説明

回転ダンパ

【課題】封入オイルの粘度や製品精度に依存することなく小型高トルクで、ハウジングと中心回転軸との相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異が大きいくワンウェイ型の回転ダンパが得られるようにすること。
【解決手段】ハウジング10と中心軸部材22との相対的な回転変位により可動ベーン32の受圧面32Aに作用する押圧力によって可動ベーン32の外縁が固定ベーン24の外縁より径方向と軸線方向にはみ出す方向に可動ベーン32が固定ベーン24に対して変位する構造とし、可動ベーン32の外縁とロータ室16の内壁との間隙をなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ダンパに関し、特に、ハウジングとロータとの相対回転方向の違いによってダンパ作用トルクが相違するワンウェイ型の回転ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のグローブボックスのリッドや炊飯器の蓋体等の回動物に用いられる回転ダンパとして、回動物の降下方向の回動時には、その回動に対して大きい抵抗力(ダンパ作用トルク)を与え、それとは逆の上昇方向の回動時には、その回動に対して抵抗力を与えないか或いは小さい抵抗力を与えるワンウェイ型の回転ダンパが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この回転ダンパは、円筒状のロータ室を画定するハウジングと、ロータ室に回転可能に配置されてロータ室を回転することにより流体圧を受けるベーンを具備したロータ(中心回転軸)とを有する。ベーンの先端部分には弁体がロータの回転方向に移動可能に設けられ、ハウジングとロータとの相対回転の方向に応じた弁体のロータに対する移動によって断面積が異なる流体通路が開閉されることにより、ハウジングとロータとの相対回転方向の違いによって相違するダンパ作用トルクが得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−282039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来技術によるワンウェイ型の回転ダンパは、弁体の設置箇所がベーン先端に限られていて、構造上、断面積が異なる流体通路の設定に寸法的な制約がある。このため、ハウジングとロータとの相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異が大きいワンウェイ型の回転ダンパを大型化せずに構成することが難しい。
【0006】
また、各種市場要求として、小型化且つ高トルク化の要求があるが、この要求は、従来の回転ダンパでは、ロータ室に封入するオイルの粘度変更や製品精度の向上での対応になり、制約が大きい上、コストや量産製品管理の面で課題が多い。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、封入オイルの粘度や製品精度に依存することなく小型高トルクで、ハウジングと中心軸部材(ロータ)との相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異が大きいくワンウェイ型の回転ダンパが得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による回転ダンパは、円筒状のロータ室(16)を画定するハウジング(10)と、前記ロータ室(16)外に突出した部分を含んで前記ロータ室(16)内に回転可能に配置された中心軸部材(22)と、前記ロータ室(16)内において前記中心軸部材(22)より径方向外方に突出して前記ロータ室(16)を区切るベーンとを有し、前記ハウジング(10)と前記中心軸部材(22)との中心軸線周りの相対的な回転運動に抵抗を与える回転ダンパであって、前記ベーンは、前記中心軸部材(22)に固定された固定ベーン(24)と、前記固定ベーン(24)の回転方向の一方の側に配置されて当該固定ベーン(24)に対して相対変位可能な可動ベーン(32)とにより構成され、前記固定ベーン(24)と前記可動ベーン(32)とは前記ロータ室(16)の径方向並びに軸線方向に延在して各々一方の面を受圧面(24A、32A)とし、他方の面が互いに接触する傾斜カム面(24C、32C)になっていて、前記ハウジング(10)と前記中心軸部材(22)との相対的な回転変位により前記可動ベーン(32)の前記受圧面(32A)に作用する第1の方向の押圧力によって前記可動ベーン(32)の外縁部分が前記固定ベーン(24)の外縁部分より径方向あるいは軸線方向の少なくとも一方にはみ出す方向に前記可動ベーン(24)が前記固定ベーン(24)に対して変位して前記可動ベーン(32)の外縁と前記ロータ室(16)の内壁との間隙が減少する。
【0009】
この構成によれば、可動ベーン(32)の外縁とロータ室(16)の内壁との間隙がロータ室(16)内において絞り流路をなし、可動ベーン(32)の外縁部分が固定ベーン(24)の外縁部分より径方向あるいは軸線方向の少なくとも一方にはみ出す方向に変位することにより、可動ベーン(32)の外縁とロータ室(16)の内壁との間隙がなす絞り流路が減少するので、可動ベーン(32)自体の移動によって絞り流路の通路断面積の増減幅を大きく設定することができる。このことにより、ロータ室(16)に封入するオイルの粘度や製品精度に依存することなく小型高トルクで、ハウジング(10)と中心軸部材(22)との相対回転方向の違いで、ダンパ作用トルクの差異が大きい回転ダンパが得られる。
【0010】
本発明による回転ダンパは、好ましくは、前記可動ベーン(32)は、前記固定ベーン(24)に対する前記はみ出す方向の変位によって前記ロータ室(16)の内壁に押し付けられる。
【0011】
この構成によれば、可動ベーン(32)がロータ室(16)の内壁に押し付けられることにより、ハウジング(10)と中心軸部材(22)との相対的な回転変位において摩擦抵抗が生じる。この摩擦抵抗が加わることにより、ハウジング(10)と中心軸部材(22)との相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異が更に大きくなる。
【0012】
本発明による回転ダンパは、好ましくは、更に、前記ロータ室(16)の内壁がゴム状弾性体(20)により構成されている。
【0013】
この構成によれば、可動ベーン(32)がロータ室(16)の内壁に押し付けられることにより生じる摩擦抵抗が大きくなり、ハウジング(10)と中心軸部材(22)との相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異がより一層大きくなる。
【0014】
本発明による回転ダンパは、好ましくは、更に、前記可動ベーン(32)は、前記傾斜カム面(32C)側の外縁部分に、はみ出し状態下で当該部分に作用する前記第1の方向とは逆方向の第2の方向の押圧力によって前記可動ベーン(32)を前記固定ベーン(24)に対して前記はみ出す方向とは逆方向に変位させる戻し作用傾斜受圧面(32E)を更に有する。
【0015】
この構成によれば、戻し作用傾斜受圧面(32E)に第2の方向の押圧力が作用することにより、可動ベーン(32)がはみ出す方向とは逆方向に移動し、可動ベーン(32)が確実に初期状態に戻る。
【0016】
本発明による回転ダンパは、好ましくは、更に、前記固定ベーン(24)に当該固定ベーン(24)を厚さ方向に貫通して当該固定ベーン(24)の前記傾斜カム面(24C)に開口する貫通孔(30)が形成され、前記可動ベーン(32)は前記固定ベーン(24)に対して当該固定ベーン(24)の前記傾斜カム面(24C)に離接する方向に変位可能に設けられており、前記可動ベーン(32)の前記受圧面(32A)に作用する第1の方向の押圧力によって当該可動ベーン(32)の前記傾斜カム面(32C)が前記固定ベーン(24)の前記傾斜カム面(24C)に押し付けられることにより、前記貫通孔(30)が閉じられる。
【0017】
この構成によれば、貫通孔(30)も絞り流路となり、貫通孔(30)の開閉によっても絞り流路の通路断面積の増減することになる。このことによってもハウジング(10)と中心軸部材(22)との相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異が大きくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による回転ダンパは、可動ベーンの外縁とロータ室の内壁との間隙がロータ室内において絞り流路をなし、可動ベーンの外縁部分が固定ベーンの外縁部分より径方向あるいは軸線方向の少なくとも一方にはみ出す方向に変位することにより、可動ベーンの外縁とロータ室の内壁との間隙がなす絞り流路が減少するので、可動ベーン自体の移動によって絞り流路の通路断面積の増減幅を大きく設定することができる。
【0019】
これにより、封入オイルの粘度や製品精度に依存することなく小型高トルクで、ハウジングと中心軸部材との相対回転方向の違いでダンパ作用トルクの差異が大きいワンウェイ型の回転ダンパが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による回転ダンパの一つの実施形態の低ダンパ作用トルク動作状態を示す一部断面の正面図。
【図2】本実施形態による回転ダンパの高ダンパ作用トルク動作状態を示す一部断面の正面図。
【図3】本実施形態による回転ダンパの低ダンパ作用トルク動作状態を示す一部断面の側面図。
【図4】本実施形態による回転ダンパの高ダンパ作用トルク動作状態を示す一部断面の側面図。
【図5】本実施形態による回転ダンパの固定ベーンを含む中心軸部材と可動ベーンの分解斜視図(底面側から見上げた斜視図)。
【図6】本実施形態による回転ダンパの貫通孔部分の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による回転ダンパの一つの実施形態を、図1〜図6を参照して説明する。なお、以下の説明において、上下方向、鉛直等は、説明の便宜上、回転ダンパの図示配置に従ったものであり、回転ダンパが横置きされたり、傾斜配置されたりすると、それらの方向は、水平方向とか、回転ダンパの配置姿勢に従ったものになる。
【0022】
回転ダンパは外郭をなすハウジング10を有する。ハウジング10は、上方開口の有底の円筒形状、つまり、上端に開口部12Aを有するカップ形状のハウジング本体12と、ハウジング本体12の開口部12Aを塞ぐようにハウジング本体12の一端側に取り付けられた円盤状の蓋体14とにより構成されている。
【0023】
ハウジング本体12に対する蓋体14の固定は気密(液密)な固定であり、この固定は、接着、溶着等によって行われてよく、それ以外に、ハウジング本体12と蓋体14との嵌合部に形成された円環凹溝と円環凸部との嵌合や、他の締結具を用いたものによって行われてもよい。
【0024】
ハウジング10は内側に円筒状のロータ室16を画定する。ロータ室16は、後述するOリング18によって気密室とされ、シリコンオイル等の粘性流体を充填封入される。ロータ室16の内壁をなすハウジング本体12の内周面と底面には、ニトリルブタジエンゴム(NBR)等、耐油性、膨潤性を有するゴム状弾性体20が貼り付けられている。これにより、ロータ室16の実質的な内壁はゴム状弾性体20によって構成される。
【0025】
ハウジング10には、中心軸部材22が、同心配置で、鉛直な自身の中心軸線周りに回転可能に取り付けられている。以降、この中心軸部材22の回転方向をロータ回転方向と云う。
【0026】
中心軸部材22は、ロータ室16内に位置して蓋体14の下底面に摺動可能に接触するフランジ部22Aと、フランジ部22Aの下底面に接合してロータ室16内に位置するロータ室内軸部(ロータ部)22Bと、ロータ室内軸部22Bの下端部に設けられてハウジング本体12の底部に形成された軸受凹部12Bに回転可能に嵌合した下部軸部22Cと、フランジ部22Aの上に接合して蓋体14の中央貫通孔14Aを回転可能に貫通しロータ室16外に突出した上部軸部22Dとを同一軸線上に一体に有する。
【0027】
中心軸部材22は、下部軸部22Cが軸受凹部12Bに嵌合することと、上部軸部22Dが中央貫通孔14Aを貫通することにより、ハウジング10の中心軸線周りに回転可能に、ハウジング10より支持される。
【0028】
蓋体14には、ロータ室16の気密保持のために、上部軸部22Dが中央貫通孔14Aを貫通する部分にOリング18が装着されている。
【0029】
中心軸部材22のロータ室内軸部22Bには板状矩形の固定ベーン24が一体形成されている。固定ベーン24は、中心軸部材22の中心軸線周りに互いに180度回転変位した2箇所に設けられてロータ室内軸部22Bの外周面より径方向外方に突出し、ロータ室16を円周廻りの二つに区分している。
【0030】
固定ベーン24の上縁はフランジ部22Aの下底面に隙間なく連続している。固定ベーン24の下縁は、中心軸部材22の下端より上位にあり、ゴム状弾性体20がなすロータ室16の実質的な底面との間に底部間隙26を画成している。固定ベーン24の径方向寸法は、ロータ室内軸部22Bの半径を加えた寸法でロータ室16の半径より小さい。これにより、図1、図3に示されているように、固定ベーン24の径方向外縁は、ゴム状弾性体20がなすロータ室16の実質的な内周面との間に側周部間隙28を画成している。
【0031】
ロータ回転方向で見て固定ベーン24の一方の面(図3、図4で見て右側の面)は、全体が鉛直面による受圧面24Aになっている。二つの固定ベーン24の受圧面24Aは、各々、中心軸部材22の図5で見て反時計廻り方向CCWの回転変位により第2の方向(後述する第1の方向とは逆方向)の押圧力(流体圧)を受ける。
【0032】
ロータ回転方向で見て固定ベーン24の他方の面(図3、図4で見て左側の面)は、鉛直面24Bと、上下方向と径方向の何れにも傾斜した三次元的傾斜面による傾斜カム面24Cと、鉛直面24Bと傾斜カム面24Cとの境界部に存在するベーン厚み方向の段差面24Dとにより構成されている。傾斜カム面24Cの傾斜は、下方に進むに従ってベーン厚みが小さくなり、且つ径方向外方に進むに従ってベーン厚みが小さくなる傾斜である。
【0033】
固定ベーン24には、当該ベーンを厚み方向に貫通して固定ベーン24の傾斜カム面24Cに開口する貫通孔30が形成されている。
【0034】
二つの固定ベーン24の各々の前記他方の面の側には可動ベーン32が固定ベーン24に対して移動可能に配置されている。この固定ベーン24と可動ベーン32との組み合わせによる2個のベーンによってロータ室16が円周廻りに2つの室に区切られている。
【0035】
ロータ回転方向で見て可動ベーン32の一方の面(固定ベーン24の前記他方の面と対向する面とは反対の面で、図3、図4で見て左側の面)は、その全体が全体が鉛直面による受圧面32Aになっている。二つの可動ベーン32の受圧面32Aは、各々、中心軸部材22の図5で見て時計廻り方向CWの回転変位により第1の方向の押圧力(流体圧)を受ける。
【0036】
ロータ回転方向で見て可動ベーン32の他方の面(図3、図4で見て右側の面)は、固定ベーン24の前記他方の面に相対向し、当該他方の面と相補的な形状で、中心軸部材22の中心軸線を含む鉛直面32Bと、上下方向と径方向の何れにも傾斜した三次元的傾斜面による傾斜カム面32Cと、鉛直面32Bと傾斜カム面32Cとの境界部に存在するベーン厚み方向の段差面32Dとにより構成されている。傾斜カム面32Cの傾斜は、傾斜カム面24Cとは逆に、下方に進むに従ってベーン厚みが大きくなり、且つ径方向外方に進むに従ってベーン厚みが大きくなる傾斜である。
【0037】
可動ベーン32の前記他方の面には頭付き取付ピン34が固定されている。頭付き取付ピン34は固定ベーン24の貫通孔30に係合し、可動ベーン32を固定ベーン24に上下方向と径方向の双方に移動(変位)可能に取り付けている。
【0038】
この頭付き取付ピン34による可動ベーン32の取り付け構造の詳細を説明する。貫通孔30は、図1に示されているように、屈曲した長孔で、頭付き取付ピン34を貫通孔30に挿入するために、径方向に延在して固定ベーン24の径方向外縁に開口した取り付けのための水平部30Aと、固定ベーン24に対する可動ベーン32の上述の移動案内のために、上端が水平部30Aの径方向内方の端部に連通し、これより斜め下、径方向外方に傾斜した移動案内部30Bとを有する。
【0039】
貫通孔30は、図6に示されているように、その全体に亘って、頭付き取付ピン34の大径頭部34Aが移動可能に係合する受圧面24A側の幅広部分31Aと、頭付き取付ピン34の小径軸部34Bが移動可能に係合する傾斜カム面24C側の幅狭部分31Bとを有する。小径軸部34Bの軸長aは幅狭部分31Bの孔長bより所定量長くなっている。これにより、可動ベーン32は固定ベーン24に対して(a−b)だけ、固定ベーン24より離接する方向に変位可能で、可動ベーン32の前記他方の面(傾斜カム面32C)が固定ベーン24の前記他方の面(傾斜カム面24C)に密着して貫通孔30を閉じる貫通孔閉位置(図4参照)と、可動ベーン32の前記他方の面(傾斜カム面32C)が固定ベーン24の前記他方の面(傾斜カム面24C)より離間して貫通孔30を開く貫通孔開位置(図3参照)とに選択的に位置することができる。なお、貫通孔閉位置では貫通孔30による流路が完全に閉じられることが好ましいが、貫通孔開位置である場合より貫通孔30による流路の断面積が小さくなればよい。
【0040】
前記貫通孔閉位置では、可動ベーン32の鉛直面32Bが固定ベーン24の鉛直面24Bに面接触すると共に、可動ベーン32の傾斜カム面32Cが固定ベーン24の傾斜カム面24Cに面接触する。傾斜カム面24C、32Cが上下方向と径方向の何れにも傾斜した三次元的傾斜面であって互いに面接触していることにより、可動ベーン32の受圧面32Aに第1の方向の押圧力が作用すると、可動ベーン32は、傾斜カム面24Cに案内されて、図2、図4に示されているように、固定ベーン24に対して斜め下、径方向外方に変位する。
【0041】
この変位により、可動ベーン32の下縁部分が固定ベーン24の下縁部分より下方にはみ出し、可動ベーン32の下縁とロータ室16の底面との間の間隙が減少すると共に、可動ベーン32の径方向外縁部分が固定ベーン24の径方向外縁部分より径方向外方にはみ出し、可動ベーン32の径方向外縁とロータ室16の内周面との間の間隙が減少する。可動ベーン32の外縁部分が固定ベーン24より最もはみ出した状態では、図2、図4に示されているように、可動ベーン32の下縁がロータ室16の底面に、可動ベーン32の径方向外縁のロータ室16の内周面、つまり、ゴム状弾性体20の表面に押し付けられる設定になっている。ここで、はみ出すとは、可動ベーン32の外縁が固定ベーン24の外縁より外方に突出することである。
【0042】
図1、図3に示されているように、可動ベーン32が固定ベーン24に対して斜め下、径方向外方に変位していない初期状態では、可動ベーン32の全体が固定ベーン24に重なり合い、段差面24D、32D同士が当接して可動ベーン32の外縁部分が固定ベーン24の外縁部分より一切はみ出さない設定になっている。
【0043】
更に、可動ベーン32の他方の面(傾斜カム面32C側)の外縁部分は、図5に示されているように、面取り状の戻し作用傾斜受圧面32Eが形成されている。戻し作用傾斜受圧面32Eは、上述の可動ベーン32のはみ出し状態下で、当該部分に作用する前記第1の方向とは逆方向の第2の方向の押圧力により、可動ベーン32を、固定ベーン24に対して前記はみ出す方向とは逆方向(斜め上、径方向内方)に、前記初期状態まで変位させる働きをする。戻し作用傾斜受圧面32Eは、可動ベーン32の径方向外縁と下縁との双方に連続して形成されていてよい。
【0044】
つぎに、本実施形態による回転ダンパの作用について説明する。
【0045】
中心軸部材22がハウジング10に対して図5で見て時計廻り方向CWに回転変位すると、可動ベーン32の受圧面32Aに第1の方向の押圧力が作用する。これにより、可動ベーン32の傾斜カム面32Cが固定ベーン24の傾斜カム面24Cに面接触し、傾斜カム面24C、32Cが上下方向と径方向の何れにも傾斜した三次元的傾斜面であることにより、面滑り状態で可動ベーン32が固定ベーン24に対して斜め下、径方向外方、つまり、可動ベーン32の外縁部分が固定ベーン24の外縁部分より径方向と軸線方向の双方にはみ出す方向に変位する。
【0046】
この変位によって可動ベーン32の下縁部分が固定ベーン24の下縁部分より下方にはみ出し、可動ベーン32の下縁とロータ室16の底面との間の間隙が消滅すると共に、可動ベーン32の径方向外縁が固定ベーン24の径方向外縁より径方向外方にはみ出し、可動ベーン32の径方向外縁とロータ室16の内周面との間の間隙が消滅する。これにより、底部間隙26と側周部間隙28の双方が可動ベーン32のはみ出し縁部によって閉塞されることになる。また、このときには、可動ベーン32の下縁がロータ室16の底面に、可動ベーン32の径方向外縁のロータ室16の内周面、つまり、ゴム状弾性体20の表面に押し付けられる。
【0047】
中心軸部材22のハウジング10に対する図5で見て時計廻り方向CWの回転変位では、可動ベーン32の受圧面32Aに作用する第1の方向の押圧力によって可動ベーン32の前記他方の面が固定ベーン24の前記他方の面に押し付けられることにより、可動ベーン32が貫通孔閉位置に位置しており、貫通孔30が閉じられる。
【0048】
これにより、固定ベーン24、可動ベーン32によって区切られたロータ室16を連通する絞り流路は、図2で符号100で示されている部分だけになり、ロータ室16の粘性流体が高圧縮されることになる。この結果、中心軸部材22のハウジング10に対する図5で見て時計廻り方向CWの回転変位において、高い粘性抵抗が生じ、高いダンパ作用トルクが発生する。これに加えて可動ベーン32の下縁と径方向外縁の双方がゴム状弾性体20の表面に押し付けられることにより、摩擦抵抗も生じ、更に高いダンパ作用トルクが発生する。
【0049】
これらのことにより、中心軸部材22のハウジング10に対する図5で見て時計廻り方向CWの回転変位は、高いダンパ作用トルク(抵抗)のもとに行われることになる。
【0050】
これに対し、中心軸部材22がハウジング10に対して図5で見て反時計廻り方向CCWに回転変位すると、固定ベーン24の受圧面24Aに第2の方向の押圧力が作用すると共に、固定ベーン24の外縁部分より外方にはみ出している可動ベーン32の外縁部分に第2の方向の押圧力が作用する。これにより、可動ベーン32の全体が固定ベーン24に重なり合って可動ベーン32の下縁部分と径方向外縁部分の双方か固定ベーン24の外縁部分より外方にはみ出することがない初期状態に戻る。
【0051】
この可動ベーン32の初期状態への戻り移動は、可動ベーン32の外縁とロータ室16の内壁との間に粘性流体が流れることにより、押し開かれるようにして行われることに加えて、可動ベーン32の戻し作用傾斜受圧面32Eに第2の方向の押圧力が作用することにより、確実に行われることになる。また、第2の方向の押圧力によって、可動ベーン32の前記他方の面が固定ベーン24の前記他方の面より離間し、貫通孔30が開かれる。
【0052】
これらのことにより、固定ベーン24、可動ベーン32によって区切られたロータ室16を連通する絞り流路は、図1、図3に示されているように、底部間隙26、側周部間隙28と貫通孔30とにより大きい流路断面積のものになり、時計廻り方向CWの回転変位時に比して粘性抵抗が大幅に減少し、これに応じて発生するダンパ作用トルクが大幅に減少する。これに加えて可動ベーン32の下縁と径方向外縁がゴム状弾性体20の表面に押し付けられることも解消されるので、摩擦抵抗もなくなる。
【0053】
これらのことにより、中心軸部材22のハウジング10に対する図5で見て反時計廻り方向CCWの回転変位は、時計廻り方向CWの回転変位時に比して大幅に低いダンパ作用トルク(抵抗)のもとに行われることになる。
【0054】
上述の作用により、本実施形態の回転ダンパは、大きい面積を取ることができる帯状の底部間隙26、側周部間隙28の開閉によってダンパ作用トルクに差異が生じるので、弁孔の開閉だけによるダンパ作用トルクに差異が生じるようにした従来のものに比して、装置を大型化することなく、封入オイルの粘度や製品精度に依存することもなく高いダンパ作用トルクで、ハウジング10と中心軸部材22との相対回転方向の違いによるダンパ作用トルクの差異が大きいワンウェイ型の回転ダンパになる。
【0055】
以上、本発明を、その好適形態実施例について説明したが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【0056】
例えば、可動ベーン32の外縁部分は固定ベーン24に対して径方向あるいは軸線方向の一方にのみはみ出す方向に変位して可動ベーン32の外縁とロータ室16の内壁との間隙を減少するものであってもよい。また、ハウジング10が中心軸部材22に対して回転変位するものであってもよい。
【0057】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。たとえば、ゴム状弾性体20は省略されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 ハウジング
16 ロータ室
20 ゴム状弾性体
22 中心軸部材
24 固定ベーン
24A 受圧面
24C 傾斜カム面
30 貫通孔
32 可動ベーン
32C 傾斜カム面
32E 戻し作用傾斜受圧面
34 頭付き取付ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のロータ室を画定するハウジングと、前記ロータ室外に突出した部分を含んで前記ロータ室内に回転可能に配置された中心軸部材と、前記ロータ室内において前記中心軸部材より径方向外方に突出して前記ロータ室を区切るベーンとを有し、前記ハウジングと前記中心軸部材との中心軸線周りの相対的な回転運動に抵抗を与える回転ダンパであって、
前記ベーンは、前記中心軸部材に固定された固定ベーンと、前記固定ベーンの回転方向の一方の側に配置されて当該固定ベーンに対して相対変位可能な可動ベーンとにより構成され、前記固定ベーンと前記可動ベーンとは前記ロータ室の径方向並びに軸線方向に延在して各々一方の面を受圧面とし、他方の面が互いに接触する傾斜カム面になっていて、前記ハウジングと前記中心軸部材との相対的な回転変位により前記可動ベーンの前記受圧面に作用する第1の方向の押圧力によって前記可動ベーンの外縁部分が前記固定ベーンの外縁部分より径方向あるいは軸線方向の少なくとも一方にはみ出す方向に前記可動ベーンが前記固定ベーンに対して変位して前記可動ベーンの外縁と前記ロータ室の内壁との間隙が減少する回転ダンパ。
【請求項2】
前記可動ベーンは前記固定ベーンに対する前記はみ出す方向の変位によって前記ロータ室の内壁に押し付けられる請求項1に記載の回転ダンパ。
【請求項3】
前記ロータ室の内壁がゴム状弾性体により構成されている請求項2に記載の回転ダンパ。
【請求項4】
前記可動ベーンは、前記傾斜カム面側の外縁部分に、はみ出し状態下で当該部分に作用する前記第1の方向とは逆方向の第2の方向の押圧力によって前記可動ベーンを前記固定ベーンに対して前記はみ出す方向とは逆方向に変位させる戻し作用傾斜受圧面を更に有する請求項1から3の何れか一項に記載の回転ダンパ。
【請求項5】
前記固定ベーンに当該固定ベーンを厚さ方向に貫通して当該固定ベーンの前記傾斜カム面に開口するする貫通孔が形成され、前記可動ベーンは前記固定ベーンに対して当該固定ベーンの前記傾斜カム面に離接する方向に変位可能に設けられており、前記可動ベーンの前記受圧面に作用する第1の方向の押圧力によって当該可動ベーンの前記傾斜カム面が前記固定ベーンの前記傾斜カム面に押し付けられることにより、前記貫通孔が閉じられる請求項1から4の何れか一項に記載の回転ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96565(P2013−96565A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243028(P2011−243028)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】