説明

回路基板

【課題】基板の伸縮によって、基板表面の導電層が破損するのを防止することが可能な回路基板を提供する。
【解決手段】回路基板1は、伸縮弾性を有するエラストマーを主成分とする基板2と、この基板2の片面又は両面に形成された、回路を構成する導電層3とを有する。また、導電層3は、粒径が1〜100nmである導電性の金属又は金属酸化物を含むものである。さらに、基板1が伸長された状態で基板2の片面又は両面に導電層3が形成された後に基板2の伸長が開放され、導電層3の形成時よりも基板2が収縮している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮弾性を有する基板に回路としての導電層が形成された回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、伸縮弾性を有する基板の表面に電極や配線等の回路を構成する導電層が形成された、フレキシブルな回路基板が種々の分野で広く用いられている。例えば、特許文献1には、心電図等を測定するために身体表面に装着される複数の電極とこれら電極間を接続する配線とからなる回路が、樹脂フィルムなどからなる基板(基材フィルム)に形成された、回路基板が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−137456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の回路基板においては、伸縮弾性を有する基板に伸縮が生じたときに、基板の表面に形成された、配線等の導電層が基板の伸縮に追従できないと、配線等にひび割れや断線、あるいは、剥離などが生じる虞があった。
【0005】
一方で、導電層に絶縁性のゴム材料や高分子樹脂材料等を配合することによって、導電層に伸縮弾性を持たせて基板の伸縮に追従できるようにすることは可能である。しかし、この場合には、絶縁性材料が多く含まれることによって導電層全体としての電気抵抗値が高くなってしまい、電気的な損失が多くなるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、基板が伸縮したときに、基板表面の導電層が破損するのを防止できる回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
第1の発明の回路基板は、伸縮弾性を有するエラストマーを主成分として含む基板と、この基板の片面又は両面に形成された、回路を構成する導電層とを有し、前記導電層が、粒径が1〜100nmである導電性の金属又は金属酸化物を含むものであり、前記基板が伸長された状態で前記基板の片面又は両面に前記導電層が形成された後に前記基板の伸長が開放され、前記導電層の形成時よりも前記基板が収縮していることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の回路基板は、基板が面方向に伸長された状態でこの基板に導電層が形成された後、基板の伸長が開放されることによって、使用状態では、導電層が形成されたときよりも基板が収縮した状態となっている。そのため、基板表面の導電層には面方向の圧縮応力が残留することになり、使用中に基板に引張荷重が作用して基板が伸長したとしても、導電層内部に作用する引張力が残留圧縮応力により相殺される。従って、基板の伸縮によって導電層に破断や剥離等が生じるのが防止されることから、信頼性の高い回路基板が得られる。
【0009】
また、回路基板の使用中に基板が伸長したとしても、導電層に破断や剥離等が生じるのが防止されるため、導電層に、伸縮性を持たせるための絶縁性材料を多く配合する必要がない。そのため、導電層が、導電性の金属材料又は金属酸化物を多く含むように構成することで、導電層の電気抵抗を小さくすることができる。さらに、導電層に含まれる金属又は金属酸化物が、その粒径が1〜100nmという非常に小さな粒子であることから、導電層が、基板に追従して伸縮することができるようになる。そのため、基板伸縮時の導電層の破断や剥離等が防止される。
【0010】
ここで、前記エラストマーとしてシリコーンゴムを含むことがさらに好ましい(第2の発明)。
【0011】
また、導電層は、鱗片状の金属又は金属酸化物を含んでいてもよい(第3の発明)。この構成でも、導電層が、基板に追従して伸縮することができるようになり、基板伸縮時の導電層の破断や剥離等が一層防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態の回路基板の断面図である。
【0013】
図1に示すように、回路基板1は、伸縮弾性を有する絶縁性材料からなる基板2と、この基板2の一方の面に形成された、回路を構成する導電層とを有する。
【0014】
基板2としては、エラストマーを主成分とするものであり、エラストマーとしては、架橋された天然ゴムや合成ゴム、あるいは、シリコーンゴムが好適に用いられる。
【0015】
導電層3は、基板2の一方の面において、電極、配線、あるいは、抵抗等の回路素子と接続される端子などを含む所定の回路パターンに形成されている。また、この導電層3は、銀、銅、アルミニウム、白金、金、ニッケル等の金属や、酸化銀や酸化銅などの導電性を有する金属酸化物を主成分とし、この金属又は金属酸化物に溶剤等が加えられたものを採用できる。このように、導電層3が、導電性の金属又は金属酸化物を主成分とするものであり、絶縁性材料の配合率が低いことから、導電層3の電気抵抗が低く抑えられる。さらに、導電層3を構成する金属又は金属酸化物は、1〜100nmの非常に小さな粒子(ナノ粒子)である。さらに、このナノ粒子状の金属又は金属酸化物に加えて、平面長さが厚みに比べて十分に大きな、薄片形状(鱗片状)の金属又は金属酸化物を含んでいてもよい。
【0016】
ところで、回路基板1は、伸縮弾性を有する基板2が伸長された状態で導電層3が形成された後に、基板2の伸長が開放されている。つまり、回路基板1の通常状態(使用状態)では、導電層3が形成された時よりも基板2が収縮している。
【0017】
図2の製造工程図を参照して、より具体的に説明する。まず、図2(a),(b)に示すように、エラストマーを主成分とする基板2に引張荷重を作用させて、この基板2を面方向に伸長させる。次に、図2(c)に示すように、伸長された基板の一方の面に、メッキ法、印刷法、スパッタリング、化学蒸着法等により、導電性を有する金属や金属酸化物を主成分とする導電層3を形成し、その後、加熱することによって導電層3を基板2に定着させる。そして、図2(d)に示すように、基板2の伸長を開放して基板2を収縮させ、基板2を導電層3が形成される前の状態に戻す。
【0018】
図2(d)の状態は、導電層3が形成されたとき(図2(a)の状態)よりも基板2が収縮している。そのため、基板2の表面の導電層3には面方向の圧縮応力が残留することになる。従って、使用中に基板2に引張荷重が作用して、基板2が伸長したとしても、導電層3内部において引張応力が残留圧縮応力により相殺される。従って、基板2の伸縮によって導電層3に破断や剥離等が生じるのが防止されることになり、信頼性の高い回路基板1が得られる。
【0019】
また、このように、回路基板1の使用中に基板2が伸長したとしても、導電層3に破断や剥離等が生じるのが防止されるため、導電層3に、伸縮性を持たせるための絶縁性材料を多く配合する必要がない。そのため、導電層3が、導電性の金属や金属酸化物を多く含むように構成することにより、導電層3の電気抵抗を低く抑えて電気的な損失を小さくすることが可能となる。
【0020】
さらに、導電層3に含まれる金属又は金属酸化物が、1〜100nmの非常に小さな粒子(ナノ粒子)や、平面長さが厚みに比べて十分に大きな、薄片形状(鱗片状)であるため、導電層3が、基板2に追従して伸縮することができるようになり、基板伸縮時における導電層3の破断や剥離といった破損が一層防止される。
【0021】
尚、以上説明した実施形態では、基板2の一方の面にのみ導電層3が形成されていたが、基板2の両面に導電層3が形成されていてもよい。この場合には、基板2の両面に2つの導電層3のそれぞれに圧縮応力が残留した状態となることから、基板2が伸縮したとしても、両面の導電層3の破損がそれぞれ防止される。
【0022】
[実施例]
次に、本発明の具体的な実施例(実施例1,2)と比較例について説明する。
実施例1,2、及び、比較例における、回路基板製造条件(基板材料、導電層材料、導電層の膜厚、導電層形成前の基板伸長率、及び、導電層を定着させる際の溶剤の硬化条件)を、表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
そして、表1の条件でそれぞれ製造された実施例1,2と比較例の回路基板における、導電層の密着力試験を、初期状態と、基板の100%伸縮を100回行った後の状態でそれぞれ行った。具体的には、導電層の表面に粘着性テープを貼り付け、その後、テープを剥がしたときの、導電層の剥離の有無を調べた。また、導電層の電気抵抗値の測定を、同じく初期状態と、基板の100%伸縮を100回行った後の状態でそれぞれ行った。その結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
尚、表2の密着力試験の欄には、製造された回路基板100個について密着力試験を行ったときの剥離が生じた個数が示されている。例えば、“100/100”とは100個について密着力試験を行った結果、100個全てに剥離が生じたということを示している。
【0027】
表2から、実施例1,2においては、基板の伸縮後の密着力試験において剥離が生じておらず、密着性が低下していないことがわかる。また、基板の伸縮後に電気抵抗がほとんど増大していないことから、導電層にひび割れや破断がほとんど生じていないと考えられる。
【0028】
一方、比較例においては、基板の伸縮後の密着力試験において全て剥離が生じており、導電層の密着性がかなり低下していることがわかる。また、基板の伸縮後に電気抵抗が無限大となっていることから、導電層が完全に破断してしまっていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る回路基板の断面図である。
【図2】回路基板の製造工程を示す図であり、(a)は基板の伸長前の状態、(b)は基板の伸長後の状態、(c)は基板に導電層が形成された状態、(d)基板の伸長が開放された状態、をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0030】
1 回路基板
2 基板
3 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮弾性を有するエラストマーを主成分として含む基板と、この基板の片面又は両面に形成された、回路を構成する導電層とを有し、
前記導電層が、粒径が1〜100nmである導電性の金属又は金属酸化物を含むものであり、
前記基板が伸長された状態で前記基板の片面又は両面に前記導電層が形成された後に前記基板の伸長が開放され、前記導電層の形成時よりも前記基板が収縮していることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
前記エラストマーとしてシリコーンゴムを含むことを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記導電層が、鱗片状の金属又は金属酸化物を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の回路基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−177259(P2008−177259A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7647(P2007−7647)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】