説明

回折光学素子の射出成形金型及び回折光学素子の製造方法

【課題】直線状の格子が形成された樹脂からなる回折光学素子を射出成形により製造する際に、型開き時に成型品が冷却収縮しても、成型品のエッジが金型の回折エッジと干渉して変形することが抑制される回折光学素子の射出成形金型を提供すること。
【解決手段】回折格子パターンが形成された第1の金型と、当該第1の金型に対向する第2の金型とにより形成された空間内に樹脂材を充填して回折光学素子を成形する回折光学素子の射出成形金型において、前記回折格子パターンは、直線状であり、第1の金型の回折格子パターンが形成される部位から第1の金型の樹脂流入部の中心に向かう方向に対して平行に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子の射出成形金型及び回折光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速インターネット、IP電話等の通信媒体として光ファイバーを用いた光通信システムが普及してきている。光通信システムにおいては、波長の異なる複数の光信号を双方向に伝送するために、送信端末及び受信端末には、双方向光通信モジュールが用いられている。特許文献1には、直線状のエシュロン格子が形成された樹脂からなる回折光学素子を備える双方向光通信モジュールが記載されている。
【0003】
一方、特許文献2には、樹脂からなる回折光学素子の製造方法として、射出成形により製造することが記載されている。
【特許文献1】特開2005−275060号公報
【特許文献2】特開2004−314545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2には、樹脂からなる回折光学素子を射出成形により製造する場合には、型開き時に可動側金型内で微小に成型品が離型して冷却収縮し、その際成型品のエッジが金型の回折エッジと干渉して変形する現象が生じることが記載されている。
【0005】
本発明は、直線状の回折格子が形成された樹脂からなる回折光学素子を射出成形により製造する際に、型開き時に成型品が冷却収縮しても、成型品のエッジが金型の回折エッジと干渉して変形することが抑制される回折光学素子の射出成形金型及び回折光学素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回折光学素子の射出成形金型は、回折格子パターンが形成された第1の金型と、当該第1の金型に対向する第2の金型とにより形成される空間内に樹脂材を充填して回折光学素子を成形する回折光学素子の射出成形金型において、前記回折格子パターンは、直線状であり、前記第1の金型の前記回折格子パターンが形成される部位から前記第1の金型の樹脂流入部の中心に向かう方向に対して平行に設けられていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の回折光学素子の射出成形金型は、回折格子パターンが形成された第1の金型と、当該第1の金型に対向する第2の金型とにより形成された空間内に樹脂材を充填して回折光学素子を成形する回折光学素子の射出成形金型において、前記回折格子パターンは、直線状であり、前記第1の金型と前記第2の金型との型開き時に前記回折格子パターンと接触する樹脂材が収縮する方向に対して平行に設けられていることを特徴としている。
【0008】
本発明の回折光学素子の製造方法は、前記本発明の回折光学素子の射出成形金型の何れかを用いて回折光学素子を製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金型における直線状の回折格子パターンが、型開き時に樹脂材が収縮する方向に沿って形成されているので、樹脂材は金型の直線状の格子パターンに沿って収縮することになり、回折光学素子表面の回折格子の損傷を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(双方向光通信モジュールの構成)
図1は、本実施形態に係る双方向光通信モジュールを半割にして、内部を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係る双方向光通信モジュールの概略の断面図である。
【0011】
図1、図2に示すように、双方向光通信モジュール10は、略円筒状の筐体19内に、発光素子11、受光素子12、光学素子13を備えている。例えば、発光素子11はレーザダイオード(LD)、受光素子12はフォトディテクタ(PD)が用いられる。発光素子11と受光素子12は共通の基台16上に設けられ、基台16は筐体に固定されている。
【0012】
発光素子11と受光素子12は、基台16から外部に突出した複数の接続ピン17に電気的に接続されている。この接続ピン17を用いて、発光素子11の駆動、受光素子12の駆動、受光素子12の出力の不図示の機器への送出等が行われる。なお、発光素子11と受光素子12は異なる基台に設けられ、それぞれの基台を筐体に固定したものであってもよい。
【0013】
また、光ファイバ1を支持するファイバホルダ2が筐体19内に挿入され固定されており、光ファイバ1の端部の面3が筐体19の内部に形成された空洞14に露出している。光ファイバ1は波長多重方式による双方向光ファイバ通信のために、外部の光ファイバ等の光伝送路に接続される。
【0014】
光学素子13は、筐体19内で光ファイバ1の端部の面3と発光素子11、受光素子12の間に配置されている。この光学素子13は、光ファイバ1の端部の面3に対向する面には直線状のエシュロン格子が形成され、発光素子11、受光素子12に対向する面には非球面の光学面が形成されている。
【0015】
図3は、光学素子13に形成された直線状のエシュロン格子の一例を示す概略模式図である。図3(a)は、光学素子13を光ファイバ1の端部の面3側から見た平面図であり、図3(b)は、図3(a)に示すC−C線で切断した断面を拡大した、エシュロン格子部の概略断面を示す図である。
【0016】
図3(a)に示すように、光学素子13の光ファイバ1側の光学有効面13rには直線状にエシュロン格子15が形成されており、図3(b)に示すように、エシュロン格子15の断面は階段形状をピッチpで繰り返す形状に形成されている。なお、13fは光学素子13のフランジ部である。
【0017】
光学素子13は、図2に示す発光素子11、受光素子12を結ぶ線と図3(a)に示す一点鎖線が略一致するように、筐体19に組み付けられている。
【0018】
以上のような構成により、図2に示す如く、発光素子11が発する光ビームは同図に示す光路b0をたどり、光学素子13の光学面及びエシュロン格子15を通過して、0次の回折光として光ファイバ1の端部の面3に集光されて入射し、光ファイバ1を通して外部の光伝送路に送出することができる。
【0019】
一方、外部の光伝送路から伝送され、光ファイバ1の端部の面3から射出される光ビームはエシュロン格子15により回折される。回折された所定(例えば1次)の回折光は、光学素子13の光学面により集光され、同図に示す光路b1方向に偏向して受光素子12に入射する。
【0020】
(回折光学素子の成形)
[第1の実施形態]
図4は、本実施形態に係る成形金型の断面図である。図4(a)に示すように、上型21と下型22とを合わせた状態で、型内には、上型21の上面から図の下方に向かって拡がるように延在する中央通路23Aと、中央通路23Aの下端近傍から放射状に伸びる分配通路23Bと、分配通路23Bの延長線上に配置されたキャビティ23Dと、キャビティ23Dと分配通路23Bとの間を結ぶ、分配通路23Bより断面積の小さいゲート通路23Cとが形成されている。
【0021】
図4(a)の状態において、上型21のノズル口21aより溶融した樹脂材を中央通路23Aに流入させると、樹脂材は、分配通路23B及びゲート通路23Cを介してキャビティ23Dに充填される。
【0022】
その後、図4(b)に示すように、上型21と下型22とを型開きすると、固化した樹脂材より成形品30が得られる。成形品30は、中央通路23A内の樹脂材が固化して形成されたスプルー部31と、分配通路23B内の樹脂材が固化して形成されたランナー部32と、ゲート通路23C内の樹脂材が固化して形成されたゲート部33と、キャビティ23D内の樹脂材が固化して形成された光学素子素材34とを有している。
【0023】
図5は、本実施形態に係る下型22の上面図である。中央通路23Aを中心として6つの分配通路23Bが放射状に伸びている。分配通路23Bの延長線上にはゲート通路23Cを介してキャビティ23Dが配置されている。
【0024】
キャビティ23D内の下型22には、直線状のエシュロン格子パターン24が形成されている。エシュロン格子パターン24の直線の方向は、図に示すように、樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向と平行な方向に一致している。エシュロン格子パターン24は、図3(a)に示す光学素子13の光学有効面13rに直線状のエシュロン格子15を転写するためのパターンである。
【0025】
金型内に樹脂材を充填させた後、図4(b)に示すように、上型21と下型22とを型開きすると、樹脂材が冷却収縮を起こす。このとき、樹脂材は、樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向に収縮する。キャビティ23D内の樹脂材についても、中央通路23Aの中心Cに向かう方向に収縮する。
【0026】
本実施形態によれば、冷却収縮の際に樹脂材が樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向に収縮したとしても、樹脂材はキャビティ23D内の下型22における直線状のエシュロン格子パターン24の方向に沿って収縮することになるので、光学素子素材34表面のエシュロン格子のエッジ損傷等を抑制することができる。図3(b)において紙面と垂直な方向に樹脂材が収縮することになるので、階段形状部分のエッジ損傷等が抑制される。
【0027】
[第2の実施形態]
第1の実施形態とは、金型における中央通路23A、分配通路23B、ゲート通路23C及びキャビティ23Dの配置が異なっている以外は、基本的に第1の実施形態と同様である。第1の実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0028】
図6は、第2の実施形態に係る下型22の上面図である。中央通路23Aから4方向に放射状に伸びた分配通路23Bは、途中で放射方向に対して直交する方向に屈曲している。屈曲した分配通路23Bの先端にゲート通路23Cを介してキャビティ23Dが配置されている。
【0029】
キャビティ23D内の下型22には、直線状のエシュロン格子パターン24が形成されている。エシュロン格子パターン24の直線の方向は、図に示すように、樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向と平行な方向に一致している。
【0030】
第2の実施形態の金型においても第1の実施形態と同様に、上型21と下型22とが型開きした際には、キャビティ23D内の樹脂材は樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向に(図中点線方向)収縮する。
【0031】
第2の実施形態によれば、冷却収縮の際に樹脂材が樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向に収縮したとしても、樹脂材はキャビティ23D内の下型22における直線状のエシュロン格子パターン24の方向に沿って収縮することになるので、光学素子素材34表面のエシュロン格子のエッジ損傷等を抑制することができる。
【0032】
[第3の実施形態]
第1の実施形態とは、金型における中央通路23A、分配通路23B、ゲート通路23C及びキャビティ23Dの配置が異なっている以外は、基本的に第1の実施形態と同様である。第1の実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0033】
図7は、第3の実施形態に係る下型22の上面図である。中央通路23Aから互いに反対方向に伸びた2つの分配通路23Bのそれぞれの通路は、途中からT字路状に分岐している。分岐したそれぞれの分配通路23Bの先端には、ゲート通路23Cを介してキャビティ23Dが配置されている。
【0034】
キャビティ23D内の下型22には、直線状のエシュロン格子パターン24が形成されている。エシュロン格子パターン24の直線の方向は、図に示すように、樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向と平行な方向に一致している。
【0035】
第3の実施形態の金型においても第1の実施形態と同様に、上型21と下型22とが型開きした際には、キャビティ23D内の樹脂材は樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かう方向に(図中点線方向)収縮する。
【0036】
第3の実施形態によれば、冷却収縮の際に樹脂材が樹脂流入部である中央通路23Aの中心Cに向かって収縮したとしても、樹脂材はキャビティ23D内の下型22における直線状のエシュロン格子パターン24の方向に沿って収縮することになるので、光学素子素材34表面のエシュロン格子のエッジ損傷等を抑制することができる。
【0037】
本実施形態においては、直線状の回折格子として、階段形状のエシュロン構造のものを用いたが、一例であり、バイナリー構造、ブレーズ構造等の構造のものを用いることもできる。
【0038】
本実施形態においては、回折格子を集光レンズの片側の面に一体的に形成したが、例えば、集光レンズとは別に回折格子が形成された部材を設けることも可能である。例えば図8に示すように、表面に互いに平行な溝Dが形成された回折格子を有する平板状の樹脂板40を用いることができる。当該回折格子を有する平板状の樹脂板についても本実施形態に示した金型を用いて成形を行う。
【0039】
本実施形態においては、下型22の直線状の回折格子パターンを下型22の樹脂流入部の中心に向かう方向に形成したが、樹脂材の収縮方向が微妙にずれる場合を考慮して、樹脂材の収縮方向に下型の直線状の回折格子パターンを一致させることが可能なように、キャビティ23D部分の金型を回転可能に構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係る双方向光通信モジュール10を半割にして、内部を示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る双方向光通信モジュール10の概略の断面図である。
【図3】光学素子13に形成された直線状のエシュロン格子の一例を示す概略模式図である。図3(a)は、光学素子13を光ファイバ1の端部の面3側から見た平面図であり、図3(b)は、図3(a)に示すC−C線で切断した断面を拡大した、エシュロン格子部の概略断面を示す図である。
【図4】本実施形態に係る成形金型の断面図である。図4(a)は、上型21と下型22とを合わせた状態、図4(b)は、上型21と下型22とを型開きした状態を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る下型22の上面図である。
【図6】第2の実施形態に係る下型22の上面図である。
【図7】第3の実施形態に係る下型22の上面図である。
【図8】表面に互いに平行な溝が形成された回折格子を有する樹脂平板の斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
13 光学素子
15 エシュロン格子
21 上型
22 下型
23A 中央通路
24 エシュロン格子パターン
34 光学素子素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折格子パターンが形成された第1の金型と、当該第1の金型に対向する第2の金型とにより形成される空間内に樹脂材を充填して回折光学素子を成形する回折光学素子の射出成形金型において、
前記回折格子パターンは、直線状であり、前記第1の金型の前記回折格子パターンが形成される部位から前記第1の金型の樹脂流入部の中心に向かう方向に対して平行に設けられていることを特徴とする回折光学素子の射出成形金型。
【請求項2】
前記第1の金型の前記回折格子パターンが形成される部位は、回転可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子の射出成形金型。
【請求項3】
回折格子パターンが形成された第1の金型と、当該第1の金型に対向する第2の金型とにより形成された空間内に樹脂材を充填して回折光学素子を成形する回折光学素子の射出成形金型において、
前記回折格子パターンは、直線状であり、前記第1の金型と前記第2の金型との型開き時に前記回折格子パターンと接触する樹脂材が収縮する方向に対して平行に設けられていることを特徴とする回折光学素子の射出成形金型。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の回折光学素子の射出成形金型を用いて回折光学素子を製造することを特徴とする回折光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−261004(P2007−261004A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87273(P2006−87273)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】