し、その後、接合部を加圧アプセット変形させ、接合界面面積を増やすことで、より強度が高い接合面を得ることができる(図12(c))。
【符号の説明】
【0093】
1 高周波電源
5a,5b リード
6 加熱導体
6a〜6c 第1〜第3分割片
7,8 接続部材
9 Oリング
10 高周波加熱装置
11 被加熱物(金属製部材)
11a〜11d 被加熱物の角部
16a 第3分割片の端部
17a 第1分割片の端部
18 介在部材(角部誘導加熱調整手段)
21,22 分割片同士をクランプするクランプ部材(締結手段)
30 第3分割片の屈曲部をクランプするクランプ部材(調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が中空の四角形の金属製部材を拡散接合・加熱アプセット接合するために、四角形の金属製部材を囲むように四角形状に形成された加熱導体を用いて誘導加熱する高周波加熱装置において、前記四角形状の加熱導体を、複数の分割片で形成し、その加熱導体の角部に、前記金属製部材の角部に励起する誘導電流の大きさを調整する角部誘導加熱調整手段を設けたことを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項2】
前記加熱導体は、高周波電源に接続される一対のリードにそれぞれ接続され、前記金属製部材の角部からその金属製部材の辺に沿って延びる第1分割片及び第2分割片と、第1分割片と第2分割片の端部に連結され、前記金属製部材の2辺に沿ってL字状に形成され第3分割片とで形成され、第1分割片と第2分割片の端部と第3分割片の端部が締結手段で連結され、角部誘導加熱調整手段は、第1分割片と第2分割片の端部と第3分割片の端部との間に、その端部に沿って位置調整自在に設けられると共に端部同士を導通する介在部材で構成される請求項1記載の高周波加熱装置。
【請求項3】
第1分割片及び第2分割片は、リードから屈曲されて金属製部材の辺に沿って延びる直線形状の本体部分と、その本体部分から屈曲した端部とからなり、L字状の第3分割片は、屈曲部を中心に金属製部材の2辺に沿ってそれぞれ延びる直線部と、該直線部から屈曲された端部とからなり、第1分割片及び第2分割片の端部と第3分割片の端部は、平行に形成され、その端部間に介在部材が移動可能に設けられ、その端部同士が、前記締結手段で連結されて前記介在部材が固定される請求項1記載の高周波加熱装置。
【請求項4】
第3分割片の屈曲部は、内周側が開放した溝部を有するコ字状に形成され、その溝部に導通可能な介在部材が溝部の深さ方向に沿って位置調整自在に設けられて角部誘導加熱調整手段が構成される請求項3記載の高周波加熱装置。
【請求項5】
断面が中空の四角形の金属製部材を拡散接合・加熱アプセット接合するために誘導加熱する際に使用される高周波加熱装置であって、前記高周波加熱装置は、高周波電流を供給する高周波電源と、前記高周波電源から供給される高周波電流を通じさせる加熱導体とを有しており、前記加熱導体は、前記金属製部材の周囲に配置されて金属製部材を誘導加熱可能であり、加熱導体の両端には各々リード部材が接続されており、前記各リード部材は、高周波電源側から加熱導体に高周波電流を導くものであり、加熱導体は、複数の分割片と、各分割片の締結と分解とを可能にする締結手段とを有しており、加熱導体は、各分割片の締結部と、加熱導体のリード部材が接続される部位とが四隅に配置される方形の環状構造を呈しており、導通可能な介在部材が、各分割片の締結部において分割片同士の間に配置されており、前記各介在部材は、加熱導体の環状方形の内部に対して進退する方向の任意の位置において分割片で挟持可能であることを特徴とする高周波加熱装置。
【請求項6】
加熱導体の分割片のうちの少なくとも1つは、環状方形の1つの角を構成する屈曲部を有しており、当該屈曲部は、開口側が方形の内側を向く略コの字形を呈する溝部を有しており、当該溝部には、溝部の深さ方向に沿って移動自在で、かつ導通可能な介在部材が配置され、前記屈曲部には、溝部に配置された介在部材を固定する調整手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−114068(P2012−114068A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130442(P2011−130442)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】