説明

回路シミュレーション方法、回路シミュレーション装置、および回路シミュレーションプログラム

【課題】アナログ回路を数値演算によるシミュレーションで解析する場合において、時間的に回路構成が変化しそれぞれ異なる状態変数方程式を解く必要がある際に、1つの状態変数方程式により時間の経過とともに解析を行うと共に、クロックの1周期内の変化である過渡応答やAC解析を高速で忠実に行う。
【解決手段】回路モデルに関する複数の状態変数方程式について、各期間における各状態変数方程式の時間変化を表すスイッチ変数を各期間の状態変数方程式に乗じ、スイッチ変数を乗じた各期間の状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路を数値計算によってシミュレーションし、回路の過渡応答や開ループの周波数特性を計算する回路シミュレーション方法、回路シミュレーション装置、およびコンピュータに回路シミュレーションを実行させる回路シミュレーションプログラムに関し、例えば、昇圧型DC−DCコンバータやチャージポンプに代表されるスイッチング電源の過渡応答や開ループの周波数特性の数値計算によるシミュレーションに適用することができるものである。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源等、アナログ回路の計算機を利用した解析手法として、回路中の電流の流れに応じた動作モードの変化ごとに状態変数方程式を切り替え、時刻ごとの回路の動作状態を数値計算する回路解析が知られている。
【0003】
また、回路の大局的な動作を時間領域で解析する手法として、包絡追跡法や状態平均化法が知られている。包絡追跡法は、高周波でスイッチングする回路の各部の周期的な動作波形がその前後の周期の波形と類似することを利用し、選択した周期の動作波形のみを解析し、選択しなかった残りに周期の動作波形を包絡的に構成する方法であり、状態平均化法は、解析対象回路について全ての動作モードを求め、各動作モード状態にある時間の割合に応じて入力や動作波形を平均的に取り扱う方法である。
【0004】
また、一つの周波数の正弦波入力に対する解析対象回路の応答を定式化し、全ての周波数に対する応答波形を合成して定常応答波形を求める周波数領域の回路解析方法も知られている(特許文献1)。
【0005】
また、アナログ回路をシミュレートするプログラムとしてSPICE(登録商標)と呼ばれる回路シミュレーションプログラムが知られ、数値演算プログラムとしてMATLAB(登録商標)と呼ばれるプログラムが知られている。
【0006】
周波数領域の回路解析では、解析対象回路を数式あるいは伝達関数で表し、解析対象回路全体の周波数特性や安定性などの評価を行う。一方、回路の過渡解析では、回路中のインダクタ素子Lに流れる電流や容量素子Cの両端の電圧を状態変数とする1次微分方程式によって状態変数方程式を形成し、この微分方程式を時間領域で積分演算することにより、電流や電圧の時間変化を求め、これによって過渡応答などの解析を行う。
【0007】
ただし、解析対象回路の回路動作にスイッチング動作が含まれる場合には、スイッチング動作によって回路構成が変化する場合がある。
【0008】
図9(a)はMOSトランジスタをスイッチ素子として使用したディクソン型チャージポンプのスイッチング電源の回路構成例を示している。このスイッチング電源のスイッチング動作は、例えば、図9(b),(c)に示すように、クロック信号の1周期間内に2つの異なる回路構成が形成される。このような場合には、状態変数方程式を用いて回路解析を行うには、異なる回路構成に対してそれぞれ異なる第1番目の状態変数方程式と第2番目の状態変数方程式を形成し、1周期間内に順に第1番目と第2番目の状態変数方程式を解いて行かなければならない。
【0009】
この際、第1番目の状態変数方程式を時間領域で積分してインダクタ素子Lに流れる電流や容量素子Cの両端の電圧の最終値を取得し、次に、第1番目の状態変数方程式で得られた最終値を第2番目の状態変数方程式の初期値として受け渡し、第2番目の状態変数方程式を時間領域で積分する演算を行う。さらに、第2番目の状態変数方程式で得られた最終値を第1番目の状態変数方程式の初期値として受け渡し、第1番目の状態変数方程式を時間領域で積分する演算を行うといった、前回の演算処理で得られた最終値を次回の演算処理の初期値として受け渡すという処理を繰り返して行う。
【0010】
図20,21は従来の状態変数方程式を用いた回路解析の手順および構成の一例を説明するためのフローチャートおよびブロック図である。
【0011】
解析対象回路について(S101)、スイッチング動作による回路構成の時間変化を解析し、一周期内の各期間における回路モデルを形成し(S102)、求めた回路モデルについて、インダクタ素子や容量素子等のエネルギー蓄積素子部を状態変数として状態変数方程式を形成する(S103)。
【0012】
各期間の状態変数方程式を微分方程式の積分演算による数値演算を順次解くことで回路解析を行う。数値演算は、汎用のシミュレーションプログラムを用いることができる。以下では、一周期内の期間として第1の期間と第2の期間の2期間について示しているが、2期間以上の複数期間についても同様とすることができる。
【0013】
はじめに、第1の期間の状態変数方程式について解き(S104)、第1の期間のシミュレーション結果を第2の期間の状態変数方程式の初期値として受け渡す(S105)。次に、第2の期間の状態変数方程式を解き(S106)、さらにこの第2の期間のシミュレーション結果を第1の期間の状態変数方程式の初期値として受け渡す(S107)。S104〜S107の各工程を、シミュレーションの処理を終了するまで繰り返す(S108)。得られたシミュレーション結果を表示する(S109)。
【0014】
図21に示すブロック図において、シミュレーション装置は、解析対象回路の回路モデルから状態変数方程式を形成する状態変数方程式形成手段110と、状態変数方程式を汎用シミュレーションプログラム121により数値演算により解く数値演算手段120と、数値演算手段で得られた演算結果を表示する表示手段130を備える。
【0015】
しかしながら、状態変数方程式を使う解析手法では、前回の演算で得られた状態変数の値を自動的に次の演算の初期値として受け渡すことは難しいため、例えば、前回の演算で得られた状態変数の値をメモリに記憶し、次回の演算時にメモリから状態変数値を初期値として読み出すといった処理を行う必要がある。
【0016】
これに対して、伝達関数を用いる解析手法では、ラプラス変換を用いる演算であるため、インダクタ素子の電流や容量素子の両端電圧の初期値の入力は演算処理上では可能ではある。しかしながら、汎用プログラムでは、異なる回路間において初期値を受け渡しながら回路を切り替えてシミュレーションを行うことはできない。そのため、汎用プログラムは回路解析には適していない。また、シミュレーションプログラムに、このような初期値の受け渡しと回路の切り替えを行う機能を付加することで対応する場合には、解析対象回路ごとに個別にシミュレーションプログラムを作成しなければならず、シミュレーションプログラムの作成時間や作業量の点から見て現実的ではない。
【0017】
したがって、時間的に回路構成が変化しそれぞれ異なる状態変数方程式を解く必要がある際に、1つの状態変数方程式により時間の経過とともに解析を行ってシミュレーションを行うことが望まれる。
【0018】
アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路を数値計算によってシミュレーションする場合には、前記したように初期値の受け渡しや回路切り替えに要する演算処理の都合から、1つの状態変数方程式で複数の回路構成に対応することが難しいという問題がある。
【0019】
このような問題を解決するため、前記した状態平均化法として、非特許文献1や非特許文献2が提案されている。非特許文献1は降圧型、昇圧型および昇降圧型の各DC−DCコンバータに対して適用されている。非特許文献2には降圧型DC−DCコンバータへの適用が示されている
【0020】
また、電子回路解析において、電源回路の回路モデルと信号回路の回路モデルとを組み合わせて電源と信号の解析を同時に行うことを目的として、結合回路によって両回路モデルに接続できる形式に変換し、電源回路モデルと信号回路モデルとを結合した結合モデルを形成することが特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第3943163(段落[0002])
【特許文献2】特開2009−211333号公報(段落[0013],段落[0018]等)
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】論文名:“Modeling of current-programmed converters with inductor current sensing”雑誌名、頁、年: Proceedings of the 2000 IEEE International Conference on Control Applications, TM4-1, pp.548-553, September 2000.著者名:Jesus L. Ramos, Jorge A. M. Saldana
【非特許文献2】論文名:“Frequency Response Analysis for DC-DC Converters Without Small Signal Linearization”雑誌名、頁、年: Proceedings of IEEE Applied Power Electronics Conference, pp.1008-1013, 2003.著者名:Jason H. Ly, Kasemsan Siri
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
非特許文献1で用いられている状態平均化法の概略について、図9(b),(c)を用いて説明する。
【0024】
図9(b),(c)に示すように、ディクソン型チャージポンプのスイッチング電源回路の出力部ではダイオード接続のトランジスタのオン・オフにより回路構成が異なる。ここでクロックの1周期に同期した期間中にトランジスタがオン状態となる期間と、クロックの1周期の期間との比をデューテイD(0≦D≦1)で表したとき、2つの回路状態について、オン期間に対応した第1の回路の状態変数方程式に対してはDの係数を掛け合わせ、オフ期間に対応した第2の回路の状態変数方程式に対しては(1−D)の係数を掛け合わせている。
【0025】
この非特許文献1の手法によれば、状態変数であるインダクタLの電流も容量Cの両端電圧も共にクロックの1周期内で平均化される。したがって、状態平均化法は1周期中の変化が無く、状態変数の応答周波数がクロック周波数に比して低い場合において、AC特性を把握するには有効である。なお、AC特性は、開ループ利得やその位相の周波数特性である。
【0026】
しかしながら、非線形の抵抗(例えばダイオードのオン抵抗)は、その抵抗が流れる電流に依存するため、オン期間に影響を与え、オン期間の動作点やAC特性に影響を及ぼす。そのため、この影響を考慮できない場合にはクロックの1周期内の変化である過渡応答を忠実に解析することが困難である。
【0027】
また、非特許文献2に示される降圧型DC−DCコンバータへの適用例では、インダクタ素子Lおよび容量素子Cの接続状態は常に変わらず、スイッチ素子のトランジスタのオン・オフにより、インダクタ素子Lおよび容量素子Cに入力される入力信号(これは状態変数方程式の入力信号となる)が変化し、各入力信号に応じた状態が平均化されたものが示される。したがって、非特許文献2によるAC解析は、入力信号を平均化して入力信号自体を小信号としているに過ぎない。
【0028】
非特許文献2においても、スイッチ素子のトランジスタのオン抵抗の影響は考慮されておらず、非特許文献1と同様に、クロックの1周期内の変化である過渡応答を忠実に解析することが困難である。また、非特許文献2では、適用範囲は降圧型に限られ、昇圧型や昇降圧型あるいはチャージポンプなどの他の電源回路や電子回路に適用することができないという問題もある。
【0029】
したがって、状態平均化法によるAC解析は、入力信号として小信号を仮定し、回路の応答周波数がクロック周波数に対して低い場合に適用される手法であり、クロック周期内の非線形素子による動作や影響を考慮するものではないため、負荷変動や電源立ち上げ時の大きな過渡応答などを解析するには不適である。
【0030】
そこで、本発明は上述した課題を解決して、アナログ回路の数値演算によるシミュレーションによる解析において、時間的に回路構成が変化しそれぞれ異なる状態変数方程式を解く必要がある際に、1つの状態変数方程式により時間の経過とともに解析を行うと共に、クロックの1周期内の変化である過渡応答やAC解析を高速で忠実に行うことを目的とする。
【0031】
AC解析は、少なくともナイキスト周波数(クロック周波数の1/2の周波数)まで正確に解析することができることを目的とする。
【0032】
また、例えば、降圧型、昇圧型や昇降圧型あるいはチャージポンプといった回路構成に依存することなく、任意の回路構成について適用できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明は、回路シミュレーション方法、回路シミュレーション装置、および回路シミュレーションプログラムの各態様とすることができる。
【0034】
本発明が解析対象とする解析対象回路は、スイッチング動作の一周期内において時間変化により複数の回路モデルに分離する回路である。
【0035】
本発明の回路シミュレーション方法の態様は、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする回路シミュレーション方法であり、時間変化の各期間における回路モデルについて、この回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、この回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、各状態変数の状態変数方程式について、各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を各期間の各状態変数方程式に乗じ、スイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程と、第2の形成工程で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、この数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算工程とを備える。これらの第1の形成工程、第2の形成工程、および数値演算工程の各工程をコンピュータで実行するものであり、コンピュータ資源であるCPU、メモリ、制御プログラムにより数値演算を行う。
【0036】
本発明の回路シミュレーション装置の態様は、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする回路シミュレーション装置であり、時間変化の各期間における回路モデルについて、この回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびこれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、この回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成し、各状態変数の状態変数方程式について、各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を各期間の各状態変数方程式に乗じ、各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する状態変数方程式形成手段と、状態変数方程式形成手段で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算手段とを備える。
【0037】
本発明の回路シミュレーション装置の状態変数方程式形成手段および数値演算手段は、コンピュータ資源であるCPU、メモリ、制御プログラムにより構成し、コンピュータに数値演算を実行させることで行うことができる。
【0038】
本発明の回路シミュレーションプログラムの態様は、コンピュータに、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作をシミュレートする回路シミュレーションプログラムである。回路シミュレーションプログラムは、コンピュータに、時間変化の各期間における回路モデルについて、この回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、この回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、第1の形成工程で形成した各状態変数の状態変数方程式について、各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を各期間の各状態変数方程式に乗じ、各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程と、第1の形成工程で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、この数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算の工程を実行させる。
【0039】
コンピュータ資源であるCPU、メモリ、制御プログラムにより構成される演算処理装置において、CPUは回路シミュレーションプログラムに基づいて第1の形成工程、第2の形成工程、および数値演算工程の各工程を実行し、数値演算によるシミュレーションを行う。
【0040】
本発明の各態様において、エネルギー蓄積素子部はインダクタ素子又は容量素子であり、状態変数は、インダクタ素子に流れる電流および/又は容量素子の両端電圧である。
【0041】
また、各第1のスイッチ変数は1と0との間の値を採る時間関数であり、解析対象回路に含まれるスイッチ素子および/又は整流ダイオードのオン/オフの時間変化に応じて変化する値である。
【0042】
本発明の状態変数方程式の形成工程および形成手段において、解析対象回路はクロック信号によりオン・オフが交互に切り替えられ直列接続される複数のスイッチ素子を備え、第2の形成工程において、クロック信号の切り替わり時に複数のスイッチ素子が同時にオンとなる際にこれらのスイッチ素子を通して流れる漏れ電流を、クロック信号の切り替わり時にのみに値を持つ電流源として状態変数方程式の入力信号に加える。状態変数方程式に漏れ電流を表す入力信号を組み込むことによって、漏れ電流を含むシミュレーションを行うことができる。
【0043】
本発明が解析対象とする解析対象回路は、特定のエネルギー蓄積素子の一端にバイアス電圧を与えることによりスイッチ素子および/又は整流ダイオードをスイッチング動作させて特定のエネルギー蓄積素子を含むエネルギー蓄積素子部に対するエネルギーの入出力動作を行うスイッチング電源回路とすることができる。特定のエネルギー蓄積素子の一端に与えるバイアス電圧は、一周期内のクロック信号によってスイッチング動作し、各スイッチ変数は、スイッチ素子又は整流ダイオードのスイッチング動作の時間変化に応じて1と0との間の値を採る。
【0044】
本発明の各態様は、時間的に回路構成が変化しそれぞれ異なる状態変数方程式を解く必要がある際に、1つの状態変数方程式により時間の経過とともに解析を行うと共に、数値演算によるシミュレーションの周波数を一周期のクロック周波数で定まるナイキスト周波数以下とすることによって、クロックの1周期内で変化がある場合においても過渡応答やAC解析を高速で解析する。
【0045】
また、各期間における各状態変数方程式から一つの状態変数方程式を形成する際に、各期間における各状態変数方程式の各時間変化を表す各第1のスイッチ変数を用いることで、単なる状態変数の平均ではなく、時間変化の応答についてのシミュレーションとすることができ、クロックの1周期内で変化がある場合においても過渡応答やAC解析を正確に解析することができる。
【0046】
従来の状態平均化法では、2つの回路状態について、オン期間に対応した第1の回路の状態変数方程式に対してはオン状態となる期間のデューテイDの係数を掛け合わせ、オフ期間に対応した第2の回路の状態変数方程式に対しては(1−D)の係数を掛け合わせている。この状態平均化法を回路構成が時間変化する場合に適用した場合には、第1の状態変数方程式および第2の状態変数方程式の一周期内での演算結果をデューテイDの係数で重み付けして平均化するものである。
【0047】
これに対して、本発明によれば、各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を用いることによって、実際の時間変化に伴う回路動作のシミュレーションを行うことができる。
【0048】
また、各第1のスイッチ変数を時間関数とし、時間変化に伴って1と0との間の値を採ることによって、各期間の切り替わり時における各状態変数の変化を正確に求めることができる。例えば、対象回路の各回路構成が矩形信号の1と0の出力に対応して切り替わる場合には、矩形信号の立ち上がりや立ち下がりに応じてスイッチ変数の値を時間変化させることによって、状態変数方程式の切り替わりを実際の回路状態により正確にシミュレートさせることができる。
【0049】
また、本発明の回路シミュレーションの方法の態様、装置の態様、およびプログラムの態様の各態様において、解析対象回路は整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、第1の形成工程において、ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数を乗じ、状態変数方程式中のダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と同じ電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、状態変数方程式中のダイオード素子を表す部分にダイオード素子部の順方向と逆の電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とする。
【0050】
この第2のスイッチ変数を導入し、状態変数方程式中のダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の電流が流れるような状態の時には第2のスイッチ変数を0とすることによって、ダイオード素子部に係る状態変数方程式を式上で削除し、ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーション動作を防ぐことができる。
【0051】
また、本発明によれば、降圧型DC−DCコンバータ、昇圧形DC−DCコンバータ、昇降圧型DC−DCコンバータおよびチャージポンプを含む任意の回路構成について統一的なモデリングを実現することができる。
【0052】
また、降圧型DC−DCコンバータ、昇圧形DC−DCコンバータ、昇降圧型DC−DCコンバータおよびチャージポンプの過渡解析および周波数特性を、SPICEを用いたアナログ的なシミュレーションプログラムを用いた解析と比較して短時間で同等の精度でシミュレーションを行うことができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の数値演算によるシミュレーションによる解析において、時間的に回路構成が変化しそれぞれ異なる状態変数方程式を解く必要がある際に、1つの状態変数方程式により時間の経過とともに解析を行うと共に、クロックの1周期内で変化がある場合においても過渡応答やAC解析を高速で忠実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の回路シミュレーション方法の手順を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明による回路シミュレーション処理の例を説明するための概略図である。
【図3】本発明による回路シミュレーション処理の例を説明するための概略図である。
【図4】本発明による回路シミュレーション処理の例を説明するための概略図である。
【図5】本発明による回路シミュレーション処理の例を説明するための概略図である。
【図6】本発明の第1のスイッチ変数uによるスイッチング信号の例を説明するための図である。
【図7】本発明の逆方向電流のシミュレーションを防ぐ第2のスイッチ変数uを説明するための図である。
【図8】本発明の回路シミュレーション装置の一構成例を説明するための概略ブロック図である。
【図9】MOSトランジスタを使ったディクソン型チャージポンプの回路構成と2つの異なる状態をモデル化したブロック構成の回路図である。
【図10】本発明の回路シミュレーションを数値演算でシミュレーションした結果と、アナログ処理のシミュレーションソフトによる結果との比較図である。
【図11】ディクソン型チャージポンプの多段接続の構成例を示す図である。
【図12】ディクソン型チャージポンプの多段接続構成のダイオードを用いた構成例を示す図である。
【図13】差動構成によるスイッチ型チャージポンプの構成例を示す図である。
【図14】スイッチ型チャージポンプの差動構成の動作原理を説明するための図である。
【図15】スイッチ型チャージポンプにおいて漏れ電流の電流源Ileakを備えた回路構成を説明するための図である。
【図16】多段構成のスイッチ型チャージポンプの一構成例を示す図である。
【図17】本発明の回路シミュレーションを数値演算でシミュレーションした結果と、アナログ処理のシミュレーションソフトによる結果との比較図である。
【図18】昇降圧型DC−DCコンバータの例を説明するための図である。
【図19】昇圧型DC−DCコンバータの例を説明するための図である。
【図20】従来の状態変数方程式を用いた回路解析の手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【図21】従来の状態変数方程式を用いた回路解析の構成を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき詳細に説明する。図1は本発明の回路シミュレーション方法の手順を説明するためのフローチャートであり、図2〜5は本発明による回路シミュレーション処理の例および第1のスイッチ変数を説明するための概略図であり、図6は本発明の第1のスイッチ変数であるuおよび(1−u)によるスイッチング信号の例を説明するための図であり、図7は本発明の第2のスイッチ変数uを説明するための図であり、図8は本発明の回路シミュレーション装置の一構成例を説明するための概略ブロック図である。
【0056】
はじめに、図1に示すフローチャートを用いて、本発明の回路シミュレーション方法の手順を説明する。解析対象回路について(S1)、スイッチング動作による回路構成の時間変化を解析し、一周期内の各期間における回路モデルを形成し(S2)、第1の形成工程において、求めた回路モデルについてインダクタ素子や容量素子等のエネルギー蓄積素子部を状態変数として状態変数方程式を形成する。
【0057】
この状態変数方程式の第1の形成工程において、シミュレーションに際してダイオード素子部に逆方向電流が流れないようにするために、第2のスイッチ変数uを設定する。
【0058】
整流ダイオードあるいはオン状態のトランジスタをダイオード接続したダイオード素子部は、状態変数方程式を形成する場合においては両端子が抵抗あるいは電圧源に接続されているものとして扱われている。
【0059】
例えば、図9(a)に示す等価回路では、オン状態のトランジスタMn1、Mn2には順方向電圧Vf1(t)、Vf2(t)が接続されたものとして表され、図9(b)に示す等価回路では、オン状態のトランジスタMn1には電圧源Vth1(t)および抵抗R(t)が直列に接続されたものとして表される。
【0060】
このように表された回路状態では、ダイオード素子部に対して電流は何れの方向にも流れることができ、ダイオード素子部の両端子の何れの電圧が高いか低いかによって電流の向きが決まることになる。しかしながら、実際のダイオードあるいはトランジスタをダイオード接続したダイオード素子部は一方向性素子であるため、電流は逆方向に流れることは無い。
【0061】
したがって、図9(a),(b)の等価回路に基づいて状態変数方程式を形成した場合には、ダイオードあるいはトランジスタをダイオード接続したダイオード素子部に相当する部分には逆方向電流が流れる場合が生じる。このように、逆方向電流を許容する状態変数方程式を用いてシミュレーションを実行すると、得られたシミュレーション結果は実際には起こらない動作となる恐れがあり、シミュレーションを正確に行うことができないことになる。
【0062】
そこで、第1の形成工程において、ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数uを乗じ、ダイオード素子部に相当する部分に対して逆方向電流が流れるような状態時には第2のスイッチ変数uを0とし、ダイオード素子部に相当する部分に対して順方向の電流が流れるような流状態時には第2のスイッチ変数uを1とし、ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションの動作を防ぐ(S3)。
【0063】
次に、S3の工程で形成した各期間における状態変数方程式を各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)によって連結し、一周期内における状態変数方程式を形成する。各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)は一周期内でのスイッチング動作に応じて1と0との間の値を採る時間関数である。スイッチング動作は、ミュレーション対象回路に含まれるスイッチ素子および/又は整流ダイオードのオン/オフの時間変化に基づいて切り替わる動作であり、一周期内において異なる回路構成に切り替える。
【0064】
各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)は、このスイッチング動作による各回路構成および各期間の切り替え状態を1と0との間の値で表すと共に、時間関数とすることで一周期内での時間変化を定める。
【0065】
したがって、各期間の状態変数方程式に各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)を乗じることによって、その状態変数方程式の数値演算を一周期内の如何なる時点で行うかについて定めることができる。ここで、各期間の状態変数方程式に乗じる各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)は、各期間における回路状態に対応した値を設定する。例えば、回路が切り替わり動作において有効状態にある場合には第1のスイッチ変数uの値を“1”に設定し、“1”の値を状態変数方程式に乗じることによってその状態変数方程式を式上で有効とする。また、切り替わり動作において回路が無効状態にある場合には第1のスイッチ変数uの値を“0”に設定し、“0”の値を状態変数方程式に乗じることによってその状態変数方程式を式上で無効とする。
【0066】
また、第1のスイッチ変数(1−u)の場合は、uの値とは反対の値を取り、uの値が“1”であれば“0”の値を他の状態変数方程式に乗じることによって他の状態変数方程式を式上で無効とする。また、uの値が“0”であれば “1”の値を他の状態変数方程式に乗じることによって他の状態変数方程式を式上で有効とする。
【0067】
各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)を乗じた各期間の状態変数方程式を加算して一つの状態変数方程式を形成することによって、複数の状態変数方程式の数値演算について、一周期内における演算順序および演算のタイミングを定め、実際の回路動作に合わせた演算処理とすることができる。
【0068】
なお、状態変数方程式は、対象回路に含まれる各エネルギー蓄積素子部の電流や電圧、および対象回路の出力を状態変数とし、各状態変数について形成することができる(S4)。
【0069】
S4で形成した一周期内の各状態変数方程式について、その微分方程式を数値演算による積分演算で解いて、各状態変数の時間変化を求める。この状態変数の時間変化により、過渡応答や、開ループ利得やその位相の周波数特性等のAC特性を求めることができる(S5)。
【0070】
状態変数方程式の数値演算によるシミュレーション結果を表示する(S6)。
【0071】
図2は、解析対象回路のエネルギー蓄積素子部としてインダクタの回路素子(インダクタンス素子L)と容量の回路素子(容量素子C)を含み、一周期内において期間Tと期間Tの各期間で回路構成が切り替わる例を示している。
【0072】
ここでは、解析対象回路(図2(a))は、期間Tにおいて回路Aと回路Aの2つの異なる回路構成に分離して動作し(図2(b))、期間Tにおいて回路Bと回路Bの2つの異なる回路構成に分離して動作する(図2(c))例を示している。
【0073】
期間Tにおいて、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vを状態変数としてdv/dt=fで表し、回路Aの状態変数方程式を、インダクタ素子Lの電流iを状態変数としてdi/dt=gで表し、期間Tにおいて、回路Bの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vおよびインダクタ素子Lの電流iを状態変数としてdv/dt=fおよびdi/dt=gで表し、出力電圧を状態変数の線形和としてvout=zおよびvout=zで表した場合には、一周期内の状態変数方程式は、期間Tの状態変数方程式と期間Tの状態変数方程式を各第1のスイッチ変数u,(1−u)によって連結することによって、それぞれ、
dv/dt=u・f+(1−u)・f
di/dt=u・g+(1−u)・g
out=u・z+(1−u)・z
で表すことができる(図2(d))。
【0074】
ここで、f,gは各状態変数についての状態変数方程式であり、zは各状態変数の線形和であり、uおよび(1−u)は各第1のスイッチ変数である。uは、期間Tにおいて1の値を採り、期間Tにおいて0の値を採る時間関数とし、一方、(1−u)は、期間Tにおいて0の値を採り、期間Tにおいて1の値を採る時間関数としている。
【0075】
図2(e)は、上記した状態変数方程式を行列式の形式で表している。状態変数方程式を行列式の形式で表すことによって、汎用の数値演算プログラムの導入が容易となる。
【0076】
以下、図3〜図5を用いて、エネルギー蓄積素子部が1個,2個,3個の場合の例について説明する。ここで示す例では、エネルギー蓄積素子部として容量素子の例について示す。
【0077】
図3は、解析対象回路のエネルギー蓄積素子部として一個の容量素子Cを含み、一周期内において期間Tと期間Tの各期間で回路構成が切り替わる例を示している。
【0078】
解析対象回路(図3(a))は、期間Tにおいて回路Aと回路Aの2つの異なる回路構成に分離して動作し(図3(b))、期間Tにおいて回路Bと回路Bの2つの異なる回路構成に分離して動作する(図3(c))例を示している。
【0079】
期間Tにおいて、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vを状態変数としてdv/dt=fで表し、期間Tにおいて、回路Bの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vを状態変数としてdv/dt=fで表し、出力電圧を状態変数の線形和としてvout=zおよびvout=zで表した場合には、一周期内の状態変数方程式は、期間Tの状態変数方程式と期間Tの状態変数方程式を各第1のスイッチ変数u,(1−u)によって連結することによって、それぞれ
dv/dt=u・f+(1−u)・f
out=u・z+(1−u)・z
で表すことができる(図3(d))。
【0080】
ここで、fは各状態変数についての状態変数方程式、zは各状態変数の線形和であり、uおよび(1−u)は各第1のスイッチ変数である。uは、期間Tにおいて1の値を採り、期間Tにおいて0の値を採る時間関数とし、一方、(1−u)は、期間Tにおいて0の値を採り、期間Tにおいて1の値を採る時間関数としている。
【0081】
図3(e)は、上記した状態変数方程式を行列式の形式で表している。状態変数方程式を行列式の形式で表すことによって、汎用の数値演算プログラムの導入が容易となる。
【0082】
図4は、解析対象回路のエネルギー蓄積素子部として二個の容量素子C,Cを含み、一周期内において期間Tと期間Tの各期間で回路構成が切り替わる例を示している。
【0083】
解析対象回路(図4(a))は、期間Tにおいて回路Aと回路Aの2つの異なる回路構成に分離して動作し(図4(b))、期間Tにおいて回路Bと回路Bの2つの異なる回路構成に分離して動作する(図4(c))例を示している。
【0084】
期間Tにおいて、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC1を状態変数としてdvC1/dt=fで表し、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC2を状態変数としてdvC2/dt=gで表し、期間Tにおいて、回路Bの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC1および容量素子Cの電圧vC2を状態変数としてdvC1/dt=f、dvC2/dt=gで表し、出力電圧を状態変数の線形和としてvout=zおよびvout=zで表した場合には、一周期内の状態変数方程式は、期間Tの状態変数方程式と期間Tの状態変数方程式を各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)によって連結することによって、それぞれ
dvC1/dt=u・f+(1−u)・f
dvC2/dt=u・g+(1−u)・g
out=u・z+(1−u)・z
で表すことができる(図4(d))。
【0085】
ここで、f,gは各状態変数についての状態変数方程式、zは各状態変数の線形和であり、uおよび(1−u)は各第1のスイッチ変数である。uは、期間Tにおいて1の値を採り、期間Tにおいて0の値を採る時間関数とし、一方、(1−u)は、期間Tにおいて0の値を採り、期間Tにおいて1の値を採る時間関数としている。
【0086】
図4(e)は、上記した状態変数方程式を行列式の形式で表している。状態変数方程式を行列式の形式で表すことによって、汎用の数値演算プログラムの導入が容易となる。
【0087】
図5は、解析対象回路のエネルギー蓄積素子部として三個の容量素子C,C,Cを含み、一周期内において期間Tと期間Tと期間Tの各期間で回路構成が切り替わる例を示している。
【0088】
解析対象回路(図5(a))は、期間Tにおいて回路Aと回路Aと回路Aの3つの異なる回路構成に分離して動作し(図5(b))、期間Tにおいて回路Bと回路Bの2つの異なる回路構成に分離して動作し(図5(c))、期間Tにおいて回路Cと回路Cの2つの異なる回路構成に分離して動作する(図5(d))例を示している。
【0089】
期間Tにおいて、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC1を状態変数としてdvC1/dt=fで表し、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC2を状態変数としてdvC2/dt=gで表し、回路Aの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC3を状態変数としてdvC3/dt=hで表し、期間Tにおいて、回路Bの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC1を状態変数としてdvC1/dt=fで表し、回路Bの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC2および容量素子Cの電圧vC3を状態変数としてdvC2/dt=g、dvC3/dt=hで表し、期間Tにおいて、回路Cの状態変数方程式を、容量素子C1の電圧vC1および容量素子Cの電圧vC2を状態変数としてdvC1/dt=f、dvC2/dt=gで表し、回路Cの状態変数方程式を、容量素子Cの電圧vC3を状態変数としてdvC3/dt=hで表し、出力電圧を状態変数の線形和としてvout=z、vout=zおよびvout=zで表した場合には、一周期内の状態変数方程式は、期間Tの状態変数方程式と期間Tの状態変数方程式と期間Tの状態変数方程式を各第1のスイッチ変数u2a,u2b,u2cによって連結することによって、それぞれ
dvC1/dt=u2a・f+u2b・f+u2c・f
dvC2/dt=u2a・g+u2b・g+u2c・g
dvC3/dt=u2a・h+u2b・h+u2c・h
out=u2a・z+u2b・z+u2c・z
で表すことができる(図5(e))。
【0090】
ここで、f,g,hは各状態変数についての状態変数方程式、zは各状態変数の線形和であり、u2a,u2b,u2cは各第1のスイッチ変数である。各u2a,u2b,u2cは、例えば、u2aについては、期間Tにおいて1の値を採り、期間T,Tにおいて0の値を採る時間関数とし、u2bについては、期間Tにおいて1の値を採り、期間T,Tにおいて0の値を採る時間関数とし、u2cについては、期間Tにおいて1の値を採り、期間T,Tにおいて0の値を採る時間関数としている。
【0091】
図5(f)は、上記した状態変数方程式を行列式の形式で表している。状態変数方程式を行列式の形式で表すことによって、汎用の数値演算プログラムの導入が容易となる。
【0092】
図6は各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)の一例を示している。ここでは、相補的に1と0の値を採る各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)について2つの例を示している。
【0093】
図6(a),(b)は各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)の値が矩形波形で時間変化する場合を示している。
【0094】
図6(a)は第1のスイッチ変数uを示し、図6(b)は第1のスイッチ変数uと相補的な関係にある第1のスイッチ変数(1−u)を示している。この例では、第1のスイッチ変数uと第1のスイッチ変数(1−u)は1と0の値を互いに相補的に出力する。
【0095】
図6(c),(d)は各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)の値が時定数を有して立ち上がる場合および立ち下がる場合を示している。図6(c)はuを示し、図6(d)はuと相補的な関係にある(1−u)を示している。この例では、例えば、uが0から1に時定数を有して立ち上がる際に、(1−u)は1から0に時定数を有して立ち上下がる場合を示している。なお、この立ち上がり時および立ち下がり時において、2つの第1のスイッチ変数uおよび(1−u)の値は互いに相補的な関係にある。
【0096】
図6(c),(d)に示すように、各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)を0と1との間で時間と共に変化する時間関数とすることによって、時間変化に伴って回路構成が切り替わる場合の回路シミュレーションに対応させることができる。
【0097】
例えば、回路構成がスイッチングトランジスタ等のスイッチ素子によって切り替わり、その際のスイッチング動作に時間変化が含まれる場合には、この時間変化についてもシミュレートすることができる。なお、数値演算のクロック周波数はスイッチング動作に対して十分高いものとする。
【0098】
次に、本発明の第2のスイッチ変数uについて説明する。
【0099】
回路シミュレーションに用いる状態変数方程式において、解析対象回路が整流ダイオード、ダイオード接続されたスイッチ素子等のダイオード素子部を備える場合には、シミュレーションではオンしているダイオード部を電圧源と抵抗で置き換えるので、ダイオード素子部に相当する部分に逆方向電流が流れるような両端の電圧状態あるいは電流状態があり得る。通常、ダイオード素子部にはその整流特性から逆方向電流は流れないため、シミュレーションにおいてダイオード素子部に逆方向電流が流れる状態が発生した場合には、回路解析が正しく行われないことになる。そのため、シミュレーションにおいて、ダイオード素子部に相当する部分に逆方向電流が流れないように設定する必要がある。
【0100】
本発明は、第1の形成工程において、ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数uを乗じる。ダイオード素子部に対して逆方向電流が流れるような状態時には第2のスイッチ変数uを0として、ダイオード素子部に係る状態変数方程式を零にする。一方、ダイオード素子部に対して逆方向電流が流れないような状態では第2のスイッチ変数uを1として、ダイオード素子部に係る状態変数方程式を式上で有効とし、このダイオード素子部に係る状態変数方程式を含む状態変数方程式を用いてシミュレーション動作を行う。これによってダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーション動作を防ぐことができる。
【0101】
図7は第2のスイッチ変数uを説明するための図であり、ダイオード接続されたスイッチング素子部を例として示している。ここで、スイッチング素子部の入力端電圧をVinで表し、出力端電圧をVoutで表す。図7(a)はスイッチング素子に順方向電圧が加わった場合を示し、図7(c)はスイッチング素子に逆方向電圧が加わった場合を示している。ダイオード素子部の状態変数方程式は、第2のスイッチ変数uを用いて(Vin−Vout)uで表される。
【0102】
図7(b)は、図7(a)の順方向バイアスの電圧状態のダイオード素子部をモデル化して示している。図7(b)のモデル化の状態変数方程式は、順方向バイアスの電圧・電流状態であるため第2のスイッチ変数u=1として、(Vin−Vout)で表される。
【0103】
図7(d)は、図7(c)の逆方向バイアスの電圧・電流状態のダイオード素子部をモデル化して示している。
【0104】
図7(d)は、逆方向電流が流れる恐れのある場合である。このときには、モデル化したダイオード素子部の状態変数方程式は第2のスイッチ変数をu=0として“0”となる。つまり(Vin−Vout)×uの状態変数方程式は“0”である。これによって、ダイオード接続されたスイッチング素子部のモデル化において、逆方向電流が発生するおそれのある電圧・電流状態においては、第2のスイッチ変数uによってスイッチング素子に係る状態変数方程式を“0”として、実際には発生しないシミュレーション動作を防止し、実際の回路動作に対応してシミュレーション動作を行うことができるようにしている。
【0105】
第2のスイッチ変数uを“0”とするか“1”かは、シミュレーション中において、該当するダーオード素子に加わる電圧状態や電流状態に基づいて定めることができる。例えば、数値演算処理において、シミュレーションの動作中におけるダーオード素子に相当する部分の電圧・電流状態が、逆方向電流が流れない電圧・電流状態である場合には、第2のスイッチ変数uを“1”とすることによって、ダイオード素子部に係る状態変数方程式を含む状態変数方程式を解き、シミュレーションの動作中におけるダーオード素子部に相当する部分の電圧・電流状態が逆方向電流が流れる電圧・電流状態となった場合には、第2のスイッチ変数uを“1”から“0”に切り替えることによって、数値演算を行う状態変数方程式からダイオード素子部に係る状態変数方程式を解く。
【0106】
なお、シミュレーション中において該当するダーオード素子部に直列にインダクタ素子や容量素子が接続する場合には、インダクタ素子や容量素子に通常とは逆の方向に電流が流れる事を検出することで、第2のスイッチ変数uを“0”とするか“1”かを効率的に定めることができる。
【0107】
図8は、本発明の回路シミュレーション装置の一構成例を説明するための概略ブロック図である。
【0108】
回路シミュレーション装置は、状態変数方程式形成手段10と、数値演算手段20とを備え、表示手段30において数値演算手段20で得られたシミュレーション結果を表示する。
【0109】
回路シミュレーション装置は、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする装置であり、回路シミュレーションに際して、解析対象回路について回路モデルを求めておき、求めた回路モデルを回路シミュレーション装置に入力し、各回路モデルについて各期間の状態変数方程式を形成し、形成した各期間の状態変数方程式を連結して一周期内における状態変数方程式を形成し、この一周期における状態変数方程式を数値演算で解くことによって解析対象回路をシミュレートする。
【0110】
回路モデルは、解析対象回路がスイッチ動作によって一周期内で時間変化する際の各期間における回路構成である。
【0111】
状態変数方程式形成手段10は、予め求めておいた各期間における回路モデルを入力し、入力した回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、および、回路モデルの出力を状態変数の線形加算とする方程式を形成して、回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する。
【0112】
状態変数方程式形成手段10は、例えば、入力した回路モデルを記憶する記憶手段、回路モデルから状態変数を抽出し、抽出した状態変数について微分方程式によって状態変数方程式を形成するプログラム、形成した各期間の状態変数方程式を連結して一周期内の状態変数方程式を形成するプログラム、これらプログラムおよび各期間の状態変数方程式を連結するスイッチ変数(各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)、第2のスイッチ変数u)のデータを記憶する記憶手段、プログラムを実行するCPU等の演算手段によって構成することができる。
【0113】
状態変数方程式形成手段10は、回路モデルに基づいて各状態変数の状態変数方程式を形成する。状態変数方程式の形成において、回路構成が時間により変化する回路の各期間における回路モデルについて、回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、各状態変数の状態変数方程式について、各期間における各状態変数方程式の時間変化を表す各第1のスイッチ変数を各期間の各状態変数方程式に乗じ、各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程とを含む。
【0114】
第1の形成工程では、実際のダイオード素子に相当する部分にシミュレーションの上で逆流電流が流れるような動作を避けるために第2のスイッチ変数uを用い、第2の形成工程では、各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)を用いて各期間の状態変数方程式を加算し、各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する。
【0115】
各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)は、各回路モデルの切り替えのタイミングに基づいて1と0の間の値を採る。スイッチ変数による回路モデルの切り替えのタイミングは、解析対象回路が備えるスイッチ素子による動作状態に応じて定められる。
【0116】
第2のスイッチ変数uは、シミュレーション中の電圧または電流状態に基づいて1又は0の値を採る。スイッチ変数による回路モデルの切り替えのタイミングは、解析対象回路が備えるスイッチ素子による動作状態に応じて定められる。
【0117】
数値演算手段20は、状態変数方程式形成手段10で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する。数値演算は、例えば、汎用の数値演算プログラム21を用いることができる。各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)によって連接され、また、第2のスイッチ変数uによってダイオード素子部に相当する部分における逆方向電流の発生を防止した状態変数方程式を数値演算で解く際には、スイッチ変数値出力手段22の出力信号のタイミングおよび出力値に基づいて状態変数方程式の各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)、および第2のスイッチ変数uを変更する。スイッチ変数値出力手段22は、各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)の時間関数、および数値演算から得られる回路モデルの電圧状態や電流状態に基づいて出力信号を形成する。
【0118】
数値演算は、所定の時間間隔の複数のサンプリング点について状態変数の値を求める。数値演算を行う周波数は、一周期のクロック周波数で定まるナイキスト周波数以下とする。数値演算の周波数を一周期のクロック周波数で定まるナイキスト周波数以下とすることによって、一周期内における回路応答を求めることができる。
【0119】
数値演算手段20で求めたシミュレーション結果は表示手段30に表示する他、図示していない記憶手段に記憶したり、外部装置に出力することができる。
【0120】
以下、本発明の回路シミュレーションについてスイッチング電源回路を例とする実施例について説明する。
【実施例】
【0121】
[実施例1]
図9は、スイッチング電源回路をモデル化したブロック構成の回路図であり、ディクソン型のチャージポンプの構成例を示している。
【0122】
このスイッチング電源回路は、特定のエネルギー蓄積素子の一端にバイアス電圧を与えることによりスイッチ素子および/又は整流ダイオードをスイッチング動作させることによって、特定のエネルギー蓄積素子を含むエネルギー蓄積素子部に対してエネルギーを入出力するスイッチング電源回路である。
【0123】
特定のエネルギー蓄積素子の一端に与えるバイアス電圧は、一周期内のクロック信号によってスイッチング動作する。本発明の回路シミュレーション回路では、各第1のスイッチ変数uおよび(1−u)は、スイッチ素子又は整流ダイオードのスイッチング動作の時間変化に応じて1と0との間の値を採ることによって、異なる回路状態を連接して一つの状態変数方程式とする。
【0124】
ディクソン型のチャージポンプは、はじめの期間において入力直流電圧Vinからダイオードを介して容量素子を充電し、さらに次の期間で容量素子の一端の電圧をクロック信号の電圧で持ち上げることで容量素子の他端の電圧を昇圧し、この昇圧した電圧を別のダイオードと容量素子で整流することによって、入力直流電圧Vinから昇圧された所望の直流出力電圧Voutを得る構成である。
【0125】
図9(a)はディクソン型のチャージポンプの一構成例であり、入力直流電圧Vinを約2倍に昇圧する回路構成の例を示している。ダイオード接続されたトランジスタMn1、Mn2、容量素子C、出力容量素子Cout、負荷電流Iout、電圧が0〜Vclk間を遷移するクロック電圧源VCLKによって構成される。クロック電圧源VCLKが出力するクロック信号がチャージポンプの回路内の容量素子Cに流入し、その容量素子Cに蓄えられたエネルギーを出力端子に接続される出力容量素子Coutに転送する2段階の動作により昇圧が行われる。
【0126】
図9(a)の回路において、クロック電圧源VCLKの電圧がロー(通常は接地電位0Vに近い電圧とするので、ここでも0Vとする)である場合には、出力電圧Vout>入力直流電圧VinとすればVf1(t)>0,Vf2(t)<0となるので、ダイオード接続されたトランジスタMn1は順バイアス状態となり道通する。一方、ダイオード接続されたトランジスタMn2は逆バイアス状態となるためカットオフされる。
【0127】
図9(b)は、クロック電圧源VCLKの電圧がローの状態を表わしている。入力直流電圧Vinの入力側と出力電圧Vout(t)の出力側は切り離されて2つの独立な回路となる。この時、容量素子Cには入力直流電圧Vinからダイオード接続されたトランジスタMn1を通して電流が流れ込み、その結果電荷が蓄積されて容量素子Cの両端間の電圧Vc1は、
c1(t)=Vin−Vf1(t) ・・・(1)
となる。
【0128】
続いて、クロック電圧源VCLKの電圧がハイ(通常は入力直流電圧Vinと同一の電圧とするが、ここではVclkの電圧とする)である場合には、図9(c)に示すように容量素子Cの他端Aの電圧Vは、V(t)=Vclk+Vc1(t)となり、ダイオード接続されたトランジスタMn1は逆方向バイアス状態となり、ダイオード接続されたトランジスタMn2は順方向バイアスとなって道通する。
【0129】
その結果、出力容量素子Coutの両端の電圧Vout(t)は、
out(t) =V(t)−Vf2(t) = Vin+Vclk−Vf1(t)−Vf2(t) ・・・(2)
となる。
【0130】
ただしVf1(t)はクロック電圧源VCLKの電圧がローである場合のVf1(t)の最終値である。Vf1(t)、Vf2(t)とも零に近いと仮定すれば、出力電圧Vout(t)は入力直流電圧Vinとクロック電圧源VCLKの電圧Vclkの和となり昇圧動作が行われる。ただしこの場合、Vout(t)を安定化するための負帰還はかかってはいない。
【0131】
クロック電圧源VCLKの電圧がローの時(Vclk=0)の回路モデルにおける各状態変数Vc1(t)とVout(t)(=VCout(t))に係る状態変数方程式は以下の微分方程式で表される。
【0132】
【数1】

・・・(3)
【0133】
【数2】

・・・(4)
【0134】
ただし、トランジスタMn1の電圧VDS(=VGS)は以下の式で表される。
【数3】

・・・(5)
【0135】
ここで、β、gm1、Rm1は以下の式で表される。
【数4】

・・・(6)
【0136】
ダイオード接続されたトランジスタMn1は流れる電流により両端の電圧が変化するが、上記式では、これを抵抗R(t)で表している。
【0137】
また、Vth1(t)はトランジスタMn1のソース電圧の関数であり、以下の関係がある。
【数5】

・・・(7)
【0138】
ここで、VSBはトランジスタMn1のソース端子とグラウンド間の電圧差、つまりVC1と一致する。またφはビルトインポテンシャルと言われる電圧である。更に、u31(t)はトランジスタMn1に逆流電流が流れるのを防ぐための第2のスイッチ変数の一つである。
【0139】
図9(b)において、仮に容量素子Cの両端の電圧が(Vin−Vth1(t))よりも高ければ、電流は容量素子Cから入力直流電圧Vinに向かって逆流する。
【0140】
しかし、トランジスタMn1がダイオードと等価な機能を果たすように接続されているため、このような逆流現象は実際には起こらない。そこで、上記した状態変数方程式は、回路モデルの誤動作を防ぐために第2のスイッチ変数のうちの一つであるu31(t)を導入する。u31(t)は逆流が無い場合は1の値を採り、逆流が検出された場合には0の値を採る。逆流の有無は容量素子Cの電流の方向によって判断することができる。
【0141】
一方、クロック電圧源VCLKの電圧がハイの時(Vclk=1)の回路モデルにおける各状態変数vc1(t)とvout(t)に係る状態変数方程式は以下の微分方程式で表される。なお、図9の回路例では、vout(t)はコンデンサCの両端電圧vCout(t)である。
【0142】
【数6】

・・・(8)
【0143】
【数7】

・・・(9)
【0144】
第2のスイッチ変数のうちの一つであるu32(t)はトランジスタMn2に逆流電流が流れるのを防ぐために設けられている。u32(t)は、逆流が無い場合は1をとり、逆流が検出された場合には0をとる。逆流の有無は容量素子Cの電流の方向によって判断することができる。
【0145】
数値演算のプログラム上に上記の回路モデルから求められた状態変数方程式を組み込むために、期間1と期間2の2つの状態変数方程式をひとつの式に纏める。このために各第1のスイッチ変数u(t)および(1−u(t))を用いる。第1のスイッチ変数u(t)および(1−u(t))は、期間によって分離される回路構成に対応する。u(t)は、クロック電圧源VCLKの電圧がローの時(Vclk=0)にu(t)=1の値を採り、クロック電圧源VCLKの電圧がハイの時(Vclk=1)の場合にu(t)=0の値を取る。これに対し、(1−u(t))は、クロック電圧源VCLKの電圧がローの時(Vclk=0)に(1−u(t))=0の値をとり、クロック電圧源VCLKの電圧がハイの時(Vclk=1)の場合に(1−u(t))=1の値をとる。
【0146】
期間1か期間2かの場合分け、および第1のスイッチ変数u(t)および(1−u(t))が1か0の場合分けは、クロック電圧源VCLKの電圧値が1か0かで決まるため、VCLK=0は、u(t)=1および(1−u(t))=0に対応する。また、VCLK=1は、u(t)=0および(1−u(t))=1に対応する。したがって、第1のスイッチ変数u(t)および(1−u(t))の制御はクロック信号により行うことができる。
【0147】
期間1の状態と期間2の状態を同時に記述した状態変数方程式は、以下の式(10)、(11)で表すことができる。
【0148】
【数8】

・・・(10)
【0149】
【数9】

・・・(11)
【0150】
上記の状態変数方程式が、数値演算のプログラム上でディクソン型チャージポンプの動作を表す記述式として取り扱われる。
【0151】
[実施例1の比較例]
図10は本発明の回路シミュレーションを数値演算でシミュレーションした結果と、アナログ処理のシミュレーションソフトによる結果との比較図である。
【0152】
図10中のNSTVRで示すシミュレーション結果は、MATLAB/Simulink(登録商標)の汎用数値演算プログラムに本発明の回路シミュレーション手法を適用したプログラム(NSTVR)で得られるシミュレーション結果であり、図10中のSPICEで示すシミュレーション結果は、アナログ回路のシミュレーションソフトであるSPICE(登録商標)を用いて得たシミュレーション結果である。図10では、NSTVRによるシミュレーション結果を実線で示し、SPICEによるシミュレーション結果は破線で示している。
【0153】
図10のシミュレーション結果は、図9のディクソン型DC−DCコンバータ回路について、通常のSPICE回路シミュレーションプログラムにより解析したシミュレーション結果と、本発明の回路シミュレーション手法で構成した状態変数方程式を、MATLABを用いた数値演算による解析で得たシミュレーション結果とを比較して示している。
【0154】
このシミュレーション結果は、図9の回路の入力直流電圧Vinを5Vとし、負荷電流Ioutを零(無負荷という)とした場合について、出力電圧Voutの過渡変化について示している。このシミュレーションでは、クロック周波数を1MHzとし、解析する時間間隔を1nsとして全体の解析時間を0〜400μsとしている。シミュレーション結果によれば、出力電圧Voutは0Vから7.5Vまで立ち上がる。
【0155】
SPICEによるアナログ解析と、本発明のシミュレーション手法をプログラム化したNSTVRによる解析とにおいて、シミュレーション時間の比較を表1に示す。
【0156】
【表1】

【0157】
過渡解析において、SPICEによるアナログ解析は約58秒のCPU時間を要する。一方、本発明の回路シミュレーションのNSTVRによる解析では約38秒である。また、図10に示すシミュレーション結果では、出力電圧において150mVの電圧差が生じている。この電圧差は、出力電圧7.5Vに対して約2%(=0.15/7.5)である。
【0158】
比較結果によれば、CPU時間に大きな差異は現れていないが、CPU時間は回路規模に依存するため、回路規模が大きい場合にはCPU時間の差は顕著となると推定される。
【0159】
また、比較結果の出力電圧の誤差が約2%であることから、本発明の回路シミュレーションはSPICEによるアナログ解析と同等の精度を得ることができる。したがって、比較結果によれば、本発明の回路シミュレーションは、SPICEによるアナログ解析よりも高速でシミュレーションでき、さらに、アナログ解析と同等の精度を得ることができることを示している。
【0160】
[実施例2]
ディクソン型チャージポンプは、多段接続による構成とすることができる。図11は多段構成の例を示している。
【0161】
図11において、容量素子Cにはクロック電圧源VCLKを接続し、容量素子Cにはクロック電圧源VCLK/を接続する。クロック電圧源VCLKとクロック電圧源VCLK/とは相補的な電圧を出力する。これによって、トランジスタMn1、Mn2、Mn3、・・・は順にオン・オフの動作を行う。
【0162】
多段構成の場合についても、前記した実施例1に示した場合と同様に適用することができる。例えば、入力端側から出力端側に向かって奇数番目の容量素子Cの両端電圧を状態変数とする場合には、式(10)において、奇数番目のスイッチ素子に関わる回路ブロックの状態変数方程式に第1のスイッチ変数u(t)を乗じて得られる状態変数方程式と、偶数番目のスイッチ素子に関わる回路ブロックの状態変数方程式に他方の第1のスイッチ変数(1−u(t))を乗じて得られる状態変数方程式とを加算することによって一周期中の状態変数方程式を求めることができる。
【0163】
[実施例3]
ディクソン型チャージポンプの多段接続の構成では、前記した図11に示す構成例のMOSトランジスタをダイオードに代えることができる。図12は、ディクソン型チャージポンプの多段接続構成を、ダイオードを用いて構成した例を示している。この回路動作は、MOSトランジスタがダイオードに代わっただけの違いであって、モデル化の点では同様であるため、回路モデルおよび状態変数方程式は同じとなる。
【0164】
[実施例4]
次に、スイッチ型チャージポンプの例について図13〜図15を用いて説明する。スイッチ型チャージポンプは、ディクソン型チャージポンプのダイオード接続を行うトランジスタを、CMOSインバータを使った1極2投のスイッチ素子に置き換えた構成である。図13は差動構成によるスイッチ型チャージポンプの構成例を示し、図14は図13の差動構成の動作原理を説明するための構成図を示している。また、図15は、直列接続されるスイッチ素子が同時にオン状態となったときにスイッチ素子を通して流れる漏れ電流を、クロック信号の切り替わり時にのみ値を持つ電流源として扱う状態を説明するための図である。
【0165】
図13(a)はスイッチ型チャージポンプの回路構成と、回路を駆動するクロック信号例を示し、図13(b)はクロック信号中の丸付き符号1で示した時点における等価回路を示し、図13(c)はクロック信号中の丸付き符号2で示した時点における等価回路を示している。
【0166】
図14(a)の動作原理図は、図13において丸付き符号1で示される時点の回路の動作状態を示している。クロック信号電圧Vclkが容量素子Cに加わると、これによって丸付き符号bで示す点の電圧Vは昇圧され、以下で示される電圧となる。
=Vclk+Vc1(t)
【0167】
NMOSトランジスタMn1によるトランジスタスイッチSWMn1は、昇圧されたVにより制御されてオン状態となる。このとき、PMOSトランジスタMp1によるトランジスタスイッチSWMp1はオフ状態である。したがって、容量素子CはNMOSトランジスタMn1によるトランジスタスイッチSWMn1を通して電圧Vin に充電される。これにより、NMOSトランジスタMn2によるトランジスタスイッチSWMn2はオフ状態で、PMOSトランジスタMp2によるトランジスタスイッチSWMp2がオン状態となるため、Vの電圧がPMOSトランジスタMp2によるトランジスタスイッチSWMp2を通して出力容量素子Coutに伝達される。つまり、出力容量素子Coutの両端はVとなり(ただし容量素子C,C>出力容量素子Cout)、出力端子の電圧Voutは昇圧される。
【0168】
丸付き符号1で示される時点において成立する回路(図13(b),図14(a)に対応)は、以下の状態変数方程式で記述することができる。
【0169】
【数10】

【0170】
・・・(12)
【数11】

・・・(13)
【0171】
【数12】

・・・(14)
【0172】
ただし、トランジスタMn1、Mp2によるトランジスタスイッチSWMn1,SWMp2のオン抵抗をそれぞれRMn1,RMp2としている。
【0173】
図14(b)の動作原理図は、図13において丸付き符号2で示される時点の回路の動作状態を示している。クロック信号電圧Vclkが容量素子Cに加わると、これによって、丸付き符号aで示す点の電圧Vは昇圧され、以下で示される電圧となる。
=Vclk+Vc2(t)
【0174】
NMOSトランジスタMn2によるトランジスタスイッチSWMn2は、昇圧されたVにより制御されてオン状態となる。このとき、PMOSトランジスタMp2によるトランジスタスイッチSWMp2はオフ状態である。したがって、容量素子CはNMOSトランジスタMn2によるトランジスタスイッチSWMn2を通して電圧Vin に充電される。これにより、NMOSトランジスタMn1によるトランジスタスイッチSWMn1はオフ状態で、PMOSトランジスタMp1によるトランジスタスイッチSWMp1がオン状態となるため、V電圧がPMOSトランジスタMp1によるトランジスタスイッチSWMp1を通して出力容量素子Coutに伝達される。つまり、出力容量素子Coutの両端はVとなり(ただし容量素子C,C>出力容量素子Cout)、出力端子の電圧Voutは昇圧される。
【0175】
図14(b)の動作原理図は、図13において丸付き符号2で示される時点の回路の動作状態を示している。丸付き符号aで示す点の電圧Vは昇圧され、以下で示される電圧となる。
=Vclk+Vc2(t)
【0176】
丸付き符号1で示される時点と同様に、丸付き符号2で示される時点において成立する回路(図13(c),図14(b)に対応)は、以下の状態変数方程式で記述することができる。
【0177】
【数13】

・・・(15)
【0178】
【数14】

・・・(16)
【0179】
【数15】

・・・(17)
【0180】
ただし、トランジスタスイッチSWMp1,SWMn2のオン抵抗をそれぞれRMp1,RMn2としている。
【0181】
上記した、丸付き符号1で示される時点と丸付き符号2で示される時点の状態変数方程式を各第1のスイッチ変数u(t)、(1−u(t))を用いて纏めると、各状態変数についてそれぞれ以下に示す1つの状態変数方程式で表すことができる。
【0182】
【数16】

・・・(18)
【0183】
【数17】

・・・(19)
【0184】
【数18】

・・・(20)
【0185】
ただし、NMOSトランジスタスイッチSWMn1,SWMn2のオン抵抗をそれぞれRMn1,RMn2とし、PMOSトランジスタスイッチSWMp1,SWMp2のオン抵抗をそれぞれRMp1,RMp2としている。
【0186】
図13(b)の回路から図13(c)の回路への回路変化、あるいは、図13(c)の回路から図13(b)の回路への回路変化が起きる場合、NMOSトランジスタスイッチSWMn1とPMOSトランジスタスイッチSWMp1の両方、または、NMOSトランジスタスイッチSWMn2とPMOSトランジスタスイッチSWMp2の両方が同時にオン状態となる期間が、クロック信号が変化する期間で発生する。
【0187】
NMOSトランジスタスイッチSWMn1とPMOSトランジスタスイッチSWMp1、およびNMOSトランジスタスイッチSWMn2とPMOSトランジスタスイッチSWMp2はCMOSインバータ回路の構成であり、NMOSトランジスタスイッチとPMOSトランジスタスイッチの両方が同時にオン状態となる期間において、貫通電流に相当する漏れ電流が生じる。
【0188】
発明の回路シミュレーションでは、この漏れ電流の発生をモデル化するために、漏れ電流をクロック信号の切り替わり時のみの電流源として状態変数方程式に組み込む。
【0189】
図15は、スイッチが同時にオンしている期間のみ流れる漏れ電流を電流源Ileakに置き換えた回路構成を示している。また同時にオン状態となるスイッチは、図14(a)または図14(b)で示される通常状態にあるとして、漏れ電流を表す電流源だけが加わる形で表す。
【0190】
図15に示す回路について状態変数方程式を求めると、各状態変数について以下の状態変数方程式で表される。
【0191】
【数19】

・・・(21)
【0192】
【数20】

・・・(22)
【0193】
【数21】

・・・(23)
ただしIleakは漏れ電流である。
【0194】
[実施例5]
スイッチ型チャージポンプは、多段構成とされる。図16は多段構成のスイッチ型チャージポンプの一構成例を示しいている。
【0195】
クロック信号源は、クロック信号源VCLK1,VCLK3,VCLK5のクロック信号電圧Vclk1,Vclk3,Vclk5は同相であり、対応するクロック信号源VCLK2,VCLK4,VCLK6のクロック信号電圧Vclk2,Vclk4,Vclk6は逆相で駆動する。この場合、入力直流電圧Vin=5Vとして、クロック信号源VCLK1,VCLK2に0〜5Vのクロック信号電圧を、クロック信号源VCLK3,VCLK4に0〜10Vのクロック信号電圧を、クロック信号源VCLK5,VCLK6に0〜20Vのクロック信号電圧を入力すると、出力容量素子Cout1の電圧は10Vとなり、出力容量素子Cout2の電圧は20Vとなり、出力容量素子Cout3電圧は40Vとなる。
【0196】
回路のモデル化は、漏れ電流の数式化を含めて、実施例4の2段構成と同様に行うことができる。
【0197】
[実施例5の比較例]
図17は本発明の回路シミュレーションツールNSTVRでシミュレーションした結果と、アナログ処理のシミュレーションソフトウェアであるSPICEにより得られる結果との比較図である。
【0198】
図17中のNSTVRで示すシミュレーション結果は、MATLAB/Simulink(登録商標)の汎用数値演算プログラムに本発明の回路シミュレーション手法を適用したプログラム(NSTVR)で得たシミュレーション結果であり、図17中のSPICEで示すシミュレーション結果は、アナログ回路のシミュレーションソフトであるSPICE(登録商標)を用いて得たシミュレーション結果である。
【0199】
入力直流電圧Vinを5Vとし、0Vから5Vまで立ち上げた場合の出力電圧Voutの変化を示している。出力電圧Voutを40Vとし、負荷電流Ioutを零(無負荷という)としている。また、クロックパルスを1MHzとし、1ns刻みで0〜400μsで過渡解析を行っている。
【0200】
以下に、シミュレーション時間の比較を表2に示す。
【表2】

【0201】
本発明による過渡解析において、SPICEを用いた解析では約188秒のCPU時間を要し、一方、本発明の回路シミュレーションについてNSTVRを用いた解析では約37秒ほどであった。
【0202】
図17に示すシミュレーション結果では、出力電圧において約202mVの電圧差が生じている。この電圧差は、出力電圧40Vに対して約0.5%(=0.202/40)である。また、シミュレーション時間は約1/5(37秒/188秒)であって高速化が達成されている。この高速化の効果は、回路規模に応じてより顕著となることが期待される。
【0203】
したがって、図17と表2に示すシミュレーション結果によれば、本発明の回路シミュレーション手法を汎用数値演算プログラム上に実現したプログラムであるNSTVRによる解析は、アナログ回路のシミュレーションソフトのSPICEによる解析と比較して高速であり、また、精度において殆んど変わらないことを示している。
【0204】
この実施例によれば、チャージポンプ回路においても本発明の回路シミュレーション手法を用いたNSTVRの適用が可能であり、種々のDC−DCコンバータにおいて各状態変数を1つの状態変数方程式によって、高速で正確にシミュレーションを行うことができることが確認される。
【0205】
[実施例6]
次に、昇降圧型DC−DCコンバータの例について図18を用いて説明する。昇降圧型DC−DCコンバータは、昇圧および降圧が可能なDC−DCコンバータである。
【0206】
図18(a)において、昇降圧型DC−DCコンバータはQ号が0(ロー)の時にスイッチトランジスタMがオン状態となり、Q信号が1(ハイ)の時にスイッチトランジスタMがオフ状態となるため、図18(b)に示すように2つの回路状態となる。
【0207】
図18(b)において、Q信号が0(ロー)の時には、スイッチトランジスタMがオン状態となる。この時、出力端子の出力電圧Voutは負であるので、ダイオードDはオフ状態となる。なお、RMp−onはスイッチトランジスタMのオン抵抗である。
【0208】
続いて、図18(c)において、Q信号が1(ハイ)の時には、スイッチトランジスタMがオフ状態となるが、インダクタ素子Lには図中の矢印で示す方向に電流が流れ続けるためダイオードDはオン状態となり、出力端子には負の電圧が現れる。なお、ダイオードDの順方向電圧は流れる電流により変化するので、これを固定電圧と電流依存性を持つ抵抗により置き換えている。
【0209】
図18(b)の回路状態と図18(c)の回路状態を切り替えるために各第1のスイッチ変数u(t)、(1−u(t))を用いる。また、図18(c)でダイオードDに逆方向電流が流れないようにするために更に第2のスイッチ変数uを導入する。
【0210】
第1のスイッチ変数u(t)、(1−u(t))を導入する事で、図18(a)に示す昇降圧型DC−DCコンバータの出力回路を、単一の状態変数方程式で記述することができる。
【0211】
以下に、図18の構成例の昇降圧型DC−DCコンバータの状態変数方程式を示す。
【0212】
【数22】

・・・(24)
【0213】
【数23】

・・・(25)
【0214】
【数24】

・・・(26)
【0215】
[実施例7]
次に、昇圧型DC−DCコンバータの例について図19を用いて説明する。昇圧型DC−DCコンバータは、実施例6の昇降圧型DC−DCコンバータの場合と同様にしてモデル化して状態変数方程式を形成し、シミュレーションを行うことができる。
【0216】
図19(a)において、昇圧型DC−DCコンバータは、Q信号が1(ハイ)の時にスイッチトランジスタMがオン状態となり、Q信号が0(ロー)の時にスイッチトランジスタMがオフ状態となるため、図19(b)に示すように2つの回路状態となる。
【0217】
図19(b)において、Q信号が1(ハイ)の時にスイッチトランジスタMがオン状態となり、ダイオードDは逆バイアス状態でオフ状態となる。なお、RMn−onはスイッチトランジスタMのオン抵抗である。
【0218】
続いて図19(c)に示すように、Q信号が0(ロー)の時にはスイッチトランジスタMがオフ状態となるが、インダクタ素子Lには図中の矢印の方向に電流が流れ続けるためダイオードDはオン状態となり、出力端子には入力直流電圧Vinから昇圧された電圧が現れる。図19ではダイオードDの順方向電圧は流れる電流により変化するので、これを固定電圧と電流依存性のある抵抗により置き換えている。
【0219】
図19(b)の回路状態と図19(c)の回路状態を切り替えるために各第1のスイッチ変数u(t)、(1−u(t))を用いる。また、図19(c)でダイオードDに逆方向電流が流れないようにするために更に第2のスイッチ変数u(t)を導入する。
【0220】
各第1のスイッチ変数u(t)、(1−u(t))を導入する事で、図20(a)に示す昇圧型DC−DCコンバータの出力回路を、単一の状態変数方程式で記述することができる。
【0221】
以上のように本発明の回路シミュレーション手法を汎用の数値演算プログラムに適用したNSTVRプログラムによって、ディクソン(Dickson)型チャージポンプ、スイッチ(SW)型チャージポンプ、昇降圧型DC−DCコンバータ、昇圧型DC−DCコンバータおよび降圧型DC−DCコンバータなどの電源システムについて、過渡解析および周波数特性のシミュレーションを、高速で忠実にシミュレーションを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0222】
本発明の数値演算によるシミュレーション手法は、DC−DCコンバータに代表されるスイッチング電源の設計に利用する他、任意の電子回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0223】
10 状態変数方程式形成手段
20 数値演算手段
21 数値演算プログラム
22 スイッチ変数値出力手段
30 表示手段
110 状態変数方程式形成手段
120 数値演算手段
121 汎用シミュレーションプログラム
130 表示手段
C 容量素子
,C,C 容量素子
out,Cout1,Cout2,Cout3 出力容量素子
D ダイオード
電流
leak 電流源
out 負荷電流
L インダクタ素子
スイッチトランジスタ
n1,Mn2 トランジスタ
スイッチトランジスタ
p1,Mp2 トランジスタ
R,R 抵抗
SWMn1,SWMn2 トランジスタスイッチ
SWMp1,SWMp2 トランジスタスイッチ
,T,T 期間
u スイッチ変数
u 第1のスイッチ変数
1−u 第1のスイッチ変数
2a,u2b,u2c 第1のスイッチ変数
,u31,u32 第2のスイッチ変数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする回路シミュレーション方法であって、
スイッチング動作の一周期内の時間変化により複数の回路モデルに分離する解析対象回路において、
前記時間変化の各期間における回路モデルについて、当該回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、当該回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、
前記各状態変数の状態変数方程式について、前記各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を前記各期間の各状態変数方程式に乗じ、当該各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程と、
前記第2の形成工程で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算工程とを備え、
前記数値演算によるシミュレーションの周波数は、一周期のクロック周波数で定まるナイキスト周波数以下であり、
前記第1の形成工程、第2の形成工程、および演算工程の各工程をコンピュータで実行することを特徴とする、回路シミュレーション方法。
【請求項2】
前記エネルギー蓄積素子部はインダクタ素子又は容量素子であり、
前記状態変数は、インダクタ素子に流れる電流および/又は容量素子の両端電圧であることを特徴とする請求項1に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項3】
前記各第1のスイッチ変数は1と0との間の値を採る時間関数であり、前記解析対象回路に含まれるスイッチ素子および/又は整流ダイオードのオン/オフの時間変化に応じて変化する値であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の回路シミュレーション方法。
【請求項4】
前記解析対象回路はクロック信号によりオン・オフが交互に切り替えられる直列接続された複数のスイッチ素子を備え、
前記第2の形成工程において、
前記クロック信号の切り替わり時に前記複数のスイッチ素子が同時にオンとなる際に当該スイッチ素子を通して流れる漏れ電流を、前記クロック信号の切り替わり時にのみに値を持つ電流源として前記状態変数方程式の入力信号に加えることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の回路シミュレーション方法。
【請求項5】
前記解析対象回路は、特定のエネルギー蓄積素子の一端にバイアス電圧を与えることによりスイッチ素子および/又は整流ダイオードをスイッチング動作させて前記特定のエネルギー蓄積素子を含むエネルギー蓄積素子部に対してエネルギーを入出力するスイッチング電源回路であり、
前記特定のエネルギー蓄積素子の一端に与えるバイアス電圧は、一周期内のクロック信号によってスイッチング動作し、
前記各第1のスイッチ変数は、前記スイッチ素子又は整流ダイオードのスイッチング動作の時間変化に応じて1と0との間の値を採ることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の回路シミュレーション方法。
【請求項6】
前記解析対象回路は整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、
前記第1の形成工程において、前記ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数を乗じ、
前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の方向に電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とし、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と同じ方向に電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、
前記ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションを防ぐことを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の回路シミュレーション方法。
【請求項7】
アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする回路シミュレーション方法であって、
シミュレーションを行う解析対象回路の回路モデルは、整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、
前記回路モデルについて、当該回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、当該回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、
前記各状態変数の状態変数方程式について、前記各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を前記各期間の各状態変数方程式に乗じ、当該各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程と、
前記第2の形成工程で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算工程とを備え、
前記第1あるいは第2の形成工程において、前記ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数を乗じ、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の方向に電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とし、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と同じ方向に電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、
前記形成工程、および演算工程の各工程をコンピュータで実行し、
前記ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションを防ぐことを特徴とする、回路シミュレーション方法。
【請求項8】
アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする回路シミュレーション装置であって、
スイッチ動作の一周期内の時間変化により複数の回路モデルに分離する解析対象回路において、
前記時間変化の各期間における回路モデルについて、当該回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、当該回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成し、
前記各状態変数の状態変数方程式について、前記各期間における各状態変数方程式のそれぞれ時間変化を表す各第1のスイッチ変数を前記各期間の各状態変数方程式に乗じ、当該各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する状態変数方程式形成手段と、
前記状態変数方程式形成手段で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算手段とを備え、
前記数値演算によるシミュレーションの周波数は、一周期のクロック周波数で定まるナイキスト周波数以下であることを特徴とする、回路シミュレーション装置。
【請求項9】
前記エネルギー蓄積素子部はインダクタ素子又は容量素子であり、
前記状態変数は、インダクタ素子に流れる電流および/又は容量素子の両端電圧であることを特徴とする請求項8に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項10】
前記各第1のスイッチ変数は1と0との間の値を採る時間関数であり、前記解析対象回路に含まれるスイッチ素子および/又は整流ダイオードのオン/オフの時間変化に応じて変化する値であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項11】
前記解析対象回路はクロック信号によりオン・オフが交互に切り替えられる直列接続された複数のスイッチ素子を備え、
前記状態変数方程式の形成手段において、
前記クロック信号の切り替わり時に前記複数のスイッチ素子が同時にオンとなる際に当該前記状態変数方程式の形成手段において、
スイッチ素子を通して流れる漏れ電流を、前記クロック信号の切り替わり時にのみに値を持つ電流源として前記状態変数方程式の入力信号に加えることを特徴とする、請求項8から10の何れかに記載の回路シミュレーション装置。
【請求項12】
前記解析対象回路は、特定のエネルギー蓄積素子の一端にバイアス電圧を与えることによりスイッチ素子および/又は整流ダイオードをスイッチング動作させて前記特定のエネルギー蓄積素子を含むエネルギー蓄積素子部に対してエネルギーを入出力するスイッチング電源回路であり、
前記特定のエネルギー蓄積素子の一端に与えるバイアス電圧は、一周期内のクロック信号によってスイッチング動作し、
前記各第1のスイッチ変数は、前記スイッチ素子又は整流ダイオードのスイッチング動作の時間変化に応じて1と0との間の値を採ることを特徴とする、請求項8から11の何れかに記載の回路シミュレーション装置。
【請求項13】
前記解析対象回路は整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、
前記状態変数方程式の形成手段において、前記ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数を乗じ、
前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の方向に電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とし、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当するダイオード素子部の順方向と同じ方向に電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、
前記ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションを防ぐことを特徴とする、請求項8から12の何れかに記載の回路シミュレーション装置。
【請求項14】
アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作を数値演算によってシミュレートする回路シミュレーション装置であって、
シミュレーションを行う解析対象回路の回路モデルは、整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、
前記回路モデルについて、当該回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、当該回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する状態変数方程式の第1形成手段と、
前記各状態変数の状態変数方程式について、前記各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を前記各期間の各状態変数方程式に乗じ、当該各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2形成手段と、
前記状態変数方程式の第2形成手段で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算手段とを備え、
前記状態変数方程式の第1あるいは第2形成手段において、前記ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数を乗じ、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の方向に電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とし、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と同じ方向に電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、
前記ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションを防ぐことを特徴とする、回路シミュレーション装置。
【請求項15】
コンピュータに、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作をシミュレートさせる回路シミュレーションプログラムであって、
スイッチング動作の一周期内の時間変化により複数の回路モデルに分離する解析対象回路において、
コンピュータに、
前記時間変化の各期間における回路モデルについて、当該回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、当該回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、
前記各状態変数の状態変数方程式について、前記各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を前記各期間の各状態変数方程式に乗じ、当該各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程と、
前記第2の形成工程で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算工程の各工程を、
一周期のクロック周波数で定まるナイキスト周波数以下の周波数で数値演算を実行させることを特徴とする、回路シミュレーションプログラム。
【請求項16】
前記エネルギー蓄積素子部はインダクタ素子又は容量素子であり、
前記状態変数は、インダクタ素子に流れる電流および/又は容量素子の両端電圧であることを特徴とする請求項15に記載の回路シミュレーションプログラム。
【請求項17】
前記各第1のスイッチ変数は1と0との間の値を採る時間関数であり、前記解析対象回路に含まれるスイッチ素子および/又は整流ダイオードのオン/オフの時間変化に応じて変化する値であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の回路シミュレーションプログラム。
【請求項18】
前記解析対象回路はクロック信号によりオン・オフが交互に切り替えられる直列接続された複数のスイッチ素子を備え、
前記第2の形成工程において、
前記クロック信号の切り替わり時に前記複数のスイッチ素子が同時にオンとなる際に当該スイッチ素子を通して流れる漏れ電流を、前記クロック信号の切り替わり時にのみに値を持つ電流源として前記状態変数方程式の入力信号に加えることを特徴とする、請求項15ら17の何れかに記載の回路シミュレーションプログラム。
【請求項19】
前記解析対象回路は、特定のエネルギー蓄積素子の一端にバイアス電圧を与えることによりスイッチ素子および/又は整流ダイオードをスイッチング動作させて前記特定エネルギー蓄積素子を含むエネルギー蓄積素子部に対してエネルギーを入出力するスイッチング電源回路であり、
前記特定のエネルギー蓄積素子の一端に与えるバイアス電圧は、一周期内のクロック信号によってスイッチング動作し、
前記各第1のスイッチ変数は、前記スイッチ素子又は整流ダイオードのスイッチング動作の時間変化に応じて1と0との間の値を採ることを特徴とする、請求項15から18の何れかに記載の回路シミュレーションプログラム。
【請求項20】
前記解析対象回路は整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、
前記第1の形成工程において、前記ダイオード素子部に係る状態変数方程式に第2のスイッチ変数を乗じ、
前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の方向に電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とし、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と同じ方向に電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、
前記ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションを防ぐことを特徴とする、請求項15から19の何れかに記載の回路シミュレーションプログラム。
【請求項21】
コンピュータに、アナログ回路又はアナログ/ディジタル混載回路の動作をシミュレートさせる回路シミュレーションプログラムであって、
シミュレーションを行う解析対象回路の回路モデルは、整流ダイオード、および/又はダイオード接続されたスイッチ素子から成るダイオード素子部を備え、
コンピュータに、
前記回路モデルについて、当該回路モデルに含まれるエネルギー蓄積素子部の電流および/又は電圧を状態変数とする微分方程式、およびそれらの状態変数の値を用いて回路モデルの出力を求める方程式によって、当該回路モデルに関する複数の状態変数方程式を形成する第1の形成工程と、
前記各状態変数の状態変数方程式について、前記各期間における各状態変数方程式のそれぞれの時間変化を表す各第1のスイッチ変数を前記各期間の各状態変数方程式に乗じ、当該各第1のスイッチ変数を乗じた各期間の各状態変数方程式を加算して各状態変数について一周期内における状態変数方程式を形成する第2の形成工程と、
前記第2の形成工程で形成した一周期内の状態変数方程式の微分方程式を数値積分による数値演算で解き、当該数値演算で得られた各状態変数の時間変化を出力する数値演算工程を実行させ、
前記第1あるいは第2の形成工程において、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と逆の方向に電流が流れるような状態の時には前記第2のスイッチ変数を0とし、前記状態変数方程式中の前記ダイオード素子部に相当する部分にダイオード素子部の順方向と同じ方向に電流が流れる状態の時には前記第2のスイッチ変数を1とし、
前記ダイオード素子部に逆流電流が流れるシミュレーションを防ぐことを特徴とする、回路シミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−114512(P2013−114512A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260974(P2011−260974)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】