説明

四重極型質量分析計

【課題】 イオン源から四重極離部へとイオンを効率よく導くことができるようにした低コストの四重極型質量分析計を提供する。
【解決手段】 フィラメント43及びグリッド41を備えるイオン源4と、四重極部3と、イオン源と四重極部との間に介設されたフォーカス電極5と、相対する電極間に直流電圧と交流電圧とを印加することで四重極部を通過したイオンを捕集するイオン検出部2とを有するセンサ部MAと、フィラメントに直流電流を通電する電源E1と、グリッドに対してフィラメントより高い電位を印加する電源E2と、グリッドとフィラメントとの間に電位差をつくるためフィラメントに電位を与える電源E4と、四重極部に直流電圧を重畳した交流電圧を印加する電源E3と、制御部C1とを有する制御ユニットCとを備える。フィラメントの電位とフォーカス電極の電位とを同等とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器等の試験体内に残留するガス成分を分析するために用いられる四重極型質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばスパッタリングや蒸着による成膜等の真空プロセスにおいては、プロセス時の圧力だけでなく、処理室たる真空チャンバ内に残留する気体の組成が膜質等に大きな影響を与える場合がある。このような残留する気体の組成(ガス成分)を分析するために、四重極型質量分析計が従来から用いられている。
【0003】
四重極型質量分析計は、一般に、試験体に着脱自在に装着されるセンサ部と、制御ユニットとから構成されている。試験体に対するセンサ部の装着方向を上方として、センサ部は、下端に設けられた支持体と、この支持体上に設けられた、イオンを捕集するイオン検出部と、このイオン検出部上に設けられた、4本の円柱状の電極が周方向に所定間隔で配置されてなる四重極部と、この四重極部上に設けられた、フィラメント及びグリッドを有して上記ガスをイオン化するイオン源とを備える。他方、制御ユニットは、フィラメントに直流電流(フィラメント電流)を通電してフィラメントを点灯するフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位(グリッド電圧)を印加するグリッド用の電源と、グリッドとフィラメントとの間に所定の電位差をつくるためにフィラメントに電位を与える電源と、四重極部に直流電圧が重畳された交流電圧を印加する四重極部用の電源と、各電源の作動等を統括制御する制御部とを備える。
【0004】
ここで、上記四重極型質量分析計の感度は、イオン源でのガス成分のイオン化効率やイオン源から四重極部へとイオンを導く効率等で決定される。このため、制御ユニットにてフィラメント電流やグリッド電圧を高精度に制御するだけでなく、イオン源から四重極部へとイオンを効率よく導くように構成する必要もある。
【0005】
そこで、従来、イオン源と四重極部との間にフォーカス電極を介設すると共に、フォーカス電極用の電源を設け、フォーカス電極に対して、接地電位とイオン源との電位差の50〜70%の電圧が印加されるように構成したものが特許文献1で知られている。然し、フォーカス電極用の電源を別途設けたのでは、部品点数が増加してコスト高を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−157529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、イオン源から四重極離部へとイオンを効率よく導くことができるようにした低コストの四重極型質量分析計を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、フィラメント及びグリッドを備えてガスをイオン化するイオン源と、4本の円柱状の電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、イオン源と四重極部との間に介設されたフォーカス電極と、相対する電極間に直流電圧と交流電圧とを印加することで四重極部を通過した所定のイオンを捕集するイオン検出部とを有するセンサ部と、フィラメントに直流電流を通電するフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位を印加するグリッド用の電源と、グリッドとフィラメントとの間に所定の電位差をつくるためにフィラメントに電位を与える電源と、四重極部に直流電圧を重畳した交流電圧を印加する四重極部用の電源と、各電源の作動を制御すると共にイオン検出部にて検出したイオン電流値を処理する制御部とを有する制御ユニットと、を備え、前記フィラメントの電位とフォーカス電極の電位とを同等としたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、フィラメント用の電源によりフィラメントに直流電流を流してこのフィラメントを点灯(赤熱)させて熱電子を放出させる。グリッドとフィラメントとの間の電位差に相当するイオン化電圧で熱電子をグリッド側に引き込む。このとき、熱電子と衝突したグリッド周辺の気体原子、分子から正イオンが生じる。そして、グリッドと四重極部との間の電位差に相当する加速電圧で、正イオンをグリッド側から四重極部へと引き込ませる。
【0010】
正イオンをグリッド側から四重極部へと引き込ませる際、フォーカス電極は、四重極部に入射するイオンの拡散を抑制するもの、言い換えると、四重極に向かうイオンを跳ね返さないものであればよい。このことから、フォーカス電極はグリッドより低い電位に保持されていれば、四重極部へ向かうイオンを収束する電極の役割を果たす。
【0011】
そこで、本発明では、フィラメントの電位とフォーカス電極の電位とを同等とした構成を採用するため、フォーカス電極はグリッドより低い電位に常時保持される。これにより、四重極部へ向かうイオンは効率よく収束される。この場合、フォーカス電極用の電源は必要としない。
【0012】
なお、本発明においては、フィラメントとフォーカス電極とを配線接続することが好ましい。これによれば、極めて低コストかつ簡単な構成でイオンを効率よく四重極部へと導く構成を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の四重極型質量分析計のセンサ部の構成を模式的に示す斜視図。
【図2】センサ部と制御ユニットとの接続を説明する側面図。
【図3】本実施形態の記四重極型質量分析計を用いた実験結果を示すグラフ。
【図4】本発明の変形例を説明する部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の四重極型質量分析計を説明する。なお、図示省略の試験体に対する後述のセンサ部MAの装着方向を上方として説明する。
【0015】
図1及び図2を参照して、四重極型質量分析計は、センサ部MAと制御ユニットCとから構成される。センサ部MAは円板状の支持体1を有する。支持体1は、アルミやステンレス等の金属製であり、その上面外周縁部にはOリング11が設けられている。支持体1上にはイオン検出部2が設けられている。イオン検出部2は、後述の四重極部の各電極間を通ってその下方に到達するガス原子やガス分子を捕集するファラデーカップから構成されている。イオン検出部2は、支持体1に立設した接続端子21に配線接続されている。
【0016】
イオン検出部2上には四重極部3が設けられている。四重極部3は、周方向に所定間隔で配置された上下方向に延びる4本の円柱状の電極31a〜31dから構成されている。相対する電極31a、31bと31c、31dは電気的に結合され、相対する電極の一方31a、31cが、支持体1に立設した2本の接続端子32a、32bに配線接続されている。
【0017】
四重極部3上にはイオン源4が設けられている。イオン源4は、グリッド41とフィラメント43とを備える。グリッド41は、金属細線を格子状でかつ円筒形状に組み付けて構成され、グリッド41は、支持体1に立設した接続端子42aに配線接続されている。
【0018】
フィラメント43は、図示省略の支持フレームに周方向に所定間隔で吊設された3本の金属製の支持ピン44a〜44cと、中央の支持ピン44aと両側の支持ピン44b、44cとの間にそれぞれ接続された2本のフィラメント片43a、43bとを備え、全体としてグリッド41の外周の半分程度を囲うようになっている。この場合、中央の支持ピン44aがフィラメントコモンとなり、この支持ピン44aが支持体1に立設した接続端子45bに配線されていると共に、両側の支持ピン44b、44cが、支持体1に立設した接続端子45aに配線接続されている。
【0019】
他方、制御ユニットCは筐体F(図2中、一点鎖線で示す)を備え、筐体F内にはコンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御部C1が内蔵されている。制御部C1は、後述の各電源の作動や後述の電流計Aにて測定されたイオン電流値を処理して例えば図示省略のディスプレイに表示する等の各種制御を統括して行う。また、筐体F内には、フィラメント43に直流電流を通電してフィラメント43を点灯するフィラメント点灯用の電源E1と、グリッド41に対してフィラメント43より高い電位をこのグリッド41に与えるグリッド用の電源E2とが内蔵されている。電源E1からのプラス側の出力は、両側の支持ピン44b、44cに導通する接続端子45aに接続され、また、電源E2からのプラス側の出力がグリッド用の接続端子42aに接続され、そのマイナス側がアース接地されている。
【0020】
また、筐体F内には、電気的に結合された電極31a、31bと31c、31dにそれぞれ直流電圧と高周波電圧とを印加するDC+RF電源E3が内蔵され、DC+RF電源E3の出力は、相対する電極のいずれか一方31a、31cにそれぞれ接続されている。筐体F内にはまた、グリッド41とフィラメント43との間に所定の電位差をつくるためにフィラメント43に電位を与える電源E4が内蔵され、電源E4からのプラス側の出力が、電源E2からのプラス側の出力に接続され、そのマイナス側の出力は、電源E1からのマイナス側の出力に接続されている。この場合、この出力には、フィラメントコモンたる支持ピン44aに導通する接続端子45bからの配線が接続されている。また、筐体F内には、イオン検出部4に捕集されてアースへと流れるイオン電流値を測定する電流計Aが付設されている。
【0021】
なお、本実施形態では、特に図示して説明しないが、筐体Fには上記各電源に導通した出力端子が設けられ、センサ部MAと制御ユニットCとはコネクタ付きケーブルにて接続される。また、センサ部MAと制御ユニットCとを同一の筐体に組み込んで構成することもできる。
【0022】
ところで、上記四重極型質量分析計の感度は、イオン源4でのガス成分のイオン化効率やイオン源4から四重極部3へとイオンを導く効率等で決定される。このため、制御ユニットCにてフィラメント電流やグリッド電圧を高精度に制御するだけでなく、イオン源4から四重極部3へとイオンを効率よく導くように構成する必要もある。
【0023】
本実施形態では、イオン源4と四重極部3との間に中央開口を備えた金属板から構成されるフォーカス電極5を介設すると共に、支持ピン44aとフォーカス電極5とを配線Wにより接続してフィラメント43の電位とフォーカス電極5の電位とを同等とした。これにより、フォーカス電極5がグリッド41より低い電位に常時保持される。
【0024】
次に、上記四重極型質量分析計の使用例を説明する。センサ部MAを、Oリング11を介して図示省略の試験体のテストポートに装着した後、試験体内を真空ポンプにより真空引きし、所定真空圧に達すると、ガス分析を開始する。先ず、電源E1によりフィラメント43に直流電流を通電してフィラメント43を点灯させ、熱電子を放出させる。電源E2及びE4によりグリッド41とフィラメント43との間の電位差に相当するイオン化電圧で熱電子をグリッド41側に引き込む。このとき、熱電子と衝突したグリッド41周辺の気体原子、分子から正イオンが生じる。そして、電源E2によりグリッド41と四重極部3との間の電位差に相当する加速電圧で、正イオンをグリッド41側から四重極部3へと引き込ませる。このとき、フォーカス電極5がグリッド41より低い電位に保持されることで、四重極部3へ向かうイオンが収束される。
【0025】
四重極部3の4本の電極31a〜31dには、DC+RF電源E3によって直流と交流とが重畳した所定電圧が印加される。これにより、四重極部3中をイオン群が通過する時、これらが振動しながら通過し、交流電圧や周波数に応じて、一定のイオンのみが安定振動して通過することで、イオン検出部2へと到達する。そして、イオン検出部2に付設された電流計Aにてイオン電流が測定され、そのときのイオン電流値が制御部C1に出力される。また、上記直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちつつ交流電圧を直線的に変化させることでスペクトルがとられ、イオン電流値から試験体内のガス成分が分析される。この場合、特定のガス成分についてイオン電流値から算出した指示値を表示することもできる。
【0026】
次に、本発明の効果を確認するために上記四重極型質量分析計を用いて次の実験を行った。即ち、電源E2の電圧を12V、電源E4の電圧を−70Vに設定し、四重極型質量分析計において一般的な設定である加速電圧Eiを12V、イオン化電圧Eeを70Vとした。そして、図示省略の直流電源を用いてフォーカス電極に電圧Efを印加して窒素ガスの分圧を測定することとした。
【0027】
ここで、図3は、電圧Efを−90Vから0Vまでの範囲で変化させたときの窒素ガス測定時の感度の変化を示す。ここで、窒素測定時の感度は、電源E3を、窒素分子が安定振動して四重極部3を通過する電圧に設定したときに得られるイオン電流値の強度により求めた。上記実験によれば、電圧Efが−60Vのとき、感度が最大となっている。この電圧は、上記条件のフィラメント43電位(−58V)とほぼ同等である。この結果から、フィラメント43とフォーカス電極5とを同等の電位とすれば、四重極部3へ向かうイオンが効率よく収束されることで、高感度にてガス分析が行い得ることが判る。
【0028】
以上説明したように、上記実施形態によれば、フォーカス電極5用の電源を必要とせず、しかも、極めて低コストかつ簡単な構成でイオンを効率よく四重極部3へと導く構成を実現できる。
【0029】
以上、本発明の実施形態の四重極型質量分析計について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態のものでは、中央の支持ピン44aとフォーカス電極5とを直接配線接続している。然し、従来技術の如く、フォーカス電極5に所定電圧を印加するフォーカス電極用の電源(図示せず)が制御ユニットCに内蔵され、支持体1や制御ユニットCの筐体Fに、電力供給用の接続端子51や出力端子62が既に設けられている場合には、図4に示すように、センサ部MA側にて接続端子51とフィラメントの接続端子45aもしくは45bを配線W1により接続したり(図4中、実線で示すもの)、または、制御ユニットC側にて、フィラメントの接続端子51と導通する出力端子61と、フォーカス電極用の出力端子62と配線W1(図4中、二点鎖線で示すもの)により接続するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
MA…センサ部、C…制御ユニット、2…イオン検出部、3…四重極部、4…イオン源、41…グリッド、43…フィラメント、5…フォーカス電極、E1〜E5…電源、W、W1…配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント及びグリッドを備えてガスをイオン化するイオン源と、4本の円柱状の電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、イオン源と四重極部との間に介設されたフォーカス電極と、相対する電極間に直流電圧と交流電圧とを印加することで四重極部を通過した所定のイオンを捕集するイオン検出部とを有するセンサ部と、
フィラメントに直流電流を通電するフィラメント点灯用の電源と、グリッドに対してフィラメントより高い電位を印加するグリッド用の電源と、グリッドとフィラメントとの間に所定の電位差をつくるためにフィラメントに電位を与える電源と、四重極部に直流電圧を重畳した交流電圧を印加する四重極部用の電源と、各電源の作動を制御すると共にイオン検出部にて検出したイオン電流値を処理する制御部とを有する制御ユニットと、を備え、 前記フィラメントの電位とフォーカス電極の電位とを同等としたことを特徴とする四重極型質量分析計。
【請求項2】
前記フィラメントとフォーカス電極とを直接配線接続してなることを特徴とする請求項1記載の四重極型質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−222142(P2011−222142A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86706(P2010−86706)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】