説明

回転体への樹脂含浸繊維の巻着方法

【課題】複雑な機構を用いずに簡便に繊維巻替処理を行えるFRP成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維供給部から樹脂含浸繊維を第1の回転体に供給する供給工程と、前記第1の回転体を回転させて前記繊維を所定分巻着する第1の巻着工程と、前記繊維供給部と前記第1の回転体との間に第2の回転体を配置し、前記繊維供給部から前記第1の回転体へ延びる前記繊維を前記2の回転体に掛着する掛着工程と、前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記繊維を切断する切断工程と、を備える繊維強化プラスチック成形体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体への樹脂含浸繊維の巻着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池システム等に用いられる高圧ガスを貯蔵するタンクの開発が進んでいる。特に、車載用の燃料電池システムにおいては、強度の確保や軽量化等の観点から繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics;以下、「FRP」という)タンクが有力視されている。
【0003】
FRPタンク等のFRP成形体は、例えば、フィラメント・ワインディング法(以下、「FW法」という)を用いて製造される。FW法においては、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を回転体の周囲に数層から数十層巻きつけたのち加熱することにより樹脂を熱硬化させる。これにより、繊維及び熱硬化樹脂からなるFRP層を形成する。
【0004】
FW法においては、繊維の巻きつけが完了した回転体から次の回転体への繊維の巻替処理(以下、「繊維巻替処理」ともいう)の自動化が問題になる。例えば、特許文献1では、マンドレルを把持するチャッキング部材の近傍に設けたウエストドラムに満巻後の糸状を一時的に預けて糸切した上で、ウエストドラムの糸状を空のマンドレルに糸掛けすることで、巻き上げが完了したマンドレルに継がっている糸状を人手に頼ることなく新しい空のマンドレルに移し替えるFW成形装置が開示されている。
【特許文献1】特開平5−338043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、ウエストドラムにいったん糸状を預ける必要があり、そして、さらに預けた糸状を空のマンドレルに移し替える必要もあり、工程が煩雑化してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、複雑な機構を用いずに簡便に繊維巻替処理を行えるFRP成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、繊維供給部から樹脂含浸繊維を第1の回転体に供給する供給工程と、前記第1の回転体を回転させて前記繊維を所定分巻着する第1の巻着工程と、前記繊維供給部と前記第1の回転体との間に第2の回転体を配置し、前記繊維供給部から前記第1の回転体へ延びる前記繊維を前記第2の回転体に掛着する掛着工程と、前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記繊維を切断する切断工程と、を備える繊維強化プラスチック成形体の製造方法を構成する。
【0008】
この構成によれば、切断時には繊維供給部から繊維の切断部分まで延びる繊維は第2の回転体に掛着しているので、第1の回転体から第2の回転体への繊維の巻替処理を複雑な機構を用いずに簡便に行うことができる。また、上記一連の動作は自動的に行うことできるため、製造ラインにおける省人化が可能なる。
【0009】
尚、本発明において、繊維とは、繊維一本を意味するだけではなく、複数の繊維を撚ってなる繊維束や、さらに複数の繊維束を撚ってなる繊維束をも含む。
【0010】
また、上記構成において、前記第1、第2の回転体は円筒状の胴部と該胴部の端部に接続する凸状の肩部とを備え、前記掛着工程において、前記第2の回転体の肩部に前記繊維を掛着するようにしてもよい。
【0011】
上記構成によれば、肩部は凸状であるので容易に繊維を掛着することができる。
【0012】
尚、本発明において、「凸状」は、ドーム状、半球状、円錐状、切頭円錐状、角錐状等の底面の断面積が上面の断面積よりも大きい形状を広く含むものとする。
【0013】
また、上記構成において、前記切断工程の後に、前記切断された繊維の端部から前記肩部の間に延びる繊維の上に、前記繊維供給部から前記肩部の間に延びる繊維を交差させることで、前記切断された繊維の端部を前記第2の回転体に固定する固定工程をさらに備えるようにしてもよい。
【0014】
上記構成によれば、切断された繊維の端部を、張力を利用して固定することができるので、固定のための接着剤等が不要になる。そのため、繊維の固定部分が欠陥となることを防止でき製造歩留まりが向上する。また、上記固定工程も自動的に行うことができるので、製造ラインにおける省人化が可能となる。
【0015】
また、上記構成において、前記固定工程において、前記第1の巻着工程における第1の回転体の回転方向とは逆方向に前記第2の回転体を回転させて前記繊維を交差させるようにしてもよい。
【0016】
上記構成によれば、切断された繊維の端部から肩部の間に延びる繊維を第2の回転体に巻きつけるようにして送り出すことができるので、繊維の交差を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記構成において、前記固定工程の後に、前記第2の回転体を前記逆方向に回転させて繊維供給部から供給される繊維を所定分巻着させる第2の巻着工程をさらに備えるようにしてもよい。
【0018】
上記構成によれば、固定工程で用いた回転方向(第1の回転体の巻着方向とは逆方向)のまま第2の回転体を回転させれば繊維の巻着を行うことができるので、工程が煩雑化せず簡便に巻着動作を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複雑な機構を用いずに簡便に繊維巻替処理を行えるFRP成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るFRP成形体の製造方法について以下の順番で説明する。尚、各図面において、同一の部品には同一の符号を付している。
1.FRP成形体の製造装置
2.繊維巻替処理
3.変形例
【0021】
1.FRP製造装置
はじめに、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係るFRP成形体の製造装置1について説明する。ここで、図1は、FRP成形体の製造装置を示す模式図である。製造装置1は、フィラメント・ワインディング(FW)法により回転部材の周囲に繊維強化プラスチック(FRP)層を形成する装置であり、繊維束供給部10と、張力測定器20と、樹脂含浸部30と、繊維束ガイド(アイロ)40と、回転体50と、制御部60とを備えている。
【0022】
繊維束供給部10には、繊維束f1〜f3が巻き付けられた複数(図1においては3つ)のボビン11a〜11cが備えられている。繊維束f1〜f3としては、本実施形態においては、カーボン繊維を用いる。繊維束供給部10は、繊維束f1〜f3の張力を調整して張力測定器20に送り出す。
【0023】
張力測定器20は、繊維束f1〜f3の張力を測定し、その測定結果を制御部60に出力する。
【0024】
樹脂含浸部30は、未硬化の状態(液体又はゲル状)の熱硬化性の樹脂が貯留された樹脂槽31と、繊維束f1〜f3を樹脂槽31の所定の位置に案内する含浸ローラ32〜34とを備えており、繊維束f1〜f3に樹脂槽31内の樹脂を含浸させる。熱硬化性の樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。
【0025】
繊維束ガイド40は、本発明における繊維供給部を構成し、樹脂を含浸した繊維束f1〜f3を1つに束ねることにより繊維束Fを形成し、これを回転体50に案内する。繊維束ガイド40は、回転体50の長手方向及びそれに垂直な方向に往復可能であり、且つ、回転体50に対する角度を変更できるように回転可能な状態で設置されている。
【0026】
回転体50は、円筒状の胴体部と、該胴体部の両端部に設けられたドーム状の口金部(肩部)とから構成されており、金属や、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の硬質樹脂によって形成されている。本実施の形態においては、回転体50は、高圧ガスタンク用のライナである。
【0027】
回転体50は、その軸心を中心に回転可能となるように、支持部52を介して回転駆動部53に取り付けられている。回転駆動部53は可変速モータを有しており、このモータによって回転体50を回転駆動する。回転体50には、繊維束Fが所定のパターンで巻き付けられ、複数層からなる樹脂含浸繊維層51が形成される。繊維束Fの巻き方(パターン)については特に限定されず、例えば、フープ巻きやヘリカル巻きや、それらを組み合わせた巻き方であってもよい。
【0028】
加圧ポンプ54は、樹脂含浸繊維層51の形成中に回転体50が凹むのを防ぐために、回転体50の内部を加圧する。
【0029】
制御部60は、製造装置1の運転を制御するプログラムを備えている。制御部60は、このプログラムに従って、例えば、繊維束供給部10の供給、張力測定器20の張力測定、樹脂含浸部30の回転、繊維束ガイド40の移動、回転体50の回転等、製造装置1全体を制御するようになっている。
【0030】
2.繊維巻替処理
次に、上記製造装置1を用いた繊維巻替処理について、図2を用いて詳細に説明する。図2(A)〜(D)は、FRP成形体の製造装置の繊維巻替処理を経時的に示す模式図である。ここでは、繊維束Fの巻きつけが完了したn番目(nは自然数)の回転体50nから次のn+1番目の回転体50n+1への繊維束Fの巻替処理を例にとって説明する。
【0031】
はじめに図2(A)に示すように、回転方向RAにて繊維束Fが所定分巻きつけられた回転体50nを保持治具55により挟み支持部52から取り外す。そして、支持部52の上方(図中矢印L1方向)に移動させる。このとき繊維束Fは切らずに回転体50nの移動に同期させて繊維束ガイド40から繊維束Fを繰り出す。同時に、繊維束Fの次の巻きつけの対象となる回転体50n+1を保持治具(図示せず)により支持部52へ(図中矢印L2方向)移動させる。
【0032】
次に、図2(B)に示すように、回転体50nを保持治具55により支持部52の上方に保持し、回転体50n+1を支持部52に装着することで、繊維束ガイド40と回転体50nの間に回転体50n+1が配置されるようにする。そして、繊維束ガイド40を回転体50n+1の一方の肩部(エンド側肩部)方向に移動させることで、繊維束Fを回転体50n+1のエンド側肩部に引っ掛ける。そして、回転体50n+1のエンド側肩部と回転体50nとの間に延びる繊維束Fをその張力を保ちつつ把持具56A、56Bにより2点で把持する。
【0033】
次に、図2(C)に示すように、把持具56A、56B間の繊維束Fを切断する。そして、(i)把持具56Bに把持された繊維束Fの切断端部を、回転体50n+1に向けて下方(図中矢印L3方向)に引っ張りつつ、(ii)繊維束Fを繰り出しつつ繊維束ガイド40を回転体50n+1の他方の肩部(バルブ側肩部)の方向(図中矢印L4方向)に移動させ、(iii)回転体50n+1を回転方向RB(回転方向RAとは逆回転方向)にて回転させることで、繊維束Fを回転体50n+1巻き付けていく。そして、図2(D)に示すように、把持具56Bから回転体50n+1のエンド側肩部の間に延びる繊維束Fの上に、繊維束ガイド40から回転体50n+1のエンド側肩部の間に延びる繊維束Fを交差させる。これにより、巻き始めの繊維束Fが回転体50n+1に固定される。以降、回転方向RBにて回転体50n+1を回転させていくことで、繊維束Fを回転体50n+1に巻きつけていく。
【0034】
一方、図2(C)において、把持部56Aにより把持された繊維束Fの切断端部は、回転体50nに止着される。その後、回転体50nは、加熱炉(図示せず)等により所定温度で過熱される。これにより、樹脂含浸繊維層51の樹脂が硬化され、FRPタンクが形成される。FRP成形体は、例えば、各種移動体や定置型の燃料電池システム等において、水素ガスや圧縮天然ガス等を貯蔵する高圧タンクとして好適に用いることができる。
【0035】
以上、図2(A)から(D)で説明した動作を繰り返すことで、2以上の回転体50の間での繊維巻替処理を複雑な機構を用いずに簡便に行うことができる。また切断された繊維束Fの端部を、張力を利用して回転体に固定することができるので、固定のための接着剤等が不要になる。そのため、繊維の固定部分が欠陥となることを防止でき製造歩留まりが向上する。また上記一連の動作は自動的に行われるため製造ラインにおける省人化が可能なる。
【0036】
3.変形例
以上本発明の実施形態を示したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な態様での実施が可能である。例えば以下のような変形例が可能である。
【0037】
上記実施の形態では、繊維巻替処理において、繊維束Fを回転体50の肩部に対して引っ掛けるようにして掛着しているが、これに限られるものではなく、回転体の形状に応じて適宜変更可能である。例えば、回転体の一部にフック状の凸部がある場合は、こうした凸部に繊維束Fを引っ掛けるようにしてもよい。
【0038】
また、上記実施の形態では、樹脂含浸部30にて樹脂を含浸させた繊維束Fを回転体50に巻きつけているが、これに限られるものではなく、たとえば予め樹脂を含浸させた繊維(プリプレグ)を用いてもよい。この場合は、樹脂含浸部30は不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】FRP成形体の製造装置示す模式図。
【図2】(A)乃至(D)は、FRP成形体の製造装置における繊維巻替処理を経時的に示す模式図。
【符号の説明】
【0040】
1 ……FRP成形体の製造装置
10 ……繊維束供給部
11a……ボビン
11b……ボビン
11c……ボビン
20 ……張力測定器
30 ……樹脂含浸部
31 ……樹脂槽
32 ……含浸ローラ
33 ……含浸ローラ
34 ……含浸ローラ
40 ……繊維束ガイド
50 ……回転体
51 ……樹脂含浸繊維層
52 ……支持部
53 ……回転駆動部
54 ……加圧ポンプ
55 ……保持治具
56A……把持具
56B……把持具
60 ……制御部
f1 …繊維束
f2 …繊維束
f3 …繊維束
F …繊維束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維供給部から樹脂含浸繊維を第1の回転体に供給する供給工程と、
前記第1の回転体を回転させて前記繊維を所定分巻着する第1の巻着工程と、
前記繊維供給部と前記第1の回転体との間に第2の回転体を配置し、前記繊維供給部から前記第1の回転体へ延びる前記繊維を前記第2の回転体に掛着する掛着工程と、
前記第1の回転体と前記第2の回転体との間で前記繊維を切断する切断工程と、
を備える繊維強化プラスチック成形体の製造方法。
【請求項2】
前記第1、第2の回転体は円筒状の胴部と該胴部の端部に接続する凸状の肩部とを備え、
前記掛着工程において、前記第2の回転体の肩部に前記繊維を掛着する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記切断工程の後に、前記切断された繊維の端部から前記肩部の間に延びる繊維の上に、前記繊維供給部から前記肩部の間に延びる繊維を交差させることで、前記切断された繊維の端部を前記第2の回転体に固定する固定工程をさらに備える請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記固定工程において、前記第1の巻着工程における第1の回転体の回転方向とは逆方向に前記第2の回転体を回転させて前記繊維を交差させる請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記固定工程の後に、前記第2の回転体を前記逆方向に回転させて繊維供給部から供給される繊維を所定分巻着させる第2の巻着工程をさらに備える請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−166434(P2009−166434A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9688(P2008−9688)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】