説明

回転動作検証システム、回転動作検証方法、プログラム及び記録媒体

【課題】放射線治療装置のガントリ、コリメータ、治療用寝台など回転部位の回転動作を検証するシステム及び方法等を提供することを目的とする。
【解決手段】放射線治療装置における回転部位に固着することのできるセンサであり、互いに直交するXYZ3軸方向の各加速度・角速度を検出可能な検出手段を有し、かつ、この検出手段により検出したデータを送信可能な発信機を有する加速度センサ6と、この加速度センサ6の発信機から送信されたデータを受信する受信装置8とこの受信装置8が受信したデータに基づいて、装置の回転軌道データを演算する解析ソフトウェア9と、この解析ソフトウェア9が搭載されたコンピュータ10を具備して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置のガントリ、コリメータ、治療用寝台など回転部位の回転動作検証システム及び方法等に係り、さらに詳しくは、加速度センサ又はそれに加えて角速度センサを回転部位に固着し、回転時の加速度等情報を取得することにより、回転速度の安定性並びに回転軌道を算出・検証するシステム及び方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
外部放射線治療(以下、放射線治療)は、加速器により発生させた放射線を体外から腫瘍、悪性新生物(がん等)に対して照射することにより、病巣部の縮小及び殱滅を目的とする治療法である。近年、がん罹患率の上昇とがんの種類の欧米化を背景に、放射線治療の普及が進んでおり、放射線治療装置は2010年時点で800台を超え、年々増加している。また、近年、照射方法は一定方向からだけでなく、多方向から病巣部へ向けて照射(多門照射)し、放射線を病変標的へ集中させることにより、標的外の患者皮膚表面や病変周囲の正常組織への線量を減少させる方法が採られている。放射線治療装置には、加速方式や加速する粒子にいくつか種類がある。その中でも直線加速装置(リニアック)を設置している医療機関が、放射線治療施設の大半を占める。これは電子をリニアックで加速し治療に用いるものであり、患者に照射される放射線は電子線又は制動X線である。他に、電子とは異なる粒子を加速することにより治療に用いる陽子線、重粒子線を照射する施設も国内に数施設存在する。
【0003】
(リニアックを用いた放射線治療)
以下、図1を参照しながら、一般的なリニアックを用いた放射線治療の概略を説明する。一般的な医療用リニアック放射線利用装置は、固定架台1に支持された回転可能な架台(以下、ガントリ2)を有している。ガントリ2は治療用寝台3に寝かされた患者の周囲を時計回り又は反時計回りにガントリ回転軌道R1に沿って360度回転することで、患者病変部へ任意の角度から放射線を照射させることができる。ガントリ2は自身のガントリ回転軸A1に向かって放射線を放出する照射ヘッド4が設けてある。放射線治療時、加速された電子をターゲットと呼ばれる金属に衝突させ、そこで生じる制動X線を放射線治療用のX線として利用する。放射線を異なる角度から標的部位に照射した際、常に照射される交点となる照射中心がアイソセンタIであり、ガントリの回転中心と一致している。また、ガントリ2は照射ヘッド4の先端部にコリメータ5を有している。コリメータ5は病巣の形状に合わせて放射線の照射範囲を形成するものである。コリメータ5は2対の金属ブロックで構成されている。また、コリメータ5がビーム軸方向に対して垂直面内でコリメータ回転軸A2を中心にコリメータ回転軌道R2に沿って回転することにより、病巣部腫瘍の形状により近づけることができる。日本放射線腫瘍学会研究調査委員会編集の「外部放射線治療装置の保守管理プログラム」によれば、アイソセンタIとは、「架台が回転する治療装置において、架台回転と照射野限定システムの回転によって対称照射野のビーム軸が作る最小球体の中心」を指す。ここで、放射線治療装置で言えば、架台とはガントリ2を指し、照射野限定システムとはコリメータ5を指す。したがって、アイソセンタIは、「ガントリが回転する治療装置において、ガントリの回転とコリメータの回転によって対称照射野のビーム軸が作る最小球体の中心」を意味する。ガントリは、放射線照射時にビーム進行方向以外に放射線を漏洩させない目的で、鉛やタングステンといった高原子番号の物質が遮蔽材として使用されている。したがって、超重量構造で数トンを有するため、機械的動作に対する経時的負担が大きい。そこで、治療精度を保証する上で重要となるのが、アイソセンタIの位置精度管理である。
【0004】
(陽子線、重粒子線による放射線治療)
陽子線、重粒子線による放射線治療に用いられる装置も、ガントリや照射部の構成は前述の放射線治療装置と同じである。陽子線や重粒子線を目的の方向に偏向させるには強力な電磁石が必要であり、ガントリの重量は100トンを超える。陽子線治療装置のガントリもアイソセンタを中心に回転する構造になっており、ミリメートル単位での装置の制御を行うに当たり、定期的な品質管理が重要となる。
【0005】
(放射線治療装置を用いた放射線治療方法)
このような放射線治療装置を用い、通常、以下のような手順で放射線治療が行われる。
(1)最適な照射方向や照射面積を決定するため、治療計画用CT撮像を実施し、得られたCT画像を基に放射線治療計画を立てる。治療計画では、病巣の中心とアイソセンタを一致させて複数の方向から照射するよう計画が立てられる。患者の体表面には、治療計画で得られた病巣部の位置や大きさに基づき、シールや特殊インクによるマーキングが施されている。頭部の病巣に対する放射線治療を行う際には、顎の傾きの違いによる毎回の位置のずれを防ぎ、患者固定の再現性を高める必要がある。そのため個々の患者に対してお面のような固定具を作成し、固定精度、再現性を高める。また、固定具を使用する際、その表面にマーキングを施す。
(2)患者を治療用寝台に寝かせる。アイソセンタを指示する位置確認レーザーが放射線治療室の壁や天井に設置されており、レーザーが患者の体表面に施されたマーキングに投影されるように、治療用寝台を移動させる。また治療用寝台の移動のみでレーザーとマーキングが一致しない場合は、患者の体の傾きをずらすことにより調整する。
(3)アイソセンタを中心に放射線治療装置のガントリを回転させ、病巣部である標的部位に異なる角度から放射線を照射する。
(4)場合によっては、治療用寝台もアイソセンタを中心に回転させ、様々な方向から放射線を照射する。
(5)放射線治療は一般的に1日に数Gyずつ、数十回に分けて照射される。症例によっては、1回当たりに投与する線量を増加させ、1回もしくは数回のみの照射も行われる。
【0006】
近年の放射線治療技術の著しい進歩に伴って、病巣に対する線量の集中性と周辺の正常組織に対する線量低減性が向上している。そのためには高度な照射技術が要求されており、放射線を病巣部にミリ単位あるいはミリ単位以下の精度で正確に照射することが重要となる。放射線治療を実施するに当たり、患者への皮膚障害を抑えるために、複数の方向から分割して照射を行う。多方向から照射することにより、病巣部における線量を集中させつつ、皮膚など正常組織への線量を分散させることができる。実際に放射線治療において一方向のみの照射はまれであり、通常、2方向以上の多門照射が実施されている。ガントリを回転させながら放射線を照射する運動照射法も実施されることがある。通常、一方向からの照射では、照射野内の放射線強度は均一になるよう装置が設計されているが、照射野内の強度を多葉コリメータ(マルチリーフコリメータ)や金属フィルタなどで変調させ、複数の方向から照射することで、正常組織への線量を低減させる治療法を強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy:IMRT)という。さらに、ガントリを回転させながらIMRTを行うIMAT(Intensity Modulated Arc Therapy)は、治療時間の短縮など従来の放射線治療に対して多くの利点を持つ。装置は非常に重量のあるもので、使用を繰り返すうちに磨耗や劣化する可能性もあるため、定期的に装置の運転精度の検証を行うことが必要となる。放射線治療を行うに当たり、病巣に投与する線量を計算するため、放射線治療計画装置を利用する。複数の方向から照射を行う際、治療計画上では、ガントリヘッド部及びその中に設置されてあるターゲットは円軌道に沿って回転するよう登録されている。ここで、実際の装置の回転軌道が円軌道からずれていると、ターゲットから病巣部までの距離に差が生じ、線量計算結果と実際の線量分布が異なってしまう可能性がある。数トンあるガントリを円運動させる必要があることから固定架台とガントリを接続する回転軸には大きな負荷がかかっている。そのため、装置を設置した際のみならず、定期的に回転軌道を検証することが必要となる。
【0007】
従来、ガントリの回転軌道を確認する検証方法として、X線フィルム又はイメージングプレートを使用したスターショット解析法、アイソセンタ位置に金属球を配置し各ガントリ角度から球と照射野のずれを確認するWinston Lutz法、超音波距離計を利用する超音波法、呼吸同期照射用赤外線センサを使用するinfrared(IR)−camera法等がある。
【0008】
(スターショット法)
X線フィルム又はイメージングプレート等検出器をアイソセンタ上でガントリ回転軸に対して垂直になるよう治療用寝台上に設置する。コリメータによりビームを細く絞り検出器に向かって照射する。ガントリの角度を変更して複数の方向から1枚の検出器に照射することにより、複数本の放射線による線が描出される。検出器により取得した画像を解析し、それぞれの角度からの線で結ばれる領域の重心を求めることにより、ビームのアイソセンタ及びビーム軸の変異を求める(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
(Winston Lutz法)
アイソセンタ位置に直径2cm程度の金属球をガントリと独立して治療用寝台等に設置する。ターゲットに対して常に一定の位置関係になるよう、ヘッド部分から棒などの補助具をつけ、その先端に撮影用のX線フィルム固定できるようにする。照射ヘッドのコリメータで数センチに絞った照射野から金属球をフィルムにより撮影する。金属球は治療用寝台等に固定されたままでガントリの回転軸からは独立した位置にあり、ガントリ角度、コリメータ角度、治療用寝台を回転させた際も照射野と金属球の位置関係がずれていないかを確認することで、ガントリ、コリメータ、治療用寝台のアイソセンタ一致度を確認する(例えば、非特許文献1参照。)。
【0010】
(超音波法)
金属球を治療用寝台の先端に設置し、アイソセンタ位置に配置する。ヘッド部からアイソセンタに向かって超音波距離計を取り付ける。ガントリを回転させながら、超音波距離計によりアイソセンタに設置した金属球の距離を計測することにより、ガントリが円軌道を描いているか確認する。金属球がアイソセンタに正確に配置され、ガントリがアイソセンタを中心に円軌道していれば、超音波距離計の示す距離は常に一定になる。
【0011】
(IR−camera法)
ガントリのヘッド部のアイソセンタ付近に赤外線反射板を取り付ける。呼吸同期照射用赤外線センサを用いて、ガントリ回転時の反射板の軌道を読み取ることにより、ガントリ回転が円軌道であるか検証する。コリメータの回転軌道や、治療用寝台の回転軌道も同様に検証することが可能である(例えば、非特許文献2参照。)。
【0012】
(フロントポインタ法)
ガントリのヘッド部に「フロントポインタ」と呼ばれるアタッチメント式のアイソセンタを指示する治具を取り付ける。この状態でガントリを回転させ、フロントポインタ先端が放射線治療室の壁からアイソセンタを指示する外部レーザー光に対して一致しているかどうかを目視にて確認し、ガントリの回転中心に歪みがないか検証する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−46422号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Ken R.Winston、and Wendell Lutz.:Linear Accelerator as a Neurosurgical Toll for Stereotactic Radiosurgery Neurosurgery Vol.22(3)1988,454−464
【非特許文献2】Yulia Lyatskaya,Dnyanesh Kadam,Gennady Levisky,Fred Hacker,and Lee Chin: Evaluation of a new IR−guided system for mechanical QA of linear accelerators,Medical Physics Vol.35(11)2008,4816−4823
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記した回転動作検証技術では、以下のような問題点がある。スターショット法、Winston Lutz法、超音波法では、検出器や金属球の配置方法により検証精度が大きな影響を受けるため、これらの器具の配置に時間を要する。また、検証から解析まで一連の操作を実施するには数十分から数時間を要する。IR−camera法では呼吸同期照射用赤外線センサが必要であるなど、各検証方法でそれぞれ専用の治具を要し、それらはいずれも高額な製品である。フロントポインタ法では、放射線を照射しないでガントリの回転中心のずれを確認できるが、客観的に数値として評価することができない。またこれらの検証方法は、回転しながら放射線治療を行う際、治療時の回転軌道を直接検証することが出来ない。放射線治療装置の精度検証項目はアイソセンタの検証以外にも非常に多岐にわたるため、作業の効率化が重要となる。短時間でかつ高精度に回転軌道の検証を行う手法の確立が医療現場で望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の第1手段は、放射線治療装置における回転部位の回転動作検証システムであって、前記回転部位に固着され、加速度又はそれに加えて角速度を所定間隔で検出する検出手段と、前記検出手段による検出データの送受信手段と、前記検出データと、予め設定された目標動作データ又は過去の検出データとを比較して回転軌道の歪みを判定する判定手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
第2手段は、第1手段に記載の回転動作検証システムであって、回転部位がガントリ、コリメータ又は治療用寝台であることを特徴とする。
【0018】
第3手段は、第1又は第2手段に記載の回転動作検証システムであって、検出手段が3軸加速度センサ又はそれに加えて3軸角速度センサであることを特徴とする。
【0019】
第4手段は、第1〜第3手段いずれかに記載の回転動作検証システムであって、目標動作データが回転部位の回転軸を中心とした真円軌道データであることを特徴とする。
【0020】
また、第5手段は、放射線治療装置における回転部位の回転動作検証方法であって、前記回転部位の回転動作中の加速度又はそれに加えて角速度を所定間隔で検出するステップと、次いで、検出されたデータを入力するステップと、次いで、入力されたデータと、予め設定された目標動作データ又は過去に検出されたデータとを比較して回転軌道の歪みを判定するステップとを備えることを特徴とする。
【0021】
第6手段はプログラムであって、第5手段に記載の回転動作検証方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0022】
第7手段は、第6手段に記載のプログラムを記録した、コンピュータに読取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加速度センサ等で取得したデータを解析することによって、短時間でかつ高精度に放射線治療装置の回転動作の検証を行うことが出来る。また、照射に影響しない箇所に、加速度センサあるいはそれに加えて角速度センサなどの動態・位置検出モニタと無線又は有線によるデータ出力機器を貼り付けておけば、放射線治療中でも放射線治療装置及び患者の動作をリアルタイム検出し、取得後速やかに検証することが出来る。さらに、放射線治療に影響を及ぼさないガントリヘッド部にこれらのセンサを常時貼り付けておくことで、ガントリヘッドの回転位置の経時変化を記録することができる。始業点検時の回転軌道チェックに使用すれば、簡便な放射線治療装置の精度検証を行うことが出来、またガントリ等回転装置に組みこむなどして長期間設置すれば、期間中の状態を検出することができ、機器構成のメンテナンスデータを取得することが可能である。また、既存の放射線治療装置には、ガントリ角度の指示値を出力する機構が附随しているが、その指示値に対する校正も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】放射線治療装置の回転動作に関する軸を示した図である。
【図2】本発明の実施形態による回転動作検証システムの機能ブロック図である。
【図3】回転動作検証システムの全体の処理フローを説明する図である。
【図4】センサの設置例と処理の流れを示す模式図である。
【図5】取得したデータを解析し、測定値と理論値とを比較した図である。
【図6】取得したデータを解析し、測定値と理論値の差分を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図2は本実施形態における回転動作検証システムのブロック図である。回転動作検証システムは、ガントリの動きを検知して収集するデータ検出手段21と、取得したデータを解析装置に転送するデータ送受信手段22と、取得したデータを解析する判定手段23と、過去に取得したデータを記憶するDB24と、結果を表示する表示手段25から構成されている。
【0026】
データ検出手段21は、放射線治療装置のガントリに装着され、互いに直交するXYZ3軸方向の加速度あるいはこれに加えて角速度を計測可能な手段であって、加速度センサあるいはこれに加えて角速度センサが用いられる。データ送受信手段22は、データ検出手段21により得られたデータを送信する発信機と該データを受信する受信機よりなる。判定手段23は、受信したデータに基づいて放射線治療装置の回転軌道データを演算する。表示手段25は解析結果を表示する。また、過去に取得したデータのDB24は、例えばハードディスクなどの記憶媒体で構成されている。
【実施例1】
【0027】
以下に、本発明の実施形態の一つである加速度センサによる放射線治療装置の精度管理の方法について説明する。図3は図2で示されたシステムによる処理手順を示すフローチャートである。図4は処理手順を模式図で示したものである。ステップS31において、ガントリヘッド部にXYZ3軸加速度センサ6を貼り付ける。動作中に振動でセンサが動かないように専用の治具等でしっかりと固定する。加速度センサ6はXYZ3軸に対して連続的に加速度データを保存する必要がある。貼り付ける面はヘッド部カバー内やコリメータ部の金属板等平らな箇所で直接放射線の当たらない箇所とする。貼り付け部は、後述の回転軌道の再現性の確認(ステップS36)の都合上、放射線治療に支障をきたさない箇所に常時設置した状態にすることが望ましいが、毎回貼り付けたりはがしたりする場合も測定毎に同じ箇所に設置することが第一条件である。
【0028】
ステップS32において、放射線治療装置のガントリを360度以上回転させる。
【0029】
ステップS33において、加速度センサにより加速度データの収集を開始する。ガントリ回転速度は360°回転に要する時間が1分程度であることから、測定間隔(サンプリング周波数)として10Hzから100Hz程度を想定しているが、この周波数帯域幅は検出しようとする対象によって対応させる。
【0030】
ガントリを360度以上回転させる際、ガントリ動作開始位置(回転開始位置)を同一として回転方向とともに同様動作を繰り返す。あるいは、任意の角度から動作を開始せずとも、ガントリヘッド部が鉛直真下又は頂上付近では、取得した加速度データの絶対値が重力加速度に近くなる点を開始点として評価に用いることも多少初期精度に劣りはするが有効である。ガントリの操作はリニアックに付属するコントローラ又は操作卓から行う。
【0031】
ガントリの回転終了後、ステップS34において加速度データをコンピュータに転送する。加速度センサ6により計測した加速度データは、無線又は有線による転送経路7に沿って転送される。加速度データの転送方法としては、ケーブル等を利用し転送する方法、センサで保存した情報をメモリカードに取り込みコンピュータに移す方法、計測した加速度データを送信可能な発信機を有したセンサにより無線通信による方法などがあるが、操作効率の点から無線通信によるデータ転送が最も望ましい。
【0032】
取得される加速度データは、ガントリヘッド部等に加速度センサを貼り付けただけであるので、加速度センサ3軸XYZもガントリの動作に従い回転座標系となる。したがって、ガントリの回転速度が一定(角速度一定)であれば、ガントリ回転面に水平な2軸の重力加速度データ値は正弦波様に変動すると予測できる。回転面に垂直な軸はガントリ回転のブレや傾斜に対応する。このことから、角速度一定とした場合にガントリ回転運動で想定される加速度値の正弦波を基準値として、測定値の差分を比較することで、回転速度の安定性を検証することが出来、また、回転動作の再現性を確認することが出来る。受信装置8は加速度センサ6の発信機から送信された加速度データを受信することが出来るものである。
【0033】
ステップ35においては、転送された加速度データの解析を行う。解析ソフトウェア9は受信装置8が受信した加速度データに基づいてガントリヘッド等の回転軌道データを演算することができるものである。また、コンピュータ10には、解析ソフトウェア9が搭載されている。
【0034】
ステップ36において、コンピュータに転送された加速度データの解析を行う。本実施例では、角速度が一定であるという仮定を基に軌道の解析を行う。角速度が一定であれば、センサ自体の加速度は0であり、回転に伴う重力の方向の変化によってガントリ回転軸方向成分以外の加速度情報は正弦波状になる。この角速度一定としたときの正弦波形を理論値Tとする。これを加速度センサにより実際のガントリ動作から取得した加速度データ(測定値)と比較することにより、理論値Tに対する軌道の歪みを解析する。理論値Tは数式1で求める。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、tはサンプリング開始からの時間を表し、a、b、c、dは測定値との最小二乗法により算出する。この際、測定値は回転開始の立ち上がり以降、加速度が安定した状態のものを抽出して使用する。センサを設置する際、水準計でガントリが180度方向に位置している場合に加速度が0となるよう取り付けることにより、加速度情報からガントリ角度情報に換算することが可能である。また、測定値と理論値を比較するために、決定係数を用いて評価する。決定係数は理論値の偏差平方和を測定値の偏差平方和で割ることにより求める。決定係数が1に近いほど、理論通りの回転をしていることになる。決定係数が施設毎に求める精度に準じたある値(例えば0.99)を下回った場合は、再測定を行い、同様の傾向がみられる場合は、装置の製造業者に修理を依頼するなどの対応をとる。また、測定値と理論値の差分も評価に使用する。差分の値は、各軸方向に対するガントリ回転時のズレである。つまりこの差分が0に近い方が良い。差分のグラフから、どのガントリ角度付近でずれが生じているかを把握することが出来る。ガントリが正しく制御されて回転した場合は真円であるので、測定値より回転軌道の真円度も評価可能となる。ステップS39において、検証結果をコンピュータ画面上に表示させる。表示例として、図5に各軸の加速度データの測定値と理論値ならびに検証結果を示す。縦軸は加速度、横軸は測定開始からの経過時間を示す。また、図6に測定値と理論値の差分を示す。これらの検証方法はガントリ2だけでなく、治療用寝台3やコリメータ5を回転させる際に加速度データを取得することにより、治療用寝台3の治療用寝台回転軌道R3、コリメータ5のコリメータ回転軌道R2について検証を行う。さらに、放射線治療装置だけでなく、回転運動を伴う放射線診断機器、例えば、ガンマカメラや血管造影装置にもセンサを装着することで、円軌道の精度検証を行うことが可能で、これらの機器の品質管理につながる。
【実施例2】
【0037】
センサの貼り付け位置及び解析方法は上述と同様であるが、他の実施例を以下に示す。異なる日時に同様の測定を行い、異なる日時の測定値を比較(ステップS37)し、決定係数で評価することにより、経時的な装置の歪みが発生していないか検証を行う。再現性の確認の場合は、過去に取得したデータのDB24から過去の加速度データを指定し、今回取得した加速度データとフィッティングさせ差分を取り比較する。ステップS39において、検証結果である決定係数および比較評価に使用した波形のグラフをコンピュータ画面上に表示させる。
【実施例3】
【0038】
本例は、データを取得する際にガントリの回転速度が変化している場合に、傾き及び回転角度を検出し評価する方法である。ガントリの回転速度が変化するということは、角速度が計測中に変化することを意味する。この場合、角速度センサの情報を用いることにより、速度の変化を考慮させることで前述の評価を行う。データの検出には3軸加速度センサと3軸周りの角速度センサの両センサを同梱させた検出器を用いる。角速度センサを用いることにより回転運動の結果、(X、Y、Z)座標系が回転していることが検出可能となるため、前述したような前提条件(角速度一定)を仮定せず、より正確な軌道評価(ステップS38)が可能である。本検証方法は、回転運動のみならず、規定(一定)の動作以外の放射線治療中においてもガントリ回転動作軌道のモニタリング及び評価が可能となる。加速度センサは重力を検知していることからセンサの地面に対する傾きを把握でき、放射線治療装置に既存の機構から出力されるガントリ回転角とのモニタリング比較が可能であり、回転装置の不調や地震後の装置が歪む可能性がある場合のガントリ回転軌道の簡易的なチェックなどにも使用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 固定架台
2 ガントリ
3 治療用寝台
4 照射ヘッド
5 コリメータ
6 加速度センサ
7 転送経路
8 受信装置
9 解析ソフトウェア
10 コンピュータ
A1 ガントリ回転軸
A2 コリメータ回転軸
I アイソセンタ
R1 ガントリ回転軌道
R2 コリメータ回転軌道
R3 治療用寝台回転軌道
21 データ検出手段
22 データ送受信手段
23 判定手段
24 DB
25 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療装置における回転部位の回転動作検証システムであって、
前記回転部位に固着され、加速度又はそれに加えて角速度を所定間隔で検出する検出手段と、
前記検出手段による検出データの送受信手段と、
前記検出データと、予め設定された目標動作データ又は過去の検出データとを比較して回転軌道の歪みを判定する判定手段とを備えることを特徴とする回転動作検証システム。
【請求項2】
回転部位がガントリ、コリメータ又は治療用寝台であることを特徴とする請求項1に記載の回転動作検証システム。
【請求項3】
検出手段が3軸加速度センサ又はそれに加えて3軸角速度センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転動作検証システム。
【請求項4】
目標動作データが回転部位の回転軸を中心とした真円軌道データであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の回転動作検証システム。
【請求項5】
放射線治療装置における回転部位の回転動作検証方法であって、
前記回転部位の回転動作中の加速度又はそれに加えて角速度を所定間隔で検出するステップと、
次いで、検出されたデータを入力するステップと、
次いで、入力されたデータと、予め設定された目標動作データ又は過去に検出されたデータとを比較して回転軌道の歪みを判定するステップとを備えることを特徴とする回転動作検証方法。
【請求項6】
請求項5に記載の回転動作検証方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
請求項6に記載のプログラムを記録した、コンピュータに読取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−183283(P2012−183283A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64956(P2011−64956)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人日本放射線技術学会 刊行物名:日本放射線技術学会雑誌 巻数:第66巻 号数:第9号 発行年月日:平成22年9月20日
【出願人】(511073825)
【Fターム(参考)】