説明

回路基板および回路基板の製造方法

【課題】高い精度で形成された回路部を有する回路基板、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】絶縁性基板4は、屈曲部を有する溝部を含む。回路部1は、溝部を充填するものである。回路部1は、錫、および96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる錫合金のいずれかからなる100重量部の母材部と、母材部中に分散された5重量部以上45重量部以下の銅粒子とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板および回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平6−334305号公報(特許文献1)の技術によれば、樹脂製射出成形品の溝内に導電性金属を射出成形することにより、導電性回路が形成される。具体的には、溶融金属を射出成形することで導電性回路が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−334305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
屈曲部を有する回路が上記公報の方法によって形成される場合、屈曲部を有する溝部に溶融金属が射出成形によって充填される。この際、溶融金属は粘度が低いために慣性の影響を大きく受ける。よって溶融金属は屈曲部を流れる際に内周側に到達しにくく、この状態で溶融金属が硬化することで溝部内に未充填部が発生する。すなわち回路の屈曲部において回路の形状が乱れてしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い精度で形成された回路部を有する回路基板、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回路基板は絶縁性基板および回路部を有する。絶縁性基板は、屈曲部を有する溝部を含む。回路部は、溝部を充填するものである。回路部は、錫、および96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる錫合金のいずれかからなる100重量部の母材部と、母材部中に分散された5重量部以上45重量部以下の銅粒子とを含む。
【0007】
本発明の回路基板の製造方法は、以下の工程を有する。
屈曲部を有する溝部が形成された絶縁性基板が準備される。溝部内に射出成形によって導電性材料が充填される。導電性材料は、錫、および96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる錫合金のいずれかからなる100重量部の母材部と、母材部中に分散された5重量部以上45重量部以下の銅粒子とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回路部は、100重量部の母材部中に分散された5重量部以上45重量部以下の銅粒子を有する。銅粒子が5重量部以上であることにより、回路部が導電性材料の充填によって形成される際に、この導電性材料の粘度が高くなる。よって導電性材料が屈曲部を流動する際に受ける屈曲部の外周方向への慣性力が低減されるので、屈曲部の内周側へも導電性材料がより十分に充填される。また銅粒子が45重量部以下であることにより、導電性材料の粘度が過度に高くあることが防止されるので、絶縁性基板の溝部に沿って導電性材料をより容易に流し込むことができる。よって高い精度で形成された回路部が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態における回路基板の構成を概略的に示す部分平面図である。
【図2】図1の線II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】図2の回路部の部分拡大図である。
【図4】比較例の回路基板の構成を概略的に示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
図1〜図3を参照して、本実施の形態の回路基板10は、絶縁性基板4と、回路部1とを有する。絶縁性基板4は、屈曲部を有する溝部を含む。この屈曲部は、たとえばL字形状を有する。回路部1は、図1および図2に示すように、この溝部を充填している。
【0011】
絶縁性基板4は樹脂組成物からなる部分を有する。
回路部1は、100重量部の母材部2と、5重量部以上45重量部以下の銅粒子3とを有する。母材部2は、錫または錫合金からなる。この錫合金は、96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる。銅粒子3は母材部2に分散されている。
【0012】
好ましくは、回路部1は樹脂組成物を含有しない。
また好ましくは、銅粒子3の粒径は1μm以上10μm以下である。
【0013】
次に回路基板10の製造方法について説明する。
まず屈曲部を有する溝部が形成された絶縁性基板4が準備される。次に溝部内に射出成形によって導電性材料が充填される。すなわち加熱によって流動性が付与された導電性材料が、矢印7(図1)に示すように、溝部に沿って流し込まれる。この導電性材料は、母材部2の材料に対応する。すなわち、この導電性材料は、100重量部の母材部2と、5重量部以上45重量部以下の銅粒子3とを有する。母材部2は、錫または錫合金からなる。この錫合金は、96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる。銅粒子3は母材部2に分散されている。分散された銅粒子3は、射出成形時においても溶融されず、導電性材料の粘度を高める。
【0014】
好ましくは、この導電性材料は樹脂組成物を含有しない。
なお導電性材料の製造方法、すなわち銅粒子3を母材部2に分散させる方法としては、たとえば溶融金属の攪拌法を用いればよい。この際、少量のフラックスが配合されてもよい。
【0015】
次に比較例の回路基板10Cについて説明する。
図4を参照して、比較例の回路基板10Cの回路部1Cは、100重量部の母材部2(図3)に対する銅粒子3の配合量が5重量部より少ない。このため回路部1の形成工程において、銅粒子3による導電性材料の増粘効果が十分に得られない。このため矢印7C(図4)に示すように導電性材料が流し込まれる際に、絶縁性基板4の溝部の屈曲部において、内周側に未充填部6が発生しやすい。
【0016】
これに対して本実施の形態によれば、回路部1は、100重量部の母材部2中に分散された5重量部以上の銅粒子3を有する。これにより回路部1が導電性材料の充填によって形成される際に、この導電性材料の粘度が高くなる。よって導電性材料が屈曲部を流動する際に受ける屈曲部の外周方向への慣性力が低減されるので、導電性材料が屈曲部の内周側へ、より十分に充填される。
【0017】
また銅粒子3の配合量は100重量部の母材部に対して45重量部以下とされる。これにより回路部1が導電性材料の充填によって形成される際に、この導電性材料の粘度が過度に高くなることが防止されるので、絶縁性基板の溝部に沿って導電性材料をより容易に流し込むことができる。
【0018】
上記のように、導電性材料が、屈曲部の内周側へも十分に充填され、かつ絶縁性基板の溝部に沿って容易に流し込まれるので、屈曲部を有する回路部1を高い精度で形成することができる。
【0019】
このように回路部1が高い精度で形成されるので、回路部1の幅が局所的に設計値よりも小さくなってしまうことが抑制される。よって回路基板10の耐久性が向上する。
【0020】
さらに、銅粒子3の粒径が10μm以下である場合、導電性材料の粘度をより確実に高めることができる。また銅粒子3の粒径が1μm以上である場合、銅粒子3の取扱いが容易となり、また銅粒子3が酸化される程度が抑制される。
【0021】
また銅粒子3の材料である銅の比重は、母材部2の材料である錫または上記錫合金の比重に近い。このため、銅粒子3は母材部2中に分散されやすい。よって回路基板10を安定的に製造することができる。
【0022】
また母材部2をなす錫または上記錫合金中の錫と、銅との間で、たとえばCu3SnまたはCu6Sn5といった金属間化合物が生成されやすい。よってこのような金属化合物が銅粒子3の表面上において生成することで、母材部2に対する銅粒子3の濡れ性が向上するので、銅粒子3は母材部2中に分散されやすい。よって回路基板10を安定的に製造することができる。
【0023】
また絶縁性基板4に使用する樹脂組成物の線膨張係数が20×10-6/℃程度であるのに対し、母材部2をなす錫または上記錫合金のそれぞれの線膨張係数は23×10-6/℃および22×10-6/℃であって、上記樹脂組成物の線膨張係数よりも大きい。一方、銅粒子3の線膨張係数は17×10-6/℃であって、上記樹脂組成物の線膨張係数よりも小さい。よって母材部2に対する銅粒子3の配合量を調整することにより、絶縁性基板4と回路部1との各々の線膨張係数を近づけることが可能となる。これにより、回路基板10の温度が変化した際に、線膨張係数の差に起因する歪みによって回路部1が絶縁性基板4から分離してしまうことを抑制できる。
【0024】
なお仮に母材部2の材料にビスマスが用いられた場合、ビスマスの線膨張係数が13×10-6/℃であって上記樹脂組成物および銅粒子3の各々の線膨張係数よりも小さいため、上記手法によって絶縁性基板4および回路部1の各々の線膨張係数を近づけることができない。
【0025】
また錫または上記錫合金のそれぞれの融点は、232℃および220℃であって、ビスマスの融点271℃よりも低い。このため絶縁性基板4に使用できる絶縁性の樹脂組成物の選択肢が多くなる。
【0026】
また回路部1が樹脂組成物を含有しない場合、回路部1が樹脂組成物を含有する場合に比して、回路部1の配線抵抗を低減することができる。これにより回路基板10を用いた機器のエネルギー消費量を低減することができる。また回路部1が再生材料として使用される場合に、樹脂組成物を除去することなく回路部1を金属の再生材料として使用可能であり、また材料の分別の容易性が向上する。
【0027】
次に未充填部6(図4)の発生の本実施の形態による抑制効果を検証するために、錫または上記錫合金からなる100重量部の母材部2(図3)に対する銅粒子3の配合量を0、5および45重量部として、回路基板を作製した。そして各回路基板における未充填部6の有無が確認された。以下にその結果を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示す結果より、100重量部の母材部に対して5重量部以上45重量部以下の銅粒子3が配合されることによって未充填部6の発生が抑制されることが検証された。
【0030】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、回路基板および回路基板の製造方法に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0032】
1 回路部、2 母材部、3 銅粒子、4 絶縁性基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲部を有する溝部を含む絶縁性基板と、
前記溝部を充填する回路部とを備え、
前記回路部は、
錫、および96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる錫合金のいずれかからなる100重量部の母材部と、
前記母材部中に分散された5重量部以上45重量部以下の銅粒子とを含む、回路基板。
【請求項2】
前記絶縁性基板は樹脂組成物を含む、請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記回路部は樹脂組成物を含有しない、請求項1または2に記載の回路基板。
【請求項4】
屈曲部を有する溝部が形成された絶縁性基板を準備する工程と、
前記溝部内に射出成形によって導電性材料を充填する工程とを備え、
前記導電性材料は、
錫、および96.5重量%の錫と3重量%の銀と0.5重量%の銅とからなる錫合金のいずれかからなる100重量部の母材部と、
前記母材部中に分散された5重量部以上45重量部以下の銅粒子とを含む、回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁性基板は樹脂組成物を含む、請求項4に記載の回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記導電性材料は樹脂組成物を含有しない、請求項4または5に記載の回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−219278(P2010−219278A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64150(P2009−64150)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】