四重極質量分析装置
【課題】四重極型のMSが小型であるという特徴を活かしつつ、分解能も改善し得て、比較的に小さな四重極型のMS/MS装置や、更に高分解能な装置を提供する。
【解決手段】複数の直線型四重極を、円弧状四重極を介して直列接続することにより、該四重極の全長を畳み込むように延長したイオン光学系を有する。
【解決手段】複数の直線型四重極を、円弧状四重極を介して直列接続することにより、該四重極の全長を畳み込むように延長したイオン光学系を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構造を有する四重極質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極子で構成した質量分析装置(四重極質量分析装置:QMS)には、直線型の四重極を基本構造として、四重極を単独で用いた通常のQMS以外にも、四重極をイオンガイド・マスフィルター・イオントラップ等として機能させ、それらをつなぎ合わせる形で、QqQと略称で呼ばれているMS/MS(これも質量分析計を2台接続した装置の略称)がある。
【0003】
尚、ここでqの文字を使っている部分がイオンガイド・イオントラップの機能部分であり、Qで表わしている部分がマスフィルターの機能を持っている。また、イオンガイドとして機能させたものとしては、ここではqとして表わした部分だが、直線型だけでなく、光軸回転半径が電極棒直径の20〜30倍程度と大きな回転半径で湾曲した構造のものが市販されてもいる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−73999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
四重極型装置は、一般的には質量分解能が高くはなく、小型・安価で使い勝手が良いとされ、汎用機として広く利用されているが、MS/MSとなると、ほとんどの場合、直線型の四重極を直列につなぎ合わせた構造になるため、結果的には寸法的に長い、比較的に大きな装置となって、小型であるとの利点が減じている。
【0006】
また、QMSで分解能を高くするための方策として、四重極を長くすることを選択した場合にも、QMSは大きな装置になってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、四重極型のMSが小型であるという特徴を活かしつつ、分解能も改善し得て、比較的に小さな四重極型のMS/MS装置や、更に高分解能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明にかかる四重極質量分析装置は、
イオンが次々と通過できるように複数の直線型四重極を配列した四重極質量分析装置において、
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極を用いて前記直線型四重極を直列接続したことを特徴としている。
【0009】
また、前記四重極質量分析装置は、接続された直線型四重極部分、および円弧状四重極部分をそれぞれ1つの単位とする真空制御を行なうことを特徴としている。
【0010】
また、前記円弧状四重極は、イオンガイド、マスフィルター、イオントラップ、コリジョンセルのうち、少なくとも1つの機能を与えられていることを特徴としている。
【0011】
また、前記円弧状四重極部分はガス導入手段を備え、導入されたガス分子とイオンとの衝突により、イオンを開裂、またはイオンの運動エネルギーを冷却させるようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、前記円弧状四重極部分の中心光軸の回転半径は、四重極を構成している電極棒の径に対して10倍以内であることを特徴としている。
【0013】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされていることを特徴としている。
【0014】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされていることを特徴としている。
【0015】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒には、四重極の内接円と接する表面に四重極の中心光軸に沿って溝が彫刻されており、該溝は、中心光軸を挟んで対向する1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に深くなるように彫刻され、中心光軸を挟んで対向する別の1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に浅くなるように彫刻されていることを特徴としている。
【0016】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒のうち、前記中心光軸を挟んで対向する2対の電極棒には、それぞれ対ごとに異なる直流電圧が印加され、それにより前記溝は前記円弧状四重極の光軸方向に向かって電位勾配を発生することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の四重極質量分析装置によれば、
複数の直線型四重極を、イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極を介して直列接続することにより、該四重極の全長を畳み込むように延長したので、
四重極型のMSが小型であるという特徴を活かしつつ、分解能も改善し得て、比較的に小さな四重極型のMS/MS装置や、更に高分解能な装置を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
[実施例1]
図1は、本発明の基本的なイオン光学系として、四重極子の配置と構成を全体図として立体的に示したもので、イオン軌道計算のためにモデル化して用いたものの図であり、図3で、これを投影図的にも示した。
【0020】
シミュレーションモデルのため、電極子を支持する絶縁材はここには示していないが、これらの電極子は、実際には絶縁支持体で保持され、図示しない真空ポンプなどの真空排気装置で維持された真空の領域に格納される。
【0021】
電極子は、直線型四重極の部分1、円弧状四重極の部分2、円弧状四重極の部分2’が空隙を介して連結された構造になっている。この例では、3組の直線型四重極と2組の円弧状四重極で構成され、図1のように、3次元的にジグザグな折り曲げがされて、長い光軸が小さく折り畳まれたものとなっている。
【0022】
また、ガス成分との衝突も考慮して、円弧状四重極の部分2では、図4〜9で示すように、円弧状棒電極組の四重極を構成している4本の電極棒で、四重極の内接円と接する表面に四重極の中心軸に沿って切り欠き溝が形成され、中心軸を挟んで対向する1組の棒電極同士では、光軸方向に進むにつれてその溝の深さが次第に深くなっていくように彫刻され、それと隣に位置する互いに対向するもう1組の棒電極同士では、逆に光軸方向に進むにつれてその溝の深さが次第に浅くなっていくように彫刻されている。
【0023】
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極部分の中心光軸の回転半径は、四重極を構成している電極棒の径に対して10倍以内、より好ましくは約3倍程度である。これらの電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされている(図10(a)参照)。
【0024】
ただし、別の例として、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされているものであっても良い(図10(b)参照)。
【0025】
これらの変形例では、円弧状四重極部分の光軸に対する電極棒の位置に合わせて、直線型四重極部分の電極棒の配置も光軸の回りで45°回転させられて配置されるのが普通である。
【0026】
イオン入口側開口3とイオン出口側開口4は、この系でのイオンの出入口になる細孔である。四重極型質量分析装置では、一般に四重極子には直流電圧と高周波電圧が供給印加されるが、本実施例も同様で、そのための電源や制御系は図示されないが、構成として含まれる。
【0027】
直線型四重極の電極電圧供給の事例としては、その基本的なものを図2に示す。図中の式の記号は、V0が高周波振幅電圧値、ωが角周波数、tが時間、θが位相、U0が第1の直流電圧値(マスフィルター機能用)、U1が第2の直流電圧値(軸オフセット電位設定用)を示している。
【0028】
円弧状四重極の電極電圧供給の事例としては、その基本的なものを図10に示す。図中の式の記号は、V0が高周波振幅電圧値、ωが角周波数、tが時間、θが位相、U0が第1の直流電圧値(マスフィルター機能用)、U2が第2の直流電圧値(軸オフセット電位設定用)、Uaが直流電圧値(軸方向電場勾配設定用)を示している。
【0029】
この直流電圧値Uaは、図10(c)に示した式では典型的な場合で例示してあるが、必ずしも絶対値が等しい印加の状態だけではない。軸方向に直流的な電場勾配が形成されるように、直流の電位差が付くように印加される。
【0030】
他に、各四重極部のマスフィルター・イオンガイド・コリジョンセル・イオントラップの機能使い分けのための切替機構や付帯的制御機構が付加されるが、省略してある。
【0031】
本実施例は、以下のように動作する。すなわち、図3で示した例では、直線型四重極1に直流電圧±U0と高周波電圧±V0cos(ωt+θ)が一定の電圧比で印加・走査されるマスフィルター(質量分析器)として駆動し更に軸電圧U2も重畳される。円弧状四重極2に主に軸電圧U2’と高周波電圧±V0’cos(ωt+θ)が印加される。イオン入口側開口3とイオン出口側開口4にも入口電圧V_dc_inと出口電圧V_dc_outがそれぞれ印加される。
【0032】
この条件下で、イオンがイオン入口側開口3からこの系に導入されると、イオンは各部に印加された直流電圧の電位勾配と初期運動エネルギーとの関係で軸方向に加速あるいは減速されつつ、四重極場の内部へ進行したものは、高周波電圧で動径方向に振動しながら、イオン出口側開口4に至り、この系外へと進行する。
【0033】
直線型四重極1の部分では、設定された条件に応じた質量選別作用で、特定のイオンだけが系を通過でき、それ以外のイオンは動径方向の振動振幅が大きくなって光軸から外れ、通過できなくなり、排除される。
【0034】
図11にシミュレーションモデルとイオン軌道とを重ねて示す。動作を見易くするために、図12と図13とにイオン軌道だけを取り出して図示する。図12は、同一質量のイオンの入射初期条件を変化させ、図13では、質量の異なるイオンも含めて初期条件を変えたシミュレーションを示してある。
【0035】
図12では、マスフィルターとして機能させている直線型四重極1の部分になる区間の最初の直線部分では通過できたイオンでも、後段のマスフィルター、この場合3回目に通過する直線の領域部分でも振動振幅が大きく成り過ぎて、系の途中で衝突しているのが分かる。つまり、質量選別の条件がより厳しくなっていることを示している。
【0036】
図13では、最初の直線領域だけではなく、2回目、3回目に通過する直線領域でも途中で振動振幅が大きくなって途中衝突で通過できなくなっている様子が見て取れる。やはりこの例でも、質量選別の条件が厳しくなっていることの表われである。
【0037】
四重極型質量分析装置の質量分解能は、イオンの振動数に依存するとされている点から、印加する高周波電圧の周波数を高くするか、あるいは直線型四重極1の部分を長くすることがその分解能向上の方法でもあるが、実際的には、周波数を高くすると、それに連れて電極印加電圧も高くする必要があり、四重極を長くする場合も、直線的に単に引き延ばすだけでは装置が長く大きくなってしまう。
【0038】
本実施例のような方法だと、直線型四重極1の部分を長くしても畳み込みができるので、装置が極端に長くなる欠点は低減されて、質量分解能が改善される。
【0039】
また、円弧状四重極2、2’の部分において、真空度をガス導入などで直線型四重極部分よりも低下させて、イオンとガス成分との衝突反応によるコリジョン・クーリングを起こさせる場合、運動エネルギーが次第に低下することで中心の光軸上付近にイオンが偏在すると同時に、軸方向に進行していた動きも少なくなり、停滞する状況になってくる。
【0040】
そこで、図4〜9に示したように、円弧状四重極の電極表面に溝が付けられていると、図10(c)で示した直流成分±Uaを印加することで、出入口両端での溝の深さの違いと印加電圧の違いとで、軸方向に勾配電場が形成される。
【0041】
例えば、入口側で溝の浅い方がプラス電位、溝の深い方がマイナス電位、出口側では逆に溝の深い方がプラス電位、溝の浅い方がマイナス電位の関係にあると、入口側から出口側に向かって、光軸上の電位が軸方向に次第に下がるように形成される。
【0042】
よって、軸方向の電場勾配のあるところでは、停滞していたイオンは軸方向へ移動させられる。コリジョン・クーリングを使用する場合は、イオンの停滞を避けるために、通常では同じ設定のU2とU2’、あるいはV0とV0’が、異なる設定にされることもある。
【0043】
コリジョン・クーリングの様子は、重複説明を省くために、後述の実施例2に掲載する図16と図17とで示すイオントラップモードでの軌道描画事例にて示す。
【0044】
[実施例2]
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極の中心軸の回転曲率について、変形例を示す。実施例1では、四重極の中心軸の回転半径は、電極棒の径に対して10倍以内、より好ましくは約3倍程度で実現できることを示したものであったが、これを更に小さくして、四重極を折り畳む形状にすることも可能なので、その例を先の例と同様に可視化してシミュレーションで取り上げる。その場合の円弧状四重極の形状例を、円弧状四重極部分のみの立体図として図14と図15に示す。
【0045】
図14の例では、中心軸の回転半径は、電極棒の直径程度である。また、図15の例では、中心軸の回転半径は、電極棒の半径程度に小さく曲げてある。これらの電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされている(図10(a)参照)。
【0046】
ただし、別の例として、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされているものであっても良い(図10(b)参照)。
【0047】
これらの変形例では、円弧状四重極部分の光軸に対する電極棒の位置に合わせて、直線型四重極部分の電極棒の配置も光軸の回りで45°回転させられて配置されるのが普通である。
【0048】
また、図示しないが、円弧状四重極部分でガス衝突を起こさせるために、ガス導入系と、出口・入口電極部の印加電圧に時間的な制御が可能な機構部とが付加される。
【0049】
本実施例は、次のように動作する。すなわち、円弧状四重極部分の光軸回転半径を小さくした場合でも、基本的な動作は実施例1とほとんど同じである。ただし、回転半径が小さくなると、印加される高周波電圧については、その周波数が高い方が滑らかなビーム軌道の軌跡をシミュレーションで確認できる。
【0050】
簡単のため、円弧状四重極部分だけを取り出して先の構成で示したものを、2次元的に図16と図17とに示す。これらは、イオンビーム軌道を見やすくするためにも平面の図で示してあるが、ここで示したビームの軌道は、この四重極の領域の真空度を衝突用ガス成分の導入状態を想定したイオントラップの動作モードの事例として、軸上近傍を前進と後進とを繰り返して最後に排出されるまでの様子を例示してある。
【0051】
イオン入口側スリット電極5とイオン出口側スリット電極6に印加する電圧は、時間的に変化するように制御される。その制御に合わせて、イオン入口側スリット電極5の開口部から入ったイオンは、四重極の内部に入り込んで進み、イオン出口側スリット電極6の電位で押し戻されて、電極の軸上近傍の軌道を逆送するが、この四重極の領域はガス成分が存在する環境にあるため、それらのガス成分粒子との衝突で運動エネルギーを減じる。
【0052】
しかし、四重極電極の表面に彫刻された溝の深さが電極の位置に応じて異なる構造に加えて、印加される直流電圧にも差が付けられているので、軸方向に電場勾配が形成され、そのことでイオンは次第にイオン出口側スリット電極6の開口へと移動していき、イオン出口側スリット電極6の電位が下がった時点で一気に円弧状四重極の内部からイオン出口側スリット電極6の開口部を経て排出される。
【0053】
[実施例3]
実施例2では、イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極部分でのガス成分との衝突の他に、屈曲部の曲率の違いについての事例も示したが、ここでは円弧状四重極部分の屈曲の方向についての変形例を示す。先の図1は、3次元的に屈曲させた場合、図18は2次元的に屈曲させた場合である。
【0054】
これらの2次元的・3次元的な屈曲方向を組み合わせると、必要に応じた形状に変更可能となる。ここには図示しないが、同一平面上での周回・渦巻きなどの平面構造や、垂直方向へ角度がずれる要素も入れて竜巻のようなヘリカルな立体構造も可能である。
【0055】
なお、円弧状の四重極部分は、これまでに示したいずれの場合でも、イオンの進行する向きが180°に変わる接続例であったが、これは必ずしも180°の角度でなければならないということではない。必要に応じて所望の角度で偏向させて良い。設計・製作上の観点からは、15°、45°、90°などの角度に設定して組み合わせる方が都合の良い場合が多い。図19は、偏向角が90°の例である。
【0056】
ガス導入部分を屈曲部分に採用する場合は、直線型の接続に較べて、真空系のポンプ配置が低真空部分と高真空部分とに2分して整理できる利点もあるので、それを活かした構造とすることも可能である。
【0057】
また、これまで上げた事例では、四重極の電極は棒状であったが、電極表面での電位が四重極の場を決めるので、電極材は中空のパイプ状部材で構成され、表面が導電材料であっても良い。
【0058】
電極に印加される高周波電圧の周波数については、屈曲部の回転半径が小さい場合は、周波数を高めに設定して使用する方が有利であり、たとえば、ここで上げたシミュレーションでは3MHzを設定した。
【0059】
本実施例の動作は、先の実施例と基本的に変わりはない。単にイオンの進行する方向の偏向が平面的か立体的かという点で異なるだけである。ただし、イオンは初期条件の違いで異なる軌道を取り、またこの偏向の向き、接続の形態、系の長さ等が違えば、取り得るイオンの飛行軌道も変わってくるので、まったく同じ結果になるという訳ではない。
【0060】
また、四重極部分の全体を小さく畳み込むことを主眼にすると、実施例1のような3次元的配置がコンパクトさで勝るが、直線型四重極部分の利用方法を更に拡張してイオンガイド、マスフィルター、イオントラップ、コリジョンセル等と種々機能を変形的に用いる場合は、実施例3の方が便利な面もある。
【0061】
なお、円弧状四重極部分をマスフィルターとして使用することもできるが、電極棒に印加する周波数が低いと、曲がった軌道から外れやすくなるので、その場合は印加する周波数は更に高めにする必要がある。
【0062】
また、ガスを導入した条件でも、各四重極部分をマスフィルターとして機能させることも可能だが、その場合、質量分解能は低下する傾向にある。
【0063】
いずれにせよ、円弧状四重極部分をあいだに介して、直線型四重極を複数個連続的にかつ畳み込むような形でつなげることにより、直線的につなぐ方式よりも小型な四重極型質量分析装置を製作することができ、イオンガイド、直線型四重極マスフィルター、コリジョンセル、イオントラップ等の機能部分を組み合わせた構成の装置でも小型にできる。
【0064】
また、直線型四重極マスフィルターを複数個つなぐことで、その内部を飛行するイオン軌道の長さを拡張でき、その間における飛行イオンの振動回数を増やすことで、質量分解能の向上を実現することができる。
【0065】
また、イオンガイド機能の円弧状四重極部分において、電場で偏向作用を受けない中性粒子は直進するため、電場で偏向を受けるイオンと分離することができる。その結果、検出器へのノイズの原因を低減することができ、更に棒状電極を図10(a)のように斜め45°方向に配置した場合は、軌道が湾曲する部位での中性粒子の軌道が電極の間隙を抜けるような形になり、中性粒子成分の電極表面への付着・汚染を低減することができる。
【0066】
また、図10(a)のような電極配置で円弧状四重極部分を構成すれば、内周側と外周側の2種類の電極部材を製作するだけで良く、図10(b)のような電極配置が3種類の電極部材を必要とするのに較べて、製作コストをより低減させることができる。
【0067】
また、直線型四重極の多段接続に使用する円弧状四重極部分の回転角度を任意に設定できることから、畳み込みの形にも自由度が高く、装置作りの面からも都合が良い。
【0068】
また、円弧状四重極部分をガス導入コリジョンセルあるいはイオントラップとして用いれば、円弧状部分を低真空部、直線部分を高真空部に用途分けした簡潔な真空系が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
四重極質量分析装置に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明にかかる四重極質量分析装置の一実施例を示す図である。
【図2】四重極に印加される電圧の例を示す図である。
【図3】図1に示した一実施例の光学系の投影図である。
【図4】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図5】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図6】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図7】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図8】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図9】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図10】図1に示した一実施例の円弧状電極の変形例と、それに印加される電圧の例を示す図である。
【図11】図1に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図12】図1に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図13】図1に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図14】本発明にかかる円弧状四重極の別の実施例を示す図である。
【図15】本発明にかかる円弧状四重極の別の実施例を示す図である。
【図16】図14に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図17】図15に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図18】本発明にかかる四重極質量分析装置の別の実施例を示す図である。
【図19】本発明にかかる四重極質量分析装置の別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1:直線型四重極、2:円弧状四重極、2’:円弧状四重極、3:イオン入口側開口、4:イオン出口側開口、5:イオン入口側スリット電極、6:イオン出口側スリット電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構造を有する四重極質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極子で構成した質量分析装置(四重極質量分析装置:QMS)には、直線型の四重極を基本構造として、四重極を単独で用いた通常のQMS以外にも、四重極をイオンガイド・マスフィルター・イオントラップ等として機能させ、それらをつなぎ合わせる形で、QqQと略称で呼ばれているMS/MS(これも質量分析計を2台接続した装置の略称)がある。
【0003】
尚、ここでqの文字を使っている部分がイオンガイド・イオントラップの機能部分であり、Qで表わしている部分がマスフィルターの機能を持っている。また、イオンガイドとして機能させたものとしては、ここではqとして表わした部分だが、直線型だけでなく、光軸回転半径が電極棒直径の20〜30倍程度と大きな回転半径で湾曲した構造のものが市販されてもいる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−73999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
四重極型装置は、一般的には質量分解能が高くはなく、小型・安価で使い勝手が良いとされ、汎用機として広く利用されているが、MS/MSとなると、ほとんどの場合、直線型の四重極を直列につなぎ合わせた構造になるため、結果的には寸法的に長い、比較的に大きな装置となって、小型であるとの利点が減じている。
【0006】
また、QMSで分解能を高くするための方策として、四重極を長くすることを選択した場合にも、QMSは大きな装置になってしまう。
【0007】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、四重極型のMSが小型であるという特徴を活かしつつ、分解能も改善し得て、比較的に小さな四重極型のMS/MS装置や、更に高分解能な装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため、本発明にかかる四重極質量分析装置は、
イオンが次々と通過できるように複数の直線型四重極を配列した四重極質量分析装置において、
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極を用いて前記直線型四重極を直列接続したことを特徴としている。
【0009】
また、前記四重極質量分析装置は、接続された直線型四重極部分、および円弧状四重極部分をそれぞれ1つの単位とする真空制御を行なうことを特徴としている。
【0010】
また、前記円弧状四重極は、イオンガイド、マスフィルター、イオントラップ、コリジョンセルのうち、少なくとも1つの機能を与えられていることを特徴としている。
【0011】
また、前記円弧状四重極部分はガス導入手段を備え、導入されたガス分子とイオンとの衝突により、イオンを開裂、またはイオンの運動エネルギーを冷却させるようにしたことを特徴としている。
【0012】
また、前記円弧状四重極部分の中心光軸の回転半径は、四重極を構成している電極棒の径に対して10倍以内であることを特徴としている。
【0013】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされていることを特徴としている。
【0014】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされていることを特徴としている。
【0015】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒には、四重極の内接円と接する表面に四重極の中心光軸に沿って溝が彫刻されており、該溝は、中心光軸を挟んで対向する1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に深くなるように彫刻され、中心光軸を挟んで対向する別の1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に浅くなるように彫刻されていることを特徴としている。
【0016】
また、前記円弧状四重極を構成する電極棒のうち、前記中心光軸を挟んで対向する2対の電極棒には、それぞれ対ごとに異なる直流電圧が印加され、それにより前記溝は前記円弧状四重極の光軸方向に向かって電位勾配を発生することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の四重極質量分析装置によれば、
複数の直線型四重極を、イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極を介して直列接続することにより、該四重極の全長を畳み込むように延長したので、
四重極型のMSが小型であるという特徴を活かしつつ、分解能も改善し得て、比較的に小さな四重極型のMS/MS装置や、更に高分解能な装置を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
[実施例1]
図1は、本発明の基本的なイオン光学系として、四重極子の配置と構成を全体図として立体的に示したもので、イオン軌道計算のためにモデル化して用いたものの図であり、図3で、これを投影図的にも示した。
【0020】
シミュレーションモデルのため、電極子を支持する絶縁材はここには示していないが、これらの電極子は、実際には絶縁支持体で保持され、図示しない真空ポンプなどの真空排気装置で維持された真空の領域に格納される。
【0021】
電極子は、直線型四重極の部分1、円弧状四重極の部分2、円弧状四重極の部分2’が空隙を介して連結された構造になっている。この例では、3組の直線型四重極と2組の円弧状四重極で構成され、図1のように、3次元的にジグザグな折り曲げがされて、長い光軸が小さく折り畳まれたものとなっている。
【0022】
また、ガス成分との衝突も考慮して、円弧状四重極の部分2では、図4〜9で示すように、円弧状棒電極組の四重極を構成している4本の電極棒で、四重極の内接円と接する表面に四重極の中心軸に沿って切り欠き溝が形成され、中心軸を挟んで対向する1組の棒電極同士では、光軸方向に進むにつれてその溝の深さが次第に深くなっていくように彫刻され、それと隣に位置する互いに対向するもう1組の棒電極同士では、逆に光軸方向に進むにつれてその溝の深さが次第に浅くなっていくように彫刻されている。
【0023】
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極部分の中心光軸の回転半径は、四重極を構成している電極棒の径に対して10倍以内、より好ましくは約3倍程度である。これらの電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされている(図10(a)参照)。
【0024】
ただし、別の例として、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされているものであっても良い(図10(b)参照)。
【0025】
これらの変形例では、円弧状四重極部分の光軸に対する電極棒の位置に合わせて、直線型四重極部分の電極棒の配置も光軸の回りで45°回転させられて配置されるのが普通である。
【0026】
イオン入口側開口3とイオン出口側開口4は、この系でのイオンの出入口になる細孔である。四重極型質量分析装置では、一般に四重極子には直流電圧と高周波電圧が供給印加されるが、本実施例も同様で、そのための電源や制御系は図示されないが、構成として含まれる。
【0027】
直線型四重極の電極電圧供給の事例としては、その基本的なものを図2に示す。図中の式の記号は、V0が高周波振幅電圧値、ωが角周波数、tが時間、θが位相、U0が第1の直流電圧値(マスフィルター機能用)、U1が第2の直流電圧値(軸オフセット電位設定用)を示している。
【0028】
円弧状四重極の電極電圧供給の事例としては、その基本的なものを図10に示す。図中の式の記号は、V0が高周波振幅電圧値、ωが角周波数、tが時間、θが位相、U0が第1の直流電圧値(マスフィルター機能用)、U2が第2の直流電圧値(軸オフセット電位設定用)、Uaが直流電圧値(軸方向電場勾配設定用)を示している。
【0029】
この直流電圧値Uaは、図10(c)に示した式では典型的な場合で例示してあるが、必ずしも絶対値が等しい印加の状態だけではない。軸方向に直流的な電場勾配が形成されるように、直流の電位差が付くように印加される。
【0030】
他に、各四重極部のマスフィルター・イオンガイド・コリジョンセル・イオントラップの機能使い分けのための切替機構や付帯的制御機構が付加されるが、省略してある。
【0031】
本実施例は、以下のように動作する。すなわち、図3で示した例では、直線型四重極1に直流電圧±U0と高周波電圧±V0cos(ωt+θ)が一定の電圧比で印加・走査されるマスフィルター(質量分析器)として駆動し更に軸電圧U2も重畳される。円弧状四重極2に主に軸電圧U2’と高周波電圧±V0’cos(ωt+θ)が印加される。イオン入口側開口3とイオン出口側開口4にも入口電圧V_dc_inと出口電圧V_dc_outがそれぞれ印加される。
【0032】
この条件下で、イオンがイオン入口側開口3からこの系に導入されると、イオンは各部に印加された直流電圧の電位勾配と初期運動エネルギーとの関係で軸方向に加速あるいは減速されつつ、四重極場の内部へ進行したものは、高周波電圧で動径方向に振動しながら、イオン出口側開口4に至り、この系外へと進行する。
【0033】
直線型四重極1の部分では、設定された条件に応じた質量選別作用で、特定のイオンだけが系を通過でき、それ以外のイオンは動径方向の振動振幅が大きくなって光軸から外れ、通過できなくなり、排除される。
【0034】
図11にシミュレーションモデルとイオン軌道とを重ねて示す。動作を見易くするために、図12と図13とにイオン軌道だけを取り出して図示する。図12は、同一質量のイオンの入射初期条件を変化させ、図13では、質量の異なるイオンも含めて初期条件を変えたシミュレーションを示してある。
【0035】
図12では、マスフィルターとして機能させている直線型四重極1の部分になる区間の最初の直線部分では通過できたイオンでも、後段のマスフィルター、この場合3回目に通過する直線の領域部分でも振動振幅が大きく成り過ぎて、系の途中で衝突しているのが分かる。つまり、質量選別の条件がより厳しくなっていることを示している。
【0036】
図13では、最初の直線領域だけではなく、2回目、3回目に通過する直線領域でも途中で振動振幅が大きくなって途中衝突で通過できなくなっている様子が見て取れる。やはりこの例でも、質量選別の条件が厳しくなっていることの表われである。
【0037】
四重極型質量分析装置の質量分解能は、イオンの振動数に依存するとされている点から、印加する高周波電圧の周波数を高くするか、あるいは直線型四重極1の部分を長くすることがその分解能向上の方法でもあるが、実際的には、周波数を高くすると、それに連れて電極印加電圧も高くする必要があり、四重極を長くする場合も、直線的に単に引き延ばすだけでは装置が長く大きくなってしまう。
【0038】
本実施例のような方法だと、直線型四重極1の部分を長くしても畳み込みができるので、装置が極端に長くなる欠点は低減されて、質量分解能が改善される。
【0039】
また、円弧状四重極2、2’の部分において、真空度をガス導入などで直線型四重極部分よりも低下させて、イオンとガス成分との衝突反応によるコリジョン・クーリングを起こさせる場合、運動エネルギーが次第に低下することで中心の光軸上付近にイオンが偏在すると同時に、軸方向に進行していた動きも少なくなり、停滞する状況になってくる。
【0040】
そこで、図4〜9に示したように、円弧状四重極の電極表面に溝が付けられていると、図10(c)で示した直流成分±Uaを印加することで、出入口両端での溝の深さの違いと印加電圧の違いとで、軸方向に勾配電場が形成される。
【0041】
例えば、入口側で溝の浅い方がプラス電位、溝の深い方がマイナス電位、出口側では逆に溝の深い方がプラス電位、溝の浅い方がマイナス電位の関係にあると、入口側から出口側に向かって、光軸上の電位が軸方向に次第に下がるように形成される。
【0042】
よって、軸方向の電場勾配のあるところでは、停滞していたイオンは軸方向へ移動させられる。コリジョン・クーリングを使用する場合は、イオンの停滞を避けるために、通常では同じ設定のU2とU2’、あるいはV0とV0’が、異なる設定にされることもある。
【0043】
コリジョン・クーリングの様子は、重複説明を省くために、後述の実施例2に掲載する図16と図17とで示すイオントラップモードでの軌道描画事例にて示す。
【0044】
[実施例2]
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極の中心軸の回転曲率について、変形例を示す。実施例1では、四重極の中心軸の回転半径は、電極棒の径に対して10倍以内、より好ましくは約3倍程度で実現できることを示したものであったが、これを更に小さくして、四重極を折り畳む形状にすることも可能なので、その例を先の例と同様に可視化してシミュレーションで取り上げる。その場合の円弧状四重極の形状例を、円弧状四重極部分のみの立体図として図14と図15に示す。
【0045】
図14の例では、中心軸の回転半径は、電極棒の直径程度である。また、図15の例では、中心軸の回転半径は、電極棒の半径程度に小さく曲げてある。これらの電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされている(図10(a)参照)。
【0046】
ただし、別の例として、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされているものであっても良い(図10(b)参照)。
【0047】
これらの変形例では、円弧状四重極部分の光軸に対する電極棒の位置に合わせて、直線型四重極部分の電極棒の配置も光軸の回りで45°回転させられて配置されるのが普通である。
【0048】
また、図示しないが、円弧状四重極部分でガス衝突を起こさせるために、ガス導入系と、出口・入口電極部の印加電圧に時間的な制御が可能な機構部とが付加される。
【0049】
本実施例は、次のように動作する。すなわち、円弧状四重極部分の光軸回転半径を小さくした場合でも、基本的な動作は実施例1とほとんど同じである。ただし、回転半径が小さくなると、印加される高周波電圧については、その周波数が高い方が滑らかなビーム軌道の軌跡をシミュレーションで確認できる。
【0050】
簡単のため、円弧状四重極部分だけを取り出して先の構成で示したものを、2次元的に図16と図17とに示す。これらは、イオンビーム軌道を見やすくするためにも平面の図で示してあるが、ここで示したビームの軌道は、この四重極の領域の真空度を衝突用ガス成分の導入状態を想定したイオントラップの動作モードの事例として、軸上近傍を前進と後進とを繰り返して最後に排出されるまでの様子を例示してある。
【0051】
イオン入口側スリット電極5とイオン出口側スリット電極6に印加する電圧は、時間的に変化するように制御される。その制御に合わせて、イオン入口側スリット電極5の開口部から入ったイオンは、四重極の内部に入り込んで進み、イオン出口側スリット電極6の電位で押し戻されて、電極の軸上近傍の軌道を逆送するが、この四重極の領域はガス成分が存在する環境にあるため、それらのガス成分粒子との衝突で運動エネルギーを減じる。
【0052】
しかし、四重極電極の表面に彫刻された溝の深さが電極の位置に応じて異なる構造に加えて、印加される直流電圧にも差が付けられているので、軸方向に電場勾配が形成され、そのことでイオンは次第にイオン出口側スリット電極6の開口へと移動していき、イオン出口側スリット電極6の電位が下がった時点で一気に円弧状四重極の内部からイオン出口側スリット電極6の開口部を経て排出される。
【0053】
[実施例3]
実施例2では、イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極部分でのガス成分との衝突の他に、屈曲部の曲率の違いについての事例も示したが、ここでは円弧状四重極部分の屈曲の方向についての変形例を示す。先の図1は、3次元的に屈曲させた場合、図18は2次元的に屈曲させた場合である。
【0054】
これらの2次元的・3次元的な屈曲方向を組み合わせると、必要に応じた形状に変更可能となる。ここには図示しないが、同一平面上での周回・渦巻きなどの平面構造や、垂直方向へ角度がずれる要素も入れて竜巻のようなヘリカルな立体構造も可能である。
【0055】
なお、円弧状の四重極部分は、これまでに示したいずれの場合でも、イオンの進行する向きが180°に変わる接続例であったが、これは必ずしも180°の角度でなければならないということではない。必要に応じて所望の角度で偏向させて良い。設計・製作上の観点からは、15°、45°、90°などの角度に設定して組み合わせる方が都合の良い場合が多い。図19は、偏向角が90°の例である。
【0056】
ガス導入部分を屈曲部分に採用する場合は、直線型の接続に較べて、真空系のポンプ配置が低真空部分と高真空部分とに2分して整理できる利点もあるので、それを活かした構造とすることも可能である。
【0057】
また、これまで上げた事例では、四重極の電極は棒状であったが、電極表面での電位が四重極の場を決めるので、電極材は中空のパイプ状部材で構成され、表面が導電材料であっても良い。
【0058】
電極に印加される高周波電圧の周波数については、屈曲部の回転半径が小さい場合は、周波数を高めに設定して使用する方が有利であり、たとえば、ここで上げたシミュレーションでは3MHzを設定した。
【0059】
本実施例の動作は、先の実施例と基本的に変わりはない。単にイオンの進行する方向の偏向が平面的か立体的かという点で異なるだけである。ただし、イオンは初期条件の違いで異なる軌道を取り、またこの偏向の向き、接続の形態、系の長さ等が違えば、取り得るイオンの飛行軌道も変わってくるので、まったく同じ結果になるという訳ではない。
【0060】
また、四重極部分の全体を小さく畳み込むことを主眼にすると、実施例1のような3次元的配置がコンパクトさで勝るが、直線型四重極部分の利用方法を更に拡張してイオンガイド、マスフィルター、イオントラップ、コリジョンセル等と種々機能を変形的に用いる場合は、実施例3の方が便利な面もある。
【0061】
なお、円弧状四重極部分をマスフィルターとして使用することもできるが、電極棒に印加する周波数が低いと、曲がった軌道から外れやすくなるので、その場合は印加する周波数は更に高めにする必要がある。
【0062】
また、ガスを導入した条件でも、各四重極部分をマスフィルターとして機能させることも可能だが、その場合、質量分解能は低下する傾向にある。
【0063】
いずれにせよ、円弧状四重極部分をあいだに介して、直線型四重極を複数個連続的にかつ畳み込むような形でつなげることにより、直線的につなぐ方式よりも小型な四重極型質量分析装置を製作することができ、イオンガイド、直線型四重極マスフィルター、コリジョンセル、イオントラップ等の機能部分を組み合わせた構成の装置でも小型にできる。
【0064】
また、直線型四重極マスフィルターを複数個つなぐことで、その内部を飛行するイオン軌道の長さを拡張でき、その間における飛行イオンの振動回数を増やすことで、質量分解能の向上を実現することができる。
【0065】
また、イオンガイド機能の円弧状四重極部分において、電場で偏向作用を受けない中性粒子は直進するため、電場で偏向を受けるイオンと分離することができる。その結果、検出器へのノイズの原因を低減することができ、更に棒状電極を図10(a)のように斜め45°方向に配置した場合は、軌道が湾曲する部位での中性粒子の軌道が電極の間隙を抜けるような形になり、中性粒子成分の電極表面への付着・汚染を低減することができる。
【0066】
また、図10(a)のような電極配置で円弧状四重極部分を構成すれば、内周側と外周側の2種類の電極部材を製作するだけで良く、図10(b)のような電極配置が3種類の電極部材を必要とするのに較べて、製作コストをより低減させることができる。
【0067】
また、直線型四重極の多段接続に使用する円弧状四重極部分の回転角度を任意に設定できることから、畳み込みの形にも自由度が高く、装置作りの面からも都合が良い。
【0068】
また、円弧状四重極部分をガス導入コリジョンセルあるいはイオントラップとして用いれば、円弧状部分を低真空部、直線部分を高真空部に用途分けした簡潔な真空系が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
四重極質量分析装置に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明にかかる四重極質量分析装置の一実施例を示す図である。
【図2】四重極に印加される電圧の例を示す図である。
【図3】図1に示した一実施例の光学系の投影図である。
【図4】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図5】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図6】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図7】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図8】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図9】図1に示した一実施例の円弧状部分を示す拡大図である。
【図10】図1に示した一実施例の円弧状電極の変形例と、それに印加される電圧の例を示す図である。
【図11】図1に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図12】図1に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図13】図1に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図14】本発明にかかる円弧状四重極の別の実施例を示す図である。
【図15】本発明にかかる円弧状四重極の別の実施例を示す図である。
【図16】図14に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図17】図15に示した一実施例によるシミュレーション結果を示す図である。
【図18】本発明にかかる四重極質量分析装置の別の実施例を示す図である。
【図19】本発明にかかる四重極質量分析装置の別の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1:直線型四重極、2:円弧状四重極、2’:円弧状四重極、3:イオン入口側開口、4:イオン出口側開口、5:イオン入口側スリット電極、6:イオン出口側スリット電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンが次々と通過できるように複数の直線型四重極を配列した四重極質量分析装置において、
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極を用いて前記直線型四重極を直列接続したことを特徴とする四重極質量分析装置。
【請求項2】
前記四重極質量分析装置は、接続された直線型四重極部分、および円弧状四重極部分をそれぞれ1つの単位とする真空制御を行なうことを特徴とする請求項1記載の四重極質量分析装置。
【請求項3】
前記円弧状四重極は、イオンガイド、マスフィルター、イオントラップ、コリジョンセルのうち、少なくとも1つの機能を与えられていることを特徴とする請求項2記載の四重極質量分析装置。
【請求項4】
前記円弧状四重極部分はガス導入手段を備え、導入されたガス分子とイオンとの衝突により、イオンを開裂、またはイオンの運動エネルギーを冷却させるようにしたことを特徴とする請求項3記載の四重極質量分析装置。
【請求項5】
前記円弧状四重極部分の中心光軸の回転半径は、四重極を構成している電極棒の径に対して10倍以内であることを特徴とする請求項1記載の四重極質量分析装置。
【請求項6】
前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされていることを特徴とする請求項5記載の四重極質量分析装置。
【請求項7】
前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされていることを特徴とする請求項5記載の四重極質量分析装置。
【請求項8】
前記円弧状四重極を構成する電極棒には、四重極の内接円と接する表面に四重極の中心光軸に沿って溝が彫刻されており、該溝は、中心光軸を挟んで対向する1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に深くなるように彫刻され、中心光軸を挟んで対向する別の1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に浅くなるように彫刻されていることを特徴とする請求項5記載の四重極質量分析装置。
【請求項9】
前記円弧状四重極を構成する電極棒のうち、前記中心光軸を挟んで対向する2対の電極棒には、それぞれ対ごとに異なる直流電圧が印加され、それにより前記溝は前記円弧状四重極の光軸方向に向かって電位勾配を発生することを特徴とする請求項8記載の四重極質量分析装置。
【請求項1】
イオンが次々と通過できるように複数の直線型四重極を配列した四重極質量分析装置において、
イオンの飛行方向を偏向する円弧状四重極を用いて前記直線型四重極を直列接続したことを特徴とする四重極質量分析装置。
【請求項2】
前記四重極質量分析装置は、接続された直線型四重極部分、および円弧状四重極部分をそれぞれ1つの単位とする真空制御を行なうことを特徴とする請求項1記載の四重極質量分析装置。
【請求項3】
前記円弧状四重極は、イオンガイド、マスフィルター、イオントラップ、コリジョンセルのうち、少なくとも1つの機能を与えられていることを特徴とする請求項2記載の四重極質量分析装置。
【請求項4】
前記円弧状四重極部分はガス導入手段を備え、導入されたガス分子とイオンとの衝突により、イオンを開裂、またはイオンの運動エネルギーを冷却させるようにしたことを特徴とする請求項3記載の四重極質量分析装置。
【請求項5】
前記円弧状四重極部分の中心光軸の回転半径は、四重極を構成している電極棒の径に対して10倍以内であることを特徴とする請求項1記載の四重極質量分析装置。
【請求項6】
前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面から等距離離れ、光軸からは該平面に対し斜め45°方向に離れて対向する位置にセットされていることを特徴とする請求項5記載の四重極質量分析装置。
【請求項7】
前記円弧状四重極を構成する電極棒は、湾曲した光軸を含む平面上に光軸を挟んで光軸から等距離に1対、また湾曲した光軸を含む平面に対し、光軸を挟んで鉛直方向に等距離に1対、対向する電極棒がセットされていることを特徴とする請求項5記載の四重極質量分析装置。
【請求項8】
前記円弧状四重極を構成する電極棒には、四重極の内接円と接する表面に四重極の中心光軸に沿って溝が彫刻されており、該溝は、中心光軸を挟んで対向する1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に深くなるように彫刻され、中心光軸を挟んで対向する別の1対の電極棒では光軸方向に沿って次第に浅くなるように彫刻されていることを特徴とする請求項5記載の四重極質量分析装置。
【請求項9】
前記円弧状四重極を構成する電極棒のうち、前記中心光軸を挟んで対向する2対の電極棒には、それぞれ対ごとに異なる直流電圧が印加され、それにより前記溝は前記円弧状四重極の光軸方向に向かって電位勾配を発生することを特徴とする請求項8記載の四重極質量分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−33735(P2010−33735A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191797(P2008−191797)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]