説明

回転体バランス修正部材および回転体バランス修正方法

【課題】回転体への錘の着脱が容易であり、かつ、回転体の回転時における錘の脱落を防止することが可能な回転体バランス修正部材および回転体バランス修正方法を提供する。
【解決手段】回転体バランス修正部材1は、プーリ10に同心状に固設されるリング部材2と、錘3と、該錘を該リング部材に固定するクリップ部材4と、を具備し、該リング部材は外周面嵌装溝21と、内周面嵌装溝22と、外周面係止溝23と、内周面係止溝24と、を具備し、該クリップ部材は弾性材料からなり、該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制されつつ、該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装可能であって、該クリップ部材に固定された該錘は、該クリップ部材を該リング部材に嵌装したときに該リング部材の内周面に対向する位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体のバランスを修正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転体のバランスを確保することは、当該回転体の駆動源や該駆動源から回転体に駆動力を伝達する駆動力伝達機構の振動の抑制、ひいては騒音防止という観点から見て重要である。
回転体のアンバランスは、回転体および該回転体が固設される回転軸等の寸法精度のばらつきやその他の要因により起こることが知られており、このような場合には種々の方法で回転体のバランスを修正している。
上記回転体のバランスを修正する方法(以下、「回転体バランス修正方法」という。)としては、例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如く回転体に錘を取り付ける方法が知られている。また、別の方法としては、回転体の一部を切削する方法が知られている。
【特許文献1】特開平10−47435号公報
【特許文献2】特開2002−147533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の回転体バランス修正方法は、回転体への錘の着脱が容易でないため、作業性が良くないという問題があった。
一方、錘の回転体への着脱を容易とすると、回転体の回転時に錘が脱落して再び回転体のアンバランスが起こる虞もある。
【0004】
また、回転体の一部を切削することにより回転体のバランスを修正する場合、切削時に切り屑が発生し、周囲に飛散する場合があるという問題がある。
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑み、回転体への錘の着脱が容易であり、かつ、回転体の回転時における錘の脱落を防止することが可能な回転体バランス修正部材および回転体バランス修正方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、
回転体に同心状に固設されるリング部材と、
錘と、
該錘を該リング部材に固定するクリップ部材と、
を具備する回転体バランス修正部材であって、
該リング部材は、
該リング部材の外周面の所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝と、
該リング部材の内周面において該外周面嵌装溝に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝と、
該外周面嵌装溝よりも深く、該リング部材の外周面の中途部に周方向に形成された外周面係止溝と、
該内周面嵌装溝よりも深く、該リング部材の内周面の中途部に周方向に形成された内周面係止溝と、
を具備し、
前記クリップ部材は、
弾性材料からなり、該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制されつつ、該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装可能であって、
該クリップ部材に固定された前記錘は、該クリップ部材を該リング部材に嵌装したときに該リング部材の内周面に対向する位置に配置されるものである。
【0008】
請求項2においては、
前記錘には係合突起が形成され、
前記クリップ部材において前記リング部材の内周面に対応する部分には係合孔が形成され、
前記リング部材には該係合突起に対応する逃がし溝が形成されるものである。
【0009】
請求項3においては、
前記リング部材の端部にテーパ面を形成したものである。
【0010】
請求項4においては、
前記リング部材と前記回転体とを一体的に成形したものである。
【0011】
請求項5においては、
外周面の所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝と、内周面において該外周面嵌装溝に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝と、該外周面嵌装溝よりも深く、該外周面の中途部に周方向に形成された外周面係止溝と、該内周面嵌装溝よりも深く、該内周面の中途部に周方向に形成された内周面係止溝と、を具備するリング部材を回転体に同心状に固設するリング部材固設工程と、
弾性材料からなるクリップ部材に錘を固定した状態で、該クリップ部材を該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制しつつ該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装し、該錘を該リング部材の内周面に対向する位置に配置する錘嵌装工程と、
を具備するものである。
【0012】
請求項6においては、
前記錘には係合突起が形成され、
前記クリップ部材において前記リング部材の内周面に対応する部分には係合孔が形成され、
前記リング部材には該係合突起に対応する逃がし溝が形成されるものである。
【0013】
請求項7においては、
前記リング部材の端部にテーパ面を形成したものである。
【0014】
請求項8においては、
外周面の所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝と、内周面において該外周面嵌装溝に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝と、該外周面嵌装溝よりも深く、該外周面の中途部に周方向に形成された外周面係止溝と、該内周面嵌装溝よりも深く、該内周面の中途部に周方向に形成された内周面係止溝と、を具備するリング部材と、回転体と、を一体的かつ同心状に成形するリング部材成形工程と、
弾性材料からなるクリップ部材に錘を固定した状態で、前記クリップ部材を該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制しつつ該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装し、該錘を該リング部材の内周面に対向する位置に配置する錘嵌装工程と、
を具備するものである。
【0015】
請求項9においては、
前記錘には係合突起が形成され、
前記クリップ部材において該リング部材の内周面に対応する部分には係合孔が形成され、
前記リング部材には該係合突起に対応する逃がし溝が形成されるものである。
【0016】
請求項10においては、
前記リング部材の端部にテーパ面を形成したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
請求項1においては、回転体の回転に起因する遠心力や振動により、錘が固定されている位置からずれたり、回転体から脱落したりすることを防止することが可能である。
また、錘を容易に回転体から容易に着脱することが可能である。
【0019】
請求項2においては、錘をクリップ部材に容易に着脱可能に固定することが可能であり、作業性に優れる。
【0020】
請求項3においては、錘が固定されたクリップ部材をリング部材に容易に嵌装することが可能であり、作業性に優れる。
【0021】
請求項4においては、リング部材を回転体に同心状に固設する作業を省略することが可能であり、作業工数の削減が可能であるとともに作業性に優れる。
【0022】
請求項5においては、回転体の回転に起因する遠心力や振動により、錘が固定されている位置からずれたり、回転体から脱落したりすることを防止することが可能である。
また、錘を容易に回転体から容易に着脱することが可能である。
【0023】
請求項6においては、錘をクリップ部材に容易に着脱可能に固定することが可能であり、作業性に優れる。
【0024】
請求項7においては、錘が固定されたクリップ部材をリング部材に容易に嵌装することが可能であり、作業性に優れる。
【0025】
請求項8においては、回転体の回転に起因する遠心力や振動により、錘が固定されている位置からずれたり、回転体から脱落したりすることを防止することが可能である。
また、錘を容易に回転体から容易に着脱することが可能である。
【0026】
請求項9においては、錘をクリップ部材に容易に着脱可能に固定することが可能であり、作業性に優れる。
【0027】
請求項10においては、錘が固定されたクリップ部材をリング部材に容易に嵌装することが可能であり、作業性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下では図1、図2、図3、図4、図5および図6を用いて、本発明に係る回転体バランス修正部材の実施の一形態である回転体バランス修正部材1の構成について説明する。
なお、以下の説明では、回転体の実施例としてエンジンの出力軸に固設されるプーリ10を用いて説明するが、本発明は本実施例に限定されず、あらゆる回転体に広く適用可能である。
ここで、本出願における「回転体」は、所定の回転軸を中心として回転する物体を指すものとする。
また、本出願においては便宜上、図2に示す矢印Aの方向を「軸線方向」、該矢印Aに直交する方向を「半径方向」、図1に示す矢印Bの方向を「周方向」、と定義し、これらを用いて以下の説明を行うものとする。
【0029】
図1および図2に示すプーリ10は、本発明に係る回転体の実施例であり、図示せぬ駆動源たるエンジンの出力軸に固設される。
【0030】
図1および図2に示す如く、回転体バランス修正部材1はプーリ10のバランスを修正するものであり、主としてリング部材2、錘3、クリップ部材4等を具備する。
【0031】
図1および図2に示す如く、リング部材2は外周面2a、内周面2b、前端面2cおよび後端面2dを有する略リング状の部材である。リング部材2は後端面2dにおいてプーリ10の前面10aに同心状に固設される。
また、リング部材2の端部、より具体的には前端面2cと外周面2aとの境界部および前端面2cと内周面2bとの境界部、にはそれぞれテーパ面2eおよびテーパ面2fが形成される。
ここで、本実施例における「同心状」とは、回転体たるプーリ10の回転軸と、リング部材2の中心軸とが略一致することを指す。
【0032】
リング部材2は、外周面嵌装溝21・21・・・、内周面嵌装溝22・22・・・、外周面係止溝23、内周面係止溝24、逃がし溝25等を具備する。
【0033】
外周面嵌装溝21・21・・・は、リング部材2の外周面2aの所定の位置に軸線方向に形成された溝である。すなわち、外周面嵌装溝21・21・・・の長手方向はリング部材2の軸線方向(図2中の矢印Aの方向)に略一致している。
本実施例の場合、リング部材2の外周面2aに計12箇所の外周面嵌装溝21・21・・・が配置されており、隣り合う外周面嵌装溝21・21の間隔は略同じである。
【0034】
内周面嵌装溝22・22・・・は、それぞれリング部材2の内周面2bにおいて外周面嵌装溝21・21・・・に対応する位置に軸線方向に形成された溝である。言い換えれば、内周面嵌装溝22・22・・・の長手方向はリング部材2の軸線方向(図2中の矢印Aの方向)に略一致しており、かつ、それぞれの内周面嵌装溝22が、リング部材2を半径方向から見た場合に、対応する外周面嵌装溝21と重なる位置に配置される。
従って、本実施例の場合には、リング部材2の内周面2bに計12箇所の内周面嵌装溝22・22・・・が配置されており、隣り合う内周面嵌装溝22・22の間隔は略同じである。
【0035】
なお、本実施例では外周面嵌装溝21・21・・・および内周面嵌装溝22・22・・・はそれぞれリング部材2の外周面2aおよび内周面2bに計12箇所配置されているが、配置される箇所は12箇所に限定されず、リング部材2の大きさ等に応じて適宜選択することが可能である。
【0036】
外周面係止溝23は、リング部材2の外周面2aの中途部に周方向に形成された溝である。すなわち、外周面係止溝23の長手方向はリング部材2の周方向(図1中の矢印Bの方向)に略一致しており、外周面係止溝23は略リング状の溝となっている。
また、外周面係止溝23の深さ(外周面2aから外周面係止溝23の底までの深さ)は、外周面嵌装溝21・21・・・の深さよりも深くなるように構成される。
【0037】
内周面係止溝24は、リング部材2の内周面2bの中途部に周方向に形成された溝である。すなわち、内周面係止溝24の長手方向はリング部材2の周方向(図1中の矢印Bの方向)に略一致しており、内周面係止溝24は略リング状の溝となっている。
また、内周面係止溝24の深さ(内周面2bから内周面係止溝24の底までの深さ)は、内周面嵌装溝22・22・・・の深さよりも深くなるように構成される。
【0038】
なお、本実施例では、リング部材2とプーリ10とを別体とし、リング部材2をプーリ10に固設する構成としたが、別実施例としてリング部材2とプーリ10とを一体的に成形することも可能である。このように構成することにより、リング部材2をプーリ10に精度良く同心状に固設する作業を省略することが可能であり、作業工数の削減が可能であるとともに作業性に優れる。
【0039】
錘3は、所定の質量を有する物体である。
錘3は胴体部31、係合突起32等を具備する。
【0040】
胴体部31は略直方体形状の部材であり、その一面には係合突起32が形成される。
本実施例の係合突起32は、基部32aと、係合部32bとからなり、その形状は略T字型である。
胴体部31を適宜切削することにより、錘3を所望の質量に調整することが可能である。
また、係合突起32の形状を共通とし、異なる体積の胴体部31を具備する錘3・3・・・を用意することにより、所望の質量の錘3を選択することも可能である。
【0041】
クリップ部材4は、錘3をリング部材2に着脱可能に固定するための部材である。
クリップ部材4は略長方形の板状の金属板を略コの字型に屈曲したものであり、連結部41、外周面嵌装部42、内周面嵌装部43等を具備する。
【0042】
連結部41はクリップ部材4を構成する金属板の屈曲前における略中央部に対応する部分であり、その両端にそれぞれ外周面嵌装部42および内周面嵌装部43が延設される。
【0043】
外周面嵌装部42は連結部41の一端に延設される部分であり、その先端部には係止部42aが形成される。
【0044】
内周面嵌装部43は連結部41の他端に延設される部分であり、その先端部には係止部43aが形成される。
また、内周面嵌装部43には係合孔44が形成される。係合孔44はちょうど錘3の係合突起32の係合部32bに対応する形状を成している。そして、係合孔44に係合突起32の係合部32bを差し込み、係合突起32の基部32aを中心として、クリップ部材4に対して錘3を回転させることにより、錘3をクリップ部材4に着脱可能に固定することが可能である。
【0045】
錘3が着脱可能に固定されたクリップ部材4は、外周面嵌装溝21および内周面嵌装溝22に沿ってリング部材2の前端面2cから後端面2dに向かって嵌装される。
なお、本実施例では、クリップ部材4の周方向の幅と、外周面嵌装溝21および内周面嵌装溝22の周方向の幅は略同じである。
従って、プーリ10の回転時の振動等により、クリップ部材4、ひいては錘3がリング部材2に対して周方向にずれることを防止している。
【0046】
また、錘3が着脱可能に固定されたクリップ部材4は、外周面嵌装溝21および内周面嵌装溝22に沿ってリング部材2に嵌装されたときに、クリップ部材4の係止部42aおよび係止部43aがそれぞれ外周面係止溝23および内周面係止溝24に係合する。
このように構成することにより、プーリ10の回転時の振動等により、クリップ部材4、ひいては錘3がリング部材2に対して軸線方向にずれることを防止している。
【0047】
本実施例の錘3は、係合突起32によりクリップ部材4に着脱可能に固定される構成である。そのため、係合突起32がクリップ部材4においてリング部材2の内周面と当接する面に突出することとなる。
従って、本実施例では、錘3が着脱可能に固定されたクリップ部材4のリング部材2に嵌装時に係合突起32に対応する部分、すなわちリング部材2の内周面嵌装溝22の略中央部、に軸線方向の逃がし溝25を形成することにより、係合突起32とリング部材2とが干渉することを防止している。
【0048】
また、該逃がし溝25の幅を係合突起32の係合部32bの長辺の長さよりも狭くすることにより、プーリ10の回転中に錘3がクリップ部材4に対して回転して係合突起32が係合孔44から外れ、錘3がプーリ10から脱落することを防止することが可能である。
なお、錘3を接着剤等でクリップ部材4に固定する場合等、錘3に係合突起32を形成しない場合には逃がし溝25を省略することが可能である。
【0049】
さらに、錘3が着脱可能に固定されたクリップ部材4は、外周面嵌装溝21および内周面嵌装溝22に沿ってリング部材2に嵌装されたときに、リング部材2の内周面2bに対向する位置に配置される。
このように構成することにより、プーリ10の回転中には錘3には大きな遠心力、すなわちプーリ10の半径方向の力が加わることとなるが、錘3はリング部材2の内周面2bに押し付けられる形でリング部材2に支持されることとなる。
従って、プーリ10の回転中の遠心力により、錘3がリング部材2、ひいてはプーリ10から脱落することを防止している。
【0050】
本実施例の錘3は、係合突起32によりクリップ部材4に着脱可能に固定される構成であるが、接着剤あるいは溶接等の方法により錘をクリップ部材に固定する構成として、係合突起32、係合孔44および逃がし溝25を省略することも可能である。
【0051】
以上の如く、本実施例の回転体バランス修正部材1は、
プーリ10に同心状に固設されるリング部材2と、
錘3と、
錘3をリング部材2に固定するクリップ部材4と、
を具備する回転体バランス修正部材であって、
リング部材2は、
リング部材2の外周面2aの所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝21・21・・・と、
リング部材2の内周面2bにおいて外周面嵌装溝21・21・・・に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝22・22・・・と、
外周面嵌装溝21・21・・・よりも深く、リング部材2の外周面2aの中途部に周方向に形成された外周面係止溝23と、
内周面嵌装溝22・22・・・よりも深く、リング部材2の内周面2bの中途部に周方向に形成された内周面係止溝24と、
を具備し、
クリップ部材4は、
略長方形の板状の金属板を略コの字型に屈曲したものであって、
その両端にはそれぞれ係止部42a・43aが形成され、
クリップ部材4が外周面嵌装溝21および内周面嵌装溝22に沿ってリング部材2に嵌装されたときに、係止部42a・43aがそれぞれ外周面係止溝23および内周面係止溝24に係合し、かつ、クリップ部材4に固定された錘3は、リング部材2の内周面2bに対向する位置に配置されるものである。
【0052】
このように構成することは、以下の効果を奏する。
すなわち、プーリ10の回転に起因する遠心力や振動により、クリップ部材4によりリング部材2に固定された錘3が、固定されている位置からずれたりプーリ10から脱落したりすることを防止することが可能である。
また、クリップ部材4に固定されている錘3を、クリップ部材4とともにリング部材2に軸線方向に嵌装する、あるいはリング部材2から軸線方向に引き抜く、ことによりプーリ10から容易に着脱することが可能である。
なお、プーリ10の回転時に振動等により錘3に作用する軸線方向の力はプーリ10の回転時に錘3に作用する遠心力と比較して微弱であるため、係止部42a・43aがそれぞれ外周面係止溝23および内周面係止溝24に係合することにより、プーリ10の回転時に錘3が軸線方向にずれることはない。
【0053】
なお、本発明に係るクリップ部材は本実施例のクリップ部材4に限定されず、金属材料や樹脂材料等の弾性材料からなり、外周面嵌装溝および内周面嵌装溝により周方向の動きを規制されつつ、外周面係止溝および内周面係止溝に着脱可能に嵌装可能であって、該クリップ部材に固定された該錘が、該クリップ部材を該リング部材に嵌装したときに該リング部材の内周面に対向する位置に配置される構成であれば、他の構成でも同様の効果を奏する。
【0054】
また、本実施例の回転体バランス修正部材1は、
錘3には係合突起32が形成され、
クリップ部材4においてリング部材2の内周面2bに対応する部分には係合孔44が形成され、
リング部材2には係合突起32に対応する逃がし溝25が形成されるものである。
【0055】
このように構成することにより、係合突起32を係合孔44に係合して錘3をクリップ部材4に容易に着脱可能に固定することが可能であり、作業性に優れる。
【0056】
また、本実施例の回転体バランス修正部材1は、
リング部材2の端部にテーパ面2eおよびテーパ面2fを形成したものである。
このように構成することにより、錘3が固定されたクリップ部材4をリング部材2に容易に嵌装することが可能であり、作業性に優れる。
【0057】
また、回転体バランス修正部材1の別実施例は、
リング部材2とプーリ10とを一体的に成形したものである。
このように構成することにより、リング部材2をプーリ10に同心状に固設する作業を省略することが可能であり、作業工数の削減が可能であるとともに作業性に優れる。
【0058】
以下では、図7の(a)を用いて、本発明に係る回転体バランス修正方法の第一実施例について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図1から図6までに示す回転体バランス修正部材1を用いて説明する。
【0059】
回転体バランス修正方法の第一実施例はプーリ10のバランスを修正する方法であり、主としてリング部材固設工程110、錘嵌装工程200等を具備する。
【0060】
リング部材固設工程110は、リング部材2をプーリ10に同心状に固設する工程である。リング部材固設工程110が終了したら、錘嵌装工程200に移行する。
【0061】
錘嵌装工程200は、クリップ部材4に錘3を固定した状態で、クリップ部材4をリング部材2に嵌装する工程である。
より具体的には、リング部材固設工程110において、リング部材2を固定したプーリ10を具備するエンジンを駆動してプーリ10を回転させ、プーリ10の回転に起因する振動を測定する。
ここで、当該振動の測定は、振動を検知するセンサ(加速度センサ等)やセンサからの出力信号に基づいて当該振動の軸線方向、周方向、および半径方向の大きさを算出するとともに、当該振動を解消するための錘3の重量および取り付け位置を算出する算出手段等を用いて行われる。
そして、当該測定結果に基づいて、錘3の重量、および錘3の取り付け位置(本実施例の場合、リング部材2に形成される12組の外周面嵌装溝21・内周面嵌装溝22のいずれか)を決定し、当該重量に調整された錘3を、クリップ部材4により、決定された外周面嵌装溝21・内周面嵌装溝22に嵌装する。
【0062】
以上の如く、本発明に係る回転体バランス修正方法の第一実施例は、
外周面2aの所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝21・21・・・と、内周面2bにおいて外周面嵌装溝21・21・・・に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝22・22・・・と、外周面嵌装溝21・21・・・よりも深く、外周面2aの中途部に周方向に形成された外周面係止溝23と、内周面嵌装溝22・22・・・よりも深く、内周面2bの中途部に周方向に形成された内周面係止溝24と、を具備するリング部材2をプーリ10に同心状に固設するリング部材固設工程110と、
両端にそれぞれ係止部42a・43aが形成され、略長方形の板状の金属板を略コの字型に屈曲したクリップ部材4に錘3を固定するとともに、クリップ部材4を外周面嵌装溝21・21・・・および内周面嵌装溝22・22・・・に沿ってリング部材2に嵌装し、係止部42a・43aを外周面嵌装溝21・21・・・および内周面嵌装溝22・22・・・のいずれか一組に係合するとともに錘3をリング部材2の内周面2bに対向する位置に配置する錘嵌装工程200と、
を具備するものである。
【0063】
このように構成することは、以下の効果を奏する。
すなわち、プーリ10の回転に起因する遠心力や振動により、クリップ部材4によりリング部材2に固定された錘3が、固定されている位置からずれたりプーリ10から脱落したりすることを防止することが可能である。
また、クリップ部材4に固定されている錘3を、クリップ部材4とともにリング部材2に軸線方向に嵌装する、あるいはリング部材2から軸線方向に引き抜く、ことによりプーリ10から容易に着脱することが可能である。
なお、プーリ10の回転時に振動等により錘3に作用する軸線方向の力はプーリ10の回転時に錘3に作用する遠心力と比較して微弱であるため、係止部42a・43aがそれぞれ外周面係止溝23および内周面係止溝24に係合することにより、プーリ10の回転時に錘3が軸線方向にずれることはない。
【0064】
なお、本発明に係る錘嵌装工程は、本実施例の錘嵌装工程200に限定されず、金属材料や樹脂材料等の弾性材料からなるクリップ部材に錘を固定した状態で、該クリップ部材を該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制しつつ該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装し、該錘を該リング部材の内周面に対向する位置に配置する構成であれば、他の構成でも同様の効果を奏する。
【0065】
以下では、図7の(b)を用いて、本発明に係る回転体バランス修正方法の第二実施例について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図1から図6までに示す回転体バランス修正部材1を用いて説明する。
【0066】
回転体バランス修正方法の第二実施例はプーリ10のバランスを修正する方法であり、主としてリング部材成形工程120、錘嵌装工程200等を具備する。
【0067】
リング部材成形工程120は、リング部材2とプーリ10とを一体的かつ同心状に成形する工程である。リング部材成形工程120が終了したら、錘嵌装工程200に移行する。
錘嵌装工程200は前記回転体バランス修正方法の第一実施例と略同じであるため、説明を省略する。
【0068】
以上の如く、回転体バランス修正方法の第二実施例は、
外周面2aの所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝21・21・・・と、内周面2bにおいて外周面嵌装溝21・21・・・に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝22・22・・・と、外周面嵌装溝21・21・・・よりも深く、外周面2aの中途部に周方向に形成された外周面係止溝23と、内周面嵌装溝22・22・・・よりも深く、内周面2bの中途部に周方向に形成された内周面係止溝24と、を具備するリング部材2と、プーリ10と、を一体的かつ同心状に成形するリング部材成形工程120と、
両端にそれぞれ係止部42a・43aが形成され、略長方形の板状の金属板を略コの字型に屈曲したクリップ部材4に錘3を固定するとともに、クリップ部材4を外周面嵌装溝21・21・・・および内周面嵌装溝22・22・・・に沿ってリング部材2に嵌装し、係止部42a・43aを外周面嵌装溝21・21・・・および内周面嵌装溝22・22・・・のいずれか一組に係合するとともに錘3をリング部材2の内周面2bに対向する位置に配置する錘嵌装工程200と、
を具備するものである。
【0069】
このように構成することは、以下の効果を奏する。
すなわち、プーリ10の回転に起因する遠心力や振動により、クリップ部材4によりリング部材2に固定された錘3が、固定されている位置からずれたりプーリ10から脱落したりすることを防止することが可能である。
また、クリップ部材4に固定されている錘3を、クリップ部材4とともにリング部材2に軸線方向に嵌装する、あるいはリング部材2から軸線方向に引き抜く、ことによりプーリ10から容易に着脱することが可能である。
なお、プーリ10の回転時に振動等により錘3に作用する軸線方向の力はプーリ10の回転時に錘3に作用する遠心力と比較して微弱であるため、係止部42a・43aがそれぞれ外周面係止溝23および内周面係止溝24に係合することにより、プーリ10の回転時に錘3が軸線方向にずれることはない。
【0070】
なお、本発明に係る錘嵌装工程は、本実施例の錘嵌装工程200に限定されず、金属材料や樹脂材料等の弾性材料からなるクリップ部材に錘を固定した状態で、該クリップ部材を該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制しつつ該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装し、該錘を該リング部材の内周面に対向する位置に配置する構成であれば、他の構成でも同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る回転体バランス修正部材の実施の一形態の正面図。
【図2】本発明に係る回転体バランス修正部材の実施の一形態の側面断面図。
【図3】本発明に係る回転体バランス修正部材の実施の一形態の側面拡大断面図。
【図4】リング部材の要部斜視図。
【図5】錘およびクリップ部材の斜視図。
【図6】本発明に係る回転体バランス修正部材の実施の一形態の要部斜視図。
【図7】本発明に係る回転体バランス修正方法の第一実施例を示すフロー図。
【図8】本発明に係る回転体バランス修正方法の第二実施例を示すフロー図。
【符号の説明】
【0072】
1 回転体バランス修正部材
2 リング部材
3 錘
4 クリップ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に同心状に固設されるリング部材と、
錘と、
該錘を該リング部材に固定するクリップ部材と、
を具備する回転体バランス修正部材であって、
該リング部材は、
該リング部材の外周面の所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝と、
該リング部材の内周面において該外周面嵌装溝に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝と、
該外周面嵌装溝よりも深く、該リング部材の外周面の中途部に周方向に形成された外周面係止溝と、
該内周面嵌装溝よりも深く、該リング部材の内周面の中途部に周方向に形成された内周面係止溝と、
を具備し、
前記クリップ部材は、
弾性材料からなり、該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制されつつ、該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装可能であって、
該クリップ部材に固定された前記錘は、該クリップ部材を該リング部材に嵌装したときに該リング部材の内周面に対向する位置に配置される、
ことを特徴とする回転体バランス修正部材。
【請求項2】
前記錘には係合突起が形成され、
前記クリップ部材において前記リング部材の内周面に対応する部分には係合孔が形成され、
前記リング部材には該係合突起に対応する逃がし溝が形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転体バランス修正部材。
【請求項3】
前記リング部材の端部にテーパ面を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の回転体バランス修正部材。
【請求項4】
前記リング部材と前記回転体とを一体的に成形したことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の回転体バランス修正部材。
【請求項5】
外周面の所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝と、内周面において該外周面嵌装溝に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝と、該外周面嵌装溝よりも深く、該外周面の中途部に周方向に形成された外周面係止溝と、該内周面嵌装溝よりも深く、該内周面の中途部に周方向に形成された内周面係止溝と、を具備するリング部材を回転体に同心状に固設するリング部材固設工程と、
弾性材料からなるクリップ部材に錘を固定した状態で、該クリップ部材を該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制しつつ該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装し、該錘を該リング部材の内周面に対向する位置に配置する錘嵌装工程と、
を具備することを特徴とする回転体バランス修正方法。
【請求項6】
前記錘には係合突起が形成され、
前記クリップ部材において前記リング部材の内周面に対応する部分には係合孔が形成され、
前記リング部材には該係合突起に対応する逃がし溝が形成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の回転体バランス修正方法。
【請求項7】
前記リング部材の端部にテーパ面を形成したことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の回転体バランス修正方法。
【請求項8】
外周面の所定の位置に軸線方向に形成された外周面嵌装溝と、内周面において該外周面嵌装溝に対応する位置に軸線方向に形成された内周面嵌装溝と、該外周面嵌装溝よりも深く、該外周面の中途部に周方向に形成された外周面係止溝と、該内周面嵌装溝よりも深く、該内周面の中途部に周方向に形成された内周面係止溝と、を具備するリング部材と、回転体と、を一体的かつ同心状に成形するリング部材成形工程と、
弾性材料からなるクリップ部材に錘を固定した状態で、前記クリップ部材を該外周面嵌装溝および該内周面嵌装溝により周方向の動きを規制しつつ該外周面係止溝および該内周面係止溝に着脱可能に嵌装し、該錘を該リング部材の内周面に対向する位置に配置する錘嵌装工程と、
を具備することを特徴とする回転体バランス修正方法。
【請求項9】
前記錘には係合突起が形成され、
前記クリップ部材において前記リング部材の内周面に対応する部分には係合孔が形成され、
前記リング部材には該係合突起に対応する逃がし溝が形成される、
ことを特徴とする請求項8に記載の回転体バランス修正方法。
【請求項10】
前記リング部材の端部にテーパ面を形成したことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の回転体バランス修正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−275111(P2006−275111A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92541(P2005−92541)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】