説明

四重極または飛行時間型質量分光計を用いた化学イオン化反応または陽子移動反応質量分光分析

【課題】連続的、リアル・タイム、そして現場分析に備えることができる、ロバストな質量分光分析システムを提供し、極少量のVOCを含む、VOCの存在および識別を信頼性高く判定する。
【解決手段】マイクロ波または高周波RFエネルギ源が、試薬蒸気の粒子をイオン化して、試薬イオンを形成する。試薬イオンは、ドリフト・チェンバのようなチェンバに流入し、流体サンプルと相互作用する。電界が試薬イオンを誘導し、流体サンプルとの相互作用を促進して生成イオンを形成する。次いで、試薬イオンおよび生成イオンは、質量分光計モジュールによる検出のために、電界の影響下においてチェンバから流出する。本システムは、システム・パラメータの値を設定する種々の制御モジュールと、分光分析中におけるイオン種の質量およびピーク強度値の検出ならびにシステム内部における異常の検出のための解析モジュールとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、質量分光分析に関し、特に、マイクロ波または高周波無線周波数プラズマを用いて試薬イオンを形成する質量分光分析、およびその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分光分析とは、一般に、粒子の質量値、またはその粒子の質量値の暗示的判断の、分光データを用いた別の物理量の測定による、直接測定のことを言う。質量分光分析は、多くの場合、イオン化した分子または成分の質量電荷比を判定することを伴う。イオン化粒子の電荷が分かれば、その粒子の質量値をある範囲の質量値から判定することができる。
【0003】
質量分光分析を行うシステムは、質量分光計として知られている。質量分光システムは、一般に、イオン源、質量フィルタまたはセパレータ、および検出器を含む。例えば、分子または成分のサンプルをイオン源における電子衝突によってイオン化して、イオンを生成することができる。例えば、電界または磁界をイオンに加えることによって、異なる質量値を有するイオンを質量分析器によって質量分布即ちスペクトルに分離する。検出器は、これらのイオンを収集し、質量分布を視認および/または記録することができる。スペクトルにおける比較的豊富な質量値は、サンプルの組成、および質量値または分子の素性(identity)またはサンプルの成分を判定するために用いられる。
【0004】
多くの異なる種類の質量分光計が存在しており、その中にはイオン−分子反応質量分光計(IMR−MS)と呼ばれるカテゴリが含まれる。このカテゴリの中には、様々な技術が存在し、陽子移動反応質量分光分析(PTR−MS)および選択イオン流管質量分光分析(SIFT−MS:selected ion flow tube mass spectrometry)が含まれる。このようなカテゴリは、一般に、イオンを発生する方法を指す。例えば、陽子移動反応質量分光計は、試薬イオンを発生するイオン源を含む。試薬イオンは、通例、ヒドロニウム・イオン(HO+)であり、例えば、陽子移動によって、電荷をサンプル成分に移動させる。選択イオン流管質量分光計では、キャリア・ガスが流管に沿って、濾過したイオンを輸送する。オーストリアのインスブルックにあるIonicon Analytik GmbH社が販売する陽子移動反応質量分光計では、中空陰極管がイオン源として用いられ、DCプラズマ放電を水蒸気の流れに加えることによって、試薬イオンを生成する。
【0005】
一部の質量分光分析システムでは、用いられる質量分析器の種類によって分類される場合がある。例えば、一部の質量分光分析システムは、「タンデム技法」に基づいており、別の分析技術を質量分光分析機器と組み合わせて用いている。一例には、ガス・クロマトグラフィ質量分光分析(GC−MS)があり、質量分光分析器による分析の前に、ガス・クロマトグラフィ・カラムを用いてサンプルの成分を分離する。
【0006】
質量分光分析は、サンプルにおける揮発性有機化合物(VOC)の量を判定するために用いることができる。VOCの測定は重要になってきている。何故なら、VOCの存在は、たとえ極少量であっても、多くの異なる用途において重要な診断指標としての役割を果たすことができ、更に人間の健康に影響を及ぼす可能性があるからである。例えば、VOCの濃度が一定レベルよりも上に上昇した場合、呼吸状態のように、有害な健康上の影響が人間に発生する可能性がある。更に、特定のサンプルにおけるVOCの種類および量は、爆発性、有害化学薬品の存在、燃焼生成物、疾病化学薬品(disease agent)、崩壊または汚染、放火促進剤(arson accelerant)、または薬剤の乱用(drugs of abuse)を示すことができる。加えて、VOCの存在および量を監視することは、生化学または薬品製造プロセスのような、工業プロセスにおいて有用である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存の質量分光分析システムには、様々な欠点が、総合的にもそしてVOCの検出に応用する場合にも内在する。例えば、質量分光分析システムがガス・クロマトグラフを用いていると、サンプルの分析が比較的遅いために、流体サンプルの連続的なリアル・タイムの監視には適していない。更に、以前の質量分光分析システムは、多くの場合、現場分析ではなく、研究室に基盤を置く環境においてサンプルの分析に先だって現場(field)からサンプルを収集することを必要とする。以前の質量分光分析システムは、サンプルにおける低い濃度の成分に対して比較的不感性である。これは、例えば、イオン源が、低濃度構成物に識別可能な質量スペクトルを発生するのに十分な量のイオンを生成できないからである。このようなシステムにおける低濃度構成物に対する質量スペクトルは、ダイナミック・レンジに限界があることのためにノイズと区別することができず、あるいは高濃度成分からのピーク干渉または電子的機器や機械的機器が発生するノイズによって消されてしまうことが多い。質量分光分析システムが適したレベルの感度を有していれば、VOCの存在の検出を容易に行うことができるが、存在する他の成分からの干渉を受け、したがって、特定の化合物または化学種(species)を断定的に特定することができない虞れがある。
【0008】
連続的、リアル・タイム、そして現場分析に備えることができる、ロバストな質量分光分析システムが求められている。更に、特定のサンプルにおいて、極少量のVOCを含む、VOCの存在および識別を信頼性高く判定することができるシステムも求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を具現化するシステムおよび方法は、マイクロ波エネルギまたは高周波RFエネルギを用いて、流体サンプルと相互作用させるために試薬イオン、例えば、ハイドロニウム・イオンを生成する質量分光分析を特徴とする。マイクロ波エネルギの使用によって、他の報告されているイオン化方法(例えば、放射線源を用いる方法)よりも大量にハイドロニウムのような試薬イオンを発生しつつ、DC放電源に随伴する電極の腐食や不安定性も回避することが分かっている。試薬イオンの量が増大すると、システムの感度が高くなり、極少量であっても、個々のVOCの定量測定および/または識別が容易となる。また、高周波RFエネルギは、マイクロ波エネルギを用いて試薬イオンを発生するときに得られる利点と同様の利点を、質量分光分析において実証している。更に、本発明は、比較的高い圧力、例えば、約100ミリバール(約10,000パスカル)におけるVOCのリアル・タイム測定システムおよび方法に関する。
【0010】
本発明を具現化するシステムおよび方法は、実施形態によっては、体積パーツ・パー・トリリオン(pptV)単位でVOCの濃度を検出するために用いることができる。実施形態の一部では、モジュールが、捕獲した質量スペクトルに基づいて、特定のVOCを検出し、これを分析して分類する。本発明の実施形態において用いられるシステムの構成機器は、携帯用質量分光分析および/または現場用途に適している。本明細書において記載する概念は、化学イオン化反応質量分光分析(CIRMS)技法または陽子移動反応質量分光分析(PTR−MS)技法においても用いることができる。
【0011】
実施形態の中には、本発明が、システム動作の間に捕獲、検出、または収集したデータを処理する解析または制御モジュールを含むものもある。例えば、システムの中には、質量スペクトルに基づくVOCの検出および識別を容易にするために、多変量解析モジュールを含むものもある。多変量解析モジュールは、質量分光分析システムを監視するため、または当該システムにおける異常を検出するためにも用いることができる。加えて、制御モジュールまたはフィードバック・ループを用いて、例えば、当該システムの種々のプロセス・パラメータを制御することによって、試薬イオンおよびサンプル・イオンの発生、ならびに質量分光分析システムにおけるそれらのスループットを制御することもできる。このようなパラメータは、種々の電界、圧力値、イオンおよび蒸気流量、ならびにイオン・エネルギを含む。また、本発明は、質量分光分析システムを通過する試薬イオン、サンプル成分、および生成イオンの移動に影響を及ぼす種々のシステム構成機器間における結合、接続、またはインターフェースに関する。
【0012】
本明細書において記載する化学イオン化反応質量分光計および陽子移動反応質量分光計の感度は、種々のシステム・パラメータに基づいて変更することができる。感度は、ドリフト領域における試薬イオン濃度(例えば、ハイドロニウム・イオン濃度)に基づいて変更することができる。
【0013】
ドリフト領域における電界の中性粒子に対する比率E/N((タウンゼント(Td)単位で表す)は、分光計の感度に変化をもたらす(affect)可能性がある。E/N比は、ドリフト領域における圧力(例えば、気体密度)および電界強度の関数である。E/N比は、イオンがドリフト領域を横断する間の時間に影響を及ぼす。
【0014】
感度は、イオン・ビームがドリフト領域を抜けた後に質量分光計に達する強度(試薬イオンおよび生成イオンから成る)による変化を受ける可能性がある。これは、ビームの集束およびビームの透過(transmission)特性に影響を及ぼす(impact)、移動領域における移動光学素子(例えば、電極/レンズ絞り幾何学的形状)、電界、および圧力状況(ポンピング(pumping))の関数である。
【0015】
感度は、ドリフト領域におけるバルク・サンプル気体と中性試薬種の分圧間の比率に基づいて変化させることができる。監視対象の気体サンプル種に対する陽子移動率定数(k)が、感度に変化をもたらす。ドリフト領域の長さは、感度に変化をもたらす。何故なら、ドリフト領域が長い程、物質がドリフト領域を横断する間の時間が長くなり、したがって、試薬イオンとサンプル種とが反応する機会も多くなるからである。また、感度は、種々の質量分光計に関する感度要因(例えば、イオン透過/質量判別、検出器/前置増幅器利得、および信号対ノイズ比)による変化を受ける可能性もある。
【0016】
本発明は、一態様では、システムに関する。本システムは、試薬蒸気の粒子をマイクロ波またはRFエネルギと相互作用させて1つ又は複数の試薬イオンを形成するためのマイクロ波または高周波RFエネルギ源を含む。また、本システムは、流入ポートを含むチェンバを含む。1つ又は複数の生成イオンを形成するために、流入ポートが、サンプルをチェンバに流入させ、マイクロ波または高周波RFエネルギ源からの1つ又は複数の試薬イオンと相互作用させる。チェンバは、内部に電磁界が発生する。また、本システムは、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値の判定を容易にするために、1つ又は複数の生成イオンおよび1つ又は複数の試薬イオンを収集するように、チェンバの流出オリフィスに応じて配置されている四重極質量分光計モジュールを含む。
【0017】
実施形態の中には、マイクロ波エネルギ源がマイクロ波プラズマ発生器を含むものがある。高周波RFエネルギ源は、容量結合RFプラズマ発生器を含むことができる。実施形態の中には、試薬イオンがハイドロニウム・イオン、酸素イオン、または亜酸化窒素イオンを含む場合がある。サンプルは、1つ又は複数の揮発性有機化合物(VOC)を含むことができる。
【0018】
本システムの実施形態の中には、チェンバ内において電磁界を発生するために、チェンバに応じて配置されている1組の電極を特徴とするものもある。この電磁界は、試薬イオンとサンプルとの間における相互作用を促進し、生成イオンおよび試薬イオンを誘導して、チェンバの流出オリフィスを通過させる。1組の電極は、チェンバの軸を中心として放射状に配置されており、電磁界は生成イオンおよび試薬イオンを実質的に軸方向に誘導する。実施形態の中には、制御モジュールが1組の電極と連通するものもある。この制御モジュールは、システムの動作パラメータに基づいて、チェンバ内部の電磁界(または電磁界勾配)の値を判定するように動作可能である。
【0019】
本システムは、チェンバに流入するサンプルの量を判定するために、質量流量コントローラ、毛細管、またはリーク弁を含むことができる。本システムは、マイクロ波または高周波RFエネルギ源とチェンバとの間に配置され、試薬イオンを選択的にチェンバ内に通過させる質量フィルタを含むことができる。適した質量フィルタの例には、四重極質量フィルタが含まれる。実施形態の中には、本システムが、当該システムと連通し、四重極質量分光計モジュールからのデータを解析するように動作可能な多変量解析モジュールを含むものもある。
【0020】
マイクロ波エネルギ源は、マイクロ波発生器と、共振部と、共振部内に配置され、チェンバと連通する管部と、試薬蒸気供給部、チェンバ、または双方の内部におけるマイクロ波エネルギの量を低減するために、管部が通過する1つ又は複数のチョークとを含むことができる。実施形態の中には、本システムが、当該システムと連通し、部分的にシステムの動作パラメータに基づいて、システムの入力パラメータを変化させるように動作可能な制御モジュールを含むものもある。このようなパラメータは、サンプルの組成、チェンバの圧力、生成イオンまたは試薬イオンのチェンバを通過する際の速度、サンプルまたは試薬イオンがチェンバに流入する際の流速、生成イオンまたは試薬イオンのエネルギ、試薬イオン、生成イオン、またはサンプルの化学組成、あるいはそのいずれの組み合わせも含む。実施形態の中には、制御モジュールが、部分的に動作パラメータに基づいて、チェンバ内部に電磁界を発生する1組の電極の入力パラメータを変化させるように動作可能なものもある。
【0021】
実施形態の中には、本システムが、当該システムと連通し、システムの動作パラメータにおける異常を検出または特定するように動作可能な制御モジュールを備えている場合もある。この制御モジュールは、少なくとも部分的に異常の検出または特定に基づいて、動作パラメータの値を変化させることができる。本システムは、当該システムを監視するためにシステムと連通する制御モジュールを含むことができる。この制御モジュールは、監視に応答してシステムの動作パラメータの値を設定または調節し、制御モジュールは、多変量統計解析アルゴリズムに基づく。実施形態の中には、制御モジュールが多変量統計解析モジュールを含む場合もある。この多変量統計解析モジュールは、プロセスの監視のため、および/または質量分光分析システムにおける異常を検出するために用いることができる。多変量統計解析モジュールは、異常を検出および/または特定するために用いることができる。実施形態の中には、多変量統計解析モジュールが質量分光分析データを解釈するために用いられる場合や(例えば、質量スペクトルにおいて)、そして質量スペクトルにおいて構成物のピークから成分を特定するために用いられる場合もある。多変量統計解析モジュールは、四重極質量分光計または飛行時間型質量分光計と共に用いることができる。実施形態の中には、本システムにおける異常を検出および/または特定するため、そしてデータを解釈および/または解析して例えば、質量分光計における構成物のピークから成分を特定するための双方に、制御モジュールまたは多変量統計解析モジュールが用いられる場合もある。
【0022】
また、本システムは、チェンバに応じて配置された抽出電極も含むことができる。抽出電極は、試薬イオンまたは生成イオンが四重極質量分光計モジュールに達する際に通過するオリフィスを定める。また、抽出電極は、四重極質量分光計モジュールによる収集のために、試薬イオンまたは生成イオンのエネルギ値を指定するように動作可能である。本システムの実施形態の中には、チェンバに応じて配置され、試薬イオンおよび生成イオンの質量分光計モジュールへの通過を促進する抽出オリフィス上に試薬イオンおよび生成イオンを集束するレンズ・アセンブリを特徴とするものもある。
【0023】
別の態様では、本発明は、陽子移動反応質量分光計または化学イオン反応質量分光計のために1つ又は複数の試薬イオンを発生する方法に関する。この方法は、試薬蒸気を供給するステップと、1つ又は複数の試薬イオンを発生するために、試薬蒸気にマイクロ波エネルギを供給するステップとを含む。
【0024】
また、本方法は、1つ又は複数の試薬イオンを、サンプルの構成物と相互作用させて生成イオンを形成するための領域に誘導するステップも含むことができる。試薬イオンは、マイクロ波プラズマによって発生することができる。試薬蒸気は、水蒸気、酸素、または亜酸化窒素を含むことができ、試薬イオンは、ハイドロニウム・イオン、酸素イオン、または亜酸化窒素イオンを含むことができる。実施形態の中には、約800MHzよりも高い周波数を有する電磁波または放射線によって、マイクロ波エネルギを供給する場合もある。
【0025】
本発明は、別の態様では、陽子移動反応質量分光計または化学イオン反応質量分光計のために1つ又は複数の試薬イオンを発生する方法に関する。この方法は、試薬蒸気を供給するステップと、試薬イオンを発生するために、試薬蒸気に高周波RFエネルギを供給するステップとを含む。
【0026】
実施形態の中には、約400kMzと約800MHzとの間の周波数を有する電磁波によって、RFエネルギを供給する場合もある。試薬イオンは、容量結合RFプラズマによって発生することができる。
【0027】
別の態様では、本発明は、方法に関する。この方法は、試薬蒸気をプラズマ領域に供給するステップと、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、プラズマ領域において試薬蒸気にマイクロ波または高周波RFエネルギを供給するステップとを含む。本方法は、1つ又は複数の生成イオンを発生するために、試薬イオンを気体サンプルと相互作用させるステップを含む。また、本方法は、生成イオンおよび試薬イオンを、四重極質量分光計モジュールの捕収領域に誘導するステップと、質量分光計モジュールによって、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値を判定するステップとを含む。
【0028】
本発明の別の態様は、質量分光分析システムに関する。この質量分光分析システムは、試薬蒸気にマイクロ波または高周波RFエネルギを供給することによって、試薬蒸気源から1つ又は複数の試薬イオンを発生する手段を含む。また、本システムは、1つ又は複数の生成イオンを形成するために、サンプルを試薬イオンと相互作用させる手段を含む。本システムは、電磁界を含み、生成イオンおよび試薬イオンを捕収領域に誘導する手段を含む。また、本システムは、捕収領域と連通し、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値を判定する手段を含む。
【0029】
本発明は、一態様では、システムに関する。このシステムは、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、マイクロ波またはRFエネルギによって試薬蒸気の粒子をイオン化するマイクロ波または高周波RFエネルギ源を含む。また、本システムは、流入ポートを含むチェンバを含む。この流入ポートは、1つ又は複数の生成イオンを形成するために、サンプルをチェンバに流入させ、マイクロ波または高周波RFエネルギ源からの試薬イオンと相互作用させる。また、本システムは、チェンバの流出オリフィスに応じて配置されている質量分光計モジュールを含む。この質量分光計モジュールは、生成イオンおよび試薬イオンが進行する際に通過する飛行領域を含み、この飛行領域は、経路長を定める。また、この質量分光計モジュールは、飛行領域から生成イオンおよび試薬イオンを受ける捕収領域を含む。生成イオンおよび試薬イオンの質量についての値は、生成イオンおよび試薬イオンの各々が経路長を横断する間の時間量に基づいて判定される。
【0030】
実施形態の中には、質量分光計モジュールが、更に、生成イオンおよび試薬イオンの飛行領域への流動を脈動させるために、チェンバの流出オリフィスに応じて配置されているイオン・ビーム調節器も含む場合がある。また、質量分光計モジュールは、生成イオンおよび試薬イオンが移動する経路長の値を増大させるために、飛行領域内に配置されている光学システムも含む。イオン・ビーム調節器は、コントローラから供給される疑似ランダム二進シーケンスによって、生成イオンおよび試薬イオンの流動を変調する。実施形態の中には、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値を判定するために、質量分光計モジュールから受け取ったデータに対して、解析モジュールが最尤信号処理アルゴリズムを実行する場合もある。この解析モジュールは、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値を判定するために、質量分光計モジュールから受け取ったデータを分解分離する。捕収領域は、パルス計数モードで動作する積層マイクロチャネル陽極検波器または双極検出器を含むことができる。実施形態の中には、光学システムはリフレクトロンを含むものもある。本システムは、試薬イオンおよび生成イオンをイオン・ビーム調節器上に集束するレンズを特徴とすることができ、イオン・ビーム調節器は、イオン・ビーム・チョッパ、イオン・ビーム・ゲート、イオン・ビーム変調器、ブラッドベリー−ニールセン・ゲート、またはそのあらゆる組み合わせを含む。
【0031】
また、本システムは、実施形態の中には、チェンバおよび質量分光計モジュールに応じて配置されている光学システムを特徴とするものもある。この光学システムは、生成イオンおよび試薬イオンの流動をイオン・ビーム調節器に向けて誘導する少なくとも1つの四重極レンズを含む。実施形態の中には、質量分光計モジュールは、飛行領域を貫通する実質的に直線状の軸を定めるものもある。実質的に直線状の軸は、飛行領域を通過する第2軸に対して実質的に平行とすることができる(例えば、ウソッフ軌道(Uthoff trajectory))。
【0032】
実施形態の中には、本システムが、試薬イオンの部分集合を選択的にチェンバに流入させるために、マイクロ波エネルギ源およびチェンバに応じて配置されている質量フィルタを含む場合もある。このフィルタは、四重極質量フィルタとすることができる。本システムは、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値を含む質量スペクトルにおけるデータを解釈するために、質量分光計モジュールからデータを受け取る解析モジュールを特徴とすることができる。解析モジュールは、質量分光分析システムにおける異常を検出および/または特定するために用いることができる。解析モジュールは、多変量統計解析に基づくことができる。
【0033】
実施形態の中には、本システムが、質量分光計モジュールによって発生した質量スペクトルに基づいて、サンプルの成分を識別する多変量統計解析モジュールを特徴とするものもある。本システムは、当該システムと連通し、本システムの動作パラメータに基づいて、システムにおける異常を検出または特定するように動作可能な制御モジュールを含むことができる。制御モジュールは、少なくとも部分的に以上の検出または特定に基づいて、動作パラメータの値を変化させることができる。
【0034】
本システムは、当該システムと連通し、システムの動作パラメータに基づいて、システムの入力パラメータの値を変化させる制御モジュールを含むことができる。実施形態の中には、本システムが、試薬イオンとサンプルとの相互作用を促進するため、およびチェンバの流出オリフィスを通過して生成イオンおよび試薬イオンを誘導するために、電磁界を発生するようにチェンバに応じて配置されている1組の電極を含むものもある。このようなシステムは、1組の電極と連通し、本システムの動作パラメータに基づいて、チェンバ内部にある電磁界の値を判定するように動作可能な制御モジュールを特徴とする。本システムの動作パラメータは、サンプルの組成、チェンバの圧力、生成イオンまたは試薬イオンのチェンバを通過する際の速度、サンプルまたは試薬イオンがチェンバに流入する際の流速、生成イオンまたは試薬イオンのエネルギ、生成イオン、試薬イオン、またはサンプルの化学組成、あるいはこれらのいずれかの組み合わせを含むことができる。また、制御モジュールは、部分的に動作パラメータに基づいて、1組の電極の入力パラメータを変化させるように動作可能である。
【0035】
別の態様では、本発明は、システムに関する。このシステムは、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、マイクロ波またはRFエネルギによって試薬蒸気の粒子をイオン化するマイクロ波または高周波RFエネルギ源を含む。本システムは、流入ポートを含むチェンバ含み、この流入ポートは、1つ又は複数の生成イオンを形成するために、サンプルをチェンバに流入させ、マイクロ波または高周波RFエネルギ源からの試薬イオンと相互作用させる。また、本システムは、チェンバの流出オリフィスに応じて配置されており、生成イオンおよび試薬イオンの各々が質量分光計を横断する間の時間量に基づいて、生成イオンおよび試薬イオンの質量についての値を含むスペクトルを発生する、飛行時間型質量分光計モジュールも含む。
【0036】
実施形態の中には、飛行時間型質量分光計モジュールが、生成イオンおよび試薬イオンが進行する際に通過する飛行領域を含むものもある。飛行領域は、経路長を定める。また、飛行時間型質量分光計モジュールは、試薬イオンおよび生成イオンの飛行領域への流動変調するイオン・ビーム調節器と、生成イオンおよび試薬イオンが移動する経路長の値を増大させるために、飛行領域内に配置されている光学システムとを含む。また、分光計モジュールは、飛行領域から生成イオンおよび試薬イオンを受ける捕収領域を含む。
【0037】
別の態様では、本発明は、飛行時間型質量分光計において信号を処理する方法に関する。前述の信号は、マイクロ波またはRFエネルギを試薬蒸気に供給することによって発生する1つ又は複数の試薬イオンに基づき、更に電磁界において試薬イオンを流体サンプルと相互作用させることによって発生する1つ又は複数の生成イオンに基づく。本方法は、試薬イオンおよび生成イオンを含む第1イオン流を確立するステップと、指定された流動パターンにしたがって、第2イオン流を発生するように第1イオン流を変化させるステップとを含む。また、本方法は、検出器において、第2イオン流を受け取るステップと、最尤型統計アルゴリズムにしたがって、検出器が伝達したデータから質量スペクトルを判定するステップとを含む。質量スペクトルは、試薬イオンおよび生成イオンの質量および/またはピーク強度を示すデータを含む。
【0038】
実施形態の中には、第2イオン流は脈動流である場合もある。脈動流は、疑似ランダム二進シーケンスにしたがって発生した、指定流動パターンに基づくことができる。
【0039】
別の態様では、本発明は方法に関する。この方法は、試薬蒸気をプラズマ領域に供給するステップと、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、プラズマ領域において試薬蒸気にマイクロ波または高周波RFエネルギを供給するステップとを含む。また、本方法は、1つ又は複数の生成イオンを発生するために、試薬イオンを気体サンプルと相互作用させるステップを含む。本方法は、飛行時間型質量分光計モジュールの飛行領域において軌道に沿って生成イオンおよび試薬イオンを誘導するステップを含む。また、本方法は、質量分光計モジュールによって、生成イオンおよび試薬イオンのピーク強度および/または質量についての値を判定するステップを含む。
【0040】
本発明の別の態様は、1つ又は複数の試薬イオンおよび1つ又は複数の生成イオンの質量を測定するシステムに関する。試薬イオンは、マイクロ波またはRFエネルギを試薬蒸気に供給することによって発生する。生成イオンは、電磁界において1つ又は複数の試薬イオンを流体サンプルと相互作用させることによって発生する。本システムは、ドリフト管アセンブリのイオン流出オリフィスに応じて配置され、試薬イオンおよび生成イオンを含む第1イオン流を受け取る1組の四重極レンズを含む。この1組の四重極レンズは、流出オリフィスを通った生成イオンおよび試薬イオンを受け取り、イオン・ビーム調節器に向けて導かれる第2イオン流を形成する。また、本システムは、第2イオン流を選択的に飛行時間型質量分光計の飛行領域に通過させるように動作可能なイオン・ビーム調節器を含む。
【0041】
別の態様では、本発明は、システムに関する。このシステムは、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、マイクロ波または高周波RFエネルギによって試薬蒸気の粒子をイオン化する手段を含む。また、本システムは、電磁界を含み、1つ又は複数の生成イオンを形成するために、サンプルを試薬イオンと相互作用させる手段を含む。また、本システムは、生成イオンおよび試薬イオンの各々が指定距離を横断する間の時間量に基づいて、生成イオンおよび試薬イオンの各々のピーク強度および/または質量についての値を判定する手段を含む。
【0042】
別の態様では、本発明は、1つ又は複数の試薬イオンおよび1つ又は複数の生成イオンの質量を測定するシステムに関する。試薬イオンは、マイクロ波またはRFエネルギを試薬蒸気に供給することによって発生する。生成イオンは、電磁界において試薬イオンを流体サンプルと相互作用させることによって発生する。本システムは、試薬イオンおよび生成イオンを含む第1イオン流を確立する手段を含む。また、本システムは、第2イオン流を生成するために、指定の中断パターンにしたがって、第1イオン流を変調する手段を含む。また、本システムは、検出手段から伝達されたデータから、質量スペクトルを発生する手段を含む。このデータは、第2イオン流に対応する。
【0043】
別の態様では、本発明は、1つ又は複数の試薬イオンおよび1つ又は複数の生成イオンの質量を測定するシステムに関する。試薬イオンは、マイクロ波またはRFエネルギを試薬蒸気に供給することによって発生する。生成イオンは、電磁界において試薬イオンを流体サンプルと相互作用させることによって発生する。本システムは、試薬イオンおよび生成イオンを含む第1イオン流を受け取る光学手段を含む。また、この光学手段は、調節手段に向けて導かれる第2イオン流を発生する。また、本システムは、質量分光計に向かう第2イオン流を選択的に制御する調節手段も含む。
【0044】
別の態様では、本発明は方法に関する。この方法は、サンプル気体を導入するステップを含む。また、本方法は、試薬蒸気をプラズマ領域に供給するステップと、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、プラズマ領域内において試薬蒸気にマイクロ波または高周波RFエネルギを供給するステップとを含む。また、本方法は、1つ又は複数の生成イオンを発生するために、1つ又は複数の試薬イオンをサンプル気体と相互作用させるステップと、生成イオンおよび試薬イオンを、四重極または飛行時間型質量分光計モジュールに誘導するステップとを含む。本方法は、質量分光計モジュールによって、生成イオンおよび試薬イオンのピーク強度または質量の値を判定するステップを含む。
【0045】
別の態様では、本発明はシステムに関する。このシステムは、1つ又は複数の試薬イオンを形成するために、試薬蒸気の粒子をマイクロ波またはRFエネルギによってイオン化させるためのマイクロ波または高周波RFエネルギ源を含む。また、本システムは、少なくとも極微量の濃度で1つ又は複数の揮発性有機化合物を含むサンプル気体の分析を促進する供給部を含む。また、本システムは、流入ポートを含むチェンバを含み、この流入ポートは、1つ又は複数の生成イオンを形成するために、サンプル気体をチェンバに流入させ、マイクロ波または高周波RFエネルギ源からの試薬イオンと相互作用させる。チェンバは、内部に電磁界を発生する。また、本システムは、生成イオンおよび試薬イオンのピーク強度または質量の値の判定を容易にするために、生成イオンおよび試薬イオンを収集するように、チェンバの流出オリフィスに応じて配置されている四重極または飛行時間型質量分光計モジュールを含む。
【0046】
更に別の態様では、本発明は、少なくとも極微量の濃度で1つ又は複数の揮発性有機化合物を含むサンプル気体を導入する手段を含む質量分光分析システムに関する。本システムは、試薬蒸気にマイクロ波または高周波RFエネルギを供給することにより、試薬蒸気から1つ又は複数の試薬イオンを発生する手段を含む。本システムは、1つ又は複数の生成イオンを形成するために、サンプル気体を試薬イオンと相互作用させる手段を含む。また、本システムは、生成イオンおよび試薬イオンのピーク強度または質量の内少なくとも1つについての値を判定するため、またはサンプル気体における揮発性有機化合物を特定するために、生成イオンおよび試薬イオンを質量分光計モジュールに誘導する手段を含む。
【0047】
上述の態様に関係する更に別の特徴がある。例えば、サンプル気体は、少なくとも極微量の濃度で1つ又は複数の揮発性有機化合物を含む。極微量の濃度は、約1パート・パー・トリリオンと約1パート・パー・ビリオンとの間の体積とすることができる。極微量の濃度は、約1パート・パー・ビリオンと1パート・パー・ミリオンとの間の体積とすることができる。
【0048】
前述の方法は、気体サンプル流入ポートを閉鎖空間に結合するステップを含むことができる。また、本方法は、気体サンプル流入ポートを非閉鎖空間に結合するステップを含むことができる。気体サンプル流入ポートは、コンテナに結合することができる。実施形態の中には、気体サンプル流入ポートを自動車または航空機の排気管に結合する場合もある。気体サンプル流入ポートは、例えば、食品または飲料製品の含有物を判定するために、食品または飲料製品上にある頭隙空間に結合することができる。
【0049】
実施形態によっては、本方法は、吐出される呼気を収集するために、気体サンプル流入ポートを人間の口の近傍に位置付けるステップを含むこともある。本方法は、気体サンプル流入ポートを、気体または蒸気を放出する固体サンプル素材の近傍に位置付けるステップを含む。実施形態によっては、気体サンプル流入ポートを気体の供給部に結合する場合もある。
【0050】
四重極または飛行時間型分光計モジュールは、気体サンプルの中にある揮発性有機化合物のピーク強度または質量の内少なくとも1つの判定を容易にすることができる。極微量の濃度で含み、測定、検出、および/または特定することができる揮発性有機化合物は、ダイオキシン系化合物、フラン系化合物、クロロフェノール、ナフタレン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、非メタン有機化合物、二次有機エアゾール、同重核化合物、化学戦闘兵器用薬品、戦場ガス、燃焼加速剤、体液によってまたはカビ種(例えば、ミコトキシン)の作用によって放出されるVOC種、あるいはそのあらゆる組み合わせを含む。実施形態の中には、揮発性有機化合物は、人間が引き起こした揮発性有機化合物または生物活動の結果として生ずる揮発性有機化合物を含むこともある。実施形態の中には、サンプル気体が無機学または蒸気種(例えば、硫化水素)を含む場合もある。
【0051】
1つ又は複数の例の詳細について、添付図面および以下の説明において明記する。本発明の更に別の特徴、態様、および利点は、この説明、図面、および特許請求の範囲から明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明を具現化するシステムの構成機器を示す平面図である。
【図2】図2は、質量分光分析システムに合わせた試薬蒸気供給アセンブリの断面図である。
【図3】図3は、試薬イオンの発生方法のフロー・チャートである。
【図4】図4は、本発明を具現化する質量分光分析方法を示すフロー・チャートである。
【図5】図5は、本発明を具現化する四重極質量分光分析システムの断面図である。
【図6】図6は、図5に示したドリフト・チェンバ・アセンブリの拡大図である。
【図7】図7は、本発明を具現化する飛行時間型質量分光計モジュールの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、本発明を具現化するシステム100の構成機器を示す平面図である。システム100は、試薬蒸気供給部104と、プラズマ発生器108とを含む。マイクロ波/RFプラズマ発生器108は、マイクロ波エネルギ(マイクロ波プラズマ)または高周波RFエネルギ(RFプラズマ)を用いてプラズマを発生することができる。RFエネルギは、容量結合高周波RFエネルギ源(図示せず)によって供給することができる。試薬蒸気供給部104からの蒸気(図示せず)は、プラズマ領域112においてプラズマと相互作用して、所望のまたは特定の試薬イオンを形成する。試薬イオンは、システム100の個々の用途に応じて、1つ又は複数の多数の異なる化学種である可能性がある。実施形態によっては、プラズマ領域112およびマイクロ波/RFプラズマ発生器108が同じアセンブリ(図示せず)の部分を形成し、アセンブリ内部で試薬蒸気がプラズマと相互作用するようにしたものもある。実施形態によっては、プラズマ領域112はガラス管内部に配置する場合もある。
【0054】
プラズマ領域112は、フランジ116内部に装着されている、電気的に分離されたオリフィス板電極120と流体連通する。絶縁体(図示せず)が、フランジ116とオリフィス板電極120との間に配置されており、それらの間に電気的絶縁を設けている。オリフィス板電極120に電位を印加して、プラズマの電位を上げることによって、1つ又は複数の試薬イオンを、フランジ116とオリフィス板電極120とによって規定された開口122を通過させ、ドリフト外側チェンバ124内にある化学イオン化/ドリフト領域136内まで導く。化学イオン化/ドリフト領域136は、オリフィス板電極120よりも低い電位に維持されている。サンプル供給部128は、化学イオン化/ドリフト領域136と流体連通しており、サンプル流体(例えば、サンプル気体)をシステム100に供給する。サンプル気体は、流入ポート(図示せず)に流入し、ドリフト外側チェンバ124の表面(図示せず)を通過して化学イオン化/ドリフト領域136内に達する。流入ポートは、オリフィス板電極120の下流側に位置し、オリフィス板電極はフランジ116内の中心に配置されているので、試薬イオンはサンプル気体の成分と、化学イオン化/ドリフト領域136内において混合することが可能となる。試薬イオンおよびサンプル気体を化学イオン化/ドリフト領域136に導入する他の構成も存在し、これらも本発明の範囲内とする。例えば、流入ポートを直接フランジ116と結合して、開口122を中心として放射状に位置付けた流体通路(図示せず)をサンプル気体が通過する際に、「シャワー・ヘッド」(shower-head)効果を作り出すことができる。
【0055】
ドリフト・アセンブリ126は、化学イオン化/ドリフト領域136と、排気ドリフト外側チェンバ124とを含む。排気ドリフト外側チェンバ124は、化学イオン化/ドリフト領域136を効果的に収容する。化学イオン化/ドリフト領域136は、一連の電極および絶縁板(中間にO−リング・シール(図示せず)がある)によって規定することができ、これらの各々には中心を貫通する通路が設けられている。化学イオン化/ドリフト領域136については、図5および図6に関して更に詳しく論ずることとする。化学イオン化/ドリフト領域136は、サンプルと試薬イオンとの間における相互作用(例えば、化学反応)を促進する。サンプルと試薬イオンとの間の相互作用によって、1つ又は複数の生成イオンがされる。通例、試薬イオンは、サンプル気体の成分に数で遥かに勝り、試薬イオンは、生成イオンができた後に、生成イオン流において監視することができる。化学イオン化/ドリフト領域136は、一般に、電磁界(図示せず)を含み、サンプルおよび試薬イオンが化学イオン化/ドリフト領域136内部で混合する際に、サンプルと試薬イオンとの間における相互作用の促進する。また、化学イオン化/ドリフト領域136における電磁界は、試薬イオンおよび生成イオンを流出オリフィス138に向けて誘導する。
【0056】
化学イオン化/ドリフト領域136および流出オリフィス138を通過したイオンは、フランジ140によって規定された流出オリフィス144上に集束される。流出オリフィス144は、イオンをドリフト外側チェンバ124から流出させる。イオンは、レンズ・アセンブリ142によって流出オリフィス144上に集束される。実施形態によっては、レンズ・アセンブリ142が集束開口を含むこともある。実施形態によっては、レンズ・アセンブリ142に三次元アインツエル・レンズ(Einzel lens)を採用することもある。レンズ・アセンブリ142は、例えば、イオンのフラックス、速度、またはモーメント(momentum)というような、指定された流量パラメータに応じて、質量分光計モジュール148に向けて誘導する。レンズ・アセンブリ142は、流出オリフィス144を通過するイオンの数を最適化するために用いることができる。実施形態によっては、システム100はレンズ・アセンブリを含まないこともある。
【0057】
質量分光計モジュール148は、試薬および生成イオンの質量および分量を、例えば、イオンを収集することによって判定する。質量分光分析モジュール148は、流出オリフィス144を通過した試薬および生成イオンを表す、質量スペクトルを生成し、および/または得られた質量スペクトルを解析する。生成イオンに関連する質量スペクトルは、サンプル供給部128によって供給されたサンプルの構成物の存在、分量、体積、濃度、または素性を判定するために用いることができる。試薬イオンの測定は、システム100を較正するためおよび/またはエラー・チェックを行うために用いられる。質量分光計モジュール148は、四重極質量分光計または飛行時間型質量分光計とすることができる。
【0058】
また、システム100は、制御モジュール152も含む。制御モジュール152は、システム100の動作状態またはパラメータに関するデータを受信する。このデータに基づいて、制御モジュール152はシステムの構成機器について入力値または入力動作パラメータを決定または設定する。例えば、制御モジュール152は、試薬蒸気供給部104、プラズマ発生器108、プラズマ領域112、オリフィス板電極120、化学イオン化/ドリフト領域136、レンズ・アセンブリ142、流出オリフィス電極144、または質量分光計モジュール148からデータを受信することができる。制御モジュール152は、収集したデータに応答して、例えば、システム100を起動するとき、または動作パラメータに関して受信したデータに応答して、これらの構成機器の各々について入力値を設定することができる。
実施形態によっては、制御モジュール152が、動作パラメータについて受信したデータに応答して自動的に動作パラメータの値を更新することもある。例えば、圧力または化学イオン化/ドリフト領域136に関する動作パラメータが、これらのパラメータの指定値または所望値から逸脱する場合、制御モジュール152は、パラメータがこれらのパラメータの入力値または正しい値に対応するまで、化学イオン化/ドリフト領域136内の圧力を設定するサンプル供給部128または電磁界を発生する電極(図示せず)を調節することができる。別の動作パラメータには、システム100における試薬イオンまたは生成イオンの速度またはエネルギ、流体サンプルの化学イオン化/ドリフト領域136内への流量(flow rate)、試薬イオンの化学イオン化/ドリフト領域136内への流量、サンプルの組成、サンプルおよび試薬イオンの相対的濃度、あるいは試薬イオンおよび生成イオンの相対的濃度が含まれる。実施形態の中には、制御モジュール152がシステム100の多数の動作パラメータを監視することもある。
【0059】
実施形態によっては、制御モジュール152が、システム100のパラメータを受信するおよび/または更新するためにプラズマ計測プロセスを用いることもある。このプラズマ計測プロセスは、例えば、プラズマ領域112からの発光スペクトルを監視することができる。発光スペクトルに基づいて、制御モジュール152は、プラズマ領域112内部における動作パラメータ(例えば、プラズマ・パラメータ)の値、例えば、特定の発光波長の強度を判定し、このパラメータが指定値または所望値から逸脱する場合、制御モジュール152は、これらのパラメータが当該パラメータに対する最適値に対応するまで、プラズマ・パラメータを調節することができる。制御モジュール152が最適な状態またはパラメータを達成することができない場合、異常状態を検出および/または登録するとよい。
【0060】
実施形態によっては、質量フィルタ(図示せず)をマイクロ波/RFプラズマ領域112と化学イオン化/ドリフト領域136間に配置することができる。質量フィルタは、試薬イオンを選択的に通過させて化学イオン化/ドリフト領域136に到達させるために用いることができる。実施形態によっては、質量フィルタは四重極質量フィルタであることもある。
【0061】
システム100は、システム100全体における圧力に値を確定するために、1つ又は複数のポンプ(図示せず)に結合されている1つ又は複数のポート(図示せず)を含む。例えば、マイクロ波/RFプラズマ領域112、化学イオン化/ドリフト領域136、排気ドリフト外側チェンバ124、および質量分光計モジュール148内における圧力値を、1つ又は複数のポンプによって維持する。
【0062】
図2は、質量分光分析システム(例えば、図1のシステム100)のための試薬蒸気供給アセンブリ200の断面図である。アセンブリ200は、一定のまたは安定した蒸気の流束または流動体をエネルギ源、例えば、図1のプラズマ発生器108に供給するように構成されている。アセンブリ200によって供給された蒸気は、1つ又は複数の試薬分子を含み、これらはマイクロ波またはRFプラズマによってイオン化することができ、試薬蒸気と呼ばれることもある。アセンブリ200は、流体供給部を収容するリザーバ202を含む。リザーバ202は、ステンレス鋼またはその他の適した金属で製作することができる。
【0063】
実施形態によっては、リザーバ202が水または純水を貯蔵して水蒸気を発生することもある。図示のように、リザーバ202は5つのポートを含む。ポート204は、流体をリザーバに導入する管即ちチャネルに接続することができる(例えば、水または流体供給部を満タンにする)。ポート206は、試薬蒸気を質量分光分析システムに配給する、即ち、受け渡す管即ちチャネルに接続することができる。ポート208は、リザーバ202内にある流体についての測定値を得る管即ちチャネルに接続することができる。例えば、ポート208は、リザーバ208内部の頭隙圧力を判定するために、容量式マノメータ・ゲージに結合することができる。実施形態によっては、ポート208を用いないこともある。ポート216は、リザーバ202の中にある流体の量を測定する管即ちチャネルに接続することができる(例えば、水位指示器に接続するため)。ポート218は、リザーバ202から流体を抜く、即ち、空にする管即ちチャネルに接続することができる。ポート208および216の各々は任意であり、実施形態によっては、システム200には含まれないことも、質量分光分析の動作には用いられないこともある。実施形態によっては、ポート204、206、208、216、および218の各々が、直径0.25インチ(約0.635センチメートル)の管に接続できる場合もある。他のサイズの管即ちチャネルでも、これらのポートに接続することができ、更に管即ちチャネルは同じサイズである必要はない。
【0064】
実施形態によっては、リザーバ202を特定の高温まで、リザーバ202を包囲するヒータ・ジャケット214を用いて加熱することもある。実施形態によっては、図1の制御モジュール152を熱電対212に結合することもある。リザーバ202(およびその中にある流体)の温度は、質量分光分析システムの動作に応答して、制御モジュール152によって維持、規制、および調節される動作パラメータとすることができる。この制御により、ユーザは液体表面210よりも上にある頭隙213における蒸気圧を、指定値または所望値に維持することが可能となる。
【0065】
また、アセンブリ200は、質量流量コントローラ224に流体連通して結合されている配管222も含む。質量流量コントローラ224は、配管226を通過してプラズマ領域230に流入する試薬蒸気の量を決定することができ、試薬イオンの生成は、マイクロ波またはRFエネルギを試薬蒸気に印加することによって行われる。実施形態によっては、質量流量コントローラ224を、アセンブリ200(図示せず)から離れて位置する別個の電子回路を有する加熱質量流量コントローラとすることもできる。
【0066】
質量流用コントローラ224と一緒にまたはその代わりに、他の種類の流量コントローラを用いることができる。図示のように、アセンブリ200は、プラズマ領域230内部における圧力の値を示すためにゲージまたはモニタ228を含む。このゲージは、容量式マノメータ・ゲージである。実施形態によっては、図1の制御モジュール152をゲージまたはモニタ228に結合し、プラズマ領域230内部の圧力を、制御モジュール152によって維持、規制、および調節する動作パラメータとすることもある。実施形態によっては、ゲージまたはモニタ228をアセンブリ200に含めないこともある。
【0067】
実施形態によっては、配管222および管226をステンレス鋼で作り、約0.25インチ(約0.635センチメートル)の外形を定めることもある。管229は、アセンブリ200の本体をプラズマ領域230から電気的に分離する。実施形態によっては、管229をポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)で作り、約0.25インチ(約0.635センチメートル)の外形を定めることもある。プラズマ反応領域230内部の圧力は、質量分光分析動作の間約1から5torr(約100から700パスカル)とすることができる。アセンブリ200内部の圧力は、アセンブリ200外部にあるポンプ(図示せず)によって維持されている。例えば、図1のドリフト外側チェンバ124に結合されている(そして、更に化学イオン化/ドリフト領域136に結合されている)ポンプを用いて、アセンブリ200との流体連通によって、アセンブリ200内部の圧力を確定することができる。図1の化学イオン化領域136は、開口122およびプラズマ領域/管112を通じて、アセンブリ200と流体連通するように結合することができる。
【0068】
実施形態によっては、ポート220は、試薬蒸気を他の気体と混合して、マイクロ波またはRFエネルギの印加の間試薬イオン生成を改善するために用いられる。例えば、混合気体は、アルゴン、窒素、またはアルゴン/窒素混合物とすることができる。実施形態によっては、試薬イオン発生に用いられる気体または気体混合物(例えば、NOまたはO)は、ポート220を通じて導入され、リザーバ202は弁(図示せず)によって配管222からは流体的に分離されている。
【0069】
図3は、試薬イオン発生方法のフロー・チャート300である。ステップ305において、試薬蒸気を供給する。例えば、試薬蒸気は、試薬蒸気の比較的一定なまたは安定した流動体を供給するように、図2に示したシステム200にしたがって供給することができる。試薬蒸気は、純粋蒸気、あるいはアルゴンまたは窒素またはその混合物のようなプラズマ混合気体と混合した水蒸気とすることができる。実施形態によっては、試薬蒸気が、一酸化窒素(NO)または二原子酸素(O)のような試薬種を含むこともある。
【0070】
ステップ310において、エネルギを試薬蒸気に供給する。実施形態によっては、エネルギがマイクロ波放射線であることもあり、イオン化したマイクロ波プラズマを形成するために用いられる。実施形態によっては、エネルギが高周波RF電力であることもあり、例えば、容量結合されたRFエネルギ源によって生成される種類のRFプラズマを形成するために用いられる。マイクロ波エネルギとは、一般に、約800MHzよりも大きく約300GHzよりも小さい周波数値を有する電磁波によって生成されるエネルギ(例えば、放射エネルギ)のことを言う。高周波RFエネルギとは、一般に、約400kHzよりも大きく約800MHzよりも小さい周波数値を有する電磁波によって生成されるエネルギ(例えば、放射エネルギ)のことを言う。特に、RFエネルギは、工業、化学、および医療(「ISM」)無線中央帯域周波数によって指定される周波数値の範囲内で供給することができる。
【0071】
ステップ310において印加されるエネルギは、試薬蒸気の流束の中にある分子を付勢または励起して、試薬イオンを発生する。試薬蒸気流における分子は、プラズマによってイオン化される。例えば、水蒸気を試薬蒸気として用いる場合、ハイドロニウム・イオンが、多段階反応によって生成される。
【0072】
e−+HO→HO++2e−反応1
O++HO→HO++OH反応2
反応1は、水分子(H0)と相互作用するイオン化プラズマからの自由電子(e−)との相互作用を伴い、正荷電、イオン化水分子および第2自由電子を形成する。反応2では、正荷電水分子が中性水分子と相互作用して、ハイドロニウム・イオン(HO+)およびヒドロキシル基を形成する。ハイドロニウム・イオンは、流体サンプルとの今後の相互作用のための試薬イオンとなることができる。
【0073】
マイクロ波および高周波RFプラズマの双方が望ましいのは、試薬イオン種、例えば、ハイドロニウム・イオンの生成に必要とされるイオンおよび電子の豊富な源泉を発生する効率的な手段を提供するからである。更に、マイクロ波および高周波RFプラズマは、比較的清浄であり、電極がプラズマに直接接触する中空カソード/グロー放電プラズマ源に付随することが多い内部スパッタリングが殆どまたは全くない。マイクロ波および高周波RFプラズマ源に「電極がない」という特質は、電極腐食に付随する不安定性およびドリフトの影響が低減することを意味する。更に、マイクロ波および高周波RFプラズマ源は、比較的一定の、高いレベルの試薬イオンを供給することができる。
【0074】
実施形態によっては、図3の方法が、マイクロ波または高周波RFプラズマの圧力を測定することを伴う追加ステップ(図示せず)を含むこともある。プラズマ圧力の値は、質量分光分析システムの制御パラメータとすることができる(例えば、図1の制御モジュール152によって制御することができる)。また、プラズマ圧力は、試薬蒸気(例えば、アセンブリ200からの)のしかるべき供給を判断するためにも用いることができる。
【0075】
図4は、本発明を具現化する質量分光分析方法400を示すフロー・チャートである。ステップ405は、試薬蒸気を供給することを含み、ステップ410はマイクロ波またはRFエネルギを試薬蒸気に供給して、例えば、図3に関して先に論じたような、試薬イオンを発生することを含む。次いで、試薬イオンは、プラズマ反応領域と化学イオン化/ドリフト領域との間における圧力低下によって生ずる流体流減少と、化学イオン化/ドリフト領域内部にあるイオン抽出オリフィスまたは電極からの電磁界勾配の影響との組み合わせによって、化学イオン化/ドリフト領域に導かれる。
【0076】
ステップ415において、流体サンプル(例えば、1つ又は複数の揮発性有機化合物の分子を含有する気体)が試薬イオンと相互作用する。流体サンプルおよび試薬イオンを混合すると、その結果、流体サンプルと試薬イオンとの間に相互作用が生ずる。例えば、流体サンプルは、流入ラインを通って試薬イオンの流れに供給することができ、流入ラインは、ドリフト外側チェンバを貫通して、化学イオン化/ドリフト領域内に達する。サンプル供給部と化学イオン化/ドリフト領域との間における圧力低下が、流体サンプルを搬送する流体流の化学イオン化/ドリフト領域の流入を促進することができる。化学イオン化/ドリフト領域は、電磁界を含み、この電磁界がその領域内部における試薬イオンの移動を促進し、更に試薬イオンと流体サンプルの構成物との間の衝突を促進する。試薬イオンと流体サンプルの構成物との間の衝突の結果、流体サンプルの粒子をイオン化する化学反応が起こる。ハイドロニウム・イオンおよび陽子親和性が水よりも大きい構成分子のサンプル種Rを伴う化学反応の一例を、以下に示す。
【0077】
O++R→RH++HO反応3
ハイドロニウム・イオンおよび化学種Rを伴う化学反応は、低エネルギおよび/または軟イオン化(soft ionization)相互作用である。サンプル分子の完全性(integrity)が著しく変化することはなく、例えば、電子衝突イオン化のような、これよりもエネルギが高いイオン化プロセスと比較すると、サンプルの分子断片化は減少する、または最低限に抑えられる。更に、陽子親和性が水よりも低いサンプルにおける化学種は、ハイドロニウム原子との衝突によってイオン化されず、したがって質量分光分析の間には検出されない。このような化学種の例には、空気の極普通の構成物が含まれ、二原子窒素、二原子酸素、アルゴン、二酸化炭素、およびメタンが含まれる。一般に、これらの空気の構成物は、サンプル内に極少量存在する構成物と比較すると、サンプルにおける空気の構成物の大きな割合に基づいて捕獲した質量スペクトルにおいて、高い高度スペクトル・ピークを生ずる。高い強度のスペクトル・ピークは、近隣にある低強度のピークを曖昧にする可能性があり、あるいは低強度のピークを高強度のピークから区別する際に困難さが増大する可能性がある。したがって、この化学イオン化技法の選択特質により、サンプルにおける低強度/痕跡レベルの化学種によるスペクトル・ピークを区別する能力を高めることができる。
【0078】
ステップ420において、試薬イオンおよび生成イオンは、化学イオン化/ドリフト領域の外側に、レンズまたは流出オリフィス・アセンブリを通って、質量分光計の捕収領域に向けて導かれる。実施形態によっては、試薬イオンおよび生成イオンが、化学イオン化/ドリフト領域内において確立される電磁界によって、化学イオン化/ドリフト領域の外側に導かれることもある。試薬イオンおよび生成イオンは、化学イオン化/ドリフト領域の終端において、オリフィスから出て、レンズ・アセンブリを通過し、イオン抽出オリフィスを通過して、質量分光計モジュールの中に達する。レンズ・アセンブリは、集束開口を特徴とすることができ、または三要素アインツエル・レンズを特徴とすることができる。実施形態によっては、イオン抽出オリフィスをフランジの内部に配置することもある。試薬イオンおよび生成イオンを導いてオリフィスを通過させる電界を発生するように、レンズ・アセンブリおよびイオン抽出オリフィスに電位を印加することができる。一般に、質量分光計モジュールは、質量分光計およびその構成要素の有効な動作のために分子流状態が優勢となることを確保するために、比較的高い真空において動作させる。
【0079】
質量分光計モジュールは、四重極質量分光計または飛行時間(time of flight)型質量分光計を含むことができる。いずれの種類の質量分光計についても、試薬イオンおよび生成イオンは、質量分光計の捕収領域に導かれる。これらのイオンは、捕収領域において検出器と衝突し、その結果得られる電流が質量分光計において増幅される(例えば、電子増倍管と前置増幅器の組み合わせを用いる)。捕収器からの入力に基づいて、質量分光計は、試薬イオンおよび生成イオンについてのデータを蓄積し、収集したイオンの質量値(または質量電荷比)および分量を示す信号スペクトルを発生する。
【0080】
ステップ425は、例えば、発生した質量スペクトルに基づいて、試薬イオンおよび生成イオンの質量並びに分量を判定することを伴う。質量スペクトルにおいて細かく分解されたピークを用いると、試薬イオンおよび生成イオン双方の正確な質量または質量電荷比を判定することができる。また、これらのピークの具体的な位置から、スペクトル信号または信号ピークから判定された質量値と既知の質量の分子またはイオンとの比較によって、流体サンプルの成分の特定が容易になる。実施形態によっては、解析モジュールを用いて信号スペクトルを表示すること、および/またはスペクトルにおけるピークの存在および位置を判定することができる。
【0081】
図5は、本発明を具現化する四重極質量分光分析システム500の断面図である。システム500は、化学イオン化/ドリフト領域508に結合されている試薬イオン源504を含む。システム500における試薬イオン源504は、マイクロ波エネルギ源に基づいており、マイクロ波エネルギ源は、共振キャビティ520の開口516を貫通して配置されているスタブ・アエリアル(stub aerial)514を有するマグネトロン512を含む。実施形態によっては、試薬イオン源エネルギ源504は、RFエネルギ源のような、高周波エネルギ源に基づくこともできる。また、試薬イオン源504は、開口528を通って共振キャビティ520を通過する管524も含む。また、管524は、2つのマイクロ波チョーク532も貫通する。これらのチョーク532は、共振キャビティ520の外面536上に配置されている。マイクロ波チョーク532は、共振キャビティ520または管524から漏れる(escape)マイクロ波エネルギの量を低減し、システム500の他の構成機器に広がるマイクロ波エネルギを低減する。管524は、シリカ、またはクオーツのようなシリカ材料で作ることができる。実施形態によっては、管524をサファイアで作ることができる場合もある。管524の端部540は、試薬蒸気を試薬イオン源504に供給するために、試薬蒸気供給部(図示せず)の対応する端部(図示せず)の結合することができる。例えば、端部532は、図2に示す試薬蒸気供給システム200の管229に結合することができる。
【0082】
実施形態によっては、管524の外形が約6ミリメートルであることもある。共振キャビティ520は、y−軸に沿った長さlを定める。長さlは、共振キャビティ520の最も低い次数の共振モードの波長λ1つに対応するか、またはこれにほぼ等しい。管524は、共振キャビティ520の上面544からy−軸に沿って約1/4λの距離に位置付けられている。更に具体的には、管524は、共振キャビティ520から管524に移る共振エネルギを最大にするように、共振キャビティ520の波腹に位置付けられている。
【0083】
実施形態によっては、マグネトロン512は、900−ワット・マグネトロンであり、スタブ・エアリアル514は、マイクロ波電力を共振キャビティ520に供給する。この電力は、共振キャビティ520においてマイクロ波スペクトル内に周波数値を有する電磁波によって放射分散され、管524に移される。キャビティ520内部において共振エネルギが、管524の内側にある試薬蒸気と相互作用する結果、管524の内部にプラズマが発生する。試薬蒸気は、試薬蒸気供給部に結合されている端部540を通じて管524に入る。管524と化学イオン化/ドリフト・チェンバ508との間における圧力低下のために、試薬蒸気供給部は、試薬蒸気の流れを管内524に、例えば、x−軸に沿って供給または誘導する。試薬蒸気の連続流によって、管524の内側にマイクロ波プラズマが維持され、例えば、先に論じたように、1つ又は複数の試薬イオンを発生することを確保する。
【0084】
実施形態によっては、共振キャビティ520が、閉鎖端を有する銀めっきアルミニウム押し出し成型で作られることもある(例えば、キャビティ520の上面および底面548)。実施形態によっては、マイクロ波チョーク532は、円筒形状であり、中央線(図示せず)がx−軸に対して平行、同軸、または同一直線上となっている場合もある。マイクロ波チョーク532は、ステンレス鋼またはアルミニウムのいずれかで作ることができる。実施形態によっては、チャネル533がマイクロ波チョーク532の一方または双方の内部に配置されていることもある。チャネル533の長さは、y−軸に沿って約1/4lとすることができる。
【0085】
管524の第2端部552は、オリフィス板556の面557(図6参照)において終端する。オリフィス板556は、フランジ560内部に保持され、化学イオン化/ドリフト領域508に取り付けられている。試薬イオンは、管524からオリフィス・プレート556を通過して、化学イオン化/ドリフト領域508内に達する。化学イオン化/ドリフト領域508は、部分的に、ドリフト外側チェンバ562の中心を通りx−軸に沿って離間関係で配置されている環状電極564によって定められる。電極564の各々に電位を印加して、電磁界を発生する。実施形態によっては、電磁界がx−軸に沿って方向付けられた線形場勾配を有することもある。各電極に印加される正電位の値は、x−軸の正方向に沿って減少し、軸方向に向けられた線形電磁場勾配を発生する。非線形電磁場勾配を用いることもできる。電極564は、それらの間に配置されている環状絶縁素子568によって、互いに電気的に分離されている。電界によって、試薬イオン源504(例えば、管524)からの試薬イオンと、化学イオン化/ドリフト・チェンバ・ポート566において導入されるサンプルとの間における相互作用が促進される。
【0086】
また、ドリフト外側チェンバ562は、昇圧システム580に結合されている昇圧ポート576も含む。また、ドリフト外側チェンバ562は、電気フィードスルー・ポート(図示せず)、ならびにサンプル導入線(図示せず)の管コネクタ(図示せず)や、全圧力ゲージ572および第2ゲージ(図示せず)と流体連通するための管コネクタ(図示せず)を有するポート571も含む。実施形態によっては、昇圧システム580は、ダイアフラム・バッキング・ポンプ(図示せず)を有するターボモレキュラ・ポンプ(turbomolecular pump)を含むこともある。昇圧システム580は、ドリフト外側チェンバ562および化学イオン化/ドリフト領域508内に要求圧力を確立する。ドリフト・チェンバ508内部の圧力は、全圧力ゲージ572によって監視することができ、ドリフト外側チェンバ562内部の圧力は、第2ゲージ(図示せず)によって監視することができる。これらのゲージによって供給されるデータは、入力として、例えば、システム診断プロセスのために、制御モジュール(図示せず)に供給することができる。
【0087】
化学イオン化/ドリフト領域508およびドリフト外側チェンバ562は、両面フランジ586を介して質量分光計592の対応するフランジ588に結合されているフランジ584を含む。システム500内に図示されている質量分光計592は、四重極質量分光計である。質量分光計592は、分光計プローブ594を含み、昇圧システム596と流体連通して結合されている。昇圧システム596は、質量分光計592の内側の圧力を確立し、例えば、試薬イオンおよび生成イオンの質量の測定を容易にし、更に質量分光計内にある周囲成分(ambient components)との相互作用から生じるイオンの質量のこの測定に対する悪影響を低減する。
【0088】
化学イオン化/ドリフト領域508から質量分光計592に通過したイオンは、イオン抽出電極582によって、質量分光計プローブ594に導かれる。実施形態によっては、イオン光学アセンブリ(図示せず)をイオン抽出電極582と共に用いて、質量分光計592に受け渡される試薬イオンおよび生成イオンの数を増大させることができる。例えば、集束開口または三要素アインツエル・レンズを用いることができる。分光計プローブ594は、電気的なバイアスをかけられた四重極質量分析器または質量フィルタとすることができる。四重極質量分析器は、例えば、正方形の頂点としてそしてx−軸に並列に位置付けられた4本の平行な金属ロッドを含む。ロッドの対向する対は、電気的に結合されて、2つの電気的に結合されたダイポール(dipoles)を形成する。正DC電圧成分を有する第1RFエネルギまたは電圧を、第1ダイポールのロッドに印加することができ、負DC電圧成分を有する第2RFエネルギまたは電圧を第2ダイポールのロッドに印加することができる。質量フィルタを通過して安定した軌道上にあるイオンは、ロッドの間を、これらのロッドにほぼ平行な方向(例えば、正方形の中心軸に平行)に通過する。
【0089】
分光計プローブ594に印加されたRFおよび/またはDCエネルギは、質量選択発振場を発生する。質量選択場によって、概略的にx−軸に沿った方向を有する発振形状寸法(oscillating geometry)のような、指定された形状寸法のイオン軌道が得られる。軌道は、質量電荷比の値が指定範囲内であるイオンが実質的に検出器598に至る軌道を辿ることができ、一方指定範囲外のイオンは検出器598に至る軌道を辿らないように指定される。選択されなかったイオンは、ロッドと衝突し、検出器598によって収集されない。実施形態によっては、質量選択場は、四重極ロッドに印加されるエネルギ、例えば、電位、DCエネルギ、またはRFエネルギの値に応じて変化する。質量値の帯域幅は、特定の場の強度または流束によって選択することができる。加えて、分光計プローブ594は、質量選択場を変化させることによって、質量範囲に合わせて走査することができる。
【0090】
実施形態によっては、分光計プローブ594は、三重フィルタ四重極質量分析器と呼ばれる、直線状で同軸となった一連の3つの四重極を含むこともある。このような実施形態では、三重フィルタの第1および第3エレメントは比較的短い(例えば、約1インチ即ち2.54センチメートル)「RF専用」フィルタであり、これらに向けて送信されるRF電圧要素を第2または主フィルタによって搬送する。これらの「RF専用」前置および後置フィルタは、イオン・レンズとして機能し、質量フィルタ・アセンブリの内外にイオンを集束する。前置および後置フィルタをこのように用いる目的は、フィルタ・アセンブリを通過するイオンの透過を改善することであり、特に透過するイオンの数を増大させることによって、より大きな質量(例えば、約80原子質量単位よりも大きいもの)のイオンの透過を改善する。また、前置および後置フィルタは、フィルタの質量分解能および元素組成感度性能も改善する。三重フィルタ・アセンブリを通過することに成功したイオンは、検出器598によって収集される。実施形態によっては、検出器598が電子増倍検出器(electron multiplier detector)であることもある。電子増倍検出器は、検出器(図示せず)の入口または前面とのイオンの衝突によって発生する電気信号を増幅する。
【0091】
図6は、図5に示した化学イオン化/ドリフト領域508の拡大図である。化学イオン化/ドリフト領域508は、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620を含む。化学イオン化/ドリフト・チェンバ620は、抽出オリフィス616を定めるイオン抽出電極612上に実装可能である。試薬イオンがプラズマ領域608から化学イオン化/ドリフト領域508内に移動するときに、試薬イオンは抽出オリフィス616を通過する。イオン抽出電極612は、エネルギ源(図示せず)と流体連通して結合することができる。イオンは、抽出電極612に印加された電位によって発生する電磁界の影響の下で、抽出オリフィス616を通過する。抽出電極612は、セラミック・インサートまたは他の絶縁性材料で作られたインサートを有する1つ又は複数のネジ(図示せず)によってフランジ604に結合されている。これらのネジおよびインサートは、絶縁(例えば、セラミックまたはPEEK)カラー614を貫通し、更に抽出電極612をフランジ604から電気的に分離する。実施形態によっては、抽出電極612に印加される電位の値は、試薬イオンが、x−軸に実質的に平行な中心線Aに沿って化学イオン化/ドリフト領域508の化学イオン化/ドリフト・チェンバ620の中まで進行する際に、試薬イオンの平均エネルギに影響を及ぼすこともある。加えて、抽出オリフィス616のサイズおよび/または形状寸法は、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620に流入する試薬イオンの量を決定する。
【0092】
イオンは、抽出電極612内にある抽出オリフィス616を通過し、更に実質的に中心線A(例えば、軸方向、即ち、x−軸に平行)に沿って化学イオン化/ドリフト・チェンバ620に流入する。1つ又は複数の板電極624およびドリフト端板電極625(電極スタックとも呼ぶ)の各々に印加された電位によってドリフト領域620内に電磁界が発生する。これらの電極は、金属またはその他の導電性材料で作ることができる。実施形態によっては、板電極624およびドリフト端板電極625は、各々環形状をなし、中心のオリフィス630および633が中心線Aと一直線状となっている。各板電極の中央オリフィス630は、直径を約10ミリメートルとすることができる。ドリフト端板電極の中央オリフィス633は、直径を約1から2ミリメートルとすることができる。他の直径および形状寸法(例えば、非円形)も、本発明の範囲に該当するものとする。板電極624およびドリフト端板電極625は、1つ又は複数の絶縁カラー628によって、物理的に分離されそして電気的に絶縁されている。実施形態によっては、絶縁カラー628が環形状をなし、中央オリフィス631が中心線Aと一直線状となっていることもある。絶縁カラー628における中央オリフィス631の直径は、約20ミリメートルとすることができる。他の直径および形状寸法も、本発明の範囲に該当するものとする。絶縁カラー628に適した材料には、英国、ランカシャーのVictrex plc社が販売する、PEEK(商標)で作られたカラー、またはペンシルベニア、ReadingのQuadrant Engineering Plastic Productsが販売するSEMITRON(登録商標)のような、静的消散プラスチック(static dissipative plastic)で作られたカラーのような、ポリマ材料が含まれる。O−リング(図示せず)が、絶縁カラー628の各々のいずれかの側において、環状溝内部に配置されている。O−リングは、絶縁カラーと板電極624またはドリフト端板電極625との間の界面において機密封止を促進する。実施形態によっては、これらのO−リングは、デラウェア、WilmingtonのDu Pont Performance Elastomersが販売するVITON(登録商標)フッ化エラストマで作ることができることもある。
【0093】
抽出電極612、板電極624、およびドリフト端板電極625は、協同して化学イオン化/ドリフト・チェンバ620内部に電磁界を発生する。実施形態によっては、この電磁界はx−軸に沿って線形な場勾配を有することがある。または、電磁界勾配は、例えば、抽出電極612、板電極624の各々、およびドリフト端板電極625に印加される電位間の差に基づいて、非線形にすることもできる。この電磁界は、試薬イオンを誘導し、試薬イオンとサンプル流体の構成物との間の相互作用を促進する。
【0094】
実施形態によっては、x−軸に沿って増大する方向に、板電極624およびドリフト端板電極625の各々に、中心線Aに沿って電位を減少するように印加して、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620内部における試薬イオンおよび生成イオンの流動を促進する。サンプル気体は、例えば、図1において論じたように、サンプル供給部(図示せず)からドリフト外側チェンバにおけるポート(例えば、図5のポート571)を通過し、次いで絶縁カラー628の側面におけるポート632を通過して、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620に供給される。別の絶縁カラー628の側面にある同様のポートは、図5のポート571におけるゲージ572と流体連通し、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620内部の圧力測定を容易にすることができる。実施形態によっては、サンプル供給部が質量流量コントローラを備えており、これを用いて、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620に流入する流体サンプルの流量を制御する場合もある。サンプル気体は、x−軸に沿って増大する方向に中心線Aに沿って進行し、試薬イオンと相互作用する。板電極624およびドリフト端板電極625は抽出電極612に固着されており、抽出電極612は、板電極624およびドリフト端板電極625を化学イオン化/ドリフト・チェンバ620内部で支持する。
【0095】
実施形態によっては、電極612、624、および625の各々に電位を供給するために、制御モジュール(図示せず)をイオン抽出電極612、板電極624の各々、およびドリフト端板電極625に結合する。また、制御モジュールは、場の勾配、圧力、または検出したイオン強度のような、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620内部におけるその他のパラメータも監視する。特定の監視対象パラメータに対する値が所定の閾値から逸れる場合、制御モジュールは、イオン抽出電極612、板電極624の各々、およびドリフト端板電極625に印加する電位の値をリセットまたは調節することができる。
【0096】
実施形態によっては、制御モジュールは、イオン抽出電極612、板電極624の各々、およびドリフト端板電極625の電位を、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620のパラメータの変化に応答して、フィードバック・ループを通じて自動的に変化させることもある。例えば、制御モジュールは、初期状態またはモードとして、所与のサンプル監視要件にとって最適なe/n(例えば、電荷密度)設定値を定める電界勾配および圧力を確立することができる。実施形態によっては、制御モジュールは、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620のパラメータを監視し、電界勾配および/または圧力のリアル・タイムの調節によって、最適なe/nレベルを維持することもできる。実施形態によっては、制御モジュールは、ユーザが行ったe/nレベルの調節に基づいて、例えば、2つの同重核化合物(isobaric compound)間で判別するために異なるe/nレベルを用いるときに、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620の場勾配および/または圧力レベルに対して変化させることもできる。実施形態によっては、イオン抽出電極612、板電極624の各々、およびドリフト端板電極625によって確立される電界勾配が、x−軸(または中心線A)に沿って線形となることもある。実施形態によっては、電界勾配が非線形となることもある。制御モジュールが監視することができ、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620内部における電界、圧力、およびe/nレベルと関連がある可能性がある別のパラメータには、生成イオンの試薬イオンに対する比率がある。
【0097】
ドリフト外側チェンバ562は、固定フランジ636を組み込んでおり、質量分光計644の対応するフランジ640に、それらの間に配置されている両面フランジ648によって固着されている。抽出オリフィス656を定めるイオン抽出電極652が、例えば、1つ又は複数の絶縁されたネジ660によって、フランジ648に固着されている。絶縁カラー658(例えば、セラミックで作られている)が、イオン抽出電極652を両面フランジ648から電気的に分離する。金属板659が、絶縁カラー658を遮蔽し、表面電荷の蓄積を低減する。表面電荷は、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620と質量分光計644との間にある領域657において、イオン光学素子と干渉する可能性がある。イオン抽出電極652に電位を印加して、試薬イオンおよび生成イオンを化学イオン化/ドリフト・チェンバ620から質量分光計644に誘導する場を形成する。質量分光計644は、質量分光計644および分光計プローブ664の真空排気(vacuum pumping)および/または真空引き(evacuating)を促進するための1つ又は複数の孔668を有する分光計プローブ664を含む。分光計プローブ664は、実質的に中心線Aと平行に調節されており、イオンは中心線Aに沿って集束電極676を通って分光計プローブ664に入ることができる。分光計プローブ664は、解析モジュールに結合されている。解析モジュールは、分光計プローブ664に結合されている検出器(図示せず)によって収集された試薬イオンおよび生成イオンに基づいて、質量スペクトルを発生および/または表示する。実施形態によっては、領域657内において、化学イオン化/ドリフト・チェンバ620および質量分光計644との間に、追加のイオン光学素子(図示せず)を用いて、例えば、質量分光計644に到達する試薬イオンおよび生成イオンのレベルを最適化する。イオン光学素子は、集束開口または三要素アインツエル・レンズの形態をなすことができる。
【0098】
図7は、本発明を具現化する飛行時間型質量分光計システム700の平面図である。システム700は、イオンをシステム700に供給するイオン源704を含む。イオン源704は、生成イオンおよび試薬イオンを、例えば、化学イオン化/ドリフト領域508の化学イオン化/ドリフト・チェンバ620から供給することができる。イオンは、イオン源704から、イオン流によって、飛行時間型質量分光計708に流入する。イオンは、飛行時間型質量分光計708からは電気的に分離されているイオン抽出電極(図示せず)内にあるイオン抽出オリフィス(図示せず)を通って飛行時間型質量分光計708に流入することができる。イオン抽出電極に電位を印加して、飛行時間型質量分光計708内においてイオンを誘導する電磁界を発生することができる。
【0099】
飛行時間型質量分光計708は、昇圧システム712と流体連通して結合されている。昇圧システム712は、飛行チェンバ708内部の圧力を確立する。イオンは、1組のイオン・レンズ720を含む、イオン光学素子アセンブリ716に向けて導かれる。1つ又は複数の電位をイオン・レンズ群720に印加して、イオン・ビームを誘導し、その形状寸法を定める電磁界を供給する。例えば、イオン・レンズ720は、イオン流の可能な軌道を制限することによって、イオン流を集束するか、または体積を縮小することによってイオン流束を増大させることができる。また、イオン・レンズ720は、速度スペクトルまたはイオンの分布におけるばらつきを低減することもできる。実施形態によっては、イオン・レンズ720は、1つ又は複数のDC電位が印加される四重極レンズのような、静電レンズである。イオン・レンズ720は、集束場(focusing field)を発生し、これがイオン流と相互作用して、イオン流の方向(例えば、軌道728に沿った)の空間的ばらつきを最小限に抑える。光学アセンブリ716は、例えば、イオン流のイオン流束、モーメント、または速度を増大させるために、イオン・ビーム即ちイオン流の特性を最適化することができる。ビーム特性をこのように改善することによって、質量スペクトルの分解能向上、および質量スペクトルにおけるピーク検出の改善が可能となる。質量スペクトルにおけるピークは、特定の質量値を有する特定のイオンの素性または分量を示す。質量スペクトルおよびスペクトル・ピークの分解能向上によって、ピークとスペクトル・ノイズまたは信号ノイズとの間の差別化を改善することが可能となる。
【0100】
イオンは、イオン・ビーム調節器724に向かって導かれる集中流となって、光学アセンブリ716から流出する。イオン・ビーム調節器724は、飛行領域732を通過する軌跡728に沿ったイオン流を中断または変調するチョッパ・アセンブリとすることができる。実施形態によっては、イオン・ビーム調節器724を駆動システム(図示せず)、例えば、イオン・ビーム調節器724のパラメータを制御するディジタル電子制御モジュールに結合することもある。これらのパラメータは、指定された中断または流動パターンに応じて制御することができる。このようなパラメータは、イオン・ビーム調節器の中にある交流ワイヤに印加する正および負電圧を含む。これによって、電圧が印加されたときに、イオンの散乱が発生し、電位が印加されないときに、軌跡728に沿って途切れのないイオン流(または脈動)が生ずる。実施形態によっては、印加される正および負電圧の大きさを、最適性能を得るために調節することもできる。実施形態によっては、駆動システムは、指定パターンにしたがってイオン・ビーム調節器724のパラメータを制御し、例えば、特定の時間周期でイオン・ビーム調節器ゲートの開放および閉鎖を繰り返す。また、駆動システムは、ランダムなパターンまたは指定されていないパターンにしたがって、イオン・ビーム調節器724のパラメータを制御することもできる。実施形態によっては、駆動システムは、軌道728に沿って脈動するイオン流を発生することができる、疑似ランダム二進シーケンスに基づく。実施形態によっては、イオン・ビーム調節器724は、例えば、指定の流動パターンにしたがって、脈動イオン流を発生するように素早く切り換えることができるイオン・ゲートである。適したイオン・ゲートの一例に、ブラッドベリー−ニールソン・ゲートとして知られているものがある。
【0101】
イオンは、x−軸の減少方向に、そして第2光学システム736に向かって軌道728に沿って移動する。光学システム736は、イオンを反射させることによって、軌跡728の方向に影響を及ぼすおよび/または方向を変化させるリフレクトロン(reflectron)(ここでは736で示す)とすることができ、軌跡728aの経路は、軌跡728の経路と対称的になっており、対称軸がレフレクトロン736の中心を通過する。実施形態によっては、レフレクトロン736が1組の静電レンズ(図示せず)を含み、イオン流を反射する、および/または反射軌道728aに沿って方向転換することもある。実施形態によっては、レフレクトロン736が、2区間の互いに接合された抵抗性ガラス管で構成されることもある。グリッド(図示せず)が、レフレクトロン736の前面730に配置されており、第2グリッド738が2つの接合された管区間の間に位置付けられている。前面730にあるグリッド、2つの管区間の間にあるグリッド、そしてレフレクトロン736の背面734にあるグリッドに固定電位を印加することができる。このような構成によって、イオン反射のための電界勾配を、管内部に確立することが可能となる。光学システム736から流出した後、イオンは反射軌跡728aを辿って検出器740に達する。
【0102】
光学システム736は、例えば、捕獲した質量スペクトルにおける信号ピークの分解能を高めるために、イオンが飛行領域732において進行する経路長lを延長するために用いることができる。経路長lは、例えば、軌道728および反射軌道728aの各々の長さの和に基づいて、既知の長さまたは既定の値を有することができる。イオンが経路長lだけ進むのに要する時間量は、試薬イオンまたは生成イオンについて質量または質量電荷比を判定するために用いることができる。例えば、経路長lを横断するのに要する時間量は、光学システム716によって発生する電磁界の影響の下における加速の後に、飛行チェンバ708におけるイオンの速度または力学エネルギを示す。イオンが経路長lを横断するのに費やす時間を、ローレンツ力の法則およびニュートンの第2法則と共に用いると、質量または質量電荷率を判定することができる。また、光学システム736は、試薬イオンおよび生成イオンの力学エネルギのばらつきを補正するために用いることもできる。相対的に高い力学エネルギを有するイオン程、相対的に力学エネルギが低いイオンよりも光学システム内に深く進む(減少x−軸に沿って)。この現象は、貫通または反射貫通と呼ばれることもある。検出器740を軌道728または反射起動728aの焦点またはその近くに位置付けることによって、エネルギ分布の質量スペクトルに対する影響を低減する。
【0103】
イオン・ビーム調節器724の異なるパルスから飛行領域732を通過するイオンは、飛行領域732において混合して、検出器740が受信した信号または検出器740が発生した質量スペクトルのいずれかにおいて信号の畳み込みを生ずる。検出器740は、一般に、質量は同じであるがエネルギが異なるイオンが光学システム736から流出する際に、ほぼ同時に検出器によって収集されるように、エネルギ焦点またはその付近に位置付けられる。実施形態によっては、検出器740は、積層マイクロ・チャネル板型検出器(stacked micro-channel plate-type detector)である。検出器740は、パルス計数モードで動作する。パルス計数モードによって、個々のイオンが飛行領域732を通過した後に、検出器に到達する際に、これらのイオンを収集することが可能となる。実施形態によっては、検出器740は、信号判別器、増幅器、および/または時間−ディジタル変換器(TDC)と共に用いられる。
【0104】
イオン・ビーム調節器724が疑似ランダム二進シーケンス型脈動(pulsing)を用いる場合、検出器740によって収集されたイオンから捕獲される信号は、統計的信号処理技法のような、信号処理技法を用いて、分解分離することができる。統計的信号処理技法は、分解分離した信号またはスペクトルの統計的解析に基づいて、信号またはスペクトルに関する情報を提供する。捕獲した信号を分解分離(deconvolute)するのに適した信号処理技法の一例は、最尤信号処理である。
【0105】
最尤信号処理は、通例、測定したイベントに基づいて、統計的計算を行う。例えば、独立変数xおよび従属変数yを測定するN回のイベントの集合体において、iを1からNまでとすると、測定データxおよびyから当てはめ関数を決定することができる。当てはめ関数はm個のパラメータaを含み、iは1からmまでである。イベント毎に、当てはめ関数はy(x)≡y(x;a,a,...,a)という形態で書き表すことができる。イベント毎に、y(x)当てはめ関数を、正規化した確率密度関数P=P(x;a,a,...,a)に変換することができる。xの観察値において、確率密度関数Piを計算することができる。尤度関数L(a,a,...,a)は、個々の確率密度の積であり、
【0106】
【数1】

【0107】
となり、更に、種々のパラメータaの最尤値を、これらのパラメータに関する尤度関数L(a,a,...,a)を最小化することによって求めることができる。
【0108】
実施形態によっては、飛行時間型質量分光計700を、イオン・ビーム調節器724の疑似ランダム二進シーケンス脈動を用いて動作させて、畳み込み信号またはスペクトルを生成する。次いで、最尤信号処理を用いて、畳み込み信号またはスペクトルを分解分離する。このモードで用いる場合、イオン・ビーム調節器724は、利用可能総時間の約40%の間イオンを通過させ、利用可能なイオンの約50%を飛行領域732に通過させる。この飛行時間型質量分光計の「高デューティ・サイクル」動作によって、信号対ノイズ比の上昇、感度向上、およびダイナミック・レンジ拡大に関して、性能上の利点が得られる。実施形態によっては、飛行時間型質量分光計700を単一パルス・モードで動作させることもあり、その場合、イオン・ビーム調節器724の1つのパルスからのイオン全てを検出器740によって収集してから、イオン・ビーム調節器の後続パルスをトリガする。
【0109】
飛行時間型質量分光計700の「高デューティ比」動作によって得られる利点に加えて、最尤信号処理によっても、信号分解分離方法に勝る、追加の性能向上が得られる。最尤信号処理は、信号ノイズを、ガウス・ノイズではなくポアソン・ノイズとして扱う。また、最尤信号処理は、理想化した計器応答関数ではなく、実際の計器応答関数(instrument response function)、例えば、実際のイオン・ビーム調節器のパルス形状を参照することができる。これらの性能向上によって、信号の分解能の向上ならびに信号対ノイズ比およびダイナミック・レンジの一層の改善が促進される。
【0110】
実施形態によっては、最尤信号処理は、データ解析モジュール(図示せず)によって実行する。データ解析モジュールは、例えば、参照表あるいは単一変量または多変量確率方法に基づいて、質量スペクトルにおいて化学種を識別するためにも用いることができる。実施形態によっては、データ解析モジュールは、多変量統計的解析に基づくこともできる。適した多変量統計的解析の例には、例えば、部分的最小二乗判別解析(PSL−DA)あるいは、ホテリング型解析(Hotelling-type analysis)またはDModX型解析(DModX-type analysis)を用いた主成分分析が含まれる。実施形態によっては、データ解析モジュールは、サンプルデータを解釈して、サンプルが特定の母集団と関連があるか否か判断するために用いられることもある。実施形態によっては、データ解析モジュールは、システムの診断出力を監視して、システム、例えば、図1のシステム100において障害が発生したか否か判断することもある。
【0111】
本明細書に記載した質量分光分析システムおよび技法には多くの用途が存在する。特に、極少量または濃度の揮発性有機化合物を検出することができる。感度が上昇したこと、ならびに極微量の揮発性有機化合物をリアル・タイムで検出および識別することが可能であることから、本発明のシステムおよび方法は、種々の用途に備えている。特定的な用途には気体のサンプリング(例えば、環境空気、閉鎖空間からの気体、気体供給所からの気体、固体サンプルまたはコンテナから放出される気体、あるいは食品または飲料製品の上にある頭隙内にある気体)が含まれる。次いで、サンプリングされた気体を気体サンプル流入ポートに導入し、試薬イオンと相互作用させて生成イオンを形成する。揮発性有機化合物の特定的な供給および検出は、気体サンプル流入ポートをどのようにそしてどこに位置付けるかに呼応する。
【0112】
実施形態によっては、気体サンプル流入ポートは、用途の必要性に合わせて気体サンプル流入ポートを特別に形成するために、用途特定機構を含む。例えば、医療診断用途では、気体サンプル流入ポートを、人間の鼻および口を覆うフェース・マスクに結合するとよい。また、気体サンプル流入ポートまたはフェース・マスクがバクテリア・フィルタを組み込むことも可能である。粒子を含有する環境からのサンプリングを伴う用途では、粒子フィルタを、例えば、サンプリング・ラインまたは気体サンプル流入ポートに組み込むとよい。サンプル蒸気が含有する化学種が凝縮できる用途では、システム(例えば、サンプル・ライン)にヒータを内蔵して、サンプル・ラインを具体的な温度まで加熱してもよい。
【0113】
サンプル気体捕収器の例には、コンテナ、キャニスタ、あるいは気体サンプル流入ポートの中まで気体を通過させる流出ポートを内蔵する真空系製品が含まれる。気体捕収器は、ガスが発見された環境においてこのガスを収集し、後の分析のためにこのガスを蓄積することができ、この場合、捕収器は比較的ガス不浸透性である。実施形態によっては、気体捕収器は流出ポートを含むこともあり、この流出ポートは、リアル・タイムの検出および/または監視のために、サンプル気体流入ポートの中およびドリフト・チェンバの中まで繋がっている。
【0114】
以下に記載する質量分光分析システムおよび方法の種々の応用は、本発明の範囲および主旨に該当するものとする。記載した質量分光分析技法の応用カテゴリの1つでは、環境空気を含む空気における揮発性有機化合物の微量レベルの濃度の測定を伴う。環境空気は、閉鎖空間または非封鎖空間からサンプリングすることができる(例えば、気体サンプル流入ポートを環境空気の近傍に位置付けることによって)。
【0115】
揮発性有機化合物は、都市内および町中において、および/または工業現場の近傍において、車両の排気ガスまたは汚染物の検出のために、都市区域において監視することができる。これらを人間に起因するVOCと呼ぶこともある。例えば、工業現場は、化学工場、廃棄物焼却プラント、鉄鋼および/またはセメント生産向上を含む可能性がある。工業設備は、ダイオキシン代用物(およびダイオキシン系化合物)、フラン(およびフラン系化合物)、クロロフェノール、ナフタレン、ベンゼン、トルエン、エチレン、キシエチレン(xyethylene)(纏めて、BTEX)種のような、VOCを排出する可能性がある。更に、VOC発案権(initiative)または非メタン有機化合物発案権のような特定のプログラムに応答して、米国における環境保護庁または他の国における環境省(MfE)のような、規制監督官庁によってVOCまたは都市の有害空気汚染物が特定されている。
【0116】
実施形態によっては、廃棄物焼却プラントまたは煙突の付近に気体サンプル流入ポートを位置付けることは、排出を減少させるためのリアル・タイムの監視および調節(例えば、リアル・タイムのフィードバック)に有用である。また、このようなリアル・タイムの監視は、先に述べた洗浄機の効率を確認するため、そして燃焼プロセスを最適化するためにも有用である。
【0117】
実施形態によっては、閉鎖空間における空気内のVOC含有量を監視するために、気体サンプル流入ポートを、その閉鎖空間内に位置付けることもある。閉鎖空間の例には、建造物内部、車両内部、および航空機の客室内部が含まれる。ガスは、作業空間位置(例えば、半導体製造設備におけるクリーン・ルームまたは鋳造工場)からサンプリングして、環境規制(例えば、労働安全衛生規制)に対する遵守を確認することができる。また、気体サンプル流入ポートは、周囲空気の制御のため、「シック・ビルディング」シンドロームを調査するため、建造物の漏洩を含む建造物材料の劣化を検出するため、そして建造物内部における消費者製品(consumer product)(例えば、塗装膜や材料によって放出される煙霧)を検査するために、建造物における空気処理および濾過システムのリアル・タイム監視および検出のために用いることができる。
【0118】
本明細書において記載した質量分光分析は、森林および/または植物によって、例えば、都市以外、田園、または遠隔地において放出されるVOCを監視および検出するために用いることができる。通例、この種のVOCは「生物源」VOCとして知られている。実施形態によっては、ガスは、土壌サンプルを収容するベッセルの頭隙からサンプリングする(例えば、汚染現場から取ったまたはその周囲から取った土壌サンプルにおけるVOCを検査するため)。質量分光分析技法は、埋め立てごみ処理現場、畜産地帯(集中動物飼育経営を含む)、および/または給水組織によって放出されるガスを監視、検出、および分析するために用いることができる。
【0119】
非密閉空間では、気体サンプル流入ポートは、自動車または航空機のエンジン排気管よりも下流に位置付けて、このような排気ガスまたは、硫化水素(HS)を含むその他の対象ガスのVOC含有量を監視および/または定量化することができる。また、本明細書において記載した技法は、大気の気体を取り込むように気体サンプル流入ポートを位置付けることによって、大気の化学的性質(atmospheric chemistry)および/または大気組成の研究においても応用することができる。このような気体を分析して、光酸化プロセスおよび/または同重核化合物を含む可能性がある二次有機煙霧質の形成に至るその他のメカニズムを研究し評価する。
【0120】
また、本明細書において記載した技法は、食品および飲料工業にも応用することができる。例えば、食品または飲料製品の上にある頭隙は気体を含有しており、質量分光分析を用いてこの気体を分析することができる。頭隙は、閉鎖空間(例えば、封止したコンテナの内部)または非閉鎖空間でも可能である。
【0121】
食品および飲料用途の例では、例えば、コーヒー、オリーブ油、日常製品、肉製品(家禽および豚肉を含む)、魚貝製品、ハーブおよびスパイス、ビール、ワイン、ならびにその他のアルコール飲料のような、種々の食料品において、風味(flavor)および/または香り(aroma)を監視、識別、および類別することが含まれる。気体の中にあるフレーバーは、異なるフレーバーに寄与するVOC成分に基づいて判断および/または識別することができる。化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析は、例えば、食品におけるバクテリアの活動の結果として生成されるVOCの分析によって、食品の損傷および/または腐敗を監視するために用いることができる。本明細書における質量分光分析は、食品(例えば、食パン)の新鮮さを判定するため、そして品質保証および品質制御に備えるため、更には製品の安定性および保存寿命を判断するのに役立つことができる。質量分光分析技法は、混合、配合、焼く、および調理を含む、食品製品のプロセスの監視において用いて、特定の食品分量が流通または消費に適していないかどうか判断することができる。
【0122】
食品および飲料工業において、質量分光分析は、食品包装からの食品における汚染を検出するために用いることができる(例えば、溶剤の残留、またはプラスチック食品包装からの汚染物)。本明細書における質量分光分析技法は、水溶性および脂溶性酸化防止剤および/または種々の食品において用いられるその他の食品添加物を検査する際にも応用することができる。
【0123】
また、化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析は、医療および健康管理分野において、診断または予知用計器として応用することができる。例えば、気体サンプル流入ポートは、人間の口の近くに位置付けると、人間の呼吸を収集して質量分光分析システムに供給することができる。呼吸におけるVOCは、被験者における特定の疾病または身体状態の存在を示すことができる。VOCを伴う呼吸分析の応用には、様々な例が存在する。例えば、呼吸を分析すると、様々な種類の癌を検査することができ、例えば、特定のアルカンまたはベンゼン誘導体を検出することによって肺癌を見つけることができる。また、呼吸は、結核、糖尿病、カビ感染(fungal infection)(例えば、骨髄患者において)、精神分裂病、および/または双極性障害のようなその他の状態について、患者の呼吸におけるVOC種およびその分量に基づいて分析することができる。
【0124】
また、本明細書において記載した質量分光分析は、腎臓またはその他の腎臓機能を監視するためにも用いることができる。嚢胞性線維症を患う人間の呼吸には、バクテリア感染がある場合に、特定のVOCを含み、この感染を診断することができる。実施形態によっては、人間の呼吸が臓器移植拒絶を示す特定のVOCを含むこともある。また、人間の呼吸は、極微量の濃度で、能力増強剤を含む可能性もあり、記載した分光分析によってこれを検出することができる。呼吸分析およびVOCの検出は、競技者や患者のための食事および訓練養生法を個別に作成するために用いることもできる。本明細書において記載した質量分光計を用いた人間の呼吸のVOC分析によって、新陳代謝機能の評価および監視、ならびに甲状腺問題の診断が可能になる。
【0125】
化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析は、安全保障、生物安全保障(bio-security)、法科学、および犯罪調査の分野において応用することができる。例えば、本明細書に記載したシステムおよび方法は、爆発物、化学戦闘兵器用薬品(CWA:Chemical Warfare Agent)および/または戦場ガス、燃焼加速剤(放火の調査において)、ならびに埋蔵体の位置を監視および検出するために用いることができる。更に、気体サンプル流入ポートは、人間の呼吸を収集してCWAまたは戦場ガスに対する露出がないか検査するように位置付けることができる。質量分光分析は、異なる体液(例えば、犯罪場面において収集される証拠)の特徴を示す特定のVOCを検出し分析するために用いることができる。また、本明細書において記載した概念は、麻薬および/または薬物悪用の呼吸分析による検査(screening)および検出にも応用することができ、または気体サンプル流入ポートを、薬剤を貯蔵する疑いがあるコンテナに結合することによって、検査および検出にも応用することができる。更に一般的には、気体サンプル流入ポートを出荷コンテナまたはパッケージに結合すれば、生物安全保障の脅威(例えば、炭疸または胞子)を有する素材または物質の特徴を示すVOCを検出することができる。
【0126】
また、記載した技法は、農産物を監視して、VOCの存在によって証拠付けられる、農害虫および病原菌汚染を検出することもできる。例えば、気体サンプル流入ポートを穀類の近くに位置付ければ、その穀類における菌性毒素(マイコトクシン)の存在を検出することができる。また、化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析は、収穫後農産物(例えば、食品および飲料生産会社に流通させる前)カビまたは昆虫を検出するために用いることができる。
【0127】
また、化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析の用途は、例えば、製品開発段階における製品の分析および検査のように、美容化粧品、洗面用化粧品、および消費者薬品工業にも存在する。また、質量分光分析は、流通前にあらゆる異常または欠陥製品を検出するためにも、生産プロセスの間に採用することもできる。
【0128】
美容化粧品、洗面化粧品、および消費者薬品工業からの用途の例には、特定の芳香(例えば、香水、口臭防止剤、および消臭剤)に寄与するVOC成分の特定に基づく、芳香の研究および開発が含まれる。本明細書に記載した概念は、洗面化粧品および消費者製品の開発および検査にも応用することができる(例えば、検査または研究室環境においての使用中におけるVOC含有量を監視し、VOCレベルを検出する)。このような製品には、うがい薬、歯磨き粉、石鹸、殺菌軟膏およびクリーム、消臭剤、および口臭防止剤が含まれる。口腔衛生製品も、呼吸分析を用いて、分析および監視することができる。食品および飲料工業と同様、化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析は、美容化粧品、洗面化粧品、および消費者薬品製品についての、製品の安定性および/または貯蔵寿命の査定(assessment)を含む、総合的品質制御および/または品質保証プログラムに用いることができる。
【0129】
化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析には、更に別の用途も存在する。例えば、記載した概念は、生物薬品産業におけるプロセス監視および制御、例えば、発酵プロセス中に生成されるVOCを監視し識別するために用いることができる。ある規制当局(例えば、ASTM International)が、生物薬品製品製造の品質、安全性、および効率を向上させるための目標を公表している。製造プロセスの間オンライン分析のためにサンプルを収集するように気体サンプル流入ポートを位置付けることによって、これらの規制の目標を更に可能にする。
【0130】
実施形態によっては、質量分光分析は、植物の葉の損傷および防衛メカニズムに付随する極微量濃度のVOCを検出するために、生物研究の目的に用いることができる。実施形態によっては、気体サンプル流入ポートは、ガス供給部、例えば、炭化水素地質(hydrocarbon plume)からサンプルを収集するように位置付けられる。ガス供給部のVOC含有量は、前述した方法にしたがって判定される。炭化水素地質は、石油および/またはガスの埋蔵を示す可能性があり、本明細書における質量分光分析技法は、石油探査において用いることができる。また、化学イオン化反応および/または陽子移動反応質量分光分析は、自動車産業において、触媒性能の分析および最適化に用いることができる。このような用途では、気体サンプル流入ポートは、例えば、比較の目的のために、触媒前および触媒後のガス種を収集するように位置付けられる。他の用途も当業者には明白であり、本発明の範囲および主旨に該当するものとする。
【0131】
実施形態によっては、本発明の原理を組み込んだ分光計は、電子嗅覚システム(electronic nose system)の構成機器として用いられる。実施形態によっては、電子嗅覚システムは、分光計が出力する信号を解析するために解析モジュールを含むこともある。電子嗅覚システムは、複数の成分を含む蒸気および気体を分析するために用いることができ、固体または液体物質の上にある頭隙の中にある蒸気および気体も含む。解析モジュールは、分光計が出力する信号を解析し、サンプルにおける特定の成分を識別することができる。更に、解析モジュールは、存在する化学種の包括的指紋(fingerprint)解析を行い、以前に格納した情報の中にある別の物質からの指紋と比較する。
【0132】
実施形態によっては、解析モジュールがコンピュータ・プロセッサを含むこともあり、このコンピュータ・プロセッサが、例えば、多変量解析アルゴリズム、パターン認識アルゴリズム、またはニューラル・ネットワーク・アルゴリズムを実装する。これらのアルゴリズムは、特に、多数のサンプル・パラメータ(例えば、ある種の臭気および香味の特徴を示す多くのVOC成分のピーク)を処理して、サンプルを特徴付け、比較するには有用である。例えば、多変量解析技法は、1つよりも多い統計変数の観察および解析に有用であり、複雑な指紋からのデータを減少させて、単純な比較を行うことを可能にする。この手法を用いると、同様の香味や臭気を纏めることができ、異常値を特定し強調することができる。
【0133】
電子嗅覚システムは、多数の成分(例えば、複数の異なるVOC種)で構成されることが多い、食品および飲料が放出するVOCの包括的指紋を解析する際に用いられている。例えば、臭気は分子で構成されており、その各々が特定のサイズおよび形状を有する。分子の各々は、人間の鼻において、対応するサイズおよび形状の受容体を有する。分光計は、臭気サンプル内における多くの異なる分子を一意に見分けるために用いることができる。電子嗅覚システムの更に別の用途には、医療診断のための疾病に特定的な臭気の検出、および環境保護のための汚染物およびガス漏れの検出が含まれる。実施形態によっては、電子吸気システムは、追加のセンサ(例えば、金属酸化物半導体(MOS)、導電性ポリマ(CP)、クオーツ・クリスタル・マイクロバランスおよび電界効果トランジスタ(MOSFET)センサを含む、1つ又は複数のガス・センサ)を含むこともある。センサは信号を出力し、解析モジュールがこの信号を解析する。
【0134】
以上、具体的な実施形態を参照しながら本発明について特定的に示し説明したが、添付した特許請求の範囲によって定められる発明の主旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細において種々の変更を行うことができることは、当業者には言うまでもないことであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽子移動反応質量分光計または化学イオン反応質量分光計のために1つ又は複数の試薬イオンを発生する方法であって、
試薬蒸気をプラズマチェンバに供給するステップと、
マイクロ波キャビティからマイクロ波エネルギーを前記プラズマチェンバ中の試薬蒸気に移送し、1つ又は複数の試薬イオンを発生するステップと、
前記1つ又は複数の試薬イオンをドリフト領域に誘導し、イオン化されていないガス状のサンプルの1つ又は複数の成分と相互作用させて前記ドリフト領域において生成イオンを形成するステップと、
を備えている、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記試薬蒸気は、水蒸気、酸素、または亜酸化窒素を含み、前記1つ又は複数の試薬イオンは、ハイドロニウム・イオン、酸素イオン、または亜酸化窒素イオンを含む、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、約800MHzよりも高い周波数を有する電磁波によって、前記マイクロ波エネルギーを供給する、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記プラズマチェンバは、前記マイクロ波キャビティを貫通する管を備える、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、マイクロ波源と前記プラズマチェンバの少なくとも一部分とは、前記マイクロ波キャビティ内に配置されている、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、前記マイクロ波キャビティは、閉鎖端を有する、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記マイクロ波キャビティは、共振マイクロ波キャビティである、方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記共振マイクロ波キャビティは、前記試薬蒸気に移送される前記マイクロ波エネルギーの波長に相当する長さを有している、方法。
【請求項9】
請求項7記載の方法において、前記プラズマチェンバは、前記共振マイクロ波キャビティの波腹に位置している、方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、前記プラズマチェンバは、前記マイクロ波キャビティを漏れ出るマイクロ波エネルギーの量を低減するために、1つ又は複数のマイクロ波チョークを貫通する、方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、前記プラズマチェンバは、銀メッキアルミニウム押し出し成型により画定されている、方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、前記サンプルの1つ又は複数の成分は、1つ又は複数の揮発性有機化合物を含む、方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法であって、電場を前記ドリフト領域の少なくとも一部分に制御可能に適用して、前記1つ又は複数の試薬イオンを誘導し、前記試薬イオンと前記サンプルの1つ又は複数の成分との間の相互作用を促進するステップをさらに備える、方法。
【請求項14】
陽子移動反応質量分光計または化学イオン反応質量分光計のために1つ又は複数の試薬イオンを発生する方法であって、
試薬蒸気をプラズマチェンバに供給するステップと、
RFキャビティから高周波RFエネルギーを前記プラズマチェンバ中の試薬蒸気に移送し、1つ又は複数の試薬イオンを発生するステップと、
前記1つ又は複数の試薬イオンをドリフト領域に誘導し、イオン化されていないガス状のサンプルの1つ又は複数の成分と相互作用させて前記ドリフト領域において生成イオンを形成するステップと、
を備えている、方法。
【請求項15】
請求項14記載の方法において、約400kMzと約800MHzとの間の周波数を有する電磁波によって、前記RFエネルギーを供給する、方法。
【請求項16】
請求項14記載の方法において、容量結合RFプラズマによって前記1つ又は複数の試薬イオンを発生する、方法。
【請求項17】
請求項14記載の方法において、前記RFキャビティは共振RFキャビティである、方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記共振RFキャビティは、前記試薬蒸気に移送される前記RFエネルギーの波長に相当する長さを有している、方法。
【請求項19】
請求項17記載の方法において、前記プラズマチェンバは、前記共振RFキャビティの波腹に位置している、方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法において、前記プラズマチェンバは、ケイ素材料又はサファイアで作られている、方法。
【請求項21】
陽子移動反応質量分光計または化学イオン反応質量分光計のために1つ又は複数の試薬イオンを発生する方法であって、
試薬蒸気をプラズマチェンバに供給するステップと、
マイクロ波源からのマイクロ波エネルギーを前記プラズマチェンバ中の前記試薬蒸気に集中させることによりマイクロ波プラズマを発生して、1つ又は複数の試薬イオンを発生するステップと、
前記1つ又は複数の試薬イオンをドリフト領域に誘導し、イオン化されていないガス状のサンプルの1つ又は複数の成分と相互作用させて前記ドリフト領域において生成イオンを形成するステップと、
を備えている、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37529(P2012−37529A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209061(P2011−209061)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2010−528930(P2010−528930)の分割
【原出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【出願人】(592053963)エム ケー エス インストルメンツ インコーポレーテッド (114)
【氏名又は名称原語表記】MKS INSTRUMENTS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】