説明

回旋筋腱板傷害を処置するためのPDGF−生体マトリックス組成物および方法

回旋筋腱板修復に伴う問題を考慮すれば、回旋筋腱板修復に伴う治癒反応を改善するために使用できる組成物および方法を提供することが望ましい。とりわけ、腱線維芽細胞と間葉幹細胞との間の線維化反応および増殖反応を亢進することによって、断裂した回旋筋腱板の治癒および上腕骨骨頭への腱再付着を促進する組成物および方法を提供することが望ましい。本発明は、腱を骨に付着するための組成物および方法を提供する。本発明は、回旋筋腱板傷害を治療するための組成物および方法を提供する。一実施形態では、回旋筋腱板傷害を治療する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGFを含む組成物を供給することと、この組成物を上腕骨骨頭上の少なくとも1箇所の腱再付着部位に施用することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願のデータ
本願は、2006年6月30日に出願された米国仮特許出願第60/817,874号に対する優先権を米国特許法のもとに主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、腱を骨に付着させるために、詳細には回旋筋腱板傷害を修復するために有用な組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
年間何十万もの人が、腱裂傷、および骨からの腱剥離を経験する。回旋筋腱板断裂は、スポーツ医学の医師が診療する傷害のうち最も一般的なものである。米国では、年間およそ400000件の回旋筋腱板修復手術が実施されている。
【0004】
回旋筋腱板は、上腕骨肩関節の頭部の前面、後面および先端を収束させ取り囲む4つの腱の集まりである。これらの腱は、肩甲骨から出ている短い筋に個々に結合している。この筋は、「SITS」筋、すなわち棘上筋(supraspinatus)、棘下筋(infraspinatus)、小円筋(teres minor)および肩甲下筋(subscapularis)と呼ばれる。この筋が機能することによって、回転が可能になり、腕が上がり、肩関節に安定性が与えられる。この筋が収縮すると回旋筋腱板の腱が引っ張られ、それにより肩が上方、内側または外側へ回転する。回旋筋腱板と肩峰との間には滑液包があり、それにより、筋は動く際に抵抗なく滑ることができる。
【0005】
回旋筋腱板の腱は断裂しやすく、肩痛の一般的な原因箇所である。腱は通常、上腕骨骨頭上への付着部で剥離する。回旋筋腱板への傷害は、完全に抜け去った状態か、または、L型もしくはU型の部分断裂として存在しうる。回旋筋腱板の腱の1つが断裂すると、痛み、動きの低下および脱力が生じうる。回旋筋腱板の腱が傷害または損傷されると、滑液包が炎症を起こすことが多く、これがさらなる痛みの原因になることがある。
【0006】
外科的な器具の使用および手法の高度化にもかかわらず、回旋筋腱板の修復後の再傷害の発生率は高く、70%近いという推測もある。回旋筋腱板修復の失敗は、上腕骨骨頭上に付着する筋の治癒および再付着が十分でないことが原因で起きている。腱線維芽細胞と間葉幹細胞との間の正常な線維化反応および増殖反応が、肩内において減少する。その結果、こうした不適切な治癒反応により、腱の再付着および完全化という負荷が、縫合糸の機械的強度に伝達される。やがて、縫合糸は破綻し、骨および/または腱から引き離されて、肩の再傷害が引き起こされる。この問題は、動物モデルの使用を取り入れた多数の試験で実証されている。Colemanらは、非特許文献1の中で、慢性傷害のヒツジモデルを用いて、肩の修復された棘下筋は、修復の12週間後時点では正常な収縮力の63%しか生み出せないことを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】The Journal of Bone and Joint Surgery、85号、2391〜2402頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回旋筋腱板修復に伴う問題を考慮すれば、回旋筋腱板修復に伴う治癒反応を改善するために使用できる組成物および方法を提供することが望ましい。とりわけ、腱線維芽細胞と間葉幹細胞との間の線維化反応および増殖反応を亢進することによって、断裂した回旋筋腱板の治癒および上腕骨骨頭への腱再付着を促進する組成物および方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、損傷された腱の治療および/または修復のための組成物および方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、骨への腱の付着または再付着において有用であり、任意の腱再付着に施用しうる。いくつかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、骨への腱付着部位の腱および/または骨を強化することによって、骨への腱付着を亢進する。さらに、腱の治療は、断裂、剥離および/または他の何らかの緊張または変形を呈している腱など、損傷または傷害された腱を含む腱への本発明の組成物の施用を含む。本発明の組成物および方法によって骨に再付着されうる、および/または治療されうる腱としては、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大腿直筋、後脛骨筋および大腿四頭筋の腱、ならびにアキレス腱、膝蓋腱、外転筋腱および内転筋腱、または他に臀部の腱が挙げられるが、これらに限定されない。
【0010】
本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、ならびに損傷または傷害された腱を含む腱の治療のための、本発明の組成物の使用を提供する。加えて本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、ならびに損傷または傷害された腱を含む腱の治療のために有用な薬剤の調製における、本発明の組成物の使用を提供する。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によれば、回旋筋腱板断裂の治療のための組成物および方法が提供される。本組成物および方法は、回旋筋腱板修復に対する治癒反応および上腕骨骨頭への腱再付着を容易にする。
【0012】
一態様では、本発明により提供される、上腕骨骨頭への腱再付着を促進するための組成物は、血小板由来成長因子(PDGF)を含む溶液と生体適合性マトリックスとを含み、この溶液はこの生体適合性マトリックス中に配置されている。いくつかの実施形態では、PDGFは、約0.01mg/mlから約10mg/ml、約0.05mg/mlから約5mg/ml、または約0.1mg/mlから約1.0mg/mlの範囲の濃度で、溶液中に存在する。溶液内でのPDGFの濃度は、上述の濃度範囲のいずれか以内であってよい。
【0013】
本発明の実施形態では、PDGFは、PDGF−AA、PDGF−BB、PDGF−AB、PDGF−CC、PDGF−DD、ならびにその混合物および誘導体などの、PDGFホモ二量体およびヘテロ二量体を含む。一実施形態では、PDGFは、PDGF−BBを含む。別の実施形態では、PDGFは、組換えヒトPDGF−BB(rhPDGF−BB)などの組換えヒト(rh)PDGFを含む。
【0014】
本発明の実施形態では、PDGFは、PDGF断片を含む。一実施形態では、rhPDGF−Bは、以下の断片を含む:全B鎖のアミノ酸配列1〜31、1〜32、33〜108、33〜109および/または1〜108。PDGFのB鎖の完全なアミノ酸配列(1〜109)は、米国特許第5516896号の図15で提供されている。本発明のrhPDGF組成物が完全な形のrhPDGF−B(1〜109)とその断片との組合せを含みうることを理解されたい。米国特許第5516896号で開示されているものなど、他のPDGF断片を採用してもよい。好ましい一実施形態によれば、rhPDGF−BBは、完全な形のrhPDGF−B(1〜109)を少なくとも65%含む。
【0015】
生体適合性マトリックスは、本発明のいくつかの実施形態によれば、骨の足場材料を含む。いくつかの実施形態では、骨の足場材料はリン酸カルシウムを含む。リン酸カルシウムは、一実施形態では、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)を含む。
【0016】
別の態様では、本発明は、骨の足場材料と生体適合性結合剤とを含む生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を提供する。このPDGF溶液は、上述のようなPDGF濃度を有していてよい。骨の足場材料は、いくつかの実施形態では、リン酸カルシウムを含む。一実施形態では、リン酸カルシウムはβ−TCPを含む。一態様では、生体適合性マトリックスはリン酸カルシウム粒子を含んでいてよく、生体適合性結合剤、または、ミネラル除去済で凍結乾燥した同種移植骨片(DFDBA)もしくはミネラル除去済の粒状骨マトリックス(DBM)などの同種移植骨片を含んでいてもいなくてもよい。別の態様では、生体適合性マトリックスは、DFDBAまたはDBMなどの同種移植骨片を含んでいてよい。
【0017】
さらに、生体適合性結合剤は、本発明のいくつかの実施形態によれば、タンパク質、多糖類、核酸、炭水化物、合成ポリマー、またはその混合物を含む。一実施形態では、生体適合性結合剤は、コラーゲンを含む。別の実施形態では、生体適合性結合剤は、ウシまたはヒトのコラーゲンなどのコラーゲンを含む。
【0018】
加えて本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、および/または、回旋筋腱板断裂に関連する治療を非限定的に含む腱の治療のための組成物を作製する方法を提供する。一実施形態では、組成物を作製する方法は、PDGFを含む溶液を供給することと、生体適合性マトリックスを供給することと、この溶液をこの生体適合性マトリックス中に配置することとを含む。
【0019】
また、本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化のための方法、ならびに断裂、剥離または他の何らかの緊張または変形を呈している腱などの損傷または傷害された腱を含む腱の治療のための方法も提供する。一実施形態では、骨に腱を付着し、および/または骨への腱付着を強化する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、骨上の少なくとも1箇所の腱再付着部位にこの組成物を施用することとを含む。別の実施形態では、回旋筋腱板断裂を治療する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、上腕骨骨頭上の少なくとも1箇所の腱再付着部位にこの組成物を施用することとを含む。いくつかの実施形態では、回旋筋腱板断裂を治療する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液をさらに含む少なくとも1つの骨アンカーを上腕骨骨頭中に配置することと、少なくとも1つの剥離した腱をこの骨アンカーに連結することとをさらに含む。
【0020】
別の実施形態では、腱を治療する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、少なくとも1つの腱の表面にこの組成物を適用することとを含む。いくつかの実施形態では、この少なくとも1つの腱は、断裂、剥離または他の何らかの変形を呈している腱などの傷害または損傷された腱である。
【0021】
いくつかの実施形態では、本発明は、骨付着点にない腱断裂部を修復するために使用してもよい。このような腱断裂部は、表面を覆う材料と一緒に縫合し、その材料からPDGFが放出されるようにしてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、断裂は、アキレス腱の中間質の裂傷部において生じる。骨付着点にない腱断裂部を治療および/または修復するための、表面を覆う材料は、いくつかの実施形態では、繊維状コラーゲンマトリックス、架橋ヒアルロン酸、同種移植片組織、他の合成マトリックスまたはその組合せを非限定的に含む生体適合性マトリックスを含む。
【0022】
別の態様では、本発明は、第1の容器中のPDGFを含む溶液と、生体適合性マトリックスを含む第2の容器とを含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、この溶液は、所定の濃度のPDGFを含む。PDGFの濃度は、いくつかの実施形態では、治療中の腱の性質に従って予め決めておくことができる。このキットは足場材料をさらに含んでもよく、この足場材料は生体適合性結合剤をさらに含んでもよい。さらに、キットにより提供される生体適合性マトリックスの量は、治療中の腱の性質に依存してよい。このキット中に含みうる生体適合性マトリックスは、足場材料、足場材料および生体適合性結合剤、および/または、DFDBAまたは粒状DBMなどの同種移植骨片であってよい。一実施形態では、骨の足場材料は、β−TCPなどのリン酸カルシウムを含む。別の実施形態では、足場材料は、本明細書に記載のようなI型コラーゲンのパッチを含む。いくつかの実施形態では、骨への腱付着部位などの手術部位に施用するための生体適合性マトリックス中のPDGF溶液の配置を、注射器によって容易にすることができる。また、このキットは、使用説明書を含有してもよい。
【0023】
したがって、骨への腱の付着において有用な、PDGFを含む組成物を提供することが、本発明の一目的である。
【0024】
したがって、腱の修復にとって有用な、PDGFを含む組成物を提供することが、本発明の一目的である。
【0025】
PDGFを含む組成物を用いた骨への腱の付着の方法を提供することが、本発明の別の目的である。
【0026】
本発明の別の目的は、PDGFを含む組成物と、回旋筋腱板の腱を上腕骨に付着させるためにこの組成物を使用する方法とを提供することである。
【0027】
本発明の別の目的は、マトリックス中に配置されたPDGFを含む組成物と、回旋筋腱板の腱を上腕骨に付着させるためにこの組成物を使用する方法とを提供することである。
【0028】
本発明の別の目的は、マトリックス中に配置されたPDGFを含み、かつ結合剤をさらに含む組成物と、回旋筋腱板の腱を上腕骨に付着させるためにこの組成物を使用する方法とを提供することである。
【0029】
本発明の別の目的は、骨への腱の再付着および/または腱の治療における使用のための組成物を提供することである。
【0030】
本発明のさらなる目的は、骨への腱の再付着用および/または腱の治療用の薬剤の調製における使用のための組成物を提供することである。
【0031】
本発明のこうした実施形態を、以下の詳細な説明においてさらに詳しく説明する。開示される実施形態および特許請求の範囲についての以下の詳細な説明を検討すれば、本発明のこうした目的、特徴および利点が明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態による骨アンカーを例示する図である。
【図2】カプセルに入ったPDGF組成物の2つの実施形態30および36を例示するとともに、PDGF袋32および縫合境界34を示す図である。
【図3】先行技術による手法(3A)、縫合糸の中に組み込まれたPDGF含有パッド(3B)、および修復した断裂部の上に縫合されたPDGF袋(3C)を例示する図である。
【図4】本発明の一実施形態による手術手技を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、損傷された腱の治療および/または修復のための組成物および方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、骨への腱の付着または再付着において有用であり、任意の腱再付着に施用しうる。いくつかの実施形態では、本発明の組成物および方法は、骨への腱付着部位の腱および/または骨を強化することによって、骨への腱付着を亢進する。さらに、腱の治療は、断裂、剥離および/または他の何らかの緊張または変形を呈している腱など、損傷または傷害された腱を含む腱への本発明の組成物の施用を網羅する。本発明の組成物および方法によって骨に再付着されうる、および/または治療されうる腱としては、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋、大腿直筋、後脛骨筋および大腿四頭筋の腱、ならびにアキレス腱、膝蓋腱、外転筋腱および内転筋腱、または他に臀部の腱が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、ならびに損傷または傷害された腱を含む腱の治療のための、本発明の組成物の使用を提供する。加えて本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、ならびに損傷または傷害された腱を含む腱の治療のために有用な薬剤の調製における、本発明の組成物の使用を提供する。
【0035】
本発明は、一実施形態では、例えば、回旋筋腱板断裂の治療のための組成物および方法を提供する。本明細書で使用する場合、回旋筋腱板断裂は、完全な腱剥離ならびに不完全または部分的な腱剥離を含む。本組成物および方法は、回旋筋腱板修復に対する治癒反応および上腕骨骨頭への腱再付着を容易にする。
【0036】
一実施形態では、上腕骨骨頭などの骨への腱再付着を促進するための組成物は、PDGFを含む溶液と生体適合性マトリックスとを含み、この溶液はこの生体適合性マトリックス中に配置されている。別の実施形態では、組成物は、骨の足場材料と生体適合性結合剤とを含む生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む。一態様では、生体適合性マトリックスは、リン酸カルシウム粒子を含んでいてよく、生体適合性結合剤、または、DFDBAもしくは粒状DBMなどの同種移植骨片を含んでいてもいなくてもよい。別の態様では、生体適合性マトリックスは、DFDBAまたはDBMを含んでいてよい。
【0037】
ここで本発明の多様な実施形態中に含むことができる成分について触れると、本発明の組成物は、PDGFを含む溶液を含む。
【0038】
PDGF溶液
一態様では、本発明により提供される組成物は、血小板由来成長因子(PDGF)を含む溶液と生体適合性マトリックスとを含み、この溶液はこの生体適合性マトリックス中に配置されている。いくつかの実施形態では、PDGFは、約0.01mg/mlから約10mg/ml、約0.05mg/mlから約5mg/ml、約0.1mg/mlから約1.0mg/mlの範囲の濃度で、溶液中に存在する。PDGFは、記載のこうした範囲内の任意の濃度で溶液中に存在してよい。他の実施形態では、PDGFは、以下の濃度の任意の1つで溶液中に存在する:約0.05mg/ml、約0.1mg/ml、約0.15mg/ml、約0.2mg/ml、約0.25mg/ml、約0.3mg/ml、約0.35mg/ml、約0.4mg/ml、約0.45mg/ml、約0.5mg/ml、約0.55mg/ml、約0.6mg/ml、約0.65mg/ml、約0.7mg/ml、約0.75mg/ml、約0.8mg/ml、約0.85mg/ml、約0.9mg/ml、約0.95mg/mlまたは約1.0mg/ml。これらの濃度は特定の実施形態の例にすぎず、PDGFの濃度は上述の濃度範囲のいずれか以内であってよいことを理解されたい。
【0039】
本発明の組成物中には、多様な量のPDGFを使用してよい。使用できると考えられるPDGFの量としては、以下の範囲にある量が挙げられる:約1μgから約50mg、約10μgから約25mg、約100μgから約10mg、および約250μgから約5mg。
【0040】
本発明の実施形態におけるPDGFまたは他の成長因子の濃度は、米国特許第6221625号、同第5747273号および同第5290708号に記載のような酵素結合免疫測定法、または、PDGF濃度を決定するための当技術分野で公知の他の任意のアッセイを用いることにより決定できる。本明細書で示す際は、PDGFのモル濃度は、PDGF二量体の分子量(例えば、PDGF−BBの場合、MWは約25kDa)を基準にして決定される。
【0041】
本発明の実施形態では、PDGFは、PDGF−AA、PDGF−BB、PDGF−AB、PDGF−CC、PDGF−DD、ならびにその混合物および誘導体などの、PDGFホモ二量体およびヘテロ二量体を含む。一実施形態では、PDGFは、PDGF−BBを含む。別の実施形態では、PDGFは、rhPDGF−BBなどの組換えヒトPDGFを含む。
【0042】
PDGFは、いくつかの実施形態では、天然の供給源から入手できる。他の実施形態では、PDGFは、組換えDNA手法により作製できる。他の実施形態では、PDGFまたはその断片は、固相ペプチド合成など当業者に公知のペプチド合成手法を用いて作製してもよい。天然の供給源から入手する場合、PDGFは生体液由来のものであってよい。生体液は、いくつかの実施形態により、血液など、生体に関連する任意の処理済または未処理の体液を含むことができる。
【0043】
また、生体液は、別の実施形態では、濃厚血小板(PC)、アフェレーシス血小板、多血小板血漿(PRP)、血漿、血清、新鮮凍結血漿(FFP)および軟膜(BC)などの血液成分を含むこともできる。生体液は、さらなる実施形態では、血漿から分離し生理液中に再懸濁させた血小板を含むことができる。
【0044】
組換えDNA手法により作製する場合、単一の単量体(例えば、PDGFのB鎖またはA鎖)をコードするDNA配列は、いくつかの実施形態では、培養した原核細胞または真核細胞中に挿入して発現させ、その後ホモ二量体(例えば、PDGF−BBまたはPDGF−AA)を作製できる。他の実施形態では、PDGFヘテロ二量体は、ヘテロ二量体の単量体単位の両方をコードするDNA配列を、培養した原核細胞または真核細胞中に挿入し、翻訳された単量体単位をその細胞に処理させてヘテロ二量体(例えば、PDGF−AB)を作製することによって生じさせることができる。市販のcGMP組換えPDGF−BBは、Chiron Corporation(Emeryville、CA)から購入できる。試験用のrhPDGF−BBは、R&D Systems,Inc.(Minneapolis、MN)、BD Biosciences(San Jose、CA)およびChemicon,International(Temecula、CA)などの複数の供給元から入手できる。
【0045】
本発明の実施形態では、PDGFは、PDGF断片を含む。一実施形態では、rhPDGF−Bは、以下の断片を含む:全B鎖のアミノ酸配列1〜31、1〜32、33〜108、33〜109および/または1〜108。PDGFのB鎖の完全なアミノ酸配列(1〜109)は、米国特許第5516896号の図15で提供されている。本発明のrhPDGF組成物が完全な形のrhPDGF−B(1〜109)とその断片との組合せを含みうることを理解されたい。米国特許第5516896号で開示されているものなど、他のPDGF断片を採用してもよい。一実施形態によれば、rhPDGF−BBは、完全な形のrhPDGF−B(1〜109)を少なくとも65%含む。他の実施形態によれば、rhPDGF−BBは、完全な形のrhPDGF−B(1〜109)を少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%含む。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、PDGFは精製されていてよい。精製されたPDGFは、本明細書で使用する場合は、本発明の溶液中に組み込まれる前の段階で約95重量%を超えるPDGFを有する組成物を含む。この溶液は、薬学上許容できる任意の溶液であってよい。他の実施形態では、PDGFは実質的に精製されていてよい。実質的に精製されたPDGFは、本明細書で使用する場合は、本発明の溶液中に組み込まれる前の段階で、約5重量%から約95重量%のPDGFを有する組成物を含む。一実施形態では、実質的に精製されたPDGFは、本発明の溶液中に組み込まれる前の段階で、約65重量%から約95重量%のPDGFを有する組成物を含む。他の実施形態では、実質的に精製されたPDGFは、本発明の溶液中に組み込まれる前の段階で、約70重量%から約95重量%、約75重量%から約95重量%、約80重量%から約95重量%、約85重量%から約95重量%、または約90重量%から約95重量%のPDGFを有する組成物を含む。精製されたPDGFおよび実質的に精製されたPDGFは、足場および結合剤中に組み込んでよい。
【0047】
さらなる実施形態では、PDGFは部分的に精製されていてよい。部分的に精製されたPDGFは、本明細書で使用する場合は、PRP、FFP、または、PDGFを作製するために採取および分離が必要な他の任意の血液製剤という形でPDGFを有する組成物を含む。本発明の実施形態は、ホモ二量体およびヘテロ二量体など、本明細書で提供されるPDGFアイソフォームのいずれかが、精製されているかまたは部分的に精製されていてよいことを企図している。PDGF混合物を含有する本発明の組成物は、部分的に精製された比率でPDGFアイソフォームまたはPDGF断片を含有してよい。部分的に精製されたPDGFおよび精製されたPDGFは、いくつかの実施形態では、米国特許出願第11/159533号(公開番号は第20060084602号)に記載のように調製できる。
【0048】
いくつかの実施形態では、PDGFを含む溶液は、PDGFを1種または複数種の緩衝溶液中に可溶化することによって形成される。本発明のPDGF溶液中での使用に適した緩衝溶液は、炭酸塩、リン酸塩(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)、ヒスチジン、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)、酢酸およびHClなどの酸性緩衝溶液、および、リジンなどの有機緩衝溶液、トリス緩衝溶液(例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、ならびに3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)を非限定的に含むことができる。緩衝溶液は、PDGFとの生体適合性、および、望ましくないタンパク質改変を妨げる緩衝溶液の能力を基準にして選択できる。緩衝溶液はまた、宿主組織との適合性を基準にして選択することもできる。一実施形態では、酢酸ナトリウム緩衝溶液が使用される。緩衝溶液は、さまざまなモル濃度で、例えば、約0.1mMから約100mM、約1mMから約50mM、約5mMから約40mM、約10mMから約30mM、もしくは約15mMから約25mMで、または、これらの範囲内の任意のモル濃度で採用してよい。いくつかの実施形態では、酢酸塩緩衝溶液は約20mMのモル濃度で採用される。
【0049】
別の実施形態では、PDGFを含む溶液は、凍結乾燥したPDGFを水中に可溶化することによって形成され、この場合は可溶化前にPDGFを適切な緩衝溶液から凍結乾燥する。
【0050】
PDGFを含む溶液は、本発明の実施形態によれば、約3.0から約8.0の範囲のpHを有することができる。一実施形態では、PDGFを含む溶液は、約5.0から約8.0、より好ましくは約5.5から約7.0、最も好ましくは約5.5から約6.5の範囲のpH、または、これらの範囲内の任意の値のpHを有する。PDGFを含む溶液のpHは、いくつかの実施形態では、PDGFまたは望ましい他の任意の生物活性剤の長期安定性および有効性と適合するものであってよい。PDGFは一般に、酸性環境において、より安定である。そのため、一実施形態によれば、本発明は、PDGF溶液の酸性の貯蔵用処方物を含む。この実施形態によれば、PDGF溶液は、好ましくは約3.0から約7.0、より好ましくは約4.0から約6.5のpHを有する。しかしながら、PDGFの生物活性は、中性のpH範囲を有する溶液中で最適化できる。したがって、さらなる実施形態では、本発明は、PDGF溶液の中性pH処方物を含む。この実施形態によれば、PDGF溶液は好ましくは約5.0から約8.0、より好ましくは約5.5から約7.0、最も好ましくは約5.5から約6.5のpHを有する。本発明の方法によれば、酸性のPDGF溶液を中性のpH組成物に処方し直すのであるが、この場合、そのような組成物はその後、骨、靭帯、腱または軟骨の成長および/または治癒を促進する目的で、それらを治療するために使用される。本発明の好ましい一実施形態によれば、この溶液中で利用されるPDGFは、rhPDGF−BBである。
【0051】
いくつかの実施形態では、PDGF含有溶液のpHは、マトリックス基材またはリンカーへのPDGFの結合動態を最適化するために変化させてよい。必要に応じ、材料のpHを隣接する材料に平衡化させれば、結合したPDGFは不安定化しうる。
【0052】
PDGFを含む溶液のpHは、いくつかの実施形態では、本明細書に引用した緩衝溶液によって制御できる。タンパク質の種類によって、そのタンパク質が安定でいられるpH範囲は異なることが示されている。タンパク質の安定性には、等電点および当該タンパク質上の電荷が主に反映される。pH範囲は、タンパク質の立体配座構造と、タンパク質分解性の劣化、加水分解、酸化、ならびにタンパク質の構造および/または生物活性に改変をもたらす可能性のある他の過程に対するタンパク質の感受性とに影響を及ぼすことがある。
【0053】
いくつかの実施形態では、PDGFを含む溶液は、他の生物活性剤などの追加成分をさらに含むことができる。他の実施形態では、PDGFを含む溶液は、細胞培地、アルブミンなどの他の安定化タンパク質、抗菌剤、プロテアーゼ阻害剤[例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、アプロチニン、ε−アミノカプロン酸(EACA)など]および/または、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子(TGF)、角化細胞成長因子(KGF)、インスリン様成長因子(IGF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、または、PDGF−AA、PDGF−BB、PDGF−AB、PDGF−CCおよび/またはPDGF−DDの組成物を含む他のPDGFなど、他の成長因子をさらに含むことができる。
【0054】
本発明の組成物は、PDGFを含む溶液に加え、中にPDGF溶液を配置するための生体適合性マトリックスも含み、また、生体適合性結合剤を含んでもよいが、これは生体適合性マトリックスと併用してもしなくてもいずれでもよい。
【0055】
生体適合性マトリックス
足場材料
本発明の実施形態によれば、生体適合性マトリックスは足場材料を含む。本発明の実施形態によれば、この足場材料は、腱および/または骨組織などの新しい組織の成長が起きるための枠組または足場を提供する。足場材料は、いくつかの実施形態では、少なくとも1種のリン酸カルシウムを含む。他の実施形態では、足場材料は、複数種のリン酸カルシウムを含むことができる。足場材料としての使用に適したリン酸カルシウムは、本発明の実施形態では、カルシウム原子対リン酸原子の比率が0.5から2.0の範囲である。いくつかの実施形態では、生体適合性マトリックスは、DFDBAまたは粒状DBMなどの同種移植片を含む。
【0056】
骨の足場材料としての使用に適したリン酸カルシウムの非限定的な例は、非晶質リン酸カルシウム、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸一カルシウム無水物(MCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)、リン酸オクタカルシウム(OCP)、α−リン酸三カルシウム、β−TCP、ヒドロキシアパタイト(OHAp)、結晶性に乏しいヒドロキシアパタイト、リン酸テトラカルシウム(TTCP)、デカリン酸ヘプタカルシウム、メタリン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム二水和物、炭酸化リン酸カルシウムおよびピロリン酸カルシウムを含む。
【0057】
さらに、いくつかの実施形態では、足場材料は、コラーゲンパッチまたはパッドを含む。コラーゲンパッチまたはパッドは、本発明の一実施形態では、可溶性のウシI型コラーゲンなどの繊維状コラーゲンを含む。コラーゲンパッチまたはパッドでの使用に適した繊維状コラーゲンは、縫合に耐え、断裂せずに縫合糸を保持するための、湿潤引張強度などの十分な機械的特性を示す。一実施形態では、コラーゲンパッチまたはパッドは、約0.75g/cmから約1.5g/cmの範囲の密度を有する。加えて、本発明のいくつかの実施形態での使用のためのコラーゲンパッチまたはパッドは多孔質であり、コラーゲンパッチの質量の約1倍から約15倍の範囲の量で水を吸収するために使用できる。
【0058】
いくつかの実施形態では、足場材料は、多孔構造を含む。多孔質の、骨の足場材料は、いくつかの実施形態によれば、直径が約1μmから約1mmの範囲の孔を含むことができる。一実施形態では、足場材料は、直径が約100μmから約1mmの範囲のマクロ孔を含む。別の実施形態では、足場材料は、直径が約10μmから約100μmの範囲のメゾ孔を含む。さらなる実施形態では、足場材料は、直径が約10μm未満のミクロ孔を含む。本発明の実施形態は、マクロ孔、メゾ孔およびミクロ孔、またはその任意の組合せを含む足場材料を企図している。
【0059】
多孔質の足場材料は、一実施形態では、約25%を超える多孔率を有する。他の実施形態では、多孔質の足場材料は、約50%を超える多孔率を有する。さらなる実施形態では、多孔質の足場材料は、約90%を超える多孔率を有する。
【0060】
いくつかの実施形態では、足場材料は、複数の粒子を含む。足場材料は、例えば、複数のリン酸カルシウム粒子を含むことができる。足場粒子の平均直径は、一実施形態では、約1μmから約5mmの範囲である。他の実施形態では、粒子の平均直径は、約250μmから約750μmの範囲である。足場粒子の平均直径は、別の実施形態では、約100μmから約400μmの範囲であってよい。さらなる実施形態では、粒子の平均直径は、約75μmから約300μmの範囲である。また別の実施形態では、足場粒子の平均直径は約1μm未満であり、いくつかのケースでは、約1mm未満である。
【0061】
足場材料は、いくつかの実施形態によれば、埋込みに適した形状(例えば、球形、円筒形またはブロック形)で提供することができる。他の実施形態では、骨の足場材料は、鋳型成形可能、押出成形可能および/または注入可能である。鋳型成形可能な足場材料は、骨への腱付着部位など、腱および/または骨の中および周辺への本発明の組成物の効率的な配置を容易にすることができる。いくつかの実施形態では、鋳型成形可能な足場材料は、へらまたはそれと同等の用具を用いて骨および/または腱に施用する。いくつかの実施形態では、足場材料は流動性である。流動性の足場材料は、いくつかの実施形態では、注射器および針またはカニューレ経由で腱再付着部位に施用できる。いくつかの実施形態では、流動性の足場材料は、経皮的に腱再付着部位に施用できる。他の実施形態では、流動性の足場材料は、外科的に露出された腱再付着部位に施用できる。さらなる実施形態では、鋳型成形可能および/または流動性の足場材料は、骨への腱の再付着において使用される骨アンカーに施用できる。
【0062】
いくつかの実施形態では、足場材料は生体吸収性である。足場材料は、一実施形態では、in vivoへの埋込み後1年以内に吸収できる。別の実施形態では、足場材料は、in vivoへの埋込み後1、3、6または9箇月以内に吸収できる。生体吸収性は、以下に依存する:(1)マトリックス材料の性質(すなわち、その化学組成、物理的構造および大きさ)、(2)マトリックスが配置されている体内での位置、(3)使用されているマトリックス材料の量、(4)患者の代謝状態(糖尿病/非糖尿病、骨粗鬆症、喫煙者、高齢、ステロイド使用など)、(5)治療されている傷害の程度および/または種類、ならびに(6)他の骨同化因子、異化因子および抗異化因子など、そのマトリックスに加え他の材料の使用。
【0063】
β−リン酸三カルシウム(β−TCP)を含む足場
生体適合性マトリックスとしての使用のための足場材料は、いくつかの実施形態では、β−TCPを含む。β−TCPは、いくつかの実施形態によれば、さまざまな直径の多方向性で相互連結した孔を有する多孔構造を含むことができる。いくつかの実施形態では、β−TCPは、相互連結した孔に加えて、さまざまな直径の複数のポケットおよび相互連結していない孔を含む。β−TCPの多孔構造は、一実施形態では、直径が約100μmから約1mmの範囲のマクロ孔、直径が約10μmから約100μmの範囲のメゾ孔、および直径が約10μm未満のミクロ孔を含む。β−TCPのマクロ孔およびミクロ孔は、骨誘導および骨伝導などの組織内殖を容易にすることができ、一方、マクロ孔、メゾ孔およびミクロ孔は、体液の連絡および栄養輸送を可能にし、β−TCP生体適合性マトリックス全体で組織および骨の再生を助けることができる。
【0064】
多孔構造を含むことについていえば、β−TCPは、いくつかの実施形態では、25%を超える多孔率を有することができる。他の実施形態では、β−TCPは、50%を超える多孔率を有することができる。さらなる実施形態では、β−TCPは、90%を超える多孔率を有することができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、骨の足場材料は、β−TCP粒子を含む。β−TCP粒子の平均直径は、一実施形態では、約1μmから約5mmの範囲である。他の実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、約250μmから約750μmの範囲である。別の実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、約100μmから約400μmの範囲である。さらなる実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、約75μmから約300μmである。また別の実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、25μm未満であり、いくつかのケースでは、1mm未満の大きさである。
【0066】
β−TCP足場材料を含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態では、埋込みに適した形状(例えば、球形、円筒形またはブロック形)で提供される。他の実施形態では、β−TCP足場材料は、鋳型成形可能、押出成形可能および/または流動性であり、それにより、上腕骨骨頭中のチャネルなどの腱再付着領域中でのマトリックスの施用が容易になる。流動性のマトリックスは、注射器、管またはへらを用いて施用しうる。いくつかの実施形態では、鋳型成形可能、押出成形可能および/または流動性のβ−TCP足場材料は、骨への腱の再付着において使用される骨アンカーに施用する。
【0067】
β−TCP足場材料は、いくつかの実施形態によれば、生体吸収性である。一実施形態では、β−TCP足場材料は、in vivoへの埋込み後1年で少なくとも75%吸収できる。別の実施形態では、β−TCPの骨の足場材料は、in vivoへの埋込み後1年で90%超吸収できる。
【0068】
コラーゲンパッチを含む足場材料
いくつかの実施形態では、足場材料は、コラーゲンパッチまたはパッドを含む。コラーゲンパッチまたはパッドは、本発明の一実施形態では、可溶性のウシI型コラーゲンなどの繊維状コラーゲンを含む。別の実施形態では、繊維状コラーゲンは、II型またはIII型コラーゲンを含む。コラーゲンパッチまたはパッドでの使用に適した繊維状コラーゲンは、縫合に耐え、断裂せずに縫合糸を保持するための、湿潤引張強度などの十分な機械的特性を示す。繊維状コラーゲンパッチは、例えば、約0.75ポンドから約5ポンドの範囲の湿潤引裂強度を有することができる。一実施形態では、コラーゲンパッチまたはパッドは、約0.75g/cmから約1.5g/cmの範囲の密度を有する。加えて、本発明のいくつかの実施形態での使用のためのコラーゲンパッチまたはパッドは多孔質であり、コラーゲンパッチの質量の約1倍から約15倍の範囲の量で水を吸収するために使用できる。
【0069】
足場材料および生体適合性結合剤
別の実施形態では、生体適合性マトリックスは、足場材料と生体適合性結合剤とを含む。足場材料と生体適合性結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、本発明の実施形態によれば、新しい腱および/または骨組織の成長のための構造を提供することによって、修復、強化および/または骨への腱の再付着にとって有用である。
【0070】
生体適合性結合剤は、いくつかの実施形態によれば、組み合わされた物質間の接合を促進するように作用する材料を含むことができる。生体適合性結合剤は、例えば、生体適合性マトリックスの形成における骨の足場材料の粒子間の接着を促進できる。特定の実施形態では、それと同じ材料が、組み合わされた物質間の接合を促進するように作用し、腱および骨の成長など新しい組織の成長が起きるための枠組をもたらす場合には、そのような材料は、足場材料および結合剤の両方の役割を果たしうる。
【0071】
生体適合性結合剤は、いくつかの実施形態では、コラーゲン、エラスチン、多糖類、核酸、炭水化物、タンパク質、ポリペプチド、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリウレタン、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物−co−イミド)、ポリ(オルトカーボネート)、ポリ(α−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ乳酸、ポリ(Lラクチド)(PLLA)、ポリ(D,Lラクチド)(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド(PLGA)、ポリ(Lラクチド−co−D,Lラクチド)、ポリ(D,Lラクチド−co−炭酸トリメチレン)、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリプロピレンフマレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、カーボンファイバー、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)−co−(プロピレンオキシド)ブロックコポリマー、ポリ(エチレンテレフタレート)ポリアミド、ならびにそのコポリマーおよび混合物を含むことができる。
【0072】
生体適合性結合剤は、他の実施形態では、アルギン酸、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、ゼラチン、キチン、キトサン、酢酸キトサン、乳酸キトサン、硫酸コンドロイチン、N,O−カルボキシメチルキトサン、デキストラン(例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはデキストラン硫酸ナトリウム)、フィブリン糊、レシチン、ホスファチジルコリン誘導体、グリセロール、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、セルロース(例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース)、グルコサミン、プロテオグリカン、デンプン(例えば、ヒドロキシエチルデンプンまたは可溶性デンプン)、乳酸、プルロン酸、グリセロリン酸ナトリウム、グリコーゲン、ケラチン、絹、ならびにその誘導体および混合物を含むことができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、生体適合性結合剤は水溶性である。水溶性結合剤は、その埋込み後間もなく生体適合性マトリックスから溶解することにより、生体適合性マトリックス中にマクロ多孔性を導入できる。本明細書で論じる場合、マクロ多孔性は、アクセスを高め、その結果、インプラント部位における破骨細胞および骨芽細胞のリモデリング活性を高めることによって、インプラント材料の骨伝導性を向上させることができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、生体適合性結合剤は、生体適合性マトリックス中に、マトリックスの約5重量%から約50重量%の範囲の量で存在してよい。他の実施形態では、生体適合性結合剤は、生体適合性マトリックスの約10重量%から約40重量%の範囲の量で存在してよい。別の実施形態では、生体適合性結合剤は、生体適合性マトリックスの約15重量%から約35重量%の範囲の量で存在してよい。さらなる実施形態では、生体適合性結合剤は、生体適合性マトリックスの約20重量%の量で存在してよい。
【0075】
足場材料および生体適合性結合剤を含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態によれば、流動性、鋳型成形可能および/または押出成形可能であってよい。そのような実施形態では、生体適合性マトリックスは、ペーストまたはパテの形態であってよい。ペーストまたはパテの形態の生体適合性マトリックスは、一実施形態では、生体適合性結合剤によって互いに接着された、足場材料の粒子を含むことができる。
【0076】
ペーストまたはパテの形態の生体適合性マトリックスは、所望のインプラント形状に成形することもでき、または埋込み部位の輪郭に成形することもできる。一実施形態では、ペーストまたはパテの形態の生体適合性マトリックスは、注射器またはカニューレを用いて、埋込み部位中に注入できる。さらなる実施形態では、鋳型成形可能および/または流動性の足場材料は、骨への腱の再付着において使用される骨アンカーに施用できる。
【0077】
いくつかの実施形態では、ペーストまたはパテの形態の生体適合性マトリックスは、埋込み後に硬化せず、流動性で鋳型成形可能な形態を保つ。他の実施形態では、ペーストまたはパテは、埋込み後に硬化することによって、マトリックスの流動性および鋳型成形性を低下させることができる。
【0078】
足場材料および生体適合性結合剤を含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態では、ブロック形、球形もしくは円筒形、または所望の任意の形状、例えば鋳型または施用部位により規定される形状など、所定の形状で提供することもできる。
【0079】
足場材料および生体適合性結合剤を含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態では、生体吸収性である。生体適合性マトリックスは、そのような実施形態では、in vivoへの埋込み後1年以内に吸収できる。別の実施形態では、骨の足場材料と生体適合性結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、in vivoへの埋込み後1、3、6または9箇月以内に吸収できる。生体吸収性は、いくつかの実施形態では、以下に依存する:(1)マトリックス材料の性質(すなわち、その化学組成、物理的構造および大きさ)、(2)マトリックスが配置されている体内での位置、(3)使用されているマトリックス材料の量、(4)患者の代謝状態(糖尿病/非糖尿病、骨粗鬆症、喫煙者、高齢、ステロイド使用など)、(5)治療されている傷害の程度および/または種類、および(6)他の骨同化因子、異化因子および抗異化因子など、そのマトリックスに加え他の材料の使用。
【0080】
β−TCPとコラーゲンとを含む生体適合性マトリックス
いくつかの実施形態では、生体適合性マトリックスは、β−TCP足場材料と生体適合性のコラーゲン結合剤とを含むことができる。コラーゲン結合剤との組合せに適したβ−TCP足場材料は、本明細書で上述したものと共通である。
【0081】
コラーゲン結合剤は、いくつかの実施形態では、I型、II型、およびIII型コラーゲンなど、任意の型のコラーゲンを含む。一実施形態では、コラーゲン結合剤は、I型およびII型コラーゲンの混合物などの、コラーゲンの混合物を含む。他の実施形態では、コラーゲン結合剤は、生理的条件下で可溶性である。骨または筋骨格組織中に存在する他の型のコラーゲンを採用してもよい。組換え、合成および天然に存在する形態のコラーゲンを、本発明において使用してもよい。
【0082】
生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態によれば、コラーゲン結合剤で互いに接着される複数のβ−TCP粒子を含む。一実施形態では、コラーゲン結合剤との組合せに適したβ−TCP粒子の平均直径は、約1μmから約5mmの範囲である。別の実施形態では、コラーゲン結合剤との組合せに適したβ−TCP粒子の平均直径は、約1μmから約1mmの範囲である。他の実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、約200μmから約3mm、または約200μmから約1mm、または約1mmから約2mmの範囲である。いくつかの実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、約250μmから約750μmの範囲である。β−TCP粒子の平均直径は、他の実施形態では、約100μmから約400μmの範囲である。さらなる実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は、約75μmから約300μmの範囲である。また別の実施形態では、β−TCP粒子の平均直径は約25μm未満であり、いくつかのケースでは、約1mm未満である。
【0083】
いくつかの実施形態では、多孔構造を有する生体適合性マトリックスを作製するために、コラーゲン結合剤によってβ−TCP粒子を互いに接着することができる。いくつかの実施形態では、β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、直径が約1μmから約1mmの範囲の孔を含むことができる。β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、直径が約100μmから約1mmの範囲のマクロ孔、直径が約10μmから100μmの範囲のメゾ孔、および直径が約10μm未満のミクロ孔を含むことができる。
【0084】
β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、約25%を超える多孔率を有することができる。別の実施形態では、この生体適合性マトリックスは、約50%を超える多孔率を有することができる。さらなる実施形態では、この生体適合性マトリックスは、約90%を超える多孔率を有することができる。
【0085】
β−TCP粒子を含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態では、マトリックスの約5重量%から約50重量%の範囲の量でコラーゲン結合剤を含むことができる。他の実施形態では、コラーゲン結合剤は、生体適合性マトリックスの約10重量%から約40重量%の範囲の量で存在してよい。別の実施形態では、コラーゲン結合剤は、生体適合性マトリックスの約15重量%から約35重量%の範囲の量で存在してよい。さらなる実施形態では、コラーゲン結合剤は、生体適合性マトリックスの約20重量%の量で存在してよい。
【0086】
β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態によれば、流動性、鋳型成形可能および/または押出成形可能であってよい。そのような実施形態では、生体適合性マトリックスは、ペーストまたはパテの形態であってよい。ペーストまたはパテは、所望のインプラント形状に成形することもでき、または、埋込み部位の輪郭に成形することもできる。一実施形態では、β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む、ペーストまたはパテの形態の生体適合性マトリックスは、注射器またはカニューレを用いて、埋込み部位中に注入できる。さらなる実施形態では、β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む、鋳型成形可能、押出成形可能および/または流動性のマトリックスは、骨への腱の再付着において使用される骨アンカーおよび/または縫合糸に施用できる。
【0087】
いくつかの実施形態では、β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む、ペーストまたはパテの形態の生体適合性マトリックスは、埋め込んだ際に、流動性で鋳型成形可能な形態を保つことができる。他の実施形態では、このペーストまたはパテは、埋込み後に硬化することによって、マトリックスの流動性および鋳型成形性を低下させることができる。
【0088】
β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態では、ブロック形、球形または円筒形などの所定の形状で提供することもできる。
【0089】
β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、吸収性であってよい。一実施形態では、β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、in vivoへの埋込み後1年で少なくとも75%吸収できる。別の実施形態では、β−TCP粒子とコラーゲン結合剤とを含む生体適合性マトリックスは、in vivoへの埋込み後1年で90%超吸収できる。
【0090】
いくつかの実施形態では、PDGFを含む溶液を生体適合性マトリックス中に配置して、回旋筋腱板断裂の治療のための組成物を作製できる。
【0091】
生体適合性マトリックス中でのPDGF溶液の配置
別の態様では、本発明は、断裂した回旋筋腱板に関連するものを含め、損傷または傷害された腱の治療における使用のための組成物を作製する方法を提供する。一実施形態では、腱および/または骨の治療のためのそのような組成物を作製する方法は、PDGFを含む溶液を供給することと、生体適合性マトリックスを供給することと、この溶液をこの生体適合性マトリックス中に配置することとを含む。組合せに適したPDGF溶液および生体適合性マトリックスは、本明細書に上述したものと共通である。
【0092】
いくつかの実施形態では、生体適合性マトリックスをPDGF溶液中に浸漬することによって、PDGF溶液を生体適合性マトリックス中に配置することができる。別の実施形態では、生体適合性マトリックスにPDGF溶液を注入することによって、PDGF溶液を生体適合性マトリックス中に配置することができる。いくつかの実施形態では、PDGF溶液を注入することは、PDGF溶液を注射器中に入れることと、PDGF溶液を生体適合性マトリックス中に射出して生体適合性マトリックスを飽和させることとを含むことができる。
【0093】
生体適合性マトリックスは、いくつかの実施形態によれば、PDGF溶液を受け入れる前は、レンガ形または円筒形などの所定の形状をしていてよい。PDGF溶液を受け入れた後、生体適合性マトリックスは、流動性、押出成形可能および/または注入可能なペーストまたはパテの形態をとることができる。他の実施形態では、生体適合性マトリックスは、PDGFを含む溶液を受け入れる前の段階で、流動性のペーストまたはパテの形態をすでに示していてもよい。
【0094】
生物活性剤をさらに含む組成物
本発明の組成物は、いくつかの実施形態によれば、PDGFに加えて1種または複数種の生物活性剤をさらに含む。PDGFに加えて本発明の組成物中に組み込むことができる生物活性剤は、有機分子、無機材料、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、遺伝子、遺伝子断片、スモールインサートリボ核酸[si−RNA]、遺伝子調節配列、核転写因子およびアンチセンス分子)、核タンパク質、多糖類(例えば、ヘパリン)、糖タンパク質およびリポタンパク質を含むことができる。例えば、抗癌剤、抗生物質、鎮痛剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、酵素阻害剤、抗ヒスタミン剤、ホルモン、筋弛緩剤、プロスタグランジン、栄養素、骨誘導タンパク質、成長因子およびワクチンなどの、本発明の組成物中に組み込むことができる生物活性化合物の非限定的な例は、米国特許出願第11/159533号(公開番号は20060084602号)中に開示されている。本発明の組成物中に組み込むことができる生物活性化合物としては、いくつかの実施形態では、インスリン様成長因子、線維芽細胞成長因子または他のPDGFなどの骨誘導因子が挙げられる。他の実施形態によれば、本発明の組成物中に組み込むことができる生物活性化合物としては、好ましくは、骨形態形成タンパク質(BMP)、BMP模倣体、カルシトニン、カルシトニン模倣体、スタチン、スタチン誘導体、線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因子、成長分化因子および/または副甲状腺ホルモンなどの、骨誘導性および骨刺激性の因子が挙げられる。本発明の組成物中に組み込むための追加的な因子としては、いくつかの実施形態では、プロテアーゼ阻害剤のほか、ビスホスホネートなど骨吸収を抑制する骨粗鬆症治療剤、およびNF−kB(RANK)リガンドに対する抗体が挙げられる。
【0095】
追加の生物活性剤の送達についての標準的なプロトコールおよび投与計画は、当技術分野では公知である。追加の生物活性剤は、損傷された腱および/または腱再付着部位への適切な用量の当該剤の送達を可能にする量で、本発明の組成物中に導入できる。大部分のケースでは、専門家にとって公知で特定の当該剤に適用可能なガイドラインを用いて、用量を決定する。本発明の組成物中に含ませる追加の生物活性剤の量は、状態の種類および程度、特定の患者の全身的な健康状態、その生物活性剤の処方、放出動態、および生体適合性マトリックスの生体吸収性などの変動要素に依存してよい。標準的な臨床試験を用いて、特定の任意の追加の生物活性剤についての用量および投与頻度を最適化してよい。
【0096】
腱および/または骨の治療のための組成物は、いくつかの実施形態によれば、自家骨髄、自家血小板抽出物、同種移植片、合成の骨マトリックス材料、異種移植片、およびその誘導体といった他の骨移植材料を、PDGFと共にさらに含む。
【0097】
腱を治療および再付着させる方法
本発明は、骨への腱の付着または再付着、骨への腱付着の強化、ならびに断裂、剥離または他の何らかの緊張または変形を呈している腱などの腱の治療のための方法も提供する。一実施形態では、骨に腱を再付着させる方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、骨上の少なくとも1箇所の腱再付着部位にこの組成物を施用することとを含む。別の実施形態では、骨への腱の付着を強化する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、骨への少なくとも1箇所の腱付着部位にこの組成物を施用することとを含む。骨への腱付着を強化する方法は、いくつかの実施形態では、回旋筋腱板傷害におけるような、骨からの腱剥離の防止または抑制に役立つ。
【0098】
本発明は、回旋筋腱板断裂を治療する方法も提供する。一実施形態では、回旋筋腱板断裂を治療する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、上腕骨骨頭上の少なくとも1箇所の腱再付着部位にこの組成物を施用することとを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1箇所の腱再付着部位にこの組成物を施用することは、上腕骨骨頭上の再付着部位の輪郭に合わせてこの組成物を成形することを含むことができる。組成物は、例えば、剥離した腱を受け入れるための上腕骨骨頭の表面上に形成されるチャネルに成形できる。この組成物は、付着をさらに強化するために、腱が骨中に付着する部位の近くに施用してよい。
【0099】
いくつかの実施形態では、回旋筋腱板断裂を治療する方法は、PDGF組成物をさらに含む骨アンカーなどの少なくとも1つの固着手段を上腕骨骨頭中に配置することと、少なくとも1つの剥離した腱をこの骨アンカーに連結することとをさらに含む。本発明の実施形態では、腱は、縫合糸により骨アンカーに固定できる。縫合糸は、使用前に、PDGF溶液中に浸漬させるか、またはPDGF組成物中でコーティングしてもよい。実施例2〜4では、回旋筋腱板断裂を治療するための3つの異なる方法を記載する。
【0100】
別の実施形態では、腱を治療する方法は、生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、少なくとも1つの腱の表面にこの組成物を施用することとを含む。いくつかの実施形態では、この少なくとも1つの腱は、断裂、剥離または他の何らかの変形を呈している腱などの、傷害または損傷された腱である。
【0101】
組成物中での使用に適したPDGF溶液および生体適合性マトリックスは、本発明の方法の実施形態によれば、本明細書に上述したものと共通である。
【0102】
PDGFを含む組成物の使用
本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、ならびに損傷または傷害された腱を含む腱の治療のための、本発明の組成物の使用を提供する。加えて本発明は、骨への腱の再付着、骨への腱付着の強化、ならびに損傷または傷害された腱を含む腱の治療のために有用な薬剤の調製における、本発明の組成物の使用を提供する。
【0103】
キット
別の態様では、本発明は、第1の容器中のPDGFを含む溶液と、生体適合性マトリックスを含む第2の容器とを含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、この溶液は、所定の濃度のPDGFを含む。PDGFの濃度は、いくつかの実施形態では、治療中の腱の性質に従って予め決めておくことができる。このキットは足場材料をさらに含んでもよく、この足場材料は生体適合性結合剤をさらに含んでもよい。さらに、キットにより提供される生体適合性マトリックスの量は、治療中の腱の性質に依存してよい。このキット中に含みうる生体適合性マトリックスは、足場材料、足場材料および生体適合性結合剤、および/または、DFDBAまたは粒状DBMなどの同種移植骨片であってよい。一実施形態では、骨の足場材料は、β−TCPなどのリン酸カルシウムを含む。別の実施形態では、足場材料は、本明細書に記載のようなI型コラーゲンのパッチを含む。いくつかの実施形態では、骨への腱付着部位などの手術部位に施用するための生体適合性マトリックス中のPDGF溶液の配置を、注射器によって容易にすることができる。また、このキットは、使用説明書を含有してもよい。
【0104】
以下の実施例は、本発明をさらに例証するために役立つであろうが、同時に、何らそれを限定しているものではない。逆に、当業者が本明細書の説明を読めば本発明の精神から逸脱することなく思い浮かぶと思われる多様なその実施形態、改変形および同等物に対する手段を有してよいことをはっきりと理解されたい。
【実施例】
【0105】
(実施例1)
PDGF溶液と生体適合性マトリックスとを含む組成物の調製
以下の手順により、PDGF溶液と生体適合性マトリックスとを含む組成物を調製した。
【0106】
β−TCPとコラーゲンとを含む、予め計量されている生体適合性マトリックスのブロックを入手した。このβ−TCPは、約75μmから約300μmの範囲の大きさの純粋なβ−TCP粒子を含んでいた。β−TCP粒子は、およそ20重量%の可溶性のウシコラーゲン結合剤と調合されていた。β−TCP/コラーゲン生体適合性マトリックスは、Kensey Nash(Exton、Pennsylvania)から購入できる。
【0107】
rhPDGF−BBを含む溶液を入手した。rhPDGF−BBは、酢酸ナトリウム緩衝溶液中でのストック濃度10mg/ml(すなわちロット番号QA2217)で、Chiron Corporationから市販されている。このrhPDGF−BBはChiron Corporationにより酵母発現系で作製されており、REGRANEX(Johnson&Johnson)およびGEM 21S(BioMimetic Therapeutics)という製品中に利用されているrhPDGF−BBと同じ製造設備に由来するもので、米国食品医薬品局によってヒトの使用について認可されているものである。このrhPDGF−BBは、EUおよびカナダにおいてもヒトの使用について認可されている。このrhPDGF−BB溶液を、酢酸塩緩衝溶液中で0.3mg/mlに希釈した。rhPDGF−BB溶液は、本発明の実施形態により、所望の任意の濃度に希釈できる。
【0108】
rhPDGF−BB溶液約91μl対β−TCP/コラーゲン生体適合性マトリックス約100mg(乾燥重量)の比率を用いて、組成物を作製した。注射器を用いてrhPDGF−BB溶液を生体適合性マトリックス上に射出し、その結果生じた組成物を混ぜ合わせてから、腱再付着部位での配置用の1ccのツベルクリン注射器中に挿入するために細い紐に成形した。
【0109】
(実施例2)
切開修復法を用いた回旋筋腱板断裂の治療
切開修復は、関節鏡検査を伴わずに実施され、比較的大きい回旋筋腱板傷害について典型的に使用される。本発明のこの方法によれば、外科医は肩の上を2から3インチ切開し、前肩峰から三角筋を分割して、断裂した回旋筋腱板へのアクセスを確保するとともに、その部位がよりよく見えるようにする。三角筋は、回旋筋腱板傷害部への十分なアクセスを確保するのに必要な程度に剥離するだけにすべきである。回旋筋腱板修復手技の後、縦方向に分割した三角筋を閉じるために縫合糸を用いてこの筋を修復する。
【0110】
次に、外科医は、当該腱(複数も)(棘下筋、棘上筋、小円筋および/または肩甲下筋)の剥離末端を確認し、残っている腱の断端を上腕骨骨頭から、好ましくは、やすり、骨鉗子、メスまたは高速バーおよび/またはシェーバーを用いて切除または除去する。外科医は、肩峰形成術(肩峰の下面からの骨棘の除去)を実施して、腱上にできていた瘢痕組織があれば除去してよい。壊死組織切除の後、出血骨を作るとともに骨髄の間葉幹細胞の移動用のアクセスを確保するために、上腕骨骨頭の皮質骨を削り落とす。本発明の方法の一実施形態によれば、形状および大きさが元の腱付着痕に相当する小さなチャネルを上腕骨骨頭中に形成するために、皮質骨を除去する。好ましくは、このチャネルは、肩関節の関節軟骨に隣接して形成する。
【0111】
腱の再付着の前に、外科医は、骨を経由してチャネル内に小さな孔をあけてよい。この孔は、骨アンカー(好ましくは骨アンカーのねじ)を取り付けるために使用しうる。この骨アンカーは、任意の生体適合性材料から形成してよく、好ましくは生体適合性金属または吸収性組成物のいずれかで作る。本発明の一実施形態によれば、骨アンカーのねじは、2列配列で取り付ける。それにより、アンカーは、縫合糸を上腕骨骨頭に取り付けるために使用される付着点となる。
【0112】
アンカーの挿入前に、まず下孔をあける。次に、アンカーの挿入前に、本発明によるPDGF組成物を下孔の中に入れる。一実施形態では、本発明の注入可能な形態のPDGF組成物を、下孔の中に注入する。
【0113】
代替的な実施形態では、図1に示すようなカニューレ付きの自動穿孔自動滴下型アンカー10を、最初の下孔を使わずに使用する。アンカー10は、その近位端14部分またはその近辺の針アクセスポート12と、アンカー10の軸に沿って伸びている中心チャネル16と、アンカー10の軸に沿った放射状出口ポート18および/またはアンカー10の遠位端22の近辺に位置する遠位出口ポート20などの1つまたは複数の出口ポートとを含む。一実施形態では、アンカー10はチャネル中に突き通す。好ましくは、複数のアンカー10を使用する。針を上腕骨骨頭中に一旦挿入すると、アンカー10の針アクセスポート12中に針が挿入され、本発明のPDGF組成物が中心チャネル16中に注入される。PDGF組成物が中心チャネル16を満たし放射状出口ポート18および/または遠位出口ポート20から周辺の骨の中へ流入するように、十分な量のPDGF組成物をアンカー中に注入する。任意の有効量または濃度のPDGF組成物を使用してよい。一実施形態では、およそ0.3から1mg/mlのPDGFを有する組成物およそ0.1から1.0ccを、各アンカーまたは下孔中に注入する。
【0114】
本発明の一実施形態によれば、アンカー10中に含まれている出口ポートは、PDGFが周辺の骨の中に移動する速度を調節するために、さまざまな直径のものとしてよい。また、周辺の骨内でのPDGF放出速度は、チャネル中に挿入された多様なアンカー中で異なるPDGF処方物を利用することによって調節する。例えば、PDGF放出速度は、特定のアンカー中に粘性の高い組成物を使用するか、または、PDGF徐放性を有するマトリックスを含むPDGF組成物を使用することによって引き延ばす。
【0115】
あるいは、骨アンカーを使わずに、あけた孔を使用して、上腕骨骨頭に直接縫合糸を取り付ける。
【0116】
本発明の方法の次のステップによれば、PDGF組成物を施用して、チャネルを実質的に覆う。チャネルを覆うために使用するPDGF組成物は、本明細書に上述したように、溶液、パテまたはゲルのいずれかの形態である。あるいは、このPDGF組成物はパッドの形態である。このパッドは、PDGF溶液で水和された基材から成っていてよい。この基材は、繊維状のI型コラーゲン、コラーゲンヒドロゲル、架橋ヒアルロン酸、ブタの小腸粘膜下組織(SIS)、ポリ乳酸/ポリグリコール酸、またはセルロースから成る。
【0117】
チャネルをPDGF組成物で覆った後、次に腱の近位端をPDGF組成物の上およびチャネル中に配置する。腱は、腱、PDGF組成物を通って骨中に至る縫合糸か、または骨アンカーの小孔を通る縫合糸の使用により、適所に固定する。当業者に公知の多様な標準的縫合手法(例えば、Mason Allen縫合、マットレス縫合、単純縫合)のいずれを使用してもよい。
【0118】
一実施形態によれば、縫合糸にも、使用前にPDGF溶液をしみ込ませる。縫合糸は、PDGF組成物中に浸漬してもよいし、またはPDGF組成物で飽和させてもよい。任意の有効量または濃度のPDGF組成物を使用してよい。一実施形態では、濃度が0.1、0.3または1.0mg/mLのPDGFを用い、使用前の縫合糸を湿らせてよい。さらに、傷口治癒過程と一致する様式で、PDGFの放出を遅らせるために、グリセロール、ゼラチンまたはパラフィンワックスで縫合糸を処理してもよい。
【0119】
PDGF組成物は、腱/骨の境界の治癒を促進するために、腱に隣接して、および/または腱の上に施用してもよい。このPDGF組成物は、溶液、パテ、ゲルまたはパッドの形態であってよく、腱を固定するために使用される同じ縫合糸を用いて、適切な位置に固定してよい。
【0120】
PDGF組成物の埋込みおよび回旋筋腱板の縫合の後、切開した筋を全て縫合して閉じ、その上の筋膜を修復してから、最後に、患者の皮膚を縫合糸またはステープルで閉じる。
【0121】
(実施例3)
小切開修復法を用いた回旋筋腱板断裂の治療
回旋筋腱板の小切開修復手技は、3cmから5cmの切開部を経由して通常行われる限定的な切開手法と併せて、過程の一部として関節鏡検査手法を併用することを含む。また、この手法には、断裂箇所が見えるようにし、関節内の他の構造(すなわち、関節唇)に及ぶ損傷を評価および治療し、ならびに肩峰下の棘を除去するための関節鏡検査も組み込まれている。関節鏡下での棘の除去(肩峰形成術)により、三角筋を剥離する必要がなくなる。その後、関節鏡の減圧を実施してよい。減圧に続いて、腱の解放および可動化ならびに標識縫合糸の配置を行ってよい。こうしたステップは、関節鏡下で、または切開して行ってよい。最終ステップは、切開手技ではあるが比較的小さな開口部による手技で行う。とりわけ、腱をしっかり支える縫合糸を、前に可動化した筋束上に配置するために、また、縫合糸アンカーまたは経骨縫合糸のいずれかを用いて骨に筋束を固定するために、横方向への三角筋の小規模な分割を実施する。
【0122】
一実施形態によれば、本発明の小切開修復方法は、以下のステップを含む。
【0123】
患者の整位およびマーキングのための標準的な手法に従って、患者を準備する。後ろ側のポータルを経由して肩甲上腕関節中に関節鏡を配置して、関節の全体的な評価を実施する。回旋筋腱板の断裂部を確認してから、側面のポータルを設ける。
【0124】
回旋筋腱板の可動化は、関節内解放から始める。鉤の付いた電気焼灼器を使用して、関節唇から筋束を解放する。これにより、必要に応じ筋束全体(前から後ろまで)の可動化が可能になる。関節内解放を実施してあるので、関節鏡を肩峰下の空間に向ける。
【0125】
関節鏡下で肩峰下の嚢胞切除を実施する。結節(回旋筋腱板付着部領域)を皮質除去する。用途によっては、結節をわずかに皮質除去するのみで、正規のチャネルは設けないことがある。シェーバーを用いて、壊死しているかまたは衰えていると思われる断裂筋束端があれば、壊死組織切除する。筋束断裂部の端に、およそ1cm離して留置用縫合糸を配置する。この留置用縫合糸は、実施例2で上述した様式によって、PDGF組成物で前処理してもよい。必要に応じ、関節窩からの筋束のさらなる解放を実施する。
【0126】
次に、肩峰の外縁の上に設けられている水平な側面切開部(3〜4cm長)で小切開法を開始する。三角筋の線維を分割して、回旋筋腱板の断裂部を露出させる。
【0127】
断裂部が小さくて容易に動かせる場合は、縫合糸は筋束断裂部の端を通して配置し、次に、大結節の上外側面中に配置された縫合糸アンカーを用いて筋束断裂部を修復する。かなりの張力がかかる大規模な断裂部については、筋束を通して特別な腱内縫合糸を配置し、次に、上外側の大結節中に配置された縫合糸アンカーを用いてこれらを修復する。筋束を固定する前に、切開手技について上述したのと同じ様式により、腱と上腕骨骨頭との間にPDGF組成物を配置する。また、腱を固定するために使用する縫合糸は、上述したのと同様の様式により、PDGFで前処理してもよい。縫合糸アンカーは、上述するとともに図1に示したタイプのものであってよい。PDGF組成物は、上述のように、縫合糸アンカー中または縫合糸アンカーの孔の中に注入してよい。公知の閉鎖手法に従い、手術を完了する。
【0128】
関節鏡の助けを借りるこの切開修復は、大規模または広範囲の回旋筋腱板修復を扱う際には限界がある。三角筋を通る小さな分割部を通して実施するには、必要な外科的解放が不可能ではないにしても困難である場合がある。完全な関節鏡下修復と比較すると、この小切開修復は、腱をしっかり支える縫合糸を使用できることから、骨と腱とのより安定な固定化をもたらす。
【0129】
(実施例4)
完全関節鏡下修復法を用いた回旋筋腱板断裂の治療
この手法は、複数の小さな切開部(ポータル)および関節鏡検査技術を用いて、回旋筋腱板を目に見えるようにして修復するものである。また、本発明によれば、この手法は、関節鏡検査手法と併せて使用しやすいように、キーホール切開部またはカニューレを通して挿入できる、注入可能な、またはカプセル入りの小さなPDGF組成物を利用する。
【0130】
一実施形態によれば、本発明の関節鏡下修復法は、以下のステップを含む。患者の整位、評価およびマーキングのための標準的な手法に従って、患者を準備する。1つまたは2つのごく小さな(1cm)切開部、すなわち「ポータル」を、好ましくは、1つは肩関節の前側、もう1つは肩関節の後ろ側に設ける。この小さなポータルを経由して、カニューレと呼ばれる中空の器具を配置するが、この器具により、肩関節の内側を滅菌済の生理食塩水で洗浄して、関節を透明な液体で膨張させる。カニューレによって、肩関節内に関節鏡カメラおよび特別に設計された器具を配置することが可能になる。診断的関節鏡術を実施するために、外科医は、関節中にカメラを挿入し、関節の周辺にカメラを動かす。
【0131】
最も一般的なケースでは、診断的関節鏡術によって、棘上筋腱が、断裂しており、および/または上腕骨の大結節でその正常な付着部からわずかに後退していることが明らかになる。退縮していないか、または退縮が最小限である、こうした比較的小さな断裂部は、清浄化し、または壊死組織切除して安定で健康な腱組織に戻してから、再び結節に移動させて適所に固定するだけでよい。外科医は、断裂部が治癒する間、断裂部を適切な位置に保持するために、縫合糸アンカーを利用する。実施例2に記載の手技で使用されるアンカーと同様に、このアンカーは、金属製または吸収性化合物製のものであってよい。また、付着部位の骨の中にこのアンカーをねじ込むか、または押し付けから、取り付けた縫合糸を使用して回旋筋腱板の端を適所に繋ぐ。腱を固定する前に、保護されたPDGF組成物を腱と上腕骨骨頭との間に配置する。この材料は、骨アンカーの孔の中のほか、皮質除去した上腕骨骨頭の表面全体に配置してもよい。皮質除去による上腕骨骨頭の準備を行わない場合は、PDGF組成物を上腕骨骨頭の皮質骨の反対に配置してから、標準的な様式で腱を適所に縫合する。腱を固定するために使用する縫合糸は、上述したのと同様の様式で、PDGFをしみ込ませてよい。縫合糸アンカーは、上述するとともに図1に示したタイプのものであってよい。注入可能なPDGF組成物は、カニューレの1つを経由して針を挿入することによって、縫合糸アンカー中に注入してよい。
【0132】
断裂部が大きくなると、断裂部は変形し、腱組織は収縮する。したがって、比較的大きな断裂部は、作り直すか、側−側修復するか、または、辺縁収束と呼ばれる手法を用いてファスナーで閉じる必要がある。この手法は、開いた状態のテントの蓋をファスナーで閉じるのに似ている。回旋筋腱板組織を、損なわれ、退縮した位置から解放する。次に、保護されたPDGF組成物を、カニューレの1つを通して挿入するか、または切開部から直接挿入する。保護されたPDGF組成物は本明細書で上述したようなPDGF組成物を含み、この組成物は、手術部位の関節鏡下の液体環境からPDGF組成物を保護するように設計された膜中に封入されるか、または別の形でその膜に結合している(図3)。最初の配置の間、タンパク質を保護し、また手術手技に伴う大量の液体の使用によってその部位から急速に失われることを避けるために、PDGFは、さまざまな手法を用いて治療部位で放出できる。一実施形態では、膜は内因性電荷を示し、これにより、治療部位または再付着部位で変化するイオン条件に応じてPDGFを放出するように機能するイオン相互作用が促進される。別の実施形態では、膜は、PDGFとの間で共有結合性相互作用を形成するが、この相互作用は、再付着部位または治療部位でPDGFを放出するための、加水分解または酵素消化を介した可逆的なものである。PDGF保護用の膜は、いくつかの実施形態では、コラーゲン、多糖類、核酸、炭水化物、タンパク質、ポリペプチド、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(無水物)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物−co−イミド)、ポリ(オルトカーボネート)、ポリ(α−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(リン酸エステル)、ポリ乳酸、ポリ(Lラクチド)(PLLA)、ポリ(D,Lラクチド)(PDLLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド(PLGA)、ポリ(Lラクチド−co−D,Lラクチド)、ポリ(D,Lラクチド−co−炭酸トリメチレン)、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(γ−ブチロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリプロピレンフマレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、カーボンファイバー、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(エチレンオキシド)−co−ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマー、ポリ(エチレンテレフタレート)ポリアミド、ならびにそのコポリマーおよび混合物を含む。加えて、PDGFは、リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、硫酸カルシウム、またはその変化形などのセラミック材料中に封入されていてよい。また、保護された状態でタンパク質を放出できるように、浸透圧ポンプを使用してもよい。
【0133】
次に、保護されたPDGF組成物を断裂部の上に配置してから、断裂部の側−側修復を行うために同じ縫合糸を用いて適所に縫合し、それにより、上腕骨骨頭の先端の上の組織を回復する。次に、第1のPDGF組成物と同様の様式で、第2の保護されたPDGF組成物を挿入する。第2の保護されたPDGF組成物は、上腕骨骨頭と修復された筋束組織との間に配置する。次に、修復した筋束組織を、それが断裂した元の部位に、好ましくは縫合糸アンカーを使用して固定する。次に、縫合糸を第2の保護されたPDGF組成物と筋束の断裂した端とを通して縫合して、修復を完了する。
【0134】
この手技の終わりに、吸収性の、または除去可能な縫合糸を用いて、全ての切開部を閉鎖する。術後初期の期間中に肩を保護するための術後用吊り包帯中に、患者の肩を配置する。
【0135】
吸収性の縫合糸アンカーまたはインプラントは徐々に吸収され、取り付けた縫合糸は治癒組織中に取り込まれる。金属製アンカーを使用する場合は(外科医の好みの問題)、これらは骨中に埋まり、骨または肩関節の完全性には影響しない。
【0136】
(実施例5)
β−TCP/PDGF組成物を用いた回旋筋腱板傷害の治療
この試験は、β−リン酸三カルシウムとI型コラーゲンとを含む生体適合性マトリックスとの組合せでrhPDGF−BB溶液を含む組成物の、回旋筋腱板傷害の治療および/または修復についての有効性を評価した。
【0137】
試験デザイン
本試験では、9頭の雌の成体ヒツジを使用した。この動物のうち6頭に、β−リン酸三カルシウムおよびI型コラーゲンを含む生体適合性マトリックスとの組合せで、0.3mg/ml rhPDGF−BB溶液を含むテスト組成物を投与した。本明細書に示したように、0.3mg/ml rhPDGF−BB溶液は、rhPDGF−BBのストック溶液を20mM酢酸ナトリウム緩衝溶液で希釈することによって調製した。β−TCPは粒状の形態で、この粒子は、平均直径が約75μmから約300μmの範囲の粒子であった。さらに、I型コラーゲンは、生体適合性マトリックスの約20重量%の量で存在した。残り3頭の動物には、β−リン酸三カルシウムおよびI型コラーゲンを含む生体適合性マトリックスとの組合せで20mM酢酸ナトリウム緩衝溶液を含む対照組成物を投与した。
【0138】
試験の一部として、動物にはある期間(2週間)の上腕骨からの腱剥離を施し、これにより、棘下筋腱中で変性的変化を開始させた。変性的変化は、回旋筋腱板傷害において臨床的に観察されたものと類似していた。2週間後、動物に、棘下筋腱を上腕骨に再付着させる腱再付着術を施した。本明細書で示したように、動物のうち6頭には腱再付着部位にテスト組成物を施し、残る3頭の動物には腱再付着部位に対照組成物を施した。全ての動物には、治癒に6週間が与えられた。6週目の時点で、全ての動物をMRIで撮像した。撮像後、全ての動物を人道的に屠殺し、テスト組成物投与動物のうち3頭および対照組成物投与動物3頭について生体力学分析を実施した。
【0139】
手術プロトコール
この試験に臨ませる前に、全ての動物がQ熱陰性であることを確認した。各動物には手技前に24から48時間、食物を与えずにおき、手術の朝は水を取り上げた。各動物は、この試験に臨む前に、総合的な健康評価(行動、活動についての目視観察、および呼吸が容易であること、下痢および鼻汁がないことに従って)を受けた。呼吸器感染症、体温上昇、目に見えて元気がない状態、歩行困難または解剖学的異常があれば、動物個体を手術手技からはずすこととした。手技前7日以内に各動物を計量した。手術の7日以内のCBCおよび化学プロファイル用に血液を採取した。12頭の動物を検査し、全頭が手術のための受入れ可能な候補であることがわかった。
【0140】
麻酔導入前に、マレイン酸アセプロマジン0.075mg/kgおよびブプレノルフィン0.005〜0.01mg/kgを筋肉内投与した。全身麻酔導入のために、ジアゼパム0.22mg/kgとケタミン10mg/kgとから成る静脈内注射を与えた。カフ付き気管内チューブを配置し、再呼吸系を通して酸素中で送達されるイソフルラン0.5〜5%を用いて、全身麻酔を維持した。呼吸を補助するために、各動物は人工呼吸器上に配置した。各動物の耳の末梢静脈中にカテーテルを配置した。逆流が生じた場合は、胃管を配置した。
【0141】
全ての手術手技は、慣例的な無菌的手法を利用して実施した。術前準備は、手術室に隣接する動物準備室内で実施した。各動物の肩およびその周辺の適切な領域を、その領域の毛を刈ることにより準備した。次に、各動物を手術室に移動してから、この領域を、クロルヘキシジンスクラブと70%イソプロピルアルコールとを交互に用いて3回洗浄し、ヨウ素溶液を塗った。次に、無菌手術のために各動物を布で覆った。乳酸加リンゲル溶液(LRS)を、手術中に1時間当り約10〜20ml/kgの比率で静脈内注入した。最初の切開前にセファゾリン1〜2グラムを静脈内投与し、各手術用の洗浄溶液中にはセファゾリン0.5gを入れた。
【0142】
A.腱剥離手術手技
15cmの曲線状切開部を肩関節の後外側面の上に設けた。この切開部を深くし、三角筋の肩峰部分を確認した。この筋をその頭側端で持ち上げ、棘下筋の腱付着部と上腕骨の近位部中へのその付着部とを露出した。棘下筋腱を近位上腕骨上のその付着部から鋭く剥離した。次に、腱をPRECLUDE(登録商標)(W.L.Gore&Associates、Newark、DE)の5cm×3cmのシートで包んだ。これにより、腱への栄養分の拡散は可能にするが、周辺組織への腱の瘢痕化は抑制する。標準的な様式で切開部を閉鎖した。術後7週間は体重の負荷を抑えるために、手術時に直径10cmのソフトボールを肢の蹄に取り付けた。セファゾリン1gを静脈内投与した。100μgフェンタニルパッチを各動物に貼った。
【0143】
B.腱再付着手術手技
最初の手術の2週間後、腱剥離を施した肩を修復するための第2の手技を各動物に実施した。第1の手術でのものと同じ手術法を用いた。
【0144】
全ての動物において、中等度の腱退縮と同時に、PRECLUDEにより保護された領域を除く腱および筋腹への癒着が観察された。このような癒着は切開し、各動物における再付着前に筋を解放した。骨アンカーの挿入のための準備において、出血骨表面を創出して間葉幹細胞が移動するためのアクセスを確保するために、大結節の表面を骨鉗子で皮質除去した。同時に、皮質除去した領域内に、テストまたは対照材料用の貯留部を得るための4mmのドリル孔、およそ深さ10mmを設けた。次に、骨中かつ、ドリル孔のいずれかの脇に自動滴下型の縫合糸アンカー(長さ15mm×幅5mm)を2つねじ込み、およそ12mm離して配置した。アンカーの挿入後、腱の包みをはがして鈍的切開により可動化した。変形Mason−Allen法を用い、ETHIBOND(登録商標)の2番(Johnson and Johnson)の編組ポリエステル縫合糸で腱をしっかりつかんだ。
【0145】
再付着手術の前に、PDGF−BBのストック溶液(1.0mg/mL、総量5mL)(ロット番号AAI−0022006−5A)を1:3の比率で20mM酢酸塩緩衝溶液(pH6.0)中で希釈し、最終濃度約0.3mg/mLとした。希釈したPDGF−BBストック溶液の残った量をUV分光光度法で分析して、表1に示した通りの最終的な溶液濃度を確認した。
【0146】
【表1】

各動物に、20mM酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH6.0)または0.3mg/mL rhPDGF−BB溶液のいずれかで水和したβ−TCP/I型コラーゲンマトリックスおよそ1ccを施した。各動物用に、酢酸塩緩衝溶液の新鮮なストックまたはrhPDGF−BBのストック溶液を開封し、希釈して水和溶液を作製した。本試験における9頭の動物の治療のための組成物の調製において使用した水和溶液A〜Iを表1に示す。さらに表2は、本試験における動物への水和溶液(A〜I)それぞれの割当を示す。
【0147】
【表2】

無菌手法を用いて、滅菌済の皿の中で、β−TCP/I型コラーゲンのブリック1ccをrhPDGF−BB溶液または酢酸塩緩衝溶液3ccで水和した(β−TCP/I型コラーゲン:PDGF溶液の比率は1:3)。水和溶液「I」の場合は、十分な量の酢酸塩緩衝溶液が入手できなかったので、滅菌済の生理食塩水を酢酸塩緩衝溶液の代わりとした。滅菌済のステンレスへらを用いて材料をおよそ1分間、均質の濃度が得られるまで混合した。次に、へらを用い、できるだけ多くのテストまたは対照材料を3cc注射器の外筒に入れてプランジャーを挿入し、量の目盛りをメモした。
【0148】
骨の腱付着痕全体、および、アンカー間に設けたドリル孔内に、3cc注射器を用いてテストまたは対照組成物およそ1ccを施用した。筋および腱が萎縮し退縮しているため、腱を前方にあるその付着痕に再び近付けるには適度な力が必要であった。次に、出血骨およびテスト組成物の層上にあるアンカーに、腱を外れないように繋いだ。全ての動物について、腱を適所中に縫合する過程によって、腱に隣接する空間中におよそ300μLのテストまたは対照組成物が排出される結果となった。次に、標準的な様式で傷口を閉鎖し、各動物に貼った100μgフェンタニル皮膚パッチと併せて、セファゾリン1gを静脈内投与した。
【0149】
C.術後ケア
動物を術前/術後用の部屋に戻し、そこで術後のモニタリングを続けた。この環境中で、心血管/呼吸の機能低下、低体温、および手術部位からの過剰出血などの生理学的障害について、麻酔回復期の間、動物をモニターした。必要に応じ、補助熱を供給した。動物が嚥下反射を回復し、自分で呼吸するようになった後、気管内および胃管を除去した。セファゾリン1グラムおよびブプレノルフィン0.005〜0.01mg/kgを、術後に1度、その日の最後の治療として筋肉内投与した。必要と思われる場合は、担当獣医が、追加の鎮痛剤を与えた。長期間の術後モニタリングには、手術部位の点検、ならびに正常な生理機能および行動への復帰が含まれた。各動物は、抗生物質の筋肉内注射を1日1回、3日間受けた(Naxcel)。少なくとも5日間は毎日、各動物をモニターし、痛みについて数値で記録した。Assessment of Pain in Sheep and Goats after Orthopedic Surgeryにより、痛みを評価した。1〜3日目には、各動物について、体温、脈拍および呼吸を記録した。全身の健康評価を少なくとも14日間、毎日実施した。それ以降は、動物の健康をモニターし、健康状態の変化に注意した。両方の手術について、同じ術前術後の手技に従った。ソフトボール/ギプスは、1回目の手術の4週間後の時点で、試験の継続期間中に1回交換した。最初の手術の7週間後(2回目の手術の5週間後)、手術した肢からソフトボールを取り除き、動物は脚を完全に動かせるようになった。
【0150】
磁気共鳴撮像
最終手技の前に、GE Healthcare Signa Hdx 1.5T MR撮像システムを用いて、全ての動物の手術した肩を撮像した。軸位断および冠状断の両方向において、最初にT1強調プロトコール、2回目はT2脂肪抑制プロトコールを用いて動物を走査した。表3は、各動物についての撮像方向およびプロトコールを示すものである。
【0151】
【表3】

治療群の情報を与えられていない2名の公認放射線科医による独立分析で確認されるように、β−TCP/I型コラーゲンマトリックスとの組合せでrhPDGF−BB溶液を含むテスト組成物で治療した動物は、対照組成物で治療した動物と比較すると、棘下筋腱のすぐれた治癒を示した。
【0152】
撮像後、ペントバルビタール(Euthansol B)100〜200mg/kgのボーラス注射により、全ての動物を人道的に安楽死させた。生体力学的および組織学的分析のために、安楽死させた各動物について剖検および組織採取を実施した。
【0153】
生体力学的試験
屠殺後、生体力学的試験のために、全ての動物の治療した肩および反対側の肩を解体した。解体した全ての肩は、まず、生理食塩水に浸漬したガーゼで包み、1つずつ区別できるようにした個別のプラスチック袋に入れて、試験時まで−80℃に冷凍した。試験中、反対側の肩は、動物対動物のばらつきを正規化するために使用した。Instron of Norwood、Massachusetts製の生体力学的試験装置、モデル番号150kNを用いて試験を実施し、解放した腱をこの装置中のクライオクランプに取り付けた。上腕骨骨頭は、髄内ボルトを用いて、U字型金具の配列中に上腕骨骨頭を通して取り付けた。次に、腱と上腕骨とが完全に分離するまで、4mm/秒の速度で腱と上腕骨とを引き離した。その力を0.02秒刻みで記録した。失敗様式も記録した。表4は、本試験における各動物についての生体力学的試験の結果をまとめたものである。
【0154】
【表4】

対照組成物で治療した肩とテスト組成物で治療した肩とを比較するための、上記データに対するt検定を行うことにより、rhPDGF−BBを含むテスト組成物で治療した動物間で、失敗に至る負荷が統計的に有意に(p=0.028)増加することが観察された。表5は、統計分析のまとめを示すものである。
【0155】
【表5】

テスト組成物で治療した肩において失敗に至る負荷が増加していることは、PDGFを含むテスト組成物が、対照組成物と比較して、骨へのより強い腱再付着をもたらすことを示した。
【0156】
また、テスト組成物で治療した全ての腱は、骨上での裂離による、腱付着部での失敗を呈し、一方、対照組成物で治療した腱は、断裂および剥離により、腱の中間質において失敗が生じた。失敗様式におけるこの差は、rhPDGF−BBを施用すると、対照群では生じない引張強度と腱の成熟とが増し、その結果、付着部位からの裂離となることを示唆している。
【0157】
(実施例6)
β−リン酸三カルシウム/PDGF組成物を用いた回旋筋腱板傷害の治療
この試験は、生体適合性のウシのI型コラーゲンマトリックスとの組合せでrhPDGF−BB溶液を含む組成物の、回旋筋腱板傷害の治療および/または修復についての有効性を評価した。
【0158】
実験デザイン
本試験のための適切な動物モデルとして、ヒツジを選択した。ヒツジの回旋筋腱板で測定された生体力学的な力は、ヒトの肩で生じる力に近い。この試験で使用する動物およびプロトコールは、回旋筋腱板修復を評価するための現在の標準的な基準である。
【0159】
合計40頭の動物を試験した。全ての動物は雌で、骨端が閉じていることを確実にするための単純なフィルム式のX線撮影によって確認されたように、骨格は成熟していた。以下の表6に示す通り、40頭の動物を5つの治療群に分けた。治療群に全ての動物を無作為に割り当てた。
【0160】
【表6】

全ての群の動物に、2つの手技を施した。第1の手技は、棘下筋の切除および回旋筋腱板の腱の切断であった。第2の手技は、腱剥離手術から2週間後に、上腕骨上の腱付着部で、骨に腱を修復するために行われた。回旋筋腱板の腱の再付着は、本明細書で示した骨アンカーを用いて行った。
【0161】
第1群には、腱の再付着のための骨アンカーおよび縫合糸のみを施した。第2群には、骨アンカーおよび縫合糸に加え、酢酸ナトリウム緩衝溶液(20mM酢酸ナトリウム、pH6.0)で水和したI型コラーゲンマトリックスを施し、水和したコラーゲンマトリックスは腱再付着部位に配置した。さらに、第3、4および5群には、骨アンカーおよび縫合糸に加え、rhPDGF−BB溶液(それぞれ0.3mg/mL、1.0mg/mL、および3.0mg/mL)で水和したI型コラーゲンマトリックスを施し、水和したコラーゲンマトリックスは腱再付着部位に配置した。水和のうえ第2〜5群の動物に施用したコラーゲンマトリックスは、Exton、PAのKensey Nash Corporationから入手したが、これはBIOBLANKET(登録商標)の商品名で市販されている。
【0162】
手術プロトコール
この試験に臨ませる前に、全ての動物がQ熱陰性であることを確認した。各動物には手技前に24から48時間、食物を与えずにおき、手術の朝は水を取り上げた。各動物は、この試験に臨む前に、総合的な健康評価(行動、活動についての目視観察、および呼吸が容易であること、下痢および鼻汁がないことに従って)を受けた。呼吸器感染症、体温上昇、目に見えて元気がない状態、歩行困難または解剖学的異常があれば、動物個体を手術手技からはずすこととした。手技前7日以内に各動物を計量した。手術の7日以内のCBCおよび化学プロファイルのために血液を採取した。
【0163】
麻酔導入の前に、マレイン酸アセプロマジン0.05mg/kgおよびブプレノルフィン0.005〜0.01mg/kgを筋肉内投与した。全身麻酔の誘導のために、ジアゼパム0.22mg/kgとケタミン10mg/kgとから成る静脈内注射を与えた。カフ付き気管内チューブを配置し、再呼吸系を通して酸素中で送達されるイソフルラン0.5〜5%を用いて、全身麻酔を維持した。呼吸を補助するために、各動物は人工呼吸器上に配置した。各動物の耳の末梢静脈中にカテーテルを配置した。逆流が生じた場合は、胃管を配置した。
【0164】
全ての手術手技は、慣例的な無菌的手法を利用して実施した。術前準備は、手術室に隣接する動物準備室内で実施した。各動物の肩およびその周辺の適切な領域を、その領域の毛を刈ることにより準備した。次に、各動物を手術室に移動してから、この領域を、クロルヘキシジンスクラブと70%イソプロピルアルコールとを交互に用いて3回洗浄し、ヨウ素溶液を塗った。次に、無菌手術のために各動物を布で覆った。乳酸加リンゲル溶液(LRS)を、手術中に1時間当りおよそ10〜20ml/kgの比率で静脈内注入した。最初の切開前にセファゾリン1〜2gを静脈内投与し、全手術用の洗浄溶液中にはセファゾリン0.5gを入れた。
【0165】
A.腱剥離手術手技
15cmの曲線状切開部を肩関節の後外側面の上に設けた。この切開部を深くし、三角筋の肩峰部分を確認した。この筋をその頭側端で持ち上げ、棘下筋の腱付着部と上腕骨の近位部中へのその付着部とを露出した。棘下筋腱を近位上腕骨上のその付着部から鋭く剥離した。次に、腱をPRECLUDE(登録商標)のシートで包んだ。これにより、腱への栄養分の拡散は可能にするが、周辺組織への腱の瘢痕化は抑制した。標準的な様式で切開部を閉鎖した。術後7週間は体重の負荷を抑えるために、手術時に直径10cmのソフトボールを肢の蹄に取り付けた。セファゾリン1gを静脈内投与した。100μgフェンタニルパッチを動物に貼った。
【0166】
B.腱再付着手術手技
腱剥離手術の2週間後、手術のために動物の毛を刈り、準備した。上述のように、各動物に全身麻酔を施した。以前に記載の要領で、肩にアプローチした。アンカー挿入前に、結節の表面を骨鉗子で粗くして、出血骨表面を創出した。典型的には長さ6mm×幅2〜3mmの金属製の縫合糸アンカー2つを使用した(Smith and Nephew Endoscopy of Andover、Massachusettsから市販されている)。各アンカーを、付着痕の境界内に、上腕骨表面が赤くなるまでねじ込んだ。両方のアンカーの中心をおよそ1cm離して配置した。腱の包みをはがして鈍的切開により可動化した。酢酸塩緩衝溶液またはrhPDGF−BB溶液で水和したI型コラーゲンパッチを施されている動物については、アンカーを通して輪にしたETHIBOND(登録商標)2番の編組ポリエステル縫合糸(Johnson and Johnson)を、まずコラーゲンパッチを通し、腱を通し、変形Mason−Allen結びで結んでから、腱の付着痕の上に引っ張った。外れないように腱をアンカーに繋ぎ、標準的な様式で傷口を閉鎖した。図4は、腱再付着部位でのコラーゲンパッチの配置を示している。
【0167】
埋込み前に操作および配置を容易にするために、滅菌済の定規とメスとを用いて各コラーゲンパッチを半分に切断し、1cmのコラーゲンパッチを2枚作製した。切断の後、かつ埋込み前に、酢酸塩緩衝溶液またはrhPDGF−BB溶液150μLを5分間施用することにより、1cmのコラーゲンパッチをそれぞれ完全に飽和するまで水和させた。本明細書に示したように、I型コラーゲンパッチを施された全ての動物は、持針器を用いて各アンカーから1cmのパッチをそれぞれ通して縫合されており、皮質除去した付着痕一面にパッチが配置されるまで、縫合糸に沿ってパッチを押し付けた。
【0168】
続いて各動物の組織層を閉鎖し、皮膚切開部の端を再度並べ、縫合し、ステープル止めした。各動物には、痛みを最小化するために、術後鎮痛剤を投与した。この術後期間中は、手術した肢は、蹄下にソフトボールが配置されており、これにより5週間動きが制限された。再付着手技の5週間後、全ての動物をMRIにより撮像し、その走査像を放射線科医が評価する。MRI時に、ソフトボールおよびギプスを除去した。次の週、再付着の6週間後に、全ての動物を人道的に屠殺し、生体力学的試験のために回旋筋腱板および付着した棘下筋腱を採取した。
【0169】
In Vivoでの観察および測定
臨床観察
最終手技に至るまで、動物を毎日観察した。術後最初の14日間、総合的な行動、食欲、尿/糞便の排出、手術部位の外観および呼吸ストレスについて動物を観察した。術後最初の3日間、体温、脈拍および心拍数を記録した。術後最低7日間、Assessment of Pain in Sheep and Goatsの評価フォームによって痛みを評価した。手術部位で感染症が発症し観察において認められた場合には、動物に抗生物質を投与した。各手術手技前および最終手技前に体重を記録した。食物の消費は定性的であった。動物を毎日モニターし、食欲の程度を記録する。
【0170】
MRI撮像
試験のスポンサーの指示で、MRI走査像は各動物のものを撮像した。各動物を鎮静させてから、手術した肩を下ろして側臥位に配置した。各動物を台に拘束し、モニターし、およそ20分間走査した。MRIシーケンスプロトコールを表7に示す。走査後、各動物の意識を回復させた。盲検化レビューのために、走査像を指定放射線科医に送る。
【0171】
【表7】

剖検
腱剥離手術の8週間後、組織採取のために全ての動物を人道的に屠殺した。上腕骨と、上腕骨の骨幹およそ4インチとを、付着した棘下筋腱および筋腱間の接合部の遠位にある筋およそ2インチと併せて採取した。全ての組織を、生理食塩水に浸漬したガーゼで素早く包み、ラベルを付けた密封プラスチック袋で二重に包んでから、生体力学的試験のために解凍するまで−20℃に冷凍した。
【0172】
生体力学的試験
生体力学的試験は、Rhode Island Hospital Orthopedic Foundation,Inc.により実施された。生体力学的試験中、動物対動物のばらつきを正規化するために、動物の反対側の肩を使用した。Instron of Norwood、Massachusetts製の生体力学的試験装置、モデル番号150kNを用いて試験を実施し、解放した腱をこの装置中のクライオクランプに取り付けた。上腕骨骨頭は、髄内ボルトを用いて、U字型金具の配列中に上腕骨骨頭を通して取り付けた。次に、腱と上腕骨とが完全に分離するまで、4mm/秒の速度で腱と上腕骨とを引き離した。その力を0.02秒刻みで記録した。失敗様式も記録した。
【0173】
rhPDGF−BB溶液で飽和したI型コラーゲンパッチで治療した肩は、肩からの腱分離の最大力が増加することを示した。表8は、再付着した腱を肩から分離するのに必要な力を、正常な反対側の腱をその付着部から上腕骨中へ分離するのに必要な力に対する比率(%)としてまとめたものである。
【0174】
【表8】

表8に示すように、腱分離に至る力は、rhPDGF−BB溶液で飽和させたI型コラーゲンパッチで治療した肩のほうが大きく、縫合糸のみと比較した場合、骨への腱のより強い再付着を示している。
【0175】
上に引用した全ての特許、刊行物および要約は、参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。上述のものは本発明の好ましい実施形態にのみ関し、その中では以下の特許請求の範囲で定義した本発明の精神および範囲から逸脱することなく多数の改変形または変化形が作成されうることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDGF溶液と生体適合性マトリックスとを含み、前記溶液が生体適合性マトリックス中に配置されている組成物の、腱を骨に付着させ、骨への腱の付着を強化し、または腱を治療するための使用。
【請求項2】
PDGF溶液と生体適合性マトリックスとを含み、前記溶液が前記生体適合性マトリックス中に配置されている組成物の、腱を骨に付着させ、骨への腱の付着を強化し、または腱を治療するために有用な薬剤の調製における使用。
【請求項3】
前記骨が上腕骨である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
PDGFが約0.01mg/mlから約10.0mg/mlの範囲の濃度で前記溶液中に存在する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
前記生体適合性マトリックスが足場材料を含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項6】
前記足場材料がβ−リン酸三カルシウムの粒子を含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記足場材料が多孔質のコラーゲンパッチを含む、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
前記生体適合性マトリックスが生体適合性結合剤をさらに含む、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
前記生体適合性結合剤が、タンパク質、多糖類、核酸、炭水化物もしくは合成ポリマー、またはそれらの混合物を含む、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記生体適合性結合剤がコラーゲンである、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記PDGFが、PDGF−AA、PDGF−BB、PDGF−AB、PDGF−CC、PDGF−DD、またはそれらの混合物である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項12】
腱を骨に付着させる方法であって、
生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、
前記骨上の少なくとも1箇所の腱再付着部位に前記組成物を施用することと
を含む方法。
【請求項13】
回旋筋腱板断裂を治療する方法であって、
生体適合性マトリックス中に配置されたPDGF溶液を含む組成物を供給することと、
上腕骨骨頭上の少なくとも1箇所の腱再付着部位に前記組成物を施用することと
を含む方法。
【請求項14】
前記少なくとも1箇所の腱付着部位が、前記上腕骨骨頭の皮質骨中のチャネルを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記チャネルが、腱付着痕に相当する大きさおよび形状を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの骨アンカーを前記上腕骨骨頭中に配置することと、少なくとも1つの剥離した腱を前記骨アンカーに連結することとをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの骨アンカーが、前記生体適合性マトリックス中に配置された前記PDGF溶液を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの腱を、少なくとも1本の縫合糸により前記少なくとも1つの骨アンカーに連結する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記上腕骨骨頭中に少なくとも1つの骨アンカーを配置することが、前記上腕骨骨頭中に少なくとも1つの孔をあけることを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物を前記腱再付着部位の輪郭に成形することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物を施用することが、前記腱再付着部位に前記組成物を注入することを含む、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−542681(P2009−542681A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518331(P2009−518331)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/015345
【国際公開番号】WO2008/005427
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(507124966)バイオミメティック セラピューティクス, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】