説明

回路基板およびその製造方法

【課題】従来よりも液晶ポリマーフィルム表面が平滑であり、かつ、フィルムとめっき層との接着強度に優れた回路基板を提供すること。また、その製造方法を提供すること。
【解決手段】液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面を、液体との接触角が低下するように表面改質する第1の工程と、表面改質した液晶ポリマーフィルムの表面をアルカリ溶液と接触させ、フィルム表面が粗化されない範囲内でアルカリ処理する第2の工程と、アルカリ処理した液晶ポリマーフィルムの表面に無電解めっき層を形成する第3の工程と、無電解めっき層の表面に電解めっき層を形成する第4の工程とを有し、第3の工程と第4の工程との間、および/または、第4の工程の後に液晶ポリマーの融点以下の温度で5分間〜24時間熱処理を行う製造方法により回路基板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、基板材料として液晶ポリマーフィルムを用いる回路基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器には、多くの回路基板が使用されている。この種の回路基板としては、例えば、ポリイミドフィルムなどからなる絶縁基板上に、銅箔などが貼り合わされたものや、めっきにより銅層などが形成されたものに回路が形成されたフレキシブルプリント回路基板が広く知られている。
【0003】
近年、電子機器の小型化、高機能化に伴い、回路の微細化、高密度化が進んでおり、回路に伝送される信号も高周波化されてきている。
【0004】
回路が微細化、高密度化されると、フィルムの吸湿によるわずかな寸法変化が回路設計上問題になる。また、高周波信号の伝送損失には、導体損失のみならず誘電損失も関係するため、できる限り誘電損失の低いフィルムを使用した方が有利である。
【0005】
そこで、最近では、基板材料として、従来のポリイミドフィルムに比較して、(1)吸水率および誘電損失が低い、(2)吸湿による寸法変化・特性変化が小さいなどの特長を有する液晶ポリマーフィルムが注目されるようになってきている。
【0006】
例えば、特許文献1には、エッチング速度が非常に速い特定のエッチング液を用いて液晶ポリエステルフィルムの表面を十分に粗化した後、無電解めっき層を形成することにより、フィルム表面の凹凸部分とめっき層とをアンカー効果により接合し、さらに、100℃から液晶転移点温度の範囲内で加熱処理を行うことにより、上記アンカー効果を一層高めて両者の接着強度を確保する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、濃度10M以上、液温70℃以上のアルカリ性エッチング液に60分間〜180分間浸漬することにより、液晶ポリマーフィルムの表面を十分に粗化し、その後、無電解めっき層を形成することにより、両者の接着強度を向上させる技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、液晶ポリマーフィルムの表面を十分に粗化し、無電解めっき層を形成した後、ガラス転移点以上の温度で加熱処理することにより、両者の接着強度を向上させる技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献4には、アンモニア水溶液などの処理剤を含む雰囲気中で、液晶ポリマーフィルム表面に紫外線を照射し、この表面に無電解めっき層を形成することにより、両者の接着強度を向上させる技術が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−307980号公報
【特許文献2】特開2004−143587号公報
【特許文献3】特開2004−247425号公報
【特許文献4】特開2003−221456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の回路基板およびその製造方法は、下記の点で問題があった。
【0012】
すなわち、特許文献1〜3に記載の回路基板の製造方法は、液晶ポリマーフィルムと無電解めっき層との接着強度を向上させるため、フィルム表面を、アンカー効果が得られるほどの凹凸形状となるように粗化している。
【0013】
そのため、フィルム表面の表面粗さが増大し、微細な回路を形成し難いなどの問題があった。
【0014】
加えて、粗化されたフィルム表面に無電解めっき層を形成すると、無電解めっき層におけるフィルム側界面の表面粗さが増大する。また、信号の周波数が高くなると、電流が導体表面のみを流れるようになる、いわゆる表皮効果が大きくなる。そのため、導体の粗さおよび表皮効果に起因して回路の導体損失(=導体の粗さによる損失+表皮効果による損失)が大きくなり、誘電率および誘電損失が低いなどといった液晶ポリマーの特長が活かされなくなるなどの問題があった。
【0015】
一方、特許文献4に記載の回路基板の製造方法については、液晶ポリマーフィルム表面にアンモニア水溶液などの処理剤を拡散させた後に紫外線を照射する手法を用いているので、後述する本願の回路基板の製造方法とは全く工程が異なっている。
【0016】
さらに、この製造方法により得られる回路基板は、フィルム表面の表面粗さについて何ら言及されていないため、微細回路の形成性に優れるか否かは全く不明である。
【0017】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来よりも液晶ポリマーフィルム表面が平滑であり、かつ、フィルムとめっき層との接着強度に優れた回路基板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明に係る回路基板は、液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面に無電解めっき層、電解めっき層がこの順で積層され、液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRが30nm以下であり、めっき層の180°ピール強度が6N/cm以上あることを要旨とする。
【0019】
一方、本発明に係る回路基板の製造方法は、液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面を、液体との接触角が低下するように表面改質する第1の工程と、表面改質した液晶ポリマーフィルムの表面をアルカリ溶液と接触させ、フィルム表面が粗化されない範囲内でアルカリ処理する第2の工程と、アルカリ処理した液晶ポリマーフィルムの表面に無電解めっき層を形成する第3の工程と、無電解めっき層の表面に電解めっき層を形成する第4の工程とを有し、第3の工程と第4の工程との間、および/または、第4の工程の後に、液晶ポリマーの融点以下の温度で5分間〜24時間熱処理を行うことを要旨とする。
【0020】
この際、上記第2の工程におけるアルカリ処理後の液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRは、30nm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る回路基板の製造方法では、第1の工程において、液晶ポリマーフィルム表面は、液体との接触角が低下するように表面改質される。そのため、フィルム表面は、次の第2の工程で用いるアルカリ溶液と濡れやすくなっている。
【0022】
次いで、第2の工程において、この濡れ性が向上したフィルム表面をアルカリ溶液と接触させてアルカリ処理するので、アルカリ処理による反応がより均一に行われ、フィルム表面に、水酸基、カルボキシル基などの親水性を示す官能基が生成する。また、アルカリ処理は、フィルム表面を粗化しない範囲内で行うので、従来のようにアンカー効果が得られるほどの凹凸形状がフィルム表面に形成されることはない。
【0023】
この際、アルカリ処理後のフィルム表面の算術平均粗さRが、30nm以下となるように調整した場合には、微細回路の形成性、回路の伝送特性などに極めて優れた回路基板が得られる。
【0024】
次いで、第3の工程において、このアルカリ処理したフィルム表面に無電解めっき層を形成し、第4の工程において、この無電解めっき層の表面に電解めっき層を形成すると、回路基板が得られる。
【0025】
ここで、本発明に係る回路基板の製造方法では、上記第3の工程と第4の工程との間、および/または、第4の工程の後に、液晶ポリマーの融点以下の温度で5分間〜24時間熱処理を行う。そのため、この熱処理により、アルカリ処理したフィルム表面と無電解めっき層表面との界面に強固な化学的結合が形成される。
【0026】
したがって、本発明に係る回路基板の製造方法によれば、従来よりも液晶ポリマーフィルム表面が平滑であり、かつ、フィルムとめっき層との接着強度に優れた回路基板を製造することができる。
【0027】
一方、本発明に係る回路基板は、例えば、上記本発明に係る回路基板の製造方法を好適に用いて得ることができるものである。
【0028】
本発明に係る回路基板によれば、液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面に無電解めっき層、電解めっき層がこの順で積層され、前記液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRが30nm以下であり、前記めっき層の180°ピール強度が6N/cm以上あるので、従来よりも液晶ポリマーフィルム表面が平滑であり、かつ、フィルムとめっき層との接着強度に優れる。
【0029】
したがって、本発明に係る回路基板によれば、従来よりも液晶ポリマーフィルム表面が平滑であるので、微細回路の形成性に優れる。そのため、回路の微細化、高密度化に対応しやすい。
【0030】
また、液晶ポリマーフィルムとめっき層との接着強度に優れるので、高い接着信頼性を有する。特に、液晶ポリマーの気体不透過性により、主にめっき金属元素の酸化物などからなる脆弱層が接着界面に形成され難いので、初期の接着強度のみならず、熱老化後の接着強度にも優れ、長期に亘って高い接着信頼性を発揮できる。
【0031】
また、液晶ポリマーの特長を活かすことができるので、伝送信号の高周波化にも対応しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本実施形態に係る回路基板、回路基板の製造方法について詳細に説明する。なお、以下では、本実施形態に係る回路基板を「本回路基板」と、本実施形態に係る回路基板の製造方法を「本製造方法」ということがある。
【0033】
1.本回路基板
本回路基板は、液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面に無電解めっき層、電解めっき層(以下、これらをまとめて「めっき層」ということがある。)がこの順で積層され、液晶ポリマーフィルムの表面粗さ、めっき層の接着強度が特定範囲内にある。
【0034】
なお、本願にいう回路基板とは、めっき層に未だ回路が形成されていないもの、めっき層に回路が形成されたものの両方を含む。
【0035】
1.1 液晶ポリマーフィルム
本回路基板において、液晶ポリマーフィルムを構成する液晶ポリマーとしては、具体的には、例えば、熱溶融型芳香族ポリエステルなどを例示することができる。
【0036】
また、液晶ポリマーフィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、本回路基板が組み込まれる電子機器内のスペース、本回路基板に要求される可撓性などを考慮して適宜選択すれば良い。
【0037】
1.2 めっき層
本回路基板において、めっき層は、液晶ポリマーフィルムの片面に形成されていても良いし、液晶ポリマーフィルムの両面に形成されていても良い。また、電解めっき層は、単層からなっていても良いし、複数層からなっていても良い。電解めっき層が複数層からなる場合、各層は、2種以上の異なる金属または合金からなっていても良いし、もしくは、同種の金属または合金であるが、組成などの膜質が異なるものからなっていても良い。あるいは、これらの組み合わせであっても良い。また、めっき層は、一度に形成されたものであっても良いし、もしくは、分割して形成されたものであっても良い。あるいは、これらの組み合わせであっても良い。
【0038】
無電解めっき層を構成する金属としては、具体的には、例えば、Ni、Cu、Coなどの金属またはこれらを含む合金などを例示することができる。一方、電解めっき層を構成する金属としては、具体的には、例えば、Cu、Niなどの金属またはこれらを含む合金などを例示することができる。
【0039】
また、めっき層の厚さは、それぞれ同じ厚さであっても良いし、異なる厚さであっても良く、特に限定されるものではない。回路形状、回路形成時のエッチング性、基板の総厚みなどを考慮して適宜決定すれば良い。
【0040】
1.3 フィルムの表面粗さ
従来の回路基板では、液晶ポリマーフィルムの表面が、無電解めっき層の表面と物理的に噛み合うほど、すなわち、アンカー効果が得られるほど粗化されているのが通常であった。
【0041】
これに対し、本回路基板は、液晶ポリマーフィルムの表面が、従来に比較してほとんど粗化されておらず、フィルムの表面粗さが特定範囲にあることを一つの特徴としている。
【0042】
ここで、本回路基板におけるフィルムの表面粗さとは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定したフィルム表面の凹凸より求めた、JIS B0601に準拠した算術平均粗さRをいう。
【0043】
フィルム表面の算術平均粗さRの好ましい上限値としては、30nm、25nm、20nmなどを例示することができる。
【0044】
フィルム表面の算術平均粗さRの上限値が30nmを越えると、アルカリ処理による脆弱層が形成され、接着強度が低下したり、回路形成時の伝送損失が増加するなどの傾向が見られる。
【0045】
一方、フィルム表面の算術平均粗さRの下限値は、特に限定されるものではない。なぜならば、微細回路の形成性を向上させる、伝送損失を低減させるなどの観点から、フィルム表面はできる限り平滑である方が有利だからである。
【0046】
上記フィルム表面の算術平均粗さRの好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値をあえて例示するとすれば、2nm、5nm、10nmなどを例示することができる。
【0047】
1.4 180°ピール強度
本回路基板において、めっき層の180°ピール強度は、少なくとも6N/cm以上ある。好ましくは6.5N/cm以上、より好ましくは7.0N/cm以上あると良い。
【0048】
ここで、本回路基板における180℃ピール強度とは、液晶ポリマーフィルムと無電解めっき層、電解めっき層とが接合された1cm幅の試料を用い、JIS C5016に準拠して、引張試験機(引張速度50mm/分)にてめっき層を180℃はく離して測定される初期(熱老化前)のピール強度をいう。
【0049】
本回路基板において、めっき層の180°ピール強度が6N/cm未満になると、回路の接着信頼性が低下するので好ましくない。
【0050】
一方、めっき層の180°ピール強度の上限値については、特に限定されるものではない。フィルムとめっき層との接着強度は高ければ高いほど良く、何ら支障がないからである。
【0051】
2.本製造方法
本製造方法は、第1〜第4の工程を有し、第3の工程と第4の工程との間、および/または、第4の工程の後に、特定温度で特定時間、熱処理を行う。以下、各工程、熱処理について詳細に説明する。
【0052】
2.1 第1の工程
本製造方法において、第1の工程は、液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面を液体との接触角が低下するように表面改質する工程である。
【0053】
液晶ポリマーフィルムの種類は、上述したものと同様であるので詳しい説明は省略する。また、表面改質するフィルム面は、フィルムの片面であっても良いし、フィルムの両面であっても良い。製造する回路基板の形態を考慮して適宜選択すれば良い。
【0054】
この第1の工程におけるフィルム表面の表面改質は、主として、次工程に用いるアルカリ溶液との濡れ性を向上させる目的で行うものである。したがって、表面改質を行った後のフィルム表面とアルカリ溶液に含まれる液体との接触角が、表面改質を行う前のフィルム表面と当該液体との接触角と比較して、少なくとも低下しておれば、その目的は達せられる。
【0055】
このような表面改質を行う手法としては、具体的には、例えば、紫外線処理、プラズマ処理、コロナ処理などを例示することができる。これら手法のうち、好ましくは、紫外線処理を用いると良い。紫外線処理は、他の処理方法と比較して、処理速度が速く均一であるため、連続生産性などに優れるし、また、設備も安価であるなどの利点があるからである。
【0056】
紫外線処理を用いる場合、紫外線の波長は、特に限定されるものではないが、エネルギーが比較的高く、フィルム表面の表面改質性に優れることから、254nm以下の波長を主に含んでいると良い。このような短波長の紫外線は、低圧水銀ランプ、エキシマランプなどを用いて発生させることができる。
【0057】
2.2 第2の工程
本製造方法において、第2の工程は、上記第1の工程にて表面改質した液晶ポリマーフィルムの表面をアルカリ溶液と接触させ、フィルム表面が粗化されない範囲内でアルカリ処理する工程である。
【0058】
この第2の工程では、従来のように、アンカー効果が得られるほどフィルム表面を粗化させることを目的としているのではなく、液晶ポリマーフィルム表面に官能基を生成させることを主たる目的としている。したがって、この目的を達成することができる程度のアルカリ処理を施せば良い。
【0059】
上記アルカリ溶液としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、エチルアミンなどの塩基性物質などを1種または2種以上、水、アルコールなどの適当な溶媒に溶解した溶液などを例示することができる。
【0060】
ここで、フィルム表面の粗化が進行する要因としては、一般に、アルカリ溶液の種類、当該溶液の濃度、当該溶液の温度、処理時間などを例示することができる。そのため、フィルム表面の平滑性をできる限り維持したまま、より多くの官能基を生成させることができるように、これら要因を適切に設定してアルカリ処理を行う点に留意すると良い。
【0061】
アルカリ処理を過度にやり過ぎると、液晶ポリマーフィルム表面の粗度が大きくなるとともに処理過多により脆弱層が形成され、液晶ポリマーフィルムと無電解めっき層との接着強度が低下するなどの傾向が見られる。また、アルカリ処理を過度に少なくすると、液晶ポリマーフィルム表面に官能基が十分に生成し難くなる傾向が見られる。
【0062】
上記アルカリ処理の目安は、アルカリ処理した後における液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRが、「1.3」にて上述した範囲内になるようにすると良い。
【0063】
具体的には、例えば、アルカリ溶液として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を水に溶解した溶液を好適に用いる場合、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物の濃度としては、好ましい上限値として、8mol/L、7mol/L、6mol/Lなどを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、2mol/L、3mol/L、4mol/Lなどを例示することができる。
【0064】
また、溶液温度としては、好ましい上限値として、80℃、75℃、70℃などを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、40℃、45℃、50℃などを例示することができる。
【0065】
また、処理時間としては、好ましい上限値として、30分、20分、10分などを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、1分、2分、3分などを例示することができる。
【0066】
液晶ポリマーフィルムの表面とアルカリ溶液とを接触させる手法としては、具体的には、例えば、液晶ポリマーフィルムをアルカリ溶液中に浸漬する方法、液晶ポリマーフィルムの表面にアルカリ溶液を噴霧する方法、液晶ポリマーフィルムの表面にアルカリ溶液を塗布する方法など、あらゆる手法を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0067】
2.3 第3の工程
本製造方法において、第3の工程は、上記アルカリ処理した液晶ポリマーフィルムの表面に無電解めっき層を形成する工程である。
【0068】
無電解めっき層は、例えば、アルカリ処理した液晶ポリマーフィルムの表面に適当な触媒を付与し、適当な還元剤を用いて還元処理した後、「1.2」に上述した無電解めっき層を構成する金属イオンを含んだ無電解めっき浴を用いて無電解めっきを行うなど、常法に従って形成すれば良い。この際、無電解めっきは、分割して行うなどしても良い。
【0069】
また、無電解めっき層の厚さは、特に限定されるものではなく、回路形状、回路形成時のエッチング性などを考慮して適宜決定すれば良い。
【0070】
2.4 第4の工程
本製造方法において、第4の工程は、上記無電解めっき層の表面に電解めっき層を形成する工程である。
【0071】
電解めっき層は、例えば、「1.2」に上述した電解めっき層を構成する金属イオンを含んだ電解めっき浴を用いて電解めっきを行うなど、常法に従って形成すれば良い。この際、電解めっきは、分割して行うなどしても良い。
【0072】
また、電解めっき層の厚さは、特に限定されるものではなく、回路形状、回路形成時のエッチング性、回路基板の総厚みなどを考慮して適宜決定すれば良い。
【0073】
2.5 熱処理
本製造方法では、第3の工程と第4の工程との間、および/または、第4の工程の後に熱処理を行う。この加熱処理により、第2工程のアルカリ処理によりフィルム表面に形成された官能基と無電解めっき層表面とが化学的に結合され、高い接着強度が得られるようになる。
【0074】
熱処理時の温度範囲は、基本的には、用いる液晶ポリマーの種類により異なる。一般的には、熱処理時の温度の好ましい上限値としては、用いる液晶ポリマーの融点以下の温度を例示することができる。一方、この好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、100℃、150℃、200℃などを例示することができる。
【0075】
熱処理時の温度が、用いる液晶ポリマーの融点を過度に越えると、液晶ポリマーフィルムが変形し、得られる回路基板の寸法安定性などが低下する傾向が見られる。一方、熱処理時の温度が100℃を下回ると、液晶ポリマーフィルムと無電解めっき層との接着強度が低下し、実用性に乏しくなる傾向が見られる。
【0076】
また、熱処理時の加熱時間としては、好ましい上限値として、24時間、6時間、1時間などを例示することができる。一方、これら好ましい上限値と組み合わせ可能な好ましい下限値としては、5分、10分、15分などを例示することができる。
【0077】
したがって、本製造方法における熱処理を行うにあたっては、上記に留意し、液晶ポリマーフィルムとめっき層との接着強度が最適な値となるように、加熱温度、加熱時間を適宜組み合わせれば良い。
【0078】
なお、上記熱処理は、酸化雰囲気、不活性ガス置換雰囲気などの何れの雰囲気下で行っても良い。
【0079】
また、熱処理方法としては、具体的には、例えば、熱オーブンなどを用いてバッチ式で行う方法、加熱ロール、連続熱処理炉など用いてライン式で行う方法などを例示することができ、特に限定されることなく、種々の手法を適宜選択することが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0081】
(実施例1)
初めに、20cm×20cm×25μmの液晶ポリマーフィルム((株)クラレ製、「Vecstar FA」、融点280℃)を、紫外線表面改質装置(センエンジニアリング(株)製、「低圧水銀ランプEUV200WS」)にセットし、液晶ポリマーフィルムの表面を紫外線処理した。この際、紫外線処理の条件は、紫外線主波長184.9nm、253.7nm、紫外線照度20mW/cm、出力200W、処理時間60秒とした。
【0082】
また、紫外線処理前後における液晶ポリマーフィルムと水との接触角を、接触角計(協和界面科学(株)製、「接触角計CA−X型」)を用いて測定した。その結果、紫外線処理前の水の接触角は90.3°であり、紫外線処理後の水の接触角は36.6°であった。
【0083】
次いで、紫外線処理した液晶ポリマーフィルムの表面を、5mol/L水酸化カリウム水溶液と50℃にて10分間接触させることにより、アルカリ処理した。
【0084】
次いで、このアルカリ処理前後における液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRを、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ(株)製、「SPI3800N」)を用いて測定した。この際、測定条件は、ばね定数3N/m、走査範囲5μm×5μm角とし、5μm角の対角線(5√2μm長)の粗さ曲線からフィルム表面の算術平均粗さRを求めた。その結果、アルカリ処理前における算術平均粗さRは10.3nm、アルカリ処理後における算術平均粗さRは12.9nmであった。
【0085】
次いで、アルカリ処理した液晶ポリマーフィルムの表面に、触媒(奥野製薬工業(株)製、「OPC−50インデューサー」)を40℃で5分間付与した後、還元剤(奥野製薬工業(株)製、「OPC−150クリスター」)を用いて25℃で5分間還元処理した。
【0086】
次いで、アルカリニッケル液(奥野製薬工業(株)製、「TMP−化学ニッケル」)を用いて40℃で6分間無電解Niめっきを行い、液晶ポリマーフィルムの片側表面に厚み0.3μmの無電解Niめっき層を形成した。
【0087】
次いで、乾燥オーブンを用いて80℃で30分間乾燥させた。
【0088】
次いで、硫酸銅めっき浴を用いて電流密度2A/dmで50分間電気Cuめっきを行い、無電解Niめっき層の表面に厚み18μmの電解Cuめっき層を形成した。なお、上記硫酸銅めっき浴は、硫酸銅70g/リットル、硫酸200g/リットル、塩素イオン50mg/リットル、光沢剤(奥野製薬工業(株)製、「トップルチナSF」)5g/リットルを混合して調製したものである。
【0089】
次いで、空気循環型オーブンを用いて250℃で10分間熱処理を行った。
【0090】
これにより、液晶ポリマーフィルム(25μm)の片側表面に無電解Niめっき層(0.3μm)、電解Cuめっき層(18μm)がこの順で積層された実施例1に係る回路基板を作製した。
【0091】
(比較例1)
上記実施例1において、液晶ポリマーフィルムの表面を紫外線処理しなかった以外は同様にして、比較例1に係る回路基板を作製した。
【0092】
(比較例2)
上記実施例1において、熱処理を行わなかった以外は同様にして、比較例2に係る回路基板を作製した。
【0093】
(接着試験)
次に、得られた実施例および比較例に係る回路基板を用いて、180°ピール強度の測定を行った。
【0094】
すなわち、各回路基板を1cm幅に切り出した試料を用い、JIS C5016に準拠して、引張試験機(引張速度50mm/分)にてめっき層(電解Cuめっき層および無電解Niめっき層)を180℃はく離し、180°ピール強度を測定した。
【0095】
また、各回路基板を150℃で7日間オーブン加熱した後、同様にして、180℃ピール強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1によれば、比較例1に係る回路基板は、初期の180℃ピール強度が6N/cmを下回り、初期の接着力が低いことが分かる。これは、アルカリ処理の前に予め紫外線により表面改質しなかったため、液晶ポリマーフィルム表面の濡れ性が悪く、アルカリ処理が均一に行われなかったためであると推察される。
【0098】
また、比較例2に係る回路基板は、比較例1に係る回路基板に比較して、著しく初期の接着力が低いことが分かる。これは、熱処理を行わなかったため、フィルム表面と無電解Niめっき層との界面における官能基が増加せず、強固な化学的結合が形成されなかったためであると推察される。
【0099】
これらに対して、実施例1に係る回路基板は、図1に示すように、液晶ポリマーフィルムの表面が、従来に比較して非常に平滑であるにも係わらず、初期の180℃ピール強度が6N/cmを大きく上回り、初期接着力に優れていることが分かる。
【0100】
したがって、実施例1に係る回路基板は、微細回路の形成性に優れ、また、高い接着信頼性を有していることが分かる。
【0101】
しかも、実施例1に係る回路基板は、表1に示すように、比較例に係る回路基板に比較して、熱老化後においても初期の180°ピール強度を維持できており、長期に亘って高い接着信頼性を発揮できることが分かる。
【0102】
以上、本発明について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本実施例に係る回路基板の切断面を示す透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面に無電解めっき層、電解めっき層がこの順で積層され、前記液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRが30nm以下であり、前記めっき層の180°ピール強度が6N/cm以上あることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
液晶ポリマーフィルムの少なくとも一方面を、液体との接触角が低下するように表面改質する第1の工程と、
前記表面改質した液晶ポリマーフィルムの表面をアルカリ溶液と接触させ、前記フィルム表面が粗化されない範囲内でアルカリ処理する第2の工程と、
前記アルカリ処理した液晶ポリマーフィルムの表面に無電解めっき層を形成する第3の工程と、
前記無電解めっき層の表面に電解めっき層を形成する第4の工程とを有し、
前記第3の工程と前記第4の工程との間、および/または、前記第4の工程の後に、前記液晶ポリマーの融点以下の温度で5分間〜24時間熱処理を行うことを特徴とする回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程におけるアルカリ処理後の液晶ポリマーフィルム表面の算術平均粗さRは、30nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の回路基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−351646(P2006−351646A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173110(P2005−173110)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】