説明

回収シリコンくずの融解方法

【課題】アーク炉に抵抗加熱炉などを併設しないでアーク炉のみで回収シリコンくずを加熱、融解することができ、回収シリコンくずに印加する電圧も400V以下で稼動することができ、高電圧を使用するような大きな設備を要しない回収シリコンくずの融解方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る回収シリコンくずの融解方法は、回収されたシリコンくずをアーク炉により融解する回収シリコンくずの融解方法であって、該アーク炉の電極間電圧を40〜400Vに保持するとともに、電極を導電材に接触させた状態で通電し、該導電材の昇温に伴って発生するアーク放電により前記シリコンくずが加熱され、アーク放電及び電極間電流が安定したのち通常のアーク炉操業に移行することによって実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ、ICチップの製造等において排出され回収された回収シリコンくずをアーク炉を使用して融解する方法に係り、特にアーク炉を効率的に起動させることができる回収シリコンくずの融解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ、ICチップ等の製造過程においては、多量のシリコンくずが排出され、それらの大半が廃棄されている。シリコンくずとして廃棄される総量は、シリコンウエハ等製品になる総量よりも多いとされる。また、シリコンウエハ等の製造には多大なエネルギが消費されている。このような状態を改善するために、シリコンくずを再利用するための研究、開発が進められている。
【0003】
シリコンくずを再利用に供するためには、先ずシリコンくずを融解しなければならないが、特許文献1に、不活性ガス雰囲気下、炭化珪素とシリコン粒を含む混合物を溶融し、先ず炭化珪素を析出させて回収し、次に溶融シリコンを回収する発明が記載されている。そして、その明細書に、炭化珪素とシリコン粒を含む混合物の溶融は、不活性ガス雰囲気下でシリコン粒、端材シリコンを融解し得るものであれば特に限定されず、抵抗加熱体やヒータなどの加熱手段を用いることができると記載されている。
【0004】
特許文献2には、シリコン精製方法の発明において、シリコン粉の融解は、減圧又は不活性雰囲気下において所定温度まで融解することができれば特に限定されないが、抵抗ヒータ、誘導加熱、アーク溶融又はプラズマ溶融加熱法を使用することができると記載されている。そして、このシリコン粉には、シリコン単結晶又は多結晶からなるシリコンウエハの製造工場から排出され回収されたシリコン粉、または、シリコンウエハの切削時に用いられるダイヤモンド等の固定砥粒又はシリコンカーバイトなどの遊離砥粒、あるいは潤滑剤を含むシリコン粉を使用することができると記載されている。
【0005】
特許文献3には、少なくとも酸素を含むガス雰囲気下でアーク放電を行うアーク放電法を使用し、シリコン廃棄物を原料として、主に太陽電池の製造に用いるシリコン多結晶を製造する方法の発明が開示されている。そして、その明細書に、このシリコン多結晶の製造方法は、アーク放電法を利用して、廃棄シリコンから生成した酸化シリコンと炭化シリコンの反応によりシリコンを生成することで、廃棄シリコンに含まれる不純物を除去し高純度のシリコンを生成することができ、アーク放電法を利用していても、石英と炭素の反応によりシリコンを生成する従来の製造方法と比較し、シリコンの生成効率が高いと記載されている。
【0006】
上記特許文献1〜3に記載するように、回収シリコンの融解には種々の加熱方法が用いられている。一方、特許文献3に記載するように、珪石及び炭素から金属シリコンを製造するには従来よりアーク炉が用いられている。特許文献4には、SiO2、炭素又は炭素含有物、炭化珪素等をアーク炉に充填し、SiO2をアーク火点に供給することによって金属珪素を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-302513号公報
【特許文献2】特開2010-47443号公報
【特許文献3】特開2010-47443号公報
【特許文献4】特開昭61-117110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
引用文献1〜2に記載するように、回収されたシリコンくず(回収シリコンくず)の融解方法には種々の融解方法が採用されているが、アーク融解法は、融解時における雰囲気を容易に還元性雰囲気にすることができるので、回収シリコンくずを融解し、再生シリコンを得るには好ましい融解方法である。しかし、アーク融解法によりシリコン粉を融解するには、シリコン粉が絶縁物相当の抵抗を有するので、非常に高圧、例えば、1000Vを超えるような電圧にしなければシリコン粉を加熱、融解することが困難で、融解するまでに長時間を要するという問題がある。
【0009】
一方、引用文献3又は4に記載されたアーク融解法においては、回収シリコンくず又は珪石を融解することについて、特にアーク炉を起動してそれらの融解を始めるまでのことについては何らの記載もない。これは、抵抗ヒータなどを用いた抵抗加熱炉により回収シリコンくずを加熱、溶融する場合は、アーク融解法と異なり上記のような問題がないからと解される。すなわち、先ず抵抗ヒータ等で回収シリコンくずを加熱した後、回収シリコンくずが溶解した後又はある温度以上になった後にアーク炉による融解を行っていると解される。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、アーク炉に抵抗加熱炉などを併設しないでアーク炉のみで回収シリコンくずを加熱、融解することができ、回収シリコンくずに印加する電圧も400V以下で稼動することができ、高電圧を使用するような大きな設備を要しない回収シリコンくずの融解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る回収シリコンくずの融解方法は、回収されたシリコンくずをアーク炉により融解する回収シリコンくずの融解方法であって、該アーク炉の電極間電圧を40〜400Vに保持するとともに、電極を導電材に接触させた状態で通電し、該導電材の昇温に伴って発生するアーク放電により前記シリコンくずが加熱され、アーク放電及び電極間電流が安定したのち通常のアーク炉操業に移行することによって実施される。
【0012】
上記発明において、導電材は、炭素又は/及び炭化珪素からなる粉末又は固形材であるのがよい。
【0013】
また、上記発明において、アーク炉の炉底にまずスラグを投入し、その上にシリコンくずを投入することによってシリコンくずを融解させるのがよい。また、アーク炉は、電極間隔が調整可能になっているのがよい。
【0014】
回収されたシリコンくずの融解は還元性雰囲気下で行われるのがよく、これにより、回収シリコンくずから効率的に再生シリコンを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抵抗加熱炉などを併設しないでアーク炉のみで回収シリコンくずを効率的に加熱、融解することができる。また、回収シリコンくずに印加する電圧も400V以下で稼動することができ、高電圧を使用するような大きな設備を要せず回収シリコンくずを加熱、融解し、還元性雰囲気下で効率的に回収シリコンくずから再生シリコンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る回収シリコンくずの融解方法を説明する模式図である。
【図2】アーク炉を起動して回収シリコンくずを融解するまでの電極間電流の変化状態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る回収シリコンくずの融解方法を説明する模式図である。図1において、アーク炉1において、先ずスラグ15が炉底に投入されており、その上に回収シリコンくず13が投入されている。そして、回収シリコンくず13の上面又は回収シリコンくず13の中に導電材10が載置されている。電極5は、導電材10に接触した状態になっている。
【0018】
本発明に係る回収シリコンくずの融解方法は、まず、図1に示すように、電極5を導電材10に接触させた状態で電極間に通電する。導電材10の通電により、導電材10が加熱されその抵抗値が下がって電流が増加し導電材10が昇温する。そして、導電材10に向けてアーク放電が生ずる。このアーク放電により回収シリコンくず13が加熱されて融解し始めるが、アーク放電は不安定で電極間電流も不安定である。しかし、しばらくするとアーク放電及び電極間電流が安定する。そこで、このアーク放電及び電極間電流が安定した後に、これまで電極5を導電材10に接触させた通電によるアーク炉の操業から通常のアーク炉操業に移行する。
【0019】
図2に、本回収シリコンくずの融解方法を実施した場合の電極間電流の変化の様子を示す。横軸は、アーク炉稼働後の時間を示し、縦軸は電極間電流を示す。図2に示すように、電極間に通電を始めると、電極間電流は緩やかに上昇していく。電極間電流がある程度大きくなり図2においてAで示す電流値になると電極間電流は急速に増大する。そして、図2においてBで示す電流値になると電流が振動状態になり不安定になる。しばらくの間、電極間電流は不安定であるが(C)、振動状態を抜けて(D)からは電極間電流は増大し、やがて一定値になる(E)。なお、図2において示す時間及び電流値は、以下に説明する実施例の場合の数値である。
【0020】
本発明において、アーク炉1は、特に限定されないが、交流式のアーク炉であるのがよい。交流式のアーク炉の場合は、導電材10の導入などによる電極間抵抗値を制御するのが容易である。アーク炉1の使用電圧は、40〜400Vとする。回収シリコンくず13の時間当たりの処理量が多くなるほど使用電圧は高くするのがよいが、本発明においては400Vを超える電圧を要しない。使用電圧が40V未満であると、アーク放電が困難になる。
【0021】
電極5は、炭素電極であるのがよい。これにより、回収シリコンくず13の溶解時のアーク炉内を容易に還元性雰囲気にすることができ、回収シリコンくず13の酸化を防止し、還元を促進させるのでよい。
【0022】
導電材10は、これに通電して回収シリコンくず13を加熱できる程度の電気抵抗率を有するものを使用する。導電材10は、電気抵抗率が10-3〜10-6Ωmであればよく、例えば、炭素粉末又は固形材を使用することができる。炭素系の材料は、回収シリコンくず13の酸化を防止し、還元材料として使用することができるので好ましい。また、炭化珪素粉末又は固形材を使用することができる。
【0023】
導電材10は、回収シリコンくず13の上面又は回収シリコンくず13の中に埋め込んだ状態で使用され、これに電極5を接触させて通電、発熱させるものであるから、一定の形状を有するものが取扱が容易であり、また、所定の発熱性能を発揮させることができるのでよい。また、導電材10は、回収シリコンくず13に含まれるSiと化合し難いものであるのがよい。
【0024】
導電材10は、上述のように、回収シリコンくず13のヒータ部材として使用されるものであるから、大量の回収シリコンくず13を処理する大きなアーク炉1になると、電極間電圧を40〜400Vの範囲に保持するために、導電材10を含めた電極間抵抗値が所定の範囲に収まるようにしなければならない。このため、導電材10の形状又は占める割合が大きくなる。導電材10の形状又は占める割合は、できるだけ小さい方がよいので、このような場合は電極間の間隔が調整できるアーク炉を使用するのがよい。これにより、先ず電極間隔が狭い状態でアーク炉を起動し、アーク放電が安定した後(図2のE点)に通常の好ましい電極間隔にすることができる。
【0025】
回収シリコンくず13は、シリコンウエハ、ICチップの製造等において排出され回収された粉状のものをいう。回収シリコンくず13は、シリコン粉以外に、炭化珪素などの遊離砥粒又はダイヤモンドなどの固定砥粒、あるいは水やオイルなどの有機物を含むものであってもよい。水分は、5〜10質量%程度含むものが取り扱いが容易なのでよい。
【0026】
スラグ15は、CaO及びSiO2を主要成分とするものを使用することができる。これにより、回収シリコンくず13の酸化を防止し、還元を促進させることができる。また、スラグ15を、回収シリコンくず13の融解又は還元された溶融シリコンを濾過するフィルタとして機能させることができる。
【0027】
回収シリコンくず13は、スラグ15の上面にあるようにするのがよい。これにより、導電材10に向けてアーク放電が生じたとき、回収シリコンくず13の融解が早まり以下に説明する溶融シリコンからなる導電体の形成が早まるので、電流の振動する区間(図2のC)を狭くすることができる。一方、スラグ15が回収シリコンくず13の上面にあると、アーク放電によりスラグ15が融解し、厚い溶融スラグ層が溶融シリコンの導電体が形成される前に形成され、溶融スラグの電気抵抗率は溶融シリコンの電気抵抗率より高いのでアーク放電が困難になるという不都合を生ずる。また、スラグ15は、アーク炉の炉底に配置するのがよい。これにより、アーク炉の起動時のアーク放電による炉底の損傷を防止することができる。
【0028】
通常のアーク炉操業とは、アーク炉内に金属溶湯が存在し、電流が電極−金属溶湯−電極間に流れてアーク放電が行われ、アーク炉の操業が一般に電流制御、あるいはインピーダンス一定制御などにより安定したアーク放電の基で行われる通常のアーク炉の操業をいう。
【実施例1】
【0029】
図1に示す形態の交流アーク炉を用いて回収シリコンくずの融解試験を行った。3本の電極は、外形16mm、中心間隔100mmの黒鉛電極を使用した。電極間電圧は70Vで試験した。導電材は炭素粉を使用し、スラグは生石灰及び珪砂(質量比0.5:1〜1:5)を使用した。炭素粉、生石灰、珪砂は市販のものを使用した。
【0030】
表1に、プリント基板製造装置メーカ、太陽電池関連メーカ等から回収されたシリコンくずの回収時における成分分析結果(質量%)を示す。番号1及び3の試料は、遊離砥粒を含むもので、番号2の試料は固定砥粒を含むものであった。融解試験は、これらの回収シリコンくずを乾燥し、水分の含有量を5〜10質量%、PG(プロピレングリコール)の含有量を10〜20質量%に低下させたものを使用して行った。なお、表1の成分分析において、回収シリコンくずの110℃加熱減量分を水分含有量とし、この回収シリコンくずをさらに220℃に加熱したときの減量分をPG含有量とした。そして、炭素分の分析値をSiC分(SiC%)、酸素分の分析値をSiO2分(SiO2%)とし、珪素分析値から上記SiC分及びSiO2分に係る珪素分を差し引いて珪素含有量(Si%)とした。
【0031】
【表1】

【0032】
試験結果は以下の通りであった。図2に示すA点までの時間は、5〜10minであった。B点の電流値は、70〜100Aであった。電流の振動区間(C)は、2〜3minであった。E点までの時間は、15〜20minであった。また、そのときの電流値は300〜600Aであった。アーク炉内の観察によると、B点において回収シリコンくずの融解が観察された。そして、電流が安定し一定値をとるようになったE点において、溶融シリコンの湯溜まりが観察された。これらの観察によると、安定したアーク放電が生じるようになるのは、回収シリコンくずが融解されやがて溶融シリコンからなる導電体が形成され、電極間が溶融シリコンでつながって電極間抵抗が低くなるからであると解される。
【符号の説明】
【0033】
1 アーク炉
5 電極
10 導電材
13 回収シリコンくず
15 スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収されたシリコンくずをアーク炉により融解する回収シリコンくずの融解方法であって、該アーク炉の電極間電圧を40〜400Vに保持するとともに、電極を導電材に接触させた状態で通電し、該導電材の昇温に伴って発生するアーク放電により前記シリコンくずが加熱され、アーク放電及び電極間電流が安定したのち通常のアーク炉操業に移行する回収シリコンくずの融解方法。
【請求項2】
導電材は、炭素又は/及び炭化珪素からなる粉末又は固形材であることを特徴とする請求項1に記載の回収シリコンくずの融解方法。
【請求項3】
アーク炉の炉底にまずスラグを投入し、その上にシリコンくずを投入することによってシリコンくずを溶解させることを特徴とする請求項1又は2に記載の回収シリコンくずの融解方法。
【請求項4】
アーク炉は、電極間隔が調整可能になっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回収シリコンくずの融解方法。
【請求項5】
シリコンくずの融解が還元性雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の回収シリコンくずの融解方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171858(P2012−171858A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39078(P2011−39078)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(594042000)株式会社木下製作所 (6)
【Fターム(参考)】