説明

回転切削装置

【課題】 吹きだまりの発生を防止し、空気の流れをスムーズに効率よく吸引することができる回転切削装置を提供すること。
【解決手段】 回転切削装置(1)は、被加工品(P)を加工する工具4を保持し、回転する主軸部2と、該主軸部2を中心として主軸部2から離間して主軸部2の周側を覆うカバー部6と、前記主軸部側に設けられ、空気を供給する空気供給口(11)と、前記カバー部側に設けられ、空気を吸引する吸引口(9)と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工品を加工する工具を保持し、回転する主軸部と、該主軸部を中心として主軸部から離間して主軸部の周側を覆うカバー部と、を備える回転切削装置に関する。
本願において、回転切削装置には、ボール盤、ねじ立て盤、中ぐり盤、フライス盤等の工作物を固定し、工具を回転させていずれか一方に送り運動を与えるものが含まれるものとする。従って、本願の回転切削装置には、研削工具を回転させる研削装置も含むものとする。
【背景技術】
【0002】
従来では、特許文献1に示す如く、回転切削装置は、工作物を切削する工具を備えていた。そして、切削した際に発生する切り屑を除去するために、空気を供給する空気供給機構と、空気を排出する空気排出機構とを有していた。具体的には、前記空気供給機構によって側方から空気を切り屑が発生する箇所に送っていた。そして、反対側において、前記空気排出機構によって切り屑を含んだ空気を吸引・排出していた。
【特許文献1】特開平5-277886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記工具は回転しており、単に側方から空気を送るだけでは、空気の流れが乱れて吹きだまりが生じる虞がある。即ち、空気がスムーズに流れない虞がある。従って、効率よく切り屑を吸引することができない虞がある。
【0004】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、吹きだまりの発生を防止し、空気の流れをスムーズに効率よく吸引することができる回転切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様の回転切削装置は、被加工品を加工する工具を保持し、回転する主軸部と、該主軸部を中心として主軸部から離間して主軸部の周側を覆うカバー部と、前記主軸部側に設けられ、空気を供給する空気供給口と、前記カバー部側に設けられ、空気を吸引する吸引口と、を備えていることを特徴とする。
【0006】
本発明の第1の態様によれば、前記回転切削装置は、前記主軸部側に設けられ、空気を供給する空気供給口と、前記カバー部側に設けられ、空気を吸引する吸引口と、を備えている。従って、前記主軸部を回転させることによって、前記カバー部内において中心の前記空気供給口から外側の前記吸引口まで渦巻き状に空気の流れを発生させることができる。即ち、インボリュート曲線状に空気の流れを発生させることができる。
ここで、「渦巻き状」とは、中心から外に向かって螺旋状に渦を巻く状態をいう。また、「インボリュート曲線」とは、定円に糸を巻きつけて、糸の端を引っぱりながらほどくとき、その糸の端点が描く軌跡である曲線をいう。
その結果、前記主軸部を回転させて前記被加工品を加工する際、発生した切り屑を確実に前記吸引口によって吸引することができる。即ち、渦巻き状に空気の流れを発生させることにより、吹きだまりの発生を防止し、空気の流れをスムーズに効率よく吸引することができる。
【0007】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記吸引口の向きは、前記主軸部を中心とした放射方向に対して、前記主軸部の回転方向上流側に傾いていることを特徴とする。
ここで、「回転方向上流側」とは、上流側から下流側に向かって回転するときの上流側をいう。例えば、回転方向が反時計方向である場合、周側から中心に向かってみたときの回転方向上流側は、向かって左側である。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、前記吸引口の向きは、前記主軸部を中心とした放射方向に対して、前記主軸部の回転方向上流側に傾いている。従って、前記吸引口の向きを、発生する渦巻き状の空気の向きと同じ向きに構成することができる。その結果、より効率よく吸引することができる。また、回転方向上流側から下流側へ向かう方向に吸引することにより、渦巻き状の空気の流れの発生を助長することができる。さらに、渦巻き状の空気の流れを強くすることができる。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記主軸部側には、前記主軸部を中心とした放射方向へ延びる羽根状の羽根部が設けられていることを特徴とする。
本発明の第3の態様によれば、第1または第2の態様と同様の作用効果に加え、前記主軸部側には、前記主軸部を中心とした放射方向へ延びる羽根状の羽根部が設けられている。従って、前記主軸部の回転中において、前記羽根部は、空気に圧力を与えて中心から外側へ向かう空気の流れを強くすることができる。加えて、前記主軸部の回転方向に空気の流れを強くすることができる。即ち、渦巻き状の空気の流れの発生をさらに助長することができる。さらに、渦巻き状の空気の流れを一層強くすることができる。
【0010】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記羽根部は、前記主軸部の周方向において、等間隔に複数設けられていることを特徴とする。
本発明の第4の態様によれば、第3の態様と同様の作用効果に加え、前記羽根部は、前記主軸部の周方向において、等間隔に複数設けられている。従って、より効果的に渦巻き状の空気の流れの発生を助長することができる。さらに、渦巻き状の空気の流れをより一層強くすることができる。
また、前記羽根部が回転する際のバランスを良くすることができる。その結果、前記工具による被加工品の加工精度が低下する虞がない。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれか一の態様において、前記カバー部は、前記主軸部の軸方向先端側に設けられ、軸方向に変形可能な軟性体部を有することを特徴とする。
本発明の第5の態様によれば、第1から第4のいずれか一の態様と同様の作用効果に加え、前記カバー部は、前記主軸部の軸方向先端側に設けられ、軸方向に変形可能な軟性体部を有する。従って、前記被加工品側に凹凸形状がある場合であっても、前記軟性体部は、該凹凸形状に従って変形することができる。その結果、前記カバー部内を密閉空間に保つことができ、より確実に渦巻き状の空気の流れを発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明に係る回転切削装置の一例であるフライス盤を示す斜視図である。また、図2に示すのは、本発明に係るフライス盤を示す側断面図である。またさらに、図3に示すのは、本発明に係るフライス盤の内部における空気の流れを示す底面図である。また、図4に示すのは、本発明に係るフライス盤の内部における空気の流れを示す側断面図である。
尚、図2は図3のR−R’における側断面図である。また、図4は図3のQ−Q’における側断面図である。
【0013】
図1〜図4に示す如く、フライス盤1は、主軸部2と、フィン5、5、5…と、工具4と、エアー噴出し口11と、カバー部6と、排気口9と、を有する。このうち、主軸部2は、モータ等の動力によって回転するように設けられている。また、フィン5、5、5…は、主軸部2の周方向に等間隔に複数設けられている。またさらに、工具4は、工具チャック3によって主軸部2と一体に回転するように保持されている。
【0014】
ここで、「工具」には、ドリル等の穴あけ工具、タップ等のねじ立て工具、中ぐりバイト等の単刃回転工具、フライス(例えば、エンドミルや所謂、フルバックである正面フライス)等の多刃回転工具等の切削工具、砥石等の研削工具が含まれるものとする。
そして、工具チャック3は、具体的には、主軸部2に設けられたスリットに挿入された工具4の一部をねじ構造によって締めて工具4を保持することができるように設けられている。従って、工具チャック3を緩めることによって容易に該工具4を取り外し、他の工具に取り替えることができる。
【0015】
また、エアー噴出し口11は、主軸部側の工具チャック近傍に設けられている。本実施例において、エアー噴出し口11は、前記スリットを利用して設けられている。そして、空気圧入手段の一例である送風ファン12によって、エアー噴出し口11からカバー部6の内部に空気を噴出することができるように構成されている。即ち、主軸部2の軸方向(Z軸方向)からみた底面図(図3参照)に示すカバー部6の略中心において、空気を噴出することができる。
尚、エアー噴出し口11を、前記スリットを利用せずに設けてもよいのは勿論である。
【0016】
またさらに、カバー部6は、主軸部2の上方および主軸部2の外周を主軸部2から間隔をあけて覆うように形成されている。また、カバー部6は、ある程度強度を有し変形しない集塵カバー7と、ビニール素材等で形成された軟性の保圧スカート8とを有する。
このうち、集塵カバー7の内側には、排気口9が設けられている。排気口9は、集塵カバー7の外側に設けられた吸引ホース接続口10と連通している。そして、吸引ホース接続口10は、吸引手段の一例である吸引ポンプ13と接続されている。従って、吸引ポンプ13は、排気口9を介してカバー部6の内部の空気を吸引することができる。
【0017】
続いて、フライス盤1の動作について説明する。
フライス盤1は、工具4の先端側(Z軸の負の方向)へ設置された工作物Pへ接近する。そして、カバー部6を接近させて、保圧スカート8を工作物Pと接触させる、または、保圧スカート8によって工作物Pを囲む。
このとき、保圧スカート8は、軟性体であるので、工作物Pが凹凸形状を有していた場合であっても該凹凸形状に従って変形することができる。その結果、カバー部6の内部を密閉空間とすることができる。
【0018】
その後、制御部(図示せず)によってモータ(図示せず)が駆動し、主軸部2が回転し始める。従って、フィン5、5、5…および工具4も回転し始める。そして、制御部(図示せず)によって精度良くフライス盤1の位置が変位し、工具4が工作物Pと接触する。
ここで、工具4が切削工具であれば切削される。また、工具4が研削工具であれば研削される。従って、工作物Pの一部が削られ、粒状および粉状の切り屑が発生する。
【0019】
このとき、エアー噴出し口11から空気が噴出される。噴出された空気は、工具4と工作物Pとが接触し切り屑が発生する箇所に当てられる。従って、発生した切り屑を、工具4と工作物Pとが接触する箇所から排除することができる。
ここで、主軸部2を中心とした放射方向遠方である集塵カバー7の内周面の一部に排気口9が設けられている。そして、前述したように排気口9から空気が吸引される。従って、中心側のエアー噴出し口11から遠方の排気口9へ空気の流れを発生させることができる。
【0020】
このとき、主軸部2および工具4は、一体となって図3における反時計方向へ回転する。従って、図3および図4に示す如く、渦巻き状に空気の流れを発生させることができる。その結果、切り屑の吹きだまりが発生する虞がない。即ち、空気の流れを良くし、効率よく吸引することができる。
ここで、「渦巻き状」とは、中心から外に向かって螺旋状に渦を巻く状態をいう。
本実施例では、図3に示す如く、中心である主軸部2のエアー噴出し口11から、外側である集塵カバー7の内周面の排気口9に向かって螺旋状に渦を巻いた状態をいう。
【0021】
またさらに、フィン5、5、5…が、主軸部2および工具4と一体となって図3における反時計方向へ回転する。従って、中心側から遠方であるカバー部6の内周面側へ向かう空気の流れを発生させることができる。また同時に、回転方向への空気の流れを発生させることができる。その結果、渦巻き状の空気の流れが発生することを助長することができる。
【0022】
また、フィン5、5、5…は、複数設けられているので、渦巻き状の空気の流れを強くすることができる。
ここで、複数のフィン5、5、5…は、周方向に均等な間隔で設けられているので、主軸部2の回転バランスを損なう虞がない。
またさらに、フィン5、5、5…の角度によっては、図4に示す如く、工具4の先端への空気の流れを発生させることができる。即ち、発生した切り屑を上方へ舞い上げ、渦巻き状の空気の流れに切り屑を乗せ排気口9から排出させることができる。
【0023】
また、排気口9の向きは、主軸部2を中心とした放射方向に対して主軸部2の回転方向上流側に傾いて設けられている。言い換えると、排気口9の向きは、集塵カバー7の内周面における接線方向に倣うように設けられている。従って、吸引することによって渦巻き状の空気の流れの発生を助長することができる。さらに、渦巻き状の空気の流れを強くすることができる。
【0024】
そして、制御部(図示せず)によってフライス盤1の位置が変位し、切削箇所が移動する。
このとき、保圧スカート8によってカバー部6の内部の密閉状態は保たれるので、渦巻き状の空気の流れを保つことができる。
その後、切削工程が終了する際、カバー部6および主軸部2がZ軸の正方向へ僅かに移動すると共に主軸部2の回転が停止する。従って、渦巻き状の空気は消滅する。その後、カバー部6および主軸部2がZ軸の正方向へ移動して終了となる。
ここで、カバー部6の保圧スカート8が工作物Pから離間するタイミングを、工具4が工作物Pから離間するタイミングより後にするために、保圧スカート8をZ軸の負方向へ長く設けることができるのは勿論である。
【0025】
尚、本実施例では、カバー部6が主軸部2と一体にZ軸方向へ移動するように構成したがこれに限られない。カバー部6が主軸部2に対して相対的にZ軸方向へ移動する構成であってもよい。係る場合、切削工程が終了する際、カバー部6の位置はそのままで、先ず、主軸部2がZ軸の正方向へ僅かに移動する。そして、主軸部2の回転が停止する。従って、渦巻き状の空気は徐々に消滅する。その後、カバー部6がZ軸の正方向へ移動して終了となる。切り屑を切削工程が終了する間際まで吸引することが可能であり有効である。
【0026】
また、エアー噴出し口11の向きは、Z軸の負方向に設けたがこれに限られるものではない。エアー噴出し口11の位置が中心であり、排気口9の位置が中心から離れた遠方であれば渦巻き状の空気の流れを発生させることができる。
またさらに、エアー噴出し口11および排気口9を一つずつ設けたが、それぞれ複数設けてもよいのは勿論である。
【0027】
本実施形態の回転切削装置の一例であるフライス盤1は、被加工品である工作物Pを加工する工具4を保持し、回転する主軸部2と、主軸部2を中心として主軸部2から離間して主軸部2の周側を覆うカバー部6と、主軸部側に設けられ、空気圧入手段の一例である送風ファン12によって空気を供給する空気供給口であるエアー噴出し口11と、カバー部側に設けられ、吸引手段の一例である吸引ポンプ13によって空気を吸引する吸引口である排気口9と、を備えていることを特徴とする。
【0028】
また、本実施形態において、排気口9の向きは、主軸部2を中心とした放射方向に対して、主軸部2の回転方向上流側に傾いていることを特徴とする。
またさらに、本実施形態において、主軸部側には、主軸部2を中心とした放射方向へ延びる羽根状の羽根部であるフィン5、5、5…が設けられていることを特徴とする。
また、本実施形態において、フィン5、5、5…は、主軸部2の周方向において、等間隔に複数設けられていることを特徴とする。
【0029】
またさらに、本実施形態において、カバー部6は、主軸部2の軸方向先端側であるZ軸の負方向に設けられ、Z軸方向に変形可能な軟性体部の一例である保圧スカート8を有することを特徴とする。
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るフライス盤を示す斜視図。
【図2】本発明に係るフライス盤を示す側断面図。
【図3】本発明に係るフライス盤の内部における空気の流れを示す底面図。
【図4】本発明に係るフライス盤の内部における空気の流れを示す側断面図。
【符号の説明】
【0031】
1 フライス盤(回転切削装置)、2 主軸部、3 工具チャック、4 工具、
5 フィン、6 カバー部、7 集塵カバー、8 保圧スカート、9 排気口、
10 吸引ホース接続口、11 エアー噴出し口、12 送風ファン、
13 吸引ポンプ、P 工作物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工品を加工する工具を保持し、回転する主軸部と、
該主軸部を中心として主軸部から離間して主軸部の周側を覆うカバー部と、
前記主軸部側に設けられ、空気を供給する空気供給口と、
前記カバー部側に設けられ、空気を吸引する吸引口と、を備える回転切削装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転切削装置において、前記吸引口の向きは、前記主軸部を中心とした放射方向に対して、前記主軸部の回転方向上流側に傾いている回転切削装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転切削装置において、前記主軸部側には、前記主軸部を中心とした放射方向へ延びる羽根状の羽根部が設けられている回転切削装置。
【請求項4】
請求項3に記載の回転切削装置において、前記羽根部は、前記主軸部の周方向において、等間隔に複数設けられている回転切削装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の回転切削装置において、前記カバー部は、前記主軸部の軸方向先端側に設けられ、軸方向に変形可能な軟性体部を有する回転切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−233774(P2009−233774A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80611(P2008−80611)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】