回転体の回転軸心の運動の軌跡を計測する方法及び計測システム
【課題】 回転体の回転軸心の運動の軌跡を計測する方法を提供する。
【解決手段】 主軸に回転体を取り付けることと、前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向する3組の発光部及び受光部の組を配置することと、回転体を、前記主軸と一体的に回転させつつエッジ光の光量を測定することと、エッジ光の光量に基づいて、回転体の断面形状と異なる仮想断面形状を求めることと、エッジ光の光量及び仮想断面形状に基づいて、回転体の回転軸心の運動の軌跡を求めることとを備える方法が提供される。
【解決手段】 主軸に回転体を取り付けることと、前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向する3組の発光部及び受光部の組を配置することと、回転体を、前記主軸と一体的に回転させつつエッジ光の光量を測定することと、エッジ光の光量に基づいて、回転体の断面形状と異なる仮想断面形状を求めることと、エッジ光の光量及び仮想断面形状に基づいて、回転体の回転軸心の運動の軌跡を求めることとを備える方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法、及び、回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作物(ワーク)を切削加工するフライス盤などの工作機械は、工作物を固定するテーブルと、テーブルに固定されたワークに相対して移動しつつワークを切削するフライスなどの刃具と、刃具を把持するチャックと、先端に取り付けられたチャック及び刃具を高速回転(例えば数千〜数万rpm)させる主軸とを主に備えている。
【0003】
ワークの加工面を切削加工する際には、主軸の回転に伴って高速回転する刃具の刃の先端(以下、単に「刃具の先端」という)がワークの加工面に当接される。このとき、回転する刃具の軸心に軸振れが生じていた場合、刃具の先端は、真円からずれた軌跡を描きつつ回転することになる。例えば、刃具が軸心に垂直な平面内においてランダムな方向に微小振動しつつ回転している場合、回転する刃具の先端は、真円に微小振動を重ね合わせた軌跡を描く。このとき、ワークの加工面には、刃具の先端の描く軌跡が転写される、即ち、ワークの加工面には刃具の先端の描く軌跡を反映した凹凸が形成される。このように、回転する刃具の軸心に生じる軸振れと、ワークの加工面の加工精度(例えば表面粗さ)との間には明かな相関があるため、ワークの加工精度を評価するためには、刃具の軸心の軸振れの大きさを精度良く計測することが求められている。
【0004】
後に詳述するように、刃具の軸振れは、主に、主軸の回転精度と、刃具をチャックに取り付ける際のチャッキング精度と、チャックを主軸に取り付ける際の取り付け精度とに起因して生じることが知られている。ここで、特許文献1には、主軸の軸振れをリアルタイムで計測するとともに、計測した軸振れのデータを基にして主軸の軸心の姿勢についてフィードバック制御を行うことにより主軸の軸振れを小さく抑える軸振れ補正制御装置が開示されている。具体的には、特許文献1の軸振れ補正制御装置は、空気軸受により軸支された主軸と、主軸と一体に回転するように取り付けられた、高い真円度を有する基準リングと、基準リングの外側に同心円状に配置された3つの非接触変位センサと、主軸の軸心の姿勢についてのフィードバック制御を行うコントローラとを主に備えている。
【0005】
特許文献1の軸振れ補正制御装置においては、3つの非接触変位センサを用いて基準リングの外表面と各非接触変位センサとの間の距離をリアルタイムで測定している。そして、3つの非接触変位センサから得られた測定データから、後述する三点法を用いて、基準リングの実形状を忠実に再現する実形状成分と、基準リングが取り付けられている主軸の半径方向(主軸の軸心と垂直な面の面方向)における振動成分とを抽出している。ここで、主軸の軸心の、半径方向における振動成分に基づいて、主軸の軸心の姿勢を調整するフィードバック制御を行うことにより、主軸の軸心の軸振れを抑えている。なお、3点法を用いることにより、基準リングの実形状成分と振動成分とをそれぞれ独立に抽出することができる。言い換えると、基準リングの形状誤差及び取り付け誤差とは無関係に、主軸の軸心の、半径方向における振動成分のみを抽出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−235422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、刃具の軸振れは、主に、主軸の回転精度と、刃具をチャックに取り付ける際のチャッキング精度と、チャックを主軸に取り付ける際の取り付け精度とに起因して生じることが知られているところ、特許文献1の軸振れ補正制御装置においては、主軸の回転精度のみを測定対象としている。そのため、さらにチャッキング精度及びホルダへの取り付け精度を測定しない限り、ワークの加工精度を評価することができない。
【0008】
ここで、上述のように、刃具の軸心の軸振れの大きさは、主軸の回転精度と、刃具をチャックに取り付ける際のチャッキング精度と、チャックを主軸に取り付ける際の取り付け精度とに起因して生じるため、刃具の軸心の軸振れを測定することができれば、ワークの加工精度を精確に評価することができる。しかしながら、特許文献1の軸振れ補正制御装置は、以下に示すように、基準リングのような高い真円度を有する基準部材に限って、これに生じる軸振れを測定できるだけであり、例えばエンドミルのような複雑な形状を有する刃具の軸心の軸振れを測定することはできない。
【0009】
特許文献1の軸振れ補正制御装置においては、上述のように非接触変位センサを用いることによって、主軸の軸心に同軸に取り付けられた基準リングの外表面と近接センサとの間の距離を測定している。ここで、基準リングは高い真円度を有しており、その外表面は鏡面仕上げされている。つまり、基準リングの外表面には、外表面の加工精度に起因する表面粗さに相当する凹凸(例えば数μm程度)を超える高さの凹凸は形成されていない。そのため、非接触変位センサを基準リングの外表面に近接して配置することができ、非接触変位センサと基準リングの外表面との間の距離を精度良く測定することができた。
【0010】
ここで、非接触変位センサの検出範囲は、一般に0mm〜数mm程度であるため、非接触変位センサを用いて刃具の軸心の軸振れを測定する場合には、刃具の外側を取り囲み、且つ、刃具から数mm以内に近接するように少なくとも3つの非接触変位センサを配置しなければならない。しかしながら、ワークを切削加工する際にワークと干渉しないように、刃具の外側に近接して非接触変位センサを配置することは実質上不可能である。また、例えばエンドミルなどの刃具の断面は、真円から大きくずれた複雑な形状をしており、数mm以上の凹凸が形成されていることもある。このように、刃具の断面形状が非接触変位センサの検出範囲を超える凹凸を有している場合には、たとえ非接触変位センサを刃具の外側において刃具と近接するように配置できたとしても、刃具の断面形状を精確に計測することは不可能であり、刃具の軸心の軸振れを測定することはできない。
【0011】
本発明の目的は、工作機械に取り付けられた刃具のような回転体に関して、回転体の形状に関わらず、回転体の回転軸心の軸振れを測定するための方法、及び、回転体の回転軸心の軸振れを測定する測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様に従えば、回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法であって、所定の回転速度で回転可能に設けられた主軸に、前記回転体を取り付けることと、前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向する3組の発光部及び受光部の組を配置することと、前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射して、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定することと、前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めることと、前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求めることとを備える方法が提供される。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、回転体の回転軸心に垂直な断面における断面形状を精確に計測しなくとも、回転体の回転軸心の軸振れを計測することができる。そのため、回転体との間の距離を計測するための測定装置を、回転体の回転軸心の周りに配置する必要がない。それに代えて、回転体の一部に光を照射し、回転体に遮られずに通過した光(エッジ光)の光量を測定することにより、回転体の回転軸心の軸振れを計測することができるため、発光部及び受光部の配置の自由度が増し、大きな凹凸を有する回転体についても容易に回転軸心の軸振れを測定することができる。
【0014】
本発明の回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法において、前記回転体は、回転軸心の周りの表面に切れ刃部が形成された切削工具であってもよい。この場合には、例えば、エンドミル、ドリル、リーマ、正面フライスのような複雑な形状を有する切削工具においても、その回転軸心の軸振れを測定できる。
【0015】
本発明の回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法において、前記発光部はレーザ光を照射するレーザ照射装置であってもよく、前記受光部はフォトダイオードであってもよい。この場合には、レーザ光を用いているので、光の指向性が非常に高いため、発光部及び受光部の組を切削工具等の回転体から離して配置することが容易であり、これらの配置の自由度が高くなる。
【0016】
本発明の回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法において、前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も長い第1凸部を有してもよく、前記仮想断面形状は、前記第1凸部に対応する第2凸部を有してもよく、前記回転軸心と第1凸部との間の距離は、前記回転軸心と前記第2凸部との間の距離と同じであってもよい。この場合において、エッジ光の光量の測定に基づいて抽出される仮想断面形状は、実際の断面形状(実断面形状)と異なるものであるが、実断面形状のうち、最も半径方向に長い部分については、仮想断面形状においても精度良く再現することができる。そのため、例えば切削工具の形状を測定する場合において、刃の先端部分の長さ(半径方向の長さ)を、仮想断面形状から精確に求めることができ、刃の先端の摩耗の程度を求めることができる。
【0017】
さらに、前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も短い第1凹部を有してもよく、前記仮想断面形状は、前記第1凹部に対応する第2凹部を有してもよく、前記回転軸心と第2凹部との間の距離は、前記回転軸心と前記第1凹部との間の距離よりも長くてもよい。この場合には、仮想断面形状は、実断面形状と比べて、凹凸の浅い形状となる。つまり、仮想断面形状は、実断面形状と比べて、フーリエ展開したときの高周波成分が少ない。そのため、仮想断面形状をフーリエ展開する場合に、山数をあまり多く取らなくても、仮想断面形状を精度よく抽出することができる。
【0018】
本発明の第2の態様に従えば、回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムであって、所定の軸方向に延在し、一端に前記回転体を固定する固定部が設けられた主軸、及び、前記主軸の他端に連結され、前記主軸を前記軸を中心として回転させるモータを有する主軸頭と、前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向するように配置された3組の発光部及び受光部の組と、前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射させて、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定させ、前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めるとともに、前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求める制御部と、を備える計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の計測システムを利用することにより、例えばフライス盤のような切削工具における、高速で回転する複雑な形状の切削工具の軸振れを高精度(例えば1μm以下の精度)に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る軸振れ計測システムの概略図である。
【図2】図2(a)はエンドミル30の側面図であり、図2(b)はエンドミル30の上面図である。
【図3】図3は、エンドミル30と光学計測系120との配置を示す概略図である。
【図4】図4は校正用基準工具300の位置とレーザ光121aの光量との相関を調べるためのキャリブレーション測定を行う際の配置図である。
【図5】本発明に係る軸振れの計測方法を示すフローチャートである。
【図6】実断面形状と仮想断面形状との関係を示す図である。
【図7】図7(a)はシミュレーションにより得られたエンドミル30の軸心の運動軌跡であり、図7(b)は仮想断面形状を示す。
【図8】図8はエンドミル30の先端の摩耗を示す図である。
【図9】図9はシミュレーションにより得られたエンドミル30の摩耗と、実際のエンドミル30の摩耗との相関を示すグラフである。
【図10】図10は、エンドミル30の、実断面形状と仮想断面形状のフーリエ級数の係数を示したグラフである。
【図11】図11(a)は、4枚刃エンドミルに関する図7(b)相当図であり、図11(b)は、4枚刃エンドミルに関する図7(a)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
本発明に係る、回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムの一例として、工作機械の一種であるフライス盤に取り付けられたエンドミルの軸心の軸振れを計測する軸振れ計測システム1について説明する。図1に示すように、軸振れ計測システム1は、ワークをエンドミル30により切削加工するフライス盤10と、エンドミル30の軸心30aの軸振れを計測する制御部110とを主に備える。
【0022】
フライス盤10は、ワークを載置するテーブル11と、ワークをテーブル11上に固定するバイス12と、主軸13a及び主軸13aをその軸心(回転軸)の周りに回転させるモーター13bを有する主軸頭13と、不図示のボールネジ機構により、主軸頭13をテーブル11に相対して主軸13aの軸心方向(Z方向)及び/又はテーブル11の面方向(X、Y方向)に移動させる移動機構14と、エンドミル30を把持するチャック部40(本発明の固定部に相当する)とを備え、主軸13aの先端に、チャック部40が取り付けられる。主軸頭13の主軸13aの周りには、不図示のロータリエンコーダが設けられており、主軸13aの回転角度のデータが後述する測定制御部130に送られる。また、主軸頭13のモータ13bは、後述する制御部110により制御されている。なお、チャック部40として、例えば、不図示のコレットに挿入されたエンドミル30を把持して固定する公知のコレットチャックを用いることができる。あるいは、他の種類のチャック機構を用いることもできる。
【0023】
図2(a)、(b)に示すように、エンドミル30は円柱形状の切削工具であって、円柱形状のシャンク部31と、シャンク部31の一端側に形成された切れ刃部32とを有する。なお、シャンク部31の中心軸をエンドミル30の軸心30aと呼ぶ。ここで切れ刃部32は、いわゆる2枚刃として、シャンク部31の側面及びシャンク部31の一端側の端面31aに形成されている。具体的には、切れ刃部32は端面31aにおいて軸心側から外周側に向かって延在する2つの端面刃33a、33bと、シャンク部31の側面に螺旋状に延びる外周刃34a、34bとを有する。
【0024】
図1に示すように、制御部110は、3組の光学測定系120(図1には1組の光学測定系120のみが図示されている)と、光学測定系120の測定結果を基にして後述する3点法によりエンドミル30の軸心30aの軸振れの大きさを抽出する測定制御部130とを備える。ここで、3組の光学測定系120は同一平面内に配置されており、これら3組の光学測定系120により画成される平面を測定基準面Sと呼ぶ。図1に示されるように、測定基準面Sは、エンドミル30の軸心30aに垂直な面であって、エンドミル30の切れ刃部32が形成された領域と垂直に交差する平面である。各光学測定系120は、レーザ光121a(図3参照)を照射するレーザ発光部121と、受光したレーザ光121aの光量に応じた出力信号を出力するフォトダイオード122とを備える。レーザ発光部121は、制御部110により制御される。測定制御部130は、フォトダイオード122の出力信号(電流信号又は電圧信号)が入力されるとともに、入力されたフォトダイオード122の出力信号についてA/D変換を行うA/Dコンバータ131と、A/Dコンバータ131からのデータ及び主軸13aの回転角度に関するデータをもとに、後述する3点法に基づく解析処理を行うコンピュータ(解析部)132とを備える。
【0025】
次に、軸振れ計測システム1を用いて、エンドミル30の軸心30aの軸振れを計測する方法について図5を参照しつつ説明する。先ず、チャック部40を主軸13aの先端に固定する。さらに、エンドミル30のシャンク部31をチャック部40に固定する(エンドミル固定工程SS1)。このとき、エンドミル30の軸心30aと、チャック部40の中心と、主軸13aの軸心とは、取り付け誤差の範囲内でほぼ一直線上に重なっている。
【0026】
次に、図3に示すように、各光学計測系120のレーザ発光部121及びフォトダイオード122を、測定基準面S(図1参照)内において、エンドミル30の接線方向にエンドミル30を挟んで対向するように配置する(光学測定系配置工程SS2)。ここで、エンドミル30を回転させた場合に、常にレーザ発光部121から発せられたレーザ光121aの一部がエンドミル30に遮られずにフォトダイオード122に入射されるとともに、レーザ光121aの一部はエンドミル30に遮られてフォトダイオード122に入射されないように、レーザ発光部121及びフォトダイオード122の位置を調整する。言い換えると、レーザー発光部121から発せられたレーザ光121aのうち、エンドミル30のエッジに遮られずに直進するエッジ光がフォトダイオード122に入射されるように、レーザ発光部121及びフォトダイオード122の位置を調整する。ここで、レーザ発光部121の1つから発せられたレーザ光121aの一部がエンドミル30により散乱されて、他の組のフォトダイオード122に入射することが考えられる。このような場合にエッジ光の光量測定に影響を及ぼさないために、3つのレーザ発光部121から発せられるレーザ光121aの波長をそれぞれ別波長とすることが好ましい。このように、3つのレーザ発光部が互いに異なる波長のレーザ光を照射する場合には、各レーザ発光部と各フォトダイオードとの間に、当該レーザ発光部から照射されたレーザ光を透過させ、他のレーザ発光部から照射されたレーザ光をカットする波長フィルタを配置することが好ましい。
【0027】
なお、エンドミル30の軸心30aの軸振れの計測とは別に、図4に示すように、レーザ発光部121とフォトダイオード122との間に、レーザ光121aを遮る校正用基準工具300をレーザ光121aの光軸と直交する挿入方向に挿入し、校正用基準工具300の先端300aの挿入方向における位置と、校正用基準工具300に遮られずにフォトダイオード122により受光されたレーザ光121aの光量との間の相関を調べておく。このような測定(キャリブレーション測定)を行うことにより、フォトダイオード122により受光されたレーザ光121aの光量から、レーザ光121aを遮る校正用基準工具の、挿入方向における位置を特定することができる。
【0028】
次に、主軸頭13のモータ13bを駆動して主軸13aを回転させた状態で、エンドミル30の側面の、切れ刃部32が形成された領域に各光学計測系120のレーザ発光部121からレーザ光121aを照射し、エンドミル30に遮られることなく通過したレーザ光121a(エッジ光)をフォトダイオード122で受光する(エッジ光測定工程SS3)。
【0029】
3つのフォトダイオード122からの出力信号を測定制御部130のA/Dコンバータ131にそれぞれ入力するとともに、主軸13aの回転角度に関する信号もあわせて測定制御部130に入力する。このような、3つのフォトダイオード122からの信号及び主軸13aの回転角度に関する信号に基づいて、後述する解析処理を行うことにより、測定データからエンドミル30の測定基準面Sにおける断面の、実断面形状とは異なる後述の仮想断面形状を抽出し(仮想断面形状抽出工程SS4)、さらにエンドミル30の軸心30aの軸振れの大きさを抽出する(軸振れ情報抽出工程SS5)。
【0030】
ここで、従来、測定されたデータから、後述する3点法によりエンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因する成分を取り除くためには、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面の実形状(実断面形状)を精確に抽出し、この実断面形状による寄与を取り除かなければならないと信じられてきた。言い換えると、測定されたデータから、3点法によりエンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因する成分を取り除くためには、回転するエンドミル30の、測定基準面Sにおける実断面形状を測定しなければならないため、それにあわせて、実断面形状を測定しうるように測定装置を配置しなければならないと信じられてきた。
【0031】
具体的には、被測定物の、測定基準面における実断面形状を測定するためには、例えば特許文献1に示されるように、回転する被測定物の外側に、被測定物との間の距離を測定する非接触変位センサのような変位測定装置を配置しなければならないと信じられてきた。しかしながら、エンドミル30のような複雑な断面形状を有する被測定物に関して、数千rpm以上の回転速度で高速回転する被測定物との間の距離を測定するのは困難である。そのため、これまでは、回転する被測定物の軸振れの測定に関して、3点法を用いて被測定物の実断面形状を測定しつつ、これをもとに軸振れの大きさを抽出しうるのは、もっぱら基準リングのようなほぼ真円の実断面形状を有する基準測定物を被測定物とした場合に限られていた。そのため、エンドミル30のような実際に用いられる複雑な形状の切削工具を対象とした軸振れの測定は全くなされていなかった。
【0032】
しかしながら、本願発明者は鋭意検討の結果、高速に回転する被測定物との間の距離を測定することにより高速で回転する被測定物の実断面形状を抽出することに代えて、上述のようにエッジ光の光量を測定し、実断面形状とは異なる後述の仮想断面形状を抽出することによって、被測定物の軸振れの大きさを求めることができることを見出した。以下、本願発明者が見出したこの知見について詳しく説明する。
【0033】
先ず、そもそもエッジ光の光量が、エンドミル30のような被測定物の回転軸心の軸振れを反映した測定量であるかどうかについて検討する。ここで、エンドミル30のエッジ光の光量は、エンドミル30をその接線方向(レーザ光121aの光軸方向)から見た場合における、エンドミル30の先端の位置(エッジ位置)により変化する。エンドミル30の側面には切れ刃部32が形成されているため、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面は真円ではなく、大きな凹凸のある形状を有している。そのため、エンドミル30をその接線方向から見た場合における、エンドミル30のエッジ位置は、エンドミル30の回転(回転角度)により変化する。言い換えると、エンドミル30のエッジ位置は、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因して変化する。
【0034】
なお、エンドミル30の軸心30aと、主軸13aの軸心とは完全に一致しているとは限らず、エンドミル30をチャック部40に取り付ける際のチャッキング精度と、チャック部40を主軸13aに取り付ける際の取り付け精度とに起因して偏心していると考えられる。このように、エンドミル30の軸心30aと、主軸13aの軸心とがずれて配置されている場合には、エンドミル30は偏心しつつ回転することになり、これに起因してエンドミル30の軸心30aは軸振れする。さらに、エンドミル30の軸心30aは、主軸13aの回転精度に起因して軸振れしていると考えられる。主軸13aは、不図示の軸受により軸支されているところから、軸受及び主軸13aの工作精度等に起因して主軸13aの回転軸心は微小に振動していると考えられる。また、エンドミル30をチャック部40に取り付ける際のチャッキング精度によっては、エンドミル30が回転する際にエンドミル30とチャック部40との間でブレ(振動)が生じ、これによってエンドミル30の軸心30aの軸振れが生じる可能性もある。チャック部40と主軸13aとの結合部についても同様のことが言える。このような様々な原因により、エンドミル30が回転している間、エンドミル30の軸心30aは軸心30aに垂直な平面内において絶えず振動している。このようなエンドミル30の軸心30aの軸振れによっても、エンドミル30のエッジ位置は変化する。
【0035】
このように、エンドミル30のエッジ位置は、エンドミル30の軸心30aの軸振れに起因して変化することがわかった。しかしながら、上述のように、エンドミル30のエッジ位置は、測定基準面Sにおける断面形状にも起因して変化するため、測定されたエッジ光の光量から、エンドミル30の軸心30aの軸振れの大きさの情報だけを抽出するためには、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因する成分を抽出し、これを取り除く必要がある。ここで、エッジ光の光量の測定において抽出される断面形状は、実断面形状とは異なる形状であり、本願においてはこれを仮想断面形状と呼ぶ。
【0036】
次に、仮想断面形状と実断面形状との関係について、図6に示すような実断面形状を有する2つの被測定物401、402を例に挙げて説明する。被測定物401は略星形の実断面形状を有しており、周方向に均等に配置された5つの凸部401a及び凸部の間にそれぞれ配置された5つの凹部401bとを有する。被測定物402は、凸部401aと同じ高さに形成された5つの凸部402a及び凹部401bよりも深く形成された5つの凹部402bを有する。
【0037】
ここで、被測定物401、402は、互いに全く異なる実断面形状を有しているが、被測定物401、402についてエッジ光の光量の測定を行ない、後述の3点法により被測定物401、402の断面形状を抽出すると、いずれの場合にも、5つの凸部403a及び凸部403aの間に配置された5つの凹部403bを有する仮想断面形状403のようになる。つまり、ここで、被測定物401、402の実断面形状と、仮想断面形状403を比較すると、仮想断面形状403の凸部403aの高さは実断面形状の凸部401a、402aの高さと同じであるが、仮想断面形状403の凹部403bの深さは実断面形状の凹部401b、402bよりも浅くなっている。言い換えると、仮想断面形状403は、実断面形状の凸部の高さは再現しているものの、凹部の深さは再現していない。このことから、被測定物に半径方向に長い凸部と、凸部に比べて半径方向に短い凹部とがある場合、被測定物のエッジ位置は、凸部の影響を受けやすいが凹部の影響は受けにくいことがわかる。
【0038】
次に、エッジ光の光量の測定によって得られたデータから、仮想断面形状を抽出する際に用いる3点法について説明する。図3に示すように、3つのレーザ発光部121の発するレーザ光121aについて、全ての光軸からの距離が等しくなるように原点Oを設定する。さらに、3つのフォトダイオード122のうちの1つのフォトダイオード122について、エッジ光の変位方向がゼロとなるように、x軸、y軸を設定する。そして、残り2つのフォトダイオード122をそれぞれφ[rad]、ψ[rad]の角度に配置したとする。このとき、被測定物の仮想断面形状、被測定物のx軸方向の振動成分、及び、y軸方向の振動成分を、それぞれ、x軸からの角度θとしてR(θ)、x(θ)、y(θ)と表すとき、3つのフォトダイオード122の出力Sa、Sb、Scは数式1のように表される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、Φ=φ+π/2、Ψ=ψ+π/2と変数変換し、関数S(θ)を数式2のように定義する。このとき数式3を満たすように定数a、b、Φ、Ψを選ぶと、関数S(θ)は数式4のように表される。
【0041】
【数2】
【数3】
【数4】
【0042】
さらに、仮想断面形状R(θ)を数式5のように山数をkとしてフーリエ級数展開し、数式6のように定数αk、βkを定義する。これらを数式4に代入すると、関数S(θ)は数式7のように表すことができる。
【数5】
【数6】
【数7】
【0043】
数式2に示されるように、3つのフォトダイオード122の出力から、S(θ)を導出できる。これをフーリエ変換して各次数の係数を数式7と比較することにより、仮想断面形状R(θ)のフーリエ係数Ak,Bkをそれぞれ決定することができ、数式5により仮想断面形状R(θ)を求めることができる。仮想断面形状R(θ)が決定されれば、数式1により、x方向の振動成分x(θ)、y方向の振動成分y(θ)も求めることができる。このようにして、測定された3つのフォトダイオード122からの出力から、仮想断面形状R(θ)、x方向の振動成分x(θ)及びy方向の振動成分y(θ)をそれぞれ抽出することができる。
【0044】
このように、本願発明者は、エッジ光の光量を測定し、実断面形状とは異なる仮想断面形状R(θ)を抽出することによって、被測定物の軸振れの大きさ(x(θ)、y(θ))を求めることができることを見出した。次に、この知見に基づいて、実際にエンドミル30の軸振れの大きさを求めることができることを確かめるために、上述のエンドミル30の軸心30aの軸振れの計測についてのシミュレーションを行った。
【0045】
このシミュレーションにおいて、データのサンプリングレートは1回転当たり512回とした。また、3つのフォトダイオード122は、φ=149.8°、ψ=210.23°の角度に配置した。
【0046】
図7(a)、(b)にシミュレーションの結果を示す。ここで、図7(a)に示すように、シミュレーションより得られたエンドミル30の軸心30aの運動の軌跡233と、このシミュレーションにおいてエンドミル30に与えられた運動の軌跡234とは非常に良く一致しており、標準偏差は0.0058μmであることがわかった。このことから、上述の方法に基づく、エンドミル30の軸心30aの軸振れの計測方法が有効であることがわかった。
【0047】
なお、図7(b)に示されるように、本シミュレーションにおいて抽出されたエンドミル30の仮想断面形状231は、実断面形状232と異なっている。特に、仮想断面形状231は、エンドミル30の外周刃34a、34bの先端にそれぞれ対応する、実断面形状232の凸部の先端232a、232bとは重なっているが、実断面形状232の窪んだ部分とは重なっていない。また、実断面形状に凸部の先端付近のような鋭角的な形状があったとしても、仮想断面形状232においてはなだらかな形状として反映されることもわかる。
【0048】
仮想断面形状231が、実断面形状232の凸部の先端232a、232bとは重なっているが、実断面形状232の窪んだ部分とは重なっていないことは、前述のように、エッジ光の光量の測定によって抽出される仮想断面形状が、被測定物の凸部の影響を受けやすいが凹部の影響は受けにくいことに対応している。逆に言えば、エッジ光の光量の測定により抽出される仮想断面形状231は、エンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さを忠実に再現していることから、仮想断面形状231の、外周刃34a、34bの先端に対応する箇所の高さを精確に求めることにより、エンドミル30の外周刃34a、34bの摩耗量を求めることができる。
【0049】
ここで、図8に示すようにエンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さを少しずつ低くした場合において、それぞれ上述と同様のシミュレーションを行ない、エンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さと、シミュレーションの結果得られた仮想断面形状から求められた外周刃34a、34bの先端の高さとの間の相関を求めた。図9に示されるように、仮想断面形状から求められた外周刃34a、34bの先端の高さは、実形状のエンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さとほぼ一致していることが分かった。これにより、仮想断面形状232の、外周刃34a、34bの先端に対応する箇所の高さから、エンドミル30の外周刃34a、34bの摩耗量を求めることができることが分かった。
【0050】
なお、前述のような、図7(b)において、実断面形状に凸部の先端付近のような鋭角的な形状があったとしても、仮想断面形状232においてはなだらかな形状として反映されることは、仮想断面形状232(R(θ))が高周波成分を多く含んでいないことに対応していると考えられる。これを確かめるために、図10のように、実断面形状231をフーリエ展開した場合の各山数における係数Ak、Bkの大きさと、仮想断面形状232をフーリエ展開した場合の、各山数における係数Ak、Bkの大きさとを比較した。これをみても、実断面形状231に比べて、仮想断面形状232(R(θ))は高周波成分が少ないことが分かる。このことから、仮想断面形状232を抽出する場合には、山数をあまり大きくとる必要がなく、1回転当たり256回のサンプリング程度で十分であることが分かった。
【0051】
<第2実施形態>
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。ここで、本実施形態は、第1実施形態における2枚刃のエンドミル30に代えて、4枚刃のエンドミル430を測定対象としたこと以外は、第1実施形態と同様であるため、以下の説明においては、第1実施形態との相違点についてのみ説明することとする。
【0052】
図11(a)に示すように、4枚刃のエンドミルの、測定基準面Sにおける実断面形状431は、4枚刃のエンドミルの4つの外周刃に対応する4つの凸部431a〜431dを有する。このような4枚刃のエンドミルを測定対象として、上述と同様のシミュレーションを行い、仮想断面形状432を抽出した。仮想断面形状432と実断面形状431とを比較すると、4つの凸部431a〜431dに対応する部分は非常に良く一致していることが分かる。また、第1実施形態の場合と同様に、仮想断面形状432は、実断面形状431と比較して凹凸の少ない(凹部の深さが浅い)なだらかな形状であることがわかる。
【0053】
また、図11(b)に示すように、シミュレーションより得られた4枚刃のエンドミルの軸心の運動の軌跡433と、このシミュレーションにおいてエンドミルに与えられた運動の軌跡434とは非常に良く一致しており、標準偏差は0.0071μmであることがわかった。このことから、4枚刃エンドミルのような複雑な形状の被測定物に対しても、上述の方法に基づく、軸振れの計測方法が有効であることがわかった。
【0054】
なお、上述の実施形態において、2枚刃、4枚刃のエンドミルを測定対象としてきた。ここで、2枚刃、4枚刃エンドミルの断面形状は、それぞれ180°対称、90°対称の形状であるが、本発明はこれには限らない。本発明の測定対象となる切削工具等の回転体の断面形状は、任意の角度で回転対称な形状であってもよく、あるいは、回転対称でない形状であってもよい。また、本発明において測定対象となる切削工具は、エンドミルには限らず、例えば、ドリル、リーマ、正面フライス等、任意の形状の切削工具に対して適用することができる。
【0055】
また、上述の実施形態において、エッジ光の光量の測定のための光学測定系として、レーザ光を照射するレーザ発光部とフォトダイオードとを例に挙げて説明してきたが、本発明はこれに限らず、安定した出力で所定の領域に平行光を照射しうる発光装置と、照射された光の光量を測定しうる光量測定装置である限りにおいて、任意の発光装置及び光量測定装置を有する光学測定系を使用しうる。また、例えば、レーザ発光部に代えて、指向性を高くしたLED装置等を使用しうる。また、フォトダイオードに代えて、CCD等を使用してもよい。また、光学測定系の数は少なくとも3つあればよい。上述の実施形態においては、切削工具の一端にレーザ光を照射し、その端部におけるエッジ光の光量を測定していた。しかしながら、本発明はこれに限らず、例えば、切削工具の幅(レーザ光の光軸に直交する方向の長さ)よりも広いレーザ光を照射するとともに、2分割されたフォトダイオードを用いて切削工具の幅方向両端においてエッジ光の光量の測定を同時に行なってもよい。このとき、切削工具が一方向にずれた場合、2分割されたフォトダイオードの一方の光量が増加し、他方の光量が減少するため、これにより、測定の感度を向上させることができる。
【0056】
なお、上記実施形態において、回転する切削工具を測定対象としており、測定基準面における断面の直径は約10mm〜数十mm程度であった。しかしながら本発明は切削工具のような細い棒状の回転体のみを測定対象とすることに限らず、任意の大きさ、任意の形状の回転体における軸振れを測定するために適用することができる。例えば、プロペラのような、測定基準面における断面の直径が数十cm〜数m程度に及ぶ大型の回転体において、その軸振れを測定する場合にも本発明を適用しうる。なお、測定対象が比較的大型の回転体である場合のように、レーザ発光部の1つから発せられたレーザ光の一部が回転体により散乱されて、他の組のフォトダイオード入射するおそれがない場合等には、必ずしも各レーザ発光部から発せられるレーザ光の波長を別波長とする必要はなく、同一の波長のレーザ光を発するレーザ発光部を使用してもよい。あるいは、ワークを把持した状態で高速に回転させ、固定された切削工具に当接させて切削加工を行う旋盤においても、本発明を適用しうる。この場合には、切削工具ではなく、ワークについて上述の方法と同様の方法によりエッジ光の光量の測定を行うことにより、ワークの回転中心の軸振れを抽出することができる。また、測定対象となる回転体の、測定基準面における断面形状は任意の形状であってよく、上述の実施形態において例示してきた2枚刃、4枚刃のエンドミルのように、必ずしも半径方向に鋭い切れ込みが形成されていなくてもよい。例えば、測定対象となる回転体は、測定基準面において円形の断面形状を有してもよい。この場合であっても、測定対象となる回転体の測定基準面における実断面形状は、真円とはならず、工作精度に起因する凹凸を有することになる。このとき、上述のようなエッジ光の測定によって得られる仮想断面形状は、実断面形状とは異なる形状であり、具体的には、実断面形状よりも凹部の深さが浅いなだらかな形状として抽出される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
複雑な形状を有する任意の回転体について、数千rpm以上の高速回転している場合であっても、回転の軸振れを高精度(例えば1μm以下の精度)で測定することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 軸振れ計測システム
10 フライス盤
13a 主軸
30 エンドミル
110 制御部
120 光学測定系
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法、及び、回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作物(ワーク)を切削加工するフライス盤などの工作機械は、工作物を固定するテーブルと、テーブルに固定されたワークに相対して移動しつつワークを切削するフライスなどの刃具と、刃具を把持するチャックと、先端に取り付けられたチャック及び刃具を高速回転(例えば数千〜数万rpm)させる主軸とを主に備えている。
【0003】
ワークの加工面を切削加工する際には、主軸の回転に伴って高速回転する刃具の刃の先端(以下、単に「刃具の先端」という)がワークの加工面に当接される。このとき、回転する刃具の軸心に軸振れが生じていた場合、刃具の先端は、真円からずれた軌跡を描きつつ回転することになる。例えば、刃具が軸心に垂直な平面内においてランダムな方向に微小振動しつつ回転している場合、回転する刃具の先端は、真円に微小振動を重ね合わせた軌跡を描く。このとき、ワークの加工面には、刃具の先端の描く軌跡が転写される、即ち、ワークの加工面には刃具の先端の描く軌跡を反映した凹凸が形成される。このように、回転する刃具の軸心に生じる軸振れと、ワークの加工面の加工精度(例えば表面粗さ)との間には明かな相関があるため、ワークの加工精度を評価するためには、刃具の軸心の軸振れの大きさを精度良く計測することが求められている。
【0004】
後に詳述するように、刃具の軸振れは、主に、主軸の回転精度と、刃具をチャックに取り付ける際のチャッキング精度と、チャックを主軸に取り付ける際の取り付け精度とに起因して生じることが知られている。ここで、特許文献1には、主軸の軸振れをリアルタイムで計測するとともに、計測した軸振れのデータを基にして主軸の軸心の姿勢についてフィードバック制御を行うことにより主軸の軸振れを小さく抑える軸振れ補正制御装置が開示されている。具体的には、特許文献1の軸振れ補正制御装置は、空気軸受により軸支された主軸と、主軸と一体に回転するように取り付けられた、高い真円度を有する基準リングと、基準リングの外側に同心円状に配置された3つの非接触変位センサと、主軸の軸心の姿勢についてのフィードバック制御を行うコントローラとを主に備えている。
【0005】
特許文献1の軸振れ補正制御装置においては、3つの非接触変位センサを用いて基準リングの外表面と各非接触変位センサとの間の距離をリアルタイムで測定している。そして、3つの非接触変位センサから得られた測定データから、後述する三点法を用いて、基準リングの実形状を忠実に再現する実形状成分と、基準リングが取り付けられている主軸の半径方向(主軸の軸心と垂直な面の面方向)における振動成分とを抽出している。ここで、主軸の軸心の、半径方向における振動成分に基づいて、主軸の軸心の姿勢を調整するフィードバック制御を行うことにより、主軸の軸心の軸振れを抑えている。なお、3点法を用いることにより、基準リングの実形状成分と振動成分とをそれぞれ独立に抽出することができる。言い換えると、基準リングの形状誤差及び取り付け誤差とは無関係に、主軸の軸心の、半径方向における振動成分のみを抽出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−235422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、刃具の軸振れは、主に、主軸の回転精度と、刃具をチャックに取り付ける際のチャッキング精度と、チャックを主軸に取り付ける際の取り付け精度とに起因して生じることが知られているところ、特許文献1の軸振れ補正制御装置においては、主軸の回転精度のみを測定対象としている。そのため、さらにチャッキング精度及びホルダへの取り付け精度を測定しない限り、ワークの加工精度を評価することができない。
【0008】
ここで、上述のように、刃具の軸心の軸振れの大きさは、主軸の回転精度と、刃具をチャックに取り付ける際のチャッキング精度と、チャックを主軸に取り付ける際の取り付け精度とに起因して生じるため、刃具の軸心の軸振れを測定することができれば、ワークの加工精度を精確に評価することができる。しかしながら、特許文献1の軸振れ補正制御装置は、以下に示すように、基準リングのような高い真円度を有する基準部材に限って、これに生じる軸振れを測定できるだけであり、例えばエンドミルのような複雑な形状を有する刃具の軸心の軸振れを測定することはできない。
【0009】
特許文献1の軸振れ補正制御装置においては、上述のように非接触変位センサを用いることによって、主軸の軸心に同軸に取り付けられた基準リングの外表面と近接センサとの間の距離を測定している。ここで、基準リングは高い真円度を有しており、その外表面は鏡面仕上げされている。つまり、基準リングの外表面には、外表面の加工精度に起因する表面粗さに相当する凹凸(例えば数μm程度)を超える高さの凹凸は形成されていない。そのため、非接触変位センサを基準リングの外表面に近接して配置することができ、非接触変位センサと基準リングの外表面との間の距離を精度良く測定することができた。
【0010】
ここで、非接触変位センサの検出範囲は、一般に0mm〜数mm程度であるため、非接触変位センサを用いて刃具の軸心の軸振れを測定する場合には、刃具の外側を取り囲み、且つ、刃具から数mm以内に近接するように少なくとも3つの非接触変位センサを配置しなければならない。しかしながら、ワークを切削加工する際にワークと干渉しないように、刃具の外側に近接して非接触変位センサを配置することは実質上不可能である。また、例えばエンドミルなどの刃具の断面は、真円から大きくずれた複雑な形状をしており、数mm以上の凹凸が形成されていることもある。このように、刃具の断面形状が非接触変位センサの検出範囲を超える凹凸を有している場合には、たとえ非接触変位センサを刃具の外側において刃具と近接するように配置できたとしても、刃具の断面形状を精確に計測することは不可能であり、刃具の軸心の軸振れを測定することはできない。
【0011】
本発明の目的は、工作機械に取り付けられた刃具のような回転体に関して、回転体の形状に関わらず、回転体の回転軸心の軸振れを測定するための方法、及び、回転体の回転軸心の軸振れを測定する測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様に従えば、回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法であって、所定の回転速度で回転可能に設けられた主軸に、前記回転体を取り付けることと、前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向する3組の発光部及び受光部の組を配置することと、前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射して、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定することと、前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めることと、前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求めることとを備える方法が提供される。
【0013】
本発明の第1の態様によれば、回転体の回転軸心に垂直な断面における断面形状を精確に計測しなくとも、回転体の回転軸心の軸振れを計測することができる。そのため、回転体との間の距離を計測するための測定装置を、回転体の回転軸心の周りに配置する必要がない。それに代えて、回転体の一部に光を照射し、回転体に遮られずに通過した光(エッジ光)の光量を測定することにより、回転体の回転軸心の軸振れを計測することができるため、発光部及び受光部の配置の自由度が増し、大きな凹凸を有する回転体についても容易に回転軸心の軸振れを測定することができる。
【0014】
本発明の回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法において、前記回転体は、回転軸心の周りの表面に切れ刃部が形成された切削工具であってもよい。この場合には、例えば、エンドミル、ドリル、リーマ、正面フライスのような複雑な形状を有する切削工具においても、その回転軸心の軸振れを測定できる。
【0015】
本発明の回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法において、前記発光部はレーザ光を照射するレーザ照射装置であってもよく、前記受光部はフォトダイオードであってもよい。この場合には、レーザ光を用いているので、光の指向性が非常に高いため、発光部及び受光部の組を切削工具等の回転体から離して配置することが容易であり、これらの配置の自由度が高くなる。
【0016】
本発明の回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法において、前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も長い第1凸部を有してもよく、前記仮想断面形状は、前記第1凸部に対応する第2凸部を有してもよく、前記回転軸心と第1凸部との間の距離は、前記回転軸心と前記第2凸部との間の距離と同じであってもよい。この場合において、エッジ光の光量の測定に基づいて抽出される仮想断面形状は、実際の断面形状(実断面形状)と異なるものであるが、実断面形状のうち、最も半径方向に長い部分については、仮想断面形状においても精度良く再現することができる。そのため、例えば切削工具の形状を測定する場合において、刃の先端部分の長さ(半径方向の長さ)を、仮想断面形状から精確に求めることができ、刃の先端の摩耗の程度を求めることができる。
【0017】
さらに、前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も短い第1凹部を有してもよく、前記仮想断面形状は、前記第1凹部に対応する第2凹部を有してもよく、前記回転軸心と第2凹部との間の距離は、前記回転軸心と前記第1凹部との間の距離よりも長くてもよい。この場合には、仮想断面形状は、実断面形状と比べて、凹凸の浅い形状となる。つまり、仮想断面形状は、実断面形状と比べて、フーリエ展開したときの高周波成分が少ない。そのため、仮想断面形状をフーリエ展開する場合に、山数をあまり多く取らなくても、仮想断面形状を精度よく抽出することができる。
【0018】
本発明の第2の態様に従えば、回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムであって、所定の軸方向に延在し、一端に前記回転体を固定する固定部が設けられた主軸、及び、前記主軸の他端に連結され、前記主軸を前記軸を中心として回転させるモータを有する主軸頭と、前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向するように配置された3組の発光部及び受光部の組と、前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射させて、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定させ、前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めるとともに、前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求める制御部と、を備える計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の計測システムを利用することにより、例えばフライス盤のような切削工具における、高速で回転する複雑な形状の切削工具の軸振れを高精度(例えば1μm以下の精度)に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、第1の実施形態に係る軸振れ計測システムの概略図である。
【図2】図2(a)はエンドミル30の側面図であり、図2(b)はエンドミル30の上面図である。
【図3】図3は、エンドミル30と光学計測系120との配置を示す概略図である。
【図4】図4は校正用基準工具300の位置とレーザ光121aの光量との相関を調べるためのキャリブレーション測定を行う際の配置図である。
【図5】本発明に係る軸振れの計測方法を示すフローチャートである。
【図6】実断面形状と仮想断面形状との関係を示す図である。
【図7】図7(a)はシミュレーションにより得られたエンドミル30の軸心の運動軌跡であり、図7(b)は仮想断面形状を示す。
【図8】図8はエンドミル30の先端の摩耗を示す図である。
【図9】図9はシミュレーションにより得られたエンドミル30の摩耗と、実際のエンドミル30の摩耗との相関を示すグラフである。
【図10】図10は、エンドミル30の、実断面形状と仮想断面形状のフーリエ級数の係数を示したグラフである。
【図11】図11(a)は、4枚刃エンドミルに関する図7(b)相当図であり、図11(b)は、4枚刃エンドミルに関する図7(a)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
本発明に係る、回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムの一例として、工作機械の一種であるフライス盤に取り付けられたエンドミルの軸心の軸振れを計測する軸振れ計測システム1について説明する。図1に示すように、軸振れ計測システム1は、ワークをエンドミル30により切削加工するフライス盤10と、エンドミル30の軸心30aの軸振れを計測する制御部110とを主に備える。
【0022】
フライス盤10は、ワークを載置するテーブル11と、ワークをテーブル11上に固定するバイス12と、主軸13a及び主軸13aをその軸心(回転軸)の周りに回転させるモーター13bを有する主軸頭13と、不図示のボールネジ機構により、主軸頭13をテーブル11に相対して主軸13aの軸心方向(Z方向)及び/又はテーブル11の面方向(X、Y方向)に移動させる移動機構14と、エンドミル30を把持するチャック部40(本発明の固定部に相当する)とを備え、主軸13aの先端に、チャック部40が取り付けられる。主軸頭13の主軸13aの周りには、不図示のロータリエンコーダが設けられており、主軸13aの回転角度のデータが後述する測定制御部130に送られる。また、主軸頭13のモータ13bは、後述する制御部110により制御されている。なお、チャック部40として、例えば、不図示のコレットに挿入されたエンドミル30を把持して固定する公知のコレットチャックを用いることができる。あるいは、他の種類のチャック機構を用いることもできる。
【0023】
図2(a)、(b)に示すように、エンドミル30は円柱形状の切削工具であって、円柱形状のシャンク部31と、シャンク部31の一端側に形成された切れ刃部32とを有する。なお、シャンク部31の中心軸をエンドミル30の軸心30aと呼ぶ。ここで切れ刃部32は、いわゆる2枚刃として、シャンク部31の側面及びシャンク部31の一端側の端面31aに形成されている。具体的には、切れ刃部32は端面31aにおいて軸心側から外周側に向かって延在する2つの端面刃33a、33bと、シャンク部31の側面に螺旋状に延びる外周刃34a、34bとを有する。
【0024】
図1に示すように、制御部110は、3組の光学測定系120(図1には1組の光学測定系120のみが図示されている)と、光学測定系120の測定結果を基にして後述する3点法によりエンドミル30の軸心30aの軸振れの大きさを抽出する測定制御部130とを備える。ここで、3組の光学測定系120は同一平面内に配置されており、これら3組の光学測定系120により画成される平面を測定基準面Sと呼ぶ。図1に示されるように、測定基準面Sは、エンドミル30の軸心30aに垂直な面であって、エンドミル30の切れ刃部32が形成された領域と垂直に交差する平面である。各光学測定系120は、レーザ光121a(図3参照)を照射するレーザ発光部121と、受光したレーザ光121aの光量に応じた出力信号を出力するフォトダイオード122とを備える。レーザ発光部121は、制御部110により制御される。測定制御部130は、フォトダイオード122の出力信号(電流信号又は電圧信号)が入力されるとともに、入力されたフォトダイオード122の出力信号についてA/D変換を行うA/Dコンバータ131と、A/Dコンバータ131からのデータ及び主軸13aの回転角度に関するデータをもとに、後述する3点法に基づく解析処理を行うコンピュータ(解析部)132とを備える。
【0025】
次に、軸振れ計測システム1を用いて、エンドミル30の軸心30aの軸振れを計測する方法について図5を参照しつつ説明する。先ず、チャック部40を主軸13aの先端に固定する。さらに、エンドミル30のシャンク部31をチャック部40に固定する(エンドミル固定工程SS1)。このとき、エンドミル30の軸心30aと、チャック部40の中心と、主軸13aの軸心とは、取り付け誤差の範囲内でほぼ一直線上に重なっている。
【0026】
次に、図3に示すように、各光学計測系120のレーザ発光部121及びフォトダイオード122を、測定基準面S(図1参照)内において、エンドミル30の接線方向にエンドミル30を挟んで対向するように配置する(光学測定系配置工程SS2)。ここで、エンドミル30を回転させた場合に、常にレーザ発光部121から発せられたレーザ光121aの一部がエンドミル30に遮られずにフォトダイオード122に入射されるとともに、レーザ光121aの一部はエンドミル30に遮られてフォトダイオード122に入射されないように、レーザ発光部121及びフォトダイオード122の位置を調整する。言い換えると、レーザー発光部121から発せられたレーザ光121aのうち、エンドミル30のエッジに遮られずに直進するエッジ光がフォトダイオード122に入射されるように、レーザ発光部121及びフォトダイオード122の位置を調整する。ここで、レーザ発光部121の1つから発せられたレーザ光121aの一部がエンドミル30により散乱されて、他の組のフォトダイオード122に入射することが考えられる。このような場合にエッジ光の光量測定に影響を及ぼさないために、3つのレーザ発光部121から発せられるレーザ光121aの波長をそれぞれ別波長とすることが好ましい。このように、3つのレーザ発光部が互いに異なる波長のレーザ光を照射する場合には、各レーザ発光部と各フォトダイオードとの間に、当該レーザ発光部から照射されたレーザ光を透過させ、他のレーザ発光部から照射されたレーザ光をカットする波長フィルタを配置することが好ましい。
【0027】
なお、エンドミル30の軸心30aの軸振れの計測とは別に、図4に示すように、レーザ発光部121とフォトダイオード122との間に、レーザ光121aを遮る校正用基準工具300をレーザ光121aの光軸と直交する挿入方向に挿入し、校正用基準工具300の先端300aの挿入方向における位置と、校正用基準工具300に遮られずにフォトダイオード122により受光されたレーザ光121aの光量との間の相関を調べておく。このような測定(キャリブレーション測定)を行うことにより、フォトダイオード122により受光されたレーザ光121aの光量から、レーザ光121aを遮る校正用基準工具の、挿入方向における位置を特定することができる。
【0028】
次に、主軸頭13のモータ13bを駆動して主軸13aを回転させた状態で、エンドミル30の側面の、切れ刃部32が形成された領域に各光学計測系120のレーザ発光部121からレーザ光121aを照射し、エンドミル30に遮られることなく通過したレーザ光121a(エッジ光)をフォトダイオード122で受光する(エッジ光測定工程SS3)。
【0029】
3つのフォトダイオード122からの出力信号を測定制御部130のA/Dコンバータ131にそれぞれ入力するとともに、主軸13aの回転角度に関する信号もあわせて測定制御部130に入力する。このような、3つのフォトダイオード122からの信号及び主軸13aの回転角度に関する信号に基づいて、後述する解析処理を行うことにより、測定データからエンドミル30の測定基準面Sにおける断面の、実断面形状とは異なる後述の仮想断面形状を抽出し(仮想断面形状抽出工程SS4)、さらにエンドミル30の軸心30aの軸振れの大きさを抽出する(軸振れ情報抽出工程SS5)。
【0030】
ここで、従来、測定されたデータから、後述する3点法によりエンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因する成分を取り除くためには、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面の実形状(実断面形状)を精確に抽出し、この実断面形状による寄与を取り除かなければならないと信じられてきた。言い換えると、測定されたデータから、3点法によりエンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因する成分を取り除くためには、回転するエンドミル30の、測定基準面Sにおける実断面形状を測定しなければならないため、それにあわせて、実断面形状を測定しうるように測定装置を配置しなければならないと信じられてきた。
【0031】
具体的には、被測定物の、測定基準面における実断面形状を測定するためには、例えば特許文献1に示されるように、回転する被測定物の外側に、被測定物との間の距離を測定する非接触変位センサのような変位測定装置を配置しなければならないと信じられてきた。しかしながら、エンドミル30のような複雑な断面形状を有する被測定物に関して、数千rpm以上の回転速度で高速回転する被測定物との間の距離を測定するのは困難である。そのため、これまでは、回転する被測定物の軸振れの測定に関して、3点法を用いて被測定物の実断面形状を測定しつつ、これをもとに軸振れの大きさを抽出しうるのは、もっぱら基準リングのようなほぼ真円の実断面形状を有する基準測定物を被測定物とした場合に限られていた。そのため、エンドミル30のような実際に用いられる複雑な形状の切削工具を対象とした軸振れの測定は全くなされていなかった。
【0032】
しかしながら、本願発明者は鋭意検討の結果、高速に回転する被測定物との間の距離を測定することにより高速で回転する被測定物の実断面形状を抽出することに代えて、上述のようにエッジ光の光量を測定し、実断面形状とは異なる後述の仮想断面形状を抽出することによって、被測定物の軸振れの大きさを求めることができることを見出した。以下、本願発明者が見出したこの知見について詳しく説明する。
【0033】
先ず、そもそもエッジ光の光量が、エンドミル30のような被測定物の回転軸心の軸振れを反映した測定量であるかどうかについて検討する。ここで、エンドミル30のエッジ光の光量は、エンドミル30をその接線方向(レーザ光121aの光軸方向)から見た場合における、エンドミル30の先端の位置(エッジ位置)により変化する。エンドミル30の側面には切れ刃部32が形成されているため、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面は真円ではなく、大きな凹凸のある形状を有している。そのため、エンドミル30をその接線方向から見た場合における、エンドミル30のエッジ位置は、エンドミル30の回転(回転角度)により変化する。言い換えると、エンドミル30のエッジ位置は、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因して変化する。
【0034】
なお、エンドミル30の軸心30aと、主軸13aの軸心とは完全に一致しているとは限らず、エンドミル30をチャック部40に取り付ける際のチャッキング精度と、チャック部40を主軸13aに取り付ける際の取り付け精度とに起因して偏心していると考えられる。このように、エンドミル30の軸心30aと、主軸13aの軸心とがずれて配置されている場合には、エンドミル30は偏心しつつ回転することになり、これに起因してエンドミル30の軸心30aは軸振れする。さらに、エンドミル30の軸心30aは、主軸13aの回転精度に起因して軸振れしていると考えられる。主軸13aは、不図示の軸受により軸支されているところから、軸受及び主軸13aの工作精度等に起因して主軸13aの回転軸心は微小に振動していると考えられる。また、エンドミル30をチャック部40に取り付ける際のチャッキング精度によっては、エンドミル30が回転する際にエンドミル30とチャック部40との間でブレ(振動)が生じ、これによってエンドミル30の軸心30aの軸振れが生じる可能性もある。チャック部40と主軸13aとの結合部についても同様のことが言える。このような様々な原因により、エンドミル30が回転している間、エンドミル30の軸心30aは軸心30aに垂直な平面内において絶えず振動している。このようなエンドミル30の軸心30aの軸振れによっても、エンドミル30のエッジ位置は変化する。
【0035】
このように、エンドミル30のエッジ位置は、エンドミル30の軸心30aの軸振れに起因して変化することがわかった。しかしながら、上述のように、エンドミル30のエッジ位置は、測定基準面Sにおける断面形状にも起因して変化するため、測定されたエッジ光の光量から、エンドミル30の軸心30aの軸振れの大きさの情報だけを抽出するためには、エンドミル30の測定基準面Sにおける断面形状に起因する成分を抽出し、これを取り除く必要がある。ここで、エッジ光の光量の測定において抽出される断面形状は、実断面形状とは異なる形状であり、本願においてはこれを仮想断面形状と呼ぶ。
【0036】
次に、仮想断面形状と実断面形状との関係について、図6に示すような実断面形状を有する2つの被測定物401、402を例に挙げて説明する。被測定物401は略星形の実断面形状を有しており、周方向に均等に配置された5つの凸部401a及び凸部の間にそれぞれ配置された5つの凹部401bとを有する。被測定物402は、凸部401aと同じ高さに形成された5つの凸部402a及び凹部401bよりも深く形成された5つの凹部402bを有する。
【0037】
ここで、被測定物401、402は、互いに全く異なる実断面形状を有しているが、被測定物401、402についてエッジ光の光量の測定を行ない、後述の3点法により被測定物401、402の断面形状を抽出すると、いずれの場合にも、5つの凸部403a及び凸部403aの間に配置された5つの凹部403bを有する仮想断面形状403のようになる。つまり、ここで、被測定物401、402の実断面形状と、仮想断面形状403を比較すると、仮想断面形状403の凸部403aの高さは実断面形状の凸部401a、402aの高さと同じであるが、仮想断面形状403の凹部403bの深さは実断面形状の凹部401b、402bよりも浅くなっている。言い換えると、仮想断面形状403は、実断面形状の凸部の高さは再現しているものの、凹部の深さは再現していない。このことから、被測定物に半径方向に長い凸部と、凸部に比べて半径方向に短い凹部とがある場合、被測定物のエッジ位置は、凸部の影響を受けやすいが凹部の影響は受けにくいことがわかる。
【0038】
次に、エッジ光の光量の測定によって得られたデータから、仮想断面形状を抽出する際に用いる3点法について説明する。図3に示すように、3つのレーザ発光部121の発するレーザ光121aについて、全ての光軸からの距離が等しくなるように原点Oを設定する。さらに、3つのフォトダイオード122のうちの1つのフォトダイオード122について、エッジ光の変位方向がゼロとなるように、x軸、y軸を設定する。そして、残り2つのフォトダイオード122をそれぞれφ[rad]、ψ[rad]の角度に配置したとする。このとき、被測定物の仮想断面形状、被測定物のx軸方向の振動成分、及び、y軸方向の振動成分を、それぞれ、x軸からの角度θとしてR(θ)、x(θ)、y(θ)と表すとき、3つのフォトダイオード122の出力Sa、Sb、Scは数式1のように表される。
【0039】
【数1】
【0040】
ここで、Φ=φ+π/2、Ψ=ψ+π/2と変数変換し、関数S(θ)を数式2のように定義する。このとき数式3を満たすように定数a、b、Φ、Ψを選ぶと、関数S(θ)は数式4のように表される。
【0041】
【数2】
【数3】
【数4】
【0042】
さらに、仮想断面形状R(θ)を数式5のように山数をkとしてフーリエ級数展開し、数式6のように定数αk、βkを定義する。これらを数式4に代入すると、関数S(θ)は数式7のように表すことができる。
【数5】
【数6】
【数7】
【0043】
数式2に示されるように、3つのフォトダイオード122の出力から、S(θ)を導出できる。これをフーリエ変換して各次数の係数を数式7と比較することにより、仮想断面形状R(θ)のフーリエ係数Ak,Bkをそれぞれ決定することができ、数式5により仮想断面形状R(θ)を求めることができる。仮想断面形状R(θ)が決定されれば、数式1により、x方向の振動成分x(θ)、y方向の振動成分y(θ)も求めることができる。このようにして、測定された3つのフォトダイオード122からの出力から、仮想断面形状R(θ)、x方向の振動成分x(θ)及びy方向の振動成分y(θ)をそれぞれ抽出することができる。
【0044】
このように、本願発明者は、エッジ光の光量を測定し、実断面形状とは異なる仮想断面形状R(θ)を抽出することによって、被測定物の軸振れの大きさ(x(θ)、y(θ))を求めることができることを見出した。次に、この知見に基づいて、実際にエンドミル30の軸振れの大きさを求めることができることを確かめるために、上述のエンドミル30の軸心30aの軸振れの計測についてのシミュレーションを行った。
【0045】
このシミュレーションにおいて、データのサンプリングレートは1回転当たり512回とした。また、3つのフォトダイオード122は、φ=149.8°、ψ=210.23°の角度に配置した。
【0046】
図7(a)、(b)にシミュレーションの結果を示す。ここで、図7(a)に示すように、シミュレーションより得られたエンドミル30の軸心30aの運動の軌跡233と、このシミュレーションにおいてエンドミル30に与えられた運動の軌跡234とは非常に良く一致しており、標準偏差は0.0058μmであることがわかった。このことから、上述の方法に基づく、エンドミル30の軸心30aの軸振れの計測方法が有効であることがわかった。
【0047】
なお、図7(b)に示されるように、本シミュレーションにおいて抽出されたエンドミル30の仮想断面形状231は、実断面形状232と異なっている。特に、仮想断面形状231は、エンドミル30の外周刃34a、34bの先端にそれぞれ対応する、実断面形状232の凸部の先端232a、232bとは重なっているが、実断面形状232の窪んだ部分とは重なっていない。また、実断面形状に凸部の先端付近のような鋭角的な形状があったとしても、仮想断面形状232においてはなだらかな形状として反映されることもわかる。
【0048】
仮想断面形状231が、実断面形状232の凸部の先端232a、232bとは重なっているが、実断面形状232の窪んだ部分とは重なっていないことは、前述のように、エッジ光の光量の測定によって抽出される仮想断面形状が、被測定物の凸部の影響を受けやすいが凹部の影響は受けにくいことに対応している。逆に言えば、エッジ光の光量の測定により抽出される仮想断面形状231は、エンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さを忠実に再現していることから、仮想断面形状231の、外周刃34a、34bの先端に対応する箇所の高さを精確に求めることにより、エンドミル30の外周刃34a、34bの摩耗量を求めることができる。
【0049】
ここで、図8に示すようにエンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さを少しずつ低くした場合において、それぞれ上述と同様のシミュレーションを行ない、エンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さと、シミュレーションの結果得られた仮想断面形状から求められた外周刃34a、34bの先端の高さとの間の相関を求めた。図9に示されるように、仮想断面形状から求められた外周刃34a、34bの先端の高さは、実形状のエンドミル30の外周刃34a、34bの先端の高さとほぼ一致していることが分かった。これにより、仮想断面形状232の、外周刃34a、34bの先端に対応する箇所の高さから、エンドミル30の外周刃34a、34bの摩耗量を求めることができることが分かった。
【0050】
なお、前述のような、図7(b)において、実断面形状に凸部の先端付近のような鋭角的な形状があったとしても、仮想断面形状232においてはなだらかな形状として反映されることは、仮想断面形状232(R(θ))が高周波成分を多く含んでいないことに対応していると考えられる。これを確かめるために、図10のように、実断面形状231をフーリエ展開した場合の各山数における係数Ak、Bkの大きさと、仮想断面形状232をフーリエ展開した場合の、各山数における係数Ak、Bkの大きさとを比較した。これをみても、実断面形状231に比べて、仮想断面形状232(R(θ))は高周波成分が少ないことが分かる。このことから、仮想断面形状232を抽出する場合には、山数をあまり大きくとる必要がなく、1回転当たり256回のサンプリング程度で十分であることが分かった。
【0051】
<第2実施形態>
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。ここで、本実施形態は、第1実施形態における2枚刃のエンドミル30に代えて、4枚刃のエンドミル430を測定対象としたこと以外は、第1実施形態と同様であるため、以下の説明においては、第1実施形態との相違点についてのみ説明することとする。
【0052】
図11(a)に示すように、4枚刃のエンドミルの、測定基準面Sにおける実断面形状431は、4枚刃のエンドミルの4つの外周刃に対応する4つの凸部431a〜431dを有する。このような4枚刃のエンドミルを測定対象として、上述と同様のシミュレーションを行い、仮想断面形状432を抽出した。仮想断面形状432と実断面形状431とを比較すると、4つの凸部431a〜431dに対応する部分は非常に良く一致していることが分かる。また、第1実施形態の場合と同様に、仮想断面形状432は、実断面形状431と比較して凹凸の少ない(凹部の深さが浅い)なだらかな形状であることがわかる。
【0053】
また、図11(b)に示すように、シミュレーションより得られた4枚刃のエンドミルの軸心の運動の軌跡433と、このシミュレーションにおいてエンドミルに与えられた運動の軌跡434とは非常に良く一致しており、標準偏差は0.0071μmであることがわかった。このことから、4枚刃エンドミルのような複雑な形状の被測定物に対しても、上述の方法に基づく、軸振れの計測方法が有効であることがわかった。
【0054】
なお、上述の実施形態において、2枚刃、4枚刃のエンドミルを測定対象としてきた。ここで、2枚刃、4枚刃エンドミルの断面形状は、それぞれ180°対称、90°対称の形状であるが、本発明はこれには限らない。本発明の測定対象となる切削工具等の回転体の断面形状は、任意の角度で回転対称な形状であってもよく、あるいは、回転対称でない形状であってもよい。また、本発明において測定対象となる切削工具は、エンドミルには限らず、例えば、ドリル、リーマ、正面フライス等、任意の形状の切削工具に対して適用することができる。
【0055】
また、上述の実施形態において、エッジ光の光量の測定のための光学測定系として、レーザ光を照射するレーザ発光部とフォトダイオードとを例に挙げて説明してきたが、本発明はこれに限らず、安定した出力で所定の領域に平行光を照射しうる発光装置と、照射された光の光量を測定しうる光量測定装置である限りにおいて、任意の発光装置及び光量測定装置を有する光学測定系を使用しうる。また、例えば、レーザ発光部に代えて、指向性を高くしたLED装置等を使用しうる。また、フォトダイオードに代えて、CCD等を使用してもよい。また、光学測定系の数は少なくとも3つあればよい。上述の実施形態においては、切削工具の一端にレーザ光を照射し、その端部におけるエッジ光の光量を測定していた。しかしながら、本発明はこれに限らず、例えば、切削工具の幅(レーザ光の光軸に直交する方向の長さ)よりも広いレーザ光を照射するとともに、2分割されたフォトダイオードを用いて切削工具の幅方向両端においてエッジ光の光量の測定を同時に行なってもよい。このとき、切削工具が一方向にずれた場合、2分割されたフォトダイオードの一方の光量が増加し、他方の光量が減少するため、これにより、測定の感度を向上させることができる。
【0056】
なお、上記実施形態において、回転する切削工具を測定対象としており、測定基準面における断面の直径は約10mm〜数十mm程度であった。しかしながら本発明は切削工具のような細い棒状の回転体のみを測定対象とすることに限らず、任意の大きさ、任意の形状の回転体における軸振れを測定するために適用することができる。例えば、プロペラのような、測定基準面における断面の直径が数十cm〜数m程度に及ぶ大型の回転体において、その軸振れを測定する場合にも本発明を適用しうる。なお、測定対象が比較的大型の回転体である場合のように、レーザ発光部の1つから発せられたレーザ光の一部が回転体により散乱されて、他の組のフォトダイオード入射するおそれがない場合等には、必ずしも各レーザ発光部から発せられるレーザ光の波長を別波長とする必要はなく、同一の波長のレーザ光を発するレーザ発光部を使用してもよい。あるいは、ワークを把持した状態で高速に回転させ、固定された切削工具に当接させて切削加工を行う旋盤においても、本発明を適用しうる。この場合には、切削工具ではなく、ワークについて上述の方法と同様の方法によりエッジ光の光量の測定を行うことにより、ワークの回転中心の軸振れを抽出することができる。また、測定対象となる回転体の、測定基準面における断面形状は任意の形状であってよく、上述の実施形態において例示してきた2枚刃、4枚刃のエンドミルのように、必ずしも半径方向に鋭い切れ込みが形成されていなくてもよい。例えば、測定対象となる回転体は、測定基準面において円形の断面形状を有してもよい。この場合であっても、測定対象となる回転体の測定基準面における実断面形状は、真円とはならず、工作精度に起因する凹凸を有することになる。このとき、上述のようなエッジ光の測定によって得られる仮想断面形状は、実断面形状とは異なる形状であり、具体的には、実断面形状よりも凹部の深さが浅いなだらかな形状として抽出される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
複雑な形状を有する任意の回転体について、数千rpm以上の高速回転している場合であっても、回転の軸振れを高精度(例えば1μm以下の精度)で測定することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 軸振れ計測システム
10 フライス盤
13a 主軸
30 エンドミル
110 制御部
120 光学測定系
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法であって、
所定の回転速度で回転可能に設けられた主軸に、前記回転体を取り付けることと、
前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向する3組の発光部及び受光部の組を配置することと、
前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射して、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定することと、
前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めることと、
前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求めることとを備える方法。
【請求項2】
前記回転体は、回転軸心の周りの表面に切れ刃部が形成された切削工具である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発光部はレーザ光を照射するレーザ照射装置であり、前記受光部はフォトダイオードである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も長い第1凸部を有し、
前記仮想断面形状は、前記第1凸部に対応する第2凸部を有し、
前記回転軸心と第1凸部との間の距離は、前記回転軸心と前記第2凸部との間の距離と同じである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も短い第1凹部を有し、
前記仮想断面形状は、前記第1凹部に対応する第2凹部を有し、
前記回転軸心と第2凹部との間の距離は、前記回転軸心と前記第1凹部との間の距離よりも長い請求項4に記載の方法。
【請求項6】
回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムであって、
所定の軸方向に延在し、一端に前記回転体を固定する固定部が設けられた主軸、及び、前記主軸の他端に連結され、前記主軸を前記軸を中心として回転させるモータを有する主軸頭と、
前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向するように配置された3組の発光部及び受光部の組と、
前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射させて、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定させ、前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めるとともに、前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求める制御部と、を備える計測システム。
【請求項1】
回転体の回転軸心の軸振れを計測する方法であって、
所定の回転速度で回転可能に設けられた主軸に、前記回転体を取り付けることと、
前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向する3組の発光部及び受光部の組を配置することと、
前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射して、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定することと、
前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めることと、
前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求めることとを備える方法。
【請求項2】
前記回転体は、回転軸心の周りの表面に切れ刃部が形成された切削工具である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発光部はレーザ光を照射するレーザ照射装置であり、前記受光部はフォトダイオードである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も長い第1凸部を有し、
前記仮想断面形状は、前記第1凸部に対応する第2凸部を有し、
前記回転軸心と第1凸部との間の距離は、前記回転軸心と前記第2凸部との間の距離と同じである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記回転体の、前記垂直面の前記断面形状は、前記回転軸心からの距離が最も短い第1凹部を有し、
前記仮想断面形状は、前記第1凹部に対応する第2凹部を有し、
前記回転軸心と第2凹部との間の距離は、前記回転軸心と前記第1凹部との間の距離よりも長い請求項4に記載の方法。
【請求項6】
回転体の回転軸心の軸振れを計測する計測システムであって、
所定の軸方向に延在し、一端に前記回転体を固定する固定部が設けられた主軸、及び、前記主軸の他端に連結され、前記主軸を前記軸を中心として回転させるモータを有する主軸頭と、
前記回転体の前記回転軸心に垂直な垂直面内に、前記回転体の一部を挟んで対向するように配置された3組の発光部及び受光部の組と、
前記回転体を、前記主軸と一体的に前記所定の回転速度で回転させつつ、前記各発光部から前記各受光部に向けて光を照射させて、前記光のうち、前記回転体に遮られることなく前記各受光部で受光されるエッジ光の光量を測定させ、前記各受光部で測定された前記エッジ光の光量に基づいて、前記回転体の前記垂直面の断面形状と異なる仮想断面形状を求めるとともに、前記エッジ光の光量及び前記仮想断面形状に基づいて、前記回転体の前記回転軸心の前記垂直面内における軸振れの大きさを求める制御部と、を備える計測システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−52813(P2012−52813A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193113(P2010−193113)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【特許番号】特許第4806093号(P4806093)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2010年度 精密工学会 春季大会 学術講演会講演論文集」(CD−ROM)、社団法人 精密工学会、平成22年3月1日発行
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【特許番号】特許第4806093号(P4806093)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「2010年度 精密工学会 春季大会 学術講演会講演論文集」(CD−ROM)、社団法人 精密工学会、平成22年3月1日発行
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]