説明

回収可能な金属を含有する資源を塩素化するための方法

周期表中の第4〜6族、第8〜12族および第14族からの回収可能な金属を含有する鉱石、スラグ、ミルスケール、スクラップ、粉塵および他の資源を塩素化する方法。その方法は、a)塩化アルミニウムと、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物のうちから選択される少なくとも1種の他の金属塩化物とから本質的に成る液体溶融塩溶融物を形成する工程と、前記液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は10重量%を超過することと、b)前記液体塩溶融物中に前記回収可能な金属資源を導入する工程と、c)前記塩化アルミニウムを塩素供与体として前記回収可能な金属資源と反応させて金属塩化物を形成する工程と、前記金属塩化物は前記塩溶融物中に溶解されることと、d)生成した金属塩化物を前記塩溶融物から回収する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表において、第4〜6族、第8〜12族および第14族からの回収可能な金属を含有する鉱石、スラグ、ミルスケール、スクラップ、粉塵および他の資源を塩素化するための方法に関する。
【0002】
より正確には、本発明は、主として、以下のものからの有価金属の回収する方法を提供する。
−低品位鉱。
−硫化鉱。
−海底団塊鉱石。
−有価金属がケイ酸塩に隣接しているような、現在の技術で処理することが困難な鉱石、例えばニッケルまたはコバルトを含有するラテライト鉱石。
−冶金産業からのプロセススラグ。主として工具鋼およびステンレス鋼のような高合金鋼を製造する製鉄所からのスラグは、かなりの量の、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、コバルトおよびタングステンのような有価金属を含有している。このスラグは現在のところ廃棄されており、これは環境上不適当な方法であり、有益かつ限られた資源の浪費である。
−工具鋼、高速度鋼およびステンレス鋼のような高合金鋼の熱間成形において得られるミルスケール。
−例えば70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金のものなどの、有益な元素金属を含有するスクラップ。硬質金属とも呼ばれる「超硬合金」は、炭化タングステン粒子が凝集体であり、金属コバルトがマトリックスとして機能する金属マトリックス複合材料である。
−5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する鉄鋼製造からの粉塵。
【背景技術】
【0003】
スラグ、低または中等級鉱石、ミルスケールおよびスクラップのような副次物と見なされた資源から重要な卑金属をより効率よく回収することは非常に重要である。さらに、これらの鉱床において有価金属を濃縮し抽出するための技術的および経済的に固有の障害により、処理されない重要な鉱床が存在する。処理および開発することが困難である鉱床の一例は、ニッケルまたはコバルトを含有するラテライトであり、該ラテライト中では、ニッケルおよびコバルトは部分的に隣接し、ケイ酸塩中に微細に分散している。
【0004】
長年、塩素化は、鉱石、スラグ、スクラップおよび他の材料から金属分を回収する有効な方法と見なされてきた。塩化物処理冶金は、チタンおよびジルコニウム金属の生産において非常に工業的に重要である。
【0005】
特許文献1は、鉱石を、塩化第二鉄および塩化アンモニウムまたは塩化ナトリウムのようなアルカリ塩化物を含有する塩化物溶融物中で加熱することによって、例えばラテライトのようなケイ酸塩鉱石から、ニッケル、マンガンおよびコバルトを回収する方法を開示している。ラテライト鉱石中のニッケルは、酸化ニッケルとしてと、ケイ酸塩相中の酸化ニッケルとしてとの双方において存在する。ラテライト鉱石中に存在するニッケル、マンガンおよびコバルトの酸化物は、塩溶融物中において塩化第二鉄と反応して、酸化鉄と、ニッケル、マンガンおよびコバルトの二塩化物とを形成する。次いで、ニッケル、マンガンおよびコバルトの塩化物は、水によって抽出されて、回収される。
【0006】
海底団塊は、可能性として、銅、ニッケル、コバルトおよびマンガンのような工業金属
の最も重要で貴重な供給源である。特許文献1はまた、海底団塊を420℃で塩化第二鉄および塩化ナトリウムと反応させることにより、海洋団塊からこれらの有価金属を回収することを記載している。海洋団塊を加えられた塩溶融物は続いて冷却され、水浸出され、それにより、マンガン、コバルト、銅およびニッケルが回収された。
【0007】
塩化物溶融物を用いた太平洋深海団塊からのコバルト、銅、鉄、マンガンおよび鉄の抽出もまた、エス.フォン ウィンブッシュ(S. Von Winbush)およびヴィ.エイ.マロニ(V. A. Maroni)により、非特許文献1および特許文献2において報告されている。これらの著者は、好ましい塩溶融物は、約400℃以下の共融温度を有する、LiCl、NaCl、KClおよびMgClの共融混合物であったと報告している。遷移金属は、続いて、蒸留、電解析出により、並びに酸化および酸化物としての沈殿により、回収された。
【0008】
特許文献3では、希土類金属酸化物が、塩化第二鉄と、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、塩化亜鉛および塩化アンモニウムのうちの少なくとも1つの他の塩化物とを含む塩溶融物中において塩素化される方法が開示されている。
【0009】
鉛、亜鉛、銅、銀、および、金の硫化鉱の塩素化は、特許文献4に開示されており、塩溶融物中における硫化鉱の反応を含む方法によって行われる。これは、15重量%を占め、かつ塩化第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二銅、塩化第一銅およびそれらの混合物のうちから選択される1つの塩化物と、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、塩化亜鉛および塩化アンモニウムのうちからの少なくとも1つの他の塩化物とを有する少なくとも2つの異なる塩化物から成る。さらに特許文献4においては、塩素供与体として塩素ガスまたは塩化硫黄が塩溶融物に導入されてもよいことが述べられている。
【0010】
特許文献5は、塩化カリウムおよび塩化第一銅の塩溶融物中における塩素化による硫化鉱からの貴金属の回収を開示している。その反応は300℃〜600℃の温度範囲において行なわれる。
【0011】
特許文献6では、塩化第二鉄中、塩化第二銅中、または塩化第二鉄と塩化第二銅との混合物中における塩素化により、銅、鉄、鉛、亜鉛、銀および金の硫化物から塩化物を製造するための方法が開示されている。金属硫化物は金属塩化物および元素硫黄として回収される。
【0012】
特許文献7は、高温金属チタン、ケイ素、バナジウム、ニオブ、タンタル、タングステンおよびモリブデン、またはこれらの金属を含有する合金の塩素化方法について記載している。前記塩素化は、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムと、さらに鉄、銅およびクロムの塩化物とを含有する塩溶融物中において行われる。この方法の特徴は、前記塩溶融物に液体塩素が加えられることである。
【0013】
特許文献8は、非鉄金属、特にニッケル、コバルト、銅、亜鉛、マンガンおよびマグネシウムを、前記金属を含有する材料から、前記非鉄金属を溶融および溶融コーティング硫酸塩化によって硫酸塩に変換することにより、すなわち400〜800℃の温度範囲内の酸化条件下における熱処理によって、回収する方法を開示している。前記熱処理中、反応混合物は、少なくとも1つの前記非鉄金属、硫酸鉄(III)およびアルカリ金属硫酸塩を含有して形成され、実質的に硫酸鉄(III)が赤鉄鉱に熱分解するのを防止するように適切な反応条件が選択され、最終的に前記非鉄金属は金属化合物として回収される。
【0014】
硫化鉱から貴金属を回収する方法は、特許文献5に開示されている。その方法は、鉱石濃縮物と塩との混合物を塩素化して、液体溶融物を形成することを伴う。前記塩は、好ましくは塩化カリウムを含有する。この塩素化は、撹拌しながら300℃〜600℃の温度
で行われる。前記方法は、元素および硫化物の形態にある貴金属を貴金属塩化物に変換し、その貴金属塩化物は続く処理工程によって回収される。
【0015】
特許文献9は、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物、またはそのような塩化物の混合物を含む溶融塩中に塩化物として溶解した卑金属、すなわちマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、または鉛を、水素、硫化水素またはそれら双方によって卑金属分を沈澱させて、溶融塩から液相として分離するプロセスにおいて回収する方法を開示している。
【0016】
特許文献10は、試料をニッケル粉末、硫黄粉末、炭酸ナトリウム、ホウ砂およびケイ砂と共にるつぼに入れ、るつぼ中の材料を混合し、それらを加熱して溶解し、次いで溶融物を冷却して、ニッケル硫化物ボタンを得て、そのニッケル硫化物ボタンが次いでプラチナ族元素を測定するために用いられることにより、試料中のプラチナ族元素(ルテニウム、オスミウム、イリジウムおよびロジウム)を測定することができることを開示している。
【0017】
特許文献11は、約1wt%未満の濃度のガリウム、銀などのような有価微量金属を回収するための、ケイ酸塩基材を有する微粒子工業フライアッシュの処理を記載している。フライアッシュは、ハロゲン化アルカリ溶融物中において、AlClと接触させられる。実施例1は、約1モル%のAlClの用量を開示しており、ケイ酸塩基材の攻撃は避けられるものと思われる。
【0018】
特許文献12には、ケイ酸アルミニウムおよび/またはアルミナ、例えば、ウォッシュコートされた排気ガス制御触媒およびPtリフォーミング触媒を含有する耐火セラミック基体からの白金族金属(PGM)の回収のための方法が開示されている。前記方法を行なうために、前記基体、1種以上の融剤および収集剤(collector material)を含有する装入物は、粉砕された形で、好ましくはプラズマアーク型の高強度炉内において少なくとも1420℃の温度に加熱され、前記金属の実質的な割合を含む溶融金属相と、溶融スラグ相とを生成する。これらは次いで分離され、続いて金属相から白金族元素が抽出される。好ましい融剤は、CaO、CaF、BaO、Fe、MgO、SiOおよびTiOから選択され、好ましい収集剤は、Fe、Ni、Cu、Co、Pb、Zn、およびAl、またはそれらの混合物のうちから選択される。
【0019】
純金属、合金、酸化物、硫化物、炭酸塩およびケイ酸塩は、溶融した塩化物塩溶融物中において、塩素並びに塩化第二鉄および塩化第二銅のような塩素供与体と反応して、金属塩化物を形成する。しかしながら、金属資源の塩素化に関する技術的現状は、時に、塩溶融物中で塩素化される鉱石に見られる有価金属の低い反応速度および低い収率に苦慮している。
【0020】
このように、スクラップ、鉱石および海団塊のような多数の供給源から塩素化によって金属分を回収することができることはよく知られている。生成した金属塩化物は、続いて、塩の分別蒸留および濃縮、電気分解、または湿式冶金処理によって、分離および抽出することができる。
【0021】
塩素化方法には3つのグループが存在する:
a)塩素ガスによる、硫化物、ケイ酸塩および酸化物鉱石、並びに海底団塊のような固体原料の塩素化。
【0022】
b)塩素の非存在下での塩溶融物中における鉱石、スクラップ、ミルスケール、粉塵などの塩素化。ここでは、塩化第二鉄および/または塩化第二銅が一般に使用される塩素供
与体である。
【0023】
c)b)と同様であるが、塩素ガスまたは液体塩素として添加され得る元素状塩素が存在する塩素化。
しかしながら、b)の類の従来技術の塩素化方法では、反応速度、そして大抵は有価金属の収率も、容認し難いほど低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第4,144,056号
【特許文献2】米国特許第4,762,694号
【特許文献3】米国特許第4,179,492号
【特許文献4】米国特許第4,209,501号
【特許文献5】米国特許第5,074,910号
【特許文献6】米国特許第4,576,812号
【特許文献7】スウェーデン国特許第381862号
【特許文献8】米国特許第6,274,104B1号
【特許文献9】英国特許第147009号
【特許文献10】特開2002−372518号
【特許文献11】米国特許第4,475,993号
【特許文献12】英国特許出願公開第2067599A号
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Separation Science and Technology、第22巻(2および3)、第1135〜1148頁(1987年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の主な目的は、かなり高い反応速度および有価金属の収率を有する塩素化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この目的は、上記の第一節において言及された類の方法において、かつ本発明に従って、
a)塩化アルミニウムと、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物のうちから選択される少なくとも1種の他の金属塩化物とから本質的に成る液体溶融塩溶融物を形成する工程と、前記液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は10重量%を超過することと、
b)前記液体塩溶融物中に前記回収可能な金属資源を導入する工程と、
c)前記塩化アルミニウムを塩素供与体として前記回収可能な金属資源と反応させて、金属塩化物を形成する工程と、前記金属塩化物は前記塩溶融物中に溶解されることと、
d)生成した金属塩化物を前記塩溶融物から回収する工程とによって、達成される。
【0028】
驚いたことに、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物のうちから選択される少なくとも1種の他の金属塩化物の溶融物中に溶解した塩化アルミニウム(AlCl)は、塩素化方法において最も有効な塩素供与体であることが判明した。有効性の増大は、反応速度の増大およびより高い収率をもたらす。また、驚いたことに、鉱石、スクラップ、ミルスケールおよび粉塵のような金属資源が本発明に従って塩素化される場合、反応速度および有価金属の収率の双方が非常に高いことが分かった。反応速度が高いことは、鉱石、スクラップおよび副生成物の抽出処理に決定的に重要であり、それは処理時間を短
縮し、生成速度を増大する。さらに、有価金属の収率が非常に高いことは非常に重要である。低反応速度は、生産性の低下をもたらし、製造コストの増大に直接つながる。低収率は、有益な資源の喪失を生じ、また多くの場合、環境に対して負の影響を及ぼす。
【0029】
本発明の第1実施形態において、金属含有資源は硫化鉱である。そこで、さらなる工程段階、すなわち、硫化鉱中に存在する硫黄を元素硫黄として得ることを含むことは有益である。硫化物から硫黄を元素の形で回収する可能性は、特に銅およびニッケルのような金属の生産において、環境にとって非常に好ましいことである。
【0030】
第2実施形態において、金属含有資源は海底団塊鉱石である。
第3実施形態において、金属含有資源は、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のミルスケールである。
【0031】
第4実施形態において、金属含有資源は、70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金である。
第5実施形態において、金属含有資源は、5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵である。
【0032】
第7実施形態において、金属含有資源は、硫化鉱、スラグ、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のミルスケール、70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金、または5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵であり、前記方法は、塩素化方法の間に、塩溶融物に二酸化炭素ガスを加える工程をさらに含む。それにより、抽出はより効率的になる。
【0033】
第8実施形態において、金属含有資源は、硫化鉱、海底団塊鉱石、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のスラグまたはミルスケールであり、前記方法は、10%を超える、ホウ酸および硼酸ナトリウムのうちから選択されるホウ素含有化合物を(回収可能な金属資源に)加える工程をさらに含む。それにより、抽出はより効率的になる。
【0034】
好ましくは、液体塩溶融物の塩は、塩化アルミニウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムから本質的に成る。
好ましくは、液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は、10〜60重量%、より好ましくは15〜40重量%の範囲内にある。
【0035】
好ましくは、塩素化反応は保護雰囲気下で行なわれる。前記雰囲気は、例えば、窒素および/またはアルゴンまたは塩素ガス、または塩素と窒素およびアルゴンの少なくとも一方との混合物である。
【0036】
さらに、前記鉱石、スクラップ、スラグ、ミルスケールまたは粉塵は、好ましくは、塩溶融物に加えられる前に脱水される。また、生成物を含有する鉱石および他の金属を、それらが溶融塩に導入され混合される前に、微細粉末に粉砕することは有益である。塩素化方法において形成された金属塩化物は、塩溶融物中に可溶であり、続いて、電気分解、蒸発、分別蒸留および濃縮、または湿式冶金プロセスによって抽出および回収され得る。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、周期表中の第4〜6族、第8〜12族および第14族からの回収可能な金属を含有する鉱石、スラグ、ミルスケール、スクラップ、粉塵および他の資源を塩素化する新規な方法を提供する。
【0038】
前記新規な方法は、
a)塩化アルミニウムと、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物のうちから選択される少なくとも1種の他の金属塩化物とから本質的に成る液体溶融塩溶融物を形成する工程と、前記液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は10重量%を超過することと、
b)前記液体塩溶融物中に前記回収可能な金属資源を導入する工程と、
c)前記塩化アルミニウムを塩素供与体として前記回収可能な金属資源と反応させて、金属塩化物を形成する工程と、前記金属塩化物は前記塩溶融物中に溶解されることと、
d)生成した金属塩化物を前記塩溶融物から回収する工程とを含む。
【0039】
驚くべきことに、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物のうちから選択される少なくとも1種の他の金属塩化物の溶融物中に溶解した塩化アルミニウム(AlCl)が、塩素化方法において最も有効な塩素供与体であることが判明した。有効性の増大は、反応速度の増大およびより高い収率をもたらす。また、驚いたことに、鉱石、スクラップ、スラグ、ミルスケールおよび粉塵のような金属資源が本発明に従って塩素化される場合、反応速度および有価金属の収率の双方が非常に高いことが分かった。反応速度が高いことは、鉱石、スクラップおよび副生成物の抽出処理に決定的に重要であり、それは処理時間を短縮し生成速度を増大する。さらに、有価金属の収率が非常に高いことは非常に重要である。低反応速度は、生産性の低下をもたらし、製造コストの増大に直接つながる。低収率は、有益な資源の喪失を生じ、また多くの場合、環境に対して負の影響を及ぼす。
【0040】
前記塩溶融物中の他の金属塩化物の目的は、塩化アルミニウムのための溶媒となることである。それらの他の金属塩化物は、該方法の間において安定したままであるが、一方、塩化アルミニウムは塩化物供与体である。
【0041】
本発明の第1実施形態において、金属含有資源は硫化鉱である。よって、さらなる工程段階、すなわち、硫化鉱中に存在する硫黄を元素硫黄として得ることを含むことは有益である。硫化物から硫黄を元素の形で回収する可能性は、特に銅およびニッケルのような金属の生産において、環境にとって非常に好ましいことである。好ましくは、前記硫化鉱は、Cu、Mo、Fe、Zn、Ni、Coのうちから選択される少なくとも1種の金属を総含有量で少なくとも0.5重量%含有する。
【0042】
第2実施形態において、回収可能な金属を含有する資源は海底団塊鉱石である。好ましくは、前記海底団塊鉱石は、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Pb、V、Cr、希土類金属のうちから選択される少なくとも1種の金属を総含有量で少なくとも1重量%含有する。
【0043】
第3実施形態において、金属含有資源は、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のミルスケールである。好ましくは、前記ミルスケールは、Fe、Ni、Cr、V、Co、W、Moのうちから選択される少なくとも1種の金属を総含有量で少なくとも2重量%含有する。
【0044】
第4実施形態において、金属含有資源は、70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金である。
第5実施形態において、金属含有資源は、5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵である。
【0045】
第7実施形態において、金属含有資源は、硫化鉱、スラグ、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のミルスケール、70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金、または5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵であり、前記方法は
、塩素化方法の間に塩溶融物に二酸化炭素ガスを加える工程をさらに含む。それにより、抽出はより効率的になる。
【0046】
第8実施形態において、金属含有資源は、硫化鉱、海底団塊鉱石、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のスラグまたはミルスケールであり、前記方法は、10%を超える、ホウ酸および硼酸ナトリウムのうちから選択されるホウ素含有化合物を(回収可能な金属資源に)加える工程をさらに含む。それにより、抽出はより効率的になる。
【0047】
酸化物を含有する原材料(鉱石、スラグ、ミルスケール、粉塵):
この範疇は、製鋼業からの酸化スケール、ケイ酸塩構造中に埋め込まれた酸化物を有する鉱石およびスラグを含む。特に、金属酸化物がケイ酸塩構造中に埋め込まれている鉱石およびスラグは、通常、抽出することが非常に困難である。しかしながら、塩化アルミニウムは、ケイ酸塩構造を破壊し、ケイ酸塩構造から金属を選択的に除去し、そのようなスラグおよび鉱石からの金属の経済的に実行可能な回収を可能にすることが判明した。例えば、電気炉からのスラグは、非常に強いケイ酸塩構造中に埋め込まれており、それにより抽出するのが困難であった高含有量の金属(例えば7重量%もの高さのクロム)を有し得る。しかしながら、ケイ酸塩構造を攻撃する本発明の塩化アルミニウムの使用は、この種のスラグからさえ金属の回収を可能にする。
【0048】
最も有益かつ回収可能な金属酸化物のうちのいくつかについて、塩溶融物中における反応は下記の通りである:
3CuO+2AlCl→3CuCl+Al (1)
3CoO+2AlCl→3CoCl+Al (2)
3NiO+2AlCl→3NiCl+Al (3)
Fe+2AlCl→2FeCl+Al (4)
3ZnO+2AlCl→3ZnCl+Al (5)
Cr+2AlCl→2CrCl+Al (6)
硫化物を含有する原材料(鉱石)、例えば黄銅鉱、閃亜鉛鉱、ウルツ鉱:
本発明に従って硫化物を反応させる場合には、制御された酸素分圧下においてAlClのAlへの選択的酸化に酸素を提供するのとは別に、生成された元素硫黄がSOにさらに酸化するのを防止するために、塩溶融物に二酸化炭素が添加されるべきであることが判明した。下記は、Cu、FeおよびZnを含有する硫化鉱との反応の実施例である。
6CuFeS+10AlCl+15CO→6CuCl+6FeCl+5Al+15CO+12S (7)
前記式中、Sは元素硫黄を示す。
3ZnS+2AlCl+3CO→3ZnCl+Al+3CO+3S (8)
しかしながら、モリブデン、ニッケルおよびコバルトを含む硫化鉱からの他の金属もまた、AlClで塩素化することにより抽出することができる。硫化物から硫黄を元素の形で回収する可能性は、特に銅およびニッケルのような金属の生産において、環境にとって非常に好ましいことであることに注目すべきである。
【0049】
元素形態の金属を含有する原材料(スクラップ、粉塵、合金):
本発明に従って元素金属を反応させる場合には、制御された酸素分圧下において酸素を提供するために、塩溶融物に二酸化炭素が加えられるべきであることが分かった。下記は元素金属に対する反応式の例である。
W+2AlCl+6CO→WCl+Al+6CO (9)
6Mo+10AlCl+15CO→6MoCl+5Al+15CO (10)
3Ni+2AlCl+3CO→3NiCl+Al+3CO (11)
炭化物、例えば硬質金属スクラップを含有する原材料:
本発明による炭化物の場合、酸素分圧を制御するために、塩溶融物に二酸化炭素が加えられるべきであることが分かった。下記は原材料を含有する炭化物に対する反応式の例である。
WC+2AlCl+4CO→WCl+Al+5CO (12)
6MoC+10AlCl+21CO→6MoCl+5Al+27CO (13)
しかしながら、コバルトおよび炭化タンタルのような他の炭化物もまた、AlClで塩素化することにより抽出することができる。
【0050】
好ましくは、液体塩溶融物の塩は、塩化アルミニウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムから本質的に成る。
好ましくは、液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は、10〜60重量%、より好ましくは15〜40重量%の範囲内にある。
【0051】
さらに、前記鉱石、スクラップ、スラグ、ミルスケールまたは粉塵は、好ましくは、塩溶融物に加えられる前に脱水される。また、生成物を含有する鉱石および他の金属を、それらが溶融塩に導入され混合される前に、微細粉末に粉砕することは有益である。好ましくは、その粒子は、D90<2mm、より好ましくはD90<1mmを有する微細粉末に粉砕される。粒子が微細であるほど、反応速度は高い。
【0052】
他の実施形態において、平均粒径は、50〜1500μm、好ましくは100〜1000μm、より好ましくは200〜500μmの範囲内にある。塩化アルミニウムは非常に有効であることが証明され、従って、同等の大きな粒子サイズを有する粉末から金属を抽出することが可能である。同等の大きな平均サイズの粉末を許容することは粉砕費用を低減する。
【0053】
前記塩素化方法で形成された金属塩化物は、塩溶融物中に可溶であり、続いて、電気分解、蒸発、分別蒸留および濃縮、または湿式冶金プロセスによって抽出および回収され得る。
【実施例1】
【0054】
アルミナるつぼ内において、35重量部のNaCl、43重量部のKClおよび22重量部のAlClを溶融することにより、塩溶融物を調製し、その塩溶融物を970℃に加熱した。工具鋼製造からの15重量部の脱水したスラグを、100μmよりも100%微細である粒径を有する粉末に粉砕し、この温度で塩溶融物に加えた。前記スラグは以下の重量組成を有した:
CaO 30.5%、MgO 17.2%、Al 5%、SiO 36.1%、FeO 2.4%、MnO 1.8%、およびCr 8%。
【0055】
塩溶融物とスラグとの間の反応時間は45分であった。その後、塩溶融物およびスラグを有するるつぼを室温に冷却した。スラグ相中のクロムの88%が塩素化されており、それにより塩化物相に移動したことが分かった。実験は、窒素の保護雰囲気下で閉鎖系において行った。
【0056】
参照として、塩化アルミニウムを、22重量部の塩化第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二銅または塩化第一銅のいずれかと置き換えて、上記の実験を繰り返した。他のすべての条件は同じであった。前記スラグからのクロムの回収量は、これらの4つの実験において、8〜13%の範囲にあった、つまり、塩化アルミニウムを塩溶融物中で使用した場合に比べ
て非常に低かった。
【実施例2】
【0057】
平行実験は、実施例におけるのと同一の組成および粒径分布を有する工具鋼スラグに対して行った。塩溶融物は実施例1におけるのと同一の組成および温度を有した。ただ一つの差異は、5重量部のホウ酸がスラグと混合されていたことであった。この混合物を続いてアルミナるつぼに収容されている塩溶融物に加えた。他のすべての実験条件は実施例1におけるものと同一であった。
【0058】
クロムの収率が、ホウ酸の添加の結果として、97.5%まで上昇することが判明した。
【実施例3】
【0059】
黄銅鉱(CuFeS)鉱石を、等量のNaClおよびKClを含有する塩混合物と混合した。30重量部のAlClを加えた。その混合物を、気相中における酸素分圧を制御するために、CO雰囲気下で溶融させ、850℃で維持した。溶融塩を電気分解した。5Vのカソード電圧を印加した。2hの電気分解後、カソードは、Cu堆積物およびCu−Fe堆積物を有することが分かった。
【実施例4】
【0060】
アルミナるつぼ内において、35重量部のNaCl、43重量部のKClおよび22重量部のAlClを溶融することにより、塩溶融物を調製し、次にその塩溶融物を670℃に加熱した。大きさで2mm未満の粒径を有する破砕された超硬合金スクラップを塩溶融物に加え、塩溶融物中に炭酸ガスを吹き込みながら、2時間にわたって反応させた。超硬合金スクラップは主として使用済の切削工具から成り、コバルト並びに炭化タングステン、炭化タンタル、およびいくらかのモリブデン炭化物を含有していた。塩素化生成物である六塩化タングステン、五塩化タンタルおよび五塩化モリブデンを、塩溶融物から連続的に気化させ、別個の冷却した(100℃)ステンレス鋼チャンバ内での凝縮によって収集した。これらの3つの耐火金属の収率は95%以上であった。超硬合金中のコバルトマトリックス相もまた塩素化されたが、その蒸気圧が低いため、塩溶融物中に収集された。コバルトは、前記塩溶融物から、この溶融物を水中に溶解し、水溶液を電気分解に晒すことにより、続いて抽出した。超硬合金スクラップからのコバルトの収率は、カソード電極上の堆積物として92%と測定された。
【実施例5】
【0061】
Ni含有鉱石を、等量のNaClおよびKClを含有する塩混合物と混合した。30重量部のAlClを加えた。その混合物を、気相中における酸素分圧を制御するために、CO雰囲気下で溶融させ、850℃で維持した。溶融塩を電気分解した。5Vのカソード電圧を印加した。カソードは、3hの電気分解の後に、Ni堆積物を有することが分かった。
【実施例6】
【0062】
等量のNaClおよびKClを含有する塩混合物を、酸化チタン(アナターゼ)および30重量%のAlClと混合した。塩溶融物を900℃で4hにわたって溶融状態に維持した。前記溶融物を蒸留水でクエンチし、含有量をTiについて分析した。
【0063】
チタンの45%は浸出相中に見られた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の塩素化方法は、主として以下のものからの有価金属の回収に有用である:
−低品位鉱。
−硫化鉱。
−海底団塊鉱石。
−有価金属がケイ酸塩に隣接しているような、現在の技術で処理することが困難な鉱石、例えばニッケルまたはコバルトを含有するラテライト鉱石。
−冶金産業からのプロセススラグ。主として工具鋼およびステンレス鋼のような高合金鋼を製造する製鉄所からのスラグは、かなりの量の、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、コバルトおよびタングステンのような有価金属を含有している。このスラグは現在のところ廃棄されており、それは環境上不適当な方法であり、有益かつ限られた資源の浪費である。
−工具鋼、高速度鋼およびステンレス鋼のような高合金鋼の熱間成形において得られるミルスケール。
−例えば70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金からのものなどの、有益な元素金属を含有するスクラップ。硬質金属とも呼ばれる「超硬合金」は、炭化タングステン粒子が凝集体であり、金属コバルトがマトリックスとして機能する金属複合材料である。
−5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表中の第4〜6族、第8〜12族および第14族からの回収可能な金属を含有する鉱石、スラグ、ミルスケール、スクラップ、粉塵および他の資源を塩素化するための方法であって、
前記方法は、
a)塩化アルミニウムと、アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物のうちから選択される少なくとも1種の他の金属塩化物とから本質的に成る液体溶融塩溶融物を形成する工程と、前記液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は10重量%を超過することと、
b)前記液体塩溶融物中に前記回収可能な金属資源を導入する工程と、
c)前記塩化アルミニウムを塩素供与体として前記回収可能な金属資源と反応させて金属塩化物を形成する工程と、前記金属塩化物は前記塩溶融物中に溶解されることと、
d)生成した金属塩化物を前記塩溶融物から回収する工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記金属含有資源は硫化鉱である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硫化鉱は、Cu、Mo、Fe、Zn、Ni、Coのうちから選択される少なくとも1種の金属を総含有量で少なくとも0.5重量%含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属含有資源は海底団塊鉱石である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記海底団塊鉱石は、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Pb、V、Cr、希土類金属のうちから選択される少なくとも1種の金属を総含有量で少なくとも1重量%含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記金属含有資源は高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のミルスケールである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ミルスケールは、Fe、Ni、Cr、V、Co、W、Moのうちから選択される少なくとも1種の金属を総含有量で少なくとも2重量%含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金属含有資源は、70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属含有資源は、5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記金属含有資源は、硫化鉱、スラグ、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のミルスケール、70重量%を超えるタングステンを含有する超硬合金、または5重量%を超えるクロムおよびニッケルの総量を有する粉塵であり、前記方法は、塩素化方法の間に塩溶融物に二酸化炭素ガスを加える工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属含有資源は、硫化鉱、海底団塊鉱石、高合金工具鋼、高速度鋼またはステンレス鋼のスラグまたはミルスケールであり、前記方法は、10%を超えるホウ酸および硼酸ナトリウムのうちから選択されるホウ素含有化合物を(回収可能な金属資源に)加える工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
硫化鉱中に存在する硫黄を元素硫黄として得る工程をさらに含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項13】
前記液体塩溶融物の塩は、塩化アルミニウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムから本質的に成る、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記液体塩溶融物中の塩化アルミニウム含有量は、10〜60重量%、より好ましくは15〜40重量%の範囲内にある、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
塩素化反応を保護雰囲気下において行うことをさらに含む、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記保護雰囲気は窒素およびアルゴンのうちの少なくとも1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記保護雰囲気は、塩素ガス、または塩素と、窒素およびアルゴンの少なくとも一方との混合物である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記金属含有資源を溶融塩に導入して溶融塩と混合する前に、前記金属含有資源を微細粉末に粉砕する工程をさらに備え、好ましくは、D90は2mm未満である、請求項1乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属含有資源を溶融塩に導入して溶融塩と混合する前に、前記金属含有資源を脱水する工程をさらに備える、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記回収可能な金属の塩素化を、150℃〜1000℃の温度範囲内、好ましくは600℃を超える温度範囲内において行うことをさらに含む、請求項1乃至19のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−523979(P2011−523979A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509444(P2011−509444)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050538
【国際公開番号】WO2009/139715
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(510288688)
【氏名又は名称原語表記】SALT EXTRACTION AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】