説明

回折光学素子及び光ヘッド装置

【課題】3つの波長に対し光学的な作用の異なる回折光学素子と前記回折光学素子を有する光ヘッド装置。
【解決手段】透明基板の表面に形成された第1の材料層の表面に回折構造または凹凸構造が形成されており、第1の材料層の凹凸の凸部と凹部の光路差が、390nmから430nmの波長の光のうち1の波長λの光において2λであり、430nmから765nmの波長の光のうち1の波長λの光においてλとなるものであって、第1の材料層の実効屈折率によって計算されるアッベ数が20以下である回折光学素子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及び光ヘッド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスクとして、Blu−ray(商品名、以下BDという)、DVD、CDが幅広く普及している。これらBD、DVD、CDは、記録及び再生に用いる光の波長等が異なっている。具体的には、BDは、カバー層の厚さが0.1mmの情報記録媒体に、波長405nmの光源から出射された光をNA(開口数)が0.85の対物レンズにより集光させることにより情報の記録及び再生を行う。DVDは、カバー層の厚さが0.6mmの情報記録媒体に、波長660nmの光源から出射された光をNAが0.65の対物レンズにより集光させることにより情報の記録及び再生を行う。CDは、カバー層の厚さが1.2mmの情報記録媒体に、波長790nmの光源から出射された光をNAが、0.45の対物レンズにより集光し、情報の記録及び再生を行う。
【0003】
BD、DVD、CDにおける光ディスクにおいては、現在、低コスト化と省スペース化の要求より、1つの光ピックアップ装置、即ち、光ヘッド装置により各々の光ディスクに使用する波長の光を用いて情報の記録及び再生がなされており、更には、光検出器、コリメーターレンズ等の部品の共有化が進んでいる。しかしながら、BD、DVD、CDでは、対物レンズの開口数等が異なることや、サーボ信号の方式が異なること、出射光源の位置が異なることから、同一の光ヘッド装置では、各々の条件を満たす特性を得ることができないため、光学的な作用が波長により異なる回折光学素子を用いた光ヘッド装置、例えば特許文献1の光ヘッド装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−216882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている光ヘッド装置に用いられている回折光学素子は、波長により光学的作用が異なる回折光学素子であるが、2波長の光に対して利用できるものであり、3つの異なる波長に対して、1つの波長にのみ作用するような機能のものを作成できないといった問題があった。本発明は、上記の問題点を解決するものであり、波長により光学的作用が異なる回折光学素子において、3つの波長に対して1つの波長にのみ作用する回折光学素子を提供する。更には、この回折光学素子を有する複数の種類の光ディスクに対応した耐久性の高い光ヘッド装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光を透過する光学部材と、前記光学部材の一方の表面に形成された材料層に凹凸構造が形成されており、前記材料層の凹凸の凸部と凹部の光路差が、390nmから430nmの波長の光のうち1の波長λの光において2λであり、430nmから765nmの波長の光のうち1の波長λの光においてλとなるものであって、前記材料層の実効屈折率によって計算されるアッベ数が20以下である本発明の回折光学素子を提供できる。
【0007】
前記回折光学素子により、390nmから430nmの光(以下、BD光ともいう)において高い透過率となり、640nmから660nmの光(以下、DVD光ともいう)において高い透過率となり、765nm〜810nmの光(以下、CD光ともいう)において回折する回折素子を利用して、CDの再生に適したCD光のみを分岐させることができ、また、同一光路中に前記回折光学素子を配置することにより、省スペース化を図ることができ、小型の光ヘッド装置とできる。
【0008】
また、前記回折光学素子の前記材料層は、Ti(チタン)またはNb(ニオブ)を含む無機材料である前記回折光学素子を有する回折光学素子である。
【0009】
前記回折光学素子は、低いアッベ数の材料を前記回折光学素子の第1の材料層に利用でき、CD光の回折効率の調整幅を広げられるため、再生、記録に対して、適した回折効率をそれぞれの光ヘッド装置の特性に合わせて調整でき、光ヘッド装置の再生、記録特性を向上できる。
【0010】
また、本発明は、前記回折光学素子の第1の材料層のD線の実効屈折率と第1の材料層の実効屈折率から計算されるアッベ数vが、数式n≧13.8/v+4.06/v+1.09の関係を満たす回折光学素子である。ここで、D線とはナトリウムD線であり587.6nmの波長の光線をいう。
【0011】
前記回折光学素子により、種々の手法により回折光学素子を作成でき、欲しい機能によって回折光学素子の作成コストに最も有利なプロセスを選択でき、安価な回折光学素子及び光ヘッド装置を作成できる。
【0012】
また、本発明は、前記回折光学素子の第1の材料層が、アッベ数20以下の材料とアッベ数20以上の材料の複合物によって構成されている回折光学素子である。
【0013】
前記回折光学素子は回折効率の調整が少ない材料の原料にて行うことができ、異なる回折効率の回折光学素子を同一の原料にて作成できるため、作成コストの低減ができ、安価な回折光学素子及び光ヘッド装置を作成できる。
【0014】
また、本発明は、前記回折光学素子の第1の材料層が、アッベ数20以下の材料とアッベ数20以上の材料の多層膜によって構成されている回折光学素子装置である。
【0015】
前記手段により、回折光学素子の透過率や回折効率の波長依存性に関しても最適化でき、より安定的に記録、再生ができる光ヘッド装置を提供できる。
【0016】
本発明は、単一または複数の光源によって、3つ以上の波長の光を発生できる光ヘッド装置において、3つ以上の光が存在する光路中に、光を透過する光学部材と、前記光学部材の一方の表面に形成された材料層に凹凸構造が形成されており、前記材料層の凹凸の凸部と凹部の光路差が、390nmから430nmの波長の光のうち1の波長λの光において2λであり、430nmから765nmの波長の光のうち1の波長λの光においてλとなるものであって、前記材料層の実効屈折率によって計算されるアッベ数が20以下であることを特徴とする回折光学素子である。また、前記回折光学素子を有することを特徴とする光ヘッド装置である。
【0017】
また、本発明は、前記光ヘッド装置の光源は、3つの異なる波長の光が、単一の光源によって出射されることを特徴とする光ヘッド装置である。
【0018】
前記手段により、光ヘッド装置の省スペース化を図ることができ、小型の光ヘッド装置が作成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、波長により光学的作用が異なる回折光学素子を用いることで、複数の種類の光ディスクに対応した小型で、安価な光ヘッド装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施の形態における回折光学素子
【図2】チタニアとシリカの混合材料で構成された第1の材料層21のD線の屈折率とアッベ数の関係
【図3】405nmの波長λにおいて、材料層21の凹凸による光路差が2λとなる、回折格子の高さとアッベ数の関係
【図4】図3の条件における、405nmの波長λのアッベ数と透過率の関係
【図5】図3の条件における、405nmの波長λのアッベ数と660nmの透過率の関係
【図6】図3の条件における、405nmの波長λのアッベ数と790nmの0次回折光と1次回折光の回折効率比を示す
【図7】材料層21をシリカとして回折格子の高さを変更して回折効率比を変更した場合の405nmの透過率
【図8】材料層21をシリカとして回折格子の高さを変更して回折効率比を変更した場合の660nmの透過率
【図9】材料層21をシリカとして回折格子の高さを変更して回折効率比を変更した場合の790nmの回折効率比
【図10】第2の実施の形態における回折光学素子
【図11】第1の実施の形態における回折光学素子を有する第3の実施の形態の光ヘッド装置
【図12】実施例2の透過率の波長依存性
【図13】実施例3のCD光の回折効率比の波長依存性
【図14】nDとアッベ数の関係
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態における回折光学素子について説明する。本実施の形態における回折光学素子は、図1に示すように、透明基板11上の表面には第1の材料層21のバイナリの回折格子が形成されている。
【0023】
第1の材料層21は、アッベ数20以下の低アッベ材料にて形成されている。20以下の低アッベ材料は、フェニル基を多数含むような光学樹脂やチタニア(TiO)や酸化ニオブ(Nb)等の微粒子を含むコンポジット材料等によって得ることができるが、チタニアやニオビアの低アッベ数となる単一材料、または、それらとタンタラ(Ta)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)のようなアッベ数が20超の材料を混合、または、多層化、または、混合と多層化によって得られる無機材料が、高照度のレーザー光や紫外線等を照射した場合においても材料が変質等なく、耐光性に優れ、長期間において安定した光学的特性を得ることができるため好ましい。本実施の形態においては、無機材料とは、有機ポリマーを含まない化合物を意味する。
【0024】
透明基板11は、有機樹脂、有機無機ハイブリッド材料等が利用できるが、無機材料で構成されていることが、耐久性、信頼性の観点から好ましく、加工性、入手性の点でガラスがより好ましい。ガラス材料としては、石英等が利用可能であり、BK7、B270等の低価格な光学ガラス材料等も利用できる。また、透明基板11の光学特性には、特に制限は無いが、光学的に等方性であることが好ましい。
【0025】
また、本実施の形態における回折光学素子は、反射防止膜31が形成されていることが透過率を向上させる効果があるため好ましい。
【0026】
図2は、第1の材料層21を構成する材料をチタニアとシリカの混合材料とした場合のD線の屈折率とアッベ数の関係を示したものである。ここでは、チタニアの屈折率はn≒2.59であり、アッベ数が8.5、また、シリカの屈折率はn≒1.46であり、アッベ数が55であるものを用いた。アッベ数の変化とともに、D線の屈折率が変化しており、連続的な値を取ることが分かる。ここで、チタニアとシリカの混合比を変更することによってアッベ数を変化させた。本実施形態では、チタニアとシリカの混合材料を材料層21に用いたもので説明するが、本発明は、この材料に限定されない。
【0027】
図3は、波長λを405nmとし、λにおいて、材料層21の凹凸によって発生する光路差が2λとなるようにした場合の、回折格子の高さとアッベ数の関係を示す。アッベ数を変更した場合、D線の屈折率は変化するが、図3のように回折格子の高さをアッベ数に併せて設定することで405nmの透過率を高くできる。図3のように回折格子の高さをアッベ数に併せて設定した場合の、405nmのアッベ数に対する透過率を図4に示す。図4より、405nmの透過率が略90%と高いことが分かる。
【0028】
また、図5に660nmの透過率と図6に790nmの0次回折光と1次回折光の回折効率比を示す。図5より、各アッベ数においても660nmの透過率が70%以上と高く、790nmの回折効率比は3から50までアッベ数を変更することで制御できることが分かる。ここで、回折効率比=0次回折光量/1次回折光量である。
【0029】
これより、本発明の構成を用いれば、CD光の回折効率比を任意に制御しつつ、BD光とDVD光の透過率を高くする回折格子を得ることができる。また、CD光の回折効率比において、光ヘッド装置のサーボ信号を生成するために必要な回折効率比は30以下であるため、アッベ数20以下の材料にて材料層21を構成するとよいことが分かる。本実施の形態では、BD光の代表的な波長を405nmとし、DVD光の代表的な波長を660nmとし、CD光の代表的な波長を790nmとしている。
【0030】
比較例として、材料層21にシリカを用い、回折格子の高さを変更して回折効率比を変更した場合の405nmの透過率を図7に、660nmの透過率を図8に、790nmの回折効率比を図9にそれぞれ示す。これより、図9のように回折効率比を変化させていった場合、CD光の回折効率比が30以下となるように回折格子の高さを0.15μm以上とすると、405nmの透過率が70%以下となってしまい、光の利用効率のよい光ヘッド装置を得ることができず、405nmの再生、記録特性に問題が生じる。また、CD光の再生特性を向上させるためには、回折効率比を小さくした方が好ましいが、CD光の回折効率比を15以下とすると、405nmの透過率が50%以下となってしまい、さらに405nmの再生、記録特性に問題が大きくなる。BD光とDVD光の透過率を高く、かつ、CDの安定的な再生特性を得るCD光の回折効率比とするために、本発明の回折光学素子は大変有効である。
【0031】
また、比較例の回折格子の高さを波長405nmの光において、光路差が波長と同程度となるように0.84μmに設定すると、660nmの透過率が10%以下となり不適であり、光路差が波長の2倍程度となるように1.68μmに設定すると、790nmの1次回折効率が1%以下となり、サーボ信号を生成できなくなる。また、さらに光路差を大きくして波長の3倍以上に設定すると、各波長域において波長依存性が大きくなりすぎて好ましくない。回折光学素子の波長依存性が大きいと、温度変動によって波長が変動しやすい半導体レーザー(以下、LDという)を用いた光ヘッド装置において安定な動作が困難となるためである。
【0032】
次に、格子材料21に用いる材料や作成方法を変更した場合に、790nmの光の回折効率比に対し、格子材料21のアッベ数とnの関係を調べ、回折効率比に対する材料のアッベ数とnの関係を示す。ここで、nとはナトリウムD線の屈折率をいう。
【0033】
790nmの光の回折効率比を30として設定した場合に、種々の材料と成膜法の結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
790nmの光の回折効率比を5として設定した場合に、種々の材料と成膜法の結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表1より、波長790nmの回折効率比30とする場合は、アッベ数が略20、nは任意でよく、表2より、回折効率比5では、アッベ数は略10となり、nは任意でよいことがわかった。これより、回折効率比はアッベ数によって一般化できることがわかる。安定的な光ヘッド装置の再生特性を得るために必要なサーボ信号を生成する回折効率比は30以下であるので、回折格子として有用な材料の光学特性の範囲としては、屈折率nにはよらずアッベ数が20以下となる。このように、回折効率比とアッベ数は相関関係にあり、アッベ数を決めることで790nmの回折効率比を決定できる。ここで、略とはプラスマイナス1割の範囲をいう。
【0038】
表で示した材料の作成法は、スパッタ法や蒸着法、CVDといったドライプロセスやゾルゲル法を代表とするようなウェットプロセスを使用できる。
【0039】
屈折率の調整方法は、材料の混合比を調整するだけでなく、結晶相や密度等を変化させることでも調整可能であり、表で示したものよりも大きな屈折率を得ることもできる。
【0040】
の大きな材料を用いる場合は、チタニアのルチル相を用いるとよく、チタニアのnは2.9、アッベ数は8となる。
【0041】
の小さな材料を用いる場合は、屈折率の小さい材料を混合材料として用いるほか、材料の密度を下げる手法によっても屈折率を小さくできる。ゾルゲル法を用いれば、作成プロセス、特に、混ぜ合わせる有機材料の沸点や無機材料との結合性、焼成温度によって密度が制御でき、nの小さな材料を作成できる。特に、焼成温度を低温で焼成する場合や、ゾルゲル法の1種であるテンプレート法等を利用することで、材料の密度を下げる効果やポーラスな材料とする効果を得ることができ、より小さなnの材料を作成できる。表に示したポーラス材料の混合膜のD線の屈折率とアッベ数の関係は、数式n≧13.8/v+4.06/v+1.09の関係となり、ポーラスな材料においても、アッベ数の調整は任意にできる。
【0042】
が数式n≧13.8/v+4.06/v+1.09の関係をとらない場合にはポア率が高くなることによる光の散乱が大きくなり、光の利用効率が低下するため上記数式を満たすことが好ましい。ここで、ポア率とは単位体積中の材料が充填されていない気孔部分の体積の比率をいう。ポア率は60%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。この場合、屈折率nは1.3以上が好ましい。ポア率が60%を超えると気孔同士が接触して大きな気孔となりやすく、透過率が悪くなり、また材料が白濁してくる。屈折率nは1.3未満では所望の厚みに作成することが難しくなる。表1と表2の値を点とし、数式を点線としてnとアッベ数の関係を図14に示した。
【0043】
このようにして、透明基板11に成膜した材料を、インプリント法、または、フォトリソグラフィーとエッチングを利用するなどして、材料層21として格子や任意の凹凸形状に加工できる。
【0044】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態における回折光学素子について説明する。
本実施の形態における回折光学素子は、図10に示すように、透明基板12上に第2の材料層22と第3の材料層23とが積層されて多層膜となっており、第2の材料層22と第3の材料層23を用いた多層膜24がバイナリの回折格子として形成されているものである。
【0045】
多層膜24の屈折率は、多層膜24を透過した時の位相を計算して得られる多層膜の実効屈折率を用いることで、第1の実施の形態の第1の材料層21の光学特性と同様に考えることができ、多層膜24の光学特性に関する条件は、第1の実施の形態の時の光学特性の条件と同様である。すなわち、第2の実施の形態においても第1の実施の形態と同様に、図3、図4、図5、図6を参照でき、多層膜24のアッベ数を実質的に20以下となる構成とする。
【0046】
そのため、第2の材料層22と第3の材料層23はアッベ数20以下の材料とするのが好ましい。第1の実施の形態のように、最適なアッベ数を決定する場合、多層膜を構成する第2の材料層22と第3の材料層23を合わせた全体の体積比率に関しては、以下の手順にて決定することが好ましい。まず、屈折率とアッベ数は材料の混合比つまり体積比率より容易に計算できるので、第2の実施の形態の多層膜24の格子は第1の実施の形態のように混合材料で構成されていると仮定して、所望のアッベ数となるように材料の体積比率を決定する。次に、多層膜を構成する低屈折率の材料の体積比率を第1の実施の形態時の体積比率より3〜10%増やして多層膜を設計する。これにより、各層での多重干渉による影響を軽減でき、多層膜の実効屈折率を用いて計算されるアッベ数が、所望のアッベ数として作成できる。この手順を用いずに、第1の実施の形態時の体積比率のまま多層膜を設計すると、計算されるアッベ数より小さいアッベ数の回折光学素子が作成されてしまうという不具合が生じる。
【0047】
第2の材料層22と第3の材料層23をアッベ数20以下の材料で設計する場合、格子の設計を成立させるためにはアッベ数を自由に設定できないといけない。しかし、現実的には、アッベ数が20以下であり多層膜に利用できる材料はチタニアとニオビアの2種類と限られている。そこで、第2の材料層22と第3の材料層23のうち、少なくとも高屈折率となる材料層に関して、アッベ数20以下の材料とアッベ数20超の材料を混合することでアッベ数20以下の所望の値に制御した材料層とすることで、所望の多層膜を設計でき、回折効率に対する制御性を上げることできる。この場合、アッベ数20超の材料としてシリカなどが好ましい。
【0048】
また、多層化することで、格子材料に高屈折率を用いる場合に発生する、多重干渉が起因の透過率の低下を抑えることができ、透過率の波長依存性を抑制できることや、CD光の回折効率比の波長依存性を抑制できるメリットがある。ここで、高屈折率の格子材料とは1.65以上を言い、特に1.8を超えるとさらに透過率の低下が大きくなる。
【0049】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態における回折光学素子を有する光ヘッド装置である。本実施の形態における光ヘッド装置は、図11に示すように、3種類の異なる光ディスク、例えば、BD、DVD、CDの光ディスクに対応し、1つの光ヘッド装置により3種類の異なる光ディスクの記録及び再生ができる。即ち、この光ヘッド装置は、405nm波長帯、660nm波長帯、790nm波長帯の光に対応したものである。
【0050】
本実施の形態における光ヘッド装置では、BD、DVD、CDの3つの波長を出射する光源101によって出射されたBD用の405nmの波長のLD光は、本発明の回折光学素子である波長選択回折素子102、偏光ビームスプリッタ103を透過し、図示しない駆動機構を備えたコリメーターレンズ104によって略平行光に変換され、立ち上げミラー105によって反射される。その後、4分の1波長板106によって左周りの円偏光となり、対物レンズ107によって光ディスク108上の読み取りスポット位置に集光される。光ディスク108によって反射されたLD光は、対物レンズ107を透過、4分の1波長板106によって往路とは直交した直線偏光に変換され、立ち上げミラー105によって反射される。
【0051】
その後、コリメーターレンズ104を透過、偏光ビームスプリッタ103によって反射され、回折素子109によってトラッキング信号用とデータ読み取り用の信号光に分離され、シリンドリカルレンズ110を透過後、光検出器111によって検出される。
【0052】
BD、DVD、CDの3つの波長を出射する光源101によって出射されたDVD用の660nmの波長のLD光は、波長選択回折素子102、偏光ビームスプリッタ103を透過し、図示しない駆動機構を備えたコリメーターレンズ104によって略平行光に変換され、立ち上げミラー105を透過する。その後、立ち上げミラー112によって反射され、4分の1波長板113によって左周りの円偏光となり、対物レンズ114によって光ディスク115上の読み取りスポット位置に集光される。光ディスク115によって反射されたLD光は、対物レンズ114を透過、4分の1波長板113によって往路とは直交した直線偏光に変換され、立ち上げミラー112によって反射される。その後、立ち上げミラー105を透過、コリメーターレンズ104を透過、偏光ビームスプリッタ103によって反射され、回折素子109によってトラッキング信号用とデータ読み取り用の信号光に分離され、シリンドリカルレンズ110を透過後、光検出器111によって検出される。この場合の光ディスク115はDVD用の光ディスクである。
【0053】
BD、DVD、CDの3つの波長を出射する光源101によって出射されたCD用の790nmの波長のLD光は、波長選択回折素子102によって光ディスクに記録されたデータを読み出すメインビームとサーボ信号を生成するサブビームとに分けられる。
【0054】
メインビームとサブビームは偏光ビームスプリッタ103を透過し、図示しない駆動機構を備えたコリメーターレンズ104によって略平行光に変換され、立ち上げミラー105を透過する。その後、立ち上げミラー112によって反射され、4分の1波長板113によって左周りの円偏光となり、対物レンズ114によって光ディスク115上の読み取りスポット位置に集光される。
【0055】
光ディスク115によって反射されたLD光は、対物レンズ114を透過、4分の1波長板113によって往路とは直交した直線偏光に変換され、立ち上げミラー112によって反射される。その後、立ち上げミラー105を透過、コリメーターレンズ104を透過、偏光ビームスプリッタ103によって反射され、回折素子109を透過し、シリンドリカルレンズ110を透過後、光検出器111によって検出される。この場合の光ディスク115はCD用の光ディスクである。
【0056】
波長選択回折素子102により、BD用とDVD用の光は光ディスクへ向かう光の利用効率を大きくできるため、LDへ投入する電力量を小さくでき、消費電力の削減にメリットがある。また、3つの光を出射するレーザーを使用でき、レーザー自身の設置スペースの削減やレーザー光を合波する素子の削減が可能で、省スペース化、低コスト化のメリットがある。
【0057】
BD、DVD、CDの3つの波長を出射する光源101はひとつのパッケージに収められたLDでもよく、DVDとCDがひとつのパッケージに収められたLDとBDのLDを合波させた光学系の光源101でも良く、DVDとCDとBDがそれぞれ別のパッケージであるLDを合波させた光源101でも良い。
【0058】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
実施例1は、第1の実施の形態に対応し、図1に基づき説明する。透明基板11として厚み0.5mmの石英基板を用い、透明基板の片側に、波長405nm、波長660nm、波長790nmの反射率が0.5%以下となるように反射防止膜31を作成した。
【0060】
反射防止膜31を施した面と逆面の透明基板11上にスパッタ法にてチタニアとシリカを3:1の堆積比率、膜厚が635nmとなるようにチタンとシリコンを二元同時スパッタすることでチタニアシリカ混合薄膜を得た。混合薄膜の屈折率を測定したところ、波長405nmにおいて屈折率が2.27、波長660nmにおいて屈折率が2.10、波長790nmにおいて屈折率が2.08となっており、D線の屈折率が2.12、アッベ数が14となった。また、このときに用いたチタニアのアッベ数は8.5であり、シリカのアッベ数は55であった。
【0061】
得られたチタニアシリカ混合薄膜上に、フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィープロセスにて、フォトレジストにピッチ10μmの格子パターンを形成した。レジスト上より、フロン系のガスをエッチャントとして反応性イオンを用いたドライエッチングを行い、その後、フォトレジストをアッシングにて除去して、チタニアシリカ混合材料の回折格子21を得た。
【0062】
次に、ダイシングソーにて5mm×5mmに切断し、回折光学素子とした。
レーザー光を用いて回折効率を測定したところ、405nmの透過率が88%、660nmの透過率が85%、790nmの0次回折効率が68%、1次回折効率が5.3%、回折効率比は13となった。790nmの回折効率比が同様の13となるように作成した透明基板11の石英基板を直接エッチングして得られた石英格子の比較例1は405nmの透過率が43%、660nmの透過率が74%となった。実施例1は比較例1に対し大きく透過率が向上しており、回折光学素子として好ましく利用できる。
【0063】
また、マッハツェンダー干渉計にてHe−Neレーザーにより波面収差を測定したところ、5mλ以下となっており光ヘッド装置に用いる光学部品として、十分な収差特性となっている。
【0064】
本発明の回折光学素子1を第3の実施の形態と同様の光ヘッド装置の波長選択回折素子102として利用することで、3つの光ディスクに対し、それぞれ良好な再生、記録特性を得ることができる。
【0065】
(実施例2)
実施例2は、第2の実施の形態に対応し、図10に基づき説明する。透明基板12として厚み0.5mmの石英基板を用い、透明基板12の片側に、波長405nm、波長660nm、波長790nmの反射率が0.5%以下となるように反射防止膜32を作成した。
【0066】
【表3】

【0067】
透明基板12において反射防止膜31とは反対の面にチタニアシリカの混合膜とシリカ膜を交互に表3のように積層した。チタニアシリカの混合膜は、チタニアとシリカを8:2の体積比率となるようにチタンとシリコンを二元同時スパッタし、測定の結果、波長405nmにおいて屈折率が2.37、波長660nmにおいて屈折率が2.17、波長790nmにおいて屈折率が2.14であった。多層膜の実効屈折率においては、D線の屈折率が2.09であり、アッベ数が14となった。その後、実施例1と同様の手法にて多層膜24の回折光学素子を得た。
【0068】
レーザー光を用いて回折効率を測定したところ、405nmの透過率が88%、660nmの透過率が88%、790nmの0次回折効率が73.7%、1次回折効率が5.7%、よって回折効率比は13となった。
【0069】
また、分光器を用いて透過率の波長依存性を測定した結果を図12に示す。BDで用いる波長帯域390nmから430nmにおいて透過率の波長依存性は実施例1でも良い結果が得られているが、実施例2では波長帯域でより均一な高い透過率となる良い結果が得られ改善していることを確認した。
【0070】
また、膜全体のシリカとチタニアの体積比率を実施例1と実施例2で比較したところ、同じアッベ数14のとしながら、混合材料の回折格子21である実施例1は、シリカ:チタニア=25:75に対し、多層膜の回折格子である多層膜24の実施例2は、シリカ:チタニアは、31:69となり、混合材料の体積比率に対して低屈折率のシリカ成分は全体で6%増えていた。
【0071】
本発明の回折光学素子1を第3の実施の形態と同様の光ヘッド装置の波長選択回折素子102として利用することで、3つの光ディスクに対し、それぞれ良好な再生、記録特性を得ることができた。
【0072】
(実施例3)
実施例3は、第2の実施の形態に対応し、図10に基づき説明する。
【0073】
実施例2と同様の手法にて回折光学素子を作成し、多層膜の構成を表4のように変更した。チタニアシリカ混合膜の屈折率を測定した結果、波長405nmにおいて屈折率が2.47、波長660nmにおいて屈折率が2.24、波長790nmにおいて屈折率が2.22であった。多層膜の実効屈折率においては、D線の屈折率が2.14であり、アッベ数が14となった。
【0074】
【表4】

【0075】
レーザー光を用いて回折効率を測定したところ、405nmの透過率が88%、660nmの透過率が89%、790nmの0次回折効率が60.0%、1次回折効率が4.6%、回折効率比が13となった。
【0076】
また、CD光の回折効率比の波長依存性を測定したところ、図13のようになりCDで用いる波長帯域765nm〜810nmにおいて回折効率比は実施例1でも良い結果が得られているが、実施例3では波長帯域でより均一な回折効率比となり良い結果が得られ改善していることを確認した
【0077】
また、膜全体のシリカとチタニアの体積比率を実施例1と実施例3を比較したところ、同じアッベ数14のとしながら、混合材料の回折格子21である実施例1は、シリカ:チタニア=25:75に対し、多層膜の回折格子である多層膜24の実施例3は、シリカ:チタニアは、37:63となり、混合材料の体積比率に対して低屈折率のシリカ成分が全体で8%増えていた。
【0078】
本発明の回折光学素子2を第3の実施の形態と同様の光ヘッド装置の波長選択回折素子102として利用することで、3つの光ディスクに対し、それぞれ良好な再生、記録特性を得ることができる。
【0079】
(比較例)
比較例1として図1を用い、第1の材料層21を石英で作成した場合を説明する。透明基板11として厚み0.5mmの石英基板を用い、透明基板の片側に、波長405nm、波長660nm、波長790nmの反射率が0.5%以下となるように反射防止膜31を作成した。
【0080】
透明基板11の反射防止膜と反対側に、フォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィープロセスにて、フォトレジストにピッチ10μmの格子パターンを形成した。レジスト上より、フロン系のガスをエッチャントとして反応性イオンを用いたドライエッチングを行い、石英基板を225nmほどエッチングした。
【0081】
その後、フォトレジストをアッシングにて除去して、石英の回折格子を得た。測定の結果、波長405nmにおいて屈折率が1.479、波長660nmにおいて屈折率が1.462、波長790nmにおいて屈折率が1.459であった。多層膜の実効屈折率においては、D線の屈折率が1.464であり、アッベ数が55となった。また、レーザー光を用いて回折効率を測定したところ、405nmの透過率が43%、660nmの透過率が74%、790nmの0次回折効率が80%、1次回折効率が6.1%となり回折効率比は13となった。
【0082】
比較例1の回折光学素子を第3の実施の形態と同様の光ヘッド装置の波長選択回折素子102として利用すると、十分なBD光の再生、記録特性を得ることができないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の回折光学素子は波長を選択的に回折する素子として好適に利用できる。また、特にCD光を選択的に回折する光ヘッド装置用の回折光学素子として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0084】
1 第1の実施の形態の回折光学素子
2 第2の実施の形態の回折光学素子
11 透明基板
21 第1の材料層
22 第2の材料層
23 第3の材料層
24 多層膜
31 反射防止膜
32 反射防止膜
101 光源
102 第1の回折光学素子(波長選択回折素子)
103 偏光ビームスプリッタ
104 コリメーターレンズ
105 第1の立ち上げミラー
106 1/4波長板
107 第1の対物レンズ
108 光ディスク
109 第2の回折光学素子(波長選択回折素子)
110 シリンドリカルレンズ
111 光検出器
112 第2の立ち上げミラー
113 1/4波長板
114 第2の対物レンズ
115 光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する光学部材と、前記光学部材の一方の表面に形成された材料層に凹凸構造が形成されており、
前記材料層の凹凸の凸部と凹部の光路差が、390nmから430nmの波長の光のうち1の波長λの光において2λであり、430nmから765nmの波長の光のうち1の波長λの光においてλとなるものであって、
前記材料層の実効屈折率によって計算されるアッベ数が20以下であることを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記材料層がTiまたはNbを含む無機材料である前記回折光学素子を有する請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記材料層のD線の実効屈折率と前記材料層の実効屈折率から計算されるアッベ数vが、数式n≧13.8/v+4.06/v+1.09の関係を満たす前記回折光学素子を有する請求項1または2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記材料層がアッベ数20以下の材料とアッベ数20超の材料の混合物からなる前記回折光学素子を有する請求項1乃至3に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記材料層が、アッベ数の異なる層を交互に積層した多層膜からなり、前記多層膜は少なくとも2層からなり、前記多層膜の少なくとも1層はアッベ数20以下の材料とアッベ数20超の材料からなる混合物から構成される請求項1乃至3に記載の回折光学素子。
【請求項6】
3つ以上の波長の光を発生できる光ヘッド装置において、
3つ以上の光が存在する光路中に、請求項1乃至5記載の前記回折光学素子を有することを特徴とする光ヘッド装置。
【請求項7】
前記光ヘッド装置の光源は3つの異なる波長の光が単一の光源から出射される請求項5に記載の光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−93070(P2013−93070A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232958(P2011−232958)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】