説明

回転ダンパ

【課題】 いずれの回転方向においてもロータの回転速度に応じて回転抵抗を変化させることができる回転ダンパを提供する。
【解決手段】 粘性流体が封入された液室10を有するダンパハウジング2と、一端が液室に回転可能に受容され、他端がダンパハウジングから突出したロータ3とを備えた回転ダンパ1であって、液室を画成するダンパハウジングの側周壁6の内周面15には、液室に連通する凹部16が形成され、凹部には、液室と凹部を区画すると共に、液室の圧力に応じて凹部内へと変位する可動板21が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体が封入されたハウジング内にロータを回転可能に支持し、ロータの回転に対して粘性流体の流動抵抗を作用させるようにした回転ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
粘性流体が封入された液室を有する円筒状のハウジングと、ハウジングに回転可能に支持されたロータとを有し、粘性流体の抵抗によってロータの回転を減衰するようにした回転ダンパが公知となっている。ロータは、一端が液室内に受容される一方、他端がハウジングの外部に突出したロータ軸と、ロータ軸の液室内に位置する部分の外周面から径方向外方に突出したベーン(ロータ翼)とを備えている。ロータ軸の他端(外端)は、回転を減衰すべき回転部材(ギヤ等)に連結される。ロータが回転する際には、ベーンとハウジング内壁との間に形成される通路を粘性流体が通過し、このときの粘性流体の流動抵抗がロータに回転抵抗として作用する。このような回転ダンパにおいて、液室内に通路を備えた堰と、通路の開度を調整するフラップ(ブレード)とを設け、ロータが一の回転方向に回転する際には、ロータの回転に伴う粘性流体の流動によってフラップが第1の開度となるようにし、ロータが一の回転方向と相反する他の回転方向に回転する際には、ロータの回転に伴う粘性流体の逆方向への流動によってフラップが第2の開度となるようにして、ロータの回転抵抗を変化させるようにしたものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−127681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような回転ダンパは、ロータの回転方向に応じてロータの回転抵抗を変化させることができるものの、ロータの同一回転方向における回転抵抗を変化させることはできないという問題がある。また、液室内に堰及びフラップを設けることから、堰等によってロータの回転角が規制されるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであって、いずれの回転方向においてもロータの回転速度に応じて回転抵抗を変化させることができる回転ダンパ(速度応答型回転ダンパ)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、粘性流体が封入された液室(10)を有するダンパハウジング(2)と、一端が前記液室に回転可能に受容され、他端が前記ダンパハウジングから突出したロータ(3)とを備えた回転ダンパ(1)であって、前記液室を画成する前記ダンパハウジングの内壁(6)には、前記液室に連通する凹部(16、41)が形成され、前記凹部には、前記液室と前記凹部を区画すると共に、前記液室の圧力に応じて前記凹部内へと変位する区画部材(21、42)が設けられていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ロータが回転して液室内の圧力が上昇する場合には、区画部材が凹部内へと変位し、ロータと区画部材との間の隙間が大きくなる。これにより、ロータと区画部材との間の隙間を通って粘性流体が流れ易くなり、ロータが受ける回転抵抗が低下する。液室内の圧力はロータの回転速度が速いほど高くなるため、回転ダンパが発生する抵抗(減衰力)は、ロータの回転速度が速いほど小さくなる。また、凹部及び区画部材は、ロータの回転を阻害しないため、ロータは正負いずれの方向にも回転することができる。
【0008】
本発明の他の側面は、前記凹部は、前記ロータの回転軸に対して径方向外方へと凹設されており、前記区画部材は前記ロータの回転軸の径方向に変位可能となっていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ロータの回転による圧力上昇が発生し易い部分に凹部及び区画部材を設けることで、ロータの回転に応じて区画部材が変位し易くなる。
【0010】
本発明の他の側面は、前記区画部材は、前記凹部内にスライド移動可能に設けられた板部材(21)と、前記板部材を前記液室側へと付勢する付勢部材(26)とを有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、簡単な構成で、液室内の圧力に応じてロータと板部材との間の隙間を変化させることができる。
【0012】
本発明の他の側面は、前記区画部材は、前記凹部を閉塞するように前記内壁に結合された可撓性部材(42)であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、簡単な構成で、液室内の圧力に応じてロータと板部材との間の隙間を変化させることができる。
【0014】
本発明の他の側面は、前記ダンパハウジングの内壁には、液室を区画する隔壁が設けられていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、隔壁が粘性流体の流動を阻害するため、ロータが回転する際に液室内の圧力が上昇しやすくなり、区画部材が変位しやすくなる。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成によれば、回転ダンパにおいて、いずれの回転方向においてもロータの回転抵抗を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る回転ダンパの斜視図
【図2】第1実施形態に係る回転ダンパの分解斜視図
【図3】図1のIII−III断面図
【図4】図3のIV−IV断面図
【図5】ロータが回転する際の回転ダンパの状態を示す断面図
【図6】第2実施形態に係る回転ダンパの断面図
【図7】第2実施形態に係る回転ダンパの断面図
【図8】変形実施形態に係る回転ダンパの断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
図1及び2に示すように、第1実施形態に係る回転ダンパ1は、円筒形状のハウジング2と、ハウジング2内に一部が受容されたロータ3とを備えている。ハウジング2及びロータ3の軸線は、それぞれ同軸上に配置されており、回転ダンパ1の回転軸となる軸線Aと一致する。以下、軸線Aに沿った方向を軸線方向という。
【0020】
図2に示すように、ハウジング2は、円筒状の側周壁6の軸線方向における一端が底板7によって閉塞される一方、他端が開口した有底円筒形状のハウジングベース部8と、ハウジングベース部8の開口端を閉塞する円板状のハウジング蓋部9とから構成されている。ハウジングベース部8及びハウジング蓋部9は樹脂から形成されている。ハウジングベース部8の側周壁6の開口端には、軸線方向に突出した嵌合凸部12が全周にわたって延設されており、ハウジング蓋部9の周縁部には嵌合凸部12が嵌合可能な嵌合溝13が円環状に凹設されている(図4参照)。ハウジングベース部8とハウジング蓋部9とは、嵌合凸部12が嵌合溝13に嵌合した状態で、振動溶着によって互いに接合される。これにより、ハウジング2の内部に液室10が画成される。ハウジングベース部8とハウジング蓋部9との結合は、振動溶着に限らず、接着剤を使用する等、公知の手法を代替してもよい。なお、ハウジングベース部8とハウジング蓋部9との接合は、後述するロータ3を内部に受容し、シリコーンオイル等の粘性流体が充填された後に行われる。
【0021】
ハウジングベース部8の底板7の外面には、軸線方向に突出するキー14が直径方向に延設されている。キー14は、回転ダンパ1が組み込まれる扉等の装置に対して軸線A回りに回転不能にハウジングベース部8を結合する。なお、キー14に代えて、ボルト締結に使用されるフランジを底板7の周縁部に突設してもよい。
【0022】
側周壁6の内周面15には、一の直径方向に沿って互いに相反する方向に凹設された2つの凹部16が形成されている。凹部16は、側周壁6の底板7と連続する部分から開口端へと延設されている。凹部16は、円周面に形成されて凹部16の底部をなす底壁17と、底壁17の周方向における両縁から一の直径方向と平行に延在し、側周壁6の内周面15側へと延びる2つの側壁18とを有している。各側壁18の内端縁、すなわち側周壁6の内周面15との境界部分のそれぞれには、周方向に沿って互いに近接する方向に突出した顎部19が形成されている。また、各顎部19は、各側壁18の内端縁に沿って軸線方向に延設されている。
【0023】
各凹部16には、可動板21が収容されている。可動板21は、ハウジングベース部8の中心側を向く内面22が凹面となり、凹部16の底壁17側を向く外面23が凸面となるように、弧状に湾曲している。可動板21の厚みは、凹部16の側壁18の幅よりも小さく、可動板21は凹部16内を軸線Aの径方向に変位可能となっている。可動板21の内面22の両側縁部には、顎部19が嵌合する切り欠き24が形成されている。切り欠き24に顎部19が嵌合することによって、可動板21は凹部16からの抜け出しが規制される。また、図3に示すように、切り欠き24に顎部19が嵌合することによって、可動板21の内面22は、側周壁6の内周面15と連続した曲面を形成する。
【0024】
可動板21の外面23と、凹部16の底壁17との間には、付勢部材としての板ばね26が介装されている。図3に示すように、可動板21は、板ばね26によって軸線A側に付勢され、通常時においては、切り欠き24が顎部19に係合した状態となる。
【0025】
ハウジングベース部8の底板7の中央部には、断面円形状の有底孔である軸受孔27が形成されている。ハウジング蓋部9の中央部には断面円形状の貫通孔である軸受孔28が形成されている。軸受孔28の内端側は拡径されてOリング収容部29を形成している。
【0026】
ロータ3は、軸線Aを軸線として同軸に連続する円柱状のロータ軸外端部31、ロータ軸中央部32及びロータ軸内端部33からなるロータ軸を備えている。ロータ軸外端部31及びロータ軸内端部33は、ロータ軸中央部32よりも外径が小さく設定されている。ロータ軸内端部33は、底板7の軸受孔27に回転可能に支持される。ロータ軸外端部31はハウジング蓋部9の軸受孔28を通過してハウジング2の外部に突出すると共に、軸受孔28に回転可能に支持される。これにより、ロータ3は、ハウジング2に対して軸線A回りの正及び負方向の双方向に回転可能に支持される。
【0027】
ロータ軸外端部31の基端部の外周面には、Oリング35が嵌め付けられる。Oリング35は、ロータ軸外端部31に嵌め付けられた状態で、ハウジング蓋部9のOリング収容部29内に配置され、ロータ軸外端部31とOリング収容部29との隙間をシールする。これにより、液室10に充填された粘性流体が軸受孔28を通過して外部に漏出することが防止される。ロータ軸外端部31の先端部は、相反する側部が切欠されて扁平形状となっている。扁平形状に形成されたロータ軸外端部31は、入力軸として機能し、回転力を減衰すべきギヤ等に回転不能に連結される。
【0028】
ロータ軸中央部32の外周面には、2つのベーン34が軸線A回りに180°の間隔をおいて突設されている。ベーン34は、略直方体状をなし、軸線Aに沿って延設されている。各ベーン34は、径方向においてハウジングベース部8の内周面15との隙間が小さくなるように径方向における突出長さが設定されていることが好ましい。また、各ベーン34は、軸線方向においてハウジングベース部8の底板7の内面との隙間が小さくなるように軸線方向における長さが設定されていることが好ましい。
【0029】
以上のように構成した回転ダンパ1は、ロータ3が回転する際に、ベーン34とハウジング2の内周面15及び可動板21の内面22との間に形成される微小な通路に粘性流体が流れる。その際の粘性流体の流動抵抗によって、ロータ3には回転抵抗が加わる。すなわち、回転ダンパ1は、ロータ3の回転に対して抵抗力(減衰力)を発生する。このとき、ロータ3の回転速度が速いほど、液室10内の粘性流体の圧力が高くなり、図5に示すように、液室10内の圧力に応じて可動板21が板ばね26の付勢力に抗して径方向外方、すなわち凹部16の内方へと変位する。これにより、ベーン34が径方向において可動板21と対向する位置を通過する際の、ベーン34と可動板21との間の通路が大きくなり、ベーン34と可動板21との間を粘性流体が流れ易くなり、ロータ3に加わる回転抵抗が低下する。換言すると、ロータ3の回転速度が速く、液室10の圧力が高くなる場合には、可動板21が凹部16内へと変位し、凹部16によるバイパス通路が形成され、粘性流体はバイパス通路を通過し、ロータ3に加わる回転抵抗が低下する。
【0030】
一方、ロータ3の回転速度が遅く、液室10の圧力が低い場合には、板ばね26の付勢力によって可動板21の凹部16内へと変位が阻止されるため、ベーン34と可動板21との間の通路は比較的小さく維持され、ロータ3には粘性流体の流動抵抗が大きく加わる。
【0031】
回転ダンパ1は、内周面15に凹部16を凹設し、凹部16内に可動板21を配置したため、可動板21がロータ3に接触することがなく、ロータ3は正逆いずれの回転方向にも回転することができる。また、ロータ3がいずれの回転方向に回転する場合にでも、液室10の圧力に応じて可動板21が変位するため、ロータ3の速度に応じてロータ3に加わる回転抵抗が変化する。
【0032】
第2実施形態に係る回転ダンパ100は、第1実施形態に係る回転ダンパ1と比べて、ハウジングベース部8の内周面15に形成される凹部41の形状と、凹部41と液室10とを区画する区画部材の構成とが異なる。
【0033】
図6及び7に示すように、ハウジングベース部8の内周面15には、一の直径方向に沿って互いに相反する方向に凹設された2つの凹部41が形成されている。凹部41は、軸線方向において側周壁6の底板7と連続する部分及び開口端と所定の距離をおいて配置されている。すなわち、凹部41は、円周面に形成されて凹部41の底部をなす底壁42と、底壁42の周方向における両縁、上縁及び下縁から一の直径方向と平行に延在し、側周壁6の内周面15側へと延びる2つの側壁43、上壁44及び下壁45とを有し、径方向内方に開口している。凹部41の周囲には、凹部16を囲むように、内周面15から径方向外方へと段違いに凹設された縁溝46が形成されている。
【0034】
縁溝46には、凹部41を閉塞する隔膜47の周縁部が接着剤によって接着され、凹部41は隔膜47によって液密に封止されている。隔膜47は、可撓性を有する膜状部材であり、ゴム膜であってよい。凹部41内には、圧縮性流体である空気が封入されている。隔膜47は縁溝46に結合されているため、内周面15よりも径方向内側に突出することがなく、ベーン34との接触が避けられる。
【0035】
以上のように構成した回転ダンパ100は、ロータ3の回転速度に応じた液室10の圧力によって、隔膜47が凹部41内へと変位し(図6及び7中の破線)、ベーン34と隔膜47との間に形成される通路の大きさが変化する。すなわち、回転ダンパ1と同様に、回転ダンパ100は、ロータ3の回転速度に応じて発生する抵抗力(減衰力)を変化させることができる。
【0036】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記の実施形態では、凹部16、41を側周壁6に設けたが、他の実施形態では底板7に設けてもよい。回転ダンパ1では、板ばね26に代えて、コイルばねやゴム等の弾性部材を用いてもよい。
【0037】
また、図8に示すように、第1実施形態に係る回転ダンパ1において、ハウジングベース部8の側周壁6の内周面15に、ロータ軸中央部32側(軸線A側)に向けて延出する隔壁51を設けてもよい。隔壁51は、底板7に連続してもよい。隔壁51を設けることによって、ロータ3が回転する際の粘性流体の流動が阻害される。そのため、ロータ3が回転する際には、液室10内の圧力が上昇し易くなり、可動板21がより変位しやすくなる。これにより、可動板21の変位による回転抵抗の変化をより大きくすることができる。なお、隔壁51は、同様に、第2実施形態に係る回転ダンパ100に設けてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1、100…回転ダンパ、2…ハウジング、3…ロータ、10…液室、15…内周面、16…凹部、21…可動板(区画部材)、34…ベーン、35…Oリング、41…凹部、47…隔膜(区画部材)、51…隔壁、A…軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体が封入された液室を有するダンパハウジングと、一端が前記液室に回転可能に受容され、他端が前記ダンパハウジングから突出したロータとを備えた回転ダンパであって、
前記液室を画成する前記ダンパハウジングの内壁には、前記液室に連通する凹部が形成され、
前記凹部には、前記液室と前記凹部を区画すると共に、前記液室の圧力に応じて前記凹部内へと変位する区画部材が設けられていることを特徴とする回転ダンパ。
【請求項2】
前記凹部は、前記ロータの回転軸に対して径方向外方へと凹設されており、前記区画部材は前記ロータの回転軸の径方向に変位可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の回転ダンパ。
【請求項3】
前記区画部材は、前記凹部内にスライド移動可能に設けられた板部材と、前記板部材を前記液室側へと付勢する付勢部材とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転ダンパ。
【請求項4】
前記区画部材は、前記凹部を閉塞するように前記内壁に結合された可撓性部材であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転ダンパ。
【請求項5】
前記ダンパハウジングの内壁には、液室を区画する隔壁が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つの項に記載の回転ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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