説明

回転ダンパ

【課題】高トルク仕様の回転ダンパにおいてダンパ作用トルクを、大きい可変幅をもって精度よく設定できるようにすること。
【解決手段】ロータ室18に回転可能に配置されるロータ30を軸線方向に複数個に分割された分割部材32、34によって構成し、当該複数個の分割部部材32、34の軸線方向の変位によってロータ30の軸線方向長さが変更される構造にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ダンパに関し、特に、作用トルク可変設定型の回転ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のグローブボックスのリッド等の回動物に用いられる回転ダンパとして、回動物の回動に対して作用する抵抗力(ダンパ作用トルク)を可変設定できる作用トルク可変設定型の回転ダンパが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この回転ダンパは、円筒状のロータ室を画定するハウジングと、ロータ室に回転可能に配置されたロータと、一端をロータに連結され他端がロータ室外に突出した回転入力軸とを有し、ハウジングとロータとの相対的な回転運動に抵抗を与える回転ダンパであって、ハウジングとロータとの軸線方向変位によって、ハウジングに形成されている同心状リンクとロータに形成されている同心状リンクとの相互の入り込み量によって決まる制動表面積を増減することにより、ダンパ作用トルクを可変設定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−27163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術による作用トルク可変設定型の回転ダンパは、ハウジングとロータとの相対回転によって当該両者の同心状リンク間に存在する粘性流体に生じる剪断により回転抵抗となるダンパ作用トルクを得るものであるため、絞り抵抗式の回転ダンパほど高いダンパ作用トルクを得ることができず、高トルク仕様の回転ダンパに適用できない。また、ハウジングとロータとに形成されている同心状リンクの入り込み量の増減によって制動表面積を増減することによりダンパ作用トルクを可変設定するものであるため、ダンパ作用トルクの可変幅を大きく設定することに限界があり、ダンパ作用トルクの設定を精度よく行うことも難しい。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高トルク仕様の回転ダンパにおいてダンパ作用トルクを、大きい可変幅をもって精度よく設定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による回転ダンパは、円筒状のロータ室(18)を画定するハウジング(10)と、前記ロータ室(18)に回転可能に配置されたロータ(30)と、一端を前記ロータ(30)に連結され他端が前記ロータ室(18)外に突出した回転入力軸(36)とを有し、前記ハウジング(10)と前記ロータ(30)との相対的な回転運動に抵抗を与える回転ダンパであって、前記ロータ(30)が軸線方向に複数個に分割された分割部材(32、34)によって構成され、当該複数個の分割部材(32、34)は、回転方向には相対変位不能に且つ軸線方向には互いに変位可能に組み合わせられ、当該複数個の分割部部材(32、34)の軸線方向の変位によって前記ロータ(30)の軸線方向長さが変更可能に設定される。
【0008】
この構造によれば、複数個の分割部材(32、34)の軸線方向の変位によってロータ(30)の軸線方向長さが変更されることにより、ロータ(30)の軸線方向長さに応じてダンパ作用トルクを連続的に可変設定することができる。この回転ダンパはロータ(30)の軸線方向長さの変更によってダンパ作用トルクを可変設定するものであるから、ベーン式等の高トルク型回転ダンパに適用でき、しかも、ロータ(30)の軸線方向長さは、分割部材の軸方向寸法の設定によって制限なく変化幅を大きく設定することができる。これにより、高トルク型回転ダンパにおいてダンパ作用トルクの調節幅を大きく設定することができると共に、ロータ(30)の表面積はロータ(30)の有効軸長に概ね比例して変化するので、ダンパ作用トルクの設定を精度よく行うことができる。
【0009】
本発明による回転ダンパは、好ましい一つの実施形態として、前記ロータ(30)は、軸線方向に分割された第1の分割部材(32)と第2の分割部材(34)とにより構成され、前記第1の分割部材(32)と前記第2の分割部材(34)の一方に前記回転入力軸(36)が連結され、前記第1の分割部材(32)は筒状に構成されていて前記第2の分割部材(34)が前記第1の分割部材(32)の筒内に軸線方向に変位可能に挿入され、前記第1の分割部材(32)に対する前記第2の分割部材(34)の挿入量の調節によって前記ロータ(30)の軸線方向長さが変更される。
【0010】
この構造によれば、第1の分割部材(32)に対する第2の分割部材(34)の挿入量により決まるロータ30の軸線方向長さに応じてダンパ作用トルクを連続的に可変設定することができる。ロータ(30)の軸線方向長さは、第1の分割部材(32)に対する第2の分割部材(34)の挿入量により決まる構造であるので、これらの軸方向寸法の設定によって制限なく変化幅を大きく設定することが可能である。これにより、回転ダンパのダンパ作用トルクの調節幅を大きく設定することができると共に、ロータ(30)の表面積はロータ(30)の有効軸長に概ね比例して変化するので、ダンパ作用トルクの調節を精度よく行うことができる。
【0011】
本発明による回転ダンパは、好ましくは、更に、前記第1の分割部材(32)と前記第2の分割部材(34)には、これらの外周部より外方へ突出してロータ室(18)内を複数個の区画室(18A、18B、18C、18D)に区画するベーン(44、46)が設けられ、互いに係合する前記第1の分割部材(32)と前記第2の分割部材(34)の前記ベーン同士は軸線方向には変位可能にトルク伝達可能に係合しており、前記第1の分割部材(32)と前記第2の分割部材の何れか一方に前記回転入力軸(36)が連結されている。
【0012】
この構造によれば、前記第1の分割部材(32)と第2の分割部材(34)との回転方向の連結がロータ室(18)内を複数個の区画室(18A、18B、18C、18D)に区分するベーン(44、46)によって行われ、ベーン(44、46)が第1の分割部材(32)と第2の分割部材(34)とをトルク伝達可能に連結する構造を兼ねているから、第1の分割部材(32)と第2の分割部材(34)とをトルク伝達可能に連結する構造を別途設ける必要がなくなり、構造が簡単になる。
【0013】
本発明による回転ダンパは、好ましい一つの実施形態として、前記ハウジング(10)は、一端開口のカップ形状のハウジング本体(12)と、前記ハウジング本体(12)の前記一端開口を塞ぐように前記ハウジング本体(12)に取り付けられた蓋体(14)とにより構成され、前記ハウジング本体(12)に対する前記蓋体(14)の軸線方向の取付位置が変更になっており、当該変更によって前記ロータ室(18)の軸線方向長さが変更される。
【0014】
この構造によれば、ハウジング本体(12)に対する蓋体(14)の軸線方向の取付位置の変更によってロータ室(18)の軸線方向長さが変更され、ハウジング本体(12)を交換(変更)することなくロータ室(18)の軸線方向長さが、ロータ(30)の軸線方向長さに適合したものになる。
【0015】
本発明による回転ダンパは、好ましくは、更に、前記第1の分割部材(32)と前記第2の分割部材(34)の何れか一方には軸線方向に隔置された複数個の係合凹凸部(38)が形成され、他方に前記係合凹凸部(38)の少なくとも一つに係合する係合部(42)が形成され、前記係合凹凸部(38)と前記係合部(42)との係脱可能な係合によって前記第1の分割部材(32)と前記第2の分割部材(34)とが軸線方向に固定連結される。
【0016】
この構造によれば、係合凹凸部(38)と係合部(42)との係合によってクリックストップ式にロータ(30)の軸線方向長さが設定される。更には、係合部(42)と係合凹凸部(38)との係合は、係脱可能であるから、ロータ(30)の有効な軸線方向長さの設定を再設定することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明による回転ダンパは、複数個の分割部材の軸線方向の変位、つまり、相対位置変更によってロータ30の軸線方向長さを変更される。これにより、ロータの軸線方向長さに応じてダンパ作用トルクを連続的に可変設定することができる。この回転ダンパはロータ30の軸線方向長さの変更によってダンパ作用トルクを可変設定するものであるから、ベーン式等の高トルク型回転ダンパに適用でき、ロータの軸線方向長さは、分割部材の軸方向寸法の設定によって制限なく変化幅を大きく設定することができるから、高トルク型回転ダンパにおいてダンパ作用トルクの調節幅を大きく設定することができる。この回転ダンパの更なる利点として、ロータの表面積はロータの有効軸長に概ね比例して変化するので、ダンパ作用トルクの設定を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による回転ダンパの一つの実施形態を示す分解斜視図。
【図2】本実施形態による回転ダンパの最大軸長状態での縦断面図。
【図3】本実施形態による回転ダンパの最小軸長状態での縦断面図。
【図4】図2の線IV−IVに沿った断面図。
【図5】本発明による回転ダンパの他の実施形態を示す断面図(図2の線IV−IVに沿った断面図に相当)。
【図6】本発明による回転ダンパの他の実施形態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による回転ダンパの一つの実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0020】
回転ダンパは外郭をなすハウジング10を有する。ハウジング10は、一端(上端)が開口(開口部12A)した有底の円筒形状(カップ形状)のハウジング本体12と、ハウジング本体12の開口部12Aを塞ぐようにハウジング本体12の一端側に取り付けられた円盤状の蓋体14とにより構成されたハウジング10を有する。
【0021】
ハウジング本体12は内側に円筒状のロータ室18を画定する。ハウジング本体12の円筒状の内周壁部12Bには、ロータ室18の中心軸線周りに互いに180度回転変位した位置に、当該内周壁部10Aより径方向内方に突出した隔壁部10C、10D(図4参照)が形成されている。ハウジング本体12と蓋体14との嵌合部にはロータ室18を気密室にするためのOリング20が取り付けられている。
【0022】
ロータ室18には、粘性流体としてシリコンオイル等を充填される。この粘性流体の充填は、ハウジング10に対する蓋体14の固定と、後述するロータ30の組み付け後に、蓋体14に形成された充填口(図示省略)よりロータ室18内一杯(満杯)に注入することにより行われてよく、充填完了後に充填口が気密に塞がれればよい。
【0023】
ハウジング本体12に対する蓋体14の固定は、ハウジング本体12と蓋体14との嵌合部に形成された円環凹溝22と円環凸部24との嵌合により行われている。なお、ハウジング本体12に対する蓋体14の固定は、この構造に限られるものでなく、他の締結具を用いたもの、接着、溶着等によって行われてもよい。
【0024】
ロータ室18には、円筒形状のロータ30が、同心配置で、自身の中心軸線周りに回転可能に配置されている。ロータ30は、軸線方向に2分割された第1の分割部材32と第2の分割部材34とにより構成されている。
【0025】
図で見て下側に位置する第1の分割部材32は有底円筒形状をなしている。第1の分割部材32の底部32Aの中央部には中心突部32Bが下方へ向けて突出形成されている。中心突部32Bは、ハウジング本体12の底部12Eの中央部に形成された軸受凹部12Fに回転可能に係合している。
【0026】
図で見て上側に位置する第2の分割部材34は、円筒部34Aと、円筒部34Aの上端に接合された円形フランジ部34Bとにより構成され、円筒部34Aが第1の分割部材32の円筒部32Cの内側に軸線方向に変位可能に挿入されている。なお、第1の分割部材32と第2の分割部材34との間に径方向のがた付きがないよう、第1の分割部材32の円筒部32Cの内周面と第2の分割部材34の円筒部34Aの外周面との間には径方向の間隙がないことが好ましい。このため、第1の分割部材32の円筒部32Cの内径は第2の分割部材34の円筒部34Aの外径に等しい寸法設定になっている。
【0027】
第2の分割部材34の外周面には複数個の係合凹凸部38が軸線方向に等ピッチで隔置されて形成されている。第1の分割部材32には両側に形成されたスリット32Dによって円筒部32Cと区分された弾性爪片40が形成されている。弾性爪片40の遊端(先端)には、係合凹凸部38の一つに選択的に係脱可能に係合する係合部42が一体形成されている。係合部42が係合凹凸部38の一つに選択的に係合することにより、第1の分割部材32と第2の分割部材34とが軸線方向に相対位置変更に、つまりロータ30の軸線方向長さを変更可能に軸線方向に互いに固定連結される。
【0028】
ロータ30は、第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の軸線方向(上下方向)の挿入量の変更により、ロータ室28内においてダンパ作用を奏する有効な軸線方向長さを変更される。この変更に伴い係合部42が係合する係合凹凸部38が変更され、クリックストップ式にロータ30の有効な軸線方向長さが変更可能に設定される。係合部42と係合凹凸部38との係合は、係脱可能であるから、ロータ30の有効な軸線方向長さの設定を再設定することが可能である。
【0029】
なお、係合部42、係合凹凸部38は、第1の分割部材32、第2の分割部材34の中心軸線周りに180度回転変位した2箇所に形成されているが、これらは後述する第1のベーン44、第2のベーン46とは異なる回転位置にある。
【0030】
第1の分割部材32の円筒部32Cには、中心軸線周りに180度回転変位した2箇所に各々、円筒部32Cの内側より見て径方向外方へ突出した第1のベーン44が一体形成されている。第1のベーン44は、周方向に小さい間隔をおいて設けられた2枚のベーンからなり、2枚のベーン間に軸線方向に長いスリット45を画定している。
【0031】
第2の分割部材34の円筒部34Aには、中心軸線周りに180度回転変位した2箇所に各々、軸線方向に長い板状の第2のベーン46が径方向外方へ突出して一体形成されている。
【0032】
第1のベーン44と第2のベーン46はそれぞれ軸線方向(母線方向)に直線的に延在しており、第2のベーン44が第1のベーン46のスリット45内に軸線方向に変位可能に差し込まれている。第1のベーン44と第2のベーン46との係合は、滑りキー係合と同等で、第1の分割部材32と第2の分割部材34との間にトルク伝達可能な係合である。なお、第1のベーン44と第2のベーン46とが、がたなく回転方向に連結されるよう、第2のベーン46の板厚は、スリット45の幅に等しいことが好ましい。
【0033】
図4に示されているように、第1の分割部材32の円筒部32Cの外径は隔壁部10C、10Dの先端部によるロータ室18内の内径に等しく、円筒部32Cの外周面と隔壁部10C、10Dの先端面(内周面)との間に径方向の隙間がない寸法設定になっている。これにより、ロータ室18は実質的に円環状の空間になり、隔壁部10Cと10Dとによって周方向に2分割される。
【0034】
第1のベーン44と第2のベーン46との組み合わせによりなるベーンの外径は、隔壁部10C、10D以外のロータ室18の内径に等しく、ベーンの先端面(外周面)とロータ室18の内周面との間に径方向の隙間がない寸法設定になっている。これにより、第1のベーン44と第2のベーン46との組み合わせによりなる2組のベーンは、2分割されたロータ室18内に一つずつ存在して2分割されたロータ室18を周方向に更に2分割している。
【0035】
このようにして、第1のベーン44と第2のベーン46との組み合わせによる2組のベーンと、隔壁部10C、10Dとは、ロータ室18内を周方向に4個の区画室18A、18B、18C、18Dに区画している。
【0036】
第1のベーン44と第2のベーン46とは、上述のように、ロータ室18を周方向に区画する区画壁をなすと同時に、第1の分割部材32と第2の分割部材34とをトルク伝達可能に連結する構造をなす。このようにして第1の分割部材32と第2の分割部材34とは、第1のベーン44と第2のベーン46との滑り係合により、軸線方向には変位可能であるが、互いに相対回転不能にトルク伝達可能で連結される。これにより、第1の分割部材32と第2の分割部材34とをトルク伝達可能に連結する構造を別途設ける必要がなくなり、構造が簡単になる。
【0037】
第1の分割部材32の円筒部32Cの外周面には、2箇所の第1のベーン44間の全域に周方向に延在する周溝47が形成されている。一方の周溝47は隔壁部10Cの先端面との間に、隔壁部10Cの両側にある区画室18Aと18Bとを連通するオリフィス通路(絞り通路)47Aを画定している。他方の周溝47は隔壁部10Dの先端面との間に、隔壁部10Dの両側にある区画室18Cと18Dとを連通するオリフィス通路(絞り通路)47Bを画定している。周溝47は、本実施形態では、図4で見てロータ30の時計廻り方向に進むに従って溝幅が小さくなっている。
【0038】
円形フランジ部34Bの上面中央部には一端(下端)を連結された形態で回転入力軸(ロータ軸)36が一体形成されている。回転入力軸36は、蓋体14の中央部に貫通形成された中心孔14Aを回転可能に貫通し、他端(上端)がロータ室18外に突出している。回転入力軸36が中心孔14Aを貫通する部分には、ロータ室18の気密を保つためのOリング37が取り付けられている。
【0039】
このようにして、ロータ30は、中心突部32Bと軸受凹部12Fとの嵌合と、回転入力軸36と中心孔14Aとの嵌合によって、ロータ室18と同心にハウジング10より回転可能に支持されている。例えば、ハウジング10が固定され、回転入力軸36によってロータ30に回転力が与えられると、ロータ30がロータ室18内において粘性流体中を回転する。
【0040】
図4は、180度回転変位の2個の第1のベーン44が、各々、隔壁部10C、10Dの一方の壁面に当接した初期位置(時計廻り方向の最大回転位置)にある状態を示している。初期位置よりロータ30がハウジング10に対して反時計廻り方向に回転すると、第1のベーン44、第2のベーン46より回転方向進み側にある区画室18A、18Cの容積が減少し、それに伴い第1のベーン44、第2のベーン46より回転方向遅れ側にある区画室18B、18Dの容積が増大する。
【0041】
これにより、ハウジング10に対するロータ30の反時計廻り方向に回転に伴って区画室18Aの粘性流体がオリフィス通路47Aを通過して区画室18Bへ流れると共に、区画室18Cの粘性流体がオリフィス通路47Bを通過して区画室18Dへ流れ、粘性流体がオリフィス通路47A、47Bを通過する際に絞り流れ抵抗が生じる。この絞り流れ抵抗によってロータ30の回転運動に抵抗が与えられ、ダンパ作用が生じる。
【0042】
この回転運動に対する抵抗、つまり、ダンパ作用トルクは、ロータ室18に封入された粘性流体の粘度、オリフィス通路47A、47Bの通路断面積、区画室18A〜18Dの容積(粘性流体の体積)により決まり、粘性流体の粘度、オリフィス通路47A、47Bの通路断面積を一定とすると、区画室18A〜18Dの容積の増大に比例して増大する。区画室18A〜18Dの容積の増大に比例してダンパ作用トルクが増大することは、区画室18A〜18Dの容積が大きいほど、単位回転角当たりの粘性流体のオリフィス通路通過量が増加し、粘性流体がオリフィス通路47A、47Bを通過する際の単位回転角当たりの絞り流れ抵抗が増大するからである。
【0043】
この回転ダンパは、絞り抵抗式の回転ダンパであり、ハウジングとロータとの相対回転により当該両者の同心状リンク間に存在する粘性流体に生じる剪断によってダンパ作用トルクを得るものに比して高いダンパ作用トルクを得ることができる。
【0044】
なお、本実施形態では、周溝47の溝幅が図4で見てロータ30の時計廻り方向に進むに従って小さくなっているので、ロータ30の反時計廻り方向の回転が進むに従って、オリフィス通路47A、47Bの通路断面積が減少し、ダンパ作用トルクが漸次増大する。この作用は周溝47の深さ設定でも得られるが、必須ではない。
【0045】
図2は、第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の挿入量が最も少なく、ロータ30の有効な軸線方向長さ(有効軸長)が最大値(最大軸長)に設定され、予め準備された軸長の異なるハウジング本体12のうち、最長のものが用いられて区画室18A〜18Dの容積が最大容積になっていることにより、最大値のダンパ作用トルクが得られる状態を示している。これに対し、図3は、第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の挿入量が最も多く、ロータ30の有効軸長が最小値(最小軸長)に設定され、予め準備された軸長の異なるハウジング本体12のうち、最短のものが用いられて区画室18A〜18Dの容積が最小容積になっていることにより、最小値のダンパ作用トルクが得られる状態を示している。
【0046】
これにより、本実施形態の回転ダンパは、第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の挿入量により決まるロータ30の有効軸長に応じて、ロータ30を共通にして、ロータ30の有効軸長に適合した軸長のハウジング本体12を選択使用するだけで、ダンパ作用トルクを、上述の最大値と最小値の間で連続的に変化する値をもって、可変設定することができる。
【0047】
ロータ30の有効軸長は、第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の挿入量により決まる構造であるので、これらの軸方向寸法の設定によって制限なく変化幅を大きく設定することが可能である。これにより、回転ダンパのダンパ作用トルクの可変幅を大きく設定することができる。また、区画室18A〜18Dの容積は、ロータ30の有効軸長に比例して変化するので、ダンパ作用トルクの設定を精度よく行うことができる。
【0048】
このようにして、本実施形態の回転ダンパによれば、絞り抵抗式による高トルク仕様の回転ダンパにおいて、ダンパ作用トルクを大きい可変幅をもって精度よく設定することができる。
【0049】
つぎに、本発明による回転ダンパの他の実施形態を、図5を参照して説明する。なお、図5において、図4に対応する部分は、図4に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0050】
本実施形態の回転ダンパは、多回転型のものであり、ハウジング本体12に前述の実施形態における隔壁部10C、10Dが省略されている。
【0051】
第1のベーン44と第2のベーン46との組み合わせによりなるベーンの外径は、ロータ室18の内径より小さい。これにより、第1のベーン44と第2のベーン46との組み合わせによりなるベーンの先端面(外周面)とロータ室18の内周面との間に、径方向隙間によるオリフィス通路49が画成される。
【0052】
本実施形態では、ハウジング10に対するロータ30の回転によってロータ室18の粘性流体がオリフィス通路49を流れることにより絞り流れ抵抗が生じ、ダンパ作用が生じる。
【0053】
本実施形態でも、第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の挿入量により決まるロータ30の有効軸長に応じてロータ室18の容積が変化し、ダンパ作用トルクを可変設定することができる。なお、本実施形態では、ロータ30の有効軸長に応じてオリフィス通路49の長さ(ロータ室18の母線方向の長さ)が変化し、これに応じてオリフィス通路49の通路断面積が変化することによってもダンパ作用トルクが変化する。
【0054】
本発明による回転ダンパのもう一つの他の実施形態を、図6を参照して説明する。なお、図6において、図5に対応する部分は、図5に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0055】
本実施形態では、蓋部材14がねじ部26によってハウジング本体12に取り付けられ、ハウジング本体12に対する蓋部材14のねじ込み量によってロータ室18の軸線方向長さ(軸長)が変化する構造になっている。
【0056】
また、第1の分割部材32と第2の分割部材34とを所定軸長をもって連結するための係合凹凸部36と係合部42はなく、第1の分割部材32と第2の分割部材34の内筒部に、当該両者を軸線方向に引き離す方向に付勢する圧縮コイルばね48が設けられている。
【0057】
この構造によれば、圧縮コイルばね48のばね力によって第2の分割部材34のフランジ部34Bが蓋部材14の下底面に押し付けられ、蓋部材14のハウジング本体12に対するねじ込み量に応じてロータ室18の軸長が変化することに応じて、圧縮コイルばね48の撓みを伴って第1の分割部材32に対する第2の分割部材34の挿入量が変化し、ロータ30の有効な軸線方向長さ(軸長)がロータ室18の軸長変化に追従して変化する。
【0058】
これにより、ハウジング本体12を交換、変更することなくロータ室18の軸線方向長さが、ロータ30の有効軸長に適合したものになる。
【0059】
そして、本実施形態では、蓋部材14のハウジング本体12に対するねじ込み量の調節だけで、上述の実施形態と同様に、ダンパ作用トルクの設定を精度よく行うことができる。
【0060】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。例えば、ロータ30が固定で、ハウジング10がロータ30に対して回転してもよい。また、ロータ30は2個に分割されたものに限られることはなく、それ以上の複数個に分割されたものであってもよい。また、第1の分割部材32と第2の分割部材34との軸線方向の連結は、係合凹凸部38と係合部42との係合によるものに限られることなく、ピン係合や接着、溶着であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 ハウジング
12 ハウジング本体
14 蓋体
18 ロータ室
26 ねじ部
30 ロータ
32 第1の分割部材
34 第2の分割部材
36 入力回転軸
38 係合凹凸部
42 係合部
44 第1のベーン
46 第2のベーン
47A、47B オリフィス通路
48 圧縮コイルばね
49 オリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のロータ室を画定するハウジングと、前記ロータ室に回転可能に配置されたロータと、一端を前記ロータに連結され他端が前記ロータ室外に突出した回転入力軸とを有し、前記ハウジングと前記ロータとの相対的な回転運動に抵抗を与える回転ダンパであって、
前記ロータが軸線方向に複数個に分割された分割部材によって構成され、当該複数個の分割部材は、回転方向には相対変位不能に且つ軸線方向には互いに変位可能に組み合わせてられ、当該複数個の分割部部材の軸線方向の変位によって前記ロータの軸線方向長さが変更可能に設定される回転ダンパ。
【請求項2】
前記ロータは、軸線方向に分割された第1の分割部材と第2の分割部材とにより構成され、前記第1の分割部材と前記第2の分割部材の一方に前記回転入力軸が連結され、前記第1の分割部材は筒状に構成されていて前記第2の分割部材が前記第1の分割部材の筒内に軸線方向に変位可能に挿入され、前記第1の分割部材に対する前記第2の分割部材の挿入量の調節によって前記ロータの軸線方向長さが変更される請求項1に記載の回転ダンパ。
【請求項3】
前記第1の分割部材と前記第2の分割部材には、これらの外周部より外方へ突出してロータ室内を複数個の区画室に区分するベーンが設けられ、互いに係合する前記第1の分割部材と前記第2の分割部材の前記ベーン同士が軸線方向には変位可能にトルク伝達可能に係合しており、前記第1の分割部材と前記第2の分割部材の何れか一方に前記回転入力軸が連結されている請求項2に記載の回転ダンパ。
【請求項4】
前記ハウジングは、一端開口のカップ形状のハウジング本体と、前記ハウジング本体の前記一端開口を塞ぐように前記ハウジング本体に取り付けられた蓋体とにより構成され、前記ハウジング本体に対する前記蓋体の軸線方向の取付位置が変更になっており、当該変更によって前記ロータ室の軸線方向長さが変更される請求項1から3の何れか一項に記載の回転ダンパ。
【請求項5】
前記第1の分割部材と前記第2の分割部材の何れか一方には軸線方向に隔置された複数個の係合凹凸部が形成され、他方に前記係合凹凸部の少なくとも一つに係合する係合部が形成され、前記係合凹凸部と前記係合部との係脱可能な係合によって前記第1の分割部材と前記第2の分割部材とが軸線方向に固定連結される請求項2または3に記載の回転ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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