説明

回路基板防水剤、防水部材、防水処理された回路基板および防水処理方法

【課題】十分な防水性と電気絶縁性とともに、無溶剤で、速い放射線硬化性を有し、作業性が良好な回路基板防水剤を提供。
【解決手段】下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、(A)式(1)で表される構造を有する化合物5〜50質量部


[Rは、水素原子又はメチル基、*印は結合手。](B)エチレン性不飽和基を1個有する化合物30〜90質量部、(C)放射線ラジカル重合開始剤0.01〜10質量部、(D)マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カルシウム及び希土類元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物、水酸化物又は塩0.01〜5質量部含有する回路基板防水剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器類の電子回路を構成している回路基板を防水する目的で用いられる放射線硬化性液状組成物である回路基板防水剤、その硬化物である防水部材、防水処理された回路基板および防水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家電機器、電子情報機器、各種機械の電子制御機器や自動車用電子機器内の回路基板は、使用環境によっては結露したり水滴が付着して電気絶縁性が低下する場合があるため、電気絶縁性を有する材料を用いた防水処理や防滴処理(本発明では、総合して防水処理という。)がなされる場合が多い。
従来の防水処理では、有機溶剤で希釈された熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を、スプレー塗装等の方法で回路基板の表面に塗布し、乾燥工程を経て有機溶剤を除去することにより、防水用の被膜を形成させている。
このような防水処理では、有機溶剤を除去するための乾燥工程に長時間を要するほか、作業環境の安全性の問題があるため、無溶剤で速い硬化性を有する回路基板防水剤が求められていた。
【0003】
一方、無溶剤の紫外線硬化性組成物である回路基板防水剤も知られている。特許文献1には、高粘度で液だれの少ないエポキシ系塗料・ポリブタジエン系塗料である紫外線硬化型塗料を用いた電子回路の防水処理方法が記載されている。特許文献2および3には、特定の(メタ)アクリレート化合物を配合したラジカル重合性のプリント基板用防水塗料が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1には組成物の具体的内容については開示されておらず、特許文献2および3に記載の紫外線硬化性塗料は紫外線硬化反応のみにより硬化するため、回路基板上の凹凸により紫外線が照射されない影の部分については、硬化が不十分となり、その部分の防水性能、電気絶縁性が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−17990号公報
【特許文献2】特開平08−67832号公報
【特許文献3】特開平08−104826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、十分な防水性と電気絶縁性を有するとともに、無溶剤で、速い放射線硬化性を有することにより、防水処理の作業性が良好な回路基板防水剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、従来の非硬化性材料や熱硬化性樹脂からなる回路基板防水剤に代わる回路基板防水剤を開発すべく、種々検討した結果、特定の構造を有する化合物と、エチレン性不飽和基を1個有する化合物、放射線重合開始剤、及び特定の金属塩を組み合せて用いれば、作業性が良好で、十分な防水性を有する放射線硬化性の回路基板防水剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を、
成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、
(A)下記式(1)で表される構造を有する化合物 5〜50質量部
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中のRは、水素原子又はメチル基を示し、*印は結合手であることを示す。]、
(B)エチレン性不飽和基を1個有する化合物 30〜90質量部、
(C)放射線ラジカル重合開始剤 0.01〜10質量部、
(D)マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カルシウム及び希土類元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物、水酸化物又は塩 0.01〜5質量部
含有する回路基板防水剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、前記回路基板防水剤を硬化して得られる防水部材、及び当該防水部材によって防水処理された回路基板を提供するものである。
また、本発明は、回路基板を防水処理する方法であって、回路基板の一部又は全体に前記回路基板防水剤を付着させる防水剤付着工程と、該回路基板の回路基板防水剤が付着した領域に放射線を照射する工程を含む防水剤硬化工程とを有する、回路基板の防水処理方法を提供するものである。
【0012】
本発明において、回路基板とは、プリント基板等の電気回路・電子回路が設けられた基板をいい、電気回路や電子回路がアナログ回路であるかデジタル回路であるかを問わない概念である。また、回路基板防水剤とは、回路基板の全部または一部を防水する防水部材を形成するための組成物であって、ICやLSI等の集積回路チップや電気抵抗等の個々の電気回路部品の防水剤は含まれない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の回路基板防水剤を用いれば、紫外線等の放射線照射による硬化反応と紫外線照射を要しない硬化反応の併用により、電気回路部品の隙間等の放射線が直接到達しない領域についても効果的に硬化させることができるため、簡便に防水性に優れた防水処理を行うことができる。具体的には、放射線を照射しなくても室温で優れた硬化性を有し(暗部硬化性)、窒素等の不活性ガス環境下でなく空気中で放射線を照射した場合にも空気界面における硬化性が高い(表面タック性)。さらに、回路基板防水剤として好適なヤング率、破断強度、破断伸びの各特性を有している。
また、低粘度の液状組成物であるため、回路基板上に設けられた集積回路チップや電気抵抗等の個々の電気回路部品の隙間や複数の回路基板相互間の隙間等に、毛管現象により回路基板防水剤が容易に浸入して、効果的な防水処理が可能となる。
本発明の回路基板防水剤は、回路基板やケーブルの防水処理に用いられる防水部材を形成するための材料である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.回路基板防水剤:
成分(A)は、上記式(1)で表される構造を有する化合物である。成分(A)は、式(1)で表される構造を有することにより、成分(D)の存在下に成分(A)を酸素分子と反応させて成分(A)の異なる分子間又は成分(A)の同一分子内で架橋反応を進行させることが可能である。このため、成分(A)を配合することにより、放射線硬化反応に加えて、配線等により放射線照射の影になる部分であっても、組成物の硬化反応を良好に進行させることができる。
【0015】
また、上記式(1)は、下記式(2)であることが好ましい。
*−CH=CR−CH2−* (2)
[式(2)のRは、水素原子又はメチル基を示し、*印は結合手であることを示す。]
【0016】
成分(A)の具体例としては、共役ジエン化合物の(共)重合体、前記式(1)で表される構造を有するジオール、前記式(1)で表される構造を有するウレタン(メタ)アクリレート、アリル基を有する化合物等が挙げられる。
【0017】
共役ジエン化合物の(共)重合体の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の重合体が挙げられる。共役ジエン化合物が重合すると、式(1)で表される構造を有する重合体となる。ここで、ポリブタジエンは、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン又は1,4−結合及び1,2−結合を一分子中に有するポリブタジエンである。
【0018】
前記式(1)で表される構造を有するジオールの具体例としては、両末端に水酸基を有するポリブタジエン(以下、「ポリブタジエンジオール」という。)、両末端に水酸基を有するイソプレン(以下、「ポリイソプレンジオール」という。)等の両末端に水酸基を有する共役ジエン化合物の(共)重合体が挙げられる。
【0019】
前記式(1)で表される構造を有するウレタン(メタ)アクリレートの具体例としては、式(1)で表される構造を有するジオール、(b)ポリイソシアネート及び(c)水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させることにより製造されるウレタン(メタ)アクリレート、又は、(a)ジオール、(b)ポリイソシアネート、(c)水酸基含有(メタ)アクリレート並びに(d)水酸基及びアリル基を有する化合物を反応させることにより製造されるウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。成分(A)が前記式(1)で表される構造を有するウレタン(メタ)アクリレートである場合には、(メタ)アクリロイル基を有しているため、成分(C)の存在下に放射線を照射することにより、ラジカル硬化反応も進行させることができる。
【0020】
ここで、(a)ジオールとしては、例えばポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンジオールおよびその他のジオールが挙げられる。
ポリエーテルジオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリヘプタメチレングリコール、ポリデカメチレングリコールあるいはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブテン−1−オキシド等の二種以上のイオン重合性環状化合物を開環共重合させて得られる脂肪族ポリエーテルジオール等が挙げられる。
ポリエステルジオールとしては、例えば二価アルコールと二塩基酸とを反応して得られるポリエステルジオールなどが挙げられる。上記二価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等が挙げられる。二塩基酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマール酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸を挙げることができる。
また、ポリカーボネートジオールとしては、例えばポリテトラヒドロフランのポリカーボネート、1,6−ヘキサンジオールのポリカーボネート等が挙げられる。
ポリカプロラクトンジオールとしては、例えばε−カプロラクトンと、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,2−ポリブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール等の2価のジオールとを反応させて得られるポリカプロラクトンジオールが挙げられる。
また、式(1)で表される構造を有するジオールとしては、ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール等が挙げられる。
【0021】
(b)ポリイソシアネート、特にジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,5(又は2,6)−ビス(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等が挙げられる。特に、2,4−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等が好ましい。これらのポリイソシアネートは、単独あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(c)水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンポリオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの水酸基含有(メタ)アクリレートは、単独あるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
また、アルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有化合物と、(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる化合物を使用することもできる。
これら水酸基含有(メタ)アクリレートのうち、特に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が好ましい。これらの、水酸基含有(メタ)アクリレート化合物は、単独であるいは二種類以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
(d)水酸基及びアリル基を有する化合物としては、例えばトリメチロールプロパンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等(ダイソー株式会社、Perstorp株式会社)を挙げることができる。これらの中では、水酸基及び2個以上のアリル基を有する化合物が好ましい。
【0024】
これらの化合物の反応においては、例えばナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100質量部に対して0.01〜1質量部用いるのが好ましい。
また、反応温度は、通常10〜90℃、特に30〜80℃で行うのが好ましい。
【0025】
アリル基(CH2=CH−CH2−で表される基)を有する化合物の具体例としては、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等(ダイソー株式会社、Perstorp株式会社)を挙げることができる。これらの中では、ジアリルフタレート等の2個以上のアリル基を有する化合物が好ましく、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等の水酸基及び2個以上のアリル基を有する化合物がさらに好ましい。アリル基を2個以上有することにより成分(D)の存在下においてより効率的に架橋反応を進行させることができる。
【0026】
成分(A)は、組成物粘度および硬化物の機械的特性との関係から、回路基板防水剤の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、5〜50質量部、好ましくは10〜40質量部配合される。成分(A)の配合量が上記範囲であることにより、組成物の粘度が低く抑えられるため、導体である複数の銅線等の隙間や導体とその被覆層との隙間、ケーブルの回路基板とシースとの隙間や複数の回路基板相互間の隙間等に、毛管現象により回路基板防水剤が容易に浸入して、効果的な防水処理が可能となる。
【0027】
成分(B)である、エチレン性不飽和基を1個有する化合物は、ラジカル重合性単官能化合物である。成分(B)を用いることにより、硬化物のヤング率が過度に高くなることを防止して、効果的な防水処理を行うことができる。
【0028】
成分(B)の具体例としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂肪族系構造含有(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族系構造含有(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレン構造含有(メタ)アクリレート;N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニル基含有ラクタム;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系化合物;さらに、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテルを挙げることができる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。これらの中では、脂肪族系構造含有(メタ)アクリレート、脂環式構造含有(メタ)アクリレート、芳香族系構造含有(メタ)アクリレートが好ましい。
【0029】
成分(B)の市販品として、アロニックスM111、M113、M114、M117(以上、東亞合成社製);KAYARAD、TC110S、R629、R644(以上、日本化薬社製);IBXA、ビスコート3700(大阪有機化学工業社製)等が挙げられる。
【0030】
(B)エチレン性不飽和基を1個有する化合物は、回路基板防水剤の粘度が過大になることを抑制し、硬化物(防水部材)の機械的特性特に破断伸びが過少になることを抑制するため、回路基板防水剤の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、30〜90質量部、好ましくは40〜80質量部、より好ましくは45〜75質量部配合される。
【0031】
本発明においては、任意成分として、(E)成分(A)以外のエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物を含有することもできる。かかる化合物は、ウレタン(メタ)アクリレート以外の重合性多官能性化合物である。ただし、成分(E)を多量に配合すると硬化物のヤング率が過大となって、効果的な防水処理をすることが困難となる場合がある。このため、成分(E)の配合量は、回路基板防水剤の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、0〜10質量部、さらには0〜5質量部とすることが好ましい。特に、成分(E)をまったく配合しないことが好ましい。
【0032】
成分(E)としては、特に限定されないが、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、1,4−ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加体、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のポリオールのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル物等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0033】
成分(C)である放射線ラジカル重合開始剤としては、放射線を吸収してラジカル重合を開始させる化合物であれば特に限定されないが、その具体例としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォフフィンオキシド等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
成分(C)の市販品としては、例えば、IRGACURE184、369、651、500、907、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61;Darocure1116、1173(以上、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製);LucirinTPO(BASF社製);ユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0035】
(C)放射線重合開始剤は、回路基板防水剤の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部配合される。
【0036】
また、光増感剤を用いることもでき、例えばトリエチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル;ユベクリルP102、103、104、105(以上、UCB社製)等が挙げられる。
【0037】
成分(D)は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カルシウム及び希土類元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物、水酸化物又は塩である。これらの金属元素の中では、コバルト又はマンガンが好ましい。
成分(D)は、酸素分子の存在下において成分(A)相互間の架橋反応を促進することができる。この反応は、成分(D)が酸化触媒となって、成分(A)が有する前記式(1)で表される構造の二重結合を酸化して架橋反応を促進すると推定される。この反応には放射線照射を要しないため、成分(D)を配合することによって、回路基板上の凹凸により遮られて放射線が照射されない影の部分についても、確実に硬化反応を進行させることができる。
【0038】
前記金属元素の酸化物の具体例としては、酸化モリブデン(MoO2)、酸化コバルト(CoO)、酸化鉛(PbO)などが挙げられる。
前記金属元素の水酸化物の具体例としては、水酸化コバルト(Co(OH)2)、水酸化鉛(Pb(OH)2)などが挙げられる。
【0039】
前記金属元素の塩の具体例としては、有機金属塩が好ましく、カルボン酸の金属塩がさらに好ましい。カルボン酸の金属塩としては、当該カルボン酸が炭素数3〜23のものであることが好ましい。かかるカルボン酸の具体例としては、プロピオン酸、アクリル酸、酪酸、メタクリル酸、吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、2ーエチルヘキサン酸、デカン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、ナフテン酸、安息香酸などが挙げられる。成分(D)がカルボン酸の金属塩であることにより、組成物中の相溶性が向上して成分(D)を組成物中に均一に分散させることができる。
ここで、ナフテン酸とは、シクロパラフィン構造を有する飽和脂肪酸の総称であり、シクロペンタン構造を有する飽和脂肪酸やシクロヘキサン構造を有する飽和脂肪酸が含まれていることが好ましい。ナフテン酸金属塩の具体例としては、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸銅、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸鉄、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸と希土類金属元素の塩等を挙げることができる。これらのナフテン酸金属塩のうち、ナフテン酸マンガンが好ましい。
これらの金属化合物は、1種単独で、または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0040】
成分(D)は、回路基板防水剤の成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、0.01〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部、より好ましくは0.3〜2質量部配合される。成分(D)の配合量がこれらの範囲内であれば、熱硬化反応性が良好であるので、暗部硬化性が向上し、効果的な防水処理をすることができる。
【0041】
本発明の回路基板防水剤には、必要に応じて、本発明の特性を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を配合することができる。
【0042】
本発明の回路基板防水剤は、前記成分(A)〜(D)を含有する液状硬化性組成物であり、各成分を混合し、均一な溶液になるまで撹拌して製造することができる。撹拌するときの組成物の温度は、20〜60℃が好ましい。
【0043】
溶媒を配合する場合における溶媒(F)の配合量は、成分(A)〜(D)の合計量100質量部に対して、1〜10,000質量部であることが好ましく、10〜1,000質量部であることがさらに好ましく、30〜300質量部であることが特に好ましい。
【0044】
本発明の回路基板防水剤の25℃における粘度は、5〜1000mPa・sであるのが好ましく、特に30〜300mPa・sが好ましい。粘度が上記範囲内であると、回路基板防水剤が毛細管現象により導体である複数の銅線等の隙間や導体とその被覆層との隙間、ケーブルの回路基板とシースとの隙間や複数の回路基板相互間の隙間等に浸入することが容易になるため、効果的な防水処理をすることできる。なお、粘度は、25℃における粘度を、B型粘度計を用いて測定した値である。
【0045】
本発明の回路基板防水剤は、放射線照射によって硬化反応を進行させる成分(C)および放射線照射を必要とせずに硬化反応を進行させる成分(D)を含有しているため、より効果的な防水処理をすることが可能となる。本発明の回路基板防水剤の具体的硬化条件としては、空気中または窒素等の不活性ガス環境下において、0.1〜5J/m2のエネルギー密度の放射線を1秒〜1分程度照射することにより硬化される。硬化時の温度は、10〜40℃が好ましく、通常は室温で行うことができる。なお、ここで放射線とは、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等をいう。
【0046】
2.防水部材、防水処理された回路基板:
本発明の防水部材は、上述の回路基板防水剤を硬化して得られる硬化物からなる。防水部材は、典型的には恒久的な防水処理に用いられる部材であるため、物理的外力や温度変化等によって容易に剥離せず破壊されない特性が求められる。特に、防水部材が硬すぎると、防水処理をすべき領域を構成している回路基板に物理的な外力を加えたときに防水部材が容易に剥離し、あるいは応力の集中により防水部材が破壊される場合がある。具体的には、防水部材のヤング率は、0.1〜200MPaが好ましく、0.5〜100MPaがさらに好ましく、1〜30MPaが特に好ましい。破断強度は、1〜50MPa、さらには1〜30MPaが好ましい。破断伸びは、50〜300%、さらには80〜200%が好ましい。
【0047】
3.回路基板の防水処理方法:
回路基板の防水処理の対象となる領域は特に限定されないが、典型的には、電気・電子回路を有する回路基板の一部又は全体について行われる。
本発明の防水処理方法は、回路基板の表面に、本発明の回路基板防水剤を付着させる防水剤付着工程と、該回路基板の回路基板防水剤が付着した領域に放射線を照射する防水剤硬化工程とを有する。
【0048】
回路基板に対する防水剤付着工程は、防水処理の対象である回路基板に回路基板防水剤を付着させる工程である。付着方法は特に限定されず、回路基板を回路基板防水剤に浸漬してもよいし、回路基板防水剤を公知の方法により塗布してもよい。塗布する場合の塗布方法としては、スプレーコート法やカーテンコート法が好ましい。
【0049】
また、防水剤硬化工程は、回路基板の回路基板防水剤が付着した領域に放射線を照射する工程および酸素分子の存在下において1時間〜10日間放置する工程を含むものである。
放射線を照射する工程は、成分(C)放射線ラジカル重合開始剤の吸収波長帯を含む放射線を照射する工程である。放射線としては、紫外線が好ましい。放射線の照射エネルギー密度は、0.1〜5J/cm2が好ましく、0.3〜3J/cm2がさらに好ましい。放射線を照射することによって、放射線を吸収した成分(C)放射線ラジカル重合開始剤からラジカルが発生し、成分(A)、成分(B)等の硬化反応を進行させると考えられる。放射線を照射する工程は、空気中、窒素等の不活性気体中、又は窒素等の不活性気体と空気の混合ガス中で行うことができる。 酸素分子の存在下において1時間〜10日間放置する工程は、10〜50℃で行うことが好ましく、15〜40℃がさらに好ましい。酸素分子は、空気中に存在する酸素分子でもよいし、窒素等の不活性ガス中に酸素ガスを混在させてもよい。酸素分子及び成分(D)が存在することにより、成分(A)相互間の架橋反応が進行する。なお、空気中などの酸素ガスを含む雰囲気中で放射線を照射する工程を行うことにより、酸素分子の存在下において1時間〜10日間放置する工程の一部を兼ねることができる。この場合、放射線を照射することにより回路基板の温度が50℃を越えて一時的に上昇してもよい。
【0050】
本発明の回路基板防水剤は、回路基板、特に自動車用回路基板等の防水剤として有用である。本発明の回路基板防水剤を用いて、上記防水処理方法に従って防水処理を行うことにより、均一かつ強度に優れた防水部材を形成して、効果的な防水処理を行うことができる。また、本発明により形成された防水部材は、優れた強度を有し、基板や電子回路部品等に対して高い密着性を有するため、効果的な防水処理を行うことができる。
【実施例】
【0051】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
[合成例1:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成1]
撹拌機を備えた反応容器に、イソホロンジイソシアネート、4.919g、イソボルニルアクリレート24.193g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.008g、ジブチル錫ジラウレート0.027gを仕込み、これらを撹拌しながら液温度が15℃になるまで氷冷した。数平均分子量2380のポリイソプレンジオール26.378gを加え、液温が45℃以下になるように制御しながら3時間攪拌して反応させた。ヒドロキシエチルアクリレート2.573gを温度が50℃以上にならないように滴下し、滴下終了後、液温度70〜75℃にて5時間撹拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。得られた(A)ウレタン(メタ)アクリレートを、UA−1とする。
UA−1は、ポリイソプレンジオールの両末端に、イソホロンジイソシアネートを介して2−ヒドロキシエチルアクリレートが結合した構造を有している。
【0053】
[合成例2:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成2]
撹拌機を備えた反応容器に、トリレンジイソシアネート、3.984g、イソボルニルアクリレート24.193g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.008g、ジブチル錫ジラウレート0.027gを仕込み、これらを撹拌しながら液温度が15℃になるまで氷冷した。数平均分子量2380のポリイソプレンジオール27.230gを加え、液温が45℃以下になるように制御しながら3時間攪拌して反応させた。ヒドロキシエチルアクリレート2.656gを温度が50℃以上にならないように滴下し、滴下終了後、液温度70〜75℃にて5時間撹拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。得られた(A)ウレタン(メタ)アクリレートを、UA−2とする。
UA−2は、ポリイソプレンジオールの両末端に、トリレンジイソシアネートを介して2−ヒドロキシエチルアクリレートが結合した構造を有している。
【0054】
[合成例3:(A)ウレタン(メタ)アクリレートの合成4]
イソボルニルアクリレートに替えて、2−エチルヘキシルアクリレート30gを使用した他は合成例1と同様にして、(A)ウレタン(メタ)アクリレートを得た。得られた(A)ウレタン(メタ)アクリレートを、UA−3とする。
UA−3は、UA−1と同様の構造を有している。
【0055】
[比較合成例1:(A)成分に該当しないウレタン(メタ)アクリレートの合成]
撹拌機を備えた反応容器に、イソホロンジイソシアネート、5.619g、イソボルニルアクリレート24.193g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.008g、ジブチル錫ジラウレート0.027gを仕込み、これらを撹拌しながら液温度が15℃になるまで氷冷した。数平均分子量2000の末端水酸基含有ポリテトラエチレングリコール25.312gを加え、液温が45℃以下になるように制御しながら3時間攪拌して反応させた。ヒドロキシエチルアクリレート2.939gを温度が50℃以上にならないように滴下し、滴下終了後、液温度70〜75℃にて5時間撹拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。得られた(A)ウレタン(メタ)アクリレートを、UA’−1とする。
UA’−1は、末端水酸基含有ポリテトラエチレングリコールの両末端水酸基に、イソホロンジイソシアネートを介して2−ヒドロキシエチルアクリレートが結合した構造を有している。
【0056】
実施例1〜6及び比較例1〜2
表1に示す組成の各組成物を、スタティックミキサーを使用して混合し、回路基板防水剤を調製した。
表1に示した各成分の配合量は、質量部である。
【0057】
試験例
前記実施例及び比較例で得た組成物を、以下のような方法で硬化させて試験片を作製し、下記の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
1.暗部硬化性:
ガラス基板上にアプリケーターを用いて各組成物を200μmの厚さに塗布し、23℃、相対湿度50%で静置し、流動しなくなるまでの時間を観測した。10日以内で流動しなくなった場合を合格と判定してその時間(日数)を表1に示した。10日間静置しても流動性が残っていた場合を不合格と判定して「>10」と記載した。
【0059】
2.表面タック性:
ガラス基板上にアプリケーターを用いて各組成物を200μmの厚さに塗布し、空気下で1.0J/cm2となるよう紫外線を照射した後、23℃、相対湿度50%で3日間静置して試験用フィルムを得た。試験用フィルムを指で触って表面のべとつきを判断し、べとつきが感じられない場合を「○」、べとつきが感じられる場合を「×」と評価した。
【0060】
3.ヤング率:
200μm厚のアプリケーターバーを用いてガラス板上に回路基板防水剤を塗布し、これを空気下で1J/cm2のエネルギーの紫外線で照射して硬化させ、ヤング率測定用フィルムを得た。このフィルムから、延伸部が幅6mm、長さ25mmとなるよう短冊状サンプルを作成し、温度23℃、湿度50%で引っ張り試験を行った。引っ張り速度は1mm/minで2.5%歪みでの抗張力からヤング率を求めた。
【0061】
4.破断強度及び破断伸び:
引張試験器(島津製作所社製、AGS−50G)を用い、試験片の破断強度及び破断伸びを下記測定条件にて測定した。
引張速度 :50mm/分
標線間距離(測定距離):25mm
測定温度 :23℃
相対湿度 :50%RH
【0062】
5.電気絶縁性:
ISO9455−1規定IOC−B−24に準拠した銅配線くし型基板(ピッチ0.5mm)に各組成物をスピンコート法により厚さ40μmとなるように塗布し、室温、空気下で1.0J/cm2となるよう紫外線を照射した。その後、基板を恒温恒湿オーブン(エスペック社製、SH241)に入れて85℃、相対湿度85%の条件下に100時間放置してから、基板の端子をイオンマイグレーション評価システム(エスペック社製、AMI−025−S−5)を用い、直流20Vをかけて電気抵抗値を測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1において、
A−1:ポリブタジエンジオール(R−45HT、出光興産社製、数平均分子量2800)
Irgacure907:2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
Irgacure184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
ナフトライフMn:ナフテン酸マンガン(住友エンビロサイエンス社製)
【0065】
表1から明らかなように、各実施例に示された本発明の回路基板防水剤は、暗部硬化性、表面タック性、ヤング率、破断強度、判断伸びの各特性において優れていた。これに対して、成分(D)を有しない比較例1及び成分(A)を有しない比較例2では、暗部硬化性と表面タック性が実施例よりも明らかに劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)、(C)及び(D)を、
成分(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量を100質量部として、
(A)下記式(1)で表される構造を有する化合物 5〜50質量部
【化1】

[式(1)中のRは、水素原子又はメチル基を示し、*印は結合手であることを示す。]、
(B)エチレン性不飽和基を1個有する化合物 30〜90質量部、
(C)放射線ラジカル重合開始剤 0.01〜10質量部、
(D)マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カルシウム及び希土類元素から選択される1種又は2種以上の金属元素の酸化物、水酸化物又は塩 0.01〜5質量部
含有する回路基板防水剤。
【請求項2】
成分(A)が、ポリイソプレン又はポリブタジエンに由来する構造を有する化合物である請求項1に記載の回路基板防水剤。
【請求項3】
成分(A)が、ウレタン(メタ)アクリレートである請求項1に記載の回路基板防水剤。
【請求項4】
成分(A)が、式(1)で表される構造を有するジオール、ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物である請求項3に記載の回路基板防水剤。
【請求項5】
式(1)で表される構造を有するジオールが、ポリブタジエンジオール及びポリイソプレンジオールから選択される1種以上である請求項4に記載の回路基板防水剤。
【請求項6】
成分(D)が、ナフテン酸のマンガン塩である請求項1〜5のいずれか1項に記載の回路基板防水剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の回路基板防水剤を硬化して得られる防水部材。
【請求項8】
請求項7に記載の防水部材によって防水処理された回路基板。
【請求項9】
回路基板を防水処理する方法であって、回路基板の一部又は全体に請求項1〜6のいずれか1項に記載の回路基板防水剤を付着させる防水剤付着工程と、該回路基板の回路基板防水剤が付着した領域に放射線を照射する工程を含む防水剤硬化工程とを有する、回路基板の防水処理方法。
【請求項10】
防水剤硬化工程が、回路基板の回路基板防水剤が付着した領域に放射線を照射する工程および酸素分子の存在下において1時間〜10日間放置する工程からなる請求項9に記載の回路基板の防水処理方法。

【公開番号】特開2013−104012(P2013−104012A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249717(P2011−249717)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】