説明

回路基板

【課題】フィラーが破壊されて表面にむき出しになって基材特性が低下したりすることがなく、回路層の密着性が高い高精度の回路基板を提供する。
【解決手段】回路基板10は、フィラー11を含有する樹脂により形成された絶縁基材1の表面に、導電体からなる回路層13が埋設されて形成されている。絶縁基材1の露出表面はフィラー11が破壊されずに形成されている。回路層13の絶縁基材1との接触面は、フィラー11の当該接触面への突出形状に追従して凹凸形状に形成されている。好ましくは、回路層13の絶縁基材1との接触面は、当該接触面に突出する少なくとも一部のフィラー11と接触している。また、好ましくは、絶縁基材1の露出表面はフィラー11が露出していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電体からなる回路層が埋設されて形成された回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電体からなる回路層が埋設された回路基板は、CMP法(Chemical Mechanical Polish法)によって形成されている(例えば特許文献1)。
【0003】
図6にCMP法の一例を示す。CMP法は、まず、図6(a)に示すように、絶縁基材1の表面にレーザ加工により回路溝3(トレンチ部)を形成する。次に、(b)に示すように、この回路溝3を含む絶縁基材1の表面全体に無電解めっき膜6を形成する。そして、(c)に示すように、この無電解電気めっき膜6に電圧をかけて電解めっき膜21を絶縁基材1の表面全体に形成する。その後、(d)に示すように、研磨器22を用いて電解めっき膜21及び無電解めっき膜6の絶縁基材1よりも表面に存在する部位を研磨して除去し、絶縁基材1の表面を露出させる。
【0004】
以上のような工程で、回路層13が埋設されて形成された回路基板10を得ることができる。この回路基板10にあっては、回路層13間の距離を、例えば25μm〜30μm程度のように設定して幅狭に形成することができ、高精度の回路基板10を得ることができるものである。
【0005】
しかしながら、上記のように形成された回路基板10は、図7(a)から(b)で示すように、回路溝3を含む絶縁基板1の表面をめっき処理し、余分なめっき膜を研磨して除去して形成するため、回路基板10の表面は研磨によって粗くなる。そして、図7(c)に示すように、研磨器22が絶縁基材1とめっき膜とに及ぼす研磨力が異なるために、めっき膜が除去されて形成された回路層13の表面と絶縁基材1の表面に段差ができて回路基板10の表面が平滑にならなくなり、電気特性が低下するといった問題が生じるおそれがある。さらに、(b)で示すように、絶縁基材1がフィラー11を含有するものである場合、絶縁基材1の表面にはフィラー11がむき出しになり、また、むき出したフィラー11は研磨によって破壊されるので、表面のフィラー11は元の形状を維持することができなくなる。そして、むき出しのフィラー11は粉落ち頻度が高くなり、その後の工程においてフィラー11による汚染を引き起こすおそれがある。また、絶縁基材1の表面を研磨しているために、表面にむき出したフィラー11を起点としてマイクロクラックが生じるおそれがある。また、表面に露出するフィラー11は破壊されているので熱膨張性や強度といった基材特性が低下するおそれがある。
【0006】
また、導電体からなる回路層が埋設された回路基板を製造する別の方法として、転写法が知られている。転写法は、表面に回路層を形成した剥離材を、回路層の面を対向させて絶縁基材の表面に貼り合わせ、剥離材を絶縁基材から剥離し、回路層を転写して絶縁基材に埋め込んで回路基板を形成するものである。
【0007】
しかしながら、転写法によると回路層を絶縁基材の表面から押圧して埋設させているため、回路層は絶縁基材の外表面の樹脂被膜と接して形成されることになり、回路層の絶縁基材への密着性が低いという問題がある。密着性を高める方法としてCZ処理が知られているが、CZ処理は剥離材に設けられた金属箔の表面(回路層の底面)を処理するものであり、回路層の底面での密着性は高まるものの、側面での密着性は高められないため、幅狭の回路層を形成したときには十分な密着性を得ることができない。また、転写法では一般的に回路層の深さは均一なものとなり、深さの異なる回路層を簡単に形成することができない。また、転写法による回路層の形成では回路層間の距離を短くすることには限界があり、回路層間の距離の短い高精度の回路配線を得ることができない。
【0008】
また転写法の場合、回路層を絶縁基材に転写する前に、剥離材に回路を形成する必要があり、その回路形成は、従来からの一般的な回路形成方法、例えばサブトラクティブ法、アディテイブ法等で形成するため、微細な配線幅30μm以下に形成することが難しい。さらに微細な配線を形成できたとしても、剥離材と回路層の密着が強すぎると、絶縁基材に転写できずに、回路の転写残りが発生してしまう。また剥離材と回路層の密着が弱すぎると、剥離材に回路形成工程中もしくは取り扱い中に、回路層が剥がれてしまう。このため剥離材と回路層との密着を制御するのが非常に難しい。更に微細配線になればなるほど、剥離材と回路層の密着面積は小さくなるため、さらに密着の制御は難しくなり、微細配線の回路層を、絶縁基材に転写できないという問題がある。
【0009】
また、絶縁基材を多層化する場合に、転写法の場合、絶縁基材に回路形成するのでは、なく、剥離材にあらかじめ回路形成したものを、絶縁基板の両面に転写して形成するため、層間での回路パターンの位置合わせが難しく、高精度で位置あわせすることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−49162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、フィラーが破壊されて表面にむき出しになって基材特性が低下することがなく、回路層の密着性が高い高精度の回路基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係る回路基板は、フィラー11を含有する樹脂により形成された絶縁基材1の表面に、導電体からなる回路層13が埋設されて形成された回路基板10であって、絶縁基材1の露出表面はフィラー11が破壊されずに形成され、回路層13の絶縁基材1との接触面は、フィラー11の当該接触面への突出形状に追従して凹凸形状に形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2に係る回路基板は、上記の回路基板10において、回路層13の絶縁基材1との接触面は、当該接触面に突出する少なくとも一部のフィラー11と接触していることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3に係る回路基板は、上記の回路基板10において、絶縁基材1の露出表面はフィラー11が露出していないことを特徴とするものである。
【0015】
請求項4に係る回路基板は、上記の回路基板10において、絶縁基材1の回路層13との接触面は、レーザー加工により、フィラー11を突出させた凹凸形状に形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項5に係る回路基板は、上記の回路基板10において、回路層13が、導電体のメッキにより形成されていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項6に係る回路基板は、上記の回路基板10において、回路層13の露出表面が、平坦に形成されると共に絶縁基材1との境界に段差がなく形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、絶縁基材の露出表面はフィラーが破壊されずに形成されていることにより、表面まで形状を維持してフィラーが絶縁基材に充填されているので、フィラーが破壊されて熱膨張性や強度などの基材特性が低下することを防止することができるものである。また、回路層の絶縁基材との接触面がフィラーの突出形状に追従した凹凸形状に形成されていることにより、回路層と絶縁基材とが凹凸状に入り組んで接触しているので回路層と絶縁基材との密着性を高めることができるものである。
【0019】
請求項2の発明によれば、回路層が絶縁基材との接触面においてフィラーと接触していることにより、回路層が樹脂層を介さずに直接絶縁基材の内部と接しているので、回路層の密着性をさらに高くすることができるものである。また、回路層は、埋設された表面である底面と側面とにおいてフィラーと接触するように形成されているので、幅狭に形成したときも脱落することのない密着性の高い回路配線を形成することができ、高精度の回路基板を得ることができるものである。
【0020】
請求項3の発明によれば、絶縁基材の露出表面はフィラーが露出していないことにより、フィラーがむき出しになることがないので、フィラーが粉落ちしたり、フィラーを起点とするマイクロクラックが発生したりすることを防止することができるものである。
【0021】
請求項4の発明によれば、絶縁基材の回路層との接触面がレーザー加工により形成されることにより、この接触面をフィラーを突出させて形成することができ、接触面を凹凸形状にして密着性を高めることができるものである。また、レーザー加工により回路層の深さを回路層ごとに容易に設定することができ、異なる深さの回路層を有する回路基板を簡単に得ることができるものである。
【0022】
請求項5の発明によれば、回路層が導電体のメッキによって形成されることにより、フィラーが突出した絶縁基材の形状に合わせて凹凸形状を容易に形成して回路層を得ることができ、密着性が高く高精度の回路基板を簡単に得ることができるものである。
【0023】
請求項6の発明によれば、回路層の露出表面を平坦にすることにより、電気特性を向上させることができると共に、回路層と絶縁基材との境界に段差がないことにより、回路基板を平坦なものとすることができ、薄型で平滑な回路基板を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の回路基板の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】(a)〜(e)は、本発明の回路基板を製造する方法における各工程を説明するための模式断面図である。
【図3】樹脂被膜に蛍光性物質を含有させて、蛍光性物質からの発光を用いて被膜除去不良を検査するための検査工程を説明するための説明図である。
【図4】(a)及び(b)は、回路パターン形成工程において、樹脂被膜の厚み分を超えて、絶縁基材を掘り込むような回路パターン部(回路溝)を形成したときに形成される無電解めっき膜を示す模式断面図である。
【図5】(a)〜(e)は、本発明の回路基板(立体回路基板)を製造する各工程を説明するための模式断面図である。
【図6】(a)〜(d)は、従来方法により回路基板を製造する様子の一例を示す断面図である。
【図7】従来の回路基板の一例を示す断面図であり、(a)はCMP法で研磨する前の状態、(b)、(c)は研磨後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の回路基板10の実施の形態の一例を示す断面図である。回路基板10は、フィラー11を含有する樹脂により形成された絶縁基材1の表面に、導電体からなる回路層13が埋設されて形成されている。フィラー11としては、適宜の形状のものを用いることができるが、図示の形態では、球状のフィラー11を用いている。
【0026】
回路層13の表面(露出表面)は平坦な面となっている。すなわち、回路層13の高さT(深さ)は回路層の幅W方向に亘ってほぼ等しくなっている。回路層13の高さTがほぼ等しくなることにより、電気特性を高めることができる。そして、図示の形態にあっては、回路層13の表面と絶縁基材1の表面とには段差がない。それにより回路基板10の表面全体が平坦になっており、薄型で平滑な回路基板10を得ることができる。
【0027】
絶縁基材1の露出表面は、CMP法で形成された場合とは異なり、フィラー11が破壊されずに形成されている。つまり、CMP法で形成された場合は、図7のようにフィラー11が破壊され露出して絶縁基材1が形成されるものであるが、図示の回路基板10では、絶縁基材1の露出表面近傍に存在するフィラー11は破壊されずにその形状を維持したまま存在している。そして、絶縁基材1の露出表面は、フィラー11が露出しておらず、具体的には、フィラー11を含有しない表面樹脂層12が絶縁基材1の露出表面に形成されている。表面樹脂層12は、フィラー11を含有せず樹脂成分のみからなり、絶縁基材1の表面全体を覆うように薄膜となって形成されている。ここで、樹脂成分とは、絶縁基材1を形成するフィラー11以外の成分のことであり、後述のように、樹脂の他、硬化剤や分散剤などの成分を含むものである。図示では、表面樹脂層はイ−イ’よりも表面側(外側)の層である。この表面樹脂層12でフィラー11を覆うことによって、フィラー11が表面にむき出しになってフィラー落ちが発生したりマイクロクラックが発生したりすることを防止することができる。
【0028】
また、回路層13の絶縁基材1に埋設された表面(絶縁基材1との接触面)は、フィラー11のこの接触面への突出形状に追従した凹凸形状に形成されている。つまり、絶縁基材1の回路層13との接触面は、フィラー11を突出させた凹凸形状に形成されており、この絶縁基材1の凹凸形状に追従して回路層13の凹凸形状が形成されている。このように凹凸形状が形成されて回路層13と絶縁基材1とが接触することにより、回路層13と絶縁基材1との密着性が高まり、高精度の回路を形成することができるものである。
【0029】
回路層13の絶縁基材1との接触面は、フィラー11を含まない絶縁基材1の樹脂層と接してもよいが、図示の形態にあっては、回路層13は、この回路層13の接触面に向かって突出するフィラー11と接触している。すなわち、この回路層13と当接する絶縁基材1の表面(後述の回路溝3の露出面)は、表面樹脂層12が設けられておらず、フィラー11が露出しており、この露出したフィラー11と接触して回路層13が形成されている。このように、回路層13が表面樹脂層12を介さずに直接絶縁基材1の内部と接しているので、回路層13の密着性をさらに高くすることができる。
【0030】
回路層13と接触するフィラー11は、図示のように、フィラー11が破壊されずにその形状を維持したまま接触していることが好ましい。フィラー11が球状の場合は破壊されずに突出した半球状の球面で回路層13と接触するものである。このように、フィラー11を他の層を介さずに直接的に回路層13と接触するようにすると、樹脂基材11の内部に接して回路層13の底面及び側面が形成されることになり、密着性をより高めることができる。このように、密着性をより高めるために、フィラー11の一部が回路溝3の露出面から突出し露出して形成されていることがさらに好ましいものである。
【0031】
また、回路層13は、埋設された表面である底面と側面とにおいてフィラー11と接触するように形成されている。すなわち、底面での密着性に加え、側面での密着性が高まっている。したがって、回路層13を幅狭に形成したときも、回路層13が側面で密着しているので、脱落することのない密着性の高い回路層13を形成することができ、回路層13の幅Wが狭い高精度の回路基板10を得ることができる。また、回路層13間の幅も狭くすることができる。
【0032】
本発明の回路基板10では、上記のように密着性が高まっているので、回路層13を幅狭に形成することができ、具体的には、回路層13の幅(W)と高さ(T)との比(W/T)を0.1以上30以下にするのが好ましい。すなわち、W/Tがこの範囲となる回路層13を有する回路基板10であることが好ましいものである。それにより、回路層13の幅を狭くすることができ、高精度の回路基板10を得ることができる。W/Tがこの範囲よりも小さいと実用的でなくなるおそれがある。逆にW/Tがこの範囲よりも大きいと高精度化(回路の高密度化)できなくなるおそれがある。なお、回路層13をベタ状の電極等に形成することもでき、その場合、(W/T)の上限を設定しなくてもよい。
【0033】
本発明の回路基板10では、回路層13の高さTに関わらず、高い密着性を得ることができるので、回路層13の高さT(深さ)を回路層13ごとに容易に設定することができる。したがって、異なる深さの回路層13を有する回路基板10を簡単に得ることができるものである。
【0034】
なお、回路基板10として平板状のものを図示したが、後述のように、回路基板10を立体回路基板60にすることもできる。すなわち、本発明は、平面の絶縁基材1上に回路層13が形成された回路基板10に限定されない。具体的には、絶縁基材1として、段差状の立体面を有するような三次元形状の絶縁基材1を用いれば、図5で示すような、正確な配線の回路層13を備える回路基板10(立体回路基板60)を得ることができる。
【0035】
[回路基板の製造方法]
本発明の回路基板10を製造する方法について説明する。
【0036】
本発明の回路基板10は、絶縁基材1表面に樹脂被膜2を形成する被膜形成工程と、前記樹脂被膜2の外表面を基準として前記樹脂被膜2の厚み分よりも深い深さの凹部を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を除去する被膜除去工程と、前記樹脂被膜2を除去した後の前記めっき触媒又はその前駆体5が残留する部位にのみ無電解めっき膜6を形成するめっき処理工程とを備える方法によって得ることができるものである。製造方法としては、この方法に限定されるものではないが、上記のような回路基板10を形成するにはこの方法によることが好ましいものである。
【0037】
このような製造方法によれば、容易に、めっき膜を形成したい部分にのみめっき触媒又はその前駆体5を残し、その他の部分からは、めっき触媒又はその前駆体5を除去することができる。よって、無電解めっき膜6を形成するめっき処理工程を施すことによって、前記めっき触媒又はその前駆体5が残留する部位である、めっき膜を形成したい部分にのみ無電解めっき膜6を容易に形成することができる。
【0038】
したがって、高精度な回路層13を絶縁基材1表面に容易に形成することができる。すなわち、形成される回路の輪郭を高精度に維持することができる。その結果、例えば、一定の間隔をあけて複数の回路を形成する場合においても、回路間に無電解めっき膜の断片等が残留することを抑制し、よって、短絡やマイグレーション等の発生を抑制できる。また、所望の深さの回路を形成することができる。
【0039】
図2は、上記のような回路基板の製造方法における各工程を説明するための模式断面図である。
【0040】
はじめに、図2(a)に示すように、絶縁基材1の表面に樹脂被膜2を形成させる。なお、この工程は、被膜形成工程に相当する。
【0041】
次に、図2(b)に示すように、前記樹脂被膜2の外表面を基準として前記樹脂被膜2の厚み分よりも深い深さの凹部を形成し、フィラー11を表面に露出させて回路パターン部を形成する。凹部が樹脂被膜2の厚み分よりも深いことによってフィラー11を露出させるのである。前記回路パターン部としては、前記絶縁基材1を掘り込んだ回路溝3であってもよく、また、必要に応じて、前記絶縁基材1に、前記回路溝3の一部として、貫通孔4を形成するための穴あけを行ってもよい。また、前記回路溝3によって、無電解めっきによって無電解めっき膜が形成される部分、すなわち、回路層13が形成される部分が規定される。なお、この工程は、回路パターン形成工程に相当する。また、以下、回路パターン部として、回路溝3を中心に説明する。
【0042】
次に、図2(c)に示すように、前記回路溝3の表面及び前記回路溝3が形成されなかった前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる。なお、この工程は、触媒被着工程に相当する。
【0043】
次に、図2(d)に示すように、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を除去させる。そうすることによって、前記絶縁基材1の、前記回路溝3が形成された部分の表面にのみめっき触媒又はその前駆体5を残留させることができる。一方、前記樹脂被膜2の表面に被着されためっき触媒又はその前駆体5は、前記樹脂被膜2に担持された状態で、前記樹脂被膜2とともに除去される。なお、この工程は、被膜除去工程に相当する。
【0044】
次に、前記樹脂被膜2が除去された絶縁基材1に無電解めっきを施す。そうすることによって、前記めっき触媒又はその前駆体5が残存する部分にのみ無電解めっき膜6が形成される。すなわち、図2(e)に示すように、前記回路溝3が形成された部分に、回路層13となる無電解めっき膜6が形成される。そして、回路層13は、この無電解めっき膜6からなるものであってもよいし、前記無電解めっき膜6にさらに無電解めっき(フィルアップめっき)を施して、さらに厚膜化させたものであってもよい。具体的には、例えば、図2(e)に示すように、前記回路溝3や前記貫通孔4全体を埋めるように無電解めっき膜6からなる回路層13を形成させ、前記絶縁基材1と前記回路層13との段差をなくすようにしてもよい。なお、この工程は、めっき処理工程に相当する。
【0045】
上記各工程によって、図2(e)に示すような回路基板10が形成される。このように形成された回路基板10は、前記絶縁基材1上に高精度に回路層13が形成されたものである。
【0046】
以下、各工程について、説明する。
【0047】
<被膜形成工程>
被膜形成工程は、上述したように、絶縁基材1の表面に樹脂被膜2を形成させる工程である。
【0048】
(絶縁基材)
絶縁基材1は、フィラー11を含有する樹脂により形成されたもの(樹脂基材)であれば、特に限定されない。
【0049】
また、前記樹脂としては、回路基板の製造に用いられうる各種有機基板を構成する樹脂であれば、特に限定なく用いることができる。具体的には、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。
【0050】
前記エポキシ樹脂としては、回路基板の製造に用いられうる各種有機基板を構成するエポキシ樹脂であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、アラルキルエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。さらに、難燃性を付与するために、臭素化又はリン変性した、上記エポキシ樹脂、窒素含有樹脂、シリコーン含有樹脂等も挙げられる。また、前記エポキシ樹脂及び樹脂としては、上記各エポキシ樹脂および樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、上記各樹脂で基材を構成するには、一般的に、硬化させるために、硬化剤を含有させる。前記硬化剤としては、硬化剤として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ジシアンジアミド、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミノトリアジンノボラック系硬化剤、シアネート樹脂等が挙げられる。前記フェノール系硬化剤としては、例えば、ノボラック型、アラルキル型、テルペン型等が挙げられる。また、前記硬化剤としては、上記各硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
前記フェノール系硬化剤としては、例えば、ノボラック型、アラルキル型、テルペン型等が挙げられる。更に難燃性を付与するためリン変性したフェノール樹脂または、リン変性したシアネート樹脂等もあげられる。また、前記硬化剤としては、上記各硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
また特に限定されないが、レーザー加工により回路パターンを形成することから、100nm〜400nm波長領域でのレーザー光の吸収率が良い樹脂等を用いることが好ましい。例えば、具体的には、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0054】
そして、前記絶縁基材1には、フィラー11が含有される。前記フィラー11としては、無機微粒子であっても、有機微粒子であってもよく、特に限定されない。フィラー11を含有することで、レーザー加工部にフィラー11を破壊されない状態で露出させ、フィラー11の突出による凹凸面を形成してメッキと樹脂との密着性を向上することが可能になる。
【0055】
前記無機微粒子を構成する材料としては、具体的には、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、シリカ(SiO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化チタン(TiO)等の高誘電率充填材;ハードフェライト等の磁性充填材;水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH))、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、グアニジン塩、ホウ酸亜鉛、モリブテン化合物、スズ酸亜鉛等の無機系難燃剤;タルク(Mg(Si10)(OH))、硫酸バリウム(BaSO)、炭酸カルシウム(CaCO)、雲母等が挙げられる。前記無機微粒子としては、上記無機微粒子を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの無機微粒子は、熱伝導性、比誘電率、難燃性、粒度分布、色調の自由度等が高いことから、所望の機能を選択的に発揮させる場合には、適宜配合及び粒度設計を行って、容易に高充填化を行うことができる。
【0056】
また、前記無機微粒子は、前記絶縁基材中での分散性を高めるために、シランカップリング剤で表面処理してもよい。また、前記絶縁基材は、前記無機微粒子の、前記絶縁基材中での分散性を高めるために、シランカップリング剤を含有してもよい。前記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、エポキシシラン系、メルカプトシラン系、アミノシラン系、ビニルシラン系、スチリルシラン系、メタクリロキシシラン系、アクリロキシシラン系、チタネート系等のシランカップリング剤等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、上記シランカップリング剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
また、前記絶縁基材1は、前記無機微粒子の、前記絶縁基材中での分散性を高めるために、分散剤を含有してもよい。前記分散剤としては、具体的には、例えば、アルキルエーテル系、ソルビタンエステル系、アルキルポリエーテルアミン系、高分子系等の分散剤等が挙げられる。前記分散剤としては、上記分散剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
また、前記有機微粒子としては、具体的には、例えば、ゴム微粒子等が挙げられる。
【0059】
フィラー11の粒径としては、絶縁基材1の厚み以下の平均粒径であることが好ましく、具体的には、平均粒径が0.01〜10μmであることが好ましく、平均粒径が0.05〜5μmであることがさらに好ましい。フィラー11の粒径がこの範囲になることによって、絶縁基材1の表面にフィラー11を含有しない表面樹脂層12を形成することが容易にできるものであり、また、フィラー11が露出する回路溝3での回路層13の密着性が高まるものである。フィラー11の平均粒径が上記の範囲より小さいと、フィラー11が突出した凹凸形状による密着の効果が小さくなるおそれがあり、逆にフィラー11の平均粒径が上記の範囲より大きいと、微細な回路溝3を形成できなくなるおそれがある。平均粒径は、レーザー回折粒度分布計を用いた光散乱法により測定することができ、球相当径(個数平均径)として得られる。
【0060】
フィラー11の形状は特に限定されるものではないが、球状のものを用いることができる。その他、破砕状の形状等のフィラー11を用いてもよい。このうち、球状フィラーを用いるのが好ましい。
【0061】
フィラー11の含有量としては、硬化後の樹脂基材1全量に対して10〜95質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましく、50〜85質量%であることがさらに好ましい
フィラー11の含有量がこの範囲に入り、更にはフィラー11の含有量を上げていくことで、樹脂基材1の熱膨張を、形成される導体回路の熱膨張に近づけることができ、熱時の基板信頼性を上げることができる。フィラー11の含有量がこの範囲より低いと、回路層13と絶縁基材1との密着が悪くなり、また、熱膨張が大きくなり、熱時の基板信頼性が低下するおそれがある。逆にフィラー11の含有量がこの範囲より高いと、フィラー11が絶縁基材1の表面から露出したり、絶縁基材1を他の基材と積層して成形する際に、流動性が悪くなりカスレが発生したりするおそれがある。
【0062】
絶縁基材1は、上記のような成分を含んだ樹脂組成物を適宜、成形等して形成されるものである。樹脂組成物には溶剤を加えてもよい。その際、絶縁基材1が流動性のある状態で形状を整えた後、硬化することによって、絶縁基材1の表面にフィラー11を含有していない表面樹脂層12を形成することができる。すなわち、樹脂組成物は流動性を有しているために、硬化前にはフィラー11は表面に直接露出することはなく内部に埋め込まれているので、樹脂成分(フィラー11以外の成分)の層が未硬化の絶縁基材1の表面に形成されている。そして、この状態を維持したまま硬化して絶縁基材1が形成されるので、表面樹脂層12を形成することができ、フィラー11を絶縁基材1の表面に露出しないようにすることができるのである。
【0063】
表面樹脂層12が形成されていることは絶縁基材1の表面を観察し、フィラー11が露出していないことにより確認される。なお、CMP法のように、絶縁基材1の表面を研磨する方法によれば、表面樹脂層12が研磨により除去され、さらに表層に近いフィラー11も研磨されるので、フィラー11が研磨されて露出した様子が表面観察で観察される。
【0064】
また、前記絶縁基材1の形態としては、特に限定されない。具体的には、シート、フィルム、プリプレグ、及び三次元形状の成形体等が挙げられる。前記絶縁基材1の厚みは、特に限定されない。具体的には、シート、フィルム、プリプレグの場合には、例えば、10〜200μmであることが好ましく、20〜100μm程度であることがより好ましい。また、前記絶縁基材1としては、シリカ粒子等の無機微粒子を含有してもよい。
【0065】
(樹脂被膜)
前記樹脂被膜2は、前記被膜除去工程で除去可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、有機溶剤やアルカリ溶液により容易に溶解しうる可溶型樹脂や、後述する所定の液体(膨潤液)で膨潤しうる樹脂からなる膨潤性樹脂被膜等が挙げられる。これらの中では、正確な除去が容易である点から膨潤性樹脂被膜が特に好ましい。また、前記膨潤性樹脂被膜としては、例えば、前記液体(膨潤液)に対する膨潤度が50%以上であることが好ましい。このような膨潤度の樹脂被膜を用いることによって、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を容易に剥離させることができる。よって、高精度な回路層13を絶縁基材1の表面により容易に形成することができる。なお、前記樹脂被膜2は、前記液体に対する膨潤度が大きく、前記液体に対して溶解するものも含まれる。
【0066】
なお、前記膨潤性樹脂被膜には、前記液体(膨潤液)に対して実質的に溶解せず、膨潤により前記絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂被膜だけではなく、前記液体(膨潤液)に対して膨潤し、さらに少なくとも一部が溶解し、その膨潤や溶解により前記絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂被膜や、前記液体(膨潤液)に対して溶解し、その溶解により前記絶縁基材1表面から容易に剥離するような樹脂被膜も含まれる。
【0067】
前記樹脂被膜2の形成方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、前記絶縁基材1の表面に、樹脂被膜を形成しうる液状材料を塗布した後、乾燥させる方法や、支持基板に前記液状材料を塗布した後、乾燥することにより形成される樹脂被膜を絶縁基材1の表面に転写する方法等が挙げられる。なお、液状材料を塗布する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、従来から知られたスピンコート法やバーコータ法等が挙げられる。
【0068】
前記樹脂被膜2の厚みとしては、微細な回路を高精度に形成することができる点から、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。一方、前記樹脂被膜2の厚みとしては、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。前記樹脂被膜2の厚みが厚すぎる場合には、前記回路パターン形成工程におけるレーザ加工又は機械加工によって形成される回路溝3や貫通孔4等の回路パターン部の精度が低下する傾向がある。また、前記樹脂被膜2の厚みが薄すぎる場合は、均一な膜厚の樹脂被膜2を形成しにくくなる傾向がある。
【0069】
次に、前記樹脂被膜2として好適な膨潤性樹脂被膜を例に挙げて説明する。
【0070】
前記膨潤性樹脂被膜としては、膨潤液に対する膨潤度が50%以上である樹脂被膜が好ましく用いられうる。さらに、膨潤液に対する膨潤度が100%以上である樹脂被膜がより好ましい。なお、前記膨潤度が低すぎる場合には、前記被膜除去工程において膨潤性樹脂被膜が剥離しにくくなる傾向がある。
【0071】
前記膨潤性樹脂被膜の形成方法は、特に限定されず、上述した樹脂被膜2の形成方法と同様の方法であればよい。具体的には、例えば、前記絶縁基材1の表面に、膨潤性樹脂被膜を形成しうる液状材料を塗布した後、乾燥させる方法や、支持基板に前記液状材料を塗布した後、乾燥することにより形成される膨潤性樹脂被膜を絶縁基材1の表面に転写する方法等が挙げられる。
【0072】
前記膨潤性樹脂被膜を形成しうる液状材料としては、例えば、エラストマーのサスペンジョン又はエマルジョン等が挙げられる。前記エラストマーの具体例としては、例えば、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー、アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマー樹脂粒子の架橋度又はゲル化度等を調整することにより所望の膨潤度の膨潤性樹脂被膜2を容易に形成することができる。
【0073】
このように、前記樹脂被膜2が、前記絶縁基材1表面にエラストマーのサスペンジョン又はエマルジョンを塗布した後、乾燥することにより形成される樹脂被膜2であることが好ましい。このような樹脂被膜2を用いれば、絶縁基材1表面に樹脂被膜を容易に形成することができる。よって、高精度な回路層13を絶縁基材1表面により容易に形成することができる。
【0074】
また、前記樹脂被膜2が、支持基板上に形成された樹脂被膜2を前記絶縁基材1表面に転写することにより形成される樹脂被膜2であることが好ましい。また、この転写に用いる樹脂被膜としては、支持基板表面にエラストマーのサスペンジョン又はエマルジョンを塗布した後、乾燥することにより形成される樹脂被膜2であることがより好ましい。このような樹脂被膜2を用いれば、予め多数の樹脂被膜2を準備できるために量産性に優れる点から好ましい。
【0075】
前記エラストマーとしては、カルボキシル基を有する、ジエン系エラストマー,アクリル系エラストマー,及びポリエステル系エラストマーからなる群から選ばれるものであることが好ましい。また、前記ジエン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン系共重合体であることがより好ましい。このようなエラストマーによれば、架橋度又はゲル化度を調整することにより所望の膨潤度の樹脂被膜を容易に形成することができる。また、前記被膜除去工程において用いる前記液体に対する膨潤度をより大きくでき、前記液体に対して溶解する樹脂被膜も容易に形成することができる。
【0076】
また、前記樹脂被膜としては、酸当量100〜800のカルボキシル基を有するアクリル系樹脂からなる樹脂を主成分とする被膜も好ましく用いられる。
【0077】
また、前記膨潤性樹脂被膜としては、特に、膨潤度が膨潤液のpHに依存して変化するような被膜であることが好ましい。このような被膜を用いた場合には、前記触媒被着工程における液性条件と、前記被膜除去工程における液性条件とを異なるものにすることにより、触媒被着工程におけるpHにおいては膨潤性樹脂被膜は絶縁基材に対する高い密着力を維持し、被膜除去工程におけるpHにおいては容易に膨潤性樹脂被膜を剥離させることができる。
【0078】
さらに具体的には、例えば、前記触媒被着工程が、例えば、pH1〜3の範囲の酸性めっき触媒コロイド溶液(酸性触媒金属コロイド溶液)中で処理する工程を備え、前記被膜除去工程がpH12〜14の範囲のアルカリ性溶液中で膨潤性樹脂被膜を膨潤させる工程を備える場合には、前記膨潤性樹脂被膜は、前記酸性めっき触媒コロイド溶液に対する膨潤度が60%以下、さらには40%以下であり、前記アルカリ性溶液に対する膨潤度が50%以上、さらには100%以上、さらには500%以上であるような樹脂被膜であることが好ましい。
【0079】
このような膨潤性樹脂被膜の例としては、所定量のカルボキシル基を有するエラストマーから形成されるシートや、プリント配線板のパターニング用のドライフィルムレジスト(以下、DFRとも呼ぶ)等に用いられる光硬化性のアルカリ現像型のレジストを全面硬化して得られるシートや、熱硬化性やアルカリ現像型シート等が挙げられる。
【0080】
カルボキシル基を有するエラストマーの具体例としては、カルボキシル基を有するモノマー単位を共重合成分として含有することにより、分子中にカルボキシル基を有する、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー;アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー;及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマーの、酸当量,架橋度またはゲル化度等を調整することにより所望のアルカリ膨潤度を有する膨潤性樹脂被膜を形成することができる。エラストマー中のカルボキシル基はアルカリ水溶液に対して膨潤性樹脂被膜を膨潤させて、絶縁基材表面から膨潤性樹脂被膜を剥離する作用をする。また、酸当量とは、1当量のカルボキシル基当たりのポリマー重量である。
【0081】
カルボキシル基を有するモノマー単位の具体例としては、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、及びマレイン酸無水物等が挙げられる。
【0082】
このようなカルボキシル基を有するエラストマー中のカルボキシル基の含有割合としては、酸当量で100〜2000、さらには100〜800であることが好ましい。酸当量が小さすぎる場合には、溶媒または他の組成物との相溶性が低下することにより、めっき前処理液に対する耐性が低下する傾向がある。また、酸当量が大きすぎる場合には、アルカリ水溶液に対する剥離性が低下する傾向がある。
【0083】
また、エラストマーの分子量としては、1万〜100万、さらには、2万〜6万であることが好ましい。エラストマーの分子量が大きすぎる場合には剥離性が低下する傾向があり、小さすぎる場合には粘度が低下するために膨潤性樹脂被膜の厚みを均一に維持することが困難になるとともに、めっき前処理液に対する耐性も悪化する傾向がある。
【0084】
また、前記樹脂被膜としては、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の少なくとも1種類以上の単量体と(b)前記(a)単量体と重合しうる少なくとも1種類以上の単量体を重合させることで得られる重合体樹脂又は前記重合体樹脂を含む樹脂組成物からなるものが挙げられる。このような樹脂被膜を用いれば、絶縁基材1の表面に樹脂被膜を容易に形成することができる。よって、高精度な回路を絶縁基材1の表面により容易に形成することができる。また、このような樹脂被膜は、前記被膜除去工程で用いる液体で溶解させることができるものが多く、剥離除去だけでなく、溶解除去も有効に用いることができる。
【0085】
前記樹脂組成物としては、メイン樹脂として前記重合体樹脂を必須成分とし、オリゴマー、モノマー、フィラーやその他添加剤の少なくとも1種類を添加してもよい。
【0086】
また、DFRとしては、所定量のカルボキシル基を含有する、アクリル系樹脂;エポキシ系樹脂;スチレン系樹脂;フェノール系樹脂;ウレタン系樹脂等を樹脂成分とし、光重合開始剤を含有する光硬化性樹脂組成物のシートが用いられうる。このようなDFRの具体例としては、特開2000−231190号公報、特開2001−201851号公報、特開平11−212262号公報に開示されたような光重合性樹脂組成物のドライフィルムを全面硬化させて得られるシートや、アルカリ現像型のDFRとして市販されている、例えば、旭化成株式会社製のUFGシリーズ等が挙げられる。
【0087】
さらに、その他の膨潤性樹脂被膜の例としては、カルボキシル基を含有する、ロジンを主成分とする樹脂(例えば、吉川化工株式会社製の「NAZDAR229」)やフェノールを主成分とする樹脂(例えば、LEKTRACHEM社製「104F」)等が挙げられる。
【0088】
膨潤性樹脂被膜は、絶縁基材表面に樹脂のサスペンジョン又はエマルジョンを従来から知られたスピンコート法やバーコータ法等の塗布手段を用いて塗布した後、乾燥する方法や、支持基板に形成されたDFRを真空ラミネータ等を用いて絶縁基材表面に貼りあわせた後、全面硬化することにより容易に形成することができる。
【0089】
また、前記樹脂被膜としては、上記のものに加えて、以下のようなものが挙げられる。例えば、前記樹脂被膜を構成するレジスト材料としては、以下のようなものが挙げられる。
【0090】
前記樹脂被膜を構成するレジスト材料に必要な特性としては、例えば、(1)後述の触媒被着工程で、樹脂被膜が形成された絶縁基材を浸漬させる液体(めっき核付け薬液)に対する耐性が高いこと、(2)後述の被膜除去工程、例えば、樹脂被膜が形成された絶縁基材をアルカリに浸漬させる工程によって、樹脂被膜(レジスト)が容易に除去できること、(3)成膜性が高いこと、(4)ドライフィルム(DFR)化が容易なこと、(5)保存性が高いこと等が挙げられる。
【0091】
めっき核付け薬液としては、後述するが、例えば、酸性Pd−Snコロイドキャタリストシステムの場合、全て酸性(pH1〜2)水溶液である。また、アルカリ性Pdイオンキャタリストシステムの場合は、触媒付与アクチベーターが弱アルカリ(pH8〜12)であり、それ以外は酸性である。以上のことから、めっき核付け薬液に対する耐性としては、pH1〜11、好ましくはpH1〜12に耐えることが必要である。なお、耐えうるとは、レジストを成膜したサンプルを薬液に浸漬した際、レジストの膨潤や溶解が充分に抑制され、レジストとしての役割を果たすことである。また、浸漬温度は、室温〜60℃、浸漬時間は、1〜10分間、レジスト膜厚は、1〜10μm程度が一般的であるが、これらに限定されない。
【0092】
被膜除去工程に用いるアルカリ剥離の薬液としては、後述するが、例えば、NaOH水溶液や炭酸ナトリウム水溶液が一般的である。そのpHは、11〜14であり、好ましくはpH12から14でレジスト膜が簡単に除去できることが望ましい。NaOH水溶液濃度は、1〜10%程度、処理温度は、室温〜50℃、処理時間は、1〜10分間で、浸漬やスプレイ処理をすることが一般的であるが、これらに限定されない。
【0093】
絶縁材料上にレジストを形成するため、成膜性も重要となる。はじき等がない均一性な膜形成が必要である。また、製造工程の簡素化や材料ロスの低減等のためにドライフィルム化されるが、ハンドリング性を確保するためにフィルムの屈曲性が必要である。また絶縁材料上にドライフィルム化されたレジストをラミネーター(ロール、真空)で貼り付ける。貼り付けの温度は、室温〜160℃、圧力や時間は任意である。このように、貼り付け時に粘着性が求められる。そのために、ドライフィルム化されたレジストはゴミの付着防止も兼ねて、キャリアフィルム、カバーフィルムでサンドイッチされた3層構造にされることが一般的であるが、これらに限定されない。
【0094】
保存性は、室温での保存できることがもっとも良いが、冷蔵、冷凍での保存ができることも必要である。このように低温時にドライフィルムの組成が分離したり、屈曲性が低下して割れたりしないようにすることが必要である。
【0095】
レジスト材料の樹脂組成は、メイン樹脂(バインダー樹脂)を必須成分とし、オリゴマー、モノマー、フィラーやその他添加剤の少なくとも1種類を添加してもよい。
【0096】
メイン樹脂は熱可塑的性質を持ったリニア型のポリマーが良い。流動性、結晶性などをコントロールするためにグラフトさせて枝分かれさせることもある。その分子量としては、数平均分子量で1000〜500000程度であり、5000〜50000が好ましい。分子量が小さすぎると、膜の屈曲性やめっき核付け薬液耐性(耐酸性)が低下する傾向がある。また、分子量が大きすぎると、アルカリ剥離性やドライフィルムにした場合の貼り付け性が悪くなる傾向がある。さらに、めっき核付け薬液耐性向上やレーザー加工時の熱変形抑制、流動制御のために架橋点を導入してもよい。
【0097】
メイン樹脂の組成としては、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸または酸無水物の単量体と(b)(a)単量体と重合しうる単量体を重合させることで得られる。公知技術としては、例えば、特開平7−281437号公報、特開2000−231190号公報、及び特開2001−201851号公報に記載のもの等が挙げられる。(a)の一例として、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、単独、もしくは2種類以上を組み合わせても良い。(b)の例としては、非酸性で分子中に重合性不飽和基を(一個)有するものが一般的であり、その限りではない。めっき工程での耐性、硬化膜の可とう性等の種々の特性を保持するように選ばれる。具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert.−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート類等が挙げられる。また、酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類や(メタ)アクリロニトリル、スチレンまたは重合可能なスチレン誘導体等が挙げられる。また、上記の重合性不飽和基を分子中に一個有するカルボン酸または酸無水物のみの重合によっても得ることが出来る。さらには、3次元架橋できるように、重合体に用いる単量体に複数の不飽和基を持つ単量体を選定する、分子骨格にエポキシ基、水酸基、アミノ基、アミド基、ビニル基などの反応性官能基を導入することができる。樹脂中にカルボキシル基が含まれる場合、樹脂中に含まれるカルボキシル基の量は、酸当量で100〜2000が良く、100〜800が好ましい。ここで酸当量とはその中に1当量のカルボキシル基を有するポリマーの重量をいう。その酸当量が低すぎる場合、溶媒または他の組成物との相溶性の低下やめっき前処理液耐性が低下する傾向がある。また、酸当量が高すぎる場合、剥離性が低下する傾向がある。また、(a)単量体の組成比率は、5〜70重量%である。
【0098】
モノマーやオリゴマーとしては、めっき核付け薬液への耐性やアルカリで容易に除去できるようなものであれば何でも良い。またドライフィルム(DFR)の貼り付け性を向上させるために粘着性付与材として可塑剤的に用いることが考えられる。さらに各種耐性をあげるために架橋剤を添加する。具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert.−ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート類等が挙げられる。また、酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル類や(メタ)アクリロニトリル、スチレンまたは重合可能なスチレン誘導体等も挙げられる。また、上記の重合性不飽和基を分子中に一個有するカルボン酸または酸無水物のみの重合によっても得ることが出来る。さらに、多官能性不飽和化合物を含んでも良い。上記のモノマーもしくはモノマーを反応させたオリゴマーのいずれでも良い。上記のモノマー以外に他の光重合性モノマーを二種類以上含むことも可能である。このモノマーの例としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、またポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ジ(p−ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルトリ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、ウレタン基を含有する多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記のモノマーもしくはモノマーを反応させたオリゴマーのいずれでも良い。
【0099】
さらに、フィラーを含有してもよい。フィラーは特に限定されないが、具体的には、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、クレー、カオリン、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、酸化亜鉛、タルク、マイカ、ガラス、チタン酸カリウム、ワラストナイト、硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、有機フィラー等が挙げられる。またレジストの厚みは、一般的に1〜10μmと薄いため、フィラーサイズも小さいものが好ましい。平均粒径が小さく、粗粒をカットしたものを用いることが良いが、分散時に砕いたり、ろ過で粗粒を除去することもできる。
【0100】
その他の添加剤としては、例えば、光重合性樹脂(光重合開始剤)、重合禁止剤、着色剤(染料、顔料、発色系顔料)、熱重合開始剤、エポキシやウレタンなどの架橋剤等が挙げられる。
【0101】
加工プロセスでは、例えば、レーザ加工が用いられる場合があるが、レーザ加工の場合、レジスト材料にレーザによるアブレーション性を付与することが必要である。レーザ加工機は、例えば、炭酸ガスレーザーやエキシマレーザー、UV−YAGレーザなどが選定される。これらのレーザ加工機は、種々の固有の波長を持っており、この波長に対して吸収率の高い材料にすることで、生産性を向上させることができる。そのなかでもUV−YAGレーザは微細加工に適しており、レーザ波長は3倍高調波355nm、4倍高調波266nmであるため、これらの波長に対して、吸収率が高いことが望ましい。一方、吸収率がある程度低い材料のほうが好ましい場合もある。具体的には、例えば、UV吸収率の低いレジストを用いると、UV光がレジストを透過するので、下地の絶縁層加工にエネルギを集中させることができる。すなわち、レーザ光の吸収率によって、利点が異なるので、状況に応じて、レジストのレーザ光の吸収率を調整したレジストを用いることが好ましい。
【0102】
<回路パターン形成工程>
回路パターン形成工程は、絶縁基材1に回路溝3等の回路パターン部を形成する工程である。回路パターン部としては、上述したように、回路溝3だけではなく、貫通孔4であってもよい。
【0103】
前記回路パターン部を形成する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、前記樹脂被膜2が形成された絶縁基材1に、前記樹脂被膜2の外表面側から、レーザ加工、及びダイシング加工等の切削加工や型押加工等の機械加工等を施すことにより、所望の形状及び深さの回路溝3を形成させる方法等が挙げられる。高精度の微細な回路を形成する場合には、レーザ加工を用いることが好ましい。レーザ加工によれば、レーザの出力等を変化させることにより、切削深さ等を自由に調整することができる。すなわち、前記回路パターン形成工程が、レーザ加工により回路パターン部を形成する工程である場合には、より微細な回路を高精度に形成することができる点から好ましい。また、レーザの出力等を変化させることにより、切削深さ等を容易に調整することができ、よって、形成される回路溝3等の深さを容易に調整することができる点からも好ましい。また、レーザ加工を用いることにより、層間接続に用いられる貫通孔を形成したり、絶縁基材1内にキャパシタを埋め込むことができる。
【0104】
また、型押加工としては、例えば、ナノインプリントの分野において用いられるような微細樹脂型による型押加工が好ましく用いられうる。このように、前記回路パターン形成工程が、型押法を用いて回路パターン部を形成する工程である場合には、型のスタンピングにより容易に回路パターン部を形成することができる点から好ましい。
【0105】
また、前記回路溝3の一部として、ビアホール等を形成するための貫通孔4を形成してもよい。この製造方法によれば、回路パターン部の形成の際にビアホールやインナービアホールに用いられうる貫通孔を形成することができる。そして、形成された貫通孔に無電解めっきすることにより、ビアホールやインナービアホールが形成される。
【0106】
この工程により、前記回路溝3の形状及び深さや前記貫通孔4の径及び位置等の回路パターン部の形状が規定される。また、前記回路パターン形成工程は、前記樹脂被膜2の厚み分よりも深く掘り込めばよく、前記樹脂被膜2の厚み分を超えて掘り込んでもよいし、絶縁基材1を貫通してもよい。
【0107】
また、この工程により、回路溝3の露出面にフィラー11を露出させることができる。そして、レーザ加工のような方法により回路溝3を形成すれば、フィラー11を破壊せずにその形状を維持したまま回路溝3の露出面から一部を突出させて溝を形成することができる。すなわち、この回路溝3の露出面は絶縁基材1の内部層がレーザ加工されて形成された面であり、フィラー11が分散している内部層が外部に露出する。そして、硬化された絶縁基材1の外表面ではなく、この外部に露出された絶縁基材1の内部層に、触媒を被着した後、無電解めっきを施すため、絶縁基材1の内部と回路層13とが直接接触することとなり、密着性を高めることができるのである。なお、フィラー11の露出は表面観察により観測することができる。
【0108】
前記回路パターン形成工程で形成される回路溝3等の回路パターン部の幅は特に限定されない。なお、レーザ加工を用いた場合には、線幅20μm以下のような微細な回路も容易に形成できる。したがって、前記回路パターン部の幅が、20μm以下の部分を有することが、微細な加工が要求されるアンテナ回路等の形成ができる点から好ましい。また、回路溝3の深さは、フィルアップめっきにより、回路層13と絶縁基材1とに段差をなくした場合には回路層13の深さとなる。
【0109】
<触媒被着工程>
触媒被着工程は、前記回路溝3等の回路パターン部の表面及び前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体を被着させる工程である。このとき、貫通孔4が形成されている場合、貫通孔4内壁表面にもめっき触媒又はその前駆体を被着される。
【0110】
前記めっき触媒又はその前駆体5は、前記めっき処理工程において無電解めっきにより無電解めっき膜を形成したい部分にのみ無電解めっき膜を形成させるために付与される触媒である。めっき触媒としては、無電解めっき用の触媒として知られたものであれば特に限定なく用いられうる。また、予めめっき触媒の前駆体を被着させ、樹脂被膜の除去後にめっき触媒を生成させてもよい。めっき触媒の具体例としては、例えば、金属パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)等、または、これらを生成させるような前駆体等が挙げられる。
【0111】
めっき触媒又はその前駆体5を被着させる方法としては、例えば、pH1〜3の酸性条件下で処理される酸性Pd−Snコロイド溶液で処理した後、酸溶液で処理するような方法等が挙げられる。具体的には、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0112】
はじめに、回路溝3及び貫通孔4が形成された絶縁基材1の表面に付着している油分等を界面活性剤の溶液(クリーナー・コンディショナー)中で所定の時間湯洗する。次に、必要に応じて、過硫酸ナトリウム−硫酸系のソフトエッチング剤でソフトエッチング処理する。そして、pH1〜2の硫酸水溶液や塩酸水溶液等の酸性溶液中でさらに酸洗する。次に、濃度0.1%程度の塩化第一錫水溶液等を主成分とするプリディップ液に浸漬して絶縁基材1表面に塩化物イオンを吸着させるプリディップ処理を行う。その後、塩化第一錫と塩化パラジウムを含む、pH1〜3の酸性Pd−Snコロイド等の酸性めっき触媒コロイド溶液にさらに浸漬することによりPd及びSnを凝集させて吸着させる。そして、吸着した塩化第一錫と塩化パラジウムとの間で、酸化還元反応(SnCl+PdCl→SnCl+Pd↓)を起こさせる。これにより、めっき触媒である金属パラジウムが析出する。
【0113】
なお、酸性めっき触媒コロイド溶液としては、公知の酸性Pd−Snコロイドキャタリスト溶液等が使用でき、酸性めっき触媒コロイド溶液を用いた市販のめっきプロセスを用いてもよい。このようなプロセスは、例えば、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社からシステム化されて販売されている。
【0114】
また、前記触媒被着工程が、酸性触媒金属コロイド溶液中で処理する工程を備え、前記被膜除去工程における所定の液体が、アルカリ性溶液であり、前記樹脂被膜が、前記酸性触媒金属コロイド溶液に対する膨潤度は60%以下であり、前記アルカリ性溶液に対する膨潤度が50%以上であることが好ましい。
【0115】
このような製造方法によれば、前記樹脂被膜は酸性条件で処理される触媒被着工程では剥離されにくく、前記触媒被着工程の後のアルカリ性溶液で処理される被膜除去工程では剥離されやすい。よって、前記樹脂被膜は、前記被膜除去工程において選択的に剥離される。したがって、触媒被着工程においては無電解めっき膜を形成させない部分を正確に保護し、めっき触媒又はその前駆体の被着後の被膜除去工程においては樹脂被膜を容易に剥離させることができる。このため、より正確な回路形成が可能になる。
【0116】
このような触媒被着処理によって、前記回路溝3の表面、前記貫通孔4の内壁表面、及び前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させることができる。
【0117】
<被膜除去工程>
被膜除去工程は、前記触媒被着工程を施した絶縁基材1から前記樹脂被膜2を除去する工程である。
【0118】
前記樹脂被膜2を除去する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、所定の溶液(膨潤液)で前記樹脂被膜2を膨潤させた後に、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を剥離させる方法、所定の溶液(膨潤液)で前記樹脂被膜2を膨潤させ、さらに一部を溶解させた後に、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を剥離させる方法、及び所定の溶液(膨潤液)で前記樹脂被膜2を溶解させて除去する方法等が挙げられる。前記膨潤液としては、前記樹脂被膜2を膨潤させることができるものであれば、特に限定されない。また、前記膨潤又は溶解は、前記樹脂被膜2で被覆された前記絶縁基材1を前記膨潤液に所定時間浸漬させること等によって行う。そして、その浸漬中に超音波照射することにより除去効率を高めてもよい。なお、膨潤させて剥離するときには、軽い力で引き剥がしてもよい。
【0119】
この被膜除去工程は、所定の液体で前記樹脂被膜2を膨潤させた後、又は所定の液体で前記樹脂被膜2の一部を溶解させた後に、前記絶縁基材1から前記樹脂被膜2を剥離する工程であることが好ましい。このような製造方法によれば、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を容易に剥離させることができる。よって、高精度な回路を絶縁基材上により容易に形成することができる。
【0120】
また、前記被膜除去工程が、所定の液体で前記樹脂被膜を溶解させて除去する工程であることも好ましい。このような製造方法によれば、前記絶縁基材から前記樹脂被膜を容易に除去させることができる。よって、高精度な回路を絶縁基材上により容易に形成することができる。
【0121】
また、前記樹脂被膜2として、前記膨潤性樹脂被膜を用いた場合について、説明する。
【0122】
前記膨潤性樹脂被膜2を膨潤させる液体(膨潤液)としては、前記絶縁基材1、及び前記めっき触媒又はその前駆体5を実質的に分解又は溶解させることなく、前記膨潤性樹脂被膜2を膨潤又は溶解させることができる液体であれば特に限定なく用いられうる。また、前記膨潤性樹脂被膜2を容易に剥離される程度に膨潤させうる液体が好ましい。このような膨潤液は、膨潤性樹脂被膜2の種類や厚みにより適宜選択されうる。具体的には、例えば、膨潤性樹脂被膜がジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマーや、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の少なくとも1種類以上の単量体と(b)前記(a)単量体と重合しうる少なくとも1種類以上の単量体を重合させることで得られる重合体樹脂又は前記重合体樹脂を含む樹脂組成物、カルボキシル基含有アクリル系樹脂から形成されている場合には、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液が好ましく用いられうる。
【0123】
なお、触媒被着工程において上述したような酸性条件で処理するめっきプロセスを用いた場合には、膨潤性樹脂被膜2が、酸性条件下においては膨潤度が60%以下、好ましくは40%以下であり、アルカリ性条件下では膨潤度が50%以上であるような、例えば、ジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマーのようなエラストマー、(a)分子中に重合性不飽和基を少なくとも1個有するカルボン酸又は酸無水物の少なくとも1種類以上の単量体と(b)前記(a)単量体と重合しうる少なくとも1種類以上の単量体を重合させることで得られる重合体樹脂又は前記重合体樹脂を含む樹脂組成物、カルボキシル基含有アクリル系樹脂から形成されていることが好ましい。このような膨潤性樹脂被膜は、pH12〜14であるようなアルカリ水溶液、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等により容易に膨潤し、剥離する。なお、剥離性を高めるために、浸漬中に超音波照射してもよい。また、必要に応じて軽い力で引き剥がすことにより剥離してもよい。
【0124】
膨潤性樹脂被膜2を膨潤させる方法としては、膨潤液に、膨潤性樹脂被膜2で被覆された絶縁基材1を所定の時間浸漬する方法が挙げる。また、剥離性を高めるために、浸漬中に超音波照射することが特に好ましい。なお、膨潤のみにより剥離しない場合には、必要に応じて軽い力で引き剥がしてもよい。
【0125】
<めっき処理工程>
めっき処理工程は、前記樹脂被膜2を除去した後の前記絶縁基材1に無電解めっき処理を施す工程である。
【0126】
前記無電解めっき処理の方法としては、部分的にめっき触媒又はその前駆体5が被着された絶縁基材1を無電解めっき液に浸漬して、めっき触媒又はその前駆体5が被着された部分のみに無電解めっき膜(めっき層)を析出させるような方法等が用いられうる。
【0127】
無電解めっきに用いられる金属としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。これらの中では、Cuを主成分とするメッキが導電性に優れている点から好ましい。また、Niを含む場合には、耐食性や、はんだとの密着性に優れる点から好ましい。
【0128】
無電解めっき膜6の膜厚は、特に限定されない。具体的には、例えば、0.1〜10μm、さらには1〜5μm程度であることが好ましい。特に、前記回路溝3の深さを深くすることにより、膜厚の厚いめっきであって、断面積が大きい金属配線を容易に形成することができる。この場合には、金属配線の強度を向上させることができる点から好ましい。
【0129】
めっき処理工程により、絶縁基材1表面のめっき触媒又はその前駆体5が残留する部分のみに無電解めっき膜6が析出する。そのために、回路パターン部を形成したい部分のみに正確に導電層を形成することができる。一方、回路パターン部を形成していない部分に対する無電解めっき膜の析出を抑制することができる。従って、狭いピッチ間隔で線幅が狭いような微細な回路を複数本形成するような場合でも、隣接する回路間に不要なめっき膜が残らない。そのために、短絡の発生やマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0130】
この無電解めっき膜6が形成された部分が回路層13となる。すなわち、回路層13は、めっき触媒又はその前駆体5と無電解めっき膜6とにより構成された導電体の層である。そして、上記のような工程で回路層13を形成するので、回路層13の埋設された底面や側面がフィラー11と他の層を介さずに接触して回路層13を形成するため、高い密着性が得られるのである。なお、図示の形態では、回路層13と絶縁基材1との表面には段差がないが、回路層13を絶縁基材1よりも突出させて形成し、回路層13の一部を絶縁基材1に埋設するようにしてもよい。
【0131】
<検査工程>
回路基板10の製造方法において、前記樹脂被膜2が蛍光性物質を含有するものであり、前記被膜除去工程の後、前記蛍光性物質からの発光を用いて被膜除去不良を検査するための検査工程をさらに備えていてもよい。すなわち、前記樹脂被膜2に蛍光性物質を含有させることにより、被膜除去工程の後、検査対象面に紫外光や近紫外光を照射することによる蛍光性物質からの発光を用いて、被膜除去不良の有無や被膜除去不良の箇所を検査することができる。回路基板の製造方法においては、線幅及び線間隔が極端に狭い回路層13を形成することができる。
【0132】
上記のような製造方法においては、線幅及び線間隔が極端に狭くなった場合には、隣り合う回路パターン部と回路パターン部との間に、本来除去すべきであった樹脂被膜が完全に除去しきれず、わずかに残留することも懸念される。また、回路パターン部の形成の際に除去された樹脂被膜の断片が、形成された回路パターン部に入り込み残留することも懸念される。回路パターン部間に樹脂被膜2が残留した場合には、その部分に無電解めっき膜6が形成されてしまい、マイグレーションや短絡等の原因になりうる。また、形成された回路パターン部に樹脂被膜2の断片が残留した場合には、回路層13の耐熱性不良や伝搬損失の原因にもなる。このような場合において、上記のように樹脂被膜に蛍光性物質を含有させ、被膜除去工程の後、被膜を除去した面に所定の発光源を照射して樹脂被膜が残留している部分のみを蛍光性物質により発光させることにより、被膜除去不良の有無や被膜除去不良の箇所を検査することができる。
【0133】
具体的には、例えば、図3に示すように、線幅及び線間隔が極端に狭い回路層13を形成するような場合、絶縁基材1表面に形成された、隣り合う回路配線8の間に、樹脂被膜が完全に除去されずに残留することが懸念される。このような場合には、その部分に無電解めっき膜6が形成されてしまい、マイグレーションや短絡等の原因になりうる。このような場合であっても、上記検査工程を備えていれば、被膜除去不良の有無や被膜除去不良の箇所を検査することができる。
【0134】
なお、図3は、樹脂被膜に蛍光性物質を含有させて、蛍光性物質からの発光を用いて被膜除去不良を検査するための検査工程を説明するための説明図である。
【0135】
前記検査工程に用いられる、樹脂被膜2に含有させうる蛍光性物質は、所定の光源により光を照射することにより発光特性を示すものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、Fluoresceine、Eosine、Pyronine G等が挙げられる。
【0136】
本検査工程により蛍光性物質からの発光が検出された部分は、樹脂被膜2の残渣2aが残留する部分である。従って、発光が検出された部分を除去することにより、その部分に無電解めっき膜が形成されることを抑制できる。これにより、マイグレーションや短絡等の発生を未然に抑制することができる。
【0137】
<デスミア処理工程>
また、回路基板10の製造方法において、前記めっき処理工程を施した後、具体的には、フィルアップめっきを施す前又は施した後に、デスミア処理を施すデスミア処理工程をさらに備えていてもよい。デスミア処理を施すことによって、無電解めっき膜に付着してしまった不要な樹脂を除去することができる。また、得られた回路基板を備える多層回路基板を想定した場合、前記絶縁基材の、無電解めっき膜が形成されていない部分の表面を粗し、前記回路基板の上層等との密着性を向上させることができる。さらに、ビア底にデスミア処理を施してもよい。そうすることによって、ビア底に付着してしまった不要な樹脂を除去することができる。また、前記デスミア処理としては、特に限定されず、公知のデスミア処理を用いることができる。具体的には、例えば、過マンガン酸溶液等に浸漬する処理等が挙げられる。
【0138】
上記のような工程を経て、図2(e)に示すような回路基板10が形成される。
【0139】
なお、前記回路パターン形成工程において、前記樹脂被膜2の厚み分を超えて掘り込んでいるので、図4に示すように絶縁基材1の深い部分に無電解めっき膜6からなる回路層13を形成することができる。
【0140】
具体的には、図4(a)に示すように、複数の導電層間で互いに深さの異なる位置(図中の無電解めっき膜6a〜6d)に回路を形成したりすることができる。この場合、めっき処理を回路溝3の途中で止めることになり、無電解めっき膜6は同じ厚みになる。なお、無電解めっき膜6は回路溝3の底面と側面とに形成される。
【0141】
また、図4(b)に示すように、絶縁基材1において所定の深さを有する回路溝3を形成した後に、無電解めっき処理により回路溝3を埋設するように回路層13を形成することができる(図中の無電解めっき膜6e〜6h)。このように、めっきを回路溝3にフル充填する場合は、めっきが表面に達するとそれ以上積みあがらずにストップするようにする。この処理は、そのような処理に適するめっき薬液を選択することにより実施できる。この形態は、断面積が大きい回路を容易に形成することができるために、回路の電気容量を増加させることができる点から好ましい。
【0142】
このように、回路溝3の深さを回路層13ごとに設定することができるので、深さ(高さT)の異なる回路層13を簡単に得ることができるものである。
【0143】
[立体回路基板の製造方法]
図5は、立体回路基板60を製造する各工程を説明するための模式断面図である。
【0144】
立体回路基板60では、絶縁基材1が段差状に形成された段差面を有し、前記絶縁基材1表面が前記段差面となっている。すなわち、絶縁基材1が段差状に形成された段差面を有し、前記段差面に、前記被膜形成工程、前記回路パターン形成工程、前記触媒被着工程、前記被膜除去工程、及び前記めっき処理工程を施すことにより立体回路基板60を製造することも好ましい。このような製造方法によれば、段差を乗り越えるような回路層13が容易に形成できる。
【0145】
はじめに、図5(a)に示すように、段差部分を有する立体絶縁基材51の表面に樹脂被膜2を形成させる。なお、この工程は、被膜形成工程に相当する。
【0146】
前記立体絶縁基材51としては、従来から知られた立体回路基板の製造に用いられうるような各種樹脂成形体が特に限定なく用いられうる。このような成形体は射出成形により得ることが、生産効率の点から好ましい。樹脂成形体を得るための樹脂材料の具体例としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、各種ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。そして、本発明にあっては樹脂成形体にフィラー11が含まれる。なお、図5ではフィラー11を省略して記載している。
【0147】
前記樹脂被膜2の形成方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、平面状の回路基板10の場合と同様の形成方法等が挙げられる。
【0148】
次に、図5(b)に示すように、前記樹脂被膜2の外表面を基準として前記樹脂被膜2の厚み分よりも深い深さの回路溝3等の回路パターン部を形成させる。回路パターン部の形成方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記回路基板10の場合と同様の形成方法等が挙げられる。前記回路溝3等の回路パターン部によって、無電解めっきによって無電解めっき膜が形成される部分、すなわち、回路層13が形成される部分が規定される。なお、この工程は、回路パターン形成工程に相当する。
【0149】
次に、図5(c)に示すように、前記回路溝3等の回路パターン部の表面及び前記回路パターン部が形成されなかった前記樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させる。めっき触媒又はその前駆体5を被着させる方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記回路基板10の場合と同様の方法等が挙げられる。なお、この工程は、触媒被着工程に相当する。このような触媒被着処理により、図5(c)に示すように、回路溝3等の回路パターン部の表面、及び樹脂被膜2の表面にめっき触媒又はその前駆体5を被着させることができる。
【0150】
次に、図5(d)に示すように、前記立体絶縁基材51から前記樹脂被膜2を除去させる。そうすることによって、前記立体絶縁基材51の前記回路溝3等の回路パターン部が形成された部分の表面にのみめっき触媒又はその前駆体5を残留させることができる。一方、前記樹脂被膜2の表面に被着されためっき触媒又はその前駆体5は、前記樹脂被膜2に担持された状態で、前記樹脂被膜2とともに除去される。また、前記樹脂被膜2を除去する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記回路基板10の場合と同様の方法等が挙げられる。なお、この工程は、被膜除去工程に相当する。
【0151】
次に、図5(e)に示すように、前記樹脂被膜2が除去された立体絶縁基材51に無電解めっきを施す。そうすることによって、前記めっき触媒又はその前駆体5が残存する部分にのみ無電解めっき膜6が形成される。すなわち、前記回路溝3や前記貫通孔4が形成された部分に、回路層13となる無電解めっき膜6が形成される。無電解めっき膜6の形成方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、前記回路基板10の場合と同様の形成方法等が挙げられる。なお、この工程は、めっき処理工程に相当する。
【0152】
上記各工程によって、図5(e)に示すような、三次元形状の立体絶縁基材51に回路層13が形成された立体回路基板60が回路基板10として形成される。このように形成された立体回路基板60は、絶縁基材1上に形成される回路層13の線幅及び線間隔が狭くても、回路配線を高精度に形成できる。また、このように形成された立体回路基板60は、基板の段差部を有する面にも、正確且つ容易に回路形成されている。
【実施例】
【0153】
以下、本実施形態の製造方法を実施例により、さらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。
【0154】
(実施例1)
まず、支持体基板上に絶縁基材1を形成した。
【0155】
絶縁基材1の材料としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製の「850S」)と、硬化剤としてのジシアンジアミド(日本カーバイド工業株式会社製の「DICY」)と、硬化促進剤としての2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製の「2E4MZ」)と、無機フィラーとしての球状の溶融シリカ(電気化学工業株式会社製の「FB1SDX 」平均粒径1.7μm)と、シランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「A−187」)と、溶剤としてのメチルエチルケトン(MEK)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)とを含む樹脂組成物を用いた。
【0156】
この樹脂組成物からなるシート状の絶縁基材1(厚み60μm)を、支持体基板の回路形成面上に載置し、さらに、この樹脂組成物からなるシートの外表面にPETフィルム(東洋紡績株式会社製の「TN100」)を載置し、この積層体を、0.4Pa、100℃で、1分間、加圧加熱成形し張り合わせた後、さらに、175℃で、90分間、加熱硬化した後に、前記絶縁基材1を硬化させた。その後、PETフィルムを剥離することにより、支持体基板の上に絶縁基材1を積層させた積層体を得た。この絶縁基材1は、硬化後の絶縁基材1に対してフィラーを75wt%含むものである。
【0157】
また、絶縁基材1の表面および断面を光学顕微鏡によって観察したところ、フィラー11が露出しておらず、表面樹脂層12が形成されていることが確認された。
【0158】
そして、絶縁基材1の表面に2μm厚のスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)の樹脂被膜2を形成した。なお、樹脂被膜2の形成は、前記エポキシ樹脂基材の主面に、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)のメチルエチルケトン(MEK)サスペンジョン(日本ゼオン(株)製、酸当量600、粒子径200nm、固形分15%)を塗布し、80℃で30分間乾燥することにより行った。
【0159】
そして、樹脂被膜2が形成された絶縁基材1に対して、レーザー加工により幅20μm、深さ30μmの略長方形断面の溝形成加工を行い、回路溝3を形成した。なお、レーザー加工にはUV−YAGレーザーを備えたESI社製のMODEL5330を用いた。レーザー加工後の表面を光学顕微鏡で観察したところ、レーザー加工された絶縁基材1の表面(回路溝3の露出表面)にフィラー11が露出する様子が確認された。
【0160】
次に、回路溝3が形成された絶縁基材1をクリーナーコンディショナー(界面活性剤溶液、pH<1:ローム&ハース電子材料(株)製C/N3320)中に浸漬し、その後、水洗した。そして、過硫酸ナトリウム−硫酸系のpH<1のソフトエッチング剤でソフトエッチング処理した。そして、PD404(シプレイ・ファーイースト(株)製、pH<1)を用いてプリディップ工程を行った。そして、塩化第一錫と塩化パラジウムを含むpH1の酸性Pd−Snコロイド溶液(CAT44、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬することにより、無電解銅めっきの核となるパラジウムをスズ−パラジウムコロイドの状態で絶縁基材1に吸着させた。これにより、めっき触媒又はその前駆体5が絶縁基材1の表面と樹脂被膜2の表面とに被着された。
【0161】
次に、pH<1のアクセラレータ薬液(ACC19E、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬することにより、パラジウム核を発生させた。このパラジウム核は、無電解めっきのめっき核となるものである。
【0162】
そして、絶縁基材1を、pH14の5%水酸化ナトリウム水溶液中に超音波処理しながら10分間浸漬した。これにより、表面の樹脂被膜2(SBR被膜)は膨潤し、きれいに剥離された。このとき、絶縁基材1の表面に樹脂被膜2の断片等が残っていなかった。そして、絶縁基材1を無電解めっき液(CM328A,CM328L、CM328C、シプレイ・ファーイースト(株)製)に浸漬させて無電解銅めっき処理を行った。
【0163】
無電解銅めっき処理により、厚み3〜5μmの無電解銅めっき膜6が析出した。無電解銅めっき処理された絶縁基材1の表面をSEM(走査型顕微鏡)により観察したところ、切削加工された部分のみに、正確に無電解めっき膜6が形成されていた。この無電解めっき膜6が回路層13となる。
【0164】
なお、膨潤性樹脂被膜の膨潤度は、以下のように求めた。
【0165】
離型紙上に膨潤性樹脂被膜を形成するために塗布したSBRサスペンジョンを塗布し、80℃で30分間乾燥した。これにより2μm厚の樹脂被膜を形成した。そして、形成された被膜を強制的に剥離することにより、試料を得た。
【0166】
そして、得られた試料0.02g程度を秤量した。このときの試料重量を膨潤前重量m(b)とする。そして、秤量された試料を20±2℃の水酸化ナトリウム5%水溶液10ml中に15分間浸漬した。また、別の試料を同様にして、20±2℃の塩酸5%水溶液(pH1)10ml中に15分間浸漬した。
【0167】
そして、遠心分離器を用いて1000Gで約10分間遠心分離処理を行い、試料に付着した水分等を除去した。そして、遠心分離後の膨潤した試料の重量を測定し、膨潤後重量m(a)とした。得られた、膨潤前重量m(b)及び膨潤後重量m(a)から、「膨潤度SW=(m(a)−m(b))/m(b)×100(%)」の式から、膨潤度を算出した。なお、その他の条件は、JIS L1015 8.27(アルカリ膨潤度の測定方法)に準じて行った。
【0168】
このとき、pH14の水酸化ナトリウム5%水溶液に対する膨潤度は750%であった。一方、pH1の塩酸5%水溶液に対する膨潤度は3%であった。
【0169】
以上のような工程により、図1のような回路基板10を得ることができた。
【0170】
(実施例2)
樹脂被膜2として、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)のメチルエチルケトン(MEK)サスペンジョン(日本ゼオン(株)製、酸当量600、粒子径200nm、固形分15%)の代わりに、カルボキシル基含有重合体(日本ゼオン(株)製、酸当量500、重量平均分子量25000、固形分20%)を用いた以外、実施例1と同様に行った。
【0171】
このとき、pH14の水酸化ナトリウム5%水溶液に対する膨潤度は1000%であった。一方、pH1の塩酸5%水溶液に対する膨潤度は30%であった。
【0172】
これにより、図1のような回路基板10を得ることができた。
【0173】
以上のような実施例の製造方法を用いれば、膨潤性樹脂被膜を剥離することにより、基材表面の回路形成したい部分のみにめっき触媒を被着させることができる。従って、めっき触媒を被着させた部分のみに正確に無電解めっき膜が形成される。また、膨潤性樹脂被膜は膨潤作用により容易に剥離させることができるために、被膜除去工程も容易かつ正確に行うことができる。
【符号の説明】
【0174】
1 絶縁基材
2 樹脂被膜
3 回路溝
4 貫通孔
5 めっき触媒又はその前駆体
6 無電解めっき膜
10 回路基板
11 フィラー
12 表面樹脂層
13 回路層
51 立体絶縁基材
60 立体回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーを含有する樹脂により形成された絶縁基材の表面に、導電体からなる回路層が埋設されて形成された回路基板であって、絶縁基材の露出表面はフィラーが破壊されずに形成され、回路層の絶縁基材との接触面は、フィラーの当該接触面への突出形状に追従して凹凸形状に形成されていることを特徴とする回路基板。
【請求項2】
回路層の絶縁基材との接触面は、当該接触面に突出する少なくとも一部のフィラーと接触していることを特徴とする請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
絶縁基材の露出表面はフィラーが露出していないことを特徴とする請求項1又は2に記載の回路基板。
【請求項4】
絶縁基材の回路層との接触面は、レーザー加工により、フィラーを突出させた凹凸形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項5】
回路層が、導電体のメッキにより形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回路基板。
【請求項6】
回路層の露出表面が、平坦に形成されると共に絶縁基材との境界に段差がなく形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回路基板

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−100797(P2011−100797A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253503(P2009−253503)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】