説明

回路基板及びその製造方法

【課題】織物の特性を悪化させることなく従来の織物と容易に組み合わせることができる回路基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電気絶縁材料で覆われた導電糸3と前記導電糸よりも大きな引張強さを有する非導電糸2とを網目幅5で、かつ、導電糸3の間隔6が網目幅5より大きな幅で織り合わすことにより、少なくとも導電糸3が縦糸及び横糸として配列された規則的な網目構造を有する織物1を形成し、高柔軟性回路基板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電糸と導電糸とを含む高柔軟性回路基板に関する。さらに、本発明は、非導電糸と導電糸とを含む高柔軟性回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活における電気機器の使用がますます増加している。多くの人々は、携帯電話、PDAまたはMP3プレーヤを常に携帯している。機器の小型化とは別に、機器の機能を織物に組み込むための多くの試みがなされている。例えば、織物に電気・電子的機能を持たせる。ただし、着心地などの織物の基本特性に実質的に影響を与えないことが非常に重要である。
【0003】
国際公開第WO 03/052541 A2号及び米国特許出願公開第2002/0259391 A1号は、導電線を有する織物を開示している。これらの導電線は、IC等の電気部品を接続または結合するために選択的に織物に組み込まれている。従来の織物においては、導電線は所定の位置のみに設けられ、特定の用途のみに最適となるように配列されている。導電線は、電子工学で浮動配線(flying wiring)として知られているようにポイント・ツー・ポイント接続を構成する。従って、新しい機能を織物に組み込む場合には、適切な導電線を有する新たな織物を製造する必要がある。そのため、導電線は、例えばインプリント(imprint)または縫い込みによって織物に塗布または組み込まれる場合が多い。しかし、この工程は非常に手間がかかる。また、製造した回路は耐性に欠ける場合が多く、短時間で正常に機能しなくなってしまう。
【0004】
従来のプリント回路基板あるいは回路基板は、限定的にしか織物に組み込むことができない。従来のプリント回路基板あるいは回路基板は柔軟性に欠け、剛性を有する。従来のプリント回路基板を使用して機能を織物に組み込む場合、織物は着心地などの特性を失ってしまう。同様に、フィルム回路基板などのその他の回路基板も限定的にしか織物に組み込むことができない。従来の剛性を有するプリント回路基板よりは改善されるものの、フィルムも織物の特性を悪化させてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、織物の特性を悪化させることなく従来の織物と容易に組み合わせることができる回路基板及びその製造方法を提供する目的に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記目的は、独立請求項に定義された回路基板及びその製造方法によって達成される。好ましい実施形態は各従属請求項に記載されている。
【0007】
高柔軟性回路基板において、非導電糸と電気絶縁材料で覆われた導電糸とが織物として織り合わせられ、少なくとも導電糸が縦糸及び横糸として配列され、織物全体で規則的な網目構造を形成している。また、非導電糸は導電糸よりも大きな引張強さを有する。
【0008】
本発明の基本的な着想は、各用途のために特定の導電線を織物に組み込んだり、塗布したりせず、従来の織物と組み合わせられる織物状の回路基板を使用するという点にある。この回路基板は、回路基板全体を延びる導電糸の均一な分布を有する。導電糸を縦糸及び横糸として使用しているため、回路基板全体を延びるグリッドが形成される。導電糸からなる横糸と縦糸を接続することによって、配線をさらに設けることなく回路基板の2つの任意に選択された点を接続することができる。望ましくない接続は絶縁体によって防止される。このようにして、従来のプリント回路基板と同様に、電気・電子部品を配置し、それらを接続するために高柔軟性回路基板を使用することができる。
【0009】
本発明の別の基本的な着想は、非導電糸と導電糸が異なる引張強さを有するという点である。非導電糸が大きな引張強さを有することによって、応力が回路基板に与えられた時に生じる引張力から導電糸を十分に保護することができる。その結果、導電糸の断線や、導電糸によって構成された接続の電気的遮断が防止される。多くの場合、電気的遮断によって回路基板上に実現された回路の不具合が発生する。
【0010】
本発明に係る回路基板は織り合わされた糸からなるため、回路基板は高い柔軟性を有する。折り曲げ性、重量、その他の挙動に関しては、回路基板は従来の織物と同様な特性を有する。従って、回路基板は織物との組み合わせに非常に適している。
【0011】
原則として、非導電糸と導電糸は任意の直径を有することができる。ただし、非導電糸と導電糸が0.5〜500μmの直径を有することが特に有利である。そのような細い糸を使用することによって、極めて柔軟な回路基板が得られる。従って、回路基板に接続された織物の特性が影響を受けることはない。糸の直径をさらに減少させると導電糸の抵抗値が高くなるため、回路を形成する際に考慮しなければならない。
【0012】
本発明によれば、織物が1μmから1mmの網目幅と1μmから1mmの厚みを有することが特に有利である。そのような小さな網目幅によって、横糸方向と縦糸方向で十分な数の導電線を利用できる。その結果、電気部品の非常に複雑な回路でも最小のスペースで実現することができる。本発明に係る回路基板は小さな厚みを有するため、基板に接続された織物の特性が影響を受けることはない。特定の用途では、より大きなあるいはより小さな網目幅または厚みを採用することもできる。
【0013】
また、網目幅、糸の直径、厚みが小さいため、織物は非常に織り目が細かい。そのため、回路基板を柔軟に使用することができる。回路基板は、問題を生じさせたり、着用者に不快感や負の作用を意識させることなく、衣類のライニングに配置することができる。
【0014】
例えば、導電糸は導電プラスチック材料などによって形成することができる。好ましい実施形態では、糸はコアを有する。この場合、銅は貴金属よりも電気伝導性が高く、安価なため、コアとして特に好適である。コアに適したその他の材料としては、例えば、黄銅、アルミニウム、ポリピロール、電導性プラスチックが挙げられる。比抵抗が小さいと回路基板に有利である。これは、回路基板が温まってはならないことと、織物とともに使用される場合には限られた電力を有する携帯エネルギー源しか利用できない場合が多いためである。
【0015】
本発明によれば、導電糸のコアを銀及び/または金で被覆することによって、導電性を大きく向上させることができる。その結果、コアを例えば酸化から保護することができる。また、得られる導電糸の導電性がさらに向上し、長い導電線におけるエネルギー損失はほとんど発生しない。さらに、各導電糸の点接続における接触性を大きく改善することができる。
【0016】
導電糸は横糸及び縦糸として使用される。導電糸が交点で互いに接続され、電気的に導通することを防止するために、導電糸は絶縁体を有する。絶縁体は、プラスチック材料、より詳細にはポリエチレン、ポリウレタン、ポリエステルまたはポリアミドからなることが好ましい。プラスチックは、例えばレーザーによって容易に除去することができるという利点を有する。これによって、2本の導電糸間の所望の点接続を形成することができる。絶縁体として、その他の材料も使用することができる。好ましくは、製造時に容易に導電糸を被覆することができ、その後所定の点で問題を生じることなく除去することができる材料を使用する。
【0017】
基本的には、回路基板はモノフィラメント糸からなることができる。ただし、強度を向上させるためには、非導電繊維及び/または導電繊維からなるマルチフィラメント糸を織物が有することが有利である。これによって、簡単に回路基板の構造を変化させることができる。同様に、特定の方向において引張強さに影響を及ぼすことができる。また、モノフィラメント糸とマルチフィラメント糸を組み合わせることもできる。
【0018】
特に好ましい実施形態では、導電糸によって形成された回路基板の網目構造は、横糸方向と縦糸方向で同じ間隔を有する。好ましくは、間隔は5μmから4mmである。一定の等しい間隔とすることによって、導電糸の規則的なグリッドを形成することができる。そのため、回路基板上の回路や様々な部品の配置を自動的に決定するコンピュータープログラムの開発が容易となる。グリッドのサイズを好ましい範囲とすることによって、必要数の導電糸を必要数の強度を与える非導電糸と組み合わせることができる。グリッドは非常に微細なため、十分な数の導電糸を利用することができ、複雑な回路を実現することができる。
【0019】
回路基板の強度を十分に高めるためには、製造する織物に導電糸よりも多くの非導電糸を設けることが有利である。導電糸と非導電糸の関係は、各用途に応じて調整することができる。例えば、多くの導電線を必要とする複雑な回路を実現する場合には、多くの導電糸を織物に編み合わせることができる。非導電糸の数を増加させると、回路基板はより高い引張強さを有し、より強固になる。
【0020】
特に好ましい実施形態では、導電糸の少なくとも1本と導電接触するように少なくとも1つのアダプター部材が回路基板上に実装されている。また、電気及び/または電子部品がアダプター部材上に実装されている。アダプター部材が必要な理由は、織物の織り目が非常に細かいため、部品と導電糸の直接的な接触がほぼ不可能であるためである。アダプター部材によって、1本の導電糸のみを接触させることができ、ショートを引き起こし得る二重接触または接触不良を防止することができる。電子部品は問題なくアダプター部材に実装することができる。また、部品よりも大きな回路基板との接触面を有するアダプター部材によって、電子部品はより良好に回路基板と接続される。
【0021】
また、本発明によれば、少なくとも2層からなる織物であって、少なくとも1層が本発明に係る回路基板からなる織物が提供される。この組み合わせによって、織物の特性を失わせることなく織物に電子的機能を組み込むことができる。本発明に係る回路基板は、例えば織物に積層(ラミネート)することによって織物と接続することができる。また、電子部品の回路を有する本発明に係る回路基板は、複数の層からなる織物のライニングに組み込むことができる。
【0022】
織物の少なくとも1つの層がフィルム、織物またはフェルトからなることが特に好ましい。この層は、高柔軟性回路基板の担体材料として機能することができる。用途に応じて、織物は複数の層または上記2層のみからなる。有利には、織物は少なくとも3層からなり、中間層は回路基板によって構成され、回路基板を保護するように配置される。
【0023】
本発明に係る高柔軟性回路基板の製造方法において、非導電糸と電気絶縁材料で覆われた導電糸とを織物として織り合わせ、少なくとも導電糸を縦糸及び横糸として配列し、織物全体で規則的な網目構造を形成する。
【0024】
この方法によって、上述した高柔軟性回路基板を簡単かつ信頼性のある方法で製造することができる。原則として、回路基板は従来の織機を使用して製造することができる。ただし、使用される糸の細さと小さな網目幅を考慮すると、使用する織機はこの目的のために最適化することが好ましい。
【0025】
所望の線構造を形成するためには、所定の導電糸を切断または接続する。2本の導電糸を接続するためには、2本の糸の交点において例えばレーザーを使用して絶縁体を蒸発させることによって絶縁体を除去する。次に、例えば導電接着剤によって、絶縁体が除去された点で2本の糸を接続する。接続点を保護するために、プラスチックによって接続点を固めることができる。導電糸の切断もレーザーによって行うことができる。導電糸の切断した端部が接触することを防止するために、切断点において両端に絶縁性プラスチックを塗布する。回路基板の安定性が切断によって減少するため、絶縁性プラスチックを両端を包み込むように塗布することが有利である。このようにして、安定性が再び向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る回路基板1の概略図である。回路基板1は、非導電糸2と導電糸3とを含む。図1では、非導電糸2は灰色で示し、導電糸3は黒色で示している。非導電糸2と導電糸3は規則的なグリッドを形成している。非導電糸2と導電糸3で形成された織物は、一定の網目幅5を有する。
【0028】
回路基板1には導電糸3よりも多くの非導電糸2が織り込まれているため、導電糸3間の間隔6は網目幅5よりも大きくなっている。この場合の比率は3:1である。編み合わされた非導電糸2の数が多いほど、回路基板1を構成する織物の引張強さは大きくなる。
【0029】
導電糸3は、金薄膜または銀薄膜で被覆された銅コアからなる。このようにして製造した糸は、絶縁層で被覆される。導電糸3に絶縁層を設けることによって、2本の導電糸3の交点4で導電糸3が電気的に接触することはない。
【0030】
図2は、本発明に係る回路基板1上における2つの電気部品11の基本的な配置を示す。図2では便宜的に導電糸3のみを示し、非導電糸2は省略している。所望の導電線を形成するために、2本の導電糸3の絶縁体を所定の交点4でレーザーによって除去する。次に、2本の導電糸3の絶縁体を除去した部分を、導電接着剤またはスズによるはんだ付けによって導電接続する。このようにして、2本の導電糸3間に導電接続点14が形成される。形成された導電線を空間的に制限するために、適当な点で切断部15によって導電糸3を切断することができる。切断部はレーザーによって形成することができる。
【0031】
各電気部品10は接続部12を有する。接続部12は、各導電糸3に接続される。そのため、上述したように、所定の点で導電糸3の外側絶縁体を除去する。所定の点は交点であることが好ましい。これらの接続点を、導電性接着剤によって接続部12の接続点と導電接続する。この工程は、電気部品11の各接続点に対して行う。
【0032】
非常に微細な回路基板1上での部品11の位置合わせを容易にするために、図3ではアダプター部材21が設けられている。間隔6が非常に小さい場合、アダプター部材21は好ましくは部品11よりも大きな寸法を有するように設計されているため、アダプター部材21によって所望の点での正確な位置合わせが容易となる。アダプター部材21を使用することによって、回路基板1とのより良好な物理的接続が達成される。アダプター部材21の別の利点は、アダプター部材21を使用される回路基板1と間隔6に正確に適合させることができることであり、本発明に係る回路基板1を使用して回路を容易に形成することができる。部品11が固定されるアダプター部材21の上面も、特定の電気部品11に適合させることができる。電気または電子部品11は問題なくアダプター部材21上に配置することができる。
【0033】
図4に示すように、回路を形成するために回路基板1のすべての導電糸3が必要であるというわけではない。なお、図4でも導電糸3のみを示している。図4では、使用されている導電糸22を灰色で示している。回路基板1の図示する部分では、2つの部品11がアダプター部材21を使用して回路基板1に実装されている。部品11と回路基板1との間の接続点を直線的にするために、アダプター部材21は、接続部12から回路基板1との各接続点に延びるライン24を有する。
【0034】
また、図4に示すように、導電糸3の切断部は常に必要であるというわけではない。導電糸3を工夫して使用することによって、切断部を完全に不要とすることもできる。その場合、本発明に係る回路基板1を使用した回路の製造では一製造工程を省略することができ、より費用対効果に優れた方法でより安定して製造を行うことができる。
【0035】
導電糸と非導電糸からなる本発明に係る回路基板によって、従来のプリント回路基板と同様に使用でき、織物と組み合わせた場合に織物(担体材料)の特性に影響を与えたり、悪化させたりすることのない部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】導電糸と非導電糸とを含む本発明に係る回路基板を示す。
【図2】本発明に係る回路基板上に配置された2つの電気部品の接続を示す。
【図3】本発明に係る回路基板へのアダプター部材を使用した電気部品の配置を示す。
【図4】2つの電気部品が実装された本発明に係る回路基板を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非導電糸と、電気絶縁材料で覆われた導電糸とが織物として織り合わせられた高柔軟性回路基板であって、少なくとも前記導電糸が縦糸及び横糸として配置され、前記織物全体で規則的な網目構造を形成しており、前記非導電糸が前記導電糸よりも大きな引張強さを有する回路基板。
【請求項2】
請求項1において、前記非導電糸と前記導電糸が0.5〜500μmの直径を有する回路基板。
【請求項3】
請求項1において、前記織物が1μmから1mmの網目幅と1μmから1mmの厚みを有する回路基板。
【請求項4】
請求項1において、前記導電糸が、銅、黄銅、アルミニウムまたはポリピロールからなるコアを有する回路基板。
【請求項5】
請求項4において、前記導電糸の前記コアが銀及び/または金で被覆されている回路基板。
【請求項6】
請求項1において、前記導電糸を覆っている前記電気絶縁材料がポリエチレン、ポリウレタン、ポリエステルまたはポリアミドのプラスチックを含む回路基板。
【請求項7】
請求項1において、前記織物が、モノフィラメント糸及び/またはマルチフィラメント糸を含み、前記マルチフィラメントが非導電繊維及び/または導電繊維からなる回路基板。
【請求項8】
請求項1において、前記導電糸によって形成された前記網目構造が前記横糸方向と前記縦糸方向で同じ間隔を有し、前記間隔が5μmから4mmである回路基板。
【請求項9】
請求項1において、前記織物が導電糸よりも多くの非導糸を含む回路基板。
【請求項10】
請求項1において、少なくとも1つのアダプター部材が前記導電糸の少なくとも1本と導電接触するように設けられ、少なくとも1つの電気部品及び/または電子部品が前記アダプター部材上に実装されている回路基板。
【請求項11】
少なくとも2層からなる織物であって、少なくとも1層が請求項1に記載の回路基板からなる織物。
【請求項12】
請求項11において、前記少なくとも1層がフィルム、織物またはフェルトからなる織物。
【請求項13】
高柔軟性回路基板、特に請求項1〜10のいずれか1項に記載の高柔軟性回路基板の製造方法であって、非導電糸と電気絶縁材料で覆われた導電糸とを織物として織り合わせ、少なくとも前記導電糸を縦糸及び横糸として配置し、前記織物全体で規則的な網目構造を形成する方法。
【請求項14】
請求項13において、所定の導電糸を接続及び/または切断することによって所望の線構造を形成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−332647(P2006−332647A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−134223(P2006−134223)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(506161108)シーファー アーゲー (3)
【氏名又は名称原語表記】SEFAR AG
【Fターム(参考)】